⑧狂乱魔法少女ノ怪人大作戦
●無限オープニング(ゾディアック継承戦争)
「王劍戦争『ゾディアック継承戦争』がはじまりましたね」
そう√能力者達に声をかけるのは星詠みの虞・無限(愛に生きる改造人間・h02759)だ。
王劍戦争は王劍を掌握した簒奪者の大侵攻とそれを好機と見た他の簒奪者達から√EDENを守るための戦いだ。
「今回の『ゾディアック継承戦争』で王劍を掌握したのはゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』のようです」
彼は|黄道十二星座《ゾディアック》を支配する『主神ゾーク』への|変身《アクセプト》を狙っているらしい。
「本人の言を信じるなら、星詠みから予知を奪い、√能力者の武装を破壊し、といった無法が罷り通るようになるようです。そうなってしまったら、√EDENも他の√も、守れるものも守れなくなります。絶対に止めないとなりません」
そう言って、無限は改めて√能力者達に声をかけるのだった。
「今回皆さんに向かっていただくのは、天神地下街です」
そこでは、壱號怪人『クモプラグマ』が非致死性の毒ガスを散布する『怪人大作戦』を行なっているらしい。
「√能力『怪人大作戦』はご存知ですね? 事前に作戦を行っておくことで、こちらの行動を妨害する効果を持つ√能力です」
つまり、民間人を救助せねばならない上に、こちらの行動を一回まで妨害してくることを考慮して立ち回らねばならないということになる。
「とはいえ、天神地下街は絶対防衛領域の外。非致死性とはいえ、民間人に被害が出るのを見過ごすわけには参りません」
相手は『狂乱の魔法少女ダークムーン』。
「恥ずかしい衣装のせいで悪堕ちした、という少し哀れな魔法少女ではありますが、人々を呪いの衣装へ変身させ、世界全部を巻き添えにしてしまおうと考えている歴とした悪事を計画している魔法少女ですので、倒すしかないでしょう」
もしかしたら、毒ガスに恥ずかしい衣装へ変身させる効果を追加する! とか企んでいるかも。
「それにしても、前回案内した案件も含めて、悪の魔法少女も多様なようですね、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》、その影響は大きいようです。いずれにせよ、油断なく」
そう言って、無限は話を締め括った。
第1章 ボス戦 『狂乱の魔法少女ダークムーン』
(「ダークムーンさん……」)
天神地下街に降り立ち、『狂乱の魔法少女ダークムーン』を見て、星詠みから聞かされた情報を頭の中で思い返すのは髪に花が咲き背に翼持つ人間の姿をした不思議の国のアリスの様な少女、アリス・アストレアハート(不思議の国の天司神姫アリス・h00831)だ。
「た、確かに……少しお可哀想かも……でも…世界全部巻き添えは……お止めしなきゃ…」
もし自分があんな格好を強制されたら、そう考えると思わず赤面してしまうアリス。
「恥ずかしい……衣装ですか。悪堕ちの経緯は同情しますけど、だからってこんなの、絶対に間違ってますよ!」
そう、ダークムーンに向けて叫ぶのは架間・透空(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)
「あ、あなたには分からないわよ! 望まずにこんな姿にされた私の気持ちなんて!」
そういうダークムーンの言葉のなんと皮肉なことだろう。透空は悪の組織の魔の手にかかり、怪人となった少女であった。
「そうなのかもしれません。でも、世界の恥ずかしい衣装が苦手な人のため、貴女のような魔法少女をこれ以上増やさないため、ここは止めさせていただきますっ!」
そう言いながら、透空は決戦気象機構「ハイペリヨン」を起動するタイミングを見計らう。
相手は怪人大作戦という切り札を持っている。迂闊に使えば、攻撃の手が一つ減ってしまう。阻止された場合の作戦もあるとはいえ、使うタイミングは万全にしておくべきだった。
「悪の魔法少女ですか」
そう呟くのは軍事訓練困難児童を政府に寄付する制度「カイアダス・プラン」により、新型サイボーグの素体となった少女、深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)だ。
「通常の√能力者と簒奪者の違いは、実のところ「邪悪なインビジブルを使うか否か」でしかありません。魔法少女の中から、何らかのきっかけで簒奪者に身を落とす者が現れることも当然あるのでしょう」
深雪はいつものように表情を変えることなく、ただそう分析する。
「……どんな背景があったとしても、√EDENの害となれば排除するまでです」
そう言いながら、深雪は対WZマルチライフルを構える。
「民間人は生かさず殺さずとは何とも怪人組織らしい手口だことで」
そう言いながら、姿を晒すのは推しへの愛と尊みでエネルギーを賄う怪人、深見・音夢(星灯りに手が届かなくても・h00525)だ。
「……外法には外法、こちらもそれなりの手を使うとしようか」
「行動を一度必ず失敗させられるというのならば、その失敗を一度誘発するまで、そういうことですね?」
その隣で、精悍で美しく整った長身を持つ褐色白髪の女、ガイロード・ハイヒール(黙示録の隠者・h07799)が頷く。
ガイロードは既に√能力『|黒幕が如く、手繰る様に《フィクサーズアクト》』を発動しており、多数のマネキンが民間人達に紛れ込んでいた。
「その通り。どう転んでも何かしら一度は失敗するなら囮になる行動を用意してやれば良い」
音夢が頷く。
「というわけで……早速だけれど『|熱情語りの独壇場《オシカツオンステージ》』でコラボ企画というのはどうかな?」
そう言いながら、推しへの愛を語り始めることで、√能力が発動。周囲一帯がコンサートステージへと変わる。音夢もまた推しである星見天・奏多(深みを照らす小さな星・h02274)を模した大胆な服装に変化している。
「もちろん君向けの際どい衣装も準備してあげるとも。ステージ上なら逃げられる心配も無し、どうしても逃げたいなら……分かるよね?」
「な、な、なんて格好してるの!? しかも、自分から!? し、信じらんない!」
だが、そうして、注目を集めている間に、ガイロードのマネキン達が民間人を逃しつつ、ダークムーンに迫っている。
「もう、大丈夫だよ。さあ、早く避難するよ」
そう言いながら、『闘志戦隊ファンダーズ』の一員たるドライバーホワイト、白蹄寺・漣(ドライバーホワイト・h05748)もまた、バイクを巧みに操って人々を逃し始めている。
(「私に与えられてる作戦で妨害できるのは一人まで……。同時に何人も妨害はできない。……どうしたら……」)
ダークムーンは逡巡する。
「迷っちゃって、可愛い子だね。捕らえて怪異に改造するための素体にしようかな」
そんな逡巡する様子に、√汎神解剖機関の日本に迷い込んだエルフの少女、イリス・ローラ(支配魔術士・h08895)が微笑む。
(「ひっ、あの人もヤバい……。ど、どうしよう……」)
悩んでいるところに、ある光景が目に入った。
「電極針弾モジュール接続」
それは、深雪の持つ強力な√能力『|電極針弾投射形態《エレクトロードニードルランチャー》』の発動体制だった。
対WZマルチライフルが電極針弾投射形態へと変形していく。
(流石にあれを喰らったら負けちゃう。マネキンも、恥ずかしい衣装も嫌だけど……やむを得ないよね)
電極針弾が完全な弾道計算で放たれる。
「さ、させない!」
毒ガスの見せる幻が深雪の弾道計算を狂わせ、ダークムーンには当たらずに終わる。
「外しましたか」
発砲には一定の反動が伴う。
「今だ!」
ダークムーンが地面を蹴り、巨大な黒月を顕現させた後、マジカルスタッフによる近接攻撃で、深雪を倒れ伏させる。
「ぐぅっ……」
強烈な一撃に深雪はすぐには立ち上がれない。
(「ですが、これは必要経費です。怪人大作戦で行動を失敗させられる対象は一体のみ。私自身がしくじったとしても、彼らが目的を果たしてくれます」)
その瞬間、事態が一気に劇的に動く。
「よっし、じゃあ羞恥プレイタイムっすよ!!」
音夢が必中攻撃で、ダークムーンの姿をより過激な衣装へと変更する。
「こ、こんな……! ほ、殆ど紐じゃないですか……!」
そこにガイロードのマネキン達の攻撃が、攻撃を仕掛ける。
「ど、どうせ恥ずかしい格好になるなら……! 『インフィニット・エンバラスメント』……!!」
ダークムーンが極大の闇魔力を放出しながら、より恥ずかしい衣装の第二形態へと衣装チェンジする。
羞恥の記憶やトラウマを無限ループさせる力を持った極大の闇魔力で周囲を攻撃し、マネキン達を弾き返すダークムーン。
だが、ガイロードとしては自身が囮や陽動として機能すればそれで十分だった。
(「後に続く輝きの為に」)
「露出度の高い衣装の魔法少女さんが相手なら、こうするだけですっ! ——決戦気象兵器、起動っ! モードチェンジっ!」
透空の備える決戦気象機構「ハイペリヨン」が起動し、鈍色に輝く高速散布モードへと変形する。
√能力『|天色管理機構《ハイペリヨン》|『砂塵嵐』《・サンドストーム》』だ。
砂嵐が巻き起こり、ダークムーンの素肌を物理的に削っていく。
「……敏感肌だったらごめんなさい。でも、いっけぇぇ!!!!!」
「痛い痛い!」
動きを止めたダークムーンにさらに二人が動く。
ハート細工の長大な金の鍵・クイーンオブハートキーを構えたアリスと、ジェット機構搭載の突撃槍・ホーンストライカーを構えた漣だ。
それぞれ、自身の得物を手に地面を蹴り、ダークムーンに肉薄する。
「君の境遇は同情の余地はある。だけれど、それで他の人を巻き込んでいい道理はないはずだよ」
「そんなに言うなら、自分も同じ目にあってみればいいのよ!」
再び、巨大な黒月を顕現する。
直後、マジカルスタッフが振り下ろされる。
二人は回避するが、しかし、攻撃が外れた結果、周囲一帯はあらゆる衣装が悪堕ち魔法少女風となる空間へと変化する。
「えぇ!? な、何で…!?」
「こ、これは……」
思わず、アリスも漣も声を上げる。二人がダークムーンと同じくらい恥ずかしい闇堕ち衣装へと変じていたのだ。特に漣は普段男装している分、衣装の落差が激しい。
だが。
「は……恥ずかしいです……でも、頑張らなきゃ……」
「どんな格好しようとボクはボクだ! 君も、自分自身に負けちゃダメだ」
だが、どちらもそれだけで動じたりはしない。
飛翔するトランプ【ハートの|A《アリス》】を展開しつつ、アリスが√能力『タペストリグリフ・マナバレットシンフォニア』を発動して、羅紗魔術でダークムーンを攻撃する。
「きゃっ」
さらに羅紗魔術による|鎧装《ドレス》が付与され、ダークムーンの空間支配が上書きされる。
「そんな……!」
自分が嫌で嫌で仕方なかった衣装をあっさりと乗り越えられ、表情が驚愕の色に染まるダークムーン。
「だったら……」
周囲に黒い妖精を放ち、反撃に出るダークムーン。しかし、透空の起こしている砂嵐の前では、黒い妖精達も長続きしない。
「……あれ?」
そこでふとダークムーンが気付く。
最初に怪人大作戦を使う相手として考えていた候補の三人、そのうち一人、イリスがいない。
だが、あまりにそこに着目するのが遅すぎた。気付いた時には既に、背後に猫型の怪異が回り込んでいた。
「ふふ、捕まえたよ」
猫型の怪異が突如として赤毛の大熊型怪異に変化し、ダークムーンを背後から拘束する。
その正体は、イリス。√能力『|怪異変身術《クリーチャー・チェンジマジック》』
「な、何!? なんで姿が変わったの? 魔法?」
「そうだよ。支配の魔力で自分を支配・改変すれば何にだって変身できるよ」
「なっ!? さっきのお姉ちゃん!? い、いや、離して!!」
声で正体がイリスだと気付いたダークムーンが慌てて抵抗する。
(「気絶させて捕縛ができたら、本当に連れて帰りたかったけど、これは難しそうだね……」)
などと独白しながら、イリスの火炎放射攻撃が、ダークムーンを焼く。
拘束され、隙だらけとなったダークムーンに対し、深雪は倒れたまま√能力『|超過駆動・大軍掌握《オーバードライブ・バタリオンコマンダー》』を発動する。
体が僅かにでも動かせなくても、電脳化義体サイボーグたる彼女には脳波コントロールで移動型浮遊砲台を操れる。
本当は、倒れた自分自身を囮に不意打ちするために用意していた攻撃だったが、その担当は他の参戦者達が行ってくれた。
なら、深雪は最後の仕上げにその√能力を使うだけであった。
一斉に浮遊砲台からレーザーが放たれる。
既に怪人大作戦を使い終えた彼女には、その飛び交う光の一発を止めることさえ、叶わなかった。
ガイロードと音夢、そして深雪による陽動と怪人大作戦の誘発。透空による妨害、アリスと漣による肉薄攻撃、そして、イリスによる拘束。
即席とは思えない見事な連携が噛み合い、ダークムーンは結局、敢えて食らった深雪以外、殆どダメージを負わせることなく、その戦いを終えることとなったのであった。
「いつか絶対、全員をこの恥ずかしい格好にして屈服させれやるんだからね!!!!」
そう言い残して、ダークムーンは、インビジブルへと還っていった。
