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|夏浅し《なつあかし》、紫陽花揺れる、和傘市
●紫陽花薫る
立夏も過ぎて、日差しがやや暑く感じられる頃。√妖怪百鬼夜行で紫陽花横丁と呼ばれる横丁では様々な種類の紫陽花が咲き乱れていた。
オーソドックスな手毬咲きのものや、額咲き、西洋で見られるようなものもあって、人々の目を楽しませてくれる。
紫陽花見物の休憩には横丁にあるカフェがおススメ。一番人気は紫陽花をモチーフにした和風のアフタヌーンティーで、洋風と和風が選べるのだとか。
洋風はセイボリーにタマゴサンドや冷製ポタージュ、枝豆のカナッペ。スイーツには紫陽花のフルーツポンチにベリーやメロンのマカロン。和風はセイボリーに手まり寿司や胡麻豆腐。スイーツには彩り豊かな一口カステラにわらび餅、紫陽花を模した煉切と錦玉羹。
どちらのアフタヌーンティーにも、あなた好みのセイボリーやスイーツが添えられているはず。それに、どのアフタヌーンセットにもお代わり自由のスコーンとドリンクが付いていて、心ゆくまで初夏のひと時を味わえるはず。
更には、紫陽花横丁では和傘市が開かれていて、紫陽花モチーフの和傘や正統派の和傘など様々な和傘がそろっていて、きっと気に入るものがあるに違いない。
――そんな、人も妖も集まるこの紫陽花横丁にも古妖の封印がひとつあった。そして、その封印を解いてしまった男もまた、紫陽花横丁をふらりふらりと歩いていたのだ。
●星詠みは語る
いらっしゃい、と穏やかな笑みを浮かべて夜賀波・花嵐 (双厄の片割れ・h00566)能力者たちを迎え入れる。
「君たち、紫陽花は好き? √妖怪百鬼夜行にいい場所があるんだ」
紫陽花だけではなく、紫陽花にちなんだアフタヌーンティも楽しめる。更にはそのあと、和傘市を覗いたりもできるのだと花嵐は笑う。
「ね、いいところでしょう? それでね、行くついでに古妖も何とかしてきてほしいんだ」
うまい話には裏がある、というわけではないよ? と花嵐は言うけれど、半ばそうである。
「この紫陽花横丁にも古妖の封印があったんだけど、それを解いてしまった人間がいるんだ」
その男は画業を営む人間で、作品作りに求める思いが情念と化し、古妖の誘いにのって封印を解いてしまったのだという。
「でもね、彼は封印を解いたあとで我に返ったみたいで、とても反省しているみたいだよ」
人間って可愛いね、と優しい声で零すと花嵐が話を続ける。
「解き放たれた古妖は黄昏時に動き出すようだから、それまではゆっくり紫陽花を楽しんでくるといいよ」
気を付けていってきてね、と花嵐は能力者たちを見送るのであった。
第1章 日常 『四季折々の花祭り』

青、紫、ピンクに赤、薄緑――華やかな彩を纏った紫陽花が広く緩やかな斜面に咲いている。その間を抜けるように小径があり、そこを歩いていけば紫陽花横丁に辿り着く。横丁の至る所に鉢植えや一輪挿しの紫陽花が飾られていたり、あちらこちらで紫陽花の|花手水《はなちょうず》が見られ、訪れた人々の目を楽しませてくれるだろう。
横丁を進んでいくと和傘市が開かれていて、石畳にずらりと飾られた数多の和傘がまるで紫陽花のように出迎えてくれる。和傘は指物仕立ての傘立てに飾られていて、気に入ったものがあれば購入することも可能だ。
オーソドックスな和傘から、紫陽花の花を模した和傘、きっとあなたが求める和傘も見つかるはず。
和傘市を抜けると、紫陽花のアフタヌーンティを楽しめるカフェがあり、紫陽花のちりめん飾りを店先に下げていて、すぐに見つけられるだろう。
和モダンな造りをしたカフェの中は広く、一人掛けの席から多人数用の席まで用意されている。好きな席に座り、メニューを開けば目に飛び込んでくるのは紫陽花をモチーフにしたアフタヌーンティーセット。和風と洋風があり、好きな方が選べる仕様だ。
メニューを捲ればケーキやパフェ、ドリンクも各種あるのでアフタヌーンティーセットを食べる余裕がない人でもカフェを楽しめるはず。
紫陽花煌めく横丁で、人も、人ではないものも、どうぞ心ゆくまで楽しんで。