シナリオ

⑥ご一緒にサンドイッチはいかがですか?

#√マスクド・ヒーロー #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦⑥

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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

「よっ、集まってくれてありがとな。さっそくだけど……えーと秋葉原であらばき……? あらきば? あはばきら?」
 とっても言いにくい!
 上手く言えずに悪戦苦闘した近森明人(近森探偵事務所の名探偵・h00272)が、くしゃりと頭を掻く。
「……え? あらはばき? おお、そうだったそうだった!」
 横からそっと差し出されたカンペに目を落とし、明人はポンと手を打った。
「ん、その荒覇吐ってのが秋葉原で悪さをしてるらしいぜ」
 そう言いながら、明人は秋葉原の周辺地図と今回の予知の概要を纏めた資料を√能力者達に手渡していく。
 地図に付けられた赤丸の場所は、京浜東北線の高架下にある『AKI-OKA ARTISAN』という商業施設。
「ものづくりをテーマにしたカフェやアトリエが多い、ちょっと面白い施設らしいぜ。ま、今は怪人共が占領しちまったんだがな」
 ぺらりと一枚、資料をめくる。
「どうやらここを占拠した怪人『マンティコラ・ルベル』は拘りの強いタイプのようで、民間人には手を出さず、この一帯を『√能力者を殺す殺人儀式場』に改造しちまったんだ」
 やれやれと肩をすくめてもう一枚資料をめくると、そこに描いてあったのは、両手いっぱいにファーストフードを抱えた愛らしい着ぐるみ。
「そいつは『ホーギーデビル』、見ての通りファーストフードを給仕して攻撃してくる。見た目は可愛いが、短時間で戦闘員から幹部に上り詰めた結構な強敵だ」
 怪人は激甘な炭酸水による放水銃と、激辛ハンバーガーを投げて攻撃してくる。
 しかも今回は儀式のせいで、敵の流儀に乗っ取って戦わないといけない。
「俺の推理に寄れば、その流儀は『美味しいものを食べる』らしくってな……。つまり、食う物を持ってなければホーギーデビルの攻撃を食らうしかないってわけだ」
 現地に向かう前に何か食べ物を買っていく、もしくはその場で何か調達するか、だ。
「材料を持ち込んで調理しても良いし、近くの店でテイクアウトをしても良い。まあ秋葉原だし何かあるだろ」
 ちなみに、怪人が占拠している場所の近くのカフェでは、ホットサンドのテイクアウトができるらしい。
「卵とピザソースのとか、ピリ辛のソーセージが入ったのとか、あとは期間限定のカボチャと蜂蜜の甘いのとかもあるらしいぜ」
 話してたら腹減ったなあとぼやきながら、明人は火のついていない煙草を指先で弄ぶ。
「少々厄介な条件はあるが、まあお前らなら大丈夫だろう。気をつけて行ってこいよ」

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第1章 ボス戦 『ホーギーデビル』


柳檀峰・祇雅乃

「秋葉原がこんなに美味しいものの溢れる街になるなんて、初めて来た20年くらい前には想像も出来なかったわ」
 駅前の喧噪からやや離れた静かな道路沿い。駅名標を模した『2k540』の看板に視線を向けて、柳檀峰・祇雅乃(おもちゃ屋の魔女・h00217)は感慨深く呟いた。
 かつては電気街、平成に入ってからはオタク文化の街として、そして今は様々な国から観光客を受け入れる街として、秋葉原は時と人の営みと共に様々な顔を見せていた。
 その中には当然食事も含まれ、世界各国の料理や昔から親しまれているB級グルメ、コンセプトカフェやメイド喫茶など食事だけでなく体験も楽しむ店も数多くある。
「……今じゃ売ってないものもあるけどね」
 懐かしむように後ろを振り返った祇雅乃。そんな彼女が下げた袋の中で、微笑む牛の顔が描かれたカツサンドの箱が存在感を示すようにカサリと音を立てた。
 かつて万世橋の袂にあった老舗の精肉店。その本店は建物の老朽化に伴い閉店し、この名物を祇雅乃が買ったのは東京駅だった。
「でも私の中では思い出のアキバグルメ!」
 紙箱の中のカツサンドは、持ち運びやすく食べやすく、そして冷めた状態でも美味しい!
 本当は食べながら戦うなんてお行儀が悪い気もするけれど……。
「これも作戦のうち。勝利も一緒に美味しくいただいちゃいましょう!」
 記憶に残るカツサンドの味にこくりと喉を鳴らし、祇雅乃は揚々と『AKI-OKA ARTISAN』へと乗り込んでいく。

『ご来店ありがとうございますー! ご一緒にバーガーはいかがですか?』
 祇雅乃を出迎えたのは、店員ではなく怪人『ホーギーデビル』。スマイルとバーガーと殺意を山盛りにした13体の怪人が祇雅乃を取り囲み、何としてもバーガーを食べさせようと迫る。
「結構よ。私にはこれがあるから」
 祇雅乃が掲げた手の中にあるのは、もちろんカツサンド!
 きめ細かな食パンの間に挟まった分厚いロースカツの焦げ茶が食欲をそそる。
「んー、濃厚なソースがパンに染みて、いつ食べても美味しいわ!」
 ふんわりしたパンの間に、しっかりぎっしり食感が嬉しいロースカツ。一口サイズというには少し厚めのサンドイッチにかぶりつき、祇雅乃は口中に広がるソースの香りに目を細めた。
『それならお飲み物はいかがなさいますか?』
 しかし怪人は引き下がらない。問答無用で食べさせると、祇雅乃へ向かって炭酸水の銃口を一斉に突きつけてきた。
「それも要らないわね」
 ヒラヒラと手を振りながら祇雅乃が断ると、ホーギーデビル達の着ぐるみの瞳がギラリと剣呑に光る。
『そんなのダメ! 美味しい美味しい天国逝きのバーガー、絶対に食べていただきます!』
 無理矢理バーガーを口に詰め込もうと、ホーギーデビルの数体が祇雅乃を押さえつけようとしたその時――!

「雷霆よ!」
 祇雅乃の全身から沸く青い電光が、ホーギーデビルの手をしたたかに灼く!
 続いて怪人の顔面にパンチを入れようとして、あららその手には食べかけのカツサンド。
「丁度手が塞がってたわね。代わりにこちらをどうぞ!」
 パンチの代わりとばかりに高く蹴り上げた祇雅乃のブーツのつま先、それは怪人の着ぐるみボディの上から腹にめり込み、宙に吹き飛ばす。
 しかし、仲間がやられても怪人達は無表情な笑みを顔に貼り付けたまま祇雅乃に向かってくる。
『ポテトのサイズは何にいたしますか?』
『お持ち帰りは許しません。ここで食べていってください』
 バーガーを無理強いしようと一斉に襲い掛かってくる怪人達。だがこのやや狭い空間では数が多すぎるのは動きを鈍らせるだけ。
 雷霆の力とカツサンドの美味しさで高まった祇雅乃の速さの前では的でしかない。

 しつこい押し売りはノーサンキュー!
 動くこと雷霆の如し――素早く丁寧に蹴り倒していきましょう!

 的確に繰り出される祇雅乃の回し蹴りが、前蹴りが、膝蹴りが――。
 次々に怪人の身体に突き刺さり、確実にその数を減らしていくのだった。

柳・依月

 東京と言えど、通りを一つ奥へ入れば、そこはセンターラインの無い道路とビルが並ぶ静かな場所。そんなごく普通の光景の中、「2k540」という看板と白い壁の建物が高架下に並んでいた。
「ふーん、変わった簒奪者もいたもんだな」
 お洒落な白い壁にアスファルトの地面と同じ色をした影を落として、柳・依月(ただのオカルト好きの大学生・h00126)は、簡潔にそう評した。
「美味しいものは俺も好きだけど……」
 脳裏に浮かぶまま思考を口に出してみる。
 ここに現れた簒奪者はファーストフードと着ぐるの怪人の組み合わせ。満面の笑みを湛えつつも表情を変えぬ着ぐるみが攻撃してくるというのは、いかにも現代的なホラーめいて聞こえるが。
「それを攻撃手段に使ってくってのはよく分からん話だなあ」
 抱えた食べ物で直接攻撃するというのは、ホラーの文脈としてはどうにも安直な気がしてならなかった。
「ま、今回はそういう流儀だしな。そういうことなら何か買ってくか」
 とはいえ、ここに現れたのは怪異の類いではなく怪人。同じ『怪』の文字を持っていても、その行動や思考は決定的に違うのだろうと結論づけて、依月は目当ての店へと向かう。

「すいませーん、ホットサンド1つ」
 依月が入ったのは、店のあちこちに沢山の画材が所狭しと並んだカフェ。
「テイクアウトで。ええと……せっかくだし、限定のカボチャクリームと蜂蜜のやつで」
 焼き色がついたパンの間からふんわり黄色のクリームが顔を覗かせるサンドイッチ。手袋を通しても伝わってくる熱と甘い香りを楽しむ間もなく……。

「お邪魔しまーす!」
 ドアをバーンと蹴り開けて、依月は怪人が巣くう店へと突入する!
「よその飲食物持ち込みで失礼! 警視庁特殊捜査四課のもんだ。神妙に縛につけ!ってな」
 片手が塞がってるので警察手帳は見せない。
 もちろん令状もない。
 怪人が相手ならそれで十分なのが、武闘派だらけの異能捜査官の日常……と依月は思っているのかもしれない。
『ご一緒にお飲み物はいかがなさいますか?』
 しかし怪人が警察組織に怯む訳が無い。強炭酸の放水銃を構えたホーギーデビルが、カチコンできた依月へ銃口を向ける。
『ポテトはいかがなさいますか?』
『デザートはいかがなさいますか?』
『それとも天国逝きはいかがですか?』
笑顔を讃えた表情の無い瞳で、怪人達は口々にファーストフードを強いてくる。
 断っても断っても現れる店員は、13オペという東京の店でも中々ない数。
「もぐもぐ。数が結構多くなるな」
 襲い掛かってくる怪人を、依月は数体まとめて呪髪糸で絡め取る。
 だが、狭い店の中では動き難い。攻撃を免れた怪人の幾つかはしつこく押し売りを続けてきて、これではカボチャのホクホク感をゆっくり味わう余裕も無いではないか。
「なら、こいつらに任せるとしようかね。数には数って言葉もあるし?」
 ホットサンドを飲み込んだ依月が笑うと、その背後で、ジジッと小さなノイズが走った。

 ――夢の中でこれは夢だと自覚する事はあるかい?

 依月が語る声に、ガタンガタンと規則的な電車の走行音が混ざる。
 高架下という場所柄、電車の音が聞こえる事は珍しくもない。
 怪人達も最初はそう思った。
 だが、その音はいつまで経っても鳴り止む事はなかった。
 まるで電車に乗り続けているかのように……。

「次は挽肉~挽肉です~」
 突如流れたアナウンスに、流石の怪人達も異常を感じて振り返る。
 振り向くと、そこにいたのはぼろきれを纏った小人達。手にしたハンドミキサーのようなものからウイーンと不気味な機械音をあげ、小人達は動揺する怪人へと群がっていく。
 着ぐるみの身体を切り裂き、真っ赤に染まった綿が雪のように舞う。

 依月が語りを終え、走行音が止んだとき。
 そこにはもうあの夢はなく、床の上にバーガーの材料のようになった怪人達の残骸が転がっているだけだった。

坂堂・一

『ぷーきゃ、ぷいぷい!』
 愛らしくも怒りに燃える鳴き声と共に、銀を帯びた薄灰色の尻尾がブン! 勢いよく坂堂・一(一楽椿・h05100)の顔の前を通り過ぎて行く。
 一の肩の上をぴょんぴょんと渡り歩くぷいぷいは、チンチラじゃなくてハリネズミかなと思うほど毛を逆立てている。
 相棒を宥めようと差し出された一の掌。その上に飛び乗ったぷいぷいのまん丸お耳とお髭が怒りで震えている。
 その怒りは、秋葉原の人々の平和を脅かそうとする怪人へ向けたもの……。
『きゅい! ぷぷぷぷぅ!』
「ん、食べ物を投げるな?」
 ……じゃなかった。

『ご一緒にハンバーガーはいかがですか?』
『お飲み物はいかがなさいます?』
『ただいまポテト揚げたてです』
 着ぐるみを着たマスコットにも見える怪人が投げたトレーが、一とぷいぷいの目の前に飛んできた。
 トレーに載っていたのはふわふわパンズに包まれた激辛のハンバーガー。身を屈めて避けた一達の前で、バーガーは床に落ちてべしゃりと潰れたかと思うと小爆発を起こす。
 それを見て、ぷいぷいがまた腹立たしげに足踏みをした。
「ぷいぷい、食べるの大好きだもん、ね」
 今回の相手はファーストフードを振る舞う……と、見せかけて殺人フードを投げつけて攻撃してくる着ぐるみ怪人。食べ物は美味しく食べてあげるのが礼儀。投げる、ましてやそれで攻撃するなんてとんでもない!
「じゃあ、美味しいものは美味しく食べるんだよって、ぼくらが見せたげよう、ね」
 そんなぷいぷいを宥めるように背中を優しく撫でてあげながら、一は片手に提げていた紙包みを持ち上げる。
『ぷーい……ぷいっきゅ!』
 それを見たぷいぷいの瞳がぱちくり。途端にゴキゲンになって後ろ足で立ち上がる。
 その訳は……。

「ぷいぷいは甘いの、かな?」
『ぷきゅ!』
 紙袋を開けると同時に店の中に漂う、ほんわりバターと蜂蜜の鼻をくすぐる素敵な香り。
「じゃあぷいぷいには限定のカボチャ蜂蜜」
『ぷきゅ~♪』
 取り出されたのは狐色に焦げ目がついたホットサンド。一口サイズにカットして貰っているけれど、それでもぷいぷいにはちょっと大きくて、両手で抱えるように持ってパクリ!
『ぷきゅぅん♥』
 ほくほくのカボチャとカスタードの甘味に、お目々がうっとり細くなる。
「ぼくはやっぱりチーズ!」
 一が選ぶのは、そう!
 ホットサンドからとろーり蕩けてはみ出すほどの、チーズたっぷりクワトロフォルマッジ!
「チーズはえらい、美味しくてえらい」
 ミルクのクリーミーさが嬉しいゴルゴンゾーラ。
 マイルドさの中に爽やかな酸味が香るタレッジョ。
 口に運ぶ度にコクと旨味が溢れるパルミジャーノ・レッジャーノ。
 それらを絡め取って混ぜ合わせて柔らかな糸を引くモッツァレラ。
 単品で食べても美味しいのに、それらが絶妙な配分で混ざり合えば、お口の中で心弾むパーティーが始まる!
 そこに蜂蜜が彩りを添えて。
「ちーず、とろとろ……おいし♥」
 こちらもうっとり。ほっぺが落っこちないように手で押さえて「ん♪」と喜びが吐息と一緒に溢れ出す。
 
『それだけじゃ駄目! ジュースを味わって頂きます!』
『とびきり辛い天国逝きのバーガーもどうぞ!』
 幸せな時間を邪魔するホーギーデビルの群れが、自分達のも食べさせようと、強炭酸の放水を放ち、激辛バーガーを投げつけてくるが、ひたすらホットサンドに舌鼓を打っている一人と一匹にはそんなのは通用しない。
「もぐもぐ……シャボン玉!」
 一の言葉と共に、パチン――弾けて消えるシャボン玉。
 無粋な押し売りはシャボン玉と一緒に弾けていく。

「ご馳走様、でした」
『ぷいきゅー』
 両手を合せて、美味しいご飯に感謝して。
 お腹いっぱい満足したら、溜め込んだ魔力と幸せの量は同じだけ。
 一が創り出した魔力のシャボン玉は、ぷいぷいがの風で怪人に向かって飛んでいき――。

「パチンと弾けて」

 怪人達を包んで――壊れて消えた。

ウォルム・エインガーナ・ルアハラール・ナーハーシュ

 表通りをやり過ごせば、そこは京浜東北線の高架が街を南北に横切る閑静な場所。
 普段はアートに興味がある人々で賑わう場所だが、今は怪人に占拠されており、訪れた人々は隠れるように店の奥に閉じこもっていた。
 そんな息詰まる空気を破るように、コツリコツリとアスファルトを杖が叩く音が響く。
「ヨルマ、君はこういう物も食べられるね」
 重い音と共にカフェの戸を潜って出てきたのは、漆黒の男。
 片手にはカフェで買い求めたホットサンドとコーラの入った包み。もう片方の手には杖を持ち、その腕に男と同じ黒い肌と深い赤の目を持つ巨大な蛇を絡みつかせていた。
 男――ウォルム・エインガーナ・ルアハラール・ナーハーシュ(回生・h07035)が包みを持ち上げると、彼に付き従う蛇は口を開ける。二股に分かれた真っ黒な舌がシュルリと伸びて、包みの中から湯気を立てるホットサンドを受け取ると、また静かにウォルムの側に寄り添う。
 それに頷いてから、ウォルムは襟巻きを持ち上げて口元を覆う。
 向かうは、怪人『ホーギーデビル』が巣くう場所――。

『いらっしゃいませー。ようこそー!』
『美味しい美味しいハンバーガーはいかがですか?』
『一口食べればたちまち天国逝きですよ』
 ウォルムを出迎えたのは、場違いに眩しい光とけたたましい声。
 マニュアル通りのスマイルを浮かべた怪人達が合わせて13体、店の奥から店の入口そばに佇むウォルムを見つめてきた。
「私は足が悪くてね、あまり動けないのだが」
 クツクツと笑みを浮かべてウォルムが穏やかに答えると、怪人の着ぐるみの顔に邪悪な気配が宿り、入口の扉が獲物を逃がさぬようにピシャリと閉じた。
『当店はバリアフリー対応いたしております』
『お食事はお客様のお席までお運びいたします!』
『おいしいバーガー、たっぷりお召し上がりくださいませ!』
 動けぬウォルムを御しやすい敵と判断し、放水銃やトレーを手にした怪人が店の奥から躍りかかる。ローラースケートの車輪が耳障りな音を立て、床を削って火花を散らした。

「ふむ……この動きは必然。読みやすくて助かるな」
 そう思いながら、ウォルムは手にしたコーラのカップを傾ける。味覚を喪った舌先に甘味を感じる事は無いが、冷えた液体が喉を流れて腹へ落ちていく感覚を味わうことはできた。
「扉を閉ざされたのも好都合。さて、|災禍《わざわい》の時間だ」
 指先を襟巻きに掛けてツイと引っ張れば、音も無く解けてその端から崩れ零れ堕ちていく『蛇』の瘴気。
『はい、お客様。ただいまポテトをお持ちします』
 怪人の一体が振り返り、トレーの中身をぶちまける。
 その目線の先には、投げた先には何もない。
『もうしわけありません。ただいま代わりをお持ちいたします』
 突然つんのめり、トレーを落としてしまった怪人が、虚空へ謝罪する。
 ウォルムが神人妖機の区別なく魂を腐らせ蝕む瘴気が怪人達の思考と感覚を汚染し、狭間より伸びる無数の手が怪人達の裾引き髪引き、まともな統制も連携も失わせて混沌の極みへと堕としていく。

『皆、お客様はあちらだ』
 混乱の最中、『誰か』が指示を出す声がした。
 間違いない、あれは|本体《店長》のもの。瘴気に巻かれた|量産型《バイト》達は、その声の主を疑う事なく信じきった。
『お待たせしました! バーガーになります!』
『ご一緒にポテトはいかがですか!』
『ごゆっくりお楽しみください!』
 爆発するバーガーが『お客様』を砕き、強炭酸の飲料が『お客様』をドロドロに溶かして、天国へと導いていく。

『またのご来店を心よりお待ちしてます!』
 獲物を仕留めたと確信した怪人達が『お客様』へ叫ぶ。
 しかしそれはウォルムではなく、襤褸雑巾のようになったホーギーデビル。

「ふむ、上手くいったようだな」
 怪人達の最前列にいた『誰か』がほくそ笑む。
 精神を汚染する瘴気と幻影によって敵陣を幻惑し内乱を引き起こそうという彼の目論見は、見事に嵌まったようだ。
 彼――ウォルムが掲げたトレイの上のバーガーが解けて元の蛇の姿に戻る。
 大きく鎌首をもたげたヨルマの口の中で鋭い牙が光り、同士討ちによって倒れた怪人の首をへし折り、止めの一撃をもたらすのだった。

黒木・摩那

「怪人の挑戦……これは受けなければなりません」
 怪人が巣くうという店の前、黒木・摩那(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)は、威風堂々と立ち向かわんとグッと拳を握る。
 プラグマの怪人に人々の憩いの場をこれ以上荒らさせる訳にはいかない!
 ミステル・ノワールよ! 悪夢を覚ます一陣の風となって、悪を討ち滅ぼすのだ!

「美味しいものを食べる。素晴らしい流儀です」
 ……おや?
 そう。身体を摩那の身体を借りる契約としてヒーロー活動を行うミステルにとって、もちろん正義もだが、世界の食を堪能するというのも大事な目的!
「そういう流儀であれば敵であろうと乗らざるを得ませんね」
 言う摩那が下げているのは近くのスーパーマーケットで買った食材が入った買い物袋。
 今回は趣味と実益を兼ねて、『美味しいものを食べる』という怪人の流儀に乗る気満々で勝負に挑むのだ!

『いらっしゃいませー! ホーギーバーガーにようこそー!』
 愛らしくも邪悪な着ぐるみを纏った怪人『ホーギーデビル』が、表情が変わる事ないスマイルで摩那を出迎える。
『天国逝きのハンバーガーはいかがですか?』
「いいえ、私にはこれがありますから」
 山盛りになったバーガーを構える怪人に、摩那は買い物袋を掲げてみせる。
 その中に入っていたのは、大量のコッペパンとソーセージ。
「これをこうして……こう!」
 取り出したるは名刀『白波残月』。蛍光灯の光を受けて白銀に輝く刀身が切り裂くのは、コッペパンの背中。薄茶色の表面を切り裂いて、中から白い生地が覗く。
 そこにソーセージとレタスを挟んでやれば――。
「できました。ミステル印のホットドッグの完成です」
 お手軽簡単、そしてすぐ食べられて美味しいホットドッグ!
『それって挟んだだけだよね? うちのバーガーは拘りのデスソースを使った逸品。一口でみーんな天国逝き!』
 怪人はトレーの上のバーガーを割って中のソースを見せつける。地獄のような赤がパティをドロリと埋め尽くして、見るからに辛そう。
「むむ、それはちょっと気になりますね」
『お一ついかがですか?』
 超辛党の摩那にとって、ホーギーデビルのバーガーは食欲をそそられるもの。
 思わず手を伸ばして受け取ってしまい……。

 ドカーン!!

 手に持っただけで目に染みる程の激辛ソースに大爆発がダダッダー!
『ご来店ありがとうございますー』
 赤々と飛び散ったソースの煙に巻かれて摩那の姿が霞み、勝ちを確信した怪人が深々とお辞儀をしたその時だ!

「うーん、ちょっと辛さが足りませんね!」
 薄れるデスソースの爆煙の中から、紙ナプキンで口の周りを拭いながら摩那が現れる。
「確かに私のホットドッグは既製品を挟んだだけ。だからこそ味付けで勝負」
 そう言いながら取り出されたのは調味料ポーチ。そこからドサドサ取り出されるのは、真っ赤っかの調味料達!
 有名なハバネロやジョロキアはもちろん、世界一辛いという唐辛子キャロライナ・リーパーまで、摩那が世界各国から集めた自慢の一品がテーブルにズラリと並ぶ。
「今回はファーストフード勝負なので、ピリ辛でおいしく仕上げましょう」
 と言いながら、初手でスライスしたハバネロをこれでもかとパンに挟んでいく。
「マスタードもかけましょう。これで味がマイルドになります」
 確かに本来のマスタードは辛さは控えめなのだが、今回摩那がかけるのは粉末状にしたマスタードの種のみを使った刺激的なもの。
「赤が欲しいですね。ソースもたっぷりかけましょう」
 しかし掛けるのはケチャップではなく唐辛子を漬け込んだ激辛ソース。
「うーん! ピリ辛でとっても美味しいです」
『……え?』
 ホットドッグをムシャリと頬張って目を輝かせる摩那。だが、彼女基準のピリ辛に、怪人も若干引いて後ずさりをした。

「さらにこれに檸檬の花を添えると?」
 そしてその隙を見逃す摩那ではない。
 構えた白波残月から涙型の檸檬汁の滴がぽたりと落ちる。
 滴る汁は怪人の目を侵して怯ませ、そして――。

「レモン掛けのホットドッグもさっぱりしていいですね」
 麻那の一撃が怪人を一刀両断する。そして激辛ソースに爽やかな檸檬の香りを混ぜて、素敵な味変をもたらしたのだった。

ルーシー・チルタイムダブルエクスクラメーション

「美味しいモン??」
 顔の前に落ちた細い金髪を緩く掻き上げて、ルーシー・チルタイムダブルエクスクラメーション(チルタイム!!ショータイム!!・h01895)は、気怠げに瞼を持ち上げた。
『はぁい。うちのバーガーは他の店とは比較にならない天国逝きの美味しさです』
 満面の笑みを着ぐるみの頭に貼り付けた怪人『ホーギーデビル』が、トレーに満載したファーストフードを持ち上げた。
 聞き捨てならないその言葉に、ルーシーの眉がヒクッと上がる。
「そんなの、誰が何を言おうとうちのお店の和菓子に決まっとるやろ!」
 ルーシーが店主を務める、ほどよい活気とほどよい人気でご近所からも評判の和菓子屋『最上無二』。怪人のファーストフードが、その和菓子に勝る味なわけがない。
 そう確信しながらルーシーが取り出したのは、その『最上無二』名物のどら焼き。
 咥えていた煙草を灰皿に突っ込むと、ルーシーはどら焼きをぱくりと頬張る。
 アクを丁寧に取り除いてじっくり煮込んだ餡のほどよい甘さと、新鮮な卵と蜂蜜を使ってふんわり焼き上げたカステラ風生地。和と洋が絶妙な塩梅で混ざり合い、一口食べれば口の中を優しい甘さに抱擁されているかのよう。
「なんぼでも食べられる……」
 あっという間にどら焼きを一つ食べきって、ルーシーはため息を漏らす。
 もう一つ口に運べば、やはりこちらも至福。
 敵陣のど真ん中をチルいおやつタイムに変えてしまう我が店のどら焼きに満足しながら、指先についた生地の欠片を舐め取る。
「一つくらいやったらあげたってもええんやで?」
 怪人に見せつけるように、ルーシーはどら焼きの箱を持ち上げる。
『勤務中にお菓子を食べるのはダメですから』
 そうだろうなとは思っていたが、当然怪人はルーシーの申し出を無視してきた。それならと、最後の一個も自分の口の中にしまって……。

「ご馳走様。じゃ、そろそろやろうか?」
 満足とお腹を撫でたルーシーは、獣のノズルに似た『シガー・アクセプター』を口元に当てて起動する。
 それと同時に紫煙がゆるりと溢れ出し、ルーシーの身体を包み込む。『シュラウフォーム』へとその身を強化する『朱羅宇煙管』をアクセプターに装着すると、アクセプターと煙管から交互に音声が響く。
 溢れ出した紫煙が薄れ、変身したルーシーの姿が露わになり――。
『あれ? 剣は持ってるけど……変わってない?』
 怪人が表情を変えぬまま首を傾げた。
 喧嘩煙管と雁首刀を両の手に提げてはいるが、ルーシーの姿は最初のダボッとしたパーカーのまま。
「姿形は変らないけれど変身なのだ」
 しれっと薄く笑みを浮かべて、ルーシーはすぅと深く息を吸い込んだ。
 見た目が変わらなくても身体強化は行われる。怪人を相手にするにはそれで十分だ。

『皆、全員でお客様をおもてなししますよ』
 怪人が合図をすると、店の奥から12体の量産型が現れる。
「おお、出てきた出てきた」
 怪人が投げつけたバーガーを一歩踏み込んで刀で切り飛ばして、ルーシーは近くにいた怪人へ間合いを詰める。
 怪人が放水銃を撃つ前に、一閃!
 朱色の軌跡が量産型怪人の胴を横薙ぎにし、着ぐるみの上から断ち切った。
『む、従業員はお客様対応のために集まってください』
 散開していては的になるだけと、|指揮官《店長》が|量産型《バイト》達に指示を出す。ここは固まって一斉攻撃をしようという魂胆だが――。

「良い感じにまとまったな」
 呟いたルーシーのアクセプターから音声が流れる。
 
 【one break……】
 【Your smoking may harm others……】

 刀の周りに小さな氷の結晶が集まり、シンと静まった刀身が凍てつく。

「〘義山百仙!!〙」
 集まった怪人達が行動を起こす前に、ルーシーが動く!
 玲瓏な流氷が海面を揺蕩うように緩やかに、しかしてその動きは眼にも留まらぬ閃きのよう。
 ピシリと音を立てる刀が怪人を纏めて切り刻み、切っ先が通り過ぎた後に紫煙がうっすらと流れてその軌跡を示していた。

「せっかくやし、戦い終わったらホットサンドでも買って帰ろかな?」
 敵がいなくなった店内で、相変わらずのチルい雰囲気を纏ったルーシーは、のんびりと煙草をくゆらすのだった。

シンシア・ウォーカー

「折角だし手作りで。酒のアテは作れるので!」
 世界中から観光客が集まる東京にも、地元の人達の生活に根ざしたスーパーマーケットは存在する。『AKI-OKA ARTISAN』がある通りから道路を挟んで丁度目の前にある黄色い看板が目印の業務用スーパー。お目当ての店を見つけて、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は、まっすぐに足を踏み入れる。

「店名からして肉を推すだけあって、かなりの品揃えですね」
 ガタンゴトンと頭上を通過する電車の走行音を聞きながら、シンシアは店内を歩く。
 看板に高々と掲げているだけあって、その品揃えはかなりのもの。普通のスーパーに置いてあるものはもちろん、ビニール袋に詰められた大容量の肉の塊まで、とにかく肉々しい。
「……そういえば、敵は成人しているのでしょうか」
 たとえ相手が怪人であっても、未成年ならば飲酒は許されない。まあ今回は料理がメインなのだから、いずれにせよ炭酸飲料とファーストフードに合うジャンクな料理で攻めるのが吉だろうと判断する。
「あまり調理に時間がかからないものを……」
 片方だけの三つ編みを揺らして、シンシアは肉がうず高く並んだ棚の間を物色する。
 コクがある牛テールのスープは酒を飲んだ後にぴったり。だが煮込むのに時間がかかるため今回は間に合わないだろう、そう考えながら牛肉コーナーをスルーしたシンシアの目が、鶏肉売り場で止まる。
「ふむ、手羽先。味付けだけすれば何とかなりそうですね。これでいきますか」
 肉が少なくて食べにくいが、ゼラチン質と脂肪を多く含んだこの部位は、煮ても焼いても揚げても美味しい。お酒のおつまみとして最適だろうと判断して、シンシアはパックを買い物籠に放り込む。
「あっ、長ねぎ。長ネギも買いましょう」
 シンシアの目に飛び込んできたのは、丁度特売になっていた立派な長ネギ。肉を柔らかくして臭みを取ってくれるネギは、手羽先と相性抜群だ!
「これで大体決まりましたね。あとは、調味料は現地にあるでしょうか?」
 敵はファーストフードを振る舞ってくるという。それなら店内での調理は火を通す程度で、簡単な塩胡椒以上の味付けはしていない可能性もある。
「せっかく来たのですから、色々買っておきますか」
 食通にとって、スーパーで食材を見るのは楽しい作業。意外に揃った調味料の棚を眺めていると、ついつい買い物籠が重くなって……。

「たくさん買っちゃいましたね」
 食材でずっしりと重いビニール袋は、その分だけ幸せも詰まっている。上機嫌で袋を抱えて、シンシアは怪人が潜む店へと向かう。

『いらっしゃいませー。バーガーはいかがですか?』
「あ、ちょっと待っていてくださいね」
 取り囲もうとする怪人を華麗にスルーして、シンシアはズンズン店の奥の調理場に入っていく。
 包丁で手早く長ネギを5cm程の斜め切りにして、醤油やにんにく、七味と胡椒と共にビニール袋に入れてモミモミと混ぜ合わせる。調味料は目分量でいい。感覚に任せて毎回味が変わるのも、ご家庭で作るおつまみの醍醐味だ。
「これを油をひいたフライパンで焼いて、と……」
 食欲をそそる香ばしい匂いが、油の粒が軽やかに跳ねる音と一緒に溢れ出して……。
「出来ましたスパイシー手羽先!」
 照り色になった手羽先は、甘辛くてお酒が進む。早速一つ口に運ぶと、口いっぱいに溢れる鶏肉の脂の旨味!

『ご一緒にお飲み物はいかがですか?』
 美味しい料理で幸せいっぱいのシンシアの背後で、置いて行かれた怪人が炭酸飲料の放水銃を構えてけたたましく騒ぐ。
「もう! 料理の邪魔をしないでくださ……ん、炭酸水、コーラ……」
 そう言いかけたシンシアだが、ピカーンと閃くものがある。
「ええ、こちらにお願いします」
 怪人が放った炭酸水をお鍋で受け止め、そこに先程味を付けた手羽先の残りを入れて、中火でコトコト煮込んでやれば。
「出来ました! 手羽先のコーラ煮です」
 コーラの炭酸が肉を柔らかくし、甘味が染み通った美味しいおつまみがもう一品!
 敵の攻撃の悉くを防ぎきって、シンシアは自作のグルメ料理に舌鼓を打つのだった。

ノア・キャナリィ

 高架下に位置する『AKI-OKA ARTISAN』に、そよりと柔らかな風が吹いた。
 風の出所は、黒い床の上に落ちて揺らぐ小さな影――ノア・キャナリィ(自由な金糸雀・h01029)の羽ばたき。純白の羽をはためかせながら、ノアはキョロキョロと辺りを見渡して店の間の通路を飛ぶ。
「あ、見ぃつけた♪」
 お目当てのお店を見つけたノアの瞳が軽く細められる。
 お店の看板にはカボチャや黒猫といった季節のイラストと一緒に、チーズやピザなど、いくつかのホットサンドの写真が貼られている。
「カボチャクリームと蜂蜜のホットサンド美味しそう……!」
 まじまじとメニューを眺めたノアの瞳が、ぱちくりと瞬きを一つ。
「やっぱり期間限定という言葉には心惹かれるというか……今を逃したら食べられないかも!って思ったら、ね」
 甘くて蕩けるスイーツ系は、ノアのお気に入りの一つ。しかもそれが期間限定となれば尚更で、心はもう、これから食べるホットサンドのことで夢中。
 これは買わないと損だと、小さな胸を期待で膨らませ、ノアはルンルンと羽音軽くカフェへ入っていく。

「ん♪ あったかーい」
 カフェを出てきたノアの両手には狐色の焦げ目がついたホットサンドが握られていた。
 紙包みを通して指先に伝わる熱もどこか甘い香りがして、そっと近づけたノアの鼻が湯気でほんのり紅に染まる。
 食べ歩きは少しお行儀が悪いかもと思うけど、スイーツの誘惑には逆らえない。
「んー、まろやかな甘さが美味しいー♪」
 はふ、と一口齧り付けば、途端に裏ごしされたカボチャとカスタードクリームが混ざった滑らかな口溶けが広がる。お口いっぱいの幸せに思わずほっぺが緩んで、頬にかかった金色のロングヘアも弾む。
「カボチャクリームだけじゃなくて、蜂蜜がいいアクセントになってると思う」
 パン生地に染みこんだ蜂蜜が熱で焼かれて生み出されるカリッとした食感。舌先に残る感覚も楽しみながら、ノアはホットサンドをこくりと飲み込む。
 心を満足させたら、後は……。

「片手塞がったまま失礼しまーす」
 翼をばさりと力強く羽ばたかせて、ノアはホーギーデビル達が巣くう店へと突入する。
『いらっしゃいませ。バーガーはいかがですか?』
『ご一緒にポテトはいかがですか?』
 乱入者に振り向いた怪人達が、着ぐるみに張り付いたスマイルを浮かべてファーストフードを勧めてくる。
「あ、追加は結構です、僕小食なんで」
 激辛、しかも爆発するバーガーは、たとえ空腹でもノーサンキュー。さらに美味しいスイーツでお腹を満たした状況なら言うまでもない。きっぱりとノアが断るが、怪人は怯まない。
『じゃあドリンクはいかがです? 今ならLサイズが大変お得です』
 怪人達が強炭酸の放水銃の銃口を突きつけてきた。
「飲み物は……紅茶派だからなぁ……」
 甘い食べ物を取った後は飲み物が欲しくなるものだが、こんなところの紅茶は赤茶色をしているだけの色水のようなもの。やっぱり首を振って、丁重にお断りをする。
『ファーストフード店で何も頼まないなんて駄目! 無理にでも食べて天国へ逝っていただきます』
 相手はか弱そうな少女(?)が一人。押さえつけて食べさせてしまえばこちらのものと、怪人達が一斉に飛びかかってくる。
「わわ、危ない」
 投げつけられたバーガーを、ノアは空中で身を捻って躱す。天井はそう高くないが、それでも空中を自由に飛び回れるノアと、大勢で狭い店内を動き回らねばならない怪人では機動力が違う。
「咲き乱れよ、花嵐」
 危なげなく放水銃の銃撃をやり過ごしたノアが振るう扇から無数の花弁が舞い散り、怪人達の着ぐるみに浅く傷を入れていく。
『店が汚れちゃった。店内のお掃除をしてください』
 薄紅の花弁が雪のように静かに店内に降り積もる。それに惑わされた怪人達は、ノアを追う手を止めて、身に降り注ぐ花弁を払おうとする。

「――今だね。雷よ、敵を感電させて!」
 凜とした声は、金糸雀の歌。
 見上げた怪人達の頭上に、青白い閃光が灯り広がる。
 ノアが生み出した雷火が、纏わり付いた花弁を伝って怪人達を悉く打ち据える。

 肉と毛が焦げる嫌な臭いが収まった時。
 そこにはもう怪人達の姿も場違いなファーストフードの店舗もなく、『AKI-OKA ARTISAN』は職人とアートの場としての落ち着いた佇まいを戻していた。

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挿絵イラスト