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【王権決死戦】最後に残ったものは
√ドラゴンファンタジーのダンジョンへと、宿敵旅団ペンタクルム・ゲートの幹部が招集された。
「皆、よく欠けることなく集まってくれたな」
久々の再会を喜ぶ言葉を口にしながらも、犯罪鬼妖教授『モリアーティ』の表情は明るいとは言えない。
「多くの作戦がEDENの能力者によって阻止されてしまった」
集められた情報も資材もペンタクルム・ゲート実現には程遠い。だが、一縷の望みがある、と『モリアーティ』は愁眉を開く。
「移動神殿と共に消えた、骸纏ノ姫『清羅』に呼びかける事が可能になった」
ならば早速、と『心と可能性を探求する者』が中心となって、一同は骸纏ノ姫『清羅』への呼びかけを開始する。
「! 反応が……」
直後、ダンジョンの空間が切り裂かれ、小王劍とともに骸纏ノ姫『清羅』が空間の裂け目からぬるりと現れたではないか。
しかも小王劍の数は多い。その数なんと十四……!
「こ、これは」
驚く幹部たちを認めるなり、骸纏ノ姫『清羅』は勢い込んで訴える。
「王劍『縊匣』が、『ペンタクルム・ゲート』を……!」
どうやら緊急事態らしい――。
骸纏ノ姫『清羅』の話は長かった。
淫蕩の悪魔『アスモデウス』なりに解釈したところ、骸纏ノ姫『清羅』は白い劍――おおかた王劍『縊匣』であろう――がいる『五つの扉のある異空間』にいたらしい。
その異空間こそ、ペンタクルム・ゲートの中枢だったそうだ。
どうも王劍『縊匣』は、ペンタクルム・ゲート完成の暁に小王劍を多くの√世界に送り込まんと待ち構えていたらしい。
「俺達の計画にただ乗りしようってことかな……。面白くないねぇ」
しかしアンドロスフィンクスが絶対死し、王劍『縊匣』は計画の頓挫を察したのか、異空間から逃げおおせようとした。
「で。逃げる白い劍から『小王劍』を奪い取った清羅ちゃんが、俺らの呼びかけで戻ってきたってワケね」
しかし、『縊匣』がエネルギーを持ち去ったために、ペンタクルム・ゲートの中枢だという異空間は消滅の危機にあるのだと清羅は訴えている。
「そうはさせないよ。俺の悲願が完全に潰える前に|『小王劍』《コイツ》で手を打たなきゃね」
√EDENに降り立ったアスモデウスは険しい表情で、清羅から自分に渡された一本の『小王劍』を睨めつけた。
消えかけている異空間を維持させるためには、大量のペンタクルム・パールが必要だ。
幸い、この『小王劍』は人間を殺すだけでペンタクルム・パールを生成する力がある。
「だったら、ここで誰でも良いから殺して殺して殺しまくるしかない。あんまりスマートじゃないけど、手段は選んでいられないからね」
もはや悪人を選んで殺す必要もない。善人でも悪人でも老人でも子どもでも、とにかく人間を殺せればペンタクルム・パールは作れるのだから。
「俺達の願いを踏み台にしようとした王劍『縊匣』クンにはあとで落とし前つけてもらわないとな」
王劍『縊匣』を破壊して、奪われたエネルギーと『縊匣』が持つインビジブルを手に入れれば、きっと『ペンタクルム・ゲート』は完全に完成するのだ。
夢の実現は近い。アスモデウスは高らかに哄笑する。
嗤う彼の頭の中では、とある少女からの指摘がずっと渦巻いていた。
――愛と平和……ね。ねえ、あなたは愛や平和を口にするけれど。本当は、誰一人愛してなんていないのでしょう?
「お嬢サンへの愛」、「愛と平和の体現者」、淫蕩の悪魔は自身のアイデンティティをそう定めていた。
――だって、あなたが愛しているのは、自分の望みを叶えることだけだもの。今までも、自分の役に立たないと分かった途端に『お嬢サン』たちを切り捨ててきたでしょう。
(「まさか、俺が本当に愛という甘言でお嬢サンを利用しているだけだと?」)
だがアスモデウスには反論できる言葉がなかった。
娘たちを愛という言葉を利用して動かし、使えなくなれば切り捨てる――紛うこと無き事実だった。
アイデンティティが崩れ去った今、もはやアスモデウスには何もない。
いや、『ペンタクルム・ゲートを実現する』という望み以外、なにも! なにも!!
潜伏していたペンタクルム・ゲートの幹部たちが動き出した、と星詠みの尾花井・統一郎はEDENに訴える。
「しかも王劍『縊匣』の『小王劍』持ちでございやす!」
どんな方法で彼らが『小王劍』を所有するに至ったかは不明だが、とにかく大量の犠牲が出るだろう。
「なにせ『小王劍』は、一般人を殺すごとにペンタクルム・パールを生み出すらしいんでございやす」
とはいえ、彼らはペンタクルム・パールを生成してもその場で消費はせず、貯め込もうとしているようだ。
「何に使うつもりかは分かりやせんが、ろくでもねぇことに決まっておりやす」
統一郎が視たのは、淫蕩の悪魔『アスモデウス』と配下の『堕ちた討魔忍』が、√EDENの休日のショッピングモールに乱入して無差別大量殺人を行おうとしている様子であった。
たくさんのテナントが並ぶ二階建ての広大なショッピングモールでは、親子連れやカップル、老夫婦など様々な人々が買い物を楽しんでいた。
広めの通路では、携帯ショップのスタッフが着ぐるみをともなって風船を子どもに配っている。
平和そのものの空間に現れた淫蕩の悪魔『アスモデウス』は目を眇めた。
「たくさんのお嬢サンもいるけれど、今ばかりは選り好みしていられない。俺の夢のため、ここにいるすべての人々には、死んでもらう……ッ!」
そう呟いたアスモデウスは、『堕ちた討魔忍』と共に雑貨店で品物を見つめている女子高生の集団めがけ躍りかかるのだった。
これまでのお話
第1章 冒険 『一般人への避難活動』
騒然とするショッピングモールに、溢れんばかりに舞い散る白い花。
花弁の花吹雪と共に、祈るような姿で現れたライラ・カメリアはそうっと瞼を開いた。
その青い瞳に宿る光の名は、決意。
「きっと、この日のために生まれてきたの」
淫蕩の悪魔との決着をつけるために。
かつての同胞が招いた不始末を、今こそ贖おう。
幼少の砌に聖剣に選ばれ、その柄を握ることを決めたライラは、そのためにいままで研鑽を積んできたといっても過言ではない。
凛々しく、ライラはまっすぐに前を見据える。
「――お覚悟を。あなたに、終焉という名の|救済《すくい》を与えましょう」
誓うように呟いてから、ライラは白い床を蹴った。
「危険です! 殺人鬼が現れました!」
大声で呼ばわりつつライラは、戸惑う民衆を誘導する。
「え? ええ?」
広すぎるショッピングモールでは、まだ脅威が現れたことに気づいていない者も多い。
危険な事態に陥っていると知っても、正常化バイアスで逃げようとしない人もいる。
それでもライラは根気強く避難を説得した。
「避難ったって……いや、大丈夫でしょ」
呑気そうな青年の背後にいる家族連れめがけ、『堕ちた討魔忍』が刃を構えて駆けてくるのに、ライラは聡く気づいた。
「危ない!」
ライラの祈りに応えてValkyrieが空を駆る。
刃ではなく使い手を自律式竜漿兵器で倒したライラは、背後で行われた戦闘に呆然としている青年に今一度告げた。
「危険です。どうかいまは逃げて」
ようやく状況を把握し、情けない悲鳴をあげながら走っていく青年の背にライラは声をかけた。
「走らなくて大丈夫。係員の案内に従って、安全な場所まで避難して!」
周囲を見回し、ライラは『月の加護を受けた白い鳥』の群れを喚んだ。
白翼の渡り鳥の群れに包まれた『堕ちた討魔忍』たちは煩わしげに唸ると一斉にライラめがけて走り出した。
「ええ、わたしを狙うといいわ。どこまでも相手をしてあげる」
聖剣を従えてライラは敵を待つ。
が、彼女は視界の端に黒い悪魔を捉えた。
(「アスモデウス!」)
淫蕩の悪魔『アスモデウス』が女子生徒めがけて翼を振り下ろそうとしている。
「だめ!」
空を走り、ライラは黒翼と女子生徒の間に滑り込んだ。
ライラにアスモデウスの翼が突き刺さり、肩口が真っ赤に染まる。
「う、ぅうっ……」
激痛を耐え、どうにか女子生徒を庇ったライラを見て、『小王劍』を携えたアスモデウスは片眉を跳ね上げた。
「もう来たのかEDEN。ご苦労なことだ」
そう言いながら翼の先端をライラの肩へとねじり込んでいくアスモデウス。
痛みに美しいかんばせを歪ませながらもライラは言い放つ。
「わたしが一番護りたい『かけがえのない世界』。人々の笑顔も、幸福も、日常も……蹂躙させはしないわ!」
「今日もご立派なことだな、お嬢サン!」
翼を抜きがてらライラの腹を蹴り飛ばしながらアスモデウスは吐き捨てた。
「その聖人ヅラを蹂躙してやれ!」
派手にふっ飛び壁に激突したライラへと、主命を受けて非情に群がる『堕ちた討魔忍』。
しかし、ライラが攻撃を引き受け、時間を稼いでいる間に、一般人の退避はかなり進んでいる。あとひといきだ。
大量殺人を目論む簒奪者からショッピングモールの人々を守るため、警視庁異能捜査官としてクロック・ロックは数日前からあらゆる手を尽くしてきた。
ディベロッパー側に不審者情報を連絡し、ショッピングモールの警備体制を整えておいたり、警察主導のもと避難訓練を実施させておいたり。
そのおかげで、スタッフや警備員による客の避難誘導は流れるようにスムーズで迅速に進んでいく。
店を出る人々の流れに逆らい、クロックはショッピングモールに入っていった。
「|凶器《狂気》を持った集団がモールに侵入したようです。念のため避難をお願いするっすよ」
と逃げ遅れている人たちに警察手帳を提示しながら声掛けも忘れない。
警官に言われたなら、と渋っていた人々も素直に避難を始める。
「お疲れ様です! このフロアの人たちの避難は問題なく進行しています」
避難路を確保している警備員から報告を受けたクロックは敬礼で応えた。
「了解っす。不審者の対応はこちらに任せて欲しいっす。あなたも一般人の誘導の後、避難してください」
「承知しました。しかし……」
「どうしたっすか」
不安に顔を曇らせる警備員に、クロックは問う。
すると彼は、避難完了できているか確認に行った警備員が戻ってこないのだと訴えた。
「わかりました。その方は自分が必ず避難させるっす。だから、安心してください」
クロックは警備員を励ますと、フロア内へと駆け出した。
少し歩いた先でクロックは、店の締め作業をしていたらしく避難が遅れていたアパレル店員と、話に聞いていた確認作業中の警備員が、『堕ちた討魔忍』に襲われている光景を目の当たりにした。
へたりこむアパレル店員をかばうように立った警備員は、警棒を構えてぶるぶる震えている。
雑魚が、と襲いかかる『堕ちた討魔忍』に、万事休すと警備員は目を閉じた。
しかし。
「早く店員さんを連れて逃げてください!」
彼の代わりに『堕ちた討魔忍』の攻撃を拳銃の銃身で受けたクロックが叫ぶ。
「は、はい!」
警備員はお礼もそこそこに、腰が抜けたらしいアパレル店員を抱えるように非常口へと走り出した。
「これで全員っすかね……」
ほっとしながらクロックは『堕ちた討魔忍』をいなし、距離を取る。
――なら後は、|不審者《簒奪者》の対応だけだ。
第2章 集団戦 『堕ちた討魔忍』