シナリオ

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Stray Cat

#√マスクド・ヒーロー #シデレウスカード #プレイング受付は7月10日8:31~7月11日8:30まで

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 #√マスクド・ヒーロー
 #シデレウスカード
 #プレイング受付は7月10日8:31~7月11日8:30まで

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●湾岸の獅子
 ……じーさん、ドコ行ったんだよ。
 俺、ずっと探してるのに。
 ずっと、鳴いてるのに。

 深夜の首都高、湾岸線。
 レインボーブリッジを有し千葉県から東京都、神奈川県までを通る高速道路。
 常に渋滞しているような昼間とは違い、深夜一時を回ったこの時刻、イルミネーション煌めくベイサイドを走る車の数は少ない。
 深夜までの仕事に疲れ切ったサラリーマン。
 夜を徹して走り続ける、長距離トラックの運転手。
 そんな必要に迫られて運転する人々の車の間を、糸を縫うように蛇行しながらすり抜けていく車がいる。
「トロトロ走ってんじゃねぇぞ!?どけどけどけぇ!!」
「うおっ、あぶね!」
「野郎、ローリング族かよ。これだから週末の夜は」
 ローリング族。
 そう呼ばれる者たちがいる。
 首都高環状線。
 全長約14.8キロメートル。スムーズに走れば一周20分程度で走ることが出来るこの高速道路を、サーキット代わりに走り、スピードを楽しむ走り屋たちのことだ。
 エグゾーストノートが車内に響く。
 ボディがきしみ、車体が大きく横滑りすれば、タイヤが悲鳴を上げながらドリフトする。
 闇夜を切り裂いて、黒のスポーツカーは減速することなくカーブを抜け、ベイブリッジを駆け抜けていく。
「あー、気持ちE~~!!やっぱストレス解消には首都高ぶっ飛ばすのが最高だわ」
 時速200キロを越えると、周囲の車はまるで止まっているように見える。
 そんな高速運転をする男の駆る黒いスポーツカーが、ベイブリッジに差し掛かる。
「おっ、前方に車無し、よぉし、かっとぶぜェZちゃんよぉ」
 アクセル全開。
 光の洪水が海風と共に男の視界を流れていく。
 と、その景色の中に、不意に現れるのは――…金色の、トラック。
 いや、違う。
「……え?」
 トラックとも見まごう、巨大なそれは、四本の足で高速道路を駆けていた。
 時速200キロを越える彼のチューンアップされたマシンと、いともたやすく並走して。
 黄金の獅子。
 無造作に繰り出された巨大な爪が、マシンのボディを容易く切り裂き、男の体を湿った夜風の中へと引きずり出す。
「や、やめて。やめてやめてやめてやめて……たすけ……!!」
 ほうり出された男の姿が、はるか後方へ消えていってもなお、獅子はまるでじゃれつくように、惰性で走り続ける黒いスポーツカーと共に走り続けていた。

●ローリングヒーロー・オーガラセン
「俺らが熱くテクを競ったこの湾岸で好き勝手してるライオンがいる……どんな怪人かは知らねえが、このローリングヒーロー・オーガラセンが必ず倒してやるぜ!」
「その意気でやんすよオヤビン!」
 真っ赤な車体に黒い鬼のようなペイントが成されたマシンが高速を飛ぶように走る。
 そう、彼こそはローリング族出身のノンプロヒーロー、オーガラセン。
 その血気盛んな性格に加え、口より先に手が出る短気さもあり、なにかと活躍より問題が多いヒーローであるが、ねっからの正義漢、硬派で一本気なその姿勢にファンもついて来ている。
 オリコン調べでは男らしいヒーローランキングにも名前が出るナイスガイである。
「しかし、オヤビン、ハカセの奴一体どうしちまったんでしょうね……」
 ステアリングを握るチーム・オーガラセンのマネージャー、ヤスが心配そうに呟く。
「ああ、先々週からだよな、急にチームを辞めたいとか云いだしやがって……何かあったのかって聞いても、なんでもないの一点張りだ」
「やっぱり、一度家に訪ねてみた方がいいかもしれないでやんすね」
「ああ、だが、今はライオン怪人をなんとかしねえと……む!危険運転暴走車発見!追え、ヤス!!」
「がってん!!」

 赤のマスクに黒のスーツを輝かせ、螺旋の角が風を裂く!
 オーガラセン、ここに参上!!

●湾岸ミッドナイト
「首都高でライオンが走り回るらしいんだよ」
 |天國・巽《あまくに・たつみ》はそう云った。
 ここは√マスクド・ヒーローは東京ベイエリアの商業施設。
 東京湾の夜景を一望できる都内屈指のスポット、その中にあるカフェレストランの一席、時刻は夜だ。
 巨大なガラス窓から見下ろす景色は、お台場イルミネーション「YAKEI」を始め、インボーブリッジや東京タワーをバックにした幻想的なイルミネーションが輝いている。
「――いい景色だよな。だが、それも平和な日常あってこそ享受できる安らぎだ、その幸せを壊す輩はなんとかしなきゃいけねェ……どうやら、シデレウスカードが悪さしてるらしいんだ」
 シデレウスカード。
 ゾーク12神の一柱『ドロッサス・タウラス』によって、世界にばら撒かれたそれは、「十二星座」もしくは「英雄」が描かれたカードと云われている。
 どちらかを単体ならば、所持していても何の効果もないただのカード。
 だが「十二星座」と「英雄」のカードが揃いし時、超常の力が所有者に降りかかる。
 もし所有者が√能力者ならば、膨大な力を制御することが出来るやもしれない。
 しかし一般人では、星座と英雄の特徴を併せ持つ怪人『シデレウス』と化してしまい、その力のために本人も望まぬ事件、混乱を生み出すことになりかねない。
「んで、今回のそのライオンなんだが……首都高は湾岸線付近で、週末になると高速を走り回る走り屋――いわゆるローリング族が出ると、ちょっかいをかけて来るようだ」
 ちょっかいをかけるといっても、その大きさは中型トラック並み。
 時速200キロを超えるスピードで走行中、唐突にそんな怪物に襲われたら、それは運転も誤るというもの。
 さらにその爪牙は、やすやすと車体をも切り裂くという。
「幸いまだ死者は出てねェが、何せ場所が√マスクドヒーロー。このまま話が大きくなると警察はおろか、一般のヒーローも出張って来る。だが相手がシデレウスの怪人となると相手が悪い、一方的に被害が広がっていく可能性が高い」
 よって、能力者諸氏には、ローリング族に扮して獅子をおびき出し、何とかして貰いたいと巽はいう。
「高速道路じゃああるが、場合が場合だ。車やバイク以外でも獅子と並走出来るくらいのスピードが出るものならなんでもかまいやしねェ、足に自信があるンなら走ってだっていい、なんとか追い付いて、奴さんを止めてくれ」
 また、もしもアテがなければマシンの貸し出しもするし、あくまで運転のみになるが、助っ人として一般のヴィークル・ライダーに足となって貰うのも可能だ。
「あとな、これは俺の気のせいかも知れねェんだが――…どうもな、この件を詠んでる間、声がしてたんだよ。誰かが誰かを呼ぶ声が、二つ。だが、それ以上のこたァ判らなくてな、あとはお前さんたちに現場で調べて貰うしかねェんだが」
 そこまで云って。
 龍眼の男はいつものように、集まってくれた能力者一人一人へ視線を合わせたのち、一つ頷けば、視線を窓の外の夜へと向ける。
「この夜に、誰かが鳴いてる。なんとか出来るのはお前さんたちだけだ――…頼んだぜ」

 天の星を凌駕するほどの地上の光の乱舞。
 その中に、嘆き悲しむ魂の叫びが木霊する。
「太郎……」
 微かに聞こえた気がしたその声は、湾岸の夜風に切り裂かれ幻のように消えた。
これまでのお話

第3章 ボス戦 『『ドロッサス・タウラス』』


●The End of a Dream
 夢を、見ていた。
 じーさんと逸れて。
 一人ぼっちになって。
 ずっとずっと、走り続ける、夢。
 自分の体が思い通りにならなくて。
 いつしか足は重くなって、息は切れて。
 走っても、走っても。
 どれだけ走っても。
 じーさんと、会えなくて。
 やっと会えたと思ったのに、あの手に、触れなくて。
「|にゃあー…《じーさん…》」
「あら、また……ねえ、先生。この子、鳴くんです。眠りながら、泣いているんです」

「能力者諸君、お疲れ様であった。こたびの事件、見事キミたちにしてやられたな」
 そう云って、鷹揚にドロッサス・タウラスは両手を開く。
 銀と金に彩られた巨大な体。
 二本足で立つその体長は、推定3メートルにもなろうか。
 灰色の谷に降り立つその姿は、まさに深夜の墓所に降り立った死神のよう。
「諸君らにお手を煩わせてしまったのは申し訳なかった。これまでの戦いで、諸君らの実力はすでに我も知り及んでいる」
 ズシン、ズシン。
 口元へ人差し指を立て、大きな足音を立てて歩き回る。
「太郎!ああ、お願いです、お願いします、どうか!どうか太郎を返してくれ!」
 ちなみに、そんな彼からそう遠くないところから、生前の意識を取り戻した三橋・大志老人の魂が必死に太郎を返してくれ、と叫び続けているが――おそらく、タウラスも能力者の力こそ認めたものの、他の人間ごときは木端の如きものなのだろう、どこ吹く風で完全に無視している。
 いかにも紳士的な口調、もとはゾディアック――星の力を人間ごときに分け与える星界の神に疑問を呈し、反発を覚えていた彼だが、能力者の有能性を知ったのち、人間を見下し、舐め切った態度は鳴りを潜めたという。
「しかしながら、こたびの戦いはこれにて終了、幕引きと行こう。我はカードを回収したのち、さらなる完璧な作戦を実行しよう。また正々堂々、互いの勇を競い合おうではないか」
 そういうと、彼は再び変形を開始。
 シルバーのランボルギーニカウンタックは、そのコックピットに千切れた首輪と、それに宿るカード。
「じーさん!じーさん!……じーさん!」
 そして、彼にとってはもはやどうでもいい、ただほんの少しばかり騒がしい名もなき猫の魂を閉じ込めて、エンジン音も高らかに、立ち去ろうとする。
「待て!ドロッサス・タウラス!」
 だが、無論、能力者たちもむざむざと逃がすつもりはない。
 即座にその周囲へと展開し、また、この場から出られそうなポイントへと散開、それを押さえる。
 確かに獅子は倒した、これによって、湾岸の事件は解決されたと云えるかもしれない。
 そして、ここでタウラスを倒したところで、彼もまた12神をすら名乗る能力者。
 幾多ある世界のどこかで、再び復活するだけのことだろう。
 だがそうして解決されるのは、事件の表立っての部分だけのこと。
 そもそもこの場に。
 その表立っての部分だけを重んじて集った者など、恐らくただの誰一人として居はしない――!
「……ふむ?」
 心底不思議そうな気配に満ちて、タウラスが再び人形形態を取る。
 首輪に宿る猫の魂は、生霊の形を取ったまま、巨大な左手に握られている。

「――ああ、そうか」
 ぞっとするほどに、無機質な声が夜風に響いた。
「この猫の魂に拘っているな?キミたちは。いかんな?戦士たるもの、戦場に情など持ち込んでは判断を狂わせることになる」
 ならば。
 ぐしゃり。
 ――勿論、能力者たちの反応は早かった。
 しかし、それでも彼の指の僅かな動きにすら追い付けるほどには及ばなくて。
 千切れた首輪は。
 彼と、現世を繋いでいたたった一つの絆は。
 散り散りの微塵と化してコンクリートへ降りそそぐ。
 そうして雄牛の神は煌めくカードを己が胸のパーツ内へ収めて。
 哀れ、ちっぽけな猫の魂は、微かな瞬きを残して消えていく――その行き先は、果たして?
「じー…さ………!」
「あ。ああ……た……太郎……太郎っ!?」
「この魂は、これより我との闘いを望むという君たちの枷となってしまう。それはキミたちにとっても猫にとっても哀れなることだ――こうするのが正解であろうよ」
 判りあえない。
 ともすれば、この世界のすべての不幸の元凶は、その一言に尽きるのかもしれない。
「さて、それではやりあおうか。なに――礼にはおよばん」
 そうして機械の魂持つ獣神は、夜の谷間に歯を剥く。

「ゾーグ12神、ドロッサス・タウラス――参る!!」