シナリオ

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不滅の命≒硝子の棺桶

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●永久に
 四方を白い壁に囲まれた無機質な部屋は、収容された『住民』のグループごとに仕切られている。起床から就寝まで、施設内は毎日決まったスケジュールで回っていた。定期的に『脳に良い』とされるクラシック音楽が流れる以外は、無音の空間である。
 そしてもうひとつ。この収容施設には定期的な通告がある。オルガンを奏でるカリオペの軍勢を引き連れて、プレーロル・カルミアは住民たちを中央広間に集合させた。
「おめでとうございます。アナタたちは、次の不滅人に選ばれました」
 プレーロルは集めた住民の1グループへと告げる。名指しされた人々は皆一様に蒼褪めて震え上がるが、抵抗は見せない。……見せないというより、抵抗ができない状態というべきだ。抵抗すれば、カリオペに射殺される。
「肉体はただの枷です。肉体という制限を取り払ってこそ、永遠の命が完成するのです。皆さんの肉体から脳を取り出し、カプセルに保管することで、永遠の命が保たれるのです」
 この施設はプレーロルの実験施設だ。生命を永遠にする機構こそ完全機械。それがプレーロルの定義である。

●理念
「脳さえ無事なら永遠に生きられる、ですか。……あははっ、なんて馬鹿らしい! 意識だけで『生きている』と言えるなら、幽霊だって生きていると言えるでしょうね?」
 |泉下《せんか》|・《・》|洸《ひろ》(片道切符・h01617)は口元こそ微笑んでいるが、その瞳は一切笑っていなかった。何処か冷めた眼差しで、彼は今回の依頼について説明する。
「今回の討伐対象はプレーロル・カルミア。√ウォーゾーンの小規模派閥、レリギオス・カルミアの統率者です」
 プレーロルは、生命を永遠にする機構こそ完全機械と定義している。施設に収容した生命から脳を取り出しては、カプセルで保管して生かし続けようとしているのだ。
 本来、施設は厳重なセキュリティで守られている。だが星詠みの予知により、容易く施設に侵入できるタイミングが判明した。この日、施設周辺は激しい雷雨に見舞われる。雷が送電設備に落ちることで、一時的にシステムがダウンするのだ。
「停電したプレーロルの施設に突入し、収容された人々の保護と施設の破壊を行っていただきたいのです」
 今回侵入する施設は、プレーロルが運営する施設のうちの一つだ。規模は小規模であるため、人々が囚われている区画に行くまで時間は掛からないだろう。
 敵は復旧のため、破損した送電設備に気を取られている。侵入者に気付くまで猶予があるため、その間に人々の保護と施設の破壊を実行してほしい。敵が√能力者に気付いて現場に駆けつけた後は、順次撃破する流れとなる。
「施設には人々の脳を保管するカプセルも存在します。脳としてカプセルに収められた人々は、意識だけが常に覚醒状態にあります。動くことも話すこともできない状況が永久に、あるいはカプセルが壊れ脳が死ぬまで続く……それは地獄の苦痛です。彼らは皆√能力を持たない一般人。並の人間が耐えられるものではありません。ですので――」
 洸は僅かに沈黙する。彼なりに、言葉を選んでいるようだ。
「……保管された脳については、火葬して差し上げるのが最善でしょう。機械や他の素体への移植に耐えられるような状態ではありませんからね」
これまでのお話

第3章 ボス戦 『『プレーロル・カルミア』』



 戦場となり半壊した施設の天井からは、激しい雨が降り注ぐ。
 吹き付ける風の中、鳴り響く雷鳴がプレーロル・カルミアの機体を照らした。
「処理に失敗しましたか。仕方がありませんね。私自ら実行するとしましょう」
 その音声から感情の波を捉えることはできない。
 側頭部の両腕から高エネルギーブレードを展開し、プレーロルは戦闘態勢を取った。
和紋・蜚廉

●命の在り方
 横殴りに叩き付ける雨が、|和紋《わもん》|・《・》|蜚廉《はいれん》(現世の遺骸・h07277)を濡らした。嵐の向こう、プレーロルの姿をしかと見据え、蜚廉は|蠢影《シュンエイ》を展開する。
「……一を屠れば、三が走る。 闇に潜むは殻の影、影に蠢くは我が声なき分体」
 雨音にまぎれ発せられる声。逞しい生命力を象徴するかの如き√能力は、殻潰れる度に増える分体を召喚させる効果を発揮する。殻を割り、塵を纏い、その姿は影と交わった。
 一方で、プレーロルは戦闘機械に接続した犠牲者の脳入りカプセルを召喚する。
「身体を与えましょう。生き残りたければ戦いなさい」
 自身を人質にしながら蜚廉へと迫り来る戦闘機械。接続された脳は絶望の象徴。蜚廉はあえて動きを緩慢にし、隙を見せた。
『ジジ、ジ……』
 戦闘機械が発するノイズは、力無き者の嘆きにも聞こえた。彼らは蜚廉へと飛び付き融合せんとする。体が融け始めるタイミングで、プレーロルが距離を詰めた。
(「――その戦闘行動こそが我の狙い」)
 間近に液体窒素が放出され、敵の両腕からブレードが振るわれた。だが、蜚廉の核心を割ることは叶わない。
「その凶刃を糧とし増えよ」
 裂傷と共に蠢く殻影が地に滲み、数を増やす。殻が潰れる度に蜚廉の分体は増え続け、敵を養分に育ち続けた。
(「分身は脆い。だが数は力となる」)
 増殖した影たちがプレーロルを四方から包囲する。跳爪鉤を撥ね上げ、殻突刃で突き裂き。逃げ場を失った敵へと、蜚廉は潜響骨をフル稼働しながら肉迫。機体の継ぎ目へと殻喰鉤を鋭く喰い込ませた。
「……最初に隙を見せたのはわざとですか」
 プレーロルは分体の数匹を斬り飛ばす。その機体から散る火花を視界に捉え、蜚廉は静かに告げた。
「命を弄ぶ手を、我らの数で封じねばならぬ」
 生きることは、己の脚で進むこと。他人が手を出して良いものではない。

神代・京介
ヨシマサ・リヴィングストン

●日常
 天気は相変わらず悪天候。雨風が剥き出しの鉄壁を洗うが、施設の至る場所から黒煙が吹き上がっている。
 酷い光景だが、|神代《かみしろ》|・《・》|京介《きょうすけ》(くたびれた兵士・h03096)とヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)は、熟練兵のように落ち着き払っている。施設破壊も雑魚処理も終わらせた。あとは最終目標を撃破するのみだ。
「そんじゃあ京介さん、ボクはとっておきの『超越臨界砲撃』をブッ放すので60秒間、防御はお任せしますね!」 
 ヨシマサは|超越臨界砲撃《オーバークライム・ブラスター》のチャージを開始する。
「60秒だなOKまかせろ。その間はヨシマサには指一本触れさせないように守ってやるよ!」
 京介は||夜天・鬼装機陣 《ヤテン。キソウキジン》を発動。鹵獲し改造を施した戦闘機械群部隊を召喚し、前面へと布陣を展開する。数え切れぬほどの改造済戦闘機械群が戦場を埋め尽くす。ヨシマサの攻撃準備が整うまでの60秒、この部隊を指揮し、敵の攻撃から守りきる。
 一方で、プレーロルは戦闘機械に接続した犠牲者の脳入りカプセルを召喚する。
「生き残りたければ戦いなさい。彼らを処分するのです」
 戦闘機械たちは悲鳴のような音を響かせた。望まぬ接続、抗えぬ殺戮。襲い来る敵機に、京介は心底忌々しげに舌打ちした。
「ったく……悪趣味も程々にしておけよな!」
 脳を人質にする卑劣な攻撃に対し、京介は立ち向かう。自身の戦闘機械群部隊を前進させ、敵機の進軍にぶつける。金属が激しく衝突し、摩擦する音が響き渡った。
「絶対に道を譲るな! 数の力を見せてやれ!」
 京介の部隊が敵群を阻む中、ヨシマサは過剰放エネルギーを少しずつチャージする。任務を受けた当初から気になっていた疑問を、彼はふと口にした。
「……永遠かあ。脳の耐久年数って実際どうなんでしょうね~。ねぇ京介さん、どう思います?」
「敵の機械群を食い止めてるとこなんだが。今それ聞くか?」
「あはは、気になっちゃって~」
 緊張感は薄いが、現実は見えている。京介には話をする余裕がある――ヨシマサは感覚として理解していた。
 現に、部隊を操りながらも京介が答えを返す。
「……脳と脳機能の耐久性だけなら、こいつらの技術力があれば、半永久化くらい出来るんじゃないか? そこに俺達生物の精神性が耐えれるかは別問題だが。生物の精神性は、寿命から大幅に伸びる事は無いしな」
 マルチツールガンに蓄積するエネルギーを確かめながら、ヨシマサも思考した。
「培養液に漬けておけば多少は持つかと思いますが、きっとどこかで機能の限界……臓器の腐敗が起こります。人類とはどうしたって永遠には遠い存在……だからそれは果たして、『完全機械』に至るに足る結論なんでしょうか? どうせなら人類の思考を電脳に……おっと! もう60秒!」
 照準を機械群の先にいるプレーロルへと合わせる。
「じゃあ京介さん、伏せてくださいね! 超越臨界砲撃、発射!」
 京介が伏せたのとほぼ同時、砲撃が放たれた。高出力ビームショットが敵機群を貫き、目標へと一直線に着弾する。プレーロルの機体から炎が上がった。
「よ~し、命中! ……ところで京介さん、あの脳みそたち、デッドマンの工場に持っていけばよかったですね? いつでも資材不足って言ってましたし~……」
 もしかしたら、プレーロルが所持してる脳みそも回収できたりしません?
 真面目な顔で言うヨシマサに、京介が即座に首を横に振った。
「おい馬鹿やめとけ。ここにあった脳は被害者だぞ。それにこの施設で色々やられた脳がまともな精神性を残してるとも思えないし、工場に持って行っても破棄されるだけだ」
 戦闘中とは思えない会話を繰り広げつつも、ヨシマサの砲撃は目標への道を拓き、京介の部隊はそこに突撃。プレーロルを容赦なく攻め立てる。