⑰君よ、殺す事勿れ
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西鉄福岡駅。福岡、ひいては九州最大規模の繁華街に位置し、西日本鉄道の拠点としても機能する大規模なターミナル駅だ。
そのため老若男女、人間人外他様々な存在が今日も行き交う。
そんな雑踏の中、無骨な男――外星体『サイコブレイド』が立っていた。
三つ目は僅かに揺れ動くが、それ以外は何をするわけでもなくただじっと。
その様子は通行の邪魔だというのに人々は一瞥もくれない。まるで彼が置物か何かだと認識しているかのように。
「……」
やがてサイコブレイドは剣を構える。この場にいる命を刈り取るために。
しかしやはり、目の前に狩人がいるというのに、通行人の行動は何も変わらない。
「やめなさい、簒奪者よ」
柔和な雰囲気を滲ませる白衣を纏う青年がサイコブレイドの前に現れた。
まるで世界がここだけ空間が切り取られたかのように、男の声はハッキリと響く。
「……忘れようとする力? いや、お前が記憶を『奪って』いるのか」
「貴方は心の中で『誰も殺したくない』と思っている。
それが例えAnkerの為だとしても、いずれは貴方が壊れてしまう」
医者の様な白衣を着た男性が患者に嗜める様に、サイコブレイドがこれから起こすことを忠告する。
「……お前は」
知っている。
初めて会うが知っている。
こいつは。
「……初対面だが、俺はお前を知っている。
ギルベルト・キルシュバウム。俺が永劫の時をかけて探し続けた存在に『Anker』という名を付けてくれた……つまりは俺の生涯の恩人だ」
ギルベルトはいわばサイコブレイドをはじめ多くの√能力者をこの世に繋ぎとめる存在に名前を与えた人物。
サイコブレイドにとっては大きな恩がある。
しかし、サイコブレイドは剣を納めない。
「だが、その願いは聞き入れられない。
俺は赦されざる悪。この街の人間を皆殺しにする……!」
サイコブレイドの三つ目には並々ならぬ覚悟が淀みの様に渦巻いていた。
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「短期記憶って知ってるか? 覚えて電話に打ち込むまでの電話番号、あるいは旅行先の線路の乗り換え……まぁそういった直ぐに忘れちまうような記憶の事だな」
ジャック・ベアトリクスが話題を振りながら今回の事件の説明を始める。
「次は西鉄福岡駅。簡潔に言えば九州の大動脈たるターミナル駅だ。そこにサイコブレイドが乱入して通行人を虐殺し始めるはずだから阻止してこい」
繁華街の中心地、そして西鉄に本拠地である本駅には当然のように多くの人が行き交う。そこを狙って外星体『サイコブレイド』が人々の命を狙う。
「サイコブレイドは結構お前らの前に現れてるから知ってる奴もいるだろうが、『外星体同盟』の殺し屋で『Anker抹殺計画』を引き起こしている。今は未然に防がれることが多いだろうが、今回は場所が場所だ。一般人に危害が及ばねぇようにこいつを殺してこい」
駅構内は障害物が多く、サイコブレイドがどこに居るかも分からない。逆に言えばそれはサイコブレイドにとっても同じなので駅構内の構造を利用する戦いもできるだろう。
しかしそれならば駅を封鎖して戦った方が良いのでは?という問いにはジャックは首を横に振る。
「目的が目的だ。一般人いなくなるとアイツ何処に行くかも分かんねーからな。
ああ、戦闘起こっても一般人がパニックになる事はねぇからそこは安心しろ」
普通なら戦闘が起これば、武器を持ち歩いているだけでパニックになる。
だが今回はそれが起こらない。
「なんつったっけ……ギルベルト。ギルベルト・キルシュバウムだ。Ankerを提唱した奴が駅構内で動いている。アイツの力であそこの一般人は短期記憶を奪われている。つまり『危険人物が刃物を持って歩いている』みたいな情報を奪う事で一般人がパニックになるのを防いでいるわけだ」
理由は不明だがギルベルトは今回の戦いに限りEDEN側に与してくれる。
助力を請えば『敵や味方の短期記憶を奪う√能力』を指示通りに使用するので彼の力を利用するのも手であろう。
「短期記憶っていうのは数秒から精々1時間位の本当に目の前で起きた短期間の事だ。長期記憶――例えば『サイコブレイドの暗殺指令を受けた記憶』を奪うみて―なのはできねぇからなそこは気を付けろよ」
第1章 ボス戦 『外星体『サイコブレイド』』
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西鉄福岡駅2階。改札と商業施設が同階にあるため多くの人が行き交う場所である。
そんな中でサイコブレイドが剣を相対するギルベルトへと向けた。その時飛び込んでくる影がある!
「――おらオッサン、こっちだ!」
トパーズ・ラシダス(|地呪珠《アースジェム》の| 肉人形《フレッシュドール》・h03302)が振るう剣との間に火花が飛び散った。
『君たちは……』
『――EDENか』
数発結び合った後にサイコブレイドはトパーズを大きく弾き返し無理矢理距離を取らせた。
「よう、また会ったな」
『会いたくないものだ。しかし、お前達は今回は目標ではない』
後方から来た一般人を斬るもその一撃は燃える羽根に防がれた。
「そんな事言わずに。僕らは君に会いに来たんだからさ」
薄野・実 (金朱雀・h05136)が展開する羽に包まれた一般人は何事もなかったかのように通り過ぎていく。
『――チッ』
分が悪いと判断したサイコブレイド。EDENたちが瞬きした瞬間にはその視界から姿を消した。
『気配を消すのが上手いね。流石は暗殺者だろうか』
「アンタは……色々聞きたいところだがまずはアイツを追いかけっぞ」
しれっと一般人の短期記憶を奪い援護してきたギルベルトを一瞥するとトパーズと実はサイコブレイドを追いかける。
「座標軸計算完了。新しい位置情報を観測します」
深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)は機械化戦闘部隊を12体展開する。
「個体識別番号【02863-5】はお二人と共に、それ以外のメンバーは駅脳内を散開し偵察。必要あれば個別応戦を」
『了解!』
命令を聞いた機械化戦闘部隊は各々与えられた役割を果たすべく散開していく。
彼ら動きを確認すると深雪はその場にいたギルベルト・キルシュバウムへと向き直った。
「ギルベルト・キルシュバウム。助力を感謝すると共に、あなたにお願いしたい事があります」
『私にできる事ならば』
ギルベルトは見定めるように静かな瞳をEDENへと向けた。
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戦線を離脱したサイコブレイドが実とトパーズ、戦闘部隊に追い立てられ、足を踏み入れたのは誰もいない場所だった。
追い詰められたサイコブレイドは呼吸を変える。
呼吸をこの場にいる生命体に合わせ、発せられる音を雑踏の中に。
一風景として溶け込む暗殺の体勢。それは訪れた一般人を確実に殺すため。
早く、はやく人の多い場所へ行かなければ、そして彼らを殺さないといけない。
『いや待て……俺は|どうしてここに来た?《・・・・・・・・・》』
自分の目的は一般人の殺害。追い立てられたとはいえ、今回は多少目立とうが人が多い方が作戦は成功しやすいというのになぜここに来たのか。分からない。
「見つけました」
深雪の声と共にEDENたちと機械化戦闘部隊、そしてギルベルトかサイコブレイドを包囲するように立つ。
『……なるほど、嵌められたわけか』
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ほんの少し前の西鉄福岡駅駅前。
集まったEDENたちは簡単な打ち合わせを行っていた。
「オッサンを殺すのも忍びねぇ。だが一般人を殺させるわけにもいかねぇからな。ぜってぇ守らねぇと」
「ですが、サイコブレイドさんにとって、襲撃時に手を抜けばAnkerが見せしめに殺されるリスクは耐えがたいものでしょう。
彼が全力で戦った上で、被害を出せないまま敗北できるように場を整えましょう」
ここで彼が全力を出せないまま終わればどうだろうか。おそらく実力不足と判断され人質たるアンカーが殺される可能性もある。
ならばEDEN側も彼の立場が立つ理由を作ればいい。
ゆえに全力を出せるようにこちらも緻密に作戦を練り上げねばならない。
そんな中、実が口火を切った。
「僕はあの駅の建物、初見でしっかり迷った事がある」
至極真面目に言葉を紡いだ。誤解しないで欲しいが実は決して方向音痴ではなく、むしろ方向感覚は優れている。にも関わらず初めて来たときには目的の場所へ一回で辿り着くことは叶わなかった。その程までにこの西鉄福岡駅は迷いやすい場所なのだ。
「この混雑を利用すれば追い詰めやすいかもしれないし、被害が出にくいと思う」
「といっても、オッサンがコトを起こす前に間に合わなければならねェから、迷宮のような駅は厄介事にしか思えねェや。
俺様はその場を走り回って探してぇところだな」
暗殺の体勢を取れば視認以外で見つける事を困難。
ならばと深雪は提案する。
「二つの案を採用しましょう。それを為せる能力を持つ人があの場にいますので」
ギルベルトの力を使って一般人に気付かれない様にサイコブレイドを人の少ない場所へ追い込み戦う。
深雪の案を聞いて実とトパーズは頷いた。
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『なるほど、上手くはめられた訳か』
サイコブレイドが肩に剣を担ぎながらEDENたちに向き合う。
(『下見は行ったがそれを無に帰されるとは』)
彼の視線は自然とEDENたちの後方――ギルベルトへと向けられる。
だがそれ以上の行動をEDENたちは許しはしない。
「ギルベルト! 俺様達の戦いを人々から忘れさせるように頼むぜ!!」
「ギルベルトさん、お願いします」
『もちろんだとも』
一二を言わせず駆けだしたのはトパーズ。
生命線である|地呪珠《アースジェム》を黄金色に輝かせ、殺戮モードへと変貌する!
「さぁやろうぜ!」
サイコブレイドが力をため始めたのと同時に再びの剣戟が交じり合う。
先程の切り合いよりも早く、重く、振るわれる手も増えた。
命のやり取りはより過激となったにも関わらず二人の剣は競うあう様に、より激しさを増していく!
「ははっ、相変わらずつええ! オッサン、殺しに向いてねぇよ」
『向こうが向かまいが関係ない。俺はこれで生きている。
そして、これからも!』
|空間が歪む程鬼気迫る《・・・・・・・・・・》重い一撃が双剣に圧し掛かり、遂にトパーズの剣が宙に舞った。
その勢いのまま剣はトパーズを穿った――直前、赤々と燃える羽が彼の傷を瞬く間に癒していく!
「っ、サンキュ!」
「無茶をするね」
痛みを感じる間もなく、傷一つなく癒された自分の体を見てトパーズは感嘆の声をあげれば実は困ったように笑う。
『次は癒す前にお前の命を刈り取る』
再び切り結ぶ予定のサイコブレイドを見て、二人は笑う。
「ははっ……オッサン、なんか忘れてねぇか?」
『なに、を』
「お忘れかい? |60秒は過ぎたよ《・・・・・・・・》」
実の言葉が何を差しているか、サイコブレイドはすぐさまに理解した。
ギャラクティックバースト。サイコブレイドが使う、60秒の宇宙エネルギーを18倍にして近接範囲を攻撃できる大技。
強力だがこれはチャージ|直後《・・》という条件が含まれる。
『まさか……』
トパーズと切り結び始めるとほぼ同時にチャージ行い、トパーズの剣を飛ばした時が60秒丁度。
その時に放てばEDENとギルベルト、そして周りにいた一般人の命を刈り取る事が可能だったのにも関わらず彼は撃たなかった。
それは迷いでも忘却でもない。『エネルギーチャージを始めた』記憶を奪われたが故。
『ギルベルト・キルシュバウム……!』
かの名前を忌々しく呼ぶもすでに遅く。
「これでお終いです。60秒もの間受け続けたダメージ……今ここで味わってもらいますよ」
12体の機械化戦闘部隊が姿を現しサイコブレイドへと攻撃をはじめる。
いかなサイコブレイドといえど暗殺特化の彼が集団戦術を得意とする深雪の機械化戦闘部隊と戦うにはあまりにも不利。
12方向から降り注ぐビームバルカンの斉射がサイコブレイドの体力を、力を。意識を削いでいく。
それは深雪の動きに気付けない程に追い詰める。
深雪は対WZマルチライフルを狙撃用実弾形態へと変形しスコープ越しにサイコブレイドの眉間を捉えた。
「――Fire」
正確無比な銃弾の声が、駅の構内に響いて消えた。
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『これが【EDEN】……』
戦闘を終えたEDENたちの背後から零れたギルベルトの声には今までと違う感情が滲み出ていた。
そう、絵空事だと思っていた存在事象を目の当たりにした事に喜びと興奮をのせた感情が。
「ギルベルトさん、あなたにお伺いしたい事が……」
実が振り返った時そこには誰もいなかった。
謎めいた白衣の男の姿はなく、人々が行き交う日常の風景がただそこに広がっている。
――ギャ。
どこかで鷺の声が響いたが、それも人々の記憶からあっという間に消えていった。
