⚡魔王城門を破れ
⚡️最終決戦:大魔王戦争
「いよいよ、ユーカリが丘最終決戦が開幕しましたね」
レゾネ・未収 (Catalogue Raisonné・h13785)は√能力者を出迎え、ユーカリが丘線の防衛によって大魔王簒奪が阻止されたことを伝えた。
「ユーカリが丘線の防衛成功のため、大魔王戦争が勃発することになりました。つまり、ヘッドスライムとの決戦です。すでに大魔王軍は魔王城に集結しており、総力戦となります。万が一、敗北した場合はユーカリが丘冒険王国は大魔王軍に占拠されてしまいます」
現在、魔王城門前には数多くのモンスターが集まっている。
『イニグマ・エッグ』もそのうちの一軍だ。
それは謎の卵。
多種多様な色、形。
大きさもさまざまで、孵化するまで何が生まれるかわからない。
「『イニグマ・エッグ』は物量でこちらを押し返すつもりみたいですね。数の多さは確かにやっかいです。けれど、逆に、それだけ密集しているのなら、叩けば一気に大魔王軍の頭数を減らせるということでもあります」
したがって、戦略としては、とにかく倒せ——だ。
正面突破せよ。
そして、城内へ攻め込み、大魔王との決着をつける者たちのための道を切り拓け。
「『イニグマ・エッグ』は皆さまの姿を視認次第、あちらから攻撃を仕掛けてくるでしょう。爬虫類、鳥類、無敵獣といった姿のモンスターが襲ってくるのは、想像するだけでぞっとしますが……皆さまならば、必ずや蹴散らしてくださると信じております。無事の帰還を、心よりお祈り申し上げます」
第1章 集団戦 『イニグマ・エッグ』
天神・珠音(どこにでもはいないトウテツ・h00438)と獅出谷魔・メイドウ(暴力の化身・h00570)が魔王城前に到着した時、戦場は既にイニグマ・エッグで埋め尽くされていた。極彩色の卵が孵化する前の、何かが生まれる時の殻の割れる音が戦場のいたるところで鳴り響く。
「なんて光景でしょう。彼らを倒して必ずや、ここを突破せねばなりませんね」
「ああ、よくわかんねーけど、絶対強い奴は倒さなきゃダメ! ってことだよな!」
イニグマ・エッグは絶対的な数の優位にものを言わせ、一斉に襲い掛かった。
珠音は何かを堪えるように、青い瞳を細める。
(「なんて、空腹」)
そして細い指先が繊細な唇をなぞった瞬間、信じられないことが起こった。
「もう我慢の限界です。全部、食べちゃっていいんですよね!」
胸元、肩、背中、腹部、大腿。
イニグマのあらゆる部位に切れ目が走ったかと思った次の瞬間、鋭い牙を剥いた幾つもの『口』が獲物めがけて襲いかかるエニグマ・エッグを一心不乱に噛み砕いてしまったのだった。
「ピギャ!?」
孵化しかけていた爬虫類型のモンスターが容赦なく噛み砕かれて絶命する。あらゆる干渉の無効化が発動する間もなかった。メイドウが興奮して叫ぶ。
「玉子ん中から、なんか出てきた!? あちちっ!」
さっきのは氷の息吹かと思ったら、今度は炎のそれか。メイドウは敵を睨み付け、構えた掌底を敵に向けた。コウッと周辺に風が渦巻いた。
「閃いたぜ、対抗するなら氷や炎じゃねえ。すべてがブレスなら、その属性は風そのものだ!」
「キュッ!?」
エニグマ・エッグの炎のブレスを、メイドウは突き出した掌底で弾いた。そのまま敵の本体に攻撃を叩き込む。手ごたえがあった。
「よし、当たった!」
絶対なる無敵の加護さえ、|かき消した《・・・・・》。
「もっと、ください」
珠音は飢えるままに、エニグマ・エッグを食らい尽くす。
もう、我慢の限界だったので。
だって、こんなにあるのだから、|卵《たべもの》が。
「全部食べて……食べて食べ尽くしてしまいましょう! 魔王城門が開くまで!」
メイドウはまた一体、掌底で敵陣を突き崩す。
少しずつ視界が開け、魔王城の禍々しい門構えがふたりの前に姿を現した。
「待ってろ大魔王! アタシ達の手でついでに平和も守ってやるよ!」
|霊震《サイコクエイク》——それはマルザウアーン・ノーンテッレト(銀の星・h08719)の“とっておき”だった。【霊能振動波】を撃ち込まれた『イニグマ・エッグ』は、孵化する直前、割れ欠けた殻ごと砕かれて消滅する。
「まだまだこれからだッ!! そっちは平気かッ!?」
「当然よ」
御門・雷華 (エルフの精霊格闘者エレメンタルエアガイツ・h00930)は眼鏡を押し上げ、冷静に言い放つ。
「この程度で魔王城門を守っているつもり? 甘いわね」
『イニグマ・エッグ』から生まれた鳥類モンスターは、素早さに優れる。その高速移動を雷華は見切った。精霊銃を素早く引き抜き、自分の足元に銃口を向けてトリガーを引く。一部の隙も無いクイックドロウ。瞬く間に鳥類モンスターは雷に打ち据えられ、目を潰された。雷華は瞬時に大地を蹴り、神速の飛び蹴りを繰り出した。
「『雷光一閃』。逃がすものですか」
「ギシャアッ!!」
華麗に着地した雷華の背後で、息絶えた鳥類モンスターが絶命する。
「だいぶ数が減ってきおったな」
マリスラウラ・リーフェンシュタール(若輩者の古代竜族エンシェントドラゴン・h12781)の眼前にそびえたつ魔王城とその城門はいかにも禍々しい形状をしていた。
黒から紫に染まる外観は、見たものを恐れさせたいという意図を感じさせる。
もっとも、マリスラウラのようにそれを見抜いてしまう者にとっては、明け透け過ぎて呆れてしまうところだったが。
「……集え、我が元に」
其れは『万有凍界』。
極寒の世界がマリスラウラを中心となって広がり、そこに居合わせた全ての『イニグマ・エッグ』を吹雪のなかに飲み込んでしまった。
あまりにも、あまりにも……慈悲の無い、氷雪地獄そのものであった。
さらに重力加速によって、仲間の戦闘力強化をもたらすとあっては、マルザウアーンのカウンターにも力が入るというものだ。
「これで決めるッ!!」
力溜めによって解き放たれる時を待っていた最大級の霊震が『イニグマ・エッグ』を震度7相当の震動に巻き込み、打ち砕いた。
「ピキィッ……」
『イニグマ・エッグ』は最後の最後まで、自分たちが負けるなどとはまるで考えていなかった。
必ずや、この戦いに勝てると思っていた。
なぜなら魔王が負けるはずがなかったので。よって、魔王に従う我らが負けるはずがない。その自負さえもはや過去の栄光にすぎなかった。敗北は避けられないところまで迫っている。
魔王城門を守るために集結した『イニグマ・エッグ』には逃げる場所さえなかった。前には敵、後ろには固く閉ざされたはずの城門。
「門が開く——」
雷華は巨大な城門を見上げた。
鉄壁のはずの魔王城門がいま、破られようとしている。ゆっくりと重い音を上げながら。文字通りにこじ開けられる。やがて『イニグマ・エッグ』の最後の一匹が消え、城門が開いた時、魔王城は√能力者の前にその侵攻を許したのだった。
