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【王権決死戦】◇天使化事変◇第6章『迷える雄牛たち』
味方に後を託された√能力者たちはついに、羅紗の魔術塔本部である塔の内部へと踏み込んでいた。
そして、視界に入った光景に息を呑む。
「これは……」
広く開けたその空間では、多くのオルガノン・セラフィムが横たわっていた。
その体色は本来のものであり、100近くの怪物が全て眠るようにして床に臥せっている。更にはその合間を縫うようにして、別の姿もあった。
「おいっ、天使もいるぞ!? 起きろっ! おいっ」
善なる心を持つ故に、怪物とならずに済んだ人間だ。それらも同様に安らかに目を閉じていて、危険だと知らせても起きる気配は一向にない。
整然と眠りにつくその様を見て、誰かがふと零した。
「まるで、保存されているみたい……」
箱に玩具をしまうかの如く。棚に本を並べるかの如く。再び取り出される時を待つかのように、それらはその空間に収められていた。
「こっちに階段があるぞ。とにかく今は先を急いだほうがいいだろ」
時間は限られている。天使がいるとしても今すぐの助けが必要でないというのなら、一旦は置いてしまおうと、√能力者たちは階段に足をかける。
2階、3階と登って、しかし階段はそこで途切れた。
「……続きは、このフロアを突っ切らないといけないみたいです」
島内で見つけた模型を地図代わりにして唯一の道である扉を指差す。誰もがその奥に何かがいる気配を感じていて、覚悟を抱きながらゆっくりと押し開けた。
『『『………』』』
すると振り向く三つの白。
巨体のせいで、5mの天井が低く見える。入り口前で今も仲間達が請け負ってくれている異形とよく似ている姿だった。
それらはやはり、大きな口の中に老人を潜ませている。
『『『ウ、オ、ォオオオオ———!!!!』』』
銃に杖、砂時計。
それぞれの武器を振り上げ、侵入者へと襲い掛かってきた。
●
間髪入れない予言に、星詠みは疲労を隠して伝える。
『その三体もまた、入り口前に現れた者と同じ、異形化した過去の塔主のようです。どうにも王劍の力を扱いきれずにそのような姿になったみたいですね。ええこちらも、皆さんが集めた情報によって多少の性質は得られましたよ』
『10代目塔主ロレンツォ・ファルネーゼ。銃を武器とする個体です。彼は、羅紗の魔術塔に現代兵器を広め、より強固な組織とした功績があるようです。王劍の力は銃と相性が悪いのか、あるいは無尽蔵の射撃を実現するものなのか、銃身を固定するために複数のインビジブルを肉塊として左腕にまとわせているようですね』
『9代目塔主マッテオ・シャリーノ。杖を武器とする個体です。彼は、羅紗の魔術塔における魔術研究を前進させた功績があるようですね。というのも羅紗に限らず手広く魔術や魔法を扱っていたようで、あらゆる魔術、魔法に関しては敏感かもしれません。それとこれは有益かは分かりませんが、10代目と9代目は相反する方針からかなり険悪な仲だったようですね』
『8代目塔主フィリッポ・レオーニ。彼はとにかくせっかちだったみたいです。常に砂時計を携帯して、何らかの時間を計っていたようで、どうにも彼らは生前所持していた象徴的なものを武器としているようですね。砂時計で何を行うかは分かりませんが、その砂を傾けさせることで何かが起こると考えていいでしょう。他の異形の塔主がいる手前、空間に作用するとは思えないので、自身の時間を操作するのではと私は考えます』
『1体でも恐ろしい敵が3体も同時に現れるとは、かなり苦しい戦いになると思いますが、皆さんならばうまく立ち回ってくれると信じています。目指すは塔の頂ですので、先へと進めるのなら必ずしも全て倒さなければならないと言う訳ではないでしょうが、あとに尾を引く可能性は十分あり得ますので、どうかお気を付けください』
塔は今や迷宮と変わっていた。
それは侵入者を迷わせるものではなく、迷う者たちの住処となって。
行く先を失った亡霊は、|雄牛《門番》となって立ちはだかる。
そうして与えられた役目のままに、踏み込む者を喰らおうとした。
第1章 冒険 『強行突破せよ』
