⚡️オーラム逆侵攻「撃ち砕け!悪の圧迫面接!」
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「人間とは愚かな生き物である。そうだなお前たち?」
「はっ、ゼーロット様!」
「人間とは脆弱な生き物である。そうだなお前たち?」
「はっ、ゼーロット様!」
居並ぶ無数の戦闘機械群を前に、レリギオス・オーラムの冷酷非情にして恐るべき統率官ゼーロットは重々しく威厳ある態度で見事な演説を述べていた。
「だからそんな奴らは滅ぼしてしまえばいいのだが……我々の本当の敵は同じウォーゾーンの別派閥どもだ。人間を滅ぼすなどという些末なことに我々自身のリソースを割くことは非効率的だ」
「はっ、ゼーロット様!」
「そこで吾輩の優秀なAIは絶対的な作戦を起案した。屑の人間どもは人間同士で排除しあえばよい! スパイどもを使って殺し合わせるのだ!」
「はっ、ゼーロット様!」
「しかし、なんということだ、吾輩の麾下には人間のスパイが少ないではないか! どうなっておる!」
「はっ、ゼーロット様! ゼーロット様が人間はくだらないし面倒見たくもないとかおっしゃってあんまり雇わないからであります!」
「愚か者め! だったら今から人数を増やすのだ!」
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「ぱんぱかぱーん! パンドラが来ましたよ! ……で、今お見せしたような星を詠みましてね」
星詠み、パンドラ・パンデモニウムは空中に浮かべた幻影を√能力者たちに示すと、疲れたように頭を振った。
「まあこういうアレでナニなゼーロットさんなわけですが、こんなものを人類居留地に撒いています」
と、パンドラが見せたものとは。
『裏切りもの大募集。日給100おくまんえん。休日年364日。社保完備、福利厚生充実。経験不問、裏切り初心者大歓迎。親切丁寧に裏切り指導します。笑顔の絶えない明るい職場です。クソザコな人間さんたちの人生が一発逆転! たのしい裏切りライフを味わってみませんか? ご連絡はレリギオス・オーラム、偉大でカッコいいゼーロットまで』
……そんなチラシであった。
「おバカさんですね? これで応募してくる人いると思います?」
もちろんいない。なのでゼーロットはキレ始めているという。
「しかし考えようによってはこれはチャンス。ゼーロットさんの誘いに乗ったふりをすればレリギオス・オーラム内部に潜入し、工作活動を行えるわけです!」
そこで√能力者たちは、まず就職活動をしてほしい。
すなわち――ゼーロットとの面接である!
ゼーロットは人間を軽蔑しており、直接会うことはできないため、通信での面接となる。そのため、残念ながらダイレクトアタックはできない。
「相手はゼーロットさんなんで、まあウザがらみをしてくる圧迫面接になるでしょうが、それに負けず笑顔を忘れずに、自分の取り柄や意気込みをアピールし、どんな裏切り活動をしたいかの希望や展望などを伝えて合格を勝ち取ってください!」
なお、とパンドラは続ける。
「組織内に潜り込めたら、5つの作戦が考えられることは皆さんご承知の方も多いと思います。念のため以下の通りです」
1:ゼーロットの直接撃破。
2:敵機械群の殲滅。
3:√EDENへの侵入阻止のため大黒ジャンクションの破壊。
4:囚われている√能力者の解放。
5:謎の巨大ロボ・グロンバインの拠点、カテドラル・グロンバインの破壊。
どの作戦を取るかは参加者各位の合議による。「一言掲示板」で意見を交わしてほしい。「ここに行きたいなー、理由は何となく!」くらいの簡単な意見でも一向に構わない。
もちろん相談は別に強制ではないので参加せずともよい。もし何の意見もない場合はパンドラが行く先を決めることになるだろう。
「履歴書? まあ適当に内容盛っちゃってもいいですよ。どうせまともに見ないでしょうし、千個くらい資格持ってることにしても」
PBWでMSやってました! とか。
「……それは資格なんですかね?」
資格だよ! 頑張ってMS試験合格したもん!
第1章 冒険 『「皆さんの戦術や過去を教えてください」』

「ふん、お前が裏切り希望者か。まあクソザコな人間に見切りをつけて吾輩たちの哀れなしもべになりたいというのはクソザコにしては多少見る目があるな。クソザコには変わりないがな!」
モニターの向こうで偉そうにふんぞり返りながら面接者を値踏みしているものこそ、統率官ゼーロットだ。
イラっと来る気持ちもよーくわかるが、まあここはひとまず我慢して内部潜入をしなければならない。POW・SPD・WIZの具体例にはあまりこだわらずともよい。自慢の特技や知識、これまでの経験、今後への熱意、これからどんな裏切り活動をしたいかなど、様々なアピールをして裏切り採用されよう!
「で、お前は何ができるのだ? ん? 言ってみ?」
「ご機嫌麗しゅう、ゼーロット様。このような素晴らしき場を設けていただき、心より感謝致します」
モニター越しに恭しく礼を示した|古出水・潤《こいずみ ︎うる》(夜辺・h01309)に対し、画面の奥から恐るべき統制官ゼーロットはいきなり雷のような怒声を響かせた。
『吾輩の機嫌が麗しいわけがなかろうが! 全てはお前たちつまらぬ人間どもがさっさと裏切らぬからだ。そのためにこのような面倒な場まで作らねばならなかったのだぞ! あのチラシだって何日かけて作ったと思っておる!』
「何日もかけたんですねアレ……あの出来で……」
『なんか言ったか!?』
「いえいえ、何も。それでですね……まさにそこです!」
『えっどこ!?』
メガネのブリッジをクイと押し上げ、ビシッと指をさした潤に、ゼーロットは思わずきょろきょろと周囲を見回した!
「いえそうではなくてですね……アホですかこの機械……ゼーロット様は今お怒りになったではありませんか。その結果、少しストレスが軽減された気がしませんか?」
『む? そういえば多少CPUの負荷が軽くなったような?』
「そうなのです。大きな声を出すことは一種のストレス解消になります。我々をどんどんお怒りになることでゼーロット様の負荷を軽減する御力になれるかと」
にこにこ、と眼鏡の奥の瞳を柔らかく光らせる潤に、ゼーロットも感心したようにうなずいた。
『なるほど、戦闘機械群に八つ当たりすると管理責任が問われ出世に響くが、人間ならどんどん怒鳴っても問題ないからな。ふむ、人間にそのような使い道があったとは。お前は人間にしては多少見どころがあるようだな』
「いえ、実は私はヒトではないのです。ご覧に入れましょう……」
静かな音を立て、潤は足首にはめていた数珠を外す。その瞬間、周囲の空気が陽炎のように揺らめき、彼の脚が現実が塗り替えられたかのように形を変えた。おお、そこに現れたものは――人にあらぬもの、梟の脚だ! ゼーロットでさえも一瞬驚愕した様子で潤の脚を見つめる!
『むっ、お前の足!』
「はい、そうなのです」
『爪長いな! 切った方がよくないか? 危ないから』
「………わかりましたアホですね? いえそうではなく。私は鳥、梟が本性なのです」
『人間の脚の形態などつまらんものは普段よく見ておらぬからわからぬ! だが、そうか。鳥類か』
ふむ、とゼーロットは腕を組む。
『まあすべての生命はいずれ根絶されるべきだが、鳥類はその中では多少評価に値する。飛行という特性に特化し機能的で効率的な形態を備えておるからな。機能的なものは素晴らしいものだ、我々のようにな』
「ありがとうございます」
『……まあ、中には飛べない鳥とかもいるようだがな! なんだそれは存在の意味なかろうがお前何のために生きておるのだという感じだなハハハ愚かしい!』
ヒクッ、と潤の額に一瞬青筋が奔り頬が引きつったようにも見えたが、たちまちのうちに柔和な表情の下にそれは覆い隠された。
「恐れ入ります。ゆえに、ヒトの感覚からは一歩引いた観点を持つことができます。人間達はゼーロット様の募集に不用意な警戒をしている様子ですが、これほどまでに|愉快な《心惹かれる》募集に乗らぬとは……嘆かわしいことですね」
『そうか、このチラシの良さがわかるか! ふふふ、なかなかデキル裏切りスタイルを身に付けているではないか!』
「このような出自ながら部下を抱え班を統率する立場ですので、ヒトへの影響力もございます。梟らしく、暗殺──なども、覚えがございますよ」
『ほほう、やるではないか。なかなかしたたかな奴だな』
身を乗り出し、明らかに興味を示してきたゼーロットに、潤はとろりと世界が蕩けるような声を放つ。聞くものすべての魂を溶かすような――催眠の声色を。
「私をご採用くだされば、この上なく華々しい裏切りを、『間近』で……ご覧に入れましょう」
腰をこれ以上ないほど慇懃に折った潤の、カメラから隠れた瞳に宿っていたもの。それは文字通り、獲物を見つけた猛禽類のごとき容赦なき輝きに他ならなかった。
『よかろう、見せてもらおう! 頑張って裏切るのだぞ!』
そうとも知らず、多少機嫌を直したゼーロットは、書類に合格のハンコをドンと推すのだった。
冷然と潤は微笑むと、誰にも聞こえぬ微かな声でそっと呟きを零す。
「ええ、ご覧に入れましょう。……|鳥とヒトの美しさ《私の大切なもの》を貶すような、|貴方様《愚か者》に、たっぷりとね」
「初めましてゼーロット閣下。椿之原・一彦と申します」
丁寧にモニター越しに礼を示した|椿之原・一彦 《つばきのはら・かずひこ》(椿之原・希のAnkerの兄・h01031)の姿に、恐るべきオーラム統率官ゼーロットは怪訝そうにセンサーアイを瞬かせた。
『なんだか不自然な顔つきの人間だな? 人間は目の下にそんな黒い模様があるものだったか?』
「ああ、これは……クマですね」
『クマだと!? 嘘をつけ!! お前は人間だろう! 吾輩の目が節穴だと思っているのか!! クマというのはもっとこう、大きくて毛むくじゃらな生き物だろうが!』
猛然と怒りを見せたゼーロット! 彼は人間を軽視しているため、人間に関する知識はほぼ何もないと言っていいのだ!
「いえそうではなくですね……ダメだこの機械……」
『何か言ったか!?』
「あーごほんごほん、つまり、クマ、隈とは疲労や体調不良により目の下の皮膚が一時的に黒く変色することを言うのです」
『ほう、人間の癖にコンディションシグナル付きとは。しかし体調が悪いとは自己管理ができておらんな!』
「……誰のせいだと」
『何か言ったか!?』
「あーごほんごほんごほん! なにも!!」
そう、いかにも一彦の体調は疲労困憊にしてぶっ倒れる寸前であった。ウォーゾーンたちの侵攻により多くの怪我人が頻出する現状、医師である彼に休まる暇などないのである!
(こんな状況でさらに裏切り者に成りすましてこいとは……人類軍からの直々の命令でもなければ机をひっくり返していたところですが……)
「……ええと、私、人類側では医者をしておりまして、そこで様々な人体への医療処置を行っておりました。ですから人をどうこうするのが得意です」
『ふむ、それは使えそうだな。それで、お前はなぜ裏切り者に応募してきたのだ?』
「はい、人類側の横暴加減が腹に据えかねましたもので。……事前にお送りしました応募書類の中の参考資料をご覧いただけますでしょうか」
一彦の答えに、ゼーロットはぺらぺらと手元の資料をめくって、首を捻った。
『先ほどもちらと見てみたが、これは何だ? 無論、画像によって構成された一種の物語であろうことは吾輩の絶対的に優秀な分析能力から判断できるのだが』
「それは……」
と、一彦は沈痛に声を落とす。
「……私なのです」
『お前? 何が?』
「その本に出てくるキャラクターが」
『だからどこにだ? この本に出てくる人間はなんだか妙に目がキラキラして睫が長く顎が尖っている者しかおらぬが?』
「それが私なのです。『戦闘機械×私』をモチーフにした同人誌なので」
『…………???? よくわからない……のだが????』
改めて言おう、ゼーロットは人間のことは全く知らないのだ!
仕方ないな、とばかりに一彦は身を乗り出す。
「ではお教えしましょう、それは私を使ったコミック、それもR24なのです! 24て! せめて18にしてって感じですね! そしてその内容とは」
(美しいBGM)
※現在、一彦はゼーロットに対し、R24同人誌の内容と目的と需要と供給と支持層、そしてその描写と表現技法について詳細かつ丹念に説明中です。読者諸氏におかれましてはしばらくお待ちください。
(美しいBGM終わり)
「……というわけなのです、ゼーロット閣下」
『…………』
「閣下? どうなされました?」
一彦はモニターの向こうで、マニュピレーターでセンサーを覆っているゼーロットの姿に首をかしげた。まるで顔を手で覆ってはにかんでいる乙女のように!
『……じゃん』
「は?」
『え、え、えっちなやつじゃん! だ、だめじゃんそんなの! いろいろ………よくないじゃん!!!』
繰り返し言おう、ゼーロットは人間のことを何も知らないため、文化に対して免疫もないのだ!
「………やっぱり駄目なのではこの機械……ええと、まさに閣下のおっしゃる通り、こんなものを地下でこっそり流布させるなど人間はもはや救い難い存在です。私が裏切った理由をご納得いただけたでしょうか」
まあ本当は、自分がどうこうなるのはどうでもいいんですけどね、というのが一彦の本音ではあったが。
『う、うむ。確かによくわかった! 人間とは吾輩が予期していた以上になんかこう、色々とダメな存在であったな! 頑張って裏切るが良い!』
そこはまあ……、あながち否定できないかもしれないなー、と思いつつ、一彦は、ゼーロットが文書にどんと合格のハンコを押す姿を見つめるのだった。
「お願いしゃっす! 裏切り希望っす!」
|深見・音夢 《ふかみ・ねむ》(星灯りに手が届かなくても・h00525)は元気に手を上げて面接室に入室した。
「えー、深見・音夢っす! コンビニバイトしながら悪の組織で戦闘員やってるっす! 掛け持ちNGの組織なんで所属もとには何卒内緒で!」
いきなりのカミングアウトである! 実際、音夢は「元」が付くものの、悪の組織の一員であったのは事実だ。人を騙すには多少の真実を混ぜた方がいいとはよく言われることである。音夢は開口一番いきなりインパクトのある発言をカマして相手の心を掴もうという深遠な計略に出たのだ!
ああ、だが!
『悪の……組織?』
モニターの向こうで恐るべきオーラムの統率官ゼーロットはセンサーアイをしかめた! センサーをしかめるってどういうことかと思われるかもしれないがそういうふうに見えるのだ! ゼーロットはそのまま、強い口調でモニターの前の机をドンと叩く!
『いかん! いかんぞ! まだ若いであろうにその身で悪の道に踏み込むとは嘆かわしい!』
「……えええ?」
思わず口をあんぐりとする音夢に構わず、ゼーロットは憤懣慷慨やるかたないかのように語調を強めた!
『悪など一時的に栄えるように見えても所詮は自らの身を滅ぼすだけのもの。今ならまだ間に合う、身を正し気持ちを改めてまっとうな道に戻るが良い!』
「………あ、あー、……そっか」
音夢はぽん、と手を叩き、察する。
ウォーゾーンたちは――自分たちが『悪』であるなどとは全くこれっぽっちも欠片も思っていないのだ。たとえ全生命体を根絶しようとしているとしても、人類を追い詰めているとしても、彼らにとってはそれが『論理的に正しく間違っていない』行動なのであり、いわば――ウォーゾーンたちは全て、「自己認識においては正義の味方」なのである! ゆえに、彼らは「悪」を憎むのだ。
立場と価値観の違いによる正義の相対化がここにある。おお、なんという社会派のリプレイであろうか!
「いやただのトンチキじゃねーかって気がするっすけどね……それはさておき」
こほん、と音夢は咳払いし、仕切り直しを試みた。
「いやーさすがゼーロット様っす! すばらしいお言葉、感服したっすよー! ボクも悪の道からはすっぱり足を洗ってまともになる決意を固めたっす!」
『おお、分かってくれたか!』
「ただそのためには……ぶっちゃけると、先立つものが必要なんっすよねー。悪事をやめるとなると、推し活のためには色々とお財布が厳しくなるんで―」
「オシカツ? オシカツとは何だ?」
『あ、聞いちゃいます? それ聞いちゃいます? じゃあ仕方ないっすね! イッツショーターイム!!』
瞬時! 七色に煌めくカクテル光線とアップテンポのアゲアゲなミュージックが場を支配した! これぞ音夢の√能力の発動だ! 面接会場だよ加減して!?
『何の何が何!?』
仰天するゼーロットをよそに音夢のオンステージが始まる! 始まっていいのかな!
「オシカツ! それは夢! オシカツ! それは希望! そしてオシカツ! それは愛!」
ビシッと指をさした音夢のそれはあたかも相手を威圧する逆圧迫面接だ!
「推すものにすべてを捧げて突っ走る! 魂の鼓動! 情熱の迸り! 命の叫び! それこそが推し活なんすよ!!! 分かりましたか!!! 分かったっすよねえ!!?? 分かれ、分かってくれ!!!!」
『人間というものは訳が分からんということは分かったわ!』
ゼーハー、とモニターの両側でお互いに息を荒げている音夢とゼーロット。何これ。
「あー、まあそんな感じで、っすね」
『そっから仕切り直すのかお前……凄い心臓だな……』
改めて口を切った音夢の前に、ゼーロットはずるずると滑り落ちるように椅子に腰を沈めた。
「おっしゃる通り、推しのためならどんなことでもできるっす。これアピールになりませんかね?」
『まあ……行動力と精神力は見上げたものだが……』
「あと狙撃と爆発物の扱いも多少」
『いやまずそっちじゃないか!? 裏切りアピールするのまずそっちじゃないかな普通!?』
ゼーロットは疲れた様子で手を振ると、もうどーでもいいや、といわんばかりに投げやりな感じで書類に合格のハンコを押すのだった。
「ちなみに交通費と前金とか出ないっすかね? 現物支給でもOKっすよ!」
『ほんといい心臓だなお前……』
「ヒャッハァァァ―!!!! 首刈るデース!! ブチ殺すデース!! 叩き殺すデース!! 斬り殺すデース!! 撃ち殺すデース!!!!」
『えっちょっなに怖っ!? ここ面接会場だよね!?』
奇声を上げながら面接室のドアをぶち破り乱入してきた|白神・真綾 《しらかみ まあや》(|首狩る白兎《ヴォーパルバニー》・h00844)の姿には、恐るべきレリギオス・オーラムの統制官ゼーロットと言えども恐れおののき、椅子の陰に隠れずにはいられない!
「ああん? お前が真綾ちゃんに何できるかって聞いたから真綾ちゃん親切に答えてやったんデース! あっこれは真綾ちゃん申し遅れました真綾ちゃんの名前は何を隠そう真綾ちゃんデース!!」
『……そりゃそうだろうな! そこまで乱発して名前が違ったらびっくりだよな!』
「それにしてもクソ頭悪そうな面接デスネェ! 真綾ちゃんスゲェ楽しみデース!」
『おい今何と』
「さあさっさと話を進めるデース! どうでもいいことにこだわって時間を無駄にするとかポンコツのやることデース!!」
冒頭からハイペースで場を乱しすかさずわが手に相手の心理を掌握して、後はずんずん相手を振り回していく! これが真綾のトークスキルだ!
技能・(会話の)「切断」。
『だ、誰がポンコツか! まあ仕方がない、では面接を進行しよう……。それがプログラムであるからやむを得ぬ』
そしておもむろに椅子に座り直し、ここからまだ再開しようとするゼーロットも大概アレだが、まあ彼はメカである以上、「面接する」と定められたプログラムは順守せざるを得ないのだ!
『名前……はもう聞いたのであったな』
「デース!」
『得意なこと……も、もう聞いたのであったな』
「デデース!!」
『あれっ意外と効率的に進行していた!?』
「真綾ちゃんまじめに就職活動してるデース!」
『全世界の真面目という名の概念に謝った方がいいと思うぞ……で、具体的には……』
「大鎌での接近戦とレイン兵器による広域レーザー殲滅、サプライズボムによるピンポイント爆破とかデスネェ」
すらすらと答える真綾。彼女の筋金入りの戦闘者としてのスキルはまさしく掛値のない本物であり、レンジや戦場を問わず臨機応変に戦い抜くことができるのだ。ゼーロットもその答えには思わず感心せざるを得ない。
『なんでもできるなお前……まともなふるまい以外のことは。ええと……では、志望した動機は何か?』
「殺すデース!! ブチ殺すデース!! 斬り殺すデース!!」
『それ最初に聞いた!?』
「だからそれが動機デース! 真綾ちゃんいっぱい殺すデース!」
うわあ。
などという表情をマシンが浮かべることができるとは、今まで誰も想定し得なかったことだろう。だが今ここに、そのシンギュラリティポイントは達成されたのだ。ゼーロットの、
うわあ。
によって。
『……『殺したい』から志望したのか? ……いやまあわかりやすいが……それ、わざわざ人間どもを裏切らないとダメな奴か? いや別に我らの敵になれと言ってるわけではないぞ、敵になどしてたまるかめんどくさい! だがそれだけが理由としては弱いような……』
「だって機械はただの鉄くずだから『壊す』とは言っても『殺す』とは言わないデスヨネエ?」
『おい今なんて』
「だから『殺す』ためにはそっち側行かないとダメなんデース! それとも、機械も『生きてる』とでもいうのデスカァ? 確かお前ら生命を全部滅ぼすのが目的デシタヨネエ。ってことはお前らは『生命』じゃないって自分で認めてるんデスヨネエ?」
『……………』
「つまりお前らは自分で認めてるんデース! ただの鉄くずだってことをデース!!」
『……………えーん』
ゼーロット泣いちゃった。
技能:(精神的)「鎧無視攻撃」。
『いやロボットが泣くか! くそっ変なペースに巻き込みおって! 腹が立つ奴だが、まあ……その殺戮本能は裏切り者として役には立つだろう………っていうか味方にするのも嫌だが敵にするのはもっと嫌だからなこいつ……』
半ば不承不承ながら、ゼーロットは真綾が純粋な戦闘者として際立った能力と、そしてそれ以上の苛烈な闘争心を有していることを認めざるを得ず、書類に「合格」のハンコを押したのだった。
……そのあとで手書きで「一応」という注意書きを付けてはいたが。
技能:「幸運」。
「運違うデース! 真綾ちゃんのジツリキデース!!」
「こんにちは! ルナリアです! おろかな人間共に代わっておろかなゼーロットさんの所に就職に来ました!」
『そうかよく来た……おろかだと!?』
モニターの向こうで語気を荒らげた恐るべき統率官ゼーロットに、ルナリア・ヴァイスヘイム(白の|魔術師《ウィッチ》/朱に染める者・h01577)はきょとん、と不思議そうな表情浮かべて首をかしげた。
「おろか? そんなこと言ってませんよ。おおらかなゼーロットさん、と言ったんですよ」
『む、そ、そうか。集音マイクの調子がおかしいようだな。確かに面接に来ていきなり喧嘩売るような奴などいるはずが』
少し黙るゼーロット。そのメモリにはこれまでに面接してきた何人もの姿が映る。
『………いるかもしれないが』
「大丈夫です安心してくださいゼーロットさん! 私、今はまだ喧嘩売りませんから!」
『そうか今はまだ……今はまだ!?』
「え、そんなこと言ってませんよ。いまだかつて、って言ったんですよ。やっぱりゼーロットさんとマイクの調子がおかしいのでは?」
『む、おかしいな。しばし待つが良い。……ここの接触か? いやこっちか?……っていうか今、ゼーロットさん「と」って言ったか?』
「「の」って言いましたよ?」
『そ、そうであったか……」
画面の向こうでなんかごそごそしながら音声回路の調整をしているゼーロットを見ながら、ルナリアはふわぁと生あくびをかみ殺す。
「馬鹿をからかってもあんまりおもしろくないですねえ」
『よし、これでマイクの調子は万全……今馬鹿って言ったか!?』
「え、まさかあ。馬鹿なんていうわけないじゃありませんか馬鹿ですねえ」
『そうであるよな、言うはずがない……言ってないか!? 今!?』
「まあそれはともかくですね」
『流すな!?』
「面接しましょう面接。ね、今はそれが大事なのでしょう?」
可憐に無邪気に問うルナリアの声に、ゼーロットも改めて座に座り直し、ルナリアも居住まいをただした。面接の再開である。
「はい、ではお名前は?」
『統率官ゼーロットです』
「何か特技はありますか?」
『新兵器を開発したりビームを撃ったりです』
「それって下っ端のモブ兵としての能力ですよね? 統率官らしい指揮能力とかないんですか? そんなことでこの先やっていけると思いますか?」
『ううっすみません圧迫面接怖い………違うだろ!!! なぜ吾輩が面接されているのだ!!!!!!!!』
「いけなーい、ルナリアうっかりです」
『そこうっかりする奴初めて見たわ!』
まあ、うっかり乗る奴が言っても説得力がないのであるが。
『いいか、吾輩が面接するのだからな! で、特技は!?』
「はい、特技は錬金術です! この世界の技術ではないのでたわけ者のゼーロットさんも見た事ないでしょう!」
『うむ確かに見たことはな……たわけ者と言わなかったか!?』
きつく問いただそうとするゼーロットに、しかしルナリアも毅然たる態度で視線を真っ直ぐに返した!
「ゼーロットさん!」
『え、はい!?』
「天丼ネタも繰り返しすぎると飽きられるんです。いつまでも馬鹿の一つ覚えみたいに擦ってるのではありませんよ!」
『すみません………いやそこ吾輩が謝るとこなのか!? あと今やっぱり馬鹿って言ったよな!!??』
「まあそれはともかく」
『流すな!?』
「私の錬金術はですね、人間でもなんでもギュッとして爆弾に変える事ができます! これでぼっかんしたい! 錬金で1級でまじかるなぼかんを!」
『今放送しているのは45期だったか……まあそれはともかく、その錬金術は機械相手でもできるものか?』
ついうっかり興味を引かれてしまったゼーロットに、ルナリアは陽だまりにたゆたう天使のような微笑みで返した。
「機械ですか? んーできますね! むしろ生物よりしやすいです! 金属を良い感じにもちょもちょするのが錬金術の始まりですから。たとえばここにいる案内係さんでちょちょいと……」
ぼかーん。
案内係は死んだ。
具体的にはルナリアの能力で爆弾化されて吹っ飛んだ。
『いやおい!?』
「まあいいじゃないですか、こんな感じです」
『お前なー! 無駄に兵を損耗させると報告書が大変なのだぞ!?』
「大丈夫です。もうすぐ報告書なんて書けねえような事態になりますプークスクス」
『そうか、ならばいいか、合格だ。いやよくねえわ!? どういう意味だ!?』
「ではよろしくお願いしますねゼーロット」
『呼び方―!!??』
「はいこんにちは、中条です。それでは聞いてください、『愛の聖輪舞』。あ、これはですね、聖輪舞と書いてせいろんど、つまり|聖輪舞《ゼーロット》と読ませるところがポイントでして」
『いきなり何が始まったのだ!?』
「ああ、あなたはいつもくるくる空回り―まるで悲しい輪舞のようね―」
面接室に入って来ながら速攻自分の世界を作り上げる! |中条・セツリ 《ちゅうじょう・刹利》(|閑話休題《それはさておき》・h02124)がエントリーだ!
「ふう。ご堪能いただけましたか」
『何満足げにやり切ったような顔をしておるか!? なんだ今のは!』
恐るべきレリギオス・オーラムの統率官ゼーロットでさえも、額のキラキラ光る汗をぬぐいながら五月の空のように晴れやかな表情を浮かべているセツリには突っ込まざるを得ないというものだ!
「申し訳ありません、偉大なる素晴らしきゼーロット様に対するこの胸のたかまりを抑えきれず、つい全身全霊全力全開で敬慕の想いを発露してしまいました」
『む? そ、そうか。いやまあ吾輩のことを尊敬するのはいいことだ、というかむしろ当然のことだがな!』
「はい、そのゼーロット様の御為に働かせていただきたいという気持ち抑えがたく志望させていただいた次第です! まことゼーロット様こそ夜空に眩く輝く星のようなお方!」
『口の上手い奴め―、えへへへ! 本当のことなど言っても世辞にはならんのだぞー。えへへへ―!』
「よっ、未来の|完全機械《インテグラル・アニムス》! よっ、未来のウォーゾーン支配者!!」
『だからやめろってー、えへへへへへ! 真面目な面接なのだからなー、えへへへへへへ―!』
なんかもうレンジでチンされたチーズみたいにとろとろのデレデレになり、胸を逸らし上機嫌になるゼーロット。この調子なら面接は上手くいきそうだ。
だがそれがセツリの深遠な計画であったか……というと特にそうでもなかった! そう、セツリは真実を述べ真心を披露したに過ぎなかったのである。モニター越しにゼーロットを見つめるセツリのまなざしは熱く、その胸中は蕩けるようにときめいていた。
(……予知だけでも相当キテル奴だったが……実際に会うとますます……この|ゼーロット《ポンコツ》が哀れ通り越して一周回って愛おしくガチ恋になってきたじゃないか……!!)
そう、セツリの魂にはゼーロットに対する深く濃い想いが確かに育まれていたのだ。彼女の胸中に燃える想いはとめどなく高原の清らかな清水が湧き出るように滔々と溢れ……。
(あー、早くこいつのカワイイ首取りたい。パーツも……あわよくばCPUあたり持ち帰って飾りたい……うふ、うふふふふ……)
清らかじゃなかった! はっはっと息を荒げ、トンだような目つきをしているセツリも大概こじらせた性癖持ちであった!
そんな彼女の思惑など知る由もなく、ゼーロットは機嫌よく話しかける。
『吾輩の良さがわかるとは、クソザコの人間にしてはなかなかの感性だな』
「ありがとうございます。実は僕、人間ではなく半妖なのです。ゆえに、人間社会に溶け込むのは得意です」
『ほほう、潜入に向いているというわけか』
「はい、いったん内部に潜り込んでしまえばあとはもうやりたい放題好き放題、しっちゃかめっちゃかというわけです!」
『確かにな! 組織内部に入り込めればあとは簡単だな! バカな奴らだからな、ははははは!』
「まったくです、おバカさんですよね、うふふふふふふふ」
あんたのトコのことだよ。
とはもちろん満足げに笑っているゼーロットにはわかりゃしないのだが。
『いいだろう、合格としてやろう、これからも吾輩のために励むが良い! 特別に吾輩のサイン入りチェキを後から送ってやってもよいぞ、ありがたく拝むのだな!』
「おお! これは望外の喜び、身に余る光栄です!」
セツリは恭しく身をかがめ、謝辞を述べる。
「ゼーロット様を心底お慕い申し上げている故に……僕はずーーっとご一緒する所存です。なにとぞよろしくお願いいたします」
セツリの表情が興奮に赤らむ。最後の最後の最後まで、ゼーロットを追い続けるという固い意志と共に。
「絶対に、最期まで……逃がさないからな?」
『ん、何か言ったか?』
「いえいえ、お礼に『愛の|聖輪舞《ゼーロット》』の続きでもお耳に入れようかと……百番まで作ってありますが」
『………それはいいや』
「面接、か……あんまりしてこなかった分野だな……」
面接室のドアの前に立ち、|戌神・光次 《いぬがみ・こうじ》(|自由人《リベロ》・h00190)は、これまでのスポーツマンとしての人生に縁が少なかった事態に際し、多少困惑していた。とはいえ、困難に直面しては切り抜けていくのがフィールド上での彼の役割、それと大して違いはないともいえる!
「まあ、相手あんなんだしな。大丈夫だろ。だが、……必要以上に臆する必要もないが、舐めて掛かるわけにもいくまい。ここは一つイメージトレーニングと行くか」
ドアの前でおもむろに心を静め精神を統一し、光次は瞑想に耽る……。
「えーっと、まずこうだな、名前を名乗った後、『スポーツマンだったので体力はあるのと、団体行動での指揮管理とかは得意です。信用を得ることも上手くできると思います』……」
では動機を尋ねられたらどうする? と光次は考えを進めていく。
「そうだな……まあシンプルにカネでいいか。少年クラブの運営に金がかかるのも確かだし。あと休日も多いからクラブの指導にも時間が取れるしな……」
相手はゼーロットだ。そこで、「しょせんはクソザコ人間」などの罵倒を飛ばしてくるかもしれない。しかし光次は動じないはずだ。
「何を言われても、アウェーでの相手サポーターからのヤジのようなもの、いちいちそんなことで精神を乱していてはサッカー選手はやっていられないからな。……だが。待てよ?」
そこで思慮深い光次のイメージはもう一つの可能性を考慮する!
「もし、ヤツが……『何だただの玉転がしではないか』など、サッカーそのものを侮辱する言葉を吐いてきたとしたら?」
それは由々しき問題だ。アウェーでの相手サポータ-と言えどもサッカーそのものを愛する気持ちには変わりなく、ゆえにサッカーそのものを侮蔑するような言葉は口にしない。しかし冷血機械のウォーゾーンならば平気でそんな侮辱をしてくるかもしれぬ。その時、光次は誇り高きサッカー選手としての怒りを抑えられるか!?
「いや、考えを切り替えるのだ」
おお、見事! 光次は素早く感情をスイッチした!
「もし奴がそんな言葉を吐いてきたなら、それは奴がサッカーを知らんということだ。そして、サッカーを知らん相手なら……サッカーを教えることができる!」
なんたる大胆な戦術転換か! 熱血サッカー教えマシーンとしての光次にギアが入る!
「こういう感じだな、ええと……『ゼーロット様はサッカーをご存じないようです。視界サッカーこそは個人としてのパワー、スピード、バランス、瞬時の判断と、集団としての戦術、臨機応変な対応の双方を鍛え上げることのできる高度にタクティカルなスポーツなのです。もしゼーロット様の軍がサッカーを訓練に取り入れたなら、他の|派閥《レリギオス》より間違いなく戦力が向上することでしょう!』 ……よし、我ながら説得力がある!」
そこでぐっ、と光次は拳を握り締め、さらなる追撃を決めるだろう!
「『今ならわがクラブのメインスポンサーとしてゼーロット様のお名前をユニホームに記載することもできます! いえ、なんならスタジアムの命名権すら入手可能! いかがです、ゼーロットスタジアムというのは! 世界中のサッカー人口が閣下の名を呼び讃えることでしょう!』 うむ、これこそまさに決定的だな! これなら合格できるだろう。っていうか俺自身少し本気で羨ましくなってきたな……」
よし、と光次は頷くと、さらに次の展開をも睨んで予想を進めた。
「で、潜入に成功したら……直接ゼーロットを狙いに行くべきだな。星詠みの評価は散々だが一応敵のボスではある。油断せずに仲間と合流してから攻撃に入るか……」
光次は瞑目したままゼーロットとの対決を脳裏に描く。決め技はインビジブルボールを使ってのハウンドショット、彼の得意技で行くか!
光次はすべてのイメトレを完了すると、クワッと閉じていた隻眼を開いた。準備は完了、これなら問題はないはずだ。
気力満点で彼はドアを開ける! 勝利への栄光の扉を!
「失礼いたします。裏切り希望、戌神・光次、入ります!」
『ちょっと遅刻じゃないかお前?』
「………イメトレ長すぎたか……まあアディショナルタイムということでひとつ」
戌神・光次、なんとか合格!
第2章 冒険 『戦闘機械とのカーチェイス』

かくして√能力者たちはレリギオス・オーラムへの潜入に見事成功した!
このまま一気に統率官・ゼーロットを狙いに行くべきだろう。
だが、ゼーロットの本陣前にはさすがに護衛部隊が配置されている。これを突破しなければならぬ。無論、単に敵を倒すだけなら簡単だろうが、あまり時間がかかってしまったり、あるいは一機でも逃してしまったりしたら、ゼーロットにこの奇襲を通報されてしまう恐れがある! スピード勝負だ!
具体例にはあまりこだわらずこの状況を切り抜けてほしい。
真正面から速攻で、通報される前に一機も逃さず全滅させる、というのが一番シンプルな方法だろう。
また、ただ速さだけで挑むのではなく、ジャミングなどで本陣への報告を阻害するという手段もあるだろう。もしくはこの状況を利用し……「私がゼーロット様に奇襲を報告に行きます!」などと、堂々と敵陣を通り抜けたりするのもありうる手かもしれない!
「止まれ! そこに来るのは何者だ!?」
厳重にして綿密な警備を敷く護衛部隊の戦闘機械たちから鋭い誰何が飛ぶ。その合成音の先には、緊迫した現場とはおよそそぐわぬ、可憐な少女の姿があった。
「どうもー。新しく入りましたルナリアです。あれ? オーロッカさんから聞いてませんか?」
のほほん、とした調子で右手を上げ、愛想よく挨拶したルナリア・ヴァイスヘイム(白の|魔術師《ウィッチ》/朱に染める者・h01577)の姿に、護衛ウォーゾーンたちはセンサーアイを見合わせた。
「ゼーロット様から?」
「ああ、そう言えばなんか、人間の裏切り者を雇うのに成功したとかいうお達しが回って来てたな……そうか、お前か」
「はい、オーロッカさんに面接してもらって合格しました」
「そうかー、ゼーロット様になー」
「……はい、オーロッカ様に」
「さすがゼーロット様、仕事が早いな!」
「………相手がここまでポンコツだとボケに気づけさえもしないのムカつきますねぇ☆」
キュートな額に一本青筋をピクつかせつつ、ルナリアはにっこりと微笑という名のイラつきフェイスで戦闘機械どもを睨みつけた。
「ん、どうかしたか?」
「いいえ別にー。一日も早く皆さんのような素敵なレリギオスのメンバーになれるように頑張ります!」
愛想を振りまくルナリアに、護衛WZ達も機嫌よさげにセンサーアイを明滅させた。
「おお、いい心掛けだな! 新人の内はわからないことだらけだろうが、遠慮なく色々聞いてくれていいぞ!」
「あ、じゃあ、せっかくですからレリギオス・オーラムを色々案内してもらっていいですか?」
胸の前で愛らしく手を組み、ルナリアはWZたちに尋ねる。
「うむ、熱心だな! どういうところが知りたいのだ?」
「そうですねえ」
無垢にして純心、悪意など一切感じさせない微笑みで、ルナリアは言葉を継いだ。
「エネルギー反応炉とか、セキュリティステーションとか、警戒装置の制御室とか、武器庫や火薬庫とか、そういう重要で危険で、もし何かあると一発でベースが吹っ飛んじゃうようなヤバいところを知っておきたいなって。もちろんゼーロット様の御座所もです! 敵の能力者には「|爆弾魔《ボマー》」なんてのがいるらしいですよ。そんな敵から守らないといけませんからね!」
「なるほど、目の付け所がいいな!! いいとも、こっちだ! ここが反応炉! ここが火薬庫! 敵に入り込まれないようにな!」
「……わーいこのポンコツども! 多少反応してもらわないとこっちがスベってるみたいなんですけど!」
素直に案内してくれる護衛WZたちの背中を蹴飛ばしそうな勢いでついていきながら、ルナリアは各ポイントに丁寧に置き土産を置いていく。
「む、それは何だ?」
不思議そうに尋ねるWZに、ルナリアは楽しげに答えた。
「基地にも彩りがあったほうがいいかなって思いまして、インテリアを」
「ほほう、なかなか前衛的な芸術だな。丸くて大きくて、端から縄が伸びているとは珍しい。うむ、基地が華やかになるな!」
「………知りたくありませんでした。あのゼーロットが、あれでもまだマシな部類だったなんて」
どっからどう見てもマンガに出てくるようなでけえ爆弾だよねそれっていうインテリアを設置しつつ、ルナリアはふう、と悲しげな吐息をつくのだった。
「そしてだな、ここがゼーロット様の御座所前となる。しっかりとお守りするのだぞ」
とりわけ厳重な一室の前に案内されたルナリアは、深々と頭を下げて礼をした。
「わざわざありがとうございました。んじゃもうお前らは用なしなんで……えいっ錬金!まとめて爆弾になっちゃえ!」
その瞬間、ルナリアの√能力が発動! 敵の組成を組み替える恐るべき『|変身魔法と物を飛ばす魔法の組合せ《レンキンジュツトウゴカスマホウノオウヨウ》』だ!
その神秘なる力の発動を受けたWZたちは見る間にシステムを書き換えられ、パーツが変形し、その姿と本質を歪められていく。おお、そこに現れていくものは……何たることか、爆弾だ! ルナリアは護衛WZたちを丸ごと爆弾へと組み変えてしまったのだ!
「こ、これはーっ!?」
動揺し仰天しつつも何もできずに爆弾に変えられていくWZたちに、ルナリアは告げる。
「言ったでしょう、|爆弾魔《ボマー》ってのがいるって。つまり……」
「自分自身が爆弾になった……つまり……俺たちが爆弾魔だったのか! し、知らなかった―!!!」
断末魔の叫びをあげて爆弾化したWZたちをゼーロットの部屋まわりによっこらせと設置しつつ、ルナリアは、むむー、と唇を尖らせるのだった。
「………最後までボケを踏み倒しやがりましたねこのポンコツども……」
「あぶないですよー?」
どーん。
のんびりと顔を出した|椿之原・一彦 《つばきのはら・かずひこ》(椿之原・希のAnkerの兄・h01031)の声より早く、数体の護衛ウォーゾーンはお星さまの彼方にきらりんとブッ飛ばされていた。一彦が運転席に座るその偉大なる鋼の守護者こそは、すなわちでっけえバンたる移動病院「撃滅王」に他ならない!
「いや跳ねてから言うな!? 何なのだお前はー!?」
辛うじて半壊で済んだ生き残りのウォーゾーンがセンサーアイにウオッシュ液を滲ませながら抗議する。
「何と言われましてもこういうものですが」
一彦は撃滅王のダッシュボードからごそごそと一枚の紙を取り出した。その紙面にはデカデカとプリントされた文字が!
『このクソザコ人間はさっき裏切り者として雇ったヤツなので色々いい感じにしろ。吾輩』
「……まあ正直私もこれが公式文書だってプリントされて出てきたときは我が目を疑いましたけれどね。だいたい「さっき」って何ですか「さっき」って。「色々い感じにしろ」ってそれはどんな内容の指示なんですか。「吾輩」ってそれは自書のつもりですか。日時も主題も名前もはっきり書いていない書類にどんな公的効果がですね」
「おお、これはまさしくゼーロット様の公文書ではないか!」
「…………なんでそれでわかるんですかあなたたちも」
一彦は思わず脱力しハンドルの真ん中に突っ伏した。そうですよねー、と相槌を打つかのように、ぱぷーと撃滅王のクラクションが鳴る。だがそんな一彦のことなど構わずに戦闘機械たちは頷いている。
「なんでって、こんな雑な公文書出すのはゼーロット様くらいしかいないだろう、あんまり」
「あんまりって何ですかそこはせめて断言してくれませんか。他にこのレベルの人がまだいるかもしれないんですか。大丈夫ですかこの世界」
「まあそれはともかくだ」
「ともかくなんですかねえ……!」
今度は天を仰ぐ一彦。といっても撃滅王のルーフの天井が見えるだけではあったが。
「ともかくだ、裏切り者なのはわかったが、その裏切り者のお前が、何をあんな危険運転をしているのだ! 『自動車を運転する時はウォーゾーンを跳ねないように注意しなければならない』と免許試験で問題を出されなかったのか!」
「答えは×ですね。ウォーゾーン以外も跳ねてはいけないからです。いえ、そんな話をしている場合ではありませんでした。実は」
と、一彦は切羽詰まった様子で話を継いだ。
「実はゼーロット閣下に直接お伝えしなければならない重要にして重大な情報を入手したのです! そのため、つい気が焦ってしまい……」
「何、重大情報!? それは一体!?」
ぷしゅー、と、興奮した様子でエアダクトから勢いよく排気する戦闘機械。しかしもちろんここは上手くごまかさなければならない!
「いえ、極秘情報ですので、直接ゼーロット閣下にお伝えしませんと……」
「かもしれぬが、その内容を多少でも話してもらいたい!」
「閣下にお伝えする前に情報の確度をチェックするというわけですか……さすが護衛部隊、セキュリティは厳重ですね」
「いや単に我らが興味あるからってだけだが」
「…………ええいこのポンコツども!」
ぶすっ。
半分ブチ切れながら一彦は風のような速さでウォーゾーンの首筋に手を閃かせた! その指先に光る冷たき輝きは電脳介入ツール「真魚」!
「ががぴー!?」
戦闘機械はBEEP音を上げてがくがくと体をこわばらせフリーズする! 本来は医療用とはいえ、このようにめんどくせえウォーゾーンを黙らせるのにも使える優れものだ!
「これでよし。ふむ、ついでにゼーロットへの道筋の情報も手に入れましたね」
一彦は満足げに頷くと、後部座席を振り返る。
そこには、同じくレリギオス・オーラムに潜入を試みる他の√能力者たちが息をひそめて乗り込んでいたのだ。
「少々荷物が多いですが、狭くはないですか? 皆さんにばかり仕事を押し付けるわけにはいきませんからね。このバンで行けるところまではお送りしますよ。……けが人が出たら私の独壇場になるとは思うのですが、そうはならないことを祈ります」
親指を立てて激励する能力者たちに自らも応じると、一彦は天下御免のゼーロット公文書をフロントガラスに張り付け、再び撃滅王のアクセルを強く踏み込むのだった。
「はいはーい、そこもあぶなーい。跳ねますよー? どんどん跳ねていきますよー?」
どーん! どんどーん!
ボコジャカと機械群を跳ね飛ばしながら。
問題。ウォーゾーンを跳ねますよと言って跳ねてはいけないか。
「答えは×ですね。敵のウォーゾーンなんて、跳ねますよと言わなくてもいくら跳ねてもいいですから」
東に潜入する者ありとせば、西に殴り込むものあり!
「さーて、ここからは派手に暴れるターンっすね!」
|深見・音夢 《ふかみ・ねむ》(星灯りに手が届かなくても・h00525)はわくわくと腕をさすりながら並み居る護衛戦闘機械群を睨みつけた。黄金の瞳が興奮にギラリと煌めく!
「行くっすよ……前金よこせ―!!!!」
「えっ何!?」
戦闘機械群はいきなり訳の分からないことをわめきながらダッシュしてきた謎の人間という異様な光景に一瞬AIがフリーズ! これだから機械というものは融通が利かなくて困る! いや人間でも固まってただろうけど!
「おらぁ! イベント参加費よこせ-!!」
だが音夢にとってはまさに千載一遇の好機だ。すかさず彼女は二丁の魔銃を振りかざし、フルオートで弾丸をばらまき始める!
その弾丸は煌めく紫電を宿した天空からの洗礼、降臨する天罰そのものともいうべき『|雷霆万鈞《エレメンタルバレット》』だ! 弾着すると同時、大地に沿って走る凄絶なる雷撃は大気を焦がし虚空をつんざき、怒りに満ちた竜の狂奔のごとく、戦闘機械たちをまとめて薙ぎ倒していく!
だがしかし、ウォーゾーンたちにとっては何が何やらわからない。
「待て貴様、一体何者だ!? イベント参加費ってなんだ!?」
「昨今は参加費も高騰して結構きついっすよ! 世知辛い世の中っすよねえ! オラァ憂さ晴らしの八つ当たりを喰らええええ!!!!」
「いやそんなの我らには関係な……八つ当たりって思いっきり言ってるー!!??」
どかーんどかーん。
燃え上がる音夢の怒りと悲しみは際限なく膨らみ、世のすべてのオタクたちの怨念と慟哭を飲み込んで天へと届かんばかりだ! 激情のままに音夢は雷撃弾を乱射! 乱撃!!
「コス用の生地も! 小道具用の製作費も! 何よりグッズ購入費も! どんだけあっても足りねえんすよカネがー!!! カネよこせ―!!!!」
「ただの強盗だこれー!? 訳が分からんが、とにかく敵なら殲滅するまでだぞ!!」
だがさすがに護衛隊を任されたウォーゾーンはそれなりに精鋭が揃っている! 戦端が開かれた当初の混乱を何とか立て直し、音夢を迎撃に掛かろうとする。だがそのタイミングで!
「ええい控えい! 控えおろうっす! このお墨付きが目に入らないっすか!!」
音夢は懐からババーンと取り出したものをウォーゾーンたちに付きつけた!
「何っ、それは! ……イベント申込書?」
「あ、間違えたっす、こっちっす。その目でしかと見よ!」
音夢がTAKE2で取り出したものこそ、彼女を正式な裏切り者として認めたゼーロットの認可書であったのだ! 正式な裏切り者って何だよ!
「おお、それはまさしくゼーロット様の……ではお前が雇われたという裏切り者か。だがそれが何故我らを攻撃するのだ! まさか裏切ったのか!」
「だから裏切ったって言ってるじゃないっすか!」
「いやそうではなく、裏切り者のはずのお前が裏切ったのかっていう意味で!」
「だからボクは裏切り者なんすよー、わかんねー人たちっすねー!」
「違うって! 裏切り者が裏切り者で……ええい裏切りがゲシュタルト崩壊してきたではないか!」
むきー、とバッテリーを過熱させ頭から湯気を出す戦闘機械に、仕方ないなー、と音夢は肩を竦め、やれやれといった上から目線で吐息をついて見せる。
「いいっすか? ボクのこの技は、敵を攻撃し、味方は強化するんす」
「ふむふむ」
「ということは、今吹っ飛んだ奴は敵のスパイってことになるじゃないっすか。だって味方なら強化されるだけのはずなんすからねえ」
「あれ? そうなん? え、でも、結構一杯やられたぞ?」
「じゃあいっぱい敵が潜んでいたんすよ。いやあ怖いっすねえ。ということで」
ジャキッ、と瞬時のためらいもなく、音夢はウォーゾーンに銃口を向けた!
「な、なにをする!?」
「WZさんが味方かどうか確かめさせてもらうだけっす。なに大丈夫、味方なら強くなるだけっすからね!」
「そ、そうか、なら安心……」
ばきゅーん。
「ぐわああああ!!!!???? な、なぜえええええ!!!???」
案に相違し、烈しい電撃にバチバチに回路をショートさせぶっ倒れた戦闘機械に、音夢は悲しい目を向けるのだった。
「残念っす。WZさん、さては……ゼーロット様の悪口をどっかで言ってたっすね? それは裏切りっす!」
「そ、それは……そりゃ言うだろ、あの人の部下ならさあ……がくっ」
動かなくなったウォーゾーンを見つめ、ふむ、と音夢は頷く。
「この手、ここの全員に使えるっすね? だって上司がゼーロットっすもんねえ」
「……つまり、敵にバレずにゼーロットまで辿り着けば、方法は問わない訳だな?」
|戌神・光次 《いぬがみ・こうじ》(|自由人《リベロ》・h00190)は敵軍の状況を鋭い隻眼で睥睨しながら胸中で呟く。
敵陣を真正面から突破するのも、もちろん不可能ではない。かつてサッカー選手としての現役時代には、いまだに語り継がれる伝説の5人抜きと言われた神技を演じてみせたこともあるほどだ。その磨き上げられた体術と緩急をつけた華麗なる芸術的フットワークに、敵ウォーゾーンたちはついてこれまい。
だが、今回の最終目的はあくまでも統率官ゼーロット。その本来の戦いの前に体力を消耗するのは避けておいた方がいいだろう、と光次は冷静沈着に判断を下す。
「ま、それなら難しい事は無いな。……そもそも」
と、光次はチラリと周辺を見回した。そこには。
『うわあああ右翼陣になんか野生の暴れバスが!』
『左翼陣にはなんか局所的な雷が!?』
『本陣と連絡がつかん!爆弾がどうとかいう連絡があったきりだ!』
オーバーヒート寸前まで慌てふためき、あっちへ走りこっちへ駆け出す機械群たちという、何だかものすごい勢いの地獄絵図が展開されていた。
無論、それは他の√能力者たちの戦闘によるものであった。あちらこちらで彼らがでたらめに同時多発的に一斉に暴れ出すものだから、当然敵陣は混乱の極に達しており、周辺を警戒するどころの話ではなかったのだ。なんて迷惑なんだ√能力者!
「この様子ではな……」
とことこ。と、別に走るでも急ぐでもなく、光次は平然と右往左往する敵機たちの間を歩いて横断し……何一つ問題を起こすことなく平気で本陣までたどり着いたのだった。
……だが。
そのまま本陣に入り込んでしまおうとして……光次は黙りこむ。
しばし考えた後、彼はおもむろにごそごそとポケットから白銀に輝くホイッスルを取り出すと――
ぴぴ―!!!!!!!!!!!!!!!!!
思いっきりの大音量でホイッスルを吹き鳴らしたのだ!
これにはさすがにバタバタと我を忘れ駆け巡っていたウォーゾーンたちもはっと我を取り戻し、一斉に光次を注目せざるを得ない!
そんな機械たちに、光次はびしっと指をさし、鋭い声で叱咤を飛ばした!
「お前たち! あまりにも視野が狭すぎるぞ!」
『えっ何の何が何!?』『我らは何を怒られているのだ!?』
動転してセンサーアイをぱちくりと瞬かせるウォーゾーンたちに、光次は重ねて声を飛ばす。
「いくら動転していると言っても、フィールド全体に意識を向けず局所的な視野しか持たないから、こうやって俺にやすやすと中央突破されてしまうのだ。もっと全体の動きを意識し、いま誰がどのポジションにいてどう動くか、その俯瞰の意識を持たねばならん!」
『アッハイ……え、何が!?』
「分かったらもう一度やり直しだ!」
『どういうこと!?』
おお、なんたることか! 光次はせっかく突破した敵陣をわざわざ後戻りし、スタート地点まで引き返してしまったではないか! これぞ光次のサッカー野郎たる情熱の発露だ。あまりにも隙だらけ穴だらけで戦術的に不出来なウォーゾーンたちの様子を、敵とはいえ光次は黙って見過ごすことはできなかったのだ!
「いくぞ、まず俺がこう正面からお前たちを抜こうとするから、それをディフェンスだ。一か所に固まるんじゃないぞ、次に俺がどう動くかを予測し、残りの人数はそのポイントを塞いでおくのも大事だ。わかったな! わかったら返事!!」
『は、はいコーチ!』
コーチになっちゃったよ。
「よし!! しかしもちろん俺は臨機応変に動きを変えるぞ、例えばこうやって右に動く…と見せてバックからボールを回して左へ、フェイントを混ぜて相手のタイミングを狂わせ、股を抜き、こうかわす!」
『な、なんたる変幻自在の動きだ、ついて行けぬ!? 皆の者、コーチを止めるのだ!』
『任せろ、うおおおおおお!!!』『とりゃああああ!!!』
「まだまだ! 俺の動きに釣られ過ぎだぞ! そこで……こうだ!」
ウォーマシンたちの視線が光次に集まった次の一瞬、彼の姿が忽然とフィールド上からかき消えてしまったではないか! これぞすべての光を奪い闇に溶け込む光次の能力、『ゴーストステップ』に他ならない!
『えっそれってアリなのか!?』
「アリだ! サッカーの可能性を狭い範囲に決めつけるな! とうっ!!!」
呆然となったウォーゾーンたちの背後に回り込んだ光次は、凄絶に虚空を引き裂く勢いで不可視の球を蹴り出した! 風を哭かせて嵐を巻き起こしたインビジブルボールは、まとめてウォーゾーンたちに命中し、天空高く吹き飛ばす!
「さらばだ。だが、たとえひと時でもお前たちとサッカーを共にすることができたじゃないか。これがサッカーの魅力なんだ。それをわかってほしい」
フィールドに倒れ込む機械たちに言葉を残し、光次は次の戦場へと進むのだった。
『……いや我ら、いつの間にサッカーやることになっていたのだ?……がくり』
「真綾ちゃん割と困っているデース」
|白神・真綾 《しらかみ まあや》(|首狩る白兎《ヴォーパルバニー》・h00844)はとことこと歩きながらつぶやいた。傍らを歩くウォーゾーンはその声に、どうしたことかと首をかしげ、顔のモニターに「?」を表示する。
『む、何かあったのか? 話してみるとよい、我はこのレリギオス・オーラムに置いてお前の頼れる先輩なのだからな!』
そう、無事にゼーロットの厳しい面接を通った真綾はすんなりとレリギオス・オーラムのベースへと入り込むことに成功していたのだ。
「じつは真綾ちゃんにはやりたいことがあるデース。とてもとてもやりたいのデース」
『ならばやればよかろう。何をためらう?』
ウォーゾーンはモニターに『Go!Go!』と表示し、真綾を励ますようにぐっと|拳《マニュピレーター》を握った。
そんなウォーゾーンパイセンに、真綾も決意したように顔を上げた。
「実は……実は真綾ちゃん、ゴミ掃除がしたいのデース!!」
『む、いいことではないか! どんどんやるが良い!』
モニターに『CLEAN』と表示させ、ウォーゾーンは感心したように頷く。しかし。
「やろうと思えばすぐできるデスガ……多分やりがいがないデース。すぐ終わってしまうので、今やってもぜんぜん充実しないと思われるのデース」
真綾の言葉に、ウォーゾーンパイセンは首を振って「No!」と表示する。
『それは間違っているな。掃除というのは何も貯めてから一気にやるものではない。ほんの少しのゴミ、埃、そう言ったものをちょっと見つけた時に手軽に気軽に片付ける、それだけでいいのだ。それが積み重なって環境がきれいになるのだ』
「ふむ、お前なかなかいいこと言うデスネェ」
『ふふふ、先輩だからな!』
胸を張ったウォーゾーンの、『RESPECT』と表示されたモニターに、その刹那。
びたーん!
と、真綾は風のように懐から抜き出した何かを張り付けた。おお、それこそはゼーロット謹製の裏切りもの合格通知書だ!
「WHAT?」
ウォーゾーンのモニターにその文字列が表示されるよりも早く――。
「じゃあ真綾ちゃん、いわれたとおりに……見つけたヤツからちゃっちゃとゴミ掃除するデース!! そのつまんねえ|通知書《ゴミ》も一緒にデスネェ、ヒャーハハハハ!!!!!」
光さえ欺く一颯の刃風が唸りを上げて虚空に舞った!
次の瞬間、おお! ウォーゾーンパイセンの頭部は合格通知書を張り付けたまま、熱したナイフでバターを斬り裂くがごとくに両断されていたではないか! 真綾の繊手に輝くものは、彼女の華奢で小さな体には似合わぬ巨大なる兇悪な大鎌だ!
周辺のウォーゾーンたちが動転し慌てふためくよりも早く、真綾は大鎌を振り回し、ウォーゾーンたち鋼のボディを真っ向微塵と斬り裂き、砕き、貫いていく!
「ヒャーハハハハ! 真綾ちゃん綺麗好きデース!! お掃除お掃除デース!!!」
刃が一閃するたびに一瞬前までウォーゾーンだったものが固い音を立ててあたり一面に転がる! 何たる情け容赦なき皆殺しゾーンか!
その騒音を聞きつけ、ベースの各所から一斉に警備兵たちが集まってくる。しかし有象無象がいくら集まろうとも、いたずらに真綾の血を騒がせ燃えがらせるのみにすぎない。
「一匹残らずスクラップにしてやるデース! 光の雨に消えろデース!『|驟雨の輝蛇《スコールブライトバイパー》』!!!」
真綾の声が響き渡ったとき、虚空一面を埋め尽くした微小なる破壊のもたらし手、すなわちレイン砲台が轟然と戦火を放った! 眩く煌めいて降り注ぐ死の雨は瞬時に視界を輝きの中に封じ込め、あらゆる存在を穿ち抜き燃え上がらせ崩壊させていく!
ほんの僅かな静寂の後、そこに転がっていたのは無惨なる鉄屑の山に過ぎなかった。
「手間かけると|本命《ゼーロット》に逃げられそうだから手早く行くことにしたデスガ……やっぱり、時短のためとはいえ流石に味気ねぇデスネェ。準備運動にもならねぇデース。ゴミ掃除にはなったデスケド」
『ご、ゴミ掃除だと……かえって散らかしただけではないか……』
「ん-?」
モニターニ「LIAR」と表示させつつ機能停止寸前のウォーゾーンの頭をとどめに蹴り飛ばしながら、真綾はケラケラと声を上げた。
「何言ってんデース。真綾ちゃん嘘つかないデース。だってこのレリギオス・オーラムとやらが、最初から……でっけえゴミ溜め以外の何物でもないんデスカラネェ!」
哄笑し、真綾は鎌を引っさげながら歩み去る。
「こうなったらゼーロットには存分に楽しませてもらわねぇとデスネェ……!」
「いやあゼーロット様は可愛いね……可愛い、思ったより可愛かった……」
とろんと溶けたような目つきで|中条・セツリ 《ちゅうじょう・刹利》(|閑話休題《それはさておき》・h02124)は歩みを進める。すべては可愛い可愛いゼーロットに逢うために。
その想い、まさしく愛と呼ぶ以外にない。そう、「愛」以外にその魂の脈動と心の慟哭を呼びうる語彙が日本語には、いや人間の言語にはおよそ存在し得ないと言ってもいいだろう、困ったことに!
「はあ……もう全部溶かしてインゴットにしてお部屋に飾りたい可愛さだった……朝、かわいい小鳥のゲゲゲエエエという可憐な鳴き声と共に目覚めた僕は寝室に飾ってあるゼーロット様の断末魔に歪んだ状態で引きちぎった頭部をちょんと指でつついて挨拶をするんだ、おはようゼーロット様、今日もドヤ顔でイキった挙句スクラップにされたあなたが無様で惨めで最高です。これこそLoveああLove実際Love」
……ほら今は多様性の時代だから。愛にはいろんな表現があってもいいから。ね?
しかしそんなキュンキュンな乙女の夢トークに対し、不満そうにごろろおがああと唸り声を上げたものがあった。セツリの下から。そう、彼女が騎乗する可愛いマスコットの挙げた声であった。
「ああポチ太郎、心配しないで。君ももちろん可愛い。ゼーロット様の可愛いと君の可愛いは両立するからさ。だって愛は無限だから! 愛は限界を超えて広がり世界を包むものだから!」
そうか何言ってんだ。
だがポチ太郎はそのセツリの言葉に一応納得したように、ぐるうがぁるるるると可憐な鳴き声を漏らす。棺桶の奥から光る眼が少しだけ和らいだかのように増えた。
読者諸氏におかれては別に驚くに値しないと申し上げておこう、何故ならば、ポチ太郎は無数の手足で這いずり歩く棺桶であるのだから。その奥に何が眠って……封じられているのかは、まあどうでもいいではないか。時々うぎゅおおおおあああああとか魂が軋み精神が擦り切れそうな声で鳴くけど。
「さてポチ太郎。可愛いゼーロット様の首を刈るという、僕のちっちゃくささやかな甘酸っぱい|夢と希望《野望》を叶えるには障害物が多すぎるらしいね。味方の皆さんが頭脳戦やら何やらを担当してくれるとのことだし……ここは僕と一緒に破壊に回ろうじゃあないか」
げぎゃああはあ、と尻尾を……いや棺桶からはみでた手をぶんぶん振って、ポチ太郎はご主人に賛意を示す。
「よおし、しばらく君にも散歩させてあげていなかったしね。いいドッグランじゃないか、突っ込めポチ太郎―!」
かくして棺桶は無数の手足で地獄の底から這いずり出るように走り出す! とんだドッグランだよ!
『うわああなんだあの訳わからないモノは!?』『か、棺桶!? いやオバケだー!?』
レリギオス・オーラムの護衛機械群たちも思わず恐慌に陥っても無理はないという光景だ!
「さあ進め可愛いゼーロット様の元へ力の限り! 僕の愛の証が真っ赤に燃えて彼の装甲をドロドロのぐっちゃぐっちゃに溶かし尽くすまで! 鮮やかに迸る情熱が彼のシステムを滅茶苦茶のしっちゃかめっちゃかに焼き焦がすまで! そして僕はそんな彼の亡骸の上に一筋の涙をこぼすんだ、ああ可愛いってね!」
『うわあああ棺桶の上に乗ってるやつの方がもっと訳が分からねえ!!』
まったくだよ。
だがそんなウォーゾーンたちの阿鼻叫喚など知ったことかと言わんばかりに、セツリは愛に満ちた武器を身構える。そう、愛と言えばこれしかない、火炎放射器だ! どこがだ!
「さあ受け止めておくれ僕の愛!『|文明っていいな《イキノネトメテサシアゲル》』!!」
轟爆! 放たれた焔は天をも焦がすほどに燃え盛り、あたかも獲物を喰らう魔神の舌のごとく真紅の地獄をもたらして周辺一帯を破滅の中に叩き込んでいく!
さらに、レリギオス・オーラムには既に潜入していた他の能力者の仕掛けた爆弾がそこら中に仕掛けられていたのだ! なんてひでえ連携なんだ! 当然のごとく天地を貫くような大爆発がそこら中で巻き起こる!
「えっなんで逃げるのさ。受け止めてってば。受け止めろよおい」
もう一射! さらにもう一射! 続けざまに放たれる爆炎は群れなす鋼の機械たちすらも容赦なく灰燼へと化し大地を覆う鉛色の海に変じせしめていく!
『いや受け止められるわけないだろ!?』
「そうか、残念だ……マシンに愛は理解できないのか……いや、そんなことはないはずだ。絶望するな、僕! 愛の力を信じるんだ! きっとゼーロット様なら、ゼーロット様ならこの愛を受け止めてくれるはず!!!」
目を希望に輝かせ、セツリは燃え広がる一面の炎の海の中で高らかに叫ぶのだった。
「今行くよー、待っててねゼーロット様―! 僕の愛をブッ叩きつけてやるからなー!!」
愛はブッ叩きつけるようなものではない。たぶん。
「よいしょ、よいしょ……他の『裏切り者』の皆様も、無事入り込めたようですね……」
騒然となり始めたレリギオス・オーラム内の様子を鋭い聴覚で感じ取り、|古出水・潤《こいずみ ︎︎ ︎︎うる》(夜辺・h01309)は事態が進展し、新たなステージに向かいつつあることを理解した。
……なんだか一生懸命よいしょよいしょと力を入れながら。
「そうと決まれば善は急げと申します。可及的速やかにあの阿呆――失礼、どんな時でも礼儀正しくしませんと……あの阿呆閣下を|破壊《あんさつ》しに伺いましょう……よいしょ」
言い直した意味なくない?
「……阿呆の一言で誰のことか皆さん一瞬で理解できるのいいですよね。さて、狩りはいかに獲物に悟られぬうちに距離を詰めるかが肝心なところ、とすれば……よいしょっと!」
潤は改めて腕に力を入れる。そう、彼は山盛りの荷物を抱え、今堂々と隠れることなくベース内部を進行中なのであった。
『むっ、そこに行くのは何者だ!? そこで何をしている!?』
無論、いかに機械兵たちが慌てていても、そんな潤を放っておくわけはない。すぐさまに三々五々と集結し、センサーライトを光らせながら鋭い誰何の声を飛ばしてきた。
『……っていうかお前背中に何か紙が張ってあるぞ? 誰かにいたずらされたのか? いじめを受けているのではないか? ちゃんと周りの人に相談した方がいいぞ?』
「ああいえ、私はゼーロット閣下にお認め頂きました裏切り者でして……背中に貼ってあるのは裏切り証明書です。手に持つ余裕がないものですから」
然り、潤は戦闘機械兵に呼び止められた時のことを考え、抜かりなく背中に裏切り証明書を添付していた!これなら大荷物があっても全く問題ないというすばらしきさくせんだ!
『……まあいいが、それでそんなに大量に、何を運んでいるのだ』
「はい、書類と……それから新参者の礼儀としまして、皆様にお土産をと思いまして」
『なに、土産だと? よい心掛けだが、我らに相応しいものが用意できたのか?』
潤を取り囲むウォーゾーンたちに、彼は手に持った荷物を開けて見せた。
「は、これです。高エネルギー結晶をペースト状に練り込み|イエローケーキ《ウラン鉱石》でコーティングして超高温反応炉で焼き上げたお土産です」
『ほほう……』
と、ウォーゾーンたちは口々に興味深げにその土産を取り上げる。ああだが、誰ぞ知らん、それがおそるべき破局の先駆けであったとは!
『これはオーバン・エネルギーではないか、我の好物だ』
『何、オーバン・エネルギー? お前は何を言っているのだ、これはイマガーワ・エネルギーであろう』
『お前たちはどこのレリギオン出身だ? 田舎ものどもめ。これはカイテン・エネルギーと呼ぶのが正しいのだ』
『でたらめを言うな、これはモチョーチョ・エネルギーというのが正式名称だぞ』
『データベースがどうかしているなお前たち、ゴザソーロ・エネルギーに決まっている!』
『オヤーキ・エネルギーだ!』『いやアジマー・エネルギーだ!』
なんということか、潤の取り出したお土産を巡り戦闘機械たちは一斉に意見をたがえ、険悪な雰囲気で睨み合い始めた! もはや一触即発と言っても過言ではなく、そこかしこで軽い小競り合いさえ始まりかけている!
「ああ、皆様落ち着いてください、どうか落ち着いて……こそこそ……ケンカはやめてくださいもっとやれ……」
そんなウォーゾーンたちをなだめすかすようなそぶりを見せつつ、こっそりとお土産の中に混ぜ込んでいた紙片を周辺へ散らしていく。おお、あたかも命と意志あるかのようにその紙片たちはひらひらと宙に舞い、ベース内の各所へと自律的に漂っていくではないか。
いや、それはもはや紙片ではない。静かに緩やかにおのずから折りたたまれ形を変え、一枚の紙であったはずのものは今や闇にはばたく蝙蝠と化し、密やかに這い行くヤモリと変じ、疾駆する豹へと、また賢き視線を巡らせる狐へと転じる!
ああ、だがなんということか、お菓子の呼び名論争でバチバチにやり合っているウォーゾーンたちはそれに気づかないではないか!
「……『裏切り』の時間ですね」
くすっと冷徹に微笑んだ潤の目が光る。
そう、お菓子の差し入れはこの内部混乱と不破の種をまくための恐るべき深慮遠謀であったのだ! 何をすればウォーゾーンたちに内紛が起きるか、賢明にして怜悧なる潤の頭脳は完全に見通していたと言えよう。いやお菓子くらいでケンカするなよ近衛部隊!
だが譲れない想いというのは誰にでもあるものだ、たとえそれがお菓子の名前であったとしてもだ!
激しく言い合いをしているウォーゾーンたちを尻目に、潤の折り紙たちは巧みに基地の各所へと侵入を開始。センサーやカメラ、通信機器を次々と喰いちぎり蹂躙していく。もはや基地の機能は完全に停止だ。
『ええい、こうなればゼーロット閣下にお尋ねしてくるまでだ! きっとこれはオーバン・エネルギーであるとおっしゃってくれるに違いないわ!』
『あっお前ゼーロット様に頼るのズルいぞ!!』
なんだろうこの小学生みたいな会話。
だが、片隅に潜んで推移を見届けていた潤にとってはまさに千載一遇の好機だ。
「ちょうど良かった、閣下の所までご案内いただきましょう……汝の飢えを満たせ、『|Code//餓狼《コード・ガロウ》』」
潤が送りだした霊紙は峻烈獰猛な狼の姿へと変じ、ゼーロットの元へと向かおうとする機械兵のあとをそっと尾行していく。
「場所さえわかれば十分。一足先に逝って閣下をお待ちになっていてくださいね。――辿り着く直前に襲いかかった場合も、送り狼と呼ぶのでしょうか? ふふ……」
静かに笑む潤の背後で、機械へたちは呼び名について未だに喧嘩を続けていたのだった。
「ちなみに私はあれに似た人間のお菓子のことを……おっと、うかつに問題を起こしてはいけませんね、ふふふ」
第3章 集団戦 『ハッタ・ラーケ』

※申し訳ありません!! 当方のミスにより、最終章の敵の画像がゼーロットではなくなってしまいました。ですがシナリオ上はあくまでも『ゼーロット』として戦ってください。こいつはゼーロットです! ゼーロットなんです! 本当にごめんなさいー!!!
ゼーロットの能力は
POW:マルチプライクラフター
自身のレベルに等しい「価値」を持つ【新兵装】を創造する。これの所有者は全ての技能が価値レベル上昇するが、技能を使う度に13%の確率で[新兵装]が消滅し、【爆発】によるダメージを受ける。
SPD:スマッシュビーム
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【腹部から発射されるビーム光線】で300回攻撃する。
WIZ:リモデリング・フィンガー
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【放電】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
●
かくして能力者たちはついに恐るべき統率官ゼーロットの元へとたどり着いた。
顔を見合わせ、一斉にゼーロットの本陣に乗り込む能力者たち! だが!
「フハハハハハ! よく来たな愚かな人間ども!」
ゼーロットは哄笑を響かせながら能力者たちを迎えたではないか! まさかここまでのすべては罠だったとでもいうのか! ゼーロットのくせに!
「だがまだパーティの時間には早いだろうがまったく愚かだな。少し外で待っているがいい!」
ほらやっぱり変なこと言いだした。よく見ると、陣営の中にはこんな看板が掛かっていた……。
『オーラムへようこそ裏切りものさん歓迎パーティ』
「勘違いするなよ、吾輩としてはお前たちクソザコどもに何の関心もない。だがレリギオス・オーラムのマニュアルには『裏切り者には最初は優しくしましょう。アメと鞭を上手く使うのが大切です』と書いてあったからな……仕方なく優しくしてやるのだ」
ねえこいつどうしよう。
「あと、何か知らんがアメが重要らしいので、一杯用意したからな。まったくこんな幼稚な食べ物で喜ぶとは人間は愚かすぎるわ、はははは!」
よく見ると、確かにそこら中に無数のキャンディが飾り付けてあるではないか。本気でアメを用意したのだ、こいつは。
「さあ分かったらパーティの時間までいったん下がっていろ。あとサプライズパーティなのだから、入ってきたらちゃんと驚くのだぞ?」
ねえほんとこいつどうしよう。
ということでもうさっさとブッ飛ばしてください。
ちなみに無数に飾っているキャンディは本物で、体に害があるわけでもなく、様々な味があって普通に美味しい。欲しければいくらでも持って帰っても構わない。ゼーロットをブッ飛ばした後でね!
「……飴と鞭で本当に飴が出てくるの初めて見たっすよ」
眉をしかめジト目になった|深見・音夢《ふかみ・ねむ》(星灯りに手が届かなくても・h00525)の表情に、恐るべき非情にして非道なる統率官ゼーロットは満足そうに高らかな哄笑を上げた。
『フハハハハ! 何だお前、アメを初めて見たのか!? まったく人間というものは無知で仕方ない生き物だな! 教えてやろう、これはキャンディといってだな、お前たち人間の弱っちい器官でも摂取できる嗜好品である!』
「いやアメ自体は知ってるっすよ! それをドヤ顔で出してくんのが信じらんねえってんすよ! ……ったく、面接のときも思ったっすけど、なんか絶妙に価値観とかがズレてるっすよね」
『フハハハハハ!! そんな褒めてもダメだぞ! 偉大なる吾輩の偉大なる価値観がお前ら人間ごときと違うのは偉大に当然なのだからな!』
「褒めてねえっすよ! つかここまで来たらある意味褒めるっすよ! よくあんた統率官まで出世できたっすね!」
『ん-? それは疑問の余地はあるまい、吾輩の優秀なる頭脳と絶対なる性能と無敵の戦闘能力、そしてこの愛すべきキャラが一つになった結果である!!!!!!!』
ぐい! とゼーロットは胸を張る。その拍子に、彼の頭からなんか小さいものがころんと転がり落ちた。
注視した音夢の目に映ったものは。
ネジであった。
なんかもう……このロボダメじゃないか?
「……文字通りの意味で一本ネジが外れてるやつも初めて見たっすねえ……」
頭痛を抑える音夢に、ゼーロットは首をかしげる。ついでにもう一個ネジが落ちた。
『む、何か言ったか? 何か先ほどから頭の中がカラカラうるさくて|雑音《ノイズ》が入ると思っていたのだが……もしかしたら実際に外では何か起きているのか?』
おっとっと、と音夢は素知らぬ顔を装う。今この場でうかつに仕掛けるべきではないと冷静に判断をしたのだ。だってまだ報酬貰ってないもん!
「え? ああ、外が騒がしかったのはあれっす。表で一仕事終えてきたところなんで。
なのでちゃんと報酬振りこんどいてくださいねー?」
『ほう、なかなかやるな。しかしすぐに報酬をねだるとは仕方のない奴。まあよかろう、ではこれを……』
「え、ほんとにくれるっすか!? 何十万円っす!? 何百万円っす!? それとも金塊!? 宝石!?」
がばと身を乗り出した音夢の眼前で、ゼーロットはおもむろに素晴らしい報酬を取り出した!
『このストロベリー味がよいか? それともメロン味か? オレンジ味か? いやしんぼめ、全部ほしいのか?』
「いやアメ玉じゃねえっすかああああ!!!!」
『フフフ、これは人間の言うところのジョウダンというやつだ。もちろんボールキャンディの他にもあるとも。これだ』
「えっ、なーんだゼーロット様も人が悪いっすねえ……」
てへへ、と怒りを修めようとした音夢の前でもう一度ゼーロットが得意げに取り出したものは!
『わたあめだ』
「いやアメのバリエーション求めてねえっすわあああああああ!!!!」
絶望に満ちた怒号と共に音夢の手から風のように放たれたものは深緑のマフラーだ! 意志持つ大蛇のごとく鎌首をもたげ、マフラーはゼーロットの首へしゅるりと巻き付いた! ゼーロットは怪訝そうにセンサーアイを光らせ、そのマフラーを見つめる。
『む、なんだ吾輩にプレゼントか? その心掛けは認めてやらんでもないが、まだ夏ではないか。まったく人間というものは……』
「ええ、プレゼントっすよ、素敵な機能付きのね……せーの、爆発!!」
音夢の鮮烈な一喝と同時!
ゼーロットに巻き付いたマフラーは凄絶な勢いで火柱を上げ、轟音と共に天地を揺るがすほどの大爆発を起こしたのだ! これぞ音夢の√能力、破滅的な大爆発を引き起こす『|連鎖爆雷変化の術《ヒートエンド・シェイプシフター》』に他ならぬ!
『ぐわああああ!!!??? き、貴様、まさかああああ!!!???』
「フッ……ようやく気付いたっすか。そう、そのまさかっすよ!」
情け容赦ない轟炎に巻き込まれながら断末魔の叫び声を上げるゼーロットに、音夢の瞳はメガネの奥で冷たい光を宿す。
『貴様、パーティのクラッカーの火薬量間違えたのかあああ!!!! このドジっ子があああああ!!!!!』
「………あんたはもう最後までそれでいいっすよ。ハイ誘爆もいっちょドン」
何かもう疲れきった様子で音夢は更なる追加爆発を雑にテキトーにどんどん起爆! 爆発が爆発を呼び、破壊が破壊を生んで、見る間に周囲はゼーロットと共に紅蓮の炎に包まれ焦熱地獄の破局と化して消し飛んでいく!
「……せめて弾薬費分はしっかり貰っていくっすからね」
キャンディを一本咥え、両手にわたあめを持って、音夢はやれやれと言った様子で爆発を続ける基地を後にしたのだった。
|椿之原・一彦 《つばきのはら・かずひこ》(椿之原・希のAnkerの兄・h01031)がブチ切れるのは僅か1ミリ秒に過ぎない。ではそのプロセスを見てみよう!
一彦がゼーロットの本陣に入り込んだその時、彼の目に映ったものはなんか妙に派手派手ゴージャスに飾り付けられた室内と、でたらめに用意された綺羅星のごとき無数のキャンディであった! その瞬間魂の奥底から湧き上がる怒りのエネルギーが彼の体内に充填されるのだ!
(どうして歓迎会みたいなのを開こうとしているのですかゼーロットのくせになまいきです)
0.0001秒スイッチオン!
(しかも私の住んでいる村よりも設備が整っていて豪勢なのが腹が立ちますねゼーロットのくせになまいきです)
0.0003秒沸騰開始!
(良い事を考えました持ち帰れる資材や機械部品をたっぷりごっそり根こそぎ丸ごと貰って行って村に持ち帰ったら助けになりますねどうせここにあっても無駄なだけですし私たちが有効に活用した方が人々のためいや世界のためになるはずですだってゼーロットのくせになまいきなのですから)
0.0006秒ターボブースト!!
(ここの端末一つでも村の通信素材になりますしそうですねそうしましょうゼーロットのくせになまいきなのですしね)
1ミリ秒! 以上完了!
っていうか人間の反応速度越えてないかな!
『む、何だ裏切りものか。少し待て、準備が大変なのだ。しかしなぜ急にこんなに滅茶苦茶になっているのか……』
そんな一彦のことなど気づく様子もなく、部屋の中の恐るべき統率官ゼーロットはパーティ会場の飾りつけに苦心しているようだった。よく見れば、部屋の中はあちこち壊れ、焼け焦げたような跡なども散見されるではないか。
そう、つい先ほど、ゼーロットは第一の裏切り者によってぶっ倒され、会場もろとも破壊されたのだ!
まあゼーロットも一応これでも簒奪者、ほっとけば復活はする。だが倒された際の衝撃により、何が起きたのかをすっかり忘れているようなのだ! なお、当然ながら会場は自動復活はしないので、片付けと修繕もゼーロットがやらなければならないのだ!
『とにかく、サプライズパーティなのだから引っ込んでおれ! あとでちゃんと驚くのだぞ! サプライズなのだからな!』
「もう一から十までダメ感だけで構成されたレアなセリフですね……あー、なまいき閣下。もしよろしければ修復のお手伝いなど致しましょうか?」
『人間ごときに吾輩たちの巧緻にして精妙かつ偉大で絶対的な部屋の修復が手伝えるわけがなかろう! まあ壊れ物とかほかの部屋に片づけとくぐらいのことをしておくが良い!』
「はい喜んで、なまいき閣下。……ええと、どこに運んでおきましょうか? これは? あと、こちらは? あちらはどこにお持ちしましょう?」
『それは隣の部屋でそれはその奥でそいつは……ええい面倒くさいわ!』
一彦の言葉など上の空でトンテンカンと部屋の修復にいそしんでいるゼーロットは、振り返りもせずに声を投げつける。
『吾輩は今手が離せんのがわからんのか! そこのデータベースに基地の詳細な間取り図があるからそれを見ておけ! それぞれ入室パスワードが違うから書いているのをきちんと確認するのだぞ愚か者め!』
「なんかもう……どうなんでしょうねえこのひと……まあいいや」
一彦はいちいちツッコむのも面倒だという表情でパパッとデータベースを閲覧し、基地内の様子をしっかりと頭に入れると、堂々と各ルームへと侵入を開始した!
「これはこれは大量でありがたいことです……こちらには各種のエンジンとイグニッションとトランスミッション、ギアやダンパー……ふむ、こちらの部屋は武器庫ですか。これも必要ですね、ミサイル、チェーンガン、レーダー管制射撃システム……なんとこれはゼーロット閣下の予備パーツですか。これはダースでいただいていきませんと……うーん、さすがに持ちきれませんね」
すっくと立った一彦は天空に向けてコマンドを発令する!
「げきめつおー!!!!」
暗黒空間を光のごとく駆け抜けて、見よ、移動病院『撃滅王』が今オートクルーズで主の元へと推参だ! どかーんどかーん! 途中で基地の壁を全部ぶち抜きながら!
「よっこらしょ……積めるだけ積ませていただきましょう。屋根の上にも……大きいパーツはどうしましょうね……よし」
運転席についた一彦はそのまま大量の戦利品を満載した撃滅王を驀進させ、意気揚々と帰路についたのだった。ワイヤーで後部に結んだ大型パーツをガランガランと引きずりながら。
………なんかどっかで見覚えのある行動パターンな気がする!
「ああ……もちろんこれもいただいて参りますよ、もしかしたら、キャンプの人々にはこれが一番喜ばれるのかもしれませんね……妹も」
助手席に積んだもう一つの戦利品を見ながら一彦はつぶやく。そこにある、溢れんばかりのキャンディを。
「これはこれは、閣下御自らこのような素晴らしい歓待を催していただき、光栄の至りにございます」
|古出水・潤《こいずみ ︎うる》(夜辺・h01309)は丁寧に腰をかがめ、部屋の飾りつけに余念がない恐るべき統率官ゼーロットに礼を示した。潤の慇懃にして温厚なその表情は深い感動に満ち溢れている。
(……おやおや、まさかここまで阿呆とは……)
という感動に。
『裏切り者か。吾輩は今忙しいからしばし控えておれ。優秀にして完璧な吾輩はたとえクソザコどもの歓迎会といえども優秀で完璧にこなさねばならぬからな!』
「優秀と言いますか憂愁といいますか……いえ、閣下のそのお気持ちまことに傷み入ります。ですが」
潤はしなやかな指をピッと一本立て、諄々とゼーロットに言葉を紡いだ。
「まことお見事な飾りつけとはいえ、歓迎会というものは余興が必要なものです。それは御用意なさっているのでしょうか?」
『何、余興? なんだそれは』
「隠し芸や特技などで出席者を楽しませる行為でございますね。もちろん誰がやってもいいので、もし閣下にご用意がないのでしたら、私めが御披露致しましょうか?」
ひらり、と潤は懐から一枚の紙を取り出す。微かな光を帯び、神秘的な雰囲気を纏ったそれは潤の備える霊力を込められた紙片だ。
『貴様吾輩を馬鹿にするのか? それは紙だろう。紙くらい知っているぞ!』
「いえただ紙を取り出してどうです凄いでしょうっていうわけございませんよ!? この紙をですね、こうやって」
潤はゼーロットの目の前で器用な手先を舞わせ、取り出した霊紙を鮮やかに折りたたんでいく。ただの方形の紙に過ぎなかったそれは、潤の指先により見る間に形を変え、一瞬前には想像もできなかったような立体的な姿へと変じていくではないか。
「折り紙、というものです。いかがでしょう」
潤がゼーロットに提示したものは、見事なまでに活き活きと、今にも吠え声をあげ走り出しそうな躍動感を持った獣の形の折り紙だ!
『ふむ……ウォーゾーンの変形機構の参考になりそうだな』
さしものゼーロットもその見事さに多少は心を動かされたようだ。事実、折り紙の複雑で機能的な折りたたみ方は、実際に人工衛星のパーツの収納システムに応用されたりもしている実用的な技術なのである。
「こういったものを歓迎会でお目にかけたく思うのですが、量が多い方が見映えがします。閣下も派手な方がお好きでしょう、パーティを盛り上げたという実績にもなれば閣下の出席にもつながりますし」
『ふむ、確かにな。それで?』
「できれば閣下にもお手伝いただければと。システム的なものですので、閣下ほどの優れたウォーゾーンならすぐに習得できるでしょう」
『フッ、それは無論吾輩であれば当然だな! 仕方ない、やり方を教えるがいい! 吾輩が即座に大量生産してやるわ!』
かくして……。
得意満面となったゼーロットはよりによって自分自身の手で大量に折り紙を作り始めたのである!
もうどっからどう見てもフラグであった!
「おお、さすが閣下です、これほどにたくさんの折り紙を、ありがとうございます」
山積みにされた折り紙を潤は喜んで両腕に抱えると。
「では、お礼に、――張り切って裏切りをご覧に入れなくてはなりませんね! 去来宵に闊歩せよ――『|Code//百獣夜行《コード・ノクターナル》』!! 」
一斉に腕を広げ、折り紙たちをばらまいたのだ!
おお、その瞬間、湧き出でるような光に包まれ命を得た折り紙たちは、鮮やかに天を舞いしなやかに地を駆け、吠え猛り牙を剥いて獰猛な本性をあらわとする!
これこそが潤の√能力、折り紙に仮初の魂を付与しその無数の軍勢を操る力に他ならぬ!
折り紙たちの群れは一斉に、獲物を――すなわちゼーロットを目掛け猛襲を開始した!
『ほう、確かにこれはなかなか見ごたえのある芸……痛っ!? おいこいつら吾輩にぶつかってきておるぞ、おい、痛っ!? 痛たたた!? やめさせぬか愚か者!!』
「おやおや、お喜びいただけないのですか? これが……」
混乱し動転し、慌てふためきながら折り紙たちを追い払おうとしているゼーロットの無様な狂態を眺めつつ、潤はキャンディを一本取ると、赤い舌を出してちろりと舐め取った。妖艶な、そして冷徹な笑顔を浮かべて。
「……これが、貴方様の見たがっていた『裏切り』ですよ」
『な、なんだと!?』
「大量の折り紙にご協力いただきましてありがとうございました。おかげで効率的に貴方様を始末することができますからね……ええ、さすがゼーロット様。ご自分の死に方までも効率重視とは」
『ぐ、ぐわああああ!!!!???』
反撃しようとするも時すでに遅く、折り紙たちに噛み裂かれていくゼーロットの姿を眺めながら潤はのんびりと飴を舐め続ける。
「まあ、この飴は存外美味しゅうございますね。まるで……ゼーロット様のように甘くて、ふふふ」
「パーティありがとうございますゼーロット死ねええええええ!!!!」
轟然! 大気を斬り裂き風を貫いて振り下ろされた必殺の一撃は、天地が砕けるほどの轟音を伴って、まともに恐るべき統率官ゼーロットの後頭部をブッ叩いた!
それこそルナリア・ヴァイスヘイム(白の|魔術師《ウィッチ》/朱に染める者・h01577)の情け容赦なく遠慮会釈もない徹底した殺意の込められた一撃である! さしものゼーロットといえども回避のしようがなかった。なぜなら、ゼーロットは歓迎会パーティの飾りつけの真っ最中であったのだから!
『痛えええええ!!!!???? ちょっと待て貴様―!!??』
「うるさい死ねえええ!!!!」
『落ち、落ち着け!!!!』
嵐のように振り下ろされる大杖の乱打から転がるように何とか逃れ、ゼーロットは慌てて部屋の隅へ逃げ込むと大きく手を広げ待ったをかける。
『貴様常識というものをどこに落っことしてきた! 大事にしまっておかねばならんぞ! いいか、後ろから殴るものではないのだ、……ハイタッチというものは!』
「……ハイタッチです?」
『そうだ、パーティと言えばハイタッチ! 吾輩は無論ちゃんと調べて知っておるのだ。だがな、ハイタッチというのはお互いに向かい合い、両手を上げて軽やかに手を打ち合わせるものなのだ』
おお、なんたる究極にして至高の天然か! ゼーロットはまた事態を認識できず、ルナリアが歓迎のハイタッチをミスったと思っているようなのだ!
「えーと、つまりお互いに向かい合うんです?」
『そう、こうだ!』
「そして手を差し上げるんです?」
『そう、こうだ!』
「そして死ねええええええ!!!!!!!」
『なんでだー!!!!????』
ドゴォ!! 遥か宇宙空間から隕石が降り落ちるがごとき凄絶な勢いで叩きつけられた大杖がまたもやゼーロットをシバキ倒す! さすが統制官、丈夫さだけはある!
屋上から投げ落とされた大福の上をトラックが轢いていったような姿になったゼーロットを冷たい目で見降ろし、ルナリアは隠された秘密をついに解き明かした!
「まだわからないのですか。持って回った言い方してもアホの子のゼーロットさんには通じないと思うのでストレートに言いますと、私は先ほど人類を裏切っていましたので今度はゼーロットさんを裏切ったのです!」
今語られた壮大な逆転劇! これにはゼーロットもさすがにセンサーアイを白黒させずにはいられない!
『な、何ィィィぃ!!???』
「いやー、そのリアクション気持ちいい。おたんちんな部下達と違ってちゃんと驚いてくれるのがゼーロットさんのたった一つの良い所ですねぇ。聞いたことはありませんか、一度裏切ったものは二度裏切ると!」
『そ、そうであったのか! だが、その理論で言うなら……二度裏切ったものは三度裏切ってもよいはずだな! ではもう一度裏切るが良い! フハハハハh!』
「そうですね。じゃあ死ねえええ!!!!」
ドゴォ!!!
大杖による|宇宙開闢《ビッグバン》が今この場で再び始まってしまったかと思えるほどの轟爆がまたもや大炸裂! ゼーロットをノシイカのごとくに叩き潰した!
『なんでだー!!?? 今、もう一回裏切るって言っただろうがあ!』
「はい、なので、そのゼーロットさんの気持ちを裏切りました」
『なーんだじゃあ仕方ないな! ってわけあるか! おのれ、こうなれば我が新兵器の威力を見せてくれるわ!』
半死半生のゼーロットは√能力「マルチプライクラフター」を発動! 誰も見たことのないような新兵器を生み出した! なんだかんだ言ってちゃんと凄い能力を持っているのだ!
『喰らえ、誰も見たこのないような凄いビーム!!』
「そうはいきません、『|物を動かす魔法《オスマホウトヒクマホウ》』!!!」
だが瞬時にルナリアもまた√能力でカウンターを決める! おお、ルナリアの詠唱と同時に、周囲で黙々と片づけをしていた雑用ロボたちが一斉に彼女の周囲へと引き寄せられたではないか! これこそが物体を引き寄せるルナリアの力だ!
「|そこにいたこいつらが悪いのです《ガードなんちゃら》」
必然的に凄いビームは雑用ロボたちを直撃! 無情にも爆発四散せしめてしまった!
「味方を撃つなんて悪逆非道な事をしますね! このゼーロット野郎!!」
『お前がやったんだろうが!!??』
「わざと部下を撃つなんて、これではあなたの出世はパーですね」
『お前がやったんだろうがあああ!!! うわああああんん!!』
半泣きにになりながら凄いビームを連射するゼーロットだったが、そのすべてを雑用ロボたちに防がれてしまった! そうこうしているうちに。
ばん!
毎回13%の確率で自壊してしまうという新兵器の限界が来た!
『あっ』
「はい終了のお知らせ。ではお仕置きタイムです!」
『待て、よく考えたら吾輩お前にお仕置きされるようなこと特にしてなくないか!?』
「存在そのものが罪! では百叩きです! あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛A゛a゛a゛ーーッッ!!!」
かくしてゼーロットが跡かたなく|最微塵《クォーク》に砕け散るまで、ルナリアの杖は徹底的に振るわれ続けたのだった。
「飴ちゃんは頂いていきますねごちそうさま。私は礼儀正しいのでちゃんと御礼は言えるのですよ」
「自分でパーティの準備をするとは流石ゼーロット様デスネェ」
歓迎会の準備をしている恐るべき統率官ゼーロットの背中に、|白神・真綾《しらかみ まあや》(|首狩る白兎《ヴォーパルバニー》・h00844)は感心したように語りかけた。
「でも気持ちはわかるデース。『パーティ』の準備は自分で直接やった方が充実感があるデスシ、わくわく感もあるデスヨネェ……!」
ちろり、と真綾は赤い舌で唇を湿しながら語る。あたかも美味しそうなご馳走が……いい肉付きの獲物が目の前にいるかのように。ああパーティってそういう。
『む、裏切り者か。別に吾輩は充実感とかドキドキ感とかどうでもよいのだが、何故かいつまでたっても準備が終わらぬのだ。まったくどうなっておるのか』
「まあ、たぶん……3回か4回はぶっ壊されてるんデショウネェ……」
ぶつくさ言いながら準備を進めるゼーロットと、惨憺たる会場の様子を眺めながら真綾は状況を察する。√能力者たちの波状攻撃により、おそらく会場は何度も破壊されているのだ。そらいつまでたっても完成しねえわ。
さらに真綾は床に転がるいくつかのパーツも眺める。
ゼーロット自身も何度か倒されているのだろうが、簒奪者らしく復活はしているらしい。しかし、どうもそのあたりの記憶があいまいなようだ。機械をバラした後に組み立て直したら、何か知らないがどっかのパーツが余ってた、という状態である。
「パーツが余ってるからポンコツなのか、ポンコツだからパーツが余るのか、難しい問題デース……」
『さっきから何を独り言を言っておるのか! 邪魔だからとっとと別室で控えておれ! サプライズパーティなのだからな!』
「あー、実は真綾ちゃんからもサプライズがあるデスヨ」
『ほう? ふん、クソザコ人間のサプライズなどどうせ大したことないだろうが……なんだ?』
ようやく振り返ったゼーロットに向けて、その瞬間!
「ヒャッハー! 真綾ちゃんのドッキリ! 死ぬほどサプライズ! の時間デース! 豚のような悲鳴をあげながら悶絶死しろデース!」
燃え上がるような光の軌跡を空気に灼き付けながら、真綾の振るった大鎌が真正面からゼーロットに叩きつけられた! 眩き閃光の兇刃、|殲滅する白光蛇の牙《エリミネートバイパーズファング》の咆哮だ!
『うわあああ!? 危ないだろう貴様―!?』
「サプライズデース!」
『びっくりしたら身体に悪いだろうが! びっくりしないようなサプライズにせよ!』
「わかってたことデスガお前のデータベースぶっ壊れてるデスネェ?」
大きく装甲を斬り裂かれ、よろけながらも体勢を立て直そうとするゼーロットにすかさず真綾は襲い掛かる! その剃刀のように鋭い視線と狂的に歪んだ哄笑を浮かべる口元を見ては、さすがにゼーロットもまともに命の危険を感じ取らずにはいられない。怒涛のように振り下ろされる鎌の連続攻撃を、ゼーロットは動揺しつつなんとかゴロゴロと横転して回避しようとする。
『まさか……貴様、人間の味方なのか!?』
「別に人間の味方でもないデスガお前の敵デース!!」
『な、なんということだ! ちゃんと面接してやったのにー!!』
「そもそも裏切り者なんか信用したり歓迎するのが間違いデース! まぁもともと真綾ちゃん裏切ったわけじゃなく最初からお前の首狙いデシタガネェ!!」
悪魔のようなまなざしで叩きつけられたフォトン・シザースの刃が激しく火花を散らす! やったか!?
いや違う、ゼーロットは大剣を抜き放ち、真綾の鎌を受け止めたのだ! これぞ瞬時に新兵装を作り出すゼーロットの決して侮れぬ能力だ!
『ならば容赦はせぬ、我が新兵器を受けてみるが良い! 見よ、『剣』!』
「……剣?」
『剣!』
「真綾ちゃん剣を新兵器って言い張る奴初めて見たデース」
ジト目になる真綾に、ゼーロットはむきになって言い張る。
「ただの剣ではないぞ、このDXゼーロッ剣は光って鳴るのだ! 振るたびに、こう……『ゼーロット最高!』『ゼーロット凄い!』とな!!!! さあ見ろ、『ゼーロットカッコいい!』『ゼーロット超イケてる!』『ゼーロット……』」
ぼん。
と、火花と煙を上げてそのとき、DXゼーロッ剣はぶっ壊れた。
『………あっ』
そう、ゼーロットのその能力は、使うたびに13%の確率でぶっ壊れるのである。
それなのに今ドヤ顔で散々振り回したために、当然使用限界が来たのだ。
「………真綾ちゃんこんなくだらない仕事はさっさと終わらせてぇデスカラ………速やかに死にやがれデース!!!」
『待て、今のはただのデモンストレーションで使用カウントには入らな……ぐええええええ!!!!!!』
真綾がめんどくさげに雑に振るった大鎌が情け無用に煌めくところ、ゼーロットは綺麗に三枚に開かれていたのだった。
「飴もらってさっさと帰るデース……この飴の方がゼーロットよりよっぽど歯ごたえがあるデスネェ……ガリッ」
「ほう、御自ら歓迎会の準備とはさすがゼーロット閣下。この期に及んでもまだご自分の計画の破綻に気づいておられぬあたり、さすがです」
|戌神・光次 《いぬがみ・こうじ》(|自由人《リベロ》・h00190の隻眼が一生懸命部屋を飾りつけている恐るべき統率官ゼーロットの甲斐甲斐しい後姿を皮肉に見つめた。
「……いやまぁ、確かにこいつはそこまで賢くないとは聞いてたが……想像を超えてきたな」
ぼそっと独り言をつぶやいた光次に、ゼーロットはいらいらしたような声を飛ばした。
『何だ裏切り者か! まだ準備できておらぬからしばし待てというに……ん? 吾輩、ここまで何度も同じようなこと言ってきた気がするが……気のせいであろうか?』
「まだ『気のせい』って選択肢が出てくるところほんとに凄いですね閣下。尊敬します。いろんな意味で」
『フハハハハハ! 人間にしてはなかなか見どころがあるではないか、吾輩を素直に尊敬するとはな! 人間はいずれ全て滅ぼすが、お前を殺すのは最後の方にしてやってもよいぞ!』
「ありがたき幸せです。しかしですね閣下、完璧な歓迎会にするにはまだ足りないものがあると思うのですが」
『何だと吾輩の完璧なる歓迎会に隙が!? それは何だ、言ってみろ!』
「それは!」
と、光次はおもむろに指を一本立て、重々しく断言した! この後の展開は読者諸氏ももうお分かりであろう、さあ皆さんご一緒に!
「サッカーです!!!」
『ナンデ!?』
思わず動きの止まったゼーロット相手に、光次はスーツの内ポケットからサッカーボールを取り出すと
『いや待てどこから何を取り出しただと!?』
スーツの内ポケットからサッカーボールを取り出すと高々と差し伸べる!
『無視か地の文!?』
「よろしいですか、歓迎会というのは新たな仲間を迎えその団結力を固めチームワークを構築するためのもの」
『ま、まあ……確かに……』
「であれば! チーム競技であるサッカーを行うのが一番適しているのです! まさに団体行動を錬磨し血沸き肉躍る感動を共に味わい情熱のひと時を一緒に過ごすことでチームへの帰属意識を強化する! これ以上歓迎会に向いた行事があるでしょうか!」
『そうかな……そうかも……』
「そうなのです! では早速やってみましょう!」
『いや待てまだ心の準備が!?』
泡を喰うゼーロットに構わず、光次は時間を超えたかのごとき素早さでボールを構え、嵐のような勢いで轟然とシュートを放った!
「喰らえ必殺ハウンドショット!!!」
『今必殺って言ったか!?』
超高速スピンの掛かった超絶シュートはまっしぐらにゼーロット目掛け閃光となって突っ走る! だが、ああしかし! ゼーロットもやはり一応恐るべき簒奪者であったことをここで証明した!
『ええい、スマッシュビーム!!』
ゼーロットの能力が発動した瞬間、300発のビームが豪雨のごとくに乱れ撃たれ、さしものハウンドショットの威力を減衰させてしまったではないか!
『フ、フハハハハ! はー、はー、……と、止めたぞ! 神セーブという奴だ!』
「まだまだ! 攻撃は一度だけではありませんよ! それっ!!」
だが光次に瞬時の隙もなし! 彼は素早く態勢を入れ替えると、再び黄金の脚を振るったのだ! そのターゲットは……傍らで黙々と片づけの手伝いをしていたガードロボ、ハッタ・ラーケの頭部だ! とんだ巻き添え事故だよ!
『ピガー!!!????』
ものの見事に頭が吹っ飛んだハッタ・ラーケはよろよろとよろける、そこへ光次のさらなる追撃が襲う! ハッタ・ラーケのボディの真芯を寸分の狂いなく喰ったキックの勢いは先ほどをさらに上回る爆裂的な一撃! その爆弾シュートを受けてはたまるものではない、ハッタ・ラーケはそのまま――巨大なボールとなってゴールへと、すなわちゼーロットの元へとぶっ飛んでいったではないか!
『な、何ィィィ!? スマッシュビー……』
再びスマッシュビームを撃ちまくるゼーロットだったが、なんたる皮肉か、ハッタ・ラーケのボディはめっちゃ頑丈だった! だってゼーロット自身のボディガードロボなんだから!
ビームにボコボコにされつつもその勢いを止めることなく、ついに――!
『ぐえええええ!!!!!!!』
情け無用の質量爆弾としてゼーロットに突き刺さった!
「|残弾《ハッタ・ラーケ》はまだあるようだな! 喰らえ!!!!」
そこへ容赦なく光次のシュートが流星雨のごとくに降り注ぐ! 二発! 三発! ハットトリックを超えてなおも叩きつけられる鋼鉄のゴールラッシュはゼーロットの強靭な装甲といえども耐えうるものではない!
「サッカーでは視界に入っていなくとも周囲の動きを『感じる』ことが大事だ。お前は俺たちの敵意を感じ取れなかった……サッカー選手失格だな」
『いや吾輩いつの間にサッカー選手にいいいいい!!!??? ぐわああああああ!!!!』
断末魔の悲鳴を上げ、ゼーロットは部下たちを巻き込み爆発四散したのだった。
「しかし……このキャンディの山を用意したのもハッタ・ラーケなのか? ボールにはされるし、大変だったなこいつらも……」
しみじみと呟く光次なのだった。いやボールにしたのはあなたなんですけどね。
「夏のさわやかな風がそっと頬を撫でていったあの眩い瞬間に、僕は運命という言葉の意味を知ったんだ。魂の奥底から震えるような情熱と、そよ風にさえ耐えきれないほどの切ない繊細なためらいが同時に鮮やかに僕を塗り替えていく。そんなときめきを伴った奇跡を、ひとはこう呼ぶんだね、愛と」
『いきなり人の部屋に入ってきて何を言っておるのだお前は』
踊るようなステップで入室しながら滔々とポエムを述べ始めた|中条・セツリ《 ちゅうじょう・刹利》(|閑話休題《それはさておき》・h02124)の陶然たる姿に、恐るべきレリギオス・オーラムの統率官ゼーロットはナンダコレ的な視線を浮かべる。
「ああっそんなあなたの冷たい尖った視線さえも今の僕のこの胸にとっては甘く蕩けそうな誘いの味。禁断の果実の奥に秘められた、知ってはならなかった甘味のようだよ。そう、このキャンディのように甘く……ぺろり」
『あっお前それはこの後のパーティ用のキャンディだぞ!? 勝手に食うのではないわ!!』
「勝手に食べてはいけないものだからこそ食べてみたくなる、それこそが恋なんだ。ああ許されざる恋のなんて刺激的な喜びー、るるるらららー♪」
『ついに歌い出したぞこやつ!? ええい、いいからとっとと出て行けというのにー!!』
「はーい、僕はゼーロット様の忠実な下僕だからねー、いうこと聞きますよー。でもその前に!」
と、セツリはびしっと指を一本立て、お・ね・が・い☆ というように振って見せる。
彼女の口から漏れた乙女の切ない願いとは!
「ネジ一本ちょうだい」
『お前の頭に締めるのか?』
「うーんそれもいいかもねー、ネジを通じて一つになる僕とゼーロット様。なんて素敵な終焉なんだ! 浪漫! 浪漫はここにあったんだよ!!」
『ダメだこやつ! あとで余ったがらくたの予備パーツでも何でもやるからとにかく出ていけ―!』
どーん! と蹴飛ばされるかの如く部屋から追い出されたセツリは足形の付いたお尻を愛しそうに撫で、すーはーす-はー、と体にこびりついたゼーロットの匂いをしばし胸いっぱいに吸い込んでから……。
今度は自分の脚でドアを蹴破り、雷鳴轟く嵐のように部屋に雪崩込んだのだ! その手に持つは禍々しき輝きを放つ重装武器、真紅の地獄をもたらす火炎放射器!
『えっ今度は何だ!?』
目を剥くゼーロットに、セツリは容赦なく躊躇なく銃口を向ける!
「オラァ手を挙げろ! カミガリだ! 神妙にお縄に付け!!! 逆らう気だな!焼却ぅぅ!!!」
『まだ何も言っておらんわ!!??』
ゼーロットの抗弁など聞く耳持たず、セツリは火炎放射器をあたりかまわずブッ放した! 真紅の龍が狂い踊るかのような轟炎がたちまちのうちに部屋を舐め尽くし喰い散らし、悪夢のような惨状を現出させる!
これこそセツリの√能力、己の愛を暴威の名において燃え上がらせる破滅と隣り合わせの青春だ! ただでさえ破局的な爆炎からさらに18倍にも強化されたその斉射は、ゼーロット本人もろともレリギオス・オーラムの基地全てを飲み込み焼き尽くしていく!
「これも愛なんだよ……愛という名の暴、いや暴という名の愛なんだ。悲しいねゼーロット様。僕たちはこんな破滅的な愛し方しかできない定めだったんだ」
『『たち』ってなんだ!? 吾輩を勝手にお前のサイドにカウントするな!?』
「さあ愛の焔だよふぁいやー! ばーにん! いんふぇるのー!!!」
『聞いちゃいねえ!!!??? ぐわあああ!!!???』
轟爆していくゼーロットにさらに灼炎を念入りに叩きつけながら、セツリは遠い瞳に孤独な光を宿らせ、静かに呟く。
「僕の心は、そして愛は結局届きはしない。ふっ、最初から分かっていたことさ。でもね、これもあなたがあまりにも魅力的過ぎたのがいけないんだ。罪な人……」
『なんで吾輩が悪いみたいになってるのだ……がくり』
セツリは燃え上がる炎に照らし出され、孤独な長い影を引きながら踵を返す。
爆発炎上する基地を背にしたとき、足元の小さな感触に彼女は気づいた。それは、爆風で転がってきた黒焦げの小さなネジ一本。
「ああ、ゼーロット様、約束を守ってくれたんだね……」
セツリはそっと指先でそのネジを拾い上げた。それが本当にゼーロットのパーツであるかどうかはわからない。だがそれでいい。ネジが本物であるかどうかではなく……その恋が本物であったかどうかが大事なのだから。そう、セツリにとってはそれがこの哀しい恋のたった一つの思い出なのだ。ああ僕って悲劇のヒロインだよね」
……途中から地の文を乗っ取って自分のモノローグにするのやめてほしいなって。
「てへっ。じゃあ飴たくさんもらってかーえろ。あとなんか調度品くすねられないかなー」
わー、かじばどろぼー。
「いやそんな。愛だよ愛」
愛って便利な言葉よね。