シナリオ

⑤シナリオ通りの幸福を

#√EDEN #ゾディアック継承戦争 #ゾディアック継承戦争⑤

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 #ゾディアック継承戦争
 #ゾディアック継承戦争⑤

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⚔️王劍戦争:ゾディアック継承戦争

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●卒業パーティ
 博多駅からほど近い場所に建つ、ひとつのビル。人々が行き交う街の中で、それは一見すれば何の変哲もない建物だった。
 ――けれど今、その内部は本来の姿を失っている。
 無機質な照明が並ぶはずの廊下には、赤い絨毯が敷かれていた。会議室であるはずの空間には、豪奢なテーブルとグラスが並ぶ。オフィスの壁はなくなり、花やシャンデリアが飾られ、まるで貴族の夜会でも開かれるような大広間へと変貌していた。

 会場の最奥には、赤い絨毯が敷かれた大階段があった。
 緩やかな弧を描いて壇上へと続くそれは、祝福を受ける者が歩むための舞台。本来であれば、卒業を迎えた若者たちを称え、未来を祝福するための場所だったのだろう。
 コツ、コツ、と。静まり返った会場に、靴音が響く。階段の頂に、一人の少女と、青年たちが姿を現した。
 少女の名は、マリア・シンシアライト。光魔法の使い手――聖女、と呼ばれる存在だった。マリアの隣には、数人の青年たちが並んでいる。その中央――王太子の腕へ縋るように抱きつき、どこか不安な顔をしている。
 けれどその胸中は、歓喜に満ちていた。

(ようやく、卒業パーティイベントまで来た……!)
 悪役令嬢の嫌がらせを耐えぬき、攻略対象たちと交流を深めてきた。大変だった。“バグ”まであって、卒業パーティまで辿りつけないかと思うほど。
 でも、ある人の手助けでこの舞台まで無事に来れた。着物を着た、不思議な男のおかげで。
 こちらを睨む“悪役令嬢”の視線に胸が躍る。
『卒業パーティの前に、皆に告げたいことがある!』
「王太子さま……」
 転生前に見た通りのハッピーエンドが、もうすぐ目の前にあった。

(そういえばあの人、ゲームの時には見なかったけど……バグ修正のお助けキャラかな?)
 契約という“設定”で契約を持ちかけてきたけれど――と、考えるけれど。王太子が優しく肩を抱く感触に、すぐにそれは溶けて消えていった。

●乙女のデスゲーム
 星詠みの女――白露・花宵(白煙の帳・h06257)は煙草を咥え、難しい表情を浮かべながらなにかを読んでいた。
 集まったEDENたちに気付くと顔を上げ、苦く笑う。
「ああ、お前さんたち。よく集まってくれたねぇ。早速だけど、ゾディアック継承戦争にかこつけて、|死亡遊戯尊《デスゲームのみこと》がデスゲームを開催していることは知っているね?」
 八重洲博多ビルが絶対防衛であることをいいことに、そこで死亡遊戯尊はより悪辣なデスゲームを催そうとしている。そしてそれは彼本人だけでなく、彼と契約した簒奪者が行うこともあるようで。
「あたしの予知で視たのは、とある少女が主催だったんだけどねぇ……」
 花宵は、溜息のように煙を吐く。
「乙女ゲームなるもんを、お前さんらは遊んだことがあるかい?その少女――マリア・シンシアライトは、それに転生したヒロインだと思い込んでるんだ」
 先ほど読んでいた紙、ゲームの説明書を見せた。死亡遊戯尊と契約したマリアは、彼が用意した幻影の“攻略対象”たちを連れ、卒業パーティの会場と化したビル内で、“悪役令嬢の断罪“を行おうとしている。悪行を上げ連ね、攻略対象の“王太子殿下”からの婚約破棄をするようだ。
 そしてそれこそが、今回の試練となる。
 悪役令嬢が行なったとされる悪行は、死亡遊戯尊の力によって様々な試練や罠へと姿を変える。それらを乗り越え、冤罪であることを示さなければならない。できなければ、待つのは断罪だ。
「冤罪ってのは、口で否定するもんじゃあない。この舞台では、その試練を乗り越えた時点で”その罪は成立しない”と判定される仕組みらしい」
 彼女の目的は一つ。乙女ゲームのハッピーエンドを迎えること。参加者たちが、老若男女問わず悪役令嬢に見えていて一切の容赦もない。
「ゲームの中の世界だと思っているマリアは、この断罪も処刑も、物語を正しい結末へ導くためのイベントでしかない。だからお前さんたちには巻き込まれた一般のお人らを守ったり、なるべく早くの断罪劇の終幕を目指してほしい」
 |冤罪を証明《ゲームをクリア》すれば、マリアはゲームオーバーとなり、逆に“攻略対象”たちに処刑される。
「この舞台じゃ、お前さんたち全員が”悪役令嬢”だ。冤罪を晴らして、物語ごとひっくり返しておいで」
 頼んだよ、と花宵は頭を下げEDENたちを見送った。

●冤罪の舞台
「公爵令嬢……罪を認めてください!今ならきっとみんな、許してくれます」
 ぽろりと涙を一粒、大きな瞳から零し、マリアは祈るように指を組んだ。
 “王太子”は、それを優しく拭いながら、“悪役令嬢”を睨め付ける。
『マリアは優しいね。それに比べて……お前は、王太子妃に相応しくない!』
 他の“高位貴族の令息”たちも、マリアを慰めながら罵倒を繰り返す。
『安心して、マリア。僕たちが守るから。あの女がなにをしたのか、言ってくれ』
 体を震わせ、“王太子”と“悪役令嬢”の間で視線を揺らしながら、そっと、可憐な唇を開いた。

「……マリアのお茶に、毒を入れようとしました」
 その瞬間、会場中のティーカップが鈍い音を立てる。
 並べられた茶器のどれか一つだけに、本当に猛毒が仕込まれる。見抜けなければ、その毒は命を奪う。

「閉じ込められて、授業に出られませんでした」
 会場の壁が動き出し、迷路へと姿を変える。
 閉じ込められる前に出口を探さなければならない。

「お母さんの形見の、大切な髪飾りを盗みました」
 無数の宝石や装飾品が宙を舞い、本物を見つけ出さなければ刃となって襲い掛かる。

「マリアを……階段から突き落とそうとしました」
 足元が軋み階段へと姿を変えたかと思えば、崩れていく。
 崩落する階段を突破し、転落する人々を救わなければならない。

『再現しよう』
 頑張ったね、とマリアの髪を撫でた“王太子”が静かに告げる。
『令嬢がマリアを突き落とした、その罪を』

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第1章 ボス戦 『『転生ヒロイン』マリア・シンシアライト』


屍累・廻

「お母さんの、大切な……」
 可憐に涙を流すマリアと、その肩を優しく抱く“王太子”。
 なんとも見栄えのする光景を、屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は、面白そうに眺めていた。
(成程、転生ものの乙女ゲームなるものがあるんですね)
 興味深い世界だ、と胸の裡で思う。けれど今は、その物語に付き合うためではなく、終わらせるためにここへ来た。
 無数の宝石や装飾品が、光を散らしながら宙を舞う。それを一瞥し、マリアへ金の瞳を向けた。
「マリアさんのお母様が遺された髪飾り。良ければ、私がお探ししましょう」
『お前が隠しておいて、なにを……!』
 カッとなった“王太子”は“悪役令嬢”を睨め付けるが、マリアがそれを止める。
「いいんです!返してくれるなら、それで……」
 きらきらとしたエフェクトが見えるような二人のやり取りを、笑顔のまま見つめた廻は、|Natasha Singh《コエナキモノノネットワーク》を発動した。仄聞の目が覚醒し、この場で最も必要とする力――器用さが研ぎ澄まされていく。
 舞い散る装飾品へ視線を巡らせる。煌めき、重さ、細かな細工。偽物へ惑わされることなく、本物だけを見抜いていく。

 ――一方で、“悪役令嬢”へ意識を向けるマリアの隙を突き、廻はパンドラの匣を静かに開いた。
 現れたのは、座敷童子。
 幼い怪異は怯える人たちの袖をちょいちょいと引き、小さな手で手招きを繰り返す。愛らしい姿は、ありえない状況に混乱していた人々の心を僅かにほどく。呼ばれるままに断罪劇の中心から離れ、柱や調度品の陰へ身を寄せた。
 舞台の外へ逃れることは、今はできない。それでも、危険の及びにくい場所へ避難させられれば十分だ。

「――見つけました」
 やがて廻は、本物の髪飾りを両手でそっと拾い上げる。壊れ物を扱うような丁寧な所作で、マリアへ差し出した。
「これが、お母様の形見なのでしょうか」
 マリアの|出自《設定》を考えれば、高価なものではないだろう。宝石の少ない、そして年月を感じさせる髪飾り。
 ぐっと唇を噛んだマリアを前に、廻はやわらかな声音で続ける。
「このような大切なものを盗む理由など、私にはありません」
 一度髪飾りへ視線を落とし、小さく微笑んだ。
「貴女が身につけてこそ、その形見は輝きますから」
 その言葉と共に、試練は静かに答えを示す。
『……罪状、“髪飾りの窃盗”――棄却』
 “王太子”の口から、無機質な声が響く、
 マリアは引き攣った笑みを浮かべ、指先を震わせながら髪飾りを受け取った。
 廻は鷹揚に頷き、隠れていた人々を連れ、扉へと歩いていく。

見下・七三子

「公爵令嬢……罪を認めてください!」
 マリアの悲痛な声で断罪劇が始まり、見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は小さく頷いた。
「なるほど、悪役令嬢。事情はわかりました!
! ……えっと、やった事を告白すれば、それと同じ試練が現れて、クリアしないとゲーム失敗、ってことですね?」
 胸を張る七三子へ、女子戦闘員が耳打ちする。
「(違います。罪を決めるのは向こうです。マリアが読み上げた冤罪が、そのまま試練になります)」
「(あ、そうなんですか)」
 七三子は一つ瞬きをした。
「悪役令嬢が何かは知りませんけど、|悪役《ヒール》には慣れてます。何せ、元悪の組織の戦闘員なので!」
 戦闘員は思わず苦笑し、さらに囁いた。
「(悪役令嬢は正面から戦うんじゃなくて、陰で嫌がらせをする役なんです)」
「本気で邪魔するなら、まだるっこしいことはせず正面から戦ってしまえばいいのでは……?」
「(乙女ゲームですから、そう振舞う方が……)」
「(え、それっぽくないとダメ……? 悪役令嬢さんの考えることはよく分からないです……)」
 少し考え込み、ぽんと手を打つ。
「あ、人を使って襲わせる、とかなら近いでしょうか」
 その一言に、マリアが反応し、
「……そう、です!」
 大きな瞳に涙を溜めた。
「公爵令嬢は、暴漢を差し向けて……マリアを襲わせようとしました!」
『なんと……そこまで非道な真似を!』
 “王太子”が怒声を上げる。床が軋み、闇の中から武器を手にした暴漢たちが次々と姿を現した。
「あ、なるほど。こういう感じなんですね」
 七三子は得心したように微笑んだ。
「……で、あとはこの暴漢さんたちを倒せばいいんですね? えへへ、得意分野ですっ」
 男たちが一斉に襲い掛かる。けれど七三子は慌てることなく、一歩踏み込んだ。
「では、ちょっと失礼しますね?」
 その動きは迷いがない。最初の一人へ鋭いローキックを叩き込み、その懐へ潜り込む。
「えいっ」
 そのままベアハッグで動きを封じ、くるりと体を反転させ――。
「ごめんなさい!」
 豪快なスープレックス。
 背中から床へ叩き付けられた男は、そのまま光の粒となって掻き消えていく。
「次の方です!」
 襲い来る男たちは次々に制圧され、七三子に近づくことすら許されない。手馴れた一連の動きは、訓練された戦闘員そのものだった。

 やがて、最後の一人が倒れた。
『……罪状、“暴漢による襲撃”――棄却』
 静寂に包まれた会場に、無機質な宣告が響く。
 満足気な七三子とは対照的に、マリアの表情が悔しげに歪んだ。

モラレル・ラウランコ

「閉じ込められて、授業に出られませんでした」
 涙ぐむマリアの訴えと共に、会場の壁が低い音を立てて動き出す。豪奢な大広間は瞬く間に石造りの迷宮へと姿を変え、出口への道は複雑に入り組んでいった。

「……マリアさん」
 それを静かに見つめていたモラレル・ラウランコ(ら抜き狩り・h08148)は、胸に手を当ててしみじみと言う。
「私は嬉しいです」
「え、なに……?」
 予想外の“悪役令嬢”の反応にきょとんとするマリアへ、どこか感動したように続けた。
「なにがって、貴女が『授業に出られませんでした』と仰ってくれたことがです」
「……え?」
「昨今は『出れませんでした』などという、悪しきら抜き言葉を使う方も多いというのに……」
 ら抜き言葉が死活問題となるモラレルは、感極まったように瞳を潤ませる。
「そんな貴女とは、できることなら戦いたくない。清く正しく美しい言葉を使うヒロインのままでいさせてあげたい……」
 そして申し訳なさそうに視線を伏せた。
 マリアは言葉を失い、“王太子”たちも困惑した表情を浮かべる。

「ですが」

 モラレルは意を決したように顔を上げた。
「今この場所は――『ら抜き言葉絶対許さない空間』になりました」
 √能力《ラヌキ・ハデス》が発動する。見えない波紋が迷宮全体へ広がり、空気がぴんと張り詰めた。
「ここでは私が主人公、私がヒロインです」
 その瞬間、不思議なほど自然に視線がモラレルへ集まった。軽蔑に満ちていた“王太子”たちの瞳に、マリアへ向けるものと似た熱が宿る。
「私がヒロインである以上、反対に貴女へ冤罪をかけることもできますが……それは流石に心苦しいので」
 気の弱い性質であるモラレルは、本心からそう伝えながらも、真っ直ぐに“王太子”を見据えた。
「せめて、|私《メインヒロイン》に、この迷路の最短脱出ルートを教えてください、王太子さま」
『……っ』
 |物語《シナリオ》へ逆らえない理が働いたのか、“王太子”は苦しげに顔を歪める。けれど唇は、愛しいヒロインを助けるべくスラスラと動いた。
『右、左……その先を真っ直ぐだ』
「ありがとうございます」
 モラレルは丁寧に一礼すると、迷うことなく迷宮を進んでいく。

 幾度も分かれ道を抜け、やがて出口へ辿り着いた瞬間、石壁は音もなく崩れ去る。
『……罪状、“監禁”――棄却』
 無機質な宣告が響く。
「やっぱり、正しい日本語は大切ですね」
 満足そうに呟くモラレルを見て、マリアは理解できないものを目にしたように、小さく身を震わせた。

如月・縁
蓬平・藍花

「お母さんの形見を、盗まれたんです……」
 マリアの涙声と共に、色とりどりの髪飾りや装飾品が宙へ舞い上がる。本物はただ一つ。それを見つけ出せなければ、冤罪を晴らすことはできない。
 まるで誰かが描いた物語の一場面のように、周囲の視線は一斉に“悪役令嬢”へ向けられる。
 けれど、その視線の先に立つ二人は、罪を問われているというよりも、突然始まった舞台に困惑しているようだった。

「あらまあ、悪役令嬢ですか」
 如月・縁(不眠的酒精女神・h06356)は、始まった断罪劇に小さく瞳を細めた。
 その隣では、蓬平・藍花(彼誰行灯・h06110)が困惑したように周囲を見回している。
「ねぇね、これ、色々破綻して……」
 乙女ゲームや悪役令嬢もの、という題材をよく知らない付喪神である藍花にとっては、目の前で繰り広げられる展開は少しばかり不思議なものだった。
「物語としてのお約束、なのかもしれませんね」
 縁は舞い上がる装飾品を眺めながら、静かに考え込む。
「ぁ、言わないお約束? そゆものなのね?」
 藍花は少しだけ首を傾げた後、ひとまず納得することにした。
 そして、改めて自分たちの姿を見下ろす。
 このデスゲームの事件を聞いた時に二人が選んだのは、舞台に合わせたドレスだった。
 胸元をハートカットで彩るAラインドレス。ふんわりと膨らむパフスリーブに、裾へ流れる繊細な花刺繍。同じ意匠で仕立てられた装いは、姉妹のような統一感を感じさせる。
 ただし、その色合いは対照的。
 縁の纏う漆黒のドレスは、艶やかな輝きと優雅な佇まいが相まって、気高く妖艶な悪役令嬢を思わせる。
 一方、藍花の青紫色のドレスは、柔らかな色合いと愛らしい雰囲気によって、可憐な令嬢そのものだった。
 同じ意匠の衣装でありながら、纏う者によって印象は大きく変わる。並んで立てば姉妹のようにも見える二人の姿は、偶然始まった断罪劇の舞台に、どこか相応しい華やかさを添えていた。
「えっと……悪役令嬢? なんですわよ、おほほ? とか言えばいいの、かな?」
 慣れない令嬢口調を試す藍花に、縁は思わず微笑む。
「藍花さんのおほほ、可愛いですけど……」
 少し考えるように視線を巡らせる。
「どちらかというと、今は役になりきることよりも、この状況を解決することが大切そうですね?」
「ぇ、違う? 口調は普通で良き?」
 戸惑ったように見つめてくる友人に、縁はやわらかく笑った。
「ええ。無理に合わせる必要はなさそうです」
「なりきる必要はない、なるほど……?」
 藍花はぱちりと瞬きをして、縁の言葉を噛み砕くように考える。
「とりあえず……無理難題を攻略くりあすれば良いのは理解したのだわ」
 むん、と小さく拳を握る。
「縁くん、一緒に頑張ろうね?」
「ええ」
 縁は穏やかに微笑み、改めて周囲を見渡した。
「どうしましょうか」
 頬へ手を添え、考えるように呟く。
「まずは、疑いを晴らすところからですね」
 藍花は胸元のブローチへそっと触れた。
「形見の髪飾り……とても大切なもの、なのだわ」
 いつもより妖しく煌めく藍色の光が広がる。
「――さぁさ、大切な子を探し出して?」
 顕現したのは夜空のような翼を持つ猫――珠花。軽やかに飛び上がり、装飾品の間を駆け抜けていく。
 その姿を見た縁も、静かに手を掲げた。
「では、私もお手伝いします」
 掌に、透光の花が咲く。ひらり、風に乗って花弁が舞い散り、広間を漂った。透き通る花弁は周囲を探り、珠花の捜索を助けるように本物の髪飾りの在処を探していく。
 二つの索敵が重なり、飛び回る装飾品の中から一つの答えへ導こうとしていた。しかし、舞い上がる装飾品は巧妙に隠されたように入り混じり、遠目からではどれが本物なのか判断できない。
 珠花は小さな身体を活かし、隙間を縫うように飛び回る。
 その一方で、透光の花弁は風に乗り、広間全体へ静かに広がっていった。
 ひとつひとつの輝きを確かめるように、花弁が揺れる。珠花が示す方向と、花弁が導く先。二つの力が重なった場所には、派手な装飾品とは違う、穏やかな輝きを持つ髪飾りがあった。

「……見つけた」
 珠花と花弁が知らせた先には、派手さこそないものの、長く大切に扱われてきたことが分かるもの。
 確信を持って藍花は腕を伸ばし、そうっと手に取る。
「これが……探していた子だと、思うのよ」
「ええ。これなら、形見で間違いありませんね」
 縁が頷き、マリアへ視線を向ける。可愛らしい顔立ちは歪み、悔しげに唇を噛んでいた。
『……罪状、“形見の髪飾り盗難”――棄却』
 無機質な宣告が響く。
 宙を舞っていた装飾品は静かに消え、広間には元の卒業パーティの景色が戻っていった。
「……そいえば」
 藍花はふと、思い出したように呟く。
「これ、どう物語は終わるのだろうね?」
 不思議そうなその問いに、縁も静かに考え込む。
「シナリオ通りの終わり方になればいいのですが」
 縁の呟きだけが、静かな広間に残る。
 冤罪は晴れた。けれど、この舞台が本当に終わったのかは、まだ誰にも分からなかった。

坂堂・一
シンシア・ウォーカー

「……断罪劇、というものですか」
 卒業パーティの光景を眺めながら、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は優雅に扇を広げる。
「しかし、よりによって私が悪役令嬢役とは。……まあ、私は淑女ですから。似たようなものかもしれませんね」
「ふふ、悪役淑女なシンシアさんも、格好いい、ね!」
 隣に立つ坂堂・一(一楽椿・h05100)が、素直な笑顔を浮かべる。
「ぼくは、悪役淑女に付き従う小さな従者役、だよ。ぷいぷいは……」
『ぷきゃ!』
 一の肩に乗る相棒のぷいぷいは、自分はなんの役だろうとつぶらな瞳を輝かせた。
「……お菓子に釣られた精霊枠、ね」
『ぷきゃ?!』
 どうやら本人としては納得がいかないらしい。不満そうにやわらかな頬を膨らませている。
 一人と一匹のやり取りに思わずくすりと笑んだシンシアは、自分たちの“罪”を聞こうとマリアの方を向く。
「それで、罪状は……」

「……っ、マリアは!」

 だが、それよりも早く和やかな空気に焦れたマリアが叫んだ。
「公爵令嬢に閉じ込められて……授業に、出られませんでした」
 “悪役令嬢”と“従者”の視線が向くと一転。涙ながらに訴える声と共に、会場が揺れる。豪奢な大広間の床や壁が音を立てて変形し、入り組んだ石造りの迷宮へと姿を変えていった。
「お嬢様が、あなたを閉じ込め……?」
「閉じ込めて授業に出られなかった、ですか」
 自分たちを囲む石壁を見渡してから、マリアを見据えて首を振った。
「いや、私はそんなことしていません」
 きっぱりと言い切ると、扇の向こうで優雅に微笑む。
「そもそも、私が何かを企てるのであれば、こんな回りくどい真似はいたしません」
 一も疑問符を浮かべるが、すぐに首を左右へ振った。
「嘘は良くない、よ。お嬢様は、閉じ込めるくらいなら、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす、よ!」
 ぐっと握り拳を作り、ぷいぷいもシャドーボクシングを披露している。
「右ストレートで、ですね」
 従者役と妖精枠の可愛らししくも、的確に理解している言葉にシンシアは苦笑しながらも頷いた。
「一くんの言う通りです。私がやるなら、もっと直接的に仕掛けます」
「有言実行する為にも、迷路は即突破しないと、だね」
 迷宮を見上げ、一が頷く。
「では、出口を探しましょう」
 シンシアが手を掲げる。
「来なさい、お前たち」
 《亡者の行軍》によって召喚された武装した死霊たちが、静かに迷宮へ散っていく。
「シンシアさんの死霊さん達と一緒に、ぼくも手伝う、よ。ぷいぷいもお願い、ね」
『ぷーい!』
 一の知らないうちに親分に収まったぷいぷいの号令を受けた小さな子鼠たちが、迷宮の隙間へ次々と潜り込んでいく。
 死霊の超感覚と、子鼠たちの優れた嗅覚・聴覚。
 二つの索敵が重なり、複雑な迷宮の中から出口への道を探し出していく。
 しかし、迷宮は単純な造りではなかった。同じような石壁が続き、いくつもの分かれ道が行く手を阻む。見た目だけで判断すれば、正しい道を選ぶことは困難だろう。
「なるほど……ただの迷路ではありませんね」
 戻ってきた死霊から情報を受け取り、シンシアは静かに呟く。
「道を惑わせる仕掛けもあるようです」
 けれど、二つの索敵があれば問題はない。
 死霊たちは未来を読むような感覚で道を探り、子鼠たちは小さな身体を活かして壁の隙間や細い通路へ潜り込む。
「シンシアさんの死霊さん達も、ぷいぷい達も頼りになる、ね」
『ぷい!』
 誇らしげに胸を張るぷいぷいたちへ、シンシアと一は優しく笑った。

「見つけた、よ!」
 一が声を上げる。
「それでは、皆で向かいましょう」
 シンシアが頷いた次の瞬間、二人は出口へ向かって駆け出した。
 優雅なドレス姿も、従者らしい振る舞いも今ばかりは置いていく。必要なのは、一刻も早くこの迷宮を抜けること。
 子鼠たちは先導するように走り、ぷいぷいも小さな身体で懸命についていく。途中、迷宮に取り残された者がいれば、安全な道へ誘導しながら、二人は出口へと急いだ。
 ――やがて迷路の終わりを示す光が見えた。一歩、出た瞬間、石壁が崩れ去る。
「ほら、ご覧ください」
 シンシアは優雅に振り返る。
「このように、ドレス姿でも容易に脱出できました。道はきちんと繋がっていたのです」
 ドレスの裾を美しくなびかせながら、マリアへ視線を向ける。
「つまり――私が閉じ込めた、などという罪は成立しませんね?」
『……罪状、“監禁”――棄却』
 無機質な宣告が響く。

「――さて」
 シンシアはマリアへ改めて向き直り、優雅に微笑む。
「罪を認めていただけないのであれば……相応の対応を考えねばなりませんね」
 そう言って、ゆっくり拳を握る。
「もちろん、淑女たるもの無抵抗な相手へ拳を振るう趣味はございません」
 けれど、その笑顔はどこか楽しげだった。
「ですが、御所望でしたら……右ストレートをお見舞いしますが、如何なさいますか?」
「嘘の報いは、受けてもらわなきゃ、ね?」
 一も同意するように小首を傾げた。
『ぷい!』
 ぷいぷいも小さな拳を掲げるのだった。

チェルシー・ハートサイス

「あなたは――」
 華やかだったはずの卒業パーティの空気が、一変する。
 涙を浮かべたマリアが指を向ける先にいるのは、一人の令嬢。優雅でいて、どこか近寄りがたい威圧感を纏っていた。
「数々の罪を、犯しました」
 ざわめく周囲。
 だが、向けられた視線を受けても、チェルシー・ハートサイス(強者たれ・h08836)は眉一つ動かさない。
「……話にならないわね」
 静かな声が広間へ響く。
「わたくしが、どんな罪を犯したと?」
 扇を手に、優雅な所作で問い返す。その姿は、まさに淑女そのもの。
 けれど、燃えるような瞳は冷え切り、呆れが浮かんでいた。
「そんな浅知恵、こそこそとした振る舞いを良しとするとお思いかしら?」
 揺るがぬ姿勢に、マリアが息を呑む。
 チェルシーにとって、これはただの断罪劇。しかし、付き合ってやる価値がないほど稚拙なものではない。
 ならば――正面から受けて立つまで。
「……まあいいでしょう」
 威厳を備え、染みついた礼儀作法に則った仕草で、彼女は敢えて茶番へと身を投じる。
 周囲が怯え、ざわめく中でも、チェルシーの所作には一切の乱れがない。扇を閉じる音ひとつ、視線の向け方ひとつまでが洗練されており、そこにあるのは取り乱した“悪役令嬢”の姿ではなく、己の立場を理解した一人の淑女だった。
 だからこそ、その余裕がかえって周囲へ疑問を抱かせる。本当に罪を犯した者が、これほど堂々としていられるのか、と。
「貴女が望むのであれば、聞いて差し上げるわ」
 チェルシーはそのざわめきすら聞き留めることなく、悠然と微笑んだ。

 最初に告げられた罪は――形見の髪飾りの窃盗。
「この方が、お母様の形見を盗んだのです!」
 マリアの声と共に、色とりどりの髪飾りや装飾品が宙へ舞い上がる。その中から、本物を探し出せなければ罪は晴れない。
 けれど、チェルシーは慌てることなく、それらを静かに見渡した。
 瞳に宿る魔眼が捉えるのは、表面的な美しさではない。宝石に込められた価値、込められた想い、そして偽りの気配。人の目を欺くために並べられたものほど、彼女の瞳には容易く見抜ける。
「……なるほど」
 いくつもの装飾品が、“悪役令嬢”を断罪しようと煌めき、隙を狙っていた。だが、怯むことすらなく、彼女の瞳が一つを捉える。
「随分と分かりやすい偽物を混ぜたものね」
 派手な宝石。目を引く装飾。だが、本当に大切にされてきたものは、そうした華やかさとは違う。
「こちらでしょう。宝石の価値は、輝きだけでは決まらないわ」
 長い年月を共に過ごした品には、使われた痕跡が残る。磨かれた傷、指先が触れた癖、持ち主に寄り添い続けた時間。それらを偽物が真似ることはできない。
 そうして指し示した先にあったのは、長く大切に扱われてきたことが伝わる髪飾り。
『……罪状、“形見の髪飾り盗難”――棄却』
 無機質な宣告が響く。役目を終えた装飾品たちは、音を立てて消えていった。

 次に提示されたのは――毒。
「公爵令嬢は、お茶会でマリアを害そうとしました……!」
 現れたティーセット。繊細な作りのティーカップやポットからは、暖かな湯気が立ち込めているが、チェルシーはすぐにカップへ手を伸ばすことはなかった。
「……甘いわね」
 ティーセット全体を見回す。
「毒はカップだけに仕込まれるものではないわ」
 ポット。砂糖壺。ミルク。毒を仕込める場所はいくらでもある。
「疑われやすいカップやポットは避け、飲む本人の癖を利用するもの」
 甘党ならば砂糖やミルク。相手が必ず手を伸ばす場所へ仕込む方が確実。
 砂糖壺の蓋を開けば、そこには飾りのためのエディブルフラワーが鎮座していた。
「……これね」
 しかしそれは、食用に用いられるものではない。毒を湛えた花だった。
『……毒殺未遂の証拠確認』
 淡々と告げる“王太子”に、チェルシーは涼しい顔のまま続ける。
「紅茶は香りを楽しむもの。その香りを壊す毒など、淑女であれば口に運ぶ前に気付くわ」
 チェルシーは静かに砂糖壺の蓋を閉じながら、強い視線で睨めつけた。
「――この程度の仕掛けで、わたくしを陥れられると思ったことが間違いね」
 毒の在処を見抜かれた瞬間、マリアの表情が強張る。
『……罪状、“毒殺未遂”――棄却』
 
「……っ、それだけじゃありません!」
 少しずつ追い詰められていくマリアは、心から悲痛な声を上げる。
「この人は!教室にマリアを閉じ込めたり……さ、さらには、階段から、マリアを……!」
 その訴えに呼応し、大広間は形を変える。石造りの壁が伸び、階段が形作られ、入り組んだ迷宮へ。
「随分と面倒な趣向だこと」
 往生際の悪いマリアに、チェルシーはため息をつけども、手を抜くことは一切ない。
「光栄に思いなさい。わたくしの全力よ」
 大鎌の力を解放し、その姿を変える。紅いドレスが花のように咲き綻び、身体能力が跳ね上がる。まさに、薔薇の名を冠する戰姫。
「迷宮など、正攻法で付き合う必要はないわ」
 目の前に広がるのは、出口を隠すように組み替わり続ける石造りの迷宮。道は塞がり、階段は崩れ、床は不意に抜け落ちる。
 けれど、チェルシーに焦りはない。
「面倒ね」
 小さく零しながらも、その表情は変わらなかった。
 高ければ越える。道がなければ、別の道を選ぶ。崩れるならば――誰かが傷つく前に支える。
 それが、彼女にとっての強さだった。もちろん、力任せに突破することもできる。大鎌を振るえば、壁の一つや二つ砕くことなど容易い。
 とはいえそれでは、背後にいる者まで巻き込んでしまう。
 ゆえに、彼女は力を制御する。
 軽やかに空中を駆け、複雑な迷宮を越えていく。階段が崩れれば飛び越え、床が抜ければ宙へ躍り出る。
「危ないわね」
 共に|断罪劇《デスゲーム》へ巻き込まれた人々が、眼下で悲鳴を上げ惑っている。チェルシーは彼らへ手を差し伸べた。空中で浮遊し身体を支え、安全な場所へ運んでいく。
 罪を晴らすためだけではない。目の前で傷つく者を見過ごさず、ノブレス・オブリージュを成すことが彼女の在り方だった。
 やがて迷宮の出口へ辿り着く。
『……罪状、“監禁”“傷害”――棄却』
 マリアと共に見ていた“王太子”が、最後の罪の棄却を告げる。
 すべての罪状が消え去った。

 静まり返る広間。
 チェルシーはゆっくりとマリアへ向き直る。
「我がハートサイス家の教えは――『強者たれ、孤高であれ』」
 大鎌を手にする。
「本当に欲しいものがあるのなら……そう」
 ――ガッッッ!!
 派手な音と共に、ハートサイスが床へ突き刺さる。【血喰らい大鎌】ほどの破壊ではない。けれど、その一撃だけで床には大きな亀裂が走った。
「正面から、力で勝ち取る」
 紅い瞳が、まっすぐ相手を射抜く。
「それがわたくしであり、ハートサイスのやり方」
 誇り高く揺らがない生き方が、チェルシーをハートサイスたらしめる。
「貴女のような、こそこそとしたやり方とは――決して相容れないものよ」
 強さとは、他者を屈服させるためのものではない。誇りを貫き、その力で守るべきものを守り抜くためにある。それこそが、ハートサイス家に代々受け継がれてきた矜持であり、力ある者の責務だった。
 だからこそ、チェルシーは誰よりも堂々と胸を張る。
 断罪の舞台に立っていたのは、悪役令嬢ではない。己の信念を曲げぬ、威風堂々たる一人の強者だった。


●エンドロール
「……うそ」
 呆然とした呟きが溢れる。

 “悪役令嬢”を糾弾するだけだった。
 それだけで、幸せになれるはずだった。
(一番人気の攻略対象だった王太子と結婚して、みんなに愛されて……)
 ヒロインのための世界で、ただシナリオ通りの幸福を享受する。そんな、当然の未来が目の前で崩れていく。
「うそだ……マリアは、“私”は、このゲームのヒロインなのに……!」
 綺麗なピンクの髪をぐしゃりと掴み。無邪気に輝いていた瞳は、現実を拒絶して歪んだ。

『……マリア』

 聞き馴染んだ声に名前を呼ばれる。パッと目を見開き、縋るように抱きついた。
「王太子さま……!違うんです、あの人は嘘を……!」
『マリア……』
 肩に手を置かれる。
 大丈夫。まだ愛されている。今からでも軌道修正は――。楽観的な思考が、マリアの唇にへらりとした笑みを浮かばせた。
 しかし。
『離せ。貴様は、私たちを謀った』
 優しく抱きしめていた手が、マリアを突き放す。
『王族を謀ることは――死罪だ』
 するりと引き抜かれた剣が、シャンデリアの明かりを受けて鈍く光る。

「いや……こんなの、バグだ……私はヒロインなのに――!」

 壊れたように首を振る。間違っているのは世界の方だ。自分ではない。
 ――やり直さなきゃ。
 最期まで、|マリア《彼女》は|ヒロインの《現実を見ない》まま。
 |断罪劇《デスゲーム》の幕は下ろされた。

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