シナリオ

暴走する作業機械

#√ウォーゾーン

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 #√ウォーゾーン

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●作戦会議室(ブリーフィングルーム)
「集まっているな、諸君。この作戦で星詠みをさせてもらう、綾咲・アンジェリカだ。よろしく頼む」
 綾咲・アンジェリカを名乗った女は金色に輝く長い髪を弄びながら、琥珀色の瞳で集まったひとりひとりを見渡した。
「それで、綾咲さん。今度の作戦とは……」
 √能力者のひとりが挙手し、発言しようとする。すると。
「……アンジェ、と呼んでくれてもいいんだぞ。親しみを込めて」
「あ……はい、アンジェ。で、今度の作戦はいったい?」
「うむ」
 機嫌よさそうに頷いたアンジェリカは、両手を卓の上に乗せて、そこに地図を表示した。そこは『戦闘機械群ウォーゾーン』の支配下から奪還した√ウォーゾーンの人々が住む『戦闘機械都市』のひとつであった。
「皆も承知の通り、この都市でも生命攻撃機能は無効化されている。だからこそ、我々は安心して住むことができるのだな。
 しかし、だ。今、この都市に戦闘機械どもが迫っている。まずいことに、都市機能がこの干渉を受けているのだ。具体的には、生命攻撃機能の無効化が解除されてしまった。都市にある機械は住民たちに襲いかかってしまうだろう。
 すぐに現地に向かい、生命攻撃機能を再度、無効化してくれ」
 戦闘機械群の干渉を受けているのは、市庁舎に設置されているサーバーである。都市にある機械の多くがここに接続され、それゆえに同じく干渉を受けて生命攻撃機能を復活させているのだ。
「残念だが、個々の機械に対してはともかく、大規模なハッキングに対処するゆとりはない。
 それよりも住民たちを避難させつつ、干渉を行っている戦闘機械どもを撃破した方が早い。避難場所は、ここだ」
 と、地図の一点を指す。そこならば当面は安全に過ごせるだろう。
 一同を見渡したアンジェリカは、白い手袋を嵌めた手を振り上げ、
「都市の住民は、諸君らの到着を待ちわびている。さぁ、栄光ある戦いを始めようではないか!」
 と、高らかに宣言した。

●戦闘機械都市・市街地
「うわぁッ!」
 道路を工事している作業機械が、突然に作業員の操作を受け付けなくなった。それどころか、アームを振り回してところ構わず破壊し始める。アームは激しくアスファルトに叩きつけられ、砕けた破片が四方に飛び散った。
「きゃ……!」
 歩いていた女子学生が、悲鳴を上げて腰を落とす。
 手にしていた鞄を見てみると、そこには深々と破片が食い込んでいた。もし、鞄がなかったら……ゾッとした女子生徒は、腰を抜かして動けなくなる。
「おい、早く逃げろ!」
 作業員は作業機械から飛び降り、女子生徒の腕を掴んだ。しかし半ば失神した彼女の身体は重く、思うように抱え上げられない。
 他の作業機械も暴れ回ってあちこちを破壊し、自動運転をしていた車は滅茶苦茶に走り始めていた。

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第1章 冒険 『狂える戦闘機械都市』


ヴィーネ・ウズネシア
朔月・彩陽
卯月・アイ

「戦闘機械がねぇ……これは危ないという奴か」
 人々を守らねば。唸った朔月・彩陽(月の一族の統領・h00243)は、傍らであくびをしているヴィーネ・ウズネシア(惰眠龍・h01284)を見咎めた。
「ずいぶん眠たそうやけど、大丈夫か?」
 問われたヴィーネはなおも出てくるあくびを噛み殺しつつ、
「大丈夫だ。説明中はほとんど寝てたけど、やることはわかっている。
 とりあえず、あれだ。なんか動いてるやつを壊せばいいんだろう? 知ってる知ってる」
 と、投げやりに手を振った。
「……寝てたんかい」
 そんな彼らが乗り込んだ戦闘機械都市は、聞いていたとおり機械群が暴れまわる凄まじい有り様となっていた。
「う~ん、思ったより大変なことになってるね~」
 卯月・アイ(境界を越えし享楽少女・h00707)はWZのコックピット・ハッチを開け、唖然としてその光景を見渡す。
「あッ!」
 その目に飛び込んだのは、暴れる作業機械のすぐそばでへたり込んでいる女子生徒の姿である。作業機械から飛び降りた作業員が助け起こそうとしているが、脱力した身体を持ち上げることに四苦八苦している。
 すぐさまコックピットに潜り込み直したアイは、一気にWZの出力を上げて飛び出した。
 作業員と女子生徒、ふたりにアームを振り下ろそうとするところに割って入り、それを鷲掴みにする。しばし力比べとなる両機であったが、アイは機体をわずかに横に滑らせた。
「往年の、半キャラずらし!」
 アームを受け流したアイは、その勢いのままに作業機械を投げ飛ばす。アスファルトに叩きつけられた作業機械はキャタピラを空転させた。アイはそこにWZの拳を叩きつけ、沈黙させる。
 アイは「手」を握ったり開いたりしつつ、その手応えを確かめる。
「せっかくだし、WZの使い心地ももっと確かめていこうか」
 暴走する機械群は、まだたくさんいるのだ。さらに襲いかかってきた重機の間を、アイは跳躍してすり抜けた。うちの1機に組み付き、もう1機に叩きつけて破壊する。
 その間に彩陽は作業員に声をかけ、
「はよう逃げ。此処は、自分らが食い止めたるさかいに」
 と、避難を促した。
「わ、わかった!」
 落ち着いて対処すれば、女子生徒の身体も軽い。
「頼むで」
 彩陽の声を背に、作業員は駆け出していった。
 そこに、瓦礫を載せたトラックが突っ込んでくる。横に跳んで避けた彩陽であったが、トラックはタイヤをやかましく鳴らしながら反転し、なおも襲いかかってきた。
 よくよく見れば、運転席には運転手が取り残されている。顔を引き攣らせた彼と、目があった。
「まるごとぶッ壊すわけにもいかへんな。なら……!」
 『霊震』を放つと、震動波がトラックのタイヤを狙って襲いかかった。重量のあるタイヤを支えるサスペンションが砕け、片輪の外れたトラックは傾いたまま、火花を散らしつつ路面を滑った。
 転がってきた、十分に殺傷力のあるタイヤを避けて彩陽は運転席へと飛びつく。
 トラックは重量こそあるが、加速は遅い。それが幸いして、運転手は目を回しただけで怪我はないようだ。シートベルトを外してやり、逃がしてやる。運転手はよろめきながらも、逃げていった。
 ところが、である。
 運転手や、他に逃げ惑う住民たちを追って暴走した車が走っていくではないか。
 しかし。
「余のママチャリから逃げおおせるとは、思わんことだ」
 力強くペダルを漕ぐのは、ヴィーネであった。
「余が漕げば、お前たちよりも速い!」
 ヴィーネはそれらを追い抜いて人々との間に割って入ると、前後輪をドリフトさせて停車する。
「……完全破壊は無駄だし、やりたくないな。できれば、止まってもらいたいんだが」
 無論、機械群がそれを聞き入れるはずもない。
「……警告はしたぞ」
 自転車のベルを鳴らしつつ、ヴィーネはペダルを踏み込む。そして跳躍するや、『詠唱錬成剣』でそのタイヤをスッパリと切り裂いた。車は進路をそれ、街路樹にぶつかって停車する。後続の車も次々とぶつかった。車体は木の幹に乗り上げ、タイヤは空転するのみである。
「……動かなくていいとか、羨ましいな。余も、早く寝たい」
 またもあくびをしたヴィーネは、
「このあたりは片付いたかな。
 早く逃げることだ。死んでは寝ることも出来ないぞ」
 と、人々を促した。

第2章 集団戦 『ナイチンゲール』


ヴィーネ・ウズネシア
深雪・モルゲンシュテルン

「暴走機械への対処は、落ち着いたようですね」
 深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)は辺りの、黒煙を上げる作業機械や車を見渡して小さく頷いた。
 市民たちは無事、避難できたようである。
「これなら、戦闘機械群の殲滅まで安全を確保できます。決着を、つけに行きましょう」
 まるでそれに呼応するように、まっすぐに伸びる幹線道の向こうから敵の偵察ユニットが飛行してきた。
 ナイチンゲールと呼称される敵群である。
 いつの間にか横にいたヴィーネ・ウズネシア(惰眠龍・h01284)が、眠たげに目を擦ってからそれらを見上げる。
「あいつらが来たから、機械が暴れ出したのか。……合ってるよな?」
「はい、そのとおりです」
 無表情のまま、深雪はこくりと頷いた。無愛想と思えなくもないがヴィーネは気にもとめず、
「よし。向かってくるなら敵だ。余の剣とママチャリの錆にしてやろう!」
 力強くペダルを漕ぎ出して、ちょうどこちらを発見したらしく高度を下げてくる敵群に挑みかかった。
「……神経接続型浮遊砲台、全機コネクション確立」
 深雪も砲台の群れを召喚し、応戦の構えを見せる。
「……√能力者を発見、撃破します」
 ナイチンゲールどもは無味乾燥な呟きとともに、足を止める。それは小夜啼鳥型ロボットを造り出すためであるが……。
 わずかに時間がかかるその隙を狙って、ヴィーネは正面から突っ込んだ。チリンチリンと激しくベルを鳴らしたのち、ママチャリから跳躍する。
 ヴィーネが振り上げた『詠唱錬成剣』、様々な属性の刀身を錬成する剣は、常の数倍もする刃を生み出した。
「警告は、したぞ!」
 渾身の力で振るわれた剣が、ナイチンゲールの胴に深々と食い込み、両断する。刃の勢いはそれだけにとどまらず、もう1体までも斬り裂いた。
 敵の両断された半身はそれぞれに吹き飛び、巻き込まれた同胞がなぎ倒される。
「どうだ!」
 直進し続けていたママチャリに着地するヴィーネ。 
「……中破」
 だが、片腕を失ったものの健在の機体が、小夜啼鳥型ロボットを生み出す。それは羽を広げてヴィーネに向かって一直線に飛んできた。
 しかし。
 無数の砲声が轟き、その直撃を受けたロボットは空中で四散した。そしてナイチンゲールどもも、ある機体は頭部を吹き飛ばされ、ある機体は翼を失って落下する。
 言うまでもなく、深雪の放った砲弾によるものである。
「……!」
 敵はロボットの生成を諦めて散開し、あるいは突撃の構えを見せる。
「そのどちらを取るにせよ……ノーマークで動ける状態を作らないことが、肝要です」
 しかし、浮遊する砲台から釣瓶打ちされる砲弾がそれを許さない。
「ここも、元はと言えばあなたたちの都市ですが……諦めて下さい」
 深雪がライフルを構える。
 WZの装甲さえ貫通させる銃弾が、敵機の頭部を四散させた。

卯月・アイ
朔月・彩陽

「√能力者、複数……殲滅する」
 損害を出すナイチンゲールどもだが、敵はしょせんは戦闘機械ども。己の被害などものともせず、次々と襲いかかってくる。
 卯月・アイ(境界を越えし享楽少女・h00707)はWZの中で唇を舐め、ディスプレイに映し出される敵群を睥睨する。
「ソレなら、遠慮なくヤッちゃっていいよね」
「……けほッ」
 転がってきたナイチンゲールの残骸が、煙を上げている。朔月・彩陽(月の一族の統領・h00243)はひとつ咳をして、
「相手は、強そうやけど」
 と、『朔月の腕輪』を撫でさする。それは統領の証である。
 敵はさらなる増援を招集し、襲いかかってきた。敵機は左右からふたりを押し包むように迫ってくるが。
「数だけなら、まだ問題はないわな。『月の御霊の式神達』、よろしゅう頼みますわ」
 相手が数を頼みに襲いかかってくるのならば、彩陽とて打つ手がある。
「……我が名に応えよ。我が命に応えよ。その名に刻まれし使命を果たせ」
 召喚に応じた式神たちは嚆矢の如くにまっすぐ突撃していく。数ならば引けは取らない。
 敵に激突した式神は激しく炸裂し、平衡を失った敵が墜落する。
「兎に角、少しでも敵を減らさんとな……」
 式神を引き裂かんとした敵機に向けて、彩陽は『破魔弓』を引き絞る。放たれた霊力の矢は空を切り裂き、伸ばした敵の腕に突き立った。そこに、式神たちが突撃する。
「アタシも、いくよ!」
 アイの決戦型WZ『ライデン』も唸りを上げ、敵へと迫る。
「さっきのでWZの動かし方もだいたいわかってきたし、ちょっと攻めてみようか!」
 擱座していた作業機械のサスペンションを鷲掴みにして引き抜くと、それを柄として組み上げたのは即席のメイスである。
「見た目はアレだけど、武器として使えれば何でもいいよね!」
 逆の手に構えた銃を乱射しつつ、敵へと迫るアイ。
 銃弾を浴びて怯んだ敵をめがけて、ブンッと唸りを上げてメイスを振り回せば、2体3体のナイチンゲールがまとめて吹き飛ばされた。
 僚機が倒れるのをよそに、小夜啼鳥型ロボットを創造した機体もある。それが一直線に襲いかかって爆発したが、
「まだまだ!」
 WZの装甲は砕けない。衝撃で少し頭はクラクラするが、この程度で怯んでなどいられない。
「こっちが生き残って倒せれば、それでえぇわな」
 『月霊浮遊機』に跨って高度を上げた彩陽が、敵の上を取った。式神たちが再び敵に襲いかかる。
「……覚悟せぇよ」
「そういうこと!」
 残った1機に向けて、アイが飛び込む。大上段に振り下ろしたメイスを、渾身の力で振り下ろした。
 メイスは柄からボッキリと折れ、敵の残骸と混じり合って区別がつかなくなった。

第3章 ボス戦 『統率官『ゼーロット』』


継萩・サルトゥーラ
第四世代型・ルーシー

「えぇい! 貴様らが余計な手出しさえしなければ、この都市を奪還できたものを……!」
 統率官『ゼーロット』には表情を示す顔などないが、敵は間違いなく歯噛みしていた。
 継萩・サルトゥーラ(百屍夜行・h01201)はその様子を笑いながら見やり、
「まあ、焦んなや。楽しいのはこれからだ。違うか?」
 肩を回し屈伸をして、ツギタシされてきた肉体をほぐす。
「なにひとつ面白くなどないわ、この生肉が!」
「生肉かどうか、怪しいんだよなぁ……」
 『アクセルブーツ』の踵を踏みしめ、サルトゥーラは銃身を切り詰めたショットガンを敵に向ける。
 しかしゼーロットは、視界内のインビジブルと瞬時にして位置を入れ替えた。
「おっと!」
 それに触れそうになったサルトゥーラは、慌てて跳び下がる。
「依頼の場所に到着したよ、マスター」
 決戦型WZ『ブッタ』の中で、第四世代型・ルーシー(独立傭兵・h01868)は呟いた。
「あれが依頼対象だね」
 と、モニターに表示される統率官を見据える。√ウォーゾーンに踏み込んでから、ハッキングのせいなのかなんなのか通信は途絶しているが、「マスター」とのやりとりは習慣のようなものであった。
 システム、戦闘モードスタンバイ。
 WZ内部に機械音声が響く。
「ん……あぁ」
 ルーシーの血管に薬物が注入され、彼女は小さく吐息を漏らした。
 もともと、WZ操縦者として強化手術を受けたのがルーシーである。その手術は彼女から人として大切な何かを奪った。加えて薬物が、ルーシーを戦闘のための機械へと作り上げていく。
「よろしく頼むぜ!」
 サルトゥーラが声をかけたが、ルーシーは無言のまま機体を滑らせた。
「……『物静かな』お姉さんだな」
 肩をすくめたサルトゥーラは笑いつつ、
「ま、いっちょハデにまいりますかね!」
 と、小型無人兵器『レギオン』を放った。『レギオン』たちは装填したミサイルを一斉に放つ。
「いけ! レザドロ!」
 同時にルーシーも小型無人兵器『レーザードローン』を展開した。無数のレーザーが、敵に襲いかかる。
「ぬおおッ!」
 ミサイルが炸裂し、よろめく統率官の姿が爆煙の中にかき消える。
 すかさずルーシーは距離を詰めて、パルスブレードを叩きつけた。敵の肩口に、刃が深々と食い込んだ。
 だが、
「貴様らなど、出世のための踏み台にすぎん!」
 敵は再びインビジブルと位置を入れ替え、放電するそれに触れたWZが火花を散らす。
「……損害は軽微。マスター、戦闘を継続します」

深雪・モルゲンシュテルン
朔月・彩陽
ヴィーネ・ウズネシア
第四世代型・ルーシー

「飛行機型の殲滅を完了……」
「やっと指揮官のお目見えか」
 駆けつけた深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)と朔月・彩陽(月の一族の統領・h00243)は、統率官『ゼーロット』の姿を捉えた。
 冷たい風が一吹きすると、彩陽は首をすくめ「けほッ」と咳をする。
「あいつボコッてお帰り願えばえぇッてことか。ほな、覚悟しぃや」
「よくも、そのような身の程知らずなことが言えるものだ!」
 肩から火花を散らしているゼーロットは激昂しつつのけぞり、腹部の砲口からビーム光線を次々と放ってきた。数百発にも及ぶビームは、あちこちの建物で爆ぜて破壊し続ける。
「こちらを寄せ付けない構えのようですが……私たちは、ひとりで戦っているわけではありません」
 身を翻した深雪が、倒壊した建物の影に身を潜める。敵の放ったビームはコンクリート製の柱の残骸を吹き飛ばすが、深雪はなおも下がって攻撃から逃れた。
「まぁ、そういうことやね」
 同じく、彩陽もビルの陰に隠れて呼吸を整えていた。
「……我が名に応えよ。我が命に応えよ。その名に刻まれし使命を果たせ」
 その呼びかけに応じ、『月の御霊の式神達』が姿を表した。放たれた無数のそれは、見通しの聞かぬ瓦礫の中、もうもうと舞い上がる埃の向こうにいるゼーロットの姿を、正確に捉えた。
「むッ!」
 敵に向けて襲いかかる式神たち。ゼーロットはインビジブルと位置を入れ替え、放電状態となって式神を感電させたが、
「入れ替わったところで……問題はないで。式神たちは、何処までも追っかける。その身を倒しきるまで終わらないし、終わらせへんよ」
 彩陽の言う通りに、式神たちは次々と敵に襲いかかった。
「隙は作ったで。全力攻撃、頼むで」
「了解」
 深雪がビルの2階、窓の隙間から銃口を突き出した。それはWZの装甲を貫通させる目的で作られたライフルである。それを、『電極針弾投射形態』へと変形させる。
「……」
 狙いをつけることに、さしたる気負いもない。
 ゆっくりと引き金を引くと、放たれた電極針弾は狙いそのままに、ゼーロットの首筋を貫いた。
「う、お……ッ!」
 ゼーロットの四肢がビクリと震える。
 ギクシャクという動きは敵が切断された回路を急ぎ修復している証である。
 それを確認した深雪は、仲間たちに呼びかけた。
「皆さん、敵がシステムを復元する前に、集中攻撃を仕掛けてください」
「回復する前にさようなら……ッてね」
 彩陽の式神が襲いかかり、吹き飛ばされたゼーロットはむき出しになった鉄骨に叩きつけられた。

「ぐ、お、お……」
 ゼーロットは徐々に麻痺からの修復を進めているようであった。身をよじっているように見えるのは、背骨にあたるフレームに歪みが出ているからであろう。
「あとはあいつだけか。雑魚に先を任せて重役出勤とか、偉そうなもんだ」
 ヴィーネ・ウズネシア(惰眠龍・h01284)は敵を見やりつつ、呆れたように肩をすくめた。
「しぶとくてめんどくさそうな相手たが、皆が頑張ればなんとかなるだろう。任せた」
 と、ヴィーネは大あくびをする。
 すると第四世代型・ルーシー(独立傭兵・h01868)は、
「了解」
 と、WZの速度を上げた。
「待て、待て、待て」
 ヴィーネは慌てて後を追う。いくらなんでもバツが悪い。
「わかったよ仕方がない。余もまだ働こう」
 と、ため息混じりに『詠唱錬成剣』を抜いた。
「引き伸ばすと、またその辺の機械が暴走しそうだし、なにより余が時間をかけたくない。
 短期決戦でいくぞ」
 それを聞いていたのかいないのか返事はないが、とにかくルーシーにも異議はないらしい。
「すぐにかたをつけるよ、マスター」
 と、ここにはいない主に向かって呼びかける。
「うおおッ!」
 敵はよろめきながらも、腹の砲口からビームを放つ。フラフラと狙いは定まらないが、もともと狙うようなものでもない。あちこちを破壊することも厭わずに、数百発のビームが襲いかかる。
 WZの出力は最大。跳躍しつつ、噴射炎も激しくルーシーは突進していく。無数のビームが、『パルスアーマー』で弾けた。
 かなりの数を防いだものの、アーマーを貫いたビームが装甲で爆ぜる。
「ふはは、死ねッ!」
 敵はなおもビームを放とうとしたが……。
 ちゃっかりとルーシーの陰に隠れて近づいていたヴィーネが、WZの背を蹴って跳躍した。剣の柄に据えられた試験管に入っているのは……。
「えーと、今入ってるのはなんの毒だったか」
 首をひねりつつも、斬りつける。
「まぁ、なにかしら効くだろう!」
 叩きつけられた剣はゼーロットの肩に深々と食い込み、『錬金毒』が敵を蝕んでいく。
「あー……それだったか」
「武装の損傷を確認……パージします」
 ルーシーは敵のビームを浴びたサブマシンガンやドローンを外し、ただ『パルスブレード』だけを振り上げて、敵に躍りかかった。
「く、来るなッ!」
 肝心なときに、その足は麻痺して動かない。腕を振り上げるのは、まさに気休めにもならない。
「消えろ、イレギュラーッ!」
 渾身の力で叩きつけられた刃は、WZの関節を軋ませながら敵を両断した。
 ヴィーネが「おぉ」と感嘆の声を上げる。
「ようやく静かになったな。さて、帰って寝るとしよう」

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