⑭感情ありき
●そんざいしょうめい
我がレゾンデートルはどこにある。
『我が初めの真人であることか』
人機合一にして仙道に至る――戦闘機械群とは異なるそれ、機解仙プロトコルという思想、手段を持つことか。それとも。
レリギオス・トゥルースを統率するものか?
どれも異なる。どれも違う。
真人化工場に座す重陽真君は指を組む。捕獲された人々は各々の「自己同一性」を獲得しているのだろう。自分が自分である証明。
それは機械へと改造されてなお、保てるものなのか?
『待っていろ……|√能力者《EDEN》……我々こそが、|完全機械《インテグラル・アニムス》へ初めに到達する真人である』
闘争の色、衝動の色は濃く、強かだ。
捕えられた人々は、人間と機械が融合した異形へと変異させられてしまうことだろう。それでも――彼らは彼らでいられるのか?
当然、否。救い出さねばならない。あの牢獄から。
この機械に、己を真人として主張してやまない存在に、叩きつけてやれ。
おまえは完璧にはなれないと。
●おとどけもの。
「厄介事の『お届け』だ! 俺的には一番腹立つ『王権執行者』かも!」
転がされたカプセルから投影されるホログラム。――転がるそれの名は『アルテスタ』。心を望まれ、だが今は心を持たぬアシスタントAIだ。だからこそ、オーガスト・ヘリオドール(環状蒸気機構技師・h07230)は今回の標的を気に食わない、としたのだろう。
「場所はベルサール秋葉原。この建物すべて、奴の……『重陽真君』の手によって工場化された。それも、真人化とかいう胡散臭いにもほどがある、人間と機械を融合させるための工場!」
びしりと指差したホログラムの地図の上、表示されるは重陽真君の姿と情報だ。そして次に、監獄棟と思わしき部屋がいくつか表示される。
「本命は重陽真君の撃破だけど、聞いての通り、囚われた人々がいる。彼らが機械化される前に救い出してやって。……こんな手段を用いて作られたものが、|完全機械《インテグラル・アニムス》になんかなれるわけがない」
ぐ、と歯噛みするオーガスト。細められた目は、空想未来でも成し得なかった「それ」を求める戦闘機械への敵意か。
「まだ諦めてないどころか、ここからやる気満々な相手だ! どうか無事で!」
そう言って送り出す彼もまた、すぐに戦いに出るつもりだろう。ホログラムを投影していたカプセルを手に取ると、その場から立ち去る。
――何が何でも、あの『真人』が|完全機械《インテグラル・アニムス》へ至る道を止めてやれ。
第1章 ボス戦 『重陽真君』
仙術の高みを目指して、人類を救済する。
「俺は初めて聞く思想だが……」
否定する以外に何があるというのか? セージ・ジェードゥ(影草・h07993)は小さく鼻を鳴らす。
ステルスクロークを用い、監視の目を掻い潜り監獄棟まで移動したセージ。ドアはかなり頑丈な作りになっているようだが、相手は√ウォーゾーンの機械だ。ハッキングしてしまえば変わらない。開いたドアの先、閉じ込められていた人々が驚きと安堵の表情を浮かべて彼を見た。中々開かないドアはツールナイフを用いつつこじ開け避難誘導をする。
「静かに。あいつらはすぐに来る」
中にいる人々たちに声をかけて逃げ道を示し、静かに動くよう指示し解放する。人の居なくなった監獄棟――その奥からかつ、とやや獣の足にも似た金属質な足音が響いてきた。
『……|EDEN《√能力者》はやはり、協力的ではないようだな』
空になった檻の中を見て冷静に分析する重陽真君。随分と余裕そうである――その左手に込められていくものは、五雷掌法。エネルギー化したインビジブルが集まっていく。
『聞こう、|EDEN《√能力者》。我が求めるは貴様らの人口にしてみれば、『ほんの少し』だ。何故、|僅かなる《・・・・》犠牲を拒む?』
重陽真君が左手を掲げれば、雷と共に集まるエネルギー。一定数の真人を生み出せばこの地を去る――予知により聞いたその言葉が真実かどうか。
「――お前の態度、それこそが拒む理由だ」
真実であろうとも犠牲を見逃すことはできない。セージは吐き捨てるかのように告げる。
『……残念だ。ここで消えるが良い』
力強く踏み込み、左手を前へ出した重陽真君。だが――その掌打がセージへと届くことはなかった。何事かと目を見開いた『真人』。そうして生まれた隙をセージは逃さない。前へ出て、小型改造拳銃にて射撃しながら懐へと入り込む!
なぜ、重陽真君の攻撃が発動されなかったのか。それは能力低下:自己封印により『|互いに《・・・》封印された左腕』!
「完璧なんてものはない。完成してから壊れるだけだ」
おまえの、その体のように! 超至近距離で放たれた一撃、その追撃としてパルスクローが機械化された肌をえぐり取る――!
人類の『機械化』。それは√ウォーゾーンにおいて……いや。すべての√において、大抵は忌々しい言葉である。
それを他の√まで、それもこの√EDENに持ち込んだその罪の重さ。
何が何でも止めねばならない。クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は拳をぐっと握り、工場化されたベルサール秋葉原の中を駆けていく。
――ハッキングされたドアがプシュ、と小さな空気の音を立てて開いていく。その中ひとつひとつを見て回っている暇はない。開かないドアは魔力兵装で叩き切り、中にいる人々へと声を張り上げて告げる。
「事情を説明している暇はありません。早く逃げて!」
捕らえられていた人々が急ぎ逃げる中……クラウスは思う。楽園の力が――√EDENの持つ力が、彼らから恐怖の記憶を拭い去ってくれますように。きっと、すぐに日常に戻れる。√EDENはそのような楽園なのだから。そう祈りながら、クラウスは中枢へと向かう――その中で。
『成る程、やはり。検知した異常とは|EDEN《√能力者》であったか』
――神々しい人型、しかし異形。重陽真君との出会い頭、真っ向から盈月にて斬りかかるクラウス! 切り刻まれてなお、苦痛を感じないのか。重陽真君は静かに、その左拳を握りしめた。ばちりと爆ぜた雷、集まってくるインビジブル――!
レイン砲台のレーザーと盈月による斬撃、大剣を振るう重陽真君の一撃を見切って避け、再度刻まれる斬撃。繰り返される攻撃を受けながら、重陽真君はクラウスへと視線を向け――。
――五雷掌法!
遮蔽物を隔ていても貫通する雷霆の威力に吹き飛ばされながらも、受け身を取ったクラウス。それを見てふむ、と『真人』は顎を揉む。
『|EDEN《√能力者》も人間も、何故真人へと至る事を拒むのだ』
機械には、理解のできないことだ。彼らが望む『進化』とは、人の望むそれとは程遠い。
「お前の理想は知らないけど」
自己同一性だとか、真人だとか。難しいことはわからない。それでも、だ。
「好きにはさせないよ」
勝手な理想を押し付けて、望んでいない相手を改造するなんてもっての外だ。それだけは確かで、揺るぎない意志である。
「(……人間と機械を融合って聞くと、オーラムで目の当たりにしてきたものを思い出しちゃうな)」
実際、赫夜・リツ(人間災厄「ルベル」・h01323)のように『それら』に関連性を見出すものは少なくない。レリギオス・オーラムが√能力者たちを幽閉していた事実だ。今回は√能力者ではなく一般人。さらにか弱い存在であることを意識しなければならない。苦痛に満ちた空間、思い出すだけでも反吐が出そうだ。気を引き締めるリツ。
――だが、やることはあまり、変わらないか。
「離れてて!」
監獄棟にて。突き刺さる爪、圧倒的な怪力と異形の腕によってこじ開けられるドア――!
その人ならざる業と腕に怯えながらも、自分たちを助けに来た相手であることは理解している。急ぎ避難する人々を横目に、ホログラムで示されていた監獄棟の地図を思い出す。まだ少し部屋があるはずだ。
重陽真君は人間を侮っているのか――それとも、拘束など必要ないと切り捨てているのか、人々を閉じ込めはすれど拘束はしていない様子だ。これ幸いと逃していくリツ。その背から、ゆったりとした足音が迫る。――重陽真君だ。
『どうやら|EDEN《√能力者》は真人という存在を|勘違い《・・・》しているようだ。強き体、強き心、そのどちらも手に入るこの機械仙プロトコル、何故受け入れない』
放たれるは飛劍――! 周囲に浮遊する劍の中心にて己が大剣を構える重陽真君。どうやら、まったく話が通じない相手のようだ!
「無理矢理に『仙道』なんかに至らせても、人間は強くなれるわけじゃない」
強さとはそんな、改造したところで得られるものなどではない。世界の歪みがリツを貫こうと飛翔してくる劍を弾き、異形化せし腕を振るう。
瞳に深紅の光が宿り――それが軌跡を描く。切り裂かれる重陽真君、悲鳴すらも上げはしない。これが真人だとでもいうのか。苦痛すら主張できぬ、これが!
加速する攻撃速度についていくためにあちらこちらの皮膚を破壊しながら、浮遊する劍と重陽真君本体を相手取るリツ。
「たとえ手に入るって言われても、そんなのごめんだって皆お断りするよ」
――空になった監獄の室内が、それを証明している。
狙いはドローンであった。こちらを発見したそれがレーザーを撃ち放った瞬間、そこに繰り出される赫裂脚の一撃――そして。
通路に溢れかえる、42体もの和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)の分身である。
警備ドローンは殆ど居ない様子だ。かなり異様な光景であるが、その真相は未だ分からず。人間を侮っているのか、それとも何かしらの策があるのだろうか。ただこちらの利となるのならば、利用するだけだ。
各々が隠密状態と闘気を纏った|それら《・・・》が蹴破るは、人々が捕らえられている、監獄の重厚な鉄板――!
蟲煙袋による煙幕と気配消しの効果により、人々は次々と破壊されていくドアには気づいても蜚廉の存在には気づかない。ただ明るいほうへ――分身が密集し、光源を遮っている方から離れるようにして彼らは逃げる。
翅音板により僅かな振動が送られる中、張り巡らせておいた斥殻紐が彼らの行く手を塞ぐ。走る影――実際それは蜚廉のものなのだが、それから逃げるように、捕らえられていた人々は脱出口へと導かれていく。
『――ふむ。人間以外の|EDEN《√能力者》も、我らが思想を否定するか』
……ゆったりとした動きで現れた重陽真君。余裕綽々というよりはただ、現状を受け入れている。それこそ御仏か何かのように、あるがままを見ているかのような眼差しであった。
『……我が崇高なる鍛錬。最初の真人――この劍仙が、相手をしよう』
劍を、構えた。重陽真君の周囲に現れる無数の飛劍。加速する思考が、浮遊する劍が蜚廉とその『群れ』へと襲いかかる――!
四方から物量で攻める戦法だ。いくら切り裂こうと蜚廉の装甲は固く、劍の数も足りはしない。乱雑とまではいかずとも、的確とも呼べぬ狙いである。如何せん避ける余裕もない密集具合だ、一体、二体が倒れようとも、まだ問題はない――!
その思考速度によっても追いつくことが出来ない、質量の暴力であった。
――潜響骨が拾いあげた。一拍の遅れは、軋む機械。真人といえど、疲労・疲弊をしないわけではない――その瞬間、まさしく瞬き一つぶん。隠密していた蜚廉本体が、重陽真君へと迫る!
闘気を纏う拳が頭部へと叩き込まれた。よろめくその体へ追撃を加える分身。
「――真人だろうが完全機械だろうが、関係は無い」
殴れば揺らぐ。揺らげば崩れる。このように、攻めあぐね剣を振るだけになる状況だって起きるのだ。それが|完全機械《インテグラル・アニムス》の姿だと?
「それが『崇高なる鍛錬』の結果だというのなら――」
――笑わせてくれるものだ。
「救った者たちの『証』を踏みにじるのなら」
我が拳が、その妄執ごと砕いてやる。
事実、その拳、深く。重陽真君の装甲を打ち砕く――!
ご挨拶は後程だ。虚峰・サリィ(人間災厄『ウィッチ・ザ・ロマンシア』・h00411)、これから出会うとんでもない押し売りセールスマンについて深く呆れた溜息をつく。何が人と機械の融合だ。
「勝手に押し付けないで欲しいわねぇ」
――歌と演奏、その融合のほうが、ずっと美しく、乙女たちにも人々にも響くだろう。
さあ! 行こうではないか、今日のナンバー!『|吶喊・一直線乙女44マグナム《ヴァージンマグナムフォーティフォー》』!!
素敵な所を44個。溢れる想いは44倍! ホワイトスター・トップテン、本日も当然ながら絶好調だ!
魔導砲撃はテンポに合わせ的確にドアを破壊していく。部屋の奥で悲鳴が聞こえたが、見事な演奏を聞き顔を出した者たち。
歌いながら「あちらへ」と避難経路を指示するサリィ。救助が、救援が来たのだ。それに従い逃走する人々――そして。
「ハロー、機械野郎。傍迷惑な工場は操業停止処分よぉ」
『傍迷惑、か。これは崇高なる『真人』へと至るための聖地である』
続く演奏、現れた重陽真君。それに容赦なく先制、魔導砲撃が叩きつけられる! 楽曲に眉をひそめる魔導砲撃が五雷掌法をチャージし始めるが、その間にもサリィの砲撃は続く――!
そう――いつだって乙女は一直線!!
乙女たちを害する、乙女たちが未来に恋する人々を害するもの、けして許せるわけがない!
「私の歌を、私の曲を聞きなさい。これが私の存在意義。乙女の恋を守る者よ」
心まで機械になれば、これすら届かなくなるのかしらぁ。
圧倒的な機動力が重陽真君の掌打を避ける――! 代わりに雷霆がブチかまされたのは改造機械の一部である。だがそれに狼狽えることはない。背に腹は代えられないということだろうか。重陽真君は剣を振り、その刃でサリィを捉えようとするが命中することはない!
貴方に叩きつける言葉は――ああ、素敵なところではないほうがよさそうだ。
「それとも。恋のひとつもしたことがないの? なら幸いね」
|36℃ちょっと《体温》の感覚を今後、知ることになったら、きっと幸せよ、機械野郎。
|完全機械《インテグラル・アニムス》に恋は必要ない、なんて言うならなおさら、徹底的に……ぶっ潰してあげる。
「わたくしが来ましたわ!!」
優雅! 事前に入手していた監獄棟の地図により探し出した牢獄、確りと閉じられていたドアを侍女タイリョークがひん曲げ、ヤルキーヌ・オレワヤルゼ(万里鵬翼!・h06429)の姿がドアから見える!
解放された人々、一瞬何が起きたのやらといった顔だったが、救援だと理解したかすぐに行動に移る。
油断しきっているのか、本当に人々が『真人』となることを望んでいると思い込んだ結果か、警備は薄く無人に近い。妙な静けさの中だが、明るいヤルキーヌの声がその雰囲気を吹っ飛ばす!
「ここから逃げ出した後はお茶会の時間ですことよ~!!」
避難経路を伝え、侍女タイリョークとヤルキーヌが先導する中――より強大な相手の気配を察知しながら通路を走る。
さて、それでも警報は鳴った。逃がした一般人、残っているものがいないかと探しに戻った彼女らと相対するは、重陽真君――!
構えるは五雷掌法。60秒間のチャージ――すなわちその間、相手からは通常の攻撃しか飛んでこない!
「貴方がおっしゃる『救済』は、ただ貴方の目的を達成するための手段ではございませんの?!」
『間違いのないことだ』
振り落とされた剣が床をかち割る。ヒビの入ったそこにヤルキーヌの姿はない。幻影を残し、空中へと逃れたのだ!
ペンの軌跡が金色に輝き、重陽真君の顔を掻き切る!
ヤルキーヌのスカートが麗しく翻る。優雅な、『真人』には必要ないであろうそれが。
「悩み選び進み続ける事こそが――」
繰り出される拳をタブレットが受け止め、そして床へとカツンと降り立つ、一挙ごとが優雅な彼女。
「『人として生きる』と言う事なのですわ!!」
悩み。選ぶ。進む。立ち止まれば、そこで終わり。
――彼女へと迫ってきていた掌底が、止まった。何事かと目を見開くヤルキーヌ――重陽真君の機械の眼差しが、小さな駆動音を立て、細められた。
『|行《ゆ》け。――お前は、真人には、相応しくない』
それは慈悲ではない。重陽真君に残る、『人としての選択』だった。
言われた通り駆け出すヤルキーヌ。無傷で撤退できるのならそれに越したことはない!
「(でもどんなに絵を描き続けても眼精疲労や肩こりが無い機械の体はちょっと憧れますわね!)」
内緒ですけれど!!
……それほんと言っちゃダメでしたからね!? まずゆっくりお風呂に入る時間の確保とかから始めませんこと~!?
断言しよう。
人間は、不完全なほうが美しい。
「自分の魔力と人格の一部を、機械……ティターニアに移し替えられて、不完全になった私から一言言ってあげるわ」
彼女が語りかけるは重陽真君相手ではない。半ば独り言のように、自らの操るドローンのリーダー機に聞かせるように口にしている。
「ヒトが機械と融合しても、完全なる存在にはなり得ないのよ」
私たちがそうだったのだから。
『……ちょっと待ってください、その話初耳ですけど?』
「ええ、ティターニアには今初めて言ったわ」
平然。アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)はティターニア――アシスタントAIを搭載したドローンへ言って、ふと笑みを零した。
「その話を教える為にも、まずは人々を助けに行ってきなさい。ほら、早く」
でないと面倒なことになるのよ。愛らしい姿をしたフェアリーズレギオンが散開する。先陣を切った者たちが救助そのものはあらかた済ませているだろうが――重陽真君の扱う√能力はあまりにも厄介だ。
散開した彼女たちに人質の扱いを任せ、自身は中枢に近い場所へ――強い気迫が満ちる場所へと、足を進めた。
ここがこの工場の中枢部か。こちらに背を向けていた重陽真君がアリエルへと振り返る。その強い視線に対し睨み返すアリエル。
『ここまで来たか、|EDEN《√能力者》』
――内煉成丹、外用為法。彼に、一切の容赦はなかった。放たれるナノマシン「金丹」――!
……その狙いは、アリエルだけではなかった。
「こっちにも何か……!」
それはティターニアからの連絡。中枢部から放たれた金丹、どうやら換気口などを通過し周囲へ広くばら撒かれたようだ。
目には見えないそれを避けること、そして撃ち落とすことは難しい。だが人々の避難は既にほぼ済んでいる。それにこの中枢部を破壊すれば、機械化は阻止できるはずだ!
「降り注げ――光よ!」
高速詠唱によって即座に放たれた、全力のライトニングレイ。目に見えぬ金丹を巻き込みながら、重陽真君と中枢の機械を光の雨が撃ち抜いていく――!
「貴方も所詮は不完全なヒトよ」
――その雨の中を突っ切り、剣を掲げ、アリエルを狙い振り下ろす重陽真君の一撃を避け、彼女は目を細める。
『否。我が真人であることは、変わりのない事実』
……それこそが、彼自身の自己同一性だとでもいうのか。
さて、人々の様子はどうだろうか。リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)が放ったのは青色のアマツバメ――「レイン」に宿る精霊達だ。まだ僅かに、機械化直前の人間がポッドの中に残っていたようで、それを破壊し導き逃がしていくアマツバメ。これで一般人の生体反応は消えた――くるりと翼を翻し、リズの元へと戻っていく鳥の影――。
そして。基地の中枢、目前に立つは、重陽真君――!
『生身か、|EDEN《√能力者》よ』
その問いは、リズにとっては答えるに少々時間のかかるものだった。
「……私はかつて機械でしたが、今は生身へと再構成されています」
そう、かつて。『LZXX』と呼ばれたベルセルクマシン。現在は限りなく生身に近い少女人形だ。√能力者である時点で、正常な人間と呼ぶには相応しくないだろう。
「機械時代の記憶は一応受け継いでいますが、当時の感情などは朧気な部分も多く、いわゆる前世に近いような、あやふやな所もあります」
自らが行った、人類の為の破壊。偽物の人格が薄らと覚えているそれら、リズに残る過去。
彼女の語りに興味があるのか。重陽真君はただ静かに、リズを見つめ、剣を床へと立て彼女の話を聞いている。
「かつての私と、今の私は本当に同一と言えるのか」
棄てられた偽人格。残骸。自らが「それ」であると彼女は考えている。たとえそれが『自分』という概念を得ても。
「私の存在証明は何処に有るのか……」
存在証明は。自己同一性は、いったいどこに。
一度失ってしまったそれを再度獲得するには、あまりにも時間がかかる。その苦悩と共に、リズは生きている。
「――自分でも完全にわからず、あなたの主張に考えさせられる所も有ります」
『……ほう。|EDEN《√能力者》でありながら、多少、話が通じるものも居るようだ』
「だからと言って、この場での行動を認める事は出来ませんが」
『当然である』
笑みを浮かべる口もないだろう、だというのに、彼は――笑んでいるように見えた。
「――作戦開始します!」
主武装、展開! 重陽真君から放たれるは、内煉成丹、外用為法によるナノマシン――! 目に見えぬそれを、舞い戻ってきたアマツバメたちが翼を広げ、風を起こし押し返す。そのアマツバメを狙う重陽真君の剣をリズのエネルギー砲が撃ち抜いた!
本体を狙うべきと考えたか、深い踏み込みと共に、重陽真君がリズを狙い剣を振るう――! 大型ブレードによってその剣を受け止めた彼女、剣を弾き返しレイン砲台によるレーザーで牽制し、距離を必要以上に詰めぬように、重陽真君を狙いエネルギー砲が放たれる!
ぐらついた重陽真君の体。その一瞬をリズは見逃さなかった。
広がるは光翼――! 出力が上がる。ばちりと爆ぜたレーザーの雷、LXFを纏ったリズ。プラズマブレイドが、重陽真君の装甲を撫でるように断ち切った――!
『成る程……|自己同一性《アイデンティティ》か――』
……瞬きにすら音がするその体から、ばち、ばちと爆ぜる音がする。
『真人に、それを与えるか。――考えておいてやろう』
その言葉を残し、膝をついた重陽真君。
そのまま動かなくなった彼を見つめ、リズは――唇を、強くむすんだ。
