⑧それはいずれ死に至る病
●秋葉原ダイビル前
「ここなら他の勢力も集まるし、民間人は楽園のお人好し達が対処してくれるだろう……さて問題は」
リンゼイ・ガーランドを引き連れて戦場の中心部へやってきたリンドー・スミスはその身体に怪異を顕現させるが、それらはすぐに自らの身体に刃を立てて自殺してしまう。久しぶり、だが見慣れた光景にリンドーはやれやれと肩を竦めた。
「すみません、私の能力のせいで……」
「怪異を相手にする時の心得を忘れたかね?扉の先にはピンクの像が居ると思えだ」
万全な状態では挑めない、常に予想外の事が起こる。その事を明らかな異常事態を示す慣用句と有名なアニメ映画に登場する幻覚表現を組み合わせたジョークで表すリンドーの言葉に、リンゼイの口から笑いが漏れる。
「肩の力が抜けたようだね、結構」
そう言いながらリンドーは懐から大口径の拳銃の取り出し、薬室に込められた弾を確認する。
「先輩も残るんですか……!?」
「不満かね?」
「い、いえ……光栄です!」
「不満に思うくらい自立してもらわないと困るのだがね」
背筋を伸ばし、嬉しそうな笑顔を浮かべるリンゼイを見てリンドーは大きく溜息を吐く。一見するとほほえましい後継だが忘れてはならない、これから始まるのは一方的な大虐殺だという事を。
●今回の事件の内容
「急にラブコメが来た?」
自らの見た予知に真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)ははてと首を傾げるが、集まってきた√能力者達の姿を見ておっととそちらに向き直る。
「まずは第一戦線全制圧おめでとうございます!そしてここからはより激しさを増す第二戦線の開幕です!」
そう言うと観千流はプロジェクターで秋葉原の航空写真を映し出し、その一角をレーザーポインターで示す。
「今回舞台となるのは戦場のど真ん中、秋葉原ダイビル周辺となります!UDXの隣あるやたらデカいビルと言えばピンと来る人も多いのではないでしょうか?ここには連邦怪異収容局からの刺客であるリンゼイ・ガーランドとリンドー・スミスの2名が居ますが、リンドーは能力相性の問題で怪異の召喚が出来ないため対処するのはリンゼイ一人となります!」
しかし、そのリンゼイの√能力は近づいた全てを強制的に自殺させる極力無理なもの。唯一の例外は同行しているリンドーであるが、その理由もまた特殊なで……。
「リンゼイの能力は彼女が愛した者には効きません、つまり皆さんには第一印象で彼女を惚れさせてもらいます……!いや難易度高いですねこれ?」
とは言え、彼女に好意を抱かれれば多少なりとも効力は弱まる。また物理的に自殺をできないような状態にしたり、狂気耐性等の精神的防御を行うだけでも楽にはなるだろう。
ただし根本的な解決にはならない為、超時間戦場に居れば衝動に呑みこまれてしまう事には注意してもらいたい。
「ちょうど戦場にはリンドーが居るので、彼と激論を交わして自分にも譲れないものがある!と主張するのは良いかもしれませんね。とは言えその譲れないものが私的な欲望だと逆効果にもなり得ますが……」
やはり難しいと首を捻りつつ、考えても仕方ないと開き直ったように観千流は√能力者達を見つめる。
「公的な人間で、落ち着きがあり、多少のジョークも飛ばせる……リンドーの良い面と言ったらこの辺りでしょうか?当然ですが民間人を巻き込む、ほぼ戦闘能力のないリンドーを積極的に狙うなどすれば好感度はだだ下がりでしょう。上手いことリンゼイの好みを把握して、戦闘を有利に進めてください!」
マスターより
マウス富士山●マスターコメント
─プレイングボーナス─
・自分の自殺を防ぐ(一瞬好かれるだけでも効果あり)
──
オープニングをご覧いただきありがとうございます、シナリオを執筆させていただくマウス富士山と申します。
今回は秋葉原荒覇吐戦に連なる一章シナリオになります、よって分岐はありませんが上記のプレイングボーナスに従ってプレイングを行う事で判定が有利になります。
オープニングにある通り今回は相手に好かれるようにしながら戦う事で戦闘を有利に進められます、戦場にいるリンゼイの想い人リンドーも上手く活用して好感度を稼いでください。
オープニングの公開と同時にプレイングの受付を開始、皆様の参加を心からお待ちしております。
73
第1章 ボス戦 『人間災厄『リンゼイ・ガーランド』』
POW
|希死念慮《タナトス》
60秒間【誰にも拘束・監視されない自由な時間】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【突発的感染性自殺衝動】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
60秒間【誰にも拘束・監視されない自由な時間】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【突発的感染性自殺衝動】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
SPD
怪異「|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》」
【|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》】と完全融合し、【自殺衝動の超増幅】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
【|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》】と完全融合し、【自殺衝動の超増幅】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
WIZ
|自殺のための百万の方法《ミリオンデススターズ》
【様々な自殺方法の紹介】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【ヴァージン・スーサイズによる自殺衝動】に対する抵抗力を10分の1にする。
【様々な自殺方法の紹介】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【ヴァージン・スーサイズによる自殺衝動】に対する抵抗力を10分の1にする。
広瀬・御影連携・アドリブ歓迎
さて困った。いや僕にとって自殺は手段だし別に構わニャイんだが、流石に戦闘前に戦闘不能になるのは困るワン
公的な人間ならなんとかなるかニャアという事で【最適化】で能力上げつつ真面目な警察官を演じて戦うワン。民間人を助け、罪を憎んで人を憎まず的な理想のお巡りさんを演じるニャン…騙すのはちょっと気が引けるけど
武器は御用警棒。多少は自殺に時間かかりそうなので。民間人いたら御用警棒伸ばして退避させるワン
【希死念慮】を邪魔する為に手数を多くするように攻撃。発動した場合に備えてできるだけリンゼイの近くに誰もいないようにしながら戦うニャン
八木橋・藍依リンドー・スミスが面倒見の良い性格だったとは……少し意外でした
相手を自分に惚れさせるというのは……かなりの難題ですね
ただし、愛というものは恋愛だけではありません
要するに、彼女に好印象を与えれば良いのですよね?
いつもの私であれば不意打ち等を行い、奇襲を仕掛けるのですが
今回は紳士的に予め取材の約束を取り付けてから現場に向かいましょう
「戦闘」ではなく「取材」を行うという建前で
我が新聞社の活動についても話し、社会貢献していることも説明します
戦闘ではHK416を中心に、各種武器で攻撃を行います
√能力は「衝撃の瞬間!」を使用して写真を撮影します
「取材」を行うと話しましたよね?
※:精神抵抗の技能を使用します
●その者の話を聞くのならば
「待ちたまえ、今この場で我々が争えば損失が大きいのは君達だぞ?」
「ニャン?」
開口一番、リンドーの放った言葉に広瀬・御影(半人半妖の狐耳少女不良警官・h00999)は低い声で応える。
「それに『はいそうですか』と言える信頼関係が僕達の間にあると思ってるのかワン?」
「正論だ、ではこれならどうだろう?」
そう言うとリンドーは拳銃のマガジンを地面に落とすと、スライドを引いて薬室の1発も排莢する。争う気は無いというアピールだろう、普段の御影なら隙が出来たと手にした警棒で喉を突くところだが……今回は少し状況が違う。
「どういうつもりニャン?」
この時点で相手の策に乗ってしまっていると内心で歯噛みしつつも、御影はせめてもの抵抗としてリンゼイから視線を外さずに答える。現状身体に異常はないが、ここで問答無用でリンドーに襲いかかり悪印象を与えたらどうなるか分からない、どうしたものかと御影が思考を巡らせた時だった。
「その話、ルート前線新聞社が詳しくお聞きしましょう」
眩いフラッシュがリンドーとリンゼイの姿を照らすと、ビルの影から八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)が姿を現す。今のは攻撃能力のないただの撮影だが、リンゼイの自由な時間を妨害する事は成功しただろう。
(……どう考えても罠ニャンよ?)
(わかっていますが、相手に好印象を与えるならこれが一番でしょう……念の為、周囲の警戒をお願いします)
小声で御影と言葉を交わすと藍依はではとリンゼイ達に向き直る。
「そちらの女性、リンゼイさんの√能力は周囲の生物を無差別に自殺させるものという情報は掴んでいます。こちらとしては民間人の被害を防ぐために早期の撤退をお願いしたいのですが」
「そこだ、我々の目的は全勢力の妨害。民間人の虐殺ではない」
「と、言いますと?」
取材をしながらも藍依は横目で一度リンゼイの姿を見ると、今度は御影に視線を送る。それに対して異常はないと御影は小さく首を横に振ろうとして……自身の身体が動かない事に気が付いた。
「藍…依……君……!」
「っ!?」
辛うじて出た御影の叫びを聞いた藍依は咄嗟にHK416を引き抜き発砲するが、その動きは普段よりも遅くリンドーに軽々と避けられてしまう。
「そうか、私達はこの場に居れば死ぬと知っている……だからまず自殺衝動で動きが鈍る!そういう事ですか……!」
「御名答、そこまで動けるのは少し意外だったが……まあ戦えはしないだろう」
「……申し訳ありません」
二人の反応を見たリンドー達は役目を終えたと言わんばかりに踵を返す……しかし。
「……っ!ラアッ!!!」
最後の力を振り絞り、御影がリンドーの背中に向かって警棒を伸ばす。完全に動けないと油断していたのだろう、腰に一撃を受けたリンドーは背中をくの字に曲げながらビルの壁面に激突した。
「リンドー先輩!?」
「貴女の相手はこちらですよ!」
直ぐ側から聞こえてきた藍依の声に振り返る前に、白色の光がリンゼイの全身を焼く。死を前にしながらも取材を行ったカメラマンとしての根性魂が、一時的に自殺衝動退けていたのだ。
「撤退します!」
まだ動く事のできる藍依は御影を抱えると、素早くその場から離脱する。上手いこと相手の口車に乗せられた、この思考の鈍化もまた自殺衝動の一種なのしれない。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功
十六夜・月魅アドリブ歓迎です。
「あら、私お役に立てるかも…」
魅了技能全振りの戦闘能力は殆ど無し。
でも今回は役に立てるかな~。とふわふわやってきました。
【愛と美の女神(偽)】を降ろし。
声に状態異常上書き効果が宿るので、自殺衝動を声を届けられる範囲は中和できるのではと、お味方の精神防御が目的です。
(味方の月魅への魅了は、おもしれ―女と思う程度です)
「こんにちわあ。リンドー様とリンゼイ様」
「私は十六夜。よろしくお願いしますねえ」
魔眼と声で魅了を振りまき、(ズルで)自分の好意を稼ぎ。
「その異能、お困りでは…?」
「私が中和できるか、試させてくださいねえ」
「では、歌います」
「ぼえーーーー♪」
歌唱技能無し、寧ろ音痴!
其之咲・光里√能力で付け入る隙を狙っていく……! バトルも、恋愛もね……!(?)
真面目な話をすると、自由な時間に入ろうとすると隙が生まれると思うから、そこを積極的に狙っていくよ。リンドーさんの攻撃は普通の拳銃なら[鉄壁]と[激痛耐性]で耐えるに任せる。
[狂気耐性]で自殺衝動を抑えながらの交戦だね。
「リンドーさんのどんなところが好きなの? わかりあえるところもあるはずなんだけど、私達からすれば敵の印象が強いんだよね」
「この戦場で殺し合いになったからって、後でわかりあえない理由はないよ」
「私もあなたも、基本的に生き返れるしね!」
「自分の能力に絶望する気持ちもわかるけど、私は……あなたの光になりたい」
●死の衝動を上回るもの
「うん、大丈夫そう!」
「ふふっ、お役に立てたようで何よりです」
戦場に入っても身体に異常が無い事を確認するように掌を開閉する其之咲・光里(無銘の騎士・h07659)を見て、十六夜・月魅(たぶんゆるふわ系・h02867)は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「状態異常を魅了に上書きするか、逆転の発想だね!」
「私の美しすぎる美しさが活かされる時が来るとは、天の神すらも魅了してしまったのかもしれませんねぇ」
「……あ、もしかして自分で自分を魅了してる?」
自殺衝動を抑えるためには仕方ないのだが、若干ナルシストになっている月魅を見て後で大変な事になりそうだなあと思いつつも、光里は無銘輝剣を抜いてリンゼイ達の下へと飛び込む。
「おっと?」
リンゼイの能力影響下にあるにも関わらず問題なく動く光里を見てリンドーは目を丸くするが、すぐにリンゼイを背後に下げると手にした拳銃を発砲する。
「効か……ない!」
しかし弾丸をその身に受けてなお光里は止まらず、燃え上がる右目に映る『隙』に向かって刃を振り下ろす。竜を屠るための超重量の剣はアスファルトを粉砕し、リンドーとリンゼイを分断した。
「……ねぇ、リンドーさんのどんなところが好きなの?」
その破砕音に紛れながら、リンゼイにのみ聞こえるように光里が囁くと彼女の顔が真っ赤に染まる。
「な、なんでそれを……!」
「良いじゃないですか、愛する人と二人きりになる能力……私は好きですよ」
いつの間にか月魅もリンゼイのすぐ側まで近づいており、戦場の真ん中でガールズトークが始まろうとしていたが、その気配に気が付いたリンドーは拳銃に新たな弾倉を叩き込み二人に向かって連射する。
「おっとと!?こんな感じで私達からすれば敵の印象が強いんだけど、貴女みたいな人が居るならわかりあえるところもあると思うんだよね!」
「ですがそれだとデートの場所にお困りだと思いますが、どうでしょう?」
「え、えっと……?」
月魅を庇う様に光里が剣で弾丸を落としつつ、二人は会話を続けるが、精神異常を別の精神異常で上書きするという荒療治をしている影響か微妙に話の方向性が違う。何にどう応えればよいのか困惑しているリンゼイだったが、不意に伸びてきたリンドーの手が彼女の襟元を掴み、引き摺るようにして√能力者達から引き剥がす。
「アレは心を奪ってくるタイプの相手だ、迂闊に会話しようとするんじゃない」
「は、はい……申し訳ありません先輩……」
(……ああいう所だと思う?)
(そうかもしれませんねぇ)
さりげなくリンゼイを庇い続けるリンドーを見て光里が月魅と意見を交わしていると、ふとリンドーの隙が減っている事に気が付く。始めは相手が気合を入れ直したのかと思ったが、手にした無銘輝剣の妙な重さから自殺衝動の影響が出ているのだと考えを改めた。
「ここまでみたいだね……今はお互いこんな立場だけど、わかりあえない理由はないと私は思ってる」
「それではお二人が良い未来を歩めるよう、門出の歌を歌わせて頂きます」
「逃げられると──」
リンドーが三度発砲しようとした瞬間、月魅の歌声が空気を震わせる。
それは黒板を爪で引っ掻きながらドライアイスをスプーンに乗せたような甲高い不協和音、聞くに堪えないにも関わらず何故か聞き入ってしまう極めて凶悪な歌声にリンゼイ達が苦しんでいる隙に、光里達は戦場を離脱した。
リンゼイの絶望を照らす光が、必ず来ると信じて。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功
和田・辰巳アドリブ・アレンジ歓迎
【琴瑟】
できるだけ被害を減らさないとね
その為には…
二人で避難誘導をかけながら並んで戦場に
二人の前に着いたら
結界札を使用
榴の唇に口付けを
榴がいるから、他の女にアプローチはしない。代わりに大切にしている所を見せつけて、好感度上昇を狙う
少なくとも榴の自殺衝動は吹き飛ぶし僕は元気になる
僕がいる限り相棒もみんなも死なせはしない
貴方達もここで倒す
榴をお姫様抱っこして海淵流で空中機動
しっかりして戦闘始まってるよ!
空に駆け上がり、√能力を発動しつつ距離を取って相手の能力の軽減を狙う
空からカードから召喚した電信柱と自販機を海淵流でリンゼイへ飛ばして質量攻撃
キスしても耐え切れなくなったら離脱
四之宮・榴アドリブ・アレンジ歓迎
【琴瑟】
心情
…は、は…っ…へ!?
…な、な、な、何を…してるんですかーっー辰巳様!?
…って、は、はい!?
…ま、またぁ…〜〜っ〜〜!!
…僕には、嫉妬心も…し、独占欲も強い…|半身《相方》がいるので…。
…それに、死ぬ方法なんて…百万程度…僕が知らない訳…じゃないじゃないですか。
…死ねなく…したのは、辰巳様でしょ!?
行動
出来るだけ、彼女の元に向かうまでは避難誘導をする。
辰巳様の奇行に唖然とする。
構わず、お姫様だっこ(意思無視)を敢行されて、辰巳様から落ちないように思わず掴んで、√能力を空中で発動する。
回復は、インビジブル融合で。回避系はジャストガードに。
希死念慮は、お友達です。
●共に立つ者
「……あそこか」
ダイビル前に立つリンゼイ達の姿を見た和田・辰巳(ただの人間・h02649)は、相手の√能力から身を守るために自身と四之宮・榴(虚ろな繭|〈Frei Kokon〉《ファリィ ココーン》・h01965)を結界札で守る。どれほど効果があるかは分からないが、何もしないよりはマシだろう。
「リンドーはどうしますか…彼が居ると下手な言葉は届かないように思いますが…」
「大丈夫、手は考えてあるよ」
榴の懸念は最もと言える。好意を持たれれば影響から逃れられると言っても、その極北であるリンドーが近くに居てはどのようなアプローチも霞んでしまうだろう、かといって強引にリンドーを排除すればそれこそ嫌われてしまう。
正直に言えば良いアイデアが浮かばないというのが榴の本音だったが、自信に満ちた笑顔で問題ないという半身を信じリンゼイ達に接触する。
「……っ、リンドー先輩!」
「気が付いているよ」
これまでの戦闘による影響で耳を抑えるようにしていたリンゼイ達だったが、辰巳達の接近に気が付くと素早くリンドーが発砲する。
対怪異を想定した武器ではあるのだろうが、護身用の粋は出ないのか放たれた弾丸は榴の投げ放つカードでいとも簡単に相殺される。やはり問題はリンゼイの放つ自殺衝動、どうするのかと榴が辰巳の方に視線を向けると、眼前に迫る彼の顔が見えた。
「えっ…?」
「は?」
「ん?」
辰巳を除く三人の声が重なる、何が起きているかを理解する前に榴の唇に熱いものが触れた。
「……っ〜!?!?!?」
一瞬の思考の空白の後、榴の顔が急速に熱を持つ。混乱する彼女をお姫様だっこで抱え上げた辰巳は何処か勝ち誇ったような表情でリンゼイ達を見た。
「なっ、なん……っ!?」
「死期が近くなると子孫を残そうとするアレかね?」
「いや?ただ相棒の可愛らしい所を見てもらおうと思っただけですよ」
顔を赤くする女人二人を置いて、男性二人は互いに武器を引き抜くと遠距離から撃ち合いを始める。
辰巳が投擲したサモンカードを即座に呪符の類と見破ったリンドーは自身に到達する前に弾丸で札を撃ち抜き、二組の間を隔てるように自販機や電柱の重なるガラクタの壁ができた。
(召喚術の類か、アレがただの物体なら脅威はないが……)
そうリンドーが思考を巡らせた瞬間、彼は自身のミスを悟った。
「リンゼイ!」
リンドーの呼び掛けに応じられるよりも早く、海淵流で射出されたガラクタが質量兵器となって二人に襲い掛かる。リンゼイの能力は生命体には脅威である一方、思考を持たないただの物には一切の攻撃能力を持たない。
怪異の召喚を封じられているリンドーもまた大質量を防ぐ手段を持たず、ガラクタに取り囲まれ身動きの取れなくなった二人へトドメを刺すように大量の鯨のインビジブルが降り注いだ。
「あ、あのっ……辰巳さまっ……!!?」
「言いたい事はわかってるけど……後にしよう、ここだとゆっくり話せないからね」
何か言いたげな榴にウィンクで返した辰巳はそのまま彼女を抱えて戦場を離脱する、彼を尻に敷くのは中々難しい道のりであるようだ。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功
エーファ・コシュタアドリブ絡み諸々歓迎
リンドーさんにこんな素敵な方が居たとは…
あの方も真面目な方なのでその思いは理解できますが
印象となればワタシに任せてください!
何てったってワタシは騎士!これ以上に公正な存在が居るでしょうか!
ワタシから溢れんばかりの「勇気」と「気合」をアピールしましょう!
お二人の攻撃は『盾』と『馬上槍』で真正面から受けます!
物理的な物は勿論の事、精神的な攻撃もより多く受け止められるはずです
『|複製頭部《ワタシたち》』からのビームや頭突きによる援護を受けながら隙を見て突撃したい所です
このワタシたちを目の当たりにして避難しない一般人はいない…いないはずですよね?
●恐れなき歩み
「さて、ここは私の出番ですね!」
自信に満ちた様子で戦場に降りたエーファ・コシュタ(突撃|飛頭騎士《デュラハン》・h01928)は、やたらと目立つ黄金の鎧を身に着けてリンゼイ達の前に立つ。
「……いくら鎧で身を守ろうと、私の引き起こす衝動は防げませんよ」
「承知の上です!ですが騎士とは勇気のあるもの、恐れず踏み込ませてもらいますよ!」
怯える様子もなく馬上槍を掲げ、正面に盾を構えたエーファはリンゼイ達に向かって突撃する。迎撃の為にリンドーが発砲するが、√能力で作られた盾と鎧は50口径の弾丸を受けても凹む事すらない。
「効きません!」
着弾の衝撃に押し戻されないよう、さらに力強く前へと踏み出しながらエーファは複製頭部を召喚しリンゼイ達を攻撃するよう指示する。いくら心身を守ることが出来ると言っても何時まで保つかはわからない、そのため隙を作って一気に懐に飛び込もうという作戦だったが……。
「……おっと?」
肝心の支援攻撃がやってこない事を疑問に思ったエーファが振り返ると、そこには召喚された頭部達が互いにビームを撃ち合い同士討ちしている光景が広がっていた。これもまた自殺衝動の発露なのだろう、√能力で耐性を増していなかったら背中から撃たれていたかもしれない。
「なるほど、リンドーさんにこんな素敵なパートナーが居らしたとは……」
数の差を考慮しても、以前ゲームセンターで対峙した時より遥かに手強い相手を前に、しかし負けるわけにはいかないとエーファは気合を入れ直すと、手にした盾を勢いよくリンゼイ達に投擲した。
「ッ!」
質量攻撃、それだけでなく大盾の影に隠れエーファの姿が見えなくなる。仕方なしに横に飛んで回避したリンドーの身体を、巨大な馬上槍が貫いた。
「なにっ……!?」
いくら何でも速過ぎる。そう疑問に思ったリンドーが視線を巡らせると、地面に気絶して転がるエーファの頭部達が見えた。
(わざと自分を頭突きで攻撃して、その勢いで加速した!?)
自身の特性すら利用された攻撃にリンゼイが目を丸くする暇もなく、リンドーごと彼女も槍に貫かれる。エーファもまた止まることを考えず突撃した為、三人はそのまま硝子を突き破りダイビルの建物内に飛び込むのであった。
🔵🔵🔴 成功
和紋・蜚廉ふむ…戦闘能力のない相手を甚振る趣味は無い。
安心するがいい、リンゼイとやら。
我が好むのは、死を予感させる相手だ。
穢殻変態・塵執相を発動。
自殺を強要させるなら、それを上回る再生速度で生き残れば良い。
如何なる衝動も飲みこむ。我が奔駆は、死すら置き去る姿なれば。
再生速度共に、上昇した移動速度で接近。
チャージされている希死念慮は、触厭で握り込んで無効化させよう。
少しは衝動も抑え込めたか?
この隙、逃しはせんぞ。
無効化の力を宿したまま、グラップルで抑え込む。
拳の届く距離まで近づけば、後はこのまま打ち込むだけだな。
汝の齎す衝動と、我の宿した生存本能。
根競べと行こうではないか。
どちらがより強いのか。
研ぎ澄ませた我が本能、一日やそこらで打ち消せるとは思わぬ事だぞ。
●見えざるものに何を見る
戦闘の影響で荒れ果てた店内に影が潜り込む。
影が見据えるのは一組の男女。音も無く地を這い、瓦礫やテーブルで自らの姿を隠しながら対象へと接近するそれに、不意に男が銃を向けた。
「蟲の出る飲食店か、最悪だな」
「客の行儀が悪ければそうもなろうよ」
言い合いの直後に放たれたリンドーの弾丸を躱し、壁にへばり付いた和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は瞳の無い頭部をリンゼイへと向ける。
「安心するがいいリンゼイとやら、我が好むのは死を予感させる相手だ」
そのように言葉をかけている間にもリンドーは次々に銃弾を放つが、自殺衝動による鈍化を受けてなお高速を保つ蜚廉は軽々と銃弾を避け、壁や天井を足場に店内を縦横無尽に疾走する。
リンゼイも必死で蜚廉の姿を捉えようとするが、彼女の目には黒い尾を引く残像しか映らない。
「それはつまり、私に攻撃するつもりはないと?」
しかし表向き焦った様子は見せずリンゼイは冷静な声で蜚廉に問い掛ける、彼女もそれなりに場数は踏んでいるという事なのだろう。
「否、無意味に傷つける事はしないというだけだ」
その経験を上回るように、翅を広げた蜚廉は羽ばたきの音を立てながら一直線にリンゼイへと跳躍する。巨大な羽音に加え、弾丸をその身に浴びて銃痕から体液を噴き出す姿を見て、リンゼイの身体が恐怖で一瞬硬直した。
その隙を見逃さず蜚廉は右掌で彼女の腕を掴むと、離れられないよう鉤爪を深く喰い込ませる。その瞬間、自殺衝動による身体の重みが消滅した。
「しまっ…!」
「やはりな」
どれほど強力な力であっても、√能力ならば封じる事ができる。後の懸念はと蜚廉が思考を巡らせた時、地面に伸びるリンドーの影が形を変えた。
「自殺衝動が無くなればこちらも怪異を出せる……そこまでは考えていたかな?」
「無論、だがこの距離で我だけを斬ることができるか?」
「当然」
相手の姿を見ず問い掛ける蜚廉に、リンドーは刃腕の斬撃で答える。
確実に迫ってくる死の刃、それに対して蜚廉はリンゼイの腕を掴んだまま何もしなかった。
パッと、血と体液が撒かれ周囲を汚す。そうして自分ごと斬り裂かれたリンゼイの目を見て、蜚廉は小さく息を漏らした。
「驚かぬのだな、彼女は」
「信頼だよ、これも」
そう言ってリンドーは蜚廉の腕がついたままのリンゼイの上半身を回収すると、蟲翅を広げて店内から飛び去る。
追うことはできるがその意味はない。あの二人以外にも敵は大量に残っているのだ、リンゼイの撃破という目的を達成できたのなら深追いは不要だろう。
「憐れな……」
その言葉は果たしてどちらに向けたのか、自分でもその答えが分からぬまま蜚廉は戦場を後にするのだった。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功
