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⚡️ユーカリが丘迷宮戦~『荒野の忠臣』迎撃戦
「撃てーーーーーッ!!」
迎撃電車「こあら号」から無数のミサイルが放たれる。煙を引いてただ一点に向かっていたはずのそれは、しかし次の瞬間半数が撃ち落とされ爆散、もう半数がその爆発に巻き込まれる形で地に破片を落とした。
爆炎の向こうに、簒奪者の影がゆらめく。|肩部《けんぶ》に巻いた布は|外套《マント》を模したものか。六脚のフォルムには焦げ跡一つない。
「馬鹿な……!!」
先頭車両に立つ電車長が呻いた。
「全弾命中せず! |目標《ターゲット》は損傷なし! 繰り返す! |目標《ターゲット》は損傷なし!!」
「竜漿魔導砲はまだ撃てんのか?!」
「チャージ完了まで残り18%です!」
「くそ、何でもいい! とにかく時間を稼いで──」
電車長が叫んだその時、車内が強烈な揺れに見舞われた。見れば、先程まで遥か遠くにいたはずの簒奪者が、防弾ガラスの窓越しに、こちらを覗き込んでいる。
「その程度では、私には届かんぞ」
刹那。迎撃列車「こあら号」は簒奪者のハンドガン型ウェポンによる至近距離からの連続射撃を受け、爆発。全車両を喪失した。
「──やはり沈黙しているか、王劍ロンゴミニアドよ」
吹き上がる爆風に|外套《マント》を靡かせながら、簒奪者……『荒野の忠臣』ヴィルギリオは一人呟く。
「そうであろうな。誇り高きお前が、かような下賤の輩に従う訳もなし」
そして、彼方に向けてこう呼びかけた。
「王劍ロンゴミニアド! 私はお前に相応しい主を知っているぞ。我等が仕える|あのお方《・・・・》こそ、すべての戦闘機械群の頂点に立つべき存在。すなわち、|完全機械《インテグラル・アニムス》に最も近き者だ。
私と共に来い。そして|見《まみ》えようではないか。我等|超戦闘機械派閥《レリギオス・リュクルゴス》の長、偉大なるリュクルゴス様に」
☆☆☆
「ちょっと厄介な星を詠んじゃいました……」
珍しくげんなりしたような顔をして、星詠み、ラヴィア・アモエヌスは集いし√能力者達に言った。
「依然事態が進行中の『ユーカリが丘迷宮戦』なんですが、王劍「ロンゴミニアド」を狙う新たな簒奪者の出現を予知しました。……これまでにも何度か交戦経験のある相手なので、データを出しますね」
ラヴィアは愛用のPC「ハイパーしらべるくん」のキーボードを叩き、データベースから一体の戦闘機械群の記録を表示させる。
「名前はヴィルギリオ。|超戦闘機械派閥《レリギオス・リュクルゴス》に所属する戦闘機械群です。|手掌《しゅしょう》部に接続したハンドガン型ウェポンをメインに扱う、超高速戦闘を得意とする簒奪者なんですが……」
眉間に皺を寄せてラヴィアは言った。
「コイツ、リュクルゴスのすっごい忠実な部下らしいんですよ。つまり、コイツの手に王劍が渡ったら、そのまま王劍がリュクルゴスの物になる可能性が高いです。……「欠落」の影響で、本人が|超戦闘機械派閥《レリギオス・リュクルゴス》の本拠地に戻ることはできないそうなんですが、別にそんなの、部下とかに頼んじゃえばどうとでもなりますしね」
その言葉に、一部の√能力者がざわついた。『スーパーロボット』リュクルゴス。|超戦闘機械派閥《レリギオス・リュクルゴス》の長であり、初期から知られる|王権執行者《レガリアグレイド》の一人である。
「現地には「こあら号」という名前の迎撃列車が運行されてます。私が見た予知では、ヴィルギリオに破壊されてしまいましたが……今から現場に向かえば、「こあら号」とヴィルギリオが接敵する前に到着できるはずです。うまく協力できれば、有利な状況を作り出せると思います。
……ヴィルギリオは豊富な戦闘経験を有しています。手ごわい相手になると思いますが……王劍を渡すわけにはいきません。どうか、力を貸してください」
そう言ってラヴィアは頭を下げた。
「それと、ヴィルギリオ撃破後の行動指針については、現場の皆さんに一任します。現在も刻一刻と状況は変化していますし、皆さんで相談して次の一手を選んでくださいね。具体的には……こんな感じでしょうか!」
ラヴィアが手元のリモコンを操作すると、一枚のスライドが投影される。
「作戦1 そのままダンジョンに突入してヘッドスライムを撃破する!
作戦2 引き続き、ユーカリが丘にやってくる簒奪者達を迎撃する!
作戦3 大魔王の復活によって目覚めるモンスターを撃退する!
作戦4 ダンジョン内で立ち往生している|迷宮配信者《ダンジョンストリーマー》を助ける!
作戦5 ユーカリが丘の天空聖堂で超武器「誰かスレイヤー」を作る!」
「結構できることが多くて迷っちゃいますが、どれを選んだとしても、確実に勝利に近づくはずです。頑張ってくださいね。
──それでは、気を付けていってらっしゃい!」
これまでのお話
第1章 ボス戦 『『荒野の忠臣』ヴィルギリオ』
「来たか、EDEN達よ」
星詠みの予知に従い、ユーカリが丘に降り立った√能力者達。大きく開けた平野の只中にヴィルギリオはいた。まるで来訪を予期していたかのように。
「驚く必要もあるまい? 私もまた√能力者。|多少の星は詠めるとも。《・・・・・・・・・・》
そうでなくとも、お前達はこれまで多くの戦場に現れ、驚異的な戦果を挙げてきた。此度の一件への介入も十分に予測できたことだ──」
そこで√能力者達は気づく。空から何かが降ってくる。
それは迎撃電車「こあら号」より発射された魔導ミサイルの群れだった。ミサイルは煙を引いてヴィルギリオの元に向かっていくが、ヴィルギリオは素早く左|手掌《しゅしょう》部のハンドガン型ウェポンでそれを迎撃する。西部劇の早撃ちを思わせるその動きは、しかし戦闘機械群の力によって、圧倒的な精度と弾速、そして破壊力を獲得していた。ほんの数秒で全てのミサイルが撃ち落とされ、爆発と共に破片が降り注ぐ。爆風の向こうから姿を現したのは、迎撃電車「こあら号」だ。
『そこにいるのは冒険者か?! こちらユーカリが丘冒険王国軍所属、迎撃電車「こあら号」! 現在、所属不明の敵性存在に攻撃を受けている! 諸君らの助力を要請したい!』
「こあら号」の外部スピーカーから、電車長のものであろう声が届く。ヴィルギリオは「成程な」と呟くと、人間で言う笑みのようなものか、|頬部《きょうぶ》の排気口からシュウと煙を吐いた。
「私は卑怯な真似は好かんが──弱者のあがきは嫌いではないぞ。
いいだろう。EDEN達よ、かの者らと共に、全力でかかってくるがいい。お前達が我が主を|完全機械《インテグラル・アニムス》に押し上げるに値するか、見極めるとしよう!」
※MSより※
この戦いでは、迎撃電車「こあら号」が皆さんに協力してくれます。
「こあら号」の主な武装は下記の通りです。
・魔導ミサイル
OPや断章でも発射しているミサイル群です。数は多いですが着弾まで時間を要します。普通に撃ってもヴィルギリオに迎撃されてしまうので、当てるには何らかの工夫が必要です。
・竜漿魔導砲
3分間の魔力充填を経て放つ特大のビーム砲であり、「こあら号」最強の|竜漿兵器《ブラッドウェポン》です。まともに受ければ簒奪者と言えども無事では済みませんが……命中させるには、高速機動を得意とするヴィルギリオの足をいかに止めるか、そしてフルチャージまでの3分間、いかに「こあら号」を守り切るがカギとなるでしょう。
他にも「こんな武装がほしい!」と思うものがあれば、ぜひプレイングに明記してください。検討し、可能な限り採用します。
「ほう?」
盧・飛騰の姿に、ヴィルギリオは興味深げな反応を示した。
「|機械真人派閥《レリギオス・トゥルース》の手の者かと思ったが……その仙力。√仙術サイバーの完全機械人か」
「いかにも」
短く答え、飛騰はこあら号の電車長にこう伝える。
「魔導砲のチャージを頼む。実際に撃つ隙がなくとも、無視できない圧力にはなるはずだ。……いざとなれば私ごと撃て」
「待て、そんな事は……!」
「私は、私自身の戦いに専心させて頂く」
飛騰はヴィルギリオに向き直り、|抱拳礼《ほうけんれい》の姿勢を取る。拳にした右手を、胸の前で左手掌に合わせる動作は、武林における絶対の礼儀。それはヴィルギリオが示した戦闘機械群らしからぬ忠義に対する、彼なりの敬意の証であった。
「幽都派、盧飛騰――参るッ!」
飛騰が地を蹴ると同時に、その周囲にドローン飛燕剣が展開した。√能力「|飛燕掠空《ヒエンリャックウ》」によって反重力を得た機械の身体が宙を舞う。狙うはヴィルギリオただ一人!
「真っ向勝負か。いいだろう!」
ヴィルギリオの左手が動いた。左手掌に装着されたハンドガン型ウェポンが、鈍い銀色に輝くショットガン型へと変形する。そして、ヴィルギリオは|自ら飛騰の間合いに踏み込んだ《・・・・・・・・・・・・・・》!
「ッ?!」
「しばし、私と踊ってもらうぞ!」
至近距離で放たれたショットガンの一撃を、飛騰は功夫によってかろうじて銃身ごと受け流した。敵の手数への対処は意識していたが、まさか自ら懐に飛び込んでくるとは。
「(だが……むしろ好都合だ!)」
ドローン飛燕剣での牽制で作った僅かな隙に、飛騰は二刀を抜き放つ。一刀は隕鉄によって鍛えられし「玄鉄重剣」、もう一刀は|仙術義体《サイバーパーツ》「玄鳥飛剣」。背後のこあら号は竜漿魔導砲のチャージを続けているはず。なれば、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
「(それが出来なければ、敗れるのみ──!)」
裂帛の気合と共に、飛騰は√能力「|幽都剣法《ユウトケンポウ》」を発動した。完全機械人と戦闘機械群。共に手数と速度を大幅に向上させた二人の攻防は、もはや尋常の者には捉える事すら困難だ!
撃つ! 躱す! 薙ぐ! 躱す! 撃つ! 躱す! 斬る! 躱す!
撃つ! 躱す! 薙ぐ! 躱す! 撃つ! 躱す! 斬る! 躱す!!
「見事なものだ!」
銃声と剣戟の合間に響くヴィルギリオの声は、どこか愉快そうでもあった。
「私の『決闘の流儀』を前に、これほど持ち堪える者がいるとはな!」
「……私も、戦闘機械群に貴殿のような忠孝を知る者がいるとは思わなかった。貴殿の機体と武功、何よりもその忠義に、敬意を表する。その上で、ここで打ち勝たせて頂く……!」
飛騰の仙力が急激に高まる。
「私が、強くなった事の証明の為にだ!」
無論、ヴィルギリオは異変を察知していた。しかし、ほんの一瞬退くのが遅れた。それこそが決定打となった。
極限まで練り上げられた仙力を纏う玄鉄重剣による、反撃覚悟の重い一撃は、ヴィルギリオの六脚の足のうち一脚を大きく斬り裂いた。
……60秒。「決闘の流儀」、そして「|飛燕掠空《ヒエンリャックウ》」の効果が切れる。今一度、両者は距離を取り、互いに向き合う。
「……良い、一撃だったぞ」
ヴィルギリオは未だ立っている。その傷は、大地から吸い上げるインビジブルによって徐々に塞がりつつあったが、大きく消耗したことは疑いようもなかった。
「うーん、中々の武人気質の方のようですねっ」
戦いが続く現場に到着した玉響・刻は、ヴィルギリオの姿を見てそう呟いた。もとより刻は剣士の家系の出である。武人の在り様には覚えがあった。
「とはいえ、王劍を渡す訳にはいきませんので倒させて頂きますが!」
「ね! 見た目だけはかっこいいんだけどね~」
『ほんと、いろんなのがいっぱい来て大変……』
「え?」
ふいに聞こえた声の主は、なんとこあら号の|床《・》から現れた。番のスライム娘、あくあとあるまである。「うわあ?! スライムだ?!」と驚愕するこあら号の乗務員に、あくあが「あっ、大丈夫だよ~!」と気さくに手を振った。
「私達スライムだけど、ちゃんと味方だからね。よろしく!」
『一緒に頑張ろうねっ』
「うん、頑張ろう。よろしくね」
困惑する乗務員の代わりに、恵宮・アキが笑顔で答える。
「とはいえ……あの移動力と射撃の腕、攻撃をどの様にして当てるかが問題ですね……」
考え込む刻。その横で、アキがこあら号の砲手に問いかける。
「砲手さん、竜漿魔導砲のチャージ完了まで、あとどのくらい?」
「現在37%です。順調に進めば、あと2分ほどで完了します!」
「2分か……その位なら、あたしの方で時間稼ぎできるかも」
『わたし達も頑張ってみる!』
「魔導ミサイルの方はどうです? 残弾ありますか?」
「7割ほどでしたら……」
「了解ですっ!」
元気よく答え、刻は√能力「|胡蝶乱舞《コチョウランブ》」を使用した。無数の黒い霊蝶が大地より浮かび上がり、刻の周囲を舞う。
「そういうことなら、少々危険な手で行っちゃいますね……!」
☆☆☆
「撃てーーーーーッ!!」
電車長の号令が始まりの合図だった。こあら号から発射された魔導ミサイルを確認して、アキは√能力「|八咫烏突撃《ヤタガラス・ストライク》」を起動する。三本の足を持つ絡繰の八咫烏達が、アキに付き従うように現れた。
「さあ、どこまでも行こう。八咫烏!」
「私達も行くよーっ!」
『射撃戦は|ご主人様《ますたー》ほど上手じゃないけど……がんばるの!』
魔導ミサイルと共に、速度を上げた刻、そしてアキとあくあ・あるまが戦線を押し上げる。当然、ヴィルギリオは己を目指す大量のミサイルと√能力者達を捉えている。
「何度撃ったとて同じことだ!」
ヴィルギリオの左手のハンドガンが閃き、瞬間、飛翔していた魔導ミサイルのほとんどが爆散した。しかしその爆風の中から現れるのは、新たな魔導ミサイル!
「これは……!」
「やった! 上手くいってますっ!」
これは刻がこあら号の砲手に依頼したことだった。再び魔導ミサイルを撃つ──ただし、より矢継ぎ早に、より多く! ヴィルギリオがいかに優れた射撃の腕を持っていようと、単独での対処には限界がある。ゆえに隙が必ず生まれると踏んだのだ。
「物量で圧し潰す算段か! ならばッ!」
だが、ヴィルギリオの放った一発の弾丸が状況を変化させる。『ワイルド・バレット』。魔導ミサイル群の中心で炸裂したその弾丸は、電波妨害効果を持っていた。こあら号からの誘導用電波を遮断された魔導ミサイルは、次々とあらぬ方向へ飛翔、落下して爆炎をまき散らしていく。
しかし、電波を用いぬ√能力はその影響を受けない。魔導ミサイルの爆風を縫ってヴィルギリオの元に辿り着いたのは、アキの操る絡繰の八咫烏達だ! 魔力弾銃「ロダン」から放たれた先制の魔弾が、ヴィルギリオの|外套《マント》に風穴を開ける。
「さあ、こっちを向いて……! 的はいっぱいあるよ!」
銃を向けるアキに、ヴィルギリオは頬の排気口から煙を吐いて言った。
「私と銃で戦うつもりか? 面白い!」
勿論、アキ自身も銃でヴィルギリオと渡り合えるとは思っていない。アキの目的はあくまでも、竜漿魔導砲発射までの時間稼ぎだ。この位置ならこあら号の射線も通る。だが、それを悟られてはいけない──!
そこに新たな銃撃が加わる。あくあとあるまの射撃術式「|円旋の流星術式《ランカスター》」だ。
「私達もいるからね!」
『やらせないよー!』
「新手か!」
矢継ぎ早に繰り出される|円旋の流星術式《ランカスター》。ヴィルギリオはそれを躱し、あるいは自らの銃撃でいなしながら、さらにアキの魔弾も捌き切るという驚異的な立ち回りを見せていた。とはいえ、あくあとあるまの狙いもまた、ヴィルギリオを銃撃で倒しきることではない。
「(当たらなくてもいい! 本命は……!)」
そしてついに目論見は花開く。|円旋の流星術式《ランカスター》の中に巧妙に混ぜこまれていた√能力「|歪みの先、不定に揺らぐ不壊の波《クレイキャリアー・アンプリチュード》」。形無き「回転」を放つ異形の業が、ついにヴィルギリオの姿勢制御機構を捉えたのだ。
「──?!」
明らかな動揺の声と共に、ヴィルギリオの姿が僅かに傾いだ。その一瞬をあくあとあるまは見逃さなかった。放たれた光波術式の名は「|虚ろ月の燈《ムーンライト》」!
「がッ?!」
重い音。苦痛の声と共に、ヴィルギリオの六脚、その一つがあらぬ方向へと曲がり、地に倒れ伏した。それはまさしく先の√能力者との戦闘で負傷した部位!
「今です! 竜漿魔導砲を!!」
アキの通信を受けた電車長が叫んだ!
「竜漿魔導砲、発射ーーーーーーッ!!」
それは全てを飲み込む巨大な魔力の奔流であった。こあら号最強の|竜漿兵器《ブラッドウェポン》、竜漿魔導砲の太く青黒い光は真っ向からヴィルギリオに直撃し──なおも足掻こうとするヴィルギリオの前に、躍り出た影があった。
「黒い胡蝶は、死を告げる蝶──!」
竜漿魔導砲をまともに受け、姿勢制御も叶わぬ状態で、移動速度を大きく上昇させた刻の刃を躱す手段など、もはやどこにも存在しない。
「これで、終わり! ですっ!!」
閃刃・告死蝶。
鍛え抜かれた走術と、鋭い居合から繰り出された超速の横薙ぎが、戦闘機械群の胴体を致命的なまでに深く斬り裂いた。
「──見事だ」
ヴィルギリオの声はノイズ混じりだった。戦闘機械群に表情がある訳もない。だが、刻の目に映るヴィルギリオは、何だかひどく美しい物を見ているような──そんな顔をしている気がした。
「素晴らしい……戦いであったぞ、EDEN達よ」
その機体が爆発する。
かくて、『荒野の忠臣』ヴィルギリオは撃破され、ユーカリが丘はひとまず一つの脅威を退けることに成功したのだった。
第2章 ボス戦 『『ヘッドスライム』大魔王態』
──一方そのころ。
ユーカリが丘迷宮最深部、某所。
「ム~シュッシュッシュッシュッ!! すごいでシュ~~ッ!!」
大魔王の遺体を我が物にした「ヘッドスライム」は、調子に乗っていた──それはもう、調子のクソデカビッグウェーブに乗る勢いであった。何しろ、常に全身からよくわからない闇の超パワーが湧き上がってくる上に、ダンジョンの道中にいた超怖いモンスター達も、ビビッて自分から道を開けてくれるのである。
まさに絶好調。この世の春。水を得た魚ならぬ大魔王の力を得たスライムであった。
「この力があればホントに世界征服も夢じゃないデシュ! 最高デシュ! 今のうちに世界征服記念の演説でも考えといた方がいいデシュね?! アー、全世界のみなさんおこんにちはデシュ。ムシュは世界最強の大魔王デシュ……いや待つデシュ、ここはもっとカッコイイ二つ名みたいな? そういうのがあった方がいいデシュかね~?」
人間であればスキップの一つもしていたであろう、軽やかな足取りでヘッドスライムは迷宮を行く。
奴は未だ気づいていない。地上でヴィルギリオを撃破した√能力者達が、凄まじい勢いで自身に迫りつつあることを──!
「やっぱり大魔王デシュからね、『魔王』は二つ名に欲しいとこデシュね。『闇の魔王』……はそのまんますぎるデシュし~、『深き暗黒の大魔王』……『常世の闇を支配する暗黒の大魔王』!……ン~、カッコいいけど長いし、闇と暗黒で黒いのが被っちゃってるデシュ……」
「元凶のスライム、ご機嫌だ……」
物陰から「ヘッドスライム」の様子を見つつ、恵宮・アキは若干の呆れを滲ませて呟いた。まさかこれだけの事態を引き起こした張本人(人ではない)が、こんなに悠長にしているとは流石に思っていなかったのである。
「本物は初めて見ましたが、なんか、変な人かもしれません……。人じゃないんですけど……」
その横では、同じように物陰に隠れた玉響・刻が「やりづらいですっ……!」と呻いている。
「でも……明らかに浮かれてますし、周囲に意識が向いてなさそうですね?」
「だよね。ってことは──」
「「先手必勝!」」
二人の言葉は同時だった。互いにアイコンタクトを交わして頷くと、刻は√能力「|胡蝶乱舞《コチョウランブ》」で黒い霊蝶を纏い、アキは魔力弾銃「ロダン」を構える。未だに自身の二つ名を考え続けているヘッドスライムは、勿論それに気づかない。
「あたしがヘッドスライムの動きを制限するから、その間に斬って」
「了解ですっ!」
刻の元気な返答に微笑んで、アキは「ロダン」の引き金を引いた。
「──開門ッ!」
√能力「|鍵魔弾〖地獄開門〗《キーバレット〖ヘル・ゲート〗》」。それは「ロダン」を媒介として地獄の門をこじ開ける力だ。一時的に|地獄門《ヘル・ゲート》そのものとなった「ロダン」は、撃ち出すその弾丸を「鍵」とし、黒い獄炎を纏わせる。
「ムシュ? 今なにか音が、」
ヘッドスライムが察知した時には既に遅かった。ヘッドスライムの|足元《・・》に着弾した魔弾は周辺を瞬く間に炎で覆い、ヘッドスライムを黒炎の中に閉じ込める!
「デ、デシューーーーーーーッ?!」
事ここに至って、ようやくヘッドスライムは己の置かれた状況を理解した。すなわち、今ここに、己の命を狙う者がいると!
「隙あり! ですっ!!」
そしてそこに、黒死蝶とアキが付与した「祝福の焔」を纏う刻が襲い掛かる!「黒い胡蝶は死を告げる蝶──閃刃・告死蝶! ですっ!!」
「デヂューーーーーーーッ?!」
妙な叫び声を上げながらも、ヘッドスライムは大きく大魔王の身体を反らして斬撃を逃れようとした。完全には間に合わず、大魔王の遺体との結合部に浅からぬ傷を負ったが、それでも真っ二つに切り離される事態は免れる。だが反りすぎて地面すれすれまで下がってしまったヘッドスライムの本体に、今度はアキの黒炎が燃え移った。
「ア゛ーーーッ!! あ゛づっ、あ゛づいっ、あ゛づいデシューーーッ!!」
「やった! これでスライムが燃えてくれれば……!」
アキが快哉を叫んだその時、ふいに場の空気が変わった。正確に言えば、燃えながらわめき散らすヘッドスライム周辺の空気が。刻もそれに気づき、ヘッドスライムから距離を取る。
「ヤダッ!! ヤダヤダ燃えちゃうデシュ!! 誰か!! 早く助けろデシューッ!!」
冷たく昏いその空気は、ヘッドスライムを中心に大きく膨れ上がり──やがて、虚空に大きく開いた暗黒の穴から、12体のモンスター軍団が姿を現した。√能力「|大魔王の軍勢《モンスター・スクワッド》」である!
「増援……?!」
「逃げる気ですか?! そうはいきませんよっ!」
「|胡蝶乱舞《コチョウランブ》」による移動力強化と、アキが付与した「祝福の焔」による戦闘力強化。刻が受けた二つの|能力上昇《バフ》は極めて強力であった。12体のモンスター軍団は次々と斬り伏せられ、その刃は、僅か1分あまりで逃亡を図るヘッドスライムに届かんとする。
「貴方の野望もここまでですっ!!」
刻は再び「閃刃・告死蝶」を放たんと刀の柄を握り──瞬間、|何か《・・》を感じて飛び退いた。それは熟達した剣士、そして多くの死線を潜ってきた√能力者ゆえの直感であった。
刹那。数秒前に刻がいた場所を、天から降り注ぐ闇の斬撃が跡形もなく抉り取り……収まった時には、ヘッドスライムの姿はどこにもなかった。
「逃げられた……?」
「ですね……! でも手ごたえはありましたっ!」
「そうだね。早く追いかけよう!」
二人は頷き合い、ダンジョンの奥深くへと進んでいく。
戦いはなお続く。