⑰秋葉原シティトライアル
●マガツヘビ凱旋
2025年11月20日。待望の例のゲームが発売され老若男女がNintend● Swit●h2を手に闘争本能を目覚めさせていた。表向きはポップなキャラクターたちによる楽しいレースゲームなのだがその実態は街を舞台にマシンを爆走させながら他のプレイヤーと血で血を洗う争いを繰り広げる仁義なき戦い。前作から実に22年ぶりの続編ということもあり話題を呼び、事前に行われたオンライン体験会も大盛況。この人気は√を飛び越え、√EDENのホビーになんかハマっちゃった√妖怪百鬼夜行の古妖の皆さんたちの間でも地味に流行していたりしていた。
そして発売後、ネットミームになった某爆破エンディングがさらにパワーアップして収録されていたということもあってそれはもう話題になった。が、変な影響をされてしまった古妖がひとりいた。
その古妖以前√ウォーゾーンの藤枝防衛ラインにうっかり出現して人類軍や戦闘機械群からとばっちりをうけた|人類抹殺派閥《レリギオス・オーラム》もろとも総出で袋叩きに遭い、叩き出された上で滅ぼされたマガツヘビであった。密かに復活していた彼はなんとゲームを購入、一通り遊んでいたらしい。実に楽しくプレイできたので満足だがなんか物足りない。そこでどっかでリアルでゲーム再現でも洒落込むかと考えるあたりマガツヘビマジマガツヘビである。ちょうど戦争だしどさくさに紛れて秋葉原の街で戦うのも悪くなさそうだとかぼんやり考えていた。自作のライドマシンも作って準備は万端である。
しかし自分を従獣として従えておきながら何故か前回は掟に素直に従って自分を討伐しようとしていた禍津鬼荒覇吐には狙いがあった(ノヴァ構文)。なんかこの状況を利用してどえらいことをしでかそうとしていたのである。某大彗星もかくやの所業である。いやあっちのほうが派手か。星一つ丸ごと抹殺しようとしてたし。
このままだと自分は下手したらなんかアー●ズフォートもかくやの巨大なマシンに改造されるかなんかされるのではないか? と変な勘繰りをしたマガツヘビはついに決断する。
「√EDENでマシンにノリながら逃げよう!」
かくして、彼の出現地点にあったカヤックアキバスタジオが突如例のBGMと共に爆散したのである。ついでに大彗星も爆発した。爆炎からなんか星っぽい物体に乗ったピンク色の玉みたいなのが出てきて勇ましいBGMと共に故郷の星に帰っていった。
T H E E N D
●まぁ終わらないのですが
「──ということなんだよ」
ルシファー・アーク(裏切りの決戦兵器/アバウトに生きる機動兵器・h00351)の話を聞き終わった√能力者たちは全員一様に「ダウト」と宣言した。そんな話自分たちが見た予兆のどこにも存在しないのだ。なんでマガツヘビがエアなライダー的なゲームにドハマリした挙げ句秋葉原で|街中での挑戦《シティトライアル》をおっぱじめようとしているのか、そのへんの意味が全くもってわからんのである。
「でも現に今マガツヘビはなんか謎のマシンに乗って秋葉原を爆走中なんだよ! つまりこれに対抗するにはただひとつ! 皆もマシンに乗ろう!!」
今回√能力者たちを手助けする……ついでにせっかくなので「あのゲーム」を再現しようという試みを実行に移した古妖たちがいた。捨てられた家電を使ってマシンを作った「電導キョンシー・雷鈴」、火車を改造してチャリオットタイプのマシンを用意した「葬車の火女」、そしてタンクタイプのマシンを調達してきた「ベンジャミン・バーニングバード」の3名である。彼らが用意したマシンは基本的には動かないが、意思と連動することでエンジンが起動し、高速で走る乗り物となるのだ。
「皆は好きなマシンに乗って、古妖たちが秋葉原の街中にばら撒いた強化アイテムを集めて、マガツヘビを追いかけてマシンで決着をつける! 戦場は秋葉原全域! ということで頑張ってね!」
まさに|街中で行われる試練《シティトライアル》。鍛えた自慢のマシンで戦う命知らずの競技である。マガツヘビは果たして逃げ切れるのか、それとも闘争本能に目覚めた|√能力者《ライダー》たちに袋叩きにされるのか。
√能力者たちは3人の古妖たちが用意したマシンを受け取りに、スタート地点となるヨドバシカメラマルチメディアAkiba前に向かうのであった。
第1章 ボス戦 『マガツヘビ』
●今回のスタジアムは── VS マガツヘビ
「テメェ、ライドしてんじゃねぇ! どっちかって言うと騎獣として乗られる側だろオイ!」
マシンに乗りながら爆走するマガツヘビの姿を見て、|鬼島《きじま》・|祥子《しょうこ》(武装少女レティシア・h02893)は思わずツッコミを入れていた。
「いや、でもあのゲームは普段乗られる側のでっかいハムスターも乗る方に回ってたのでセーフ! セーフです! なんなら別のレースゲームでも普段は乗られる恐竜とかが乗り物に乗ってました!」
「いやアリかよそれ!?」
が、ラピス・ノースウィンド(機竜の意思を継ぐ少女・h01171)の鋭い指摘に祥子はあんぐりと口を開ける。騎獣とかそういうのはこの際考えないほうがいいのかもしれない。
「あのゲームかぁ。そう言えば母さんも楽しみにしてたね」
「前作も遊んでたしな。今回は留守番で、残念がってたが」
「『母さん』……? えっ前作のリアタイ世代って子持ちになるレベル……? 確かに22年前……うっ、頭がっ」
|夜久《やどめ》・|椛《もみじ》(御伽の黒猫・h01049)と尻尾のヘビのオロチの会話を聞いた|紬《つむぎ》・レン(骨董品店「つむぎや」看板店主・h06148)は思わず目を剥いた。レンは当時2歳、物心付く前で全く身に覚えがない筈なのに知らない記憶がドバドバ流れ込んでくるしなんならジェネレーションギャップのショックで過呼吸を起こしかける。ちなみに椛の母親である雪乃は当時小学生、世代ドンピシャである。
「落ち着け! 22年前のことは22年前! |オレの主人格《ヒロト》にとっちゃ新作が全てなんだ! この前買ってからずーっとやってるからなコレ!! 面白過ぎて大学の授業ない日はマジ一日やってんだよ! だから今の俺はゲームの合間に戦争に来ています」
「なんとまぁ剛毅なことだ」
レンを落ち着かせようと声を掛ける|葦原《あしはら》・|悠斗《ゆうと》(影なる金色・h06401)の主人格・ヒロトは新作もすでにのめり込み、オンラインマッチにもひたすら潜る勢いだ。もはやゲームが生活の一部になりつつあるヒロトの様子にはさしもの|和紋《わもん》・|蜚廉《はいれん》(現世の遺骸・h07277)も肩を竦める。とは言え普段は韋駄天で鳴らす蜚廉にとって、マシンという力を借りて地を駆けるのはなかなか得がたい体験であった。
「まさか、我が脚以外のもので駆け抜ける事があろうとはな。何が起こるから分からんものだ。だが、面白い。存分に楽しませてもらおうか……火女よ。バイクタイプの機体を所望したい」
「お任せあれ。そうね……貴方ほど速度に慣れているならば排気量大きめの大型バイクが良いでしょう。扱いは難しいけど、頑丈で速度が乗ればこの子の独壇場よ」
「ほう、これはなかなか。気に入った!」
早速蜚廉はエンジン音も高らかに、ヨドバシカメラマルチメディアakiba前に作られた仮設パドックから大型バイクと共に飛び出していく。乗り方のコツはすぐに掴み、秋葉原の縦横無尽に張り巡らされた道路を疾駆する。
「っとと、蜚廉にばっか働かせるわけにもいけないな。俺達も行くか! この手の奴は大得意だ任せろ! ずっと見てたからな! 俺は見てただけだけど!」
「ホントに大丈夫かぁ? ……あれ、というかなんでベンジャミンがいるんだよ。お前古妖じゃなくて怪人じゃなかったっけ……?」
「そうだよ? でも今は古妖に雇われてる身でさ。|雇用主《クライアント》の意向は絶対だから、結局ぼくも『マガツヘビの掟』には従わざるを得ないんだよね」
悠斗と祥子はベンジャミン・バーニングバードのところに向かう。祥子の疑問に対して、ベンジャミンはやれやれと頭を振りながらも、自身が盛ってきたマシンを披露する。
「ま、細かい話はこれくらいにして、ぼくが集めたマシンを是非見ていってくれ! このタンクタイプの機体はなかなかクセが強いけど楽しく乗れるはずだよ! 装甲もがっちりかためてあるしね、特にこっちの重装型」
ベンジャミンは2人に自分のマシンを売り込みにかかる。悠斗と祥子はそのマシンを見た。タンクタイプの機体はキャタピラを活かした安定感のある走りが売りだ。また、走り方には独特のクセがあり、チャージャーを起動させることで急速な超信地旋回を行い、方向転換するというものだった。
「だから、進行方向と違う方向を向いて攻撃することができるよ!」
「へぇ、気に入った! アタシはこっちのゴツい方、重装型タンクに乗るぜ!」
「それならこっちは軽タンクに乗るか。こっちのほうが取り回しがいいんだ」
「決まりだね!」
ベンジャミンが2人にマシンを引き渡していると、ラピスがやってくる。
「ベンジャミンさん、ラピスにはそちらのルイ……いえっ、直線番長風の機体をお願いできますか?」
「こいつを選ぶとはお目が高いね! まさか乗り回し方はご存知かな?」
「はいっ、熟知しております!」
ラピスが選んだのはピラミッドを逆さにしたようなデザインのマシンだ。走っては止まり、止まっては走りというように、アクセルとブレーキの瞬発力の高さがこのマシン最大の売りである。ただし、逆にこのマシンは車のように曲線を描く形で曲がることが出来ない。あくまで止まっているタイミングで方向転換して、そのまま走るというものだった。その代わり加速力・最高速度は段違いに高い。乗りこなせれば機動力の高さの恩恵を存分に受けることができるだろう。
「えーっと、そしたら俺は……せっかくだからこの家電マシンを選ぶぜ!」
「いやー皆クセが強いのが好きそうだからアタイのところに来ないと思ってたアルよ! どれにする? いろいろあるから選ぶヨロシ!」
レンは電導キョンシー・雷鈴が揃えるマシンを見た。家電から作ったとは思えないほど再現力が高い。コアには旧式の電動掃除機が用いられているようだ。
「んー……こいつにするか。オーソドックスな星型のやつ!」
「スタンダードな機体アルね! 挙動も素直で乗りやすいアルヨ!」
「あ、それじゃあ雷鈴さん、ボクにはそこのジェットみたいなやつください」
「はいはい、こいつはよく飛ぶアルヨ! 空中に飛べば一気にトップスピードに加速ネ!」
レンが最もスタンダードなタイプを選ぶ一方、椛が選んだのは空中性能の高い機体。その分地上での性能は低いため、強化を積極的に行ってフォローする必要がある。
「よし……それじゃあ行くか!」
「強化をしっかり取ってマガツヘビを倒さないとね」
一足先に動き出した蜚廉に続くように、他の5人もマシンに乗ってそれぞれ秋葉原の街へと飛び込んでいった。
◆◆◆
「まずは飛行を中心に……」
主に飛行性能を上げる強化アイテムを取りながら、上空へと上がる好機を伺う椛。敵を探すなら上から探したほうが早そうだ。が、半端に育成しても返り討ちに遭うだけなので、飛行系に特化させつつ他もまんべんなく取りに向かった。
「これか、強化アイテムというのは」
一方で翳嗅盤で気配を嗅ぎ分けながらバイクを走らせる蜚廉は、道を塞ぐように現れた青いコンテナを発見。何度かスピンしてタイヤを擦り付けると、コンテナが破壊されて中のアイテムが出てきた。
「こういうのは得てして早いほうが良いが……少しだけ重さも増やしておこう」
同様に黒炎探査でアイテムを探し出した悠斗は攻撃性能や重さを中心に上げていく方針を取った。秋葉原UDX前のコンテナを破壊しながらタンクを縦横無尽に乗り回す。
「後は攻撃手段も当然用意しているよな! 爆弾投げるアイテムとかミサイル撃ち込むやつとか……ビンゴ! 緑コンテナ発見!」
そのコンテナを壊してミサイルやら爆弾やらを抱え込む悠斗の姿を見た、たまたま通りがかったラピスは首を傾げる。
「冷静に考えるとこの強化アイテムってなんなんですかね。どうやって再現してるのか……このあたり深く考えたら負けなんですかね。古妖パゥワーの神秘ってやつなんでしょうか」
そんなラピスは攻撃と重量、最高速を強化しつつ、旋回性能の足りない部分をラピス自身のジェットパックで強引に補う。ポンピングによるカーブテクニックも駆使しながら見事に乗りこなすことができていた。
が、逆にマシンに振り回されている者もいた。祥子である。
「うおぉコーナリングやべぇ!」
重装型は一度速度が乗ってしまうと、逆に重さが仇となりコーナリングが効かなくなる。その一方で超信地旋回に優れているため、独特なコントロールを要求されるのである。
「こりゃ強化アイテムは取れるものは取りつつって感じだな……!」
主に妨害手段を確保しつつマガツヘビを追う。仕掛けるならばそろそろだが、その間に少しでもこのマシンの挙動に慣れておかなければならない。マシンの制御に四苦八苦しながらも、徐々にコツを掴んでいくのだった。
「えーと加速と最高速、旋回性能を強化して基本性能を上げて、こいつは飛べるから飛行も取って……やることが、やることが多い……!」
逆に強化を行うためのタスクの多さに目を回しているのがレンであった。特に尖ったところがないので、余計に強化が重要になる。ある程度方針を固めつつ、全体の性能を底上げする方向で強化アイテムの収集に勤しんでいた。
やがて。
「よし、見つけた! 蔵前橋通りの地域安全センター前! そこにいた!」
いち早く見つけたのは祥子だった。
「よっしゃ行くぜよっしゃ行くぜー! 全速全開だ! そこ動くなよマガツヘビ!」
「ちっ、見つかったか! だが俺はこんなところで終わるわけにはいかねぇ! どきやがれ!」
マガツヘビが乗っているのは1輪バイクタイプの機体。小回りの利くスクーター風の機体だった。これを巧みに操り、邪魔をしてくる祥子を正面から迎え撃ち、強行突破を図ろうとする、が。
「マシンはこっちのほうが重いんだよ!」
マガツカイナを装甲で受け止め、霊的汚染地帯の拡大を防ぐ。逆にゼロ距離でミサイルを喰らい、反動で大きく吹き飛ばされた。
「くそっ、逃走効率のためにわざわざスクーターを選んだのに!」
「さてはお前、前作の知識に引っ張られてるな!? 今回特殊走法の大半は没収されてるんだよ!」
「……しまった!!」
ワイパーのように横薙ぎの往復でぶんぶん傘からのレーザーを振り回してマガツヘビをじりじりと追い込んでいくレン。彼の容赦ない指摘にマガツヘビは自身の選択ミスを悟る。
「くっ……タンクタイプが2機に重バイクも1機……! 正面決戦では明らかに不利だ!」
「おっと逃がしませんよ! 機動力はこっちが上です!」
ノワールな感じのアレよろしくマントを纏って現れたラピスが進路を塞ぐように機体を滑り込ませると、機体を高速スピンさせてマガツヘビへと着実にダメージを与えていく。懐に入られてしまい、雷の鞭による追加ダメージも入ってマガツヘビの機体を着実に損傷させていく。
「あーかわいそ! あーかわいそ! 同情しませんけど!」
「まずい、包囲網が完成されつつある! どきやがれ、俺はこんなところで終わるわけには……!」
絡みついてくるラピスを振り払って逃げようとすると、今度は自身の後方から迫ってきた重バイクに襲撃される。蜚廉だ。チャージを十分に済ませ、速度の乗った重バイクが突如としてマガツヘビのスクーターを跳ね飛ばした。
「そのドリフト捌きは見事と言う他無いが、遊びにかまけていると直線で追い抜かれるぞ。我が機体、既に五体に馴染ませた」
「パワー負け……いや、こいつ手慣れてやがる……!?」
一撃をかまして走り去る蜚廉。ふっとばされて空中に投げ出されたマガツヘビだが、突如全身が冷気で包みこまれ、身動きを封じられたことを悟る。
「絶対零度、斬り捨て御免」
その正体は椛であった。氷のジャンプ台で空中に飛び出し、滑空しながら姿を消して√能力による氷の属性攻撃を叩き込んだのだ。氷漬けの状態で地面に叩きつけられたマガツヘビ目掛けて迫るのは。
「今だ! 畳み掛けるぜ!」
攻撃手段を豊富に抱え込んだ悠斗である。まずは挨拶代わりのミサイル5連発。さらに前方に打ち上げ花火をこれでもかと叩き込み、メテオの雨あられを降らせ、爆弾を投げつけて一気に大ダメージ。トドメとばかりに速度と重さの乗った突進攻撃を一気に食らわせる。
「戦わずして完全勝利、とかなれると思うなよ!! お前はここで終わりだ!」
「|峨旺旺旺旺旺旺旺雄雄雄怨《GAOOOOOOOOOOOOOON》! 俺が、俺が機体の選択をミスったばかりに……ちくしょぉぉぉぉぉっ!! これで勝ったと思うなよぉぉぉぉぉ……!!」
やがてマガツヘビはマシンを破壊され、断末魔とともに吹っ飛ばされながら消えていった。見事マガツヘビを打ち倒した√能力者たちは、マシンを提供した古妖たちとともにしばしのウイニングランと洒落込むのであった。
