人を殺して死ねよとて
「皆の者、集まってくれて礼を言う!今回|儂《わし》が予知をしたでな、早速じゃが説明に入らせてもらうぞ!」
ミヨシ・ブレイブ(|三好清海入道《SEIKAI》・h01064)は自らの呼びかけに応じた√能力者たちにそう礼を述べると、自らが見た星詠みの結果を語り始めた。
「場所は、√ウォーゾーンじゃ。知っての通り、√ウォーゾーンの人類は「戦闘機械群ウォーゾーン」の支配下から奪還して「生命攻撃機能」を無効化した「戦闘機械都市」に住んでおる、此度の予知ではな、この人類の居住区である戦闘機械都市のひとつ、「いずみの市」と人類が名づけた都市に戦闘機械群の軍団が襲来すると出おった」
「戦闘機械群ウォーゾーン」の機械たちは、所属する|派閥《レリギオス》ごとに様々だ。ミヨシの予知によれば、今回「いずみの市」に戦闘を仕掛けてくる軍団の目的は「若い人類の魂の収集の為の捕縛」であるらしい。
「おぬしらが「いずみの市」に踏み込むと、「ナイチンゲール」と呼ばれる少女型飛行偵察ユニットの集団が√能力者たちの来訪を察知し、排除のために襲い掛かってきよる」
そして、更にミヨシが二本指を立てて続けるところによれば。
「ここから先はいまだ定まっておらぬ未来、故にどうとでも変わる分岐の末。二パターンの未来を見た。まず一つは戦闘機械都市「いずみの市」中枢部付近に布陣した敵軍勢「シュライク」との連戦になる場合じゃの。そして、もう一つは「いずみの市」のどこかで学徒動員兵やWZパイロットたちの戦闘演習に加わり、共に次の戦いに備えて訓練を行う、という未来」
どちらかを行えば、どちらかは行わないことになる。
そして最後に、とミヨシは三本目の指を立てる。
「連戦か小休止、どちらかが済めばもう未来は変わらぬ。最後に戦うことになるのは「統率官「ゼーロット」」。レリギオス・オーラムの統率官のひとりじゃ。こやつは人間に興味を示さん。ただただ内輪揉めと出世争いに執心しておる、つまらん奴じゃの」
このゼーロットを倒せば、「いずみの市」への襲来は止み、は解放される。
「ゆえ、まずは√ウォーゾーンの「戦闘機械都市「いずみの市」」に入り込み、少女型飛行偵察ユニット「ナイチンゲール」との戦闘を行ってもらう」
そう言った後、ミヨシはつぶやく。
「「親は刃をにぎらせて、人を殺せとをしへしや――人を殺して死ねよとて……」学徒動員兵、か。親も戦って死ねと言い含めて育ててはおらんじゃろうに、のう。難儀な青春じゃ」
強制友好AIを搭載したヒューマノイド型ベルセルクマシンたるミヨシはその後、にかっと笑って言った。
「なぁに、|儂《わし》はおぬしらを信じておるでの。現場では一切を任せた。それでは、頼んだぞ!」
第1章 集団戦 『ナイチンゲール』

「“難儀な青春”……か」
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は、星詠みの言葉をぽつりと呟いた。
(俺にとってはこれが当たり前だけど……。いつか、こんな青春が当たり前じゃない世界になるんだろうか)
クラウスにはわからない。星詠みが諳んじた言葉が、詩の一片であったということも理解できなかったかもしれない。喜びを分かち合う家族なく育ち、誰かを救うための戦いを当たり前として受け入れてしまった、「希望」を欠落した兵士であるクラウスには――そんな未来を想像することさえ難しいことだった。
けれど、クラウスは信じる。目の前の戦いが、よりよい未来に繋がると。
戦闘機械都市「いずみの市」外縁部。「ナイチンゲール」は12体の「ナイチンゲール部隊」を指揮し、13体のナイチンゲールがクラウスの前に降り立つ。
クラウスはナイチンゲール部隊が目の前に現れるよりも前、その存在を認めた瞬間に自らの√能力である【決戦気象兵器「レイン」】を起動させる。
指定地点はちょうど、ナイチンゲールたちが降り立つ場所。そこから半径22メートル内を、威力百分の一にまで低下したレーザー光線の雨が300回に渡って降り注ぐ。
それはまさに、レーザーの雨、光の一条一条は百分の一の威力しかなくとも、それを百回受ければ通常のレーザー光線となる。降下したナイチンゲールたちは数が増えている代わりに反応速度が半減しているが故に、レーザーの雨の効果範囲から逃れることかなわず、13体のナイチンゲールはレーザー光線に貫かれる。動きの止まったナイチンゲール部隊に対し、クラウスはレイン砲台を抱えて自身に固定化し、レーザー射撃によって反応速度が低下している、さらに先のレーザーの雨によって弱体化していたナイチンゲールから止めを刺していく。
最初は囲まれないように距離を取りながら数を減らしてゆき、接近もやむなしとなったところで背中に括り付けてあったバトルアックスを抜き、ナイチンゲールの機械の体を破壊していく。
少女の形をした兵器だったものが「いずみの市」の外縁部に転がる。既に破壊された機械に、壊れた人形に何かの感慨を見出す暇もないまま、クラウスは最後のナイチンゲールの頭上に飛び上がる。
(……この街を人間のものに取り戻す。それが、「よりよい未来」への布石で、ないわけがない――)
それだけは、それだけはクラウスにもわかるもの。希望を欠落していても、計算によって導き出される正しい|正答《コタエ》。
だからこそクラウスが全身で振り下ろしたバトルアックスは、最後の「ナイチンゲール」を真っ二つに叩き割った――。。
「全員倒せたね。……次に何が起こるのかわからないけれど、気は抜けないな」
肩で息をしながら、クラウスはバトルアックスとレイン砲台を抱え、そう呟いたのであった。
「いずみの市」。人類が「戦闘機械群ウォーゾーン」の支配下から奪還し、「生命攻撃機能」を無効化した「戦闘機械都市」。√ウォーゾーンの人類にとって、手放すことは痛手となる生存地域、その外縁部にて。
レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット(始祖の末裔たる戦場の|支配者《オーバーロード》・h00326)は、くちびるを吊り上げて笑い、敵の襲来を待っていた。
レイリスは本来√EDENで生まれた吸血鬼。そして、始祖と呼ばれる何者かの血統を継ぐものである。その始祖の血統がそうさせるのか、√EDENよりも√ウォーゾーンの人類の、その生きる事への狂気すら感じる刹那的な美しさを気に入り、ほとんどの時間を√ウォーゾーンで過ごしていた。
レイリスの前に機械の少女たちの一団が降下してくる。少女型飛行偵察ユニット「ナイチンゲール」は、既にその√能力を解放し、12体の「ナイチンゲール」部隊がリーダー機に指揮されている。
「ははっ、数で攻めてくるタイプか」
外縁部の地形の把握はナイチンゲール部隊の降下前に既にレイリスの中で済んでいる。降下後の布陣も降下中の姿を見ればおおよその見当がつくものだ。レイリスは適切な位置に超小型ドローン群「レギオン」を配置して。外縁部鉄塔に降下した「ナイチンゲール部隊」と目を合わせたレイリスは、頬肉で涙袋を押し上げて笑うと告げた。
「では諸君、戦場を始めよう」
――さあ、大将首はここにいる。こちらに向かってくるがいい。
ナイチンゲールたち戦闘機械群が「首」というものに興味を持つかどうかは不明だ。しかし、見るからに指揮官という姿をしたレイリスに敵が向かってこない訳はないという自信が彼女にはあった。事実、降下したナイチンゲール部隊はレイリスの予期した通りの道順を通ってレイリスへと向かってくる。
「はっ、馬鹿め」
発動するは【|不絶驟雨《ブレイクレスチェイン》】。
「――絶え無き驟雨の如く撃ち付けよ――!!」
半径17メートル内が、全方位レーザー弾幕で埋め尽くされる。一条一条の光の威力は百分の一に抑えられているが、レギオンを反射板として用いることで光は反射し続け、弾幕となってナイチンゲール部隊を灼き続ける。
地形は既に把握済み。敵の位置、レギオンの配置、全てが計算通りに揃い、【|不絶驟雨《ブレイクレスチェイン》】の弾幕は反応速度の半減したナイチンゲール部隊をガラクタに変えていく。
「数ばかり増やした反応速度の鈍い的など、どれも光の弾幕の敵ではない」
言い切った後、レイリスはウィンクをしてつけ加える。
「……まぁ、反射角の計算がちと面倒なんだがな?」
リアルタイムで三百発の跳弾弾道の計算は、流石に私も面倒なのが、この作戦の難点だが――。
そう言うころには、ナイチンゲールたちは全てが少女型機械「だったもの」、ただの鉄屑へと変じていた。
「さて、ここからどうなるかは未だ定まらざる未来であったな。とはいえここは制したと見ていいだろう――征くか」
そう言ってレイリスは、かつかつと靴音を慣らして外縁部から去っていくのであった。
「学徒、か。なんとも世知辛いね」
鬼龍・葵(人間(√EDEN)の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h03834)は肩をすくめてそう言うと、戦闘機械都市「いずみの市」の外縁部で敵の襲来を待つ。
(私がこの世界に対して出来ることはないが――)
ない、と言い切るあたりが、彼女のシビアさを表していた。しかし。葵はこうも思う。
「せめてこの戦闘くらいは、背負わせてもらうよ」
できることは、戦う事。この「いずみの市」を再侵略するせんとする戦闘機械群を、手にした霊刀で断ち切る。それが葵のやり方だ。
葵がいる外縁部に、少女型飛行偵察ユニット「ナイチンゲール」が降下してくる。鉄塔の骨組み部分に降り立つや否や、ナイチンゲールは葵を狙って超高速で飛翔し、突撃を行ってくる。それに対し、葵は全身の霊力を左目の義眼に集中させる。義眼は霊力によって激しく燃え上がり、そして葵の左目は【|浄眼《じょうがん》】となり、ナイチンゲールの「隙」が見えるようになる。霊刀「九頭竜の刀」に霊的防護を纏わせ、ナイチンゲールの突撃を受け止める。がりがりがり、と霊刀がナイチンゲールの左腕部を削ってゆき、同時にめきめきとナイチンゲールの鋼鉄の体内から何かが折れる音がする。それがナイチンゲールの背骨であると葵に察せたかどうかはわからない、が――葵はそのままインビジブルを宿した霊木製の草履「載霊式厚底草履」の持つ重力への霊的反発力を利用し、踏ん張らずに虚空を滑っていく。衝撃力をいなし、ただ吹っ飛んでいくのではなく、円弧を描くように空中を舞い、そのまま滑るように元の位置へと戻ってくる。
「ああ見える、見えるよ、今のあんたは隙だらけだ!」
元より反動で背骨が折れるほどの超強力な攻撃。実際、葵には直撃しなかったが、攻撃を霊刀は受け止めた。反動による負傷はしっかりとナイチンゲールに響いている。その大きな隙を狙い、葵は勢いに身を乗せる。
「『鬼龍剣・旋返し』――ってなもんさね!」
即席で技に名をつけ、勢いのまま霊刀の一撃をナイチンゲールにくらわせる。ぐらり、とナイチンゲールの体が傾ぎ、更に勢いのまま叩きつけた霊刀はナイチンゲールの頭部を張り飛ばして――その重い一撃の衝撃を喰らって、頭部はバチバチと火花を慣らしながら飛んでいった。ガラクタになった体がその場に倒れ、放電するのを見守り、二度とナイチンゲールが起きてこないことを確認して、葵は空を見上げる。
「流石に二体目は来ない、か。それじゃあ、私は移動するかね」
そうして葵は、外縁部から「いずみの市」の中央を目指して歩きだすのだった――。
「……ゎ……! ぇ、えと、……どうしよ……」
時谷・氷雨(√を知った普通のライター・h01462)は√ウォーゾーンの「いずみの市」外縁部に立ち、「いずみの市」の哨戒態勢を見て言葉少なにながらも狼狽する。
「なんだか大変なことになっちゃってるっぽいね……」
氷雨の後ろから、高遠・宮古(世界を漂白するカメラマン・h05009)の声がする。
そう、彼にはここまでともに来た相棒がいる。彼女を放って自分だけ困惑し続けているわけにはいかない。
「とっ、とりあえずっ、高遠さんは、あのっ、俺の後ろ……」
そう言いながら「相棒」の方を振り返る、と。
「至急現場に向かって、ちゃちゃっと終わらせちゃおう!氷雨はあたしの「リヴァイアサン」の後ろに乗って!」
バイク「ライダー・リヴァイアサン」に跨り、リヴァイアサンのエンジンをどるんどるん言わせている宮古の姿があった。
「えっあれっ、俺が後ろ……」
ちょっと思ってたのと違うカナー。そんな気持ちで氷雨が固まっていると、それが躊躇しているように見えたのだろう、宮古は氷雨の手を取って強引にリヴァイアサンの後部シートに乗せてしまう。
「ぁ、あわー!?」
「さあ、かっ飛ばすぞー!!」
外縁部の鉄塔の骨組み部分を「ライダー・リヴァイアサン」は疾走していく。そのヘッドライトが、降下してくる少女の群れを捕らえた。
少女型飛行偵察ユニット「ナイチンゲール」は12体のナイチンゲール部隊を指揮し、氷雨と宮古の前へ立つ。
「ぇと……あの……お、俺は部隊のほう、倒すから……!」
「オーケー、任せたよ!」
氷雨が√能力【|描いたら出てくる《イラストレーション》】を発動する。護霊「ラスール」がくれたメモ用紙にさらさらと絵を描けばナイフが氷雨の手の中に具現化し、手にした氷雨の能力を底上げしてくれる。氷雨が念じると、ナイフはひとりでに浮き上がり、ナイチンゲール部隊に向かって躍りかかった。
宮古は氷雨を信じ、リヴァイアサンを駆る。最大速度で豪速で疾走するそれは一条の流星、あるいは解き放たれた弾丸のように誰の手にも触れることなく、けれどぐねぐねと竜が宙を泳ぐように身をよじりながら疾駆する。
呼び出された「ナイチンゲール部隊」は増殖したその対価として反応速度が半減している。氷雨の意のままに流星の如く素早く動く小さなナイフを避けるにしろ捕まえるにしろ、彼女たちは遅すぎた。一振りのナイフはナイチンゲール部隊の機体に存在するケーブルを切断し、或いは念動力によって加速し鋼鉄の肉体を突き破って、機械の少女たちが駆動するために重要な部位を破壊していく。鋼鉄の少女たちは次々と倒れ、ばちばちと火花を放ち、そして火花は彼女の動力源たるオイル、もしくはガスどちらか――それがどちらなのかは氷雨には判断がつかなかった――に引火して大爆発を起こす。
「あっ」
そこでナイフは消滅する。どこからともなく、50代くらいの中年男性の声が氷雨に聞こえてくる。
「全く、武器の扱いも知らぬ小僧め。その程度の実力で彼女と共にいられるとでも?」
それはどこかで聞いた声の様で、今の氷雨には全く知らぬ声で。声は氷雨の心だけでなく、体に確かな傷を与える、ナイフで切られたような浅い傷がてのひらに残り、じくじくと痛みながら赤い血を滲ませている。
氷雨は手を握りしめて、ぶんぶんと|頭《かぶり》を振った。
――まだ。まだだ。俺は成長しなきゃいけない。だって俺は、高遠さんと、これからもずっと一緒にいたい!
「高遠さっ、こっちは上手くいったからっ、」
「ありがとっ!じゃあ、運転任せるね!大丈夫、ハンドル支えててくれるだけでいいから!」
そう言って宮古はリヴァイアサンのシート上に立つ。リヴァイアサンの速度は最大だ。これ以上は|機体制御《コントロール》も難しい。宮古がそのままハンドルを握り続けていたとしても、支える以上のことはできなかっただろう。だから宮古が立ち上がったのは、氷雨を巻き込まない、限りなく最適なタイミングだった。
指揮官体たるナイチンゲールの周囲には、彼女に呼び出された小夜啼鳥型ロボットが一体飛んでいる。これらを召喚するまでに三秒。宮古の駆るライダー・リヴァイアサンが指揮官体の元に到着するまでに、そして氷雨がナイチンゲール部隊を壊滅させるまでに、四秒以上かからなかったことの証左であり。そして、宮古は理解する。今の指揮官体ナイチンゲールは動くことができない。小夜啼鳥型ロボットを何に使うにせよ――本体である指揮官体が動けば小夜啼鳥型ロボットは消滅する。だから宮古は、そのままリヴァイアサンのシートを蹴って跳躍する。がくんとライダー・リヴァイアサンの機体が揺れ、ハンドルを支えていた氷雨から「ゎひゃっ」みたいな声が聞こえた気がするが、今はごめん、ちょっと振り返れないんだ!
「え゛ぇ゛ー!? 運転手飛んでいくのぉー!? も、戻って来てよ高遠さーーん!!」
そんな声を聴きながら、跳躍したままに空中で三回転し。
「瞬くだけが星じゃないよ――!」
叫んだ宮古が放った【|流星の一撃《メテオーラ・ストライク》】はナイチンゲール指揮官体に直撃し、|お約束《セオリー》通りに。ナイチンゲール指揮官体は爆発する。爆風は周囲の小夜啼鳥型ロボットを吹き飛ばし、そして数秒の後、いずみの市外縁部には静寂が戻った。
「ただいまー」
「ぉっ、おかえりなさい……高遠さん」
「どうかした? 氷雨、怪我してる?」
「だ……大、丈夫!……こんなの……全然、平気だから……!」
そうだ、自分は大丈夫。こんなの全然、大したことじゃない。あんな言葉だって、気にする事じゃない。
そんな氷雨の傷は、宮古には見えなくて。
「ちゃんと消毒とかした? 痕は残らないようにね?」
「……うん、大丈夫……」
彼らは、歩き出す。「いずみの市」市内へ――。
「ここが一番見晴らしのいい場所ですね」
キエティスム・トゥエルブ(個にして群、群にして個・h01205)は「いずみの市」外縁部に建設された鉄塔の、最も高い場所から眼下を見下ろして呟く。
戦場において有利であるものは何か? そうキエティスムに問えば、間違いなくすぐに「数である」と返ってくるだろう。事実、数は有利だ。「二倍の数には勝てない」と、かつてどこかの誰かが言葉を残している。有名なテルモピュライの戦いの中ではわずか三百人のスパルタ兵は数万のペルシア軍を前に最後まで戦い抜いたと伝えられているが――それはつまり、「最後まで戦い抜いた」とは「戦死した」ということ。彼らは圧倒的な数の敵軍を前に、逃げなかっただけであり、自己犠牲を見せつけただけであり、「勝利」してはいないのだ。無論、彼らの自己犠牲はより多くの人間の心を動かしはしたが――戦場において、数万の群の前に三百の兵は散った。それが事実である。
そして、キエティスムの前に、13名に数を増やしたナイチンゲール部隊が降下してくるまでそれほど時間はかからない。
13対1。その圧倒的な数的不利を前に、キエティスムはどうするのか? ただ自己の敗北を悟り、嘆くのみか?
否!断じて否である!
今この戦場において、キエティスムが打てる手は何か。
「やるべきことは、シンプルです」
一人でより多くの敵を倒すまで――!
高台へのぼったのも、遠くから多くの敵を一方的に攻撃するためだ。外縁部鉄塔という足場の悪い場所で、ナイチンゲール部隊が取れる布陣は自動的に絞り込まれる。そして彼女らは、数を増やした代償に反応速度が半減している。
鉄塔を上り、キエティスムを排除せんとするために動く彼女らは、いかに統制の取れた機会であろうとも、必ず布陣に乱れが出る瞬間が出現する。13体部隊の中央。その10メートル範囲内にナイチンゲール部隊が固まらざるを得なかった、そのタイミングを見逃さず、キエティスムは【決戦気象兵器「レイン」】を放つ。指定地点は勿論、その半径10メートルの中心。放たれたレーザー光線一条一条の威力は百分の一に低下しているとはいえ、彼女らは反応速度が低下している。百分の一の威力を百回受ければ通常のレーザーで一度貫かれたのと変わらない損傷が出る。それが三百回ならば、損傷はレーザー三度ぶん。十三体に対してはかなり少ない数となろうが、それでも【決戦気象兵器「レイン」】の威力は反応速度の鈍ったナイチンゲール部隊には圧倒的で、そして避けられ得ないものだった。
「……終わりましたか」
一体のナイチンゲールの鋼鉄の肉体から火花が散ったあとは、連鎖的に彼女たちの動力源であるオイル、もしくはガスに引火し、連鎖爆発を引き起こしていく。それからはナイチンゲール部隊の壊滅はあっという間であり。キエティスムが鉄塔から降りて来た時には、少女たちの姿をした鋼鉄の残骸が転がっているだけであった。
「――しかし、人に似通った姿かたちをしている相手、とは」
圧倒的なやり方で敵部隊を壊滅させておきながら、それでもキエティスムの胸にはなにかが去来する。
「彼女たちの安息を祈っても、バチはあたらないでしょうか……?」
キエティスムのしたことを咎める神は本来ここにおらず、キエティスムの行為に意味はない。けれど、キエティスムの胸に神はいる。その神とは――レギオンとの出会いで「機械と言えど手を組むことは出来る」ということを知ってしまったキエティスムの、心だ。
それが、キエティスムに彼女らの安息を祈りたいと、願わせずにはいられない。
しばしの時間を費やし、キエティスムは歩き出す。
外縁部での戦いは終わった。どんな未来が待っていようとも、動かねばその未来に辿り着くことはできないのだから。
第2章 集団戦 『シュライク』

========================================
「ええい!連中の頭は|金剛石《ダイヤモンド》製か!? この私、――この私の進言に、言うに事を欠いて「意味がない」とは!」
レリギオスの上層部に「いずみの市」の「生命攻撃機能」を復活させる作戦を行う許可を得ようとした統率官ゼーロットは、それを拒否されてヒステリックに叫んでいた。
しかし、それは詮なきことであることに、ゼーロットは気づいていない。この「いずみの市」に進軍してくるレリギオスの目的は「若い人類の魂の収集の為の捕縛」――捕縛、なのであるからして。
ゼーロットが無駄な時間をかけている間に「ナイチンゲール」たちの屍を増え、そしてゼーロットは気づく。√能力者――すなわち、ゼーロットを害せんとする者が「いずみの市」外縁部に現れ、そして市内へと動いていることに。
「行け、「シュライク」ども!私は他の上層部に交渉相手を切り替えねばならん、私の功績は認められなければならないものだからだ!」
ゼーロットは再びヒステリックに喚き。
「いずみの市」市内へと進む√能力者の前に、「シュライク」たちが放たれる――。
========================================
第二章 集団敵「シュライク」が 現れました。
おめでとうございます。√能力者たちの戦いにより、「いずみの市」外縁部の「ナイチンゲール」たちはすべて倒されました。
そして、√能力者たちの行動の結果、現場指揮官は「シュライク」に出動命令を出しました。
第二章は「集団敵「シュライク」との戦闘」に決定いたしました。
以下に詳細を記します。
「★注意★」
(以下の戦闘におけるルールは「ライブラリ」の「シナリオ参加方法」→「シナリオの判定システム」の「戦闘ルール」から確認できる、青文字部分に記載されています)
敵はみなさまがプレイングに使用した√能力に必ず設定されている能力値【POW】【SPD】【WIZ】と、全く同じものを使って反撃、あるいは攻撃してきます。(リプレイ内では必ず反撃となるとは限りません。みなさまのプレイング、および状況次第です)
プレイングで気をつけるべき敵の攻撃は、みなさまが指定した√能力の能力値の√能力です。
(例えば【POW】の√能力で攻撃したなら、敵は必ず【POW】の√能力を使ってきます)。逆に言うと、指定した能力値以外の攻撃に対策するプレイングを書く必要はないとも言えます。
指定した能力値に対応した攻撃の対策に専念して結構です。
「戦場について」
「戦闘機械都市「いずみの市」」市内です。それぞれのリプレイごとに別の場所で戦うこととなりますが、すべて開けた場所です。7車線くらいの車道に誰もいない、そんな状況を想像してくださるとわかりやすいと思います。
現在、「いずみの市」市内には人類側から戒厳令が敷かれています。戦う力を持たない民間人は避難しており、存在しません。行動指示をプレイングに書く必要はありません。
戦闘に利用できそうなものはそれなりに見つかると思いますので、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださったならそれが「あった」ことにします。(「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
今回は接敵前に技能による準備行動を行っておくことが可能です。(例:準備体操を行い、体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)ただし、「いずみの市」から出る、「市内のどこかで買い物を行う」などの行動は取れません。
(買い物をしてエネルギー補給用の食べものを買う、などは民間人の店が全て閉まっているため不可能です。食べ物を食べるタイプのプレイングはその場に持ってきていたこととして描写いたします)
「集団戦「シュライク」について」
「モズ(鳥類)」を意味する名を持つ戦闘機械群です。集団で出現し、頭部のU.F.O.型マシンで生命体を捕らえ、後方の「工場」にアブダクションしていきます。
集団と戦うため、一回のリプレイで最低一体は倒しきることになります。
基本的には一回のリプレイで一体との戦闘になりますが、実際何体と戦うかはプレイングや使用する√能力により決定されます。ただし「○体と戦う」とプレイングに明記され、それに対策するプレイングが書かれていた場合はそのようにします。
√能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、金属爪や金属槍、重力弾などを使って攻撃してきますが、プレイングや√能力の内容次第ではシュライクに攻撃させずに倒すリプレイになる可能性があります。あくまで「√能力を使わないだけでは動かなくはならない」とご留意ください。
第二章のプレイング受付は、この断章の公開から即時となります。
プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
それでは、市内に放たれた戦闘機械たちを倒し、「いずみの市」市内部の戦いを制してください。
「いずみの市」に入って少しのこと。市内に「シュライク」が放たれてすぐ、レイリスはそれに感づき、そして一つの仮説を立てる。
(星詠みの言うところでは、次なる戦闘機械群との戦闘となるか、あるいは学徒動員兵やWZパイロットたちの戦闘演習に加わるか、どちらかに分岐するのだったな――ならば、このあたりに|民間人はいないと言う話だが《・・・・・・・・・・・・・》、|軍人はいる《・・・・・》――筈だな?)
それは、定まらず分岐する未来の流れを読む行為。少しでもタイミングを間違えれば、読みは外れてしまうだろう。しかし今回に限っては、レイリスの読みは大当たりであった。WZを駆るパイロットたちは、まだ残っている。
レイリスは通信を接続する。元よりほとんどの時間を√ウォーゾーンで過ごしているレイリスだ。彼女のことを知っている兵士は多くいる。彼らと接触を取り、戦場となるであろう地に味方兵を配置し、その真ん前に囮として立つ。
「ふぅむ。私は前線に出るタイプじゃないんだがなあ」
「何を仰ります、スカーレット殿。前線というのは最も戦況を肌で感じられるものでありますなれば!」
通信で味方兵が何やら言ってくる。恐らく戦争大好きおじさん的なタイプの兵士である。戦争が肌で感じられる√ウォーゾーンに存在したくてしているようなそういうタイプの兵士もやはり存在しているようだ。
「まあいい。――何も問題はない。指示通りにやれば、全て上手く行く」
これからレイリスが使う√能力――否、今レイリスが進めている作戦そのものを含めて、「そういう能力」であるが故。
レイリスはほぼ量産型で埋め尽くされたWZたちの前で、うっそりと微笑み、敵機体の接近を待った。
そして、敵機体「シュライク」は現れ。レイリスはすぅ、と息を吸い込んだ。唇の近くのマイクに向けて、高らかに宣言する。
「これは戦士の為に、これは兵士のために、これは戦う者達の為の自由――!」
通信室からすべての味方WZパイロットのコックピットに、レイリスによる「戦う者達の自由を称える歌」が響き渡る。量産型WZパイロットたち、のみならずレイリスからの通信を繋げた通信室の通信兵のすべての傍らに現れるは、伝説の銀の鷹。それは、レイリスが編み上げた【|年代記の剣達《クロニクルセイバーズ》】が、ここにあった。
元より接敵したら具体的な指示は送れないことは覚悟の上であった。だが、そうであっても何も問題のないようにWZたちを配置した。
量産型の、√能力者でないWZパイロットたちが敵機体「シュライク」に勝利し、のみならず誰一人死亡することなく生還する確率は何パーセントだろうか?
――少なくとも。それは、ゼロではない。ゼロでないのならば。レイリスはそれを1%以上までに押し上げ整えた。
そしてレイリスの歌、【|年代記の剣達《クロニクルセイバーズ》】は、1%以上あるのならば。それを100%に変える!
レイリスの歌に勇気を、覇気を、勝利への確信を与えられた量産型WZパイロットたち――軍人たちは戦闘機械群・敵機「シュライク」に向かっていく、走っていく、ガシャンガシャンガシャンとWZの躯体を走らせ、或いはバーニアによって飛翔していく。シュライクの重力弾はいくらかのWZを超重力によって稼働停止させ、傷つけ、味方機体のシュライクを戦闘強化する。超重力の範囲内にいたレイリスはダメージをまともに受けたが、それでも膝をつかない。
如何に傷つこうとも、屈しなどしない。それはレイリスの戦場の支配者としての「意地」であり、その姿に鼓舞されたものがさらにシュライクに向かっていく。
レイリスの【|年代記の剣達《クロニクルセイバーズ》】が100%にしたのは、軍人たち量産型WZパイロットたちが生存し勝利する確率。
100%に定められた勝利は、誰とも知れぬ量産型WZの攻撃を受けたシュライクが爆発し、レイリスの前に放たれたすべてのシュライクが稼働不能となって確定する。
「勝敗とは――始まる前に、決まるものだ」
勝鬨の声を上げる量産型WZパイロットたちを前にして。レイリスの羽織ったコートが風に舞い上がった。
「いずみの市」市内に、戦闘機械群「シュライク」が現れる。クラウスはドローンを飛ばしていた手を止め、その襲来を静かに待ち受ける。
(次は、こいつらが相手だね)
連戦は正直のところきつい、と体は訴えている。それでも、この街の平和を守り切るまで休んではいられない、そう魂が動き続ける。
「シュライク」の姿を認識し、クラウスは全身に身体能力を強化する電流を纏う――【アクセルオーバー】。シュライクが地面に足をつける前に、スタンロッドを手にして地面を蹴る。【アクセルオーバー】の効果によって、クラウスの移動速度は3倍に上昇している。シュライクの体勢がまだ整っていない、彼女が自分のペースを手にするその前に、高圧電流を発するスタンロッドによる一撃【紫電一閃】がシュライクの横っ面を張り飛ばす。
『――!? ――! ――!!!』
耐電装甲を貫通し、高圧電流による電撃と【紫電一閃】による強力な一撃を浴びて、シュライクは発声器官からノイズ混じりの音声を出して叫ぶ。否、叫んでいるのではない、それは機械の軋みをマイクが拾い、スピーカーが拡散してしまった程度の意味しかない。だから、クラウスはシュライクの悲鳴に何も心を動かさない。
シュライクは発声器官からノイズを出し続けながらもクラウスを敵対存在と認め、重力弾を撃ち出してくる。クラウスはその予備動作を見切り、3倍に上昇したままの移動速度で重力弾の範囲外へと逃れ出る。幸い、クラウスの元に来たシュライクは一体。彼女の重力弾によって強化される彼女の味方はここにはいない。そこにクラウスはあらかじめ飛ばしておいたドローンを思念操縦によって操り、ジャミング電波を発射させてシュライクの動きを阻害する。重力弾の範囲外へと逃れたクラウスは【アクセルオーバー】によってシュライクの元に戻るが、その間もレーザー射撃によってシュライクは一息つく間も……否、コンマ一秒、自身を平常な状況に置くことすら許されない。
(これで、終わり――!)
紫の電光を放つスタンロッドが、そのシュライクのアイカメラが最後に映し出した光景となった。電撃が高速で叩き込まれ、カメラを紫の光が覆い尽くし――それは脳に当たる部位を焼き尽くす。ヘッドだけではない。クラウスが放った【紫電一閃】は、「シュライク」のボディにスタンロッドから放たれる以上の電撃を流し込み、シュライクをもの言わぬガラクタに変えていた。
「……。もう、仲間は来ないようだね」
少しの時間を待機に使い、増援が現れないことを確認して、クラウスは歩き出す。
既に未来は決定された。だから、学徒動員兵やWZパイロットの演習は行われない。
ならば、自分が次に目指すべきは、この「いずみの市」を狙っている親玉。その場所を目指して、更に町の中核へと――。
「……シュライク。人を攫う、機械。「シュライク」の名前の元になった「|百舌鳥《もず》」には、確か枝に獲物を刺して保管する「ハヤニエ」という行動があるのでしたね……」
先ほどの鋼鉄の少女ら――「ナイチンゲール」たちは、「偵察ユニット」であると星詠みは言っていた。
ならばこれから相対する敵は、さしずめ「主力ユニット」ということだろう、そうキエティスムは考える。
(また、こちらより敵の方が多数……すこしその物量差に、妬ましさを覚えてしまいますね)
キエティスムは再び戦場を吟味する。数に劣るであろう自分が戦闘に勝利する条件を整えるため。選んだのは、シュライクたちが「若き生命体」を捕らえてアブダクションするために「いずみの市」内に即席で作り上げた「工場」の近くだ。後方からの奇襲は恐らく戦闘機械群にとっても想定外の筈。
(幸い、民間人はいないとのこと。巻き込む心配はない――。では、軍人は? 一応、聞いておきましょうか)
キエティスムは√ウォーゾーン内にある、自身とつながりのあるところへ通信を行う。応答した通信室の通信兵によるならば、キエティスムのいる近くには民間人、軍人を含めて非√能力者はゼロであるとの応答が返った。なんでも、要請により近くにいた軍人――WZパイロットたちが要請を受け、皆出払っているとのことだが――キエティスムは、それを自分以外の√能力者の行動の結果であろうと結論付ける。
「よかった。細かい調整は苦手ですので、少しの懸念が残っていたのです」
やがて、「工場」から二体のシュライクがキエティスムの生命反応を感知して出て来る。恐らくは、キエティスムを捕らえ、工場へとアブダクションするために。だが、生憎。キエティスムは「|シュライク《百舌》」の獲物ではない。「ハヤニエ」にはならない。
二体のシュライクを中心として、13メートル範囲内が暗雲で覆われる。す、とキエティスムが手を上げると、暗雲から青紫色の落雷がシュライクに落下する。
それは【|第十二番「汝の魂の静寂に捧ぐ」《ミゲル・デ・モノリス》】。威力は百分の一に抑えられているとはいえ、一度の落雷の電力は約約15億ジュール。家庭で使う電力の約二か月分、電圧で言えば家庭用の百万倍、1000台の高速列車が同時に走れるほどのパワーを持つ、それが百分の一になろうとも、三百回浴びせられれば三回分になる。すなわち、二体のシュライクは45億ジュールの落雷を受けた。避けることもできず、攻撃に転じることも不可能。容赦も躊躇いもない攻撃だった。
金属が焦げ、シュライク「だったもの」が転がる。機械群に生命はないが、間違いなく既に絶命している。もはや再利用できる余地はない。
――そう仕向けたのはキエティスムだ。それでも、キエティスムはシュライクたちの魂の安息を願った。
「あなたたちは、まさしく邪悪。だから私は、容赦も躊躇いもなく攻撃を遂行した。
「それでも、死は――善悪区別なく平等です」
これは、貴方たちへの手向けです――
真っ黒に焦げた金属の塊に対し、キエティスムは数秒の時間を鎮魂の祈りに費やすのであった。
「ひぃん……」
氷雨のメンタルはズタボロであった。主に、さっきナイフが壊れた時に虚空から聞こえてきたチクチク言葉によって負った心のダメージの為である。
とはいえ、いつまでもじめじめとしていられる状況ではない。ここは「いずみの市」市内、戒厳令によって民間人が消えた七車線道路――を、バイク「ライダー・リヴァイアサン」でかっ飛ばしている宮古の後部シート。
「ナイチンゲールたちは無事全員倒されたみたいだけど、今度は新手が出てきたっぽいね」
「う、うん、高遠さんのおかげで、さっきのはクリア……」
「どうやらちょうどこっちに一体向かってきてるみたいだし、そのまま迎え撃つよ!」
「次、次は……あ゛ーー!!」
遮るものなき道路を弾丸のように疾駆するバイクの勢いに、溶けた飴のように伸びていく氷雨の声。
「ライダー・リヴァイアサン」の眼前には、浮遊する「シュライク」の姿が、一体。
宮古は氷雨の念動力によるサポートを信じ、躊躇なくバイクを疾走させ――宮古は再び、シートを蹴って跳躍する!
「ええええん!また高遠さんが単身突撃したぁー!!」
氷雨は半泣きだった。後部シートから何とか振り落とされないようにしてずりずりと器用に宮古の座っていたシートまで移動すると、ハンドルを握りしめる。
「た……高遠さんが、バイクから飛んでってる間……俺がバイク、運転しなきゃじゃんー!」
氷雨のこれは別に宮古を責めているわけではない。氷雨のぽやぽやとしたハートが宮古からの信用にあんまり気づいておらず、受け止めきれていないだけだ。蛇行しながらもスピードを緩めないリヴァイアサンにしがみつきながら、氷雨は√能力【|ぽやぽやぱわぁ《フリーダムパワー》】を使って宮古にぽやぽやぱわぁから生まれる念動力を接続し、宮古が接続範囲内から外れないようにバイクを「シュライク」を中央に、円を描くようにして走らせる。そうなれば多少スピードは落ちるが、それでもリヴァイアサンのスピードは豪速だ。
「もおー!!」
氷雨が涙目になっている間に、氷雨自身の念動力を利用して宮古は氷雨の【|ぽやぽやぱわぁ《フリーダムパワー》】の効果範囲内ギリギリまで高く飛び上がる。
それをただ黙ってふよふよ浮いて見ているだけの「シュライク」では勿論ない。宮古が自身を攻撃してくることを感知し、金属爪が届く射程まで跳躍し、金属爪によって宮古の体を掻き裂く。宮古は避けられない。元より跳躍状態というのは攻撃への回避ができない体勢と状況であることに加え、今回限界を越えた跳躍に使っているのは宮古自身ではなく氷雨の念動力。氷雨が宮古の状態に気づけていたならば、あるいは宮古の肉体を念動力で動かし、シュライクの金属爪から離れた場所へ運ぶという選択も出来ただろう。だが、氷雨がリヴァイアサンにしがみつきっぱなしになるであろうこと、宮古の作戦により氷雨の念動力を利用するならば、氷雨は「宮古を自分の√能力の範囲内から出さない」ことでいっぱいいっぱいになってしまうことは宮古にも予想がついていた。
故に宮古は、「シュライク」の金属爪を敢えてくらった。金属爪はリーチが短い。だからこそ、隠密状態になったとしても、確実に攻撃が当てられると読んでだ。事実、隠密状態になったシュライクはそれに――戦闘機械である|彼女《シュライク》に「心」というものがあればだが――慢心し、宮古の側からすぐに離脱はしなかった。
(この戦いは、連戦・長期戦になることが予想されるからね……出来るだけ消耗は少なくする)
そうして、宮古は放つ。流星の如き蹴撃【|流星の一撃《メテオーラ・ストライク》】を!
宮古の【|流星の一撃《メテオーラ・ストライク》】はシュライクに踵をぶちこみ、そのまま地面へとめり込ませた。
ギャリギャリギャリ、とシュライクの金属の皮膚がアスファルトの地面に擦れ、火花を散らし――そして、宮古がそこから氷雨の念動力を借りてすぐに離脱したあと、爆発する。いつの世もライダーにキックをぶち込まれた敵は爆発四散するものなれば。そして、「シュライク」の躯体はその爆発に耐えきれる体ではなかった。
爆発を背に、宮古は地面に降り立とうとして――未だ自分がふよふよと浮いていることに気がついた。
「というか結局俺がバイク乗り回すから両手が塞がってて何にもできないじゃん俺ー!!なんだってこのバイクこんなに速いんだよぉー!!」
ぐるぐると回りながらリヴァイアサンにしがみついている氷雨は、自身が念動力で宮古を浮かせ続けていることに気づいていない。
(うーん、これは、逆にラッキー、だったかな)
宮古は「シュライク」に掻き裂かれた体をジャケットで隠すと、氷雨に自分を地面に下ろすよう声をかけるのであった。
「さぁて、今度も団体戦か。羽根つきはここで仕留めにゃ、でかい被害になるね」
葵が今いる「いずみの市」市内、戒厳令によって民間人たちが消えた広場には既に戦闘機械群「シュライク」三体が現れていた。
(良い感じにまとめて来てくれた。派手なのかましてやろうかね……!)
両手に「鎮宅霊符」を五枚ずつ持ち、葵は広場の噴水のコンクリートを高下駄で打ち鳴らして「シュライク」たちの注意を引いた。
「かかって来な、鳥モドキども!まとめて祓ってやるよ」
無論、その言葉に何もしない「シュライク」たちではない。三体から一斉に重力弾が葵へと放たれ、そしてそれぞれ味方に重力操作による戦闘力強化がかかる。畢竟、強化された重力弾が葵へと降り注ぐことになるが、葵はそれを空中を駆け、大きな動きで回避する。戦闘力強化によって強化された重力弾は葵を追尾しようとしたが、元々備えていた能力ではないが故に途中で力尽きる。重力弾が自身を捉えなかったことを確認して、葵は霊符に力を込める。
「いぃち!じゅうッ!ひゃぁく!せん!まん!――【|万乗弾幕符《オフダバラージ》】ッ」!!
霊符が霊符を口寄せし、鼠算式に増殖した霊符によって左右の空間が霊符で覆い尽くされる。展開されたのは、霊符による弾幕!そこから、三体のシュライクに無数の霊符が貼りつく。シュライクは金属爪の手でそれを剥がそうとするが、如何せんその金属の躯体は人間のそれとは違う。鳥の爪を模して造られたかのような巨大で広がったアームは、己の肉体に貼りついた札を剥がすには不器用すぎた。
「――爆ぜ祓いッ!!」
掛け声ひとつ。霊符が一斉に起爆する。【|万乗弾幕符《オフダバラージ》】によって、その霊符の爆発はより深く、より大規模に周囲を巻き込むものとなっている。
三体のシュライクすべては霊符の爆発によって金属躯体の内部にまで及ぶダメージを受ける。シュライクの活動に不可欠な部品が破壊され、そしてメインコアが爆ぜて、体内で発生した火花によって連鎖的に爆発していく。
爆発が落ち着いた後、広場には「シュライク」の焼け焦げた金属のパーツがばらばらに降り注ぎ、彼女らが彼女らであったと示すのはわずかに残った少女の頭部と、大きなUFO型の焦げた円盤だけであった。
葵はそれを乗り越える。
「さぁて、残るは――こいつらを差し向けてきた親玉の首を取るだけだね」
「さて……オレの勘だと、敵さんは主力をここで全力投入してきてるようだが?」
継萩・サルトゥーラ(|百屍夜行《パッチワークパレード・マーチ》・h01201)は戦闘機械都市「いずみの市」の、戒厳令によって人々が消えた七車線道路の真ん中で敵を待っていた。
やがて、サルトゥーラの前には二体の「シュライク」が現れる。その独特のフォルムを目にし、サルトゥーラは呟く。
「へぇ? 明らかに戦闘に特化した躯体じゃあないな……?」
(確か星詠みはこの都市が狙われた戦闘機械群の目的は「若い人類の魂の収集の為の捕縛」……と言っていたな。ならば奴らは本来後方で人類の捕縛を任されているはず。それらが前線に出て来るというのならば)
そうサルトゥーラに思考させるのは、デッドマンであり、数多の戦場で肉体を「継ぎ足し」されてきたサルトゥーラの数多の「遺体の記憶」かもしれない。つらつらとそう思考は展開し、結論を導き出す。
「こいつらが出て来るしかないほどにもう敵戦力が残っていないか、司令官が余程間抜けか。そのどちらかだな」
正確にはその両方が正解であることは、サルトゥーラには気づき得ぬ事実である。
「いいだろう、やってやろうじゃないの!」
サルトゥーラが景気よくそう叫んでソードオフ・ショットガンを構えると同時、近づいてきていた「シュライク」の腰部から長く伸びた金属槍がサルトゥーラを襲う。サルトゥーラはソードオフ・ショットガンの弾丸を撒き散らして金属槍を弾き返す。機械である「シュライク」の判断は早かった。サブカメラ――片目を破壊し、即座に再行動して再び金属槍を放ってくる。二撃目はソードオフ・ショットガンの銃身そのもので直接弾き返し、サルトゥーラはその場で自身の√能力を展開する。
「さぁ、いっちょハデに行こうや!!」
サルトゥーラは地面を蹴り、そしてそのまま体を軸にして身をよじると、近い方にいたシュライクに蹴りをかます。そのまま地面に降り立ち、シュライクの顔面にソードオフ・ショットガンによる弾丸の雨を降らせた。近距離で銃撃を喰らった躯体、これが肉の体だったなら顔が耕されていることだろう。しかし、金属で出来たシュライクの躯体はそこまでの残虐な遺体にはならない。ただ、両目――サブカメラに続いてメインカメラを潰され、聴覚たる集音マイクを破壊され、スピーカーも破壊された金属躯体が、頭部の機能を失ってなおも動こうとしている。それに対してショットガンから胴体にゼロ距離で弾丸の雨をぶち込み――元来、ショットガンは近づいて撃った方が威力が増すものだ――動力核を破壊して、爆発の兆候を見て取るや蹴り飛ばす。それで一体のシュライクはバラバラの金属片となった。
その場に警告音が鳴り響く、この場にシュライクは二体いた。サルトゥーラは攻撃を一体のシュライクに集中させため、攻撃を受けなかったシュライクへは「攻撃が外れた」ものとして認識された。誰にであろうか、敢えて言うなら世界の理にである。飛行していたシュライクの肉体が地面に落ちてくる。警告音が響き渡る場所では、サルトゥーラ以外のすべての者の行動成功率は半減し、シュライクは運悪く「飛行し続ける」という行動を失敗して落ちてきた。
「さあ次はおまえだ、覚悟は……機械人形にそんなもんを聞くのは野暮だったな」
ならば、戦うのみ。自身は機械の躯体を解体するのみ。サルトゥーラの手に握られたソードオフ・ショットガンはそのままシュライクの胴体部分に近接距離から弾丸をぶっ放す。ショットガンの銃撃を至近距離で喰らったシュライクの肉体は二つに割れた。それでも動力核はどちらかに残ったのか、上半身と下半身は泣き別れになったまま動いている。シュライクの上半身はその場から遠ざかって体勢を立て直さんとする動きを見せ、下半身はむき出しになった腰部から火花を散らして動力源がコントロールを失っている――生物であれば痙攣しているだけだとその動きから判断し、動力核は上半身にあると見て取ったサルトゥーラは下半身を蹴り飛ばし、上半身に弾丸を降り注がせた。そしてそこから、ダッシュで遠ざかる。
シュライクの金属躯体から火花が散り、漏れ出したガスもしくはオイルに引火して爆発を起こす。この時点で残っていた方のシュライクも行動不能となった。あり得るとすれば頭部は無事だが、動けない以上は意味のない映像を映し出すだけである。どこかに映像を送られたとして問題はない。
「さて、それじゃああとは……こいつらを送り出した哀れな、或いは間抜けな司令官を叩けば、解放戦は無事終わるか」
そういうと、サルトゥーラはソードオフ・ショットガンを収納し、歩き出すのであった。
第3章 ボス戦 『統率官『ゼーロット』』

「クソッ、堅物どもめが!この程度の都市の生命など、必要分だけ捕縛すればあとは殺して構わんだろう!」
統率官「ゼーロット」はヒステリックに叫んでいた。
彼――以降、この個体を男性であると仮定してそう呼ぶ――彼は、この時まだ知らない。
既に「いずみの市」を解放するために現れた√能力者が、彼に与えられた配下を倒し尽くしたことを。
自身に与えられていた配下が戦っている間、出世の為だけに口先の争いに精を出していた統率官「ゼーロット」は、自身の元に√能力者たちが近づいてくるのにようやく気づき、こう叫んだ。
「シュライク!ナイチンゲール!いないのか!ああ使えん!」
自分を守るものを何一つ残さなかった無能な統率官は、自身が戦うよりないのだと気づいてそのまま基地の階段を下りていく。
降伏は認められない。降伏しても破壊されるか、ばらばらにされるか頭脳部をくりぬかれ、その機能だけを利用されるだけだということは、無能な彼にも理解できていた。
ゼーロットは|あなた《√能力者》たちを迎える。
彼を倒せば、「いずみの市」は無事、戦闘機械群の手から奪い返すことが可能になるだろう。
========================================
第三章 ボス戦 『統率官『ゼーロット』』が現れました。
おめでとうございます。√能力者たちの活躍により、「ナイチンゲール」に続いて放たれた、「いずみの市」に侵攻している戦闘機械群「シュライク」は全て倒されました。
これにより、彼女たちをレリギオスから与えられていた「統率官「ゼーロット」」――仮称作戦名「いずみの市侵攻部隊」の統率者は、「ゼーロット」を除いていなくなりました。
あとは「ゼーロット」を倒せば、「いずみの市」は無事人類側の手に戻るでしょう。
以下に、詳細を記します。
「★注意★」
(以下の戦闘におけるルールは「ライブラリ」の「シナリオ参加方法」→「シナリオの判定システム」の「戦闘ルール」から確認できる、青文字部分に記載されています)
敵はみなさまがプレイングに使用した√能力に必ず設定されている能力値【POW】【SPD】【WIZ】と、全く同じものを使って反撃、あるいは攻撃してきます。(リプレイ内では必ず反撃となるとは限りません。みなさまのプレイング、および状況次第です)
プレイングで気をつけるべき敵の攻撃は、みなさまが指定した√能力の能力値の√能力です。
(例えば【POW】の√能力で攻撃したなら、敵は必ず【POW】の√能力を使ってきます)。逆に言うと、指定した能力値以外の攻撃に対策するプレイングを書く必要はないとも言えます。
指定した能力値に対応した攻撃の対策に専念して結構です。
「戦場について」
戦場は「いずみの市」仮掌握基地前――市役所前の無人の駐車場となります。戦う相手はボスのため、リプレイごとに連戦となります。巨大なWZのいくつかが動き回っても問題ない、広い場所です。
市役所内、市役所周囲に人間はいません。民間人は追い払われており、また√ウォーゾーンの軍人も存在しません。
行動指示をプレイングに書く必要はありません。
戦闘に利用できそうなものはそれなりに見つかると思いますので、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださったならそれが「あった」ことにします。(「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
今回はリプレイ開始とともに敵がその場にいる状況となりますので、事前の行動を行っておくことは不可能です。(例:準備体操を行い、体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)
何らかの準備行動を行うには、戦闘と並行して行うことになります。
「ボス戦「統率官「ゼーロット」」について」
レリギオス・オーラムの統率官のひとりで、人類には全く興味を示さず内輪揉めと出世争いにのみ執心していましたが、己の身が危ういと気づいてようやく出てきました。
統率官としては無能極まりありませんが、「戦闘機械群ウォーゾーン」から与えられた武装はそれなりに有能であり、また、それを利用する術も心得ています。
ボス戦であるため、リプレイごとに敵にダメージを与えていく形となります。最後のリプレイでなければ、敵に止めを刺すことは出来ませんので、あらかじめご了承ください(どのプレイングを「最後のリプレイ」として採用するかは、送られてきたプレイングの締め切りおよびプレイングの内容によって決定します)
√能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、ゼーロットは創造した兵装や腹部からのビーム光線などを使って攻撃してきますが、プレイングや√能力の内容次第ではゼーロットに攻撃を行う暇を与えさせないリプレイになる可能性があります。
あくまで「√能力を使わないだけでは動かなくはならない」とご留意ください。
第三章のプレイング受付開始時間は、この断章公開から即時となります。
プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
それでは最後の指揮官機体を倒し、戦闘機械都市「いずみの市」を完全に人類側の手に取り戻すしてください。
戦闘機械都市「いずみの市」。市役所前――仮掌握基地前の、無人であった戦場に――レイリスは、一人では訪れなかった。
「シュライク」と戦闘した際にともに戦った軍人、WZパイロットたちを引き連れてきたのだろう。彼女は幾つものWZたちと共にあった。
なんという傍若無人な作戦か。しかし、その手は通る。レイリスはほぼこの√ウォーゾーンで過ごしていると言って差し支えず、「シュライク」と戦う時に集めた者たちもレイリスだからと集まった知己の者たちだ。あの場でWZパイロットたちを解散させていたとしても、この戦いに応じて呼び出せば飛んできたであろう。何せ、これは「いずみの市」に侵攻してきた戦闘機械群から自分たちの街を取り戻すための戦いなのだ。だが――これは非常に低い確率でレイリスに都合のいい状態が積み重なり、成り立った事象である。次に同じことがあったとしても、恐らくは同じようには出来ない。
「さあ、諸君。この地を我らのものと取り戻すため――最後の仕上げと行こうか」
オオオオオオオオオッ!!
レギオンは既に各所に展開済みだ。無論、外縁部で使ったものがそのままここにある、ということはない。レイリスはここに来るまでにWZたちを連れて移動してきた。それより少し先に先行させ、設置したというだけのことである。
「さあ、諸君に私の目を貸してやろう!!」
【|全方位照準支援《オールレンジターゲッティングアシスト》】。半径18m内の味方全員、すなわちWZパイロットたちに無線戦術リンクシステムを接続する。これにより、レイリスの持つ戦術、すなわちレイリスの持っている敵「統率官「ゼーロット」」の情報が全てのWZパイロットたちに共有された。レイリスにとってはそれだけではない、味方の行動予測も出来るようになったため、連携が取れやすくなったと言えるだろう。
「おのれ、小癪な真似をッ!!」
統率官「ゼーロット」は腹部から内蔵兵器であるビーム砲台を露出すると、ビームを乱射する。乱射状態であるため威力は百分の一にまで抑えられているが、その発射回数は三百回に至る。レイリスの側になんの用意もなかったならば、何の装甲もなく立っているレイリスは負傷程度はしていただろうし、WZが数機破損していておかしくない。だが――。
「馬鹿め」
レギオンを反射板とした跳弾計算は、レイリスは既に見せているつもりだ。まさかゼーロットが、上層部との小競り合いに忙しくしていてそれを「見ていない」とはレイリスも思わなかっただろう。レイリスはゼーロットの放ったビーム、その全てをレギオンによって反射させてゼーロットに弾き返す。ゼーロットの装甲が爆ぜる。
「馬鹿な……ッ!?」
そこでWZたちが躍り出た。【|全方位照準支援《オールレンジターゲッティングアシスト》】によって無線戦術リンクシステムを接続されているWZパイロットたちは、命中率と反応速度が1.5倍に上昇している。そして、WZのパイロットたちであれば√能力者でなくとも自身の反応と同時にWZを操る事が可能だ。量産型WZたちはレイリスの行動を妨げることなく、パイロットたちは無線戦術リンクシステムによってレイリスの戦術を読み取り、ゼーロットを取り囲んでいた。
彼ら量産型WZは集団での戦闘行動を得意とする。WZによる十字砲火が、ゼーロットを襲った。
(こいつを倒せば、「いずみの市」を奪還できる……)
「――絶対に、負けられないね」
クラウスはバトルアックスを握りながらゼーロットに相対する。
「わざわざ出てきてくれるなんて、ありがたいね」
ゼーロットの注意を引きながら地面を蹴り、真っ向から走って近づく。一見無策で突っ込んだように見えるクラウスのその行動に、ゼーロットはせせら笑った。
「甘く見られたものだ!!死ねぇッ!!」
ゼーロットは腹部の内部装甲からビームを乱射する。乱射状態であるが故に威力は百分の一にまで分散されているが、三百回分の乱射だ。そのビーム乱れ飛ぶ中に突っ込んでいけば、クラウスとて必ず負傷する。だが――クラウスは、既に自身の√能力を発動していた。
【|先手必勝《せんてひっしょう》】。「自分を攻撃しようとした対象を」先制攻撃する√能力、故に。
クラウスはゼーロットがビームを放つより先に、バトルアックスの射程まで跳躍する。そして、バトルアックスの一撃がゼーロットの腹部を薙ぐ。ビーム照射装置を破壊できればよかったが、それは叶わなかったようだった。
光学迷彩で身を隠せど、隠されているのは視界からのみ。故に乱射されるビームの範囲内でエネルギーによるバリアを張ったクラウスはそのまま、想定していた回避の行動選択視を捨てる。
小型ドローンのジャミングによって隠密状態を強化し、ビームの照射される中を疾走してゼーロットの背後に回る。腹部からのビームは、ゼーロットの背後にまで届くようには出来ていないからこそ――クラウスはバトルアックスによってゼーロットの装甲を破壊した。
「ガッッッ!?」
自身の背後に何者かがいる。それを攻撃されることで察知したゼーロットだったが、そこで混乱が起こる、彼の視界は誰もいない目前を捉えている。故に視界以外の電子計器によって見えない何者かを捕捉しようとしたゼーロットに対し、その計器に出鱈目なジャミングが仕掛けられた。無論、クラウスの手によるものである。
「おのれ、矮小な人類めが、どこだ、どこにいるッ……!!」
ヒステリックに喚きながら目の前だけを探すゼーロットに、クラウスは破壊した装甲から電磁ブレードをねじ込んだ。ゼーロットの機能停止を狙ったのであるが、ゼーロットは統率官機体である、さすがに己の躯体の仕組みを理解していない者の攻撃で機能停止するほど単純な躯体の作りはしていなかった。ただ、背後の装甲がはがれてむき出しになったそこがばちばちと火花をあげる。確実にゼーロットにダメージを与えているのは確かだ。
(……さて、ここからどうするか……!)
クラウスは距離を取り、次の己の行動を自身に問うのであった。
「ふふ、こちらが数的圧倒的有利になりますね」
キエティスムは唇に柔らかな笑みを浮かべた。
敵の指揮官、統率官ゼーロットの近くにはもう兵はいない。対して、こちらには味方がぞくぞくと向かっている。
別々の場所からそれぞれの道のりで向かっているがゆえに、キエティスム自身が味方に直接会えるかどうかはわからなかったが――。
「それでも、つまりは数的有利。とても気分が良い」
とはいえ、直接の合流が確実には望めない以上、気は抜けない。他にも気をつけなければいけない点は複数ある。
ゼーロットは指揮官としては未熟極まりない個体であるが、単体戦力としては脅威と言って申し分ない力を与えられている。
相対するゼーロットの戦力を測っているキエティスムに対して、キエティスムを目にしたゼーロットはヒステリックに喚く。
「おのれおのれおのれェッ、矮小な人類が!!どこまでも私に歯向かおうというのかッ!!」
ゼーロットがそうしている間に、キエティスムはひそかに√能力を使用する。
【レギオンスウォーム】。
半径15メートル内部に、15体の小型無人兵器「レギオン」が配置される。
(……頼みましたよ、友人たち)
配置作業が終わり、キエティスムが攻撃を仕掛けんとした時、目の前でゼーロットの姿が消え、その場に放電現象が起きる。
「――っ、まさかッ!?」
それはゼーロットの√能力だ。【リモデリング・フィンガー】、視界内のインビジブルと自身の位置を入れ替え、入れ替わったインビジブルを放電させる技。キエティスムはその√能力を確かに危険視していた。だが、それは自身ないし味方からの攻撃に対する回避として使うだろうと考えていた。
まさか、こんな風に――瞬間移動の為だけに、インビジブルを|使う《・・》と思っていなかった!
入れ替えられたインビジブルが消滅するかは杳として知れない。ただ放電するだけで、消滅はしないかもしれないが。
レギオンによるセンサーの索敵位置は明確だ。キエティスムの眼前。キエティスムも、その目でゼーロットを捕らえている。今のゼーロットが何をしてくるかの予測が出来ない。キエティスムはレイン砲台によって先制攻撃を行おうとし――その瞬間に気がついた。
「狙いは、「私」……「これ」!」
キエティスムの目の前でゼーロットが消える。その場には放電現象が残される。ゼーロットは自身の√能力を、キエティスムが予想していた「回避と反撃」ではなく、「積極的な敵への接触」ないし「そこからの瞬間離脱」そして「そこに放電現象を残しておく」ことによる積極的な攻撃行動として使ったのだ。
(……まずい!まだ味方が到着していない今、ゼーロットの攻撃対象は「私一人」に絞られる……!)
数的有利状況ではないが、その状況を作り出すより前にキエティスムがやられてしまえば、後に味方が辿り着いたとしてもキエティスムの分マイナスされる。ならば。
キエティスムはレギオンミサイルによる攻撃を選択した。複数の位置からの攻撃ならば、瞬間離脱能力も上手くは作動しまいと信じて。
「ぐ、おおおおおっ!?」
既に、キエティスムを対象としたゼーロットの行動パターンの読み取りは終了している。狙い通り、ゼーロットはレギオンミサイルによって負傷している。特に背面の負傷が大きいようだ。
(ゼーロットの行動パターンをここに、神経に接続可能な信号パターンとして残します!私とあなたたちがいなくとも、それが何かの役に立つよう……!)
キエティスムは後から来る味方がそれを役立ててくれることを信じて、それを選択する。
そして彼は、負傷したゼーロットへとレイン砲台からのレーザー射撃を行うのだった。
「ああ、ったく!やかましいやつだね、インテリ風な見た目で雑な事言ってるんじゃあないよ!」
表の顔である不動産業の事務員をしているときに見かける「嫌な顧客」のことを思い出し、葵は毒づく。
これは公憤――正義の怒りの上に、私怨も載せてぶっ飛ばさなければならない。葵は決意した。葵には戦闘機械群たちの足の引っ張り合いやらなんやらということはわからない、わからないが――目の前の統率官「ゼーロット」を倒せば、これで一つの町が人類側の手に戻るということだけは理解できている。
「さぁ、それじゃあはじめるとするかねえ!!」
地面を蹴り、適切な距離へと着地すると、葵は手にした複数の霊符自身に口寄せをさせる。
「いっち、じゅう、ひゃく、せん、いか、しょう、りゃく!――百乗弾幕符!!」
一枚一枚に載霊して霊的打撃力を持たせた霊符。それが弾幕となる。葵は知っている。こいつは当たると一枚でも結構痛い。
弾幕を隠蓑にして空中に飛び上がると、宙を滑るように疾走し。ゼーロットを着地地点として、葵は√能力を解き放つ。
【|禍祓大四股踏み《まがばらいおおしこふみ》】。載霊式高下駄が葵の全体重を乗せてゼーロットを踏みつけんとする。ゼーロットは√能力によって兵装「大盾」を、創造し、葵の【|禍祓大四股踏み《まがばらいおおしこふみ》】を防ぐ。防がれてすぐ葵は九頭竜の刀を抜いた。今ゼーロットから半径18メートル圏内は「浄域」となった。それにより、葵以外のすべての行動成功率が半減している。
「はっは、使い続けてみなよその大盾!すぐにポキッといくからさぁ!!」
葵の浄域の中で、ゼーロットの行動の成功率は半減した。そしてゼーロットの√能力は13%の確率で消滅する兵装を生み出すものだ。その13%の確率は、浄域の内部にいる限り26%に跳ね上がる。刀で切り込む葵に対し、ゼーロットは自然と生み出した大盾による防御を強いられることになる。人類が呼吸をすれば酸素を取り込むのと同じくらい自然な流れであり、この流れを断ち切るにはゼーロットに強力な「ひらめき力」がなければ不可能であろう。そして、そんなものはゼーロットには搭載されていない!!
だからこそ、自明の理のように「防御する」という技能を使い続けた結果、生み出された大盾は壊れて消滅し、大爆発が起こる。
「ぐぅおおおおおおおッ!!」
ゼーロットの絶叫が響く。ぐるんと九頭竜の刀を取り回し、葵は唇を吊り上げた。
「さあ、まだまだ行くよ!」
一言高らかに叫ぶと、葵はゼーロットに向かって躍りかかった――。
「さて……助太刀に来てんけども。いやぁ、なんや、こう……お前の方がめんどくさいやっちゃな」
朔月・彩陽(月の一族の統領・h00243)は呆れながらゼーロットを見やる。
「ええい、黙れ黙れッ!!なぜ私が!人類などに呆れられねばならぬのかッ!屈辱!屈辱の極みだ!!」
そう喚き散らすゼーロットを前に、彩陽は思考を巡らせる。
(速めに倒せるなら倒せるほうがええな)
「ほな、いくで……、っ、ケホ」
旧家の頭領になるべき者として「足らぬ素質」を無理矢理詰め込まれ、故に病弱な体を持つ彩陽はよくない音の咳をしながら√能力を展開する。
「我が名に応えよ、我が命に応えよ、その名に刻まれし使命を果たせ――」
【|月御霊・式神戦《つきごりょう・しきがみせん》】。朔月の御霊たる式神たちを多数召喚する――数だけは多い、と彩陽が皮肉に笑うように、幾らでも湧いて出て来る式神たちをゼーロットへと突撃させる。ゼーロットは彼らを散らすために槍型の武具を創造するも、式神たちは無数に現れ出でて突撃を繰り返す。
彩陽は命令を術のように使い、式神それぞれの判断で突撃コースを変更するように命じながら、続けてゼーロットと一定の距離を取りつづけながら√能力を解放する。
【|霊震《サイコクエイク》】。放たれた霊能震動波は、ゼーロットにのみ最大震度七の震動を与え続ける。
「グラグラ揺れとる中で動くんはなかなか難しやろ? ――式神の突撃、喰らって散れ」
ゼーロットが突き出した槍状の武器を宙をふうわりと飛ぶように避けて。
「こっ、この、人類などがッ、おのれ、おのれおのれおのれェっ……!!」
式神たちは――ただ突撃してくるだけ。それを捌き続けるゼーロットだったが、それにも限界がある、ゼーロットの用いた√能力はやがて壊れる兵装を創造するものであるが故に――。文字通り、無限の数を頼りに攻撃してくる彩陽の式神とは、こと相性が悪い。特に、戦闘機械群ウォーゾーンであっても地震に対応している個体は少ない。何故ならば、「空を飛んでしまえばいい」からだ。されど、彩陽の使った【|霊震《サイコクエイク》】は地面を揺らすのではない。対象そのものに振動を与え続けるものであるが故――ゼーロットは、それに対して何の装備も対策も持ってはいない。満足に動くことかなわぬ中で、式神を払いのけ続けた槍状の武器は、やがて爆発し、ゼーロットに爆破のダメージを与える。
「ぬぐぅっ!!!」
ボロボロの体のゼーロットに、とどめとばかりに式神がぶつかってゆく。既にゼーロットにはそれを避ける術はなく――。
「ぐオオオオオオオオオッ!!――、――」
絶叫、そして発声器官が破壊され、ただノイズだけが周囲に響き、それもまた式神の突撃によって破壊される。踏みにじられる。バラバラの金属の塊と化したゼーロットに、それでもぶつかってゆく式神たちを、彩陽が命じる術によって止まらせる。
「ん、終わりやね、……ケホッ」
よくない咳を一つして、ああさてこれからどないしたらええんやろ、と彩陽は周囲を見渡した。
斯くして、戦闘機械都市「いずみの市」に伸びていた戦闘機械群ウォーゾーンからの侵略の手は、止まる。
いつの日か、またこの街が戦闘機械群によって襲われる日が来るかもしれない。
けれどそれは、今ではない。
√能力者たちの手によって侵略を食い止められた「いずみの市」は人類の居住地として、また動き続ける。