⑧カップリング大作戦
新たなる√EDEN侵略を寿ぎ、大首領プラグマより祝福を贈ろう。
九州最大の繁華街をつなぐ、全長約590mの『天神地下街』。
これを全て、非致死性の毒ガスで埋め尽くす。
民間人は殺すより不具にした方が有用……これもプラグマの教えだ。
本来ならば、怪人大作戦の概要は実行後に語るべきだが……。
残念ながら、如何に君がゾーク12神であろうと、全ての企みは必ず予知される。
だから隠した所で無駄だし、私はやれる限りの事をやろう。
この作戦をどう活用するかは、君が考え給え。
●天神地下街にて
「と、いう訳で今からカップリング大作戦を始めま~す♪」
魔法少女現象で覚醒した魔法少女アンテロスが、声高らかに作戦開始を宣言する。
彼女は獲得した能力が『人から人への好意的な感情を増減させる』ものだった為に、ビジュが好みの人間達の感情を操って強制的に恋人にしてニヤニヤする推しカプ養殖系厄介オタク簒奪者と化してしまったのだ。
大首領プラグマにより天神地下街全域にばら撒かれた非致死性の毒ガスにより、身動きが取れなくなった若者達から、アンテロスは好みの者達を探して回り、琴線に触れた者達を見つけては、彼等の心と身体を自在に操る行為を繰り返しているのだ。
「う~ん、真面目そうな子と内気で清楚そうな子ね。定番過ぎて面白みに欠けるかもしれないけれど、それもまた良しかしら」
整った容姿で清潔そうな身なりの少年少女2人に対して、偏見にまみれた感想を述べた後で、アンテロスはLOVEの波動を放出して、2人に恋愛感情を与える。
「あ、ああ・・・」
「む、胸が苦しい・・・ドキドキする」
2人が元々そういう関係だったのか、それとも名前も知らぬ赤の他人であったのかはどうでもよかった。
アンテロスの力の前では、犬猿の仲の2人であったとしても恋人同士の関係に変えてしまうのである。
愛おしそうに見つめ合う2人をスマホで動画に撮ってから、アンテロスはまた別の推し候補を次々と発見する。
「いかにも強気そうな女の子ね。でも案外チョロくて男の言いなりになって、最後には他のメインヒロインにNTRされてしまう。そんな負けヒロインが似合いそうだわ」
「虫も殺さない顔をしているような男の子だけど、沢山の女の子に好かれて、結局は破滅エンドを迎えてしまいそうな顔よね」
「う~ん・・・特徴のない美少女って感じね。モブ枠も欲しかったのよね」
「お、最近はやりの男の娘かな?相手役には正体を知らないイケボな美少年で、ドキドキなラブコメ展開を繰り広げるのも面白そう」
「あれ?もしかしてご同業かしら?私よりもずっと年上そうなのに、魔法少女の格好をして無理している感じもいいわね。いかにも金持ちそうなオジサンとの組み合わせが良さそうかしら」
凄まじい暴言をマシンガンのように繰り返す、魔法少女アンテロスの勢いは留まる事を知らなかった。
●魔法少女討伐依頼
「予知してくださいと言わんばかりのマシンガントークに、我も言葉が出ないぞ・・・」
毒で地下街中の人達が動けないのをいいことに、好き勝手やろうとしている魔法少女の出現に、星詠みを務めている、雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)は、頭を抱えてくなる衝動を堪えながら、依頼の詳細を伝える。
「天神地下街に出現した簒奪者となってしまった魔法少女を撃退して欲しい。地下街の人達を助け出す事が優先で、彼女の生死は問わないぞ」
幸いと言っていいかは疑問だが、簒奪者の魔法少女は人々を虐殺して回ることは無いので、戦いに巻き込みさえしなければ肉体的な被害を出すことは無いだろう。
「ただ予知の通り、アンテロスは覚醒した力で気に入った者達をカップリングして回っているので、放っておけば精神だけでなく人間関係に絶大な被害が出てしまうだろう」
カップリングは必ずしも悪い方向に進む訳ではないのかもしれないが、所詮は厄介オタクによる独断で決められた関係であるので、その殆どが歪められた悲劇でしかない。
「そこで問題なるのが、地下街中に散布された毒の影響で、皆の行動も制限されてしまうということだ。具体的には一度だけあらゆる行動を失敗させてしまうぞ」
その一度というのは必ずしも初手の行動であるとは限らない。
ここぞという時に失敗してしまい、敵に大きな隙を晒してしまうという事態にも陥りかねないのだ。
「でも付け入る隙は十分にある相手でもある。彼女は気に入った相手なら√能力者であろうとも、感想を述べた上でカップリングさせようとすることを優先するだろうから、そこを狙えば勝機はあると思う」
アンテロスは恋愛感情を芽生えさせることを何をおいても優先するので、その抵抗を失敗させようとするだろう。
その後なら攻撃しても失敗させられることは無くなるのである。
敢えて抵抗に失敗し、恋愛感情が芽生えた様子を見て、アンテロスが油断した所を逆襲するというのが有効な手段だろうか。
「なのでペアで挑むのがいいかもしれないが、単独で挑んでも向こうが勝手に地下街の人々から似合いそうなのを選んでカップリングさせようとするだろうから、対処可能だぞ」
その人には迷惑をかけてしまうかもしれないが、アンテロスを撃退すればその感情も綺麗に消え去るので、大事にはならないと思う・・・とリューリアはどこか自信なさそうに続ける。
「実力よりもそのマシンガントークで容赦なく人を評価してくる方が厄介な相手ではあるが、皆ならそんな言葉などには惑わされないと信じているぞ」
その言葉でリューリアは説明を終えるのだった。
第1章 ボス戦 『魔法少女アンテロス』
天神地下街、『てんちか』とも愛称で呼ばれている多くの人々が行き交うこの地下街が、簒奪者となった魔法少女アンテロスによる襲撃を受けている。
彼女は天神地下街全域にばら撒かれた非致死性の毒ガスによって、身動きの取れなくなった、人々をカップリングさせようと地下街を徘徊しているのだ。
そんな殆どキルゾーンと化した地下街に2人の√能力者が挑もうとしている。
「かっぷりんぐ?えーと、人と人をくっつけるってことでいいのかな?」
そう無邪気に問いかけるのは、好奇心旺盛で元気一杯の小柄なエルフの女の子、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)である。
「あ、ああ、そうだね」
エアリィの問いかけに応えつつも、彼女と合法的にいちゃつけるチャンスではないかと、考えを巡らせているのは、少し大人びているが、素は年相応な少年、椎宮・紫水(シセキエイ・h12162)だ。
「ね、紫水さん。今回は二人で行こっか。一般の人を巻き込むわけにもいかないしね。ん、どうしたの?」
何やら悩んでいる様子の紫水が気になって、エアリィはぐいぐいと彼の裾を引っ張る。
「え?ああ、気にしないでエアリィ嬢、一緒に行く?」
「うん、行こう♪」
にっこり無邪気に微笑み、そう言って手を引っ張っていくエアリィに、紫水はドギマギしてしまう。
「じゃあ……って私、いつも手を引かれてる気がするけど!」
でもそんなエアリィ嬢が可愛いから良し!!、と心の中でガッツポーズを取りながら、笑顔を浮かべる紫水であった。
それからクラシカルな雰囲気の地下街に足を踏み入れる二人であった。
天神地下街全域には既に非致死性の毒ガスがばら撒かれており、しかも時間が経てば経つほどに濃縮されていく。
一刻も早く毒ガスをばら撒いている簒奪者の魔法少女を見つけ出す必要があるのだが、どうやら向こうからやってきてくれたようである。
「推しカプ候補発見♪」
手を繋ぎながら地下街を進む2人にただならぬ気配を感じた魔法少女アンテロスは、目を輝かせて、ファンシーなデザインの弓矢を手に狙いを付ける。
その姿はさながら恋のキューピットのようであった。
「狙いはバッチリ!」
そして放たれた愛の矢は、吸い込まれるようにエアリィに突き刺さろうとする。
「……っ?!」
完全にエアリィに意識が向いていたであった紫水であったが、いきなり何かが飛来してきたことに反応して咄嗟に庇う。
「あ、防がれた、でもこれならどうかな?」
矢が紫水に命中しても懲りずにアンテロスは、お互いを思う恋や愛の感情を与えるLOVEの波動を、全身から放出する。
「さあ、あなたの胸を内を明かしなさい」
矢を受けて蹲っている紫水に気遣うエアリィは、その波動をまともに受けてしまう。
「え?お相手の事を伝えればいいの?えーと、えーと」
エアリィが素直に頷いて言葉を出そうとする様子に、アンテロスは嬉しそうにスマホを取り出す。
「やっぱり素直な子は見ていて心が洗われるわ。さあ、どんな素敵な言葉が飛び出て来るのかしら?」
推しカプ廚と化した魔法少女は追撃する様子も無く、機体の眼差しでエアリィの言葉を待つ。
「一緒にいるとほっと安心できちゃって、時々かわいいーって思う仕草をするときがあるの。ほんと、素敵な人だよー」
「ちょ、エアリィ嬢、何言ってるの嬉しいけど!!」
突然の言葉に紫水は驚愕するが、愛の矢を受けた事で恋愛感情を爆発しかかっている影響もあってか、敵がいる事も忘れて心をときめかせてしまう。
「ここまで来たらもう言っちゃえ」
アンテロスも波動を全開にして後押しする。
「ん?好きなの?って?ううん、違うよ。大好きだからっ!!えへへ、だーい好きですっ♪」
何か返事をしなければと言葉を出そうとしていた紫水に、エアリィの告白が愛の矢よりも深く心臓に突き刺さる。
「私だって負ける訳には……ぐふっ!」
そして紫水は返事もままならず、そのまま幸せそうな表情を浮かべて崩れ落ちる。
「その反応も最高に素晴らしいわ。まるで女の子みたいに頬を赤く染めちゃって、テンション爆上がりだわ!」
毒の力で強制的に感情を与えるまでもなく、少年少女が告白して悶える様子に、アンテロスの感情も爆発する。
「~~~~~もうっ!!なんなのこの子!なんでそんな真っ直ぐなの!可愛すぎるのずるい!」
普段なら胸の内にしまっていただろう言葉を、起き上がれずに悶えたままの紫水は顔を真っ赤にしながら吐き出していく。
「エアリィ嬢が世界一かわいい!!好き!! 大好きだよ!!」
そしてエアリィに負けじと紫水は、何とか起き上がって精一杯の告白をする。
友人たちが近くに居たのなら、まず間違いなく2人を盛大に祝福したことだろう。
だがその場に居合わせているのは簒奪者である。
邪な感情が芽生えてしまう。
「ウヒヒヒヒ!最高の場面が撮れたわ。この2人を引き離して別のカップリングを作るのも悪くないかもね」
そのアンテロスの言葉はハイテンションのあまりに、つい勢いで出てしまったに過ぎない。
だが結論から言えば完全に失言だった。
「全力全開でお断りっ!あたしは、紫水さんと一緒にいたいのっ!違う人はのーさんきゅーっ!!」
違う人とくっつけさせられそうになり、エアリィは精霊剣を手にアンテロスに向き直る。
「ふぅ……好き……あー……申し訳ないがこれでも一途でね?他の女性はお断り申し上げる」
紫水も想いは同じで霊斬刀を手にアンテロスに視線を向ける。
「はっ、つい悪い癖が出てしまったわ。私が解釈違いをしてしまうなんて!」
推しカプを普及する者としてはあり得ない失言であったことに、アンテロスが気付いた時にはもう遅かった。
「ということで、そろそろ退場していただくよ、魔法少女さん」
「……よし。このまま魔法少女を退場させるよエアリィ嬢!」
火・水・風・土・光・闇の精霊達の力を纏ったエアリィが、周囲の毒気を振り払ってから、全速力でアンテロスに斬りかかり、同時に赤面したままの紫水が霊力を込めた土属性の弾丸を射出する。
「ご、ごめんなさいいいい!!」
恋愛感情に囚われながらも2人の息の合ったコンビネーションに、アンテロスは情けない悲鳴を上げながら、反射的に身を屈めてしまう。
それが功を奏したのか、紫水が放った銃弾はギリギリの所でアンテロスの頭上をかすめる結果に終わった。
「うわっと!」
更にたまたま進路に落ちていた兎のぬいぐるみに足を取られてしまいエアリィはアンテロスの眼前で転びそうになってしまう。
これらの失敗は地下街に充満していた毒による影響によるものだったが、それでも2人は止まらない。
「え~い!」
エアリィは転びそうになりながらも、剣を振った勢いのまま体を回転させて、戦闘靴で回し蹴りをお見舞いした。
「ごふぅ!!」
「足癖悪くてごめんね?」
蹴り飛ばされたアンテロスは、ぎゃふんと地面に叩きつけられる。
「風と雷を以て、斬る!」
そこへ霊斬刀を手にした紫水が斬りかかり、アンテロスに深手を負わせることに成功した。
「やっと手に入れた彼女の隣なんだ。簡単に手放す訳、無いだろ?」
「う、うう・・・でもまだこんな所で終わらないわ。こんな絶好の機会、滅多にないもの!」
それでもアンテロスは推しカプを布教する思いを跳躍力に変え、2人の予想を上回る逃げ足の速さで、その場から逃走するのだった。
2人は取り残される形となり、若干気まずい空気になる。
「えっと、その…。うん、だって、大切な大好きな人だから!えへへ!」
未だに納まる様子の無い恋愛感情の昂りに、エアリィは誤魔化すように笑いながら紫水を見つめる。
「……エアリィ嬢、そんなに見つめられると敵を倒す前に私が倒れちゃいそうになってしまう」
嬉しい感情が抑えきれずに、紫水もエアリィとしばし見つめ合ってしまう。
そのままキスでもするかのように思えたが、今は非常事態である。
それから正気を取り戻した2人は、慌てて魔法少女を追いかけるのであった。
「あら、あら。お若い方には、精神的に大変そうな相手ねぇ。こういう時こそ、年の功の出番かしら」
天神地下街に足を踏み入れ、魔法少女アンテロスと対峙するスアン・ラバラティーソ(頂に響く祈りの暴風・h13024)は、地下街全域にばら撒かれている毒とアンテロスから放出されるLOVEの波動に、自身が支配されていくような感覚に苛まれていた。
前の前の魔法少女に身も心も委ねたくなるような快楽にも近く、熟練した√能力者であっても耐えがたい誘惑である。
「...こんなバアでも、恋愛感情なんて抱けるのかしら?」
そんな誘いにスアンは抵抗しようとするも、大首領プラグマが生み出した非致死性の毒ガスに阻まれ、何も考えられなくなってしまう。
「大丈夫心配しないですぐに相応しい相手を見つけてあげるわ。おばあさんぶっていてもその実は美人で大人なお姉さんには、純朴そうな子がいいかしらね?年齢のギャップ差を越えての恋愛はやっぱり外せないわよね♪」
毒と波動の影響で動けなくなったスアンをじっくりと観察した後で、アンテロスは喜々として、毒で動けなくなった一般人の中から恋人候補を探して回る。
「おかしいわ...こんなに人が居ないなんて」
だが周辺を探しても候補どころか、そこに居たはずの人々の姿がない事に疑問に感じる。
そして辺りが白霧に包まれている事に気付く。
「もしかしなくてもお姉さんの仕業ね」
アンテロスの指摘通り、スアンは動きを封じられながらも白霧の精霊を呼び出し、地下街の人々を避難させていたのだ。
周囲を霊峰の迷い霧で満たし、アンテロスが追えないように対策した上である。
「ええ、ええ。大丈夫よ、バアの大切な“宝石”。いっとう煌めく“宝物”」
ぼんやりとした様子のスアンから、突如として言葉が紡ぎ出され、その意味を自分なりに解釈したアンテロスは、心がときめくのを感じた。
「身を挺して皆を守ろうとする姿勢は素敵ね。魔法少女になって欲しいぐらいだわ」
そして白霧の中から、宝石のような煌めきを見たアンテロスは、察して笑みを浮かべる。
「そこに隠しているのね。大切な“宝石”は手放せなかったのね」
アンテロスはLOVEの波動は確かにスアンとは別に、お互いを思う恋や愛の感情をもう1人に与えていたのだ。
スアンが隠している“宝石”こそ、その1人に違いないと、アンテロスは手を伸ばそうとする。
だがその手を精霊を宿した魔弾が撃ち抜いた。
「――バアの大切な“宝石”を盗ろうとしたのだから、当然の報いでしょう?」
「っ!!大人しそうな顔して容赦がないのね。でも盗るつもりないんてないわ。ただ2人が愛する様子を撮るだけよ」
そんな戯言をスアンが真に受ける訳も無く、精霊中から再び魔弾を発射する。
「ああ、私のスマホが!」
魔弾は正確にアンテロスが所持していたスマホを撃ち抜く。
これまで恋愛感情を抱かせたカップル達の様子が記録されたスマホが破壊された事は、アンテロスにとっては何よりも耐えがたいダメージである。
「……あら、普段よりも魔弾の威力が強いわねぇ?やっぱり精霊たちも怒っているのかしら?」
当然、それだけで済ませる訳も無く、スアンは魔弾を発射し続け、何度もアンテロスを撃ち抜くのであった。
「変なにおいだね~」
『うん。こういう場所に出しちゃいけないタイプのだ』
天神地下街に充満している非致死性の毒ガスと魔法少女アンテロスから溢れ出し続けるLOVEの波動に、危険な匂いを感じ取った、藤色のスライム娘の星河・あくあ(零を上書き歩む【始発点】/ 零で塗り潰し辿る【終着点】・h05769)は、淡藍色のスライム娘【アルマ】と共に進む。
既に番の二人組として活動しているあくあとアルマは、既に普段から愛を語りあっている間柄である。
「可愛いスライムちゃん達だね。いかにもご主人様に尽くしそうなタイプかな?これから素敵なマスターを見つけてあげるね」
姿を現した魔法少女アンテロスは、その事に気付かずに2人の感情を支配出来たと誤解する。
しかも既にご主人様のいる二人にとって、その言葉は禁句であった。
「あるまちゃん」
「あくあちゃん」
2人は愛おしそうに手を繋いだまま、アンテロスに向かって歩く。
「いい子達ね。これからご主人様達の元に案内してあげるわ。スライムでも愛してくれるいい子達だから安心して」
攻撃動作も無い、無防備な様子にアンテロスは安心したように自分から2人に触れた。
だがその瞬間、あくあとアルマは星紋の力を開放する。
「色んな人が互いに愛し合って、幸せにできるのはとても素敵。でも、他人が糸を結んでするもんじゃない。そうでしょ?」
あくあとアルマが今二人でいられるのは、良い人に助けてもらったことと、悪人達を全員ぶん殴って、邪魔する星を全部食べてきたことで、やっと今があるのである。
「貴方の想いは何となくわかるんだけどね。その歪んだ願望の叶え方だけ。へし折る」
そして今回はアンテロスが星になってもらう番である。
「ぷゃー!」
『ぴゃー!』
「ひゃああああああ!」
波星麗紋によって全身が焼かれるような電撃が走り、アンテロスは絶叫を上げる。
「|ご主人様《ますたー》が持ってる、AED…みたいに。星を、見せてあげる」
2人で手を触れたまま麗紋の出力を上げる。
「ひゃああああああ!」
アンテロスの目には星が見えていた事だろう。
「や、やられたわ・・・」
それでも意識を保てたアンテロスは慌てて2人から離れ、逃走を図る。
「逃げるの?」
『逃がさないよ』
追いかけようとする2人であったが、そこで思わぬ障害に出くわしてしまう。
「|ご主人様《ますたー》?」
『違うよ。少し似ているけれど別人だよ』
2人の行く手を遮るように寄りかかってきたのは、2人のご主人様にどこか似た雰囲気を持つ2人の青年であった。
恐らくはアンテロスがカップリングさせようと連れてきた一般人なのだろう。
「もう大丈夫だからね」
『急いで追いかけよう』
2人の青年を安全な場所まで避難させてから、あくあとアルマは手を繋いだままアンテロスを追いかけるのだった。
「精神干渉系の能力を持つ敵って事なのかな?まぁ、欠落の事もあるし俺にはあまり関係無いかな」
今回の相手である簒奪者は指定した2人に恋愛の感情を強制的に抱かせる、魔法少女アンテロスである。
だが愛情が欠落している霧島・恵(狐影蕭然・h08837)にとっては、大して脅威と感じることも無く、天神地下街にへと続く階段を降りようとする。
「あら?簒奪者退治へと思ったら、そこに居るのはイエドラで見かけた恵けいちゃんじゃない!」
ちょうどそこへ、ウララ・ローランダー(カラフルペインター・h07888)が、恵に声をかける。
見知った顔に出くわした、ウララはどこか嬉しそうであった。
「偶然ね、恵ちゃん|強そう《精神抵抗技能持ち》だから一緒に退治に行かない?」
「おや、ウララちゃんだったね。君も例の事件で来たのかな。もしそうなら折角だし一緒に行かない?」
そして同タイミングで発せられた互いの言葉に、二人は思わず表情が緩んでしまう。
「それと、転ぶと危ないし手を繋ごっか」
「そうね。その方がアンテロスを誘き出せるものね」
見知った顔とはいえ、やや気恥ずかしくなりながらウララは、恵と手を繋いで階段を下りる。
「デュフフ、見ていたわよ。偶然を装っていたけれど、実はバッタリ出会えることを期待していたに違いないわ」
「あ、現れたわね、アンテロス!」
いざ探そうとしていた所で、待ち伏せされていたことに驚きつつも二人は臨戦態勢を取る。
「一人はクールで温和な感じのイケメンかしら?でも紳士的な態度で女子にキュンと思わせるような行動を無自覚に出来るタイプに違いないわ」
「もう一人の女の子は無駄に元気で明るい僕様ちゃんに違いないわ。イケメン好きだけれど、実際に恋愛をしたことが無くて、初々しさ全開の様子を早く見てみたいわ」
早々にマシンガントークを始める魔法少女アンテロスに呆気にとられるが、恵は我に返って右手を構える。
「さてさて…敵の√能力は厄介だし【対消滅呪文】で対処させてもらおうかな。ウララちゃんは俺の後ろに下がって」
そう言ってから、右掌でマシンガントークを続けるアンテロスに触れる。
だが√能力を無効化する右掌は、地下街に充満していた非致死性の毒気によって阻まれてしまう。
「やだ、いくら私が可愛いからって手を出そうとするなんて・・・貴方の相手は後ろの子よ」
アンテロスは頬を染めながらも、恵とウララに向けて恋愛感情を増幅するLOVEの波動を放つ。
「……くっ、ぼ、僕様ちゃんはイケメンのファンであって、本当に好きになる訳には」
芽生えようとする恋愛感情に抗おうとするウララだが、凝縮された波動に抗う事は出来ず、恋愛感情が膨れ上がってしまう。
「うっ、恵ちゃんが輝いて見える……この輝くような気持ちは一体!?」
今まで恋愛した事がなかったウララは、芽生えた感情にどうしたらいいのかもわからずに、戦うのも忘れて戸惑ってしまう。
「いいわよ。その顔が見たかったのよ♪」
元気っ子が恥じらう姿をアンテロスは喜々として、スマホでしっかりと撮影する。
「と、撮るなぁ・・・きゃあっ!」
慌ててアンテロスの視線から逃れようとするウララであったが、特殊ウォーターガンを落していたことにも気付かずに踏んづけてしまい、バランスを崩して転びそうになってしまう。
「は、恥ずかしい・・・」
そのまま情けなく転倒することを覚悟するウララであったが、その前に恵に抱きかかえられる。
「ウララ、怪我は無いか?」
精神抵抗でLOVEの波動による恋愛感情の影響は薄い恵だが、ウララへの態度は本来の優しさからくるものであった。
「う、うん大丈夫!」
言葉ではそう返すが、恋愛感情の対象となった恵に触れられ、ウララは心臓を撃ち抜かれたような気分だった。
「そうでなくっちゃ。そのまま目をつぶってキスとかしてもいいのよ♪」
二人の様子にアンテロスは興奮しながらスマホでの撮影を続ける。
もはや戦いどころではない空気だが、それでもウララは勇気を振り絞って言葉を紡ぎ出す。
「恵ちゃん、あの、僕様ちゃん、どうしても恵ちゃんと一緒に戦いたいの……今、そしてこれからも」
特に最後の言葉に自分の心臓がドキドキしている音を感じながら、ウララは言いきった。
「大丈夫だ、俺が盾になるからウララは攻撃に集中して構わない」
ウララとは対照的に恵は普段通りの態度で、LOVEの波動を一身に引き受ける。
それでも尚、恵の様子には変化がないように見えた。
「……それはそれで複雑な気持ちだよ」
もしかして自分のことなど何とも思っていないのではないかと、ウララは逆に不安な気持ちになる。
「大丈夫か?」
「う、うん。今はとにかく力を貸してほしいの。僕様ちゃんも頑張るわ、炎操銃!」
それでも恵の声に勇気が湧いてきたウララは、ウオーターガンを拾い、炎を纏ったフォームに変身する。
「そうと決まれば、さっさと|邪魔者《アンテロス》を倒して今後について話すとしようか」
「ええっ!!今後って…」
恵の思わぬ言葉にウララの表情も炎のように真っ赤に染まりながら、アンテロスへの攻撃を開始する。
「く…凄まじい愛の炎ね!でも悔いはないわよおおお!!」
撮影することにすっかり夢中になっていた所に反撃を受けたアンテロスは、成す術もなく、炎に焼かれながら退散していった。
「…何しに来たのだか?」
満足したように去っていったアンテロスに、恵は思わず呆れてしまう。
アンテロスが去った事でLOVEの波動が消えたのを感じた恵はウララの安否を確認しようとするが、ウララは気絶していた。
これまでに体験した事のない恋愛感情と、加減もせずに√能力を発動したことによる反動である。
「無理をさせてしまったようだね」
再び優しくウララを抱きかかえようとする恵であったが、ウララの暖かい感触と、彼女のあどけない寝顔を見て、欠落していた筈の感情が蘇っていくような感覚に襲われる。
「脅威は確かに去った筈なんだけれどな……」
自分が動揺している事に気付きつつ、恵はアンテロスが落としたと思われるスマホを破壊した。
「悪いがここから先は無粋というものだろう」
それから二人がどうなったか、記録は残されてはいなかった。
「メェメェ 🐏🐏 メェメェ )))」
「あら?こんなところに迷える子ひつじ達がいるのね?」
天神地下街で新たなカップリングのターゲットを探していた、魔法少女アンテロスは子犬ぐらいの大きさの二匹の子ひつじが仲良くお散歩している場面に遭遇する。
「メェメェ 🐏🐏」
その内の1匹、ふわ・もこ(|迷える子《ここはどこ》ひつじ・h00231)が、アンテロスを可愛らしい仕草でチラ見する。
それはまるで「これはカップリングしたくなるに違いありませんよね?だってかわいいですから」と誘っているかのようであった。
「地下街に居るひつじさんなんて、普通のひつじさんじゃないに違いないわ。きっと擬人化とかも出来る筈よ。そして可愛らしいお姉さんとかお兄さんに抱っこしてもらうのよ!」
妄想を膨らませながら愛の弓矢を構えて射抜こうとするアンテロスであったが、後ろからも気配を感じて、慌てて振り向く。
「メェメェ 🐏🐏 メェメェ メェメェ 🐏🐏 メェメェ」
後ろからもう一組のひつじさん達が、ご機嫌な様子で歩いてくるではないか。
「ああ、駄目じゃない。ここは牧場ではないのよ。こんな所をうろついていたら悪い人に捕まって、食べられてしまうわ」
自分が簒奪者である事は棚に上げて、心配そうに声を上げるアンテロスであったが、左右からもひつじさん達が集まってくるのが見えてしまう。
「メェメェ 🐏🐏 🐏🐏 🐏🐏 🐏🐏 🐏🐏 メェメェ」
「メェメェ ( ¯ ꒳¯)✨」
おやおやおや?どんどんひつじさんたちが増えていきます。
これはカップリングするのに忙しくなりそうですね。
と、言わんばかりのどや顔で子ひつじ達の召喚主である、もこは仲間達が集まってくる様子を頼もしそうに見守っている。
「ああ、こんなに子ひつじが沢山。私どうしたらいいのかしら?」
すっかり可愛い子ひつじ達にメロついてしまった、アンテロスは弓矢で居る事も忘れておろおろしてしまう。
「メェメェ🐏⌒🐏⌒🐏⌒🐏))))))」
この隙に一般人の皆さんは逃げてもらおうと、もこは小さい身体を振るわせて鳴き声を上げる。
今頃はもこの鳴き声を聞いた他の√能力者達が、非致死性の毒で動けなくなっている一般人たちを避難させている事だろう。
もこと子ひつじ達はその間に、目の前の迷える魔法少女を相手にしていればいいのである。
「メェメェ 🐏🐏🐏🐏🐏🐏🐏🐏🐏🐏🐏🐏🐏 メェメェ」
「か、可愛すぎて攻撃できないよ」
合計15体にも増えた子ひつじ達がアンテロスを包囲していた。
もこと違って彼等は普通の子ひつじなのだが、毒が充満した地下街でも動けるぐらいには訓練された子ひつじ達なのである。
「メェ⌒🐏」
「メェメェ⌒🐏⌒🐏」
「メェメェメェ⌒🐏⌒🐏⌒🐏」
「も、もうだメェ🐏」
1匹、2匹、3匹と囲いながら順にぴょんぴょんとジャンプしていく子ひつじ達にアンテロスは催眠術にでもかけられたように、目をグルグル回しながら、ばたりと倒れてしまうのだった。
「メェメェ 🐏⌒🐏♪♪♪」
もこは気絶したアンテロスの上にぴょこんと乗っかって、仲間達と一緒に勝利の凱歌を奏する。
「メェメェ ♥🐏🐏♥」
そこへ1匹の子ひつじが、目に❤マークを浮かばせて、もこに熱烈にすり寄ってくるではないか。
その子の背中にはアンテロスが苦し紛れに放った愛の矢が、しっかりと刺さっていたのであった。
