シナリオ

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【王権決死戦】◆天使化事変◆第12章『使命を忘れた蠍』

#√汎神解剖機関 #王権決死戦 #王劍『ダモクレス』 #王権執行者『ウナ・ファーロ』 #天使化事変 #羅紗の魔術塔

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王権決死戦

これは王権決死戦です。必ずこちらのページを事前に確認の上、ご参加ください。
また、ページ右上の 一言雑談や特定の旅団等で、マスターが追加情報を出すこともあります。

 その領域は、かつての塔だった。
 内装はそう変わらず、けれど大きく開いた窓からは活気あふれる島の様子が見下ろせる。これまで登ってきた高さに比べればずっと低く、その者が生きていた時の景色だろう。
「……」
 異様に長い髪の毛が、床を引きずっている。着る衣服はぼろきれのようで、とても人の上に立つような恰好ではない。
 しかし、その者には力があった。
「|去れ《——》」
 容姿を隠す前髪から僅かに覗く口が小さく動く。すると途端に蒼い文字が飛び交って、侵入者へと迫った。
 √能力者はそれを避け、しかし着地した足元でも光る文字。
 爆発は連続して起こって、戦いは激化する。
「フリードの邪魔は、させない……」
 男とも女とも取れない声でそう言って、2代目塔主は立ちはだかった。



『2代目塔主の名はハッキリとしませんでしたが、恐らくアンタレスと呼ばれていたようです。羅紗魔術の根本となった魔術を使い、島を覆う結界を構築、数百年も維持させている強大な存在です。インビジブルの力を得た今、より強力になっているのは間違いないでしょう』

『戦術・|起源魔術《バベルスペル》。これは言葉による魔術のようですね。発した言葉がそのまま意味を持つようで、とても手軽かつ強力な魔術が行使されます。現代に残されているどの言語とも違うようで、しかしなぜか理解できてしまいます。あるいはその意味を伝える手段を妨げれば、威力を減衰させることは出来るかもしれませんが、完全に遮断するのは難しいでしょう』

『領域・|共通言語《ニムロデ・バベル》。どうやらこれによって、皆さんの扱う言語が矯正されているようです。と言っても皆さんが2代目塔主と同様の魔術を使えるわけではないようで、むしろ本来扱っていた、言葉による魔術や機械の起動に問題が生じしてしまいそうです。意味は不思議と理解できるので、会話には問題ないみたいですが』

『脅威度では4代目よりも劣るでしょう。しかし油断はしないでください。どうにも皆さんが手に入れた情報では長い間生きていたと言いますし、恐らくは人間とは異なる種族です。そのため生物としての急所を狙っても倒れないかもしれません。例えば胸に大穴を開けても。……扱う力も彼に似ていますが、別人ではあるはずです』

『皆さんならこの戦いも乗り切れると信じています。ここを超えればもう塔の頂。出来るだけ早い決着が、この先で戦いやすくなるかもしれません。どうか、最後まで気を抜かず駆け抜けてください。よろしくお願いしますね』

 蠍にはかつて使命があった。
 けれど王と出会ってそれを忘れてしまった。
 豊かな日々は、蠍を満ちさせていく。ついにはその座も託されて。
 今はもう、託された意味も忘れてしまったが。

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第1章 冒険 『強行突破せよ』



 とある島に面する海上にて、それは突然空中に現れた。
「っ!?」
 魔術による転移だ。しかしそこに想定していた足場はなく、その人物はそのまま海へと着水した。
 慌てふためきもがき、そのせいでどんどんと沈んでいく。
 魔術を使えばどうとでも出来たはずが、初任務と言う事もあってかしょっぱなの失敗で動転し、すっかり頭の中から消え去っていた。
 女神様になんて報告しようとばかり浮かべていて、その時身体が持ち上げられる。
「大丈夫か?」
 どうやら溺れているのに気づいてくれた人がいたらしい。溺れた体を支えながら、泳いで島へと向かってくれている。
「こほっ、けほっ、は、はい。助かりました」
「島に用か? 案内してやるよ」
「あ、ありがとうございますっ」
 失敗かと思っていた幸先は、急転していい方向へと向かい始めた。そのおかげでようやく心を落ち着けて、魔術使いは辺りを見渡す。
「それにしても、この辺りには大地があったと思うのですが」
 少なくとも仕入れいていた地図の情報ではこの辺りも島の一部だったはずなのだ。最も魔術が得意である自分が、まさか座標を間違えたとは思えない。
 今後の自信にも繋がるからと尋ねると、その恩人は気まずげに笑って告げる。
「あー、怪異との戦いで割れちまってなぁ」
「割れて……激しい戦いをしているのですね……」
 まさか目の前の人物が犯人とは思わず、話に聞いていた島の過酷な環境を思い浮かべた。それからしばらくして島の沿岸に辿り着き、ようやく自分の力で立つ。
 そうして初めて恩人の全身を見渡して、何かが引っかかった。
 地中海人種らしい顔立ちに、たくましい体。濡れそぼっているが身なりは良さげで、普通の生まれでないことは確かだ。
 一体どこで見たのかと記憶を探ろうとしていたところで問いを投げられる。
「ところで、あんたの名前は?」
「え、と、一応、アンタレスと呼ばれています」
 それが名前に該当するのか分からず自信なさげに応えると、対照的な恩人は得意げに告げた。
「俺はフリードリオンだ。親しい者からはフリードと呼ばれている。よろしくな」
 そしてその名前を聞かされて、先ほどの引っ掛かりが何だったのか判明する。
「ふ、フリードリオンって、この島の、長の……?」
 思考を読まれないよう注意しながら、アンタレスは恐る恐ると確認した。
「あーまあ、別に大したことはしてないけど、そんな感じだ」
「っ!?」
 肯定された衝撃でアンタレスは驚き飛び上がり、また海へとダイブする。当然溺れてすぐにまた助けられ、しかしその恩人に二度目の感謝を告げる余裕はない。
「お前、変な奴だな」
 なんたってその蠍は、彼を殺すためにこの島へとやってきたのだから。
中村・無砂糖
シスピ・エス

 中村・無砂糖に躊躇いはなかった。
「『仙術、ビクトリーフラッグ』じゃ!」
 √能力【|仙術・戦陣浪漫《ダイナミック・エントリー》】を発動し、仙力パワーを纏い背に戦旗槍を背負って一番槍に先陣をきっていく。
 少しでも後に続く者へと託せるようにと時間を稼ぎ、情報を集めるのも欠かさない。
「塔からの光の原因を早う突き止め速やかに止めるのがわしの目的…『仙術、覚悟完了』じゃ!」
 向かう敵を見つめ、辺りを包む領域を見渡して最善手を探る。言葉が障害となるならば身振り手振りでやるしかあるまいと早々に結論付けて、突っ込んだ。
 √能力【|仙術・決死の覚悟《ケッシノカクゴ》】を発動して決死戦モードへと突入。攻撃回数と移動速度を上げ、
「『仙術、決着の刻』!」
 √能力【|仙術・決意撃《ケツイノイチゲキ》】も行使して決意のチャージを開始して、兵装『ケッ死戦チェンソー剣』を知りに挟み込み、両手に『悉鏖決戦大霊剣』と『リボルバー銃』を構える。
「いざ、決闘じゃー!!」
 √能力で強化された身体能力と技能を生かして空中移動ダッシュの立体軌道で足を止めず、尻と手による限界突破した怪力根性勇気の剣撃と早撃ち零距離射撃の乱れ撃ちな銃撃で突っ込んだ。
 すると、部屋中に仕込まれていた蒼い文字が、迎え撃とうと無数に迫ってきて、それを次々に撃ち落していく。
 二本の剣に一丁の銃と常人以上の手数を以てしても、文字の波は凄まじい。討ち漏らした攻撃がその身を傷つけて、しかしそんな負傷など構わないとばかりに中村・無砂糖は突き進んだ。
 そうして戦闘が始まってしばらくして、短くも長い60秒の必滅の決意がチャージされる。
「これまでの倍返し! 仙術・決意撃じゃー!」
 対なんでも用に仕上げ習得した摩訶不思議な技が、壁となる蒼い文字を尽く吹き飛ばした。晴れ渡った景色に敵の姿をようやく見て取って、そしてその先に上階へと続く階段も見つける。
 文字通り道を切り開いた中村・無砂糖はこの機を逃さないようにとすぐに後ろへと伝えた。
『後に続くみなの者! わしの事など構わずひたすら前を向き突き進むのじゃ!』
 身振り手振りケツ振りでそう伝えながら、戦いを続ける。次は相手を切り裂こうとその三種の得物を構えて、
 とその時、足元に文字が忍び寄る。
 咄嗟によけようとするが、後回しにしたダメージが、中村・無砂糖の足を止めてしまった。
「しまっ——」


 先陣を切った中村・無砂糖が爆発に巻き込まれようとしたその時、
(技能は加算出来ますし中村さんは強いと思いますぇえ僕なんて敵いっこありません。スピーディに挑む姿は感動すら覚えます。で、す、が、撤退の事考えてませんよねぇぇぇえ??!!)
 シスピ・エスは、頼もしい仙人に尊敬の念を抱きながらも、無謀な行動に内心で悲鳴を上げていた。
 そしてすかさず√能力【|星脈精霊術【虹霓】《ポゼス・アトラス》】を発動する。
 氷の精狼と完全融合した彼は、手に入れた引き寄せ能力で、先陣を切った功労者を、間一髪で救い出した。
「おっと、助けられたのう」
「も、もっと慎重に行動してくださいよっ!」
 と、説教している暇もそうない。引き寄せ能力を使うため近づいたシスピ・エスもろとも、蒼い文字に囲まれていたのだ。危機を感じた天使の欠片は顔を引きつらせ、しかしそれを自称仙人が弾き落とす。
「文字の対処は任せるのじゃ」
「に、逃げますっ!」
 担がれながら尻に剣に銃を振るって、脅威を排除していく中村・無砂糖。変わらない頼もしさにホッとして、シスピ・エスは√能力【デッドマンズ・チョイス】も発動して速度を上昇させ、狼の如く離脱を開始する。
 この間に致命傷を負ってしまわないよう、√能力【忘れようとする力】を使用して治癒を施して時間稼ぎを行う。文字の対処を請け負ってくれているこの隙に、敵への妨害の手も打った。
「僕らに伝わらなければ威力も減衰、との事。ならこれで!」
 手にする『精霊銃』に言葉根を弾として込めて放つ。それは相手の言葉を意味が分からない暗号に変えてしまうものだった。
 防ごうとする文字を引き寄せ中村・無砂糖に切り裂いてもらって。そして見事に弾は敵に命中する。床を引きずるほどの髪にたっぷりと被せて、全身をびしょ濡れにもした。
「……——|貫け《——》」
 一瞬、暗号となった言葉はしかし、再び意味を持って向かってくる。敵の言葉もまた、領域によって上書きされたのだ。
 ならば濡れたその体を凍らせようと絶対零度の攻撃を放つが、鋭く走る文字に意識を削がれる。
 こうなったら一旦は逃げるしかないと踵を返し、自分の代わりに多くの攻撃を引き受けてくれていた中村・無砂糖に『仙丹』も手渡しておいた。
「これ食べておいてください!」
「ちと手が塞がっておってのう」
「しかたありませんね!」
 薬を渡すも、中村・無砂糖は文字の対処に忙しく、わがままを言って、シスピ・エスは呆れを飲み込んで強引に髭に覆われた口へと突っ込んだ。
「苦くてまずいのじゃ……」
「味わってどうぞ!」
 場違いな感想は受け流して自分も『仙丹』を口に含んで、文字の襲撃をかいくぐって一旦は安全な場所に下がる。一息ついて、作戦会議を始めた。
「手数が多すぎませんか? キリがないです」
「既に部屋中に仕込まれていたものは、わしの一撃で粗方吹き飛ばしたみたいじゃが、これは骨が折れるのう」
「相手の言葉を変える方法では、威力減衰は狙えないみたいでしたし、もう少し他の方法を試す必要があるみたいですね」
 戦いの中で感じたことを伝え合って、策はないかと交わし合っていると、中村・無砂糖が立ち上がって前に出る。
「作戦を練る時間はいくらでも稼ぐのじゃ。わしは考えるよりも突っ込む方が性に合うようだしのう」
「それなら僕は回復に専念するしかないじゃないですか」
「それは頼もしいのう」
 作戦を考える事は一旦やめて、後に続く者がより動きやすくなるようにと二人は立ち回る事にしたのだった。

大神・ロウリス

 大神・ロウリスは兵装『群竜銃』を連れて2代目塔主へと挑む。
「正直、効かない可能性は高いですが私のできる事は限られているので、奥の手を使いましょう」
 側にいた√能力者たちにはこちらを見ないように言い含めてから、彼女は頭にかぶるカボチャを取って、『素顔』を敵にさらした。
 一目見ただけで正気を失う程の美貌が、敵を魅了しようとする。そしてそのまま味方が作ってくれた道を進んだ。
「アンタレス、フリードっていうのがあなたの大切な人?その人のどこが好きなの?」
「……」
 少しでも隙を引き出そうと語り掛ける。相手の攻撃は霊的防護で防ぎながら、魅了と愛する者への想いで動揺を誘おうとした。
「……そう。それでその人は、今もあなたの好きなフリードのまま?」
「彼は、いつだって変わらない」
 しかし、その敵は一切の隙なく愛を抱いていた。美貌に惑わされるような精神ではない。
 その可能性を考慮していた大神・ロウリスは早々に離脱して、カボチャを被り直す。他の仲間達と共に援護射撃に加わって、次へと繋げるのだった。

御剣・峰
ルメル・グリザイユ

 御剣・峰は情報を得た敵を眺める。
「言葉が魔法になるか。なんともシンプルかつ強力なものだな……が、どうでも良い。私はただ己の技を信じ、眼前の敵を斬るだけだ」
 その空間を覆う不利な状況も無視をして彼女は突き進んだ。そんな相変わらずな様子に、ルメル・グリザイユは少し呆れつつも尊敬の念を抱いた。
「何の準備もなしに突っ込むなんてさすがだな~」
 自分には出来ない事だとぼやきつつ彼は、霊的防護を施した耳栓を詰めて、精神を汚染されることも考慮して備えておく。そうして先走る連れが危険な目に遭わないようにと続いた。
 耳を塞ぐ効果は多少なりともあったようで、相手の発した言葉の意味が分からなければその威力は僅かに減衰する。それを伝えると御剣・峰は躊躇いなく自身の耳を痛打して鼓膜を破って、視界に頼る戦法へと移行した。
 √能力を行使し、リミッター解除し魔法で肉体改造した身体能力で、残像が残る速さで敵へと迫る。それにルメル・グリザイユは一歩下がったところから、直感的に回避のタイミングをハンドサインで伝えてサポートした。
 無数の攻撃は避けきれない。防いでも砕かれ、その身を叩いてくるが、意味を理解していない分、何とか敵の懐に接近することは成し遂げた。
「一流の戦士に言葉は不要。相手の動きを見ればどう動こうとしてるか予測はつく。お前にはわからん境地だろうな。二代目」
 小細工を捨てた剣士はそう告げて、相手の気を引き付けたその瞬間に、後ろの魔術師が重力を操る。√能力で宇g気を鈍らせ、そのまま加圧して相手の口を、亜空間へと転移させる。
「あっはっはっは! すっごいことになっちゃったねえ~。それじゃあお得意の起源魔術も使えないでしょ~」
 見事術中にはまった敵をけたけたと笑いつつ、ナイフでの強撃を放った。
 しかし、
「|繋げ《——》」
 転移した先で言葉は紡がれ、それを亜空間が理解する。
 そして、再び文字がその口から紡がれ、二人の√能力者を吹き飛ばした。

■■■■■■■
「っ……」
 ふと目を離した隙に、その体は消えていた。
 怒りは静まって次に絶望が膨れ上がり、けれどすぐに違和感を覚えた。
 辺りに何かが漂っている。それは、この世界ではない何かの残滓だった。
「……女神様の言っていた事は、本当なのかもしれない」
 もうずっと前に背いてしまった主のことを思い出す。信憑性の低い神話ではあったけれども、間違いではなかったのかもしれない。
 もしそうならば、彼もまだ生きている可能性があった。
 すぐに残滓を記録する。万能の魔術で保管し解析して、穴を探った。
 そうして、扉を作ろうとする。例え何十年何百年かかろうとも成し遂げるつもりだった。
 使命も、託された地位も、生きている人々のことも忘れて、蠍はただ一つに没頭した。
白石・明日香

 白石・明日香は、相対する敵と、その後ろに待つ階段を見つめて呟く。
「アンタレス・・・・もうすぐ到達するんだ。ここまで来た以上引く気はないさ」
 長かった道のりを思い返してつい気持ちは高まりながらも、下手は打たないと冷静に耳栓を付けて敵の言葉に対処。更には跨るバイクで思いっきり爆音響かせて猛スピードで接近した。
「うるさくすれば多少は聞こえなくなるだろうしそうなれば意味は分からんしな!」
 これで相手の攻撃もそう怖くはないと、迫る文字も容易く撃ち落していく。そして敵の体が射程内へと入ってすかさず、右腕、左腕と順に狙って制圧射撃を繰り返した。
 蒼い文字は的確にそれらを防いでいく。相手の体にまでは届かず、けれどそれは囮だったと、白石・明日香は懐へと入り込み、零距離射撃を放った。
「っ」
 敵が漏らす息は耳栓に塞がれて届かないが、身体を崩したのは確かに見て取って、そのまま急所を探る。しかしそんな猶予は許さないとばかりに反撃が迫って、急いで離脱した。
「あまり時間がないからな・・・通してくれないか?」
 一筋縄ではいかない相手と分かり、そう語り掛けるも当然応えてはくれない。なら強引に突き進むだけだと、白石・明日香は鮮血の弾丸を降らせるのだった。

天霧・碧流

 天霧・碧流は兵装『CSLM(Combat System for Lethal Missions』を身に着け、駆ける。言語を矯正するという領域など彼には関係なかった。
(俺だっていつも煽ってばかりの戦い方じゃないのさ)
 得意は暗殺。わざわざ詠唱しなければ発動できないような攻撃手段も持ってはいない。それにシャドウペルソナだから、ダメージを受けたところで声を上げない自信があった。
 いつもは相手を挑発する口も閉じて突き進む。余計に領域の影響を受けてしまわないようにと意識した。
 接近を防ごうとする文字を切り払いながら、相手の姿を見つめる。
(2代目に言葉を言わせないようにすることに注力したいところだが……)
 相手は対照的に、文字を放つ際には常に口を動かしている。ならばその部位や喉、あるいは魔術媒体となる物を狙うべきだろうと標的を定めた。
 兵装の機動力とエネルギーバリアで攻撃を受け流し、持ち前の手数で進路の邪魔を掃う。そうして間合いへと踏み込んで、√能力【|斬花連舞《ザンカレンブ》】を発動した。
 見た目はただのメスである『朱華』を振るい、その口を狙う。丁度魔術を放った後の隙をついて、その刃は命中した。
(それじゃあこのまま……!)
 そして、相手が魔術を不発に終わったところで、√能力【|魂華転生《コンカテンセイ》】を放つ。メスを玉井を喰らう剣『狂華』に変形させ、何をしても満たされない『虚無の渇き』を刃に纏わせ振るった。
 しかし、
「|防げ《——》」
 その声は正面から少しずれた場所から。咄嗟に視線だけを向ければ、その手の平に口が生まれていた。
(化け物じゃねぇか)
 口が封じられようとも関係ないと、その人外は魔術で刃を弾く。体勢を立て直すため一旦距離を置き、天霧・碧流は思い切ってその行動に出る。
(我慢しろよな、|主人格《碧流》。ククッ!)
 天霧・碧流は笑みをこぼしながら自身の耳を切りつけ、相手の攻撃に対しての耐性を高めると、防御を捨てた戦法で、再び挑んでいくのだった。

夜風・イナミ

 夜風・イナミは憤慨する。
「言うだけで効果発動なんてずるいです!」
 いともたやすく、しかも強力な魔術を扱う敵に、不平等だと訴えようとした。
 とにかくは口をどうにかせねばと考え、忌避しているモノを呼び出す。
「あの詠唱を止める力をください!」
 本当は頼りたくなかったがそうも言っていられないと、√能力【|鎮メ牛憑依《シズメウシ》】を発動する。頭骨と融合する形で|鎮メ牛《魔眼のカトブレパス》を顕現させ、声には出さないよう、憑いてるなら聞こえているはずだと頭の中で願いを告げた。
(私にも戦える力を……!)
 単眼化け物となったその身は、いつもの内気な心を振り払って、強敵へと向かう勇気を与えてくれる。そうして迫る蒼い文字を踏みつけながらずんずんと敵へと近付いていって、射程内に収めた所で石化の魔眼で口を封じた。
 けれど敵の掌には既に新たな口が生まれていて、成功を喜んだ牛へと不意打ちを仕掛ける。
「口がいくつもあるなんて、ずる過ぎます!?」
 理不尽な敵の挙動に大きな声を上げながらも、その石化と踏みつけは確実に敵を消耗させるのだった。

神之門・蓮人

 神之門・蓮人はここまで登ってきた階段を振り返ってふと抱く。
「塔を登るたびにボス戦なのは、アニメかゲームみたいだね」
 空想の世界に迷い込んだかのように心はどこか浮ついて、けれどそんな風にしている相手ではないと気合を入れ直す。
「ふう、温存出来るような相手でもないみたいだし、やれることをやろうか」
 兵装『CSLM(Combat System for Lethal Missions』を身に着け、敵の攻撃を避けるように駆け回った。
 彼の戦法は詠唱を必要としない超能力。言語障害を引き起こす領域だとしても関係はないと、√能力【|雷紅拳(気弾)《ライコウケン》】を行使し、雷属性の弾丸を射出していく。
 当然一人では決め手に欠けるのも理解していて、故に放つ気弾は味方への支援の意味合いが強かった。
 味方が油断すればすぐにサポートへと回り、積極的に立ち回る。気付けば神之門・蓮人の放った雷は、戦場を埋め尽くすように広がって味方たちを後押しするのだった。

虚峰・サリィ

 虚峰・サリィは気軽に相対する敵へと挨拶を投げる。
「ハロー、塔主様。まさか挨拶の言葉尻までいじらないわよねぇ?」
 当然気さくな返答はなく、攻撃で返されて避けて。虚峰・サリィも戦闘へと移った。
 彼女の戦法は音楽を行使するもの。普段は歌に力を乗せて届けるのだが、この場ではそれも捻じ曲げられる可能性が高い。とはいえ歌がなくとも、聞き惚れさせることは出来る。
「今日のナンバーは『致命・口説き文句に刺されて死にたい』」
 魔導弦『ホワイトスター・トップテン』をアンプ代わりの改造スマホ『ハウリングバンシー』と接続して大音量でかき鳴らす。不足している分の歌声を補うように大音量をまき散らして、相手の音声伝達の妨害も図った。
 飛来する蒼い文字はその速度を落とす。耳も防いでしまえば、あっさりと弾けてしまえた。
 そうして弱体化の隙を狙って、変形させた魔導弦で声を発する喉を狙って攻撃をしていく。けれどやはり、相手に近づくほど蒼い文字は威力を取り戻すのだった。

花喰・小鳥
一・唯一

 花喰・小鳥は、耳栓を着用しながら2代目塔主へと語り掛けた。
「フリード、あなたの大切なひとですか?」
 当然返答は聞こえないのだからその会話には意味はない。まるで相手をおちょくるようにして、自動拳銃『死棘』を素早く抜き放ち先制攻撃を仕掛ける。
 体内には興奮剤も注がれ、迫る文字をものともせずに立ち向かっていた。
 その少し後方で、鼓膜を塞いだ一・唯一が敵対存在に関心を見せる。
「興味深い塔主やな…火星に抗う、なんて素敵な名前」
 もっと勉強しておけばよかったと思いながらそう呟くと、声は聞こえていないはずなのに花喰・小鳥が振り返った。他人に興味を示すなとばかりに釘を刺す視線に、一・唯一よそ見をした連れを庇って変わらずの愛を伝える。
 もう言葉はいらない。二人きりの世界を楽しむように、アイコンとだけを交わし合って共に並んで戦った。
 花喰・小鳥は的確な防御で対応しながら魔眼での魅了で相手を揺さぶり、ただ相方を守り敵を倒す事だけを考える。
 一・唯一は、出来る事を出来るだけ、出来る限りといつものモットーで常に守るべき存在を視界に入れながら敵へと毒をばら撒くように注射器を乱舞した。
 そうして一瞬の時を奪った瞬間に、花喰・小鳥が仕掛ける。
 √能力【|殺戮人形《エクス・マキナ》】によって、繰り返す近接攻撃。即座に再行動を繰り返し、相手に手番を譲らないそれは、くるくると回る|死の舞踏《ダンスマカブル》を演じていた。
 敵の力に対して長期戦は不透明過ぎると短期決着を望んで、それを一・唯一も了承して、怪異兵器やガトリングガンによる攻撃を立て続けに放って、ダンスを更に過剰演出する。
 愛し合う二人に言葉など端からいらない。互いを信頼し思い合い、二人は舞った。
 迷っている暇はなく、ただ塔の頂を目指して前へと進むだけ。そう交わし合いながらも、華麗に舞うお互いの姿に、花喰・小鳥と一・唯一はそれぞれ目を奪われてしまうのだった。

■■
 アンタレスは、とある人物を殺す使命を受けて、その島へとやってきていた。
 しかしその人物に二度も溺れているところを救われ、そして今現在島の案内までしてもらっている。
「こっちの方はもう随分と怪異を倒したんだけど、向こうの方はまだうじゃうじゃいてな。近づくなよ?」
「は、はい」
 この島の長であるフリードリオンは、その足で島を回っては自ら危険を排除していっているようで、溺れているのを見つけたのもその見回りの最中だったらしい。けれど客人を優先して切り上げて、島の栄えている方へと向かってくれている。
 親切心しか感じないその人物に、アンタレスはどうすればいいか困って簡素な返事しか返せない。
 そうしている内に、人の住む地域へと踏み入っていた。
「塔主さま、また女の人連れてるー」
「こらっ、この人はまだ俺のこと知らないんだからあまり言うなっ!」
「えー?」
 通りがかった少女はあまりに気安く話しかけてきて、叱られてもその悪戯めいた笑みを湛えたまま。フリードから逃げるようにアンタレスの傍へとやってきて、その姿を見つめてこそっと告げる。
「びしょ濡れだけど、もしかして事後?」
「じ、事後とは……?」
 アンタレスは知識にない言葉に首を傾げる。すると少女は嬉しそうにそれを教えようとして、けれどそれをフリードが遮った。
「なわけないだろぉ?」
「きゃー!」
 脅すように低い声で言って少女を追い払う。少女も少女で楽しそうに逃げ出して。それを仕方ないとばかりに見送ったフリードは、今更ながらに促す。
「まあ、島中の奴らもあんな感じだから、お前も俺に気安くしてくれていいぞ?」
「い、いえ……」
 さすがに殺そうとしている相手と仲良くなるわけにはいかないと引き下がれば、フリードは「気が向いたらでいい」とその場は流してくれた。
 それからまた道案内は続いて。
「ところでお前って女なの? 抱き心地的になんかどっちとも言えない感じだったけど」
「……どっちでも、ないです。必要がないので」
 道中の会話ではつい言わなくてもいいことまで明かしてしまって、けれどフリードは特に詮索もせずに言葉を投げてくる。
 人通りも増えて多くの人と触れ合う様子を横で眺めては、その人物の人となりを知っていった。その度に、使命を忘れそうになってしまう。
 自分はこの人を殺しに来たのだ。その隙を見逃さないようにしないと。
 ……でも今は、人の目も多いから。
 と後回しにして。気が付けばその場所へと辿りついていた。
「着いたぞ。あれが一応、この島の中心だ」
 指差される塔には、多くの人が集まっている。
 裕福ではないながらも、楽し気な声が行き交っていた。