燃え落ちる|星屑花《スターダスト》
●炎よ、咲いて
その女は炎に魅入られた。生命を赤々と燃やし、悪夢のように破滅を齎す。美しくも恐ろしい炎を愛してしまった。炎とは人々に愛される場所に咲いてこそ輝きを増す。だからこそ彼女は、その場所へと足を運んだ。
『宵の|星海《せいかい》』――とあるダンジョン内に形成された花畑である。なぜ星海と呼ばれるのか。それは群生する花に拠るものだ。花畑には『|星屑花《スターダストフラワー》』と呼ばれる固有種が咲いている。花の色は基本的に白色だが、中には青白い物や赤色を帯びたもの、オレンジや黄色に見える物もあるのだとか。
光源が他に無いダンジョンの中で、星屑花は瞬くように輝いている。その様が夜空の星のように綺麗だから、宵の星海と名付けられたのだ。
ダンジョン内にあるため√能力者でなければ入ることはできないが、ネットを通じて世界に情報が広まったことで、美しい場所として愛されている。
「……皆から愛されるこの場所を炎で包み込めば、炎はより一層輝きを増すでしょう」
煽動者『エリナ・エルランジェ』は喜々と紡ぐ。星海に足を踏み入れたのは彼女と、そしてその配下である『蠢く石像』たちだ。
輸送中のトラックを襲ったエリナの軍勢は、大量の|竜漿兵器《ブラッドウェポン》を手に入れた。蠢く石像たちは、全ての攻撃に炎属性を付与する『魔導書』を。エリナは炎にまつわる術を強化する『ウィザードロッド』を手にしている。
「さあ、全てを燃やすのよ。この星海に炎の花を咲かせましょう」
「アミー様の仰せのままに……」
「アミー様のためなら、花畑でも何でも燃やします」
エリナは信者たちに『アミー様』と呼ばれている。蠢く石像たちは、既にエリナの傀儡だ。炎が花へと燃え移る。それは瞬く間に広がり、紅蓮が星屑花を焼き払う。星海は炎に呑まれ、宵を真っ赤に染め上げた。
●花園の危機
「……先ほどお伝えした内容は、皆様が介入しなかった場合の未来の話です。皆様のお力があれば、敵を撃破して竜漿兵器を取り返すことも叶うでしょう。宵の星海についても、少しの損害で抑えられるかと」
|泉下《せんか》|・《・》|洸《ひろ》(片道切符・h01617)は集まった√能力者たちへと今回の依頼について話す。
√ドラゴンファンタジーにて、ある王国に納品される予定だった竜漿兵器が大量に強奪される事件が発生した。
「この集団は何者かの力によって竜漿兵器の装備に成功し、その強大な戦力を持って冒険王国の一つを落とそうとしています。手始めに、王国内のダンジョン……宵の星海を燃やそうとしているようですね。この予知は王国側にも連絡済です。至急現地へ向かい、王国の軍人たちと協力して簒奪者を撃破してください」
煽動者『エリナ・エルランジェ』とその配下がダンジョンへと訪れる前に現地入りし、彼女の軍勢を迎え撃つ準備を行ってほしい。星海の生態系に影響を与えない範囲内で罠を仕掛けてもいいし、竜漿兵器によって強化された敵の炎属性攻撃に対抗するための策を講じても良いだろう。元々ダンジョン内に生息しているモンスターについては、無害な小型モンスターしかいないため、気にしなくてよい。
「しかし、居住区ではなく花畑を襲うとは……国を落としたいというより、燃やすこと自体が目的になっている気がしますね。しかし、この場所を失えば、人々は悲しむに違いありません。どうか守り抜いてください」
第1章 冒険 『迎撃準備!』
●守護の意志
住民が暮らすエリアではなく、ダンジョン内の美しい花畑を燃やそうとする行為。
(「実際、その簒奪者にとっては燃やすこと自体が目的なんだろうな」)
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は思考を巡らせる。エリナにとって、国を落とすことはついででしかないのだろう。
ダンジョンへと訪れ、すぐさま迎撃の準備を始めた。花畑に火を放たれたのなら、それだけで被害になる。なるべく敵を花畑に接近させない形にしたい。
(「それなら、落とし穴を作ろうか」)
もちろん環境を壊さないよう考慮する。エリナの配下は石像らしい。
(「石像か……重量を考えたら、足元が埋まるだけの浅い穴でも動きを阻むことができそうだ」)
そうして足を止めた敵に、一斉攻撃を仕掛ける。少しは有利に運べるだろうか。花畑を避けつつ、ダンジョンの通路に浅めの落とし穴を掘る。
(「あんまり深いとかえってこちらから攻撃しにくいし、花畑にも影響を与えてしまうだろうからね」)
掘った穴を細い枝で覆ったあと、上から土をかけた。これで完成だ。
「この場所に落とし穴を作ったから、誤って踏み抜かないよう気を付けてくれ」
周囲の仲間や王国の軍人に声を掛けた後、その場から一旦離れる。敵が穴に落ちるとは限らないので、別の策も取っておきたい。最終防壁として花畑の前にフレックスウォールを展開する。頑丈な金属板を地面に設置して、防衛拠点を形成した。
防壁を作り終え、クラウスは改めて花畑を見渡す。星屑花は夜空の星のように輝き、ダンジョンを永遠の星夜に閉じ込めている。
「綺麗だな……」
思わず呟いた。地上の星空を青い瞳に映し込む。この美しい場所が炎に呑まれる所など、絶対に見たくない。
(「美しい花畑を、必ず守ろう」)
強く想い、クラウスは表情を引き締めるのであった。
●星海を泳ぐ魚
きらきらきらめく星の花。美しい花たちが炎に包まれる様を思うだけで、|九枢《くくるる》・|千琉羽《ちるは》(夢みる怪異解剖士 × ゴーストトーカー・h02470)の心は締め付けられるように痛んだ。
「お星さまのお花、もやされちゃうのは悲しいの……そんなこと、させないの」
宵の星海へと急ぐ。簒奪者たちの予測進軍ルートを辿りながら、千琉羽はきょろきょろと周囲を見回した。彼女が探しているのは、『かくれんぼ』に最適な場所。
「……みつけた。とっても、いいばしょ」
道から見えない、すっぽりと身を隠せる岩陰を見つける。
岩陰のなるべく平らな場所にクッションを置いた。これから行う事を考えると、立っているより座った方がやりやすい。ちょこんと座り込んで、千琉羽はおともだちを呼ぶ。
「おさかなさん、ここでおよいで……」
彼女の呼び声に誘われて、|ひらひらのおともだち《ヒラヒラオヨグインビジブルタチ》が、ふわふわと寄ってきた。
ひらひらと泳ぐ魚の形をした|おともだち《インビジブル》が、「何か用?」とでも問うように千琉羽をじっと見つめる。
「ひらひらさん、おねがい。お花がもやされそうになったら、火をはねかえして、悪い人をめかくししてじゃましてね……」
何匹ものおともだちが、花畑へと泳いだ。次々におともだちを呼びながら、千琉羽も花畑を眺める。
おともだちが花の海を泳いでいる。煌めく花々の星空を、ひらひら、ふわふわ。
「わあ……!」
神秘的な光景に千琉羽の瞳は釘付けになる。白、青、赤――星屑花の浮かべる彩が、彼女の瞳の中で瞬く。
彼女は想った。星屑花を咲かせるのに、炎は要らないと。
「……火をつけなくても星屑花はとてもきれい。みんながきれいを長く楽しめるように、だいじにしてあげたいの」
地上に咲く星空を記憶に刻み、簒奪者から花畑を守るための決意とする。
●敵情視察
宵の星海へと事前に入り、仲間たちが迎撃の準備をしている。だがその間にも、簒奪者の軍勢が進軍していることには変わりない。時間は立ち止まってなどくれないのだ。
花畑を燃やす――その行為が与える影響へと、フォー・フルード(理由なき友好者・h01293)は思考を巡らせた。
「象徴的な物を破壊するというのは敵の士気を下げる目的としては有効でしょう。花畑に戦術的な価値は無くとも、守る事で士気が保てるのなら防衛する価値はある」
「然り。戦とは純粋な武力のみで為されるのでは無い。戦う者に盤石な精神が在ってこそ」
|和紋・蜚廉《わもん・はいれん》(現世の遺骸・h07277)が同意を示す。時は一刻を争う。擬殻布で身を覆い、蟲の姿へと転じた。
「これより敵陣営への接近を試みる。支援は任せた」
蜚廉の言葉に、フォーは力強く頷いてみせた。
「はい。サポートは任せてください」
これより防衛戦を開始する。先ずは敵軍の戦力情報を入手、並びに動向の確認だ。王国軍から得た進軍ルートの予測位置を基に、斥候として敵軍を探りたい。花畑に通じる道には入り組んでいる場所もあるが、まっすぐな道も多い。進軍のしやすさから、敵は見晴らしの良いルートを選ぶ計算だ。
蜚廉は潜響骨を体内で振動させ、微細な音を拾うことで敵の気配を感知する。
「右通路の奥、複数の足音と金属音を確認した」
通信機でフォーに得た情報を共有する。
「右ですね。そのまま進んで大丈夫です」
フォーは狙撃用スコープ「cup & ball」による機能を駆使し、常に蜚廉周辺の情報を収集している。危険があればすぐに知らせる構えだ。
風が吹いてくる。ダンジョンの入口から寄せる風だろう。蜚廉は翳嗅盤を用い、流れてくる熱気や焦燥の匂いを嗅ぎ取った。
(「この匂いの濃さならば、おそらく――」)
即座に計算し、フォーへと報告する。
「500m先に敵軍の反応がある」
「前方に分岐点があります。敵軍はあの曲がり角から姿を見せるかと」
スコープで更に先を見据え、フォーが返した。彼の言う通り、数秒後にエリナの軍勢が姿を見せる。
「見えました。左からこちらの通路に入ってきます」
擬殻布によって岩壁に擬態した蜚廉が、敵陣の状態を確認する。
多数の石像を引き連れて、エリナは軽やかな足取りで歩いてきた。速度は普通の歩行程度。石像で自分の周囲を固め、身を護るような布陣を敷きながら進んでいる。
蜚廉はそっと無線機に低く声を落とした。
「遠目に見えているな、こちらからも数は確認できた」
「ええ、おおよその数はこちらでも。大規模な戦闘になりますね」
フォーはさらに敵を分析する。とくに石像……竜漿兵器は魔導書だが、本来は近接武器や体を使って戦うタイプのように見える。つまり、脅威は炎だけではない。石の体で花畑を踏み荒らされようものなら、たまったものではないだろう。相手の炎だけに気を取られ過ぎてはいけないだろうと、フォーは気を引き締めた。
進軍する敵との距離がさらに縮まる。――これ以上の接近は危険。蜚廉の野生の勘が警鐘を鳴らす。己の役割は囮ではなく情報を運ぶための器だ。
「引くぞ。戻り次第、報告だ」
フォーとしてもこれ以上の偵察は危険だと判断する。
「そうですね。すみやかに戻りましょう」
蜚廉はすぐに退き、フォーと合流した。
道を戻りながら、花畑に続く分岐点の岩壁を僅かに崩しておく。敵軍がこの道に差し掛かる頃には、二人の気配は消えている。気付かれぬ程度の罠として機能してくれることだろう。
時間は立ち止まってなどくれない。だが、遅らせることはできる。敵の到着を僅かでも遅延できれば、味方の備えに繋がるのだ。
●氷に秘める
夜闇を照らす群星のように、星屑花は煌びやかに咲き誇る。
「宵の星海……確かにそう呼ばれるに相応しい場所だな」
数多の光を瞳に捉え、ノア・アストラ(凍星・h01268)は言葉を紡いだ。静謐なこの場所が、戦火の脅威に曝されている。
「然し、国を落とすにしてもまずこの場所を最優先に狙うとは。相手側も此処が人々にとって大切な場所だと知っているのか。それとも別の意味があるのか……」
炎狂いの煽動者。彼女は何を想い、美しい土地を燃やすのか。詳らかにしたところで、共感など何ひとつできないであろう事だけは分かる。
「……じっくりと眺めるのは、すべてが終わってからにしよう」
美しい花々を眺めていたが、踵を返す。今はこの花畑を守るために為すべき事を為さなければ。ノアは広大な花畑の外周をぐるりと歩き巡り、周辺の地形を把握する。敵が来る方向については、王国軍の予測と仲間たちの偵察により判明していた。
ノアは護霊「フレイシャ・ネージュ」を呼び出し、優しく語りかける。
「フレイシャ・ネージュ、力を貸してくれ。少しでも時間稼ぎができるように、氷の壁を作っておきたい」
ノアの願いに護霊は応じた。冷気を纏う青白い氷壁が、花畑を守るように形成される。氷壁は予測されている敵の侵入地点付近から、花畑を隔てるように建てられた。
「……それにしても、炎の能力ね」
氷壁を見上げながらノアは思考を巡らせる。雪と氷を扱う彼にとっては、相性が良いのか悪いのか。何方とも言えない状況だ。
「まあ、そう易易と溶かされるつもりはないけれどね」
相性がどうであろうと関係ない。星空の花畑を焼き尽くす――そのような蛮行を許すつもりはない。
「守ると決めたものは、守ってみせるよ」
この想いだけは、激しい炎であっても溶かせない。
●音の力
地上に咲く星屑花は、宵を照らす星空のようにダンジョンを煌めかせる。広大な星海を見渡して、箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)は感嘆の息を零した。
「ダンジョンにもこんな素敵な場所があるのですね」
この星海は言わば王国民の心の拠り所なのかもしれない。此処がなくなってしまえば、人々の心は傷付く。悲劇によって呼び起こされた諦観は、長期的に見たとき王国の力を弱めてしまうだろう。やがては王国の壊滅に繋ってしまう危険性もある。人々が直接標的になるよりマシとは言え、放置はできない。
それにしても、と仄々は思考を巡らせる。
「納品予定の兵器が強奪されてしまうだなんて、明らかに情報が漏れていますね」
内通者がいるのか、それとも予知の力なのか。王国の人々が安心して暮らせるように、いつか真相に迫りたい。
「……ですが、今は目の前のことに集中です♪ 王国の未来のために何としても守り抜きましょう」
欲に塗れた炎で花畑を焼失させるわけにはいかない。今回の依頼のために、とっておきの道具を持ってきた。周囲にそれを設置し始めた仄々に、若い王国軍人が不思議そうに首を傾げる。
「それは何だい?」
「これは音波消火器です。ご存知かもしれませんが、音でも消火できるんです。空気を強く振動させることで、炎への酸素供給を妨げたり、振動が炎を直接揺らすことで燃え続けるための安定した状態を乱すのです」
「そうなのかぁ! 消火と言えば水か砂あたりと思っていたけど、音でも消せるんだね!」
すごいなあと感心する軍人に、仄々は得意げに尻尾を振ってみせた。
花畑に沿うように音波消火器を設置。あとは高所からも音波を出せるよう、岩上や岩壁にも取り付ける。
「耐熱&難燃カバーも忘れずに付けて……設置完了です♪」
これだけ多くの数を設置できれば、炎が襲ってきた時に活躍してくれることだろう。
「消火器が敵さんから狙われる恐れは充分ありますけれど、そこは私たちでしっかりと守りましょう」
仄々は軍人たちにも協力をお願いする。
「ああ! 任せてくれ!」
彼らは頼もしく頷いてくれた。仄々はニコリと笑みを見せたあと、アコルディオン・シャトンをぽんっと呼び出す。
「ここでひとつ、士気を上げるための演奏をいたしますね。さあ、皆さんも一緒に歌いましょう♪」
まずは王国の国歌から。ダンジョンに入る前に、王国で愛されている歌については調べておいた。演奏家として、その国で好まれている曲を知るのは必須実行である。
アコーディオンの音色に合わせ、軍人たちは勇ましく歌った。
国歌の演奏を終えた後は、仄々オリジナルの曲も披露する。宵の星海の美しさを表現しつつ、今後の戦いに向けて戦意を高める音楽だ。
「きらきら光る、星の花♪ 炎に負けず、守り抜く♪ えい、えい、おー!」
えいえいおー! 仄々と軍人たちの掛け声が、星光に満ちたダンジョンへと高らかに響き渡った。
●祈り、巡らせ、守る
足元に満天の星空を敷き詰めて、星海の花々は咲き乱れる。
闇を照らす絶景に、ミユファレナ・ロッシュアルム(ロッシュアルムの赤晶姫・h00346)は瞳を輝かせた。
「ここが『宵の星海』……綺麗な場所ですね」
彼女の隣で|弓槻・結希《ゆづき・ゆき》(天空より咲いた花風・h00240)が、光を湛える花々を柔らかな眼差しで見つめていた。
「まるで星空を見下ろしているような、不思議な心地ですね」
ダンジョンは生物を魔物に変える――その中で咲く星屑花。結希は思う。本来は恐ろしい場所だからこそ、その美しさも際立つのかもしれないと。
「結希さん、もし宜しければ今回、映像を残しておいて良いですか? 宵の星海はとても美しい場所ですし、録画した光景を配信チャンネルでお伝えするのも良いかと思いまして」
ミユファレナの問いに、結希はすぐに頷いた。宵の星海での冒険は、ミユファレナが運営する動画チャンネル『ミユのお城』のコンセプトにピッタリに違いない。
「美しい自然の光景は、ただそれだけでひとに安らぎを与えますから、きっと映像を残すことは素敵なことだと思いますよ」
万人が来られる場所ではない事を考えると、視聴回数も伸びるだろう。ミユファレナはきゅっと表情を引き締めた。
「そのためにも、まずはこの地の防衛ですね。彼の地を必ず守り抜いて、動画撮影に臨みましょう。その時は結希さんにも出演いただきたいです」
「私も、ですか?」
「前回の配信で結希さんのファンが増えまして。再登場を希望されている視聴者の方々が数多くいるのですよ」
「そうなのですか。……少し、照れくさいですね」
むず痒いような、少し体がぽかぽかするような。そんな気恥ずかしさを感じつつも、結希はくすりと微笑んだ。ともあれ、まずは簒奪者から花畑を守るための防衛策を講じたい。
花畑の前に立ち、結希は広大な星の海を見渡す。
「……誰しもが見られる訳ではないのですから、もっと愛される花でありますように」
これほど神秘的に広がる星屑花が、世界を越えて、たくさんの人々に愛されるように。
彼女は清らかな祈りを込めた。祈る傍ら、彼女はエリナについても想う。
(「炎のような愛情とは言いますが、本当に燃やすことを良きことと思う者がいるだなんて、生まれついての簒奪の情念の持ち主なのでしょうか」)
花が狂炎に燃え落ちぬよう、結希は水の力へと呼びかけた。
「水よ、どうか花たちを守って……」
花たちに火の耐性がつくように、水の祈りを捧げる。
「燃えることなく、ずっと花咲き続けますように」
|蒼穹剣《レガリア》の剣舞と共に、翼をふわりと広げた。水の雫が無数に浮かび上がり、シャワーのように星屑花へと降り注ぐ。
祈りを捧げる結希を、ミユファレナはじっと見つめる。
(「星屑の花畑で祈りを捧げる結希さん、とっても綺麗です。きっと動画映えするでしょうね」)
とは思いつつも、カメラを回すようなことはしない。動画撮影は問題を解決した後にすると決めているのだ。まずは依頼をきっちりこなす。何事も真面目に取り組むのがミユファレナだ。
「録画は副目的ですから。今は煽動者を撃退し、彼の地を守ることに力を尽くしましょう」
被害の拡大を防ぐためにも、少しでも現場から遠い場所で迎撃できるよう索敵しておきたい。
「こちらが予測されている侵入路ですね」
風が吹いてきている。流れてくる音や匂いの変化に気付けるよう集中しながら、ミユファレナは|幻奏多重結界《ファンタズマテッド》を発動した。
「滅び、生命、刻、絶、巡る四方の理をここに結ぶ」
魔力水晶を周囲へと放ち、魔力を空間に巡らせることで、敵の気配を捉える網を編み上げる。
結希は花の保護を、ミユファレナは敵へと意識を向ける。二人は役割を分担し、星海の守りを固めていった。
●花畑を守るために
色とりどりの星屑花がダンジョンの宵闇を照らし出す。
ふわり、ふわり。無数の花々は穏やかな風に揺れ、灯火のように煌めいていた。
「すっごーーいキレーだね! この景色を燃やそうとする人がいるんでしょ? なら黙ってられないなぁ」
高い場所から花畑を見下ろす|冷・紫薇《⋆*✲ろん・ずーうぇい✲*゚》(沦落織女・h07634)。彼女に同意するように、|鐘音・ちりん《べるね・ちりん》(すとれいしーぷなヒツジ飼い・h08665)が頷いた。
「星のうみ、ほしくずのおはな。素敵なお名前だねぇ。でも燃やしちゃうのはあんまりだから、なんとかしないとね。予知にあったひとは、火がすきなのかな?」
炎に魅入られた者らしい。狂人じみた敵のことを考えて、|水縹《みはなだ》・|雷火《らいか》(神解・h07707)はぎゅっと眉を寄せた。
「いつどこにも他人が嫌がることを喜んでする無粋なやつはいるもんな。いっぺん怒られて痛い目をみればいい。というか俺が雷落としてやる!」
宵の星海は夢の世界のようでもあり、異世界のようでもあり。こんな綺麗な場所を燃やすだなんて許せない。
「めーっ」
一匹の眠り羊がぴょんっと花畑に下りて、花弁をくんくんと嗅ぎ始めた。今にも口に入れそうな勢いである。
「あっ、ひつじさん、きれいでもたべちゃだめだよ……! きれいなお星さまが欠けちゃったらかわいそう……!」
ちりんが慌てて羊を抱き上げた。摘んで飾ってあげたい気持ちもあるが、星屑花の事を考えると難しい。
じたばたする羊に、雷火も言い聞かせる。
「そうだぞ、まとエモン。後で牧草やるから無闇矢鱈に食って荒らすんじゃないぞ」
羊の瞳が少しだけ鋭くなったような気がした。星屑花を食べられないから……ではないと思う。
ちりんは羊をよしよしと宥めながら、ふと思ったことを口にする。
「こう綺麗だと、ロンさんなんて花見酒とかしたら楽しそうだよねぇ」
「あ、あたしなら常に花見酒してるようなモンだからだいじょぶだいじょぶ! ……大丈夫って何が?」
いかにも「酔ってます」と言わんばかりの反応をする紫薇だったが、急にシラフに戻る。自分に対するツッコミもキレキレだ。大丈夫このキレはきっと酔ってない証拠だ。本当に?
雷火が疑念の眼差しを向けた。
「……とゆーか、おいロン、まさか飲んでないよな? そこでジャンプしてみろ」
カツアゲするヤンキーのように要求する雷火に対し、紫薇は素直にぴょんぴょんとジャンプしてみせた。鈍く重い音が僅かに聞こえる。
「この控えめな音を聞いて! お酒の中身はまだたくさん残ってる。つまり飲んでないってコト!」
酒を持っていながら飲んでいない。その事実にちりんは目をぱちぱちと瞬かせる。
「えっ、飲んでないんだ……」
「飲んでないのか? 本当に……雨降らないか? 大丈夫か?」
雷火の眼差しは氷のように冷たい。視線が肌を突き刺すようだ。
「なんかもう、雷火くんの冷たい視線を感じる気がする」
紫薇は思った。雨は降らないが酒は浴びるかもしれない。
「冷たい視線浴びるようなことする方が悪いだろうが」
雷火は容赦ない。だが、そのように辛辣なのは、ある程度気を許しているから……なのかもしれない。
ともかく、先ずは花畑を守るために行動だ。紫薇は考え込んだ末に、何やら閃いたらしい。
「とりあえず索敵のために、隣人のユーレイ召喚しとくね! 今回のユーレイガチャはぁー……」
邻魂鬼が炎のように揺らめいた。青白い炎は死霊を喚び寄せる。邻魂鬼がやつれたサラリーマンの姿へと転じた。
『はぁ……死ぬ前にもっと美味いもん食っとくんだった……』
推し活に金をつぎ込み過ぎて食費を極端に切り詰めた結果、心臓に異常を来して死んだ40代くらいの男性たちである。
「ガチャ結果は自業自得ランキングTOP10入りしてるおっさんでしたー! せいぜい働いてよね」
彼らを顎で使いながら、紫薇が思い出したように言った。
「このヒトたちちょっと現世に未練あるだけで、怖くないからね。あたしらに害はないからねー」
幽霊と聞いてちょっぴり身構えていたちりんだったが、ほっと息をつく。
「幽霊ってこわいものかと思ってたけど、平気なんだぁ。こんにちは、おじさん、いっしょにがんばろうね!」
微笑むちりんに、幽霊たちも癒されたようだ。子どもの笑顔は健康に良いらしい。もう死んでるが。
花畑の周囲を巡回し始める死霊たち。雷火も敵を待ち構えるため、侵入経路へと移動した。
「待ち伏せとかしておくか。敵の侵入ルートの予測はできてるって、王国軍のお偉いさんが言ってた」
雷火は更に思考を巡らせる。通路の向こうから吹いてくる風は、ダンジョンの外に繋がっている証拠だ。お偉いさんの言うとおり、この通路から入ってくる可能性が高い。ただ、通路の先は光源に乏しく、先がよく見えない――視界を確保しなければ。
「薄暗いな……よし、蛍。照らしてくれ」
螢の式神を召喚して通路の奥へと放った。暗かった通路に光が灯り、ふんわりと明るくなる。
綺麗な光景に、ちりんが歓声を上げた。
「わぁ、雷火くんは蛍も使えるんだ!」
「式神なんだ。こういう時便利なんだよな、こいつら」
花畑の上を飛ばせたら、もっと美しい景色が見られるのだろう。照らしたいのは通路だから、そちらに蛍は向かわせないが。
闇の中で光る蛍を、ちりんは熱心に見つめる。
「式神さんなの? きれいだねぇ。ぼくもひつじさんたちを召喚しておこうっと」
一匹だけ連れていた羊だが、さらに何匹もの羊を喚び寄せた。羊の群れは蛍たちに混ざり通路の監視を始める。
「げーげきじゅんび完了だよぉ、どんとこい!」
「めぇっ!」
「メーッ!」
おー、と気合を入れるように、羊たちは鳴き声を上げた。
紫薇も目をぱっちりと開き、招集したおじさん達にエールを送る。
「これからは飲まないで意識をしっかり保っておくよ! おっさんもガンバレ~」
敵が花畑に迫る瞬間が刻一刻と迫る中、彼らは緊張感を高めてゆくのであった。
●花蝶風雪
この地に落ちた『天上界の遺産』。災いを齎す存在であるが、ただ一つだけ良かった点がある。それは、星屑花という美しい花を生み出したことだ。
「うつくしいお花畑ですね。ふふ、依頼とはいえ、きれいな景色で役得なのです」
闇に輝く星々の花に、|神代・ちよ《かじろ・ちよ》(Aster Garden・h05126)は穏やかに紡いだ。
視界いっぱいに広がる花畑を見つめ、|神花《かんばな》・|天藍《てんらん》(白魔・h07001)も柔らかに双眸を細める。
「ああ、美しい花畑だ――ちよ。依頼であるからこその醍醐味というものだな」
依頼がなければ、この場所に赴くこともなかった。星詠みが予知できずに燃やされてしまっていたら、二度と見ることは叶わなかっただろう。今回この地に来れたことは僥倖とも言えるかもしれない。花畑を眺めていた二人だったが、ちよがふと口にする。
「そういえば、『かめら』があれば、写真にのこしておけるのですよね。こんど買ってみましょうか……」
かめら。その単語に天藍は反応し、そそくさとスマホを取り出した。
「かめらならばこのすまほが代わりになるぞ」
「まあ、すまほが?」
ちよの視線がスマホに向く。天藍はここぞとばかりにカメラモードを起動した。
「ふふん、これをこうするとな、写真が撮れるのだ。同居人にすまほについて習っておる。でんわとかめらだけは使えるようになったのだ」
花畑にカメラを向けて、ぱしゃりと写真を撮る。彼は保存されたデータを、「どうだ?」とちよに見せた。
実際の花畑と同様に綺麗なそれに、ちよは深く感心する。
「とてもきれいに撮れていますね。よければ、今度使い方を教えてくださいな」
「もちろんだ」
二人は改めて花の海を眺める。静かに吹く風が煌めく花弁を震わせ、星のように瞬かせた。
「おじいさまは、こういったお花は好きですか?」
ちよが問う。何気なく問われたそれに、天藍は迷いなく返した。
「ああ、我は花は好きだ。だがしかし、この手は花には触れられぬ。我は眺めるだけにしておこう」
なぜ触れられないのか。ちよは不思議に思うが、気軽に聞いて良いのか判断に迷った。
なのでそれ以上は触れずに、それとなく話題を変える。
「それにしても、こんなにきれいな花を燃やすなんてよくわかりませんね。確かに夏に見た花火は美しかったですが……あれは人の細工あってのもの。わざわざここを燃やさなくても。かわいそうなのです」
エリナが焦がれる炎は、空に咲く花火とは異なるのだろう。
荒れ狂う炎が星海を覆う場面など見るに堪えない。天藍は険しい面持ちで、敵が来るであろう通路を睨み据える。
「道理がわからぬ無粋者であるがゆえ、このようなことをするのであろう。そのようなものに散らされる花が哀れで仕方がない。そのような者達には天罰をくだすのみだ」
ちよも同感ですと頷いて、二人はさっそく敵襲への備えを始めた。
花畑ならば、蝶がいても不自然ではないだろう。ちよは桜蝶を呼び出して、花畑へと向かうよう彼らに伝える。
「桜蝶、花畑の中に隠れていてくださいね。飛びまわりたくなるかもしれませんが、我慢するのですよ」
敵が来たらすぐにわかるよう、仲間たちの邪魔にならぬよう、桜蝶は星屑花に埋もれるように潜んだ。
天藍も自身と感覚を共有する粉雪を、花畑の周辺や侵入経路を中心に解き放つ。
「誤って花に雪が触れぬよう、そっとな」
敵が近付いて来た時に足元を凍らせてやれば、多少の足止めにはなるであろう。
ちよは花畑を守る手段として桜蝶を忍ばせ、天藍は敵を見つけ足止めする手段として粉雪を舞わせた。
エリナの軍勢が花畑に到達するまで、あと僅か――。
●やさしいほむら
地上に咲き誇る満天の星空を、|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)は晴天の瞳に映す。普段そういった風景に興味がない彼にも、星屑花は美しく映った。
(「無事に問題が解決したら、彼女にも見せてあげたい」)
今は仕事中だ。自然と脳裏に浮かんだモグラさんの事はそれ以上は考えず。この場所を守らなければと、表情を引き締める。
「すみません。万が一燃え広がってしまった場合の消化手順を確認しておきたいのですが」
「ああ、それなら……」
王国軍人へと陽は声を掛けた。軍人から説明された内容のメモを取る。頭にも叩き込んだから、再確認で手間を取らせることもない。彼は精神を大きく揺さぶられないかぎりは、模範的な刑事であった。
確認を終えた後、陽は改めて宵の星海を見渡す。
「それにしても炎を壊すために振るう、か」
今回の敵……エリナは炎の使い手だという。陽自身も同じ炎使いだからこそ、幾らか思うことがあった。炎とはわかりやすく『力』を象徴するものだ。時に生命を、文明をも呑み込み、破壊を齎す。
(「……時々自分の力が怖くなることがある」)
力が足りない、もっと強くならなきゃ。
そう思っていても、増してゆく力に心が置いていかれる感覚は拭えない。
(「俺はまだこんなに未熟なのに、身に宿す炎だけが、日ごとに強さを増してく……」)
いつか自分も、大きくなり過ぎた炎に呑まれてしまう日が来るのではないか。誰かを傷つけてしまわないか、大切なものを壊してしまうんじゃないか。
……今のままで、正しいんだろうか。答えの出ない迷路に踏み入りかけて、振り払うように首を振った。
(「ううん、炎は壊すだけの力じゃないって信じたい。誰かを護る力でありたい」)
炎は全てを破壊するだけの存在ではない。冷え切った体を暖めてくれる……そんな存在なのだと。
第2章 集団戦 『蠢く石像』
●
罠と防壁の設置、侵入予測地点の監視と消火のための準備。敵の情報も共有し、√能力者たちはエリナの軍勢を万全の状態で待ち構えた。
石像たちの、足を踏み鳴らす音が近付いてくる。進軍し続ける彼らであったが、花畑に近付いたところで、自分たち以外の気配に気付いたようだ。
「……あら?」
目的の花畑に大勢の気配を感じるエリナ。すぐにそれが何を意味するのか理解して、彼女は微笑みを浮かべる。
「……てっきり市街地の防御を固めているものだと思っていたのだけれど……ふふ」
光無き瞳の奥に炎が揺らぐ。狂気に満ちた、すべてを喰らおうとする炎が。
「お花畑を燃やすのは大変でしょうけれど、人が燃えるのを見るのも悪くないわね?」
ウィザードロッドで地面を打ち鳴らし、エリナは石像たちへと命じる。
「行きなさい、石像たちよ。皆さんに炎の美しさをご覧いただきましょう」
蠢く石像たちは、彼女の命令に従い進む。彼らは皆、全ての攻撃に炎属性を付与する『魔導書』を持っている。戦力は強化されているものの、√能力者たちの事前準備により、石像たちの動きは鈍くなっていた。罠や防壁に阻まれながらも、花畑を守る√能力者たちへと距離を詰めてくる。
●撃ち砕く
隊列を形成し迫り来る蠢く石像たち。
大群を静かに見据え、|和紋・蜚廉《わもん・はいれん》(現世の遺骸・h07277)は短く告げる。
「時は来た」
フォー・フルード(理由なき友好者・h01293)が頷いた。|EOC《電磁的光学迷彩》マントを起動し、全身を透明化する。
「はい。今こそ脅威を排除する時です」
敵軍は足を止めることなく進み続ける。その様子にフォーが続けた。
「待ち伏せされた事を理解しても侵攻を止める様子もなく。恐ろしい限りですね」
まるで恐怖を知らないような動きだ。
「恐れを抱かぬ兵か。構わぬ、なればその敵意を探り取ろう」
淡々と紡ぎ、石像たちへと接近する蜚廉。フォーは蜚廉をスコープ越しに送り出した。
石像たちの足が地面と擦れ合い、歪な音を響かせる。蜚廉は潜響骨を震わせて、敵の微細な響きまで鋭く感知する。翳嗅盤で嗅ぎ拾うのは敵意だ。幾星霜を経て鍛え上げた野生の勘を武器に、群れの流れを把握する。
――視えた。最も崩れやすい地点を見極め、|盲殻反転《クラガミ》を発動する。
「視る眼を捨てよ。汝の認識は、歪み堕つ」
己の足の通常感覚を失認するが、代わりに得るのは未来視に近い超感覚。そして敵もまた、同じ部位の通常感覚を失認する。
研ぎ澄まされた五感が像を結び、自身と敵の細かな動きまで鮮明に映し出した。一方で、石像たちはその場で足踏みしている。
「我を捉えたくば、通常の感覚を棄てよ」
通常の感覚に頼ろうとする以上は、失認し続けるであろう。しかし石像たちに斯様な技が見出せる筈もない。踏み込みも退きも、すべての行動選択肢を奪われた石像たちは、列を保ったまま崩れ落ちた。
進軍を止めた彼らへと、フォーは照準を合わせる。蜚廉が生み出した好機。致命に繋がる一撃をさらに決定的なものとすべく、|脆弱性顕現試行《ワン・アヘッド・リーディング》を発動した。
「距離50、潜在的不全点を確認。脆弱性を|標記《マーキング》」
狙撃銃「WM-02」から発射された弾丸は、敵群のより最適な位置へと着弾する。強制的に弱点を発生させる力を持つ弾丸は、着弾地点を中心に軍隊の決壊を加速させるポイントを生み出した。ポイントについて報告する必要は無い。
(「和紋さんならどこが弱点か勘と言われるもので理解できるでしょう」)
自分は発生した弱点に弾丸を撃ち込み続ければ良い。スナイパー技能を駆使し、弱点を狙う狙撃で行動を阻害する。その妨害こそが、敵を追い詰めるための要となる。
蜚廉はフォーの攻撃を見逃さない。
「決して無駄にはせぬ」
弱点が露わとなる響きを拾い、射撃から身を守ろうとする敵の意思を感知する。
「――その衝動、嗅ぎ取った」
掴み取るのは弾丸によって刻み込まれた脆さ。重量を乗せ拳や蹴りを叩き込めば、石像は真二つに割れる。
瓦割りの如く砕かれながらも、敵は捨て身で攻撃せんと腕を振り上げた。だが、失認した足では転げるだけ。炎を操ろうとしても、石の身が邪魔をして延焼を阻んだ。
「足枷となる姿は滑稽だな。花も兵も燃やしはさせぬ」
混乱する石像の群れに対し、フォーも攻め手を緩めない。
「ええ、花畑にも仲間にも指一本触れさせはしません」
援護射撃を続けていると、敵が助けを求めるように手を上げた……かと思いきや、炎を纏った剣をフォーに向かって投擲する。弾の方向から彼の位置を予測したのだろう。
しかし、彼は既に理解していた。その剣は届かない。
「右方向、約10m先に落下」
石の剣が虚しく地面に落ちる。フォーは距離、射程、軌道、すべてを正確に捉えている。狙撃手の計算能力は伊達じゃない。
「次弾、射撃」
銃口から閃光が走る。弾丸は切り裂くように飛び、罅割れた石像たちを容赦なく貫いた。
蜚廉とフォーの度重なる攻撃が、敵陣を崩してゆく。
●炎が届かぬように
「足止めは上手くいったみたいだね」
敵の姿は視認できる位置にあるが、まだ花畑には到達していない。クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は、彼らの前に立ち塞がった。花畑に被害が出る前に倒し切ってしまいたい。
「それにしても、配下にまで炎を使わせるとは徹底しているね……」
そうまでして燃え盛る景色を見たいのか。クラウスには理解し難い感情であった。美しい場所を燃やして無くして、一体何になると言うのか。
「花畑に手出しはさせない」
手を天に向けて掲げた。このような暴挙は必ず止めてみせる。
石像の群れは落とし穴に落ち、進軍を遅らせている。彼らへとクラウスは狙いを定めた。魔法の力を編み上げて創造するのは数多の氷柱。それは七色に煌めいて、その尖端を敵へと向ける。
(「雨のように降り注げ」)
心の中で力強く念じれば、氷柱は|虹色の雨《ニジイロノアメ》となった。無数に降り注ぐ雨は、その一つ一つが穿つ槍となり石像を打ち砕く。それだけではない。氷の力を宿した雨は地面に突き刺さり、敵の足元を瞬く間に凍結させた。
滑り転げながらも石像たちは前に進もうとする。
「アミー様の、ために……!」
魔導書を手に彼らは反撃体勢を取った。炎を纏い、凍結した地面を溶かしながら突進する。
「水精、力を貸してほしい」
水の精霊に語りかけると共に魔導書を開いた。厚い水壁を生み出し、敵群を包み込む。水魔法の属性範囲攻撃だ。
(「ただ勝つだけじゃ足りない。愛されている花畑も、しっかり守りたいんだ」)
炎は相殺できた。あとは自ら壁になり、花畑への侵入を防ぐのみ。水壁を強引に抜けた敵の脚部をスタンロッドで殴り付け、破壊することで機動力を奪う。
「この先には行かせない!」
火炎耐性、霊的防護、エネルギーバリア。己が持つ防御手段を駆使し、次々に攻め寄せる攻撃を耐え凌ぐ。
すべては、花畑を守り続けるため。
●舞を踊るように
硬い足音を響かせて星海に近付く無数の石像。炎を纏うその様は、見ているだけでもひり付く熱を思わせる。
「細工はうまく働いてくれましたね。それにしても……進軍してくる火を纏った岩塊ですか」
ミユファレナ・ロッシュアルム(ロッシュアルムの赤晶姫・h00346)は、蠢く石像たちを真っ直ぐに見据えた。
並び立つ|弓槻・結希《ゆづき・ゆき》(天空より咲いた花風・h00240)も、その瞳に敵の姿を映し込む。
「頑強なる岩の体躯と、烈火を纏う武具。まさしく難敵、この美しい花畑を護る為には果敢にと攻める必要がありますね」
星屑花たちが踏み荒らされぬよう、舞い散る炎の余波で燃やされないように。
結希の言葉は柔らかく、それでいて確かな意志を宿す。ミユファレナは力強く頷いてみせた。
「近づけさせたくないですし、ここは共に前に出ましょうか」
彼女は凛と前に踏み出した。その所作には僅かな迷いも存在しない。臆することなく石像の軍勢と対峙する。すべてはこの美しい星海を守るため。如何なる敵であろうと立ち向かってみせると、ミユファレナは心を固める。
「ええ、花畑へと近づけない為に私も蒼穹剣を手に前へと出ましょう」
水の属性攻撃を流水と纏わせ、結希も蒼穹剣『レガリア』を構えた。
蠢く石像たちが二人の姿を視認して、暗い石の眼に敵意を浮かべる。肌に刺すような殺気にも決して怯まず、結希は|彩に溢れる花風《ビビッド・ウィンド》を巻き起こす。
「風よ、花よ。その色彩をもって、私の道をお守りください」
空中を翔び、一陣の風の如く距離を詰める。水の魔力を纏った斬撃が、弧を描くように閃いた。流水の煌めきは花弁の如く舞い上がり、石像たちを二度斬り裂く。
武器に纏う炎が弱まってもなお、敵は反撃を繰り出した。
反撃に振るわれた石剣の軌道に合わせ、結希は柔らかに流水の剣を振るう。
「周囲に呪いを振り撒かれるわけにはいきませんから」
呪いを発動させるわけにはいかない。清らかな水で洗い流すように攻撃を受け流す。次いで重ねる魔法剣技には、多重詠唱をのせた。水から氷へと魔力を変化させ、凍てつく氷刃で石像の動きを鈍らせる。
(「隙さえつくればミユファレナさんの天の刃が斬り裂くはず――」)
言葉を交わさずとも、結希とミユファレナは互いの思惑を理解している。
(「結希さんは柔らかな言動からは想像もつかない研鑽によって磨き上げられた動きですね」)
身体がそもそも違う。見た通りの同じ動きなどもってのほかだ。だが、結希ほど剣技に精通しておらずとも、ミユファレナにはとっておきの技がある。
「王の刃 大地と天空の刃 栄光なる紫刃よ この手に来たれ!」
闇を照らす光輝がミユファレナの眼前に注いだ。大地に突き立てられた光刃を抜き放つ。|天剣招来《レディアント・ソード》――それは神秘の結晶、天空離宮の魔力が凝縮された天剣である。
結希の剣技から得た学び、持ち前の目の良さと記憶力を生かし、自分が進むべき道を導き出す。
「結希さんが拓いてくれた路に、燦然たる天の刃を咲かせましょう!」
結希が拓いてくれた勝機を必ず掴む。強き想いと共に剣から溢れる魔力を纏い、石像の群れへと切り込んだ。輝晶散砕は再燃する炎を消し飛ばし、硬い装甲を深く突き穿つ。
舞うような二人の連撃が、敵の軍勢を斬り倒していった。倒した奥から新たな敵が攻め寄せる。
戦闘態勢は決して緩めずに、結希がミユファレナへと穏やかに語りかけた。
「不思議と負ける気がしませんね。ですが、油断せずに続けましょう」
結希の言葉に、ミユファレナも天剣を構え直す。
「そうですね。敵が全員倒れるまで、気を抜かずに戦い続けますよ」
二人は互いに目配せし、互いに呼吸を合わせながら石像たちを崩してゆく。
●浄炎
宵闇の中で赤い炎が揺らめく。それは大きな波のようにうねり、石像の軍勢と共に押し寄せる。
(「いよいよこの時がきた」)
|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)は払暁を抜刀する。宵に浮かぶ濃紺の刀身は星屑花の光を受け、夜明け前の星空のように煌めいた。
払暁を握る手が汗ばむ。刀が発する炎熱を感じながらも背筋に走る悪寒。その正体に、陽は気付いていた。
石像の群れを操るエリナ。彼女は炎の中で笑っている――悪意ですら超越した狂気の瞳を輝かせながら。
『いずれ目で解るようになる』
警察官になったばかりの頃、先輩から聞かされた話を思い出した。刑事が追わなければならぬ相手は、普通の者とは違う『目』をしているのだと。
「……最近は俺もその言葉が解るようになってきた……善悪すら超越した狂気は、どうにもならないんだ」
花畑を燃やそうとしているエリナもその類なのだ。だから戦うしかない。
払暁が激しい光輝を放つ。暁光の如く赫灼たる黄金の光焔は、狂炎に揺れる宵闇を照らし出した。
「君が破壊の炎を以て他者を傷つけるというのなら、俺はこの炎を以て護ってみせると誓おう」
石像たちが炎剣を振り上げ陽へと迫る。その炎を恐れず、陽は刀を手に突き進んだ。振るわれる敵の剣を斬り払い、弾き飛ばし――攻撃を耐え凌いだその先で、|暁降《ソール・オリエンス》を発動する。
この炎は破壊のためのものではない。そのような炎ではありたくない。炎を滾らせる理由は、狂気に身を任せるためではない。
「この炎は、守るためにあるんだ!」
宵闇に黄金が咲く。夜明けの一閃は暗夜を切り裂き、石像と彼らの狂炎を黄金の光焔で焼き尽くした。
眩い金色の中で、陽は想う。強く、揺るぎなく。
(「願うなら夜に希望を灯すような優しい炎。そう、ありたいんだ」)
この焔は破壊のためではなく、大切なものを守るために燃え続ける。
●おともだちと一緒に
数々の罠や√能力者たちに阻まれ、石像の群れは前進できずにいる。
|九枢《くくるる》・|千琉羽《ちるは》(|おともだち《インビジブル》に囲まれて・h02470)は、岩陰から敵の群れを見つめていた。
「星のお花、もえなくてよかった……でも人がもえるのもだめなの。火あそびするのはわるい子なの……」
囁き声は岩陰に消える。石像たちに聞かせる必要はない。言い聞かせても、きっとわからないだろうから。千琉羽は隠れ潜んだまま、|ひらひらのおともだち《ヒラヒラオヨグインビジブルタチ》へと呼びかけた。
「ひらひらさん、わるい子がいっぱいきたの、力をかして……」
魚の形をしたおともだちが、ひらひらと泳いでくる。彼らが消えてしまわぬよう、彼女はクッションに座ったままじっとしている。傍に来たおともだちへと、千琉羽はお願いをした。
「石の人のこうげきが外れると、呪いがぐるぐるしちゃう……そしたらみんなこまるよね。ひらひらさん、おねがい……こうげきを受けてはねかえして」
おともだちは千琉羽の言葉を聞き入れる。彼らは群れを成し、敵群へと泳いだ。石像たちを攻撃し、反撃の邪魔をする。
1体の石像が隠れている千琉羽を感知した。燃える剣を持ち、近付いてくる。それでも彼女は動かなかった。動けばおともだちが消えてしまうし、呪いも発動してしまう。くまのぬいぐるみをぎゅっと抱いて我慢の構えだ。
「あつくて、いたいけど……くまさんといっしょなら平気なの……」
剣が振り下ろされる。ぬいぐるみの守護の力が千琉羽を守ってくれた。石像が再び剣を振るおうとするも、新たに出現したおともだちに攻撃されて崩れ落ちる。
「ひらひらさん、ありがとう」
おともだちは、ぱくぱくと口を開閉させたあと、別の敵へと向かっていった。
「うん……石の人、まだいっぱいだから、がんばるね」
千琉羽はこくりと頷いて、新しいおともだちを呼ぶために意識を集中させた。
●石身を割る
進軍を阻まれながらも、石像たちは宵の星海を目指す。彼らは硬い石身の内に邪悪な魂を宿したかの如く歩み続けていた。威圧感すら思い起こさせる進軍だ。
「まってまって、なんか石動いてない!? えーー無理無理、どうやって攻撃しよう?」
ドン引き! と言わんばかりに|冷・紫薇《⋆*✲ろん・ずーうぇい✲*゚》(沦落織女・h07634)が眉を寄せた。|鐘音・ちりん《べるね・ちりん》(すとれいしーぷなヒツジ飼い・h08665)も、迫る敵群をジッと見つめる。
「石像が動いてる……ふだんうごかないものがうごいてるってブキミだよね」
「めぇ」
警戒するように眠り羊が鳴いた。|水縹《みはなだ》・|雷火《らいか》(神解・h07707)が同意するように頷いて、敵から間合いを取る。
「動きそうにないものが動くのって確かに不気味だな、とっとと片付けて終わらせよう」
石像が真っ直ぐに進んでくる。強引に突破するつもりなのだろう。そうはさせまいと三人は戦闘態勢を取った。
ちりんは|ひつじすたんぷ《ヒツジノチョキ》を発動し、羊と完全に融合する。
「よし、これでばっちり!」
ヒヅメになった手をカチカチと打ち鳴らす。前衛を張り、敵を確実に討ち取る構えだ。
姿を変えたちりんに、雷火がぱちりと瞬いた。
「え、ちりんそんなことも出来るのか? いいなぁ、なんか強そう。そのカチカチする羊足とかでパンチしたら結構な威力出そうだ」
ヒヅメはいかにも堅そうだ。
「……なんかちりんちゃんがすごいことしてる! 負けてらんないぞー!」
紫薇は醉花扇を広げ、気合を入れる。華やかな所作で扇げば、甘い酒と花の香りが戦場に広がった。
石像の軍勢は炎剣を掲げ、その身に炎を纏った。ダンジョンを照らす赤い炎に、ちりんがハッとする。
「え、ほのおぉ……? はっ、ジンギスカンの危機!! 気を付けなくちゃ」
まわりの羊たちも、めぇめぇと反応していた。着火されたら焼肉になってしまう。ちりんは石像へと距離を詰めた。石像が剣を振るう――軌道を予測し、ギリギリのところで避ける。毛先がチリリと燃えるが、この程度であればすぐに消える。構わず硬いヒヅメを繰り出した。
「くらえ、かたいひづめアタック! ぼくのヒヅメとあなたたちと、どっちがカタいか勝負だね!」
打ち込まれたヒヅメが石像を砕いた。その最中にも、別の石像が彼女を取り囲もうとする。
「わ、いっぱい来るねぇ。避けきれないかも……けど、だいじょうぶ!」
痛いのも死ぬのも怖くない。ひつじさんたちと、一緒だから。
もちろん、ジンギスカン鍋にのせられた羊肉のように食べられては困るけれど。
「まあいいや、きにせずつっこむよぉ! ひつじさんのいかりの頭突きもセットだよぉ」
「メェーッ!」
羊は頭突きでコミュニケーションを取るのだとか。ひづめアタックに加え、脆くなった箇所への頭突き突進により包囲網を突破する。
ちりんの猛攻に、雷火は天雷の力を体内に巡らせながらも感心する。
「すごいな、暴れ羊だ。……そういえば、ジンギスカンって羊の焼肉だっけ? ちりんの羊ってそもそも食用なのかな……」
雷火は思う。可愛さに全振りな羊だが、ちりんの羊は良い物を食べていそうだから意外と美味そうだ。……いや、そんな無駄なことを考えている暇はないだろうと、雷火は思考を切り替える。
「前衛にちりんが立ってくれてる。俺も情けないとこ見せられないよな」
数多もの稲妻が彼の周囲を取り巻いた。後方から敵軍の流れを見極めて、雷火は|神解《カムトケ》を解き放つ。
「天を趨れ雷霆よ、常闇を穿ち祓え!」
常闇を穿ち祓う天雷が石像の群れを突いた。彼を中心に広がる神雷は、石の軍勢を激しい光の洪水で搔き乱す。降り注ぐ雷に石身を砕かれながらも、石像たちは雷火に攻撃せんとする。だが、天雷の力を前に剣は届かず、呪われた石の体は辿り着く前に破壊され、地面へと崩れ落ちた。
「剣も呪いも、天雷で全部消し飛ばしてやる!」
発生した呪いごと聖浄なる雷撃で貫いてゆく。邪を祓う雷光は、視界に焼きつくかの如く眩しい。今や星海を照らすのは星屑花だけではない。幾度も光る稲妻に、紫薇のテンションも爆上がりだ。
「すっごい雷ゴロゴロ鳴ってるね! 盛り上がって来たーっ!」
光の間を走り抜け、石像の群れへと突撃する。広げた醉花扇で敵陣を割り、|瑤華《ヤオホワ》の舞を踊った。
「テン上げのまま踊っちゃえ~! 石の人形でも踊れるっしょ? え、ムリ? そんなの関係ないし!」
凝縮された霊力を内に宿す霊扇『醉花扇』。扇が優美に舞う毎に、衝撃が石像を穿つ。乱れ羽ばたく蝶のように、紫薇の扇は彼らに壊滅的なダメージを与えていった。
狙い所はもちろん考えている。視界を奪う目潰しに、機動力を奪う足潰し。生身でない石像にどれだけ効果があるか不明だが、人の形をしているなら人の弱点を狙いたい。人体で言うアキレス腱を扇で砕いた。石の体が大きく揺らぐ。
「姑息、な……!」
1体の石像が炎剣を振ると同時、紫薇に罵声を浴びせた。
紫薇は扇で剣を受け止める。赤炎が眼前で激しく爆ぜた。
「うわっあっつーい! やだやだ、何かダーリンの元奥さんの火あぶり思い出すわ」
紫薇はこんな時でも昔を懐かしむ。姑息と言われようが、痛くも痒くもなかった。
「なにそれ褒め言葉? こちとら伊達に悪女やってないんだわ」
剣を押し返せば生じた敵の隙に、扇の一閃を叩き込んだ。
敵陣に突っ込んで暴れ回るちりんと紫薇。石像たちが包囲を試みるも、雷火の神解がそれを許さない。
「二人のことはそう簡単にやらせない。それが仲間ってものだろ?」
敵の進行を阻むように雷が降る。思わず足を止めた敵を、すかさずちりんがヒヅメで叩き潰した。
「雷火くんが雷でお掃除してくれるから戦いやすいよぉ」
前に進もうとする敵を紫薇が扇で薙ぎ払う。風の斬撃に刻まれて、石像たちは粉々に吹き飛んだ。
「雷火くんってば漢気~! この調子でキレーなお花守ってこ!」
三人は互いに得意の技で連携を取り、着実に敵の数を減らしてゆく。
●鎮め雨
石像の軍隊と√能力者たちが衝突する。ぶつかり合う両者の間で、苛烈な炎が吹き上がる。だが、その炎は星屑花には届いていない。まだ守れる――。
ノア・アストラ(凍星・h01268)は、進軍しようとする石像たちを確と見据える。
「早速やってきたか。動く石像とは、またいい趣味をしている」
前衛は他の仲間や王国軍が張ってくれている。それならばと、彼は銀花を煌めかせた。
「僕は後方からの支援を。能力的にもその方が適任だろう」
純白の結晶たちが浮かび上がる。氷の花はふわりと舞い、触れる空気の温度を急激に低下させた。数多の氷晶が宵闇の中できらきらと輝く。魔力を巡らせれば、それは敵へと注がれる氷刃となる。
「――降り注げ、氷の雨」
言の葉と共に|氷雨《フロストスコール》が放たれた。ノアの意思を宿した氷晶は寸分の狂いも無く、敵陣を氷の雨で覆い尽くす。突き刺さる氷晶は敵の足を凍結させ、地面へと縫い留めた。魔導書にも氷の先端を突き立て、その使用を妨害する。
石像たちの進軍がより遅くなる。だが、エリナは不気味なほどに穏やかな表情を崩さない。
「大丈夫よ。どんなに阻まれても、あなたたちの炎は燃え続けるわ」
彼女に煽られ、石像たちはその身を炎に包んだ。火達磨の状態で突進する彼らへと、ノアは冷静に狙いを定める。再び氷雨を降らせ、1体、また1体と的確に炎を撃ち消してゆく。
「この先へは一歩足りとも行かせないよ」
それは石像たちだけでなく、エリナに対する言葉でもあった。ノアは澄んだ青い瞳にエリナを映す。
(「……彼女からは、炎のように燃え上がる狂気を感じる」)
苦痛と悲愴を齎す穢れた炎を、氷雪の力を以て必ずや鎮めてみせる。
炎熱が空気を焦がす――ひり付きを肌に感じながらも、ノアは力強く紡いだ。
「貴女が炎で全てを喰らうのならば、僕がその炎を凍てつかせ、止めてみせよう」
●崩れゆく者たちへ
魔導書と剣を手に、その身を炎に巻いて、石像の軍隊は行進し続ける。√能力者たちの事前準備の甲斐あって、敵勢は激しく消耗していた。それでも痛みを知らぬ兵士の如く突き進む。
「来ましたね。皆さん、一緒に星海を守り抜きましょう」
箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)は王国軍の人々へと呼び掛ける。
「ああ、共に守り抜こう!」
「えい、えい、おーっ!」
仄々の声に応え、軍人たちが武器を高々と掲げた。その様子に仄々は笑みを浮かべつつ、アコルディオン・シャトンを構え直す。
「素敵な掛け声です。私もさらに力が湧いてきました」
花畑を守るように立ち塞がった。迫り来る石像の群れを瞳に捉え、アコーディオンに指を走らせる。再び国歌の演奏だ。国を想う民の心、民を守る国という存在。力強い演奏が皆の戦意を高めてゆく。
「どんなに石像さん達が大勢いても、音楽が戦う勇気と力を与えてくれます」
そしてそれは気持ちを盛り上げるだけではない。敵に対しても効果を発揮する。
「それでは元気よく、勇猛果敢に、お届けします♪」
|たった1人のオーケストラ《オルケストル・ボッチ》の力を、国歌の旋律へとのせた。魂を震わせる音色が響き渡る。星海へと至る通路全体に拡がる響きは、石像の身をガタガタと振動させた。石身だけではない。彼らの持つ魔導書が、剣が、身に纏う炎までもが、ぶるぶると震度七で揺れ始める。
激しい振動の中でも、石像たちは仄々の体を切り裂かんと剣を振った。
「ひょいひょいっと」
演奏のリズムに乗り、攻撃をぴょんっと躱す。敵の動きは振動で鈍くなっている。加えてぶるぶる震えるリズムに合わせれば、このとおり!
一方で、軍人たちは音波消火器を石像から守ってくれている。おかげで音波消火器は正常に働き、炎が花畑に燃え移るのを防いでくれた。
「皆さん、守って下さってありがとうございます」
仄々も鎮火に助力しているが、皆が守りに徹してくれるならば、石像を砕くことに集中できる。
視界の中心に石像の軍勢を据えた。彼らは取り落とした武器を拾おうとしているが、体が震えて思うように動けずにいる。
「上手く拾えないようですね。狙いどおりです」
炎の勢いが少しずつ弱まっている。あともう一押しだ。
仄々は自慢の髭で敵の固有振動数を察知し、合致する周波数を組み込んだ音色を演奏に上乗せする。
「石像さん達の行進も、そろそろフィナーレのお時間ですよ」
共振が起こり、増幅された振動がさらに大きく石像たちを震わせた。あまりの激しさに耐え切れず、ガラガラと音を立てながら崩れ始める。
じきに消えるであろう残り火を置き去りに、蠢く石像の軍勢は完全に崩壊した。
「どうか安らかに眠ってください」
たとえ敵であっても、死した者への祈りは決して忘れない。エリナの手駒とされた彼らを悼みながら、仄々は演奏を続ける。音色を鳴り響かせ、精神を研ぎ澄ます。次なる戦いはすぐそこだ。
第3章 ボス戦 『煽動者『エリナ・エルランジェ』』
●
炎がどれだけ激しく燃え上がっても、√能力者たちが消してしまう。一向に燃え広がらない状況に、エリナは悩ましげに溜息をついた。
「困りましたねぇ、そんなに炎がお嫌いなのかしら?」
ウィザードロッドを手で遊ばせながら考え込むが、それも束の間。何やら思い付いたらしく、虚ろな瞳を見開いた。
「……あっ、わかりました! 石像程度が生み出す炎では、火力が足りなかったのね?」
己の答えを信じて疑わない。ウィザードロッドを一際激しく地面へと打ち付けて、彼女は新たな信者の軍勢を召喚する。彼らは火炎瓶や燃える松明を持つ煽動された一般人だ。
「やはり火を放つならばこうでなくてはね。さあ、敬虔な信者たち! 私に心を委ね、かの敵を滅ぼし、そして――」
エリナがウィザードロッドを一振りすれば、手近にいた信者の一人が燃え上がる。
「私の為に、燃えて頂戴?」
轟々と盛る炎の中で、炎上した信者は骨まで焼かれながらも「アミー様万歳!」と高らかに叫んだ。その歓声を皮切りに、信者たちは花畑を守る者たちへと一斉に襲い掛かる。
●水の如く
炎に心を焼かれた信者たちが続々と迫り来る。彼らが煽動された一般人であることも厄介だが、彼らの持つ武器もまた面倒この上ない。
(「松明も火炎瓶も撃ち抜いても炎上する可能性がある。さて……」)
銃での狙撃は危険か。フォー・フルード(理由なき友好者・h01293)が思考を巡らせる中、|和紋・蜚廉《わもん・はいれん》(現世の遺骸・h07277)は次の一手を決めた。
「燃やしたい衝動など、この大会の熱に押し負けてしまえばそれで終わりだ」
|あの夏をもう一度《チョウキョダイホース・キュウジュウキュウ》。記憶の中の水鉄砲大会を語れば、思い出の会場が戦場へと再現される。
蜚廉が創り出した光景に、フォーは息を呑んだ。
(「そんな力もあるのか……多彩ですね……」)
「汝は動きを食い止めよ。我が水流で押す間に捕らえるのだ」
状況に応じ使い分けできるよう、蜚廉はBIG水鉄砲、通常、ミニと三種の水鉄砲をフォーに渡す。蜚廉の能力に驚いていたフォーだったが、思考をすぐに切り替えて水鉄砲を受け取った。
「ありがとうございます。作戦についても把握しました」
|予測演算射撃機構《セルフ・ワーキング》を発動する。未来予測属性の弾丸を水鉄砲から射出し、信者たちの行動を予測する。
蜚廉も超巨大ホースを召喚し、がっしりと掴んだ。
「噴き出す水圧で信者も炎も押し流そう」
信者の進軍を防ぎ炎も消せる。こんなにも依頼にマッチする√能力があったとは。ホースから勢いよく噴出した水が人々へと衝突する。
「わっぶ!?」
「グワアァッ!?」
エリナから√能力の加護を受けているとはいえ、結局は一般人だ。水圧に逆らえず流される。仲間が水に流されたのなら、水の影響を受けていない人々も浮足立つ。すかさずフォーが狙いを定めた。
「このタイミングで仲間が攻撃を受ければ、当然動きを止める」
位置も誤差許容範囲内。足を止めた彼らへと射撃する。水は信者たちの松明や火炎瓶を正確に撃ち抜き、炎を無効化していった。
炎を消され、信者たちが大切な物を奪われたように激怒する。
「炎が消えちまった!」
「おのれ! こうなったら――」
彼らはフォーを攻撃しようとするが、気付けば何処にもフォーの姿が見えない。何処に行ったと探すより先に、松明を持つ腕に強い衝撃を受ける。
落ちる松明の向こうで景色が揺らいだ。近接戦闘システム「Steal & Ditch 」を起動したフォーが、迷彩で身を隠し肉薄したのだ。フックを打ち出し、ロープで彼らを拘束する。
「命までは取りません。大人しくしていてください」
信者は一通り押し流せた。視界の端に捕縛された信者たちを捉えつつ、蜚廉はひしゃくを手に構える。このひしゃくはただのひしゃくではない。大会で幾度も勝利を獲得した特別なひしゃくだ。
「語りの主は我だ。汝の炎ごと、このひしゃくで終わらせよう」
たっぷりと注がれたひしゃくの水面は、激しい戦闘にも関わらず静かだ。
「水……気に入らないわね。あなたも美しい炎が見たいとは思わないの?」
エリナが腰の青い宝石に魔力を込めんとした――が、途中で止め、宝石を守るようにウィザードロッドを構える。フォーのカスタム拳銃「Gr-429c」の弾丸が杖に当たり、眩い光を放った。
「素早い反応ですね。ですがこれで、妙な光で心を乱されることもないでしょう」
フラッシュライトがエリナの視界を覆い、彼女へと隙を生じさせる。
蜚廉は擬殻布を纏い、炎の残り香と水の音に気配を溶かした。
(「――流れる水のように、速く」)
勢いを増した水流に身をのせ、宙を翔ける。眼下に捉えたエリナの頭へとひしゃくを振り下ろした。
「破壊のみを宿す汝の炎は、一見にすら及ばず」
水の重みと共に叩き込まれた衝撃が、エリナの体を激しく揺らす。
エリナを中心に炎が盛った。それは彼女の狂気そのものだ――破壊の炎へと、蜚廉とフォーは立ち向かい続ける。
●狂炎との対峙
凄惨な光景に、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は眉を寄せる。
(「……狂ってる」)
エリナ本人も、燃やされることを喜ぶ信者たちも狂っている。到底理解できるものではない。理解したいとも思わない。硬い表情のクラウスへと、エリナが虚ろな微笑みを向ける。
「さあ、あなたも。美しい炎に身を任せて」
エリナの腰にある青い宝石が燃えるように光った。その妖光はクラウスの衝動を強引に揺り起こそうとする。
(「――燃やしたい? この場所で、一体何を燃やすというんだ」)
問えばエリナは答えるだろう。花畑を、クラウスを含め場にいる人々を燃やしたいと。わかっている。だが、そんなものは認めない。炎が嫌いなわけではない。食事を作るにも暖を取るにも必要で、生きる上で大切な存在だから。
クラウスは精霊燈火を凛然と掲げた。内側で小さな水の蛇が歌う。
「悪いね、炎は嫌いじゃなくても燃やされたいとは思わないよ」
炎に惹かれる心を抑え込み、|水精の子守唄《ララバイ》を発動。水精の力から創造した癒しの水泡を、周囲の信者たちへと放った。水泡は彼らを包み込み、その動きを止める。彼らは一般人だ。殺す気はない。
「……更生の目があるのかはわからないけど、それはこの世界の人達に任せよう」
体内の魔力を日本刀の形に錬成し駆け出す。動けぬ信者の間を縫うように走り、エリナへと接近した。
(「彼女自身の戦闘力はそこまで高いようには見えないけど、炎を扱う力は厄介だ」)
エリナがウィザードロッドを振るった。クラウスは抜刀し、刀を杖へと打ち合わせる。杖を弾き、次いで繰り出す太刀捌きでエリナの体を斬り裂いた。杖から発せられた炎がクラウスへと降り注ぐが、防御手段を駆使して被害を抑える。
「痛いわ……傷口が燃えるよう……」
エリナは薄く笑う。
「……狂ってる」
先程は心に収めた言葉を、クラウスは躊躇うことなく口にした。
●ねがいごと
岩陰に隠れていても、エリナが放つ炎熱の気配がはっきりと伝わってくる。
炎を反射する|おともだち《インビジブル》が、一匹、また一匹と消えていった。|九枢《くくるる》・|千琉羽《ちるは》(|おともだち《インビジブル》に囲まれて・h02470)は、くまのぬいぐるみを腕に強く抱き、すっくと立ち上がる。
(「ひらひらさん、消えちゃった……なら、こんどはわたしががんばるの」)
勇気を出して、狂気の炎を身に纏うエリナとその信者たちに歩み寄った。千琉羽に気付き、エリナが柔らかに表情を綻ばせる。
「あら? 可愛らしいお嬢さん! あなたも炎が見たいの?」
ウィザードロッドは構えたまま。隙を見せないエリナに、千琉羽はそっと問いかける。
「エリナさんに、きいてみたいことがあるの」
「何かしら?」
「どうしても、もやしたい……? そのときはとってもきれいかもしれないけど、もやされたお花はなくなって、信者さんだってもえたらいなくなっちゃうの。……それでも?」
エリナがどんな気持ちか知りたい。聞いてもきっと理解できないだろう。それでも彼女の言葉を聞きたいのだ。
「もちろんよ。全ての命に燃やす価値があるわ。美しい炎を咲かせるためにね」
エリナは真っ直ぐに答えた。
「そうなの……」
千琉羽は思う。やっぱり、わからなかった。
理解できないなら、エリナを止められないなら、花を守るために行動するしかない。
千琉羽は宙に漂うおともだちへと手をさしのべる。
「わたしをたべて」
その声を聞いたおともだちが、一斉に千琉羽へと喰らい付いた。肉を食まれる激痛を感じるけれど恐怖は無い。
(「無敵のデパスザウルスが、エリナさんをきっととめてくれるはずだから。そのためなら、わたしをぜんぶあげる。だからどうか……」)
お花畑とそれをみにくる人のきもちをまもれますように。
肉体は死亡し、願いだけが残る。残った願いは無敵獣へと形を変えた。鋭き咆哮は衝撃となり、エリナに容赦なく降り注ぐ――。
●白で覆う
炎には様々な側面がある。使う者の意思によって、その姿を変えるのだ。
エリナの狂炎を見つめながら、ノア・アストラ(凍星・h01268)は言葉を紡ぐ。
「炎が嫌いな訳ではないよ。人々にとって必要なもの、暖かな灯火。僕の想像する炎はそれだ」
「私の理想とは違うようね、残念」
残念と言いながらもエリナの顔から笑みが消えることは無い。異常な精神構造を窺わせる暗い眼を、ノアは真っ直ぐに見つめた。
「使い手が違えば、それは脅威となる。……僕の扱う氷も同じこと。でもあなたには……それが必要なようだな」
|氷霊の舞《フレイシャ・アシミレイション》を発動する。召喚された護霊「フレイシャ・ネージュ」が、ふわりと雪のように降り立った。
「舞い降りて、その力を示せ。――破壊を齎す炎を共に祓おう」
編み上げられた魔力が氷槍を形作る。白銀の冷気を纏う槍の切っ先が、信者とエリナを確と捉えた。
「アミー様のために!」
松明を手に信者たちが迫り来る。彼らが動く度、盛る炎が周囲へと撒き散らされる。
(「あの炎が花畑に届く前に鎮火しなければ」)
ノアの思考を読み取り、護霊が形成した氷槍を投擲した。信者たちが持つ松明や火炎瓶を打ち砕く。凝縮された氷の魔力が炎の熱を奪い、地面に落ちる頃には炎を鎮火させた。
護霊の攻めは終わらない。再び解き放たれた氷槍は放物線状に軌道を描き、落下地点にいるエリナを狙った。
(「彼女を此処で討ったとしても、心変わりすることはないだろうね」)
ノアは思う。己の信者を躊躇なく燃やすエリナは常軌を逸している。だがこの戦いは決して無駄ではない。人や花畑が焼け落つ姿を、これ以上見なくて済むのだから。
氷槍がエリナの体を貫く。深く、鋭く。
「幾ら足掻いたとて、もうあなたの炎は燃え広がらない。火種ごと消え去ってくれ」
降り積もる雪が枯木を白で包み、呑み込むように。彼女の魂と炎を、氷雪の底へと鎮めよう。
●響く雷鳴、眠りへの誘い
躊躇なく自分の信者を燃やすエリナ。そしてそれを歓喜と共に受け入れる信者たち。異常としか言えない光景に、|水縹《みはなだ》・|雷火《らいか》(神解・h07707)は憤慨する。
「あいつ、狂ってるのか。仲間をなんだと思ってるんだ!」
「アミーだかエリナだか知らないけど激ヤバじゃん……さすがのあたしもドン引きだよぉ」
あまりにも刹那的過ぎる。|冷・紫薇《⋆*✲ろん・ずーうぇい✲*゚》(沦落織女・h07634)も、エリナの狂人っぷりに呆れてしまった。
信者たちが松明や火炎瓶を手に走ってくる。|鐘音・ちりん《べるね・ちりん》(すとれいしーぷなヒツジ飼い・h08665)が、あわあわと声を上げた。
「わぁ、信者さんたちー! だめだよ、だめだってば! お花は踏まれただけでも二度とはえてこなくなっちゃうぐらい、せんさいな子たちもいるんだからぁ!」
「ウオオオッ!」
「燃やせ、燃やせ! アミー様のために!」
信者たちは聞く耳を持たない。
「……って、もやそうとしてるひとたちにいってもむだかぁ……」
ちりんは残念そうに眉を下げる。眠り羊たちが彼女を励ますように、めぇめぇと鳴いた。
「何か信者をあそこまで引きつけるような能力が多分あるはずだ」
雷火が鋭い眼差しを敵に向ける。容姿や話術だけではない。絶対的な力があるはずだと、彼は思考を巡らせる。
それについては紫薇も同感だ。
「そうだね。とりま信者に手は出さないカンジでいこーかな」
ホントは信者の命とかはどーでもいいんだけど。心の中で呟くが、幽霊になってまで愚行は重ねたくないので命は取らない方向だ。
ちりんは気を取り直し、信者たちの進路を塞ぐように位置を取った。
「とりあえず、ふわふわのひつじさんたちに、空から信者さんたちにとつげき! してもらおう!!」
眠り羊の群れがふわりと浮かぶ。戦闘態勢の羊たちに、ちりんが声を掛けた。
「みんな、できるだけお花を傷つけないように気を付けてね!」
「め~!」
「メェッ!」
|ぜんぐんとつげき!《フルフィー・フルアタック》
羊の群れが迫る信者へと突撃した。襲い来るふわもこの羊に、信者たちはもっふもふにされる。
「ぶわっ……」
「もこもこッ!」
羊に襲われる信者たちを見て、エリナがくすりと笑った。
「可愛らしい羊さんね。けれど、それで私の信者を誘惑してはだめよ?」
腰の青い宝石から妖しい光を放つ。
「燃やしたい衝動……催眠術みたいなものかなぁ? それならこっちも催眠術で対抗するよ!」
心の変化に警戒するちりん。衝動に流されないよう気を強く持ちながら、眠気のもやを発生させた。ふわふわした霧が信者たちを包み込む。
「ひつじさんがいっぴき、ひつじさんがにひき……あ、英語でやらないと意味がないんだっけ? まぁ何でもいっかぁ」
全員とまではいかずとも、信者たちにはしっかりと効果が出ているようだ。
「羊さん、あったかい……」
羊を抱いて眠り始めてしまう信者続出。
「お前ら! アミー様より羊の方がいいってか!?」
「不敬!」
他の信者たちが激怒している。そんな彼らへと、紫薇が冷めた声色で話し掛けた。
「……てかそのエリナよりあたしの方が美人。マジでさ〜残念だなぁ信者チャンたち。見る目無さすぎ!」
「なんだと!?」
怒りの矛先が向くが、紫薇は意に介さない。時折向けられる雷火の冷めた視線の方がずっと痛い。どうでもいいモノを見るような視線を信者たちに向けた。
「じゃーその見る目を曇らせよ。ちりんちゃんたちが眠らせるんなら、あたしは疑心暗鬼になっちゃう雷どーん!」
|霆雲《ティンユン》を発動。敵の頭上に雷雲を呼び出せば、大量の雷が彼らへと降り注ぐ。信者には手加減するが、エリナには全力だ。
「どっちが本当の美人か思い知らせてあげるよっ! 落雷で髪の毛チリチリになっちゃえ!」
39個の雷を束ねてエリナへと突き落とす。一方で信者たちに振り撒かれた疑心暗鬼は疑念を齎した。
「アミー様……もしかして、思ってたより可愛くない……?」
「サラサラヘアーだったはずなのだけど、髪先がボサついていらっしゃるわ」
紫薇の雷のせいである。
「……はぁ、面倒ね」
エリナは溜息を吐きつつ髪を整えた。煽動者として身だしなみは大切らしい。
バリバリと雷を落としながら、紫薇が雷火へと呼び掛ける。
「あとはかっこかわいー雷火くん、いいカンジにやっちゃってー!」
言葉の一部にツッコミたい気持ちが湧く雷火であったが、今はそんな場合ではない。
有能なジンギス漢達には後で何か食べ物をやろう。信者たちはちりんと紫薇に任せ、雷火は鳴神から雷電一矢を放った。牽制しながら、エリナを冷静に観察する。
(「どうみたって信者の奴らは正気だって思えない。俺には全く理解のできない理屈にこれだけの人間が染まるとも思えない……だから、きっとあの女が何かをしているに違いない」)
雷火は彼女の腰に光る青い宝石を睨んだ。
(「あの宝石だ……あれが引き起こす『燃やしたい衝動』が、信者を煽動するための手段になってる」)
それが全てではないにしても、煽動の手段の一つであることは間違いない。
雷火は拳に清めの天雷を纏う。眠る信者の間を抜けて、エリナの眼前へと踏み込んだ。
「|雷霆《ライテイ》よ! 邪念宿りし妖光をぶっ飛ばせーーーっ!」
雷霆の拳がエリナの青い宝石目掛けて繰り出される。エリナはとっさにウィザードロッドを構え、ギリギリのところで間に割り込ませた。たとえ杖越しであっても、雷撃は彼女の体に強い衝撃を与える。
「くっ……」
「ソレがよっぽど大事みたいだな!」
「……えぇ、とても大切なものよ」
雷火の言葉に対し、エリナは微笑みを張り付けた。まだ笑う余裕があるのか。
「これ以上お前の好きにさせてたまるものか! 俺達が止めてやる!」
力強く宣言する雷火。ちりんもこくりと頷いてみせた。
「うん! お花畑は必ずぼくたちが守るんだよ!」
「二人ともかっこい~! あたしも頑張っちゃお!」
紫薇もヤル気満々。雷をドンドコ落としてゆく。
三人の攻勢は、エリナの膨大な戦力を少しずつ削り取っていった。
●楽園に薔薇を咲かせて
戦場を赤い炎が照らす。獣の如く炎は轟々と咆哮を上げ、星海とそれを守る人々を焼き尽くさんと牙を剥いた。吹き付ける熱風に晒されながらも、|弓槻・結希《ゆづき・ゆき》(天空より咲いた花風・h00240)は凛と立つ。
「星のような花を焼き、未来あるひとをも焼いて、灰と化す。燃え散る刹那に流れ星のような美しさを見出しても、それはただ無為へと変わるだけ。炎とは誰かを暖め、導く光となって意味がある。あなたのそれは、ただ欲望が揺れて踊る姿」
戦場の中にあっても結希の声は明瞭に響いた。白き翼を広げ、ミユファレナ・ロッシュアルム(ロッシュアルムの赤晶姫・h00346)も力強く言葉を続ける。
「あなたを信じた人を簡単に使い捨てにする。そうした在り方、私にとっては認められないものです。言葉を届けられるのであれば、良き方向に導いてこそ」
ミユファレナはエリナを睨み据える。己の信者を躊躇なく燃やし、容易く命を奪うなど。理解できるわけがない、在ってはならない。
エリナは光無き灰の眼を細める。
「そうね、私は炎に溺れているの。もう、この楽園から抜け出すことはできないわ……ふふ」
破滅の炎に包まれた世界を楽園と言ったか。――邪悪。彼女の炎への想いは常軌を逸している。
ミユファレナは深く息を吸い、吐き出す。
「この風景を焼こうと思える心根からして、最初から相容れなかったという話ですね」
エリナが熱した空気よりも、ミユファレナが抱く怒りの方がずっと熱い。
「……ええ、私たちの言葉を介さないから、今の姿なのでしょうね」
結希の瞳に映るエリナは、炎の中で楽しげに笑っている。誰かの痛みなど知らぬとでも言いたげに。
「……結希さん、できる限り扇動者以外は傷つけたくありません。我儘な話ですけれどお付き合い、頂けますか?」
ミユファレナが問う。結希はすぐに頷いてみせた。
「もちろんです。共に彼らを止めましょう」
信者たちが裁かれるべき時は今ではない。
「アミー様のために!」
「花畑を燃やし、アミー様に捧げよ!」
燃え滾る武器を手に攻め寄せる。近付く彼らへと、結希は天星弓『フェルノート』を番えた。
「罪人たちよ、その足を止めるのです」
言葉と共に、|楽園顕現《セイクリッドウイング》を展開する。周辺の自然環境――宵の星海から創造された楽園の叢檻が、信者たちを閉じ込めた。炎から守り、癒やし、動きを止める美しき花檻に彼らは驚愕する。
「なんだ!? これは……」
「あなた達は妄執の炎から抜け出さなければなりません」
彼らは罪人だが、受けるべき罰は火刑ではない。彼らは司法の元で確かに裁かれるべきだ。楽園の花園が、信者たちの纏う炎を鎮めてゆく。
「秩序――それは小さな花が自由に咲き誇る為にあるのです」
結希は思う。彼らを裁くのは自分たちではない。王国の人々が決めるべきであると。
結希が檻を創り上げる中、ミユファレナも自身の魔力を編み上げていた。
(「この風景が楽園にほど近い光景で良かった」)
一から作り上げるより魔力を消費せずに済む。敵の数が多いからこそ大きな意味がある。精神を研ぎ澄まし、彼女は高らかに言い放った。
「セレスティアルとしての御業をここに。星々の花海よ、此処に顕現せよ!」
楽園顕現を発動。エリナを護る信者たちを叢檻へと拘束する。星屑花の煌めきが信者の心と体を包み込んだ。強力な癒しと守護を与え、行動不能にする。
二人が創造した楽園の花畑に、信者たちは立ち尽くしていた。
「ここ、は?」
「綺麗な場所だ……」
彼らへとミユファレナが柔らかに語り掛ける。
「あなた達がこの光景を美しいと感じ、焼き払おうとすることに少しの罪の意識を覚えたのであれば、どうかそのまま心に従ってください」
消えゆく炎に、エリナが悲しそうな色を滲ませた。
「信者たちを惑わすなんて……あなた達にも信者になってもらえば、すべて解決するわね?」
腰の青い宝石から妖しい光を放つ。強い衝動が押し寄せ、二人の心へと火を点けた。あらゆる物を燃やしたい。勝手に湧き上がる衝動に、結希は粛々と祈りを捧げる。
(「花畑が人々に愛され、いつまでも其処に在り続けますように」)
祈るという行為は彼女の日常でもある。それは彼女に落ち着きを与えた。
「――花畑の存続のため、祈りを花開かせましょう」
澄み渡る空のような祈りは、|蒼穹の薔薇水晶《ブルー・ローズ》を開花させる。炎の赤を蒼穹の色彩に染め上げて、薔薇水晶は清かに煌めく。番えた弓を、燦めく水晶で紡がれた青薔薇が取り巻いた。美しき蒼光を瞳に映し、ミユファレナは胸の内に居座る炎の誘惑を断ち切る。
「炎に破壊される世界が、あなたにとっての楽園だと言うのなら……」
眼鏡を外す。彼女にとって、その行為は抑えている魔力の解放を意味する。
|真紅の瞳《ルビーアイズ》が鮮やかに輝いた。その両眼に、エリナの姿をはっきりと映す。
「私はその楽園を花で満たしましょう。結希さんと一緒に」
真紅の薔薇が煌めいた。ミユファレナを中心に咲き誇る花々は、強大な魔力に磨かれ鋭き刃となる。
結希とミユファレナは互いに目配せする。息を合わせ、同時に攻撃を繰り出した。
「青薔薇よ、赤い災禍を晴らして星彩と共に舞え」
結希が放つ氷矢は咲き誇る蒼薔薇を纏い、宙を裂きながら飛ぶ。
「真紅の薔薇よ、青き薔薇と共に」
ミユファレナの真紅の薔薇は花吹雪が如く舞い踊る。氷矢は花吹雪の風を追い風に、より速く、鋭く――。
氷矢がエリナを射抜く。蒼薔薇が彼女の体に咲き乱れ、無数の傷を刻んだ。そこに吹き寄せる真紅の薔薇は、エリナの渇いた炎を瑞々しい真紅へと塗り替えてゆく。
「ぐ、ぅっ……」
堪らず呻くエリナ。結希とミユファレナの鮮烈な攻勢は、着実に彼女の体力を削ってゆく。星海を照らすのは災厄の炎ではない。邪を祓う、蒼と真紅の光輝だ。
●災いの炎が消えるように
エリナに陶酔する信者たち。彼らは雄叫びを上げながら、狂ったように暴れ回る。興奮、狂乱……歪な感情が騒音となって、箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)の耳へと届いた。
「一般人を洗脳し、己の都合の良い道具とするとは、なんという極悪非道でしょう」
腕に抱えるアコルディオン・シャトンを、確と構え直す。キリッと表情を引き締めて、信者とエリナを澄んだ眼差しに捉えた。
「皆さんを元に戻しましょう。そして勿論花畑を守り抜きますよ」
アコーディオンが奏でる曲は、三度目の国歌だ。|たった1人のオーケストラ《オルケストル・ボッチ》の力を込めて、元気よく音色を響かせる。
「今再び奏でましょう。炎に囚われた皆さんを救い出すために、愛と正義に満ちた王国の国歌を」
音楽には強い力がある。そこに生きる人々の想いをカタチにし、共に分け合い、絆を生む。過去から未来へと続く想いの連鎖――王国の国歌には、それが込められている。
溢れ出す音符の波が信者たちに打ち寄せた。震度七相当の衝撃が、信者と彼らの武器を激しく振動させる。
「ぐわぁっ!?」
「た、立ってられない……!」
強い揺れに耐え切れず地面に膝を付いた。放り出された松明がカランと転がるも、炎が花畑に燃え移ることはない。振動の力が作用して、猛威を振るう前に鎮火させた。
「信者さんも、武器と炎も♪ ぶるぶると震わせますよ♪」
ぶるぶるとさせる度、既に燃え移っていた炎もぷるぷると小さくなる。花畑を害する赤炎が、白い煙を上げながら消失してゆく。
「さあ、炎が消えたら武器を置いてください。皆さんが戦う必要など、何処にもないのです」
仄々は信者たちへと優しく語りかけた。柔らかに微笑みながら、旋律に|皆でお家に戻ろうのお歌《リカバリーカバーソング》をのせる。
「大丈夫ですよ。たとえ燃えてしまったとしても、この旋律が元の姿へと戻してくれますから」
燃え盛る煉獄地帯も、壊された消火装置も、僅かではあるが燃えてしまった花々も。音色に組み込まれた癒しの力が、少しずつ元の姿へと回復させる。
焦げ付いた花弁が綺麗な色彩を取り戻し、再び星のように煌めいた。美しく咲き誇る星屑花を目の前に、呆然とする信者たち。
「信者の皆さんも、どうか目を覚ましてください!」
清らかなメロディは信者の洗脳も浄化する。戦意を失う元信者たちに、エリナが瞳を細めた。
「余計なことをしてくれるわね、子猫さん」
音色と共に、振動の力はアミー様……エリナにも届いている。身に付けた宝石も手にした杖も、彼女自身も全てが激しく振動していた。
(「……どうしてアミー様と呼ばれているのかは判りませんが」)
何か理由があるのだろうが。彼女の事情を知る暇はないと、仄々は気持ちを一層引き締める。
振動に晒されているにも関わらず、エリナは杖を振るった。炎が発生するも、仄々の放った音撃が完全に打ち消す。
「少し動けるようですが、かなりお辛いでしょう。伝わってくる音でわかります」
その証拠にエリナの炎には勢いがなかった。彼女は間違いなく消耗している。
「耳がいいのね……」
「はい、音楽の道で鍛え上げた自慢の耳です」
誇らしげに猫のお耳をぴんと立てながら、仄々は音色をさらに重ねた。紡がれる旋律は光の五線譜、そして虹色の音符となって、エリナを音撃の奔流へと包み込んだ。
「炎に魅入られた哀れなアミー様、どうか安らかにお眠りください」
美しき音楽がシャワーのように降り注ぐ。音と光の雨は、炎を鎮め、邪心を滾らせるエリナの力を弱めてゆく。
今此処で倒したとしても、√能力者である以上彼女は蘇生するのだろう。
(「いつかアミー様も、炎への執着から解放される日が訪れることを祈りましょう」)
仄々の演奏が止むことは無い。エリナと信者を鎮め、花畑に平和を取り戻すまで。勝利の凱歌と成すまで、高らかに響き渡り続ける。
●日輪
悍ましい狂気が目の前にあった。赤黒く爆ぜる炎、信者たちの怒号。そして、炎に照らされたエリナの歪んだ笑みが、|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)の瞳へと鮮明に映り込む。
エリナの暗い灰の瞳を見て、陽は瞬間的に理解した。
(「善悪を超越した瞳……炎に魅入られた人の瞳だ」)
その色は恐怖を呼び起こすが、犯人を目の前にした本能的な恐怖ではない。エリナは炎を操る。そして、陽も炎を操る点においては同じ。
(「……いつか、俺も同じようになってしまうのかな」)
強くなる度に、身に纏う炎の熱量が高まる度に、不安は心の何処かにずっと付き纏っていた。どんな力も振るう者自身の心によって変わる。善から悪に、正気から狂気に。
(「俺はこの力に見合うだけの心を持てているんだろうか。弱いままの俺が、こんな力を振るっていてもいいのだろうか」)
√能力者となりしばらく経つが、未だ自信を持てずにいた。思考の迷路に嵌まりかけた所で、振り払うように首を振る。
「……今はそんなことを考えている場合じゃないよね。皆が大切にしている場所を、想いを踏みにじり壊して灰にさせるものか」
考える間にも、信者たちは炎を掲げ、すべてを燃やそうとする。1秒だって無駄にできない。陽の理想は父のような刑事になることなのだから。
(「父さんなら、絶対に守り抜く……人も、花畑も!」)
|断夜《イルミネイト・レイズ》が煌めき、旭日の陽光を早天に纏わせた。花畑とは逆方向に撃ち込めば、弾を中心に空間が歪む。引き寄せ能力が発生し、花畑を害そうとしていた信者たちを吸い寄せた。
動きを封じられた信者が、陽に暴言を浴びせる。
「この野郎、邪魔をするなっ!」
信者からは理性が感じられない。狂乱する彼らに、陽は厳しく返した。
「花畑には踏み入らせません! 絶対に……!」
――今の自分は、理想の刑事として振る舞えているだろうか?
「あなた、さっき綺麗な炎を使っていたわよね。もう一度見せて」
期待に満ちたエリナの声が届いた。直後、妖光が視界を覆う。炎のように揺らめく光を、陽はどうしてか「綺麗だ」と思った。それはほんの一瞬の出来事である。だというのに、それは間違いなく陽の心に火種を植え付けた。
(「なんだ、これ……」)
思考に靄が掛かる。ぼんやりと頭に浮かぶのは、轟々と燃え盛る炎。思考が停止する。何も考えられない。
(「燃やして、全てを破壊し尽くしたい……この衝動に身を任せたら、ラクになれるのかな……?」)
身を委ねてしまいたい。青空の瞳に赤黒い炎が滲んだ刹那、一条の光が意識へと差し込んだ。先輩や師匠、大切なあの人との思い出が。記憶の中で、名前を呼ばれた気がした。
「……駄目だ、それじゃ何も守れない」
燃やしたい衝動が、抑えられないのならば――。
陽の身体が黄金の焔に包まれる。それは内から生じる光焔。彼は己の魂を燃やしたのだ。
「……これで『燃やしたい衝動』は抑え込んだよ」
途中で焼死したとしても、断夜の力で蘇生できる。自分自身を燃やす陽に、エリナは歓声を上げた。
「まぁ、なんて綺麗な炎なの! 律するために己を燃やす……美しい自己犠牲ね!」
攻撃に晒され続け限界が近いだろうに、エリナの表情は喜びに満ちている。
彼女の異常さにこれ以上付き合っていられない。|暁降《ソール・オリエンス》を展開し、エリナへと距離を詰める。
(「彼女の狂炎を止める。迷いも躊躇も進むための燃料だ。すべて切り捨ててしまえ」)
強烈な光焔は敵の炎を悉く呑んでゆく。猛火を身に纏い、信者の波を越え、ついにエリナへと肉薄した。
「貴女の狂気も妄執も――この炎で灼き尽くします! この力は護るために!」
絶望を照らす灯火となれるように! 願いの一閃が、エリナを炎上させる。
「あぁ、綺麗……炎が、すべてを灼き尽くす……」
エリナは灰燼と化した。彼女の死をきっかけに、信者たちも次々と倒れ伏す。
かくして苛烈な戦いは幕を閉じ、宵の星海は無事に守られたのであった。