シナリオ

殺してしまえば永遠になる

#√妖怪百鬼夜行

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 #√妖怪百鬼夜行

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●よくある話
 茹だるように暑い、夏の日のこと。狭いアパートの一室に通知音が響いた。
『別れよう』
 スマートフォンの画面に表示された短い文字が、彼女の胸に突き刺さった。冷たく深く、その言葉は大きな破壊力を以て、心から血を溢れさせる。
「…………なんで?」
 彼女から夏の暑さが遠ざかる。体の芯まで凍りつく感覚に視界が揺れた。揺らぐ景色の中で、濁流のような思考が去来する。
 毎日電話を掛けたのがいけなかった? 会う度にスマホをチェックしたのがいけなかった? 束縛し過ぎちゃったかな。面倒になっちゃったかな。
 でも、しょうがないじゃない。愛しているんだもの。あなたを信じるためには必要なこと。
「……こんなに愛しているのに、どうして別れるなんていうの?」
 彼女の想いは炎よりも熱い。しかし、彼女には恋人を引き留めたり、報復に害を及ぼせるような力は無い。……だが、纏わり付く泥のような執着は、歪んだ彼女の心は、本物の鬼を呼び寄せた。
「……あなたの代わりに、その嘆きと怨みを晴らして差し上げましょう」
 空間を引き裂くようにして現れた付喪神崩れは、瞳から血を流しながら彼女へと語りかけたのだ。

●想いの果て
「直接会わずに別れを告げましたか。顔も合わせたくないほどに愛想が尽きていたか、彼女が怖ろしかったのか。きっと両方でしょうね」
 それ以上は深く触れず、|泉下《せんか》|・《・》|洸《ひろ》(片道切符・h01617)は本題へと入った。
「男女の別れ話……ここまではよくある話ですが、問題はその後です。別れを切り出された女の嘆きが、紅涙を引き寄せてしまうのです」
 紅涙――悲劇の末に呪物と化した嫁入り道具が変じた妖。紅涙は女の嘆きを受け取り、別れを切り出した男を殺すつもりだ。
「この紅涙が厄介でして。目的の男を殺そうとするのは勿論ですが、男のいる場所へ向かう過程で紅涙が残した呪いの残滓が、無関係な人々にまで害を及ぼすのです」
 移動経路上に残された呪いの残滓が、たまたま経路上を通り掛かった男性を無差別に襲うらしい。刀を持った女の姿を取り、斬り付けようとする。
「皆様には呪いの残滓を追跡していただくことになります。追跡するごとに、無関係な男性が呪いの残滓に襲われている場面に遭遇するでしょう。人々を残滓の襲撃から守りつつ先に進み、紅涙と彼女の配下がいる場所を目指してください」
 残滓は夏の暑さを避けるように、日陰が多い路地裏を点々としている。問題なく残滓の追跡ができれば、紅涙とその配下が目的の男性を襲おうとしている所に介入できるはずだ。

マスターより

鏡水面
 こんにちは、鏡水面です。女性の想いを受けた紅涙が、元恋人の男性を殺そうとしています。呪いの残滓を追跡して紅涙とその配下の元まで急行し、彼女らを撃破してください。

 第1章
 舞台は日陰が多い路地裏です。呪いの残滓を探索、追跡してください。残滓を見つけた時、残滓は無関係な通行人の男性を無差別に襲おうとしています。無関係な男性を残滓から守ってから、先に進む……といったイメージです。
 ※フラグメントの説明は、辻斬りしか合っていないのでスルーでお願いします。
 
 第2章『葬鳥』・第3章『紅涙』
 敵との戦闘になります。第3章は2章と同じ時間軸イメージですが、システムの都合で2章後の攻略になります。

 その他詳細については、OPや各章の説明をご確認ください。プレイングの採用状況については雑記にも記載しますので、ご確認いただけますと事故が減ります。
 ここまで読んでいただきありがとうございます。それでは、皆様のご参加をお待ちしております!
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第1章 冒険 『辻斬り事件を追え』


POW 事件の発生した現場で辻斬りを待ち構える
SPD 現場に戻ってくる犯人を狙って罠を仕掛ける
WIZ 事件の被害者に接触する
イラスト 玖凪そけも
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

静寂・恭兵
アドリブ歓迎

俺は恋情を語れるような人間ではないが…愛しい人への執着と言う面ではわかる部分はある。
愛した人との縁が途切れるのは苦しいだろう。
俺とて叶わぬなら共に死にたいと思ったこともある…だから彼女の恋情と絶望は否定できない。
それでも…流石に関係ない人間が巻き込まれるのは見過ごせない。

怪異の残滓を追跡する。
インビジブルや怪異の動きなら追うことも可能だろう。
恨めしい相手を狙うのは分かるがその途中で別の男を襲うのは怪異の性質だろうか。

今はとにかく残滓に襲われる人を助けなくては。

●執着の名残
 ジリジリと照り付ける陽射しがコンクリートを焼いている。
 |静寂《しじま》|・《・》|恭兵《きょうへい》(花守り・h00274)は表通りを抜け、路地裏へと入り込んだ。表通りとは打って変わり、路地裏に届く陽光は幾らか優しい。
「恋情か……」
 ぽつりと口にする。紅涙を引き寄せる原因となった女性のことが頭を過ぎった。
 己は恋情を語れるような人間ではない。だが、愛しい人への執着と言う面では理解できる部分があった。
(「愛した人との縁が途切れるのは苦しいだろう。俺とて叶わぬなら共に死にたいと思ったこともある……だから、彼女の恋情と絶望は否定できない」)
 愛した人との縁が途切れる苦痛は想像に易い。魂より湧き上がる慟哭に、身も心も張り裂けてしまうのだろう。だが、それでも……無関係な人間が巻き込まれる事態は見過ごせない。
(「怪異の動きを追う……いつもやっていることだ。付喪神が邪に転じた妖も、√汎神解剖機関の怪異と大して変わらない」)
 恭兵は呪いの残滓の追跡を開始した。聴覚や視覚、嗅覚も用いて追跡するのは勿論だが、第六感も研ぎ澄ます。通常の感覚では感じ取れない邪悪な気配を探るのだ。日陰へと意識を集中させれば、まるで血痕のように残滓が続いている。
(「見つけた。これを追って紅涙の元に行こう。そして――」)
 視線の先、刀を持った女の影が通行人の男性を斬り付けようとしていた。恭兵は一息に残滓へと接近し、男性に刃が届く前に残滓を背後から斬り捨てる。残滓は金切り声を上げながら霧散した。
「大丈夫か?」
「は、はい、ありがとうございます……?」
 男性は何が起こったか理解できていないようであった。だが、それでいい。
(「恨めしい相手を狙うのは分かるが、その途中で別の男を襲うのは怪異の性質だろうか。まったく……厄介だな」)
 男性の無事を確認した後、恭兵はすぐに追跡を再開した。残滓は未だ先へと続いている。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

夢見月・桜紅
アドリブ◎
……胸が張り裂ける想い。その気持ちは、分かります、が。
無関係な人々も、男性も、命を落としてはいけないの、です。
日陰を注視して、探しましょう。

さぁ、声の届く限り【いろは歌】を歌い、無関係な人達を守ります、よ。
皆さんに、「幸運」を。
それでも、守りきれない人がいるなら、呪いの残滓を引き受けてでも、守り、ます(魔力溜め、かばう)
命を守れるなら痛くありません、よ(激痛耐性)

残滓を見つけたら、形になる前のもあれば、引き受けつつ辿っていきます。大丈夫、私は、歪んだ桜。本来は、こういう残滓を糧とする存在、だから。
……少しくらい、大丈夫。きっと、大丈夫。
どうか、誰も傷つかずに済みますよう、に。
神代・ちよ
アドリブ連携歓迎

周りにまで呪いをふりまくとは、はた迷惑な古妖なのです……
……けれど、それだけ力が強い古妖ということなのでしょうね
それだけ強い妖を呼ぶ心も、また……きっと強いものなのでしょう
……すこしでも、誰かの役に立てたらよいのですけれど……
けれど、仲直りして|めでたしめでたし《ハッピーエンド》、とはとてもなりそうにありませんね

辺りに耳を澄ませて、辻斬り事件を負うのです
襲われている人を見かけたら、
残滓の攻撃から【エネルギーバリア】【かばう】を使い被害者を守るのです
……大丈夫ですか?
どうか、わたしたちが戦っているうちに、逃げて下さいなのです
一般人の方を逃がして、ちよは能力で残滓に攻撃を

●愛する痛み
 男の女の別れ話。人がこの世に存在するかぎり、何処にでもある、ありふれた物語ではあるけれど。
 そのごく普通な恋物語も、邪な想いと人ならざるモノによって、いとも容易く歪められてしまうのだ。
 |神代《かじろ》|・《・》|ちよ《ちよ》(Aster Garden・h05126)は閑静な路地裏に飛び込んで、湿った夏の匂いに恋情を重ねる。
「周りにまで呪いをふりまくとは、はた迷惑な古妖なのです……けれど、それだけ力が強い古妖ということなのでしょうね。それだけ強い妖を呼ぶ心も、また……きっと強いものなのでしょう」
 肌を焼く陽射しも路地の日陰には届かない。|夢見月《ゆみづき》|・《・》|桜紅《さく》(夢見蝶・h02454)は暗い其処をじっと見つめ、静かに言葉を紡いだ。
「……胸が張り裂ける想い。その気持ちは、分かります、が。無関係な人々も、男性も、命を落としてはいけないの、です」
 太陽が眩し過ぎるせいか、日陰の暗がりがより一層闇深く感じる。
 これより探すのは、女の恋情と執着が生み出した呪いの残滓。二人はすぐに追跡を始めた。五感を研ぎ澄まし、路地裏を駆ける。ちよは竹藪沿いの道に呪いの残滓を発見し、そちらを指し示した。
「見つけました。あちらです」
 今まさに、男性が残滓に襲われそうになっていた。
「だ、誰かぁ……!」
 女の姿を模った赤黒い残滓が刀を振り上げる。男性は刀から必死に逃げようとしていた。
「今助け、ます!」
 桜紅は|いろは歌《サクラノウタ》を歌う。淡く輝く桜の花びらが男性を包み込めば、幸運の力が彼の逃げ延びる確率を最大まで引き上げた。残滓の振るう刀が空を切る。
 執念深く男性を追おうとする残滓の行く手を塞ぐように、ちよが間へと割り込んだ。エネルギーバリアを展開し、男性の代わりに刀を受け止める。
「この人は無実なのです。指一本、触れさせはしません」
 残滓がギリリ、と不快な音を発した。
「き、きみたちは?」
 驚く男性へと、ちよは力強く語りかける。
「どうか、わたしたちが戦っているうちに、逃げて下さいなのです」
 その言葉に改めて危機を認識したのだろう。男性は頷いて、表通りへと駆け出した。
「わかった、ありがとう……!」
 離れゆく男性に安堵しつつ、ちよは乱れ花舞う|櫻胡蝶《ハルコチョウ》を残滓に差し向ける。
 無数の蝶々に力を吸われ、残滓は地面に崩れ落ちた。男性が逃げていった方向を見つめながら、桜紅は表情を和らげる。
「無事に助けることができました、ね。よかった、です」
 ほっと息をつく桜紅に、ちよも頷いた。
「すこしでも、誰かの役に立てたのならよいのですけれど……仲直りしてめでたしめでたしハッピーエンド、とはとてもなりそうにありませんね」
 ちよは想う――憎悪に染まった凶刃は、際限なく人々へと呪いを振り撒き続けるのでしょう。歪んだ想いが完全に燃え尽き、消滅するその時まで。
 桜紅は残滓に目を落とす。残滓は弱体化してもなお、殺害の対象を探そうと蠢いている。
(「これが、呪いの残滓……悲しくて、苦しくて、恨めしい……そんな想いが伝わって、きます」) 
 いつか力を取り戻し、再び人に害を為してもおかしくはない。桜紅は残滓へと手を伸ばし、指先でちょんと触れた。植物が養分を吸収するように、触れた先から赤黒い残滓を吸い上げる。
 桜紅の身に沁み込んでゆく残滓に、ちよが桜紅の身を案じるように声を掛けた。
「残滓を回収しているのですか……お体は大丈夫ですか?」
「大丈夫、です。私は、歪んだ桜。本来は、こういう残滓を糧とする存在、ですから」
 桜紅はこくりと頷いて、微笑んでみせる。
(「……少しくらい、大丈夫。きっと、大丈夫」)
 私が引き受けることで、どうか、誰も傷つかずに済みますよう、に。
 残滓の愛憎に満ちた炎熱をその身に感じながら、桜紅は祈りを捧げるのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

エオストレ・イースター
🐰卯光

祝光ぃ
路地裏は薄暗くて何だか怖いよ

呪いの残滓もあるって!
ふるふると祝光の腕にしがみつく

そりゃ僕だって…はっ……!
そうだ…こんなのはイースターじゃない!
呪いの残滓から守ろう!
人違いもいいとこだもんね

残滓は涼しいとこにいるっぽい
…僕も襲われるかな?
え!?

残滓が現れたら破魔のイースターエッグを投擲し、男性を桜吹雪のオーラで守るよ!
先制攻撃だ!追い払う!
怪我してたらHEALING♡ESTAR!で治療する
呪いよりイースターがいいよね

僕はなんとなくわかるなぁ
…愛しい人の最期の存在になるんだ
誰にも奪わせず
幸せになることも許さない
愛しているから離れないように
喰らってしまいたくなるもの

って父上が言ってた
咲樂・祝光
✨️卯光

は?!何くっついてるんだ君は!
離れろっ
怖いなどと言っている場合か
犠牲となるものをださぬよう、呪の残滓を祓わねば
……君としても、こんなのはイースターじゃないんじゃないか?
意味はわからんが

涼しい…また曖昧だな
ともあれゴーストトークで周囲のインビジブルに残滓を目撃していないか情報収集だ
…身を隠しつつ捜索しよう
ミコト、情報収集にいってこれるか?
男性が襲われるならエオストレでもいいと思う

見つけたら破魔を込めた札で霊力攻撃し、男性から引き離す
絶対殺させはしない!
そのまま追い払い、追跡しよう

殺せば永遠になるなんて
死んだらそこでお終いじゃないか
…なんだ急に
まるで経験したような話をするじゃないか
…はぁ〜

●路地を駆ける花風
 呪いの残滓の影響か。夏の昼間であるはずなのに、その路地裏は何処となく暗い。
「祝光ぃ、路地裏は薄暗くて何だか怖いよ。呪いの残滓もあるって!」
 |エオストレ《🌸誘七》・|イースター《卯桜🐰》(|桜のソワレ《禍津神の仔》・h00475)が、|咲樂・祝光《。❀·̩͙꙳。サクラ シュリ。❀·̩͙꙳。》(曙光・h07945)の腕にしがみつく。
「は?! 何くっついてるんだ君は! 離れろっ。怖いなどと言っている場合か。犠牲となるものをださぬよう、呪の残滓を祓わねば」
 エオストレを祝光は引き剥がそうとするが、くっ付いたお餅のように離れない。
「そりゃ僕だって……でも怖いものは怖いんだよぉ」
 ふるふると震えるエオストレ。そんな彼を落ち着かせるように祝光は続ける。
「……君としても、こんなのはイースターじゃないんじゃないか? 意味はわからんが」
 その言葉に、エオストレがはっとする。
「そうだ……こんなのはイースターじゃない! 呪いの残滓から守ろう! 人違いもいいとこだもんね」
 そしてイースターを必ず守る! エオストレの腕から解放され、祝光はほっと息をついた。
「さっそく呪の残滓を追うとしよう。奴らは何処にいるのだったか」
「残滓は涼しいとこにいるっぽい」
 エオストレの返しに、祝光は思案するように瞳を細めた。
「涼しい……また曖昧だな」
「……僕も襲われるかな?」
 ふと、エオストレが口にする。祝光は迷わず続けた。
「男性が襲われるならエオストレでもいいと思う」
「え!?」
 兎の耳をびんっと伸ばすエオストレ。
「エオストレなら襲われても対処できるだろう?」
 祝光は事実を言っただけであった。……が、エオストレは、兎耳を嬉しそうにパタパタさせ始めた。
「あれ。もしかして僕、褒められてる?」
「褒めてない。ともあれ情報収集だな。ゴーストトークも使うが……ミコト、情報収集にいってこれるか?」
 ミコトはにゃぁと一鳴きして、周辺区域を駆け抜ける。そうして祝光の元に戻ってきた。
「残滓を見つけたようだ。行こう」
 二人はミコトが見つけた残滓へと急行する。刀を振り上げた残滓が、男性を斬ろうとする直前であった。
「あそこだね、僕に任せて!」
 エオストレは春風のように近付き、破魔のイースターエッグを投擲する。
「しあわせたまごを君にプレゼント!」
 男性の頭上で卵がぽんっと弾けた瞬間、桜吹雪のオーラが彼を包み込んだ。刀を通さない強固な守りだ。通らぬ刀に残滓が唸り声を上げる。祝光は桜護龍符に破魔の力を込め、残滓へと放った。
「絶対に殺させはしない!」
 邪悪を祓う霊力攻撃が命中し、残滓は悲鳴を上げながら霧散した。
「た、助かった……ありがとうございます」
 無傷の男性に、エオストレは花のような笑みを浮かべた。
「怪我がなくて良かったよ!」
 無事に裏路地から出ていく男性の背を見送りながら、祝光がぽつりと口にする。
「殺せば永遠になるなんて、死んだらそこでお終いじゃないか」
 死んでしまえばその先はない。それを永遠と捉える感覚が理解できなかった。
 一方で、エオストレは別の考えを持っているようだ。
「僕はなんとなくわかるなぁ……愛しい人の最期の存在になるんだ。誰にも奪わせず、幸せになることも許さない。愛しているから離れないように、喰らってしまいたくなるもの」
 春の祝祭そのものである彼が、春の終わりみたいなことを言う。その違和感を祝光は訝しんだ。
「……なんだ急に。まるで経験したような話をするじゃないか」
 僅かに滲む不穏な空気は、吹き抜ける風のように一瞬であった。
「……って父上が言ってた」
 さらりと付け足して明るく微笑むエオストレに、祝光は一気に脱力する。
「……はぁ〜……」
 一瞬でも緊張して損した。祝光は気持ちを切り替えて、残滓の追跡に集中する。
 この後も、二人は残滓の追跡を続け、少しずつ紅涙へと近付いていった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

史記守・陽
アドリブ連携歓迎

殺してしまえば永遠になるかぁ
…永遠ってなんだろう
死んでしまったらそこまでじゃないのかな
どんなに大好きな相手でも、もう会うことも話すこともできなくなるのは
とても虚しくて悲しいことだと思うけど…
恋愛ってそういうものなんだろうか
俺にはちょっとわからないや

市民を守るのは警察官の役目だから頑張らないとね
慎重に呪詛の残滓を追って見つけ次第攻撃しよう
拳銃ならある程度距離があっても問題なく攻撃を届かせられる
「届かない」ことなんて、きっとそうそう無いはずだって思いたい
今度こそ誰かを守れるように
それに人々を襲うのが呪詛なら破魔の炎は結構効果的なんじゃないかな

紅涙さんは何でこんなことをしてるんだろ…

●今回こそは
 賑やかな表通りの裏側はいつも以上に静かだ。まるで嵐の前の静けさのようだと、|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)は一人思う。
(「殺してしまえば永遠になるかぁ……永遠ってなんだろう」)
 難題だと陽は眉を寄せる。紅涙は相手の男性を殺し、別れを告げられた女の嘆きを晴らそうとしている。そして、それが殺して『永遠』とすることなのか――。
(「でも、死んでしまったらそこまでじゃないのかな」)
 どんなに大好きな相手でも、もう会うことも話すこともできなくなるのは、とても虚しくて悲しいことだと思う。
(「恋愛ってそういうものなんだろうか。俺にはちょっとわからないや」)
 大事なことは他にあると、陽は思考を切り替える。呪いの残滓による通り魔から罪無き市民を守る。それは警察官の重要な役目だ。
 日陰に残る痕跡を頼りに呪詛の残滓を追跡する。角を曲がった先、通行人の男性へと残滓が刀を振り上げる姿を捉えた。
(「見つけた!」)
 陽はすかさず狙いを合わせ、拳銃のトリガーを引く。この弾は必ず届く、届かせる。目の前で人が死ぬ所なんて、もう見たくないから。今度こそ、誰かを守れるように!
 真っ直ぐに放たれた弾丸は破魔の炎を纏い、残滓の頭部へと撃ち込まれた。弾が刻まれた箇所から黄金の焔が瞬く間に燃え広がり、呪いを焼き尽くす。空を裂くような悲鳴を上げ、残滓は地面に倒れ伏した。
「大丈夫ですか、怪我はありませんか!」
 燃え滓になった残滓を踏み越えて、陽は男性の安否を確認する。男性は腰を抜かし、呆然とした様子で陽を見上げた。
「だ、大丈夫。今のは一体……」
 男性は無傷だ。助けることができた。目の前で失わずに済んだのだ。
「あぁ、よかった……」
 陽は心の底から安堵する。そして思う。このような行為を働く紅涙を、必ず止めなければならないと。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

箒星・仄々
別れを告げられた方も
切り出した方も
どちらも辛いですよね

お二人のことは
お二人がお決めになること

紅涙さんにはお引き取りいただきましょう

呪いの残滓までが人を襲うとは
確かに厄介です
けれどきっちりと守り抜いて
犠牲者は出しませんよ

路地裏を追跡です
呪いが禍々しい音色として聞こえてきたりします
哀しさも秘めていますけれど
この濃密な悪意の音はかなり嫌な感じです…

掌の肉球でぱちん(ぽよん?)と手ばたきすれば
アコルディオンシャトンの装着・準備が
完了しています

辛さや哀しみへの共感を込めて
リカバリーを演奏して
呪いの残滓をお掃除しながら進みます

男性らしき足音が聞こえましたら
そちらへと急ぎ駆け
刀を振り上げる具現化した残滓さんを
光の🎶で包み込むようにして動きを封じましたら
悲しみに寄り添うような
優しい音色の音撃で消滅させます

男性の方へ声かけして
無事を確認しましたら追跡再開です

きっとすぐに記憶は改変さて
恐ろしい体験を忘れて下さるでしょう
別の犠牲者が出る前に急ぎましょう

●哀しみに寄り添う音
 道行く人で賑わう表通りを少し外れるだけで、裏路地はすぐそこにある。普通の人間には『静かな路』であるが、箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)にとっては、呪いが禍々しい音色を奏でる『嫌な音がする路』だ。
「哀しさも秘めていますけれど、この濃密な悪意の音はかなり嫌な感じです……」
 呪いの残滓までが人を襲うとは実に厄介な話である。放置してしまったら、その被害は計り知れない。
 それに、と仄々は考える。男と女の別れ話……大変な話ではあるけれど、紅涙が間に入って良いものではないのだ。
「別れを告げられた方も、切り出した方も、どちらも辛いですよね。ですが、お二人のことはお二人がお決めになること。紅涙さんにはお引き取りいただきましょう」
 犠牲者は絶対に出さない。強く心に誓い、仄々は不快な音がする路に足を踏み入れた。目だけでなく、猫の耳と鼻、お髭も駆使して呪いの残滓を追跡する。
「禍々しい音色が、どんどん大きくなっていきますね」
 裏路地を進む度、暗く淀んだ音色が耳に纏わり付くようだ。まるで悪感情の掃き溜め、腐敗しきったゴミ捨て場だ。
「追跡するだけでなく音の力で浄化して、汚れてしまった路地裏を綺麗にしましょう」
 仄々は掌の肉球をぽよんと打ち合わせる。手ばたいた瞬間、カラフルな光が弾けてアコルディオン・シャトンが出現。腕の中に演奏準備が完了した状態でおさまった。
 アコーディオンのボタンに指を添えて、|皆でお家に戻ろうのお歌《リカバリーカバーソング》を奏で始める。湿った夏の空気が、ボタンを押すごとに望ましい分岐(√)へと導くメロディに変化する。
「辛さや哀しみへの共感を込めて、そっと慰めるように奏でましょう」
 清らかな旋律が、残滓に汚れた路地を元の綺麗な状態へと戻していった。行く先々に残る呪いを洗い流しながら、仄々は進んでいく。そんな中、曲がり角の先から走る足音が聞こえてきた。
「! 何かから逃げているようですね。もしかして……」
 直感の赴くままに、仄々は足音がする場所へと駆け付ける。予想どおり、男性が呪いの残滓に追い詰められていた。
「させませんよ!」
 旋律から創造した光の音符を放つ。音符に包まれ動きを鈍らせた残滓へと、春の陽光の如き音撃を降り注がせた。優しい音色が残滓の哀しみに寄り添えば、雪解けのように消えゆく。残滓の消滅を確認後、仄々は男性を見やった。
「お怪我はありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう……」
 男性は無事なようだ。きっとすぐに記憶は改変されて、恐ろしい体験を忘れてくれることだろう。
 ほっと息をついたのも束の間。仄々はすぐに気持ちを切り替えて、凛と前を見据える。残滓の悍ましい音色と気配は、先へと続いていた。
(「別の犠牲者が出る前に急ぎましょう。そして、必ず紅涙さんを止めなければ」)
 呪いの残滓のお掃除は欠かさず行いつつも、彼は先を急いだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

神花・天藍
アドリブ歓迎

はぁ、まったく嫌になるな
まるでいつかの|愚かしい男《過去の自分》を見せつけられているようだ
あの女とやらの願いはなんとも愚かしいがその気持ちが分かってしまうからこそ気持ちが落ち着かぬ

恋だの愛だのという情念の獣は容易に理性を食い散らかして人間を狂わせる
端から見れば狂気そのもの…だが恋に酔わされている当人は全くそれに気付かぬ
恋の闇路とはげに真をついた言い回しだな

それにしても紅涙とやらもいけ好かぬ
必要なのは力なき者に刃を渡し血の赤を以て恨みを果たさせることではなく過ちを正してやる言葉だろう
…まぁあの状態に陥った者に言葉が届くとは思わぬが
我とてあの女の心に踏み込み過ちを正してやれるなどと流石に思い上がってはおらぬ

さて無関係な者を呪詛から守ってやらねばな
幸い情念が生み出す愛憎の呪詛は厭という程見てきた
この|天啓眼《ひとみ》が逃しはせぬよ
視界が届かぬ場所は揺蕩う雪を周辺を漂わせて視界を共有することで死角は出来るだけ埋める
呪詛が男を襲おうとするのを見つけ次第、瑞花典麗にて切り伏せる
間に合わぬようであればそのまま揺蕩う雪で凍らせる
銀嶺に征かせるのもよいな

何が殺してしまえば永遠になるだ
死の先にあるのは無だろう
血濡れの咎は時間が経てば経つ程に重くのし掛かるものだぞ

騒動の元凶となった女に声を掛けることは叶わぬし、我も別に説得を望むわけではないが
だがせめて自らの過ちに気付ける日が来ることを祈ろう

●真夏に降る雪
 眩し過ぎる夏の陽射しから逃れるように。路地裏の日陰では、愛憎の残滓がひっそりと蜷局を巻いている。脇道の竹藪へと薄く差し込む太陽光に、季節外れの雪がちらついた。
「……はぁ、まったく嫌になるな」
 夏空の下に居てもなお、|神花《かんばな》・|天藍《てんらん》(徒恋・h07001)の周囲には冬の気配が漂う。銀嶺を引き連れて、彼は呪いが潜む路地裏を歩んでいた。
 紅涙を引き寄せた女の恋情を、彼は他人事のようには思えない。
 ――まるで、いつかの|愚かしい男《過去の自分》を見せつけられているようだ。あの女とやらの願いはなんとも愚かしい。だが、その気持ちが分かってしまうからこそ気持ちが落ち着かぬ。
(「恋だの愛だのという情念の獣は容易に理性を食い散らかして人間を狂わせる。端から見れば狂気そのもの……だが、恋に酔わされている当人は全くそれに気付かぬ。恋の闇路とはげに真をついた言い回しだな」)
 それにしても、と天藍は思考を討伐対象である付喪神崩れへと巡らせた。
「あの妖……紅涙といったか。あの者もいけ好かぬ」
 必要なのは力なき者に刃を渡し、血の赤を以て恨みを果たさせることではない。過ちを正してやる言葉だ。
 もっともあの状態に陥った者に、言葉が届くとは思わない。天藍とて、女の心に踏み込み、過ちを正してやれるなどと思い上がってはいない。
「……さて。無関係な者を呪詛から守ってやらねばな」
 幸い情念が生み出す愛憎の呪詛は厭という程見てきた。僅かでも痕跡があれば、糸を手繰り寄せるように追えるだろう。|寂寥の青《イテツクカコ》を発動し、冷気と蕭然の念を真理を見通す天啓眼へと集中する。
「幾星霜の景色の先を貫くこの|天啓眼《ひとみ》に、見通せぬものは無い」
 決して逃しはせぬ。冷たき炎が青白く燃え上がり、視界に映る景色の解像度を上げる。視界が届かない場所には|揺蕩う雪《マドイユキ》を漂わせ、視界を共有することで死角を埋めた。
 雪には音を吸収する性質がある。天藍を中心に舞い降る雪が、元より静かな路地裏に更なる静寂を運ぶ。そして、その清らかな白は、穢れた存在を際立たせるのだ。
「――捉えたぞ」
 雪の結晶に映り込む呪詛。その姿を見つけ、即座に冷気を解き放つ。
 其は生命の終焉を告げる静謐な冷気。大地を凍らせる吹雪が如く、彼は残滓が居る場所へと舞い降りた。
 |瑞花典麗《ズイカテンレイ》――秘術・絶対零度により形作られた氷刃が、男性を襲おうとしていた残滓の首を刎ねる。残滓は刀と共に溶け、地面へと零れ落ちた。
 銀嶺が男性に駆け寄り、鼻を近づけて血の匂いがしないか確認している。
「そこの者。怪我はないか」
「大丈夫です、あ、ありがとうございます」
 天藍の呼びかけに男性が返す。銀嶺も問題ないと言うように力強く鳴いた。
「礼は要らぬ。この路地は危険だ。早々に|日の当たる場所《表通り》へ立ち去るがいい」
 天藍は男性を見送る。……脇の竹藪に滲む赤黒い彩に、彼は気付いている。執念深い残滓の、さらにその余燼。地を這うような呻き声を上げるソレへと、天藍は氷の如き眼差しを向けた。
「何が殺してしまえば永遠になるだ。死の先にあるのは無だろう。血濡れの咎は時間が経てば経つ程に重くのし掛かるものだぞ」
 罪を犯した事実が消えることは無い。たとえ贖ったとしても、その者が死に果てるまで咎は永遠に残り続ける。
「アア、ァ……」
 余燼は蠢く泥だ。情念の炎に煮え立つ災いとも言えよう。
「――憎悪に焼かれた残り滓に言ったところで、理解などできまいか」
 無数の氷塊が災いへと突き刺さり、穢れの芯まで凍結させた。呪いを完全に無力化させ、天藍は再び歩き出す。言葉は無意味。理性無き獣は、暴力的な手段で鎮めるしかあるまい。唯一の救いは、元凶となった女性に実害を及ぼす力がなかったことか。
(「元凶となった女に声を掛けることは叶わぬし、我も別に説得を望むわけではない。だが、せめて……」)
 自らの過ちに気付ける日が来ることを祈ろう。夏も凍える冷気の中で、彼は静かに願うのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『葬鳥』


POW 罪人の記憶
知られざる【今まで喰らってきた罪人の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
SPD 罪人には死あるのみ!
【鋭い嘴や爪】で近接攻撃し、4倍のダメージを与える。ただし命中すると自身の【攻撃した部位】が骨折し、2回骨折すると近接攻撃不能。
WIZ 罪からは逃げられない!
【今まで喰らってきた罪人の犯した罪】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【処刑場を模した広い空間】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
イラスト はるあき
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 呪いの残滓の行き着く先。それは標的となっている男性の自宅であった。
 閑静な住宅街にある一軒家だ。突如として、家の窓が粉々に砕け散った。割れた窓から男性が飛び出してくる。庭へと転がり落ちながら、彼は必死に逃げようとする。
「なっ……何なんだ!? いったい! 何なんだよッ……!!」
 彼は恐怖に満ちた形相で叫ぶ。割れた窓から、紅涙がひたひたと歩み出た。
「……私は彼女の悲哀を受け取りました。彼女の嘆きと怨みを、今此処で晴らします」
 さぁ来なさい、と紅涙が囁いた直後。屋根や庭木から、無数の黒い鳥が姿を現した。
「カ……カラス……!?」
 カラスではない。彼らは|葬鳥《ほうむりどり》。人の罪を責め肉を喰らう妖鳥である。
「オマエは彼女を捨てた! 罪人には死あるのみ!」
「罪からは逃げられない! 逃げられない!」
 男性は混乱する。罪とは一体何なのかと。自分が一体何をしたのか? 思い当たる節と言えば、彼女に切り出した別れ話だが、それの何が罪だというのか。しかし、男性の心境など紅涙は気に掛けない。
「彼女の心の痛みを、その身を以て感じていただきましょう……」
 今この瞬間、葬鳥たちが男性へと襲い掛かろうとしていた。
静寂・恭兵
アドリブ歓迎
史記守(h04400)と

史記守もこの依頼に来ていたのか。
対する敵は同じだ共同戦線といくか。

一般人が殺意を孕んだ情念をまともに受けるのは恐ろしいだろが…少しでも彼女を思い出せているのならまだマシか…罪と言われてしまうのは重いかもしれないがな。

今は葬鳥を狙う。飛んでる敵ならば銃が向いているか…。
√能力『魔照花』
打ち込む【呪詛】を強化。
史記守、祝福をかけた。
少しはやりやすくなるだろう。

史記守のように好きな人には生きてほしいと願えることはとても健全だと思うよ。
その気持ちは持ち続けてほしい。
ただ…俺は相手の命を奪ってまで誰かに取られたくない気持ちもわかってしまう…それだけだ。
史記守・陽
静寂さん(h00274)と

行き着いた先で見知った姿と出会った
一緒に戦いましょう

刀に持ち替えて前衛に立ちます
静寂さんの支援を受けたら払暁一閃で攻撃力と移動力を上げて
一気に敵陣に踏み込んで可能な限り多くの敵を巻き込んでいきましょう
男性に近付こうとする敵がいるなら優先して撃破
害そうとするならばこの身で【かばい】ましょう

やっぱり相手を殺したいと恨んでしまう程の恋愛感情はちょっとわかりません
大好きな相手ほど別れが辛いというのは解るんですけど
好きな人には生きていてほしい、幸せであってほしいって思うんです
…俺が其処まで恋愛経験あるわけじゃないからこそ言える綺麗事なのかもですけど

静寂さん、どうなんでしょう

●恋とは難しい
 依頼に参加していれば、偶然の出会いもよくあることだ。|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)は行き着いた先で、見知った姿と出会った。
「静寂さん、一緒に戦いましょう」
 |静寂《しじま》|・《・》|恭兵《きょうへい》(花守り・h00274)へと声を掛け、拳銃から払暁へと持ち替える。夜明け前の彩を宿す刀身に葬鳥を映し、迷いなく先陣を切った。
「史記守もこの依頼に来ていたのか。対する敵は同じだ。共同戦線といくか」
 陽の呼び掛けに頷きつつ、恭兵も男性を襲おうとする葬鳥の群れへと駆ける。葬鳥は今この瞬間、男性を啄もうとしている。恭兵は思考を巡らせた――立ち止まっている暇はない、飛んでいる敵ならば飛び道具が有効か。
「邪なるものには呪を……正しきものには祝福を……」
 |魔照花《マショウカ》を詠唱する。葬鳥へと狙いを定め、退魔の力を宿した弾丸を射出した。弾は宙を裂きながら鋭く飛ぶ。
「ギャアアッ!?」
 銃撃を横腹に受けて葬鳥が叫び声を上げた。打ち込まれた呪詛がその身を侵し、激昂した敵の視線が恭兵を向く。
(「怒りで狙いを俺に変えたか。短絡的で助かる」)
 男性が狙われる確率を下げられるのならば上々。魔照花の祝福により強化した戦闘力で迎え撃つのみだ。反撃に繰り出される鋭い嘴や爪を、恭兵は|曼荼羅《まんだら》で受け流す。
「史記守、祝福をかけた。少しはやりやすくなるだろう」
「ありがとうございます。あとは俺が」
 全身に漲る祝福の力を感じながら陽は払暁を堅く握った。払暁の濃紺色の剣が、黄金の光炎を宿らせる。それは夜闇を照らし出す曙光の如き輝きを湛え、決意を込めた払暁の光剣へと転じる。
(「静寂さんがかけてくれた祝福を無駄にするわけにはいかない」)
 祝福に|払暁一閃《デイブレイク・ブレイズ》の力を上乗せし、陽は身体能力を引き上げた。敵陣へと切り込むその様は光が瞬くよりも速い。光炎が葬鳥の闇色を斬り裂く。葬鳥の体は一斉に燃え上がり、景色を黄金色に染め上げた。
 男性を喰うことができず、葬鳥たちは苛立たしげに鳴く。
「オノレ、邪魔くさいな」
「構わんあの男をやれ!」
 身を焼く炎に苦しみながらも葬鳥は男性を狙おうとする。陽は男性の前に飛び込んで、敵の爪や嘴を刀で弾き飛ばした。
「必ず守ってみせます!」
 恭兵と陽の猛攻は葬鳥を男性から遠ざける。敵を次々に斬り伏せる中、陽はふと思ったことを口にした。
「……やっぱり、相手を殺したいと恨んでしまう程の恋愛感情はちょっとわかりません。大好きな相手ほど別れが辛いというのは解るんですけど。好きな人には生きていてほしい、幸せであってほしいって思うんです。……俺が其処まで恋愛経験あるわけじゃないからこそ言える綺麗事なのかもですけど」
 陽の言葉は恭兵への問いかけでもある。恭兵なら正しい答えをくれるかもしれないという期待もあった。
 恭兵がどのような経験や想いを経て、現在に至るかまでは知らない。それでも陽にとって、恭兵は『自分よりも人生経験が豊富で頼りがいのある先輩』なのだ。
 求められたのならば己が紡げる言葉を返そうと、恭兵は口を開いた。
「史記守のように好きな人には生きてほしいと願えることはとても健全だと思うよ。その気持ちは持ち続けてほしい。ただ……俺は相手の命を奪ってまで誰かに取られたくない気持ちもわかってしまう……それだけだ」
 恭兵の答えに、陽は眉を寄せる。
「うーん……恋愛って、難しいんですね」
「人によっては面倒かもしれないな。必ずしも悪いものというわけではないが」
 こればかりは経験してみないとわからないだろうと恭兵は思った。恋バナ……とまでは行かないが、これ以上恋愛観について語ることは止める。意識はすぐに敵の討伐へ。二人は互いの武器と技を駆使し、葬鳥を始末していった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

夢見月・桜紅
アドリブ、連携◎
私は、男性を守るの、です。

死ぬほどの罪を、この人は犯したのでしょう、か?
ただ……伝え方が良くなかった、だけではないでしょう、か?
もし、死ぬほどの罪というの、なら。それはきっと、私こそ、です。……でも。

【零れ桜の舞】。白花弁には「精神汚染」を、黒花弁には、この場を侵す、「呪詛」を。
あなた達の物語を、切り裂き、歪めていきましょう、か。
この力で行うのは、惨劇ではなく、守るために。

攻撃を受けたとて、耐えて(激痛耐性)、男性を守ります、よ(霊的防護、かばう)

大丈夫、です。あなたは守ります、から。
「慰め」ながらも、もし聞けるのなら、どのようにお別れしたか、聞きたいの、です。

●歪み崩れる縁
「罪からは逃げられない!」
 葬鳥たちが男性へと襲い掛かる。しかしその爪も嘴も彼には届かない。
「咲いて、裂いて、咲き誇れ──」
 |夢見月《ゆみづき》|・《・》|桜紅《さく》(夢見蝶・h02454)の|零れ桜の舞《オウカエンブ》が葬鳥たちを包み込んだ。無数の桜の花弁は白と黒の彩を浮かべ、精神汚染と呪詛の香りを舞い上がらせる。舞う花は鋭き刃となり、葬鳥たちを切り裂いた。
「ぐうッ、邪魔をするなッ!」
 裂かれながら一匹の葬鳥が罪人の罪を叫んだ。処刑場を模した広い空間が顕現する中でも、桜紅は悠然と立ち続ける。
「死ぬほどの罪を、この人は犯したのでしょう、か? ただ……伝え方が良くなかった、だけではないでしょう、か? もし、死ぬほどの罪というの、なら。それはきっと、私こそ、です。この処刑場は、私にこそ、相応しいのかもしれません、ね。……でも」
 裁かれるのは、今ではない。
 処刑場を白と黒の花弁が覆い尽くす。桜吹雪は嵐のように、葬鳥が編んだ物語を切り裂いた。
「この力で行うのは、惨劇ではなく、守るために」
 語りの内容を反映した処刑場が歪み崩れてゆく。黒白の桜吹雪に崩れ消えゆく処刑場――幻想的だが恐怖も思い起こさせる光景に、男性が震える声で呟いた。
「……俺はここで死ぬのか?」
「大丈夫、です。あなたは守ります、から」
 桜紅は男性へと穏やかに微笑みかける。飛び回る葬鳥の攻撃を受け止めながら、彼女は語りかけた。
「もし、よろしければ、どのようにお別れしたのか、お伺いしてもよろしいでしょう、か?」
「スマホで別れようって伝えただけだ。……か、彼女に会うのが、恐ろしくて」
 彼の声から怯えの色を感じ取り、桜紅は優しく言葉を返す。
「彼女の束縛から、逃れようと必死だったのです、ね」
 純粋な力の問題ではない。きっと精神的な支配や複雑な事情が絡んでいるのだろう。
 彼の言葉、そして紅涙を引き寄せた女性……歪んだ関係を垣間見たような気がした。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

咲樂・祝光
✨️卯光

わかったから
くっつくなよ卯桜!
鴉ではなく葬鳥だ
神の使いとは全く違うのは当然だ

この男性が…
殺害を阻止するよ!エオストレ、いくぞ
オーラ防御の桜吹雪を男性の方へ放つ
ミコト、彼を守れ

破:緋爆桜禍
エオストレの捕縛を活かしてその隙をつくように破魔の符を使って霊力攻撃していこう
エオストレの耳が喰われて耳なし兎になる前に倒さないと
時に電撃や氷結の属性攻撃を付与して動きを鈍らせる
攻撃は桜吹雪で防御
決して油断せずに守りきる

イースターになれについてはノーコメント
俺は二人の間にあったことは何も知らない
お互いに悪い所や罪がなかったとは言えないだろう
彼が死ねば彼女の罪も重くなる
誰も救われない
そんな事にはさせないよ
エオストレ・イースター
🐰卯光

ぎゃー!!
祝光!!
凶暴カラス!
ギラギラしてる!邪悪な気配!
父さんに仕えてた|神使《カラス》 とはえらい違いだ

よし……僕も頑張るぞ!
そんなカラス達に、春の祝祭の素晴らしさを教えてあげよう!
死から復活する復活祭…不気味な不吉を塗り替えて、DREAM♡ESTAR!

破魔のイースターエッグ(爆弾)を投擲して、バンバン爆破してくよ
桜吹雪で捕縛して祝光の援護
こっちにこいーって誘惑するからその間に頼むぞ!祝光!

振られて傷ついたのはわかるけど
だからといって殺そうとするのはイースターじゃないよね
彼が好きな自分が好きみたい
愛と憎しみは紙一重
こんな事してくる人の事、愛せると思う?
君もイースターになればいいのに

●桜の護り
 『葬』の符の奥で赤い眼をギラ付かせ、葬鳥の群れが男性を襲撃しようとしている。
 ギャアギャアと鳴き声を上げる彼らよりもさらに大きな声で、|エオストレ《🌸誘七》・|イースター《卯桜🐰》(|桜のソワレ《禍津神の仔》・h00475)が叫んだ。
「ぎゃー!! 祝光!! 凶暴カラス! ギラギラしてる! 邪悪な気配!」
 がしっと|咲樂・祝光《。❀·̩͙꙳。サクラ シュリ。❀·̩͙꙳。》(曙光・h07945)に抱きつく。祝光が腕をブンブンと振った。
「わかったからくっつくなよ卯桜! 暑い! 動きづらい!」
 磁石のようにくっついて離れないエオストレは、葬鳥をまじまじと観察する。
「父さんに仕えてた|神使《カラス》とはえらい違いだ……」
 葬鳥には神聖さの欠片もない。エオストレへと祝光が言葉を返す。
「鴉ではなく葬鳥だ。神の使いとは全く違うのは当然だ」
 まさに罪と血肉に飢えた妖鳥だ。葬鳥の凶悪な視線の先では、男性が追い詰められていた。祝光は表情を引き締める。ピンチの男性を見て、エオストレも掴んでいた祝光から手を離した。
「あの男性が……殺害を阻止するよ! エオストレ、いくぞ」
 零桜に織り込まれた祝と加護を花弁とし、祝光は桜吹雪を男性へと吹かせる。暖かなオーラで男性を包み込むと同時、ミコトへと指示を出した。
「ミコト、彼を守れ!」
「みゃっ!」
 ミコトはふくよかな体躯で軽やかに跳躍する。素早い動きで、男性と葬鳥の間に飛び込んだ。男性を嘴で突こうとしていた葬鳥を猫パンチで弾く。
「よし……僕も頑張るぞ! カラス達に、春の祝祭の素晴らしさを教えてあげよう!」
 イースターが如何に素晴らしいものであるか。エオストレは葬鳥に向かって語りかける。春の訪れ、復活祭。卵と兎が戯れる豊穣のお祭り。
「死から復活する復活祭……不気味な不吉を塗り替えて、|DREAM♡ESTAR!《メルヒェン・イースター》」
 広がる世界は桜時のイースター。其処では春の祝福と共に、死者すら3日後に蘇生する。破魔の力をたっぷり詰め込んだイースターエッグはカラフルな爆弾だ。投擲すれば、葬鳥が華やかな炎に巻かれ爆発した。
「ギャアッ!?」
「よくもヤッテくれたな!」
 邪魔をされ憤った葬鳥たちが、空間を処刑場に変えようとする。
「処刑場なんてだめだめっ! 全然イースターじゃないよ!」
 Easter Belleの鈴の音を鳴らし、桜吹雪を巻き起こした。春に閉じ込める桜が敵の動きを封じる。
 葬鳥たちはエオストレに引き付けられている。その隙を突き、祝光が破魔の符に霊力を込めた。
「エオストレの耳が喰われて耳なし兎になる前に倒さないと」
 |破:緋爆桜禍《ヒガンザクラ》を満開に咲かせる。春曙の聖光を宿す破魔の桜吹雪が、敵群へと押し寄せた。
 それは言祝千歳桜の美しき花弁。破邪の煌めきは電撃と氷結の魔力を宿し、葬鳥へと降り注いだ。
「グウッ……忌々しい!」
 無数の花弁に魂を蝕まれながら葬鳥が呻く。彼らの瞳からは未だなお殺意が消えていない。
「振られて傷ついたのはわかるけど、だからといって殺そうとするのはイースターじゃないよね。彼が好きな自分が好きみたい」
 エオストレは思う。愛と憎しみは紙一重。一度憎しみに傾いてしまえば、あっという間に炎は燃え広がる。憎悪の炎は愛に芽吹いた花々も、すべて焼き尽くしてしまうだろう。
「こんな事してくる人の事、愛せると思う? 君もイースターになればいいのに」
 葬鳥は荒々しく鳴くのみだ。彼らはイースターにはなれない。
 その点に関して祝光が口にすることはない。ただ、彼自身の想いを力強く言葉にする。
「……俺は二人の間にあったことは何も知らない。お互いに悪い所や罪がなかったとは言えないだろう」
 人間関係、とくに恋が絡めば、状況はより複雑になるものだ。しかし、断言できることもある。
「彼が死ねば彼女の罪も重くなる……誰も救われない。そんな事にはさせないよ」
 そう、誰も救われない。不毛な行為は絶対に止めさせる。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

神代・ちよ
アドリブ連携歓迎

怪我はありませんか、ちよたちに任せて下がっていてくださいな
……確かに電話ひとつで別れを切り出すのは不誠実かもしれません
ですが、それは本人たちの問題なのですよ
あなたたちが口を出すのは、無粋というもの
……ご本人たち同士、後でゆっくり話し合ってください、なのです
さあ、ここは任せて逃げて下さい!

さすがにお部屋を戦場にするのは気が引けますから
【魅了】【おびき寄せ】で葬鳥たちを外へと連れ出すのですよ
ここならよいでしょう
まとめて相手にしてあげます!
罪からは逃れられない……ですか
たとえ逃れられなくても、抱いて生きていくことは出来ます
だから、ちよたちはここで負けられないのです!

●花の色
 葬鳥の甲高い鳴き声が響き渡る。彼らは赤い嘴を男性へと突き刺そうとしていた。
 その時彼らの視界を、桃色に淡く煌めく蝶々が覆った。突然の乱入は、葬鳥たちの行動を妨害する。|神代《かじろ》|・《・》|ちよ《ちよ》(Aster Garden・h05126)が解き放った桜蝶だ。ちよは男性の傍へと駆け付ける。
「怪我はありませんか、ちよたちに任せて下がっていてくださいな」
「わ、わかった……」
 男性が震えながらも頷いた。安否を確かめた後、視線を男性から葬鳥へと移す。
「……確かに電話ひとつで別れを切り出すのは不誠実かもしれません。ですが、それは本人たちの問題なのですよ。あなたたちが口を出すのは、無粋というもの。ご本人たち同士で、ゆっくり話し合うものでしょう」
「そのようなもの関係ない!」
 人の話を聞かない鳥だ。元より聞いてくれるとは思っていないが。
「ちよたちがお相手します。先程の男性を殺したければ、先にちよたちを越えていくことです」
 桜蝶がちよの周囲でひらりふわりと舞い踊る。桜色の瞳で葬鳥の群れを見つめれば、彼らの殺気が色を増した。
「よかろう……貴様から先に殺してやる!」
 ちよは葬鳥たちをおびき寄せ、男性から遠ざけるように位置を取る。
「ここならよいでしょう。|櫻胡蝶《ハルコチョウ》、出てきてください」
 ちよの声に応じ、櫻胡蝶が激しく羽ばたいた。櫻胡蝶が花に舞えば、鮮やかな色彩が葬鳥たちを包み込む。
「罪からは逃げられない!」
 櫻胡蝶が放つ破魔の力に身を削られながらも、敵は処刑場空間を創り出した。
「罪からは逃れられない……ですか」
 人は生きていれば多かれ少なかれ罪を犯す。ちよは磔台の幻影を、真っ直ぐと視界に捉えた。
「たとえ逃れられなくても、抱いて生きていくことは出来ます。だから、ちよたちはここで負けられないのです!」
 乱れ花舞う櫻胡蝶の彩が、処刑場の幻影を塗り変える。この場に処刑されるべき人など居ないのだ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

箒星・仄々
何とか間に合ったようですね
男性さんを守り抜きますよ

ヒトの心の移り変わりは自然なことと思います
それによって苦悩することもあるでしょうけれど
同時に成長の機会となるはずです
それを罪とは一面しか見ていない
狭量がすぎますよ

男性さんを背に庇うような位置どりで
アコルディオンシャトンで
優しい音色を響かせて変える歌を歌います

男性さんの回避&沈着&逃走の確率を100%にします
必ず守り抜きます
どうぞご安心を
落ち着いて行動して下さいね

優しい音色が空へと響き渡るにつれ
鳥さん達が震度7でぶるぶるしだします

こうなっては攻撃は勿論
マトモには飛べず
互いにぶつかり合ったり
目が回って墜落したりするでしょう
これでは男性さんを狙うことなんて
到底出来ないはずです

例えどんなに速く飛んだり隠れたりしても
音は必ず届きます
逃れる術はないですよ

音色が音撃や光の🎶となって
揺れている鳥さんたちを倒していきます
ゆっくりお休みくださいね、カア

鳥さん達を全て倒した後も演奏を続けて
紅涙さんに備えます

●空まで届け
 葬鳥は家の周囲を騒々しいカラスの如く飛び回る。敷地を囲う塀をぴょんっと飛び越えて、箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)は庭へと降り立った。着地と同時にアコルディオン・シャトンを素早く構え、男性と葬鳥を視界に捉える。
「何とか間に合ったようですね。さあ、男性さんを守り抜きますよ」
 仄々は葬鳥だけでなく、紅涙にも語りかけるように言葉を紡いだ。
「ヒトの心の移り変わりは自然なことと思います。それによって苦悩することもあるでしょうけれど、同時に成長の機会となるはずです。それを罪とは一面しか見ていない。狭量がすぎますよ」
 男性と葬鳥の間に割り込んで、背に庇うよう立ち塞がった。世界を変える歌を響かせれば、優しい音色が励ます歌い手の幻影を呼び寄せる。仄々の姿をした幻影が男性へと駆け寄って、彼を勇気づけた。
「必ず守り抜きます。どうぞご安心を。落ち着いて行動して下さいね」
「あぁ、なんだか落ち着いてきた気がする……不思議だ」
「それはあなたが元から持っている力なのです。自分の力を信じて下さい」
 温かなメロディと励ましの言葉が、全ての行動の成功率を100%へと引き上げる。
 歌が男性に良い影響を与えると、葬鳥たちがギャアギャアと騒ぎ立てた。
「オイ、ネコチャンよぉ! 余計なことすんじゃねぇ!」
「空も飛べねぇ奴はすっこんでろ! ギャハハ!」
 耳障りな声だ。仄々は上空の彼らを見上げ、ゆらりと尻尾を揺らす。
「意地悪ですし、お口も良くない鳥さん達ですね。鳥さん達が何を言おうと退きませんよ」
 葬鳥たちの嘲笑に構わず、仄々はアコーディオンを演奏し続けた。空へと響き渡る音色は、優しさを維持したまま性質を変化させる。葬鳥たちの体がぶるぶると振動し始めた。
「ギャッ!?」
「カァ~ッ!?」
 突然のことに葬鳥たちが驚きの声を上げる。|たった1人のオーケストラ《オルケストル・ボッチ》による震度7の揺れだ。方向感覚を失った葬鳥が別の葬鳥に衝突する。ぶつかった鳥同士が、ぐるぐると目を回しながら墜落した。
「もう空を飛べないですね。これでは男性さんを狙うことなんて到底出来ないはずです」
 いかに速く飛んで隠れたとしても。音は何処までも彼らを追い、必ず届く。逃れる術はないのだ。
「おのれぇ……!」
 かろうじて耐えている敵が、上空から仄々に襲い掛かろうと迫った。
「ぶるぶる震える中でも頑張っている鳥さん達には、カラフルな光の音符を贈りましょう」
 アコーディオンを高らかに鳴らせば、音撃や光の音符が生まれる。五線譜の上を音は飛び、弾丸のように葬鳥たちを撃ち抜いた。
 情けない鳴き声を上げながら、葬鳥たちは落下する。
「ゆっくりお休みくださいね、カア♪」
 尻尾をくるりと回してカラスの鳴き真似を披露しながら、仄々は軽やかに演奏を続ける。優しくも力強い音色は、葬鳥たちのやかましい声を打ち消してゆくのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

神花・天藍
アドリブ連携歓迎

出たか性悪
恋の闇路に踏み入れた理性無き獣に刃を渡すような阿呆は
彼奴に言いたいことはいくらでもあるが先にすべきことがあるようだ
まずはこの煩わしい鳥の翼を凍らせ地へと堕としてやろう

夏の暑さで脳でも茹だったがゆえ斯く様に愚かなのであろう?
罪とやらが具体的に何かを言えるのか?
言えぬだろうこの鳥頭
この男がしたことはただ別れを告げたことだけだ
その経緯に何があったか知らぬし興味もないが其れは命を奪うに値すべきことなのか?

此奴らに考える頭脳や理性があるとも思えぬから最終的には手荒な説得になるか
夏に茹だったその脳は暫し我の冬で頭を冷やさせてやろう
語るは千重の雪
身纏う冬の力を強めれば夏の暑さも我の世界へと塗り替える
これで少しはそのアホウドリっぷりもよくなろうて
一応言っておくが、これは注意を我に向けさせるための挑発だ
ただ貶しているわけではないぞ、まぁ大体は本心であるが、まぁそれは別にいいだろう
斯く様に注意を集めてある程度固めたのであれば消えせぬ雪にて纏めて薙ぎ払ってやる
此処は我の世界だ
勝手なことは許さぬ

男の様子も確認しつつ戦うが心配だ
敵はこのアホウドリだけではないからな
男の子とは銀嶺に守らせておこうか
蹌踉の雪で発生させた霧によってあのアホウドリどもの視界より男の姿を隠しておきたいな
男にも生き延びたくばまずは冷静に何をすべきか考えろ等と声をかけておきたい
此処で混乱され下手に動かれても困る

●白にて覆う
「出たか性悪、恋の闇路に踏み入れた理性無き獣に刃を渡すような阿呆が」
 現場に到着し、開口一番に|神花《かんばな》・|天藍《てんらん》(徒恋・h07001)が言い放った言葉は辛辣そのものであった。過去の己を思い起こさせる忌まわしき相手なのだ。当然であろう。
 紅涙が天藍にチラと視線をやった。その眼差しは赤黒く血塗られ、深淵のように昏い。
「……葬鳥、お行きなさい」
 罪を貪る騒々しい鳥たちが天藍に向かって飛んでくる。迫る葬鳥に、天藍は|異彩の双眸《オッドアイ》を鋭く細めた。
(「|彼奴《紅涙》に言いたいことはいくらでもあるが、先にすべきことがあるようだ」)
 その身から湧き立つは冬の凛烈な冷気。魂の奥底まで突き刺すかの如き痛みを齎す|災厄《呪い》である。あらゆる生を凍らせる極寒は、襲い来る葬鳥たちへと差し向けられた。
「まずはこの煩わしい鳥の翼を凍らせ地へと堕としてやろう」
 葬鳥たちは彼らの周囲に処刑場を模した広い空間を生み出す。
「罪からは逃げられない! 罪からは逃げられない!」
 葬鳥たちが喚き散らした。何と不快な鳴き声だろうか。
「まるで馬鹿の一つ覚えだな。曖昧な言葉でがなり立てるだけで、物語を語った気になるとは」
 血濡れた磔台の周囲を飛び交う葬鳥。彼らを見つめる天藍の瞳は氷のように冷たい。
「夏の暑さで脳でも茹だったがゆえ斯く様に愚かなのであろう? 罪とやらが具体的に何かを言えるのか?」
「罪からは逃げられない!」
 同じ言葉ばかりを繰り返す葬鳥に、天藍は呆れを滲ませる。
「言えぬだろうこの鳥頭。この男がしたことはただ別れを告げたことだけだ。その経緯に何があったか知らぬし興味もないが、其れは命を奪うに値すべきことなのか?」
 問いかけはするが、この鳥共に考える頭脳や理性があるとも思えない。最終的には手荒な説得になると踏んで、頭を冷やさせる準備はしてきた。
「夏に茹だったその脳を、暫し我の冬で冷やすといい。真の冬へと誘ってやろうぞ」
 語るは|千重の雪《トザスフユ》。身に纏う冬の力を強め、夏の暑さを天藍の世界へと塗り替える。
 千重に雪花舞い散る銀世界。数多の生物が息絶え、或いは深雪に沈むかの如く、長き眠りに落ちるとこしえのふゆ。空も大地も純白に覆われ、音は閉ざされ、無音の中で雪の結晶が氷の華を咲かせる――。
「我らの処刑場が……雪に埋もれていく……!」
「寒い、寒い!!」
 冬の物語は目に映る全てを凍り付かせた。葬鳥だけに留まらず、処刑場空間までもが雪に覆われてゆく。
「これで少しはそのアホウドリっぷりもよくなろうて」
 敵の注意を己に向けさせるべく、様々な形で挑発の言葉を発する。もっとも演技などではなく本心だが。
「馬鹿にするな!」
 身を貫くような冷たさに余裕がなくなったのか。怒り狂った葬鳥たちが、冷気に震えながらも天藍に攻撃せんと迫る。それこそ天藍の計画どおりだ。群がる葬鳥へと|消えせぬ雪《トコシエノフユ》を解き放った。
 すべてを凍てつかせるように冷たい氷雪の嵐が、葬鳥の群れを鋭い刃の如く引き裂く。裂いた傷口から氷が広がり、流れる血潮ごと氷漬けにした。
「此処は我の世界だ。勝手なことは許さぬ。降り積もる雪に抱かれて眠るがよい――永久にな」
 氷像と化した葬鳥と残存する敵群から一瞬だけ視線を外し、男性の様子を確認する。他の√能力者たちも、葬鳥と戦いながら男性を守ってくれているようだ。
「うむ、大丈夫そうだな。銀嶺、念には念を入れてだ。行ってくるが良い」
 敵は葬鳥だけではない。紅涙の動きにも注意するよう銀嶺に伝え、男性の元へと行かせた。|蹌踉の雪《トドメルフユ》も展開し、男性を敵の視界から隠すように霧を発生させる。彼が混乱しないよう、天藍は男性へと呼び掛けた。
「そこの男。お前を取り巻くその霧はお前を守護するためのものだ。生き延びたくば、冷静に何をすべきか考えろ」
 男性は突然の霧に驚いたようだったが、天藍の言葉を理解したようだ。頷く男性を見届け、天藍は敵へと視線を戻した。
 葬鳥狩りは、じきに方が付く。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『紅涙』


POW 千切
【千切り捨てられた誓詞や嫁入り道具達の怨嗟】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【悲運招く呪詛】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
SPD 血霧
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【鬼哭啾啾の修羅場】」から【血霧に霞む愛しき人】を1体召喚する。[血霧に霞む愛しき人]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
WIZ
【全てが満ち足りていた、幸せな頃の断片】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【虚しき花嫁道中奇譚】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
イラスト ゆひゃん
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 配下の葬鳥をすべて掃討するまで、そう時間は掛からなかった。一人残された紅涙は、悲哀と苦痛に満ちたまなざしを向ける。
「あぁ……なぜ、なぜ邪魔をするのですか。あの女性の嘆きと恨みは、その男を殺すことでしか晴らせないというのに」
 その身から赤黒い邪気を揺らめかせ、彼女は瞳に憎悪と殺意を宿す。
「……邪魔をするならば、先にあなたたちを殺しましょう……」
 この恨み、晴らさずにおくものか。
 他人の恨みを自分自身の恨みと錯覚でもしているかのように、紅涙は血の涙を流した。
静寂・恭兵
アドリブ歓迎
史記守(h04400)と
女性が男の死を望んだのだとして…その望みが叶ってしまえばもう、戻れなくなる。
だが今ならば女性の未来もその男の未来も立たなくて済む。
ならば2人とも新しい道を歩むことも可能だ。
…電話だけで別れ話を済ませるのが必ずしも悪いとは言わない。女性の思いが怖かったのだろう…時に愛は重いものだ。だが彼女がそこまでお前を愛してくれていたことを忘れてくれるな。

俺の思いをぐだぐだ語ったところで仕方がない。あとは紅涙を倒すのみだ。

√能力『花嵐連撃』

…その時計…。史記守にとって希望であるなら持ち続けるといい。
失望させたと目を逸らさずもう一度向き合えるならそれがいいと思うがな…
史記守・陽
静寂さん
アド歓

恋愛は解りませんが警察官として情念が縺れた末の悲劇は見てきました
殺人を背負っても…幸せなんて、絶対になれないんですよ

あなたが呪詛と怨恨で戦うのなら俺は希望を以て立ち向かいましょう
金烏を握り締めて蕾琳顕現を発動
憎悪や悲哀の道具の記憶よりも希望の道具が打ち勝てると信じます
引き寄せた勢いのままに太刀を浴びせましょう

あっ…
希望の象徴として咄嗟に選んだのが金烏だっただけで深い意味はないんです!
そう、深い意味なんて考えちゃ駄目なんです
これをくれた人には失望されているんですから
断たれた想い出に縋っているみたいで少し恥ずかしくて惨めなだけですし
それでも、俺はこれを手放せずにいる
馬鹿みたいですよね

●想いの行く先
 戦場を取り巻く空気は、ねっとりとした熱と重さを纏っている。
 どす黒い殺気を放つ紅涙へと、|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)は断言した。
「恋愛は解りませんが警察官として情念が縺れた末の悲劇は見てきました。殺人を背負っても……幸せなんて、絶対になれないんですよ」
 思い出すだけでも心が痛む。強過ぎる愛情は心を狂わせる――だが、激情に身を任せ、すべてを壊してしまってはならない。|静寂《しじま》|・《・》|恭兵《きょうへい》(花守り・h00274)は、静かな声色で語る。
「女性が男の死を望んだのだとして……その望みが叶ってしまえばもう、戻れなくなる。だが今ならば、女性の未来もその男の未来も絶たなくて済む。2人とも新しい道を歩むことも可能だ」
 紅涙の怖ろしい形相に男性が震えている。彼と紅涙の間を塞ぐように立ち、男性にそっと話し掛けた。
「……電話だけで別れ話を済ませるのが必ずしも悪いとは言わない。女性の思いが怖かったのだろう……時に愛は重いものだ。だが彼女がそこまでお前を愛してくれていたことを忘れてくれるな」
 男性は戸惑いながらも頷いた。これ以上思いをぐだぐだ語ったところで仕方がないと、恭兵は拳銃を構える。陽も金の懐中時計を握り締め、紅涙を凛と睨み据えた。
「あなたが呪詛と怨恨で戦うのなら、俺は希望を以て立ち向かいましょう」
 残るは紅涙を倒すのみ。紅涙は小刀を手にし、湿った空気をなぞるように千切を唱えた。小刀に宿る呪詛を恭兵は冷静に観察する。
「……激しく燃え盛る怨嗟。触れただけで大火傷しそうだ」
 |花嵐連撃《カランレンゲキ》を発動する。拳銃から牽制の弾丸を撃ち込み、紅涙へと圧力をかけた。彼女は弾丸を小刀で弾き飛ばす。防御に意識を割くその瞬間を突き、恭兵は霊力を込めた数珠を放った。急速に伸ばされた数珠が、紅涙の腕へと巻き付いて小刀を封じる。
「――行け」
 死霊へと一言命じれば、すべてを心得た彼らは紅涙へと襲い掛かった。死霊が紅涙の肉体を喰らう。ばら撒かれる血と肉に構わず、陽は|蕾琳顕現《ディシィデリウム・ジェネシス》を展開。紅涙を自分の傍へと引き寄せる。
(「モコさん……どうか力を貸してください」)
 金烏――失いたくない『絆』の証。憎悪や悲哀の道具の記憶よりも、希望の道具が打ち勝てると信じている。無意識に心の内で呟いて、眼前の紅涙へと払暁を浴びせる。血霧は斬り祓われ、濃紺の刀身に灯る黄金の朝焼けが紅涙の闇夜を裂いた。
「嗚呼、痛い……なんて忌々しいのでしょう……」
 飛び退く紅涙。其処に仲間の攻撃が容赦なく叩き込まれる。
「……その時計……」
 恭兵の声が、ぽつりと陽の耳に届いた。陽はそこで漸く√能力に使った道具が何かを認識する。
「あっ……」
 本当に、無意識に選んだのだ。陽は何故か焦燥に駆られ、言い訳のように話し出す。
「希望の象徴として咄嗟に選んだのが金烏だっただけで深い意味はないんです! ……そう、深い意味なんて考えちゃ駄目なんです。これをくれた人には失望されているんですから」
 必死な自分に落胆する。自己嫌悪が胸の奥からじわじわと滲み出して気持ちが悪い。
「断たれた想い出に縋っているみたいで少し恥ずかしくて惨めなだけですし。それでも、俺はこれを手放せずにいる。馬鹿みたいですよね」
 恭兵は陽の言葉を躊躇いなく否定した。
「どこが馬鹿なんだ? それにお前は惨めなんかじゃない。史記守にとって希望であるなら持ち続けるといい。失望させたと目を逸らさず、もう一度向き合えるならそれがいいと思うがな……」
 恭兵は思う。恥ずかしがる必要も自己嫌悪する必要も、陽には一切ないのだと。
 それは恭兵の心からの言葉だ。陽にも漠然とそれが伝わった。優しく背中を押される感覚に、胸に蟠る気持ち悪さが和らいだような気がした。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

エオストレ・イースター
🐰卯光

うぅ〜祝光ぃ
知らない間に恨みを買ったよぉ

父上も初恋の人を食い殺してしまったこともあったって言ってたしそういうのもあるのかもしれない!
僕にはまだわからないけど
誰かに恋をして
あいするって難しいことだよね
皆ハッピーイースターになればいいのに

桜吹雪を纏わせて捕縛する
飛んできたのは桜バリアで防いで逃げ足を活かしてかわすんだ

DESTROY♡ESTAR!
呪詛には破魔を
破魔イースターエッグを思いっきり投擲して爆発させるよ!
ちゃんと受け止めてよね
呪を破魔で浄化しつつ怨念ごと爆発させるよ
君も恨んでないでイースターになればいいのに

僕は来年のイースターの準備で忙しい
死んでる暇なんてないんだよ
祝光もそうでしょ?
咲樂・祝光
✨️卯光

恨みをかったくらいでなんだシャンとしていろエオストレ!

……え?
何か今すごい話が暴露された気がするが聞かなかったことにする
俺の父も、嘗て母を手に入れるためにみたいな話を…いや今はいい

「愛」とは憎と紙一重…何か一つにのめり込んでしまうと恐ろしいことにも繋がるとわかったよ
な、エオストレ!

ともあれだ
君の好きにはさせない

招:華暁鬼姫─来い、ラーヴァナ!
前衛にラーヴァナを行かせ攻撃を命じるよ
オーラ防御で身を守り、見切り躱し
隙をつくように破魔の霊力を込めた護符で祓う!
君のその恨みも呪いも苦しみも
丸ごと祓ってやる
怪我したら、ラーヴァナに回復を命じるよ

死んでる暇はないには同感だが
俺は妹探しに忙しいんだよ

●卯光の舞い
 己の邪魔をする者は何者だろうと殺す。紅涙の凄まじい殺意を感じ取り、|エオストレ《🌸誘七》・|イースター《卯桜🐰》(|桜のソワレ《禍津神の仔》・h00475)は兎の耳をぺたんと寝かせる。
「うぅ〜祝光ぃ。知らない間に恨みを買ったよぉ」
「恨みをかったくらいでなんだシャンとしていろエオストレ!」
 しょぼくれるエオストレへと、|咲樂・祝光《。❀·̩͙꙳。サクラ シュリ。❀·̩͙꙳。》(曙光・h07945)が活を入れた。
 励ましを受けて、エオストレはどうにか奮起する。
「うん、そうだね。父上も初恋の人を食い殺してしまったこともあったって言ってたし、そういうのもあるのかもしれない!」
「あぁそう、だ……え?」
 今凄まじい話を暴露された気がする。それこそ紅涙と似たような……いや、正確には違うかもしれないが。とにかく、祝光は聞かなかったことにした。
「……それに、俺の父も、嘗て母を手に入れるためにみたいな話を……いや今はいい」
 祝光の思考は忙しなく回る。一方で、エオストレはしみじみとした思いに浸っているようだ。
「僕にはまだわからないけど、誰かに恋をしてあいするって難しいことだよね。皆ハッピーイースターになればいいのに」
 最後の文言は祝光的によくわからないが、いつものことなので気にしない。
「『愛』とは憎と紙一重……何か一つにのめり込んでしまうと恐ろしいことにも繋がるとわかったよ。な、エオストレ!」
 エオストレは力強く頷いてみせる。
「うん! やっぱりバランスが大事ってことだね! みんなイースターになれば解決だ!」
 ツッコミを入れたら負けだと祝光は言葉を呑み込んだ。戦闘前に疲れたくはない。
 賑やかな二人へと、紅涙が小刀を構えた。
「……イースターであろうと何だろうと、切り伏せましょう」
 千切を発動し怨嗟を渦巻かせる彼女へと、エオストレは宣言する。
「イースターは不滅だ! 君にイースターのすばらしさを見せてあげよう!」
 ぶわりと舞い上がるのは、目が覚めるようなピンク色。華やかな桜吹雪が紅涙の体を包み込む。紅涙は刀を投げ放った。エオストレは桜の花を模ったバリアを展開し、刀の勢いを削ぐ。勢いを失った刀が地面に落ちた。呪詛から逃げるように飛び跳ねて、イースターエッグ(爆弾)を両手に構える。
「|DESTROY♡ESTAR!《イースター・ボム》 ハッピーな贈り物、ちゃんと受け止めてよね!」
 破魔の力を蓄えたイースターエッグを全力で投擲する。カラフルな卵たちは紅涙に着弾し、お祭りの花火のように炸裂した。
「けほっ、眩しい……」
 爆炎と煙に紅涙が咳込んだ。
「君も恨んでないでイースターになればいいのに」
 彼女が纏う怨念の一部を爆発が消し飛ばす中、祝光が追い打ちを掛ける。
「君の好きにはさせない。|招:華暁鬼姫《シンキショウライ》――来い、ラーヴァナ!」
 呼び声と共に、華暁の神鬼ラーヴァナが召喚される。美しい黒髪の鬼姫が、その瞳に紅涙を捉えた。
 紅涙の呪詛は未だ色濃く。渦を巻く邪の力を、祝光は真っ直ぐに睨み据えた。
「千切り捨てられた道具達の怨嗟か。悍ましい気配だが、俺達は決して恐れない!」
 ラーヴァナが一息に紅涙へと肉薄し、鬼哭の斬を閃かせる。雷の如き一閃が紅涙の体を斬り裂いた。反撃の千切が祝光へと飛ぶが、桜色のオーラが彼を護る。
「君のその恨みも呪いも苦しみも、丸ごと祓ってやる」
 破魔の霊力を込めた護符を紅涙へと放ち、彼女の穢れを曙光の祝で祓ってゆく。
 身に纏う怨嗟を削られながらも、紅涙の殺意は衰えない。
「私のために、死んでください」
 エオストレが首を横に振ってみせた。
「僕は来年のイースターの準備で忙しい。死んでる暇なんてないんだよ、祝光もそうでしょ?」
 祝光は頷きかけるが、少しだけ訂正する。
「死んでる暇はないには同感だが、俺は妹探しに忙しいんだよ」
 時折歓談を交えながらも、二人は紅涙へと浄化の祝福を浴びせ続けた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

夢見月・桜紅
アドリブ、連携◎
悲しみ、辛みは、分かります、よ。恨みと言うなら、自分自身に覚えが、あります。
でも、男性には罪は、ありません。
だから、彼のことは、守ります。

桜色の「霊的防護」で必中の攻撃は「覚悟」。多少受けつつ、【零れ桜の舞】を。
あなたが幸せだったと語る、その想いがあるならば。その想いをより深め(精神汚染)、攻撃をするのを躊躇わせるほど歪ませ、奇譚を切り裂いてみます、よ(呪詛)
きっと、難しいでしょう、けど。多少の攻撃は、耐えるの、です(激痛耐性)
引き裂かれるような悲しみは、分かります、が、怨嗟は一時、いただきます、よ(魔力溜め)
……慰めるのには、時間が必要でしょう、けど……今は、これで……
神代・ちよ
アドリブ連携歓迎

……女のかたも少しばかり自業自得だったとはいえ……
破れ鍋に綴じ蓋……などと言ってはいけませんね
うつくしい花嫁衣裳……ですが、血に染まっては哀しいだけ、です
やはりおふたりに必要なのは、あなたではなく、ちゃんとした話し合いだったと思うのですよ

√能力を使って、攻撃をしますね
殺傷力の高い物体を、蜘蛛糸による【捕縛】で受け止めつつ、
攻撃を避けながら相手へと攻撃を仕掛けましょう

あなたのその想いは、女のかたへの優しさなのでしょうか、それとも……
あなた自身の呪詛なのでしょうか
気にはなりますが、気にかけている余裕はなさそうですね
攻撃の手を弱めず、畳みかけるのです

●想いに触れる
 人の心は移ろいゆくものだ。たとえ愛したとしても、それが運命の相手とは限らない。だからこそ紅涙は、『殺す』ことで全てを絶ち、『永遠』とするつもりなのだろうか。
 眼前に佇む重い愛情に、|神代《かじろ》|・《・》|ちよ《ちよ》(Aster Garden・h05126)は複雑な想いを抱く。
「……女のかたも少しばかり自業自得だったとはいえ……破れ鍋に綴じ蓋……などと言ってはいけませんね」
 静かに息を吐く。|夢見月《ゆみづき》|・《・》|桜紅《さく》(夢見蝶・h02454)も、紅涙の鬼の形相をその瞳に確と映した。
「悲しみ、辛みは、分かります、よ。恨みと言うなら、自分自身に覚えが、あります。でも、男性には罪は、ありません。だから、彼のことは、守ります」
 紅涙のどろりとした情念が蠢く。
「……わかりません。彼を守る意味が」
 彼女が纏う花嫁衣装――そこに染み込んだ血の赤がより深まり黒へと近付き示した。
 本来は汚れ一つない綺麗な衣装だったのだろう。その過去を想い、ちよは心を痛めた。
「うつくしい花嫁衣裳……ですが、血に染まっては哀しいだけ、です。やはりおふたりに必要なのは、あなたではなく、ちゃんとした話し合いだったと思うのですよ」
「話し合いなど、無意味です」
 嫁入り道具の数々から声が聞こえてくる。届く慟哭に、桜紅は胸が締め付けられた。
「話し合いが、できない……なにも、変えられない所まで、来てしまったの、ですね」
 恋人を恐れていた男性のことを思い返す。遺恨を残さぬ別れは叶わないのだろうか。……けれど、感傷に浸る余裕が無いことも理解している。
「満ち足りていたあの頃には戻れないのです」
 紅涙の契が虚しき花嫁道中奇譚を創り出した。愛しい人と寄り添い歩く、幸せな頃の断片は戻らぬ過去。
 それは残酷な夢となり桜紅を呑み込まんとする。桜紅は檜扇-夜桜-を翳し、淡い桜色に仄めく霊的な障壁を纏った。
「すべてを防げるとは、思って、いません。耐えて、みせ、ます」
 紅涙の怨念が桜紅を蝕もうとする。襲い来る激痛に耐えながら、桜紅は|零れ桜の舞《オウカエンブ》を花開かせた。
「あなたが幸せだったと語る、その想いを、咲き誇る花弁が、より深める、でしょう」
 黒白の桜吹雪が紅涙を斬り裂き、精神へと呪詛を送り込む。紅涙の呪詛とは異なるそれは、彼女の奇譚を狂わせた。歪んだ愛情が叫びを上げ、紅涙の瞳から涙が滲む。
「ぁ……あの頃に、戻れたらいいのに……」
 歪んだ景色に亀裂が入り、硝子のように砕け散った。舞い落ちる怨嗟の残滓を桜紅はそっと受け止める。
「……慰めるのには、時間が必要でしょう、けど……今は、これで……」
 怨嗟の残滓は血濡れた赤黒い花弁の如く。艶やかで、悍ましくも美しい。地獄の如き絶景の中を、ちよはひらりと蝶のように舞った。
「あなたのその想いは、女のかたへの優しさなのでしょうか、それとも……あなた自身の呪詛なのでしょうか」
 そう口にはするが答えは求めていない。紅涙は何も返してはくれないだろう。
「悲しい、苦しい、恨めしい」
 小刀に悲運招く呪詛を流し込めば、憎悪を込めた切先をちよへと向けた。
「やはり、答えてはくれませんよね。こうも歪みきってしまっては、戦うしか道はないのでしょう」
 束ねられた蜘蛛糸の壁が、振り下ろされた斬撃を受け止める。絡み付く糸を紅涙が斬り払う前に、周囲を舞う桜蝶を若紫色に輝く翅搏きの檻へと転じた。
「あなたの愛憎を、檻のなかへと閉じ込めましょう」
 檻の内を自由に羽ばたく桜蝶が、紅涙の肉体を覆い隠す。桜の嵐が、紅涙の生命力を削り取っていった。
「少しずつではありますが、弱っているはずです」
 紅涙を見つめ、ちよが冷静に紡ぐ。桜紅もちょうど同じことを考えていた。
「そうです、ね。あと少し、です。頑張ります、ね」
 黒白の桜吹雪と翅搏きの檻が、紅涙の歪な魂を幻想的な春夢へと誘う――。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

箒星・仄々
恨みの感情も自己改善の原動力になり得ます
女性さんが
これからは幸せな関係を築いていくための
成長の機会になりますよ
他責よりも自責です

自分が幸せになれない原因を他者に因ってしまっては
その他者が自分の思い通りにしてくれることは
殆どありませんから
他責では決して幸せにはなれないのですよ

けれど凄惨な過去の生い立ちが
そう想うことを許さないのですね
お可哀想に

アコルディオンシャトンで
女性さんと紅涙さんに寄り添うような
優しい音色を響かせます
紅涙さんの気持ちを揺り動かすことで
瞑想を邪魔して召喚を遅らせることにもなるでしょう

愛しき方が血霧に霞んだ姿とは
何とも哀れです
花嫁道具として
嘗ては楽しい思い出もあったでしょうに
怨み憎しみで形作られているのが御身
というわけですね

紅涙さんと
召喚された血霧の主達を痛むように
恨みの気持ち溶かすかのように
空間を響かせる音色が
光の🎶となって両者を包み込んで
音と光とで慰めるようにして倒します

戦闘後も演奏を続けて
紅涙さんの持ち主だった方
その愛しき方
そして紅涙さんらの安らかな眠りを願います

●春が訪れるように
 憎悪、怨恨……負の感情とは大きなエネルギーを持っている。
 時に人の心を壊してしまうほどに強い力。だがそれは、上手く利用することで、本人に良い影響を与えることもできるのだ。
「恨みの感情も自己改善の原動力になり得ます。女性さんがこれからは幸せな関係を築いていくための、成長の機会になりますよ。他責よりも自責です」
 アコルディオン・シャトンを手に、箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)は芯の通った声色で紡ぐ。血塗れの紅涙が、仄々を見やった。その眼は変わらず殺気に満ちているが、仄々は臆することなく続ける。
「自分が幸せになれない原因を他者に因ってしまっては、その他者が自分の思い通りにしてくれることは殆どありませんから、他責では決して幸せにはなれないのですよ」
「……無慈悲に押し寄せる悲劇を、あなたは知らないのでしょう」
 強烈な憎しみが、紅涙の魂に深く根を張っている。過去の出来事が彼女を歪めてしまったのだろう。痛ましいその姿に、仄々は心を痛める。
「凄惨な過去の生い立ちが、そう想うことを許さないのですね。お可哀想に」
 蛇腹を大きく、ゆっくりと動かして。アコーディオンのボタンにそっと指を添える。
「紅涙さんと、あなたに恨みを託した女性さんに、この曲を贈りましょう」
 深い悲しみに寄り添い慰めるように、音色を響かせた。優しさに満ちた旋律は、紅涙の魂を震わせる。紅涙は思わず聴き入りそうになるが、身の内で爆ぜる憎悪の音が彼女を地獄へと連れ戻す。
「……音楽で私と彼女の心は鎮められません」
 記憶世界から血霧に霞む愛しき人を召喚する。霞む愛しき人の顔は見えず、物悲しい狂気を放っていた。見ているだけでこちらまで悲しくなってしまう。
「何とも哀れです。花嫁道具として、嘗ては楽しい思い出もあったでしょうに。怨み憎しみで形作られているのが御身というわけですね」
 紅涙と血霧の主達を心から想い、仄々は|愉快なカーニバル《ユカイナカーニバル》を演奏する。暖かな陽だまりの中に連れ出して、柔らかな花の香りを運ぶように。
「春のおひさまが雪をとかすように、恨みの気持ちを溶かしましょう」
 桜色、菜の花色、若葉色。春らしい色彩を浮かべる光の音符たちが、呪詛に濁った空間を塗り変えてゆく。響く音色は紅涙と血霧の主達を、日光をいっぱい浴びた毛布のように包み込んだ。
「美しい音ですが……それが何だと言うのです……」
 紅涙は音符を斬り払い、愛しき人を仄々へと差し向ける。
「なんと根深い恨みなのでしょう。ですが、決して諦めません」
 放たれる小刀を躱し、音撃をぶつけて弾きながらも、仄々は演奏の手を止めない。
「紅涙さんの持ち主だった方、その愛しき方、そして紅涙さんが安らかに眠れるよう、音楽を奏で続けます!」
 確固たる信念を宿す音色が、湧き広がる恨みの念とせめぎ合う。僅かな緩みすら命取りと、仄々は精神を研ぎ澄まし続けた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

神花・天藍
アドリブ歓迎

やっと相見えて嬉しいよ性悪
まさに悲劇の主人公気取りであるな
なんとも傲慢で愚かしく滑稽だ

随分と呆けたことを言うのだな
その血濡れた眼では見えぬし思い込みがやたらと激しい石頭ではわからぬのであろうがな
一度血濡れの咎を負えば生涯消えぬ後悔という名の身を苛む茨となる
血濡れた手から罪は洗い流せぬ
時間が経てば経つ程染みついた血濡れの咎は重くのし掛かっていくのだ
だが、一方人間というのは単純にできているものでな
時は薬
何事もなければどれほどの傷を負おうと忘れることが出来る
罪さえ負わなければいずれは心の傷は癒えるものなのだ

斯く様なことに気付けぬとはまことに愚かしいものよ
なんなら能力よりもその頭で頭突きした方がより強い攻撃を与えられるのではないか?
…まぁ斯くような軽口を叩いてはいるが真は随分と腹立たしく思うておる
やはり此度の事件はいつかの愚かな男を想起させる
ゆえに何としてもこのうつけ者を止めなければならぬ

注意は此方へと向いているようだが万が一ということが有っても目覚めが悪い
引き続き銀嶺には男の警護させよう

天啓眼で相手の動きや隙を探りつつ
相手が我を攻撃しようとした素振りがあれば銀罪界で不香の花が届く範囲まで跳躍し一撃を見舞ってやろう
靄に身を隠しながら背後に回り込んで素早く動きながら瑞花典麗で斬り込んでいこう
この小さき身体は木偶の坊のお前の視界では捕えにくいだろう

相手が虚しき奇譚を語るならば我も冬を語り上書きしよう
させぬよ、此処は我の|世界《ふゆ》だ
冬を纏い雪風に身を隠しながら確実に削ってゆこう

男女どちらが悪いか等と無駄なことは我は考えぬ
個人の事情に部外者が干渉するつもりもない
だが…男よ、彼奴を退けても女の情念は消えることはないだろう
それを踏まえた上で今後の対応を検討した方がよいと我は考える

●雪解ける時
 怨恨の呪詛に満ちた赤黒の花吹雪が、夏の空気をじっとりと濡らしてゆく。息をするだけで肺が焼けるような心地だ。燃え滾る憎悪の炎は、こうも熱いものなのか。
 だが、|神花《かんばな》・|天藍《てんらん》(徒恋・h07001)は、涼しげな表情で炎熱の中に居る。
「やっと相見えて嬉しいよ性悪。まさに悲劇の主人公気取りであるな。なんとも傲慢で愚かしく滑稽だ」
 烈火の如きこの感情を彼は知っている。記憶に確と刻まれた想いを忘れられるわけもない。滑稽だという彼を、紅涙の血濡れた眼が睨んだ。
「恨みを晴らすことが私の願い。あなたが何者であっても、邪魔はさせません」
 邪魔はさせない――先ほども聞いた台詞だ。天藍は揶揄するわけでもなく、淡々と返す。
「随分と呆けたことを言うのだな。その血濡れた眼では見えぬし、思い込みがやたらと激しい石頭ではわからぬのであろうがな。……一度血濡れの咎を負えば、生涯消えぬ後悔という名の身を苛む茨となる。血濡れた手から罪は洗い流せぬ。時間が経てば経つ程、染みついた血濡れの咎は重くのし掛かっていくのだ」
 想うことがあったのか、消耗しきり動きが鈍いだけか。どちらか定かではないが、紅涙は刀を手にしたまま天藍の話を聞いていた。不香の花の鞘に手をかけ、天藍は語り続ける。
「だが、一方人間というのは単純にできているものでな。時は薬。何事もなければどれほどの傷を負おうと忘れることが出来る。罪さえ負わなければ、いずれは心の傷は癒えるものなのだ。斯く様なことに気付けぬとはまことに愚かしいものよ」
 人間の心は移ろいやすい。それは心の傷を癒す薬にもなる。紡ぎながら、天藍はこうも思う――どれだけ正しき事を説いたところで、歪みきった人外には届かぬであろうとも。
「……もう、終わりでしょうか。随分と長いお話でしたね」
 紅涙の周囲を血霧が取り巻く。不香の花を抜き、天藍は使役獣へと命じた。
「……銀嶺。我が戦っている間、そこの男を護れ」
 銀嶺は頷き、男性の身を庇うように位置を取った。紅涙の記憶世界から滲み出た『血霧に霞む愛しき人』――虚しき幻影を、天藍は真理を見通す天啓眼を以て視界に捉える。愛しき人が、血霧の中で刀を振り上げた。
「――過去の虚像に遅れを取りはせぬ」
 舞い踊る雪の結晶は|銀罪界《ハナフブキ》。六花を刻む霊剣を細氷のように煌めかせ、紅涙へと距離を詰める。瞬く間に肉迫する様は、雪原を駆ける北風の如く。血霧の刀を薙ぎ払い、霞む幻影を抜け、紅涙へと剣閃を届かせる。
「ぐぅ、っ……」
 真っ赤な血が紅涙の体から噴き上がった。
「お前の刃は届かぬよ。なんなら能力よりも、その頭で頭突きした方がより強い攻撃を与えられるのではないか?」
 天藍は挑発するように軽口を叩くが、それは自身の思考を常に冷静に保つためのものである。
(「この性悪を見ていると、いつかの愚かな男を想起させる」)
 遥か遠い過去、大きな過ちを犯した自分を。ゆえに何としても、このうつけ者を止めなければ。
 腹立たしいと憤る感情は剣筋を鈍らせる。氷を解かす激情は腹奥に押し留め、靄で自らの身を隠した。
 天藍の舞は終わらない。くるりと背後に回り込めば、纏う靄の奥から|瑞花典麗《ズイカテンレイ》を叩き込んだ。凍てついた刻を砕く静謐な一撃が、紅涙の身を氷結させる。
「この小さき身体は、木偶の坊のお前の視界では捕えにくいだろう」
 紅涙の目玉がギョロリと天藍を向いた。青白い唇から紡がれる契が、虚しき花嫁道中奇譚を映し出す。
 全てが満ち足りていた、幸せな頃の断片。消え失せ帰らぬ、美しい時間。
「戻らぬ過去を引き摺る幻想奇譚など虚しいだけよ。我の冬で上書きし、終わらせてやろう」
 千重に雪花舞い散る銀世界の内に、花嫁道中は閉ざされる。|千重の雪《トザスフユ》が深く降り積もり、紅涙ごと白雪で覆い尽くした。
「嗚呼、あ、ァ……!」
 氷雪が紅涙の燃え滾る魂を凍り付かせてゆく。足掻き暴れるほど、深雪は彼女を呑み込んでいった。
「させぬよ、此処は我の|世界《ふゆ》だ」
 紅涙が白銀へと沈む。冬の世界が、怨念と呪詛を雪で包み隠す。黙した鬼が目覚めることはなく、ただただ雪が無音に舞い落ちるのみ。
 ――終わったか。天藍はそっと溜息をつき、残された男性へと振り返る。異彩の双眸と目が合い、男性はギクリと体を震わせた。何処か怯えているようにも見える男性へと、天藍は静かな声色で紡ぎ出す。
「男女どちらが悪いか等と、無駄なことは我は考えぬ。個人の事情に部外者が干渉するつもりもない。だが……男よ、彼奴を退けても女の情念は消えることはないだろう。それを踏まえた上で、今後の対応を検討した方がよいと我は考える」
 正論だ。反論の余地もない。天藍の言葉に男性は頷くしかなかった。
 戻ってきた銀嶺の背を優しく撫でてやりながら、天藍は|世界《ふゆ》を見つめる。彼が此処を去れば、紅涙の骸と共に消えゆく景色だ。
(「雪解けのように、怨嗟に塗れた情念が溶け消える日は訪れるだろうか」)
 願わくば、そうであれ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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