シナリオ

⑮こぱんだめろめろ雑技団

#√仙術サイバー #ゾディアック継承戦争 #ゾディアック継承戦争⑮

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 #√仙術サイバー
 #ゾディアック継承戦争
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⚔️王劍戦争:ゾディアック継承戦争

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●Accident
 ――武強主義。
 なんと乱暴で蛮骨な思想なのだろう。
 確かに雷素崩壊により世界は薄氷の上を裸足で歩くような不安定さに脅かされることになってしまった。いつ氷を踏み抜いて凍んだ闇の底に落ちてしまうのか分からずに、常に喉元に刃を突き付けられているような緊張感を保っている。今や仙術なくしては生きていけぬ慈悲の欠片も見当たらない残酷な世界。
「強者が弱者を虐げるなど、決してあってはならないことです」
 だからこそ、人はみな自然に回帰するべきなのだ。
 ――たとえばそう。
「健やかなパンダのように……」
「ぷきゅっ」
 |魔教《カルト》『黑白蓮教』の教主にして積層都市の破壊を目論むテロリスト『食鉄大師』は、ころころもふんとやわらかな感触を覚えて幽かに瞬き、茫洋と揺蕩わせていた意識を現実に手繰り寄せると足元に視線を落とす。
 ふわりぷかりと境内に集積したゾディアックは、まるで鏡のように陽光を跳ね返し、石畳に散りばめるように瞬いて美しい。透いたオーラの中を小さなこぱんだたちが、ころころぽてぽて駆けて来るのは思わず顔も緩むというものだ。
「すみません教主様。どうしてもと言って聞かなくて……」
「かまいませんよ。弱き者たちは護るべき存在、それにこの子たちには健やかでいてもらわなければ」
 そっと抱きあげられたこぱんだは高い高いをしてもらって、きゅうきゅうきゅんきゅん鳴いて嬉しそう。ふくふくとしたまろいいのちの温度を慈愛が宿る眼差しで見守る食鉄大師は、こぱんだをやさしく片腕に抱っこすると水鏡天満宮を振り返る。
「見なさい。星詠みの力を強める鏡……ゾディアック・ミラーを創造せしめるところです」
「きゅ?」
「ゾディアック・ミラーがあれば、私は誰よりも早く『強者の陰謀』を察知できるようになり――ひいては誰よりも早く現地に赴き、カンフーにて強者を叩きのめせるようになるのですよ」
 こんなふうに。
 吐息と共に突き出された掌底は瞬きよりも素早いものだった。こぱんだは目を真ん丸と瞬いて、それから両手をぱちぱちさせて「すごい」「かっこいい」と喜んでいる。
 すると、食鉄大師のかっこいいところを一目見ようと、お世話係の信者たちの元から脱走したこぱんだ軍団がもこもこもふもふ集まってくる。これには食鉄大師もにっこり。か弱きこぱんだたちがころころじゃれついては、ぽてぽて駆けて境内はあっという間にふわもこで埋め尽くされる有様に。
「社会科見学、ということにしましょうか」
「す、すみません……ほらお前たち。教主様に練習した雑技をお披露目するのだろう?」
「おや、そうでしたか。それは是非とも拝見したいものです」
 いそいそ用意された床几に腰掛けた食鉄大師は、灯籠や植え込みの葉っぱに興味津々で駆け回るこぱんだたちを急かすことなく、それはそれは嬉しそうに見守るのだった。

●Caution
「皆さん、第一戦線に引き続き、第二戦線おつかれさまでした。いよいよ第三戦線のはじまりです」
 やさしく出迎えてくれた物部・真宵(憂宵・h02423)は、皆の顔を見て安心したように微笑を浮かべている。
 今日のお供のこぱんだ妖怪は、細長く切ったバウムクーヘンを低音でじっくり焼いたお菓子をさくさく食べていた。クラッシュしたアーモンドが散りばめられていて美味しいのだと真宵は皆に配りながら仔細を説明する。
「カルト教団『黑白蓮教』を率いる新たな王権執行者、それが『食鉄大師』です。見た目は大きなぱんだなんですよ」
 その大きなぱんだ――『食鉄大師』は、水鏡天満宮で謎の神器『ゾディアック・ミラー』を創造しようと企んでいる。境内にはドロッサス・タウラスから奪ったゾディアックが集積しており、それはまるで鏡のようなオーラになって周囲に満ちているのだとか。
「既に食鉄大師の予知能力は『数秒先を予測可能』なほどに強化されています」
 斬りつける、発砲する、殴る。
 これからの行動を予測されれば当然回避される。それだけでなく先読みした情報を利用してこちらの意表を突くことだって可能なのだから数秒先を見通す力は脅威である。
「けれど、制圧が叶えばゾディアック・ミラーをわたしたちが獲得できるかもしれないのです」
 しかし数秒先を予知する『食鉄大師』に、どう立ち向かえば良いのか。
 首を傾げる皆を見て、真宵はこぱんだ妖怪を抱っこする。
「どうやら『黑白蓮教』には、これくらいの小さなこぱんだたちを連れているようなのです」
 みな『黑白蓮教』に引き取られた孤児のようで、カンフーや雑技を習っている最中とのこと。いずれ立派な信者に、ということなのだろうが、まだ遊ぶことが楽しいお年頃。
「今回は社会科見学のようだったのですが、境内でころころ遊んでいるようですよ」
 こぱんだたちはまだ武強主義を理解していないし、『食鉄大師』のことも大きくてかっこいい大人ぱんだくらいにしか思っていない様子。それでも友達と遊ぶこと、雑技を覚えて褒めてもらうことはうれしいようだ。
「今回はそんなもこもこかわいい、こぱんだたちの力を借りましょう! どうやら『食鉄大師』は弱きものにはやさしい様子。こぱんだたちが披露する雑技で意識を分散させて、予知能力を阻害するのです。たくさんのかわいいが押し寄せたら、誰がどう動くのか判別するのもむずかしくなりますよね」
 信者に成りすまして『黑白蓮教』のこぱんだたちに呼びかけてお手伝いしてもらうのが良さそうだが、自身が連れているこぱんだに何か披露してもらって可愛さで打ちのめして予知を邪魔するのもいいだろう。
「かわいさにめろめろになってしまえば『食鉄大師』にも、きっと隙が生まれるはずです! そこをえいっとしちゃいましょう!」
 こぱんだはスティック状のバウムクーヘンを手渡して「かわいいはせいぎー」とばかりに、にぱりと笑って真宵と一緒に見送ってくれるのだった。

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第1章 ボス戦 『食鉄大師』


見下・七三子
蓬平・藍花

 きらきら眩しい水鏡天満宮の境内は右を見ても左を見ても、ぬいぐるみみたいなふわふわころころのこぱんだで溢れている。
「はわ……み、見てください藍花さん」
 両手で口元を抑えて感動に打ち震える見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は、覚束ない二足歩行で「だれかきたー」と、ぽてぽて近付いてくるこぱんだの可愛さを目の当たりにして、弾丸を受けたようなうめき声をあげたのち、傍らの蓬平・藍花(彼誰行灯・h06110)に縋るように袖を摘まむ。
「こぱんださん、こぱんださんがかわいいです……。胸が苦しいです……」
「お洋服着てる子もいるねぇ」
 かわいさに身悶える七三子の様子をにこにこ見守りながら、藍花は頭の上に乗っていたこぱんだ妖怪|シャオラン《小蘭》を両手で摑まえ、顔が良く見えるように差し出した。
「この子が、この前話したこぱんださんなのだよ……?」
「はっ、藍花さんちのこぱんださんもかわいい。私は、私はどうしたら……」
 二十センチにも満たない小蘭は両の手のひらですっぽりおさまってしまうミニチュアサイズで、くりくりの瞳がじぃっと見つめてくるだけで動悸が始まるかわいさだ。
「あ」
 すぽん! と藍花の両手からすり抜けてジャンプした小蘭は蒼穹を背にしてくるり一回転。呼び出した筋斗雲に着地すると七三子と藍花の周囲をすいすい飛び回って「きゅう!」と元気にご挨拶。
 こぱんだたちは練習の手を止めて、空を自由自在に飛び回る同族に目をきらきらさせて見惚れている。けれど、ハッと小さく我に返ったならば練習を再開。がんばれば自分もあんなふうに筋斗雲に乗れるようになると思ったらしかった。
 逆立ちするこぱんだの足裏に立ち上がるこぱんだに、鞠のようなボールの上をぽてぽて歩くこぱんだたち。
「すごいです! 不安定な足場にちゃんと乗れてますよ! あなたはとってもじょうずにボールの上を歩けるんですね!」
 ちぃちゃな手足を一生懸命に動かして練習する姿を七三子は全力応援、じょうずに出来たら手を叩いてこれでもかと褒めまくる。
「みんなとってもよくがんばりました! なんてかわいい……尊い……」
 褒められるとこぱんだたちはにこーっと笑って、道具を放ってもふもふわふわふ七三子のそばに寄って来る。一匹一匹その頭を撫でてやっていると、皆の頭上をきゅんと飛んで行く筋斗雲。
 空を仰げば、日輪を背にした小蘭が「恰好良き、この姿を見よ!」というかのように、筋斗雲の上でカンフーの型を始めるものだから、こぱんだたちはきゅんきゅんきゅうきゅう笑ってぽふぽふ拍手。
「小蘭さんもかわいいですねえ。かわいい。えらい」
「玉乗りとかじゃなくていいのかな? でも、これはこれで……?」
 こぱんだたちはすっかり小蘭に夢中。筋斗雲に乗せて乗せてーと小蘭を追っかける。
「あ、こぱんださんたち、お菓子食べますか?」
「きゅっ?」
「きゅん!」
 七三子の言葉に白黒もふもふが団子になって立ち止まる。くるっと振り返るつぶらな瞳が見つけるのは、笹の形をしたクッキーだ。
「きゅーん」
「わわっ、大丈夫ですよ、皆の分ありますからね! ……えへへ、かわいい」
 足元から七三子の身体をよじよじ登り始めたこぱんだたちに七三子の相好はいっそう崩れるというもの。その様子を見守りながら花扇を煽ぐ藍花の周囲には幻想花が散っている。
 袖内に落としていたスティック状のバウムクーヘンを小さく食んで、目口を下げた藍花も、こぱんだたちの輪の中に混じっていって笹型クッキーをポリポリ。
「おいしい……♪」
 おやつを食べてお腹がいっぱいになったら、練習再開。
「みんなすっごく上手。この雑技を披露したら、食鉄大師さんもめろめろですよ」
「きゅんっ!」
 七三子の応援と藍花の見守りがこぱんだたちの自信となったのか「ぼくやれます」とやる気に満ち満ちた白黒もふもふたち。しゃきーんと背筋を伸ばして立ち上がったかと思えば、床几に腰掛けた食鉄大師たちの元へとれっつごー。
 自分を目指してころころ雪崩れ込んでくるこぱんだたちが「見て見てー」と成果をお披露目してくれるのをうれしそうに眺める食鉄大師。その姿を見つけた七三子はすぐさま藍花へ目配せを。
「今です! ものすごく油断中! 行きましょう、藍花さん!」
「うんっ……!」
 しかし藍花より先に「いざ!」と意気揚々飛び出していったのは小蘭だった。七三子の|団結の力《カズノボウリョク》による協調の思念を接続されてスピードを上げた筋斗雲に振り落とされることなく、縦横無尽に乗り回す。かわいらしいこぱんだたちに均等に意識を割いた食鉄大師のほっぺに舞い踊るようなキックが命中するまであと少し――。

ララ・キルシュネーテ
夕星・ツィリ

「どんなに強いひとでも可愛いには弱い……! つまり可愛いは強い!」
 そこにもふもふが合わされば敵なしだねって、夏の陽射しを浴びて眩しいほどに輝く白いスカートをふんわり広げるように振り返った夕星・ツィリ(星想・h08667)の言葉に、ララ・キルシュネーテ(白虹迦楼羅・h00189)はやわらかな眼差しを携えてひとつ頷いた。
「むふふ! その通りよ、ツィリ。可愛いは無敵なの。ララ達の力をみせてあげましょう」
 さっそくツィリは魔法を紡ぎ、陽光を透いて虹色の瞬きを零すシャボン玉のトランポリンを作り出すと、直射日光の当たらぬ少し涼しい木陰にそっと置いてみる。
「ツィリのシャボン玉のトランポリン、とても素敵だわ」
「そうかな……? うれしい!」
「それに、何よりもツィリらしい海神の力を感じるわね」
 飾らない真っ直ぐなララの言葉がうれしくて、相好を崩したツィリの視界の端。もぞりと動く淡い色に気が付いて慌てて振り返ってみたならば、ツィリの瞳の色によく似た水色のこぱんだが、とてとててちてち走って近寄って来るところだった。
 驚かせないように声を潜ませるふたりが見守る中ぴょーんと飛び上がったこぱんだは、シャボン玉トランポリンの上に腹ばいで着地、それから大きく弾んで背筋を伸ばすと片足で着地。そこから空を見上げるように仰向けになって背中で弾んで、くるくる宙返りも混ぜたりして、ぽよんぽよん軽快に飛び跳ねる。
「初めてなのにもうコツを掴んでる」
「すごいアクロバティックなのよ」
 ツィリが拍手すると水色こぱんだが、にこーっととろけたような笑みを浮かべてぽいんと跳ねる。ララに褒められれば照れたように両手でおめめを隠して弾んだり。お茶目な仕草がとっても愛らしい。
 視覚を遮っても発揮される運動神経、見たことがないはずのシャボン玉トランポリンに真っ先に飛びついた好奇心。両方を兼ね備える水色こぱんだは、将来きっと大物になる予感。
「貴方さえ良かったらうちの子になりませんか……!」
「きゅう?」
「美味しいご飯もあります!」
 どうかな? ってどきどきしながら首を傾げるツィリの真似っこをする水色こぱんだは「きゅん!」ツィリに向かって思いっきりジャンプ。
「わっ、あぶないよ!」
 慌ててキャッチすると、胸元からもふんっと顔をあげたこぱんだが、にこにこ笑顔で「よろしくね」ってツィリに頬っぺたを寄せて頬擦りのご挨拶。
「ララもやるわ!」
 感動で言葉を失っているツィリの横顔をうれしそうに見守っていたララは、熱のない迦楼羅焔を膨らませて桜焔のアネモネをひとつふたつと蒼穹に咲かせてゆく。
 まるで花火のようにぽんぽんと満開に花開くアネモネを見つけて「あれなーにー」ところころ走ってきたのは、ふんわり桜色に染まったこぱんだだった。
 未知であるはずの桜焔に怯えることなく、まるでじゃれあうように戯れるぽてぽてもふんとステップを踏むさまは、桜焔をパートナーにダンスをしているみたい。こぱんだが笑えば、なんだか桜焔も微笑うように陽光のなかできらめきをちりばめる。
「大物だわ。この子は踊りタイプなのかもしれない」
 柔軟な身体はぬいぐるみみたいにしなやかで、それでいてのびやかだ。見目はかわいらしいのにどこか気品すら滲ませる桜焔との優雅な共演には、自然と拍手が沸き起こる。
「春を運ぶみたいなとっても素敵なダンス!」
「きゅん!」
 水色こぱんだもぽふぽふ拍手して息ぴったり。
 ララはそんなふたりから桜色こぱんだへと視線を落として、口唇にゆっくり笑みを広げていく。
「いいわ。お前、ララのところにおいで」
「きゅ?」
 ぴたり。片足で立った格好のまま静止したこぱんだが、首を傾げている。
「シュネーと一緒に可愛がってあげる」
 甘く薫る蠱惑の桜を散らした桜彩のくまちゃんを見せてもらい、つぶらな瞳をまぁるくさせたこぱんだはにこっと笑顔。両手をばんざいして、ころころ二足歩行で近付いてきたかと思うと、ララの足にきゅっとハグ。
「ララと同じ桜アネモネを飾ってあげるのよ」
 その素直な愛らしさに双眸をゆるめたララは、髪を彩っていた桜アネモネをひとつ手に取って、その耳元にやさしく添える。
「もっと可愛くなった」
「きゅん!」
「きゅぅー」
 ツィリの元からころころ駆け出した水色こぱんだが、桜色こぱんだの桜アネモネを色んな角度から眺めて「かわいいねー」とにこにこ顔。褒められてうれしいのか、両手で口元を隠して笑うのは、ララが「むふふ」と笑う姿にすこし重なる気がして可愛らしい。
「ふふ。ツィリのこぱんだと組めるわね。一緒に一仕事してきましょう」
「そうだね、最後にえいやってしちゃおう!」
 吹き過ぎる風が葉擦れを零し、境内にいっときの涼しさを棚引かせる。木漏れ日の淡いのなかで手拍子のリズムに合わせて踊る幼子たちを、食鉄大師が慈愛に満ちる穏やかさで静かに見守っている姿にはもう気が付いていた。
 破魔光の桜一華は夏の陽射しになんて負けやしない。桜龍神と迦楼羅天の恩頼を以てその身に降ろした迦楼羅焔、遍く一切衆生を灼き祓う桜禍となりて水面に揺蕩う桜のこぱんだたちに微笑みかける食鉄大師の身を抱く――。

クラウス・イーザリー
システィア・エレノイア

「かわいいね……!」
「こぱんださん、可愛い……!」
 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)とシスティア・エレノイア(幻月・h10223)の言葉は、示し合わせたかのようにぴたりと重なり合う。
 夏の陽射しが降りしきる境内には、灯籠をよじ登ろうとするけれど、おしりが重たくてすぐにぺたんと座り込んでしまうこぱんだや、木の根元に背を預けて笹をはむはむするこぱんだなどでふわふわころころ大賑わい。
 限界化していきなり抱き付いてしまえばきっと怖がらせることだろう。システィアはクラウスに抱き付くことで平静さを保つことに。
 けれど、意外にもその両腕には力が籠っていた。むぎゅ、とほっぺたの形が変わるほど身を寄せられたクラウスだけれど、知った体温に同じように気持ちを落ち着かせようとするくらいには、彼もまたわくわくが止まらない。
 どの子に協力してもらおうか。
 クラウスとシスティアはくっついたまま、あちらこちらで思い思いに遊ぶ――練習するこぱんだたちを一望するけれど、あっちもこっちもかわいいが蔓延していて大変だった。
「あっ」
 システィアの唇から零れた音に気が付いて、クラウスがその視線の先を辿ったとき。身の丈と同じくらいのボールに乗り上がったこぱんだが、顔面からぺちゃりと転ぶところであった。しかしこぱんだはめげずにむくりと起き上がると、えいっとジャンプ。けれど足がボールを蹴っ飛ばしてしまい石畳にまたぺちゃり。
「きゅぅうん……」
 大の字で突っ伏したまま悲し気な声を上げるこぱんだには悪いのだが、それすらもかわいく見えてしまう。どうやらボールに乗りたいけれど出来ない様子。
「小さいのに頑張り屋さんだなあ……」
「俺達でお手伝いして、教主様に見てもらおうか?」
 システィアは後ろからそうっと近付き、こぱんだの脇に手を差し込み持ち上げると、クラウスが転がって行ったボールを拾ってきて足元にセット。
「きゅ?」
 ふしぎそうに目をくりくりさせてふたりを交互に見るこぱんだは、鼻先やほっぺに砂がいっぱい。小さく笑ったクラウスはその砂を手で払ってやると、
「一緒にがんばろ」
 やさしく微笑んだ。
 ボールの上に後ろ足が付く状態まで下ろすと、そのまま手は離さず歩く補助を。どうやら手伝ってくれるのだと理解したらしいこぱんだが、にこにこ笑いながら足を蹴るように突き出してきゅんきゅん笑う。
「それじゃボールが転がっていっちゃうよ」
 転がったボールは、やはりクラウスが拾ってきた。背中やおしりも支えてやって、ボールの上に立つ感覚を覚えさせてから一歩、二歩だけでも歩けるように繰り返し練習を重ねていく。
「ちっちゃいのにこの重さ堪らないなぁ、可愛い」
 目口を下げたシスティアは手のひらから伝わってくるやわらかな毛並みと体温、そしてぬいぐるみには決してないずしりとした重みを実感して、幸福そうに表情を緩ませる。
 うまく立つことが出来れば「じょうずだね」ってクラウスが拍手して、一歩あるくことしか出来なくても彼は「すごいね」って褒めてくれるから、こぱんだはふわふわふくふくうれしそう。失敗してももう泣かず、また一歩足を踏み出して、もっともっと歩けるようになるためにと励んでいって。
「きゅっ!」
 どうやらこぱんだは食鉄大師にもうお披露目したい様子。クラウスとシスティアは目配せして頷き合うと、スッと背筋を伸ばして信者らしい振る舞いに留意しながら床几のほうへと近付いていく。
「おや」
 のんびり茶を啜っていた食鉄大師は、短い両手でボールを抱きかかえてぽてぽて近付いてきたこぱんだを見とめると、目口を下げる。
「一生懸命頑張ってるんですよ」
「そうですか。ではさっそく見せて頂けますか?」
「きゅん!」
 こぱんだは「ひとりでできます」とシスティアに伸ばした片手を突き付けると、ボールへぴょん。はじめは前後にぐらぐら揺れていたけれど、システィアが支えてくれた感触と、歩いていたときの感覚を思い出してボールをころころ転がし歩いていく。
「できていますよ。たいへんよく頑張りましたね」
 もふんもふんと拍手が鳴る。
 クラウスはすっかり気を取られている食鉄大師にそろり接近すると、右手で如来神掌に触れて能力を打ち消して、システィアが袈裟の金具周りを斬り落とすついでに、その凶暴そうな長い爪もぱちん。
 魔力をバールの形に錬成した一振りが、えいっと振り下ろされるのは、三メートルほど玉転がしを成功させてこぱんだがうれしそうにきゅんきゅんぽよんぽよん飛び跳ねるのとほぼ同時だった。

「ねぇクラウス、この子孤児なんだよね……? 家に迎えちゃだめかなぁ……」
 後頭部を叩きつけられて寸の間気絶する食鉄大師を横目に窺いながら、システィアはこぱんだを抱っこしたまま離さない。腕の中のこぱんだは「どうしたの?」と、くりくりの瞳でふたりを見上げてにこにこ笑顔。
「孤児かあ……家族と離れ離れになっちゃったの、きっと寂しいよね」
 黑白蓮教の元に居れば、いずれこのこぱんだも信者の一員となってしまうだろう。まだ真っ白な心を持っている内に引き取ったほうが、将来この子のためにもなるかもしれない。
「お迎え、する? 俺はいいよ。頑張って子育てしようね」
「うんっ。クラウスと一緒ならきっと大丈夫」
「きゅー!」
 新しい家族が出来たことがわかったのか、こぱんだが今日一番の鳴き声をあげた。

篭宮・咲或
鴛海・ラズリ

「ん~正に可愛いは正義。正義は必ず勝つって感じだねぇ」
 あっちへころころ、そっちへぽてぽて。水鏡天満宮の境内は、ふわもふのかわいいで満ち満ちている。眩しい陽光を遮るように額に手のひらを翳した篭宮・咲或(Butterfly effect・h09298)は、こぱんだたちであふれた光景を目の当たりにして口端を緩ませた。
「可愛いものには皆抗えないのです……」
 うっかりまろび出そうになる歓喜の声が、こぱんだたちを驚かせぬようにと両手で口を押える鴛海・ラズリ(✤lapis lazuli✤・h00299)の頭上のお耳が、かわいさに身悶えるたびにぴこぴこ揺れている。
「可愛いに関してはラズリセンセに色々ご教授していただいても?」
「はっ! せんせい……!? 頑張るのよ……!」
 両手をきゅっと握り締めて力強く頷くラズリは、そのまま広げた両手をメガホン代わりに口元に添えて、
「こぱんだちゃん達集合ー!」
 遊んでいた白黒のふわふわたちへ呼びかける。
「んきゅ?」
「きゅん?」
 蒼穹を真っ直ぐに抜けてゆくラズリの呼び声を拾って、黒いおみみがぴくりと揺れた。「だぁれ?」って探すようにきょろきょろするこぱんだたちは、おいでおいでと手招きする咲或とラズリを見つけて、でんぐり返りしながらころころとことこ集まってくる。あっという間に身動きが取れないくらいのこぱんだたちに囲まれるだけでなく、ふわふわのかわいいいのちがじぃっと見つめてくる仕草を前にゆるゆるにほころぶ頬っぺたを抑えるラズリ。
「俺の中の可愛いは小首傾げたり、きゅるんきゅるんの目で見つめたり」
 言いながら、自身が言葉を発するたびに一生懸命首を傾げて――耳を傾けて拾おうとするこぱんだに甘く笑む。
「咲或に同意です……! きゅるきゅるで見つめられたら、イチコロのっくあうとなの」
「ほら、あめちゃん。お手本見せたげて」
 使い魔を呼び出すと、こぱんだたちが「わぁっ」と驚いて、ぽかりと穴を開けるようにスペースを作ってくれた。そこにわたあめをおろしてやると、自分の可愛さの魅せ方をよく知っている使い魔は、てしてしラズリの元へと近付いて、しっとり濡れたつぶらな瞳できゅるるんと上目遣い。すこし首を傾げて口角も上げて見せれば完璧だ。ついでにもふもふの尻尾も揺らしちゃう。
「わたあめちゃんー!」
 自分だけに向けられたファンサービス。きゅんと胸が高鳴って「かわいい」を真っ先に浴びてイチコロのっくあうと。くらり、と身がふらつきよろけたけれど、我に返って木の幹に手を突き身体を支えてなんとか踏ん張った。
「いけない、私が倒れそうに。メロメロで団扇を振っちゃいそう」
 はふんと熱っぽい吐息を漏らしたラズリは、よろけた拍子に視界に映った自身の髪を彩るものを見て名案を思い付いた。
「うちの子とお揃いのリボン着けてもいいかな……?」
「リボンいいの? あめちゃんお洒落好きだからきっと喜ぶ~」
「喜んでくれる? やったー!」
 わたあめはラズリのやさしい指先によって素敵なリボンを添えてもらってごきげんだ。ありがとうって言うように指先をぺろりと舐める。
「白玉も出番なの……!」
 次に呼び出されたのはラズリのまんまるふわふわ白ポメラニアン。もふんとした毛はわたあめにもこぱんだたちにも負けず劣らずの純白で、愛らしくも人懐っこいにこにこ顔でご挨拶。
「はい! ころん!」
 木陰の床几に腰掛ける咲或の膝の上によじよじ登ったかと思えば、仰向けに寝転んで服従のポーズ。ちょっとくねっと体を捩じって無防備を晒すのはいわゆるヘソ天で、全身で甘えたい気持ちを「くうん」と甘い鳴き声で表現する白玉が、撫でてほしいとおねだり攻撃。
「可愛すぎて俺がどうにかなりそう。これに抗える奴絶対いないわ」
 ふわふわのやわらかいお腹の毛が絡まないようにやさしく撫でる咲或の様子を、足元に集まってきたこぱんだがじぃっと見つめている。
「こぱんだちゃんも真似してね。白玉が満足そうなの」
 きっと食鉄大師も喜ぶよって一言沿えると、こぱんだたちはきゅうきゅうやる気に満ち溢れ、白玉の真似をしてその場にころんっ。それからわたあめに小首を傾げる角度を教えてもらい、きゅるきゅるにしたおめめの上目遣いもご指導してもらって可愛さをとことん追求。
 でもちょっぴり飽きてしまったのかこぱんだたちはころころ転がったり、ぽてぽて駆け回ったりして気が付けば追いかけっこが始まっている。でももふもふが追いかけっこしているだけでも十分可愛くって咲或とラズリの目口はやわらかにゆるんだまま。
「食鉄大師も顔がゆるんで見えるの」
 こそこそ耳打ちするラズリに目線だけ寄越した咲或は小さく頷いた。
 ラズリはこぱんだや白玉わたあめたちの愛らしさにすっかり骨抜きな食鉄大師の死角から瑠璃の瞳を宿し蒼焔を纏う大狗をけしかける。その一方で、花香の煙をくゆらせて、思考を奪う花雨のなかでひっそりと妖しく咲或は微笑んでいた。心の中でだけ食鉄大師に同意を示すけれど、きっとこのかわいさの前には誰だってイチコロだろうな、と。

レイラ・ウー

 一切の躊躇いはなかった。
 素知らぬ顔をして信者に紛れたレイラ・ウー(契約至上主義のアウトロー武侠・h12286)は、純真さの塊とも言うべきふわふわのこぱんだ達に手を振って呼び掛ける。
 ころころ集まってきたこぱんだたちと少しでも目線を近付けようとしゃがみ込んだレイラは、厭いて放置されている道具を手に取ると手近のこぱんだに握らせる。
「今日は雑技の練習ネ」
「きゅ?」
 こてんと首を傾げたこぱんだに微笑みかけ、手本を見せてやる。
 細い棒の先に乗っけてくるくる回すのは落ちても割れない皿だった。本当はもっとたくさんの枚数があるのだが、こぱんだにはまだむずかしいから一枚だけ。それから背丈と同じくらいのボールを持ってきて玉乗りを。これにはレイラは乗れぬので、背中やおしりを支えてやって歩く感覚を覚えさせる。
「よくできたヨ」
 失敗しても怒らずに、じょうずに出来れば褒めてやる。
 ふわふわの毛並みを整えるように頭を撫でながら、レイラは自身の心境が大きく変化していることを実感した。
 こんな光景、少し前の自分なら興味も持たなかっただろう。けれど、なぜだかこぱんだたちを見ていると、最近できたばかりの弟子の顔がふっと浮かんできて、無視できなかったのだ。
「……こんなのも悪くないネ」
 ふ、と唇に淡い笑みを乗せたとき。
「きゅうん……」
 動きが鈍いこぱんだが、しゅんとしていることに気が付いた。周りはどんどん出来てゆくから、焦ってしまっているのだろう。焦れば焦るほど上手くいかないことをレイラは良く知っている。
「一服するネ」
 ふわりくゆらせるのは|香籠霧《ガラム》である。深い安らぎを与える甘い香りでこぱんだを包むと、ロボットめいた動きが次第にほぐれてゆく。
「力むと上手くいかないヨ」
「きゅん!」
 ふわぁっと夢見心地の表情をするこぱんだは、ふしぎな力でリラックスさせてくれたレイラにきゅっと抱き付いた。それからにこーっと見上げて笑うのは何だかお礼を言っているみたい。
 境内はレイラの助力の甲斐あってか肩車、前転、お手玉、綱渡りといった雑技を披露するこぱんだたちのかわいさで満ち溢れる。
「その調子ネ」
 どうやらその様子には食鉄大師も気が付いている様子。こぱんだたちは「見て見てー」と食鉄大師に雑技を披露するけれど、ちゃんと出来ているかと思えば転んだりする子もいるので、どうやら意識があっちへこっちへ移ろっているようだった。
 それを好機と見たレイラは一気に踏み込み距離を詰める。
「ここからはワタシの出番だ」
 影門・心意六合拳の構えから放たれた掌底が、かわいさに打ちのめされている食鉄大師の胸に追い打ちをかけるように見えぬ波動となって貫いた――。

野分・風音

「なんてかわいいこぱんだちゃん達……!」
 野分・風音(暴風少女・h00543)は境内に一歩踏み込んだ瞬間、出迎えてくれたふわもふ天国に目を輝かせた。
 仰向けに大の字になっているこぱんだのお腹の上に寝そべるこぱんだや、転がっていくボールをぽてぽて追っかけるこぱんだ。お皿が上手く回せなくてぺちっと顔面でキャッチするこぱんだもいたりして、ずいぶんとにぎやかだ。
「おーい、キミ達! 教主様にお披露目する雑技、こんなのはどうかな? きっと喜んで貰えるよ!」
「きゅ?」「きゅうっ?」
 呼び掛けられたこぱんだたちはぴたりと静止して、それから一斉に振り返る。たくさんのつぶらな瞳が風音に集まって、ぱちぱち瞬き。それから「わーい」と、ふわもふ軍団がてちてち押し寄せてきた。
 風音を囲んで「だぁれ?」「なにするの?」と興味津々のこぱんだたちに教えてあげるのはキュートでラブリーなアイドルダンス。
「わたしの気持ち♪ キミに届きますように~♪」
 なるべくやさしい振りつけで、ゆっくり踊ってポーズと動きを見やすくして。こぱんだたちも思わず踊りたくなるメロディを口遊んで。
「そう、ここの決めポーズはとびっきり可愛く!」
「んきゅ!」
 くね、と腰を曲げて、右手は腰に、左手はお耳の近くでちいちゃなピース。
 フォーメーションもばっちり仕込めば、ふわもここぱんだアイドルの完成だ。雑技より踊るほうが性に合っていたのか飲み込みが早くて、興味を持った他の子たちも集まってくる。
「うん、完璧だよ! きっと教主様もメロメロ……じゃなくて、スゴイって褒めてくださるよ!」
「きゅーう!」
 手拍子でこぱんだたちのリズムを取りながら、風音は竜漿魔眼で食鉄大師の様子を窺ってみる。さすがに両手で数え切れぬほどのこぱんだたちがアイドルダンスを踊るのは予想外だったようだが、即席とはいえ形になっているものだから感心しているふうにしきりに頷いている。ほころんだ口元はかわいさにめろめろの証。
「キャー! こぱんだちゃん達、こっち向いてー!」
 食鉄大師のそばに寄ってそう呼びかけると、黄色い声に反応してこぱんだたちが一斉にターン、食鉄大師を見つけて満面の笑みやウインクのファンサービス。
(……今だ、隙あり!)
 かわいさにゆるゆる拍手する食鉄大師の首裏に風音の蹴りが放たれた。

巫・黒星

(カルトパンダは、こそ悪くて不届き者なのね)
 巫・黒星(鬼面道士・h08880)は床几に腰掛けのんびりとした様子で茶を啜る食鉄大師を盗み見て胸裡で吐息する。その足元や膝の上にはふわもこのこぱんだたちがわらわら集まっていて、内情を知らなければただの微笑ましい光景でしかないけれど。
(可愛らしいコパンダを教え子として先生凄いとか言われてるとか。なんて羨ま……けしからんの)
 だからここは、真なる功夫を研鑽せし黒星が指導者として太極拳の套路をこぱんだ達と披露してみせよう。
 信者に紛れ込むなぞ黒星にとっては朝飯前である。雑技を練習する様子を窺うふりをしてこぱんだたちに近付くと、ぬいぐるみと見紛うほどの愛らしいこぱんだたちがつぶらな瞳で黒星を見上げて、こてんと首を傾げている。
「太極拳はわかる? 一緒にやってみるの」
「きゅぅん……」
「多少の失敗は気にしないの。考えるな、感じろの精神なのね」
「んきゅ?」
 言うよりもやって見せる方が早いかと、黒星は先ず抱拳礼を取ってから足を開いて起勢。息を吐くときにすこししゃがみ、両手で見えぬボールを抱えるように開いて足をゆっくりと踏み出し、腕をゆるり分け開いていく。空気をなぞるように、大気を混ぜるように腕を開いては、大地からゆっくり踵を持ち上げ爪先を上げてまた開く。
 こぱんだたちが覚えやすいように、わかりやすく簡化の套路を披露する黒星は、今さら己の動きを考えるまでもなかった。きっと余所事が頭の中を占めていても身体に染み込んだ太極拳は完璧にやり遂げるだろう。
「太極連環掌の神髄が此なの」
 かっこいい姿を見せてもらったこぱんだたちは尊敬の眼差しで黒星を見上げたあと「ぼくも」「わたしも」と言わんばかりに後ろ足で立ち上がり、黒星の真似っこをする。
 でも、足が短いからバランスを取るのがむずかしくて、ちょっと片足になるだけでぐわんぐわん揺れてしまう。中にはボールみたいにころころ転がって隣の子にぶつかる子も出てしまって、わちゃわちゃもふもふ賑やかだ。
(ちんまいコパンダ達が真似するとコロコロ転んで可愛らしさ倍増なの)
 でもその失敗がどうやら食鉄大師の目に留まったらしい。何をしてもかわいいこぱんだが一生懸命真似っこをする姿と、ころもふとぶつかりあってぺちゃんと座り込む背中の愛らしいこと。
(カルトパンダがメロメロになってきたの)
 横目でその隙を見つけた黒星は、自身が近付いてもこちらにまで意識を割けぬ食鉄大師の背後から、つい流れと勢いに任せて発勁を叩き込む。うぐ、と漏れた言葉はかわいさに打ちのめされたのか、脳天へ走る力の伝達と発揮ゆえにか。姿を視認される前に信者に紛れて消えて行った黒星には与り知らぬことである。

ラビエル・ロゼブランシュ
ライラ・カメリア

 すこし痛いくらいの夏の陽射しを物ともせず、ふわふわころころ境内を気ままに転がったり、とてちて友達と追いかけっこするのは白黒のふわもここぱんだたち。
 かわいいふわふわに会えると聞いてライラ・カメリア(白椿・h06574)は高揚に背中を押されるようにして水鏡天満宮へとやってきた。ひとりでこぱんだのかわいいを味わうのも何だか勿体なくて出不精の兄を誘ってみたのだが、今にもスキップしそうな表情でそそくさ支度するのがなんだかおかしかった。
「まあ、なんて可愛いのかしら! 今日はたくさん一緒に遊びましょうね」
「きゅう?」
 ころころころ、と足元に転がってきたボールを拾ってあげると、こぱんだたちは「だれかきたー」「あそんでー」とでも言うかのようにライラの周りにぽてぽて駆け寄ってくる。
 ほんの一瞬目を離した隙にふわもふの天国に包まれる妹を羨ましく――驚いて見ているラビエル・ロゼブランシュ(白薔薇・h07908)は、きゅっと唇を引き結ぶ。
「……なるほど」
 どうやら遊んでいる子ばかりではないようで、こぱんだの上に逆立ちするこぱんだが居たり、ボールの上に仰向けに寝そべってお皿を回している子が居たりと雑技を練習している子もいる様子。
「上手だね」
 食鉄大師へお披露目しようと、ちいちゃい体で一生懸命な様子を目にしてしまうと、目頭がきゅっとするような心地がしてラビエルは眉間をつまむ。
 視界の端でこぱんだに紛れた妹が一緒にころころ転がったり、くるんと回ったりして雑技に混じっているような気がしたが今は何も言うまい。これも全てこぱんだたちのかわいさを追及、研鑽するためなのだから。
 こぱんだと目線を近くするようにしゃがみこんだラビエルは、つとめて微笑を湛えながら一匹一匹の成果をやさしく褒めてゆく。

「……おや、君はもう一度やりたいのかい?」
「きゅ!」
 ちょびっとだけうまく出来なかったから、もう一度挑戦したいといった様子で大きなボールを両手に抱えたこぱんだが「ん!」と差し出してくる。そのボールを石畳に置いて小さな手を取ると、転ばないように支えてやりながら乗るのを手伝った。
 腰が引けてぷるぷる震えていたけれど、おしりを支えてもらったこぱんだはしゃきっと背筋を伸ばしてえーいところころ。そのまま「できたよー」「見て見てー」と食鉄大師の元へと嬉しそうに転がって行った。
「すごいわ! みんなとっても上手!」
 ぱちぱち拍手と共にかけられるライラの言葉に、こぱんだたちは「ほめられたー」と嬉しそう。人間たちのことを気にもせず、あっちへこっちへ縦横無尽に動き回るふわもふたちだけれど、ぼくも褒めてーってライラとラビエルの前に行列ができてしまうくらいにはどうやら羨ましかった様子。
「
お兄様、この子も見て!」
 ちっちゃな鼻でバランスを取っているのは細い棒、その上に乗せたお皿をくるくる回すこぱんだをライラが紹介すると、ラビエルはその器用さに瞬きながらも言葉は惜しまず賞賛を。飽きてお皿のふちで転がるようにえいやっとし始めても好きに遊ばせることにして静かに見守り続けた。かわいさは強制されて表れるものではなく、自然とまろびでるものだ。
(……実に可愛い)
 うっかり言葉にしてないかと口を押さえたラビエルは、しかしこぱんだたちと手を取り合って踊る楽しそうなライラがこちらを振り向きもしないので、どうやら胸裡に留めることが出来たことを窺い知る。
「きゅぅーう!」
「きゅんっ!」
 一緒に遊んでくれるのが嬉しくって、こぱんだたちから笑い声みたいな鳴き声が溢れて止まらない。
 きゅうきゅうきゅんきゅん鳴くたびに、小さな足音も、ころころ転がる姿も、あちらこちらから膨らむ絶え間ない賑やかさにひとつずつ喜びの花を添えてゆくようだ。床几に腰掛けたままの食鉄大師はどうやら自分たちの存在に意識を割いてまで未来を追いかけられぬ様子だった。無理もない、これほどの数のかわいいが目の前に押し寄せてきたならば警戒心も薄れると言うもの。
(ふふっ、可愛いが溢れていたら、予知だってきっと追いつけないわ!)
 それはこぱんだと共に遊んでいるライラだって気が付いている。
 ひっそりと囁く祈りに呼応して舞う花弁を周囲に散らしながら隙を窺っていたならば。

「ライラ、もう一匹こちらへ。……ああ、君もおいで」
 ラビエルがそっと呼びかけてきた。
「はぁい」
 ぺたんと座り込んでいるこぱんだを抱き上げて兄の元へと近付くと、当の本人は自身の袖をきゅっと摘まんでいるこぱんだとじぃっと見つめ合っている。
「んきゅ」
 わずかに首を傾げてくりくりのつぶらな瞳でじぃっと見つめるこぱんだは、他の子よりもちょっとちいさくて。だからだろうか、胸の奥が騒いだ気がするのは。
「一匹くらいなら、お迎えしても構わないだろうか……」
「まぁ! いいと思うわお兄様! これも何かのご縁ですもの」
 慌てて唇を引き結んだラビエルであったけれど、ライラが抱っこしているこぱんだと肉球を重ね合わせてにぎにぎし合っているこぱんだを見ているとやっぱり落ち着かない気持ちになるものだから。
「君……うちにくるかい?」
「きゅっ!」
 心は決まった。
 ならばあとはやることはひとつだけ。
 かわいさにめろめろになっている食鉄大師へとライラの花弁も攫って氷雪の吹雪をお見舞いしよう。この子のために何かと入用になるのだから、こうしちゃあいられなかった。
「お兄様ったら。ひとつ決めたら真っ直ぐよねぇ。ねー?」
「きゅー?」

神隠祇・境華
シンシア・ウォーカー

「境華さん、ここはお互い別々にこぱんだに技を仕込みましょう。動きのバリエーションが増えればそれだけ食鉄大師の未来視にも負荷をかけられますからね」
 シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)の呼びかけに、神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)は一も二もなく頷いた。
 水鏡天満宮はふわもこのかわいいで溢れている。右を見ても左を見ても、下を見ても上を見てもあらゆるところにこぱんだが居て、視界に映さない方がむずかしい。
「さあこぱんだ達、カンフーの練習ですよっ!」
 シンシアが近くにいたこぱんだにそう呼び掛けるのを見て「がんばってください」と心の中で声援を送った境華は、すこし境内をうろうろ歩き回ってから、木陰でのんびりボールの上に腹ばいになって揺れている子たちの元へと近付いていく。
 まずは今できる動きを見せてもらおうと思って呼びかけると、こぱんだたちは「きゅ?」と可愛らしい鳴き声を上げて、ぽてぽて境華の元に集まってきた。
 この子たちはボールの扱いがとっても上手なようだから、他のことは仕込まずにこれを一点に集中して鍛えたほうがいいだろう。境華は手をついて一礼をはじめに教えてあげる。
 小さな玉を受け取って、落とさないように丁寧に運んだならば、小さな台の上へと積み重ねてゆく。それから、最後はくるりと前転。もう一度ぺこり。
 一連の動きを手本として見せてやると、こぱんだたちからぽすぽす気が抜けるような拍手が沸き起こる。それがちょっとくすぐったくって、唇をきゅうっと引き結ぶ境華は、眦がちょっと熱い気がするのを知らんふり。こぱんだの手を取って、あなたの番ですよってさっそく練習を。
「そうです、上手ですよ。……今のはすこし、間違えちゃいましたね。でも大丈夫です、もう一度やってみましょう」
 順番を間違えても決して怒らず、やさしく寄り添うように言葉を添えて。一緒に実践しながら体にゆっくり染み込むように繰り返し練習を。
 こんがらがってしまったのか、しきりに首を傾げる姿さえ可愛くって、境華は笑ってしまわないように唇を必死に結ぶ。失敗を笑っていると受け取られてしまうかもしれないから。
「……はい。とても上手にできましたね」
「んきゅー!」
「わっ……」
 褒められたこぱんだたちは、一斉に境華のもとへとふわふわころころ集まってきて「ありがとー」って言うように抱き付いてくる。やさしい温度のいのちを感じながら、小さな頭を一匹ずつやさしく撫でて。
 ふとシンシアのほうを振り返ると、こちらのこぱんだたちとは違って一つ一つの動作がきりりと鋭く、俊敏な動きをしている子ばかりで目を瞠る。
「まず手をこうしっかり拳にして直立します」
 握り締めた拳をこぱんだたちにぐっと見せつける。
「きゅ!」
 それから足を大きく肩幅に広げて構えを取る。
「動きはキビキビ……こう」
「きゅ!」
 そこから足を滑らせるようにさらに広げ、上体を落として前後に両腕を広げたならば南拳の型を。
「からのこう!」
「きゅきゅっ!」
 繰り出した発勁によって、目の前の空気がきゅんっと鳴った。
「あいやー!」
「きゅんいー!」
 シンシアの動きに遅れを取ることなく真似っこするこぱんだたちは、きりりとした表情だけれどずいぶんと楽しそう。
「動きにも思い切りがありますね」
「きゅぅーん」
 境華の言葉に頷くような返事がこぱんだからやってきて、思わずその額を撫でてやる。お披露目のために一生懸命な姿は眩しいものだ。しばらく声はかけずに目を眇めながら見守った。
「日々の練習の成果を見せましょう、片足だけでも十分にバランスをとれるはずです!」
「きゅん!」
「あと胸をはる。ドヤ顔、だいじです! 多少失敗しても何食わぬ顔でいれば大抵は誤魔化せます」
「きゅっ……きゅぅ……?」
「あっ、なんですかその目は! 大丈夫です! 信じてください!」
「んきゅぅ」
「ふふ。シンシアさんは、相手をその気にさせるのがお上手です。教え方にも、随分とその方らしさが出るものなのですね」
 だって自分と練習したこぱんだたちとは佇まいも表情も仕草もぜんぶ変わってしまったのだから。まるで別々の幼稚園で育ったみたい。
「境華さんのこぱんだ達は……わあ芸が達者! 複雑な動作もしっかりこなせていてすごいです、あと可愛い」
 シンシアの姿を見つけて「みてみてー」ってお披露目する姿だって、もちろんこぱんだの愛嬌がたっぷり詰まっている。境華と一緒に練習した成果を惜しみなく発揮できるのはにこにこやさしそうなシンシアだからこそだろう。そして境華がゆっくりと焦らせることなくじっくり付き合ってくれたおかげ。
「教え方にも性格が出るものですねえ」
 今しがた境華が感じていたことと同じことをシンシアも口にするものだから、なんだかこそばゆくって境華はそわそわ。
「では、食鉄大師に披露をして予知を乱しましょう」
「ふふん、見せにいきましょうか!」
 うちの子たちがいちばん! って意気込みながらいざ、ゆるゆる茶をしばく食鉄大師の元へとれっつごー。
 その背後からにじり寄る霊布は食鉄大師を床几に縛り付けて、突き付けるだろう。自分たちが仕込んだたっぷりのかわいいを。これまでかわいいをたくさん浴びてきただろうけれど、まだまだかわいいは続くのだ。

雨夜・氷月
夜鷹・芥

「芥、みてみてこぱんだいっぱい!」
「ああ、すこぶる愛らしい」
 雨夜・氷月(壊月・h00493)と夜鷹・芥(stray・h00864)を出迎えたのは、ふわふわもふっとしたころころこぱんだたち。夏の陽射しがどれほど熱いのかなんて忘れてしまうくらいの可愛さは、ふたりがまとう気配をうんとやわらかにほぐしてしまう。
「更にめろこぱんだにしてあげないと」
「もう既に何もせずとも存在してるだけで充分だが。……もっと、メロメロに、か?」
 芥の言葉ににやっとした笑みをひとつ残して、氷月はこぱんだ達の元へとずんずん近付いていく。
 にんまり笑顔の妖しいお兄さんがやってきても、こぱんだたちは「だぁれ?」って首を傾げて「あそんでくれる?」「くれるかも!」わらわらころころ集まって。
 一瞬で足の踏み場もないくらいのこぱんだ軍団に囲まれてしまった氷月は、
「もっと凄い技を身に付けたくない?」
 およそ小さな子に囁くには魅惑過ぎる言葉でそっと誘惑を。
「きゅぅ……?」
「だーいじょうぶ、こわくないよー」
 ちいさな両手を握って左右に大きくぶんぶん振ると、こぱんだが楽しそうにきゅんきゅん鳴く。
「さーて、どんなことさせよっかなー」
 もふもふしながら悩む氷月を横目に境内をぐるりと一望していた芥は、ご神木の根元で日影に涼んで垂れるこぱんだたちを見つけて、そろりと近付いた。
 蒼穹に伸びゆく枝葉を透いた幾何学模様の木漏れ日がこぱんだの白い毛並みをきらきらと輝かせている。その背中をやさしく撫ぜると、くあーっと大きく口を開けてあくびがひとつ。
「魅了する愛嬌や手練手管は氷月の方が詳しそうだしな……」
 すると、芥が撫でていたこぱんだがとつぜんむくりと起き出した。手を離すと、もちもち丸まりながら前へところりん。それからテディベアみたいに足を前に伸ばした状態でぺたんと座り込む。首だけで振り返ったこぱんだは、にへーとふわふわの笑みで芥を仰ぐ。「見てた?」って言ってるみたい。
「……もう一回」
「んきゅ」
 こぱんだは再びころりんとして芥の元に戻ってくる。今度は足元からにこにこ見上げてきて「どう?」って明確に小首を傾げて、芥の服を引っ張るものだからたまらない。
「……氷月、コレでは?」
「なーにー」
 こぱんだの脇の下に両手を突っ込み、新種の生物見つけたりと言わんばかりに氷月の元へと駆けこむ芥。まだ悩んでいた氷月は、目の前にちょこんと座らされたこぱんだと目線を等しくするようにしゃがみ込む。
「さっきの、できるか?」
「んきゅ!」
 できますとも。こぱんだはしっかりと頷いてから、氷月に向かってころりん。重たいおしりが石畳にぺちゃりとついて後ろ足を投げ出すように座った格好で、にぱーと笑う。
「わーイイじゃん!」
「他に何かできそうな転がり方あるだろうか」
 顎下に手を添えて考えるポーズ。こぱんだたちも真似している。
 閃いたのは氷月だった。
「なら俺たちはこうだ!」
 こぱんだを側転させるように体をすこし倒したならば、大地に踏ん張る足を支えるように持ち上げてやる。短い両手でぷるぷる自重を支えて、もうだめですと言わんばかりにころ――こてん。
「あはは、まだ体支えられないか。でもコレも味だよね」
「ぷきゅ!」
 でもちょっとだけ出来た! 見ていましたか? こぱんだはきらきらのおめめでふたりを仰ぐ。
「おー側転……ふ、ちょっと拙い感じのが良いと思う」
 拙いの言葉の意味が分からないものだから、こぱんだは褒められたーときゅんきゅん笑っている。
「あまりの可愛さに連れて帰りそうだが、すでにうちにはパンダがいてな……」
 この世の終わりかのように歯噛みする芥の手は、しっかりとこぱんだのちいちゃな手を握り締めていた。ついでに人差し指で肉球を確かめる。まだぷにぷにやわらかい。
「芥ってこういう可愛いコ好きだよね」
 氷月はこれまでの芥の様子を振り返ろうとして、ふと振り返れるほど思い出が重なっていることに気が付いた。なんだかちょっと座りが悪くてそわりとしつつもこぱんだのほっぺをもちもち。
 手が勝手にそのままこぱんだを攫――抱っこ。断腸の思いでぎゅうっと包まれるこぱんだは、しっとり濡れたつぶらな瞳で「どうしたのー?」芥の頭をぽんぽん撫でる。
「氷月のところで飼えないか?」
「俺のトコ? うーん。居候なのに既に猫連れ帰っちゃったしなあ。アンタの上司におねだりできない?」
「俺の上司も此れ以上は怒られそう」
「きゅぅん……」
「くっ……その目はやめてくれ」
 何やら悲しい気配を察知したのか、こぱんだがきゅるきゅるうるうるの瞳で芥をじぃっと見つめてくる。その視線から逃れるように俯いた芥は、しかし決意。
「……一緒におねだりしてくれんなら」
「一緒に? するする」
 氷月の二つ返事にこれほど安堵したことがあっただろうか。
 ほう、と肩の力をほどけさせた芥は、けじめとして最後の挨拶をさせなくてはと、こぱんだをそろり石畳に降ろしてやる。
「さあ披露の時間だ。俺達の|芸《奇襲》も見せちゃお」
「食鉄大師もこぱんだから目を離せないだろ」
 自分に見せるために雑技を練習している。それだけで打ちのめされるかわいさがあるのだから、ここに動きを伴う最大級のかわいいを大勢ぶつければ食鉄大師の予知も追いつかなくなるに違いない。
 昼|日中《ひなか》には決して目に移せぬ月光を帯びた銀片を手のひらに隠した氷月は、夏の濃い陽射しが作り出す影に紛れさせた黒焔が牙剥く瞬間を狙って地を蹴った。
 まだ別れをよく知らないこぱんだが、にこにこ笑ってころりんを披露するのを、芥はどこか眩しそうに見つめている。

ヴォルフガング・ローゼンクロイツ
エレクトラ・テスタロッサ

 中天から日が傾き始めたころ、水鏡天満宮に辿り着いたヴォルフガング・ローゼンクロイツ(螺旋の錬金術師『万物廻天』・h02692)とエレクトラ・テスタロッサ(赫霆の薔薇『神魂合一』・h03015)のふたりは、境内に足を踏み入れた瞬間に出迎えてくれたふわふわもこもこのこぱんだたちに揃って目口を綻ばせた。
「ほわわわわー。トラちゃん、こぱんだ達がたくさんいるぞ。ヴォル太も遊ぼっと」
 そう言って、こぱんだに紛れてぽてぽて歩くのは階梯一のもふもふヴォルフガングである。四十センチほど縮んだ上に精神年齢も十二歳ほどに低下しているゆえにか普段のヴォルフガングより纏う空気はふわほわだ。
「ヴォルフ、今はヴォル太? なんでまたちっこくなってるのよ?」
 そうは言いつつも小さなふわもこヴォル太はかわいいので、エレクトラはとりあえずふわふわの頭をやさしく撫でることにした。
「ふむふむ。お前達も出てこーい。ミニヴォル太隊、集合!」
 掛け声に呼応したのは|九識狼玩《ノイン・ヴォルフ・シュピール》によって錬成されたヴォル太を模す分身たち。今日のミニヴォル太隊は宴会、曲芸騎乗、パフォーマンスに特化しており、こぱんだたちの前でサーカスのようなショーを開催すると興味を持ったこぱんだたちがもっと近くで見ようところころ転がったり、ぽてぽて歩いて近付いてくる。
 なかには遊んでもらえると思ったのかヴォル太の足元に抱き付いてよじ登ろうとする子もいて、ふわふわにもこもこがじゃれついていて何とも平和的な景色である。
「和むぐらい可愛いわね」
 ミニヴォル太たちと一緒にこぱんだと追いかけっこして遊ぶヴォル太を眺めていたエレクトラは、少し離れた場所から食鉄大師が静かに見守っている姿を見つけて、小さく吐息した。ただ弱きものを護りたいだけの存在であればどれほど良かったか。
 ――それにしても。
「かわいいわねぇ」
 ヴォル太のあとを一生懸命追いかけるぬいぐるみみたいなこぱんだたち。時々立ち止まってはふはふ呼吸を整えたり、見守っているエレクトラに気が付くとにぱーと笑って小さな手をふりふりしたりとどの子もとってもかわいらしい。
「絶対にお世話するし|夫《ヴォルフ》の実家が魔導玩具店だから、こぱんだちゃんの環境にもいいと思うし。お迎えできないかしら?」
 想像するとこぱんだの居る生活はとっても楽しそうで、考えれば考えるほど心がそわそわしてきてしまうエレクトラ。ちょうどその時、遊び疲れたのか木陰の下でぺちゃと座り込んだこぱんだが居て、エレクトラと目が合うと「だっこして」って言ってるみたいに両手を上げるものだから心が固まった。
 伸ばされた手をそっと握り込みながら、エレクトラは膝を折って目線を低くする。
「ねえ、私達と一緒に来ない?」
「きゅう?」
 小さく首を傾げてエレクトラをじぃっと見つめるつぶらな瞳。けれど次いだのはにぱーと朗らかな笑みだった。他の子よりも少し体が小さい女の子こぱんだは重たいおしりをよいしょを持ち上げるとに二足歩行でとてとて歩いてエレクトラのお膝の上に両手を添えるようにして見上げてくる。
「うれしい! よろしくね」
「きゅ!」
 脇の下に両手を差し込み胸に抱き上げると、こぱんだが嬉しそうに頬擦りする。ヴォル太たちがやってきたのは、ちょうどその時だった。
「トラちゃん、お友達が増えたぞ! お友達が、雑技をお披露目するんだって! 凄いよね」
 ミニヴォル太たちの後ろをころころついてくるこぱんだたちと、腕の中のこぱんだに交互に視線をくべたエレクトラは眉を下げる。
「今回はあまり戦いたくないのよね。こぱんだちゃんの手前もあるし……雑技の一環みたいな感じで穏便にできないかしら?」
「きゅぅ?」
 あちらこちらに溢れるこぱんだたちがミニヴォル太たちと雑技の練習を始めたのを見て、今ならば紛れ込むことが出来るかもしれないと思い、エレクトラは穿ち返す絆の導線――電漿鏡界をヴォル太とミニヴォル太たちに繋いでゆく。これで万が一攻撃が飛んできても大丈夫。
 上手く出来て自信が付いたのか「みてみてー」と食鉄大師の元へと駆けこんでゆくこぱんだたちに紛れて接近すると、ふわもこのかわいいたちに囲まれた食鉄大師は相好を崩したまま。どうやら予知を拾いきれていないらしいことを窺い知る。
 警戒するエレクトラの一方、星詠みから貰ったスティック状のバウムクーヘンをカリポリ食べながらヴォル太はこぱんだ達を応援中。美味しそうなものを食べていることに気が付いたこぱんだが「ちょーだい」って手を伸ばすので、小さく折ったそれを一口やりながら、ヴォル太はこぱんだの前にしゃがみこみ。
「仲良くなったのにお別れは寂しいなあ。こぱんだちゃん、名前なんていうの? 一緒に来ない?」
「んきゅ!」
 残念ながら名前は分からなかったけれど、バウムクーヘンを食べ終えて「わーい」って言うように両手を広げたこぱんだは、ヴォル太の元へとぽてぽて近付いてぎゅっとハグ。新しい家族が増えた瞬間だった。

架間・透空
鳴神・カノン

「……な」
 ころころ、もふん。
 ふわふわ、ぽすん。
 きらきら眩しい夏の陽射しが降り注ぐ水鏡天満宮の境内には、ちいさなふわもこのこぱんだ達であふれている。玉乗りをしている子、灯籠に抱き付いている子、寝そべっている子の上に寝そべっているこぱんだタワーなど、どこを見てもこぱんだたちでいっぱいだ。
「なんて可愛らしいこぱんださん達なんでしょう! クッ……思わず私もメロンメロンにさせられちゃいそうです!」
 架間・透空(天駆翔姫・h07138)は指を手のひらに折り込んで、気持ちを堪えるようにぐぐっと握り締めている。
「あら、とっても可愛いこぱんださんたちね?」
 そんな透空の様子に唇に淡く笑みを刷いた鳴神・カノン(覆面歌姫Canon・h09154)は、顔を半分も覆ってしまう仮面のせいで表情の全容は窺えないのだが、こぱんだたちの可愛さには透空と同じくらいとってもにっこり。
「ラジオではこのふわふわぽてぽて具合が上手くお伝え出来ないのが悔しいわ……」
 後ろ足で立ち上がり、重たいおしりにふらふらしながらもぽてぽて歩いてくるこぱんだを、しゃがみこんで迎えたカノンは、転びそうになったところを両手でキャッチ。
「私、この際にラジオジョッキーに加えて動画配信も始めようかしら?」
「んきゅ?」
「このかわいさ、きっと世界中を虜にするわよ」
 おててを繋いでもらってにこにこしているこぱんだとカノンをじぃっと見ていた透空はふと閃いた。
「かくなる上は……アイドルとして、こっちからこぱんださんをメロメロにするしかっ!」
「きゅ?」
「カノンさんも、是非是非ご協力いただけませんかっ!」
 ずずいっと顔を近付けてきた透空に、数瞬の間を置いたカノンはコホンと咳払いをひとつ零すと、こぱんだを抱っこしながらゆっくり立ち上がる。
「ええ、透空さん。私たちのタッグもなかなかに魅力的よ? こぱんださんたちをメロンメロンにして差し上げましょう!」
 即席のステージを設置して小さなライブ会場を作り上げた透空とカノンは、こぱんだたちをせっせと運んできて日影に座らせる。
 透空の主旋律は元気で伸びがあり、つぶらな瞳たちを一心に見つめながら奏でられる歌声はメリハリが効いて感情豊かだ。一節一節に込められた想いが耳に滑り込んでくるたびに心を震わせる。
 そこにカノンの美しいハーモニーが重なり響くと、座っていられないとばかりに立ち上がったこぱんだたちがぽすぽす拍手、一緒にきゅんきゅん歌って、ぽてぽて体を揺らしてステップを踏んで、どの子も皆ひとしくかわいいリアクションに食鉄大師の心はほろほろに緩んでゆく。
「どう、こぱんださんたち?美しい旋律であなたの心も溶かしてあ・げ・る♡」
「んきゅー!」
 透空とカノンはそろりと目配せ。
 自分たちの歌でこぱんだが可愛くメロンメロン、そしてそんな反応を見ている食鉄大師がメロンメロンになっているのがパフォーマンスをしている最中であってもしっかり確認できたから。
 さぁ次に舞台に立つのはこぱんだたちの番。
 透空とカノンが歌を続けながらも左右に退くと、ちっちゃな体を揺らしてきゅんきゅん歌って踊るこぱんだたち。すっかり気を取られている食鉄大師の隙を衝くように、旋律は決して変えずに歌い続けながら透空は決戦気象兵器を軌道。太陽を背にした眩さの中からレーザー射撃。
 軌道に重なるのは一気に間合いを詰めてゆくカノンのブレイキング・ブースト。混じり合うように絡み合ったそのふたつは一筋の光となって、可愛さに心を打ち砕かれている食鉄大師を背後から貫いた――。

ベルナデッタ・ドラクロワ
廻里・りり
廻里・ぱふぇ

 傾いた陽射しはわずかばかりに熱さを増して水鏡天満宮の境内に降り注ぐ。幾何学模様の木漏れ日はそんな夏の気配から逃れようとするこぱんだたちでふわふわぎゅうぎゅう押し合いへし合い。
 そんな様子すら慈愛の眼差しで見守っている食鉄大師を木の幹から半分だけ顔を出して窺うのは廻里・りり(綴・h01760)とベルナデッタ・ドラクロワ(今際無きもの・h03161)、そしてぼくもまけてはいませんよと言わんばかりに真白の毛並みを膨らませて得意気な廻里・ぱふぇ(かわいいばんけん・h13419)のふたりと一匹だった。
「ぱんださんにいたいことするの、ちょこっとなやんじゃいますが……これはおしごと!」
「ええ、お仕事だものね、切り替えて頑張りましょ」
「わふ!」
 そう、仕事ならば仕方ありません。「ぼくもがんばります!」と気概たっぷりのひと鳴きは、しかして木陰で涼むこぱんだたちの気を引いたようだった。ふわふわぽてぽて、ころりんとそばに近付いてきたこぱんだたちに挨拶しようと、りりの腕の中からもふんとすり抜けたぱふぇは、しゅた、と石畳に着地。
『あらたなおともだちのよかんです。どうぞよろしくおねがいしますこぱんださん!』
『だぁれー?』
『ゆめいろにひかってるー』
『すごぉい』
 きゅんきゅんきゅうきゅう、わふわふわふん。ぱふぇとこぱんだたちは言葉が通じているのかもふもふ団子になってなんだか楽しそう。
「こんにちは、こぱんださん! おてつだいをお願いしますっ」
 りりがこぱんだたちに挨拶をしている横で、ベルナデッタは食鉄大師の隙を逃さぬために疑似感覚を硝子の瞳に集中させ、瞬きや呼吸のリズムすら捉えて離さない。
「きゅん!」
 可愛らしい鳴き声が聞こえて視線を落とすと、今度はりりの足元にふわもこのこぱんだたちがぎゅうぎゅうに集まっていて、一歩も足を踏み出せない状態に喜びと困惑の狭間に居るりりが唇をもごもご結んでいる。
「こほん。……水流星をやってみたいです!」
 中国雑技のひとつ、水流星。
 それは紐の両端に水を入れた器を繋ぎ、ぐるぐると旋回させる技。りりは開けた場所に移動すると、とぷとぷ器に水を注いで――回す。
 ぐるんぐるんと一回、二回。思いがけずうまく出来てりりの瞳がきらきら光る。
「お水がこぼれな……」
 ――ぱちゃんっ!
『りりったらビショビショです!』
『だいじょうぶー?』
 りりは濡れることに敏感だから、嫌な予感がしてすぐに庇った身体は被害を免れた。でもお洋服がしっとりしてしまってしょぼぼんと耳を伏せる。
「……ベルちゃんお手本どうぞ」
「わかったわ。はい、これで拭きなさいな。これだけ暑いとすぐに乾くわ、きっと」
 りりは道具を、ベルナデッタはハンカチを渡して入れ替わる。
「水流星……ふたつの器に、上手く遠心力を伝えたらいいのね」
 器の重さを手のひらに感じながら少しの間シミュレーションをしていたベルナデッタは、すこし足を開くとふたつの器に均等に遠心力が伝わるように一切のためらいを見せず大きく振り回す。ひゅんひゅんと風切る器からは一滴の雫すら落ちてこず、名の通り星が流れるような美しさが見る者の目を楽しませる。
「こんな感じ。うまくいったかしら?」
「わぁ! さすがベルちゃん!」
 りりがぱちぱち拍手すると、こぱんだたちからもぽすぽすと気の抜けるような拍手が湧き立った。
『ベルはこういうのとくいですか? もしかして、こっそり、れんしゅうしましたか?』
『れんしゅう、えらいのー』
『ぼくもするー』
 楽しそうに見えたのか、こぱんだたちがとてちて駆け寄ってきて「かしてかして」と両手を突き出してくる。まるで抱っこ待ちをしているみたいでかわいらしい。
『おまちください。ちいさきもののだいひょうとして、まずはぼくが!』
『わーい。だいひょうがんばれー』
『ならうより、おべんきょう。いきます!』
『いけいけー』
 紐を咥えたぱふぇは、ぶぉんと首を下から上に巡らせてダイナミックに器を振り回す。器は放物線を描いて蒼穹から降りしきる陽射しの下、それはそれはたいそう派手に水をぶちまけた。
『うわあっ』
『だいひょうが、おばけになっちゃった!』
 片方の器からは水が真っ逆さまにぱふぇへと落ち、頭以外をびしょ濡れにしてふわふわ綿あめボディをぺちゃんこスマートボディに。もう片方は紐が長すぎて地面にぶつかった拍子にりりに一直線。
 星を摑まえるのはまだまだ先になりそう。でもこれはのびしろだから未来あるぱふぇはへこたれない。
「ぱふぇちゃんは……おなかまですねっ」
 のびしろたっぷり仲間のりりを見上げて「おそろいです!」わふんと鳴いて、ぱふぇは咥えていた道具をこぱんだへバトンタッチ。みんなの様子をしっかりと目にしていたそのこぱんだは、えーいと短い腕を一生懸命振り回し、なんと危なげなく技を成功。
「こぱんださんもおじょうず!」
 りりがめいっぱい拍手してたくさん褒めると、こぱんだがうれしそうに、でもちょっぴり恥ずかしそうににこーと笑う。
「まあ、二人ともそんなに濡れてしまって……」
 頬に手のひらを当てて吐息するベルナデッタの言葉に現実を思い出したりりとぱふぇは揃ってしゅんとする。
「乾かすのを手伝ってくれて? こぱんださん」
「んきゅ!」
 ててーっと走って行ったこぱんだは頭の上に畳んだタオルを何枚か重ねて戻ってきた。タオルの端を掴んで皆で広げると、そのままりりとぱふぇをそれぞれぎゅっ!
「わぁっ、くすぐったいです。ありがとうございます」
「わふん! わふふふふ」
「もう少し挑戦するのなら、ぱふぇは、しっかりポンチョを着ておかなくちゃ」
「わふ!」
 まだ! まだやれます! ぱふぇが元気よく返事をしたので、ベルナデッタは万が一のためにと持ってきていたポンチョをそっと羽織らせる。お耳も通せるフードを被せたとき、雨の香りがふわりと流れた気がしてこぱんだが不思議そうに首を傾げた。
「あ! ポンチョおにあい!」
「ええ、良く似合うわよ。かわいいわ」
「わふん!」
 ほめられぱふぇはご満悦。こぱんだたちがわらわら集まってきてポンチョをしげしげ眺めている姿を微笑ましく見ていたりりは、上体をベルナデッタのほうに傾けて、
「ベルちゃん、どうですか?」
 小声でひそひそ。
「隙は……まだみたい」
 答える数瞬の間に思案したベルナデッタは、嘯いた。
「まだっ」
 神妙に頷くベルナデッタに、きりりとした表情で頷き返したりりを見て、内心では口角を上げている。本当はとっくに頃合いだけれど。
(もうちょっと、色々見せてみましょ。かわいいところ、もっとね)
 うちの子たち、かわいいでしょ? って。
「わっかくぐりをしましょうっ」
 道具を借りてきたりりが呼びかけると、それは楽しいものですとふわもこたちが押し寄せる。ぱふぇも輪っか潜りは慣れたものだから「おまかせです!」わふふんと胸を張って、ふかふかの戻ってきた毛並みを揺らして、てっちてっちスタートラインにスタンバイ。
「ぴょんっとくぐってもいいですし、ころころっとくぐってもかわいいはず!」
『ではこぱんださん、これがみほんで……あ、りりちょっとひくくおねがいします!』
 ぱふぇが前脚でかいかいと空中を掻いている。高いと訴えていることに気が付いたりりは膝から下に中心がくるように輪っかを下げた。ぱふぇはむふんと満足そうに鼻息を小さく鳴らすと、とててててとダッシュ。ポンチョの裾をひらり靡かせて輪っかをくぐり、反動で前に転びそうになるのを急ブレーキをかけたバイクよろしく立ち止まる。
『わぁ、すごーい』
 こぱんだたちはきゅんきゅん大盛り上がり。
 ぱふぇのあとに続こうと、りりの腰の高さに持ち上げられた輪っかをこぱんだたちは軽々飛び越え、なかには側転してくぐるもの、お友達の背中を跳び箱のようにジャンプしてくぐるもの、バク転でくぐるものも居てとってもアクロバティック。
「飛んだり跳ねたりはお手のものね。こぱんださんも、いい感じ。器用な子ね」
「ぱふぇちゃんも、こぱんださんもすてきっ」
『はい! すばらしい!』
『わぁい』
『ほめられたー』
『こばんださんも、もしや「かわいい」ですか? おそろいです!』
『おそろいうれしー』
「……おうちにきてくれたら、毎日たのしそうですね」
 ぱふぇとこぱんだがもふもふくっついて楽しそうな姿をじぃっと見つめていたりりの口から、そんな言葉が零れ落ちた。
「きゅ?」
 視線に気が付いたのか、こぱんだがりりをめいっぱい仰いで首を傾げている。それからちょっとだけ覚束ない足取りでころころ近付いてきて、りりの足にぎゅっと抱き付いた。つぶらな瞳をきらきらさせて、にこにこ笑顔。
「――りり、いいわ。やっちゃいましょ」
「あっ、はい! すき! おまかせください! こぱんださんはちょっと離れていてくださいね」
 足にくっついたこぱんだをぱふぇの隣に座らせると、|小さな庭師《でっかなシャベル》を両手に提げたりりは木漏れ日の中を軽やかに抜けてゆく。
「てーいっ」
 こぱんだとぱふぇのかわいさにめろめろになっている食鉄大師は、よりにもよって後頭部にシャベルが振り下ろされる少し先の未来を拾えなかった。
 それはそれはいい音が境内に響き渡ったとか。

天ヶ瀬・勇希
楪葉・望々

 そろそろ午睡に微睡みたくなる昼下がり。
 水鏡天満宮の緑豊かな境内には幾何学模様の木漏れ日が石畳に散りばめられていて、虹色の光に洗われるように涼むこぱんだたちの姿がある。
「戦場なのに、こぱんだがいっぱいだな!」
 ゆるりと泳ぐ鯉を興味津々覗き込むこぱんだを横目に太鼓橋を渡った天ヶ瀬・勇希(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)は、開けた境内のあちらこちらでふわふわころころのこぱんだ達が雑技の練習をしている光景を目の当たりにする。
 頭にボールを乗せてバランスを取るこぱんだ、こぱんだタワーの上で倒立をするこぱんだ、たくさんのフラフープをくねくね身体を揺らして回しているこぱんだ。
 傍目からには遊んでいるようにしか見えないけれど、みんな一生懸命練習中。ワンテンポずれている子も、ボールにうまく乗れずにつるつる滑って転んでしまう子も居たりして、思わずほっこり。
「こぱんだ、かわいい……」
 そんなぬいぐるみみたいに小さくてふわふわもこもこのこぱんだ達の愛らしさに、ほう、と吐息を零したのは楪葉・望々(ノット・アローン・h03556)だった。表情に乏しい物静かな望々を包むのはふわほわなまろい空気。気配に気が付いたのか一匹のこぱんだが、とてちて駆け寄ってきて、足元で立ち止まるとふにゃっとした笑みを浮かべて「ねえねえ」って言うように手招きを。
「雑技を見せてくれるの?」
「きゅっ!」
 飴色の瞳に期待の光を輝かせて見守れば、もこもこ集まってきたこぱんだ達が一糸乱れぬ列をなして、ころころころりん。止まるタイミングも完璧――と言いたいのだが、最後尾の子がぽす、とぶつかってしまってきょろきょろ不思議そう。
「わ、上手」
 ぱちぱちと拍手するとこぱんだたちはむふふんと誇らしげ。それからまたもこもこ望々のほうに集まってくる。そんな微笑ましくも愛くるしい光景をにこにこ眺めている勇希は、
「でんぐり返りなら、わたしも一緒にしていい?」
 そんなことを言う望々にギョッとする。
「えっ、ののも前転するの?」
「体育のマット運動は、得意なんだ」
 えへん、とほんの少しだけ胸を張った望々は、こぱんだたちが広げて持ってきたマットの上をこぱんだたちといっしょにころん、ころころ。
 両足を前に突き出すお座りポーズで着地したこぱんだたちは、重たいお尻をよいしょっと持ち上げて、望々のスカートの裾をくいくい引っ張る。どうやら一緒に転がると楽しいと感じてくれたみたい。だからもっとやろうって誘っているのだ。
 一人より二人、二人より三人、三人よりたくさん。
 だから、勇希は腰のベルトに魔法宝石を装着。
「変身!」
 ヒーローの姿に変じたならば、運動なんてお手の物。蒼穹を翻るバク転だって披露できちゃうのだ。
「きゅー!」
「わ、勇希すごい……! さすが、ヒーローは格好良いね」
 着地までスマートでかっこいいヒーローにこぱんだたちは当然湧き立った。ぱちぱち拍手する望々の元から雪崩みたいに勇希の元へと白黒ウェーブが押し寄せて「ぼくもやるっ」て後転するけど、お尻が重たいから真上で止まった足がじたばた、ひんひん。足が落ちていって、隣のこぱんだの頭にぽすん。
「んきゅーっ!」
「きゅぅん……」
「あはは、こぱんだ達も真似しようとしてる。もっと高くジャンプできるようになったら、バク転もできるかも!」
 まずは水流星用の器を置いて、その上をジャンプ。それから器より一回り大きなボールをジャンプ。少しずつ飛び越える物の大きさを変えていってジャンプの練習。
「きゅう……?」
「そうそう、こういう風に……」
 勇希はこぱんだ達にお手本を見せるため高くジャンプ。そのまま待機させていた|騎乗形態《ライドフォーム》のジュエルブレイクアローに飛び乗った。
「いいか、見てろよ、これが宙返り」
 ――と見せかけて。
 夏をも焦がす炎揺らめく右足で食鉄大師へ飛び蹴りをお見舞い。
 すっかりこぱんだ達に気を取られて、幾つかの未来を取りこぼしていた食鉄大師は鋭く勇希を振り返るも、こぱんだたちと一緒に「ごめんなさい」をする姿に、ふっと肩の力を抜く。
「練習に失敗は付きものですからね。よいのですよ」
「えいっ」
「グッ……」
 言い終わらぬうちに真横からの衝撃。
 今度はどの子だとばかりに視線を落とすと、大きな瞳でじぃっと上目に仰ぐ望々が、両サイドにこぱんだを携えている。
「きゅぅん……」
「ごめんね、わざとじゃないよ?」
「ええ、練習熱心ですね。感心ですよ」
 ど突かれた脇腹をさすりながら食鉄大師はゆるゆる頷く。ころんと転がりながら隙を衝いた一撃は思いがけずも痛かったらしい。しばらく受けた箇所をこっそりさする姿があったとか――。

「わ、そのこ、ののに懐いてるな」
 望々のエプロンをひしっと掴んでいるこぱんだと目線を合わせるようにしゃがみこむ勇希。人差しゆびを差し出すと、真似っこしてちょんとつついてくる。
 一緒に転がって、食鉄大師の元にもえーいってお供してくれたこぱんだは、何かを察しているのか望々と離れたくないみたい。ちいさなふわふわの頭をなでなでして、望々は考えた。考えて、
「……一緒に、くる?」
 そっと呼びかけてみた。
「きゅ!」
 こぱんだはつぶらな瞳をめいっぱいきらきらさせて、望々にハグ。うれしそうに頬擦りするこぱんだを抱き上げたならば、いのちの温度がやわらかくて眦が柔和に綻んだ。
「へへ、友達が増えたな!」
「うん、お友達」
 ちゃんとお世話するからね。よろしくねっておまじないのように額を寄せた。

天竺鼠・まる

(ぷいっ、食鉄大師の予知はやっかいぷい)
 人々の足をすり抜け水鏡天満宮の境内に潜り込んだ天竺鼠・まる(げっ歯類なめんな・h13195)は、星詠みから貰ったキャベツをぱりぱり食んでお腹におさめると、くしくし前足で顔を洗って気合いばっちり。
(でもこぱんだたちの雑技で気をそらせるなら、おれさまもいっしょにやるぷい)
 境内にはあっちを見てもこっちを見ても、ころころふわふわなこぱんだ達が雑技の練習をしていたり、木陰ですやすや眠っていたり、信者たちの足をよじ登っていたりと賑やかだ。
 木の幹に背を預けて座り込み、笹をかじかじしているこぱんだが居たので、その子に向かってまるはとっとこ走る。
『もきゅ、もこもこどうしいっしょにあそぶぷい』
『あそんでくれるの? わぁい』
 ぺいっと笹を放り捨てたこぱんだは、よいしょっと後ろ足で立ち上がりまるに駆け寄ってくる。「なにしてあそぶの?」と首を傾げるこぱんだはぬいぐるみみたいで、まるに負けず劣らずのかわいさだ。
『おれさまたちと大師さまに雑技を披露するぷい、きっとお喜びになるぷ!』
 そう言って、まるは空に向かってぷいーっとひと鳴き。
 すると枝葉の中や茂みから、社務所や灯籠の影などありとあらゆるところから十二匹のモルモットたちが現れる。
『わぁ、おともだちいっぱいだねぇ』
『なにしてるのー』
 こちらの賑やかさに気が付いたのか他のこぱんだたちもころころ集まってきて、気が付けばまるの周囲はこぱんだだらけ。
『こぱんだたちが組み合わさった隙間をモルモットたちがぽふぽふ支えてもこもこ組体操とかどうぷい?』
『くみたいそうしってるー』
 これでしょ、と三匹のこぱんだの上に二匹が乗って、さらにその上で一匹のこぱんだが倒立。その隙間を埋めるようにモルモットたちがもきゅっと顔を出せば、可愛らしいこぱんだモルモットタワーの完成だ。
 かわいらしい姿に食鉄大師はにこにこ顔。
(こぱんだたちには悪いけど、ここでミラーを完成させるわけにはいかないぷい!)
 まるは小さな体で素早くこぱんだたちの間をすり抜けると、木漏れ日の死角より食鉄大師へ一直線。
(……ごめんぷい……)
 まるの気配まで拾いきれていないのは気配で分かる。隙を見つけて一撃を叩き込んだまるは、胸の中で小さくそう呟いた。

ノヴァ・フォルモント

 葉擦れが降りしきる夏の昼下がり。
 澄みきって透明な水の中をゆるり泳いでいく鯉は、螺鈿のような鱗が陽光を跳ね返し|日中《ひなか》に見る星のようなきらめきを瞬かせている。
「やあ、なかなかに面白い作戦だな。ノクスも雑技を覚えてみるか?」
 太鼓橋を渡りながら肩にちょこんと収まる仔竜に呼びかけると、パンダ耳のフードを被ったノクスは返事をするようにくあっとお口を開けて、どうやらやる気に満ちている様子。
 境内はあちらこちらに白黒のふわふわもこもこのこぱんだで溢れていて、歩を進めているだけでも目の前をころころ転がったり、とてちて駆けて行ったり足の踏み場がないくらい。
 ノヴァ・フォルモント(月影・h09287)は目口を柔和に綻ばせると、一見遊んでいるようにも見えるこぱんだ達の練習を茫洋と眺めてみて、閃いた。
「それじゃあ、こぱんだたちから逆に教わるのはどうだろう」
 ついでに雑技に混ざってみたりするのも一興かもしれない。
 くいっくいっと腰をくねらせてフラフープを回すこぱんだや、逆立ちしているこぱんだの上に立って皿回しをしているこぱんだ、三つ重ねたボールの上に倒立してバランスを取っているこぱんだも居て実に多芸。ちょっぴり拙くて失敗をしている子もいるけれど、きゅうきゅう楽しそうに笑っているからムードは明るく、そして賑やさに溢れている。
「よかったら、この仔にも雑技を教えてあげてくれないか?」
 休憩しているのか、ぺちょと足を投げ出して座っているこぱんだに近付き、しゃがみ込んで呼び掛ける。こぱんだはノヴァとノクスを交互に見ると「んきゅ!」かわいく鳴いて重たいおしりをんしょっと持ち上げ立ち上がる。
「きゅー!」
 こぱんだが教えてくれたのは水流星。紐で繋がれた器に水を満たして、遠心力を利用して旋回させる雑技だった。こぱんだ用の小さな物だから、紐も短くてノクスでも試すことができそうだ。ノクスは思い切って紐を一息に振って、蒼穹へぽーんと投げる。器に満ちた水は陽光を受けてちかりと瞬いたけれど、一滴も水を落とすことなく地上に戻ってくる。
「きゅー!」
 両の器をキャッチしたこぱんだたちが「すごいね」って言うように笑っているのがくすぐったいのか、ノクスは羽をそろそろと蝶の羽搏きのように揺らしている。
 きっと本番もうまくいくよーっとノクスの手を引いて食鉄大師の元へところころ走るこぱんだたち。様子をそっと見守っていたノヴァは声にこそ出さなかったけれど陰ながら応援しつつも、ふしぎとまろい空気に満ちる境内を見渡して詰めていた息を吐いた。
(なにやら、敵の本拠地とは思えない和やかさだな……だからこそ隙が出来るというものか)
 こそりと星紡ぎの詩を口遊むと、真昼の空が星の耀きに揺れる海に塗り替わってゆく。星夜を仰ぐ食鉄大師に、うっかりを装ったノクスに攻撃してもらうのはすこしどきどきした。
「んきゅー」
 ノクスと一緒にノヴァの元へと駆け寄ってきたこぱんだは、やりきった顔をしていてご満悦。どうやら最高のお披露目が出来たみたい。
「良かったら俺達と一緒に行かないか?」
「きゅ?」
 おだやかに笑うノヴァに首を傾げたこぱんだは、けれどすぐににぱっと笑ってもふんと抱き付いてきた。これから一緒に星がやさしく囁く夜を過ごしていけそうだった。

千木良・玖音

 傾いた陽射しはぎらぎらして肌が痛いくらいだった。
 ゆえにか緑の多い境内に足を踏み入れると吹き過ぎる風や、透き通った池の水音が心地よい。千木良・玖音(九契・h01131)は遠目からでも分かるほどに白黒のふわもこでいっぱいな空間に、ふふ、とちいさく笑みを浮かべて歩を進める。
 ――それにしても。
(何かしようとしたら予測されちゃうですか……)
 奥でゆったりと座っている大きなぱんだ――食鉄大師をこそりと盗み見て、今も自分の予測をされているのではないかとどきどきする胸をそっと抑える。
 でも、隙を作ればいいらしいから。
(……なるほど、ですなの!)
 さっそく玖音は手近な場所でころころりんと前転しているこぱんだのところに駆け寄って、「こんにちは」って目線を合わせるようにしゃがみこむ。
「こぱんださん、一緒にかわいいのお勉強しましょうです!」
「きゅ?」
 こぱんだは短い足を投げ出すようにしたお座りのポーズで玖音のことを見上げて不思議そう。
「きっとこれも何かの役に立つかもです!」
「きゅぅ……きゅっ!」
 わかった! と言うように、よいしょっと立ち上がったこぱんだは、ぽてぽて近付いてきて玖音のお膝に両手を乗せて「なにするの?」にこにこ顔。
「まずはですね、お手々をお目々の前に持っていって……いないいない、って隠れるです」
「んきゅ」
 指先を揃えた両手で自身の目を隠す玖音を見て、こぱんだはもこもこの両手でおめめをふさぐようにぽすんを隠す。
「ちょっとしたら、お手々を離して、ぱーんだ! って開くです!」
「んーうきゅっ!」
「そうっ、とってもかわいいです!」
 褒められてにこにこのこぱんだは「やったー」と万歳して左右にステップを踏むように踊っている。それを見ていた他のこぱんだたちがころころ近付いてきて、玖音の周りはあっという間にふわふわもこもこでいっぱいに。
「あとはですね……、6ぱんださんに協力してもらいたいですなの!」
「きゅぅ?」
「ここに3ぱんださん並んでもらって、その上に2ぱんださん乗ってもらって」
 玖音がこぱんだを抱っこすると、こぱんだは無防備にだらんと両手足の力を抜いて運ばれてゆく。それを「いいなー」って見上げていると、他の子たちもあっちへこっちへ玖音がせっせと運んでくれて、きゅんきゅん笑い声が重なってにぎやかだ。
「更にその上に1ぱんださんが乗るです! こぱんだピラミッドの完成ですなの!」
「きゅーぅ!」
 ふわふわもこもここぱんだピラミッドの頂点に立つ1ぱんだが、空に向かってわーいと両手を突き上げたならば、雑技の練習をしていたこぱんだたちや信者、そして大本命の食鉄大師がぱちぱち拍手。
 やがて喝采となってゆく拍手に、ふう、と額の汗を拭った玖音は、腕の下から盗み見た食鉄大師の隙を見つけて、
(あ、いまなら行けるかもです!)
 こぱんだピラミッドの隙間から|星咲く蕾《カルミア・シューティングスター》を撃ちだした。
 爆ぜると星型に咲くカルミアの蕾型小爆弾には意識がない。それにたくさんのかわいいが溢れている視界には一種の演出に映っている。企みを打ち砕く星が咲くまで、あとすこし――。

睡眠寺・静時

 石畳に揺れる木漏れ日は柔らかく、星を散りばめたように瞬いている。
 淡くなった夏の光のなかをころころもふもふ往くのは、ぬいぐるみみたいなこぱんだ達。どこを見ても愛くるしいふわふわまるまるの可愛さに溢れた境内はまるでこぱんだ天国だ。
(こぱんだちゃんの可愛さで食鉄大師をめろめろにするのですね。よしきた! うちも全力でまいりますぞ)
 睡眠寺・静時(移動するフォークロア・h01690)は片手を口元に添えて、人差し指を立てたもう片方の手は頭上へと掲げ、雑技を練習するこぱんだたちへと良く通る伸びやかな声で呼びかける。
「音楽と踊りの好きなこぱんだちゃんはいらっしゃいますかー! いらっしゃったらこの指とーまれ!」
「きゅー?」
 はじめは「だぁれ?」と首を傾げていたこぱんだ達だったけれど、興味が引かれたのか一匹ころころ静時の元へとやってくれば、二匹目が釣られたようにころころ。それから「ぼくも」と言うように三匹目、四匹目と集まって、気が付けば静時が一歩、二歩足を踏み出したくらいじゃあ抜け出せないくらいのふわもこが周りに集まってきた。
「うふふ、ご一緒感謝ですぞ」
 その場にしゃがみ込んだ静時は、こぱんだ達と目線を合わせて作戦会議。
「うちがリコーダー吹きますから、こぱんだちゃんはダンス、できますか?」
「きゅ!」
 できる! と言った風に大きく頷く子、わーいって万歳する子など様子は様々だったけれど、静時がリコーダーを取り出すと皆その音色を一生懸命に拾おうと耳を傾けてリーダーのことをきらきら見つめている。
「勿論自由で大丈夫! フリースタイルプリティこぱんだちゃんダンスをお願いします」
「きゅう!」
 ぽてぽて走って「いいよー」って、それぞれ位置に着いたのを見て、静時は小学校の運動会で流れる楽しい曲をメドレーで吹いてゆく。こぱんだたちも知っている曲だったのか皆ノリノリで短い尻尾をふりふりしたり、波を描くようにこぱんだウェーブを披露したり、短い両手足でブレイクダンスしたりと意外にも動きはいい。いいけれど、やっぱりふわふわもこもこだからまるでお遊戯会。地面に頭をつけてくるくる回る子も居て、そのこぱんだはおしりが重たくてぺちゃ、と崩れてしまう。でもお座りのポーズのままにこーっと笑って楽しそう。
「みんな上手ですぞー。ダンスの種類はバラバラなのに不思議と調和がとれているような……?」
 上手に出来たらめいっぱい褒めてあげて、うまく出来なくても励まして。ちっちゃな身体で一生懸命だから静時もリコーダーを吹くのに気合いが入るというもの。
 お披露目に向けて練習をたっぷり行っても、静時がやさしいからこぱんだ達は皆たのしそうで「まだまだいける!」って顔をしていて元気は十分。
「来たる本番! プリティさを大師にじっくり堪能していただきましょうねえ」
「んきゅー!」
「こぱんだちゃん、行きますぞー! えいえいおう!」
「きゅ、きゅ、きゅーう!」
 気合いたっぷりのこぱんだダンス部の皆を見渡して、目口を綻ばせた静時はいざ食鉄大師の元へ!
 でも、その前に。
「絶対絶対、楽しい毎日をお約束しますので……良ければうちにいらっしゃいませんか?」
 それまでずぅっとそばで、ふんすん鼻唄を歌っていたこぱんだの頭をひと撫でして静時は呼びかける。このこぱんだはリコーダーに合わせて鼻唄でメロディを奏でており、なぜだか静時の隣でぽてぽてころころ踊っていてくれたのだ。
 こぱんだは静時を見上げてつぶらな瞳をきらきらさせると「よろしくね」って言うように静時の足にぎゅっと抱き付いた。これには静時も感動。よい演奏をして、お友達の晴れ舞台を演出しなくては。俄然やる気が出てきた静時は仲良くなったそのこぱんだを頭の上に乗っけて、今度こそ食鉄大師をめろめろにすべくお披露目に向かうのだった。

矢神・霊菜

(あら、みんな可愛いわねぇ。生きものってどうして小さい頃はこんなに可愛いのかしら)
 ふわふわもこっとしたぬいぐるみにしか見えないのに、その体には確かにいのちが宿っている。ぽてぽて駆けっこをする姿も、短い手足で皿回しをする姿も、倒立してさらにその上に乗ってポーズをするこぱんだタワーもどれもこれも矢神・霊菜(氷華・h00124)の瞳にはいとしく映る。
「ふふ、こぱんださんたち、ちょっといいかな?」
 木漏れ日のなかでぺちゃりと座ったこぱんだ達の元へと近付くと、しゃがみこんで目線を合わせた霊菜の言葉に「んきゅ?」不思議そうな真ん丸お目目が見つめ返してくる。
「いつも雑技の練習をしているらしいわね。偉いわ」
 小さなふわふわ頭をやさしく撫でると、こぱんだがうれしそうにきゅんきゅん鳴いてくすぐったそう。すると、他のこぱんだが「ずるい!」「ぼくも!」と言わんばかりに霊菜に駆け寄ってきて、撫でてーってよじ登ってくる始末。
「毛並みの良さと可愛さにこっちまでメロメロにされそう……みんな順番に撫であげるからね」
 結局霊菜のなでなでは、作戦会議中もずぅっと続いていた。
「さて、あなたたちは将来『黑白蓮教』の信者になるべく日々雑技を練習しているのよね?」
「きゅん!」
「その成果……ぜひ教祖様に見てもらいたくない?」
「きゅうっ!」
「あわよくば褒めてもらえたりしたら……どう? やる気がでてきたんじゃないかしら?」
 こんな風に、撫でてもらえるかも。
 霊菜がわしゃわしゃーってやわらかな毛並みを両手で揉みくちゃにするようにもふもふすると、こぱんだがきゃっきゃと笑い転げている。それを見て他のこぱんだたちはしっとり濡れたつぶらな瞳に期待の光を散りばめると――。
「きゅっ、きゅうん!」
「きゅきゅきゅ!」
 どこか興奮したようにもふもふんころんと転がって、起き上がったと思えばとてちて駆けて雑技の道具を引き摺って霊菜の元に戻ってくる。それを「見て!」って霊菜に突き出すのは、たぶんぼくはこれが得意なのですと主張しているのだろう。かわいらしい姿に相好を崩した霊菜は、そのこぱんだの頭をやっぱりなでなで。
 他のこぱんだたちも、やる気に満ち満ちて「えいえいおー」って短い手を空に突き上げる。
「よし、そうと決まれば一緒に披露しに行きましょう」
「きゅ!」
 霊菜が先導すると、まるでカルガモの親子みたいにこぱんだ達がころころあとを付いてくる。
 あくまでも霊菜はお手伝い。けれど、赤い毛氈が敷かれた上をころころぽてんとでんぐり返しするこぱんだたちには――食鉄大師より――大きな拍手を送って「そうそう、上手よ」ってやさしく褒めてあげて、次に控える上級技でちょっぴり緊張している子がいればその背中をふわっと撫でて強張った身体をほぐしてあげる。
 次に披露するのはでんぐり返しをしながらの輪っか潜り。これは霊菜が輪っかを支えてあげて雑技の補助を。
 どきどきしながら、不安そうに見上げてくるこぱんだの眼差しに「大丈夫よ」って頷き返すと、こぱんだは思い切ってえーいって前にころん。引っ掛かりそうになった瞬間を見計らって輪っかを少し下げて潜らせるのをサポート。
 座った格好のまま「ぼくできた?」ってきょろきょろするこぱんだは、ゆるゆる拍手をしてくれる食鉄大師を見上げて、ぱあっと笑みを広げてゆく。もちろん霊菜のサポートは見えていたけれど、それを指摘する野暮ったいことはしないらしい。
「次は一緒に手を繋いでの二足歩行をしてみましょう」
「んきゅ!」
「そのまま教祖様の所まで行って褒めてもらいましょう?」
「きゅーん!」
 にこにこ笑顔を絶やさずに、愛らしいこぱんだ達のことを静かに見守る食鉄大師。こぱんだ達の手を繋がせて、その数歩後ろから近付いていく霊菜は、ぽてぽてとてちて覚束ないけれどゆっくり食鉄大師の元へと進んで往くこぱんだ達を見守って――氷雪の神霊「氷翼漣璃」を後ろ手に纏う。
(メロメロになっているわね。無理もないわ)
 すっかり霊菜の存在は眼中にない。瞬きの間に己を貫く氷刃が訪れることも拾えずに、ただただそのかわいらしさに夢中なのはある意味さいわいだったのかもしれない。

空地・海人

(へぇ、弱いこぱんだの面倒をみてるのか)
 境内にころころしている白黒もふもふのこぱんだたちは、毛艶も良くて大切にされているのがよく分かる。
(強者を倒すだけ倒して、あとは放置って奴かと思ってたから、なんだか食鉄大師のこと見直しちゃったぜ。まあ、元々そんなに知らなかったけど)
 木漏れ日の下からひとり静かに様子を窺っていた空地・海人(フィルム・アクセプターポライズ・h00953)は小さく頬を掻いた。
(俺んとこにもこぱんだたちはいるし、せっかくだから異文化交流させてみるか。いや、カルト教団だし、異宗教交流かな?)
 たくさんのこぱんだを呼び集めるために、海人は変身ベルトを腰に巻くと、
「超現像!」
 掛け声と共に金色の装甲を纏うフィルム・アクセプターポライズ√EDENフォームへと変身。
「きゅ……」
「きゅぅーっ」
 突然、木陰からぴかーっと眩い光が解き放たれ、集束した奥から姿を現した見たことない姿にこぱんだがたちがもふっと団子になってぷるぷる震えている。
「っと、臨戦態勢すぎる見た目だからか、警戒されてしまったぜ。驚かせちゃって、悪かった!」
「きゅう……?」
 こぱんだたちは顔を見合わせて、ひそひそもふん。
「うちのこぱんだもまぜてもらいたかっただけなんだ。ほら、出てこい、変身ベルトのこぱんだたち!」
 変身ベルトに掛けていた右手の人差し指で三回ノック。するとぱぱぱぱーっとベルトから飛び出してくるのは自分たちそっくりの、でもちょっぴり違うふくふくもふもふのこぱんだ妖怪たち。
 あっという間に境内は白と黒のもふもふこぱんだで溢れかえって、これにはさすがの食鉄大師も唖然とした様子。
「うちのこぱんだは、いかにも雑技って感じの器用なことはあまりできないけど、動き回るのは得意だぜ。お前たちみんな、ダンス好きだろ?」
「きゅん!」
「じゃあさ、そこにいる大きいぱんださんに踊りを見せてやってくれよ」
「んきゅ!」
 お安い御用ですと言ったふうに、よいしょっと立ち上がったこぱんだ達は大好きな食鉄大師の元へところころ駆け寄っていく。その後ろ姿はまるで親を慕う子のようだ。いずれ立派な信者にならんとする身なのだろうが、未だその心に清らかなものが宿っている事実が海人の胸に温かさをもたらすようだった。
 こぱんだたちは自分たちでふんふん鼻唄のBGMを付けながら、ダンスを思い思いに踊っている。
 ちっちゃな片手で自重を支えてフットワークを披露したり、扇子や傘を使って優雅な日本舞踊をゆるり魅せ付けたり。得意なものはみんな違うみたい。でもそれがこぱんだ達の個性ならば、たとえどんなにバラバラだったとしても微笑ましいもので。
「ぴょこぴょことした動きが可愛らしいぜ」
 そしてなにより可愛かったのだ。
 その一方で海人のこぱんだ達は統率の取れたフォーメーションばっちりのアイドルダンスで熱烈アピール。中にはお手手をくっつけ頭を寄せた全身ハートを作ったり、短いしっぽをふりふりして愛くるしさを惜しげもなく表現していて、どちらのこぱんだも甲乙つけがたい。
「雑技もいいけど、うちのこぱんだたちのダンスも悪くないだろ?」
「ええ、それぞれの良さがあって大変かわいらしいですね」
 食鉄大師はこぱんだ達に視線を注いだまま海人の言葉に頷いた。その横顔を盗み見て、そろりと一歩傍に寄る。だが、夏の陽射しを仰ぐように眩しそうに目を眇めてこぱんだ達を見守る食鉄大師は、自身に近付く気配にも、これから訪れる少し先の未来もその指先に摘まめていないらしいことを窺い知って。
 海人は一度こぱんだ達を見る。どうかあの純真な瞳に凄惨が映ってしまわぬようにと、自身のこぱんだ達で壁を作るように大きなこぱんだタワーをたくさん作る。そうして天辺にいる子からひゅるりと身を投げ出し、くるくるぽすんと落っこちてくる。ウェーブのように次々ヒーロー着地を決めてゆくこぱんだタワー。
 大胆な様子に手を叩いたその瞬間、露光銃剣・ラジカムシャッターの剣先が食鉄大師の背を貫いた。
「なっ……」
「……騙すような真似して悪かったな」
 深く突き刺したまま、その耳元で静かに囁く。食鉄大師はすぐさま反撃しようと身を捩ったが、肺を貫通したそれは身動きを封じている。
「あんたの弱い奴に優しいところとか、こぱんだにメロメロになるところ、俺は好きだったぜ」
「なるほど……妙だとは思ったのです」
 ふ、と吐息が漏れるような笑いを、どこか悲しく思う。
「もし、敵同士でなくなる未来があるなら、その時はまた……うちのこぱんだと遊んでくれよ」
「そんな日が来れば、の話ですがね」
 ゆるり持ち上げられた手は縋るように神器へと伸ばされるが、ついぞ触れることは叶わず力無く落ちていった。

 蝉が鳴き上がる。
 夕闇が広がり始めた境内はぬるい風が吹き過ぎていき、めいっぱい踊ってほかほかなこぱんだたちを慰める。気が付けば食鉄大師が居なくなっていて不思議そうにうろうろきょろきょろしていたけれど、今日はたくさん遊んで練習したからもうおねむ。困惑している信者たちの裾を引っ張って、おうちに帰ろうってもふもふきゅんきゅん。
 そうして逃げるような信者たちところころ帰ってゆくこぱんだ達が居なくなり、水鏡天満宮に平穏が訪れるのを見届けてから海人は人混みに紛れるようにして去って行った。

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