シナリオ

⑬融合|迷宮《ダンジョン》の黒幕の隙を突け

#√ドラゴンファンタジー #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦⑬

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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●√EDEN:秋葉原――芳林公園
 四方を高いビルに囲まれた公園に、黒竜が如きドラゴンプロトコル型のモンスターが降り立つ。
 現れたモンスター――リンドヴルム『ジェヴォーダン』は、ある気配を感じ取り舌打ちした。
「ちっ、先に生成した商店街の融合ダンジョンは潰されたか」
 ――だが、ダンジョンとなり得る場所はまだまだたくさん存在するから。
「姑息と卑怯で、このジェヴォーダンに勝てると思うなよ!」
 その苛立ちを何処かにぶつけるかのように、ジェヴォーダンは己が権能を解放する。
 今まさに、芳林公園は融合ダンジョンへと変化しようとしていた。

●暗躍好む黒幕を叩き潰せ
「清々しいほどにまでわかりやすいことをしてくれるじゃないの……でもこれは千載一遇のチャンスね」
 √EDENの秋葉原の一角で、水尾・透子(人間(√EDEN)のルートブレイカー・h00083)は周囲に集まった√能力者たちに告げる。
「『融合ダンジョン』事件の黒幕、リンドヴルム『ジェヴォーダン』が、佐竹商店街に続いて芳林公園を『融合ダンジョン』にしようとしているわ」
 どうやら、ジェヴォーダンは王権戦争の混乱を利用して、密かに融合ダンジョンを増やすつもりらしい。
「でもこれは、暗躍を好むジェヴォーダンが見せた、貴重な『隙』になるかもしれないわね。今、ここで、ジェヴォーダンを叩き潰せば、奴の全ての目論見を破壊する『王権決死戦』に持ち込むことができるはずよ」
 なお、芳林公園の周囲には絶対防衛領域が多数存在するため、民間人が巻き込まれたとしても死ぬことはない。
 ならば、√能力者たちが為すべきことは、自然と定まるだろう。
「そこで皆にお願いするわね。芳林公園でジェヴォーダンを徹底的に叩き潰し、本体を引き摺り出して頂戴」
 頭を下げながら頼む透子に、√能力者たちはそれぞれの想いを胸に頷く。
「融合ダンジョン事件を解決できる絶好の機会よ。お願いね」
 そう告げる透子に見送られながら。
 √能力者たちは、ジェヴォーダンが降り立った芳林公園に向かった。

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第1章 ボス戦 『リンドヴルム『ジェヴォーダン』』


御剣・刃


 四方を高いビルに囲まれた公園に、ミミズクのような顔を持つ竜竜の簒奪者――リンドヴルム『ジェヴォーダン』が現れる。
 だが、それを事前に察知していたかのように、公園に次々と√能力者たちが集結し始めた。
「ジェヴォーダンか。腐っても竜なんだろう? ならちょっとは楽しませてもらいたいもんだ」
 御剣・刃(真紅の荒獅子・h00524)もその集団に混ざりながら、不敵な笑みを浮かべ拳を握り込む。
「あんまり弱かったら利子をつけて突っ返すぞ?」
「ちっ!!」
 不敵に笑いながら拳を突き出す刃を見て、ジェヴォーダンはすかさず姿形を小柄な大狼に変化させ、公園の茂みに飛び込んだ。
 一応、大狼のサイズは本来のジェヴォーダンより小柄なのだが、そもそも大狼自体、√EDENの都会ではまず目にしない姿ゆえ、大層目立ってしまう。
 そして、公園の茂みに飛び込んでも、都会の公園の茂みは小さい故、隠れ続けたまま移動するのは不可能だ。
「おう、隠れたって無駄だぜ」
 二重に判断を誤ったジェヴォーダンに対し、刃は第六感でジェヴォーダンの気配を察し、攻撃の糸口をつかんだ上で茂みに拳を突き出す。
 意図的に己が肉体のリミッターを外し、さらに身体能力を限界以上に高めて突き出された拳は、茂みに隠れていたジェヴォーダンの足を捉えていた。
 もし、ジェヴォーダンが元の姿のままか過去の英雄の姿に変身し、文字通り1対1の殴り合いに持ち込んでいたら、刃が不利になっていたかもしれない。
 だが、焦りからか刃より小さな体格の大狼に変身してしまった今、回避や機動力を得たとしても、刃の拳から逃れるのは……至難だ。
「こ、この……っ!!」
 ジェヴォーダンも大狼姿のまま茂みから飛び出し刃に噛みつこうとするが、刃もすかさずカウンターの拳を合わせ、弾く。
 カウンターの直後、刃の拳が再びジェヴォーダンの頭に叩き込まれた。
「ドラゴンの名を借りてるが、所詮この程度か。俺の朋友達の方がお前よりずっと強く、闘って楽しいよ」
「お前っ……!!」
「驕った相手ほどつまらんものはないな」
 言外に、驕ったからこそ察知されたのだ、と告げながら、刃は捨て身の拳を突き出す。
 防御も回避も考えない大仰な拳は、しかし大狼姿のジェヴォーダンの胴を粉砕するが如く撃ち抜いていた。

ガイウス・サタン・カエサル


 現れた簒奪者、リンドヴルム『ジェヴォーダン』を徹底的に叩きのめすべく、芳林公園に次々と√能力者たちが集結する。
 その中のひとり、ガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)は、魔人の剣を手にじっとジェヴォーダンを見つめていた。
「これは、ジェヴォーダン君にとっては終わりの始まりになりそうだね」
「まだ終わる気はないけどなあ!」
 ガイウスの言の葉に激昂したか、ジェヴォーダンは獣型モンスターの群れを召喚する。
「お前達、行け! 奴と融合しろ!!」
 獣型モンスターが一斉にガイウスに向け走り出す。
 だが、ガイウスは獣型モンスターの群れとジェヴォーダン、全てが視界に納まっているのを見て、たった一言だけ告げた。
「――『止まれ』」
 その言の葉が虚空に溶け込むと、獣型モンスター全てとジェヴォーダンが、麻痺したかのように動きを止める。
「な、なっ……!」
 ジェヴォーダンが藻掻き、足掻く間に、ガイウスは魔人の剣を構え、獣型モンスターの群れを視界から外さぬよう注意しながらジェヴォーダンに肉薄した。
(「うっかり目を閉じないよう、体力が尽きる前に――決めよう」)
「言っただろう? 終わりの始まりになりそうだ、と」
 ガイウスは何となく呟きながら、魔人の剣を横薙ぎに振るう。
 地面と水平に流れたその一太刀は、ジェヴォーダンの胴に深々と傷を穿ちつつ、獣型モンスターの群れを全て薙ぎ払い消滅させていた。

白石・明日香


「ぐ、ぐぐっ……」
 王劍戦争に乗じ、芳林公園を融合ダンジョンに変化させようとしていた簒奪者、リンドヴルム『ジェヴォーダン』は、その動きを察知し駆けつけた√能力者に徹底的に殴られ続けている。
 白石・明日香(人間(√マスクド・ヒーロー)のヴィークル・ライダー・h00522)もまた、ジェヴォーダンの企みを察知し、バイクにまたがり駆けつけていた。
「ノコノコ出てきてくれてありがとジェヴォーダン。ここで潰してやるよ!」
「潰されてたまるか!! お前達、オレを回復しろ!!」
 明日香の叫びに反応しジェヴォーダンが叫ぶと同時に、獣型モンスターの群れがジェヴォーダンを囲むように召喚される。
 モンスターたちがひと咆えすると、周囲に癒しの月光が降り注ぎ、ジェヴォーダンの傷を癒し始めた。
「させるかっての!!」
 明日香もバイクのアクセルをふかし、モンスターの群れに牽制射撃しながらジェヴォーダンに接近する。
 銃口から吐き出された弾丸は、豪雨の如くジェヴォーダンと獣型モンスターの周囲に降り注いだ。
 鮮血属性を帯びた弾丸は、着弾と同時に血の雨と化し、周囲を紅に染め上げながら、ジェヴォーダンと獣型モンスター、両方のいのちを蝕んでゆく。
 獣型モンスターも血の雨をものともせずジェヴォーダンを回復し続けるが、通常の2倍のダメージを与える鮮血の雨は、回復速度を上回る勢いでジェヴォーダンと獣型モンスターの肉体を蝕んでいった。
(「奴を回復しようが、それを上回る量の弾丸で顔面に制圧射撃を叩き込めばいいだけさ!」)
 やがて、銃弾と鮮血の雨の中で力尽きた獣型モンスターが、1体、また1体と雨の中に沈んでゆく。
 残ったジェヴォーダンも、倒れこそしないが全身を鮮血に染め、息を荒げていた。
「こ、こいつ……っ!」
「何を企んでいるかは知らないが、ここでお前は終わりだ」
 明日香はジェヴォーダンに接敵し、至近距離から立て続けに銃を乱射する。
 鮮血で強化された弾丸は、ジェヴォーダンの頭と両腕、そして脚を貫き、黒き偽竜を紅に塗り替えていった。

空地・海人


 √能力者たちは、王劍戦争に乗じ、融合ダンジョンを増やさんと芳林公園に現れた簒奪者、リンドヴルム『ジェヴォーダン』に、着実に――否、徹底的にダメージを重ね続けている。
 その中で、空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)は
「ここにきて遂に隙を見せたな、ジェヴォーダン! これ以上融合ダンジョンを作らせはしないぜ」
 海人自身、√ドラゴンファンタジーの南フランスまで足を運び、人攫い事件を解決したこともある。
 ――その裏で糸を引いていた簒奪者が、ようやくその姿を露わにした。
 融合ダンジョン事件を追いかけていたひとりの√能力者として、この機会を逃すわけにはいくまい。
『現像!』
 海人は変身ベルトを腰に巻き、灰白い装甲を纏う【フィルム・アクセプターポライズ √ウォーゾーンフォーム】へと変身する。
 知られざる暴走の危険をはらむ、インビジブル化形態へと変化した海人は、装甲を構成するナノマシン、ネガフィルムセルを複数の武器に変化させ、手に取った。
「英雄気取りがあああ!!」
 ジェヴォーダンも小さい大狼へと変身すると、身を翻し小高い茂みに隠れる。
(「元の姿より小さくなられると、隠密力は増すはずだが……」)
 だが、海人が手にしたネガレーダーは、ばっちりジェヴォーダンの居場所を捉えている。
「隠れたって無駄だぜ」
 海人はジェヴォーダンが隠れている茂みに向け、ネガミサイルランチャーから誘導弾を発射。
 小さい大狼も草むらから脱出し駆け出そうとするが、それより早く誘導弾が着弾し、足元を吹き飛ばした。
「ぎゃあ!」
「逃がすわけがないだろ?」
 思わず元の姿に戻ったジェヴォーダンに、海人は閃光剣・ストロボフラッシャーを手に肉薄し、一気に斬り込む。
 眩い光が凝縮した剣は、あまりの眩しさに怯んだジェヴォーダンの胴を深々と斬り裂いていた。

瀬条・兎比良


 密かに融合ダンジョンを増やさんと暗躍しようとしていた簒奪者、リンドヴルム『ジェヴォーダン』は、しかし融合ダンジョンの生成を始めるより早く√能力者たちに襲撃されている。
 その動きに、瀬条・兎比良(|善き歩行者《ベナンダンティ》・h01749)は僅かに複雑な感情を抱いていた。
「徹底的に、ですか」
(「なかなか穏便ではありませんが……愉快犯には妥当な対処でしょうね」)
 ジェヴォーダンに視線を向けつつも、兎比良の左腕は人工回路が淡い燐光を発するよう輝いている。
「サイズがどうあれ、目標は近い方が殴りやすいでしょう」
 お互いにね、と呟きながら、兎比良はホルスターから|略式允許拳銃《らくいん》を抜きながら、目にも止まらぬ速度で立て続けに牽制射撃。
「お前らあああああ!」
 ジェヴォーダンも先手を取られ銃弾を浴びるが、構わず大狼に変身した。
 大狼と化したジェヴォーダンの身体が、みるみるうちに大きくなる。
 やがて、兎比良を遥かに上回る巨大な狼と化したジェヴォーダンは、咢を大きく開きながら兎比良に噛みついた。
「喰らってやるぜ!!」
(「タダでは受けませんよ」)
 大狼の瞳に見下ろされながら、兎比良はあくまでも回避を念頭に置きつつ、左腕を咢に差し出すよう翳し、巨大な犬歯を滑らせて咢ごと受け流した。
 思わぬ受け流し方をされ、ジェヴォーダンが頭から地面に突っ込む。
 兎比良も犬歯に掠められた左腕が鈍く痛むが、|略式允許拳銃《らくいん》を撃つには支障はない。
「姑息な手段を取るのも結構ですが、こちらは“徹底的に”殴らせていただきますので」
「お前ッ……!」
「反省の色は無さそうですし、罪は強制で贖って貰いますよ」
 兎比良は顔色ひとつ変えず、転んだジェヴォーダンに向け、再度|略式允許拳銃《らくいん》を連射する。
 反省せぬ相手を文字通り徹底的に叩くべく吐き出された弾丸は、大狼のままのジェヴォーダンの胴を何度も撃ち抜いていた。

和紋・蜚廉


「ぐ、ぐぐぐ……っ!!」
 王劍戦争に乗じ、融合ダンジョンをさらに生成しようとしていた簒奪者、リンドヴルム『ジェヴォーダン』は、察知した√能力者たちに徹底的に追い詰められている。
 和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)もまた、ジェヴォーダンを追い詰めるために、芳林公園に駆けつけていた。
「油断にあふれているな、偽竜よ」
「ちっ! まだ来るか!!」
 蜚廉の姿を目にするや否や、ジェヴォーダンは舌打ちしながら小さな大狼に変化する。
 だが、既に潜響骨と翳嗅盤で変化の兆しを掴んでいた蜚廉は、ジェヴォーダンが動き出すより早く、大狼と化した偽竜に肉薄していた。
「如何なる姿に変化しようと、その本質は変わらぬか」
 内心嘆息しながら、蜚廉はジェヴォーダンが茂みに隠れる前に接敵し、拳を叩き込む。
 拳が叩き込まれるに連れ、大狼の姿が少しずつ剥ぎ取られ、偽竜を示す黒き皮膚が露わになる。
「グボッ!?」
「虚飾に塗れたその姿、白日の下に晒してやろう」
 やがて、何度も拳を受けたジェヴォーダンの変身が強制的に解かれ、もとの偽竜の姿に戻された。
「クソッ……!!」
「逃がさぬ」
 不利を悟ったジェヴォーダンも逃げようとするが、蜚廉は斥殻紐を拳の隙間から伸ばし、ジェヴォーダンの片腕を縛る。
 逃走の隙も、間合い以上の距離を離す機会も、何方も与えない。
「奢ったな、ジェヴォーダン。これまで好き勝手にしてきた報いを、今この場で受ける時だ」
 √EDENと√ドラゴンファンタジー、ふたつの√を融合させ侵略せんと企む偽竜に、蜚廉は無限とも言える勢いで拳を叩き込む。
 4本の腕から叩き込まれる拳は、時にジェヴォーダンを麻痺させながら、その全身を滅多打ちにしていった。

 サンドバッグのようにジェヴォーダンを殴りながら、蜚廉は内心呟く。
(「もっとも、本当に報いを与えるのは……後に続く能力者たちだろう」)
 己より怒っているであろう者の顔を脳裏に思い浮かべながら、蜚廉は只管拳でジェヴォーダンを叩きのめし、戦意を奪っていった。

サン・アスペラ


「ちっ、このままじゃ新たなダンジョンが作れねぇ!」
 芳林公園に駆けつけた√能力者たちにボコボコにされながらも、なおも公園に留まり続ける簒奪者、リンドヴルム『ジェヴォーダン』に向け、サン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)が拳をぐっと握り込みながら叫んだ。
「やっと見つけた、ようやく捉えた! 融合ダンジョンの元凶、リンドヴルム『ジェヴォーダン』!」
「まだ来るのかよ!?」
「とーぜん! こちとらお前を探して南フランスまで出向いてたんだぞ!」
 サンは指をびしっと突き付けながら、ジェヴォーダンの企みの犠牲となった人々の分まで思いのたけをぶつける。
「あっちこっちで迷惑かけて……お前のせいでどれだけの人が涙したと思ってる!?」
「知らねえよ!」
「まぁいいや、策士ごっこもここまでだ。覚悟しろジェヴォーダン」
 悪びれた様子もないジェヴォーダンを見て、サンは拳をわななかせつつ、あえて低い声を作って告げた。

 ――今日の私はちょっぴり怖いぞ。

「ちっ、お前なんぞにやられるか!」
 嫌な予感に襲われたか、ジェヴォーダンは一瞬だけ念じて飛竜の姿に変身し、上空に逃げる。
(「念じる時間も与えないつもりだったけど、一瞬念じただけで変身した!?」)
「お前なんぞ、一瞬で地面に倒してやる!!」
 驚くサンを前にジェヴォーダンはしばし上空を飛び回ると、そのままサン目がけて急降下し始めた。
「どんな姿になろうが関係ない! まずは下拵えから!」
 それでもサンは、踊るように軽やかなステップを踏みながら、ジェヴォーダンの急降下を回避しつつ接近する。
「ぐおっ!?」
『珍しい技を見せてあげる!刻印拳!』
 そのまま地面に着地したジェヴォーダンに向け、サンは牽制からの右ストレートをお見舞いした。
 牽制よろしく繰り出された拳は、しかし元の体格より大きい飛竜に変身したジェヴォーダンが揺らがせるには至らない。
「粋がっている割にその程度かよ!?」
「まだまだっ!」
 サンは緋環拳からワイヤーを放ち、捕縛する。
 ジェヴォーダンが一瞬だけワイヤーに気を取られた隙に、サンは再度強撃よろしく右ストレートを叩き込んだ。
 拳で殴られた位置には、不可思議な刻印が刻まれている。
「そこをぶん殴られたら、文字通り死ぬほど痛いぞ!」
「へっ、殴られなきゃいいだけだろ?」
 もう1度空へ逃げてやる、と言わんばかりに翼を羽ばたかせるジェヴォーダンに、しかしサンはあっさりと。
「一撃で終わらせる、なんて言ってないけどね? むしろ一撃で終わらないでよ?」
「へ?」
「私の気が晴れるまで、いっぱいいっぱい殴らせてね!」
 こめかみに怒りマークを浮かべつつ、あえて引き攣った笑顔を向けながら。
 サンは普段怪我せぬよう無意識にかけているリミッターを解除し、さらに己が限界を超える程の勢いで駆け抜ける。
「刻印に当たるまで……当たってもジェヴォーダンが死ぬまで何度でも殴り続ける!!」
「お、おい……っ!!」
 焦るジェヴォーダンに向け、サンはまず39回分の打撃を一纏めにしたような威力の拳を一発。
 見た目以上の勢いの拳を叩き込まれ、ジェヴォーダンの身体がくの字に折れ曲がった。
「が、がは……っ!!」
「もういっちょ! 地獄に堕ちろ、ジェヴォーダン!!」
 さすがに動きを止めたジェヴォーダンに向けて、サンは再度39回分の打撃に等しい威力を持つ拳を叩き込む。
 回避も防御も許されぬ全力の拳は、ジェヴォーダンの身体に風穴を開けん勢いで深く、深くめり込んでいた。

シアニ・レンツィ


 拳でサンドバッグよろしくボコボコにされている簒奪者、リンドヴルム『ジェヴォーダン』を、シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》の羅紗魔術士見習い・h02503)は愛用のハンマーを構えながら睨みつけていた。
「ジェヴォーダン……ようやく見つけた」
 √EDENでは絶望の淵に立っていた人の心に付け込み、言葉巧みにダンジョンに誘い込んでモンスター化し……融合ダンジョンを生み出した元凶。
 そして√ドラゴンファンタジーでは……己が配下に何の罪もない人々を攫わせ、ダンジョン内でモンスターに変化させていたとも聞く。
 シアニはジェヴォーダンを追う過程で、沢山の恨み、憎しみ、悲しみの感情に触れて来た。
 ――だからこそ、ジェヴォーダンは決して許せない。
「何度も何度もあなたを許さないって、心の中で思ってたんだ」
 ――だが、今、ようやく、手が届いたから。
「あなたのせいで傷ついた人たちの痛みを思い知らせてあげる……!」
 愛用のハンマーを両手でぐっと握り込みながら、シアニはジェヴォーダンに向け走り出した。

『さあ! こっからは先に止まった方の負けだよ!』
 シアニは自身の両脚を、空色に輝く|不完全な竜《フォルスドラゴン》の脚に変化させ、さらに強く地面を蹴る。
「ちっ!」
 あっという間に距離を詰めたシアニを見て、ジェヴォーダンも瞬時に念じ、立派な盾と剣を手にした過去の英雄に変身した。
 おそらく√ドラゴンファンタジーに存在したであろう英雄の姿形をとったジェヴォーダンは、シアニのハンマーを盾で受け止めつつ、剣で叩き切ろうとする。
 だがシアニも、√能力で増加した攻撃回数と移動速度をフルに活用し、盾を叩いた勢いを利用し即座に間合いから離脱していた。
「てっめぇ!」
「あなたのせいでどれだけの人が傷ついたと!」
 移動速度に物を言わせ、シアニは再度ハンマーを振り回す。
 それを防ぐようにジェヴォーダンの剣が再び振り上げられたが、シアニも魔術で硬化させた羅紗マフラーでタイミングよく受け止め、逸らした。
「ちっ、地上の方が分があると思ったが、こうなったら……!」
 ジェヴォーダンは再度念じ、飛竜に変身し、空へと退避する。
 ――これで、ハンマー主体のシアニの攻撃は届かない筈。
 ジェヴォーダンが抱いた期待は……しかしあっさりと裏切られた。
 ふと、ジェヴォーダンが地上を見下ろすと、シアニがハンマーを魔杖に持ち替え、何かをチャージしている。
「空になら思いっきりぶっ放せるもんね!」
「ま、待て……っ!!」
「待たない!『これがあたしのドラゴンブレス! 必殺っ! シアニビィーーームッ!!!』」

 ――ドオオオオオン!!

 杖から直線状に撃ちだされた極太ビームは、芳林公園を半分ほど呑み込みながら、上空にいるジェヴォーダンに迫る。
「おい、こら!! 公園ごと巻き込むか!?」
「指定した対象にだけ震動を与えるビームだから、公園や一般人、他の√能力者を巻き込んでも問題ないよ!!」
 もちろん、指定した対象はジェヴォーダンのみなのは……もはや言うまでもないだろう。
「ま、まて……っ!!」
 公園の半分を呑み込むほどのビームが、ジェヴォーダンの全身をあっさりと呑み込む。
 直後、上空含めた全方向から、震度7相当の激しい震動がジェヴォーダンの全身を徹底的に揺さぶった。
「ぎゃああああああああああああああ!!」
 逃げ場のない激しい揺れが、ジェヴォーダンの全身を激しく揺さぶり、苦痛を与え続ける。
 そして、ビームが途切れると同時に、ジェヴォーダンは元の姿に戻り、力なく地面に落下した。


 シアニの目の前に、ジェヴォーダンが力なく横たわっている。
 極太ビームに呑み込まれ、徹底的に震動に揺さぶられ続けたジェヴォーダンの命の灯は……もはや尽きかけていた。
「商店街に融合ダンジョンが出てきた時は驚いたけど、ちょっと軽率だったんじゃないかな」
「ぐっ……」
「あたしはね、王劍戦争と関係ないところで暗躍される方が嫌だったよ」
 その言の葉がジェヴォーダンの耳に届くより早く、ジェヴォーダンの身体は消滅した。

挿絵申請あり!

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挿絵イラスト