24
【王権決死戦】◆天使化事変◆第4章『飛び込む魚たち』
塔に、光の環が冠する。
その明かりは徐々に強まり、空はまだ暗いはずが島の内側だけは昼間となっていた。
そして、彼らは踏み込む。
「ここが√汎神解剖機関でのシチリア島か。いやはや全く雰囲気が違うな」
「歴史は感じますが、どの建物も魔術的な施しがありますね。まさに魔術師の島です」
気軽な会話を交わしながらも、その視線は警戒に満ち、周囲に配られていた。その場にいるのは、全て死を覚悟した者たち。
「ここにフューリー様が……!」
「あれが塔かぁ」
100人以上の羅紗魔術師も、船から降りる。隊列を乱して先走ろうとする者もいれば、所属組織の本部を暢気に眺めている者もいる。
そんな者たちに守られているのは一人の少年。
「……」
いや、守っている、と言う方が正しいだろう。彼が広げる領域によって、今まさにこの場にいる者たちは病に侵されずにすんでいる。
天使エド。√能力者となった少年の力はこれからの戦いにおいて要である。彼の頭上には、付き従える騎士の如く数十体のオルガノン・セラフィムが控えていた。
緊張した面持ちでこれから戦場となる街を眺めていた少年はふと疑問を抱く。
「あれ、ここ……」
「なんだエド、何か気になる事でもあったのか?」
「いえ、ただなんだかこの景色に見覚えがあるような」
単なるデジャブだろうか。記憶と視界が重なっている。
静かな街だ。怪物たちがひしめいていると聞いていたが、破壊の痕跡はほとんど見当たらない。なら病が広がる前から変わらない景色のはずだ。
そのまま立ち止まっていれば何かを思い出せそうで、しかしそんな悠長な時間はなかった。
「おい! 早速来たぞ!」
指差される先には、黒いオルガノン・セラフィム。それらは続々とやってきて、√能力者を始末しようと迫ってきていた。すぐさま陣形を整える覚悟した者たちは、武器を取りながらに走り出す。
「置いて行かれるなよ!」
時間はない。最短距離で塔を目指す。
そうして決死戦は始まった。
それを眺める者が一人。
「お、来たね。大体想定通りのルートを選んだようだ」
白い髪が目立つ初老の男性——ダースは、海からやってきた船を見つめて早速動き出す。
「あれだけ多いと、彼の手に渡らなくなってしまうかもしまいませんから。ここで出来るだけ数を減らしておかなくては」
懐から取り出した羅紗を使って収納していたものを道端に置く。それを塔へと向かう道へ続けていった。
「使い終えても念のために取っておいて正解でしたね。やはりどんなものでもいつ使い道が来るかは分からない」
そこに置かれたのは人だ。両目をくりぬかれ、不自然な形に拘束された人間。遠目から見ればケーキのようにも見え、そして今も確かに息をしている。
「せっかく用意した『料理』だ。美味しく食べてくれるといいのだが」
自然な笑みで自身の右瞼を撫でるダース。
泣きわめくことすら許されないでいるそのケーキは、√能力者だった。|何も《√能力も自死も》出来ないよう調理された餌。それに釣られるのは、島の住民たちだ。
「さて、君たちのために、島中のオルガノン・セラフィムを集めておいた。存分に堪能してくれたまえよ」
異物を感知したオルガノン・セラフィムは即座に爪を突き立てる。その光景は繰り返され、上空から見れば塔へと続く黒い道と化していた。
それを仕上げて、ダースは|客《√能力者》を待つ。
とその時、彼の背後にオルガノン・セラフィムが忍び寄った。
「おっと。私もやっぱり狙われるか。だとしたらあまり離れられないねぇ」
油断していたダースは振り下ろされた爪を避け損ね、衣服を切り裂かれる。
そうして僅かに覗いた肌には、神秘的な金属が埋め込まれていた。
●
「これから皆さんには【絶対死領域】へと向かってもらいます」
星詠みである二軒・アサガオは、集まった者たちにそう告げる。時間も許されていないからとそれはどこかまくし立てるようだった。
「塔にまた光の環が現れました。見る様子今すぐと言う訳ではないでしょうが、間違いなく1日もせず、海を越えてあの病が再び広がるでしょう。そしてそれはヨーロッパをも超えて、あるいは√まで超えてしまうかもしれません」
それはまだ推測でしかない。しかしもしそうならば、ここで動かなければ全て間に合わなくなる。
「急がなければなりません。皆さんには今すぐに船に乗って、島へと向かってもらいます。幸いにもエドさんによる天使領域がかなり拡張されたおかげで、島を覆う結界もすぐに突破できそうです」
その成果はまさに準備の賜物だ。とはいえ万全を期していてもその地には死が渦巻いている。
「ええですが、危険なのは上陸してから。船が着岸する位置から塔まではおよそ40kmほど離れています。大体フルマラソンぐらいの距離ですから、皆さんであれば2時間もかからないとは思います。しかし道中には黒いオルガノン・セラフィムが待ち構えているでしょう」
その総数は島の規模から住民が全て怪物となっていると考えれば、数千はくだらない。
「足を止めている暇はありません。回り道をする余裕もないでしょう。そしてそれを突破したとしてもまだ、塔を攻略する必要があります。塔で待ち構えている王権執行者と思われる塔主に関する情報も集めておかなければ、次の戦いで成す術がなくなるかもしれません」
ここもまだ道でしかない。塔に辿り着き、攻略しなければ全てが無意味となる。
「幸いにもおよそ半径1800mの天使領域があります。|6分《720文字》程度ならその場に留まって調べものも可能でしょう。しかしそれを超えてしまえば、特定の耐性等が無いとすぐに天使化の病を受けてしまうようですからお気を付けて下さい」
当然、足を止める者を待つような暇もない。進軍が続く中で調査も行わないといけない。
「それに羅紗の魔術塔の方も104名同行して頂けるようです。先走ろうとする方がいるので彼らには前線を走ってもらいますが、何が起きるかは分かりません。黒いオルガノン・セラフィムを倒しながらの道づくりも必須ですから頼みますね」
その人数はあまりにも頼もしいがしかし、急増の集団でもある。あるいは何か指示を出せば、効率的に消耗を抑え、突然の危機も回避できるかもしれない。
「ああそれと、兵装を持っていく事もお忘れずに。数は限られていますので、一人一つまでですよ。とはいえ多少量産も出来ているみたいなので、他の方と被る心配はしないでください」
きっとこの戦いでは、|それなりの実力《技能値15以上》でないと通用しないから、その兵装は重要となってくるだろう。
「この先はあまりに危険な戦場となるでしょう。慎重を期しても安全とは言い切れません。必ず【死を覚悟する】ようお願いしますね」
そうして星詠みは念を押し、改めて頭を下げた。
「どうか、皆さんで世界を救ってください。よろしくお願いします」
その地は既に洪水に満たされていた。
|鰓《覚悟》が無ければ、飛び込んでも沈むだけ。
|鰭《協力》が無ければ、どこへとも行けないだろう。
魚は泳ぐ。深い深い水底へ。
その水が覆される前に。
マスターより

落光ふたつです。
プレイング冒頭に【死を覚悟する】の記載がない場合は採用出来ませんのでお気を付けください。同行者がいる方は、【相手の名前】又は【合言葉】のご記入をお願いします。
現在の状況はOP冒頭で島に乗り込んだ後です。押し寄せる黒いオルガノン・セラフィムを倒しながら塔へと向かってください。
簡単にですが、これまでのあらすじと人物紹介を一言雑談にて記載します。質問があれば一言雑談で「★」を付けて発言して頂けると見つけやすいので助かります(返答は☆を付けて行います)。
立ち止まった際の文字数に関してはリプレイで数えます。プレイングとそうかけ離れた数字にはしないつもりですが、運悪く不意打ちとかもありますので、そちらを警戒した上で最後に天使領域に戻る等の内容が無ければ、容赦なく天使化の影響を与えます。「環境耐性」「精神抵抗」「狂気耐性」は指定が無くとも天使化に対する技能として発動しますが、それ以外は指定が無ければ発動しません。
技能成否のボーダーラインは基本的には敵相手にです。味方やオブジェクト相手の技能はあまり関係ないと考えてください。
展開していく内容によっては、頂いたプレイングに沿わないリプレイになるかもしれません。また、リプレイを返す順番もこちらの都合で決めてしまいますのでお待たせしてしまうかもしれません。ご了承ください。
それではどうか、よろしくお願いいたします。
58
第1章 冒険 『侵蝕された地へ』

POW
体力に任せて走り抜ける
SPD
危険の前兆を察知し、回避する
WIZ
何らかの術式を用いて怪異の力を退ける