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駆ける、駆ける
「はっ、は……!」
私は走る。
鏡を見たとき、呆然とした。様変わりした私の姿に。それから、それから――。
よくわからない化け物に、怪しい人達に、追いかけられるようになって。
このままじゃ、きっと家族に迷惑をかけちゃうと思うから、私は逃げ出した。
「……どうしよう……」
ふ、と息を吐く。
――何がなんだかわからない。これじゃ危ないことだけは、なんとなく分かっている。
誰か助けてくれないだろうか。誰か、誰か――……。
●
写・処(ヴィジョン・マスター・h00196)は眉を潜めていた。
「――……危ない方がいます。『天使』、の方です」
『オルガノン・セラフィム』、『羅紗の魔術塔』――その他に、怪異――……天使を狙う者はごまんといる。
その中でも一人の少女が追い詰められていると、写は予知した。
「早急な救助が必要です。……どうか、頼みます」
写は手短に説明を終えると、少女の居る位置を伝えた。
●
「……ここまでくれば……きゃ……!?」
目の前に現れた人だかりに、少女は数歩引く。
「――あ、あの」
「『天使』、だな」
――天使。私は、そう呼ばれる存在なのか。
「我々の『資源』として、連れていかせてもらおうか――」
ぞわ、と怖気が立った。……このままだと、私はどうなっちゃうの?
恐怖で足がすくむ、どうすればいいかわからない。
誰か助けて、誰か、誰か――!
声にならない悲鳴が、そして切なる願いを受け取る者は、今はどこに。
第1章 集団戦 『FBPC機動部隊『ウェットワーカーズ』』

――お話はあとまわし~。
逐一事情を説明していては時間もかかるし、『天使』も混乱することであろう。まずは行動で見せつけることが適切だと、紅綺羅・レーコ(赤×黒+綺羅=可愛・h00958)は判断した。正体を隠すために顔を隠すのを忘れないようにする。
「――かかってこーい」
バットを手に立つ、気持ちとしては四番、バッター、エース。とはいっても、投げるのはボールじゃなくてバットそのものだけどね!
力いっぱいぶん投げたバットはあちこち跳ね回る。
「うわっ……!?」
「近づくと危ないよ~」
目を白黒させる天使に向かって後退させるように声をかければ、なるほど大人しく従ってくれる。いい子、なのだろう。
怯む『ウェットワーカーズ』に向かって駆け出す――真っ赤なげんこつと、黒いキックを、ど~ん!
「ヒーローさんじょー……って感じでいーい? だめ?」
振り返り、みてみれば、へたり込んでいる天使の子が呆然とおのれを見上げたのち、少し緊張がほどけたような笑顔を向けてくれていた。
「わたし達はあなたを助けに来ました!」
うろたえる天使の少女へそう声をかける、同じ年頃の少女が剣や不思議な本を手にしている、まるでライトノベルかアニメみたいだ、目を丸くしていた。こういう反応もあろう――今それは気にすることではない。天使の少女は駆けつけたミンシュトア・ジューヌ(知識の探索者・h00399)を見るや頷き、建物の影に隠れる。
「あらー、なんだか痴女が集まっていますねー? 羞恥心とかないんでしょうねー」
挑発の言葉に敵意をむき出しにする相手へ、そうだ、それでいいと得物を構える。
相手は集団、『邪風の爪』がカマイタチを起こす。相手を吹き飛ばしながら戦場を駆ける、尚も寄る相手に向かってウィザードブルームに乗り空中から攻撃を叩き込む!
「数がいますね……」
天使はそれほどまでに『資源』であるか、どこまで護りきれるか。
「あの……」
「うん?」
おずおずと少女が声をかけてきた。ありがとうございます、その言葉に、なるほど確かに天使だと、そう思った。
曲がりなりにも、安定した文明が維持されているこの世界で。
「……っ!」
襲いかかる存在におびえる少女、目を細めて深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)はその元へとホバーバイクで駆けつける。ウォーゾーンでもあるまいし、こんなところで『資源』の『略奪』なぞ、錯誤にも程度がある。
『神経接続型凍結砲<氷界>』が発動される、氷結に女達は足元をとられる、或いはその身そのものが凍りつく。
「――安心してください、私達は味方です」
そう声をかけると、ドローンで遠隔操作されたバイクが少女の元へ。
「……え」
「こちらで離脱を」
「で、でも……」
お構いなく、そう言って乗るように促す。少女はぎこちなく頷くと、その上へと跨った。
「――まだ、続きますか」
飽くなきヒト、ないしはそれに類する知性の欲求。……ほどほどにしてほしいものだ。
相手の攻撃を躱しながら戦線工兵用鎖鋸で切り結ぶ、相手の大型注射器の針を切り落とし、ふう、と息をついた。
どこまで続くか。これで終わればいいが。