シナリオ

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猫又横丁、思ひ出美食家

#√妖怪百鬼夜行

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 #√妖怪百鬼夜行

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 やぁ、よく此処を見つけたねぇ。
 此処かい? 此処は『猫又横丁』――見ての通り、猫だらけの横丁さ。
 猫の額みたいに狭い通りに、色々な店がずらり並んで犇めき合っている。
 でもな、美味いもんも、掘り出し物も、ちょっぴり変わったもんまで。
 いろんな店があるんで、気になった店があれば、立ち寄ってみてはどうだい?

 ……ん? おすすめの店? いっぱいありすぎて迷うんだが……。
 いろんなものを食べ歩く、というのも良いかもしれないねぇ。
 猫型メンチカツや肉球印のコロッケ、にゃんこ親子のダブルアイスクリンとか。
 様々な味の種類がある、猫型たい焼きも人気だよ。
 黒猫あんこに白猫カスタードに茶トラちょこ、甘くない三毛猫チーズやハチワレ抹茶もありますけれど、お好みの味と猫はあるかい?
 歩き疲れば、「猫執事喫茶」で休憩するのも良いねぇ。
 七色から選べるにゃんこアイスのクリームソーダとか、猫耳プリンアラモードに猫顔パンケーキ、猫型パンのサンドイッチ……いろんなメニューがあるし。
 腹を満たしたいなら、「猫麺亭」のにぼしラーメンは絶品だよ!
 気軽に飲み食いしたいなら「またたび居酒屋」も人気だね。
 グルメ以外にも、色々な店があるんだよ。
 乙女に人気のネイルサロン「爪研ぎ屋」で爪を綺麗に飾ってもらうのも乙だし。
 よろず屋「ねこねこ雑貨店」は、猫ガラスペンや万年筆やインクなどの文房具とか、猫のアクセサリーとか、猫グッズも豊富だから、お土産にどうだい?

 あぁ、それと――いつの間にか最近開店したらしい、穴場なんだけど。
 横丁の最奥に、占いの館がオープンしたみたいだよ。
 占い師のお姉さんが別嬪……いえ、当たるも八卦当たらぬも八卦。
 何やら「その人の過去の話から占う」、珍しい占いらしいとのことで。
 占ってもらった人達は、まるで過去を忘れたかようにすっきりしているのだとか。
 夜しか営業していないようだが――よかったら、占って貰ってはどうかな?

●ねこねこ横丁の思い出喰らい
「みんなは、猫さんは好き? わたしは、とても好き」
 そう皆を迎え入れるのは、物静かだけれど、ほわりと微か笑む少女。
 星読みである楪葉・望々(ノット・アローン・h03556)は観た内容を語り始める。
「今回みんなに行ってもらうのは、√妖怪百鬼夜行。凶暴で他者の血肉を喰らう危険な「古妖」の封印は、√妖怪百鬼夜行の各地に存在するのだけれど。「情念」を抱えた人がこの封印に引き寄せられて、その願いを叶えるという約束と引き換えに、古妖を封印から解き放ってしまったの」
 解き放たれた古妖を自由にさせておく訳には、当然いかないし。
 封印を解いてしまった強い情念を抱えた人も、古妖にそそのかされ、自分の望みが叶わなかったと知ればまた同じ過ちを犯してしまいかねない。故に、封印を解いた彼についても、何らかのフォローをしてあげられるといいかもしれない。
 また、古妖や人々に怪しまれぬよう、猫又横丁を楽しむ客を装うことも必要だろう。
 そして時が来れば、解き放たれた古妖を倒す――これが今回の依頼である。

 それから望々は、依頼の詳細を説明する。
「古妖を解き放ってしまった人は、古妖に、想い人に振られたつらい過去を幸せなものにしてあげると、そそのかされたみたい。それでその人は、自責の念に駆られつつも「自分の願いの為には必要だった」と自分にいい聞かせるように、横丁グルメをやけ食いして回ってるみたいなの。そして解き放たれた古妖は、横丁の最奥にある占いの館の占い師なんだけど……占い屋の門が開くのは夜だから、それまでは怪しまれないように横丁を巡って楽しんでる客を装ったり、古妖を解き放ってしまった人に声をかけたりとか、色々できる時間は十分あるの」
 到着するのは昼、店が開く夜までは自由に過ごせる。
 敵に怪しまれぬよう客を装い横丁を楽しむも良し、封印を解いた人を探すも良し。
 占い屋の館へ押しかけることもできるが、館の扉は閉ざされており、横丁には沢山の一般人や妖怪がおり、何が起こるかわからないので、開店時間を待った方が無難かもしれない。
「そして、解き放たれた古妖を倒して欲しいのだけれど……強大な古妖を再び封印する為の「儀式」が必要だったりとか、配下の敵がたくさん現れたりとか、戦闘はみんなの行動次第になると思うから、状況を見極めてね」

 望々はそこまで説明した後、くるりと皆を見回して。
「古妖を退治するのが一番の目的だけれど。横丁のお店の人もみんな猫又さんのようだし、猫さんもいっぱい横丁にいて人懐っこいみたいだから、もふもふなでなでして遊んであげてもいいと思うし。それに猫さんグルメ、とってもかわいくて美味しそう」
 だから楽しんできて、と小さく笑んだ後。
 望々は、よろしくお願いしますとぺこりお辞儀をして、皆を送り出すのだった。
これまでのお話

第2章 冒険 『古妖の呪い』


POW 気合で怪現象を退ける
SPD 呪いの発生源を突き止め、簡易封印を施す
WIZ 呪いに干渉し、無害な現象で上書きする
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●美食家な思い出喰い
 夜になって、赤提灯が飲食店に灯り始めれば。
 にゃーんと相変わらず気ままな猫たちが闊歩する――猫又横丁の最奥。
 密かに視線を向けていた占いの館に明かりが燈ったことに気づく。
 そしていつの間にか『商い中』という看板がかけられており、閉ざされていたはずの扉が開いていて。
 奥に見える扉に飾られているのは、椿の花。
 例の占い師が今宵の営業を……いや、件の古妖が狩りを始めたのである。
 占いはお一人様、もしくは1グループずつ。占い中は他の人は、それまでは館にすら入れない仕様のようだ。
 それに順番がきて、館に足を踏み入れても、すぐに占い師の姿はなく。
 ふわりと何かの甘い香が漂う中、こんなに広い館だったのかと思うくらい、長い廊下を何度も曲がって。
 ようやく辿り着いた一番奥の部屋で、占い師は客を待っていた。
『よくお越しになられました。定められた星の運命を、わっちに視せてくださいませ』
 別嬪だとは聞いていたが、その容姿はまるで花魁かのように華があり、まさに美貌の占い師。
 それから顔をじっと見つめられれば、くらりと視界が回ったような気がしたけれど。
『あら、貴方様の思い出は美味しそ……いえ、貴方様の心にある思い出をひとつ、わっちに語ってくださいませ。なんでも構いません、過去のことならば……楽しいもの、かなしいもの、作り話であっても、それが貴方様がご自身の思い出だと語るのでしたら……それもまた美味、いえ一興でございます』
 今此処で、占い師を攻撃してはどうかと考える者もいるだろう。
 だが何故か、占い師へと攻撃することはできず。
 けれど、占い師の様子を見ると、逆もまた然りの様子だ。
 そう――この館自体にかかっているのは『古妖の呪い』。
『安心してくださいませ、美味しいかどうか……いえ占いの結果は、思い出話の内容自体にはございません。なので、どうぞ御心のままに』
 占い師が促すように、思い出話を語る以外、今は何もできないようだ。
 だが、どこかで占い師は仕掛けてくるはず。美味しい思い出を喰らうために。
 だから敢えて、まずは占い師に怪しまれぬよう語ってやろう。
 ご所望通り、自分の『思い出』を。
<マスターより補足>
 第2章は【戦闘が発生しない】冒険章です。戦闘は第3章でとなります。
 POW・SPD・WIZはお気になさらず、皆様の何らかの思い出を語ってください。
 思い出語り以外の行動は、不採用もしくはマスタリング対象となります。
 
酒木・安寿
アドリブ歓迎
こんにちわ!
わわっ、占い師のお姉さんめっちゃ別嬪さんやなぁ。ちょっと緊張してまうわぁ。

うちのこと占うのに思い出話が必要かぁ…そうやな。訛りを聞いてもろたらわかる通りうちはもっと西の方の生まれやねん。
そんでなこっちに引っ越してきたんやけど。
訛りのせいかなかなか友達ができんかったんやけど…今は幼馴染!な友達もいるし毎日楽しいよ!
後な!今一番好きなんは人間の奏でる音楽や!!真似て歌ってるだけやったから最初は下手っぴやったけど今は大分様になってるんやで!それにな幼馴染が一番にファンになってく
れて一番のファンや言うてくれてる…。
こんな嬉しいことないで♪

こんな感じでどないやろか?

 夜を迎えて明かりが灯った占いの館へと、今宵一番乗りしたお客さんは。
 どれだけ長い廊下を歩いたか……椿の花が飾ってある扉を開ければ、鮮やかな朱色のお耳がぴこり。
「こんにちわ! わわっ、占い師のお姉さんめっちゃ別嬪さんやなぁ。ちょっと緊張してまうわぁ」
 そう占い師へと紡ぐ、酒木・安寿(駄菓子屋でぃーゔぁ・h00626)。
 そんな安寿に、美しい占い師――星詠みの悪妖『椿太夫』は満更でもなさそうにわらって。
『ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫でございますよ。さぁ、わっちに、狐さんの思い出を語ってくださいまし』
「うちのこと占うのに思い出話が必要かぁ……」
 占い師から思い出話を促されれば、安寿は少しずつ考えながらも語り始める。
「……そうやな。訛りを聞いてもろたらわかる通りうちはもっと西の方の生まれやねん」
『ええ、やっぱり西の方の出身なのね』
「そんでなこっちに引っ越してきたんやけど。訛りのせいかなかなか友達ができんかったんやけど……」
 うんうんと興味津々、頷きながら話に耳を傾けている占い師に笑顔でこう続ける。
「今は幼馴染! な友達もいるし毎日楽しいよ!」
『あらまぁ、きっと貴方様は楽しいって思えるほどにまで、よう頑張ったのですね。なんとも美味しそ……素敵な思い出だわ』
 そんな思い出話だけでも、占い師の食いつきは上々であったのだけれど。
 さらに安寿は尻尾をゆらりら、弾むような声でさらに語ってみせる。
「後な! 今一番好きなんは人間の奏でる音楽や!! 真似て歌ってるだけやったから最初は下手っぴやったけど今は大分様になってるんやで!」
『あら、歌。どうりで、よく響く御声だと思いましたら』
「せやろ。それにな幼馴染が一番にファンになってくれて一番のファンや言うてくれてる……。こんな嬉しいことないで♪」
 それから……こんな感じでどないやろか? なんて。
 自分を品定めするかのようにじいと見つめている椿太夫へと、ちらり視線を向ければ。
 より一層、甘やかな香りがしたかと思った瞬間、くらりと世界が廻って――遠くから、占い師のこんな声が聞こえたような気がした。
『ふふ、わっちも、元気な狐のお嬢さんのファンになってしまいそう』
 ……だって、とっても美味しそうな思い出なのだもの、と。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

刻・懐古
占いは初体験。昔、客の女学生が星だとか花だとかでも占えるとやって見せられたことがあったが、あれは素人の戯れに付き合ったに過ぎなかった
“当たるも八卦当たらぬも八卦”、この言葉が全てだろう
なんて頭に巡らせながら長い廊下を行く

椿の花、甘い香、待ち受ける“占師”とやらの姿は薄々想像していた通り
花魁を思わせる容姿に成程、と妙に納得

思い出話を促され、ここは合わせるが吉と語る
「では、猫に纏わる話をひとつ」
自分に懐き、己も大切にしていた猫がある冬の寒い朝に静かに息を引き取った
猫は死に際を見せぬと言うが、傍で死を選んだあの猫の気持ちはどうだったのだろう

猫又横丁で猫に触れ、久方ぶりに思いだした。そんな話
アドリブ◎

 ――“当たるも八卦当たらぬも八卦”。
 占いは初体験であるが、この言葉が全てだろう、と。
 そう頭に巡らせながら、まるで刻を刻むかのように一歩ずつ。
 やたら長い館の廊下を歩み行くのは、刻・懐古(旨い物は宵のうち・h00369)。
(「昔、客の女学生が星だとか花だとかでも占えるとやって見せられたことがあったが、あれは素人の戯れに付き合ったに過ぎなかった」)
 いや、実際にこれから占って貰う占い師は古妖で、素人の戯れどころか偽物で。
 彼女は星や花のかわりに、客の思い出話を聞いてくるのだというが。  
 どれほど歩かされただろうか、明らかに長すぎる館の廊下を何度も曲がっては、奥へと進みながらも。
 椿の花、甘い香……それに、ようやく辿り着いた最奥の扉を開けば。
『よういらっしゃいました。わっちに思い出話を聞かせてくださいませ』
 待ち受ける“占師”とやらの姿は、懐古の薄々想像していた通りであったのだ。
 そして、花魁を思わせる美しき容姿に成程、と妙に納得しながらも。
 思い出話を促されれば、そっとその心に思う。
「では、猫に纏わる話をひとつ」
 ――ここは合わせるが吉、と。
『ふふ、猫のお話ですか。この横丁にぴったりでございますね』
 本当は、己の物語よりも|他者《だれか》の物語に興味があるのだけれど。
 今宵は特別、わくわくした様子で耳を傾ける、占い師こと星詠みの悪妖『椿太夫』へと。
 懐古が語るのは、彼女が所望する、自分の思い出話。
「自分に懐き、己も大切にしていた猫がある冬の寒い朝に静かに息を引き取った」
 今と同じような季節――或る寒い冬の、猫の話を。
 だって、久方ぶりに懐古は思い出したのだから。
「猫は死に際を見せぬと言うが、傍で死を選んだあの猫の気持ちはどうだったのだろう」
 猫又横丁で猫に触れて……そんな話を、ふと。
 そう己の傍を死に場所に選んだ、あの時の猫の姿を思い返しながら。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

玉梓・言葉
別嬪さんに見つめられるのは照れるのう

そうじゃな、儂がただの道具だった頃の話じゃよ

鬼籍に入っている初めの持ち主を思い目を細める

親父殿が文字をしたためる時間がほんに好きじゃった
くふふ、好いとる女子への恋文の為の時間は甘酸っぱくてのぉ
どう書けば相手を喜ばせるだろう、興味のある話題は何か、今日見たものを相手にも伝えたい……
そう沢山の想いの溢れる文字を沢山書いては書き直しを繰り返し、納得いったものを相手に届ける

握りしめられてる身としてはもうすこぉしやさしゅう握って欲しいのが本音じゃが、その日の力加減で親父殿の気分が伝わってくるのが面白うての
その癖手入れをする手は優しいんじゃ

それはもう、愛しい時間じゃった

 やはり楽し気に笑う彼は、儚げな青年のナリをしているというのに。
「別嬪さんに見つめられるのは照れるのう」
 ようやく辿り着いた館の最奥で占い師を見れば、紡がれる言の葉は好々爺然。
 けれど、それもそのはず。
 玉梓・言葉(|紙上の観測者《だいさんしゃ》・h03308)は、青年というには長い時間在るのだから。
「そうじゃな、儂がただの道具だった頃の話じゃよ」
『貴方は道具でございましたの? そんな年季の入った思い出なんて美味しそ……面白そう』
 占い師が本当に、自分が道具――元はガラスペンであったことを、本当なのか作り話か、どちらに思ったかはわからないが。
 期待に満ちた熱い視線を向けられれば、お望み通り、言葉は語ってやることにする。
 鬼籍に入っている初めの持ち主を思い目を細めながら、昔々の話を。
「親父殿が文字をしたためる時間がほんに好きじゃった。くふふ、好いとる女子への恋文の為の時間は甘酸っぱくてのぉ。どう書けば相手を喜ばせるだろう、興味のある話題は何か、今日見たものを相手にも伝えたい……そう沢山の想いの溢れる文字を沢山書いては書き直しを繰り返し、納得いったものを相手に届けておった」
『まぁ、貴方の最初の持ち主様は、恋をなされていらっしゃったのね。わっちも沢山恋文はいただいたわ』
「お主も別嬪さんじゃからのぉ、殿方も放っておかぬじゃろ」
 相手は古妖であるが、このような会話もまた良いと笑って。
 その時の思い出を、言葉は引き続き語る。
 今でも脳裏に蘇る思い出の感覚はそう、親父殿の手の感触。
「握りしめられてる身としてはもうすこぉしやさしゅう握って欲しいのが本音じゃが、その日の力加減で親父殿の気分が伝わってくるのが面白うての」
 気合十分に力を込めて握られればそれは恋文で、さらりと走るような軽い力加減はメモ書き、ちょっぴり慎重に数字を描いている時は店の帳簿をつける時……などなど。
 親父殿の気持ちの表れが、当時ガラスペンであった言葉には、文字通り手に取るようにわかって愉快であったし。
 その中でも、一番印象的だったのは、そう。
「その癖手入れをする手は優しいんじゃ」
 自分のことを手入れしてくれた時の、優しい手つき。
 修繕を施されながら大切に使われていたからこそ、言葉は付喪神となったわけであるし。
 言葉の心に今綴られるのは、あの時、大切に思ってくれていた親父殿や持ち主たちときっと同じ気持ち。
 ――それはもう、愛しい時間じゃった、と。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

早乙女・伽羅
古妖に喰わせるものなど何もないのだが、まあいい
ひとつ謀られたふりで話に乗ってやろう

「今の商売がいまひとつうまくなくてね……何か助言めいた占いでも」

人の世でいうところの明治、その頃に俺は亜米利加から日本へ連れられてきた
舶来ものの猫ということで貰われた先の家では大層大事にしてもらったよ
当時、キャラメルという菓子が売られ始めて子供らも夢中でね
それで俺の名前も「キャラメル」と決まった
特に一番上の娘は俺を片時も離したがらないほど可愛がってくれたのだ
猫にしてはそこそこ長生きだなと皆が首を傾げだす頃
大きな地震があって、その家はまるごと災いに呑まれてしまった
この不運は、俺が猫又であったせいだったのだろうか?

 もう、本当の年齢はとうの昔から数える気が失せている。
 何せ、早乙女・伽羅(元警察官の画廊店主・h00414)の年はきっと、おそらく三桁はあるだろうから。
 だからその年月を思えば、語る思い出はその分沢山あるのかもしれないが。
 年を数えなくなったのと同じように、忘れていることも正直数知れずであるし。
 それ以前に、何よりも。
(「古妖に喰わせるものなど何もないのだが、まあいい」)
 自称美食家であるとしても、古妖に喰わせる思い出などそもそもないのだ。
 だがこれは、れっきとした依頼でもあるから……ひとつ謀られたふりで話に乗ってやろう、と。
 明らかに妖しい椿の花や甘い香、違和感しかない長い長い廊下をとてとてと館の最奥へと向かって。
『素敵なもふもふのお客様、よくぞお越しになられましたね』
「今の商売がいまひとつうまくなくてね……何か助言めいた占いでも」
 扉を開いた先、噂通り待ち構えていたのは、花魁の如き美しい占い師。
 そして伽羅の言葉に、にこりと妖艶な笑みを咲かせ、占い師は促す。
『わっちが占って差し上げましょう。貴方様の思い出話をひとつ、お聞かせいただければ』
 だから敢えて、伽羅は語り始める。
「人の世でいうところの明治、その頃に俺は亜米利加から日本へ連れられてきた。舶来ものの猫ということで貰われた先の家では大層大事にしてもらったよ」
 日本へと渡ってきた頃の思い出話を。
「当時、キャラメルという菓子が売られ始めて子供らも夢中でね。それで俺の名前も「キャラメル」と決まった」
『ふふ、それはとっても美味しそうでございますね』
 占い師はそう紡ぐけれど、でも勿論、喰わせる気など伽羅にはない。
 ハイカラ好きの飼い主に与えられたこの名を、とても大事にしているのだから。
 それから思い出すのは、恐らく他の人の何倍も、もふもふなでなでしてくれていたあの子のこと。
「特に一番上の娘は俺を片時も離したがらないほど可愛がってくれたのだ」
 けれど伽羅はただの猫ではなく、猫又――猫にしてはそこそこ長生きだなと皆が首を傾げだす頃。
「大きな地震があって、その家はまるごと災いに呑まれてしまった」
『まぁ……壮絶な思い出話もまた、味わい深いものですわ』
 そして伽羅は占い師へと改めて視線を向けて、こう訊ねるのであった。
 ……この不運は、俺が猫又であったせいだったのだろうか? と。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

桐生・綾音
妹の彩綾(h01453)とお母さん代わりの菫さん(h05002)と参加

あ、菫さん、上手く連絡いったようでよかった。もちろん、菫さんにも猫さんクッション買ったし、ノートも買ったよ!!

うん、前にも話したとおり古妖絡みの案件だよ。とりあえず目の前の占い師さんに思い出語りをすればいいんだって。まあ、菫さんも旦那さんと娘さん達亡くしたけど、楽しい思い出いっぱいあるよね。

私と彩綾はなんでも自給自足しちゃう故郷だから毎日駆け回って耕したり採取してたりしてたなあ・・・広い自然豊かで動く生活はとても楽しい思い出。まあ、いきなり都会にほうりこまれても菫さんのおかげでなんとかなってるよ。

これで満足してくれたかな?
桐生・彩綾
姉の綾音(h01388)と母親代わりの菫さん(h5002)と参加

あ、菫さん、無事に合流できてよかった。うん、菫さんのクッションとノート買っといたよ!!件の古妖案件だね。直接戦いはさせられないけど、こういう条件でおきることもあるってしるのは大切だと思うんだ。

私とお姉ちゃんは自給自足の生活だった。お姉ちゃんは色々駆け回ったのがいい思い出らしいけど、私はお裁縫で服を作るのが楽しかったなあ・・・。織り機で布も織ったし。草木素材で染め物もしたよ。今は都会でくらしてるけど裁縫が意外と役に立ってるし。

え?菫さんは猪とおいかけっこしたり熊と出会って撃退した?案外逞しい経験してるんだね・・・流石。
藤原・菫
後援している娘の綾音(h01388)と彩綾(h01453)と参加

随分奥まった場所にあるんだね。まあ、占い師というのは密かに店を構える人が多いから。それを抜きにしても怪しい匂いとオーラ。うん、綾音と彩綾のいう案件みたい。直接対決はまかせるけど、現場は知っていた方がいいしね。

私も生まれ故郷は自然豊かなところだったんだよ?家族4人でよく遊びにいった。畑の手伝いもしてた。

強烈な思い出かあ・・・。直接現場に出向いて調査するタイプだから猪おいかけて生態調査したり熊遭遇して撃退したり?なんか周りがひいてるけど。

申し訳ないね占い師さん。綺麗な思い出じゃなくて。でも楽しかったことは確かなんだよ。

 狭い通りに、犇めくように並ぶ店々。
 そして其処を闊歩するのはこの横丁を訪れた人々と、沢山の猫。
 そんな猫の額ように狭い通りを奥へ、さらに奥へと進んでいけば。
 藤原・菫(気高き紫の花・h05002)は、後援している娘達との待ち合わせ場所に到着する。
「随分奥まった場所にあるんだね」
 そう呟きつつ見つめるのは、明かりが燈り、扉がようやく開いた館。
 それからふと、目を向けるのは。
「あ、菫さん、無事に合流できてよかった」
「あ、菫さん、上手く連絡いったようでよかった。もちろん、菫さんにも猫さんクッション買ったし、ノートも買ったよ!」
「うん、菫さんのクッションとノート買っといたよ!!」
 自分の姿を見つけて駆け寄ってくる、桐生・綾音(真紅の疾風・h01388)と桐生・彩綾(青碧の薫風・h01453)の姿。
 ふたりを見れば、良い買い物やグルメが満喫できたようであるし。
 土産も色々買ってくれた様子に笑みつつ礼を告げてから。
 改めて、横丁の最奥に佇む館を見遣り、菫は紡ぐ。
「まあ、占い師というのは密かに店を構える人が多いから」
 ……それを抜きにしても怪しい匂いとオーラ、と。
 だがそれも、星詠みの予知通りであるのだ。
「うん、前にも話したとおり古妖絡みの案件だよ」
「件の古妖案件だね。直接戦いはさせられないけど、こういう条件でおきることもあるってしるのは大切だと思うんだ」
「うん、綾音と彩綾のいう案件みたい。直接対決はまかせるけど、現場は知っていた方がいいしね」
 この占いの館の最奥で、古妖は待ち構えているのだという。
 訪れた人々の美味な思い出を、美味しくいただくために。
 それから3人で、案内されるまま館内へと足を踏み入れて。
 長い廊下を幾度も曲がった先の、椿の花が飾ってある扉を開けば。
『あら、今度は御三方なのね。思い出を語ってくだされば、わっちが占って差し上げますよ』
 そこにいるのは、館の占い師……いや、古妖の、星詠みの悪妖『椿太夫』であった。
 そんな彼女の声を聞いて、綾音は彩綾と菫へとこう告げつつも。
「とりあえず目の前の占い師さんに思い出語りをすればいいんだって。まあ、菫さんも旦那さんと娘さん達亡くしたけど、楽しい思い出いっぱいあるよね」
 まずは自分の思い出を語る。
「私と彩綾はなんでも自給自足しちゃう故郷だから毎日駆け回って耕したり採取してたりしてたなあ……広い自然豊かで動く生活はとても楽しい思い出。まあ、いきなり都会にほうりこまれても菫さんのおかげでなんとかなってるよ」
 それから続いて、彩綾も当時の思い出を語り始めるけれど。
「私とお姉ちゃんは自給自足の生活だった。お姉ちゃんは色々駆け回ったのがいい思い出らしいけど、私はお裁縫で服を作るのが楽しかったなあ……織り機で布も織ったし。草木素材で染め物もしたよ。今は都会でくらしてるけど裁縫が意外と役に立ってるし」
 同じ環境で育って、同じように過ごしてきたのだけれど。
 それぞれ好きだったことが違うのもまた、ふたりらしくて。
 だからこそ、都会に出た時にも一緒に協力し合えたのだろうけれど。
 でも実は、そんな大自然の中で育ったのは、何も二人だけではなくて。
「私も生まれ故郷は自然豊かなところだったんだよ? 家族4人でよく遊びにいった。畑の手伝いもしてた」
 実は菫も、自然豊かなところで育ったという。
 それに、菫といえばやはり。
「強烈な思い出かあ……直接現場に出向いて調査するタイプだから猪おいかけて生態調査したり熊遭遇して撃退したり?」
「え? 菫さんは猪とおいかけっこしたり熊と出会って撃退した?案外逞しい経験してるんだね……流石」
 ……なんか周りがひいてるけど、なんて。
 そうちょっぴり苦笑しながらも、思い出話を欲している占い師へと告げる菫。
「申し訳ないね占い師さん。綺麗な思い出じゃなくて。でも楽しかったことは確かなんだよ」
『ふふ、全然問題ありません。3人まとめていただいても美味し……いえ、素敵な思い出でございます』
 それから、そうにこにこと笑む占い師を見遣り、綾音は思う。
 思い出を所望する古妖に……これで満足してくれたかな? って。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

セラフィナ・リュミエール
【アドリブ歓迎】【ソロ希望】
綺麗な人……い、いえセフィは惑わされませんわ(綺麗な相手に思わずどきっとしまうものの、事件解決の為に強い意志をもう1度自覚して)
セフィは4歳の時に意識を自覚しましたわ、始まりの記憶は拘束具による拘束と大量の汗をかき、口枷を嵌められて涎と涙を流しながらひたすら砂漠を歩き続けていましたわ
でも止まらればお尻をその場で四つん這いにし叩かれるオシオキをされましたわ、泣いても抵抗してもそれは無意味ですわ。
セフィはそれから2年間はこの声と羽根のせいか鳥篭の中で歌わされ、いろんな人に歌う小鳥として飼われてんてんとしていましたわ
√能力に目覚めた数か月前には必死の思いで脱走しましたわ

 夜になって、そろりと足を踏み入れた占いの館。
 ひとりだからちょっぴり不安でドキドキしていたけれど、広い館を沢山歩いて、辿り着いた最奥の部屋で。
 椿の花が飾られた扉をそっと開いてみれば、セラフィナ・リュミエール(オペラエル・h00968)は思わずどきっとしてしまう。
『おやまぁ、次のお客様は随分とお可愛らしい』
「綺麗な人……」
 最奥の部屋にいた占い師の、美しくも妖艶な見目に。
 けれど、綺麗な相手を前にして、思わず魅入ってしまったものの。
(「……い、いえセフィは惑わされませんわ」)
 此処へと来た目的を、セラフィナはちゃんと覚えているから。
 事件解決の為に強い意志をもう1度、きりりと頑張って自覚して。
 依頼の目的である古妖退治……とは、まだ古妖の呪いを解かねばできないようなので。
『お嬢さんの思い出話、聞かせていただけるかしら?』
 まずは、占い師の言う通りに、セラフィナは己の思い出を語り始める。
「セフィは4歳の時に意識を自覚しましたわ」
 まだ7歳であるセラフィナにとって、意識を自覚してからまだ数年ではあるが。
 思い返してみるのは、4歳の時のこと。
「始まりの記憶は拘束具による拘束と大量の汗をかき、口枷を嵌められて涎と涙を流しながらひたすら砂漠を歩き続けていましたわ」
『それって……奴隷、だったのかしら』
 占い師はセラフィナの話を聞きつつ、首を微か傾けるも。
 セラフィナは頷き、思い出の続きをこう語る。
「でも止まればお尻をその場で四つん這いにし叩かれるオシオキをされましたわ、泣いても抵抗してもそれは無意味ですわ」
 そしてそれから2年間は、てんてんとしていたという。
「セフィはそれから2年間はこの声と羽根のせいか鳥篭の中で歌わされ、いろんな人に歌う小鳥として飼われていましたわ」
『確かに、貴方の声はとても美しいわ』
 古妖も納得するほどの、美しい声で囀る小鳥のように。
 さらには背に羽根があるから、ますます小鳥として鳥篭の中で歌わされていたセラフィナ。
 けれど転機が訪れたのだ。それは、√能力に目覚めた数か月前。
「必死の思いで脱走しましたわ」
 セラフィナは少しずつ思い返しながらも、占い師へと語る。
 囚われの小鳥が鳥籠から解放されて、自由を得た今に至る――そんな思い出話を。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

アドリアン・ラモート
心情:
「占いって妙なもんだな……」
相手の静かな雰囲気に、普段語らない自分の思い出を話してもいいかもしれないと感じた。忘れかけていた記憶が、自然と口をついて出る。「誰かに聞いてほしかったのかもな」と、少し照れくさい気持ちを抱えながら。

行動:
「昔、引きこもってたんだ。窓の外だけが俺の世界でな……」
アドリアンはふにゃっとした笑顔で語り始める。視線は遠くに向けられ、影が足元でゆっくりと揺れる。
「ある日、空の雲が妙に綺麗でさ。外が怖いと思ってたはずなのに、気づいたら動いてたんだよ。誰かに背中を押されたみたいだったな」
語り終えると占い師に向き直り、少し笑って言う。
「これって、何か意味があるのか?」

 珍しく外へと赴いて、本屋でちょっと普段買わない紙の本を目一杯物色して。
 どのみち外に出ているのだからと、アドリアン・ラモート(ひきこもりの吸血鬼・h02500)は足を運んでみたのだ。
 夜になって灯りが燈された、横丁の最奥にひっそりと佇む占いの館へと。
 それから視て貰う順番が回ってきて、館内へと通されれば。
 長い長い廊下の先、占い師がいるという一番奥の部屋の扉を開いて。
『いらっしゃいませ、貴方の思い出話を聞かせてくださいな』
 そうにっこり笑顔で紡ぐのは、花魁のように美しい占い師。
 いや、正確に言えば彼女は古妖。それは星詠みでわかっているのだけれど。
『どんな内容でも構いませぬ、貴方様の思い出話でしたら、なんなりと』
 じっと見つめられ、そう促されれば、アドリアンは思うのだった。
(「占いって妙なもんだな……」)
 普段は語らない自分の思い出。
 でも相手の静かな雰囲気に、話してもいいかもしれないと感じれば。
 忘れかけていた記憶が自然と口をついて、ぽろりと零れ落ちて。
「昔、引きこもってたんだ。窓の外だけが俺の世界でな……」
 視線は遠くに向けられ、影が足元でゆっくりとゆらり揺れる。
 それから、ふにゃっとした笑顔で語り始めるアドリアンだけれど。
「ある日、空の雲が妙に綺麗でさ。外が怖いと思ってたはずなのに、気づいたら動いてたんだよ。誰かに背中を押されたみたいだったな」
『ふふ、とっても美味しそう……いえ、素敵なお話ね』
 ひと通り語り終えて占い師に向き直れば、少し笑って紡ぐ。
「これって、何か意味があるのか?」
『ええ、ええ。勿論ありますよ。当たるも八卦当たらぬも八卦、でございますけれど』
 そう妖艶に瞳を細める彼女を見遣れば、何だか少し擽ったくなってしまうアドリアン。
(「誰かに聞いてほしかったのかもな」)
 そんな、ちょっぴり照れくさい気持ちを抱えながら。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

九条・庵
アンタが評判の占い師?
美人て聞いてさ、それもちょっと楽しみだった
綺麗なモンは見とくに限る、自分の美意識も上がるしね
そんなわけでおねーさん、ゆっくり話そっか
俺の話が聞いて楽しいモンかは保証しかねるケド

元々物怖じする性分じゃねーけど
呑まれないように堂々と振る舞う
こんなガキが色男気取ってんの、面白がってくんねーかなと思ってサ

俺は霊的な勘が生まれつき強い|性質《タチ》でさ
ガキん時から変なモンが見えたし、
やたら寄って来られもした、可愛いからね
家族もそういうモンに殺されてもういない
しんどくなって逃げ出して、
今は…縁あってある店に下宿させて貰ってる
運は良かったと思うよ
こんなガキが1人で身を立ててるワケだし

 甘い香りが漂い、椿の花がそこかしこに咲く中、異様に長い廊下を歩いて。
 漸く辿り着いた扉の向こうには、妖艶に咲く華の姿が。
 九条・庵(Clumsy Cat・h02721)は館の最奥で待っていた占い師を見遣り、小さく首を傾けてみせて。
「アンタが評判の占い師?」
 ふっと笑み、花魁を思わせる美貌の占い師を見遣れば。
 余裕な様子を見せながらも、心の内では確りと意識しておく。
「美人て聞いてさ、それもちょっと楽しみだった。綺麗なモンは見とくに限る、自分の美意識も上がるしね」
『うふふ、わっちは評判なのでございましょうか、嬉しゅうございますね』
 そう綺麗な笑みを向けられれば、くらりと酔うような感覚を抱いてしまうそうになるから。
(「元々物怖じする性分じゃねーけど、呑まれないように」)
 あくまで堂々と振舞ってみせながら、占い師へとこんな誘いの声を。
「そんなわけでおねーさん、ゆっくり話そっか」
 ……俺の話が聞いて楽しいモンかは保証しかねるケド、なんて。
 いや、ただ背伸びをしたいお年頃、というわけではなく。
『んふふ、可愛い坊やねェ』
(「こんなガキが色男気取ってんの、面白がってくんねーかなと思ってサ」)
 またそういう別の思惑も、あるわけなのだけれど。
『わっちに坊やの思い出話、聞かせて頂戴な』
 古妖の呪いを解くためにも必要なことだから、ご所望通り語ってやることにする。
「俺は霊的な勘が生まれつき強い|性質《タチ》でさ。ガキん時から変なモンが見えたし、やたら寄って来られもした、可愛いからね」
 あくまで相手が面白がってくれそうな言葉を選びつつも。
『ふふ、確かに坊やは可愛いわ、思い出を食べちゃいたいくらいに』
 楽し気にわらう占い師――椿太夫の反応を見ながらも、庵はこう続ける。
「家族もそういうモンに殺されてもういない」
 けれどそれは過去のことで。
 こうやって話せているのは、きっと。
「しんどくなって逃げ出して、今は……縁あってある店に下宿させて貰ってる」
 下宿先の主人は保護者気取りだけれど、それもまぁ悪くはなくて。
 だから――運は良かったと思うよ、なんて。
「こんなガキが1人で身を立ててるワケだし」
 少しだけ素直に庵は紡ぐ。今はふらりと、帰れる場所があるのだから。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

志藤・遙斗
タバコを吸いながら猫横丁の最奥を見ながら。
「さて、噂の占い師さんに会いに行くと行きますか。」
「思い出話ですか?そうですね。」
少し考えるそぶりを見せながら、占い師の様子を観察してから
「俺の思い出は家族のことですね。俺と妹が小さいころに両親が亡くなって、今では写真を見ないと顔を思い出すこともないのですが、父親とはよく公園でキャッチボールをやりましたね。中々取れない俺に何度も教えてくれました。で、取れると自分のように喜んでくれましたね。それを見守る母親と母の膝の上で俺を応援してくれている妹。そんな家族との思いでは今でも思いだせますね。」

 対象が動き出すまで待つ、なんてことは、仕事柄慣れっこではあるけれど。
 やはり暇があれば、つい咥えてしまうタバコ。
 そして何本吸っただろうか、煙をそっと吐きながらも横丁の最奥を見ていれば。
 空が暗くなってきた頃――聞いていた通りに、館に明かりが灯って。
 閉ざされていた門が開き、掛けられた看板は『商い中』。
 それを確認すれば、ようやくぎゅっと煙草をもみ消してから。
「さて、噂の占い師さんに会いに行くと行きますか」
 遙斗はこの横丁の治安を守るべく、密かに仕事に取り掛かる。
 警察官として、そして√能力者として。
 占い師を騙り、狩りをはじめた、古妖の尻尾を掴むために。
 そして件の館内に足を運べば、妙に甘やかな香りが漂っている長い廊下を歩いて。
 最奥の部屋で待っていたのは、美しく笑み咲かせる妖艶な華。
『いらっしゃいませ、貴方様の思い出をきかせてくださいな。わっちが占って差し上げましょう』
「思い出話ですか? そうですね」
 そう促されるまま、少し考えるそぶりを見せながらも。
 占い師の様子を観察してから、遙斗は語り始める。
「俺の思い出は家族のことですね」
『ご家族との思い出も、わっちは大好物……いえ、好きでございますよ』
 ふふ、と笑む占い師――古妖の動向からは目を離さぬようにしつつ。
「俺と妹が小さいころに両親が亡くなって、今では写真を見ないと顔を思い出すこともないのですが、父親とはよく公園でキャッチボールをやりましたね。中々取れない俺に何度も教えてくれました。で、取れると自分のように喜んでくれましたね」
 思い返すのは在りし日に、父とキャッチボールをしたこと。
 いや、思い出に在るのは父の姿だけではない。
「それを見守る母親と母の膝の上で俺を応援してくれている妹。そんな家族との思いでは今でも思いだせますね」
 遙斗はそう家族全員の思い出を語りながら、いまだはっきりと蘇る光景にそっと瞳を細める。
 家族皆と過ごした、もう今は記憶の中だけの風景に。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

フランキスカ・ウィルフレア
本もかんざしも買ってしまってほくほく……!

うらないの結果はちょっぴり気になる……けど、ちゃんとうらない自体はやってるのかな……?
うらないしてもらうなら、おもいで……おもいで……とおはなしする内容をいま考えてるなの。
……んむむ、本屋のおじーちゃんとの出会いなんてどうかなっ。
付喪神としてはまだまだで、街での過ごし方や常識がちょびっとわかってないフランにやさしく色々おしえてくれたの。ちょっと不愛想だけど、やさしいおじーちゃんがすきでねっ。きっとあれは笑顔がへたくそなだけなの。

って、ついいっぱいおはなししちゃう……
いけないいけない、これは古妖退治なの!
気合入れてお顔をきりっとさせておくの!

 荷物はちょっぴり重くなっちゃったのだけれど、むしろぎゅっとそれを抱えて。
(「本もかんざしも買っちゃったの……!」)
 たくさんの戦利品に、ほくほくしあわせ……!
 そんなるんるんなフランキスカ・ウィルフレア(絵本の妖精・h03147)だけれど。
 おうちに帰って、今日手に入れた新しい物語たちを楽しみに読む前に。
 そっと足を向けてみるのは、横丁の奥の奥。
「うらないの結果はちょっぴり気になる……けど、ちゃんとうらない自体はやってるのかな……?」
 昼間は扉が固く閉ざされていた、占いの館。
 けれど夜になればいつの間にか館に明かりが燈っていて、閉じていた門も開いていて。
 何だかとても甘い香りがする館の長い廊下をてくてくと歩きながらも、うーんと考えてみたのだけれど。
 そうこうしているうちに、椿の花が飾られた最奥のお部屋に着いちゃって。
『いらっしゃい、うらないをご所望かしら? でしたら、貴女の思い出をひとつ、わっちに教えてくださいな』
「うらないしてもらうなら、おもいで……おもいで……おはなしする内容をいま考えてるなの」
『ええ、ゆっくり考えて頂戴な。美味しい……いえ、素敵な思い出をわっちに聞かせて』
 それから、最近読んだ本のことや、集めてるもののこと、食べておいしかったもの……ほかにも色々と考えてみたのだけれど。
「……んむむ、本屋のおじーちゃんとの出会いなんてどうかなっ」
 フランキスカが語り始めるのは、本屋のおじーちゃんとの思い出。
「付喪神としてはまだまだで、街での過ごし方や常識がちょびっとわかってないフランにやさしく色々おしえてくれたの。ちょっと不愛想だけど、やさしいおじーちゃんがすきでねっ。きっとあれは笑顔がへたくそなだけなの」
 あまりにこにことかはしないから、誤解されがちだけれど。
 でもフランキスカはよく知っているから。笑顔がへたくそでも、おじーちゃんがとっても優しいことを。
 そして、そんなおじーちゃんが好きだから。
「それでね、フランがとっても読みたい本があったときも、おじーちゃんがね……」
(「って、ついいっぱいおはなししちゃう……」)
 お話がなかなか止まらなくて、ちょっぴりあわあわしちゃうけれど。
 ――いけないいけない、これは古妖退治なの! って。
 まだおしゃべりし足りないのだけれど……そう頑張って気合を入れて、お顔をきりっとさせておくのです!
🔵​🔵​🔵​ 大成功