シナリオ

③『たすけて?』

#√汎神解剖機関 #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦③

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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●こまっちゃった
 蝶々が糸の残骸に絡まっていた。
 己が分身のようなもの。じぶんを補完するインビジブルが、網にとらえられている。

 こまった。
 共生の権能『ファルファッラ・ブル』は、こてりと頭を傾げた。

 侵入経路はうさぎの穴のごとく、皆が皆だれかに頼まれたり、だれかに呼ばれたり、何の意味もなく『そこ』へ訪っていたようで。
 自分も賑やかさに混ざりたかったのだけど。どうやら間に合わなかったらしい。

 その上あのありさまだ。ぼろぼろの見えぬ網にとらわれた自らを構成するインビジブルの蝶たちがばたばた暴れている……。巣に『主』たる蜘蛛がいなくてよかった。ファルファッラ・ブル、そこだけは安心して息を吐く。

 どうしよう。足音がする。誰かが来てしまう。喉を震わせるのは蝶々の羽ばたきだ……。
 ああ、もう、いってしまおう、きてしまうなら……。

『たすけて』

 からまって、しまいました。わたしの欠片、わたしのおともだち。
 無表情なその先、真剣に……助けを求めている!

●おかえり。
「やあやあ『おかえり』諸君! 緊急事態……? だ! アッハッハ!!」
 高笑いはいつものこと。ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ(辰砂の血液・h05644)。何か含みのある物言いであった。

「日本通運本社ビル――金綱稲荷。ここに張られていたゴールデン・ストリングスが破られたのは知っているね? つい先日のことだ。まだ残党が足掻いているが、まあ、長くは持つまい」
 尊大にソファに背を預ける巨体。白い翼の怪人は、「それで」と口を開いて。

「なんか困ってる奴がいる」
 はい?

「いやなんか、勝手に来て、勝手に困っているのだ。ゴールデン・ストリングスの残骸……目に見えたものではないようだが、それに己の『|インビジブル《肉体の一部》』が絡まったようだ」
 なにそれ……。こ、子供……?
 辰砂の爪がこつこつ地図を叩く。このビルの側面とか。鳥居の上とか。

「敵意が……その……見られなくてだね。わたくしの予知だと」
 はい。なんでしょう。
「きみたちに助けを求めて来て、気が済んだら帰っていく」
 ……。

 どういうことなのだ。何をしにきたのだ、この簒奪者。ともあれ蒼蝶、こまっているらしいので。
 たすけてやっていいんじゃないかなあ。糸の残骸も千切れると思うしね。

「さあいざ行け諸君! わたくしは働かないぞ! アッハッハ!!」
 手伝えって。

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第1章 ボス戦 『共生の権能『ファルファッラ・ブル』』


クラウス・イーザリー

 ポンのコツである。
「誰かと思えば、君かあ……」
 届くだろう、普通に。しかし絡まった自分の分け身を見つめることしかしていない。だって、長い袖、長い裾があれに絡まってしまったら、本当に一環の終わりになりはしないか……。
 ともあれ|彼《?》ならやりかねない。納得してしまったクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)、ファルファッラ・ブルへ――蒼蝶へと声をかける。
「大変そうだね」
 頷いている。とても深く。お久しぶりですとでもいうかのようなカーテシーめいたお辞儀、そんなことをしてもちょっとおもしろいことになっている現状の印象、取れはしないぞ!

 蝶にとって蜘蛛の巣は天敵だ。なのにこんなところに飛び込んでくるとは。ともあれ敵意が無いなら戦う必要は無い。というか本当に敵意がない。助けてやったっていいじゃないか。
 クラウスは陽光のような光の翼を背に、高所に引っかかっている白い蝶の元へと飛び立った。見えない……とはいえ手応えはある糸……。できるだけ、絡まっている蝶のインビジブルを傷つけぬように糸をちぎって、解放してやる。一匹ふらふら跳び始めた。あのまま他の網にかからないことを願うばかり。
 近くにも引っかかっていた蝶を網から外してやって、傷つけないよう慎重に魔力兵装で断ち切る。
 こちらのほう手で引きちぎるより簡単そうだ。そうこうしているうちに自分も絡まる。二の舞いはごめんだと断つが、もう一本。ええい鬱陶しい!!

 絡まることができるところには絡まっていたりでもするのか? 木や茂みでパタパタしているそれら。一匹ずつ処理する疲労は相応であるが、徐々にファルファッラ・ブルの周囲へ群れのように集まりはじめた蝶々。

 不可視に見えて、僅かに光を受け輝いて見える網の残骸を手に、クラウスは考える。一応持って帰っておけば、きっと誰かが分析なり、なんなり、いらなければ廃棄するなりするだろう。
 自分にはできないが、ともあれ……。

「……戦うことにならなくて、良かった」
 ――ああ、あの『蒼蝶』と同じ笑顔だ。無邪気で、優しくて、どこまでも愚かだった蝶と。
 丁寧に頭を下げたそれ。『ありがとう』と、きらり、吐息から鱗粉が散った。

和紋・蜚廉

「……糸始末。とは」
 本来ならば縫い目の端、絡まらぬようにと「する」ものだが、それを怠った――否、そうする暇もなかったのか。
 始末が悪いのは確かだ。現に絡まってる奴がいる。この場合、始末書などを書いたりなども……。
「(いや、蟲である我には関係の無い話だな。ああ)」
 わたくしたち、わるいことしてませんからねー。√能力者はみんなここでボコりあってただけですからねー。ねー?

「さて……件の蝶はどこに……」
『たすけて』
「いるな」
 なんだあれは。探すまでもなかった! 本当に周囲、あちこち、ありとあらゆる! 蝶が散らばりバタついている! 和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)に親近感でもあるのか、知った顔だとでもいうのか、近くに寄ってきたファルファッラ・ブル、焦った様子で見えぬ手の先があちこちを指している。絡まっている方角か。

「夜の街灯の下でも、彼処までは集まらんぞ」
 でも、からまっちゃった。こまったねえ。
 元から袖や、周囲に集まる蝶からして、集合体恐怖症を引き起こしそうな見た目であるのだが――蜚廉にはまあ、見えていないものなのだから(自分については)構わないだろう。
 代わりに、自身の肉体についている本能が、機能がそこかしこで反応を示している。なにぶん数が多い。たすけてやれと言われる程度には多いのだ。
「少々手荒な解放になるが、大目に見るが良い」
 蒼蝶、ぺこりと頭を下げた。

 壁にへばりつくようにして囚われている蝶、その糸を断ち切るは塵尾連閃の範囲攻撃! 一瞬蝶がびくりとしたが、無事に解放されぱたぱたゆらゆら羽ばたいて、ファルファッラ・ブルの元へと帰っていく。まだあちこちに糸と、そして蝶はいる……。
 さて、隅っこのほうでなかなかみっちり引っかかっているそれの糸を断ち切っている最中のことだった。
「む」
 危機感知があってもフラグを立てたらこうなります!!
 言わんこっちゃあない、蜚廉の体が宙で引っかかった。成る程捕らえられた蟲とはこのような気持ちなのかと顎を揉む。
 だが少し動けば、滑らかな体ゆえか、するりと網から抜ける。蝶と共に抜け出した網。
 集まる蝶に、蒼蝶は満足げだ。

エリック・ガブリエラ

 ふわり降り立ったのは似た青色。とはいえ蝶と鳥類、被食者、捕食者。ちょっぴり「ぴえっ」となっていたことはここに補足しておこう……。

「やあこんにちは、似た色の羽の君」
 エリック・ガブリエラ(落日の翡翠・h06694)の優雅な一礼に、同じように礼をしてみせるファルファッラ・ブル。なんとも優雅に見えるご挨拶だが、どっかからパタパタ聞こえているので少々興ざめか。

「いや、別に君を啄みに来たわけじゃないさ」
 そこでようやく緊張の糸が解けたか。まだ自分の分け身たちの糸は解けていないのだが。
「むしろ、君の助けに馳せ参じてきたのさ」
 ファルファッラ・ブルは肩の力を抜いて、エリックの姿をまじまじと見る。ヒトとしての外見に、カワセミのような青い翼を背負った体。なるほど、似た羽である。それが蝶としてか、鳥としてか。構造色の蒼は確かにうつくしく、光を反射していた。

「ご覧の通り、俺には翼がある。君のお友達を助けてあげようじゃないか!」
 ばさり羽ばたいたエリック。鳥として見るならば、餌を取るのは――こほん。蜘蛛の巣から何かをかっさらうのは得意だだろう。鳥居の隙間でばたついている蒼い蝶を解放したり、『なんでそんなところにいるんです?』みたいな、雨樋の下で暴れている蝶を網から引っ剥がしたりと。己の起動能力を武器に、次々と蝶を解放していく。それでもまだキリがないのだから、このファルファッラ・ブルとやら、どのようにこの場に現れたのだろうか……。
 ともあれ一定数、丁寧に始末できた。蒼蝶の周囲に集まる蝶々も相応数が増え、中性的な、性別のわからぬ|彼《彼女》も笑みを零して喜んでいるようだった。

「何、お礼はいらないよ。君や君のお友達から次の驚きへのアイデアを見いだせるかもしれないし……」
 たとえば、そう。このように、めいっぱいの蝶をばたりと羽ばたかせるのは、確かに驚きをもたらしてくれるだろうし。
「悪い驚きをもたらさないなら、こちらも何もしないさ!」
 ばちりとウィンク! 茶目っ気たっぷりなエリックに安心したか、ファルファッラ・ブルはこくりと頷いた。

ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス

「ハジメマシテ」
 ご挨拶は少しぎこちなかった。丁寧に礼をするファルファッラ・ブル、ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)、へ向かい、あちこちを袖で差している……。助けられることに本気で慣れはじめている……。

「すげー綺麗なヤツだな。あんたみたいなのおれの故郷だとあんま見ないんだよ」
 故郷。故郷……少し複雑そうな表情をした蒼蝶。自分の故郷はどうだっただろう? もはや曖昧な記憶の中、困ったように首を傾げたが、褒められたことは理解しているらしい。

「そんじゃ、始めますかねっと……」
 ――広がるは破壊の炎。
 びくり。炎に怯えるように後ずさった。どころか物陰に隠れた。炎への本能的な恐怖だろう、ふるふる震えているが放っておいてよろしい!

 蝶を捕らえている糸だけを狙い放たれたそれ、火加減はちょうどよく。
 ジェイド自身の性質――人間爆弾という『火加減』次第では悲惨になる彼だ。精密製は折り紙付き。炎は巡り巡りて蝶の群れを解放していく。
 手の届く範囲はサバイバルナイフを用いて、暴れる蝶々を傷つけないよう丁寧に糸を切っていく。

「おれな、綺麗なもんは好きなんだ」
 そうして、ファルファッラ・ブルへと話しかけるジェイド。その言葉に反応してか、蒼蝶はそっと彼へと近づいていく。
「だからあんたや蝶々を助けた。ほんと、綺麗でかわいいよな」
 ふわり飛び立った蒼い構造色が、ファルファッラ・ブルの左目へと留まった。ぱちり瞬きをすれば、同様に羽根を閉じてみせるそれは、欠落した左目を埋めているのだろう。

「あんたが簒奪者ならもうこんな機会もないだろうし。ちょっと頭撫でさせてもらえね?」
 伸びてくる手。……抵抗はない。ぽすんと頭の上に置かれたそれが、自分の髪をぽんぽん、撫で、髪を梳く。

「気をつけて帰るんだぞ」
 気をつけられるだろうか。このようなポンのコツをやらかすタイプの|彼《彼女》が。あやういが、ひとまず今は無事を願うしかない。

那弥陀目・ウルル

 ひん。声にするならそのような。すんすん鼻を鳴らしている簒奪者など滅多に見られるものではない。それが大人の姿ともなれば――!
「えぇ〜、マジで困ってるぅ〜……」
 那弥陀目・ウルル(世界ウルルン血風録・h07561)、非常に奇妙な状況に首を傾げた。

「助けていいとは言われたけども……」
 接近してくるウルルに気づいて。今までの皆が協力してくれたゆえか、元来のものか警戒心のないファルファッラ・ブル。向けられた日傘にちょっとびくり。
 つんつんつついてみよう。ひん。涙目で目をぎゅっと閉じた。やられるとでも思ったのか。蝶を叩き落とす用途には使わないので安心するがよい。
「何しに来たの、キミ? この戦争中にここに居る事自体怪しいっていうかぁ〜」
 つんつん……つん……。ウルルがつつくたび、声にならない声が、インビジブルが代替しているらしい喉から漏れている……。う〜ん!

「過去の報告書的に人類に害意を持つタイプではないみたいだけど……」
 つん。ひん。|々《くりかえし》。困り眉でウルルに詰められているファルファッラ・ブル、いやいやと首を振り始めた。
「でもぉ、そういうタイプって無自覚にやらかしたりするしぃ〜。困るんだよね〜、√EDENでやらかされると」
 つんつんつん……必死に首を振って、頷いて、身振り手振り。蝶のいる方向へ腕を伸ばして、自分を指して、そして次はその手が神社の外へ。本蝶なりにいっしょうけんめい説明している。

「ほんとにぃ? 助けたらほんとに帰るぅ〜?」
 かえる! かえる! 必死の肯定!
「悪い事しない〜?」
 しない! しない!

「……もぉ〜、しょうがないなぁ〜!」
 ……そこまでやって、信頼を勝ち取れたらしい……。疲れた様子のファルファッラ・ブル、へちゃりとその場に蹲ってしまった。
「軽い気持ちで戦場に来るからだよぉ〜? 本当ならこのまま倒されたって文句言えないんだからね、反省してね〜!?」
 まだつんされる。ひぃん……。

 ともあれウルルの血刈術、イイ感じに糸を狙う! 蝶の集まっていた――絡まっていた糸がほどかれて、ぱ、と広がって、蒼蝶の周囲へと集まってくる……。
「これ使って変なことしない~?」
 つん。
 ひぃん!

梶井・アキ
ミケーレ・デ・ルカ

「ハッ……随分とおマヌケな簒奪者ってのも、いたモンだな」
 はじめて、敵意を向けられた。梶井・アキ(|不発弾《死に損ない》・h09151)へびくりと肩を跳ねさせたファルファッラ・ブル、すぐさま袖を振ろうと動いたが――網に囚われたインビジブルたちのせいで、己の欠落かつ攻撃手段であるインビジブルが足りないことに気づいて、後ずさる。

「……敵意があろうがなかろうが、関係あるか?」
 ああ本来、関係ない。他の事案ではそれをもって決裂し、|彼《彼女》と戦うこととなったのだ。その際に振るわれた能力は確かに簒奪者そのものであり、確りと蒼蝶は√能力者であり、『自分勝手に動くもの』であるのだ。
 だからこそこのように助けを求めたりするのだが。
「邪魔なモンは、無抵抗でも潰す、それが簒奪者お前らから教わったやり方——」

 そうして話している間に。
 女の子、かな。捕まってる……。曖昧な容姿をしたそれ、どのように見えてもおかしくないし、どのように見えても正解だ。ミケーレ・デ・ルカ(|天使《死に損ない》・h09144)は蒼蝶を見て、不思議そうな顔をした。
 少し姿が違う。けど。『羽』みたいなのがある。きらきら光って羽ばたいている。
 なら、この子も、おんなじ「天使」なのかも。
 ――だったら助けてあげないと。早くしないと、|バケモノ《蜘蛛》が来て食べられちゃうかもしれない。
 |カジィ《梶井》にも、助けてあげてって伝えなきゃ……!

「あっ、おいミケ、危ないから近寄んな……!」
 アキの眼の前に立ちふさがったミケーレ。ファルファッラ・ブルを指差し、困っているのだと身振り手振り、涙を拭うようなジェスチャーをして、アキの服を引っ掻きはじめた!
 臨戦態勢だった空気、緊張の糸が一気に解けた。なお蝶に絡まる糸は相変わらずなので略。

「ハァ?  ……なに、助ける気か? いや、アレは「|天使《お仲間》」じゃないだろ」
 ちょっと羽っぽいところは似てなくもない、けど。蒼蝶は困った様子で。天使とは、というような顔でミケーレとアキを交互に見ている。ばりばり爪とぎは続いている……そろそろ服がヨレてしまいそうだ。

「…………あ゛〜。わかった、わかった、わかったから」
 わかってくれた? わかってくれたのかな。
 危なくなったらすぐ逃げるぞ、と。ぽんと頭に置かれた手に、やっぱりカジィは優しい。と笑みを零したミケーレ。そして、頭上を見る。

 鳥居に絡まった蝶々……かわいそう。でも、あんなに高いところに届かない。なので、引っ掻いていた手を使って、アキの体をよじ登ろうとした。
「オイ、勝手によじ登るな。はいはい手伝う手伝う」
 |右肩《そっち》に体重かけんな。欠落・欠損を埋めていても痛いものは痛いのだ。それを気にする暇がないくらいに、ミケーレは蝶を助けるのに夢中らしい。
 蝶々の子、怖かったね。今助けてあげるからね。
 網に絡まった蝶、優しく糸をほどいてあげて、羽ばたいて……ファルファッラ・ブルの側へと飛んでいくのを見守る。

「……満足したら、早く帰るぞ」
 そうは言いつつ、手伝ってしまうのがアキなのだろう。肩車をしたまま、手の届く範囲の蝶を解放していくミケーレ。これで、結構に解放できたのではないだろうか? 蒼蝶の側に集まる|彼ら《蝶々》もずいぶん増えたようだ。

「……そこの簒奪者、ミケに感謝しとけ……!」
 ミケーレを肩車したまま、アキは満足げなファルファッラ・ブルへと告げる。
「お互い、次はないだろうからな」
 次があるなら、きっと、敵同士か……あるいは。
 またねを手を振るミケーレに対し、穏やかに手を振る蒼蝶のご機嫌次第か。

ルメル・グリザイユ

 もしかして。もっと警戒心を持ったほうがいいのでは?
 ちょっと疑い始めたファルファッラ・ブル。√能力者たちが協力的すぎる。自分は『権能』を使っていない。強制も矯正も共生だってしていないのに、皆が皆、網から蝶を外してくれる……。

「……わあ……見事に絡まっちゃってるなあ……。な~んでこんなことになっちゃったんだか」
 とはいえ目前のルメル・グリザイユ(寂滅を抱く影・h01485)も、こちらに敵意を向けていないようである。
「まあ、何もしないならあえて戦う必要もないし、助けてあげてもいいかな~」
 僕は別に、戦闘狂ってわけじゃあないしねえ。おろおろするばかりのファルファッラ・ブルの頬、ルメルの指がぷにぷにつつく。いやっとぷいと向けた先の頬もつつかれる。
 こまった。左右どちらも行き止まりだ。後ずさればいいものを……最終的には散々両手でぷにぷにされた挙げ句解放された。

「さあて、気配は十分捉えられたかな」
 散々触れたのだ――十分も十分、このファルファッラ・ブルの気配を探していけばいいのだ。
 召喚された魔法人形、魔術的探知は実に正しく機能している。
 草の茂みを掻き分けて、なんでそんな低いところで絡まっているのやら、な蝶を解放し。
 鳥居の端っこで諦めたようにぶら下がっていた蝶を解放し……旗の根本では旗と一緒に揺れている蝶も助けてやる。ありとあらゆる場所に引っかかりすぎている――!

「さあてあとは~……」
 見える範囲ではだいたい助けて……いや多いな……手のかかる簒奪者なことだ。
 ならば見えにくい範囲も探してやろう。気配を頼りに、ルメルがふと覗き込んだ縁側。

「あ~あ~、こ~んな|見えづらい所《縁側の下》にも引っかかっちゃって……」
 ネコチャン探しめいてきた。じたじた暴れても中々気づいてもらえないであろうその場所、ルメルは丁寧に糸を払ってやる。ふわふわよろよろ。蒼蝶の側へ飛んでいく蝶のインビジブルたち。
 ファルファッラ・ブルの周囲に集るインビジブルたちはずいぶんと増えてきた。それを吸収しようとしないのは、敵意を示さないためだろうか。
 ともあれまったく、どんくさい簒奪者だ。

澪崎・遼馬

「後の祭りにやってきて困難に陥る敵とは……」
 澪崎・遼馬(地摺烏・h00878)、さすがの呆れ顔である。何とも形容しがたい気持ち。あれほど糸を断ち切ったのだ、確かに……確かに、後片付けをしなければ、妙なものが絡まる可能性は、あっただろう……が……。
 このようなかたちで『そのようなこと』をすることになるとは!

 こちらも無益な戦いや殺生がしたいわけではない。現に……非常に……申し訳なさそうな表情をしたファルファッラ・ブルが、遼馬の横に寄ってきている。背には√能力者たちが助けてくれたのであろう蝶の群れを連れて、ぺこりと頭を下げてくる。
 このような態度を取られているのだ。本当に、敵意の欠片もないではないか……。

「助けてやるとしよう」
 半ば、仕方なくといった風ではあったが。
 ――手数を増やそう。構えられた銃にびくりと反応したファルファッラ・ブル。だがもうそれが己や、己を構成していたインビジブルたる蝶へ向けられるものではないと理解しているらしい。|此岸も彼岸《二丁拳銃》も、此度ばかりは本来の役割――『導く能力』を果たさぬ休息だ。

 的確な銃撃が半端な高さに捉えられていた蝶々の糸を断ち切る。ふらふら飛び立ったそれを見て、次の糸へと狙いを定めていく遼馬。
 銃弾で傷つけるわけにはいかぬ場所へは霊力を飛ばし、強風にて糸を断ち切ってやって、風で煽られながらも解放される蝶がこちらへむかって飛んでくるのを見た。
 それでもなかなか終わりの見えない『作業』である。
 そう、作業だ。それだ。√能力者、作業をさせられている……気づいて! もう遅い! そしておそらく遼馬は勘付いても止まらない!

「……これでいいのか」
 念の為の確認。こくこく頷くファルファッラ・ブル、どこか明るい表情で遼馬を見ている。己を助けてくれるもの、共生してくれるものは大好きだ。だから、傷つけないし、己を傷つけることもないと信じている。
 蝶々どもの羽ばたきは随分大きくなったものだが、まだ……先は遠いか……。遼馬はふうと息を吐いた。

一・唯一

「助けてくれ、てあの|羽毛の御方《星詠み》が言うから来てみたら……どないなっとん?」
 どないなっとんやろ。あちこちに蝶々が引っかかっている。それも盛大に。これでも√能力者たちが必死になって獲ったあとらしい。
 おずおず、一・唯一(狂酔・h00345)に近づいてきたファルファッラ・ブル……その背には、結構な量の蝶のインビジブルが羽ばたいていた。なるほど、自身の背に一旦集めているらしい。

「嘘ついたら|地下《・・》にお持ち帰りしてしまうから、――ええね?」
 唯一の笑顔が、こわい。地下ってなに。とはいえこの蒼蝶、地下という概念を知ってはいる。みな嫌だと言っていたから、自分も避けるべきだろう……こくこく頷いたのを見て、唯一は満足気に笑みを浮かべた。

 さて、執刀の時間だ。
 |青空手術《ブルー・ブルー・オペレーション》。メスのように鋭く光る刃が、黒曜が舞う。鴉の羽根のごとく、糸を断ち切っていく――!
 それはさながら指揮者のようだ。僅かなブレすら許さない、たおやかで、的確な執刀である。解放された青い蝶、その鱗粉が黒曜石の切っ先をきらめかせ飛んでいった。

「美しい青やねぇ」
 どこまでも。陽の光を受けて輝く構造色の蒼――。
「ココどうなっとるん!?」
 目を見つめられた気がした。だがそれは自分へのものではない、分け身たるインビジブルへの言葉。
「なあー痛かったら言うんやで」
 痛くはない。だって、丁寧だから。丁寧に、網から外してくれているから。
「真白の、これもお前さんか」
 それも『わたし』。
 口頭で返答することはないが、ファルファッラ・ブルは静かに、楽しげな唯一の声を聞いている。心地よい。自分をたしかめられるようで。自分が何者なのかわからなくなってしまった、その事実を少しでも、覆い隠してくれるようで。
 なかみをみられている気がした。

「迷子になるとこんな事なるんやねぇ」
 あらかた回収したか。ふらふら合流する蝶を見て唯一はうんと頷いて。
「……嗚呼、うん、ボクも気をつけよ。洒落にならんわ」
 ほれ、気を付けてお帰り。まだ帰れない云うんやったら、頑張りな。

「――次会うたら、その時はその腹、掻っ捌いたるからね?」
 あ、やっぱりこわいよぅ。

神咲・七十

「あぁ~、引っ掛かりましたか」
 呆れているのか、それとも事実を受け入れているだけなのか。
「何というか、貴女ならやらかしそうですね♫」
 ポンのコツ。突きつけられた事実に、|彼女《彼》はしょんぼりと肩を落とす。その肩に留まるインビジブルの蝶々、どうやら本気で凹んでいるらしい……。

「……蜘蛛さんになってもいいですが、今回は普通に助けてあげましょう♪」
 びくり。おそろしい思い出でも想起したか――ともあれ神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)、喚び出した|邪神の欠片《フリヴァく》と共に歌い始めた。現れる隷属者達――!
 ファルファッラ・ブルへと向かおうとした彼らをしっし、と七十が追い払う。やるべきことは『こちら』ではないのだから。
「まあ、地上の蝶くらいはどうにかしてくれるでしょう」
 半ば渋々というかたちで散開していく隷属者……ゆったりとした動きではあるが、茂みなどを探り始めた。

「それにしても見事に引っ掛かリましたね……あ、お菓子食べます?」
 お菓子。首を傾げるファルファッラ・ブル。よくわかっていないようなので、とりあえず自分でチョコレートウエハースを口にした。
 フリヴァくと七十に挟まれ、頬をつつかれ……あれやこれやと触られまくっている。
 欠落しているらしい腕はインビジブルたる蝶に包まれているので、そっと持って。ぐるりまわってみたりする。
 その間でもふわふわ飛んでくる蝶々たち。くたびれてみえるそれがファルファッラ・ブルが背負う蝶の群れへと合流していく。これでそこそこ、回収できたのではないだろうか?

「あ、そうだ、帰る前に謝礼を一つ貰いますよ?」
 いやなよかん。蒼蝶が固まった。
「ライブしたくなりましたので、観客として聴いて帰って下さい♪」
 ――突然の歌唱!!
 可愛らしいアイドルソングをフリヴァくと共に歌い始めた彼女。
 音と歌声にびくっと肩を跳ね上げたファルファッラ・ブル、きちんと聞かねばならないかと硬直しながらも曲を聞いている……。

目・魄

 小さな御守鈴が鳴る。ちりん、ちりん。
『ちょうちょ、いる』
 憑いた子狐、蝶々に興味津々だ。あちこち、数は減ったものの絡まった蝶。
 そして眼の前に立つ『それ』。
 どじっ子かな、と目を細めた目・魄(❄️・h00181)。眼の前には蒼い蝶々――男女どちらともとれぬ姿をしたファルファッラ・ブルの姿であった。
 狐。大丈夫だろうか。少々不安そうな表情をした蒼蝶だが、大丈夫だ。|自分が居る場所《この神社》の事を覚えていないわけはない。一応は……。

「仕方ないね、好きにしたらいいよ」
 魄の体を借りて、鈴の音と共に歩く子狐。子狐相応な大きさの狐耳、狐尻尾が二本ゆらゆら。子狐は稲荷の霊力を気にしているのか、ぴくぴくあちこち耳を動かしていた。そして羽ばたきの音をとらえた子狐――手の届く範囲に、蝶がつかまえられてしまっている。さあ、糸を裂いてやろう。

『えいえい、とっちゃいたい』
 糸を裂いても、もだもだしている蝶。柔らかな羽をはばたかせて、飛んでいこうと頑張っている……。するり、魄の中から姿を表した子狐。霊体となったその姿、魄の頭に乗っかって、ようやく飛翔したそれ。ぱたぱたと、ゆらゆらと、少々力なく飛ぶその蝶を子狐の目が追いかける。

「だめだよ。助けを求めている子を潰しちゃいそうだからね」
 捕まえたそうに手を伸ばしている子狐に優しく声をかければ、子狐はすん、とおすわりをして。
『ざんねん、にげちゃった』
 ファルファッラ・ブルの側へと辿り着いたそれが、群れの中へと紛れていくのを見守った。
 手を貸してくれたことに感謝しているのだろう、ゆったりとお辞儀をした蒼蝶。もちろん、目的が|彼《彼女》を手伝ってやるだけとは言っていない。そも、興味を持ったのは可愛らしい鈴の子狐なのだから。

 さて、網はどうやら少し残っているようだ。先程の蝶々が暴れた際についたらしい鱗粉を頼りに。細い糸を手繰り寄せ、できるだけの長さを保持したまま、残骸を回収する。商いの性。使えるものは、いくらでも――。

セシリア・ナインボール

「|連邦怪異収容局《FBPC》の邪魔さえ出来れば私としては満足でしたが」
 糸に絡まるものが情報だけならば、ああ、よかったかもしれないが。
「まさかこのような事まで起きてるとは」
 もはやFBPC、とばっちりまであるが、確かに例の収容局が原因で起きたことである。絡まってしまったものは仕方がない、仕方がないが、わりと、残念なまである……。
 セシリア・ナインボール(羅紗のビリヤードプレイヤー・h08849)は改めて申し訳なさそうにしているファルファッラ・ブルを見る。背負うインビジブルの数は相応に大きくなってきていた。それを一切√能力者に向けないことを、彼、あるいは彼女は『無抵抗』の印としているらしかった。
 だがその姿、おぞましい様になりつつある。見るものが見れば恐怖を感じるだろう、そうでなくとも……念の為と気を確かに持つように自身に言い聞かせた。

「助けてあげれば連中への嫌がらせにはなる……でしょうかね」
 あちらの気持ちはともあれ。チャンスはチャンス、セシリアよ、カツンとひとつ、狙い撃て。

 |西班牙式羅紗魔術文字《ラシャ・ブルヘリア・デレトレアール》――三秒ごと。手元は一切、狂わない。計算され尽くした魔術文字が、視界にうつる蝶をとらえる糸を切っていく。丁寧に回収できるように、物品修理の魔術文字をもって干渉していきながら。
 羅紗魔術士たるもの、その証明を――たとえ眺めているのがファルファッラ・ブル、簒奪者である『それ』だけだとしても全うしたいものだ。

 まったく面倒な後始末。リンドー・スミスめ。どこまでも困り果てさせるのがお得意だ! 口先もお得意、ただ彼との『戦い』については慣れがある。
 とばっちり? いいや、事実だとも! 彼が起こしたあれこれ、バタフライ・エフェクトの如く、今現在だって羽ばたいているのだから!
 邪魔と嫌がらせは継続だ。セシリアが見送る中飛び立つ蝶々、蒼蝶のもとへと合流する。ぴとり頭に留まった蝶が羽ばたいている――秋を通り越す寒さが襲う中では、少々目立つ風貌だった。
 ぺこり、頭を下げたファルファッラ・ブル。
「ひとつ、貸しです」
 今回だけですからね。|彼《彼女》はこくり頷いた。

ゼロ・ロストブルー

「……何が起きていたんだ?」
 ほんとにね。一応、写真におさめておく。あちらこちらに絡まった蝶、その蝶が脱出した跡であろう糸……。写真を取れば、その音に反応してか側に寄ってくる影ひとつ。
「えーっと、大丈夫だろうか」
 声をかけるのをためらった理由はいくつかある。背に、数多のインビジブルを背負っている。とらえられている蝶と同じものだ。
「……敵、だよな?」
『……一応……』
 これまで殆ど無言だったファルファッラ・ブル。ようやく、声を発した! 集めたインビジブルを声の欠落を補うことにあてたのだろう。
 一応か……そう思いつつも、ゼロ・ロストブルー(消え逝く世界の想いを抱え・h00991)は「一枚いいかな」と、その姿を写真におさめておいた。

 どうにも哀れっぽい姿。なんだろう、放っておくのも可哀想だ。√能力者たちの努力は確と実り、本来の能力を取り戻しつつある簒奪者……とはいえ戦う意思は無さそうだ。助けてあげていいだろう。
「手を貸すよ」
 さて、写真術で培った足の出番だ。ゼロが低木を覗き込めば猫のごとく、「たすけて」とばかりに居る。柵の隙間に挟まり雁字搦めになり、「もうおしまいです……」みたいな雰囲気を醸し出している蝶だっている。
 そうなってしまっているのなら仕方がない。ゼロは取り出した双斧の刃で、そっと糸を切ってやるが、やはり「おしまいです……」みたいに落ちそうになった。手で掬うように受け止めてつついてやれば、ようやく解放されたことに気づいたらしい。急に元気に羽ばたいて、ファルファッラ・ブルの方へと飛んでいく。

「まさか、敵の救助活動をすることになるとはなぁ」
 民間人の避難誘導と、今回の被害記録などを写真におさめる……それを主にして活動していたはずだったのだが。
 軽く笑って、まだ捉えられている蝶を丁寧に解放してやる。
 さて、これで目に見える場所にも、見えにくい場所にも殆ど蝶々どもは居なくなっただろう。

「今後、戦うことがないことを祈ってるが……」
 こんなにも温厚な簒奪者は珍しい。しかも助けまで求めてきたのだから……。だが。
「もしぶつかり合う時は全力で行かせてもらうよ」
 油断は、してはいけない。今回はその能力の一切を見せなかったが、次に会うときは当然また、敵同士なのだから。

「ほら、今は空高く飛んでいくといい」
 こくり、頷いたファルファッラ・ブル。ぶわりと背後の蝶のインビジブルが、|彼《彼女》の姿を覆い隠す。
 ぶわりと風が吹き――蝶々の群れとして、ファルファッラ・ブルはその場から飛び去っていった。

 一部、鈍臭い蝶がひらひらとしていたのも、ここに記しておこう。

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