シナリオ

古妖の血を奪うモノ

#√妖怪百鬼夜行 #急がなくて構いません。 #24日の夜以降にまとめて執筆いたします。 #ルート選択ボーナス。敵は負傷して、倒し易くなっています。

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 #√妖怪百鬼夜行
 #急がなくて構いません。
 #24日の夜以降にまとめて執筆いたします。
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『ひぃ!?』
『まとめてぶ、ぶった斬りやがった!?』
 下っ端妖怪たちが吹っ飛んだ光景から余地は始まる。
 その中からナニカが移動したことで、包囲していたのだと傍目にも理解できた。
『とんでもねえ強さっすね。流石は古妖っ……』
『だからどうした? 奴を、奴らを喰らって強くなるんだよ。出来なければ死ね』
 報告する奴を一人の男が壁に叩きつけた。
 その男に率いられた部隊が、先ほどのナニカを追い回し、肉片に変えて持ち帰ろうとしたのだろう。
『俺やお前らは死ぬのも役目だ。生き残ったら強くなる違うか? 違わねえなら行け』
『き、傷付いている今がチャンスだ。行くぞ!』
『おう!』
 嫌ならここで死ね。そんな視線を浴びて下っ端たちは駆け出した。
 その姿を見て男は物騒な笑みを浮かべるのだ。
『せいぜい追い込んでくれりゃあ良い。歯ごたえがあると良いがな』
 血煙に笑うその姿までが、予知に彩られた全てであったという。


「封印された古妖は断片の肉である事は知って居る者も居ると思う。それを狙って研究したり、戦いの過程で強く成ろうとする者も居る訳だ。ここまでは良いか?」
 園城寺・円が説明を始めた。
 星詠みの力で得られた情報であるという。
「そいつらが封印を破って追い回すが、機動力に長けている個体だった模様で、途中で逃げ出すことに成功するようだ。つまり、その過程で割り込めばこちらで確保するなり再封印できるということになるな」
 マドカは矢印を描き、その途中で斜めに分岐させた。
 最初の矢印は今回の首謀者の目論見であり、分岐させるのは逃げだした古妖を能力者たちが倒すという流れであろう。
「地図は用意したが、『機動力があるから逃げ出すことが出来た』というのは伊達ではないな。屋根を飛び越えていくくらいの労力が必要だし、いっそ敵中を突破する方が楽かもしれん。最初に町をうろつく雑魚を倒す必要があるのは同じだしな」
 そう言いながら、斜め下の矢印に二つの分岐路を描いた。
 一つは雑魚を蹴散らした後、屋根を飛び越えて目的の古妖を探して倒すルート。
 もう一つは強敵を倒して突き進むことで、時間を節約しつつ、同時に漁夫の利で傷ついたところを狙うルートである。
「町を探し回る場合は、探す労力で済む代わりに、時間が掛かるので古妖が回復する可能性が高い。逆に敵中を突破する場合、時間が短縮されて漁夫の利も狙えるから最後の戦いが楽になる可能性がある。好きな方を選んでくれ」
 マドカはそう言うと、町の地図と矢印を描いたメモや、敵のメモを渡してくれた。

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第1章 集団戦 『妖怪犯罪者』


エイル・デアルロベル


「古妖の封印を解いて力を奪おうとする任侠組織……なるほど」
 エイル・デアルロベル(品籠のノスタルジア・h01406)は星詠みから受け取ったデータを精査した。ヤクザな妖怪達によって古妖の封印が解かれ、その力を回収し用としているらしい。
「古妖自体が悪さをする事だけでなく、古妖を悪用する事も見逃せません」
 いずれにせよ最終目標として古妖と戦う事には変わりない。
 古い妖怪の全てが悪いわけではないが、暴れ回る妖怪を古妖として分類しているのだ。放置できる状態ではないだろう。
「そして今回の最終目標は、機動力がある敵ですか。それなら逃げられる前に再封印した方が良さそうですね」
 ならばやる事は変わらないし、相手が機動力タイプならば、それに対応するまでである。
 現場の町に到着したエイルは、まずは聞き込み方始めたのである。ただし、その対象は人間ではない。
「あなたのお話を聴かせてもらえますか? カマイタチを追い掛ける連中の事を知りませんか?」
「かま、釜井達……カマイタチ? ああ、イタチの様で風を操る妖怪ですね。あっちへ行きましたよ。蛇の様に首を延ばしたり、頭骸骨を投げつけますのでお気をつけて」
 エイルがインジブルに形を与えると、西洋の宮廷に居るかのような姿になる。
 よく見ると人形であるようだが、彼らはエイルの質問に答えて、どの様に移動して行ったかを教えてくれた。別れの挨拶も優雅な姿であり、知性を持たないインジブルが段々と知性を持ったことも含めて、√能力なのだろう。

 やがて町中に散らばって周囲を捜索する敵を確認。
 インジブル達に尋ねることで、騒動の中心に向けて移動する事が出来た。
『なんだてめえ! 俺らの邪魔すんのかよ!』
「ええ。邪魔をするなら押し通ります。ですが……いくらか尋ねたいことがありまして、ね!」
 行く手を遮るチンピラ妖怪に対して、エイルは二刀を持って対処した。
 その一振りは物理的に効果を発揮する相手に強く、逆にもう一振りは物理的ではない相手に効果を発揮する敵に強いという特性を有していた。
「今回の件、何かご存じですか?」
『うるせえ! 俺たち八尾白組を舐めんなよ! 兄貴、お願いしやす!』
『おう! 任せやがて! 金は弾んでもらうからな!』
 エイルが倒したtンピラに質問すると自分たちの所属のみを応え、まだ無事な奴が頭蓋骨を投げつけて来たのだ。悪には悪の連携があるという事だろうか?
「本当にそう言う組織なのか、それとも名前だけ借りた別物なのか……。まあ、今は話半分に聞いておきましょう。さて、この奥の方ですね」
 反撃に傷つきながらも、エイルは向かうべき方向を見定めた。
 火力が無いので突破するのは大変であったが、町で時間を掛けてうろつくよりもよほど早く進軍できるだろう。ならば後は仲間に任せようと、エイルはゾディアックサインで連絡網を整えるのであった。

八百夜・刑部


「八尾白組の連中ね……」
 ゾディアックサインで刻まれた情報を見て|八百夜・刑部《はっぴゃくや ぎょうぶ》(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)は溜息を吐いた。
「んー…何か嫌な予感がするから来てみりゃ当たったかもな」
 因縁浅からぬ相手であり、刑部のことを向こうがどう見ているかはともかく、こちらはあまり関わりたくない輩であった。
「何よりまずは数を減らすのが先決か。細かい作戦はその後だな」
 刑部は今回の事件の全体像を、一身上の都合で他の者より知っている。
 だが、それは真相に直行することを意味しない。
 それは無謀な賭けだと知っているし、物事には手順と言う物があるのだ。確実に敵を追い詰め、それで色々と策を講じて勝負を挑む必要を知っていたからだ。まあ、博打で命を懸けることを面倒だと思って居るのもある。
「こちら特務刑事課、対古妖もしくはそれに準ずる大規模テロ事件発生。至急応援求む! ……これで良し、と」
 刑部は√能力を使って、対策チームを召喚した。
 登録している妖怪メンバーが駆けつけてくれるもので、彼らを召喚するためのコストと暴れた時や傷ついた時のコストを刑部が支払う代わりに、そのまま戦いに参加してくれるという代物だった。
「という訳でスカイシャーク四体で上から偵察しつつ攻撃。カマイタチ六体は手長足長五組が抑えてる間に狙い撃ってくれ。言ってる意味は分かるな?」
「「「了解」」」
 とはいえレプリカントの分隊と違って、何も言わずに阿吽の呼吸で動いてはくれない。明確な指示を出し、刑部自身も戦いに参加するから意味がある。

 そして仲間の用意してくれた情報で敵集団を見つけると、焦らずにゆったりと襲い掛かったのである。
「こちらスカイシャーク。敵集団を発見。これより攻撃を開始する。以上」
「こちらカマイタチ。正面ルート確保する。以上」
「こちら手長足長隊。|進軍開始《マーチ》。以上」
 空を飛ぶ妖怪が敵を発見し次第に散発的な突撃を開始。
 合わせてカマイタチが遠距離から風を放ち、その間に足長が盾を掲げて進軍。その上に乗った手長が貫手で攻撃を始めた。
『マッポは群れねえと戦えねえのかよ! シャアー!!』
「お前らが言うなよ。喰らった奴は下がってくれ。どうせ単独攻撃しかできんしな。他のメンツが行動してる筈だから急ぐ必要はないぜ」
 これに対して敵の中で蛇の化生が首を延ばして攻撃して来た。
 どうやら変形してから放っているのだろう、火力は高いが単発であるようだ。それを見た刑部は数で蹂躙することを選び、確実に叩き潰していった。刑部自身もリボルバーを抜いて、首を伸ばしている奴を中心に狙い撃って行く。
(「さて。この後の展開だが……スピードの速い奴を追い込むって事は包囲網を広げてるって事。ならこちらも数でそいつ等の包囲網の中心を探ってみますかね。上手く行って両方確保すりゃしばらくサボれるし」)
 刑部は町の地図を確認すると、敵集団が拡がっている中で中央部分を目標とした。半円で敵が散開しているとしたら、その中に凸型で切り込んで中央路を開けようとしたのだ。そうすれば仲間が突っ込んでくれるだろうし、今回の黒幕である|捕獲人《ハンター》と、そいつが追い詰めている古妖を同時に捉まえられるだろうと予測を立てたのである。
「こちら足長。進撃路を確保。以後の方針を伝達されたし。送れ」
「あー、中央突破の方針はそのまま! 以上。皆さんと一緒に真面目にやりまーす。だから怒んないで欲しい所だな」
 早く次の指示をよこせと言う足長の通信だけでなく、ジロっと視線を感じた刑部は頭をかいて銃に弾丸込めながら共に進撃して行くのであった。

御剣・峰


「古妖を食って強くなる? なんとも、ふざけた連中だな」
 敵の目的を知って|御剣・峰《みつるぎ・みね》(蒼炎の獅子妃・h01206)は思わず苦笑した。強さとは修練を繰り返し、死地で戦い、己の力を積み上げて高めるものなのだ。それが古妖との実戦だけならともかく、他人に依存して強くなろうとは噴飯ものではないか。
『なんだてめえ? 兄貴、ここはこの金で……』
 峰が現れた時、負傷している敵はまだ無事な仲間に頼んで攻撃してもらおうとした。どうやら先ほど機動隊が突っ込んできて、万全ではなかったようだ。
「賄賂? そんなもの私が渡すわけないだろう。それと、私は女だ!」
 だが、峰はその言葉を自分への挑発ないし買収だと判断した。
 古来から伝わる流派の伝承者である彼女は、仲間に金を払って奮起させ、代わりに戦ってもらおうという性根が理解できなかったのだ。つまり、巡り巡って自分を男だと勘違いした馬鹿野郎とぶちのめすことになったのである。
「そんな物に頼るからお前らは腑抜けなんだ。悔しかったら己の手で何かを勝ち取ってみせるんだな」
 そして峰は太鼓の神霊である古龍を召喚した。
 それを纏う事で多い成る力を振い、脚力も腕力も数倍の力で行動できるのだ。
『いや、そういう意味じゃあ……』
「ならどういう意味なんだ? 言ってみろ! 賄賂なんぞ私が渡すと思ったのか? そんな物渡すわけがないだろう。馬鹿が」
 もちろん敵は峰の事を男みたいなどとけなすつもりはない。
 だが、他人に頼って強く成ろうとしない根性はそもそも駄目だ。
 この時点で峰は相手の言う事を一切聞く気はなく、飛んでくる骸骨を粉砕し、そいつも要請した別の舎弟も粉砕。まるで逆鱗をつつかれた龍であるかのように暴れ回ったのである。そして龍の咆哮の如き一閃は容易くチンピラ妖怪たちを葬ったという事でああった。

エアリィ・ウィンディア
雨宮・静


「チンピラさん達結構しぶといんだね」
「そーなの」
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)の言葉に誰かが頷いた。
 本当はもう少し意見があるのだが、面倒なので賛同しただけだ。
「んー、早くここを通り抜けたいのにぃー」
「なの」
 エアリィは地団駄を踏むがもう一人はとうとう言葉だけで返した。
 しかも最初より文字数が減っている省エネさんである。
「……終わったら喫茶店にいこっか」
「さっさと片付けて美味しい物を食べにいくの」
 エアリィが提案すると|雨宮・静《あめみや しずく》は即座に頷いた。
 面倒くさがりだが、それは欲しい物の為に遠慮するという意味ではない。
 そして自分の能力に自信があるから、絶対に成功するという確信に満ちていた。脳内に滾るカロリーも増えているに違いあるまい。
「とりあえず、先に進むためにも頑張りますかっ!」
「な~ん」
 エアリィが右手に剣を握って駆け出すと、シズクも一緒に走り出す。
 とてとてとてとて、離れていく距離に語尾がちょっとだけ伸びた気がした。

 やがて町に散らばる敵が集まって来たのに気が付いた。
 どうやら先行した仲間が蹴散らしたことで、仕方なく集まって来たらしい。
『てめえら、此処は通さね……げふう!?』
「大丈夫。みねうちだ……よ? あ、両刃だったや」
 エアリィは立ち塞がる敵をズンバラリン。
 敵の返答は『どこがだ?!』であったが、本命である精霊銃ではなかっただけ良しとしてほしい。
「ま、いっか。数は少なくなったとしてもまだまだ多いしね。それに、頭蓋骨が跳んでくるのも何とかしないと」
 エアリィはそう言いながら敵の様子を眺めた。
 見れば向こうから何かが飛んでくるではないか。
『あにいぃ! おねがいしゃっす!』
『任せとけ!』
 傷ついた敵の要請で、まだ無事な敵が頭蓋骨を飛ばして来る。
 どうやら敵の使う能力は、余力あるやつに金を渡すことで奮起させ、同時攻撃を叩き込むタイプのようだ。
「ターゲットに入れなくても撃つ! 入れてても撃つ!」
 エアリィはここで精霊銃をぶっぱした。
 飛んでくる頭蓋骨と、同時にやって来る敵をまとめて範囲攻撃を掛けたのである。
「ついでにもう一発! えへん、そんな攻撃じゃあたしを倒せないからね!」
 敵の攻撃自体は頭蓋骨を剣でホームランし、オーラとエネルギーと霊的な三重防御でガード。アニメみたいに割れるバリアではないので、ちゃんとダメージを減らしてくれた。
「あめあめ、ふれふれ、かめさんが~♪」
 なおその頃、シズクちゃんは足をプラプラさせていた。
 面倒くさがりな彼女の代わりに、インジブルのお魚さん達が頑張っている。
『くそ! 死霊かよ! 兄貴、こうなったら!』
『おう。やるぞ!』
 魚たちに食いつかれながら敵はシズクへと殺到した。
 チンピラ妖怪たちがバールやら頭蓋骨を手にして迫る。
 いや、頭蓋骨は投げて飛ばすんだけどさ。
『へっへっへ。お嬢ちゃん。こんな場所に顔出すのが悪いんだぜ』
「あー。そう来る? めんどうくさいんだけどなあ……まあ。仕方ないや」
 敵が雫を取り囲み、どう見ても事案な格好で人質に取ろうとした。オマワリサーン!? だが忘れてはいけない。彼女は面倒くさがりなだけだし、そもそもまだ√能力は使ってないのだ。
「やっちゃえ、玄武」
『あ? 消え……た?』
 抱えあげられてハイエース、あるいはバールでフルボッコにされようとしたシズクは己を玄武に食わせて無敵獣として召喚した。全ての攻撃を無力化するそいつは、亀に見えるが実は古龍であった。きっと四方を守る四聖獣という分類の前は、四方を守っているのは四属性の龍だったかもしれない。
『あ~に~きぃ、体がぁ溶けてやすぜ?』
『お前こそ……アー!?』
 シズクの周囲に振っていた雨だが、更なる雨を玄武は降らせた。
 それを受けた敵は次第に存在が溶けて消えて行き、ドロドロになって消失したという。
「いえーい。やったね! あ……メールだ。なになに?」
『ホットショコラの注文が入りました』
 エアリィが最後の敵を倒した時、シズクちゃんは何時の間にか甘い物を注文したという事です。もしかしたら遅れてやって来た時、既に注文していたのかもしれませんね。

第2章 ボス戦 『八尾白組舎弟頭・呪拳の煙々羅』



『逃がさねえぞ!』
『キュー~!?』
 その頃、敵集団が取り囲んでいた向こう側で誰かが戦闘していた。
 烈風が体を切り刻むのも気にせず、再構築された拳がイタチの様なナニカを殴りつける。そしてふっ飛ばされたイタチもどきは、どうにか隙を突いて逃げようと考えた時のことである。
『あ? あいつら何処でほっつきやがって……。はあ、どいつもこいつも! 俺の強さについて来れねえのかよ!』
 煙で体が出来た男は、完全に肉体を取り戻した時、周囲を固めていたはずの舎弟たちが居なくなっている事に気が付いた。その理由は一つだけだ、誰かが倒したのだろう。
『ちっ。逃げやがったか。まあ、良い。あの傷じゃあ遠くには逃げれねえだろう。邪魔者をやってから食ってやらあ』
 舎弟が雑魚であろうと、いくらなんでも一体の古妖が瞬時に倒せるはずもあるまい。
 一か所に集まって居ればともかく、獲物が逃げないように取り囲んでいたからである。男はひとまず冷静さを取り戻すために、一服点けて紫煙を吹かせるのであった。
エアリィ・ウィンディア


「この人が親分さん??」
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は白い男と相対した。モクモクと煙立つ中で、黒い羽織を着ている。
『ちょいと違えなあ。鉄砲玉の頭ってところさあ!』
 煙から体を再構築したばかりなのか、掠れたような声だ。
 だが、どことなく力強さと、それ以上の狂気を感じる。
「強そうだけど怯えてなんてあげないからっ!」
『覚える必要なんざねえ! 重要な緒は、てめえは強ええのかどうかだ!』
 エアリィは男の怒声にビクっとなりながらも剣と銃に力を込めた。
 精一杯の勇気を奮い、己の力を活かすためである。
(「目一杯、全力で行かせてもらうよっ!! なんだけど、いかに使うかだよなぁ……」)
 エアリィは大技を使うための準備を整えたが、少し微妙な物を感じた。相手が飄々としている上に、まさしく雲を掴むような技の使い手でやり難い。
(「悩んでも仕方ないか。まずはこんなところで、どーかな!」)
 そこで残像を生み出しながらの高速移動で飛び回りしつつ、精霊銃を撃ちながら牽制に徹し、相手の様子を見ながら魔力を高めていったのである。
「……これがあたしの奥の手っ! 六界の使者よ……」
『遅せえ!』
 敵が体を煙に変えながら接近し始めた事で、エアリィは詠唱しながら離れていく。その様子は擬態であり、いかにも格闘戦を避けているかのようだ。
『死ねよ小娘!』
(「今っ!」)
 敵が急接近したことでエアリィは剣を素振りしながら時間を稼ぐと、そのまま剣を放り出し、精霊銃も上に投げて気を引いて√能力を発動したのだ。
『おら!』
「な~ん!?」
 とても痛い。実に痛い。
 エアリィの体に拳が突き刺さり、そのまま彼女はふっ飛ばされていく。
 だが、死ぬほどのダメージでは無かったこと……いや、ダメージを一時的に無力化されたことで、既に発動した術式が光を帯び始めたのである。
「我ぎぃっっにゃー! 集いてすべてを撃ち抜きし力を……!!」
『ちぃ!』
 エアリィが涙目になりながら詠唱の残りを高速で唱えていく。
 ふっ飛ばされながらも、火・水・風・土・光・闇の精霊が結集し、敵周辺を強烈な魔力砲撃が薙ぎ払ったのである。
「あだだだ……でも、生きてるもんね」
 エアリィはそう言いながら体を確かめ、肋骨に痛みはあるが顎や歯は無事であることにホっとしたのである。女の子だものね、涙が出ても仕方がないさ。

御剣・峰


「ほう。煙か」
 仲間が先に高速で戦う姿を見て|御剣・峰《みつるぎ・みね》(蒼炎の獅子妃・h01206)は笑った。強敵と戦うこと自体は好んでいるのだ。
「煙は斬ることも殴り砕くことも出来ないし、ただ纏わりついてくる。なんとも厄介な物だが、斬れぬ、砕けぬと言うなら吹き散らせばいいだけのこと」
 この敵に対し峰が取った選択は、全力で薙ぎ払い続けると言う物であった。
 迷いながら戦うよりも、その方がよほど確実だからだ。
「行くぞ!」
『来いよ!』
 峰が剣を振えば敵はそれを真似て来る。
 霊刀ならぬ呪刀を振るい、剣戟には剣を返して来た。
「私の技を真似るか? 真似たところで形だけの技など怖いものか。格の違いを教えてやる」
 峰は感覚を研ぎ澄まし、己の動きを真似ている事を逆用し、鏡に映る自分に対する稽古であるかのように動いた。そして段々と動きを加速させ、己の中のリミッターを外しながら先々に動いて行く。
「聞こえるか! 龍の咆哮が! こうなればもはや止められんぞ!」
『ははは! そうこなくっちゃなあ!』
 峰は神霊である古龍を降ろし、その力を纏って高速で動き続けた。
 その中で敵は血笑を浮かべ、似たような動きで逆行して来た。
 煙の剣は既に砕けているが、彼自身が取り込んだ動きを覚え直すためかもしれない。
『こうか!?』
「そんな訳がないだろう!」
 所詮コピーはコピーである。
 加えて、敵は峰の動きから参考になる部分を抽出して自分に活かそうとしているだけだ。峰から見ればその貪欲さと、たとえ死んでも修練を持ち帰るつもりの気概は大したものだが、それだけであった。
「模倣が得意な剣士でももう少し楽しめる。やはり、心の伴わない勝負は楽しくもないな」
 峰と敵はお互いに一撃離脱で駆け抜け、互いの位置を交換し、あるいは貫通するかのように距離を取り合ったのである。

エイル・デアルロベル


「煙の体ですか……中々厄介ですね」
 エイル・デアルロベル(品籠のノスタルジア・h01406)は敵の姿と戦いぶりをそう評した。飄々として受け流し、延々と戦いながら己を鍛えようとしている。戦いに執着し、そして越えるべきは相手ではなく己自身であると理解した強さだ。敵から見て自分たちは、命を懸けた修練相手に過ぎないのだろう。
「核がある敵ならピンポイントで斬って何とかなりそうですが、この敵があるのかどうかは何とも言えませんね」
 とはいえ、エイルは敵の強さの根幹を見抜いた。
 何をやっても押しきれない、柳を越えた煙の動き。
 その根幹には核があるのかもしれないし、逆に無いからこそあのレベルで収まっているのかもしれない。
「とはいえ、やりようがない訳ではありません」
 エイルは最も信頼する二刀を抜いた。
 そして対になっているその刃の真髄を解き放つのだ。
「さあ。今度は私がお相手いたしましょう。せっかく追い詰めたのです、休ませはしませんよ」
『はっ! やって見な!』
 エイルは二刀流にありがちなスタイルで攻め立てた。
 メインウェポンを『現』とし、サブウェポンを『夢』とする。
 この二刀はそれぞれマテリアルサイドとアストラルサイドに影響力を特化しており、現が物理現象を斬るため、夢は非物理現象を斬るための剣であった。
「はあっ!」
『はーはっは! その程度じゃ俺/オレは切れねえぞ!』
 現による斬撃で切裂きつつ、夢を分銅の様にして重心移動の助けとする。
 回転し踊るような斬撃であるが、帰って来た反応は肉を半端に来る切る手応えと、敵が繰り出す煙の刃であった!
『こいつを喰らいな!』
「まだまだ! この武器の真の力を呼び覚まします」
 敵が薙ぎ払うように繰り出す一撃で、エイルは合わせて刀を合わせた。
 現のコピーに現を、夢のコピーに夢を合わせつつ、そのまま夢の方に重心を移して返す刀で薙ぎ払っていく! もして敵が性能すらコピーしていても、同じ属性ならガードできるだろう。その上で『核』がりそうな場所も、そうでない場所も含めて切裂いて行ったのだ。そして、逃げ機目で感じたのは、フワフワとした手応えを旋風で跳ね除ける感触と途中で感じる肉の手応えであった。
「変動している……。これは、あなた、もしや古妖を食ったのですか?!」
『だからどうしたよ! 所詮、この世は力が全て! 血も肉も経験も、その全てを喰らって何が悪い!』
 ソレは人間を斬った手応えであり、妖怪を斬った手応えが入り混じる感触であった。
 奴は人間でありながら、妖怪を食う事で特性を身に着け……同時に人間の貪欲さで己の血肉に変えていたのである。

雨宮・静


「全然元気だし……まぁ、ホットショコラの代金分くらいは働くよ」
 |雨宮・静《あめみや しずく》ちゃんは無表情っぽい顔に見えで全然ダルダルでした。小文字で言うと(´-ω-`)な感じ。<(`^´)>という程にさぼってはいませんけどね。
「玄武、後はお願い……え? 自分で働け?」
 シズクちゃんが玄武にお願いすると首をフリフリしたイメージ。
 亀の頭がニョキっとやったのか、それとも蛇さんがブーンとやったのかは判りません。そういえば昔、ゲームで幕末で暗殺者してると『先生。たまには自分で戦ってさい』と部下が任務を押し付けて来るんですよね。そんな気分。
「もう、しょうがないな……。時雨みたいに、さっと終わらせようか」
 シズクちゃんの機嫌は狐雨、その気はなくとも、もーちょっとだけ続くんじゃ。

 という訳で振っては止む雨の様にシズクちゃんは戦いへと向かう。
「変な煙を纏ってるみたいだけど、雨の中で維持できるか試してみると良いよ。代償は、キミの命だけどね」
 ざぁざぁと降り注ぐ雨は存在を溶かす雨。
 押し流して相手を消し去る雨。
『言うじゃねえかガキンチョ! 吐いた唾は呑めねえからな!』
 大して敵は羽衣の様に雨を纏った。
 体を濡らす雨は溶かす雨を流すシャワーの様だ。
 だが、規模が段違い、時間が段違い、そして密度が段違いであった。
「そもそも、雨の届く屋外でしずくに勝とうだなんて烏滸がましいんだよ」
『そーかよ! なら最後はコイツだよなああ!』
 怒涛の勢いで降り注ぐ雨は敵の流す雨の羽衣も、煙そのものも溶かしていく。
 その中でシズクが最後に見たのは、消されても自己主張する鉄拳であった。
 痛いけれどその痛みも自分に雨を纏う事でかき消して、どこ吹く風ならぬ何処に降る雨で嘯いた。
「……ちゃんと働いたし、ホットショコラに追加でバニラアイスも注文しても怒られないよね?」
 ケータイに触りながら指先は注文籠へ。
 この時だけは鼻歌交じりにポチるのでした。

八百夜・刑部


『あん? てめえは……』
「おう、久しぶりだな煙の」
 どんなに追い込まれようと笑って戦い続ける男。
 血肉を煙に変える男に|八百夜・刑部《はっぴゃくや ぎょうぶ》(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)は声を掛けた。
『よくもまあ俺の前に顔を出せたな』
「まあお前から見れば系列の組抜けした裏切者か……。いや、お前にとっちゃオレの弟が親分だからそれ以上か」
 彼ら八尾白組の親分は刑部の弟だった。
 実力差もあるし血統というのもあるかもしれない。
 だが、血縁であるならば何を置いても親分を守るべきであろう。特に刑部はパワーで何とかするタイプではなく、策を練ったり他人をフォローして『縁と機』を取り持つタイプなので猶更である。それが弟を組長をおいて出て行ったとあれば裏切りでしかあるまい。仮に刑部になにかの期待があったとしても、そんなものは全て反転している筈だ。
「悪いとは思っちゃいるがお前の同門のアイツを差し出すほど優しくもないんでな。ここで一旦退いてもらうぜ」
 許せないというのが目の前の男……煙々羅の言い分であるならば、そうできなかった刑部の言い分がある。そして別のベクトルの厄介と縁があれば、それを捨てきれないのも刑部という男だ。それを差し置いて討たれやる訳にも、戻る訳にも、まして今の依頼を捨てる訳にも行かなかった。
『言うじゃねえかこの忘八野郎が!』
「忘八か。返す言葉はないが、じゃあ、代わりにこういうのはどうだい?」
 掴みかかろうとする敵に刑部はくすりと笑った。
 一瞬の後に、その女へ。忘八者とは仁義を欠いた者の事を示すのだが、同時に廓で働く男の事でもあった。それを引っかけて、女へ変化したのであろう。
『女だと? それがどうしたよ!』
「さて、これは呪いで攻撃する女の子に変化する技……。返さないと呪いでどんどん避けづらくなりますよ」
 古来、日本では『よみかた』の方が重要であり漢字は当て字であった。
 そこで刑部は自分の名前を元に、別の刑部を組み合わせたのだ。
 刑部狸に関する力から、刑部姫に関する力へ、『おさかべひめ』という名前を持つ妖怪の逸話は無数にあり、その一つを使う伝染効果で周囲のモノを眷属として操って行く。
『ちっ。かまけわざか!』
 車同士の接触を『カマを掘る』と言い、相手に必要以上に時間を使う事を『かまける』という。類推や模倣も同様に言うわけだが、要するに類感魔術・感染呪術というやつだ。ジワジワと良く似て相手の色に染まる状態を術として、健康を病人に移したり、病人から耐性をコピーさせてもらったりする概念である。
「ふふふ……。ただ貴方に切った張ったで傷つく覚悟はあっても女に化けて、とびっっきりの笑顔を使って攻撃するってのは出来ますかしら? っと」
 わざと女っぽい口調と演技で刑部は相手を煽り倒していった。
 その間にも周囲から色々な物が魅了されて浮遊し始め、その中の一つが音を立てて飛んでいくではないか!
『バーカ! 男子三日会わざればって言葉を知らねえのかよ! こうすりゃ同じだろうが!』
 なんと、敵はコピーした力を羽衣に変換。
 魅了の力を持つ羽衣で、自分にぶつけられた品を絡め取り、刑部へと飛ばし直したのだ!
「知ってるよ。お前がそう来るってのはな。だが、此処は闘技場じゃねえ。戦場だ。なら、重要なのはその先だろ?」
 ドロンと笑って見せれば刑部はその攻撃に対応した。
 何故ならば、その動きが出来ることは良く知っていたからだ。
 どうして同じ飯を食った彼が、煙々羅のやれることを知らないと思ったのか?
「お前はこういうのが好きなんだろっ! アイツ程じゃねえがとことんやり合おうぜ!」
 要するに、格闘術に呪いの力を上乗せしているわけだ。
 形なく真似てしまうという呪いを、マイナスではなくプラスとして捉えて叩きつけるという技に昇華させている。だから似せても限界があるし、一度持ち帰って真髄を研究しないといきなり強くはなれないのだ。だから一度『魅せ技』で誘導し、そこから先に繋がる技で押し切る予定であったのだ。背中に彫った武士の刺青を解放し、闘気を載せて殴り始める!
『はっ! お互い刀無し! 小細工なしかよ! いいねええ!』
「クソ! 喜ぶなよド変態が! 攻めてるのはこっちだぜ!」
 相手はコピーに続く追撃でしかなく、こちらは改めて放った攻撃だ。
 威力が倍以上違うのに、先ほどまでの魅せ技よりは楽しそうだ。
 おそらく敵は……心底ド付き合うのが好きなのだろう。
『ちっ! この程度で勝ったと、思うんじゃねえぞ!』
 だが、何処かで限界線が来る。
 煙々羅が喰らった古妖の肉片がその場に残り、煙の本体は蓄積した経験ごと消えてしまった。まさしく雲か煙かといった風情ではないか。
「今時、こんなのは漫画でもやらねえよ。あー、こんなのはもうしばらく御免だ」
 最終的に殴り勝ったのは刑部だが、そもそも彼は脳筋のブルファイターではない。面倒な奴に目を付けられたなと思いつつ、それが自分であることに一抹の安堵を覚えるのであった。

第3章 ボス戦 『災いの鎌鼬『三巴』』



『キュピ?』
『クークー』
『ルルー~』
 強敵である煙々羅は去った。
 代わりにその場に現われたのは、隠れて身を守っていた古妖である。
 そいつは薬壺での治療を中断し、こちらに対して三位一体の動きで迎撃態勢を取った。
 仮にも古妖なので強いかもしれない、だが、負傷しているのは間違いが無かった。
深雪・モルゲンシュテルン


「同士討ちで傷を負った古妖、ですか」
 |深雪《ミユキ》・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)はゾディアックサインを確認して理解を深めた。
「簒奪者にジュネーヴ条約は影響しません……抹殺します」
 それは事実を勘案しての冷静な言葉だったのかもしれない。
 もしかしたら、分かり難いけれど渾身のジョークだったのかもしれない。
 おちらにせよ、敵に対してやることは一つだ。時々自分でも判らなくなるのだが、深雪はその時の言葉を否定しなかった。
「負傷してもなお三体での連携戦術は無視できない脅威です。ここは、この作戦に今まで参加してきた皆さんが決着をつけに行きやすいように、まずは連携を断ち切りましょう」
 状況を冷静に勘案した結果、深雪は戦場を分断することにした。
 可能な限りの脳波コントロール型の浮遊砲台を動員し、旗下に集めて砲撃態勢を整えさせる。
「全砲門一斉発射。火点は可能な限りそれぞれの長所へ」
 無数の浮遊砲台が移動を終え、一気に敵を薙ぎ払っていく。
 しかも鎌であったり薬壺であったり、尻尾を狙ってレーザーを放って行く。
『クークー!? キュ!』
 この攻撃に驚いたのか、次男のお兄さんが果敢に反撃!
 よく見れば片目に傷がついているようだ。
 もしかしたら無理を承知で反撃したせいかもしれない。
『キュウキュキュキュ!』
「むう。此処までですか、しかし成果はあったと見ます。皆さん、後は任せました」
 それは尻尾を刃にしての回転突撃!
 深雪はチェンンソーを剣状にして構えると、受けながら限界を悟る。
 何故ならば、即座に敵が跳ねあがり、もう一撃放って来たからだ。
 何とか攻撃を受け止めながら、深雪はそのまま撤退した。

エアリィ・ウィンディア


「おじさん強かったぁ……」
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)はひどい目にあっていた。もちろんエッチな目にあったわけではない。バチバチの鉄砲玉と殴り合った結果である。
「確か、さっきのおじさんが戦ってたんだっけ。でも、弱っているからといって、このイタチさん達が弱いわけじゃないもんね」
 しかし、エアリィは涙をこらえた。
 女の子なのだから涙が出るのは仕方がないが、明日の太陽に向かって飛んでいくのが彼女の流儀だ。雨は何時の間にか晴れていました。まる。
「うん、がんばるっ! ここは出し惜しみなしかなー」
 精霊たちの声援が聞こえた気がしてエアリィはやる気を出した。
 そして剣と銃を構え(銃は壊れてないか確認した)、高速で動きまくる敵に向かっていったのである。
「いっくよー」
 エアリィは目立つ動きで飛びあがると、空中を駆けながら銃を撃った。
 全体的に相手を拘束する動きで射撃し、逃走ルートを抑えながら剣に魔力を集めて詠唱を開始する。
『ルル? ルルル~』
 これに対して敵は毒を放ち始める。
 毒の弾丸をこちらも牽制しながら発射し、飛び込んで来るエアリィにぶち当てる構えだ。
「世界を司る六界の精霊達よ、あたしに力を……。精霊達とのコンビネーション、ゆっくり味わって行ってねっ!」
 ここでエアリィは増速し、十でなく右手の剣で斬撃を浴びせた。高速飛行からの高速斬撃! それも六種類の精霊の魔力を束ねた一撃であった。
『トルルル!』
「さすがに一刀両断っ! ってわけにはいかないか! あと、この位の毒には負けないよ!」
 一撃離脱で飛び抜けながら、敵の放った毒の範囲から抜け出ようとする。それでも追いつく攻撃を、オーラ全開にして防御するのであった。
「……ふぅ、これくらいならまだまだ大丈夫っ!」
 何というか、さっきのおじさんのお陰で、まだまだ大丈夫という枠が広がってしまった気がする。あんまり痛く感じないもんね。

エイル・デアルロベル


『キュピー! キュピキュピキュピー!?』
「可愛い容姿をしていても敵は古妖です。逃したら被害が出るのでここできっちりと倒していきましょう」
 エイル・デアルロベル(品籠のノスタルジア・h01406)は敵である古妖が兄弟たちがダメージを受けて、嘆いている姿を眺めた。
「敵が回復手段持ちの手負いであれば、その時間を与えず一気に倒しきるのが良いでしょう」
 ある種の擬態だと思えば同情心もわかない。
 それこそ人とまともに付き合えて居るなら、封印などされている筈がないのだから。
(「……逃走出来る程に回復していないようですね。では、この機を利用させてもらいます」)
 エイルはまず、敵が逃走できるかを確認した。
 もしその場合は退却ルートを塞ぐつもりだったのだ。
 だが、敵に回復する時間を与えなかったこともあり、その必要はないようだ。ゆえに己の得物に力を纏わせて敵に挑む。
「魂の輝きをお見せします」
 エイルは非物理現象を切裂く刀でカマイタチを切り捨てた。
 その一撃は先ほどまでと違い、黄金の輝きを見せている。
『キュッピキュッパ、キュルルピポ!』
「無駄です。はああ!」
 そしてもう一刀、物理現象を切る刀で敵の尻尾を受け止める。
 まるで棍棒やバットのような金属音が鳴り響き、それを受け流すことでダメージを減らした。そしてその刀もまた黄金の輝きを有しており、魂の色合いという意味で、二刀は同じ存在として重なり合うかのようであったという。
「素早い三位一体の動きはとても厄介ですが……負傷している状態で戦える状況なのが功を奏しましたね」
 そして油断なく黄金の二刀を構え直すと、退路を建てる位置を抑えながら再攻撃の機会を伺ったのである。

八百夜・刑部


「あー、疲れたがまだ終わってないんだよなぁ……」
 |八百夜・刑部《はっぴゃくや ぎょうぶ》(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)は盛大な溜息を吐いた。普通の人間の三倍分くらいだが、怠惰に流している事も多い彼にとっては普通の量だ。
「ならとっとと終わらせてこっちで遊びに行くかね」
 刑部はメリハリをつけて生きているタイプなので、本命の仕事を終わらせてもまた新たに気合を入れることが出来る。いや、むしろ張り詰めっぱなしの方が合わないとか、一生分のガチは使い果たしたとか言って、自分が助けたい誰かのために命を懸けるタイプでもある。
「……ともあれ、今有効なのはこれだろうな」
 そして幾つかある能力の内、もっとも有効な物を選んだ。
 体力的には面倒なのだが、時間を掛ける方が嫌なタイプなので自分で納得しておく。
「この姿に頼り切りたくねえが……ここで切って勝つッ!」
 若き将校の姿に変身すると、銃を構えて敵を追い掛け、あるいは敵が反撃の体勢に入るとさっさと逃げに入る機動戦を始めたのである。
『クークー!』
 敵は空中で前転を々、尻尾の斬撃を連続で浴びせて来た。
 背中に傷が走り、腕も傷ついているようだが、決死の突撃である!
「おおっと、そいつは予測済みなんだよな。手負いなら鬼ごっこもこっちが有利だろ、多分」
 その攻撃が来た瞬間、刑部はサーベルの本性である魔剣を引き抜いた。
 一撃が当たるのは仕方がない、だが、二撃目・三撃目を喰らう前に倒してやると、振り抜いたのである!
「おー痛て。ヒーラー居るみてだし、回復してたらヤバかったかもな。さて、こいつを届ければ終了か……ふむ。そう言えば腹が……へったなあ」
 やがて目の前の敵を倒し、仲間たちと共に古妖の肉片を手に入れた。
 おそらくは体を構成している部分を砕かれ、核である肉のみが残ったのだろう。
「機動隊のあんちゃんたちに預けて、この辺の被害を見て回るかね」
 そして気のない顔で肉を拾うと、さっき呼び出した機動隊に渡して帰還。
 町をブラブラしながら、無事を確認しながら食事処を探したという事である。

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