シナリオ

⑱運命の星

#√マスクド・ヒーロー #ゾディアック継承戦争 #ゾディアック継承戦争⑱

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⚔️王劍戦争:ゾディアック継承戦争

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●星神ドロッサス・タウラス
 ……|運命の石よ開闢せよ《アクセプト》。
 ……ゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』。

 ……漸く、|暴牛辰砂甲《アーマーオブファラリス》も脱ぐ事ができた。
 ……これにて、我は正当なる『ゾディアックの継承者』となった。
 ……ゾディアックの継承者が行う星詠みは、予知能力ではない。
 ……それは『未来を決定する力』だ。我の言葉はいずれ現実となる。
 ……いま此処に宣言しよう。『我は主神ゾークになる』。
 ……もはや、覆す方法は無い。
 ……我が全√のゾディアックを掌握してゆく様を、ただ眺めているがよい。

●星の運命に抗え
 決戦の地はキャナルシティ博多。
「戦場には真の姿を現した『星神ドロッサス・タウラス』が待ち受けているわ!」
 幽谷・雛姫(載霊禍祓士・h04528)はドロッサス・タウラスについて語る。彼は進化した星詠み能力、その名も『未来を決定する力』を使用するという。
「たとえば「お前は隕石に当たって死ぬ」「我はその攻撃で傷を受けない」といったドロッサスの話した言葉が、現実になっちゃうの」
 だが、完全なる無敵のように思える能力にも付け入る隙はある。
 死ぬと言われてもドロッサスが発動時期を指定していなかった場合、或いは言葉が全て現実となってしまうという効果そのもの。
「隕石に当たるのが百年後ってこともあるし、会話中にうっかり零した言葉が現実になって不利になるなんてこともあるわけね!」
 ゾディアック継承戦争を終わらせるにはドロッサスに勝利するしかない。
 運命は他人に決定されるものではない。
 そのことを突きつけるため、今こそ全力を賭して戦うときだ。
「さぁ、いくわよ皆! この戦いに勝って、在るべき日常を取り戻しましょう!」

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第1章 ボス戦 『ゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』』


玉響・刻

●痛みが頬を掠めても
 ――キャナルシティ博多。
 此度の戦争は、この場所こそが最後の決戦の地となる。
「ここが正念場ですねっ!」
 玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)は言葉と同時に戦場を駆けた。
 胡蝶乱舞のちからに酔って、淡く光る無数の黒い霊蝶がその身を包み込む。次の瞬間、彼女の身体は風そのものと化したような速度を誇った。
 ドロッサス・タウラスは、王劍を静かに構える。
「我が剣は、未来において必ずお前を捉える」
「それなら――その剣、私に当てられますか?」
 紡いだのは挑発。
 刻は敢えて真正面から踏み込んだが、斬撃の間合いには入らない。王劍が振るわれる度に紙一重で身を躱しに入った。頬を掠める剣圧、髪を数本だけ切り落とす刃。
 それらは確かにあたっているが、決して致命の一撃は許していない。
 彼女が狙っているのは攻撃そのものではなかった。そう、相手の言葉だ。
「……ならば宣言しよう。この攻撃は全て命中する」
 その瞬間、ドロッサスの言葉が運命を塗り替える。
 刻の口元に僅かな笑みが浮かんだ。
「――それを、待っていましたっ!」
 刹那、王劍が迫る。
 未来が確定するならばそれは必中。ならばもう逃げることに意味はない。刻は迫り来る刃を見据えた。第六感が警鐘を鳴らし、身体が刃の軌道を理解する。
 右へ避ければ届く。左へ逃げれば届く。
 後退しても、未来がそれを許さないだろう。
 それならば――と考えた刻は一歩、前へ出た。王劍が肩口を掠める。血が舞ったが、ただそれだけだった。
「攻撃は命中する。だったら、私の刃も当たりますっ!」
 刹那、刻の姿が掻き消える。
 鍛え抜かれた走術が爆ぜ、無数の黒蝶が一斉に舞い上がる。その中心から、抜刀の一閃が走った。超速の横薙ぎが王劍の懐へ潜り込む。
 装甲すら貫く刃がドロッサスの身体を捉えた。
「こっちに掠っただけでも――当たりは当たりですからっ!」
 黒い霊蝶が双方の間を埋め尽くす。
 確かな傷を負いながらも刻は退かなかった。必中と定められた未来の中で、それでも自らの一撃を叩き込んだ。
 勝負はまだ終わらないが、勝利への道は刻めたはずだ。
 たとえ運命を決められたとしても構わない。
 その瞳には新たな未来を切り拓く光が宿っているのだから。

エアリィ・ウィンディア

●未来を拓くのは
「んー、未来を決定する力、ね。強いよねー」
 最後の戦いの最中、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は笑った。
 眼前に立つのは星神ドロッサス・タウラス。
 その存在から放たれる圧倒的な威圧感さえ、彼女にとっては未知なるものへの好奇心を掻き立てる要素に過ぎない。
「でも、未来はわからないからこそ面白いのっ♪」
 エアリィが精霊剣と精霊銃を構えた瞬間、詠唱が始まった。
 高速で紡がれる言葉と共に、周囲の精霊力が渦を巻く。
「来て、お母さん」
 次の瞬間、エアリィの傍らに伝説の精霊術士としてのシルが顕現した。
 エアリィは間を置かずに地を蹴る。精霊剣が閃き、続け様に精霊銃が火を噴いた。高速で繰り出される連続攻撃は、ドロッサスを中心に円を描くように襲い掛かる。
「その攻撃は通用せず、この反撃は命中する」
 するとドロッサスが告げる。
 しかしエアリィは止まらなかった。撃を受けながらも身を翻し、巧みに位置を変えていく。そして、最後にはドロッサスの背後に回り込んだ。
「……あれ? あたしの剣と銃だと効かない?」
「当たり前だ」
 軽く首を傾げるエアリィに対し、ドロッサスはその通りだと示した。
「えー。そんなぁ……」
 しかし、声音とは裏腹にエアリィの口元には笑みが浮かんでいた。
 そうしてエアリィは精霊銃を真上へ向ける。
「じゃあ、これはどうかなっ!」
 銃口から放たれた一撃を合図に、シルが六属性を束ねる。
 火、水、風、土、光、闇。六つの力が一点へ収束し、極大の魔力砲撃となってドロッサスへと直射された。
 轟音が戦場を揺らす中、エアリィ自身は止まらない。
 精霊の戦闘靴に力を込め、砲撃の直後へ飛び込む。
「ふふ、これ、剣じゃないし銃でもないから。なので――痛いっしょ?」
 空中で身体を大きく捻れば、猛烈な回転蹴りがドロッサスの顔面を捉えた。
 其処に反撃が迫る。だが、エアリィはオーラ防御とエネルギーバリア、魔力防御といった三重の防壁を瞬時に展開して受け止める。
 爆ぜる光の向こう。シルの力で吹き飛ばされたドロッサスだが、まだ倒れない。
 着地したエアリィは精霊剣を構え直した。
「未来って、そんな風に決めちゃうものじゃないよ。だから、止めるよっ!」
 その瞳はただまっすぐに――。
 次なる一手と、何れ来る終局を見据えていた。

七豹・斗碧

●運命という名の道
 敵の力は未来を運命付けるもの。
 だが、七豹・斗碧(白翔テイルアンシア・h00481)は恐れない。彼女はドロッサスの言葉を聞くなり、ぱちりと瞬きをした。
「うんうん、なるほどね。じゃあ私も予言やってみようかな」
 軽い口調とは裏腹に、瞳は戦場のすべてを見据えている。
 そうして、斗碧は次の言葉を紡いだ。
「例えば――『私の攻撃は絶対に当たる』とかさ」
 そう言いながら、斗碧は手にしたナイフに魔力を注ぎ込む。刃から溢れた魔力が地面を這い、周囲の物質を次々と狼の姿へ変質させていった。
「そうすればきっと、『私の攻撃は絶対に当たらない』って言ってくるよね?」
「……面白い。ならば、我はそう宣言しよう」
 ドロッサスが応じた瞬間、斗碧は楽しそうに笑った。
「やっぱりね!」
 刹那、生まれ落ちた人狼が咆哮する。
 斗碧はその場に留まらない。一気に間合いへ踏み込みながら、ドロッサスの周囲を駆け抜ける。振り下ろされる攻撃を見切り、すぐさま反対側へ回り込む。
「ほらほら、こっちこっち!」
 挑発と接近、其処からの離脱。更に再接近。その速さは新たな予言を口にする暇すら与えないほどのものだ。
 その隙に人狼がドロッサスへ牙を剥いた。
「さあ、『私以外』の攻撃なら、その予言の範囲には入らないでしょ?」
 ドロッサスの表情が僅かに険しくなる。
 絶対運命を語る者と、それを真正面から崩す者。
 斗碧は決して一人で戦ってはいなかった。自分の攻撃が届かないなら仲間の攻撃を通す。敵に集中させないなら自分が囮になる。
 勝てない理屈があるなら、それを上回る手段を探す。それこそが勝利への道だ。
「攻撃できないなら、できないなりに……やれることはたくさんあるんだからね!」
 人狼の爪が閃き、斗碧もまたその軌跡に重なるように駆ける。
 咆哮と衝撃がキャナルシティを震わせていた。
「強敵相手でも、一人じゃないっていう最大の武器が――私たちにはあるんだから!」
 斗碧は果敢に戦っていく。
 だが、ドロッサスはまだ倒れていない。寧ろこの程度で倒れるくらいの相手ではないことは最初から知っていた。
 戦いは此処からも続くが、それでも斗碧は笑っている。
 運命が決まっているというのならば、その定めさえ仲間と共に踏み越えればいい。
 この胸に宿る光だけは、誰にも――運命にすら左右されないものなのだから。

シンシア・ファルクラム

●決着を目指して
 キャナルシティ博多を覆う異様な気配。
 その最中で、シンシア・ファルクラム(歌い、奏でる空の柱・h08344)は敵の姿を静かに見据えていた。
 此度に倒すべき相手は星神ドロッサス・タウラス。
 嘗ての王劍戦争で相対した禍津鬼のような――否、それすらも超えるほどの圧力があるようだ。相手はただ其処に立っているだけで空間を軋ませている。
「ドロッサス・タウラス。……あの禍津鬼にも劣らぬ威容でございます」
 おそれはない。
 シンシアの裡にあるのは、ただ決意だった。
「ならば、かの者と同じく……超えて、先に向かうのみ。わたしにはつけねばならぬ決着と、探さねばならぬ人がいるのです」
 すると、ドロッサス・タウラスが王劍を構える。
「……我が言葉は、未来となる」
 その声と同時にシンシアの周囲に見えない圧力が走った。
 攻撃は外れない。
 それが、この星神の定めた未来ならば真正面から抗う必要などない。
 シンシアはその場から一歩も動かなかった。代わりに、幾重もの魔力がシンシアの指先から紡がれていく。
 ――炎竜妃の戯れ。
 多重詠唱と高速詠唱によって、燃え盛る炎が次々と生み出される。だが、その炎は通常の炎とは違っていた。幻影の力によって存在そのものを不可視へと変えられている。
 見えない炎がシンシアの周囲に静かに浮かぶ。
 更に彼女の正面にはエネルギーバリアが展開されている。それを敢えてドロッサスに見せているのは、これで攻撃を防ぐと思わせるためだ。
 そうして、ドロッサスの瞳が細められた。
「……我が攻撃は、全て命中する」
 王劍が振り抜かれる。
 空間そのものを断ち割るような一撃が、一直線にシンシアへ迫った。当然、未来を確定しているのだから外れない。
 轟音と共にエネルギーバリアが真正面から砕け散った。無数の破片が夜空へ舞い、シンシアの姿があらわになる。だが、それこそが彼女の狙いだった。
 バリアが破壊される。其処までは宣言された未来通りだろう。しかし、その次に何が起こるか――それを決めるのは、ドロッサスではない。
 刹那、不可視の炎が弾けた。
 バリアが砕けた瞬間、その裏側に潜ませていた炎竜妃の戯れのひとつが、受け止めた力を別の方向へと捻じ曲げたのだ。
 当たるという未来は変わらない。
 ただし、何に当たるのかは別の話だ。跳ね返された衝撃が、予想外の角度からドロッサスへと襲いかかる。
「……何?」
 相手の声に僅かな揺らぎが生じた。
 シンシアはその一瞬を逃さなかった。足元から緑の光が噴き上がる。太古の神霊、裂空龍をその身に纏ったことで彼女の姿が消えた。
 否、ただ消えたように見えただけだった。一気に引き上げられた速度で以て、既にドロッサスの懐へ潜り込んでいるのだ。
 そして、緑のオーラが爆ぜたかと思うと掌底が叩き込まれる。
 装甲を貫通する威力を宿した一撃が、星神の巨体を正面から打ち抜いた。衝撃が大気そのものを震わせ周囲の建造物に反響する。
「ぐ……だが、まだだ!」
 しかし、ドロッサスは倒れない。星神はその程度では終わらないと示し、反撃のために牡牛座のリア・ファルが輝きを増していく。
 対するシンシアは即座に距離を取った。
 追撃はしない。倒すにはまだ足りないとわかっているが、それでも確かな手応えはあった。相手は運命を操るが、決して無敵ではない。
 未来を語る力にも、未来を決定する力にも、必ず言葉という枠がある。
 そして、その枠の外側に炎を置くことができる。
「……小賢しい真似を」
「ええ。神と力比べをするほど、愚かではございませんので」
 シンシアは静かに彼を見返した。そうして再び不可視の炎が生まれる。
 ひとつ、またひとつ。誰にも見えない炎が、戦場の未来を待つように漂いはじめた。シンシアの身を包む緑のオーラが、キャナルシティを照らす。
 まだ決着は遠い。星神は健在であり、戦いは続いている。それでも――確かに一歩、シンシアは運命の外側へ踏み出した。
 見えないものは未来からも見えない。だからこそ彼女は静かに拳を握る。
 神が未来を語るなら。
 その未来を砕く一撃を、今度は自分が選ぶだけ。
 戦場に再び緑の光が走った。戦いは此処からも続くが、亀裂は既に入っている。
 星神の定めた未来など、在るべき運命ではないのだから。

ゼーア・アストラ

●星の光は未来の唄
 視線の先には真の姿を晒した星神ドロッサス・タウラスがいる。
 倒すべき敵の姿を捉えながら、ゼーア・アストラ(星々の名・天使の力・h00110)はゆっくりと息を吐いた。
 その姿から放たれる威圧感はこれまでとは比較にならない。
 言葉ひとつで未来そのものを書き換える。その力を前にして、正面から能力をぶつけ合うのは得策ではなかった。
「それなら、こっちの手の内を知られるわけにはいかない!」
 アストラの身体を、黒と白が入り混じった異形の装甲が包み込んでいく。
 月蝕と日食、その二つのアビスを思わせる意匠。それはアビスフォールンを彷彿とさせる姿だった。だが、飛翔はしない。身体能力も跳ねあがらない。
 これはあくまで偽装。敵にそう思わせるためだけの疑似的な再現だった。
(見た目だけでも、欺けるならそれでいい!)
 次の瞬間、アストラは駆けた。
 一撃、二撃、三撃。技能による攻撃を相手に向ける。真正面から勝負するのではなく、敢えて隙を晒して言葉を投げかけるためだ。
「どうしたの? 未来を決める力って、その程度?」
「……我の未来は、既に決まっている」
 それは主神ゾークになることだとして、ドロッサスの声が響いた。
「なら、決めてみなさいよ!」
 挑発を投げかけながら、アストラは更に踏み込む。
 狙いは攻撃そのものではなく、ドロッサスに誰がどうなるかという明確な対象を指定させず、曖昧な未来を語らせること。
 ドロッサスが未来を語るたび、その言葉が現実を塗り替えていく。
 だからこそ、言葉の矛先を散らす。
 ――私はまだ倒れない。
 ――この攻撃は届く。
 ――ここでは私が勝つ。
 そんな断片的な言葉が飛び交うたび、戦場の景色が歪んだ。その間、アストラは耐え続けた。攻撃を受けて吹き飛ばされても立ち上がる。
 そして、ひたすらに待った。
 ドロッサスがより強い未来確定を発動する、その瞬間まで。
「お前の未来を語ろう」
 今まさに、それが来た。
 瞬間、世界から音が消えた。空間そのものが絶対運命空間へと変質する。ドロッサスを中心に、未来という名の物語が現実へと固定されていく。
 だが、その直前にアストラの装甲が砕けた。
「――今!」
 疑似的な姿の奥から、まったく別の力が巡っていく。
 月蝕と日食のアビス。刻まれた√能力が融合し、アストラの姿が再構成される。
 アビスフォールン・ハイエクリプス。
 ただしそれは絶対的な万能ではない。この瞬間、周囲に残された√能力を一時的に掴み取るだけ。しかもその時間には限界がある。
 だからこそアストラは迷わなかった。
 奪い取った力を、そのまま未来へ叩き込む。
「未来を消すんじゃないわ。――先に、別の未来を置くだけ!」
 アストラの周囲で、ドロッサスの言葉によって形成されかけた運命が軋んだ。絶対運命空間が消滅したわけではないが、成立が僅かに遅れる。
 それで十分だった。
「世界を繋げ、苦しみから解き放つ歌で!」
 擬似王劍――アストラルジェネシス。
 レリックが巨大な光の剣へと変形する。歌声は必要なかった。ただ、その意思だけで剣は振り抜かれる。其処から横薙ぎの一閃が戦場を走った。
 狙いはドロッサスそのものではない。彼を包む不可視の防御――インビジブル。
 光の刃がそれを捉え、不可視の膜を次々と切り裂いていく。
 完全に破壊するには至らないが、ドロッサスが揺らぎながら後退する。
「……ほう」
 感心するような声は、此方を強敵と認識した証だろう。アストラはドロッサスを見つめ返し、剣を構え直した。
 息は荒い。変身の時間も、残された力も限られている。
 だが、その瞳には迷いがなかった。
「未来が決まってるなら――その未来に、私が抗う余地くらい残しておきなさい!」
 砕け散った光の粒が両者の間を漂う。
 ドロッサスは答えない。
 改めて王劍を握り直すことで戦う意志を示した。そして、アストラもまた剣先を高く掲げる。それだけで両者の思いは交差しあった。
 まだ決着ではない。
 されど、この瞬間――決められたはずの未来に、大きな揺らぎが走った。

黒後家蜘蛛・やつで

●不確定未来宣言
 キャナルシティ博多にひとつの声が響いた。
 正確には、たったひとつではない。施設の各所に設置されたスピーカー。そのすべてから、同時に同じ声が流れ出した。
『未来を決定する力、ずいぶん自信があるようですね?』
 途端に戦場の空気が変わる。
 星神ドロッサス・タウラスが、ゆっくりと顔をあげた。
 だが、声の主はどこにもいない。広場にも通路にも、吹き抜けにも姿はない。その代わりに見えない何かが施設内を走り回っていた。
 それは電子蜘蛛。
 体高十センチほどのちいさな蜘蛛たちは透明化し、浮遊しながらキャナルシティの電子ネットワークへ潜り込んでいた。九体が互いに五感を共有し、監視カメラやスピーカー、通信設備を渡り歩いていく。
 その情報網の中心――通信室。
 そこに置かれていたのは、ひとつの人形だった。
 人間に似せたダミー人形。その内部に仕込まれたPCが、あらかじめ電子蜘蛛たちに組ませたプログラムによって文章を生成して、それを音声に変換している。
 だから、響いているのは黒後家蜘蛛・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダー》・h02043)の声ではない。やつで自身の言葉ですらないものだ。
 それでもドロッサスへの挑発としては十分だった。
『だけど、それを使う者は万能でも全知でもない。ただの生き物です』
 スピーカーからは更に声が流れる。
『例えば、主神ゾークになるという未来。その決定を認識するのがあなたなら、あなたが間違っていれば、到達するのは偽物の未来です』
「……!」
 その声を聞いたドロッサスの眉がぴくりと動いた。
 スピーカーからは尚も言葉が続く。
『未来が現実になるとしても、その現実を見ているのはあなたの目、あなたの耳、あなたの鼻なのですから。幻覚を無効化するという未来も、嘘の幻覚破りを見せられていたら、けっきょく辿り着くのはニセモノの現実なのですよ』
 一瞬の沈黙。
 そして――。
「……我を、愚弄するか」
 ドロッサス・タウラスから低い声が響いた。
『ええ』
 返答は即座だった。
 スピーカーからの声は躊躇なく、相手への言葉を紡いでいく。
『見えない未来を確かめられないくせに、砂上の楼閣で勝ち誇るあなたは――たいへん滑稽なのです』
 その瞬間、ドロッサスが動いた。
 遠く離れた場所にいるはずのダミー人形へ向け、星神の力が伸びる。まるで「そこにある」と未来を決定したかのように、床を引きずられながら人形が姿をあらわした。
 無機質な人形がドロッサスの前へ引き寄せられていく。
 そして、轟音と爆炎が噴きあがった。
 ドロッサスの視界を埋め尽くすほどの閃光。その瞬間を狙って、別の√から戦場を観察していた電子蜘蛛の一体が視界内へ侵入していった。
 同時に、一本の蜘蛛糸が空間を裂く。
 不可視の糸。それは別の√にいるやつでが、自身の現在地と同じ場所を観察しながら放った一撃だった。糸はドロッサスの身体を横切る。
 切断の衝撃が走ったが、相手は倒れない。
 代わりに爆炎の向こうから、星神の姿が浮かび上がる。
「……くだらぬ小細工を」
 その言葉と共に周囲の景色が歪んだ。
 絶対運命空間。未来を語ることで成立した、ドロッサス自身が主人公となる世界。
 しかし、蜘蛛糸を放った者――やつでは既に其処にはいなかった。
 攻撃が届いた瞬間、やつでは別の√へ。次の攻撃に対しても、更に別の√へ。蜘蛛たちの視界を足場に、やつでは観測地点そのものを切り替えていた。
 必中の運命が完成するより先に内側から脱出する。それがやつでの作戦だ。
 爆煙が晴れていく中、ドロッサスは傷を負いながらも立っていた。
「……おのれ」
 彼は怒っている。だが、戦場の何処かで電子蜘蛛が宙へ浮かんだ。そのちいさな八つの眼がドロッサスを見つめている。
 見えない場所から次の糸が張られていく。
 未来を決める者と、未来を疑う者。
 戦いはまだ終わっていない。しかし、運命すらもまだ決まっていないのだとしてやつでは己の力を紡ぎ続ける。
 寧ろ今、漸く――運命の綻びがひとつ見えたところだ。
 そうして、戦いは終局に向かってゆく。

空地・海人

●運命の向こう側
 キャナルシティ博多を覆う異様な空気。
 その中で、星神ドロッサス・タウラスは悠然と立っていた。
 ゾディアックの継承者となった星詠みは、予知能力などは使わない。未来を決定する力を持つ彼の言葉は、いずれ現実となって先を確定させるという。
「……この攻撃は全て命中する」
 運命を決める言葉が響いた瞬間、空気そのものが変質する。
 だが――その圧力を真正面から受け止めた者がいる。空地・海人(フィルム・アクセプターポライズ・h00953)は強く歩み出ながら、ドロッサスに向けて声を響かせた。
「人の運命を勝手に決めるなよ……!」
 海人は宣言した後、腰に変身ベルトを装着する。金属音が鋭く鳴り響く中、彼は強く拳を握り締めた。
「お前を倒して……運命を俺たちのもとに取り戻す!」
「……抗うか。ならば、貴様の未来も決めてやろう」
 ドロッサスの口元が歪む。
 されど海人は怯まず、その言葉を聞いた瞬間に目を鋭く細めた。
「――超現像!」
 眩い光が海人の全身を包み込む。
 次の瞬間、其処に立っていたのは黄金の装甲を纏った戦士だ。
 フィルム・アクセプターポライズ――√EDENフォーム。
 装甲の各所には煌めく光が走り、その中心にはこれまで海人が積み重ねてきた幾つもの力が集約されている。
 その手に握られた新たな武器は、露光銃剣・ラジカムシャッター。
 ドロッサスとの決着をつけるため、海人は地面を蹴った。まずは一瞬で距離を詰め、ラジカムシャッターを剣として振り抜く。
 黄金の斬撃がドロッサスへ迫る。しかし――。
「その攻撃は通用せず、この反撃は命中する」
 ドロッサスの言葉と同時に、斬撃が弾かれた。
 やはり通じず、反撃が海人に叩き込まれている。大きく身体が由来だが、海人は怯まなかった。寧ろ、その瞬間を待っていた。
 ドロッサスが何を言うのか。いつ、未来を決定しようとするのか。
 一言、呼吸、瞬間。
 それらをすべてを海人は記憶していた。
「お前が未来を決めるなら――」
「どういうつもりだ?」
 ドロッサスの腕が動き、更なる反撃が来る。その寸前、海人の両手にふたつの力が重なった。未来に対抗するならば、対となるものを宛行えばいい。
「俺は過去からお前に抗うぜ!」
 ――プレイバック・エクスポージャー。そして、ルートスマッシャー。
 黄金の光が時間そのものへ食い込んでいき、世界が逆回転をはじめた。飛び散った光が戻り、足跡が消え、斬撃の軌跡が逆向きに流れていく。
 海人だけが流れの中を理解していた。
 巻き戻すのは、たった今ではない。ドロッサスが未来を決定する言葉を口にする、その直前。其処までだ。
 そして、世界が跳ね戻った。先程と同じ瞬間が、今度は違う形ではじまる。
 海人の手には、√能力無効化の力を宿したラジカムシャッターがあった。
「これが俺を超えた俺の力……√EDENフォームの力だ!」
 刹那、銃剣が変形する。
 刃の奥に光が凝縮し、零距離から無数の光弾が放たれた。
 轟音と同時にドロッサスの顔面を閃光が覆う。そして、その一部――未来を語るための口が、光の散弾によって吹き飛んだ。
「――ッ!」
 あまりの衝撃に星神の表情が崩れた。
 傷口から星のような光が散っていく。言葉を発しようとしても、口そのものが破壊されているからだ。更にラジカムシャッターに込められた√能力無効化の力が、その肉体へ食い込んでいった。
 未来決定の力も、その根幹を担う力も今だけは封じられている。
 そのことを確認した海人は一歩、後ろへと跳んだ。
「今がチャンスだな」
 黄金の装甲の背後で無数の機械音が鳴り響く。ミニハイアングルボマーが次々と空中に現れていく。その数はひとつやふたつではない。
 海人を中心にまるで巨大な撮影機材が一斉に展開されるように、無数の小型機がドロッサスを取り囲んだ。
「さあ、|撮影会《超必殺爆撃》の時間だ!」
 海人の声と共にミニハイアングルボマーが一斉に飛翔する。
 正面、左右、更には頭上や死角。あらゆる角度から星神に殺到していく力は圧倒的だ。されどドロッサスとて対抗するために動こうとする。
 だが、未来を語ることはできない。
 それゆえに絶対運命空間を展開することもできない。ただ、迫り来る無数の小型機を見上げるしかない状態だ。それでもドロッサスは抵抗する。
 次の瞬間、爆発が幾重にも重なった。
 キャナルシティ博多の一角を埋め尽くすほどの轟音が連続し、巨大な炎と煙が幾重にも重なっていく。
「大爆破だ! 超・マルチアングルエクスプロージョンッ!」
 海人がラジカムシャッターを掲げると、最後のミニハイアングルボマーがドロッサスへと突っ込んだ。
 閃光と轟音からの衝撃波。
 すべてがひとつになって、戦場を白く染めあげる。
 しかし――。
「……我を甘く見ぬことだ」
 煙の向こうには巨大な影が立っていた。ドロッサスはダメージを負ったものの、完全には倒れていない。焼け焦げた装甲と砕けた口元。
 それでも、その瞳には尚も怪しい星の光が宿っている。
 流石だと零した海人はラジカムシャッターを再び構え直した。ドロッサスもまた、ゆっくりと顔をあげる。
 二人の視線が、濛々と淀む煙越しに交差した。
「……まだ、終わっていない」
 本来は声にならないはずの言葉をドロッサスが漏らす。それは戦いが終わらないという宣言となり、運命となってその場を支配した。
 対する海人は敢えて笑った。
「知ってるさ。だから――まだまだ、ここからだ!」
 黄金の装甲が戦場に満ちた爆炎を照り返す。
 その輝きこそが、海人が裡に秘める熱そのもののようだった。
 どれほど激しい戦いになろうとも、諦めない心と意志が海人の中にある。ドロッサス・タウラスが宣言した、主神ゾークになるという未来は訪れさせない。
 抗う力こそが、悪しき者を打ち倒す希望となるのだから。
 決められた未来などない。
 此処にあるのは、まだ誰にも決められていない――次の一瞬だけだ。

深雪・モルゲンシュテルン

●覚悟の証明
 キャナルシティを覆う絶対運命空間。
 その中で、深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)はドロッサス・タウラスの姿を見据えていた。
 彼は今や、王劍『ファルの心髄』を携えた星神。
 その様子は嘗ての堅実な指揮官とは別人のように思えた。己の言葉が未来を決定するという力に酔い、勝利を疑っていない。
 慢心は戦いにおいて何より危険であることを、深雪は知っている。
「ドロッサス・タウラス。私は、あなたを油断なくこちらの戦闘力を評価する、堅実な指揮官だと認識していましたが……」
 深雪は対WZマルチライフルを構え、淡々と告げる。
 ドロッサスは星の力を纏い、此方を見下ろしていた。
「身に余る力を手に入れたことで、すっかり大言壮語の夢想家に堕したようですね」
「夢想家だと?」
 此方の言葉を聞いたドロッサスの瞳が鋭く細められた。
 愚弄しているのか、と問うような相手の声には怒気が含められている。
「我は未来を決定する者。貴様らが何を企もうと、どう足掻こうとも、その結末はすでに我の言葉によって定められている」
「そうですか」
 深雪は短く答え、頭を振る。
「今のあなたにはその刃で私も一刀の下に立ち斬ることも容易いのですよね?」
「……当たり前だ」
「出来るものなら、是非とも実践してみてください。手にしたばかりの王劍では、近接武器としてすら使いこなせないでしょうが……」
「――ならば、死ね」
 刹那、直接的な言葉と共に王劍が閃いた。
 必中の一撃。空間そのものが斬撃を深雪へ導き、回避という選択肢を奪う。だが、その瞬間には深雪の姿が高く跳ねていた。
 戦術機動攻撃によって斬撃の軌道から紙一重で抜け、対WZマルチライフルの射程へと一気に跳躍する深雪。着地と同時にビームの弾幕を叩き込む。光条が星神の身体を穿つ中、深雪は煙幕と光学迷彩の向こうに消えた。
「小賢しい!」
「当たらない攻撃を何度繰り返しても、勝負は終わりませんよ」
 そして、再び王劍が振るわれる。
 深雪は必中という絶対運命を、自らの動きの連続で翻弄してみせた。すると業を煮やしたドロッサスが吼える。
「その攻撃は通用せず、この反撃は命中する!」
 王劍が鋭く振り抜かれた。深雪の身体を両断するはずだった一撃は、彼女の目前で激しい電磁障壁に阻まれる。
 衝撃が弾けた。それと同時に深雪の胸の奥へ確かな痛みが刻まれた。
「……っ」
「見たか! 我の言葉は現実となる!」
「ええ。ですが――」
 深雪は血の滲む口元を拭い、真っ直ぐな瞳に敵を映す。
「あなたの言葉で生じるのは、私の死という絶対的な結果そのものではありません。死に至らしめるほどの損傷に過ぎない」
「何?」
「そして、あなたは発動する時期を指定していない」
 ――攻性電磁障壁。
 受けた損傷は今ではなくチャージ後に適用される。深雪はドロッサスの甘い部分を突きながら、己を示していく。
「六十秒後には、この傷も現実になるのでしょう。もっとも――それまでに勝てばいいだけのことです」
「ならば六十秒も与えぬ!」
 ドロッサスの表情が歪み、怒りの言葉が向けられた。
 星神が深く踏み込み、王劍が大上段から振り下ろされる。その一撃に全てを賭けるような、渾身の踏み込みだ。
 だが、深雪はそれを待っていた。
 対WZマルチライフルが瞬時に変形する。銃身が展開し、針状の弾頭が露出した。電極針弾投射形態となった得物が至近距離で放たれる。
 王劍を振り下ろすために踏み込んだドロッサスには、回避する時間も言葉を紡ぐ時間も与えられなかった
 轟音と共に針状弾頭がその喉へ撃ち込まれた。
「が……っ!」
 次の瞬間、体内に侵入した弾頭から高圧電流が迸ることでドロッサスの全身が硬直した。筋肉が痙攣して唇が震える。未来を語るための声を発することができない。
 たった僅かの間でも、口を封じることは何よりの対抗策だ。
 深雪はちいさく息を吐き、ドロッサスの嘗ての姿を思い起こす。
「鎧を脱いでくれていて助かりました。これで、あなたの未来を語る声も止まります」
 彼を覆っていた暴牛辰砂甲はもうない。
 麻痺した星神に向け、深雪は一気に踏み込んだ。戦線工兵用鎖鋸が変形し、巨大な大剣状の刀身が形成された。
 ――対WZ用大鎖鋸<滅竜>。
 回転音が唸り、解体攻撃としての大鎖鋸がドロッサスの胴体に深々と突き刺さった。
「ぐあああああっ!」
 高速回転する鋸刃が肉を裂き、骨を削り、防御力を失った身体を容赦なく破壊していく。次の狙いは肺だ。それは呼吸と同時に空気を送り、声を生み出す器官。
 その機能を断てばいい。
「未来を決める力があっても、未来を語ることができなければ意味はないでしょう」
「……!」
 ドロッサスは身動ぎした。インビジブル或いは別の星の力など、傷を修復する手段はいくらでもある。だが、だからこそ深雪は大鎖鋸を離さない。
「離せ……! 我は……ゾークに……!」
「いいえ」
 相手の声は宣言にも言葉にすらならない。されど深雪の身体にも既に限界が近付きつつあった。それゆえに勝負を決めるならば今しかない。
「あなたが決める未来は、ここで終わります」
 時間が刻まれる。
 五十、五十五――六十秒。
 その瞬間、深雪の周囲でチャージされたエネルギーが爆発的に膨れあがった。
 それを目の当たりにしたドロッサスが目を見開く。
「ま、待て……!」
 其処で初めて、その声に恐怖が混じった。
 深雪は敢えて微笑む。それは何よりも大事なものを胸に抱いているからこそのもの。
「大切な人が生きる、たった一つの世界のために――私は命を懸けます」
 攻性電磁障壁、最大出力。
 刹那、爆発的エネルギー波が解き放たれた。
「――この一撃が、私の覚悟の証明です」
 轟音がキャナルシティを揺るがし、異様な空間そのものが砕け散る。閃光の中心でドロッサスの身体が大きく弾き飛ばされ、王劍が手から離れた。
「我の……未来が……」
 その言葉を最後にして、星神ドロッサス・タウラスは崩れ落ちた。
 深雪もまた、その場に膝をつく。しかし、もう立ち上がる必要はなかった。ドロッサスが倒れたことで絶対運命空間は消滅する。
 即ち、未来を決定する者はいなくなった。深雪は最後にドロッサスを見つめる。
「……さようなら、ドロッサス・タウラス」
 答える声は、もう何処にもなかった。

●誰も知らない明日
 王劍は瓦礫の上に転がり、もう悪しき者に振るわれることはない。
 ドロッサス・タウラスが絶対だと信じた言葉も、崩れた空間の彼方へ消えていく。
 誰かに定められた結末ではない。奪われた運命を、EDENは自らの手で奪い返した。長きに渡ったゾディアック継承戦争は、此処で終わりを迎えるのだろう。
 静寂が戻った戦場に、砕けた|封印石《リア・ファル》の光がゆっくりと降っていく。

 そして、世界は――。
 誰にも決められていない明日へ向かって、確かに動きはじめた。

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