シナリオ

イケブクロ・ウェストゲート・タワー

#√EDEN #√ドラゴンファンタジー

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√EDEN
 #√ドラゴンファンタジー

※あなたはタグを編集できません。

●池袋西口に建った塔
「誰だよ、迷惑なことをしやがって……!」
 九門・絢介(しがないタクシー運転手・h02400)は毒づいた。
 何時ものようにタクシープールを経由して、池袋西口の乗場で客を乗せようとしたところ、そのプールの右手にある池袋西口公園に、中世ファンタジー風の塔が建っているのを見たからだ。
 もっとも、√能力を持たない者にこの塔を視ることは出来ないようで、そうした者達は何らかの力に遮られているかのように、この塔を迂回する形で歩いていた。
 おそらく、誰かが√ドラゴンファンタジーから天上界の遺産を持ち込んで、ダンジョンである塔が建ったのだろう。
 そして、この塔を放っておくわけにはいかなかった。今は塔を避けるように歩いている人々が――そしていずれは、東口方面を含めて池袋やその周囲にいる非常に多くの人々が、次々とモンスターになってしまうからだ。
 同時に星詠みとしての予知を受けた絢介は、営業車を駐車場に放り込むと、手近なネットカフェに飛び込んだ。

●オンラインミーティング
 ネットを通じて、絢介は対処に当たる√能力者を募った。そして、クローズドのチャットスペースで、星詠みとして得た情報を√能力者に話していく。
「皆さんには、既に呼びかけさせて頂いたとおり、池袋西口公園に出現したダンジョンの攻略をお願いします。――それも、可及的速やかに」
 新宿や渋谷ほどでは無いにしても、人口密集地である池袋で人々がモンスターになるような事態となれば、その惨状は果たして如何程のものとなるか。
 その危機感は、チャットスペースに集まった√能力者の多くが共有するものであった。そんな惨事を防ぐためにも、この塔は速やかに攻略せねばならない。
 引き続き、絢介は塔内の探索において注意すべき敵について触れていく。
「まず低層階では、暴走インビジブルの群れが皆さんに襲い掛かってきます。
 これを倒して中層階へ上ると、何処に出るかによってですが、変容した獣人『ボーグル』か、六歳程度の少女の姿の切断魔『ロッソ・サングエ』と遭遇することになります」
 中層階でどちらと遭遇することになるかは、今の絢介にはわからないと言う。
「そして最上階では、天上界の遺産を持ち込んでこの塔を出現させた張本人である、堕落騎士『ロード・マグナス』が待ち受けています」
 ロード・マグナス自身がダンジョンの核となっているため、倒せば攻略完了となって、塔は自然に崩れ去る。ガラガラと崩れるのではなく、細かな灰と化してかき消えるように崩れて消滅するため、周囲の人々に危険は無いと絢介は説明した。
「場所が場所だけに、この塔の攻略は非常に重要で、何としても成し遂げなければなりません。
 私としては、皆さんの力に頼るしかありませんが――如何か、よろしくお願いします」
 √能力者達は、その発言に「大丈夫だ、任せろ」「ああ、待っててくれ」などそれぞれの言葉で返信を返すと、チャットルームから退出していった。

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 集団戦 『暴走インビジブルの群れ』


明星・暁子

●活動資金の確保を目指して
 暗い目つきをした、やや長身の女学生の姿が、池袋西口公園でかき消えた。
 実際の所は、この公園に出現した非√能力者には見えないダンジョンに入っていったために、彼等からは消えたように見えただけなのだが。
 だが、公園の周囲にいる非√能力者は誰一人として、それを気にすることはなかった。
 女学生の名は、|明星・暁子《あけぼし・るしふぇる》(鉄十字怪人・h00367)。正義に目覚め、悪の組織から離反した鉄十字怪人である。
 しかし、世知辛い話ではあるが、経済的事情と言うものは正義だろうが悪だろうが関係なくのしかかる。今暁子に必要なのは、これから正義のために活動していくための資金なのだ。と言うわけで。
「ダンジョンには金銀財宝があると聞くが、ここもそうなのかな?」
 そんな風に独り言ちながら、暁子は鉄十字怪人の姿に変身していく。何としても、ここらで一稼ぎしておきたいところだ。暴走インビジブルを倒すことによって。
 なお、ダンジョンで倒したモンスターが金銭的価値のある品をドロップするかについては、必ずそうとは限らないことは予め断っておきたい。
 ともかく、暁子は遮蔽に上手く身を隠しながら、√能力『ブラスターキャノン・フルバースト』を発動。
 召喚された三基のヘビー・ブラスター・キャノン、そのそれぞれの砲口から放たれた光条が、一体の暴走インビジブルに突き刺さる。通常のヘビー・ブラスター・キャノンがもたらすダメージの九倍に相当するダメージを受けた暴走インビジブルは、耐えきれずに瞬く間に霧散して消滅した。
 それによって敵がいると察した他の暴走インビジブルは、赤い霊気を纏って速度を上げて暁子へと迫り、『インビジブルの牙』を突き立てる。
「くっ。だが、これくらい……!」
 重甲もろともに自身の身体を貫いてくる牙に暁子は傷を負うが、すかさず再度ヘビー・ブラスター・キャノンを三基召喚して攻撃し、暴走インビジブルを消滅させる。
「数が多いが、無限というほどでもなさそうだ。あとは、こちらの気力次第」
 そうつぶやく暁子には、こうして戦闘を続けていれば、おそらく他の√能力者が援軍に来てくれるだろうと言う、予感があった。

機織・ぱたん

●無双スタイルのライブ配信
「うわー、大きな塔……。攻略しがいがありそうね」
 池袋西口公園に突如出現した塔を見上げながら、機織・ぱたん(スレッド・アクセプター・h01527)はつぶやいた。さらに言えば、ダンジョン攻略のライブ配信も出来そうだった。
(配信用スマホも準備ヨシ! 屠竜剛槍……と、この√で持ち歩く用の保護カバー、ヨシ!)
 配信機材と武器の確認を行ったぱたんは、配信をスタートして、塔の中へと入っていく。

 そこでぱたんが目にしたのは、先に塔に入り、現在進行形で暴走インビジブルと戦っている別の√能力者の姿だった。
「さあ援軍到着! 機織ぱたんはここに在り! だよ!」
 ならばと、ぱたんは√能力『|レディナチュラルフォーム《キホンノスガタ》』を発動し、カラフルな装束を身に纏う。その手には、新たに出現したナチュラルハンドニードルが握られていた。
「行っくよー!」
 数多の暴走インビジブルを前に、ぱたんは強化された移動能力によるダッシュでその注意を自身に向けさせた。それに暴走インビジブルが誘導されたところで、急激な方向転換。
 暴走インビジブルの勢いの向く先から逃れたところで、ブゥン! と屠竜剛槍を横薙ぎに払う。
 その重量を伴った一撃を受けた暴走インビジブルは、ダメージに耐えきれずに消滅した。大振りの攻撃の隙を衝いて懐に飛び込もうとしてきた暴走インビジブルを、ぱたんはハンドニードルで牽制する。
「昔の無双系ゲームを思い出すなあ」
「そうそう。ワラワラいる大群相手なら、やっぱりこのちぎっては投げスタイルだよねぇ」
 視聴者のコメントに、上機嫌でぱたんは返す。
「でもさー、無双系って集られると面倒なんだよな」
「ちょっとー! そう言うこと言わない! 確かにそうなんだけどさぁ!」
 別のコメントがフラグになったか、無数のインビジブルが矢のように突撃してきて、ぱたんに突き刺さる。さすがに、暴走インビジブルの数が多いのもあってか、ぱたんも無傷ではいられなかった。
 抗議するようにコメントを返しながら、ぱたんはダッシュで位置を変えて攻撃してきた暴走インビジブルの側面へと移動してから、屠竜剛槍で一息に薙ぎ払う。
 被弾しながらも暴走インビジブルを次々と蹴散らすぱたんのライブ配信は、その戦闘スタイルが受けたのか再生数もよく伸びて、コメントも大いに盛り上がった。

海堂・一真

●スロー・アンド・アウェイ
「いや、本当にダンジョンって生えて来るんだなー……」
 池袋西口公園に出現した塔を見上げながら、|海堂・一真《かいどう•かずま》(綺麗な色してるだろ?でもこれ爆発するんだぜ・h01834)はそう独り言ちた。
 ここ暫く、一真にとっては驚く事ばかりである。が、驚いてばかりもいられないので、一真は塔の中に入り、壁の陰に身を潜めながら進んでいった。
 すると、角を曲がった先に暴走インビジブルの群れが彷徨いているのを発見。
(まずは、こいつらをカタさないとどうにもならなそーだ。大味な攻撃は得意……というかまだそういうのしか出来ねえ!)
 壁の陰から、一真は暴走インビジブルの群れに向けて、紅い結晶をポイ、と投げた。コロン、と床に転がった結晶は割れ、中からゴウ、と猛烈な勢いの炎が巻き起こる。
 その炎に巻き込まれた暴走インビジブルの数体が、身体を焼き尽くされ、消滅。
 周囲にいる生き残りが一真の存在を察知して、赤色の霊気を纏いながら猛スピードで突き進む。だが、一真を攻撃するためには、角を曲がって減速しなければならない。
 九十度ターンのためにそのスピードが最も落ちた隙を、一真は衝く。
「来たな。全身ガタガタ震わせてやるぜ」
 一真は√能力『超振動核|《レゾナンス・コア》』を発動すると、再加速しようとする暴走インビジブルの群れの下に、先程とは違う結晶体を投げた。
「――!?」
 突如襲い来る、震度七にも相当する振動に、身体を翻弄され暴走インビジブルは困惑。
 その間に暴走インビジブルから距離を取った一真は、紅い結晶――プリズミック・ボムを再び投げて、追ってきた暴走インビジブルを破壊の炎で焼いて、消滅させた。
(あとは、こうやってちくちくやっていけば、何とかなるだろ、多分)
 一真のその判断は、当たっていた。同様の手法で攻撃を繰り返していった結果、一真は順調に暴走インビジブルの数を削り取っていた。

アルバート・ベイカー

●低層階、踏破
(何者かの悪意で持ち込まれたダンジョン。放ってはおけんが、塔か……)
 ウンザリしたような表情をしながらこの塔を見上げたのは、アルバート・ベイカー(閃光の毛玉・h00397)だ。
 身長がほぼ一メートル程度のアルバートにとって、この手の上下に展開するタイプのダンジョンに関する思い出は、悉く苦いものばかりであった。
 階段。そして落下罠。また階段。
 通常の成人男性を基準に作られた階段を上るのは、アルバートにとっては決して楽なものとは言えなかった。そんな階段を苦労して上り切った直後に、落下罠によって階下に落とされて、再び上り直しの苦労を強いられた記憶。
 それを思い出しただけで、アルバートの中に憤怒が込み上げる。
「この怒りは、ダンジョンの主にぶつけるしかないな!」
 ――ダンジョンの主も、まさかそんな理由で憤怒を叩き付けられることになるとは、夢にも思わなかったであろう。

 ともあれ、アルバートは同じ階のフロアをしらみつぶしに駆け回った。まだ存在している暴走インビジブルと遭遇したら、まずは牽制のために精霊機関銃を撃ち、弾幕を張る。
 タラララララ……と言う軽快な発射音と共に放たれた、光の属性を宿した銃弾。その一部が、暴走インビジブルの身体に突き刺さった。被弾した暴走インビジブルは、敢えなく消滅する。
 その後ろにいた生き残りの暴走インビジブルが、多数の紅い球を漂わせてアルバートへと放つ。
 だが、球がアルバートのいた場所に命中し、床を紅く染めて汚染した時には、アルバートは汚染の範囲からとうに駆けて逃れていた。
 暴走インビジブルは、そのままこの場から逃れようとするアルバートを追った。だが、それはアルバートの計算のうちだった。
 同じ事を数回繰り返して、多数の暴走インビジブルを引き付けたところで、逃げ続けていたアルバートが反転して暴走インビジブルへの距離を詰める。
「薙ぎ払う!」
 暴走インビジブルを全て射程に収めたところで、アルバートは『|烈日の射法《デイライト・ディフュージョン》』の√能力を発動した。
 タラララララ……。精霊機関銃の銃口から、分裂したかのように複数――射程内の全ての暴走インビジブルと同じ数の銃弾が延々と放たれ続けていく。
 √能力を発動させる前に蜂の巣とされた暴走インビジブルは、力尽きて消滅。
 これを何度も繰り返すことで、アルバートは残る暴走インビジブルを一掃し、塔の低層階を踏破したのだった。

第2章 ボス戦 『切断の権能『ロッソ・サングエ』』


●待ち受けるは、戦闘狂の幼女
「ふぅん。暴走インビジブル程度じゃ、相手にならなかったかぁ」
 √能力者達が中層階へと進入したことを察した少女――と言うよりも、幼女と言った方が相応しいであろう簒奪者は、にんまりと嬉しそうな笑みを浮かべた。
 わざわざ、塔が出現するに際して自身が喚ばれ、攻略せんとする冒険者を阻む障害となることを容れたのだ。そうでなければ、興も醒めようと言うものだった。
「どんな冒険者なのかなぁ。強いといいなぁ。そうじゃないと、面白くないもんね?」
 自身の身長の半分もあろうかと言う長さのナイフを手に、その幼女はとても愉しそうな笑みを浮かべ、√能力者の到着を待ち受けていた。
機織・ぱたん

●数多に増えたぱたん
「……おっけー。枠、取り直せたね。じゃあ改めて! 塔を登ってくよー!」
 低層階を踏破したところで、|機織・ぱたん《はたおり ぱたん》(スレッド・アクセプター・h01527)はダンジョン攻略配信の枠を取り直していた。
「中階層に来たし、そろそろ強敵登場かも?」
「ワクワクテカテカ」
「フラグ建築乙」
 低層階での盛り上がりもそのままに、いい雰囲気で配信は進んでいく。
 そんなぱたんの前に、一人の幼女が現れた。簒奪者ロッソ・サングエだ。その手には、刀身の長いナイフが握られている。
 明らかに異様なその雰囲気に、ぱたんは素早く身構えた。視聴者達も、コメントを打つのを忘れて、固唾を飲んで見守っている。
 その間に、ロッソは目を閉じ、短時間の瞑想をした。すると、その傍らに、ぱたんの姿をした何かが出現する。
「二対一か、厳しくね?」
「偽物の実力次第だよな」
 そうしたコメントが流れる中、ロッソとぱたんの偽物――偽ぱたんは、本物のぱたんに襲い掛からんとしていた。
「――なんか、アタシが増えてるんだけど? しかも襲ってくるんだけど?」
「偽物作られて、オコ?」
 わなわなと身を震わせるぱたんに、視聴者は心配そうなコメントを投げかける。だが、ぱたんが身を震わせた理由は別の所にあった。
「……たった、1体だけ? ちがーう!! 分身ってのは! もっとこう……! こうするの!!
 変身、シノビスカイフォーム! これ使うの久々!」
「そっちかーい!」
 √能力『|空忍装・連襲裂破《シノビスカイ・ボコボコアタック》』を発動して多数の分身を発生させたぱたんは、分身達と共に手にしている鶴翼・十文字槍と屠竜剛槍の穂先をロッソと偽ぱたんに突き立てんとする。
「これで、針山にしてやる!」
 ロッソは手にしたナイフで、偽ぱたんは鶴翼・十文字槍と屠竜剛槍で、迫り来る槍を薙ぎ払い、受け止めようとする。だが、鶴翼・十文字槍も屠竜剛槍もその数はあまりにも多く、その一部こそ防げたが、到底全ては防ぎきれなかった。
 多数の槍をその身に受けて、偽ぱたんは敢えなく消滅。だが、ロッソは何カ所も身体を貫かれて血をだらだらと流しながらも、愉しそうに|微笑《わら》っていた。
「そうじゃないと、面白くないよねぇ。ほらぁ、もっと遊ぼうよ♪」
 その異様さに、ぱたんはゴクリと唾を飲み込む。配信画面には、視聴者達の「ええ……」「簒奪者エグい」「幼女、丈夫すぎ……」とドン引きしたようなコメントが流れていた。

アルバート・ベイカー

●かくれんぼとおにごっこ
(――ただならぬ殺気!)
 自身に投げかけられている殺意を察し、アルバート・ベイカー(閃光の毛玉・h00397)は身構えた。
「お兄ちゃあん! 遊ぼうよぉ♪」
 その視線の先には、幼女の姿をした簒奪者『ロッソ・サングエ』がいた。先の√能力者との戦闘で受けた傷は癒えかけてこそいるがまだ残っており、さらにその手には巨大な鋏の片刃が握られている。
「迷子の少女でないな! どう見ても!」
「そうだよぉ~。私は、お兄ちゃん達が言う『簒奪者』なの。お兄ちゃんには、ココで死んで欲しいなぁ♪」
「……愉しそうなところ悪いが、俺は急いでいる。階段を上るのに、時間が掛かるんでな。
 可及的速やかに、退いてもらおう!」
「そうはいかないの。死んで?」
 √能力を発動したロッソは、まず鎌鼬を牽制で放つ。アルバートは、その包帯は素早く躱した。だが、続くリボンには捕まってしまった。
「あははは! もーらった!」
 大きく振り上げられたロッソの刃が、アルバートに迫る。だが、これはアルバートの策のうちだった。
「――鬼さんこちら、ってな!」
 √能力『|陰日向《ブリンク・ハイディング》』を発動したアルバートの姿は、ロッソが全力でハサミの刃を振り下ろした先にはいなかった。対竜精霊狙撃銃『アマツミカボシ』の射程ギリギリ近くに|跳躍《ワープ》した上、光学迷彩で姿をくらましたのだ。
「何処? 何処に行ったの、お兄ちゃん? 隠れんぼなんて、つまんないよぉ!」
 そう叫ぶロッソを、アルバートは対竜精狙撃銃『アマツミカボシ』のスコープで捉えていた。照準をロッソの心臓に当て、静かに引金を引く。
 タァン!
「いっ……たあーい! でも、見ぃつけた♪」
 アマツミカボシから放たれた銃弾が、ロッソの胸を貫いた。ドクドクと絶えることなく流れる血が、ロッソの服を赤黒く染めていく。
 一方、その狙撃によって、アルバートの位置もロッソに捕捉された。
「今度こそぉ……死んで♪」
 ロッソは一息にアルバートとの距離を詰め、再度√能力を発動する。だが、アルバートもまたリボンに捕まった時点で『陰日向』を発動したため、全く同じ結果が繰り返された。
「隠れんぼも、鬼ごっこも、つまんない!」
 もう二度同じ展開を続け、さらに深い傷を受けたロッソは、癇癪を起こしながらアルバートの前から去っていった。

カンナ・ゲルプロート
明星・暁子

●魔空間での嫌がらせ
「援軍は十分そろったようだな」
「援軍は揃ったって……此処にいるのは、私とお前だけじゃねえか」
 怪人姿の|明星・暁子《あけぼし・るしふぇる》(鉄十字怪人・h00367)の言に、|カンナ・ゲルプロート《Canna Gelbrot》は(陽だまりを求めて・h03261)は思わず素を出しながらツッコミを入れた。
「だが、手負いの簒奪者が相手なら、私達だけでも十分だろう?」
「それは否定しねえけどよ……」
 そう会話する二人の前には、服を血で赤黒く染めた簒奪者『ロッソ・サングエ』がいる。既に二度、別の√能力者と交戦したロッソの傷は浅くはない。
「では、一気に攻め立てよう……ふーしぎ・まーかふしぎ・どゅーわー♪」
「急に歌うな!」
 暁子が歌うことで、√能力『|不思議摩訶不思議魔空間《フシギ・マカフシギ・マクウカン》』が発動する。暁子を中心に、その周囲が「不思議摩訶不思議魔空間」へと変わった。
 場の空気が変わったことを、カンナもロッソも敏感に感じ取り、ゴクリ、と固唾を飲んだ。果たして、この空間がもたらす効果は何なのか……!
「ちょっ、ちょっと! 何なの、これ!」
 半透明の手が現れ、ロッソのスカートをめくる。突然のことに、ロッソは困惑しながらも思わずスカートを押さえた。
「うう、お姉ちゃんの仕業なら、お姉ちゃんを殺しちゃえば……!」
 ロッソは巨大ハサミの片刃で暁子に斬りつけるべく、駆けた。だが。
 すてーん!
 床からにゅっと手が生えて、ロッソの足首を掴む。そのためロッソはバランスを崩し、盛大に前のめりに転けた。
「|ほふ、はんはほひょう!《もう、なんなのよう!》」
 さらに、半透明の左右の手が現れると、むにぃ、とロッソの頬を掴んで引っ張る。
「……何、これ?」
「絶対命中の嫌がらせだ」
 半ば呆れながら問うカンナの声に、堂々とした態度で暁子が答えた。
 不思議摩訶不思議魔空間の中では暁子の攻撃は必中となるのだが、暁子はそれをロッソへの嫌がらせに用いたのだ。これは決してふざけているわけではなく、ロッソを立派な簒奪者と見做した上で、その戦闘への集中力を失わせるためである。
「今だ! 正義の√能力者よ、畳んでしまえ!」
「確かに今だな――ごきげんよう、クソガキ。
 ちゃんとおうちに帰れるなら、乳歯でも噛めるリコリス飴買ってあげようか?」
「うぐうっ!」
 暁子に促されて√能力『|瞬動術《ブリッツトリット》』を発動したカンナは、瞬間移動じみた速度で起き上がろうとしつつあるロッソの横に立つと、その脇腹を全力で蹴った。
「その大きい鋏、取り回しが良くなさそうだよな。こうやって近寄られたら、詰みだろ?」
「そんなこと……ないもん!」
 脇腹を蹴られた衝撃で床を転げ回ったロッソだったが、√能力を発動して反撃に出ようとする。しかし、それがカンナに有効打を与えることはなかった。
 暁子の「嫌がらせ」によって鎌鼬を放とうとする腕はその軌道をずらされ狙いを逸らされ、リボンはカンナが|影技《シャッテン》で操作する自身の影で叩き落される。巨大ハサミは、暁子の使役する半透明の手がガッチリと押え込んでいた。
「帰り道分からないのー? じゃあお姉さんが強制送還してあげるね」
「あ、あう……ぐえっ!」
 襟首を掴んでロッソを引きずり起こしたカンナは、その鳩尾に鉄拳を叩き付けた。引きずり起こされた際に四肢を半透明の腕やカンナの影に拘束されたロッソは、防御もままならずまともに直撃を受けてしまう。
 あとはもう、ただひたすら鉄拳で殴打し続けるだけであった。ロッソも心が折れていない間は反撃に出ようとしていたが、その度に暁子とカンナの妨害を受けて不発に終わる。
「ひどいよ! ひどいよ! もっとちゃんと、戦わせてよぉ!」
 やがて耐久力の限界を迎えたロッソは、半ば泣きべそをかきながらこの場から消えていった。
「幼女簒奪者は泣いた。と言うことはこの勝負、鉄十字怪人の勝ちである!」
「勝敗の基準、どうなってるんだか……だが、助かったよ。ありがとな」
 暁子の勝利宣言に、カンナはまた半ば呆れつつも、援護に対する礼を述べた。

第3章 ボス戦 『堕落騎士『ロード・マグナス』』


●塔の主
 池袋西口公園に突如出現した塔。その最上階では、この塔を出現させた張本人であり、またこの塔の核でもある『堕落騎士『ロード・マグナス』』が待ち受けていた。
「随分と、早かったな……もう少し手こずるかと思っていたが、奴等では力不足だったか」
 重苦しい雰囲気と声で告げながら、ロード・マグナスは大剣を両手で持ち、眼前の√能力者達に対して構えた。
「さぁ、来い! かくなる上は、貴様等が斃れるか、我とこの塔が滅びるか、これで決着を着けようではないか――!」
 そう告げながら、ロード・マグナスは√能力者達が挑みかかってくるのを待ち受けた。
明星・暁子
アルバート・ベイカー

●強制失敗させられた反撃
 池袋西口に建った、中世ファンタジー風の塔。その最上階に、堅牢な装甲に身を包んだ身長約二メートル程の怪人と、その怪人の背中におんぶされている身長約一メートル程のコーギー系の犬獣人が登ってきた。
 鉄十字怪人の姿をした|明星・暁子《あけぼし・るしふぇる》(鉄十字怪人・h00367)と、アルバート・ベイカー(閃光の毛玉・h00397)だ。
「ありがとう。ものすごく、助かった」
「ああ、どういたしまして」
 アルバートは最上階に到達したことを確認すると、暁子の背中からスタッと下りて礼を述べる。実感のすごく篭もったその礼に、暁子は嬉しそうな声色で返した。
 二人は最上階に登る最中に偶然出会い、共にロード・マグナスを倒すべく同行することにしたのだが、コーギー系の犬獣人で足の短いアルバートは階段の段差を越えるのに難儀していた。それを見かねた暁子はアルバートをおんぶすることを申し出て、アルバートとしても暁子の足を引っ張るのは避けたい思いがあり受け入れたと言う経緯があった。
「……お前か、このダンジョンの主は。よくも、こんな縦長違法建築を! 上に伸ばすなら、エレベーターを設置しろ!」
 今まで散々階段の段差を登らされた恨み節を込めながら、アルバートが叫んだ。同時に、精霊機関銃「セイリオス」に魔弾を装填する。
「この程度の塔を登るのに、エレベーターだと? 何を、軟弱な……」
「人の苦しみがわからない奴め! バリアフリーのなんたるかを、こいつで叩き込んでやる!
 励起、共振! 光彩の風よ、暗雲を払え!」
 ロード・マグナスの言葉に侮蔑を感じ取ったアルバートは、全ての冒険者の足が難無く階段を越えられるほどに長いと思うなと言わんばかりに、√能力『エレメンタルバレット『|光彩陸離《イファルジェンス》』を発動。
 セイリオスから放たれた、光の属性を宿した弾丸が、ロード・マグナスの胸甲の中心に直撃する。のみならず、その着弾点を中心にレーザー光線が乱反射し、ロード・マグナスに鎧の上から強かなダメージを与えた。
 ロード・マグナスは、偽りの聖剣を創り出し同じ√能力を再現する事で、アルバートに反撃しようとする。だが。
「そーれ、ポチッとな」
 暁子が、手持ちのリモコンのスイッチを押す。それがきっかけとなって、√能力『怪人大作戦』が発動した。数日前から予め占拠していた巨大ダムに付属する水力発電所から、高圧電流が電線を伝って流れていくと、塔に最も近い電線から偽りの聖剣に落雷となって命中!
 これにより偽りの聖剣は消滅し、ロード・マグナスは反撃に失敗した。
「な――!?」
「良い甲冑に剣だ。かつては名のある英雄だったのだろう。
 私は、明星・暁子。推して参る!」
 すかさず暁子は名乗りながらの追撃に出て、愛用のブラスター・ライフルと半自律浮遊砲台「ゴルディオン」三基による一斉射撃を行った。アルバートの√能力により光属性を宿した弾丸と砲弾が、ロード・マグナスを襲う。
「――おのれ、小癪な!」
 ロード・マグナスは手にした剣での受けを試みたが、到底防ぎきれるものでは無く、鎧の胴部に三つの穴を開けられた。その穴からは、周囲に拡がるように亀裂が入っている。
「隙ありだ! もう一度、バリアフリーのなんたるかを叩き込んでやる!」
 暁子とロード・マグナスの攻防の間に、アルバートは再度√能力『エレメンタルバレット『|光彩陸離《イファルジェンス》』を発動していた
 セイリオスから放たれた魔弾が、ロード・マグナスの胴部を捉えると、その周囲を多数のレーザー光線が迸ってロード・マグナスの全身を灼く。
「くっ……だが、小細工はもう使えまい!」
「――なんと!? 俺の技を、再現した!? だが、その技で俺と撃ち合うのは悪手だぞ!」
 アルバートは再現された射撃の弾道を観測し計算することで、光属性の弾丸の直撃を避けた。さらには、対光属性のエネルギーバリアを展開することで、ダメージを軽減して軽傷を負うに留めた。
 再現されたのが自分の√能力である以上、その対処は使い手であるアルバート自身がよく理解していた故の結果だ。
「暁子!」
「任せろ!」
 さらに、この攻防の間に暁子が、すかさず光属性の射撃と砲撃をロード・マグナスに叩き込む。
 そうしてダメージレースを繰り広げた結果、アルバートと暁子は撤退を余儀なくされるまでの間に、連携して次々と繰り出す攻撃によって二人ロード・マグナスの鎧の過半以上を破損させ、その生命力もまた過半以上を奪っていた。
 これは、アルバートが攻撃の軽減手段を用意していたこともさることながら、暁子がロード・マグナスの最初の反撃を失敗させていたのが大きかった。それがなければ、奪えた生命力は半ばにも至らなかっただろう。
「頼りになる仲間がいる戦場は、良い。孤独な英雄殿のご退場は、もうすぐだ」
 それが明暗を分ける差だと、暁子はロード・マグナスに告げていった。

柳檀峰・祇雅乃

●光の雨は降り注ぎて
「池袋で人々がモンスター化するなんて、ちょっと洒落にならないわよね。止めさせてもらうわよ」
 身長二メートルにもならんとする|柳檀峰・祇雅乃《りゅうだんほう・ぎがの》(おもちゃ屋の魔女・h00217)は、ロード・マグナスの前に至るとそう告げた。
 人口密集地である池袋で人々がモンスター化すれば、その被害は如何程になるだろうか。それを思えば、モンスター化を止める為にもロード・マグナスは速やかに討たねばならない。
「やれるものなら、やって――」
「光よ、収束し降り注げ!」
 祇雅乃の口上にロード・マグナスが返すのに割り込んで、祇雅乃は√能力『光の雨』を発動。雨の如く微細な光が、ロード・マグナスの身体へと降り注ぐ。
 微細な光の一つ一つには、大した威力はない。だが、それが三百回もロード・マグナスの身体に当たれば、既に傷ついているロード・マグナスの生命力をじわじわと削り取って行くに十分だった。
「ぐ……!」
 ロード・マグナスは光の雨から逃れず耐えて、詠唱を完成させると呪いの炎を創造して祇雅乃へと放つ。
「このぐらい、何てことないわよ」
 身を灼く炎の熱に耐えながら、祇雅乃は言った。全くのノーダメージとは行かないが、祇雅乃の鉄壁の身体は、祇雅乃の被ダメージを大きく軽減していた。
 そして、ロード・マグナスが呪いの炎を創造して攻撃する間にも、祇雅乃は再び光の雨を降らせながらその手にしている魔導書でロード・マグナスを殴打する。
 かくして、祇雅乃は既に半減しているロード・マグナスの生命力を、さらに削り取っていったのだった。

クラウス・イーザリー

●池袋の人々、救われり
 最後にロード・マグナスの前に現れたのは、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)だ。
 √ウォーゾーンを出身とするクラウスにとって、騎士と言うものは御伽噺の存在と言えた。それだけに、ロード・マグナスと戦うのは何だか不思議なものを感じるところであった。
「潔いのは、嫌いじゃないな……行くぞ」
「くっ、速い……!?」
 クラウスは、初手から√能力『アクセルオーバー』を発動。全身に電流を纏う事で強化された身体が、瞬く間にロード・マグナスとの距離を詰める。
 バトルアックスによる紫電の如き一閃が、大剣による防御を間に合わせられなかったロード・マグナスの胸甲を斬り裂き、深々とした傷を刻む。
「うぐっ……だが!」
「――遅い」
 ロード・マグナスはその場に踏み止まり、大剣で反撃しようとする。だが、クラウスはその太刀筋を見切って下からバトルアックスで払い上げる。
 カラァン。刀身を跳ね上げられ、ロード・マグナスの手から離れた大剣が、あらぬ場所に落ちて乾いた音を響かせる。
 こうなると、ロード・マグナスは呪いの炎を創造してクラウスを攻撃するしかない。だが、クラウスとて悠長にそれを待つ理由はなかった。
 ロード・マグナスが呪いの炎を創造するまでの三秒間に、クラウスは『アクセルオーバー』を連続して発動し、「紫電一閃」を二度、三度と叩き込んでいく。
 ようやくロード・マグナスが呪いの炎を創造してクラウスに放ったが、クラウスはバトルアックスの刃の側面で受け止めて防ぐ。防ぎきれなかった余波がクラウスの身体を灼くが、クラウスが負った傷は軽いものでしかなかった。
 その傷を省みることなく、クラウスはさらに「紫電一閃」を連発してロード・マグナスを攻め立てていく。速やかにダンジョンを消滅させ、池袋周辺の人々をモンスター化の危機から救わんが為だ。
 元より、ロード・マグナスの生命力は先に交戦した√能力者達によって削られていた。そこに、一度攻撃する間に高威力の攻撃を二度も三度も叩き付けられては、ロード・マグナスの生命が風前の灯火に陥るのも時間の問題だった。
(これで、終わらせる)
 渾身の力を込めて振るわれたクラスのバトルアックスが、ロード・マグナスの胴体を上下に両断する。
「見、事……!」
 ロード・マグナスはそれだけを言い残し、かき消えるように消滅。同時に、池袋西口公園に建った塔もサラサラと崩れゆく灰へと変じて、消滅していった。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト