シナリオ

【王権決死戦】降る雪を昏く染めて

#√マスクド・ヒーロー #√EDEN #デュミナスシャドウ #王権決死戦 #王劍『縊匣』 #二刀一対の王劍

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王権決死戦

これは王権決死戦です。必ずこちらのページを事前に確認の上、ご参加ください。
また、ページ右上の 一言雑談や特定の旅団等で、マスターが追加情報を出すこともあります。

『二刀一対の王劍』関連シナリオ

王劍『縊匣』から生じた二本一組の王劍を巡る、コウモリプラグマデュミナスシャドウの争いに関連したシナリオです。これまでの物語は、#二刀一対の王劍で確認できます。

「――どうやら、俺達は奴等に踊らされていたようだ」
 遠隔操作で呼び寄せたシャドウ・ヴィークルに跨り、デュミナスシャドウは背後の√能力者達を一瞥する。プラグマの弱小組織を乗っ取る形で手勢を増やし、その過程で現れたコウモリプラグマから、もう一本の王劍を奪い取る――そんな彼の計画は、悉く阻止された。
 √EDENの能力者からすると偶然による部分も多かったかもしれないが、デュミナスシャドウから見ればどこまでが『狙い通り』だったのか判別することは難しい。星詠みの力を駆使し、そして王劍を手にしてなお上手くいかぬ状況に歯噛みしながら、デュミナスシャドウは愛車を走らせる。
「撤退するぞ。仕切り直しだ」
 バイクや戦闘車両で駆け付けた戦闘員達と共に、駅方面へ。

 コウモリプラグマもまたこの場を去り、収まらぬ吹雪が激戦の跡を白く染めていく。
 だが、戦いはまだ終わっていない。積もった雪を蹴立てるように、新たな轍が刻まれていった。

●追撃戦
「皆さん聞いてください! 王劍『縊匣』の件で進展がありました!!」
 集まった√能力者達に向けて、漆乃刃・千鳥(暗黒レジ打ち・h00324)が大きな声で呼びかける。√マスクドヒーローの簒奪者達、コウモリプラグマとデュミナスシャドウ――対となる王劍を所持した双方の争いは、ついに両者の直接対決に至った。
 共に策略を巡らせ、衝突する二人。勝者はその王劍を揃え、莫大な力を手にするはずだったが。
「現地に居合わせ、介入した方々のおかげで、それは見事に阻止されました! 目標を達成できなかった両者は、それぞれ手傷を追いながら逃走しています!!」
 言うまでもなくこれは最大の好機。現地で戦った√能力者達は既に追撃に入っているものと思われるが、敵側も援軍と合流しており、連戦となる彼等だけでは苦戦は免れないだろう。
「そこで、お集まりいただいた皆さんにも、現場に駆け付け戦いに加わっていただきたいのです!!」
 戦場となったのは北海道の滝川市、商店街にあったプラグマの拠点から、デュミナスシャドウは滝川駅の方へと移動している。そこでこちらのチームには、急ぎ滝川駅へと向かい、その頭を抑える形で迎撃してほしいのだと星詠みは言う。既に現地で追走しているチームとうまく連携が取れれば、逃走するデュミナスシャドウに対し挟撃の形を取ることができるだろう。
 何とか敵の撤退を阻止し、戦闘の末にデュミナスシャドウを撃破、王劍を奪取することが目的となる。

「先の戦闘で手勢を失ったデュミナスシャドウですが、現在は新たに駆けつけた精鋭戦闘員達と合流しています。まずはこの戦闘員達を撃破し、デュミナスシャドウに肉薄する必要があるでしょう!」
 愛車であるバイク、シャドウ・ヴィークルに乗ったデュミナスシャドウと共に、戦闘員達もまたバイクや戦闘用の車両に乗って移動している。直接的な攻撃のほか、『足』を潰すことでも戦場から脱落させることが可能だろう。
 とはいえ、手負いの状態のデュミナスシャドウは、配下を削られようが撤退を優先するに違いない。だからこそ、敵に肉薄できれば次の段階に進む必要がある。
「撤退に専念された場合、止める術は無いと言ってもいいでしょう! ですので、皆さんには何とか敵をこの場に引き留めてほしいのです!」
 ルートを完全に塞ぐなどして撤退が困難な状態に追い込み、彼の高いプライドを刺激する事が出来れば、決戦の場に引きずり出す事ができるはず。
「デュミナスシャドウの性格等については、直接戦って追撃している方々ならよくわかっていることでしょう!」
 特に、一度刃を交え、結果的に煮え湯を飲まされた相手の言葉であれば、デュミナスシャドウも無視はできないだろう。

 王劍を揃えることが叶わず、真の実力を発揮できない。なおかつダメージを負ったデュミナスシャドウ。これほどの好条件で戦える場面はそうそうない。だからこそ、ここで確実に決着をつけておきたいところだ。
「とはいえ、デュミナスシャドウが『王権執行者|《レガリアグレイド》』であることは変わりません! 戦いに臨めば√能力者であっても死の危険から逃れることはできません! 覚悟を持ってご参加ください!!」
 くれぐれも気を付けるように、と付け足して、星詠みは一同を送り出した。

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第1章 集団戦 『精鋭戦闘員部隊』


見下・七三子
ディラン・ヴァルフリート
玉響・刻


 先の戦いの激しさを映したように、叩きつけるような風が一同を襲う。視界は白く擦り潰され、街路樹は枝という枝に氷の粉を纏っていた。積もる雪によって車道と歩道の境はすでに曖昧で、自動販売機の灯りだけが妙に鮮やかに見えた。
「とりあえず、一番最悪の事態は避けられたみたいですね」
 この街に存在していたプラグマの下部組織、それを巡る戦いの末に、事の首謀者たるデュミナスシャドウとコウモリプラグマが刃を交わした――そんな報告を思い返しながら、見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)が呟く。先行した√能力者達の介入によって、その戦いに明確な決着はつかず、双方共に撤退を選んだというのが現在の状況だ。
「余力を残した状態で撤退を選択出来るとは……まだ敵は冷静なようですねっ!」
 玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)が、七三子の分析にそう付け加える。つまりはこちらも油断できない、ということだが、これが絶好の好機であることには変わりない。ディラン・ヴァルフリート(|義善者《エンプティ》・h00631)もまた、彼女等の言葉に頷いて返した。
「正念場……ですね。微力ながら、お力添えしましょう」
「それでは、ええっと……」
 これから起きるであろう敵集団との衝突に備え、七三子は呼び寄せた|戦闘員達《かぞく》と共に拳を掲げる。えい、えい、おー。
 戦い前の重要な儀式を終えたところで、一行は滝川駅から敵の進行が予測される通りへと向かっていった。配下と合流し、集団で移動しているデュミナスシャドウ、逃げる彼等の頭を押さえるのがこちらの役目だ。
「うまく挟撃できれば良いのですが……」
 こればかりは追走しているはずの仲間達を信じるほかない。七三子は戦闘員達に指示を出し、道の両脇、除雪によって積み上げられた雪の山の影に身を潜ませる。なお激しさを増す吹雪、その向こうを見通すように目を凝らし、耳をすませていた刻は、いち早くそれを察知した。
「見つけましたっ! これ以上は行かせません!」
 迫りくる車両のエンジン音、雪を蹴立てる集団の、地鳴りのような振動。間違いなくこちらへと向かっている気配に、刻は素早く刀を抜き放った。
 閃く刃は風を斬り、生じた鎌鼬は地を這うようにして雪を、そして吹雪を裂いて飛ぶ。
「今です、やっちゃってください!」
 七三子が応じて合図を送り、道の両脇で実体化した戦闘員がワイヤーを張る。横一閃の斬撃と、シンプルながら強力なトラップ、敵集団の先頭を行くバイクはまとめてその足元を狙われて、進路を乱した。タイヤをパンクさせられ、スピードを落とし、ものによっては転倒した先頭集団によって、後続のスピードもまとめて落ちる。
 僅かな一手で最大限の効果を――敵集団の一時的な足止めに成功したところで、ディランがその翼を広げた。
 『忌刻:邪道ノ業』、巨大な竜へと姿を変えた彼は、空中へと浮かび上がることで自らを敵陣に見せつける。吹雪の中に浮かび上がる巨大な影は、彼等を威圧するには十分なもの。
「待ち伏せされていただと……!?」
「怯むな、撃ち落とせ!」
 慄く戦闘員達を、中に混ざる精鋭達が叱咤する。√能力者達の奇襲にようやく対応し始めた彼等は、部隊を指揮する精鋭戦闘員を軸に反撃に出始めた。車両から降りてくる雑兵達に、ディランは先んじて斬撃を飛ばすことでそれを封殺する。牽制に留まらない攻撃が敵を蹴散らすが、相手は頭数で以てそれに抗う。
 空に舞うことで身を晒したディランに、後続も含めた敵集団が毒の弾丸を撃ち込み、防御を破ったそれが異形の身体に喰らい付く。侵食する猛毒、だがそれでもなお打ち振るわれた翼が、烈風を巻き起こして銃を構えた敵陣を掻き乱した。

 ディランが目立つ形で動いてくれた分、他のメンバーは行動の自由度が増している。乱戦の様相を呈し始めた戦況を見遣り、七三子は小さく呟いた。
「これで一応狙い通り、ですね」
 この混乱状態であれば、デュミナスシャドウが仲間を見捨てて単騎での脱出を図ったとしても、そのスピードを削ぐことはできるだろう。とはいえ、「逃がさない」と言うにはまだ早い。より深く詰め寄り、包囲して逃げ場を塞ぐのが最善か――。
「ええい、そこをどけ!」
 精鋭戦闘員の一人がこちらに銃を向けるのを察知して、七三子は一旦思考を打ち切る。
「見えてますよ?」
 視界を共有していた幻影と、入れ替わる形で射撃を逃れる。瞬時に敵の背後へと転移した彼女は、その背中を押し出すように蹴り付けた。たたらを踏んで、精鋭戦闘員が体勢を崩す。怒りの声を発しながら振り返ろうとした彼だったが、黒ずくめの戦闘員ではなく、黒い霊蝶を纏った少女がその前に立ちはだかる。
 閃刃・告死蝶。鞘に収められた刃が音もなく閃き、横薙ぎの一撃が精鋭戦闘員のプロテクターを貫いた。
「ぶ、部隊長がやられたぞ!」「そいつを捕まえろ!」
 周辺の兵隊達が泡を食った様子で刻を取り囲み始めるが、蝶と共に舞う彼女を捉えるにはいささか遅すぎる。
「残念ですが――」
 捕まりませんよ、という言葉の代わりに鋭い旋風が吹き荒れて、鎌鼬が戦闘員達の脚を切り裂いた。
 こうして七三子と刻が撹乱に回る中、ディランがその剛腕で以て、足並みの乱れた相手を薙ぎ払う。まとめて吹き飛ばされた者達が壁に叩きつけられて、衝撃で崩れた雪がまた降り積もっていく。
 広範囲を巻き込んだ麻痺効果、そして怪力による攻撃で敵を打ち払いながら、ディランは戦場を見渡すように首を巡らせる。待ち伏せ、および迎撃は概ねうまくいったと見ていいだろう。だが吹雪の向こうにデュミナスシャドウの姿は未だ見えず、その動きは把握できない。
 死角からの奇襲を受けぬよう神経を尖らせながら、ディランは仲間とその情報を共有する。敵陣の後方、微かに見えるそこでも動きが見える。きっと追走していた味方が追いついてきたのだろう。

 白き嵐の彼方で、戦いはなお続いている。潜む影を暴く時は、そう遠くないだろう。

ゴッドバード・イーグル
二階堂・利家


「えっ……凄い力強く逃げるじゃん……」
 刃を交えた相手が決然と撤退するのを目の当たりにして、二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)がそう呟く。最悪の場合は撤退戦になることも視野に入れていたが、それだけ負傷が重かったのか……それとも、こちらのことなど眼中に無いだけか。
「この期に及んで、増援と共に逃走を選択するとは中々クレバーですね」
 損得勘定として釣り合わないと判断された、というのがゴッドバード・イーグル(金翅鳥・h05283)の見立てだ。あのまま足を止めて戦っていたとすれば、駆け付けた増援に擦り潰されていた公算が高い。それでもなお撤退を選ぶということは。
「確実に勝てる目がないのなら無理はしない……ってことなのかな?」
「飽くまで目的はもう一本の王劍だった、ということでしょう」
 今回のことで|EDEN《こちら》も目を付けられたかもしれないが、それが明らかになるのを待つ暇はない。
「デュミナスシャドウ……というよりあの王劍は、明確に強化される可能性があります。放置しておくのは得策ではありません」
「悪の芽は、早いうちに摘むに越したことはないか」
 早期の討伐を狙うなら、今が最大の好機。ゴッドバードはそう促して、利家を再度その背に乗せた。
「軽口も結構ですが……一層気を引き締めて参りましょう」
「……追うぜ!」
 白い翼が吹雪の空へと舞い上がる。こちらも先の戦いの傷が残ってはいるが、そんな気配を感じさせぬ動きで、ゴッドバードは敵の逃走経路を見据えた。
「確りと掴まっていなさい」
 前回の任務に際して周辺の地図はインプットが済んでいる。敵の向かった方角――滝川駅方面への最短ルートを算出し、急加速。振り落とされぬようしがみついた利家と共に、敵を追う。滝川駅と言えば地域交通の要所だが、まさか電車に乗って逃げるとは思えない。そちらの周辺か線路自体を辿った先に、√マスクドヒーローに続く『逃走経路』が存在するのだろう。
 場所までは明確ではないが、そこに至るまでに、確実に追いついてみせる。そんな決意を示すように、荒れる天候、豪風と雪を引き裂くように飛んだゴッドバードは、やがて移動する敵集団を捉える。
「逃がしません」
 先回りとまではいかなかったが、それを狙うよりは圧力をかける方が有効だろう、そう判断した彼女は、即座に搭載していた火器での対地攻撃を開始した。合わせてブラスターライフルを斉射し、敵のバイクを射抜いた利家は、敵集団がこちらに照準を定めるのを察知する。
「撃ってくるぞ!」
「見えています」
 放たれる毒の弾丸によるダメージを、戦闘機動とエネルギーバリアによって軽減しながら、ゴッドバードはさらにミサイルを展開、敵車両にダメージを与えた。今のところ、牽制攻撃による敵軍の遅滞はうまくいっている。だが、吹雪の中とはいえ空中に陣取るのは少々目立ち過ぎるか――。
 そんな懸念が形になったように、最後尾近くの敵車両の荷台が開く。走行困難になって速度を落としていたその車両から出てきたのは、冗談のような兵器だった。
「加減しろよ馬鹿!?!?」
 |超後装施条砲《プラグマアームストロング》。市街戦にあるまじき武装を前に、利家が思わず声を上げる。車両に乗っていた戦闘員達が素早く発射体勢を整えているのを確認し、利家はスモークグレネードを投擲、その照準を遅らせる。それでもなお砲口がこちらを向くのを察知して、√能力による対処に出た。
「撃墜しろ!!」
 敵の砲弾発射のタイミングに合わせてインビジブルダイブを発動、位置を入れ替えると同時に両手で盾を構える。
 狙いを逸らし、直撃は避けた。だが砲撃と共に生じる|衝撃波《ソニックブーム》が、白い雪を散らし、吹き払うように駆け巡る。轟音を伴うそれから身を守り、吹き飛ばされながらもゴッドバードが空中で姿勢を制御、飛び去り際に残った誘導弾で砲台付近の敵にとどめを刺した。
「端役が抜け抜けと。……目障りです」
 たかが戦闘員、とはいえ今回の敵はそれなりに精鋭を揃えているようだ。この調子では先が思いやられる――といったところで、敵の車列が大きく乱れ始めていることをセンサーが察知する。
 二人の攻撃は確かに効果を上げたが、どうやらこれは、それだけではなく。共に駆け付けた仲間と、敵集団の頭を抑えた援軍、皆の尽力によるものだろう。
「みんなも動いてくれてるみたいだ、このまま追い詰めよう!」
 このまま上手く挟撃できれば、敵を殲滅することも不可能ではない。この機を逃さぬよう、二人は負傷を押してさらなる敵車両へと喰らい付いていった。

クラウス・イーザリー


 コウモリプラグマから王劍を奪うという目標を諦め、逃走を選んだデュミナスシャドウ。援軍と合流し、駆け抜けていくその背中を追って、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)もまたすぐさまバイクに飛び乗った。
「逃がさないよ!」
 フルスロットルで加速し、吹雪による積雪を蹴立てて進む。多少遅れを取ったところで、目立つ敵集団を追跡することは難しくない。徐々に距離を詰めたクラウスは、やがてバイクや装甲車両、雪煙を上げて走る敵の最後尾を捉える。恐らくデュミナスシャドウ自身は集団の中心に紛れているのだろう、一手では届かない……そう分析しながら、射程に収めた敵に対して仕掛ける。
「まずは、敵の数を減らす……!」
 追走するこちらに気付いたのか、車両から量産戦闘員達が顔を出し、迎撃の構えを取り始める。そんな彼等ごと巻き込むように、クラウスは決戦気象兵器「レイン」を起動した。
 吹雪の遮る視界、白く濁ったそこに、光の雨が降り注ぐ。無数のレーザー、その一条一条には大した威力はないが、有効に使えば話は別だ。敵の目を眩ませ、銃を構えた彼等の狙いを逸らし、エンジン部分に集中した光がその一点に穴を開ける。高速で走る車両が相手なら、その一点で機能不全に陥るだろう。
 一気に速度を落とした敵の車体が、最後の足掻きとばかりに突っ込んでくるが、クラウスはそれを予測していたようにバイクを傾け傍らをすり抜ける。後部座席の戦闘員による射撃を、蛇行するように走って躱し、さらに別の車両へ。運転席へのレーザー照射でクラッシュを引き起こしていると。
「まだ追ってくるのか……!」「仕方ない、アレを使え!」
 敵集団の前方で動きがある。トラックの荷台部分が開放され、そこに乗った戦闘員達が巨大な砲塔を構えているのが垣間見えた。
「あれは当たったらまずい、かな?」
 直撃は言わずもがな、着弾地点の近くに居るだけでも被害は免れないだろう。こちらへと向けられる砲口に対し、クラウスはあえてそのまま走行を続ける。過剰な反応はせず、ぎりぎりまで引き付けて。
「撃て!!」
 発射の瞬間を見切り、一気に車体を倒した。急激な方向転換に続いて襲い掛かるのは、発射音と唸る風音、着弾による爆発と嵐のように巻き起こる風。それらを辛うじてやり過ごしたクラウスは、敵集団がまとめて速度を落とすのを見て取る。
 同時に仕掛けた味方と――おそらくは前方に待ち受けていたこちらの援軍、その成果だろう。追いついた戦闘員の群れに対して、クラウスは光輝の翼を広げて飛翔、槍状に錬成した魔力兵装を手に、急降下していった。

ラピス・ノースウィンド
真心・観千流


「前が止まってる、減速しろ!」
「何をやっている、さっさと迎撃するんだ!」
 怒号と共に、吹雪の中に金属のぶつかる鈍い音が響いて、破損した車両によるものであろう黒煙が上がる。敵集団の前方と後方、挟撃の形で成された味方の仕掛けにより、整然と移動していた戦闘員達の間に混乱が生じていた。とはいえ逃走経路において妨害が入ることは、彼等にとっても織り込み済みだろう、精鋭戦闘員が部隊をまとめ、無事な者達で体勢を整えようという動きが見える。
「ラピスちゃん、そこです!」
 足止めと共に、デュミナスシャドウを守る敵の数を減らす。敵の分断を期するなら、狙うべきはここしかない。真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)の言葉に導かれるように、ラピス・ノースウィンド(機竜の意思を継ぐ少女・h01171)が空を舞う。
「EDENにちょっかいかけてタダで帰れるなんて思わないことです、汎用戦闘員はすっこんでろ、なのです!」
 雪と風を裂くようにして飛来した彼女は、バイクで移動する敵をさらに速度で圧倒すべく、ジェットパックにさらなる電流を流し込んだ。
 『Code:神雷』、過負荷による蒼白の輝きを伴い、ラピスの身体が一瞬で加速する。戦闘員達の構えた毒の銃弾、その狙いが定まらぬよう頭上を駆けて、搭載した『ナーガラージャの掌』――グラップリングフックで敵の車体の『足』を捕縛、転倒させて多重事故を引き起こす。
「こいつ……!」
「遅いですよ!」
 一斉射撃による弾幕、それらに対し、ラピスは空中に渡された糸――観千流の操るドローン間に張られた羅紗を蹴り付け、急激に進行角度を変えてみせる。完全回避は不可能なものの、被害を最小限に抑えつつ、敵を翻弄するように飛行を継続。無茶苦茶な速度で飛ぶ彼女の姿に気を取られれば、トラップとして前方に張ったワイヤーが機能し、敵の被害はさらに拡大していった。
「何を手間取っている、そこをどけ!」
 焦れた敵は一気に場を制圧すべく、|超後装施条砲《プラグマ式アームストロング砲》を展開するが。
「待ってましたよ」
 多人数による保持と照準が必要な必殺兵器、そのタイミングを狙っていた観千流が『神の見えざる手』を展開、不可視の光線が降り注ぎ、集まっていた敵をまとめて撃ち抜いた。
 白い嵐の中で、彼等の隊列は崩れ、ただ混乱だけが広がっていく。

シルヴィア・ノーチェイサー
ヴォルフガング・ローゼンクロイツ
祭那・ラムネ


 改札の外、白く呑み込まれた滝川市の街中に、シルヴィア・ノーチェイサー(人として・h09162)が踏み出す。ロータリーを囲む街灯の光は淡く滲み、全ての輪郭が曖昧に濁る。真横から吹き付けるような風に乗って大粒の雪が舞い、吐く息もまたすぐに白く溶けていく。身に着けたナノマシンスーツを以てしても、この寒さは防ぎ切れないようだが、まあ兵装の排熱には丁度良いだろう。
「行きましょう、|風妖精《シルフィード》」
 風を纏い、嵐のような吹雪の中へと舞い上がる。敵の逃走経路に当たるここからならば、敵集団を発見するのも容易いだろう。吹き荒れる雪のカーテンの間に目を凝らし、バイクと装甲車両、各々の乗り物で駆ける戦闘員達の姿を捉えた。先に喰らい付いた味方による戦闘と、生じた混乱、そんな中でも彼等は中心に居るのであろうデュミナスシャドウを守ろうとしている。
 気流を操り、吹き荒れる周囲の風を収め、凪いだその隙間へと身を滑り込ませる。白く染まった世界は極めて見通しが悪いが、奇襲には丁度良いだろう。
 刃を備えた巨大な弩状の武器を構え、吹き荒ぶ雪の向こう、先程確認した敵集団の鼻先へと狙いを定める。番えられた矢が、風を纏って青く輝く。
「風よ踊れ、アレグレット!」
 引き金と共に弦が解き放たれ、巨大な矢が射出される。
 『風妖精の悪戯』、敵集団の前衛に着弾したそれは旋風を巻き起こし、彼等をその乗り物ごと吹き飛ばした。うねる風によって雪が吹き散らされ、一時的にクリアになった視界を通して、戦闘員達もこちらに気付いたようだ。
「空中から襲撃!?」
「陣形を整えろ! デュミナスシャドウ様に近付けさせるな!」
 敵の前進を阻害するという目的は為された。だが足を止めての戦闘となれば、敵の対応もまた素早い。車両から降りた一般型量産戦闘員が壁を成し、シルヴィアへ拳銃を発射し始めた。
「やはり直属の精鋭、そう簡単に倒れてはくれませんか……」
 さすがにこの距離では牽制程度か、念のため迫る銃弾を風で逸らしながら、シルヴィアは先程の射撃で得られた視界から敵を見通す。これだけ統率の取れた戦闘員集団と正面から与するなら、こちらもただでは済まないだろう。しかし――。
「こっちで引きつける。後はうまく合わせてくれ」
 当然ながら、一人で戦っているわけではない。シルヴィアの起こした風、吹雪を散らしたそこに、祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)が切り込んだ。
 『天が咲く』、|D.E.P.A.S.《デパス》特有の気配を纏った彼が身を晒すと、周辺の戦闘員達が一斉にそちらを向く。雄叫びと共に襲い掛かってきた敵の拳を見切って躱し、槍の一撃をカウンターで合わせ、他の戦闘員へ蹴り飛ばす形で牽制。さらに迫る集中攻撃を迎え撃った。
 ラムネが前衛を引き受ける形で前に出たことにより、敵の集団に偏りが生じる。そんな彼等の死角を突いて、ヴォルフガング・ローゼンクロイツ(螺旋の錬金術師|『万物回天』《オムニア・レヴェルシオー》・h02692)が飛び込んだ。
「露払いと行こうか! 錬成着装!」
 魔狼を模した錬成外骨格をその身に纏い、焔色のバイクを駆り、敵陣へ。車体の前方に搭載された機関銃を斉射し、拓いた道をさらに深く。そうして強引に進めば、囲まれ圧殺されるのが常ではあるが、彼には頭数で戦えるだけの手段がある。
「群狼よ! 喰らい尽くせ!」
 『群狼招来』、周辺に放たれた魔導機巧獣は、電磁クローを駆使して戦闘員達を痺れさせ、行動を阻害していく。そうして動きの止まった敵に向けて、跳躍したヴォルフガングが強襲、彼等をまとめて打ち倒した。倒れた戦闘員達の中心に立つヴォルフガングに、周辺の生き残りがすぐに銃を向けるが。
「――なんだと!?」
 その動きもまた、群狼の搭載したセンサーが感知している。自動展開された大盾で銃弾を受け止めると、ヴォルフガングはまたすぐさま反撃に出た。
「何をしている! あんな連中まとめて吹き飛ばしてやれ!」
「しかし、まだ味方が――」
 劣勢を察した部隊長が指示を出し、逆転を期した一手が打たれる。走行不能に陥った車両から引きずり出された|超後装施条砲《プラグマアームストロング》、巨大な砲塔が戦闘員達の手によって保持され、無理矢理発射準備が整えられた。
 巻き添えを辞さない構えで狙いを付けられたそれが、ヴォルフガングと群狼達へと向けられる。轟音と共に砲弾が放たれ――直後、標的に直撃する前にもう一人の√能力者が立ち塞がった。
 オーラを纏い防御姿勢を取ったラムネは、弾頭を逸らす形で受け止める。音の壁を突き破るような威力を誇るそれは、軌道を逸らされ彼方へと飛び去るが、同時に生じた衝撃波が降り積もった雪をまとめて散らす。直撃を避けたとはいえ砲弾を受け止めたラムネもまた、当然ながら吹き飛ばされることになるが。
「盾が倒れちゃ、世話ねえってな」
 『あいの風』を受け、それでもなお立ち上がる。自らの傷を修復しながらの攻撃は、ラムネが完全に倒れたと見ていた戦闘員達の虚を突き、打ち倒していった。
 必殺の兵器を以てしても仕留めきれなかった、その事実は戦闘員達に少なからぬ動揺を与える。
「おのれ、こうなったら何度でも――!」
「させると思うか?」
 慌てて次弾を装填しようという動きに対し、ヴォルフガングは錬成外骨格に内蔵した賢者の石を励起させ、『|魔狼連鎖封印《ウルフヘジン・ケッテ・ズィーゲル》』を発動、敵の次撃を阻止してみせた。
「そこまで、です」
 シルヴィアによる空中からの援護射撃、そしてヴォルフガングの赤雷を伴う精霊銃、両者のばら撒く弾丸が麻痺効果をもたらし、敵集団を絡め取っていく。
「くそ、このままでは……」「デュミナスシャドウ様に、殺され――」
「……哀れですね」
 直属と言えど、根本にあるのは忠誠よりも恐怖か。福岡での事件、以前戦ったデュミナスシャドウの手勢を思い出しながら、シルヴィアが呟く。
 手札を全て潰され、最後の足掻きとばかりの銃弾は、しかしシルヴィアの消え行く影すら捕まえられない。『捉え得ぬ月影』、瞬時に発砲した敵の背後に飛び込んだシルヴィアは、絶望の淵にある敵に最後の一撃を加えた。
「よく戦った、と言いたいところだがな」
 残念ながら、ここまでだ。崩れた敵陣、攻撃の勢いが緩めば、ラムネもまた一気に距離を詰めることが可能になる。素早い動きと共に放たれる『雲裂衝』、装甲を貫通する一撃が、部隊長の一体と思しき精鋭戦闘員を打ち倒した。

 一時的な敵陣の乱れを突いて、ヴォルフガングが引き裂くように突撃していく。とはいえ敵の数はまだまだ多く、デュミナスシャドウは未だに姿を見せていない。無理は禁物だが――多少の無茶は必要だろう、そうして戦況を分析しながら、ラムネはまた敵を引き付けるべく前へと出る。
 生きて帰る。――そして味方を生かして返す、そのために。

和紋・蜚廉
不忍・ちるは


 二度相対しながらも、デュミナスシャドウは決着を待つことなく二人の前から去っていった。プラグマの末端組織が根城としていたビルの前、戦場となっていたこの場所には、静寂だけが取り残されている。
「後ろ髪も引かずに逃走を選ぶとは。余程状況が腹に据えかねたか――」
 コウモリプラグマとデュミナスシャドウ、それぞれ逆の方角へと逃げていった彼等の足跡を見比べた後、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は滝川駅の方へと顔を向けた。吹き付ける雪の帳の向こう側、そちらには配下と合流したデュミナスシャドウが、恐らくは自分の√への離脱を図っている。二度目となる仕切り直し、だが今回に限っては、それを追えるだけの余地がある。
 無論、王劍を手にした者と戦う以上、絶対死が絡むことは避けられないのだが。
「覚悟は……決まった様だな」
「はい、……いきましょう」
 同じ方向を見据えた蜚廉の言葉に、不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)は力強く頷く。
「では、共に挑もう」
 必ず、生きて帰るぞ。そう告げると、蜚廉は背中の翅を広げた。
 地を蹴り、真上へと飛翔。轟々と唸る風に構わず空中へと突き抜け、吹雪の彼方、デュミナスシャドウの向かった方角を見遣る。蜚廉の腕の中、姫抱きにされた形のちるはもまた、ゴーグル越しに同じ方向を見据えた。今の爆発的な加速を鑑みれば、敵集団に追いつくのは難しくないだろう。ただ、懸念すべきことがあるとするなら。
「……これかなり寒いですね?」
「うむ、この布を使うと良い」
 その辺りは予想済みだったか、広げた擬殻布を纏い、蜚廉は伸ばした斥殻紐を付近の建物に引っ掛ける。そして弾性に富んだそれを利用し、解き放たれた矢のように飛び出した。

 降り来る雪を、逆巻く風を、まとめて切り裂くように飛んだ蜚廉は、やがて各々に車両を操る戦闘員達を発見する。彼等もまた迫る二人の姿を捉えるが、戦闘員達が動くよりも、こちらの方が一手早い。相手の狙いを外すように鋭く進路を切り替えつつ、最後尾から敵を追い抜いていく。
「迎撃しろ!」「しかし、これでは味方にも攻撃が……!」
 戦闘員達は仲間を呼び集めるが、集団の内側に飛び込み、手頃な相手に並走するように飛ぶ蜚廉には迂闊に手を出すことができない。反撃に出そうな敵の動きを鋭い感覚で察知し、他の敵を盾にする形で立ち回り、後方からやがて敵陣深くに食い込むことに成功する。
「焦るな! 取り囲んで潰してしまえば――」
「それはどうでしょう?」
 他の戦闘員達を指揮している部隊長格の言葉に、ちるはが返す。彼女が見せつけるように両手を広げて見せると、大小のボルトやナットがバラバラと空中に飛び散っていった。
「――は?」
 次の瞬間、がくんと体勢を崩した部隊長が、外れたハンドルを愕然とした顔で見つめる。制御を失ったバイクは転倒し、後続を巻き込みながら後方、視界の彼方へと消えていった。仕掛けたのはもちろん、先程の『並走』時だ。蜚廉に姫抱きで運ばれているちるはは、自由になった両手を都度動かして、敵の乗り物に手を加えていた。
「高速走行中のトラブルって危ないですよね」
 当然、やられているのは今の一台だけではない。ある者はオイルを噴出させ、ある者は後輪がどこかに吹っ飛んでいき、二人の周囲で多重事故が引き起こされる。
 雪の上に刻まれた無数の轍、その上に倒れ込み、跳ねる敵集団からさっさと視線を切って、蜚廉はさらに前方を目指す。こちらの仕掛けに対して脱落者がやたらと多いのは、共に後方から仕掛けた仲間と――前方で待ち受けていた援軍の助けによるものだろう。混乱し、まばらになった敵集団の先、ようやく目的の背中を発見した。
「捉えたぞ」
 『潜殻転位』、『揃忍術 蜚之型』。阿吽の呼吸で同時に転移した蜚廉とちるはは、左右からデュミナスシャドウを挟撃する。同時には捌けぬと察した相手は、ちるはの蹴りを受けつつ蜚廉の方へと身体を倒し、振るった片手で彼の攻撃を打ち払う。
「――また、お前達か」
「ええ、『また』ですよ」
 崩れた体勢のまま、デュミナスシャドウは曲芸じみた運転技術でシャドウ・ヴィークルを操り、後輪を二人に叩きつけるように振り回す。それに対して再度転移効果の√能力を発動した二人は、攻撃を躱して再度合流、蜚廉の飛翔に同乗する形で敵を窺う。雪の上でタイヤを横滑りさせ、二人の位置を確認しながらなおも走行を続けるデュミナスシャドウは、速度を緩めぬまま。
「時間を稼げ」
 周囲で慌てる戦闘員達に、冷徹に指示を下す。目的は今のところ変わらず、『仕切り直し』を狙っているようだ。
 再度背を向けるデュミナスシャドウに、二人もまた続き、後を追う。標的の位置が明らかになった今、他の味方もここに駆け付けてくるはずだ。
「これ以上の身勝手は許さん」
「このまま逃げ切れるとは思わないでくださいね、主様」
 決意のこもった言葉が零れる。吹き荒ぶ雪の向こう、逃げる影を追って、二人はなおも空を駆けた。

第2章 冒険 『デュミナスシャドウへの挑戦』



 √EDENの能力者達の挟撃によって、敵集団は大きくその数を減らした。直属の精鋭として目を掛けてきた者達とはいえ、戦闘員ではこの辺りが限界か。マスクの奥でそんな見立てをしながら、デュミナスシャドウは配下の者達に発破をかける。
「この程度すら満足に出来んのか、お前達は」
 凍り付くような言葉にその身を震わせた戦闘員達は、決死の覚悟で抵抗を始めた。
「身を賭してでも道を開くんだ!」「デュミナスシャドウ様のために!」
 そんな戦闘員達の向こう側、迫るEDENの尖兵達の姿に、デュミナスシャドウが低く呟く。
「……見逃してやったというのに、しつこい連中だ」
 倒したところで得るものが何もない、その程度の相手――そんな彼の評価が滲む言葉は、吹雪く風に流され消えていった。

 この機を最大限に生かすには、『もう一手』がなくてはならない。それを成せるのは、君達だけだ。
見下・七三子
玉響・刻


 降り積もる雪の中、攻撃によって走行不能に陥った車両が転がり、後続の隊列を乱す。デュミナスシャドウを中心とした一団、戦闘員達の逃走は阻まれ、戦列の歩みが止まった。待ち伏せの成果を見分していた見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は、同時に集団の向こうから切り込む見知った仲間の姿を認める。
「――よかった、追撃していた皆さんも追いついてきたようですね」
 白い翼とそれを駆る者、高速で飛翔する彼等の方へと向かいたいところだが、合流にはまだ早いか。
「こちらも引き続き、足止めに注力しましょう」
 足は止まり、数を大きく減らしたとはいえ、精鋭戦闘員達は未だ健在。士気も落ちていたところだろうに、恐らくはデュミナスシャドウに発破をかけられ、必死の様相で立て直しを試みている。
 今となってはさして脅威でもないが、窮鼠猫を噛むと言う言葉もある。それに、放置しておいてこの後の戦いに介入されては不測の事態に陥りかねない――そう見立てた玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)もまた、引き続き戦闘員達の対処に向かった。
「まだ油断できませんね!」
「ええ、油断は禁物です」
 七三子がそれに頷いて返す。第一目標は、全員で無事に帰ること。そのためにはこれが最善手であると信じて。
「引き続き監視と支援をお願いします!」
 生き残りの戦闘員達が再編成される前に、七三子は先程と同様に戦闘員の幻影達を呼び出す。えいえいおー、と気合を入れなおした彼等は敵を集団で囲み、圧力をかけて動きを制限。その間に刻が胡蝶を纏い、刀を振るった。
 斬撃と共に放たれる鎌鼬、そして近付く者には不可視の一閃を見舞い、次々と残党を蹴散らしていく。精鋭と言えどこの程度、やはり先程までの戦闘で大勢は決していたと見るべきか。
「このままでは……!」
「せめてデュミナスシャドウ様だけでも逃がさねば!」
 抵抗勢力の合間から漏れ聞こえる声に、刻は目指すべき方角を定める。
「そこですか……!」
 そちらは正に戦場の中心、立ち塞がる最後の護衛の先に、デュミナスシャドウの姿があった。
「逃げ道を塞ぎます!」
 突破口を探そうとしている精鋭戦闘員達に対し、七三子は呼び寄せた仲間と共に包囲を形成する。特に相手が駆け抜けていきそうな通り、そして小路を見落とさぬように目を配って、重点的に手勢を配置。自分もその中に紛れ込みながら出方を窺うと、シャドウ・ヴィークルに跨ったデュミナスシャドウが口を開いた。
「邪魔をしていたのはお前達か。この俺を待ち伏せするとは……」
 ちょうど行く手を塞ぐよう現れた援軍、全く√EDENの連中がここまで厄介だとは。認識を新たにしたように呟くと、乗機のアクセルを噴かせる。強引に突破を試みる心算か、雪を蹴立てて回頭する敵の前に、刻が素早く先回りしていた。
「逃がしませんっ!」
 他と同様、足元を狙っての鎌鼬。だが精鋭戦闘員達には通じたそれも、デュミナスシャドウの構えた王劍に阻まれてしまう。
 だが、それも現段階では予測の内。敵が反撃に出難い、それでいて無視もしづらい距離を計って、刻は相手の気を引いてみせる。
「強者のつもりで逃げるより、王劍を置いて命乞いをした方が助かるかもですよ!」
「降伏勧告のつもりか?」
 せせら笑うようなその調子から、まともに応じるつもりがないことも伝わる。まあ、それもまた予想できていたこと。重要なのは、問答を始められるだけの時間を稼げたという点だ。
 追走してきた味方、利家達と合流すると、七三子は戦闘員達に指示を出す。
「今の内に、傷の手当もしてくださいね」
 デュミナスシャドウが先の戦いで負傷しているのと同様……いや、消耗度合いではこちらの方が上か? 通常任務を超える連戦に至った彼等に応急処置を施しつつ、敵の動向を見逃さぬよう努める。
 逃げようという動きが見えたら、止めるには敵わずとも声を上げることならできるだろう。
「これが頼れる味方の居るありがたさ、ですかね……」
 無理はしない。少なくとも今はまだその時ではない。だが『か弱い戦闘員』なりに全力を尽くして構える。

 束の間の膠着。退路を遮ることで、ある程度の場は整ったと言えるだろう。

クラウス・イーザリー


 吹き荒れる雪と、その奥底にわだかまる影。薄暗いこの戦場には不似合いな、暖かい光が上空を過ぎる。光輝の翼を背に飛翔したクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は、ついに追っていた対象を見つけ出した。
 逃走していた部隊の中心、駅側で待ち伏せしていた仲間と相対しているそれは、間違いなく王劍を持つデュミナスシャドウだ。
 胸に抱いたネックレスが光り輝き、クラウスの髪が灰色に染まる。『relier』、満ち溢れんばかりの魔力を抱いて、彼は敵の頭上へと舞い降りた。
「陸路が駄目なら空中から……なんて思ってないだろうね?」
 あのシャドウ・ヴィークルとやらに飛行能力があるかは定かでないが、忌々し気なデュミナスシャドウの気配から、『壁を走って乗り越える』くらいの方法は選択肢にあったのだろう。
 呆れるように溜息を吐いて、クラウスは続ける。
「部下たちが命を懸けているのに君は逃げるんだ。その王劍は飾りかな」
 あえて煽るように言う。できれば、逃走するという発想自体を捨てさせたいところだが、そうなれば有効なのは『既に戦っている』という点だろうか。冷静にそう分析しながら、相手の反応を窺った。
「さっきも俺たちを倒せず逃げていったのに、また逃げるの?」
「見逃してやっただけの話だ。お前達ごときを下したところで、俺に得るものはないからな」
 戦うだけの価値があるか、この敵はそういう視点で周りを見ているものらしい。そうなれば当然、『対の王劍の所持者』は無視できないだろう。
「コウモリプラグマはどうしているかな。君と違って、今ごろは正々堂々と戦っているかもしれないね」
 直接比べるようなその煽りは、恐らくデュミナスシャドウの自尊心をくすぐったはず。
 ……だが、まだ冷静さを欠くには至らないようだ。
「そんな手合いなら、俺も労せず王劍を揃えられただろうに」
 苦笑するような声音、未だ周囲の『抜け道』を探すような敵の気配に、クラウスは手にした魔力を引力の形で発動した。
 胸の奥が紅く輝き、周囲の戦闘員ごと、空間を中心へと引き寄せる。脱出には相応の力が必要になり、自然と逃げ足は鈍ることになるだろう。
「幾ら逃げようとしても、この状態では難しいんじゃないかな」
「ほう、試してみるか?」
 なめられたものだな、とデュミナスシャドウは周囲の戦闘員達に発破をかける。
 真に命を懸ける時が来たと、こちらもそう煽るように。決死の形相を浮かべた戦闘員達は、やがて特攻じみた行動に出るだろう。

祭那・ラムネ


 命を賭して道を拓け、それがお前達の存在意義だと言わんばかりの命令に応じて、戦闘員達が前に出る。先程までとは違い砲を支える程の人数も余裕もない、だがそれゆえに決死の構えで挑む彼等に、もう一度祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)が立ち塞がる。
 先の戦闘、待ち伏せての迎撃から、やることはあえて変えぬまま。前線に出た彼がひとつ指を鳴らすと、白い焔が敵の出鼻を挫くように降り注ぐ。雪を払う白炎、咲き乱れる花のようなそれが、にわかに戦場を照らし出した。
「さあ、来い」
 言葉少なにそう告げて、戦闘員達の敵視を一様に集める。
 どうせならば、もっと言葉巧みに煽ってやることで、後方のデュミナスシャドウにも挑発を仕掛けることもできたかもしれないが。揺らぐ焔の向こう、王劍を持つ敵を見据えながらも、ラムネはそれを選ばなかった。
 そういうのが苦手だというのも勿論ある。だが行動で意志を示す、そちらのやり方が、彼にはきっと合っていた。

 白焔の嵐を無理矢理乗り越えようとする戦闘員達を、オーラ防御を展開させたラムネが迎え撃つ。後続からの銃弾を鉄壁のそれで逸らし、ロッドを振り上げた最前衛の戦闘員と相対する。残り僅かの間合いを深く踏み込み、機先を制するような手刀で得物を取り落とさせる。
 晒した隙を逃さぬ一撃、『雲裂衝』がその胴に突き刺さり、衝撃波がボディアーマーを貫通するように駆け抜けた。
 成す術もなく倒れた仲間の様子を前にして、半ば自棄になっていたはずの戦闘員達の動きが鈍る。地に伏した戦闘員を踏み越え、進むのではなく、ラムネは飽くまで立ち塞がる構えだ。
「怖気づいたのか?」
 背を押したのはデュミナスシャドウの脅しめいた声。我に返った様子で、足を止めていた戦闘員達は捨て身の突撃を敢行した。
「――逃しはしない」
 ここで必ず食い止める。その覚悟で以て、ラムネが瞳を煌かせる。
 殺到する敵の動きを見切り、いなして――。

 次々と倒れていく戦闘員達の姿を目の当たりにして、舌打ちを堪えるような気配がデュミナスシャドウの身から漏れる。突きつけられたのは、部下に任せることへの限界と――立ち塞がる敵の、その姿勢。
 戦う者としてのプライドがあるならば、それから目を背けるのは難しい。ある種、いなしようのない挑発に当てられ、王劍を握る手に力が籠る。

和紋・蜚廉
不忍・ちるは


 対面するのは果たして幾度目になるのか。既に撤退を選んでいるデュミナスシャドウは相対するのを拒否したが、目の前から去ったとはいえ完全に見失うはずもない。嗅覚に相当する器官を生かし、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は敵の痕跡を追う。
 シャドウ・ヴィークルの加速に追いつけるよう翅を増やし、周囲の建造物へ鉤状の爪を引っ掛けての高速移動。先程までとは違い、移動を制限するのは町の建物ではなく戦闘員達だ。蜚廉の移動速度にはほぼほぼ付いていけていないが、時折反応を見せる精鋭戦闘員に対しては、ちるはが『ぽん』……なんかよくわからないがふわふわした獣を盾代わりにして弾き飛ばす。
 残り少なくなった戦闘員達の合間を縫うように飛んで、ほどなく二人はデュミナスシャドウの前へと辿り着いた。
「案外あっさり追いつけましたね?」
「行くべきところがないのだろう」
 向かい来る√EDENの能力者達に、次々と退路を断たれ、行き着いた末がここなのだろう。敵の眼前に舞い降りた蜚廉は、留殻を変形させて巨大な翅を形作る。その羽搏きは局所的な突風を巻き起こし、積もる雪を舞い上げて白いカーテンを生み出した。
 白く染まる視界、全く先の見通せぬ状態でも、聴覚と嗅覚を以て敵の位置を把握する。
「狙えるな?」
「もちろんです!」
 伝えられた情報から、ちるはが暗器とファミリアセントリーを展開、吹雪の向こうへと攻撃を叩き込む。ドローン程度では傷を負わせることも難しいかもしれないが、『千鳥』は反撃を受けたそこへと融合し、行動力を奪っていく。
 俄かの風が過ぎ去ったそこには、忌々しげにこちらを睨むデュミナスシャドウの姿があった。
「雪見ツーリングはもういいんですか? お好きなんでしょう?」
 逃げ出す様子のない敵に対し、油断なく構えつつちるはが問う。
「調子に乗るなよ、俺が見逃してやっていなければ……」
「自分の都合で先延ばしにしただけでしょう?」
 ねえ、主さま。対も揃えられず、配下も使いこなせず、おうちにも帰れず、身代わりに翻弄されて……ここまでされて、邪魔者を黙らせることもできないんですね。
 揶揄するような、歌うようなそれに続いて蜚廉が言う。
「どうだ? してやられた気分は」
 倒したところで得る物がない。それがデュミナスシャドウが口にしていたこちらの評価だ。だが、倒さなければ失われる物があるとすれば?
 敵を引きずり出すのに必要なのは、その『理由』だ。
「幾度も失敗を重ねる汝に、これ以上大役が務まるとは思えんな」
「忌々しい――飽くまで邪魔をするつもりか」
 吹雪の中に消え入りそうなその呟きを逃さず、蜚廉が応じて見せた。
「我らは只追うのみ」
「何度でも伺いますよ」
 また、というのは素敵な言葉で。二度は奇跡、三度は必然で四度は運命なのだと彼女は言う。
「運命までもうちょっとですね?」
「これからも、この先も。その野望を打ち砕き続けよう」

 ――つまらん戯言を、と切り捨てる余裕は既になかった。
 見逃してやった、などという欺瞞ももはや通用しない。王劍を所持し、戦力的に優位に立っていながら仕留め損ね、ことごとく作戦を阻止され、あまつさえ部下まで失った。
 屈辱は幾重にも絡みつき、その動きを鈍らせる。ここを逃れたところでそれが終わらぬというのなら、断ち切らなければならないだろう。
 つまるところ、√EDENの能力者達は、敵をそこまで追い詰めることに成功した。

 デュミナスシャドウの手にした王劍が目覚める。
 片割れのみのその刃は、本来在るべき姿とは程遠く、さしたる変化は見られない。だが王劍の持ち手として相応の力は与えられるのだろう、デュミナスシャドウの宿す暗い色の炎が噴き上がり、その勢いを増す。
 雪中に眩い闇が燃えて、戦場を昏く照らし出す。ここから先はまさに死地。√能力者であれど避けられぬ、『絶対死』の領域が展開された。

「ここで終わらせてやる。――逃げられると思うな」

第3章 ボス戦 『『デュミナスシャドウ』』


●染める色
 簒奪者、デュミナスシャドウは改造人間である。プラグマに仕えて悪を為し、何度も事件を引き起こし、そして何度もEDENと事を構えてきた。
 来るがいい、√能力者――敵対した者への言葉は、大概の場合こう続いていた。「貴様らとの闘いを経て、俺はさらに強くなる」、と。
 数奇な成り行きから王劍を手にした彼は、迷わずプリンセスクイーンを殺し、実質的に組織を裏切り、暗躍を続けている。その根本にあるものは、おそらく――。

「ここで終わらせてやる」

 幾度の戦闘、そして失敗と敗北。そんな繰り返しの闘争のひとつの帰結、『絶対死』の力を手にして、彼は言う。
 口をついて出たのは、皮肉交じりの言葉で。

「――逃げられると思うな」
和紋・蜚廉
不忍・ちるは


「逃げませんよ」
 デュミナスシャドウの言葉にちるはが応じる。敵の手にあるのは王劍、ゆえにこの戦いにおける敗北、死は√能力者であれど避けられぬ絶対のものとなる。そこにあるのは真の終わり、勝者と敗者がもう一度出会うことは、永遠になくなるのだ。
「さいごまでご一緒した上で、EDENのみなさんや蜚廉さんと帰ります」
 当然、負けるつもりはない。そんな決意を口にして、敵と向かい合う。
「主様には天秤の星に縁があるようですね。でしたら、お聞かせしましょう――」
 おじいちゃんが言っていました、と彼女は語る。『不忍術 弎之型』、二つのものを比べて時に調和を図り、時に裁定を下すのが天秤というもの。そんな中で刻の天秤という必ず傾く結果がある、と。
「そういえばケルベロスの方は何か関係あるんですかね」
 何やら話が逸れたけれど、とにかく術の展開と同時に蜚廉もまたその剣を使用した。『明呪・万蛇顕現』、先の戦争でEDENの者達が得た鹵獲王劍、それに由来する能力で、周囲のインビジブルに|従獣《マガツヘビ》の形を持たせる。暴虐の化身、あまりにも扱い辛い存在ではあるが、少なくともその巨体は目隠しくらいにはなるだろう。
 蜚廉は同時に翅を震わせて敵の聴覚を乱し、その間にちるはがインビジブルの身体を透かせて暗器を投擲、牽制を仕掛ける。
「鬱陶しい……!」
 探りを入れるような一手に鉤爪の一振りで応じ、デュミナスシャドウは飛来した投刃を弾き飛ばす。そして視界を塞ぐインビジブルを引き裂きつつ、『音』の出所を特定する。
「――斃され続ける我が不運と、生きる汝の幸運。これを天秤に乗せる」
 そんなことを口にする蜚廉を見定め、そちらに向かおうとするが、呼び寄せたはずのシャドウ・ヴィークルの動きが鈍い。先程の牽制の合間に、もう一つの術を展開していたちるはが、そちらに透明な綿毛獣を放っていた。デュミナスシャドウはまだ気付いていないようだが、重さが変わる能力を持つそれが、重量を増した状態でバイクの上に乗っている。
「ここまでの酷使とこの環境。バイクが無事で済むと思ったか?」
 相手の思考を誘導するように言って、蜚廉が敵へと斬りかかる。上手くかかってくれれば、敵は必殺のデュミナス・キックよりも通常の格闘戦を選択してくれるだろう。
 考える暇を与えぬように高速で仕掛け、翅を使った三次元的な機動で狙いを乱す。虚を突くように側方上空から突き出された鹵獲王劍は、しかしデュミナスシャドウの振るった剣に絡め取られた。
 こと個人での戦闘能力に関しては、この敵は|先程戦った怪人《スラッシャーバニー》を凌駕している。凄まじい剣速で迫る斬撃を、蜚廉は引き戻した鹵獲王劍を使い、危ういところで受け流す。
「この反撃も不運だな。そして行った汝は幸運だ」
 しかし追撃は瞬く間もなく訪れる。そもそも王劍の一撃は目くらましに過ぎなかったのか、デュミナスシャドウの右腕の爪が下方より突き上げられ、蜚廉の外骨格を貫いた。
「……己の弱さを不運と嘆くのか? 惨めだな」
 噴き上がる闇色の炎が、なおもその傷口を責め苛む。表皮と体液を焦がす熱、どす黒い煙。手の内の命を弄ぶように、蜚廉の身体が地面から持ち上げられた。
「蜚廉さん!」
 周囲の建物の壁を蹴り、駆け上がっていたちるはが、その様子を見てデュミナスシャドウへと飛び掛かる。しかし上空からの襲撃は、敵に悟られている状態では無防備に過ぎた。そちらを横目にした敵は、自由落下の終着点に王劍を構える。
 味方をやられて焦った故の迂闊な行動――その『捨て身』を、少なくともデュミナスシャドウはそう見越していた。
「――何?」
 王劍による迎撃には確かな手応えがあった。だがその刃は、ちるはまでは届いていない。透明で、巨大な何か。王劍を弾くことはできずとも、その刀身を丸ごと埋めてしまえるような何かが、そこに居る。
 同時に、胴に突き刺さった敵の腕を掴み、蜚廉が動く。自らを焼く炎に紛れさせた麻痺毒の煙を撒いて、逆手に持った王劍を敵へと向けた。『因果蝕装』、その身を削る甚大なダメージを、そこに宿して。
 デュミナスシャドウは王劍に刺さった何か――ちるはの携えた『ぽん』のひとつを振り払おうとするが、返り血に塗れた持ち手が、僅かに滑る。
「チッ……!」
「自分の弱さを不運と――何でしたっけ?」
 上空から降る、揶揄うようなそれに続いて、蜚廉がその重さを乗せた刃を振り下ろした。
「天秤は、既に傾いた」
 宿業返還、二人の手により紡がれた刃は、確かに敵を貫いた。

 それ以上の深手を避けるように、デュミナスシャドウは蜚廉の身体を投げ飛ばす。膝をついた蜚廉の傍ら、彼を守るようにしてちるはが構えた。
 膠着にも至らぬ僅かの間は、しかし合流した仲間達によって埋められる。
 揺れる天秤は未だ定まらず。運命の行く末を巡り、戦いは続く。

祭那・ラムネ
見下・七三子
ディラン・ヴァルフリート
玉響・刻
二階堂・利家
ゴッドバード・イーグル
クラウス・イーザリー


 白く閉ざされた視界に、闇色の炎が揺らぐ。
 空と地の境界すら曖昧に溶け合い、吹き荒れる雪を超えて、王劍を手にデュミナスシャドウが向かい来る。
「とうとう本気になったようですねっ!」
「ようやく、鬼ごっこではなく、向き合ってくださいましたね」
 刻の言葉に「よかった」と頷いて、七三子が手元の残弾を確認する。追走も足止めもここまで、長い戦いではあったが、ついに決着の時が訪れようとしていた。
「……でも、ここからが本番です」
 そう、既に王劍はその力を発揮し、避けられぬ死の領域が展開されている。結末にあるのは、どちらかの死。
「目的を果たして、みんなで無事に帰るためにも、全力を尽くしましょう」
 改めて、皆を勢いづけるように言う。たとえ相手が王権所有者であれ、モノをいうのは『団結の力』だ。
 補給の暇もない連戦、そんな中でも出来る限りの準備を整え、利家は駆け付けた仲間達と共に敵へと向かった。
「指示は全員で生きて帰ることだけだ! 行くぜ!」
 相手もまた手負い。だからこそ、油断はできない。

「さあ、勝負といこう」
 最前線、向かい来る敵に立ち塞がるように、ラムネが敵の目前へと切り込む。相対したそこで、デュミナスシャドウは正面からぶつかるように突っ込んできた。先程までの戦い方に思うところでもあったのか、真っ直ぐに放たれる拳。勢い任せに打ち込まれたそれを、ラムネは手の甲で打ち払うように受ける。
 即座にカウンターを、そう期した動きは、しかしその半ばで断たれることになる。
 先程まで相手をしていた戦闘員とは比にならぬ攻撃の重さ、それをその身で実感しながら、ラムネはなおも怯まず踏み込んだ。慎重に、だが恐れることなく。ここでの振る舞いは自分のみならず、仲間の、そして大事な人たちの命に関わるのだから。
 弾くだけでは足りぬと悟り、続く連撃を右手で迎え撃つ。攻撃に伴う闇色の炎、それを握り潰すようにして阻み、受け止める。強力な攻撃であれど、この方法ならば――。
「――だが、どこまで耐えられるかな?」
 どこか楽しむような声音が硬質なマスクの内側から漏れる。どう攻めるか吟味するような、その一瞬、動きが止まった刹那を、√EDENの能力者達が見逃すはずもなかった。
 『relier』、灰色に染まった髪を舞わせ、飛来したクラウスが風の刃を放つ。降り続く雪を切り裂く軌跡は、しかしデュミナスシャドウの振るった王劍によって阻まれた。
「その程度か?」
 当然、それで終わるわけがない。多重詠唱によって紡がれた稲妻が、至近距離でデュミナスシャドウを捉える。電撃によって一時的に身体の自由を奪い、続く炎が牙を剥いた。
 呑み込もうとする焔の顎に対し、デュミナスシャドウもまた闇色の炎で抗う。二色の火炎が絡み合い、両者の間で熱気を迸らせる。
「魔法の類か、やるな」
 面白い、と笑う敵の姿を、クラウスは冷静に見据えていた。戦いに飢え、強さを求める――そこには相応の理由があるのだろうか。
 禍々しいスーツに身を包んだプラグマの改造人間、その正体にわずかながら疑問が浮かぶが。
「君は……」
 言いかけた問いをそこで止める。たとえどんな来歴が、どんな理由があったとて、彼がたくさんの人を傷付け、味方すら殺した事実は変わらないのだから。
 何を思おうと、戦って打ち破らなければいけない。その決意を示すように、クラウスはガントレットから伸ばしたワイヤーを操る。敵の腕に絡ませたそれを強く引き、向かい合う。両者の炎が喰い合うそこへ踏み込めば、彼我の距離はゼロに等しい。
 クラウスが素早く拳銃を抜いて撃ち込むが、デュミナスシャドウは腕部装甲を盾に射線を遮り、銃弾を弾く。そのまま伸ばされる爪による貫手を、魔力の盾で受け止めて応戦。互いを蹴り付けるようにして、両者が僅かに距離を取った。
 息つく間もない接触、今度はその背を、巨大な刃が狙う。旋風のごとき斬撃を、王劍が受け止め、噛み合う刃が軋みを上げた。
「何処ぞの……湾岸倉庫以来ですね」
 それはかつてあった事件、ディランが向かったそこには、暗躍するデュミナスシャドウの姿があった。初めて刃を交わしたあの時から、随分と遠くに来たように思える。だが、感傷に浸っている暇はない。デュミナスシャドウが王劍を手にしたように、ディランもまた数多の戦いを経て成長してきた。――そして、共に戦う仲間も。
 駆け付けた利家と挟撃する形で、ディランはデュミナスシャドウとの戦いに挑んだ。


「分裂した劍が複数の王権執行者を競わせて、その巻き添えで死んだ√能力者さえも融合の餌食にして取り込むんだろ?」
 利家が屠竜大剣に符を貼り付けると、その周囲にインビジブルが集まり出す。それらから力を得ることで、逆説的に疑似的な王劍と化したそれを構える。
「踊らされて、その気にさせられて、利用されているだけって分からんのかな!?」
 敵の間合いへと鋭く踏み込み、王劍『縊匣』と刃を合わせれば、拮抗するように周囲のインビジブルが荒れ狂う。
「それで対抗したつもりか?」
「いいや? 別に力比べがしたいわけじゃないからね」
 正面から挑んだ利家と、回り込むように位置取りをするディラン。対集団の経験も豊富なデュミナスシャドウはその両者に気を配ることを苦にしないようだが、そこで仕掛けたのはもう一人、距離を置いて身を隠していた刻だった。
 『閃刃・風斬揚羽』、抜き放った刃が風を斬り、吹雪を裂く鎌鼬となってデュミナスシャドウを襲う。狙うは脚部、この状況で機動力を削げれば形勢は一気に傾くだろう。しかしその狙いは敵としても警戒していたのか、不意を打たれながらも咄嗟の跳躍でそれから逃れる。
 敵が地を離れたその好機を、逃さぬとばかりに二人が詰める。正面と後背、双方から突き出される剣。それらを迎え撃ったのは、唸りを上げて回転する円刃だった。
「狙いは悪くないが……」
 全員同時に相手取るには速度が足りぬと判断したか、星座の輝きがデュミナスシャドウの身体に刻まれる。ケルベロスライブラフォーム、高速移動を可能とする形態へと移行した敵は、挟撃を狙う二人を引き剥がすように駆けた。
 積もった雪を、瓦礫を、そして戦闘員達の骸を踏みつけにして走るデュミナスシャドウに対し、碧色の炎をその身に纏わせたディランが追いすがる。『錬刻:無窮なる闘術』、反応速度を上げることで敵の動きに追従し、竜爪を駆使した斬撃を見舞う。敵の装甲を掠めて過ぎたそれに対し、反撃に使われたのは右の鉤爪。旋回するような動きで奔るそれを、ディランは予知していたように受け止めた。
 大剣と鉤爪が交錯したその瞬間、影が一つ闇から出でるように飛び掛かる。敵の死角を走ったそれは、腕に装備したナックルナイフを突き立てた。
 刃はデュミナスシャドウのマフラーを裂いて、しかしスーツに配された装甲によって受けられる。
「あ、やっぱり無理でした?」
「まだ居たか、戦闘員風情が――!」
 一撃離脱と言えば聞こえは良いか、潔く離脱を選んだ七三子だが、その眼前に王劍を手にしたデュミナスシャドウが迫る。
「いいんですか? 私なんかに構っていると……」
 ともすれば死も見える状況ではあるが、彼女は普段と変わらず笑みを含んだ調子で言う。『一人じゃない』というのは、つまりはそういうこと、団結の力で結ばれた味方は、彼女の意図を正確に汲んでいた。
 デュミナスシャドウが咄嗟に踏みとどまったその眼前を、鎌鼬による斬撃が駆け抜けていく。機動力を生かした戦いは刻にとっても得意の場、デュミナスシャドウの高速移動にも関わらず、彼女は斬撃を放つタイミングを狙っていた。そしてそれに合わせ、利家の符が敵の王劍に迫る。退散の命令を記した軍警霊令符は、纏わりつく邪悪なインビジブルを散らし、その力を削いでいった。

 先に戦った怪人とも一線を画す実力を持つのが王権執行者だが、その強力な攻撃は今のところ真価を発揮できないまま。√EDENの能力者達による息の合った連携により、決め手を欠いたデュミナスシャドウは苛立ちの声を上げる。
「お前達、少しは役に立って見せろ!」
 言葉の向けられた先は敵の配下、生き残りの精鋭戦闘員達だ。先程までの戦闘で√能力者達に蹴散らされた彼等は、散り散りになり、ほとんど戦意を失っている。
「こう……信頼関係とかないんです?」
 戦闘員的な目線で七三子がそう口にするが、デュミナスシャドウにそれを気にした様子はない。
「使えん連中だ」
 それでもなお駆け付けようとした戦闘員の一人を、デュミナスシャドウは押し出すようにして盾にする。飛来する刻の斬撃をそれで阻むと、血煙が舞う中へと低い体勢で駆け抜ける。
「……そのやり方じゃ、誰もついてこないんじゃない?」
「構わんさ」
 俺が強ければそれでいい。そんな言葉に代わり、振るわれたケルベロスソーサーが地を削りながらクラウスに迫る。回避が間に合わないと悟り、咄嗟に魔力の盾を展開。しかし円刃は不可視の障壁を乗り越え、クラウスの腕に喰らいついた。
「くっ……!」
 鋸のような刃を回転させ、傷口を抉る獣の牙。だがこの程度の負傷は織り込み済みだ。クラウスの紡ぐ『|月狼を模倣する魔法《マーナガルム》』によって、宙を舞う血液が互いを繋ぎ、鎖となってデュミナスシャドウの動きを縛る。
 思わぬ反撃に対処が遅れたそこを、ラムネの構えた白焔の槍が貫いた。

 敵の配下によるさらなる援護、もしくは駒として利用されるのを避けるべく、七三子と刻が戦闘員達を牽制し、戦場の外へと追いやる。その間にも爪と牙は交わされて、√EDENの能力者達が攻勢に転じていた。
 が、そこで。
「……調子に乗るなよ」
 天秤座の輝きが消失し、代わりに色濃い闇色の炎が噴き上がる。
 一歩下がったそこで、弓を引き絞るようにその身が沈む。言葉よりも明白に、纏う気配が告げていた。
 そう、戯れはここまでだと。


「来い」
 短いその言葉が自分達に向けられたものではないと、ラムネは敏感に察知する。デュミナスシャドウの後方から聞こえるのは、鼓動にも似たエンジンの唸り、一際強く吠えたそれ――主の呼び声に答えたシャドウ・ヴィークルが、雪の中を割って疾走を始める。跳躍したデュミナスシャドウがそれに飛び乗り、加速した勢いを乗せて放たれるのが必殺のデュミナス・キックだ。
「そうはさせない……!」
 こちらも兆候を察知したクラウスがドローンを展開。シャドウ・ヴィークルの疾走を阻むには至らぬものの、その走行経路を限定する。敵の動きを誘導したことで、必殺の一撃、その起こりを見切れるだけの状況は整った。
 デュミナスシャドウが乗機から飛び立つその瞬間に、クラウスは拳銃を抜き撃つ。居合にも似た|早撃ち《ラピッドファイア》によって、射線を読む間もなく敵の身体に突き刺さった。
「チッ……だがこの程度で!」
 止められるとでも思ったか? それでもなお跳躍したデュミナスシャドウは、不完全な体勢ながら空中で炎を纏う。吹雪の空に広がる闇色の火炎、本来ならば円を描くはずのそれは、歪に揺らめくばかりだが、未だ十分な力を秘めている。
「――デュミナス・キック!!」
 燃え上がる炎と共に、闇色の彗星が降る。その速度は完全なものとは程遠い、しかしまともに喰らえば絶対死も見える代物だ。
 飛来するデュミナスシャドウに対し、前衛を担うラムネが飛び込む。形振り構っている暇はない、今までは敵に悟られぬよう振るっていた右腕を、敵へと掲げた。
「護ってみせる。――必ず!」
 流れる水の中を泳ぐが如く、それは相手の√能力を受け流す。だが襲い来るのが瀑布であれば、どうなるか。
 飛来したデュミナスシャドウとそれを受けるラムネ、その合間で炎が爆ぜる。衝撃で吹き飛ばされたラムネが倒れる中、色濃い闇色のそれが吹き荒れ――燃え広がることなく、消失した。
 無理矢理の一撃にこちらも反動があったのか、片膝をつくようにしてデュミナスシャドウが着地する。
「……仕留めそこなったか」
 受け切られたというその現実に怒りが、そして敵への賞賛が滲む。目指すべき強さは未だ果てなく、遠い――それでもなお勝利を求めて、デュミナスシャドウが頼ったのはその王劍だった。
 デュミナス・キックはもはや通用しない、それは明らかだ。しかし『必殺技』が見切られているというのなら、さらにその上を求めるまで。簒奪者として、彼もまた無数の戦いを経ている。その経験は無駄ではないのだというように、それを掲げた。
「王劍よ、力を寄越せ……!」
 刀身を、闇色に濁った炎が走る。降りしきる雪の中、わだかまる黒が自らを主張する。周囲を侵食するような気配と共に、デュミナスシャドウがゆらりと前に出る。
 牽制射撃と風の刃を掻い潜り、止まらぬ敵を押しとどめるべく、聖装の竜が立ちはだかった。
 瞬く間の交錯。昏い刃はディランの防御を裂いて、装衣を、そしてその下の肉体を斬り裂いた。傷口を灼き、抉る黒炎、それが収まるのも待たず、十字を描いた刃がその首を狙う。
 ぬるい。遅すぎる。デュミナスシャドウの口をついて出たのは、奇しくもあの日と同じ言葉。そして応戦するディランの√能力もまた。
「――示せ」
 その身に刻むは不屈の勲、ディランの纏った聖なる鎧が白銀色の輝きを放つ。デュミナスシャドウの放つ夜色の斬撃とは対照的な光。炎に抗うその輝きは、やがて闇を切り裂き、一帯を白く染め上げた。
 斬撃を押し返される形でたたらを踏み、デュミナスシャドウが呻く。
「通じない、だと?」
 ――王劍を頼ったのが仇になりましたね。そんな言葉を吐く余裕も、今はない。
 本来の力を発揮できていない、不完全な王劍であることが幸いしたか。一度限りの使い切りに過ぎないとは言え、かろうじて対応が間に合った。
 動揺を露にしたデュミナスシャドウに対し、利家がさらに畳みかける。手にした疑似王権で斬りかかり、鍔迫り合いの形で抑え込みにかかった。
「驚いてるところ悪いんだけどさ、ぶっちゃけ俺にとってはあんたも大首領プラグマも、倒すべき簒奪者の1人に過ぎないんだよね」
 だからこれはただの通過点、順番に返り討ちにしてやると宣言する利家に対し、デュミナスシャドウが苛立った様子を見せる。重量に任せた利家の剣を押し返し、拮抗して見せながら、空いた手で操ったケルベロスソーサーで側面から奇襲を仕掛けた。
 回転する刃が獲物を求めて唸りを上げる。だがそれはすぐに悲鳴のような軋みに代わり、空中に縫い付けられた。回転機構に絡みついた竜尾鞭、その根元を握っていたのは、人の姿となったゴッドバードだった。
「貴方の事ですから、格下に遅れを取ったスラッシャーバニーからの報告にも、碌に目を通していないのではないですか?」
 先の戦闘から搭載火器はほぼ撃ち尽くしている。概ね敵もそれを見越していただろうが、だからこその奥の手だ。
 まともにやっては相手にならないからこその、利家を囮とした奇襲。自らの足で踏み込み、自動小銃をばら撒いた彼女は、敵が対応しきる前に接敵する。そして逆手に握った鏢を、敵の胸部――先の戦闘で付けられた傷へと突き立てた。
「おのれ、お前のような奴に……!」
 呻きながらも反撃に出るデュミナスシャドウ、その鉤爪が、ゴッドバードの腕を掴む。改造人間特有の膂力によって、その腕は容易く捻じれ曲がる。苦悶するようにゴッドバードが身を捩る、するとその腕は根元から抜け落ちた。
 利家によって強化された機械義腕、その片腕をパージしたゴッドバードが飛びのいた次の瞬間、残されたその腕は盛大に爆発した。
 衝撃波が一方向に駆け抜け、炎と煙が上がる。
「――『EDEN』の本質とは、自らが持ち得ない『欠落』を埋める繋がりの強さ。私はそう認識しています」
 さすがにこれ以上は戦う手がない。一度敵の方を振り返ったゴッドバードは、バランスを崩しながらも戦場から離脱を図る。
「同僚も部下も切り捨て、独り研ぎ澄まされていく貴方は……剃刀のように鋭く、それ故に脆いのです」

 雪を焦がすような炎の痕、燻る煙の中で、デュミナスシャドウは未だそこに立っていた。
 しかしながら、ここまでの戦いによる傷は深い。装甲を配したスーツはあちこちが崩れ、割れたマスクの隙間から、改造人間である彼本来の瞳が覗く。
「そろそろ閉幕の時間だぜ、兄さん」
 血走ったその目がラムネを見る。そこには未だ萎えぬ戦意が宿っていた。
「この程度で、勝ったつもりか?」
 ゆらりと前に出る相手に対し、ラムネがなおも慎重に構える。窮地からの抵抗も、撤退も、そして道連れさえも許さぬよう、最大限に神経を尖らせて。
「本気を出すのが遅かったようですねっ!」
「此処で、終わらせましょう」
 胡蝶を纏う刻が、残った力を振り絞ったディランが、脇を固めるようにそれを包囲する。
 ――窮鼠猫を噛む、手負いの獣は恐ろしい、そんな教訓は数あるが、裏を返せば油断さえなければ相手は弱った獲物に過ぎない。こちらも満身創痍ではあるが、負傷し精彩を欠いた敵の攻撃を、味方と協力することで封じ込める。王劍による斬撃を捌き、鉤爪による攻撃をあえて受けることでその動きを止めれば、後は。
「私達の刃は、貴方に届きますっ!」
 告死の蝶が舞う。
 刻の言葉を証明するように、閃く刃が、そしてリミッターを解除したディランの剣が、デュミナスシャドウを貫いた。


 俄かに降りた静寂。戦場となっていた街の片隅に、雪を伴う風の音が微かに響く。戦う者たちによって踏みしめられ、薄汚れた灰色の雪の中に、デュミナスシャドウが膝をついた。
 割れたマスクの下から覗いた瞳が、地に伏すことを拒むように空を向く。吹雪の向こう、分厚い雲のさらにその先を睨むようにしたまま、彼は何事か呟いた。
「――……」
 それは誰かの名前だったのかもしれないし、ただの怨み言だった可能性もある。組織を裏切り、仲間を排し、部下を駒として扱った彼の傍には、もう誰も居ない。
「悪とは……須らく、滅ぶべきものですから」
 かつての言葉をなぞるように、ディランが呟く。残敵を確認し、各々刃を収める中、クラウスはデュミナスシャドウの方へと歩み寄った。
 野望と、そして戦いの果て。強さを求めた先にあるのは、所詮この程度の結末――と、そう言ってしまうのは容易いけれど。
「俺には他人を害してまでやりたいことは無い。だけど君には……」
 あるんだろう。あったはずだ。語ることも、交わすこともなかった言葉が風に消える。
 分かり合ったところで、相容れることは絶対になかっただろう。衝突とその帰結、勝ち取った、力による決着を見下ろして。

 √EDENの能力者達はまたひとつ、迫る脅威を退けた。
 デュミナスシャドウの指から零れた王劍が、汚れた雪の合間に落ちる。王劍『縊匣』、二本で一組となるはずだったその片割れは、もう一振りと同様に、静かに崩れ落ちていった。

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