シナリオ

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辻に咲く

#√妖怪百鬼夜行 #執筆中

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●さきほこれ
『立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花』
 春から初夏にかけて咲き誇る、美しい花々を女性に例える。

『んじゃ、『こういう姿』は何て表現すれば良いんだろうなァ?』

 ゆったり揺れるように。ふらふら、あちら、こちら。
 足の踏み場を求めるようにひたりひたりと、素足の音。踏みしめているのは血の海、臓物、ああ、赤い。

『俺的には同じく! 立てば芍薬、座れば牡丹!』
 白い着物が、花嫁衣装が、赤に染まっている。まるで金魚のように、裾から――。

『歩く姿は百合の花――!』
 陽気な声はいつだって古めかしいラジオ越し。流行りの音楽もこれを通ればノスタルジーの仲間入り。
 そして『これら』を聞けばいたずらに、あの花嫁の仲間入り。

『速報です。H市、N区にて殺傷事件が発生。犯人は神社の境内とその付近を歩いていた人や妖怪を無差別に斬りつけた後、逃亡中です。犯人の特徴は花嫁衣装、白無垢を着た二十代の女性。当日、近隣の神社にて結婚式を挙げる予定であったと――』
 放送に割り込み、淡々と読み上げられるは悲劇の速報。

『犯行動機は不明。ですが、当日挙式を挙げる予定であった男性と言い争っている姿を目撃したと|私たち《・・・》は語っており』

 ……ラジオから、ノイズ混じりの声が響く。

『警戒の必要はありません』
『出てきやがれよ表にさァ』

●おとどけもの。
「やあ! 厄介事の『お届け』だよ!」
 どう考えても厄介事を持ち込んでくる声ではない。
 封書を手にしてぱたぱたと振るはオーガスト・ヘリオドール(環状蒸気機構技師・h07230)。なぜだか煤だらけなのは気にしてはいけない。
 星詠みが何時どんな時、どの瞬間にゾディアック・サインを詠むかなど、誰にもわからない、察せはしないのだから。
 ようは彼、弄っていた機械を爆発させたあとである。機械よりも当然星詠みが優先だ。

「ざっくりまとめただけだから、そこはゴメンね。√妖怪百鬼夜行で辻斬り事件だ」
 開いた封書の中に収まっていたのは一枚の書類とカセットテープ。広げられた書類には地図と、それに細かく書き込まれた雑な字。

「こっちはH市N区で録音された奇妙なラジオ放送。通常の放送に割って入り込んできたらしい。で、その位置がすっごい局所的! ほら……この通りだ」
 オーガストが指し示す先、真っ直ぐ通る道が一本……この周辺でのみ、ラジオの異常が起こったと。幸いというべきか、この放送を聞いた妖怪や人間たちへの影響は少なかったらしい。ただ、少し……。
「恋愛的な情緒が変になった、とは聞いたな。恋人に連絡とりたくなったとか、夫婦でいちゃついたとか。チッ……」
 舌打ちをするその姿。とんでもなく真顔。だがすぐにふうと深呼吸。

「不審な放送自体は『余波』だろうけど、この影響力だ。これを直接聞いた人間や妖怪がいたとしたら、この内容通りに動いてしまってもおかしくない――というか、俺はそう睨んでる」
 真剣な面持ちで前を見るオーガスト。広げられている地図を手のひらでぽんと叩いて、それから胸を張る。

「君たちならいけるだろ。とりあえず現場近辺の調査よろ! いい結果を持って帰ってくるの、待ってるよ!」
これまでのお話

第2章 冒険 『彼、彼女は何故封印を解いてしまったのか』


「――フリークエンシー様の、|退廃的消費時代《マスプロ&デカダンス》――!!」
 ――唐突に。ラジオ番組のタイトルコールのごとき『音』が割り込んだ。
『どうも皆様愉快な新番組の始まりだ! Hey! √能力者! 俺さまの周波数にカブッてくるなんざ随分と出過ぎた真似をしやがるじゃねぇかよエェ?!』
 家屋のあちらこちら、おそらく各家にあるラジオから。大声量で文句を垂れ流す男の声――。
『ったく、せっかく娑婆に出られたかと思えばこの有り様だぜ、世の中正義の味方どもは変わっちゃいねえ……』
 グチグチ文句を垂れる古妖の男、こいつはひとまず置いておこう。

 この辻に、足りないものは何か。百合の花だ。百合たる彼女、ここに居なければならない。そうさだめたのは古妖である。
 彼女に必要だったのは何であるか。ひとや妖怪を斬った現実を認めさせることだ。
 そしてその上で、あの刀を手放すように仕向けること――。
 ひとまず彼女は確保できた。残るは、刀の処分。

 彼女はなぜ、封印を解いた。なぜ、封印は解けた? この刀はどこから来たのだ。
 百合の花は、何で手折られ、何で水切りをされたのか。
『会いたいのですが、斬ってしまいました』
『わたしは――ひとを、そうしました。あと『何本』斬れば、わたしは人斬りになれますか?』
『手折って自分のものにするのだから、覚悟を決めていると、彼は……』
 彼女は自らの意思で斬ったのだ。懐刀ではなく真剣を、日本刀を手に。

 最初に人を斬ったのは。
 彼女ではなく、彼女の配偶者となるはずの男であった。
 不慣れな彼女が、そう何人も斬れるわけがない……彼女は男の罪を背負うために男を斬り、そして、手折られた花として|そこ《辻》に供えられていたのだ。

『それでは次のニュースです』
 声色が変わる、別人か。ノイズ混じりの男声――続く言葉は、別の声に上塗りされる。
『おいおい邪魔すんなよアンプリチュード、楽しい余興が潰されてんだぞ! 読み上げてる場合かッ!』
『読み上げている場合では?』
 漫才じみたやりとりであるが、古妖のやりとり。その心根には違いなく、悪意という血液が流れている。

『H市、N区にて発生した殺傷事件の続報です。犯人の女は、辻から神社へと向かう模様』
『腹立つからよォ、来いよテメェら』

 行かねばならない、あの神社に。
 この刀をおさめなければ。近付くほどに強くなる、破滅的な誘惑――。
 どれほど『情念』を、狂わされようとも。愛情愛憎、抱いても。
 行かねばならない。