13
さくら、夜市、桜灯街
はらり、ひらり、きらきらと。
夜の街を舞い遊ぶのは、鮮やかなネオンの灯りを映した花びらたち。
上層の街の光が夜空に浮かび、その隙間からも淡い煌めきが降ってきて。
√仙術サイバーの世界にも、春の季節がやってくる。
そして、積層都市・新宿Ⅴ層。
その中心街から少し外れた場所にある繁華街はこの時期、特に賑わいを見せる。
桜が咲き誇る時期になれば、毎年沢山の人が訪れる夜市の街――それが、|桜灯街《おうとうがい》。
メインストリートの奥にある公園の桜も、そろそろ見ごろの時期を迎えていて。
公園の中心には、一本の大きな桜の木が見事な花を咲かせている。
それは、この街のシンボルでもある巨大な桜の木。
満開に咲き誇る桜が煌めきを纏っているのは、輝く街のネオンのせいだけではない。
この桜は、力ある者の存在に呼応して、より鮮やかに花開くと言われているから。
そんな桜公園へと続くメインストリートは、春の夜になると、歩行者天国となる。
そしてはじまるのは――賑やかな声や美味しそうな香りが満ちる、桜の夜市。
ネオン看板と桜提灯の灯りが重なり、桜並木の大通りが華やかな色に染まる。
歩行者天国となった夜市通りには様々な屋台や店が並び、人々が食べ歩きを楽しむ。
湯気が立つ|蒸籠《せいろ》を開けば、そこに並ぶのは、ひとくちサイズの点心や甘味。
ふわり輝く蒸したての桜まんは、この街の名物のひとつで。
光る桜団子やいちご飴、ネオンカラーのかき氷に桜ドリンクなど、夜市らしい食べ物や飲み物も並んでいて。特に、各屋台の桜夜市限定メニューは、やはり人気のようだ。
中には、辛さが刺激的な電撃花椒団子や、舐めると舌がネオン色に変化する怪しい龍舌糖など、好奇心をくすぐるような変わった屋台もあるらしい。
花見をしながら乾杯するならば、ソーダ屋台の各種ドリンクがうってつけ。桜ソーダやネオンソーダ、アルコールの有無が選べる杏露ソーダなら皆と揃いで乾杯できるし。
気になるものを花見用にテイクアウトするのもいい。
桜並木の歩行者天国に置かれたテーブルで食べてもいいし、屋台を巡って食べ歩くのももちろん醍醐味。
じゅわりジューシーで大きな唐揚げや北京ダッグや麺類、中華スイーツやドリンク、どれも美味しいと評判だ。
屋台のほかにも、ちょっぴり怪しい光る雑貨を売る店や貸し中華衣装屋などが並び、祭りの通りは歩くだけでも楽しい。夜市限定の品、特に、桜色に光るパンダカチューシャは大人気らしい。
そして屋台並ぶ通りの途中には、ネオンパンダ広場と呼ばれる賑やかな広場もある。
仙術パンダジャグラーが歓声を集めているその中央に、どすんと座っているのは、巨大ネオンパンダ像。
ぴかぴか光るインパクト大なその像はネオン通りの象徴で、ネオンパンダ前は夜市定番の待ち合わせ場所らしい。
鼻のボタンを押すと目が光り、口からおみくじが出てくる、ネオンパンダおみくじ装置も置かれていて。光るおみくじがいくつも結ばれた風景も、夜市の名物のひとつとなっているようだ。
それから、大通りの先――桜公園に足を踏み入れれば。
巨大な桜の木の下では、花見を楽しむ人々の姿がたくさん見られる。
シンボル桜を中心にたくさんの桜が咲く公園は広く、シートを敷いて賑やかにも過ごせるし。ゆっくり静かに、煌めき咲く桜を眺めることだってできる。
さらに――夜が少し更けてくれば。
表通りとはまた違う雰囲気の店が、路地の奥で静かに灯りをともしていく。
そして、そこはかとなく漂うのは、賑やかな桜夜市の裏側で起こる事件の気配。
春祭りの夜市の裏で、どうやら厄介な連中が動き始めているようだ。
●ネオンの街と桜夜市
「みんなはもう、√仙術サイバーには行った? 面白そうな世界だよね」
鷲宮・カイン(人間爆弾のレインメーカー・h08951)は、いつもの人当たり良い物腰でそう笑んだ後。
話を聞きに来てくれたEDENの皆へと礼を告げ、星詠みの予知を語り出す。
「√仙術サイバーの街の路地裏でね、善良な市民に暴力をふるってお金や物を略奪する連中が引き起こす事件が発生しようとしているよ。事件に巻き込まれた現地の人たちも武強主義に則って迎撃を試みるんだけど、敵と強さが違いすぎて、このままではあっという間にやられてしまうんだ。だから、彼らに助太刀して、颯爽と戦う……そんな酔狂な存在がそこに現れても、いいんじゃないかなって」
そんな事件が起こると予知されたのは、√仙術サイバーの積層都市・新宿Ⅴ層。
その中心街から少し外れた場所にある、|桜灯街《おうとうがい》という繁華街だ。
「今、この桜灯街は、桜の夜市がおこなわれていて、たくさんの人たちが訪れているよ。事件発生まで十分時間があるから、まずは観光客を装って、この夜市を楽しんで欲しいんだ。それで、もう少し夜が更けてくると路地裏の店も開き始めるから。略奪団が来そうな店を探って、敵が来たらやっつけてね」
事件発生までは、それなりに時間がある。
なので、まずは桜灯街を訪れ、夜市を楽しむ客を装いながら、敵を待ち構えて。
夜が更ければ、開きはじめた路地裏の店へと赴いて、颯爽と事件を解決して人々を助けよう! というわけである。
カインは、なんかこういう雰囲気の映画観たことある気がする、なんて笑みつつも。
「それはそれとして、桜灯街の夜市だけど。歩行者天国になってる桜並木のメインストリートには、この世界ならではな夜市の屋台が沢山並んでいるらしいし。広場には、なんか大きくて光るパンダ像とかあるみたいだよ。力がある者に呼応して咲き誇ったり光るっていう、公園のシンボル桜も見てみたいし。折角だから、お花見もしたいよね」
だから……事件解決はもちろん、桜の夜市も楽しんできてね、と。
カインはEDENの皆を案内する。桜満開な新宿Ⅴ層――桜灯街へと続く路地へと。
これまでのお話
第1章 日常 『露店を巡ろう』
夜を迎えた桜灯街の大通りに、ネオンの灯りと桜提灯がともれば。
はじまるのは、活気に満ちた、様々な屋台が並ぶ桜夜市。
そして舞い降る桜花びらたちと一緒に、春の夜風に乗ってふわりと漂ってくるのは、|蒸籠《せいろ》の湯気、炭火の香ばしい匂いや、甘い菓子の香り。
今夜の大通りは特別、食べ歩きや遊びを楽しむ人々で賑わっていて。
桜とネオンの光が夜の通りを彩り、春の夜市ならではな景色を作り出している。
そんな大通りは桜並木に彩られ、夜市の間は歩行者天国となり、道の中央には自由に使えるテーブルや椅子が並んでいる。
満開の桜並木を眺めながら、屋台で買った料理をその場で食べてもよし。
屋台の醍醐味、食べ歩きを楽しむべく、様々な屋台を巡ったり、全制覇に挑戦するもよし。
また、桜公園で花見をするための食べ物や飲み物を調達することもできる。
屋台巡りとひとことに言っても、思い思いの楽しみ方で夜市を満喫できるわけだ。
夜市でまず目を引くのは、湯気をあげる|蒸籠《せいろ》屋台。
蒸籠といっても、点心せいろに甘味せいろや中華まんせいろ、種類も豊富で。
持ち運びもしやすく、少しずつ様々な種類のものを楽しめる、ミニサイズのものが詰まっている。
点心せいろには、肉汁たっぷりの小籠包やネオンのようにほのかに輝く光る焼売、桜エビ餃子に、桜色の皮で包んだ春限定の桜ミニ春巻きなどが。
中華まんの蒸籠には、一口サイズで食べ歩きやすいミニ肉まんや、桜色の甘い餡が詰まったミニ桜あんまん、スパイシーなミニカレーまん、とろとろ角煮を挟んだミニ角煮まんなどが並び、パンダの顔をしたかわいらしいミニぱんだゴマまんもちょこりと並んでいる。
甘味せいろの中身は、桜餡を包んだミニ桜まんに桃の形をした桃まん、とろりと甘い蒸しカスタードまん、中華蒸しパンの桜マーラーカオ、桜ごま団子やココナッツ団子などの心躍るミニ中華スイーツ。
また、花見のお供だったり、がっつりと食べられるものが揃う屋台ももちろんある。
炭火の香ばしい匂いが漂うのは、串屋台。
ほんのり桜の香りをまとった桜香焼き鳥や、花椒の刺激が効いたスパイシーな花椒ラム串が焼き上げられている。
甘辛いたれでも、塩でも、春限定の桜塩でいただくのもまた乙だろう。
さらにしっかり食事を楽しみたいならば、中華屋台だ。
巨大なさくさく唐揚げや北京ダッグ、担々麺や焼きビーフンや海鮮湯麺などの麺料理にと、食べ応えのある料理も揃っている。
そしてもちろん人気なのは、甘い香りがする屋台。
そんなたくさんの甘味屋台に並ぶのは、夜市らしい色鮮やかな中華スイーツたち。
桜餡を詰めたほのかに光る桜まんは、桜灯街の名物のひとつ。
桜色に光るネオン桜餡団子や蛍光三色団子、つやピカみたらし団子、辛さが超刺激的だという電撃花椒団子まで、様々な味が楽しめる団子屋台であったり。
宝石のように輝く光るネオンいちご飴や、サンザシを串に刺した甘酸っぱい|糖葫芦《タンフールー》。
割ると七色餡が光るサイバー菓子、ホログラム月餅も美味しいらしい。
他にも、ネオンカラーかき氷、桜ネオン杏仁豆腐や、パンダ耳付きの器に入った濃厚マンゴープリンなどが楽しめるというし。
中には、舐めると舌がネオン色に変化する龍舌糖や光る龍玉キャンディ、ドラゴン飴細工や不思議と伸び続ける仙術飴などの、ちょっぴり怪しい飴屋台なんかもあるらしい。
それから、色とりどりの飲み物が並ぶのはソーダ屋台。
しゅわりと桜色に輝く桜ソーダに、ぴかぴか光るネオンソーダは好きな色を選べるというし、色が変わる七色ネオンソーダは映えると人気。
杏の香りが広がる杏露ソーダは、アルコールとノンアルコールが選べるため、皆おそろいで乾杯するにはうってつけだ。
他の屋台でも、料理のお供にと、花見紹興酒や春色ビールや桜ハイボール、桂花陳酒などのアルコール類であったり。
もちろん酒類だけでなく、桜烏龍茶や杏仁ミルク、ライチ紅茶なども楽しめるし。
夜市ならではの飲み物ならば、淡く青白い湯気を立てる幽桜茶はいかが。仙術で淹れられた名物の茶だという。
そして食べ物の屋台だけでなく、夜市には遊び屋台も並んでいる。
サイバー射的では、光る弾をこめたサイバー銃で景品を撃ち落とす射的ゲームが楽しめるようだ。
景品には、ネオン色のお菓子やパンダぬいぐるみ、夜市限定ネオンパンダグッズなどが用意されているという。
また、ぴかぴか輝いている中華雑貨屋台には、夜市名物の各種光るカチューシャが。
ふわふわなパンダ耳が光るパンダ耳カチューシャは、普通の白黒カラーだけでなく、夜市限定の桜色に光るものもあるようだし。頭に耳がある人にも着用できる、頭上に小さなネオンパンダがちょこんと乗る、光るパンダ乗せカチューシャなども人気で。
他にも、桜ネオンブレスレットや桜提灯、ネオンアクセサリー等も販売されている。
さらに、夜市をより楽しむためのレンタル衣装屋もある。
色鮮やかなチャイナ服、桜をあしらった髪飾り、ネオンの光を宿す簪などが貸し出され、華やかな装いで夜市を歩く人の姿も見られる。
そして屋台並ぶ大通りの途中にあるのは、人気の名所のひとつ、ネオンパンダ広場。
高さ三メートルほどの巨大ネオンパンダ像が輝く、夜市のシンボルだ。
中央にどんっと座った姿の巨大ネオンパンダは、その名の通りピカピカと輝き、夜市では撮影スポットや待ち合わせ場所としてもよく使われているらしい。
そして広場内には、ネオンパンダおみくじ機が設置されている。
パンダの鼻を押すとネオンの目がぴかっ、光るおみくじが一枚出てくるという。
引いた光るおみくじが結ばれたラックの煌めきが、広場をいっそう彩っていて。
パンダジャグラーが見物客にパフォーマンスを披露しており、一芸を披露する飛び入りも歓迎のようだ。
そんな大通りの先に広がるのが、桜公園。
夜桜が咲き誇る広い花見エリアで、シートを敷いてゆっくり花見を楽しむことも、散策することもできる。
花見弁当を作って広げたり、屋台で買ったものを食べながら、花見をするもよし。
テイクアウトしたものを片手に桜満開な広い公園を歩くのもよいし、ベンチに座って静かにも過ごせる。
そしてこの公園の中心には、桜灯街の象徴とも言える一本の大きな桜がある。
力を持つ者が訪れると、より満開に咲き誇り、美しく煌めき輝くとも言われている。
きっとEDENの皆であれば、見事な桜が見られることだろうし。
上層の街から降ってくる桜花びらがネオンの光を受けて雪のように舞い、春の夜をさらに幻想的に彩っている。
ネオンの灯りと夜桜が揺れる春の夜。
そんな特別な桜のひととき――さあこれから、何をしようか。
今宵の桜灯街ではきっと、心躍るものが見つかるはず。
鮮やかなネオンの光を浴びて、キラキラひらり。
満開に咲いた桜たちが降らせるのは薄紅色の花びらたち。
そんな春色が舞い踊る夜、物珍しそうにきょろりと視線を巡らせて。
「お祭りはどこの√にもあるけど、√毎の特色が出て面白いね」
「食べ物が光ってるのは仙術かな? 面白い」
ふたり腕を組んで歩くクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)とシスティア・エレノイア(幻月・h10223)が袖を通したのは、お揃いのチャイナ服。
そして花びらが降る春の夜空にあがるのは、美味しそうな香りを纏う湯気。
屋台に並んでいるものも仄か輝いている様子は、ふたりが言うように、この√ならではのもの。
システィアは改めて、そんな活気溢れる夜市の屋台へと瞳を向けて。
「桜の所で食べたいよね。何にしよう? 幽桜茶とー……」
ふと、ある屋台が目に留まったと同時であった。
どれも美味しそうで色々目移りしちゃうけれど、でもやっぱり。
「俺、桜まんが食べたい!」
クラウスの意識が向いたのは、名物だと言われるもの。
そして、蒸したてほかほかのそれは、システィアも見ていたものだから。
「ふふ、俺も桜まんかなと思ってた」
「ティアも桜まん、食べたかった?」
気持ちもお揃いなことが嬉しくて、ふたり顔を見合わせて喜びを綻ばせる。
ということで、桜灯街名物の桜まんを買った後、小さめの敷物を広げて寄り添い座れば。
「いただきます」
「いただきます!」
ふたり一緒に手を合わせて、はむり。
頬張った瞬間、華やかな桜餡の味がふわりと口の中に開き咲いて。
優しい春のように優しい味わいは、とても美味しい。
そんな桜まんを口にしながらのんびりと、システィアは舞い落ちてくる桜花びらを見上げて。
「随分暖かくなったけど、雪みたいだね」
「ね、すごく綺麗」
返る声が聞こえる隣を見下ろし、見つめる。
雪のように降る春色の中で揺れている、八重菊結びの髪飾りを。
「何時も付けてくれてありがとう。似合うよ」
クラウスの髪を飾る、自分が贈った想いの華を。
システィアにとってそれは、何度見ても嬉しい装いで。
彼が褒めてくれて、クラウスもとても嬉しそうににこにこ。
そんな姿が愛おしくて、システィアは伸ばした指先でそっと梳く。
微笑み咲かせ、桜花びらが舞い落ちては飾る、結われたその髪を。
そして美味しく食べ終わって片付ければ、システィアは誘うようにその手を差し出して。
「行こ、クラウス」
「ん、行こう」
クラウスの手が重なれば、再び桜色に満ちる夜市を歩き出す。
手と手を繋いで……桜を下から見上げに行こう、って。
ふわりと混ざりあう互いの温もりと淡く満ちる幸せを、感じながら。
ネオンが鮮やかに煌めく夜を彩るのは、満開の春色。
「ノーチェ、あれがさくらだよ」
「トゥバ、このお花が桜なの?」
トゥバ・コルヌコピア(凱風・h09459)の声を聞けば、ノーチェ・ノクトスピカ(|Nachtsängerin《星歌い》・h06452)は、向けたスピカの双眸にも桜の彩りを咲かせて。
「初めて見た! もふもふ雲みたいなあれ全部?」
「雪や雲みたいな……そう、あれぜんぶ!」
頷いて返すトゥバが視線を向けるのは、星のような瞳を瞬かせて手を伸ばす彼の姿。
でも、儚くて綺麗で可愛い薄紅に触れたと思ったのに、するりと。
花弁たちはくるり、指先を通り過ぎてしまって。
光をまとって落ちてゆくひとひらたちに、ノーチェは思う……流れ星みたい、なんて。
そんな様子に、トゥバは瞳を細めて。
「あとで広場や公園にも行こう。そうしたらもっと近くで見れるはず」
ノーチェはすぐに、こくりと返す。
「一緒に行こう!」
――新しい世界に飛び込むのも君と一緒なら!
わくわくとふたり、桜色の街を歩いていきながら。
それからやっぱり……郷に入れば郷に従え?
ノーチェがすちゃりとつけたのは、ぱんだのカチューシャ!
そしてトゥバも……と思ったのだけれど、彼の頭にはツノがあるから。
カチューシャの代わりにこっそり買ったのは、ぱんだマスコット。
ふたつ買って、ひとつはノーチェの分。
それからお互い、ぱんだ尽くしになれば。
「似合うかな?」
「……あはは! 似合う似合う。おそろいだ!」
「トゥバのマスコットも可愛いね! 僕にもおそろいだなんて嬉しいよ!」
顔を見合わせて、笑っちゃう。
それから足を向けた雑貨店に並ぶ、はるいろたちを手に取ってみる。
「俺の手紙は黒ばっかりだから、いろを乗せたかったんだ」
「僕は桜とぱんだ柄の冒険ノートにしよう」
トゥバが選んだのは、手紙を彩る、はるいろインク。
ノーチェは、トゥバとの今日の冒険もしっかり書きとめられる、桜とパンダ柄のノート。
だって、そうすれば。
「トゥバ、桜ってとっても綺麗だね! 僕、気に入ったよ」
はじめてふたりで見た桜色の時間も、消えることなんて無いから。
それから屋台を楽しく巡り、ぴかぴかの花瓦斯に照らされたさくらの花びらを追いかけて。
「広場のパンダ像を見に行こう」
「ぱんだ像? うん、いこう!」
ノーチェは次のわくわくな春の冒険へ、いざ――友達の手を取って一緒に!
手を取られればぱちりと、トゥバはすこしびっくりするけれど。
「今日の世界は一段とピカピカだね!」
でもそれに笑って返したのは、ノーチェが喜んでくれるのが嬉しかったから。
だから、パンダ像目指して、星のように煌めく花びらたちが舞う景色を一緒に駆け出す。
ふたりで、ひかりの先に広がる春を目指して。
鮮やかなネオンと人々の声で活気にあふれる、夜の桜灯街。
けれど、特別な桜夜市が開かれている今宵はいっそう賑やかで。
「わぁ、お店がいっぱい!」
「お、大盛況だね」
くるりと視線を巡らせる羽純・にあ(花冥・h12446)に、縁・浩然(野狗・h12442)も頷いて返す。
……ネオンと桜のピンクが眩しいくらいだ、と。
眼鏡の奥の青い瞳にも、その煌めきと桜色を咲かせながら。
でもすぐに、視線を移すのは。
「あれぜんぶ食べ物の屋台なの? すごい……」
ころころ頭の上に乗っている璐璐と一緒に、楽しそうなその姿。
そんな彼女に、浩然は手を差し出して。
「にあちゃん、迷子にならないようにね」
「はーい」
大きな彼の手を、ぎゅっとちいさなおててが握り返せば、手と手をつないで歩き出す。
「なに食べたい? 中華まんも小籠包もあるよ」
きっと色々食べたいだろう彼女に合わせて浩然が足を向けたのは、蒸籠が並ぶ屋台。
「んと、桜エビ餃子とミニカレーまんとミニぱんだゴマまんがいいな。でもミニ角煮まんも美味しそう……」
思った通り、そうきょろりと視線を巡らせるにあと、彼女の頭の上に目を向けて。
「君は甘いもののほうがいい?」
護霊のぱんだくんにも視線をやれば、ころりん。
「璐璐は桃まんがいいみたい」
「わかった、桃まんね」
彼女たちに頷いて、ミニサイズの蒸籠と桃まんを選ぶ浩然。
そして買った蒸籠のふたをあければ、湯気がほわりと春空にあがって。
蒸したてあつあつの餃子をふーふーしたあと、ぱくり。
「わ、餃子おいしい! 桜エビって甘いんだね」
ぱあっと咲いた笑顔と声に、浩然は瞳を細める。
(「かわいいなぁ、絶対食べきれないんだろうなぁ」)
言葉にはしないけれど、幸せそうに頬張る姿がうれしいって思うから。
それに、何よりも。
「角煮もとろとろで柔らかぁい、しあわせぇ」
皆いつもこんなに美味しいもの食べてたんだ……。
そう続く言葉を聞けば――今の彼女は、美味しいものを満足に食べられる、って。
そして、そんな自分を見つめている浩然をふと、にあは見上げて。
「……ハオ、カレーまんとゴマまん半分こしよ?」
「あ、じゃあそれ半分ちょうだい」
とかなんとか、適度にひょいと浩然もつまみ食い。
それから、ぱかりとカレーまんとゴマまんを半分に割る姿を見ながら、こう訊いてみる。
「そろそろお腹いっぱいになってきた?」
「まだ食べられる!」
返ってきたのは、そんな食べる気満々な声……なのだけれど。
「けど、ちょっと……お散歩した方がいい、気がする」
お腹をさすさす撫でる彼女に、丁度いい塩梅でゆびさして、浩然は告げる。
「あれもいいね」
ネオンの光でつやつやと輝く、屋台に並んだ糖葫芦を。
「なぁに、あれ。りんご?」
その指先を追ったにあは、こてりと首を傾けるも。
「ちがうんだ……食べてみたい!」
「マンゴープリンとか、パンダの耳付きだよ」
「わ、かわいい! 器貰えるのかなぁ」
串に刺さった甘い山査子も、璐璐みたいなパンダ器のマンゴープリンも食べたいから。
「……ハオ、食べるの手伝ってくれる?」
そう、隣の彼をちらり。
そしてそんな彼女の言葉に、浩然はこくりと頷いて返す。
「うん、僕も食べたかったし」
だって、もとからそのつもりだったから。
ありがと! って――嬉しそうに笑うにあが、好きなものをたくさん食べられるように。
煌めくネオンがいっそう映える夜を迎えれば、より人々の声で街は賑やかになる。
何せ今日はこの桜灯街で、春の夜市が開かれているのだから。
けれど、見慣れぬ世界をそっと見回しながら。
「井碕さんが居て下さって良かったです」
物部・真宵 (憂宵・h02423)は、そう隣を歩く井碕・靜眞(蛙鳴・h03451)へと視線を映して紡ぐ。
初めて来る土地は不安で……、なんて。
そんな真宵の声に、フルール・ペタル(花揺籠・h05932)はこてりと首を傾けて。
「おにいさん、道を覚えるのがお得意なの?」
靜眞へと目を向ければ、真宵は改めてふたりへ交互に目を向ける。
「そういえばおふたりは初対面でしたね?」
そう、靜眞とフルールが顔を合わせるのは、これがはじめてだから。
お互いぺこりと、桜吹雪が舞う中でご挨拶。
「はじめまして! フルール・ペタルというの」
靜眞と、そして真宵が連れている歓歓へと、フルールは花のような笑顔を咲かせて。
「いえ、こちらこそ。はじめましてペタルさん、井碕靜眞といいま……」
「シズマちゃんと、歓歓ちゃん。なかよくしてちょうだいね?」
続いた彼女の言葉に、思わず靜眞はぱちりと瞳を瞬かせる。
「……シズマちゃん」
そんな、初めての呼び方に。
けれどすぐに、白花の子につられるように笑みをこぼして。
「ふふ、よろしくお願いします」
歓歓もころりと転がって、フルールにご挨拶。
それから皆で、桜花びらが舞い踊る大通りを歩いていたら。
ふと目に入ったのは、広場の中でも圧倒的な存在感を放つもの。
「まぁ! おおきなパンダさん!」
「存在感が……ありますね……」
はしゃぐように弾むフルールの声を聞きながら、靜眞は眼前のそれ――ネオンパンダの眩しさに一瞬ぽかん。
ぴかぴか光る大きなボディは、つい自然と目が向いてしまうし。
巨大なパンダだけでなく、周囲には小さいものから中くらいのものまで、様々な大きさのパンダが広場に並んでいるけれど。
てしっと、歓歓が中くらいのネオンパンダのお鼻をタッチすれば。
ぺろんと出てくるのは、1枚の紙。
そして……これなぁに? とふしぎそうな歓歓の様子を微笑ましく思いながら、真宵は教えてあげる。
「ふふ、これはおみくじだから食べられないのよ」
そう、中型ネオンパンダは実は、サイバーおみくじ機。
でてきたおみくじは確かに、食べられはしないのだけれど。
歓歓が、てしっとパンダのお鼻をタッチするのを見守っていたフルールは、今度は真宵の手元を覗き込んで。
「おみくじ、結果はどうですか」
靜眞に改めて訊かれれば、結果を確認した真宵はふたりにもおみくじを見せる。
――大吉。今日はごきげんなパンダ日和!
皆で顔を見合わせて笑み合っちゃうような、今日の運勢を。
それから靜眞がこう続ければ。
「歓歓にはあとで屋台も見せてあげましょう」
屋台の言葉に反応したのか、ころんと。
歓歓が靜眞の方へ行きたいらしいことに気づいた真宵は、抱っこを彼とバトンタッチ。
そんな、ころりんこぱんだを靜眞が受け取れば。
フルールは思わずふわりと笑っちゃう。
「ふふっ、くいしんぼうさんなの?」
だから――かわいいおやつを見かけたの、って。
「あなたにプレゼントするわ!」
わくわくそわりと企むのは、ミニぱんだゴマまんで餌付け作戦!
そんな作戦にすっかりつられて、歓歓は嬉々と、ミニぱんだゴマまんをはむはむ。
フルールはもちろん、真宵もふわりと思わず笑みを零す。
こぱんだがこぱんだを、もぐもぐと食べている様子に。
そしてフルールは、広場の中でも、いっそうぴかぴか光る店を見つけて。
「見て、パンダカチューシャですって! 私は桜色にしましょ」
……歓歓ちゃんとおそろいになれるわ? なんて。
桜色に輝くパンダカチューシャをすちゃり、歓歓とおそろいのパンダに。
いや、そんなおそろいパンダは、何もフルールだけではなくて。
「まぁ、フルールさんおかわいらしい。桜色が良くお似合いで」
「カチューシャ……確かにかわいいですね」
「マヨイちゃんとシズマちゃんは、どの色にする?」
ふたりにも、そう促すフルール。
その声に、真宵はぴかぴかと店頭に並ぶパンダさんのお耳をぐるり、一通り見回してから。
「……せっかくですのでわたしも同じ色を」
パンダさんの仲間入りをした彼女に、靜眞は微笑まし気な視線を向けるも……ふとふたりに見つめられ、気が付く。
「おふたりともよく似合って……ん?」
――あ、自分ですか……!? と。
いや、流石に31歳の男がそれは……なんて、断ろうとしたのだけれど。
でも、向けられるきらきらした視線には耐えきれずに。
「……では、これで」
控えめ青色にほわり光るパンダ耳を、そろりと装着。
その姿を見れば、真宵はまたひとつ。
はじめて見る彼のその姿に、笑みが零れてしまって。
「ふふ、井碕さんも付けてくださるんですね?」
「似合います、かね」
改めて見つめられれば、やはり恥ずかしさはあれど。
「ふたりともおにあい!」
そうはしゃぐフルールと真宵、それに、皆とおそろいでうれしそうな歓歓を見れば、靜眞は思う――喜んでくれるならいいか、と。
それから、このごきげんなパンダ日和を楽しみながら、春色の街を歩いて屋台を巡れば。
真宵はひらり舞い降る桜花びらたちを見上げ、淡く微笑む。
「どこの世界も桜はきれいですね」
仙術で淹れられたという名物のお茶を傾けながら、幻想的な景色の只中で。
靜眞もその声を耳にしつつも、彼女と同じ春空に目を向ければ。
鮮やかなネオンと桜の淡い色彩が、不思議とよく馴染んでみえて――ふたりでゆうらり嗜むのは、淡く青白い湯気を立てる幽桜茶。
そしてこくりと頷くフルールの手元も、七色ネオンソーダが煌めいていて。
「きらきらしている桜もきれいね」
……にぎやかで、笑顔があふれているのもすてきなの、って。
ネオンに照る桜花びらたちをくるりと、きらきらの笑顔で手招く。
夜を迎えた桜灯街は、よりいっそう賑わいを見せ始めて。
桜夜市がはじまれば多くの人が、思い思いに春のひとときを楽しんでいる。
そんな夜市の人込みに、神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)は少し身構えてしまうけれど。
でもそれ以上に、鮮やかなネオンに煌めく街と、舞い降り光る桜花びらの景色に惹かれる。
そしてそんな境華が見つけた春のお祭りを楽しむべく、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)も視線を巡らせて。
「人も屋台もたくさんですね……!」
「やはり甘味かなと思うのですが、シンシアさんはどうですか?」
「私も甘い物に惹かれます」
ふたりで交わすのは、何を食べるかという作戦会議。
お互い気になっているのは、やはりスイーツ……なのだけれど。
「いかんせん数が多い、さてどう選んだものか」
「誘惑がいっぱいです……」
甘いものとひとくちに言っても、その種類はたくさん。
しかも、あれもこれも美味しそうで、思わず目移りしてしまうほどだけれど。
境華がシンシアに告げるのは、こんな作戦。
「折角ですし、ひとつずつ選んで、少し分け合いましょう」
「そうしますか!」
というわけで早速、それぞれ気になったものを購入することにして。
境華が選んだのは、パンダのお耳がついたマンゴープリン。
そのパンダな器が可愛くて購入してみれば、シンシアと半分こしつつ――ぱくっ。
「濃厚で美味しいです」
ふたりで一緒に頬張って、顔を見合わせ頷き合う。
そして、シンシアが買ってきたものは。
「私はホログラム月餅にしました、半分こしましょっ」
それから、ぱかりと月餅を割ってみれば、思わずふたりでまじまじと見つめてしまう。
「わあ本当に光ってる」
そんな珍しい見た目の、ホログラム月餅だけれど。
ふたり半分こしたそれを手に視線を合わせれば、意を決して――はむり。
どんな味がするのだろうかと、どきどきしたのだけれど。
「お味は……繊細な甘さでおいしい。この見た目で!?」
いい意味で予想外、優しい甘さと美味しさが、口の中でほわり。
そして甘い物のお供といえば、何か飲み物が欲しくなるところだけれど。
楽しい観光に欠かせないのは、美食とお酒!
というわけで、何気にそわりとしていたシンシアが手にするのは、やはりこれ。
「……アルコールの誘惑に負けました。春色ビール一杯ください!」
「ソーダも、桜色に光っています」
境華も、桜色に輝く桜ソーダに、ぱちりと金の瞳を瞬かせながらも。
シンシアの春色ビールと共に――乾杯!
そっと口をつけてみれば、そのしゅわりとした味わいにもちょっぴり驚いちゃう。
それから、色々な屋台通りをふたり一緒に巡ってみて。
「光るカチューシャの屋台も見つけましたよ境華さん!」
「何ですかこれは?」
シンシアの指す先を見つめ、立ち寄った光る飾りの屋台を目にすれば。
境華はこてりと首を傾けつつもシンシアに倣って、一緒にすちゃりと試しに着けてみて。
「なんだかとにかく全部光ってます!」
そう紡ぐシンシアと共に、ぴかぴかお耳な互いの姿を見れば、興味深そうに笑み咲かせる。
それから賑やかな大通りを、楽しみながらも抜けたその先。
「桜公園! 夜桜、綺麗ですね……」
「ここは落ち着きますね」
辿り着いたのは、夜桜が満開に咲き誇る桜公園。
「先ほどまでの賑やかさも楽しかったですが、こうして見る夜桜もとても綺麗です」
境華は桜を見上げた後、隣に並ぶシンシアへと視線を映して。
胸に咲く、今の思いを告げる。
「……お誘いして、良かったです」
「私も来れて良かったです。境華さんともたくさんお話できましたし!」
シンシアはそう笑みと言葉を返した後、スマートフォンを手にする。
忘れてはならぬのが、そう――記念撮影。
桜とふたりの顔が入るように、インカメを向けて。
(「なんだか少しだけ気恥ずかしいですが……」)
ふたりでそっと顔を寄せれば、境華はどこか擽ったくなるのだけれど。
でも、そっと微笑んで、隣に並ぶ。
「……はいチーズっ!」
残すべき大切な思い出だと、そう思ったから。
煌めく桜が舞い踊る春の夜に――また増えるのは、素敵な記録の一頁。
ひらりと舞い降る桜花びらたちも、ネオンの光を纏って輝いているけれど。
負けないくらい目をキラキラさせて猫のお耳をぴこり、桜灯街を行くのはシャオフー・リン(猫の拳法家エアガイツ・h02541)。
今宵は桜の夜市が開催され、歩行者天国となった大通りには、屋台がずらりと並んでいるけれど。
シャオフーの手にはすでに、ジューシーな唐揚げや北京ダック、ほかにも色んなお土産がどっさり!
それから、ほくほくと戦利品を抱えながら、やってきたのはパンダ広場。
ぴかぴか輝くネオンパンダ像の前にちょこんと腰を下ろして、ひと休み。
周囲の人々も、それぞれ購入した美味しそうなものを、花見をしながら頬張っているから。
「我もたくさんいただくのです!」
まずは揚げたての唐揚げをふーふーした後、はむりと頬張れば。
さくさく衣に、シンプルな味付けながらも肉汁溢れるその味わいは、尻尾もゆうらり、上等なご馳走で。
パリパリに火の入った飴色の北京ダックも続けて頬張れば、すっかり気分は王様に。
そしておなかも心も満たされれば、シャオフーは聞いた話を思い出す。
「そういえばパンダおみくじがあるとか!」
それから……我も早速やってみるのです! と。
見つけたネオンパンダおみくじ機の鼻をぽちっと押して、出てきたおみくじをわくわくと手にする。
「吉凶を占えば、今日のやる気もだいぶちがうくなる気がします!」
とはいえ、悪かったら用心すれば良い。良ければ、慢心せずいけば良いのだから。
「精進すればさらに道がひらける……我の行く道に変わりはないのです!」
いざ、結果を見てみれば――上々の大吉!
そして内容を確認した後、光るおみくじをきゅっと結ぶシャオフー。
桜が満開に咲き誇る夜の街で――先に待っている事件の予感を胸に。
ネオンに輝く桜花びらが舞う中、賑やかな夜市の様子に瞳を細めて。
(「低階層しか行ったこと無いから来てみたけど、どうして中々、見事なものねぇ」)
八海・雨月(とこしえは・h00257)が眺めるのは、同じ√のもののはずだけれど、これまで見たものとは、また違った景色。
此処へと訪れた理由は、また別にあるのだけれど。
(「狩りまではまだ時間があるし、じっくり堪能しときましょ)」
まずは、桜咲く夜市を楽しむことにする。
……料理も、活気も、と。
というわけで巡ってみるのは、ずらりと並ぶ屋台。
「名物と、見た目から味が想像しにくいものが良いわねぇ」
となると――桜まん、それからネオンカラー系かしらぁ、なんて。
ほかほか湯気があがるこの街の名物と、目を惹く七色のものであったり。
「龍舌糖も良いわねぇ……」
そう、長めの舌をチロリ。
それに食べ物はもちろんのこと……やはり、外せないのはこれ。
「それとそう、酒も無いとねぇ」
しっかりと見繕うのは、花見のお供にはかかせない酒。
気になる物を片っ端から買って行けば、両手もあっという間に塞がるから。
「出来るだけ大量かつ持ち運べるのが良いわぁ、瓢箪あるぅ?」
瓢箪で持ち運びながらも、喰って飲んで食べ歩き。
さらに楽しむのは食べ物や酒だけでなく、足を向ける屋台の人間達との語らい。
「見事な桜ねぇ。この店は何が売りなのぉ?」
「そうだな、やはり仙術で淹れた幽桜茶かね!」
そして、淡く青白い湯気を立てる名物の茶とやらをいただきながらも。
にへらと笑って、さらに雨月は聞いてみる。
「いつからこんな浮かれたことしてるのぉ?」
「さぁな? ま、せっかく桜も満開だ、楽しんだもん勝ちだろ!」
景気良い声を聞きつつ、ゆうらり湯気が立つ幽桜茶をすすりながら……やっぱり浮かれた人間達って最高ねぇ、なんて。
満開に咲き誇っている桜が、よりいっそう輝く夜。
鮮やかなネオン煌めく街をくるりと見回して。
「碧流さんご一緒してくれてありがとー! 仙術サイバーには興味があったんだ」
パンダに対する親近感とライバル感を抱きつつやって来たのは、瑠璃・イクスピリエンス(ハニードリーム・h02128)。
いや、もちろんそれだけではない。
友達と来れて嬉しいな……なんて、天霧・碧流(忘却の狂奏者・h00550)と並んで歩きながら。
そして碧流も……俺もここには興味があった、と。
「力あるものが這い上がれる世界……分かりやすくて良いよな」
多分瑠璃が言う“興味”とはちょっと違う……とは思うも。
それでも、一緒に訪れたこの地には心惹かれるものがあるから。
――まずはシンボルの桜へGOだ!
瑠璃と共に目指すのはそう、大通りの先にある桜公園。
この世界らしい、力を持つ者に呼応して輝くという、満開桜をみるために。
そして公園へと向かう道すがら歩く大通りは、桜夜市でとても賑やかで。
「普段こういう催しには足を止めないが……」
――あれ何? これ何? なんて。
嬉しそうにきょろりと屋台を眺める瑠璃の姿を見れば、この活気も悪くないって思う。
……今日は俺一人じゃないからな、って。
それから楽しく夜市の景色を歩いて、桜が咲き誇る公園へと辿り着けば。
瑠璃は見上げる巨大桜の絶景に圧倒されて、思わず見入ってしまう。
そしてそれは、碧流だって同じで。
(「誰もが、俺が、その姿に魅了されている」)
いや――自分達だけでなく、周囲の人々だれもが、その堂々たる姿に目を奪われている。
碧流が眼前の巨大桜に心惹かれるのはきっと、ただ美しいからではない。
咲き誇る桜は戦うわけでもないのに、ただそこに“在る”だけのはずなのに……。
(「……ああ、強くて綺麗だ」)
ここは武強主義――その力を見せつけられているんだなと、そう感じるから。
そしてふと耳に届くのは、瑠璃の声。
「去年、近所の自然公園でも、一緒に元気ない桜を応援したよね」
「ああ、去年の。覚えてるよ」
「ボクたちがまたパワーを注げば、あの子も強くなるかな?」
ふたり並んで思い返すのは、去年のこと。
力を源に咲くのは何も、この桜だけではないと、ふたりは知っているから。
「今年も弱ってたらしごいてやろうぜ」
碧流は瞳を細め、彼女と並んで巨大桜を見上げながらも続ける。
……フフ、きっと今年も良い花見せてくれるさ、なんて。
そして、隣の彼が桜に夢中な間に。
「じゃーん、桜モチーフのお菓子集めてきちゃった! 花も大事だけど団子もね!」
やはり花見と言えば、団子が欠かせません。
それから差し出すのは、しゅわりと弾ける赤。
「碧流さん赤が好きでしょ?」
「ん? いつのまに買ってたんだ」
「ボクも赤色のドリンクが落ち着くからさ」
キラキラ輝く赤色のネオンソーダもふたつ、おそろいで買っておいたから。
「ありがとう、カンパイ」
「えへへ、カンパーイ!」
掲げる赤のいろに仄か染まり、よりいっそう眩い光を放つ巨大桜の下で――乾杯。
桜が満開に咲き誇る、春の夜。
ひらりと花びらが舞う中を歩く御園・藍(永遠とわの半身・h08262)の足取りが、心なしか軽やかなのは。
(「みんなとお出かけ初めてなのですごく楽しみ」)
きっと、はじめて皆と一緒だから。
それは、泡沫・みぞれ(泡に唄えば・h08170)にとっても同じで。
「みぞれ、お出かけ、楽しみにしてたー!」
心弾ませながら、春の彩りに揺蕩うように、ゆらゆら、ふわふわ。
でもみぞれにとって、お友だちとのお出かけもだけれど。
桜は桜でも、眼前に舞う花びらたちが纏う鮮やかな輝きも初めてで、わくわくしちゃう。
「ネオンと桜、キレイだねぇ」
「此処が仙術サイバー。ネオンの明るさに負けない程の活気を感じます」
そんなメイア・フルエーレ(呪いの檻・h06776)の言葉に、犹守・真弥(斉天大聖・h12083)も頷いて。
「力ある者に呼応する桜って仙術サイバーらしいけど、桜を楽しむ気持ちはどこの√も一緒ってことか」
彼にとっても今日は、能力者に目覚めてからできた友達との初めての外出。
そしてミューレン・ラダー(ご機嫌日和・h07427)も、星のように降る煌めきたちに尻尾をゆらりら。
「風に舞う花びらもネオンの色を反射してるね」
くるり舞うひとひらが飾ったお耳をぴこぴこと揺らしながら、続ける。
「東京でも階層になってる道もあるけどまた違う感じ」
「階層になってるのに桜とか植物が普通に植えてあるの不思議」
藍もそう改めて、訪れた世界に咲く桜へと目を向けて。
「でも√EDENでも都会のビルの屋上を緑化とかいって公園みたいにしてるのは聞いたことも、テレビで見たこともあるからできなくはないのかな?」
自分たちが知る世界とまた違った風景を、今日は目一杯、皆と楽しむつもり。
とはいえ、やはり。
ミューレンの興味がすぐにふらりと移るのは、漂ってくる美味しそうな匂い。
メイアもそんな食べ物の匂いにつられるように視線を巡らせてみれば。
目に映るのは、多くの人が楽しそうに食べ歩きをしている様子。
歩行者天国になっている大通りには、ずらりと沢山の屋台が並んでいて。
「中々に誘惑が多そうですね」
目移りしてしまうようなものでいっぱいの桜の夜市は、楽しそうな声で溢れている。
そして、ただでさえ、あれもこれも美味しそうなのに。
「ミューは限定品の言葉に弱いかも」
ミューレンの心をくすぐるのは、限定という言葉。
でもそれに抗わず、桜ソーダと中華まんの蒸籠を嬉々と買ってみて。
蓋をぱかりと開けてみてば、あがる湯気の中、ほわりと笑んじゃう。
「中のミニぱんだゴマまんが可愛い」
そしてみぞれもまた、ミューレンと同じー、と。
「みぞれは甘味せいろのセットと桜ソーダにするー!」
買ったものも、限定って聞いたら欲しくなっちゃう気持ちも、どっちもお揃い。
いや、それはメイアだって同じで。
「此処だけでしか味わえないと聞くと、急に魅力的に感じます。不思議ですよね」
……では、私も皆さんと同じで桜夜市限定の物を、と。
「中華まんの蒸籠にしました、それと七色ネオンソーダです」
煌めくソーダを手に、一口サイズの物がたくさん、なんて。
蒸籠にちょこんと並ぶふかふかのミニ中華まんたちに、瞳を細める。
真弥が惹かれたのも、今の季節ならではのもの。
桜色の餃子と春巻きの見た目に心擽られたから、露店で買ったのは点心せいろセット。
飲み物はやはり、ピカピカの七色ネオンソーダにして。
受け取れば、思わず声を漏らしてしまう。
「うわ、水面に桜提灯が映り込んでめっちゃ綺麗だ」
しゅわり弾ける中に煌めく、たくさん輝きを見つけて。
それからくるりと皆を見回すミューレンのしっぽがそわそわ。
皆は何を買ったのか、気になって。
美味しそうなら自分も買っちゃおうかなとも思ったのだけれど。
「やっぱり交換の方がみんなでお出かけの醍醐味かにゃ。食べる前の状態もスマホで撮っちゃう?」
「お写真も交換もさんせー! 仲良く分けっこ、しちゃおー」
……もっと美味しくなるねぇ、って。
ふわふわ笑むみぞれに続いて、メイアも頷いて返す。
「交換ですか、いいですよ。お好きなものをどうぞ」
そして藍は、少しだけ何にしようか迷って。
「甘味せいろのミニセットにしよっと」
蒸籠屋台で購入しながらも、ちょっぴりそわり。
「一人で色々楽しめるのって新鮮。いつも弟と分けるし、それも弟優先で選ばせる癖がついちゃってて」
自分で好きなものを選ぶというのもだし。
「全部食べちゃっていいんだ。うきうきしちゃうな」
食べながら歩いて、たまに交換もして、皆と公園へ。
そんな道すがら聞こえた彼女の声に、真弥ははむりと点心を頬張りながらも言葉を向ける。
「藍には弟がいるのか。俺は一人っ子だから、きょうだいってスゲー楽しそうに見えるんだよな」
……隣の芝生は青いってやつ? なんて。
みぞれもそう言う真弥に、こくこく頷いて。
「兄弟いっぱい、大変だねぇ……でも、ちょっと羨ましい、ねぇ。ウミウシ、いつも単独行動、だもん」
「みんなは一人っ子の方が多いんだね」
「ご兄弟がいる感覚は私も分からないですね。是非、藍さんの経験を詳しく聞かせて下さい」
「それにしてもうちは一人っ子多いね」
ミューもひとりっこみたいなものだから、そんな感じなんだ、って。
ミューレンもメイアと一緒に、とても感心しながら、藍の話に耳を傾けて。
「藍、ちゃんとお姉ちゃんしてる。えらい! すごい!」
「でもお姉ちゃんって言葉で我慢させられることはなかったよ?」
みぞれにそう藍は話しつつも、逆にそっと首を傾ける……一人っ子、想像できないや、なんて。
そして弾むお喋りも、屋台の戦利品の交換こも、たくさん皆で楽しみながら。
「点心のお陰で身体もあったけえ」
そう真弥が目を向けるのは大通りを抜けた先――軽い足取りで目指すは、桜公園。
そして眼前に広がったのは、一段とキラキラ輝きを纏う桜花びらたちが降る景色。
「公園、とーちゃく!」
「もう公園に着いてしまいましたか」
桜公園にみぞれと共に足を踏み入れたメイアは、改めて思うのだった。
……楽しい時間はあっという間ですね、と。
そしてミューレンはくるりと周囲を見回して、お耳をぴこり。
巨大桜に辿り着いたら、どのあたりが綺麗に撮れそうかちぇっく!
それから皆を振り返って、こう提案を。
「この辺で写真どう?」
「そこ、良さげだねぇ。お写真、みんなでとろー!」
「写真? いいね!」
「写真、賛成です。桜をバックに撮りましょうか」
「記念写真いいじゃん、撮ろうぜ!」
もちろん、全員が写真撮影には大賛成で。
真弥も、わいわい皆と一緒に並びながら。
……楽しくて今ばかりは浮かれちまう、なんて。
「笑顔でぴーす!」
カメラへと皆と共に向けるのは、一番の笑み。
(「桜が散っても、今日のことは忘れねー」)
……なんて、春の夜に酔うような気障な言葉は胸にしまっておきながら。
「ふふ、皆さんいい顔してますよ」
メイアもそうふわりと笑みを咲かせて。
みぞれも、より輝きを纏う巨大桜の下で撮った一枚を見れば、改めて思う。
「思い出ずっと残る、最高だねぇ」
桜色に染まった春の夜を存分に楽しみながら……お花見、来年もみんなで来たいねぇ、って。
季節は春、桜が満開の今宵はお花見日和。
それに、キラキラと眩い輝きを放つという、巨大桜がある桜公園の話を聞いたから。
「お花見しましょうよー!」
峰・とわ号(ナイチンゲールでパイロット・h09004)が皆と共に訪れたのは、ネオン煌めく√仙術サイバーの世界。
そして白籍・ヌル(まだ無名・h05334)も……桜、楽しめるといいな、なんて思いながらも。
「風で飛んでいかないように、ペグ……はないから、石でいいかな?」
十六夜・月魅 (たぶんゆるふわ系・h02867)と一緒に、ばさりとシートを広げて。
屋台巡りをしている皆の合流地点となる、お花見会場を設営する。
そんな桜公園へと向かう前に、一緒に夜市の屋台を巡るのは、ダリィ・フランソワ(旅する少女人形レプリノイド・h07420)とアステリア・セントリオン(戦車系令嬢・h08352)。
屋台を巡った後、月魅店長の花見に合流……する、予定なのだけれど。
「……って、そんなパイロットスーツで花見に行く人が何処にいますの!?」
屋台にある気になった物を食べ歩きつつ、並んで歩く彼女に、当然のツッコミ入れるアステリア。
そう、ダリィの服は露出度高いパイロットスーツ。
そんな恰好をアステリアに咎められるも。
「予算不足っスー。予算不足ー。WZの修理費で服買う余裕ないっす」
なんていったって、お財布がカツカツ。
だから、屋台の安いお菓子を一個だけ買って、ちびちび食べながらアステリアと屋台を回っていたのだけれど。
気になるものをどんどん食べてみつつも歩くアステリアは、ふと気づく。
自分とは逆に、ほとんど食べてないダリィの様子に。
普段ならば食べながら歩くなんて品がないと教わってきたのだけれど、今回ばかりは彼女に勧められて体験していることもあるし。
だからダリィにも、何か食べさせようと思ったのに。
「う……。いや、いいっす。アリアちゃんにお金出してもらうのなんか悔しいっす」
……対等な関係でいたいからっすねえ、なんて断るから。
「買いすぎただけだから食べて下さいませ」
ぱかりと対等に、アステリアは割った桜まんを半分こ。
そして、ご馳走すると言われれば気が引けるも。
「うぐ。食べる……」
でも半分こだと差し出されたら――ダリィも桜まんを一緒に、はむり。
そしてそんな姿を見ながら、アステリアは思う。
(「……たまにはこういうのも悪くありませんわね」)
普段ならば出来ない非日常みたいで、実は少し楽しかったりするから。
そして――きたぞ、√仙術サイバー! なんて。
同じく、つい最近なじみ始めた皆と合流するべく桜公園に向かうのは、三ツ原・魅雷(Electric-Dreamer-MIRAI!・h09829)。
それからぐるりとネオン輝く街の光景を眺めれば、笑みが宿る。
「新宿はどの世界も賑わってるねぇ。良いアイデアも出そうだ、くふふ」
そして興味深々、桜夜市で賑わう大通りを歩きつつ。
いろいろ、それこそ飲食系の屋台も巡るのだけれど。
ふと何となく足を向ければ、思いのほか気になったのは、中華雑貨の屋台。
だからひとつ、こくりと頷いて。
「鮮やかなチャイナドレス、レンタルしちゃおっと」
この世界の雰囲気に合った、チャイナドレスを店員に選んで……もらったのだけれど。
「って、布地が一番多いやつでコレなのぉ?」
何だか布面積が少ない気がするのは、気のせい??
でも……よくお似合いですよ、なんてにこにこする店員の声を聞きつつ、気を取り直して。
(「まいいや、プロポーションには自信あるし」)
ばっちり着こなして、再び屋台並ぶ大通りを歩いていれば。
見つけたのは、光るアクセサリーを売っている屋台の前にいる、とわ号の姿。
そんな魅雷に、とわ号も気づいて。
「光るパンダ耳と光るパンダサングラスが気に入りました。どうでしょう、似合ってますか?」
「すごくぴかぴかだねぇ、とわちゃん」
「三ツ原さまのお召し物もお似合いです!」
一緒に屋台を巡ることにする、色々買ったものを全部身に着けてぴかぴかなとわ号と、布地が少ないチャイナドレス姿の魅雷。
それから……あたし子供には甘いし、なんて。
「えっえっ、パンダの飴細工にタピオカミルクティー、こんなに美味しいものを……いいんですか!? ごちそうさまです!」
そうぺこりと礼を告げるとわ号に奢ったり、一緒に冒険したり、また奢ったりする魅雷。
そう――歩くお財布とはあたしのことだ、って。
それから、桜公園で設営を終えたヌルも。
「後は食べ物だね」
屋台も巡ってみることにして、まず確保したのは、名物だという桜まん。
(「ひとくち点心系も外せないよね」)
他にも、馴染みのある和風屋台フードを見つければ、それも買っておくことにして。
「飲み物はお酒は避けてソフトドリンクかな」
そう抜かりなく色々と調達して、再び月魅の元へと戻れば。
「ヌルちゃん、おいしいモノ買えましたかあ?」
「色々買ってきたよ。お姉ちゃんの好きそうなイロモノも含めて」
「私も面白そうな飴を買いましたよお」
いつの間にか月魅の手にも、屋台で買ったらしき戦利品が。
そして試しに味見……してみたら。
「飴を食べたら髪が七色に光始めましたよお」
ぴかぴかと髪がサイバー色に……!?
そんな光る姿は、ただでさえ目立つというのに。
何せ、声も視線も体も魅了の魔性、故に、周辺の花見客ともすぐに仲良くなる月魅。
「盛り上がりますね! 歌っちゃいます!」
さらに、桜咲く公園に響かせるのは――ぼえ~。
ノリノリで音痴な歌声!?
そんな、色々な意味で魔性な歌声に誘われて、自分たち以外にも、どんどんお花見仲間が増えていくのだけれど。
でもこれも実は、襲撃に備えた布石。
とはいえ、ヌルはそんな月魅のことを分かっているから。
……魅了能力で色んな人を惹きつけちゃうだろうから、それの対応もしないと、と。
「お姉ちゃん、めっ」
色々ガードしたり諫めたりつつも、思うのだった。
本人に悪気ないんだろうけど、難儀な能力だよね、って。
そして、早速盛り上がっている合流地へとやって来たのは、とわ号と魅雷。
「十六夜さまと白籍さまのおかげでお客さんいっぱいですね」
「とわちゃんも一緒に歌いましょう!」
月魅に誘われれば、ぴかぴか姿で一緒に歌います!?
それからとわ号は、ふとこちらに向かってくる彼女たちを見つけて手招いて。
「アリアお姉さま、ダリィお姉さま、こっちこっち!」
ダリィも店長のお花見会場に無事に合流。
そして一緒に到着したアステリアが、いつの間にか大所帯になっている皆に、紅茶を振る舞っている隣で。
先ほどのプライドは何だったのか……用意されてるものをバクバク口に運んでいく。
いや、折角の楽しいお花見ですから!
ということで、月魅はふたりにもおすそわけ。
「アリアちゃん、ダリィ、髪が光る飴如何ですかあ?」
そしてすすめられるまま、ぱくりと差し出された飴を頬張った瞬間。
「なんか髪が光始めたんスけど!?」
煌めきを放つ巨大桜に負けないくらい、ダリィとアステリアの髪もぴかぴかに!?
それから、全員が揃えば。
「みらいちゃんの歓迎会も兼ねてますよお」
眩く煌めく巨大桜の下で始まるのは、魅雷の歓迎会も兼ねた――美味しいものも楽しいものもいっぱいの、賑やかな桜のお花見。
春の季節がくるりと巡ってきて、いよいよ今年も桜が満開。
でも、花びらをひらり舞わせて咲いているこの世界の桜は、ちょっぴりだけ新鮮。
だって、鮮やかな光を纏ってキラキラ。
「ネオンが輝く夜桜……! お昼とは雰囲気が異なりますね」
ラデュレ・ディア(迷走Fable・h07529)が見上げる春の夜空に、とてもよく映えているから。
夕星・ツィリ(星想・h08667)と熊・蕾蓮(熊猫獣人の|鉄拳格闘者《エアガイツ》・h08184)も、満開の桜並木を歩きながら、くるり視線を巡らせて。
「明るい時間のお花見は経験あるけど、夜は初めてなの!」
「お花見は昼間にするモノと思てたアルが、夜もオツアルな~」
「桜は一番好きな花だけど、こんな楽しみ方もあるのか」
……全部がきらきらしてて、きれいだ、って。
花途・過日(かいがらの|ゆめ《Regret》・h09026)は、そっとてのひらに、綺羅星のようなひとひらを招く。
そんな彼の声に、蕾蓮とラデュレも改めて桜空へと目を向けて。
「過日は桜が一番アルか! じゃあ沢山見るアルヨ」
「じっくりと拝見するのが楽しみです……!」
ココ・ロロ(よだまり・h09066)も尻尾をゆらゆら、おともだちとおはなみ~! って。
「まずはじゅんびしないとですね」
きょろりと見回すのは、桜夜市が開かれている、賑やかな大通り。
歩行者天国になっているメインストリートには、屋台がずらり。
蕾蓮も、ココの言葉にこくりと頷きながら。
「準備大事アル! まずは食糧ネ」
中華料理が多くて興味津々、屋台の品を吟味してみれば。
「ワタシは……お!? ミニぱんだゴマまん!? パンダ器のマンゴープリン!」
……買うしかないアルな! って。
ノンアルコールの杏露ソーダと一緒に、うきうきお買い上げ。
ココも続いて、屋台をくるりと見て廻れば。
「むむ……たべたいのたくさ……ひかってる?」
何だかぴかぴかなものがいっぱいで、思わず瞳をぱちり。
たべたらピカピカなっちゃう……? なんて。
そして、いろいろあって、迷っちゃうけれど。
「蛍光三色団子と桜ソーダにしよ~」
「がう……また美味しそうなものがたくさん」
春風に乗って漂ってくる香りに、過日はくまのお耳をぴこり。
そして美味しそうな匂いにつられるように足を向けたのは、焼き鳥の屋台。
それに、もうひとつ。
「桜香焼き鳥と、あと……本当にこれは食べられるのか?」
ぴかぴか光るネオン桜餡団子にも、興味津々。
それから、お供にと買った飲み物は、青白い不思議な湯気がゆうらり。
仙術で淹れられた名物だという、幽桜茶にしてみる。
「わたくしはミニ桜あんまんと桃まんです」
……甘いもの尽くしになってしまいました、なんて。
ラデュレはそう戦利品を見つめるけれど。
「ホログラム月餅も気になります。お飲み物は七色ネオンサイダーにいたしましょう」
やっぱり気になるのは、キラキラしている甘いもの。
「美味しい香りの誘惑あちこちに!」
ツィリも並ぶ屋台に、瞳をきらめかせて。
「選べなくて丸ごと買っちゃった」
ほんのり光る焼売につられて買ったのは、点心せいろセット。
それから、スイーツや飲み物だってばっちり。
「あとデザートの桜ネオン杏仁豆腐も! 飲み物は杏仁ミルク!」
春らしい彩りや甘い香りに、わくわくしちゃう。
そんな桜夜市をぐるりと皆で楽しく巡っていれば。
ココのお耳がふいに、ぴこり。
「は! ネオンぱんださん……!」
「大きなネオンパンダさん……!」
ココとラデュレが見つめる先には、ぴかぴか光る、ひときわ大きなパンダ像が。
過日はそんな巨大パンダをまじまじと眺めて。
「ネオンパンダ……存在感が、すごいな」
「おおきいですね! ピカピカですね!」
「噂のネオンパンダは超BIGネ……格好良いアル……」
ココの声に頷きながら、すかさず駆け寄ってみる蕾蓮。
ラデュレは、そんな蕾蓮とネオンパンダの並びに、微笑ましくなってしまって。
「大きいパンダさんだ!! 輝いててとっても壮観……!」
光る巨大パンダを見上げつつ、ふと手を合わせてみるツィリ。
「お願い事したらご利益ありそう」
――素敵な出会いがたくさんありますように、なんて。
「あと美味しい物にも……!」
そんなちょっぴりだけ欲張りさんな言葉に、ラデュレも微笑みをふわり咲かせながら。
「ステキなご縁を運んでくださりそうですね。では、わたくしも……」
ネオンパンダにお願いを――たくさんの思い出が紡がれますように、と。
そしてふたりの様子をじいとココは見つめた後。
「なむなむするですか? おおきくなれますよ~に」
「なむなむ、ワタシもやるネ! なむなむ~ネオンパンダみたいに大きくなりたいアル~」
ネオンパンダの存在感にすっかり圧倒されて、乗り遅れそうになった過日も。
「ええと、おれも……もっともっと大きくなれますように」
ココや蕾蓮とおそろいの、なむなむを。
それから、ツィリが見つけたパンダさんは。
「あそこ、おみくじ機もあるみたい。記念に引いていかない?」
キラキラ輝く大きいパンダよりは少し小さい、ネオンパンダおみくじ機!
「ツィリの提案には勿論賛成ネ! おみくじの中身は何アルか」
そう早速、ネオンパンダおみくじ機の鼻をぽちりと押してみて。
口から出てきたおみくじを、蕾蓮が開いてみれば。
――中吉。穏やかパンダ日和。パンダ運、ぐんぐん上昇中!
結果は上々、ラッキーなパンダ運!?
そして過日も、ぽちっ。
「おみくじか、おれも気になる」
――みんなが一番いいのを引けますように。
ネオンパンダを振り返って、もう一度なむなむ。
「ツィリさまに大賛成です……! どのような結果になるのでしょうか……?」
ラデュレも、過日の隣でもう一度、パンダさんにお祈りをして。
ふたり、それぞれおみくじを引いて、ひらいてみれば。
――中吉。静かな歩みが、確かな実りへ。やがて花ひらく、きらきらの兆し。
過日のおみくじは、幸先の良い兆し。
そしてラデュレのおみくじに咲く結果は、今の季節にもぴったりなもの。
――大吉。桜満開、きらきらやさしく降るご縁の春。
「おみくじココもひく~! なにがでるかな~」
ココも、パンダさんの鼻をぽちりと押して。
わくわく開いてみたおみくじの結果に、尻尾もゆらゆら。
――中吉。すくすくのびのび、成長日和!
そして、ツィリの結果は。
――大大吉。出会い満ち、喜びひらく、きらめきの一日!
なんと、ネオンパンダもびっくり、レアな大大吉!
それから、屋台もネオンパンダもおみくじも、目一杯楽しみながら。
桜公園に到着すれば、ココはばさり、まずはシートの準備を。
「ココはシートの準備ありがとアル! 手伝うヨー」
「わーい、れいりぇんさんそっちひっぱって~」
蕾蓮と一緒に、ぴぴっと引っ張って敷けば、ばっちり。
「ふふん、かんぺきですね。かったのみんなでたべよ~」
「ココくんシートの準備ありがとう!」
「ココさま、ありがとうございます……!」
ツィリは、置かれたきらきらお団子の横に、せいろたちそっと並べて。
ラデュレも……幸せのお裾分け、ですね、なんて。
「わたくしもミニまんたちをお届けです」
「ラーレもお裾分けありがとアル! ワタシのも皆で食べるアル」
「ココは準備がいいな、ありがとう」
蕾蓮に続いて、過日もたくさん買った焼き鳥と団子も並べてみる。
そんな、シートいっぱいの美味しいものに、ツィリはうきうき。
「ミニまんにパンダまんに焼き鳥も全部美味しそう!」
「みてみて! おだんごひかってるのです。せいろのもひかってる!」
ココが気になるのはやっぱり、ぴかぴか光る食べ物たち。
過日もじいと、ぴかぴかたちを見つめて。
「光る団子を食べたら舌も光るんだろうか……」
「お団子でぴかーって舌が光る可能性が……?」
ツィリはひとつ摘まんで――はむり。
確認にと、光るネオン団子を一口!
そして、次の瞬間。
「ミニまんとぱんだまんとやきとりもおいしそ、ぜんぶたべ……」
「……どう?」
「わ……ツィリさんのおくちが!」
ココはそうぱちりと瞬かせた瞳をくるりと、周囲にも向けてみれば。
「ということはみんなも……?」
「わお、口がピカピカ!」
「ふふふ、おそろいだ~」
ぱくりと頬張った蕾蓮やココももちろん、おそろいのぴかぴかです!
過日もそんな賑やかな様子に瞳を細めながら、皆と一緒にまだまだいっぱい楽しむつもり。
……桜も、珍しい食べ物のわけっこもいい思い出になるな、って。
きらめきが舞い降る春のひとときに、そう思いながら。
きらめきが舞い降る夜空を、天女の羽衣が如く、ひいらりゆらり。
かたわれと揃いの尾鰭を宙に揺らして、泳ぎながら。
「ルゥ、見える? でっかい桜」
「ほんま桜っちゅう花は綺麗やねぇ」
鏖・瑠瑠(びゐどろ・h12362)の声に、鏖・冥冥(ひとや・h12361)は笑み咲かせ、返す。
「好いとは思うけど、散るだけの花に見惚れてないさ」
だって、いっとう美しく枯れない花がすぐ傍にあるのだから。
――それは|きみ《かたわれ》だろ、って。
そんな言葉に……ええ子やねぇ、なんて。
「ふふ、よぉ分かってるやん」
瑠瑠が伸ばした指先が、子猫を可愛がるように|冥《かたわれ》の首をこそいで。
改めて紡ぐ――傾国はうちや、と。
「いっときの間しか咲かれへんような、花如きに負けるつもりはあらへんよ」
鮮やかな光を纏う桜花びらたちにひらり、飾られながら。
それから冥冥は、桜夜市でふと見つけたそれを、瑠瑠へと差し出して。
「見て、ルゥ。きみにあげる」
……なぁに、それ、なんて。
玻璃のようにうたって首を傾けるかたわれに、付けてあげる。
「熊猫の髪飾りだって」
「……|熊猫《パンダ》の耳?」
「眩く光って面白いから貰って来たのさ」
そして、光るカチューシャで飾られながら。
近くの硝子で自らを映した瑠瑠は、美しい笑みを咲かせて。
「んふふ、えらい可愛らしぃなったねぇ。本物の熊猫も顔負けなんちゃうやろか」
「こういった俗みたいなモノもきみは似合ってしまうね」
……気に入った?
そう向けられた声に頷いて、ご満悦。
「うん、気に入った。おおきにね」
それから、愛らしくも美しいその姿で、ゆらりと。
「水中もやけど、宙を泳ぐのは特に気持ちええねぇ」
「宙は僕らの領域。誰にも邪魔させない。互いに泳いで花見と洒落こもうよ」
冥冥と共に、春の夜を揺蕩う。
儚く散るとわかっていても咲く、刹那の花を見つめながら。
「そやね、せっかく頑張って咲いてるんやから」
……見たげんと可哀想や、って。
それに、桜色の宙にふわりと漂ってくるのは、美味しそうな匂い。
唐揚げに北京ダック、他にも美味いもの全部、冥冥はもちろん楽しむつもり。
「ほんまよう食べるねぇ」
「僕は大喰らいだからね。知ってるだろ?」
そしてそれは、瑠瑠もよくわかっているから。
甘やかすように、かたわれへと告げる……ええよ、たぁんとおたべ、って。
でも、もうひとつ。
「勿論酒だって好きだからきみとの乾杯には応じるよ」
冥冥はそれから、こう提案する……酒入りの杏露ソーダ、なんて如何だい、と。
そして返る声に、ご機嫌に尾鰭をひらりら。
「じゃあその杏露ソーダ貰おか」
「決まりだ! じゃあ乾杯といこうよ」
折角だから、桜咲く宙から望む景色を、ふたり占め。
「きみと、あの花。絶景が見られる位置でね」
そして互いに、桜空へとグラスを掲げれば。
――僕の麗しい|ルゥ《かたわれ》に。
――うちの美貌と可愛い|冥《かたわれ》に。
きらめきを映す、おそろいの杏露ソーダで……乾杯、と。
ネオンが煌めく街の、賑やかな春の夜。
ゆうらり桜提灯を揺らしていざ、夜市へ……向かう、その前に。
「桜パンダさんなってみたです!」
ふわふわぴかぴか耳を光らせ、えへん。
今夜の千木良・玖音(九契・h01131)は、ぴかぴか桜パンダさん。
そして、雨夜・氷月(壊月・h00493)も。
「お、千木良はパンダかー可愛い!」
「おにいさんの簪も桜です!」
玖音とおそろいの桜提灯を手に、銀の髪に咲かせるのは、桜の簪。
それから、ちょっぴり屈んで。
「んふふ、桜夜市を満喫する準備が整ったね!」
小さな同僚に話しかけつつ、準備も万端。
「じゃ、次は食べ歩きしよっか」
春風が運ぶ美味しそうな匂いに誘われるように、桜夜市の屋台巡りへ。
でも今宵の桜灯街は、たくさんの人で賑やかだから。
「ヒトが多くて声聞き取りづらいし、食べたいのあったら袖か手を引いてくれる?」
そう氷月に言われれば、はい! とお返事する玖音だけれど。
「なんだか目も迷子になっちゃいそうなの」
見失わないようにしなきゃです……、なんて。
ぴかぴかと輝いている景色をきょろり、不安そうに見回して。
「……確かに見失いそうかも?」
彼女の声を聞けば、しばし考える氷月。
そして差し出すのは、大きな手。
「んー……なら手を繋いで歩こっか!」
「これなら平気です……!」
玖音も小さな手を重ねて、手と手を繋げば。
握った手に安心感、不安も笑顔にひらりと変われば――しゅっぱーつ!
通り沿いに並ぶ屋台に売られているものは、美味しそうなことも、もちろんなのだけど。
氷月はふと見つけたそれに、瞳をぱちり。
「えっ、なんか光ってる団子がある!」
「ほんとです……!」
玖音も、ぴかぴか桜色なお団子や桜まんに、目が釘付けに。
それから氷月は、どこか嬉々と、屋台へと足を向けて。
「桜まんも光るんだけどすごくない? 食べよ!」
ほのか光っている桜まんを買って、はむり。
玖音もそっと彼と同じ桜まんを口にしつつも、そわり。
「食べたら私たちも……?」
氷月はそんな声を聞きながら、少女が別の同僚の影響を受けているのを感じつつも……もぐもぐ。
「んっふふ、ヒトも光ったらビックリだね!」
楽しげに笑み宿す氷月と一緒に、玖音もぱくり。
「……光りませんでした! 人も光ったら眩しすぎちゃうですね!」
いや――氷月はじいと、玖音の姿を見つめて。
「あれ、千木良……光ってる?」
「おにいさんも、光ってるような……?」
何だか心なしかほわりと、光っている気がします……?
それからふたり、夜市巡りを再開させれば。
玖音はふと、氷月の袖をくいくい。
「飴の屋台も気になるの……」
「ん? 飴? イイね、面白そう!」
屋台で買った飴を、もぐもぐ……食べてみようとした、瞬間。
「わ、この飴、面白いです!」
玖音が齧ろうとしたら、飴がびよーん。
そんな様子に、氷月は楽しげに笑いながらも――ぱしゃり。
「あっはは! すごーい伸びてるー!」
「た、食べるの大変なの……!」
わたわたと悪戦苦闘している彼女をカメラで激写しながら、ガンバレー! と応援を。
そして玖音は、写真を撮るならと、こう提案する。
「おっきなパンダさんと写真撮りませんか?」
「写真? イイね、皆に見せよ」
ふたりの視線の先には、広場でぴかぴか輝いている、巨大ネオンパンダの姿が。
というわけで、光っている大きなパンダの前に並んで。
ぴかぴか提灯もお揃いで掲げれば。
「はい、ぱーんだ!」
「ぱーんだ!」
満開笑顔で、ぱしゃり――はい、ぱーんだ!
新宿は新宿でも、煌びやかなネオンがぴかぴか。
街並みも、何だか違う雰囲気。
そう、番田・陽葉(はぐれ 熊猫パンダ純情派・h10140)が今宵訪れたのは。
「ここが√仙術サイバー。中華街な街並みがずっと続いてるんだべか?」
√仙術サイバーの世界の積層都市、新宿Ⅴ層。
そしてちょっぴりおのぼりさんみたいに、きょろりと視線を巡らせた陽葉は刹那、ぱちりと瞬く。
「あっパンダだべ」
自分と同じ、パンダが普通に街を歩いている姿に。
でも周囲の人たちも、それが普通なことであるといった様子だし。
グリズリー並みにでかい、型破りなパンダの自分へ向けられる視線も自然だから。
陽葉は改めて、実感するのだった。
……ここじゃパンダが歩いてるのは本当に珍しい光景じゃないんだべな、って。
そして、賑やかな夜市を歩き出す。
「他の……√、√EDEN辺りではパンダなんて着ぐるみのフリしないと面倒なことになるべが。この√では気にしなくていいんだべ!」
着ぐるみだと誤魔化す必要もなく、ありのままの自分の姿で、堂々と。
それから……くんくん、と。
「いい匂いでお腹も減ってきたべ」
ふわりと春風が吹けば、漂ってくるのは美味しそうな匂い。
賑やかで鮮やかな通りには、たくさんの屋台が並んでいて、目移りしちゃいそうだけれど。
「どれを食べるか迷っちまうけどここは胡椒餅にするべさ」
陽葉が向かうのは、胡椒餅が売っている屋台。
そして、明るく気さくに、店員へと注文する。
「こんちわー! コレ下さいだべ。数は……10個!」
というわけで、ほくほくと戦利品を抱えて。
早速、購入した胡椒餅を一口で、ばく!
「んん〜! スパイシーでおいしい」
ふたつめ、みっつめと、パクパク次々に頬張れば。
「……もう無くなっちまった」
あっという間に全部、ぺろりと食べてしまったから。
再び、陽葉はきょろり。
「次は甘いものが食べたいべな」
そして、次に見つけたのは。
「地瓜球……サツマイモだべか! わだす、お芋大好きだべ〜下さいだべ!」
外はサクサク、中はもちもちな、まんまる地瓜球。
それももちろん、今度はうきうき、20個買ってみるけれど――やっぱりパクパク、あっという間になくなりそう。
ネオン煌めく桜灯街の桜は、今が満開の見頃。
鮮やかな輝きを纏い、煌々と光を放つ花びらたちは、まるで雪か星のよう。
そんな春の夜に開かれているのが、桜夜市。
桜が咲けばやはり、花見と洒落込みたくなるというのが、人の心というもの。
いや、キラキラと輝く満開桜の美しさにも心惹かれるのだけれど。
片手にビール、片手にラム串。手から下げる袋には、蒸したての桜あんまん。
それに、フラヴン・オディール(記録β・h10175)の頭には、ぴかぴかと光るパンダ耳カチューシャ。
そして、カツンと彼の杖が鳴らす小気味良い音に合わせて歩む香柄・鳰(玉緒御前・h00313)の両手も、すでにいっぱい。
桜ビールに桜香焼き鳥、桜まんは袋越しにもホカホカと温かくて。
頭にはもちろん、フラヴンとおそろいの、桜パンダ耳の光るカチューシャ。
「……ふふ、私達早くもお花見屋台を満喫している、という出で立ちですね!」
そう、今日のふたりの様相はすでに、屋台並ぶ桜夜市を存分に楽しんでいる、桜パンダ同士。
春の風がふわりと吹けば、美味しそうな匂いがさらに街を満たして。
そんな心躍る風景の中、フラヴンの目にふと飛び込んできたのは、ぴかぴかのパンダ仲間。
「鳰、パンダジャグラーも光っている。僕らとお揃いみたいだ」
「我々も今はパンダの仲間ですからお揃いです」
そして鳰はそう自分の頭のパンダ耳を指しながらも、見つける。
「あのベンチが空いたのではない? ジャグラーも見えるようだし、お座りになりませんか」
……そちらは特等席だ! と。
フラヴンも大きく頷いて返す、お誂え向きの桜桟敷。
そして腰を下ろして買い込んだものを広げれば、お祭り気分もわくわくとさらに増して。
「あなたの目でも、その光を捉えることは出来る?」
「ええ、光のお陰でよく見えます」
……それならば良かった、と瞳細めるフラヴンを、鳰は促す。
「素晴らしい技! 歓声が上がるのも納得ね」
パンダジャグラーの妙技を楽しみながら。
「フラヴンさん、乾杯しましょう!」
桜色のビールを夜空に掲げて――乾杯!
口に運べばふわり、やさしくて爽やかな喉越しと春の香り。
そしてフラヴンは、春の夜のひとときを堪能しながらも、気づく。
「光を受けた桜も花弁もなんてうつくしい。月下の桜も好ましいけれど、人の営みの中の姿も好いものですね」
ネオン輝く街に舞い降る桜花びらを見上げ、そう紡ぐ鳰の声を聞けば。
……花を楽しみにしていたのに、気付いたら光と食べ物に目が行っていた、なんて。
いや、花ももちろん綺麗だと、ちゃんと思っているのだけれど。
でもやはり、こう口にしてしまう。
「けれども、ビールはもっと美味いな」
そんな彼の言葉に、鳰は笑み零して。
「……ふふ、お酒好きなのです? 私は少しずつ良さを覚えている所でして」
この桜ビールも美味しい、とまたひとくち、春色の酒に口付ければ。
「そうか、その味を覚えている途中なのだな。であれば、僕も少しは協力出来るかもしれない」
……とっておきの酒を知っている、と。
「あら! それは頼もしいわ」
続いた彼の声に、期待の花も胸の中で満開に咲けば。
「あっ、フラヴンさん。パンダジャグラーが大技をしますよ!」
目を遣った先、ちょうど山場を迎えているパフォーマンスに、観客も大盛り上がり。
炎のブレスとともに燃える肉まんを舞わせ、すべてを口で受け止めて大技フィニッシュ!
「パンダジャグラーの大技が! すごい!」
年甲斐もなくはしゃいで、フラヴンも鳰と一緒に拍手を送っちゃう。
そして興奮冷めやらぬ中、目に入ったのは、ゆうらりと揺らめく青白い湯気。
「あちらには幽桜茶もある。あなたは茶が好きなのだろう?」
「幽桜茶は頂かなくては! お茶は何でも好きです」
仙術で淹れたのだという名物の幽桜茶は、外せない一品。
それから今度は、鳰からフラヴンへと。
「僕も茶の類は好きだ。紅茶ばかりを飲んでいるけど、こちらの茶も気になるな」
「あなたも? では良い茶葉を見つけたらお裾分けしますね」
とっておきのおすそわけの約束を。
そしてもちろん、幽桜茶と一緒に楽しめる美味しそうなものも、探してみるつもり。
だって、光煌めくサイバーシティの夜祭りは、まだまだこれから。
「ふふ、今日は特別。何も考えずに両手いっぱいになるまで、たっぷり楽しもう!」
そんなフラヴンの声に、鳰も頷いて返す。
キラキラと煌めく桜が咲き誇る中……両手に溢れる程に堪能しましょう! って。
春の夜空から、ひいらりひらり。
舞い踊る淡いひとひらたちが纏うのは、鮮やかなネオンの輝き。
いや、桜花びらたちは咲き誇る木々からだけでなく、まるで星が落ちてくるようにキラキラと、上層からも降ってくる。
そんな、この世界ならではな春の景色を満喫するべく。
「今回は仙術サイバーでの花見っすかー。楽しい事になりそうっすね」
桜灯街を訪れた今日の八鵠・結慧(|縁《えにし》の|境界運び屋《きょうかいうんそうや》・h06800)は、パンダ姿。
せっかくの仙術サイバーっすし、と見回す風景のそこかしこにパンダがいるし。
それに、パンダなのは結慧だけではなくて。
「なんと……美味しそうな物が沢山ですね!」
煌めく桜たちに負けないくらい、様々な屋台に目を輝かせるジズ・スコープ(野良|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h01556)も、本日はパンダ姿。
そして、そんなふたりと共に歩く、天國・巽(同族殺し・h02437)も。
「せっかく二人も中華ルックだからな」
今宵纏う色は、ふたりとお揃いの白黒パンダ色。
黒の長袍に白の功夫パンツに、布靴もやはり黒に合わせて。
ふわりとその上から羽織るのは、儚い桜色を咲かせたストール。
髪を飾る二本軸の簪に、ゆうらり帯に下がるのは天藍石の根付と喧嘩煙管。
そして煌めきが絶え間なく降る夜、3人がやって来た桜灯街で開かれているのは、桜夜市。
ずらりと歩行者天国となった大通りには屋台が並んでいて、良い匂いが春風に乗ってそこかしこから漂ってくる。
そんな屋台通りをぐるりと見回しながら、ぴょこぴょこ。
「蒸籠の点心や甘味は勿論、名物と聞けば桜まんは外せませんし……光る桜団子? 何ですそれ珍しい!」
早速、ふらっと消えれば手に購入品を持って戻り、歩く度に片っ端から購入するジズ。
巽も、賑やかな屋台へと視線を巡らせてみるのだけれど。
「杏露ソーダを片手に夜桜見物と思ったんだが――」
屋台よりも、屋台をあちこち巡るその姿に目を見張る――欠食幻獣があまりに元気すぎる、と。
そんな食いしん坊な子パンダに結慧も目を向けて。
「相変わらず、ジズの旦那は健啖家っすね。子パンダの姿で準備万端っすか」
「んじゃ買い込むは……なに任せろ? んじゃ場所取りしとくわ」
「持ちきれなければ浮かせればよいのです」
そう口にするジズに買い出しは任せて、いい場所を探しておこう、と場所取りを請け負った巽だけれど。
小さく首を傾ければふと思案する。
「しかし、そんだけ買い込んで食うってなると――桜公園でシートを広げるか、それとも歩行者天国でテーブルを確保するか」
けれどそれも、心配ご無用。
「テーブルとシートを御所望で? それなら、境蝶扇の中に入れてあるのですぐにお出しできるっすよ~」
「てか、テーブルまで出て来るとは思わなんだ」
必要とあらば、結慧の境蝶扇からぱっと出てくるから。
それから、うきうきと屋台巡りをするジズだけれど。
「屋台と言えばわたがしですよね、わたがし食べたいです」
くるりと視線を再び巡らせて探すのは、ふわふわわたがしの屋台。
活気あふれる夜市は、人も屋台もたくさんだけれど。
「それなら|能力《境界》でわたがしの屋台、見つけたんで買いにいきやしょう? ジズの|坊《ボン》」
「有難う御座います」
やはり結慧がいれば問題なし、迷わずにとてとて、ジズは彼女について行って。
わくわくキラキラ、いざ注文を。
「大きいわたがしが食べたいです大きいやつお願いします特大で」
でも刹那、こてりと首を傾けてしまう……ここは他の√とは違いますね、なんて。
「武強主義ですかそうですか……仔姿で頼んでもダメそうですかね」
わたがしの大きさを見て、首をふるり。
――そんな小ささで我慢しろと……? と。
いや、それは普通サイズではあったのだけれど、ジズが所望するのは大きいわたがし。
だから、ジズは彼を呼んで、注文してもらうことに。
「……では、お願いします! たつ様!」
大きいのを獲得してください身丈くらいの……と。
それを聞けば、店主へと告げる巽。
「そういうことらしいから出来るだけデカいの頼むわ」
片目をぱちりと瞑り、チップもはずんで。
とはいえ、さすがに身の丈ほどのものというのはちょっと大きすぎだから。
「それは無理? なんたること」
ジズはそう首を傾けつつ、でもチップ効果もあって、最大限に大きくしてくれたわたがしを受け取って。
大きさに見合う代金を支払えば、皆と一緒にはむはむ、御機嫌に。
そんなジズから、結慧は今度は巽へと視線を向けて。
「天國の旦那も、食べたいものがあるようならオイラの方で探しやすよ。|蝶《使い魔》1匹ぐらいなら、ちょっかいを掛けられようが何とかできるっすし」
次に向かうのは、巽が気になっている、電撃花椒団子が買える屋台。
その辛さは、食べる前からピリリと刺激的だけれど。
「酒にあいそうだし、香りが良い。北京ダックに餡かけの海鮮焼きそばでも買ってみるか」
他にも、酒のあてに良さそうなものをいくつか見繕ってみる巽。
結慧もふたりが興味を示す屋台へと案内しつつも。
「さてさて、オイラは桜まんやネオン桜餡団子でも食べやしょうかね」
桜夜市の名物は、やはり外せないし。
「桜ハイボールなんて洒落たものまであるんっすか。酒にも酒のアテも尽きないようで何よりっす。アルコール入りの杏露ソーダや幽桜茶なんかも、良さそうっすね」
蟒蛇を超えたザルだからあまり酒には酔わないけれど、楽しい春の夜に酔い痴れるように色々と買い込んでみる。
そんな並ぶ屋台は、食べ物や飲み物ももちろんだけれど。
「射的なんかの屋台も面白そうっすが、雑貨屋の掘り出し物があったら尚良しっすね」
「八鵠さん、雑貨店とかありますよ」
そうジズが、見つけた雑貨屋へと目を向けた、その時。
思わずぱちりと、瞳を瞬かせる。
「なんと、あちらに面白い物が? 桜色パンダカチューシャ……?」
「なに? パンダ耳カチューシャ?」
そしてそう口にした彼を、じい。
「たつ様……ぱんだ」
その視線を感じて、巽は察する。
「俺もおそろいのパンダになれってか」
でも今宵は、ジズも結慧もパンダ。装いだってふたりに合わせてきたのだから。
「まあせっかくの祭りだ、付き合うとしようかィ」
すちゃりと購入したカチューシャを着ければ、3人仲良くお揃いのパンダに。
そんなぴかぴかご機嫌な、桜パンダに変じれば。
「んで? 次はどこいくよ」
「そういえば、おみくじもあるそうっすよ? 旦那たちも一緒にどうっす?」
「ネオンパンダおみくじ? 私もしたいです!」
巽はふたりと共に歩き出す――まだまだ祭りはこれからだからな、って。
それに此処は、武強主義の世界。
桜だって、力に呼応して咲き誇ると聞いたから。
「さぁでは、たつ様。満開桜をお願い致します」
ジズは巽へと告げる……力を見せつけて下さいな? と。
刹那、白毛の牡鹿が桜空を駆け、願いをひとつ叶える――花天来訪、さらに桜の花を咲き誇らせて。
そして巽はふたりと共に、白毛の牡鹿が花霞の向こうに去る姿を見送った後、目を細める。
……自分だけじゃない、と。
満開に咲いた煌めきの只中で――きっと皆の力で咲いたのだと、春を彩る花を眺めながら。
第2章 冒険 『夜のサイバー街』
大通りの喧騒と灯りから、ほんの一歩外れただけだというのに。
そこに広がっていたのはどこか空気の密度が違う、もうひとつの桜灯街の夜だった。
裏路地の入口にしれっと置かれているのは――少し悪そうな顔をしたパンダの像。
ぴかぴかでもなければ、案内板のような役割もない。
けれど何故だかその視線に導かれるように、気づけば足は奥へと踏み込んでいた。
いや、星詠みが予知した事件も、どうやらこの路地裏で起こるようであるし。
まだ事件発生まで時間もあるようなので、裏路地散策と洒落込むのもいいだろう。
あやしいネオンや雑多な活気とは裏腹に、静かに薄紅を舞い踊らせる満開桜。
香辛料の匂いと甘い香り、燻る煙や湯気が混ざり合っては、ゆらりと漂っている。
夜が少しだけ深まった時間――裏路地の店々が、漸くこれから開きはじめるようだ。
●カスタム麺屋台
威勢のいい声と、立ち上る湯気。
鍋を振る音と、油の弾ける音が重なり合う屋台の前で、ふと視線を落とせば。
ずらりと並んだ、選択肢の札。
どうやらここでは、スープやトッピングが、すべて自分で選べるらしい。
お品書きを見てみれば、定番のものからしれっと混ざっている珍しいものまで沢山あるようで。迷ってしまったら、おすすめでも作ってくれるという。
▶スープ
・醤油
・塩
・味噌
・担々(控えめ/普通/激辛/超絶辛)
・鶏白湯
▶トッピング
・チャーシュー
・煮卵
・白ねぎ/青ねぎ
・もやし
・ニラ
・パクチー
・暗黒きくらげ
・ほんのり光るキノコ
・ぷるぷる謎ネオンゼリー
・赤い香辛料(※とても辛い) 等
組み合わせは自由。トッピングは好きな数選べる。
メニューにないものも注文してみたらあるかもしれないあたりがまた、裏路地仕様。
正統派も、あやしい一杯も――すべてはあなた次第だ。
● ざわざわ大衆食堂
その並びにあるのは、湯気とざわめきに満ちた食堂。
賑やかな声と、皿のぶつかる音が絶えず響いている。
壁一面に貼られたメニューへと、目をやれば。
▶定番メニュー
・焼き餃子
・水餃子
・炒飯
・天津飯
・回鍋肉
・青椒肉絲
・麻婆豆腐(🌶1~10まで辛さ選択可。基準の中辛は🌶5)
・油淋鶏
▶当食堂オリジナル
・暗黒炒飯(見た目は黒いが、香ばしく美味しい)
・謎肉のとろとろ角煮丼(正体は不明だが、味は確か)
・カラフル香辛料のよだれ鶏(見た目に反してバランスが良い)
・店主の気まぐれ一品(中華系の一皿。内容日替わり、大きく外れることは多分ない)
安心できそうで、でもどこか怪しい。
頼む料理によっては、ちょっとした冒険になるかもしれない……?
メニューにない中華料理も、店主の気まぐれで作ってくれるらしいというのもまた、裏路地の店ならでは。
●ふしぎミニパンダ仙術まん
ふと、甘い香りに誘われて。
目に入るのは、小さなパンダたちが並ぶ蒸籠。
ひとくちサイズの、ミニパンダ仙術まん。
色とりどりなそれらは、ひとつひとつ色が違っていて。
白、桃、緑、紫、青、黄色、等々――そして、この桜夜市の期間限定だという桜色。
どうやら、それぞれ色ごとに味も異なるらしいが。
このミニパンダ仙術まんのウリは、可愛い見目や味ではない。
ひとつ頬張れば――ぽん、と。
選んだパンダと同じ、色づいた煙が、口元からふわりと浮かび上がる。
ふっとふかしてみれば、桜の形に、星の形に、パンダのような模様にもなる。
ネオンに溶けていくその煙は、どこか夢のようで。
思わず、もうひとつ手を伸ばしたくなる。
●裏路地スイーツ
さらに奥へと進めば、甘味の屋台がいくつも並んでいる。
ほんのり発光するネオンごま団子。
蛍光三色団子や桜杏仁豆腐などのサイバー中華スイーツは勿論。
知る人ぞ知る仙術スイーツの、夢見飴。
見た目は裏路地屋台に似つかわしくない、まるで夢を閉じ込めたような不思議なゆめかわ色をしている。
だがひとくち頬張れば、ほんの一瞬だけ。
懐かしい記憶や、見たことのない景色が、ふわりと脳裏をよぎるのだという。
ただし、それがどんな夢かは人それぞれで、食べてみるまで分からないようだ。
どれも、見た目からして楽しくて。
少しずつつまみながら歩くのも、この裏路地の楽しみ方のひとつらしい。
●裏路地ドリンクと酒瓶屋台
食事やスイーツのお供のドリンクも豊富だ。
混ぜると色が変わる変幻茶酒や、青く光る夜色ライチソーダ。
ぴかぴか光るタピオカが入ったミルクティーや、カラフルなネオンフルーツソーダ。
さらに成人していれば、いくつもの酒が飲み比べできる酒瓶屋台などがあるようだ。
果実の味わいが甘めで飲みやすい、さっぱりしたライチ酒や、桜夜市限定の淡いピンクの苺花酒。
注ぐと淡くネオン色に光る、見た目が変化する遊び心満載な流光酒であったり。
定番の紹興酒に、見た目は黒いがまろやかな黒龍酒、後からくる強い辛味が特徴の烈火酒。
あとは、詳細不明だが意外と美味しいらしい、パンダ印の気まぐれブレンド酒。
他にもたくさんの酒瓶が並んでおり、好みのものを見つけて飲んだり、色々と少量ずつ飲み比べもできる。
そしてこの裏路地ドリンクや酒瓶屋台に並ぶ酒は、麺屋台や大衆食堂でも注文できるようだ。
●パンダ占い師とネオンパンダグッズ屋台
裏路地の最奥。
灯りが少しだけ落ちた場所にひっそりと、すとんと座る影がひとつ。
――パンダ占い師である。
近づけば、何も言わずに差し出されるのは、パンダ耳がついた中華帽。
何故かそれを装着させられ、無言で札を引かされる。
手順の意味は、よく分からない。
それでもパンダは札を一瞥してから、こくりと一度だけ頷いて、占い結果を告げるのだという。
総合運、金運、恋愛運、勝負運――なんでも占ってくれるらしいが。
その信ぴょう性は、少々謎である。
そして、出口へと続くあたりには、小さな雑貨店。
並ぶのは、ネオンの光をまとったパンダグッズたち。
店主は“公式”と言い張っているが、本当にそうなのかは分からない。
表通りでも見かけた二種のパンダ耳カチューシャ。
さらには、ネオンのオンとオフが切り替えられる、ネオンパンダのぬいぐるみ。
何故か売られている、パンダ耳中華帽。
パンダの意匠の怪しげなお守りに、ネオンパンダ印のネオンミニ提灯キーホルダー。
そして、桜灯街限定だという、ぴかぴか光る桜ネオンパンダバッジ。
どれも少し怪しくて、けれど妙に可愛らしい。
思い出にひとつ、手に取ってみるのもいいだろう。
そんな、少しあやしくて――けれど確かに楽しい、裏路地の夜。
表通りとは違う、もうひとつの桜灯街が、あなたを待っている。
煌びやかなメインストリートを歩いていれば、うっかり見逃してしまうくらいに。
ひっそりと佇んでいるのは、少し悪い顔をしたパンダ像。
けれどこのパンダは、もうひとつの桜灯街へと誘う案内役。
そんなパンダが目印の路地裏へと足を進めてみれば、少し怪しげな雰囲気の道にずらりと並ぶ店々や屋台。
けれど、この裏路地の店や屋台がぼちぼち開き始めるのは、夜が更けた頃。
桜夜市が開かれている大通りも活気に溢れていたけれど、またそれとは全く違った喧騒に満ちている。
そんな裏路地へと歩みを進めながら、くるりと周囲を見回して。
「時間と場所が変わるだけでこんなにも雰囲気が変わるんだね」
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は、思わずぱちりと瞳を瞬かせる。
……機械化された無機質な街で生きてきた俺にとって、すごく新鮮な光景だ、と。
大通りも賑やかであったけれど、足を踏み入れた裏路地もまた多くの人たちの姿があり、雑多で活力に溢れていて。
システィア・エレノイア(幻月・h10223)もクラウスと共に興味深々、視線を巡らせてみる。
日が落ちて、歩く通りをただ1本変えただけなのに。
(「雰囲気が変わって、街の面白さを引き立てている」)
そして何より、システィアの目を惹いたのは。
「仙術スイーツ……」
表通りのものとはまた違った、ちょっぴり怪しい裏路地スイーツたち。
その中でも、特に気になったのは。
「夢見飴。何が見られるだろう」
知る人ぞ知る仙術スイーツなのだという、夢見飴。
クラウスも、怪しい路地裏の雰囲気とは一見真逆な印象のゆめかわいい色の飴を、システィアと共に買ってみて。
「どんな味がするんだろう」
ちょっぴりわくわくつつも、肩を抱き寄せられながら、雑踏を避けるように道の端まで移動した後。
ふたりで一緒に、ぱくりと口へと運んでみる。
瞬間、ふわりとやさしい甘さが口の中に広がって。
システィアの瞳にゆらりと映るのは、クラウスの姿。
夢のようにふわふわと、微笑んだり泣いたり、はにかんだり照れたりする、様々な表情を見せるクラウス。
いや、気持ちが大き過ぎて――システィアだけでなく、触れているクラウスの脳裏にも、色々な表情をした彼の様子がお邪魔してしまって。
クラウスも、彼の見た光景が頭の中に流れ込んでくる感覚をおぼえながらも、思う。
自分が見た『寄り添ってのんびりしている時の、ティアの幸せな顔』という光景も……ティアの頭にお邪魔してしまうかも? なんて。
それからふたり、自然と顔を見合わせれば。
「俺、こんな顔してるんだ」
「……俺、こんなに表情豊かなんだな」
仲良く同時に紡ぎ合って。
システィアは呟きを落とした後、クラウスの頭をなでなで。
流れ込んできたクラウスの記憶に照れてしまって。
それから舌の上でころり転がしていた夢見飴が溶けてなくなるのと同時に、夢の自分達の姿も、夜の路地裏に溶けていって。
「桜夜市限定の苺花酒、今宵の思い出にどうだい!」
ふと耳に届いたのは、酒瓶屋台の店主が張り上げる宣伝の声。
くしゃりとクラウスの頭を撫でていたシスティアは、はにかみ笑う。
「……苺のお酒だって。一杯買って味見してみる?」
「うん、飲んでみたい」
クラウスもお互いに照れつつ撫でられながら、こくりと頷いて返して。
淡く甘酸っぱい苺花酒を買いに、一緒に並んで屋台へと向かう。
ひらりと舞う春の色みたいに、ふわりと。
(「ティアと一緒にいろいろ食べたり飲んだりするの、すごく楽しくて幸せ」)
(「心も腹も幸せいっぱいで嬉しい」)
先程見たような笑顔とお揃いの幸せを、満開に咲かせながら。
甘くて美味しそうな誘惑も、ぴかぴか七色に光る驚きも。
そして満開に咲き誇る、美しい春の色も。
桜夜市が開かれているメインストリートいっぱいに満ちていたけれど。
そんな表通りから、ちょい悪パンダ像がそっと導く裏路地へと足を向けてみれば。
たった1本、違う道に入っただけだというのに……先程までとは、広がる風景がガラリと変わって。
「随分雰囲気が違うのですね……」
「いかにも路地裏的な怪しい区画に来ましたね」
賑やかには違いないのだけれど、先程までいた表通りとはうってかわって。
裏路地はごちゃっと雑多で、何だかちょっぴり怪しい空気感。
そんな喧騒の中、神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)はシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)と共に裏路地を見回しながらも。
「でも、あちこち光っているので、あまり不安にはなりませんね」
むしろ狭い分、ぴかぴか派手に光る鮮やかな原色のネオンが眩しいくらい。
夜が更けてきてようやく開き始めた店や屋台からは、熱々の湯気や美味しそうな匂いが立ち込めているけれど。
ふとふたりが見つけたのは、裏路地の隅に、ちょこりと座っているパンダ占い師の姿。
というわけで、折角だから、占ってもらうことにして。
「占い! 何の運にしましょうか、境華さんっ」
「折角なのでシンシアさんとの相性など、占って頂きましょうか」
「いいですねっ、2人の相性で!」
何も言わずに差し出されたのは、パンダ耳がついた桜色の中華帽。
そしてふたりお揃いでそれをかぶれば、無言でそれぞれ札を引かされて。
パンダはその札をじいと一瞥してから、こくりと一度だけ頷いて、こう占い結果を告げる。
「――なかなか良い相性。おなじ笹、いっしょに並んで食べれば、きっともっと、おいしい味」
「結果は……ふむふむ、なかなか良い相性とのことです!」
「同じ笹……? よくその意味はわかりませんけど、良い相性なのは嬉しいですね」
パンダがゆるっと語るお告げのような言葉の意味は、いまいちよくわからなかったが。
良い相性だと聞けば、素直に嬉しくて。
パンダ耳帽子を返した後、次に立ち寄ってみるのは、ネオンパンダグッズが並ぶ屋台。
表通りでも見かけたパンダ耳カチューシャや、公式だと店主は言い張るぴかぴか光る桜ネオンパンダバッジだとか。
さきほど何故か占いの時にかぶらされたパンダ耳帽などが所狭しと並んでいて。
一緒にお土産を見ては、あれはなんでしょう、これはちょっと怪しいですね、なんて盛り上がりながらも。
「さっきのパンダ占い師さんっぽいお守り、これ買おうかな」
シンシアが手にしたのは、パンダ占い師に激似のお守り。
そして境華も色々と目移りしながらも、最終的に光るパンダ柄の栞を選んで。
それに――もうひとつ。
「後は……二人でお揃いのもの、何か欲しいです!」
「お揃いのものですか? ええと……」
シンシアの提案に、金の瞳をぱちりと瞬かせた後。
境華は改めて、並ぶグッズを見てみつつ、何がいいか少し考えるけれど、思い至らなくて。
……選んでくださいますか? と、シンシアへとお願いしてみれば。
「ネオンパンダのぬいぐるみとかどうですかっ」
そう返ってきた声に、こくりと境華も小さく頷く。
「ふふ、良いですね、ぬいぐるみ、かわいいです」
「色はどうしよかな……あっ、ここ押すと光のオンオフ。やっぱり光るんですねこれも」
ネオンパンダぬいぐるみと言っても、色が何種類かあって。
ぴかぴか光らせながら、何色にしようかと作戦会議する時間もまた、楽しくて。
「初めてのお揃いアイテム、嬉しいですっ」
ふたりで選んだのは、折角だからと、桜夜市限定のピンクのネオンパンダぬいぐるみ。
それから、桜色のネオンパンダぬいぐるみを連れて、再び路地裏を歩いてみれば。
「こちらは……へえ、夢見飴ですか」
「夢見飴……どんな味がするのでしょう」
知る人ぞ知る仙術スイーツなのだという、夢見飴を見つけて。
「なんだか面白そう!いただきますっ」
購入してみれば、ふたりで一緒に――ぱくり。
ふわりと甘い夢のような味が口の中に広がれば。
境華の目の前に浮かんだのは――どこかの宿でテレビを見る映像。
しかも、隣にいるシンシアと一緒に。
でも、今回桜灯街へ出かけたことが、初めてのふたりのお出かけで。
「これは一体……」
境華は不思議そうにこてりと首を傾けるも。
飴が口の中で溶け切れば、同時にすうっと映像も消えて。
シンシアと、互いに視たものを話せば。
「奇遇ですね、私も同じシチュエーションを――部屋でふたり横並びで座って、まったりしている光景を見ましたよっ」
ふたりが視た光景は同じもの。
それからふと、パンダ占い師の言葉を思い返して。
「いっしょに並んで……さっきの占いの意味は、このことでしょうか?」
境華の言葉に、シンシアはこう続ける。
「……今度そういうお出かけ、してみます?」
そう告げられれば、境華は金の瞳をそっと細めて。
「……はい、折角ですから、正夢にしましょう」
頷いて返した後……ここも楽しいですね、って。
次のお出かけに淡い嬉しさを抱きつつ、今はまだまだ、桜咲く裏路地巡りを楽しむことにする。
ふたりお揃いのぬいぐるみを眺めて――他にも理由はありますけど、と笑み咲かせながら。
待ち合わせは、裏路地でだってきらきらひらり、花びらを舞わせている桜の下。
そしてフルール・ペタル(花揺籠・h05932)が片手に持っている器の中も、まんまるぴかぴか。
光るタピオカミルクティーと、それに反対の手にはいろいろな色をしたちっちゃなパンダさんたち。
それから買ったミニパンダ仙術まんを、集まる前にひとつ。
ぱくりとつまみ食いすれば――ぽんっ。
花びら舞う桜空に、白い煙の花がふわりと咲いて。
「みんなはどんな形になるかしら」
……はやく見せてあげなくちゃ! と、向かう足も速まっちゃう。
足を運んだ裏路地も、表通りとは雰囲気は違うけれど、たくさんの店が並んでいるから。
各々が食べたい物を選んで、集合することに。
井碕・靜眞(蛙鳴・h03451)も、大通りとは違ってごちゃっとした店々を見回して。
揚げ菓子で食感を変えるのもいいだろうと……選んでみたのは、ネオンごま団子。
自分はひとつ食べれば十分、あとは皆に分ける用、なんて思ったのだけれど。
ふたりのことを思えば、ついちょっぴり多めに買ってしまったかもしれない。
そして物部・真宵(憂宵・h02423)と歓歓も戦利品を抱えて、桜の木の下へ。
皆が揃えば早速、歓歓がひょこりとふたりへと渡すのは、両手に握った三色団子。
そんなにこにこと差し出されたお団子を受け取れば。
「歓歓ちゃんが持つと、お団子がおおきく見えるわ?」
フルールもぺこり、ありがとうをして。
「上手に渡せたわね、歓歓」
そうぎゅうっと抱きしめたあと、桜杏仁豆腐をあーんしてあげる真宵。
それから皆で戦利品を交換こしながら。
「もちもちがたくさんね!」
「ほら、歓歓もお食べ」
靜眞の買ったごま団子ももちろん、嬉しそうにもぐもぐする歓歓。
そしてフルールが口にするのは、はじめてのもちもち。
「タピオカってはじめて! ちいちゃいのに、おなかいっぱいになるのってふしぎ」
「ペタルさんはタピオカ、初めてですか? 結構お腹いっぱいになりますよね」
……飲み物だけでも沢山で悩みました、と。
小さくこくりと頷いて返す靜眞。
そして真宵も、淡く笑みを咲かせて。
「ふふ、今日ははじめて尽くしですねフルールさん」
歓歓と一緒に、フルールからのお裾分けのミニパンダ仙術まんを、はむりと口にすれば。
――ぽふ、ぽふんっ。
「わ、これ……煙が……!」
歓歓とお揃いで驚いちゃって、慌てて口を押さえる。
そんな、煙でびっくりする姿に、フルールはふふっと笑って。
美味しく楽しく、裏路地グルメを満喫した後。
わくわく皆で、ちょっぴり怪しい店や屋台を巡っていれば。
「フルールさん、ぬいぐるみがありますよ」
「まぁ! パンダさんのぬいぐるみ! この子もぴかぴかだわ?」
「この子がいると、お部屋が賑やかになりそうですね」
見つけたネオンパンダぬいぐるみを眺めて、楽しげに作戦会議する真宵とフルール。
歓歓も一緒に興味深々、光るパンダたちを覗き込んで。
靜眞は、グッズ屋台を覗く二人と一匹のために、それとなく荷物を持っておく。
そして微笑まし気にパンダを選ぶ姿を眺めていれば。
「オリビアにお友だちを連れて帰ってあげましょ」
そうフルールが少し離れて、パンダさんたちのお顔を見比べている間に。
「……井碕さん、お疲れではないですか?」
「え? ああ、全然」
ふとそう声をかけられて、首を小さく傾けつつも真宵を見れば。
「その……振り回しているのではないかと思って」
靜眞は続いた彼女の言葉に、そっと瞳を細めて返す。
「……楽しいですよ、気遣いではなく」
真宵が、フルールや歓歓と楽しく笑っていることも。
それに、何より。
(「あなたがご友人に自分を紹介してくれたことが、うれしい訳で」)
だから自分を気遣ってくれる彼女へとこう言葉を向けて。
「物部さんも、なにか見ていっては? ほら、あのパンダのヘアカフとか」
ホッとしたように……良かった、と。
ふわりと笑み咲かせた真宵は、その手を伸ばす。
「じゃあ井碕さんも、見に行きましょう?」
靜眞の服の袖を、そっと引いて。
そんな、ふいに感じたしなやかな指先の感触に。
「……! は、はい」
そうちょっぴり上ずった声で返しながら、靜眞は真宵へとそっと視線を向ける。
心臓が跳ねてドキドキとしている熱が、指先から彼女に伝わりやしないか、なんて。
そして、いろいろなパンダさんと見つめ合っていたフルールが――この子! って。
びびっときた運命の子と出会えれば、ふたりへとひらりと駆け寄って。
「まあ! フルールさんはとびきりを見つけるのがお上手ですね」
「お迎えする子、決まりましたか」
――見て見て、って、とっておきのパンダさんをお披露目!
そして、連れて帰る子をぎゅっと抱っこするフルールと、一緒に喜ぶ真宵と歓歓を見つめながら、靜眞はひとつ頷いて瞳を細める。
「……うん、きっとペタルさん達と仲良くなれますね」
――今日がこの子のお祝いかな、って。
表通りの桜夜市でも、おなかいっぱい食べたのだけれど。
ちょっぴりわるい顔をしているパンダ像がさり気なく案内する裏路地に足を踏み入れれば。
また先程とは違った雑多な活気と、あちこちから漂ってくる美味しそうな匂い。
縁・浩然(野狗・h12442)は眼鏡の奥の瞳を細め、オーロラブルーの色をきょろり巡らせている羽純・にあ(花冥・h12446)へと訊ねてみる。
「どうする? もうすこし食べる?」
「もうお腹いっぱい!」
お腹を擦りつつもいっぱい食べられるようになったことが嬉しいのがわかる、彼女の笑顔を見つめながら。
でもお腹いっぱいなのだけれど、にあはいつだって美味しいものへの探求心はいっぱいだから。
「ふふ、わかった……」
「……あっ! なんかかわいい色の飴がある!」
お腹いっぱいでも、飴なら食べられるし。
何よりも、ゆめかわ色をしていて可愛いから……見つけるやいなや、屋台へダッシュ!
そんなにあに、浩然もスッと続いて。
「……って、にあちゃんは脚が速いなぁ」
そう言いつつも全然追いついて。
隣に並んで、彼女の見つけたものへと目を向けてみれば。
「夢が見れる飴なの? おもしろそう!」
「……夢見飴、ね」
小耳には挟んでいた、知る人ぞ知る仙術スイーツだという夢見飴。
まるで夢を閉じ込めたような不思議な色をしたひと粒を口に含めば――過去か未来か、はたまた夢か。
ふわりと、何らかの景色や誰かの姿などが脳裏をよぎるかもしれない、という。
そして瞳をきらきらさせる、にあと一緒に……じゃあ僕もひとつ食べようかな、なんて。
早速買ってみた夢見飴をふたりで一緒に、ぱくりと頬張ってみる。
瞬間、視えたのは――。
浩然は桜空のスクリーンを見上げ、ああ、と思う。
白い病室、カーテンの向こう。
そして、伸ばして届かなかった手――けれどそれも、甘い味の飴と一緒で、すぐに溶けるように消え失せて。
ひらり春の色が降る中、浩然は夜空から視線を戻しつつも小さくそっと息をつく。
……今でもたまに見るものだ、って。
それから、すぐ傍の彼女を見つめて、訊いてみる。
「どう? 何か見えた?」
にあも、春の夜の空をじっと眺めながら、首をこてりと傾ける。
薄っすらと揺れる自宅の天井、窓枠に切り取られた狭い青空、枕元でころんと丸くなる璐璐。
それから――大きな、リカオンの背中。
「んー、おうち、かなぁ……?」
そしてそう返す彼女に、浩然は告げる。
「僕はね、にあちゃんがお昼寝してるところ」
「お昼寝……? なぁんだ、じゃあ同じ夢を見たんだね!」
そうぱっと咲いた笑顔に、浩然は再び瞳を細めてみせて……そっか、って。
「おんなじ夢なら、僕もうれしいよ」
もうなにも見えない夜空から視線を移して、彼女の姿だけを、向ける青に映した。
それから、にあが次に見つけたのは、食べ物……ではなくて。
「わぁ! おっきなパンダ! 占ってくれるの?」
何気に路地裏にひっそり座っている、大きなパンダ占い師。
浩然も原色なネオンが怪しく光る中、パンダの姿を見つければ。
「へぇ、パンダ占いかぁ」
賑やかな呼び込みの声を聞きながら、肩を小さく竦めてみせる。
何処も商魂たくましいね、なんて。
そんな彼を、にあは手招きながらも。
「え、この帽子を被るの? んしょ……これでいい?」
パンダ占い師からそっと無言で渡されたパンダ耳中華帽を、ちょこんとかぶってみれば。
「お、にあちゃんこっち向いて」
「うん?」
目線を浩然の方に向ければ――ぱしゃぱしゃっと、スマホ連写。
そして沢山撮れた画像を確認して、ひとつ小さく頷いてから。
「璐璐とおそろいだ」
「えへへ、お揃いだって」
「うん、現像してアルバムに写真増やそうね」
ぴとりと璐璐とほっぺを寄せ合うその姿に、浩然はほっこりしてしまう。
それから、パンダ占い師に何を占ってもらうか……なのだけれど。
「じゃあ、どんな美味しいものが食べられるのか占ってほしいなー!」
そして引いた札を占い師に手渡せば、パンダのおつげが。
「見つけたものは、ぜんぶおいしいたからもの。でも、本当のキラキラは、もうさがさなくてよい」
「え、探さなくていいの?」
にあはそう、こてりと首を傾けるけれど。
それ以上、なにも言わなくなったパンダの言葉を思い返して。
「でも、ぜんぶおいしいたからもの、だから、いっぱい見つかるってことだよね!」
うんうんとそう頷いてから、自分のかぶっていたパンダ帽子を差し出して。
「はい、じゃあ次はハオね!」
彼女に合わせ、少しだけ身を屈めながらも。
「ん、僕?」
帽子をすぽっとかぶせてくれたにあに、浩然はにこにこと。
「恋愛運もあるよ! ハオはすきなひととかいないの?」
「んふふ、どうだろうね」
笑んでみせながらも、表情がころころ変わる彼女の姿を、改めて見つめて。
そんなどこか楽しげな声色と表情に、にあはぱちり。
「はぐらかされた……!」
そして浩然は、パンダ占い師に目を向けて、占ってもらうことにする。
――聞いたらわかるかも? なんて、恋愛運を。
いや、そう口にはしてみるのだけれど、浩然にはわかっているから。
そして紡がれるパンダのおつげを聞きつつも。
「あなたの心には、もう花が咲いている。それはパンダが手放せない笹のようなもの」
「うん? どういうことなんだろう?」
不思議そうにもう一度首を傾ける、にあの隣で。
浩然は、ひらりと舞う桜やきらきら煌めく星にも目もくれずに、ただ見つめる。
(「どう転んでも、僕には君しか未練がないから」)
すぐ傍らで咲き誇っている、守りたいひとつの笑顔を。
桜夜市で賑わう表通りは、何処を見たって煌びやかな春の様相であったけれど。
ゆうらりひとつ、脇道に逸れてみれば。
そこに広がるのはまた、桜灯街の別の顔。
夜が更けてきた今、雑多で所狭しと並ぶ店々が怪しく輝くネオンを灯し始める中。
光と光のあわいに彩られた夜色は、いっそう深い影を落として。
漆黒の闇の只中をひらり泳げば、より淡い桜の輝きが眩く思えて。
「あはッ、ルゥの頭のぴかぴか光ってる」
鏖・冥冥(ひとや・h12361)はそう笑って、くるりと周囲の風景を見遣り、続ける。
「路地裏に来たからかな」
……僕はこっちの方が性に合ってるや、って。
漆黒に紅輝く瞳を、ふっと細めて。
そんなかたわれの言葉に、鏖・瑠瑠(びゐどろ・h12362)はご機嫌に、ひいらりと。
「んふふ。このぴかぴか、うちを照らしてくれてるみたいで気に入ったわぁ」
お揃いの豊かな尾鰭を、天女の羽衣の如く春の夜に揺らしてみせながら紡ぐ。
「暗がりの中で光るうちも、綺麗でかわええやろ?」
「勿論。何処だってきみが一番で美しいさ」
そんな、ぴかぴか輝く|熊猫《パンダ》耳をつけた、瑠瑠の美しくも愛らしい姿を。
改めて見つめては、冥冥は笑み返す……今宵は可愛い、に傾倒しているけどね、って。
そして、ふわりと路地裏を吹き抜ける春の夜風が纏うのは。
「ねーえ、ルゥ。いいでしょ? 全部、とは言わないからさ」
さっきとはまた違う、|食物《くいもの》の匂い。
だって、何せ、冥冥は大喰らいだし。
「ほんまに、食べ飽きへんねぇ。冥の胃袋は深淵のようや」
瑠瑠だって、それをよく知っているから。
「ええよ。上品に、たらふく食べといで」
「行儀よくと、何時もきみに言われてるからね。もちろん守るとも」
冥冥はかたわれの玻璃のような声に頷く……此処ではね、と。
食い散らかしたり今宵はしないように、品よく振舞うことを約束すれば。
早速、くるりと店々に並ぶ食物へと視線を巡らせて。
「あの色がいっぱいある蒸籠がイイな」
目に留まったのは、かたわれと同じ耳をした、ちいさな|熊猫《パンダ》たち。
蒸籠にちょこんと並ぶその色は、とりどりのようだから。
「ルゥにもあげる。きみは何色が好きだったかな」
「そうやねぇ。冥とお揃いの白か朱色やろか」
返るこたえを聞けば、湯気があがる店へと冥冥は向かう。
「そうだね、これは僕らの色彩だ。麗しき|ルゥ《かたわれ》にあげる」
自分たちのいろは、|ルゥ《かたわれ》のもの。
でも……残りは僕のもの、って。
そして、冥冥が食べ物を堪能している間に。
「うちは苺花酒を貰おか」
瑠瑠が見つけたのは、さっき見た桜のような彩りの酒。
酒瓶が並ぶ屋台から、春色で満ちるその瓶ごと攫って。
……うちは噛んで食べる物より酒や生気の方が好き、って。
宙で一杯、くちづけてみれば。
「ええ酒やね」
|お代《金》はそこにおいとくわぁ、と店をあとにして。
「おかえり、冥。ええもんあった?」
そう訊ねながらも摘まむのは、かたわれが持ってきてくれた朱色の仙術まん。
そして、それをはむりと口に放り込んで――ぽふ、と。
瑠瑠は春の夜へと泳がせる。ふわりと魚の煙を出して、微笑んで。
「ふふ、ええ感じに酔うてきたわぁ。冥も呑む?」
「好い夜だからね、きみの勧めなんだ。貰わない訳がないね」
冥冥もかたわれと一緒に、淡くて甘い春に酔い痴れてみる。
「噫、いい酒。流石はルゥのお眼鏡だ」
そう紡ぐ姿を見つめれば、瑠瑠は口元を緩めてしまう。
「せっかくこっちに出て来たんだ。もっともっと楽しもうよ」
桜花びらが静かに舞い落ちる、この春の夜を共に――もっともっとと楽しもうとする|冥《かたわれ》の愛おしさに。
表通りからほんの1本、道を外れれば。
ちょっぴり薄暗くて細い道を照らすのは、ネオンカラーに光るサイダー。
そんな片手に持ったぴかぴかを頼りに、ノーチェ・ノクトスピカ(|Nachtsängerin《星歌い》・h06452)はひとつこくりと頷く。
(「路地裏なんて行ったことはないけれど、しっかりエスコートするんだ!」)
そして、表通りとはちょっぴり雰囲気の違う賑わいの中――やって来たのは、お目当ての麺屋。
トゥバ・コルヌコピア(凱風・h09459)もノーチェとお揃いのぴかぴか、電球に入ったネオンカラーのサイダーをお供に。
麺屋の席にふたり並んで座れば、くるりと視線を巡らせた後。
「俺は担々麺にしよう」
……ふつうのからさでもあかい油が浮いている、と。
ごまのにおいが湯気に混じって、すこしからい気配を伝えてくるけれど。
でもそれが食欲をそそったから、担々麺に決めて。
「トゥバは担々麺なんだ。太陽みたいにまっかだ! 大丈夫?」
ノーチェはその赤さに、星のように瞳を瞬かせつつも。
「僕は味噌にする! バターのせたら美味しそう」
注文を済ませれば、わくわく。
そしてそれぞれの麺がすぐに目の前に並べられれば、いざ、いただきます!
……の、その前に。
「ノーチェはおはし、つかえる?」
トゥバから手渡されたそれに、再び瞳をぱちり。
「おはし? 僕初めて! えっこの棒で麺を?」
それから、そっと試しに麺を掴んで……みようとするも。
「……できるかな、麺が逃げっ……こう?」
「こうやって持って……そう、そう!」
トゥバも見本をみせてあげつつ、ノーチェのおはしの先生に。
それから、なんとか箸の使い方を教えて貰えば。
「トゥバすごいなぁ……」
ノーチェは感心したように呟きを落としながらも。
「はふ……熱いから気をつけて……」
「よし。それじゃあ、いっしょに」
ちゃんとふたり一緒に手を合わせて――いただきます!
そろりと箸で麺を掴みつつ、ノーチェはバター入り味噌ラーメンをちゅるり。
はむはむと味わってみれば、ぱっと笑み咲かせて。
「ちょっと太めの麺でもちもちだ」
きちんとふーふーしながらも、さらにもうひとくち。
……香ばしさと甘さとが美味しくて堪らない、って。
そしてトゥバも、あかいスープがいっぱい絡んだ野菜といっしょに麺をすすってみれば――ぴりりっ。
「からい、けど……」
でも、ひとくち、もうひとくちってとまらなくて。
だから、はふはふ隣で美味しそうにラーメンを食べている彼に、こんな提案を。
「ノーチェも食べてみる?」
それを聞けば、ノーチェもすぐに頷いて返して。
「トゥバ! 名案だね。交換こしたらもっと美味しいや」
「じゃあ一瞬うつわ、交換こしよう」
ふたりの器をくるりと入れ替えれば。
どきどきしながら、担々麺をぱくっと口にしたノーチェは……からい! って。
思わず二対の羽根耳もぴこぴこ、瞳を大きく見開いちゃうも。
「からい? 俺ももうちょっとからかったら火竜になってたかも」
トゥバもうんうんと頷きつつ、すかさず手渡す。
「ほら、のみもの飲んで」
そしてノーチェは促されるまま、ごくごくと飲み物を飲んで。
「火花になるかと思ったよ……でも、おいしいね!」
そう、まだひりひりしている舌を、堪らずちょっぴり出せば。
瞬間、今度はトゥバが瞳をぱちり。
それから思わず、笑っちゃう。
「……あはは! ノーチェ、べろが真っ青だ!」
「え、舌が!?」
ネオンカラーに負けないくらいばっちり青く染まっている、ノーチェのべろの色に。
怪しいけれど活気があって、何より美味しそうだから。
食欲をそそるような匂いと立ち上る湯気に誘われるように。
裏路地にある麺屋台に足を運んで、並んで座って。
「俺は暗黒きくらげで黒一色に満たした醤油ラーメンにするかな」
「ボクは担々麺の普通かな! 赤いし!」
天霧・碧流(忘却の狂奏者・h00550)と瑠璃・イクスピリエンス(ハニードリーム・h02128)は、それぞれそう注文して。
ほどなくして運ばれてきた熱々の麺を、いただきます!
「ほどよい辛さが染みるぅ!」
はふはふ、ふーふー、そう担々麺を口にする彼女の器へと碧流は目を向けて。
「瑠璃ちゃんのは良い赤だな」
そう言った彼の真っ黒なラーメンを、じいと見つめる瑠璃。
「黒いドリンク……今度ウチでも考えようかな?」
まっくろ暗黒ドリンクのメニュー化を頭に思い描きながら。
それから瑠璃は、はむはむと暗黒きくらげを頬張る彼をちらり。
「ところで碧流さん何か気付かない?」
何気にそうアピールするのは、密かに買っていた中華帽のパンダ耳。
そしてそんな彼女の言葉に、碧流はふと首を傾けるも。
「え? あー……耳変えた?」
そう気付きはするのだけれど。
「え~そんな「髪切った?」みたいなノリで言われても」
……ボクの耳はホンモノだし! なんて言いつつ、さらにさり気なくアピールして。
「ああ、そうだった。瑠璃ちゃんは元々クマサンだったな……その耳はホンモノなん……だよな」
碧流は改めて、じいと見つめた後、続ける。
「でもパンダでもいけると思う」
そして、こくりと頷いた彼に。
「ふふ、でもイケてるなら時々イメチェンもアリかもね!」
瑠璃はそうえっへん、満足気。
それから、はふはふちゅるりと、美味しく麺を食べ終われば。
先程までいた表通りとはまた違う雰囲気の、桜舞う路地裏を歩いていると。
「あ、近くに占い屋さんもあったよ!」
瑠璃が見つけたのは、ちょこんと何気に路地の端に座っている、パンダ占い師。
碧流もその姿を目にして、ふと思い出す。
「そうだなあ。じゃあ俺達の相性を見てくれ。」
……このあと略奪団が来るからな、と。
(「瑠璃ちゃんと一緒に闘うのって初めてだし」)
そう――ふたりの、共闘の相性を。
そして謎の作法通りに、パンダ耳な中華帽をかぶって札を引いて渡せば。
パンダ占い師はじっとそれを見つめた後、占い結果を告げる。
「――相性よし。なかよく並んで、ころんと、いいかんじ」
それを聞いた瑠璃は、ぱっと笑みを宿して。
「相性抜群やったね!」
友達として相性抜群という結果だと、喜んで。
そして、碧流も。
「相性良いのか。よかった」
共闘相手として相性良いんだと、頷いて。
それから、こう続ける。
「今夜は良い夜になりそうだ」
……戦いが楽しい良い夜になりそうだ、なんて。
そんな彼の言葉に、瑠璃はちょっぴり首を傾けるも。
(「でももう充分良い夜なのにな~?」)
言葉足らずすぎる彼と、解釈がズレている……ようで。
でも何となく噛み合っています……!?
そして、実はズレがあるなんて気づくこともなく。
「瑠璃ちゃんも占ってもらったらどうだ?」
碧流にそう言われれば瑠璃も、何を占ってもらうかを考えてみて。
ひらりと桜舞い降る春の夜空をふと見上げて、口にする。
「ボクは、う~ん……来年も一緒にお花見できますか、とか?」
「ハハ! それ占いかぁ~?」
「確かに占いっていうより、約束だね」
ふたり、そう顔を見合わせて笑って。
碧流は瑠璃へとこう紡ぐ……じゃ、来年も楽しみにしておく、って。
占ってもらわなくても、きっと結果は同じだろうから。
煌びやかな表通りにひっそり佇む、ちょっぴり怪しいパンダ像を見つければ。
「こっちにも道が……?」
……何があるのかどきどきです! と。
足を踏み入れた裏路地を、そろりと見回してみる千木良・玖音(九契・h01131)。
そして雨夜・氷月(壊月・h00493)は、大通りとはまた違う風景を見遣りながら。
「コッチも雰囲気あるねえ」
――楽しいモノ探しに行こっか! なんて。
むしろわくわくと、彼女の手を引いて。
玖音も桜がひらりと舞う宵闇の中、好奇心と一緒に引かれた手についていく。
それから、灯りがともり始めた屋台や店の雑多な賑わいを見回してみれば。
「ん? 甘い香り? あ、パンダまんだ! ……仙術?」
「小さいパンダさんがいっぱいです!」
ふたりが見つけたのは、蒸籠にずらりと並んだ、ちっちゃくてカラフルなパンダまんたち。
それは裏路地名物の、ふしぎミニパンダ仙術まんだというが。
……なんだろうね、と言いながらも、はむり。
氷月は青を一つ摘まんで、頬張ってみて。
玖音もカラフルパンダさんたちに目を輝かせながら、桜色を選んで、ぱくり。
瞬間――夜の桜空に、ほわほわ、ほわり。
「ん、なんか爽やか……あ、煙!」
「ほんとに煙が出るです……!」
口から、食べたパンダさんと同じ色の煙が……!?
氷月は、そんな呼吸と共に出る煙にテンションが上がって――ぷかり。
「見てみて、パンダの煙だ!」
「氷月おにいさんの可愛いパンダさんなの」
玖音も、私も……! と。
ぷっかり、同じように頑張って煙を吹いてみれば――ぽんっ。
青のパンダさんの隣に、少し小さめなパンダ煙がほわり。
「親子パンダさんみたいです!」
「んは、イイね! 可愛い親子パンダだ」
ふたりで吹かしたのは、なかよし親子パンダ。
それから、楽しく裏路地を探検していれば……見つけたのは、またパンダ。
「これは……占い? パンダが? 面白そ!」
パンダはパンダでも、今度はちょこりと路地に座っているパンダ占い師。
氷月は興味深々、占いができるというパンダさんを目にしながらも。
「ねえ千木良、やって行こうよ!」
「占い……気になるの!」
こくりと頷いた玖音とともに近づいてみれば、スッと差し出されるのは、パンダ耳中華帽。
それを受け取って、氷月はすちゃり。
「これ被るの? あ、俺もふもふ運が知りたい!」
作法に倣ってかぶった後、引いた札をパンダに手渡せば、わくわく。
占いの結果は――。
「――もふもふ日和。ぽふんととびこんで、うもれてよし」
「え、それって、もふもふ運大吉ってことだよね!」
「氷月おにいさん、もふもふ日和なの!」
もふもふ運、多分大吉です……!?
そして玖音も、ぽふっと。
「なんでも……パンダ運……って思ったですけど。もういっぱいパンダさんなので、わくわく運にします!」
「千木良がなんか可愛いことになってるー」
カチューシャ+パンダ耳中華帽でパンダonパンダになった姿を氷月に激写されながらも、札を引いてみれば。
こう告げる、パンダ占い師。
「――わくわく、きらきら。たのしいぴかぴか、いっぱい」
わくわく運も大吉……に、きっと違いありません!
それからふたりが足を向けたのは、公式かどうかはちょっぴり怪しいけれど。
品揃え豊富な、ネオンパンダグッズ屋台。
そんな屋台に並ぶ品の中から、氷月が見つけたのは。
「待ってさっきのパンダ耳帽子売ってんだけど! 買ってっちゃお!」
パンダ占い師にかぶれと渡されたものと同じ、パンダ耳中華帽子。
そして玖音が手に取ったのは、きらきらぴかぴかな、もふもふ。
「私はネオンパンダのぬいぐるみにするです!」
「ぬいぐるみもイイね、パンダ運大吉って感じ!」
氷月がそう笑めば、玖音もこくりと大きく頷く。
桜色に光るネオンパンダぐるみと見つめ合いながら――占ってないですけど、きっと二人共パンダ運はいいですね! って。
桜夜市で賑わう表通りとは、1本違う道というだけで、雰囲気がガラリと変わって。
足を踏み入れた裏路地は知る人だけが知っている、桜灯街のまた別の顔。
ごちゃっと雑多な風景は、表通りとはちょっと違った活気に溢れているけれど。
そんな裏路地の道で開催されているのは――大人数が行列を成す、大盛り上がりな何かの祭り??
いや、それは、路地裏に突入した十六夜・月魅(たぶんゆるふわ系・h02867)の後ろをついて歩く、仲良くなった大人数のお花見仲間です!
そしてただでさえ大行進になっていて目立つ上に、月魅の髪はいまだに七色。
光り輝いているゲーミング状態のままです。
けれど、ぴかぴか光っているのは何も、月魅だけではなく。
「十六夜さまに続け―なのです」
峰・とわ号(ナイチンゲールでパイロット・h09004)も、引き続きぴかぴか。
光るパンダアクセサリー着用のまま、裏路地へとやって来て。
それからはたと思い出して、しゅしゅっ。
「あ、千早さまにも心配しないように連絡しておこう」
この裏路地に潜入しているという、峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)にメッセージを送信しておく。
(「ちゃんと現場近くの裏路地に入って馴染んでいるのです……っと」)
確かにある意味、かなり馴染んでいる……ことには、多分違いないから。
そして、そんな千早であるが。
元はちょっとワイルドなお兄さんであったし、こういう場所ではそういう雰囲気も悟られてしまう可能性があるから。
(「男の姿のまま辺りを警戒していると少々いかつ過ぎますからね」)
事件の動向を追っている今日の千早は、元面変化で仮面を入れ換えた女性の姿。
それからちゅるりと、麺屋台で味噌チャーシュー麺を食べていた、その時。
スープまできれいにちょうど完食した千早は、すかさず席を立つ。
弟子のとわ号からの連絡があったことに気づいて。
そして、異様に賑やかな月魅の周囲であるが。
でも、彼女の心は複雑な気持ちであった。
(「襲撃が予想されているので、少しでも多くの人のそばに居たい」)
その為に――自分の魅了の魔性を使って多くの人を味方にって、そう思いながらも。
(「惑わせてしまってごめんなさいね」)
自身の魔性は好きではないから、罪悪感でしんみりしてしまう月魅。
けれど、そんな気持ちも露知らず、周囲の皆はさらに盛り上がっていて。
景気良く、わっしょい! と。
――輝く髪! 何気に髪にも魅了効果が! 増える人!
「担がれてますね!」
魅了が効きすぎたのか、月魅は人々に担がれて神輿に。
ただでさえ強い魅了の効果が、ぴかぴかに光る髪の相乗効果で増し増しに……!?
でも、自分ではどうしようもないから。
「麵だけの具無し塩ラーメン、美味しいです」
考えるは止めて、麺屋台で注文したラーメンを食べることにする月魅。
そして、そんな異様に賑やかな周囲を、千早はぐるりと見回して。
「なんでしょう、先ほどより人が多くて賑やかな……あっ」
見つけたのは、辺りをきょろきょろしているとわ号の姿。
そして彼女の肩を、軽くぽんと叩くのだけれど。
「あなたは……千早さま!?」
一瞬、驚いた表情を宿すとわ号。
黒髪短髪のお姉さんに肩を叩かれて。
そして千早も、自分を見つめるぴかぴかなパンダ装備の彼女を見つめて。
「アクセサリーを買ったのですか? かわいいですね」
「かわいい、ですか? いつもと声が違うから何だか不思議な感じですね」
そう、お姉さんな千早に目を向けるのだけれど。
「なんだかどきどきしま……あ、十六夜さまー、千早さまも来ましたー」
「さあ、とわちゃんもこちらに」
「あーれー! わたしもワッショイされていますー!」
見つけた月魅と一緒に、とわ号もわっしょい、神輿に巻き込まれちゃいました。
そんな思いがけない展開に、千早は思わず瞳を見開くも。
「おや、なぜ神輿に担がれてしまうのです!?」
「ちょっと楽しいのですー!」
月魅の背中にひしっとつかまって、何だかとても楽しそうなとわ号。
そして千早は、沢山の人に担がれている月魅へと目を遣って。
「この騒ぎはまた十六夜さんですか!!!! どうしたのですかその姿は??」
そう問い詰め……たい、ところなのだけれど。
「……!?」
神輿の熱気と人波に流されてしまう。
それから、景気よく担がれているふたりから流されて遠ざかりながらも、千早は思うのだった。
――十六夜さんは後で説教です! と。
きらきら、ひらひら、ネオンも桜も煌めく、賑やかな表通りを楽しんでいれば。
ふと見つけたのは、さり気なく佇む、また別の桜灯街への案内人。
「此処にもパンダ像が!」
そう……正確に言えば、案内人というよりも案内パンダ?
でも、夕星・ツィリ(星想・h08667)がじっと見つめているのは……ちょっぴり悪いお顔の像、と。
何だかちょいわるな顔をしたパンダ像。
ラデュレ・ディア(迷走Fable・h07529)も、路地裏へと誘うように佇んでいるパンダへと視線を向けて。
「路地裏にもパンダさんの像が……! こちらはちょっぴり悪いお顔なのですよ」
「このパンダの像……少し悪い顔だけど、強そうでちょっとかっこいい」
「裏路地仕様のパンダ像、なかなかワイルドでイカすアルな!」
花途・過日(かいがらのゆめRegret・h09026)と熊・蕾蓮(熊猫獣人の鉄拳格闘者エアガイツ・h08184)は、ちょっぴり強面なそのパンダの顔に、熊耳と熊猫耳をぴこん。
でもココ・ロロ(よだまり・h09066)は、思わずちょっぴりお耳をぺたり。
「わるわるなぱんださん……ちょっぴりこわい」
わるそうな顔をしているパンダ像を、そうそろりと見遣るけれど。
「ココ大丈夫ヨー、このパンダは顔は怖くてもハートは熱いタイプと見たアル」
「熱いハートでおれたちを見守ってくれてるんだな」
蕾蓮と過日の言葉を聞けば、お耳をぴこり。
「なるほど~こころはほっとなぱんださんなのやも!」
よくよく見れば、兄貴肌っぽい熱い心意気みたいなものを感じる気がするから。
ほっとなわるわるパンダ像に、行ってきますねの手と尻尾をフリフリ。
というわけで、いざ!
「皆さまとの散策、わくわくとしてしまいます」
「さっきまでとは違う雰囲気だけど、この先で美味しいものに出会えると信じて!」
皆で足を踏み入れるのは、表通りから外れた、桜灯街のまた違ったもうひとつの顔――裏路地へ!
先程までの表通りとは違って、最初は少し薄暗くて狭い道にどきどきしたけれど。
少しひらけてくれば、大通りとはまた違った賑わいと灯りに満ちていて。
「裏路地は美味しいものや隠れた名店の宝庫ネ。早速美味しそうなにおいが沢山するアル」
「此処も美味しそうな香りがいたしますね」
蕾蓮とラデュレはきょろり、夜市の屋台とはまた違った美味しそうな匂いに誘われるように歩いていれば。
「くんくん……はっ!」
「ココさま、何か気に留まりましたか?」
ラデュレがふと瞳を向けるのは、ハッと顔を上げたココ。
そしてココは、尻尾をふりふり。
「あっちからおいしそなにおいがします!」
足を向けるのは、特に美味しそうな匂いのする屋台。
そんなココに、過日はついていきながらも。
「がう、あっちにもこっちにもおいしそうなものが……」
夜が更けてようやく開きはじめた店々が所せましと並ぶ、雑多な裏路地をきょろきょろ。
そしてココが辿り着いた、ほかほかと湯気が立ち上る屋台に並ぶのは。
「わ~! カラフルなパンダまん……!」
蒸籠にちょこんと並んだ、ちっちゃいパンダまんたち。
「色とりどりのパンダまん発見ー!」
「まあ、美味しそう……! 桜に白、桃色に青ですね」
ラデュレと一緒にひょこり、ツィリも蒸し立てのカラフルなパンダまんが並ぶ蒸籠を覗き込めば。
「ふふ早速おみくじの通り、素敵なものに出会えちゃった」
ネオンパンダのお告げ通り、大大吉のご利益の予感……!
ということで、皆で気になる色を選んでみることにして。
「ココはね~……サクラのにする~」
「小さなパンダ、かわいいし食べられるのか。おれは甘そうな桃色にしてみよう」
ココと過日は、ちょっぴり色味の違うピンク色にして。
「わたくしは紫をいただきましょう」
ラデュレが紫のパンダまんを選んで、ツィリが直感で選んだのは白の子を。
それから、ココはじいとミニパンダまんと見つめ合ったあと。
「あじはなんだろ……いただきまーす」
一番美味しい出来立てのうちにと――はむり。
ラデュレもココに続いて、パンダまんを口に運んでみれば。
「ほくほくあたたかで美味しいです」
そうこくりと小さく頷いた、次の瞬間。
ココの口から――ぽふりっ。
「わ! くちからなにかでて……サクラいろぱんださんだ~!」
「ココくんの煙がパンダ模様に……!」
いや、ぽふぽふっと煙が出ているのは、ココだけではなくて。
「煙が様々なかたちに……!」
「わ、おれも口から……桃のかたちの煙?」
「わたくしはハートのかたち、です……!」
過日は桃、ラデュレはハート型。
それぞれ食べたパンダまんと同じ色の煙が、ほわり。
そして蕾蓮は、改めてミニパンダ並ぶ屋台へと目を向けてみて。
「ミニパンダ仙術まん??」
これはただのちっちゃなパンダまんではなく、ふしぎなミニパンダ仙術まん!
それから、それを食べた皆を見れば、ふわふわぽわぽわ。
「皆の口からふしぎな煙が出てるアル! 面白そうネ」
「過日さまの煙とちょっぴり似ていますね」
「ラーレと過日の煙、確かに似てるアルな!」
「確かにラーレのハートをくるっとしたみたいだ」
煙にそーっと触ろうとしてみている過日の様子に瞳を細めながら、蕾蓮もひとつ。
「何味か気になるからワタシは青にしてみるヨー!」
はむりと青のミニパンダ仙術まんを頬張ってみれば。
「ほっかほかで美味し……わあ、青いパンダの煙アル!」
そしてツィリも、自分の白のパンダまんが気になって、ぱくりと一口。
それから、ほわわっと口から上がった煙に、瞳をぱちり。
「これは……星の形!」
ツィリの白の煙は、ふわふわ星型に。
そんな白い星のまわりに浮かぶ、カラフルな煙たちを見回せば。
「パンダにハートで種類があって楽しい」
「とってもかわいいハートとおほしさまに~わあ、モモだ~! おそろいあおぱんださんも……!」
春の夜を揺蕩ういろんな形や色の煙たちに、ココも尻尾をぶんぶん――ふふふ、たのしいですね、って。
それから、美味しく楽しいミニパンダ仙術まんの屋台の次に、皆で足を向けてみたのは。
「あっちにパンダ耳のカチューシャあるみたい!」
公式なのかはちょっぴりだけ怪しいけれど、パンダグッズが沢山売られている屋台。
それからツィリは、ぴかぴか光るパンダ耳カチューシャを手にしつつ、皆にこんな提案を。
「折角だしお揃いにしてみない……?」
それを聞けばもちろん、すぐに満場一致で。
「ツィリさまのご提案、ステキですね」
「ツィリの提案には勿論賛ヨ!」
「……おそろいカチューシャ? たのしそ!」
「おそろい……おれもいいのか?」
皆でお揃いのカチューシャをつけてみることに。
光るカチューシャは、パンダ耳タイプと、ケモ耳がある人用のネオンパンダを頭に乗せるものとがあるけれど。
「ちょこんと乗ったネオンパンダのも気になったけど、限定の誘惑に抗えなくて……!」
発案者のツィリが選んだのは、光る桜色カラーのパンダ耳カチューシャをチョイス。
でも、折角のお揃いなのだから。
「お揃いのカチューシャを飾りましょう」
ラデュレもパンダ耳タイプをすちゃりとつけてみれば。
「パンダのお耳とうさぎの耳、お耳がたくさんになりました」
「ネオンぱんださんもかわいいだけど……ココもおみみのにする……!」
そしてココも、もふもふお耳にプラス、ぴかぴかパンダ耳にもなれば。
ちょっとだけ照れ臭いけれど、過日もちょこん。パンダの耳をくま耳と重ねて。
「ふおお……!! 皆がパンダになっていくネ!」
元々パンダな蕾蓮ももちろん……ワタシも桜パンダ耳のカチューシャ付けるアル、と。
「パンダ耳4つになってもお揃いの魅力には勝てないのアル」
「ふふ、蕾蓮さまとお揃いになりました」
「ふふん、みんなでおそろいパンダ~!」
全員、お揃いのパンダになりました!
それからラデュレは、くるりとパンダ仲間になった皆を見回して。
「皆さまお似合いで可愛らしいです……!」
「うん、みんなかわいいパンダだ」
過日もこくりと頷きながら、そっと続ける。
……おれもパンダになれてるだろうか、なんて。
そんな過日や皆に、ツィリは大きく頷いて。
「みんなとっても似合ってる」
それから、こう続けるのだった。
「一緒のパンダお耳は仲良しのしるし……!」
「仲良しのしるし、とても嬉しいですね」
「おそろいって仲良しのしるしみたいで、何だかくすぐったいな」
ぴかぴかパンダ耳は、嬉しくて楽しくて、ちょっぴりくすぐったい仲良しのしるし。
そして、こんな大大大吉なパンダ運なのだから。
「なら今日はお揃い記念日だね!」
「えへへ、そうですね。とってもすてきなきねんび、なのです!」
「お揃いでナイスパンダな記念日ネ!」
今日は皆の、お揃いパンダ記念日です!
そんなパンダな皆と一緒に引き続き、路地裏の探検を再開しながら。
パンダなひとときをそっと楽しみつつ、過日は思うのだった……記念日、これからもたくさん増えるといいな、って。
賑やかな表通りに何気に佇んでいる、ちょいわる顔のパンダ像が目印。
「先輩、なんだか雰囲気のある場所だねぇ」
きょろりと周囲を見回す五十鈴・珠沙(Bell the cat・h06436)が足を踏み入れたのは、桜灯街の裏路地。
夜が更けてきた今、また雰囲気の違った灯りがともり始める街がみせるのは、もうひとつの顔。
浮石・尾灯(ウキヨエ・妖怪・ヒーロー・h06435)も、活気あふれる雑多な風景を眺めながら歩いて。
「路地裏は独特な趣が有るよ。来たことない路地裏って好きだな」
「路地裏はあたし好きだよ、猫だから」
珠沙は二又の尻尾をゆらゆら、うきうきと弾む声で続ける。
「そして美味しい匂いも大好き!」
それから、漂う匂いの元を辿ってみれば。
「あの大衆食堂はちょっとよさそうな雰囲気だよね」
「ん、良い匂いがするね。良い匂いがするお店はきっと美味しいと思う」
早速、美味しいものを堪能するべく、いざ大衆食堂へ!
「メニューすごいねぇ」
「色んなメニューが有るね」
沢山の料理名が並ぶお品書きを見れば、思わず目移りしちゃう尾灯だけれど。
流石大衆食堂……なんて、思っていた矢先に。
「あ、店員さーん、先輩にあの「暗黒炒飯」をお願いしまーす」
「……え? 何頼んだの?」
珠沙の注文に、思わず瞳をぱちり。
でも、だとしたら、やっぱり――。
「じゃあすずすずに謎肉? のやつを……」
「……え? 珠沙さんは謎肉?」
ちょっと気になっていた謎肉のとろとろ角煮丼を、珠沙にと注文する尾灯。
それから、暗黒の名の通り真っ黒な炒飯と謎の肉の角煮丼が運ばれてくれば。
「先輩、半分こして食べようか」
「うん、はんぶんこで」
旅は道連れ……いえ、ふたりで仲良く半分こして。
そうっと、口に運んでみた瞬間。
思わず尾灯が瞳を見開いたと同時に、珠沙の尻尾がぴーん!
「美味しいー!?」
「い、意外と美味しい……!」
暗黒炒飯の香ばしさと、ほろり蕩けるような謎肉の角煮は、意外にも絶品で。
良い匂いがするお店はやっぱり美味しかったです!
そして、どちらもうまうまと味わって、きっちり完食すれば。
「腹ごなしにちょっと見て回ろうか」
次は、裏路地を巡ってみることに。
お目当ては、ネオンパンダグッズの屋台。
でもその屋台は、すぐに見つかる。
「うーん、パンダはどこも人気だね」
見ている人も多いし、何よりぴかぴかと光って、ひときわ目立っているから。
それから珠沙は、ふと手を伸ばして。
「先輩はこのパンダ耳中華帽を、あ、パンダ耳カチューシャもいいね」
尾灯にパンダ耳をつければ、すかさず写真をぱしゃり。
「ほら、似合ってない?」
「カチューシャかぁ。こういうのはすずすずの方が……」
「珠沙さんはほら、自前の耳があるから」
「確かに耳に耳はおかしいね」
珠沙にぴかぴかパンダ耳姿を何気に激写されつつ、尾灯はこくりと頷くも。
こてりと、ふいに首を傾ける。
「あれでも人の耳も自前の耳?」
そして自前の猫のお耳がある珠沙は、きょろりと見回して。
「桜ネオンパンダバッジかなー」
キュートでぴかぴかなバッジを手にすれば、キラキラなおめめを尾灯へと向ける。
「先輩買ってー?」
ごろにゃんと甘えるような、まさに猫なで声で。
そんな珠沙の期待とお強請りの眼差しに、尾灯は瞬いてから。
「ん、バッジ?」
仕方ないね、と手にするものの――公式かどうかも怪しい、裏路地の店だから。
……店員さんこれ値引き出来ない? なんて、ちゃっかり値段交渉を。
表通りの屋台で買った沢山の戦利品も、存分にぺろりと味わったから。
……お腹もいっぱいになったべ、と。
満足気にこくりと頷く番田・陽葉(はぐれ 熊猫パンダ純情派・h10140)が次に足を向けたのは、また違った系統の店が並ぶ裏路地。
先程までの表通りとがらりと雰囲気は変わっているが、やはり裏路地にもパンダの姿はいっぱいで。
くるりと周囲を見回した陽葉のお目当ては。
「次は甘〜いデザートでも……」
女子としてはやはり外せない、別腹の裏路地スイーツです!
それから早速、うきうきと屋台を巡ろうとした――その時。
ふと、陽葉の目に入ったのは、パンダ。
いや、パンダはパンダでも――。
「ん? あれはパンダ占い師?」
そうちょこんと座っている姿を見れば、ほわわわ〜! と。
ちょっぴりそわそわ、舞い上がってしまう陽葉。
「実はわだす、一度でいいから占い師に占ってもらいたかったんだべ」
ということで、折角だから。
「手相を見るんだべかね? それともカード占いだべかね?」
――よーし! いっちょやってみるべさ。
どきどきわくわく、占い師の元へ。
「こんにちはー! わだすを占ってみてくれねえべか?」
それから、手渡されたパンダ耳中華帽を、寝かせたパンダ耳の上からすぽっとかぶりつつも。
「金運や健康運もいいけど、ここは恋愛運が気になるんだべさ!」
占ってもらうのはそう、恋愛運!
そして1枚、札を引いて手渡しながらも、明るく気さくに、理想のタイプを語り出す陽葉。
「イケメンでぇ優しくてぇ、純朴な人が好みなんだべが。そんな運命の人に巡り会えるべかね?」
それから……わたしは、おっきい人が好みです、なんて。
札をじいと見つめつつ、何気に小声でぼそりと呟いたパンダ占い師だけれど。
理想のメンズについて語っていた陽葉は、きぱっとこうも付け加えるのだった。
「あ、オスのパンダには興味ないべ」
というわけで、何だかそわりとしながらも、占いはきっちりと。
「――にこにこ笑顔で、イケメンゲット。出会いのチャンス、のがさずに」
占い師が告げた結果を聞けば、陽葉は楽しくてハッピーな気持ちに。
そして前向きに笑みつつも、うんうんと頷くのだった。
……どこかに陽助みたいな優しくて素敵なイケメンがわだすを待ってるはずなんだべさ♪ って。
占い師に明るく礼を言ったあと、イケメンとの出会いをほのかに期待しつつも。
甘~いデザートを買いに、うきうき再び歩き出すのだった。
先程までいた表通りと同じように、湯気が立ち上る屋台が並んでいる道。
けれど、極彩色のネオンに照らされた裏路地は雑然としていて、少し怪しげな独特の活気に満ちていて。
たった1本、横道に入っただけなのに、それもまた桜灯街の別の顔。
そんな一変する光景も旅の醍醐味、フラヴン・オディール(記録β・h10175)には興味深くて。
きょろりと視線を巡らせてみれば、ふと目に入った屋台の看板。
「鳰、カスタム麺屋台と書いてあるぞ」
それは、沢山の人が入れ替わり立ち替わり、自分の好みの麺を啜っている屋台であった。
香柄・鳰(玉緒御前・h00313)も、フラヴンが向ける視線の気配を自然と追って。
「カスタム麺の屋台……! 面白そうですね」
夜も更けた頃に食べる麺といえば、ふと思い出して紡ぐ。
「そう言えばお酒を嗜まれる方の中には最後のシメに麺類を食す方がいると伺いまして」
……一度挑戦したいと思っていたの、と。
そう、ちょっぴりわくわくした声色で。
というわけで早速、足を運んでのれんをくぐってみれば。
「どうやら自分でスープやトッピングを選べるらしいな」
フラヴンが目を向けるのは、カスタム麺のお品書き。
「スープは、醤油に塩、味噌、辛さが選べる担々に鶏白湯。トッピングはチャーシューや煮卵とか、あとは……暗黒きくらげや、ほんのり光るキノコ?」
そうスープやトッピングを読み上げて伝えてくれる彼の声に、鳰は耳を傾けつつ。
「ううん、これは……悩みます……」
多彩な選択肢に、真剣に脳内会議中……であったのだけれど。
「僕は……スープは鶏白湯、トッピングにチャーシュー、煮卵」
「はっ、もう決めていらっしゃる!?」
さくっと決めていくフラヴンの声に、思わず瞳を見開いて。
「あとは光るキノコ。光るだなんて興味深い」
「しかも光るキノコとはチャレンジャーな……!」
さらに、好奇心旺盛なそのチョイスに、ぱちりと瞬いてしまう。
そんな彼に……鳰はどうだ? と訊ねられれば。
こくりとひとつ頷いて、悩みつつも決めたスープや具材を告げるのだけど。
「私も決めました! スープはお塩にして、白ネギにもやしに、きくらげ……あら?」
鳰はそこまで言って、ふと首を傾ける。
きくらげはきくらげでも、読み上げてくれたトッピングは確か――。
「そう言えば先程『暗黒』きくらげと?」
ただのきくらげではなく、暗黒きくらげ……??
「元々黒いキノコですが暗黒とは」
確かに、きくらげ自体、普通に黒い色をしているが。
それなのに、敢えて暗黒と謳っているのを聞けば。
「気になりすぎるので追加してみましょう」
頼んでみたくなってしまう鳰も、やはりチャレンジャー。
そして注文を済ませた後、それほど待たずに。
「拉麺が来たようですね」
それぞれカスタムした麺が眼前に置かれて。
いただきますと手を合わせながらも、お互いの器の中をまじまじと見てしまう。
「あ、暗黒……。これが、暗黒。何だか強くなれそうだな……」
フラヴンが思わずじいと見つめてしまうのは、鳰の選んだ暗黒きくらげ。
さすが暗黒、ただ黒いだけではない。
ネオンを飲み込んだような深く艶やかな黒が、ふとした拍子に七色に滲んでは揺れている。
その闇の中に孕む光彩が、まさに暗黒……のような、気がする。
そして、そんな深淵を思わせるきくらげを見た後だから、なおさら。
「僕の方はあまりの眩しさに目を瞑ってしまいそうだ」
自分の器に盛られた、予想以上すぎる光を放っているキノコの眩さに瞳を細めてしまう。
「光るキノコ、強烈だな。こんなに眩しいとは……」
「どちらも私の目にも十分すぎる程に輝いているし暗黒です……本当にキノコかしら」
鳰の視界にもその輪郭がはっきりとわかる程度には、暗黒とキラキラである。
それから互いに、暗黒とキラキラをそれぞれ、そっと箸で摘まんでみて。
顔を見合わせれば、そっと頷きあって――はむり。
いや、見た目はインパクトが強いけれど。
もぐもぐと味わってみれば――。
「でも大変良いお味で!」
「とはいえ味はとても美味しい。意外とあっさりしている」
思わぬ美味しさに、瞳を瞬かせて。
「鳰も光るキノコを食べてみるか? これが意外と美味しいんだ!」
「ふふふ……では此方の暗黒きくらげと交換にします?」
今度はふたりで交換こ、わくわくぱくっと口にすれば。
きくらげはこりこりぷりぷり、キノコは麺に馴染むさっぱり味で、とても美味です!
それから美味しくいただいた後、ご馳走様をして屋台を出れば。
「腹を満たしたらパンダ占い師の元へと行こう」
「そうですね、もうお腹いっぱい」
お腹も舌も満足すれば、腹ごなしにと裏路地を巡ってみることにして。
「僕、実は占いが好きなんだ。あとおみくじも」
「あら、そうなのですか! 私も好きです。運試しみたいで楽しいもの」
そう雑多な路地を歩いていれば……ちょこんと路地の端に座っている、パンダ占い師を発見。
「僕は旅行運でも占ってもらおうかな」
「旅行運とはフラヴンさんらしい。私は仕事運にします!」
それから、占いの作法らしく、無言でスッとパンダ耳付き中華帽が差し出されれば。
「そう言えばカチューシャ、付けっぱなしでしたね」
「この帽子……かわいいな……」
ピカピカ光るカチューシャからパンダ耳中華帽へと、すぽりとチェンジ。
そしてまたもや無言で差し出される札を一枚ずつ引いて渡しつつも、どきどきそわり。
だって、フラヴンは思うから。
結果がどうであれ……これから先の旅にいいことがあるに違いない! って。
それからしばらく、じいと札を見つめていたパンダ占い師であったが。
「――いい旅運。くるりと歩いて、いっぱいよりみちすれば、ふんわりいい出会いあり」
ぽつり、ぽつりと、それぞれの結果を告げる。
「――仕事運。ていねいに重ねていけば、もふもふふかふか、いいかんじに実る」
そして、なかなか上々な占い結果を聞いた後。
鳰は、ちょっぴり名残惜しそうにパンダ帽を占い師に返すフラヴンへと視線を向けて。
「帽子は向こうで購入も出来るそうですよ」
次は、ネオンパンダグッズが並ぶ屋台へと彼を誘ってみる。
……旅のいいことを思い出す切欠に、なんて如何? って。
パンダ占いのお告げ通り――いいかんじに思い出が実るように、いっぱいたのしいよりみちを。
ひらりと舞う花びらが降り止むことなどない、満開桜が咲き誇る春の夜。
桜夜市が開かれているネオン輝くメインストリートも、かなりの人出と賑わいを見せているけれど。
まるで秘密の道に案内するかのようにひっそりと佇む、ちょいわる顔をしたパンダ像の先。
足を踏み入れた裏路地には、大通りとは雰囲気の違った灯りがともっていた。
夜が更けた頃にようやく開き始めた店々を彩る、少し怪しくて派手な極彩色の看板。
活気に溢れていることには変わりないが、飛び交う声は騒然としていて。
広がる風景は雑多で、ごちゃっと様々なものが犇めいている。
屋台や店に並んでいるものも、ちょっぴり風変わりなものがたくさん。
たった1本だけ道を逸れた先にあるのは、桜灯街のもうひとつの顔。
けれど、ジズ・スコープ(野良|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h01556)は引き続き、周囲を見回してわくわく。
「こちらにも美味しそうなお店が沢山ですね」
いや、先程も大通りの桜夜市で、たくさん色々なものを食べ歩いたのだけれど。
「え? お腹いっぱい? まさかそんな?」
ジズが浮かべるのは、そんな訳がなかろうてな顔。
というわけで――いざ行かん屋台巡り! 全制覇!!
裏路地グルメだってもちろん、全部美味しく堪能するつもり。
天國・巽(同族殺し・h02437)も、湯気が立ち上る店々を見回してみれば。
「つーか結構こういう場所ってなァ、他の店の品も持ってきて食っていいとかねェ?」
店主も客も皆、好き好きにやっているようだから。
通りに出された露天のテーブルと椅子に座って、買ったものを持ってきて食べることに。
そして、まず見つけて立ち寄ったのは。
「カスタム? 楽しそうですね!」
スープやトッピングが好きに選べるという、カスタム麺屋台。
ジズは早速、うきうきとメニュー表を眺めて。
「醤油スープに……チャーシュー3人前と煮卵2つ、青ネギ……キノコ?」
定番の醤油味のスープに、盛り盛りのトッピングを注文していたのだけれど。
ふと首を傾けるのは、何だかめっちゃ光っているキノコ……?
「そのキノコ何でしょう……」
だが、注文している人の様子を見れば、うまい! なんて声が聞こえてくるから。
「美味しいのですか? では入れて下さい」
ジズもそわりと、光るキノコも追加してみて。
「ンじゃ俺の麺は白湯にニラもやしな」
巽も、そう注文を済ませた後。
「小籠包もあればお願いします」
それはうちにはないねぇとジズに告げる麺屋の店主の声を聞いて視線を移す。
「小籠包、大衆食堂にありそうじゃねェか」
だから麺はジズに任せて……俺があっち見て来てやるよ、と。
向かった大食堂で予想通り小籠包を見つけた後、ついでに水餃子もゲット。
それから、さらに追加で。
「あとおっちゃん、レモンチキン出来るか?」
「おう、できるぜ、お客さん。レモンチキンな!」
「あっちの席で食ってっンだが、あとで皿持ってくっからよ」
お品書きにはないレモンチキンもリクエスト。
そして酒瓶屋台にも立ち寄ってみれば、どれも中華に合いそうだけれど。
ついでにと、香りが好みな黒龍酒を瓶で買って飲むことにして。
注文した品が揃えば、席に腰を下ろして、いただきます!
ジズは、湯気が立ち上るあちあちな麺をふーふーして、ちゅるり。
異様に光っているキノコもぱくりと口にしてみれば、こくりとひとつ頷く。
「キノコ得体は知れませんが意外と美味しいですよ……? 食べます?」
そう勧めるのは、是非共有したい不思議キノコ。
小籠包もあつあつはふはふ、もっちりちゅるんとした水餃子、レモンの搾り汁と香草や薬味などが効いたレモンチキンも絶品で。
すべてきれいに完食すれば、次に口にするのは、やはりデザート……?
「こちらはミニパンダ仙術まん?」
ジズがじいと見つめる先にあるの、蒸籠に並んだ、ちっちゃくてカラフルなパンダまんたち。
それにこれはただのパンダまんではなく、仙術まんだというから。
「なんと可愛らしいのでしょう……しかも面白そうですよ」
ジズはそうわくわく、巽へと目を向けて。
「一口サイズですし全種類いけるのでは……?」
「へェ? 仙術まんねェ。面白ェな」
パンダまんが並ぶ蒸籠を買ってみて、早速ひとつ。
「白は……白餡か」
巽が口に運んだ白のパンダまんの中身は、なめらかな白餡。
そしてジズが、ぱくんっ! と頬張った瞬間。
――ぽん!
口からほわわっと出たのは、摩訶不思議な仙術の煙。
パンダまんと同じ色の煙が様々なカタチになっては、桜空にあがって。
「どの形も可愛らしいですね。とても楽しいです。お土産にも購入致しましょう」
「ああ、煙草の煙と似た感じだが、ちょいと想像した形に近いのが出るンじゃん」
「この煙、煙管とかででも出来れば楽しそうですね」
巽もぷかり、そう自分がふかしてみせた煙を見上げるジズへと紡ぐ。
「ん? この丸いの三つくっついたのはなんだって?」
……お前ジズの顔、って。
それからぷかぷか、美味しく楽しくミニパンダ仙術まんを堪能した後は。
「さて、腹も満ちた。あとはぶらぶらしながら、事件とやらを待つとしようか」
事が起こるまでは、ぶらりと気のままに、裏路地を散策してみることに。
そしてジズが見つけたのは、公式かどうかは定かではないのだけれど。
「向こうに色々なグッズが? 行ってみましょう是非」
パンダグッズが所狭しと並んでいる雑貨屋台。
それにその道すがら、ふらりと気になった屋台にそれぞれ立ち寄って。
「ああ、ついでにごま団子土産に買っておくかね」
巽がごま団子をお持ち帰りしている間に、ジズもちゃっかり夢見飴の土産を購入。
そしてお目当てのグッズ屋台へと足を運べば。
「パンダさん達が沢山……」
きょろりと視線を巡らせたジズは、ふと手を伸ばして。
「おや? パンダ耳中華帽」
……これは被せろとの思し召しでは?
手に取ったパンダ耳中華帽と巽を、交互にじいと見つめてみて。
「さっきパンダ耳でお揃いはやったろうが」
「……お揃い……」
顔を見てこくりと頷く姿を見れば、すちゃり。
「まあ、どうしてもってンなら別に構いやしねェけどもな」
再び巽も、ジズとお揃いのパンダさんに。
それから、お揃いにうきうきしているその様子を目にしつつ。
「次ァどうすんだ、ドリンクかァ?」
巽はそう言いながらも、呵々と笑って。
桜花びらが舞い降る喧騒の中、そっと瞳を細める。
(「いつも明るく元気なこの幻獣が、どうしようもない孤独を抱えている」)
まるで今歩いている風景のような、入り混じる光と影を感じつつも。
お揃いパンダでふたり並んで、裏路地をくるりと闊歩する。
そんな憂いを吹き飛ばす、春の夜のそぞろ歩きを共に――と。
第3章 集団戦 『ケンタウロスパンダ』
夜が、さらに深くなる。
桜灯街の裏路地は、表通りの賑わいとは別の熱を帯びていた。
ネオンは滲み、提灯は揺れ、湿った路面に光がにじむ。
笑い声と、酒の匂い。
湯気の向こうで、誰かが箸を動かしている。
――その中に、明らかに異質な気配が混じった。
どん! と、乱暴に蹴り開けられた扉が、裏路地に乾いた音を響かせる。
「……なっ!?」
突然のことに、驚く店員や客たち。
そして現れたのは――パンダ。
だが、その下半身は獣じみた脚を持ち、異様な機動を感じさせる。
そう、武強主義のもとに集団で略奪を行い、弱者を蹂躙する、ケンタウロスパンダの集団だ。
ケンタウロスパンダたちは、統率された動きで店内へと雪崩れ込んで。
『金と金目の物を、全部よこせ!』
店の中の空気が張り詰めた瞬間、始まるのは乱闘騒ぎ。
椅子が引かれ、食器が鳴り、客たちが慌てて立ち上がる。
だが、この√仙術サイバーは武強主義。
ここにいる誰もが、奪われるだけの存在ではない。
「そんなことさせない!」
店員のひとりが踏み出す。
だが――ケンタウロスパンダが大きく床を蹴った。
視界から消えるほどの速度に、見舞われる重い衝撃音。
吹き飛ばされる身体、崩れる卓、割れる器。
それでも、店員が立ち向かう中。
「ちょ、ちょっと待った! まだ食べてる途中なんだけど!?」
片手に箸、もう片方に丼。
思わず声を上げながらも立ち上がった客を見れば、このような略奪も日常茶飯事のようで。
「店から出ていけ!!」
店主が鍋を振り上げ、別の客が椅子を掴んで構える。
わちゃわちゃと、でもここにいる誰もが、やられるだけでは終わらない。
だが、武強主義のもとに、集団で略奪をおこなうケンタウロスパンダたちの行動は手慣れている。
振り下ろされた鍋も、投げつけられた椅子も、軽くいなされて。
吹き飛ばされる人影、転がる器、人々の悲鳴……力の差は明白だった。
けれどその時、ふわりと桜の花びらが舞い込み、差し込むネオンの光が揺れる。
そう、乱闘騒ぎになっている店の入口に現れたのは、酔狂な乱入者――EDENたち。
荒くれ者の略奪事件を阻止するべく、今、戦いの幕が上がる。