シナリオ

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ふたりは魔法少女!

#√マスクド・ヒーロー #デザイアモンスター #魔法少女現象

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 第1話『変身! ふたりで魔法少女!?』


「新しい学年でも一緒のクラスになれるといいね、|夜空《よぞら》ちゃん!」
「なれるんじゃないかしら? なぜか幼稚園のゆり組から去年まで、ずっと同じクラスだものね、ひかりとは」
「そうなんだよねー、運命を感じちゃう!」
「あら、今更? 感じるの遅くないかしら? ふふ」

 快活な声で楽しげに笑うのは、ひかりと呼ばれたふわりとした栗色のセミロングの少女。そしてその隣で歩く、夜空と呼ばれた鴉の濡れ羽色のロングヘアを靡かせた清楚な少女がくすりと笑みを漏らす。
 冷たかった風も少しずつぬるみ、気が付けば花のつぼみも膨らんでいる。
 もうすぐ春、そして新学期。
「あたしたちにとってはもう人生の一大イベントだもんね、クラス替え。これからもずっと夜空ちゃんと一緒ならいいんだけどなあ」
「じゃあひかりはもう少しお勉強頑張らないとね? 高校とか大学とか」
「うっ、それを言われると……」
 あはは、と二人が笑い声をあげた時。
 ――本当の意味で、彼女たちの人生を変える出来事が始まった。

『希望……希望反応アリ……捕獲セヨ……捕食セヨ……!!!』

 瞬きをしたそのひとときで世界が替わる、そんな体験がありうるだろうか。
 だがそれが事実。二人の周囲は一瞬にして、形ある暗黒を濃厚に塗り固めたような空間に切り替わっていた。
 目を見開いたひかりと夜空の前に、それは滲み出た。
 そう、いずこともわからぬ認識の果て、現実と虚構の狭間から、それはまさしく「滲み出た」のだ、どろりと間断なく溶け落ちながらも再構成を続ける、穢れ切った汚泥が冒涜的にして嘲笑的に人の似姿を取ったような、「それ」は。

「………え………?」
「な………に……?」

 何が起きたかも理解できるはずがなくまたその時間もあるはずがない。ただ立ちすくむしかない二人の少女に、「それ」はゆっくりと手を伸ばした。顔も表情もわかるはずがないその姿から、けれど伝わる明確な悪意を満たして……!
『捕食スル……!』


「ぱんぱかぱーん! パンドラが来ましたよ!」
 集まったEDENたちを前に、星詠み、パンドラ・パンデモニウムは元気に声を張り上げると、おっとっと、と慌てて首を振った。
「あっと、そんなことを言っている時ではありませんでした。今皆さんにお見せした幻は、私が詠んだ星を反映したものです。あの怪物、まあ『デザイアモンスター』とでも呼びましょうか、皆さんにはその化け物から、二人の女の子を助けていただきたいんです」
 EDENたちは頷く。よくは見知らぬ怪異だが、いずれにせよ襲われる無辜の人々を放っては置けない。
 だが、パンドラは少し考え込むように細い首をかしげた。

「……でもですねえ……なぜか不思議な星が見えたんです。彼女たちは襲われた瞬間、――大きく運命が切り替わりました。どうやらただの女の子たちではないようです。何が起きるのかはわかりませんが、大きな変革が起きる可能性があります。彼女たちを見守ってください……!」


 「それ」がひかりと夜空に襲い掛かった瞬間――!
 迸ったのは無惨な血飛沫ではなかった。
 舞い散ったものは……輝き! 二人の内側から放たれた眩くも清らかな閃光であった!
 ひかりの身を覆ったのは純白の輝き、そして夜空の身を包んだのは深い漆黒の光。
 その煌めきに、化け物は一瞬たじろぎ身を引く。
 同時、二人の体を覆った光が彼女たちを鮮やかにして華やかな姿に装っていくではないか!

「心を照らす白き輝き――ピュアリィシャイン!」
「心を癒す黒き煌めき――ピュアリィシェイド!」
「「魔法少女ピュアリィデュアル!!」」

 見よ、ひかりと夜空は今こそ新たな姿を持って運命を描き変える!
 白いドレスを纏ったひかりはその名をピュアリィシャイン!
 黒いドレスに身を包んだ夜空はピュアリィシェイドと名乗って!

「……いや『名乗って』じゃないよ!? 夜空ちゃん、あたしたちどうなっちゃったの!? いやでも夜空ちゃんすごい可愛い……似合ってる……」
「ありがと、ひかりもとっても可愛いわ。それはさておき……」
「さておき?」
「逃げるわよ!!」

 何か大きな力がその身のうちに蠢いてはいるが、彼女たちはまだその使い方を知らない。とりあえず今は三十六計逃げるに如かず!
 だが一瞬たじろいだ化け物もすぐに彼女たちに追いすがろうとする。
 EDENたちの出番だ!
これまでのお話

第3章 ボス戦 『『闇の支配人』マリス・ローズ』


「ごめんね、夜空ちゃん。あたしが悪かったんだ。許してくれるなら……これからも一緒にいてくれる?」
「ひかりの気持ちを考えなかった私も馬鹿だったわ。もう決してあなたを一人になんかしない」
 二人は今、お互いにしっかりと手を取り合い、まっすぐに見つめ合う。その絆は以前よりもさらに強固に結び合わされ、二度と離れることはないに違いない。
 おお、その時!
「なんだか、力が……湧いてくる!」
「私も……自分でわかるわ!」
 頷きあったひかりと夜空の唇が揃って同じ言葉を叫んだ!
『デュアルメタモルフォース!』
 瞬転! 二人の体が強く強く光り輝き、鮮やかに放たれる力の奔流に包まれていく――!

「心を照らす白き輝き――ピュアリィシャイン!」
「心を癒す黒き煌めき――ピュアリィシェイド!」
「「魔法少女ピュアリィデュアル!!」」

 今こそ真なる力の覚醒の時!
 ピュアリィシャインとピュアリィシェイドは、巻き込まれてではなく、自らの意志、そして二人の絆の力で再び魔法少女へと変身したのだ!

 だが。
「ああ、素晴らしい友情だ。思った通り、君たちなら僕のいいお友達になってくれそうだよ」
 揺れる陽炎のように、深い闇の中から華麗な姿を現したものがある。くすくす、と笑いながら、魔法少女二人を興味深げに眺めるものこそ――。

「こんにちは、魔法少女。僕が君たちの新しい友達だよ」

 彼女こそ、デザイアモンスターたちを使嗾し操って今回の事件を起こしたもの、闇の支配人マリス・ローズであった!

「本当に強くて清らかで可愛らしいね、僕のお友達はそうじゃないと。たまたま手に入ったこのおかしな怪物どもは上手く役に立ってくれたね。おっと、そこの君たちもなかなかいい感じのお友達になりそうだ。さあ、一緒に友情を育もうよ」

 ローズは自分の「友達」――すなわち手駒、あるいは道具を増やすために暗躍していたのだ。
 無論ローズのいう「友達」とは、魔法少女たちの尊い友情とは根本的に異なる、ただの支配欲であり自己愛の延長手段に過ぎぬ。
 さあ最終決戦のときだ!
 今の魔法少女たちは真なる力に目覚めており、自分の身は自分で守ることができるため、これまでのように庇いながら戦う必要はない。思い切って戦ってよい! 
 いや、それだけではない。

『ピュアリィバース!』

 二人が叫ぶと同時、周囲が光溢れ輝く華やかで美しい世界に描き変わったではないか! これが覚醒した魔法少女の真なる力、自分と味方の身体能力を大幅に向上させ、体力を回復させるフィールドの展開だ。

 さらにこの領域の中では魔法少女たちはいくつかの力を使うことができる。必要ならば魔法少女たちに支援を要請してもよい。

〇ピュアリィシャイン
「スターライトシャイン」:威力は弱いが超広範囲のレーザーシャワー
「シャインウォール」:形状を自在に変化できる光のバリア

〇ピュアリィシェイド
「シェイドバインド」:影を操り敵の動きを封じる
「シェイドブレード」:この世で最も薄い「影」を刃とした鋭利な剣
第4話『いつまでも! ふたりで魔法少女!!』
鬼灯・睡蓮

「んにゅ……仲直りされたみたいで、良かったのです……」

 鬼灯・睡蓮(人間災厄「白昼夢」の護霊「カダス」・h07498)は、とろんとしたまなざしで、それでも嬉しそうに二人の少女を眺めやった。ひかりと夜空――いや、今は自らの力に覚醒し、真の「魔法少女」と呼ばれるにふさわしい姿となったピュアリィシャインとピュアリィシェイドの強い絆に結ばれた様子を。
 が、睡蓮はすぐに鋭い瞳を回す。楽し気に聞こえてくるぱちぱちという音のする方向へ。
 それは拍手、それは喝采、純粋無垢にして一切の表裏のない、そして――それゆえに何よりも邪悪で悍ましい歓びの声に。

「うんうん、ほんとによかったよねえ、やっぱり友情っていいものだなあ。さ、それじゃ……僕とも『トモダチ』になろうよ、君たち!」

 くすくす、と笑みを漏らすその声の主は、漆黒のゴシックドレスに身を包んだ、一見可憐な少女。されどその瞳にはどす黒い暗黒の陥穽を宿した「闇の支配人」、その名を――マリス・ローズ!

「むにゅ……まさか、この僕がこんなことを言うことになるとは思わなかったですが……ふみゅ」
 睡蓮はふわりふわりとシーツをたなびかせ、あくまでも柔和に、けれど断固たる口調で、告げた。

「……寝言は寝てから言ってくださいなのですよ」

 それは夢を操り現と幻の間に遊ぶ睡蓮ならではの、あまりにも痛烈に斬り捨てた一言だ!
 だがマリスは白い頬を嗜虐的に歪めて笑う。
「あれあれー、そーんな冷たいこと言うなんて僕は悲しいなあ。ただトモダチになろうって言ってるだけなのにさ。そう――この彼のようにね」
 ゆらりと闇が崩れ影が溶け落ちて、マリスの背後から巨大な痛みが姿を現す。
 そう、それはまさに「痛み」と評するほかはない。
 全身から不規則に無数の茨の棘を生やし……いや「生やされ」、その凄まじい苦しみに鮮血を吹き零しながら呻吟し苦悶し阿鼻叫喚するものは。冒涜的なまでに人に近く、それでいてもう既に決して人ではない、そのものは。
「あははは! 紹介するね。ほら、これが僕の自慢の『トモダチ』だよ! 僕のいうことをどんなことでもしっかり聞いてくれて、僕のために最後の力まで全部振り絞って戦ってくれる感動的なトモダチさ! 素晴らしいだろう!?」

 マリスの哄笑が響き渡る、そう、それは――彼女の能力により、その傀儡とされその玩具とされその道具とされた、犠牲者の慣れの果ての姿!

「さあ、トモダチ! そこにいるみんなも君と同じ、僕のトモダチにしておくれ! それが友情ってものさ!」
 マリスの「|友情《命令》」に従い、トモダチは鮮血を涙のように流しながら睡蓮たちに打って掛かった!
 空間がひしゃげ歪むほどの剛腕が唸り、まともに睡蓮に叩きつけられんとした時、しかし。春の霞のごとく睡蓮の姿は揺らいで消え、トモダチの拳はあらぬ場所の大地に深くクレーターを作り出したのみだった。
 ふらりと朧めいて睡蓮の姿はやや離れた場所に再び現れる。一体、いや二体、三体と! あたかもそう、夢幻のごとくに!
 何人もの睡蓮の声が多重に共鳴し戦場を包み込む。

「それはオーラに映し出した僕の幻影なのですよ……ではカダス、今度はこちらの番と行きましょう」

 睡蓮の護霊カダスが風を駆けると同時、睡蓮も無数の幻像と共に虚空を疾駆する。周り灯篭のごとくに周辺を乱舞し飛翔する何体もの睡蓮の姿を、『トモダチ』はおろかマリスでさえ捉えきれぬ!
「うろちょろと! トモダチ、何やってるんだ! そいつらまとめて潰しちゃえよ!」
 苛立ったマリスの声にトモダチは大地を叩き割り巨大な岩盤を持ちあげる。どれが本体の睡蓮か判別できぬなら、まとめて面制圧で叩き潰そうというのだ!
 しかしそのとき。

「スターライトシャイン!!」
「シェイドバインド!!」

 響いた声と共に天空から流星雨のような光のシャワーがトモダチに降り注ぎ、その巨体を揺らめかせバランスを崩させる、そこへ伸びたのは漆黒の、いや影の鎖! 十重二十重にトモダチに絡みつき、その動きを封じ込めた! それこそは魔法少女たちの援護攻撃だ!

「こちらは大丈夫!」「押さえつけるくらいなら私たちでもできます!」
 魔法少女たちの声を背中に受けて、睡蓮は虚空を走りマリスに肉薄した!

「僕にしては珍しく、接近戦なのです……唸れ夢の剣、『|幽夢刃《ユウムジン》』……!」

 抜き放った手の跡も見せず、睡蓮は鮮烈なる刃を奔らせマリスに斬りつけた! それは現実と夢の間に生まれし超幻の剣、白朧の刃!
 歯噛みしつつ何とかこれを受け止めようとしたマリスだが、無数の睡蓮の幻像は多重ストロボのごとくに数え切れぬ刃と化してマリスを襲い続ける無間地獄を現出させた!
 マリスが白熱する剣を辛うじて弾いた次の刹那、しかし終わらぬ! 精神に直接食い込むような斬撃、身を竦ませるがごとき剣斬、空間もろとも圧殺するような剛剣! 尽きせぬ暴風のような連撃が一瞬のうちに叩き込まれたのだ!

「そ、そんな馬鹿なっ!?」
「あなたには悪夢さえもったいないのです……あなたに相応しいのはただ一つ……」

 相手の漆黒のドレスを深々と斬り裂きながら、睡蓮は自らの身を包む純白のシーツをふわりと翻す。

「……完全な消滅、『虚夢』なのですよ」
 断末魔さえ残すこともなく塵と化すマリスと共に、そのトモダチもまた無に帰していた。
 魔法少女たちが笑顔を浮かべ駆けよってくる姿に手を振り、睡蓮は顔をほころばせつつ、小さくあくびをかみ殺す。

「終わりましたね、……むにゅ、一緒にお昼寝したいですね……」

周防・灯真

「解散は取り消しか。そいつは重畳だ」

|周防・灯真 《すおう・ひさな》(アウトロー(自称)・h12314)は口元に微かな、しかし柔らかな笑みを浮かべて、二人の少女の姿をちらりと見つめた。魔法少女ピュアリィシャインとピュアリィシェイドは、灯真をはじめとしたEDENたちの後押しもあり、すれ違いかけたその心を再び強い絆で結びあうことができたのだ。

「あ、ありがとうございました、その、御迷惑をおかけして……」
 礼を言いかけた二人を軽く片手を上げて制すると、灯真は踵を返し、そこにいたもう一人に鋭い視線を投げかけながらつぶやく。
「ま、それは後からにしよう。これからが本番だからな」

「あはははは! 今度は僕と友達になってくれるんだよね! いやあ嬉しいなあ、楽しみだなあ! きっと僕たち素敵な友情で結ばれるのは間違いないね!」

 響いた哄笑はあくまでも銀鈴を振るような可憐な声、しかしその音色の中に隠しようもない淀んだ悪意と歪んだ邪念を潜ませるもの。漆黒のドレスに包んだ美しい体の中から悍ましき腐った魂の匂いを感じさせるもの――その名を「闇の支配人」マリス・ローズ!

 冷ややかにマリスに向けて身構えながら、灯真は言葉を吐き捨てた。
「友達とか友情とかお前が口に出すな。それだけでもその言葉が汚れる」
「おっと、酷いなあ。でも、そんな冷たい言葉もツンデレってやつだよね、僕は知ってるよ」
「まともな話は通じないか……」
 灯真は軽く首を振ると、魔法少女たちを振り返り、声をはげました。

「あのいかにもな悪の女幹部をぶっとばすぞ! 雨降って地固まるってやつを見せてくれよ!」
 同時、大地を蹴りたて俊敏に灯真は疾駆する! その手元が僅かに空気を歪ませる、フラッシュハイダーとサイレンサーにより閃光も爆音も封じたニンジャならではの九二式拳銃によるサイレントの一撃! しかしマリスは微かな振動を感じ取ったか、細い身体を捻って跳躍し銃撃を回避した。恐るべき魔女の直感!
 だが――それすらも熟練の忍びにとっては撒き餌に過ぎぬのだ! マリスが飛び退ったその地点に、風を切って抜き放った灯真のニンジャソードが音をも置き去りに叩きつけられていた! 銃撃を囮に相手の動きを完全に誘導した灯真の驚嘆すべきタクティクス!

「くっ!」
 マリスはそれでも瞬時に薔薇の蔦を生やし、眼前に迫った刃を何とか受け止める。勢いに押され大きく後ずさりつつ、魔女は忌々し気に舌を打つ。

「僕の友情を拒むなんてことがあるはずはない。君には僕の真心が伝わっていないだけなんだよね。……なら、少し強引でも友情を育もうじゃあないか! 愛の鞭だよ、文字通りにね!」
 マリスの怒気を孕んだ声と同時、彼女の展開した薔薇の蔦が竜のようにうねり、その恐るべき咆哮のごとくに、豪と何ものかを吐き出した! 咄嗟に飛びのいた灯真の前に突き刺さっていたのは、無数の針! 薔薇の蔦から打ちされる棘の矢の豪雨だ!

「あはは! 避けないでよ、それは『僕の味方』を強くしてくれるんだよ?」
 そう、マリスのその能力は「味方全員を怪人化し強化する」効果を持つもの。だがこれはいかなることか、その棘がなぜ灯真に向かったというのか。灯真はマリスの「味方」ではあるまいに。
 ――否。
 そう、否!
 「味方」かどうかの判断基準はマリスにある! 即ち、魔女が「オトモダチ」だと|本心から固く信じているもの《・・・・・・・・・・・・・》に対してならば効果の対象に取られてしまうのだ! それはマリスが心の底より――壊れている証!

「ここまでイカレてるとはな……やれやれ」
 灯真は呆れつつ、黒い竜巻のごとくうねり聳え立つ薔薇の蔦に対して意識を集中する。その瞳が爛と輝いた時、奇跡の瞬間が訪れる!

「俺の研究成果、とくと味わえ!『|錬金忍法・傀儡舞《レンキンニンポウ・クグツマイ》』!!」

 輝く光が迸り、世界の定めが描き変えられる! それは条理を再定義し法則を読み変える錬金術の奥義たる煌めきだ!
 見よ、灯真に向かって放たれたはずの薔薇の棘は全て勢いを失い大地に落下した。いや、そればかりではない、巨大な薔薇の蔦そのものが、マリス本人に向かって唸りを上げて急襲したではないか! それは力を注いだ対象を制御し、灯真の意志のままに操る錬金術だ!
 だが、薔薇の棘が刺さった相手は怪人化され強化されてしまうはずだ。むざむざマリスを強くさせるだけではないのか?
 
 否、再び否!
 薔薇の蔦はマリスの体ではなく、そのドレスを引き裂いてしっかりと大地に縫い止めてしまったのだ! マリスの白い肌が黒いドレスの合間から艶めかしく覗き、そしてその美しい顔を醜い憤怒の形相と化さしめる! だがいかにもがき暴れようとも、薔薇に拘束されたマリスはもはや動けぬ!

「はしたないな、服がボロボロじゃないか。良い子の見る魔法少女アニメだったらふさわしくないかもしれないな」
 肩を竦めながら灯真は二人の魔法少女に声を飛ばした。

「だがこれはアニメでも漫画でもゲームでもない。これが戦いの現実だ。さあ、せっかくだから派手に決めてくれよ!」

 それは灯真の最後のアドバイス、ふたりの魔法少女がこれからも戦い続けるための覚悟と決意を与えるための!
 シャインとシェイドは顔を見合わせ、すぐに強く頷く。戦士としてのそれは一歩!
「わかりました……いっけええっ、スターライトシャイン!!!」
「行くわよ、シェイドブレード!」
 
 シャインの声と同時に天空から無数の光の雨が降り注ぎ、マリスを蜂の巣に撃ち抜く。紙屑のように宙に跳ね上がったマリスを、一瞬で間合いを詰めたシェイドの影の刃が真一文字に斬り裂いていた――!

「ぐはあああっ!!!」

 悲鳴を上げ消えていくマリスなどもはや視界の隅にも置かず、灯真は静かに微笑んでいた。
「見事だ。二人の力が化合してより強大な力を生み出す。……ふふ、友情も一種の錬金術かもな」

神隠祇・境華

「今はもう、誰かが誰かを一方的に庇う時ではありません」

|神隠祇・境華《かみおぎ きょうか》(金瞳の御伽守・h10121)の黄金に煌めく澄んだまなざしは、もはやその瞳に映る二人――魔法少女ピュアリィシャインとピュアリィシェイドを庇護対象として捉えてはいなかった。彼女の隣にあるのは既に一人前となった仲間の姿。
「物語は|起《はじ》まり、|承《うけつ》ぎ、転じ、そして結ばれるもの。この戦いの物語を終わらせるために、三人で並び、ともに敵を退ける時です。いざ参りましょう!」

 凛とした境華の声に、シャインとシェイドはしっかりと頷き、強い決意を秘めた面持ちで共に前を見据える。
 そこに立つものこそは、可憐な肢体を優美なゴシックドレスに身を包んでいながらも、溢れ出る邪悪にしてねじ曲がった悍ましさを隠しきれず隠すつもりもない魔女! 「闇の支配人」マリス・ローズと呼ばれるものだ!

「いいなーいいなー、三人仲良しでいいなあ。ね。僕も混ぜてよ、いや混ぜてもらうね、もう決まった、決めちゃった!」
 ニタリと汚泥の蕩け滴るような笑顔を浮かべて、マリスは白い手に鮮やかなマスクを取り出した。薔薇の意匠で飾り付けられたその仮面で、魔女は無造作にその美しい顔を覆い隠す。
 おお、見よ! 次の瞬間、無数の薔薇の蔦がその身を覆い、血のような真紅の薔薇の花と死体のような真っ白い薔薇の花を何輪も咲き乱れさせた異形なる姿が顕現したではないか。これこそがマリスの秘められていた真なる姿に他ならぬ!
「あははは! バラバラにして繋ぎ合わせて僕のトモダチに作り直してあげるよ!」
 狂笑を響かせながらマリスはその手に構えた巨大なる死神の鎌を振り上げ、猛然と境華たちに向かって疾駆してきた! その恐るべき大鎌の刃が振り下ろされるところ、大地すら無窮の深淵に至るまで切り裂かれるであろうことは想像に難くない!

「シャインウォールッ!!」

 だが閃光が煌めいた刹那、一歩前に出たピュアリィシャインの眼前に煌めいた光の壁が、しっかりとマリスの鎌を受け止めていた。光を操るシャインのシールドだ!
「なんだって!? 覚醒したとはいえ、なりたての君が僕の鎌を止められるなんて……!」
「もちろんあたしだけじゃ無理。でも、――あたしには仲間がいるから!」
 シャインは激しく押し立てる鎌に対して頑健にシールドを維持しながら、横を見て微笑む。それは境華、彼女の唇。境華の艶めいた唇から静かに漏れゆき世界に流れ出す美しき調べ!

「物語は我が声に──歌よ、世界の理を揺らし、人々の歩みに光を添えたまえ……『|御伽「カレワラの詩人《ワイナミョイネン》!!」

 境華は歌う、世界の果てなる海に揺蕩い永遠の詩を伝える賢者たる吟遊詩人の力をもって!
 「有り得るならばそれは有る」――それこそが境華の唄の威力。蓋然性を確定事象に書き変える再定義の力! その力が僅かな可能性を押し上げ、シャインのシールドを持ってマリスの兇刃を阻止せしめたのだ!
 一瞬の動揺がマリスの動きを微かに止める、それと同時に。

「シェイドブレード!!」

 躍り出たピュアリィシェイドの刃がマリスの大鎌を跳ね上げていた! 漆黒の影で織り為された闇の剣は、さらに境華の「カレワラの詩人」で強化され、恐るべき魔女の鎌に対してさえも互角に渡り合う!

「友達の僕に対して盾で遮る! 剣で払いのける! あんまりな仕打ちじゃないか! トモダチに! トモダチの僕にぃぃぃぃぃ!!!!」
 仮面の奥から狂猛に叫喚するマリスの表情はマスクに覆われつつも容易く伝わる、明らかに怒り狂い、常軌を逸して醜く歪み果てているであろうと!
 もはや本能のままに荒れ狂うケダモノのごとく、マリスは再び大鎌をデタラメに振り回し滅茶苦茶に斬りつける。だがシャインのシールドとシェイドのブレードはそれらをことごとく拒絶し退けていく、大いなる詩人の唄が響き渡る限り!

「お二人の盾も刃も、形は違えど「守る」ための力です。ですが、あなたの鎌は――「刈る」ためだけのもの。その時点であなたの魂に友情などありはしません……!」
 静かに宣告した境華の手に清廉な光が跳ねる。鞘鳴りと共にすらりと抜き放つは御伽霊刀、その清澄な刃は境華の決然とした表情を鮮やかに映し出し、もう片刃は魔女の悍ましき姿を照らし出す。

「その偽りの友情ごと、ここで断ち切ります!」

 裂帛の気勢と共に大きく踏み込んだ一刀は風を切る膺懲の一閃となってマリスに叩きつけられる! 苦し紛れに高く掲げたマリスの大鎌を、霊刀の聖なる刃は過たずその柄ごと斬り断って、――まっすぐ一文字に悍ましき魔女の姿を両断していた。
 剪断されたマスクが二つに割れ、からりと音を立て大地に落ちる。その仮面の奥の、絶望に満ちたマリスの顔を憐れむように見つめながら、境華はつぶやいていた。

「私の能力は可能性が僅かにでもあればそれを実現します。つまり。あなたと友達になれる可能性など、最初から皆無だった。……あなた自身が本当の意味での「友」の存在を望まなかったから」

 存在しないものを掴み取ろうとしていた愚かな魔女が崩れるように大地に倒れ伏すと同時、静かに霊刀を鞘に納め、境華は流れる射干玉の髪をかき上げた。
 彼女の黄金に澄んだ瞳が、労り笑みあう二人の魔法少女を改めて映し出す。その微笑ましい光景に、境華も表情を和らげ、胸に手を当てて、そっと自らの心に沁み込んだ「物語」を確かめていた。

「素敵な結末でした。やはり最後はめでたしめでたし、ですね」

アリス・アストレアハート

「お二人ともご無事に変身できてよかったです……♪」

 アリス・アストレアハート(不思議の国の天司神姫アリス・h00831)の花のように無垢な笑顔が咲き零れた。二人の魔法少女、ピュアリィシャインとピュアリィシェイドの身に起きたすれ違い。しかしアリスたちEDENの優しさと励ましによって、彼女たちは再び絆を結び直すことができたのだ。
「ありがとうございます、アリスさん、メアリアンさん」
 感謝に堪えぬように手を組み合わせ頭を下げるシャインとシェイドに、アリスと、彼女の自我持つ分身ともいうべき護霊メアリアンはやや照れたように顔を見合わせ微笑みあう。アリスもメアリアンも、共に二人の友情を取り戻すために尽力した、その甲斐はあったというものだ。
 ……だが。

「いやーほんとよかったよねえ。泣ける! 友情は泣けるねえ! じゃあ今度はこの僕、マリス・ローズの番だ。さあ、僕ともトモダチになっておくれよ」

 聞いたものの背筋を凍らせるような悍ましい含み笑いと共に聞こえてきたその声に、アリスたちは振り返る。漆黒のゴシックドレスに身を包み、可憐な容姿でありつつも明確に漏れ出る邪悪な魂の香りを隠そうともしないその相手の方へと。彼女こそはデザイアモンスターたちを魔法少女に差し向けた張本人、「闇の支配人」マリス・ローズと呼ばれる魔女だ!

「貴女が……マリスさん……? お友達になりたいのですか……? マリスさん……本当は良い方……?』
 きょとんと小鳥のように首を傾げ、とことことマリスの側に駆け寄ろうとしたアリスの腰に、あわててがしっと抱き着いてメアリアンは急制動を掛ける! さらにそのメアリアンの腰にピュアリィシャインがしがみつき、そしてそのシャインの腰をシェイドがひっぱり、あたかも大きなカブ状態!
『そんなワケないでしょ!? こいつの言ってる事は、そんな意味じゃないわよ!?』
「そうですよ、お、落ち着いてくださいアリスさーん!!」

 くすくすと昏く笑って、マリスはそんなアリスたちの姿を眺めた。

「あれぇ、何か誤解があるのかな? 僕は本当にトモダチになってほしいんだよ、僕のいうことを何でも聞いてくれる、何でも思うままになってくれる最高のトモダチにね!」

 その陰惨な言葉に、アリスも可憐な目を見開いて思わず一歩後ずさった。
「……それは……『お友達』ではありません。あなたは……本当のお友達というものの素晴らしさを知らないひとです……!」
「知っているとも! トモダチというのは僕のために喜んで命を捧げてくれる相手のことさ! だから君も僕のために死んでくれるね! トモダチなんだから!」
 地獄の深淵が開いたかのように紅の唇を開き、高笑いを響かせながらマリスは猛然とアリスたちに襲い掛かった! その手に閃くは巨大なる禍つ刃、死と邪悪が形を成した凶器、幻奏魔鎌カオティックローズ! かすりでもすればたちどころに八つ裂きを免れぬ恐るべき武装だ!

 だが魔鎌が大きく弧を描いて唸ったその時に、犠牲になったのは風ばかりだった。
 アリスたちは既に天空高くその姿を舞い上がらせていたのだ。
 その姿は先程までアリスが纏っていた幻想霊装、魔法少女ワンダーキュアリスであろうか……と見えて。
 ――いや、違う!
 ワンダーキュアリスは今、更なる進化を遂げたのだ。
 天空を覆って銀河の星屑のように流れたのは羅紗。無数の羅紗が風にそよぎ幻惑的で幻想的な異界を現出させる。その幻耀の前に、さしもの魔女マリスでさえも思わずたじろぎ後ずさらざるを得ぬほどに。
 見よ、今こそ艶やかに華やかに、翻るは花弁のごとく重なりし流麗なる薄絹。舞い踊るは星の輝き、煌めくは月のまなざし。
 アリスとメアリアンが纏いし天衣こそは――!

「『|羅紗解放・月詠輝夜皇神姫十二単《レリーズタペストグリフ・ツクヨミカグヤモカラギヌ》』!!」

 古からの伝承か神代からの神秘か。その姿はまさに今の世に蘇りし、蒼月の果てより来たった輝夜の姫!
「この姿は……古の月詠の神姫……?」
「|輝夜《カグヤ》スタイル……とでもいうべきかしら☆」
 アリスとメアリアンたちは光に満ちた自分自身の姿に己でさえも驚く。これこそは二人の心が極限にまで響き合い高め合って、魂の深奥から汲み上げた新たなる覚醒なのだ!

『いいじゃない、行くわよアリス☆』
「一緒に行きましょう、護霊ちゃん!!」

 二人の姫は手を合わせ螺旋を描いて飛翔し、裳裾を翻して雲を巻きマリスに立ち向かう!
「ズルい……ズルいじゃないか! 君たちも、そこの魔法少女たちも、なんでそれぞれトモダチがいるんだ! パートナーがいるんだよ! 僕にはいないのに! ズルいじゃないかあああ!!!」

 マリスは半狂乱に叫びながら大鎌をでたらめに振り回そうとする、だがその魔手はすでに動かぬ!
「シェイドバインド!」「あーんどメアリバインド☆」
 マリスの背後から伸びた影がその体をしかと絡めとっていたのだ。それはピュアリィシェイドの、そしてその力をコピーしたメアリアンの技の二重奏!
 だが武器を封じられてもマリスは己の牙を持って狂乱しながら歯向かおうとする。その姿はまさに深く壊れ果てた魔女の末路。
 その蹌踉たる姿に睫を伏せ、魔法少女たちはせめてもの弔いの歌を歌う。
「もう眠ってください……スターライトシャイン!」
「あなたは許せませんが……でも、哀しい人なのですね。……ムーンライトシャイン……!」

 詠唱の響き渡るところ、ピュアリィシャインと、その力をコピーしたアリスの二人が放った星と月の光の雨が滝のように流れ落ち、マリスの体を千々に穿ち切り裂いていたのだった……。

「ありがとうございます、お二人とも」「それにとっても素敵です、その新しい衣装!」
 地上に降り立ったアリスとメアリアンにシャインとシェイドは口々に声を掛ける。その言葉に微笑みあって、アリスとメアリアンはそっと手を繋いだ。

「お二人を見てると、やっぱり仲良しが一番だって思います。ね、護霊ちゃん」
『ま、アリスにはあたしがついてないと心配で仕方ないものね☆』

クラウス・イーザリー

(よかった……)

 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)の瞳は静かな安堵の色に染まっていた。そのまなざしが映していたのは二人の魔法少女、ピュアリィシャインとピュアリィシェイドがそっと確かに寄り添う姿、咲き誇る友情という名の美しい華であったから。
 ほんの僅かなすれ違いから心に冷たい風を吹かせてしまった二人だったが、クラウスたちの後押しのおかげで無事に再び互いの手を取ることができたのだ。きっと二人はもう二度とその手を離すことはないだろう。

「だが――彼女たちに比べて、君の言う『友情』はろくなものじゃないだろうね」
 
 ゆっくりと踵を返し、一転して冷たく澄んだ視線を向けながらクラウスは吐き捨てる。
 赤い唇を引きつらせるような歪んだ微笑を浮かべる、漆黒のゴシックドレスに身を包んだ少女に。その可憐な面立ちとは相反するような腐り淀んだ瞳の奥に悍ましき悪意を蠢かせるもの、それこそは魔法少女たちに怪物どもをけしかけてきた黒幕たる恐るべき魔女、「闇の支配人」マリス・ローズだ!

「あははは! なんだかずいぶん酷いことを言われてるような気がするけどもちろん僕は許してあげるよ。だって君たちは僕のトモダチになるんだものね!」
 狂気の哄笑を響かせながらマリスはゴシックドレスを靡かせ、風のように疾駆する。笑いながら翻した片手には巨大にして凶悪な大鎌を唸らせ、もう片手には壊れた果てた美しさの廃墟ともいうべき仮面を取って!
「そう、トモダチにしてあげるよ! バラバラにした後に全部作り変えてあげるから安心してよね!! 僕のいうことを何でも聞く素晴らしいトモダチにね!」

 天さえも斬り裂くかと思われた大鎌の一閃、だがその兇刃をまともに食らったはずのクラウスの眼前で、鎌の刃は止まっていた。
 ――クラウスの抜き放った煌めく刃に阻まれたことで。
 冷たく輝き冴えて煌々と光る魔力兵装が、魔女の刃をしかと受け止めていたのだ。

「君の言うのは魔法少女たちのそれとは違う、ただの支配欲だ。それを、同じ『友情』という言葉で表現しないでほしいね」

 その言葉そのものがまるで刃のように魔女の魂を斬り裂いたかのようだった。一転狂気の怒りをその目に宿したマリスは、手に持っていた仮面を己の顔に押し当てる! 瞬時、無数の薔薇の蔦が伸び、マリスの身を覆い尽くすと人にして人ならざる異形のシルエットを形作っていく。その身に何輪も咲き誇る薔薇の美しさをもってしてさえ庇いきれぬ、悍ましき人外の魔性へと!

「ふざけるなよ、僕の友情は絶対だ! 僕のトモダチが正しいんだ! それを教えてあげるよ!!」
 魔人は獣のような凶暴さで大鎌を振るい乱れ斬り薙ぎ払う! 周囲に草一本さえ残さぬほどの凄絶な猛襲がクラウスを襲うが、しかし。
「……大振りは隙を生むだけだよ」
 静かにつぶやきつつ、クラウスは髪の毛一筋ほすらないほどの神技的な見切りで大鎌の連撃を開始していく。それは冬の湖水のように清廉に澄み渡ったクラウスの心の静けさあるからこその奇跡。そしてそれを生み出すのは、彼の極限まで研ぎ澄まされた集中力だ。それこそはクラウスの秘技「月下氷雪」!

「シャイン、シェイド、自由に動いて。それでいい。俺のことは心配しないで」
「は、はい!!」
 そしてその超集中をもってすれば当然、魔法少女たちの乱舞による同士討ちも起こり得ようはずはない!
「スターライトシャイン!」
 ピュアリィシャインの放った無限レーザーの雨も、おお、信じがたいことに、クラウスは視線を泳がせることすらもなく全て回避し、ことごとくがマリス一人に叩きつけられる!
「クアアアアアッ!??」
 致命は程遠いもののさすがに悲鳴を上げ、よろめき後ずさるマリスの隙をつき、シェイドの声が響く。
「シャドウバインド――こういう使い方もありますよね!」
 彼女の放った漆黒の影は敵に絡みつくのではなく、なんと無数に編み上げられ、クラウスの足場となる立体構造を構築したのだ!
「いいね、そうやって能力の引き出しを増やしていくのは大したものだよ」
「は、はい!」
 称賛しつつ、クラウスはシャドウバインドの足場を伝い舞うように宙空へ身を翻らせた。
 鮮やかなパルクールのように一幅の芸術のように、その身は意識の間隙を突いて幻のごとく虚空に閃き――。

「……え?」

 ぽつりと声を零したマリスが現実に引き戻された時、彼女の胸には深々とクラウスの鋭刃が突き立っていたのだった。

「……『一閃』」

 ただその一言で十分だった。魔女マリス・ローズに己の最期を悟らせるには。
「そ、そんな……!? ぼ、僕のトモダチにしてあげるはずだったのに……大事な、僕の……」
 わなわなと震えるマリスの仮面がことりと音を立てて大地に落ちる。その虚無に満ちた瞳に、クラウスの静かな表情が写っていた。

「君と友達にはならないよ。彼女たちも、俺もね」
 音もなく刃をマリスの体から抜き、血振るいをしながらクラウスは崩れ去っていく魔女の姿を顧みることもなく歩を進めていく。

「……ああ、友達は大事さ。俺はそれを知ってる。だから思う」
微かに目を伏せ、古い思い出に身を委ねながら、クラウスは魂を僅かに揺らした。
「……君が最初に道を誤った時に止めてくれる誰かがいれば、そして君がそれを受け入れていれば……それこそが本当の友だったはずなのにね……」

ルナリア・ヴァイスヘイム

「尻置いてけー!!!!」
「そこは首じゃないのかい!?」

 おお、なんと恐るべきことであろうか、最初のセリフが正義のヒロイン! そして常識的な次のツッコミが敵のラスボスであろうとは!
 だが仕方がない、だってそれはルナリア・ヴァイスヘイム(白の|魔術師《ウィッチ》/朱に染める者・h01577)なのだから。ルナリアの相手となってしまった悍ましき魔女、「闇の支配人」マリス・ローズもそういう運命だと思って尻を置いていってほしい。

「地の文まで訳が分からなくなったんだけど!?」
「とにかく尻置いてけですよ!」
「どうやってだよ! なんでだよ!」
 可哀そうに、マリスも大概イカれたぶっ壊れキャラのはずなのだが、ルナリアに比べればおとなしく見えてしまう。しょせんマリスは本物のアレには及ばないファッションアレだったということなのだろうか。
「ファッションアレってなんだよ!? っていうかそもそもなんでお尻なんだよ!?」
「え、だって」

 ルナリアは何変なこと言ってんですか控えめに優しく言って頭だいじょうぶ? だいじょうぶじゃないですね? というような顔つきになってきょとんと相手の顔を覗き込む。
「お友達になりたいって言ってたでしょ。つまりお尻を叩き叩かれる仲になりたいって事でしょう?」
「どこの誰だよそんなアホなこと言いだしたのは!」
 おお、慈愛に満ちた読者諸氏は、どうか魔法少女ピュアリィシャインとピュアリィシェイドから目を逸らしてあげてほしい! 二人とも耳まで真っ赤になって顔を覆ってしまっているのだから!

「まあ実際、ひかりちゃんと夜空ちゃんは怪しい扉を開いてだめになっちゃいましたが」
「だ、ダメって言わないでください!」
 涙目になって抗弁するピュアリィシャインだったが、その隣のシェイドはなぜか陶然とした顔で友を見つめ……

「涙目で「ダメ」っていうひかり……なんか……なんか……ハア……ハア……」
 あっほんとに駄目な奴だった。
「……私のせいじゃないですからね」
 MSだってこの子たちをこんな風にするつもりはなかったのに!
「知りませんよ。とにかく、こっちはもうあきらめるとして、マリスちゃんのほうは責任持ってブッこ正してあげねばですね!」
「『ブッこ』って言った!?ねえ今『ブッこ』何とか、って言わなかった!?」
「うるさいですねとりあえず尻を出すんですよ! オラァ! 尻をひとつにしてやんよ!」
「お尻四つにされるよりなんか怖い方向!? くっ、僕のお尻は僕が守ってみせるよ! 召喚、『Spoopy Dominators Ivy』!!」

 かくしてマリスはラスボスのくせに限りなく正当防衛に近い形で√能力を発動! それこそは悍ましい化け物じみた『トモダチ』を呼び出して戦わせる力だ! その怪物がどろりと溶けた触腕を無造作に振り回し、自分に襲い掛かろうとするのをじろりと見ると、ルナリアは。
「ええい、邪魔ですよ! ……ねえねえ、ひかりちゃん、夜空ちゃーん」
 と振り返って二人の魔法少女に声を掛けたではないか。続いて放たれた言葉は!

「この怪物がひかりちゃんのお尻を狙ってるらしいですよ」

 何を言い出すのかとぽかんとしていた魔女マリスであったが、おお、その言葉を聞いた魔法少女たちは!!
「なんですって! ひかりのお尻は私だけのものよ!」
「なんですって! あたしのお尻は夜空ちゃんだけのものだもん!」
「「ぶっ潰す!!」」
 目をギラつかせて怪物に躍りかかっていったではないか! そのまま凄まじい勢いで怪物をフルボッコにしている魔法少女たちの姿に、マリスも思わず口をあんぐり地面まで空けざるを得ない!
 それを眺めるルナリアはやれやれオーマイガーですね、と言った態で手を広げ肩を竦めた。
「美しい絆? 的な何かでなんやかんや何とかしてますね。いいんですかあれ。イメ損じゃない?」
「君が唆したんじゃないか!?」
「仕方ない、マリスちゃんの事は私が面倒見ますね! 逃げられると思うな!」
 恐怖せよ! あーっはっは! と地獄の底から湧き上がるような狂気じみた哄笑を響かせ、悪夢めいた巨大な凶器を振り上げて猛然と敵に迫るルナリアに! ちなみにこんな感じの一文はこれまではだいたいマリスの方の描写に使われてきた系だ!

「うわああああ!!?? 戻れSpoopy!! 僕を守れー!!!」
 絶叫するマリスであったが、彼女の頼みの綱である召喚獣トモダチは!
「尻泥棒潰すべし!!!」「慈悲はないわ!!!!」
 魔法少女たちにボコされていた。尻泥棒ってなんだよ。まあとにかく、もうマリスはどうしようもないってことだ!
 ルナリアの振り上げた大杖が逃げようとしたマリスの背後から追いつき――。
 思いっきり――尻ぃ!!!
「いったあああああ!!!???」
「あはははははははは!!!!|シンプルな暴力《ボクサツ》!!死ぬまで叩けば大体死ぬんですよぉ! おっきい杖で縦! 横! 縦! 横! 途切れる事のない全力ブッ叩きです!」
「いやああああ!!! やめてえええ! 僕のお尻なくなっちゃううううう!!!」
 
 なくなった。

 ホラーオチ。

「死ぬまでお尻を蹂躙するって!!楽しい!!!」

 ……次にお尻を狙われるのはあなたかもしれません。ほら後ろに……!