シナリオ

⑯|少彦名神《一寸法師》のように

#√ウォーゾーン #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦⑯

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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●巨大な鬼の体内で暴れるには?
 其れは、大きな鐘の塊ようだった。
 大きな20mを前後の鐘のような物体に、それよりはやや小振りな鐘のような生き物。此れを生き物と呼んでいいのか些か迷う星詠みであったが、それらは大量に付き従うように歩みを止めることはなかった。──元々飛行している為、歩んではいないのだが──。
 しかしながら、凡そ、此の星詠みには理解出来ずにいる物体ではあった。
 新たな王権執行者『鐵浮屠』が、量産型「鐵浮屠」の大群と共に、東京の東方面より大軍勢で押し寄せ、低空で高速飛行をして、その巨体な重量は発生させる|衝撃波《ソニックブーム》で、秋葉原を何もかも──全て構わず破壊しようとする光景は視ることができた。
 へしゃげた看板で、確実に視えば看板には『蔵前橋通り』と記されていた。


●黄泉比良坂・|千引岩《ちびきいわ》の上より
 √EDENの島根県出雲地方のとある場所にあると謂われる黄泉比良坂。
 此処は彼女、星詠みである『|我妻・言葉《がさい・ことのは》(人間災厄「古事記」の|伊邪那美命《イザナミノミコト》・h06660)』の領域である。
「よくいらっしゃったのぅ。
 妾は、我妻・言葉と申す。一応、星詠みの端くれじゃ。」
 クツクツと嗤いながら偉そうに呟いたのは、|幼女《・・》と謂っても語弊も過言でもない女の子であり、しっかり巫女装束に袖を通して千早を羽織、眼下の貴方達を見下ろしていた。
「主らは、一寸法師を知っておるかのぅ?」
 ──唐突な、戦争に関係の話に目を丸くする者達もいるだろう。その様を面白そうに、見つめて|言葉《ことのは》は、言葉を続けた。
「妾は、機械に其処まで知見が広くないのじゃが、√ウォーゾーンに新たに王権執行者……鐘のような図体で「鐵浮屠」とか申したかのぅ。
 まぁ、それが現れる星詠みを視たのじゃ。」
 若干、面倒臭いと少しむぅっと眉を寄せて露骨に機械が苦手と謂う、明らかに時代に置いていかれてるお婆ちゃんのようにかたがな語を話さなければ行けないことにゲンナリしているようだった。
「其奴は、1人──いや、1台でよいのかのぅ。」
 小さく首を捻ると、座っている鍵のような棒状の杖を指で何度か叩き、イライラをぶつけているようにも視えた。
「其奴と共に、奴よりは小さき者共が大軍勢でやってくるのじゃ。」
 指を折って「ひーふーみー…」と数えては居たが無意味だと悟ったのだろう。
「兎に角、奴1体と、共は大量の鐘擬きが、秋葉原を闊歩するつもりじゃ。
 奴らのペースでのぅ。」
 それ以上は、謂わんでもお主らの方が理解が早いじゃろうと、視線を投げる。
「そうなると、秋葉原は何もない荒野になってしまう予定じゃのぅ。」
 淡々と事実だけ述べて何が面白いのか袖で口元を隠してクツクツと笑った。
「妾が視えたのは、あの巨体が、それに似合わぬ速度を発し、何もかもその速度からでる風で全てを薙ぎ払う様じゃ。
 ──じゃが、止める手立ても無くはないのじゃ。」
 ニンマリと、その清楚な顔を歪ませて、
「此の一団は『蔵前橋通り』を|絶対《・・》に通るのじゃ。
 其処にお主らが待ち構えれば上手くいけば対処は可能じゃのぅ。
 あやつらは、図体が大きい鐘のような武者のような形をしておる。
 その分、小回りが利かぬ。」
 此処まで謂えば、先の話は理解できるかのぅ? と小さくぼやく。
「倒して、打ち出の小槌が出ぬかもしれぬが、良いことは起こると妾は視えたのじゃが──。」
 |打ち出の小槌《ご褒美》までは謂う気がないのか、謂えないのか分からないのかは、彼女の小さな娯楽を噛みしめるように、敢えて一言付け加えて口を結ぶ。
「吉報を待っておるぞ?」
 放って置けば間違いなく秋葉原は、現状を維持できない位の大惨事は免れない。無辜の人々も、その住処も誰も何も救えない結果になるのは火を見るよりも明らかである。
 言葉は、わざわざ日本神話に例えたのは、きっと何かのヒントではあるのだろうが、あの調子ならこれ以上の情報を出してくれるとは思えない。
 少なくとも目の前に迫っている危機を自分達の手で止めること以外は、何も進まないのだから──。

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第1章 ボス戦 『鐵浮屠』


架間・透空

「打ち出の小槌。
 ……なるほど!
 その手がありましたか!
 ……それならあのでっかい鐵浮屠さん達を止められそうです!」
 星詠みの厭味なのか、それとも持ち味と謂うべき、独特の個性的な物謂いを架間・透空 (|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)は、純粋に感嘆の声を上げて頷いたのだ。
 その|前向き《ポジティブ》具合に、|本人《星詠み》が居たらきっと痛ましそうな視線を贈るかもしれないが──。
「いきます!
 ​───変身、解除。」
 『蔵前橋通り』の近くでそう短く言葉を発すると共に|女子中学生《「架間・透空」》から|怪人《「ハイペリヨン」》に姿を戻っていく。星詠みの言葉から閃いた作戦を実行するべく『決戦気象兵器「ハイぺリヨン」』を起動して、飛行機能をONに入れる。
 遠くから黒い群像が透空の視界に入り、星詠みの予告通りに|『蔵前橋通り』《此処》を高速の低空飛行で通過せんと透空のいる方向目掛けて目がない生き物のように暴走する生き物を彷彿させた。
(とてもでっかいロボさんということは……。
 上手くその中に入り込めば、内部からロボさんを壊すことが出来るってことですよね!
 そして相手はその図体と速度により小回りが効かない!
 いけますよ、これ!)
「──ならば!」
 素直さが美徳であることを証明するかの如く、自身の考えが間違えではなく確実に実行しえる物と確信している透空は、こうしている間にも刻一刻と寄ってくる集団に遠慮などしてられないとばかりに√能力【|天色管理機構『突風』《ハイペリヨン・ダウンバースト》】を使用して風の力を纏い、移動速度を更に向上させながら、風を切る一団を気合で隙間を縫って行くのだ。
「うおおおお!」
 このタイミングが1つでも噛み合わなければ、透空は呆気なく気流の合間で撹拌機のように掻き混ぜられ、水分と謂う水分を撒き散らしてボロ雑巾になる未来が漏れ無く待っているのだが、そんな失敗なんで起こさない! 起きないとばかりに、鐵浮屠の|内部《体内》に潜り込むことが出来た。
 外に比べれば天国かと思うほどに、内部は激しく震動しない。正確には、常に飛行している為、体内機関は動いているが、透空は少なくとも安全な場所にいる。そして、|一寸法師《御伽噺》の如くその内部で暴れ始めた。
「存分に吹き荒れなさい!
 【|下降流突風《ダウンバースト》】!!」
 √能力で新たに得た力を、鐵浮屠の内部で遺憾無く発揮し、敵に反撃されることが一切無く、一方的に人間で謂えば、血管をぶつ切り、肺・内蔵を視るも無惨な原型の留めてないモノとして、そしてその息の根を止めるべく心臓に当たる機関を破壊したのだ。
 一番最初の、一番大きな鐵浮屠が動きを止めたのなら、後ろは大洪水のパニックになるのは当然の結論であり、結果である。
 その大混乱の合間に、するりと抜け出した透空は、血塗れならぬオイル塗れになっていたが、眼下の成果を上空から確認するのであった。

和田・辰巳

 星詠みが指定した場所は『蔵前橋通り』と謂う場所であった。
 其処は|絶対《・・》に通ると断言された通り、遠くから黒い塊が轟音をたてて遠目から視ても十分に分かる位置へと陣取った和田・辰巳(ただの人間・h02649)は、幾重にも計算して通過地点が眼前に通る算段が立つと√能力【|編纂招来:綿津見神《オーバーライドウィズ・ワダツミノカミ》】を徐ろに展開していく。
 辰巳は【権能を再解釈】して、神力と大量の水を纏い【綿津見神】と融合し、【現人神】となる。
「機動戦と行こうぜ!」
 計算され尽くしたタイミングで『鐵浮屠』に、40音速まで加速をして空から突入したのだ。一番大きな『鐵浮屠』に安全に乗り込んだと謂えるだろう。時間に制限があるのだが──。
 作戦時間に制約がある。──迷える時間はない。だからこそ、既に乗り込みが成功した時点で作戦はほぼ終わっていると謂っても過言ではない。後は淡々と自身の脳内で出来上がったパズルを完成させるだけだ。
 √能力で使用可能になる能力の中から、辰巳が選んだのは√能力【|瞳写す鏡の深海《ディープ・シー・ミラー》】を使用して、力量分の飛行し能力を写しコピーする水鏡を出現させる。鏡に|写す《コピーする》のは『この巨体を動かす出力』を選ぶ。|40《力量分》個の大量の鏡がこの巨大な生き物と謂って支障がないかは分からないが、辰巳の周りに浮かんでいる。
「音速で満足してるんじゃ、まだまだだな。」
 そんな事を独り言ちにぼやくと持っていた武器『霊剣』に、水が纏わり40mの命中判定が発生するのだ。
 『鐵浮屠』の大きさは、20mである。寧ろ当たる前に貫通しているまであるだろうか。「当たった。」と謂う事象が|確定《・・》した段階で『鐵浮屠』は辰巳の居る地点を中心として2つに辰巳の望む方向に切断される。何が起こったか解らない『鐵浮屠』は意識する間もなく両断され、破壊されていった。
「20mとか僕の斬撃の半分以下の大きさじゃん?
 小さいよ。」
 人間と比較をすれば、十分20mは『|巨大《・・》』なのである。それを上回る斬撃が|内部から《・・・・》襲って来るなどとは『鐵浮屠』だって想像をしてなかったであろう。
 地に落ちるはずだった機体の破片や壊れた兵器の一部は、展開していた水鏡達が[罠使い]として飲み込んでいった。十分な大きさと速度を持った水鏡だから出来ることであった。
 後は同じ要領で速やかに小型の『鐵浮屠』達へと物騒な霊剣が振り回されて同じ結末へと、例え『鐵浮屠』が事前に用意した【堵牆而進陣】だって同じ結果を辿るのだった。
「──40秒あれば十分だろ。」
 某何かで聞いた「30秒で支度しな。」を地で行くような、そんな無茶をやって退けた辰巳であった。

ラピス・ノースウィンド

 星詠みの言葉通りに『蔵前橋通り』の鳥越一丁目交差点の見渡せるビルの屋上に陣取ったのは、ラピス・ノースウィンド(機竜の意思を継ぐ少女・h01171)であった。
 此処からでも重量級の大きな影の塊が一丸となって轟音を置き去るように移動してくるのが視界に入り目で、その巨大な質量を放つ音を耳で、ビルを震わせるような震動が身で感じ身体を震わせる。
(一寸法師、針を持って戦う小人?
 ほうほう、そんなお話があるのですね。
 ラピスも|元機龍《【ラピスフェロウ】》からはかなりスケールダウンしましたし、このパイルバンカーを針に見立ててあやかってみるとしますです!)
 タイミングを逃せば、哀れ暴れ牛の中に飛び込むように錐揉みされて生きてるかも怪しい危険極まりないダメージを確実に喰らうと解っていても、ラピスは全く恐怖を感じないかのように笑顔を浮かべて、今か今かと降下ポイントに胸を高鳴らせる恋する乙女のように、純粋にその時を待っているのだった。
 戦闘の一番巨大な『鐵浮屠』が直線に入ったと悟ると、より大気を揺らし加速を始めようとするのをラピスは「待ってました!」と背負ったジェットパックを使い、速度の加速と重力と謂う楔により重さによっての加速で『鐵浮屠』の背に突っ込むように、対機械兵団必壊武装『サンダーフェロウ』ことパイルバンカーを目一杯突き立てるように接敵するのに合わせて√能力【|機砕雷《ケラヴノス》】を力一杯ブチかますのだ!
「さて、本当の速度×威力というものをお見せしますですよ!」
 高速移動してる『鐵浮屠』には、その風をバリアのように周囲に張り巡らされていくが、ロケットの如く不意打ち気味に激しい鋼鉄の打つかり合う音が鼓膜を破く程に震わせて、しっかりと背を撃ち抜かんと『鐵浮屠』の【重騎兵衝鋒】による【エネルギーバリア】を展開されていく。しかし『鐵浮屠』の背にガッチリと喰い付くように[重量攻撃]と[鎧無視攻撃]が牙を向き、機砕雷の本来の威力を何倍にも上げてくれる。
「これでくたばらずとも地面とのキスは避けられないでしょう。」
 勝ち誇った笑顔を浮かべながら、文字通り交差点のど真ん中に巨大なクレータを作り出す。20mの巨体が、速度と重量と高圧電流を流され、そして其れを上回る爆撃を喰らい一番大型の『鐵浮屠』がラピスの居る内側から小さな爆発を繰り返し、これ以上動くことが出来ないように地面に昆虫の如くパイルバンカーと謂うピンで縫い付けられる。
 後続の小型の『鐵浮屠』は、撃ち落とされた『鐵浮屠』に巻き込まれて何体か間髪入れずに連鎖爆発していく。生き残った後続達はラピスを改めて敵と認識し攻撃モードに入るのだった。
「あれ?
 未だいるんですね。
 それなら格闘戦にてお相手しますですよ!」
 小型と謂っても性能は『鐵浮屠』にやや劣るだけ。それでもそれなりの数がいるのだが──。
(ラピスの速度についてこれるとも思えませんが!)
 まだ敵は残っていると、再びサンダーフェロウを抱え直し、嬉しそうに敵の中に飛び込んでいくのだった。

ルメル・グリザイユ

(猪突猛進……まるでイノシシみたいだな~。
 ……進路を90度変えたらどうなるんだろう……。)
 ──そんな好奇心が鎌首を擡げるのは、ルメル・グリザイユ(寂滅を抱く影・h01485)であり、件のイノシシこと『鐵浮屠』が遠く1団となって鼓膜を切り裂くようなけただましい爆音を上げて刻一刻とルメルの場所へと近寄ってくるのだった。
 『|Arato Admix《アラト・アドミクス》』こと、一見|柄《・》しかない此の武器だが、瞬時に刃を作り出し形状を変えることが可能である。そんなルメルは[武器改造]を駆使して、見事な金属バットに変化を遂げさせる。──だが、これで仕上げではない。攻撃の要になるモノ達の為に[錬金術]で作り上げた『急冷用の凍結油』を生成し小瓶に複数本纏め、√能力【|Arma Sapiens《アルマ・サピエンス》】で、ルメルに創造されし|自身を模した2.5等身の不気味な程、穏やかに笑っている《自律思考型の》魔法人形達にそれぞれ複数本持たせるのだ。
 ルメルの周りを浮遊していた魔法人形達をまず1体むんずと掴む。人形達は「きやあー」とか「わあー」と可愛らしい|悲鳴《声?》を上げているが、[怪力]で『鐵浮屠』の死角になる外から視ても解る噴射口に目掛けてぶつけるように、容赦なく50を超える人形達を投げ続けるのだ。その頃には轟音を上げていた1団は、大小関係なくその音が発せられる状態ではなくなっている。しかし、何時までも凍結し続けてくれるとは限らない。イノシシを完全に黙らせる為にも、脇に置いておいた|Arato Admix《金属バット》を強く握り直して、真っ向正面──なんてことはせず隙間を縫うように|『鐵浮屠』
《イノシシ》が揺れた瞬間を捉えた視界は一目散に[ダッシュ]で踏み込んで、怪力にモノを謂わせ金属バットを叩き付けて、|[範囲攻撃]《横払い》でルメルの独占場となるようにしっかり初撃から連撃を叩き込んだ。怪力に乗せた自身の重さと金属バット自体の重さが相乗効果を起こし、『鐵浮屠』は自重で空中に留まって置くことが出来ず、その巨体を地面に轟音と立て落下し、地を均すように、ボコボコにするようにクレータがあちら此方に出来上がる。ルメルを見つけた個体は攻撃をしようとするが、素早く死角に入り込み同士討ちを狙うのだ。それだけで満足するルメルではない。隙を見つけてその力を振り回すように、攻撃の手が止まらぬように、流れるような攻撃で周囲の破壊行為を怠らない。それでも絶え間なく砲撃や自身で壊した破片を[見切り]で事前に軌道を読み、当たると重症を免れないような攻撃だけは金属バットで[受け流し]て同士討ちを加速させる。頬や腕、脚に細かく赤く線を引くような傷が|Noctis Veil《ノクティス・ヴェイル》を切り裂くように流れるが、今は放置しても問題ないだろう。
「やばい。
 ちょっと愉しくなってきたかもお〜〜」
 金属バットが宙を舞うように振り抜いた先を[爆破]させるようにバットを振り抜く。爆破に巻き込まれるがそれは百も承知だ。追撃とばかりに打撃の衝撃を上乗せするように構えを変えて、周囲に広げる。広がれば、広がるほどに『鐵浮屠』の1団が埋もれているようなエリアから炎が立ち上り、連続的な爆破の光と音が後から追うようにやってくる。最早進路変更の心配はいらないとばかりに、その一団を背にして少し火傷したように赤くなった肌と無数の擦り傷を勲章とばかりに、|Arato Admix《金属バット》を肩に乗せてゆっくりと離れて行くルメルであった。

和紋・蜚廉

 その姿は√EDEN──少なくとも日本では、もっとも知名度が高く、もっとも有名であり、もっとも嫌悪の対象になっていた。和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は、一般的な外観デザインが|其れ《・・》と定められている。世界を含めるなら、蜚廉の姿は『自然界の掃除屋』としても名を欲しい儘にしているのだ。この度の戦争が自然界の掃除に入るのなら此れほどの適任者など居やしないだろう。
 低空飛行を異常に早く進む異質な|集団《『鐵浮屠』達》。──この際、何方も十二分に|異質《・・》ではあるのだが、そんなモノ達が打つかり合う現場など、頻繁にお目に掛かることはまずない。蜚廉は頭上を飛行しようとする『鐵浮屠』の一番大きなモノへ容赦なく√能力【|赫影潜行脚《カクエイセンコウキャク》】を叩き込まんと己の【赫裂脚より放つ、敵を穿ち砕く必中の穿脚】が一番低くなっている胴を穿つように放たれる。──と、同時に【40を超える分身と己の|内なる能力《所持技能》が2倍になる闘気】を纏った儘、蟲人型の本体は地上で隠密状態になる。40を余裕に越える分身達は蜘蛛の子を散らすように周囲の敵へと蟲型と変化し巨大な『鐵浮屠』の|内部《体内》へとスルスルと隙間と謂う隙間から、まるで逃げ込むように這入り込むのだった。
 此方は分身こと、蟲形態の蜚廉達ではあるのだが、彼らの意思は統一されている下手な機械よりも、柔軟にそして決められた|命令《プログラム》を黙々と熟す。内部は大きな鐘でありよく視ても分からない金属だけが絶えず|声《音》を発している場所である。蜚廉達自身が装備している──いや、自身の器官を『潜響骨』が繊細なその|声《音》の差を拾い、|要《・》の機関で何処が|補助《・・》の明確に、適切に、蜚廉一同が音の波形を脳内で造り挙げられる共通の地図として認識して把握する。後は、その野生で培われた勘が、本能が|此れ《・・》を壊せと|掃除屋《・・・》としての仕事を全うすべく蟲人型になり肘や膝から鋭く鋭利に成長した突起武装『殻突刃』が目的の|獲物《部位》を破壊するべく一丸となって行動し始める。
 そんな内部の出来事を知ってか知らずか、隠蔽した状態の蜚廉──|本体《・・》が『蟲煙袋』を──土と蜚廉のフェロモンが濃厚にする煙幕を徐々に確実に広大な範囲へ向けて焚いていく。そうなれば、もう隠密をしていようが──しまいが、自身を此の一帯と同じ自然環境に溶け込ませるのは容易になった。√能力【|翅覇域《ハクドウ》】で、この煙幕の中にいる視界内、1体のインビジブルへと向かって軌跡を残して蜚廉の領域が生み出され、力量分の秒数間を飛翔できる翅を得る。そして次のインビジブルへと──飛翔時間が、領域が増える毎に、地面への着地が減り続けて行き、徐々にインビジブル化へ変化を遂げる。この一見、攻撃に見えない攻撃は、飛翔時間の延長に比例して、蜚廉自身の身体の強化を意味していた。──と、同時に軌跡が大小『鐵浮屠』の動きを封鎖するように、幾重もの線が結界へと変貌していく。一度でも点火しスタートしたらロケットのような慣性任せの重い直上的な軌道に対し、蜚廉の細かく隙間を縫うようなコロコロと常に位置を変える飛翔線は、繊細でありながら強固な蜘蛛の糸のようで、此の場に縫い付けるように、封じ込めるように、巨体が本来使うべき|空間《領域》を蜚廉が目まぐるしく奪っていくのだ。小回りの利かない『鐵浮屠』の弱点を徹底的に潰して息の根を止める舞台を作り上げていく。巨体が悲鳴を上げたのはそんな時だった。
 内部から、外部からの攻撃が噛み合うその一瞬は、蜚廉と謂う生き物が本能に忠実に、|野性《第六》的な勘の儘に動き続けるから成せる業なのかもしれない。『鐵浮屠』の動きが、その瞬きの間、半拍と謂うには短いが蜚廉に取っては絶好のチャンスになりえる刻が──。
「──好機。」
 体内の|分身《蜚廉》達は一糸乱れず洗礼された動きで、支柱の|たったひとつ《・・・・・・》を断った。──だからこそ僅かな均等が、差が、明確な響きをたてる。|内部《体内》構造が|崩れ《壊れ》始めた証である。
 それは大小変わらずどの『鐵浮屠』でも同時に起きた事柄だったが、蜚廉の狙った|獲物《鐵浮屠》は最大級の大きさ。此処まで仕上げた速度も、跳ね上げた力量も最大だ。己を信じ、今までの自身の生の証を信じて一気に突進へと舵を切る。『鐵浮屠』だって唯、大人しく耐えていた訳じゃないと【エネルギーバリア】を纏うが、そのバリアを硝子を割るが如く砕かせ、最大速まで加速した蜚廉の身体は、己の殻が悲鳴を上げるように震え始めても変わらず、更に負荷を掛けるべく、駆けていく。飛翔の軌跡が螺旋の線を描き、勢いを殺さず全てを穿つように拳に集約され、|内側《体内》からと|外側《皮膚》を喰い破るように、唯、真っ直ぐに、その誤差すら全くない。潜響骨で拾った|空洞化《・・・》した地点を迷いなく貫通するように『甲殻籠手』は綺麗な直線の飛跡を残して丁度、人が、いや|1匹《・・》が通り抜けられるような|穴《・》を作り上げた。鼠が沈没する船から逃げるように蟲型の蜚廉の分身が我先にと抜け出し、次の獲物に喰い付いていく。のちにやってくる激しい爆破の光と音が遥か後方でするだろう。
 これで終わりではないと、残りの最早、唯の置物と変わらない硬いだけの|物《・》を値踏みなどせず、|掃除屋《蜚廉》は綺麗に全てを|掃除《破壊》していくのであった。

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