⑧|進む《生きる》未来
●
戦争のほぼ中心部である秋葉原ダイビルに出現したのは、大統領命令により戦線に投入された合衆国管轄の封印指定人間災厄『リンゼイ・ガーランド』。
彼女に近付けば、誰であっても問答無用に自殺へと追い込んでしまうという脅威の能力。この力に立ち向かうには、死に抗わなくてはならない。今もまた、敵味方関係なく多くの命が自らの意思で絶たれていく。
──生きていたって、何も無いから。
そんな虚しい声だけが響いていく。
そんな声を聞き、『リンゼイ』はただ静かに安らかな死を願う事しか出来ない。
『せめて、どうか安らかに……』
死神のような力を持つ人間災厄は、一人を想いながら王劍戦争の全勢力の妨害を果たそうとしていた。
●
「封印指定人間災厄『リンゼイ・ガーランド』。合衆国は、とんでもない力を持った存在を送り込んできたものです」
そう静かに語り始める屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は、人間災厄や怪異についてまとめている書物を開いてから小さく息を吐く。
「個人的な趣味も兼ねて様々な怪異などについて調べて来ましたが……彼女のような人間災厄は初めて知りました。私自身も災厄に当てはまるとはいえ、改めて監視下に置く理由に納得出来ますね」
“何らかの手段で人類社会を崩壊せしめる可能性”を持つ危険な存在。だからこそ、政府機関によって厳重に監視される生活になるわけで。封印レベルとなれば、その危険性が明らかに桁違いなのは容易に想像出来るだろう。
「…彼女に近付けば、例外なく誰もが自殺をしてしまう。決して死なないという強い意志を持って抗わなければ、『リンゼイ』に勝つ事は難しいでしょう」
√能力者はAnkerが無事なら生き返る事は出来る。だが、そのAnkerも彼女に近付けば危険であるからこそ、生きる意志を強く持って欲しいと伝えて。
「この戦いは厳しいものになるかもしれません。ですが、皆さんが欠ける事なく無事に帰ってくる事を祈っております」
どうか、死へ誘う力に負けないで欲しい。
そう伝えてから、戦場へ向かう√能力者達を見送るのだった。
マスターより
レンカ皆さん、こんにちは!レンカです。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
|秋葉原荒覇吐戦《あきはばらあらはばきのいくさ》第二戦線3本目のシナリオは、リンゼイの力による自殺を防いでください!
プレイングボーナス:自分の自殺を防ぐ(一瞬好かれるだけでも効果あり)。
制圧効果:大規模戦闘発生!翌朝9時まで無料参加でき、105勝すると第三戦線の全戦力が2割減。
●プレイング・受付締切について
ゆったりな進行。プレイング書ける範囲で採用していきたいと思います。万が一プレイングが流れた場合、お心変わりなければ再送いただければと思います。
グループ参加は2名まで。迷子防止のため、必ず【グループ名】or 同行者名(ID)の記入をお願いします。
プレイング受付締切ですが、成功目処が立った時にタグにて章ごとに告知します。
●一章
シナリオ公開後すぐ受付開始します。
※今回は心情メインで受付します。戦闘描写よりも、死に抗うための心情をプレイングにたくさん書いてくれたらと思います。
52
第1章 ボス戦 『人間災厄『リンゼイ・ガーランド』』
POW
|希死念慮《タナトス》
60秒間【誰にも拘束・監視されない自由な時間】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【突発的感染性自殺衝動】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
60秒間【誰にも拘束・監視されない自由な時間】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【突発的感染性自殺衝動】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
SPD
怪異「|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》」
【|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》】と完全融合し、【自殺衝動の超増幅】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
【|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》】と完全融合し、【自殺衝動の超増幅】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
WIZ
|自殺のための百万の方法《ミリオンデススターズ》
【様々な自殺方法の紹介】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【ヴァージン・スーサイズによる自殺衝動】に対する抵抗力を10分の1にする。
【様々な自殺方法の紹介】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【ヴァージン・スーサイズによる自殺衝動】に対する抵抗力を10分の1にする。
和紋・蜚廉死へ誘う声が胸の奥に触れても、我は沈まん。
生きろという叫びは、本能に刻まれている。
命の長さは価値ではなく証。そう悟った夜からずっと、生きることを捨てたことはない。
捨てられた街に独り。
誰にも望まれず、それでも生き残った我の足は、簡単には止まらん。
その囁きは、かつて背中に降り積もった絶望と同じだが。
我はその声に飲まれず、殻の奥で牙を噛みしめて進んできた。
今はなおさら、生きたい理由がある。
ちるはのそばに居たい、その横で息をしていたい。
ただ手を繋ぐという、それだけの願いが、
我の生存本能を何倍にも強くしている。
生きて戻らねば、あの笑顔にも触れられん。
ちるはの無事を願うほどに、我は折れぬ。
守りたいという衝動が、死へ誘う声より遥かに重い。
汝の囁きがどれほど静かで、甘く、優しくとも、
我は退かん、我の未来はそこでは終わらんのだ。
リンゼイよ、安らぎを願う汝を責めはせん。
だが、我に死を受け入れろと言うなら、それは聞けんな。
我は生きるために立つ、生きるために抗う。
幸せな未来を自ら手放すほど、弱くはない。
我は生き残った者なり、
誇りを捨てず、証を抱えて進む者だ。
この心が折れぬ限り、我は死を選ばん。
抗い続ける、生きて帰る、そのために。
そして、ちるはの隣に戻るために。
手を繋ぎたいというその衝動が、我をここに立たせる。
我は、我自身の未来へ進むために、生きる。
●
封印指定人間災厄『リンゼイ・ガーランド』の放つ死へ誘う力は、今もずっと秋葉原ダイビルから彼女の意思と関係無く放たれていた。近くにいた人達は敵味方関係無く|自らの意思で《『リンゼイ』の力により》命を落とし、見渡す限りは死体ばかり。
そんな中で、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)もまた『リンゼイ』の力により死に誘う声が聞こえてくる。名も知らぬ場所で、誰からも求められることは無いままに、菓子袋や泥水で腹を満たしながら、ただひたすらに生きていた。突如として燃え盛る炎の中で、死を目の当たりにした。あの日感じた炎の熱さも、自身が焼け焦げていく匂いも覚えている。
「死へ誘う声が胸の奥に触れても、我は沈まん。生きろという叫びは、本能に刻まれている」
そう、蜚廉はあの日悟ったのだ。命の長さは、価値ではなく証なのだと。“不在”とされた場所で、“どうでもいい”事故が起きてしまったあの日。あの悟った夜からずっと、生きることを捨てたことはない。それがたとえ、命を繋ぐ事が出来なくなったとしても。
かつて背中に降り積もった絶望もまた大きかった。その絶望の声に飲まれず、殻の奥で牙を噛みしめて進んできたのは──強い生への覚悟を持っているから。
それだけではない。新たな生を受け、√能力者として目覚めてから多くの人達と出会ってきた。それぞれが持つ覚悟も思いも見聞きしてきた。強い思いがあるから、襲い来る簒奪者と立ち向かえる。皆も背負っている、様々な形を見てきた。
そして、嘗て誰からも必要とされなかった蜚廉の隣で、にこやかに笑ってくれる人がいる。ふわりとした笑顔に、美味しそうに食べる姿を見て、たくさん話しをしていく中で、今まで知らなかった心の温かさを感じられるようになった。──手を繋いで歩んでいきたい。ただそれだけの願いだけれど、それは確かに生きるという強い思いが何倍にも大きくなる。
「生きて戻らねば、あの笑顔にも触れられん」
今この戦争で、それぞれ違う戦場で戦いを続けている。きっと怪我だって伴うはずだし、命の危険だって有り得る。だとしても、無事を祈らずにはいられない。守りたい、守るために戦うのだと、その覚悟は生きる強い意志へと変わる。
──またどこか行きましょうね。
「約束したのだ。故に、死ぬわけにはいかぬ。リンゼイよ、安らぎを願う汝を責めはせん。だが、我に死を受け入れろと言うなら、それは聞けんな」
戦いが落ち着いたら、また出掛けようと約束した。他人にとっては、小さくささやかな約束かもしれない。けれど、蜚廉にとっては特別で大きな約束。未来に繋がるための約束だから。幸せな未来に進むため、あたたかな未来を手放すほどに、蜚廉の心は脆く弱いものではない。
「我は生き残った者なり。誇りを捨てず、証を抱えて進む者だ。この心が折れぬ限り、我は死を選ばん。抗い続ける、生きて帰る、そのために」
そして、笑顔を見せてくれる守りたい人の隣に戻るために。手を繋ぎ、共に手を繋いで未来を歩む。この想いが蜚廉を強くさせる。
──未来は自らの手で掴むもの。
蜚廉自身の未来へ進むために、人間災厄の放つ死への誘いに抗い続ける。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
吉住・藤蔵……生きる意思、なあ。
そもそも俺ァ毒持ちだからよ。下手に死んだら毒を含んだ体液をばら撒いちまう可能性があるんだべよ。
周りに迷惑かけて死ぬのはゴメンだし……何より、俺にはほっとけねえ後輩みたいなのがいるんだよな。いわゆるアンカーってやつだ。1人で抱えそうな後輩みてぇな助手みてえなアイツを置いて、死ぬ訳にはいかねえ。だから【精神抵抗】力で耐えるだよ。
すまねえな、ちょっと揺らすど……そう言って【霊震】発動。震度は5。これで動きづらくすれば拘束状態になってチャージもしにくいんでねえかな。
いつか、リンドーやおめえさんらとも手をとりあえたらええんだがなあ……難しいんかな。
●
(……生きる意思、なあ)
封印指定人間災厄『リンゼイ』から放たれる死を誘う力。吉住・藤蔵(毒蛇憑き・h01256)もまた声が囁いてくるように感じたけれど、今ここで簡単に死ねない理由があった。
いつからか、藤蔵に取り憑いた蛇神の存在。自分が死ぬということは、蛇神の持つ猛毒を含んだ体液をばらまいてしまう可能性がある。そうなれば、この秋葉原ダイビル周辺は死を逃れることの無い地獄と化してしまう。ただでさえ『リンゼイ』の力によって多くの人達が、自らの手で命を絶ち続けている。そこに加えて、藤蔵に憑く蛇神の猛毒でまで他者を傷つけるつもりはないから。
「周りに迷惑かけて死ぬのはゴメンだし……」
死を選べない理由は他にもある。藤蔵にはほっとけない後輩のような存在がいる。監視役として行動を共にするようになり、機関員としてはまだまだで、怪異にも普通に驚いてしまう青年。恐怖心を欠落してしまった藤蔵にとって、貴重なストッパーでもあった。そんな少し怖がりな彼こそ、藤蔵の|帰るべき場所《Anker》。一人で抱え込んでしまいそうな彼を置いてなど、藤蔵には出来るわけがなかった。
「またアイツが心配してしまうだべなぁ……だから、ここで簡単に死ぬわけにはいかねぇ」
『リンゼイ』も藤蔵も、自ら望んで死をばら撒きたいわけではない。そういう部分では似たもの同士だろう。けれど、敵である以上は戦わなくてはいけない。話が通じるなら、手を取り合う未来だってあるのではないかと考える。
(いつか、リンドーやおめえさんらとも手をとりあえたらええんだがなあ……難しいんかな)
『リンドー・スミス』もまた、敵というには何処か憎めない紳士だと感じていた。彼はスマートに仕事をこなしながらも、美味しいものを楽しんだり出来る気さくな一面も持ち合わせている。先程も、日本の張り込みには欠かせない定番のあんぱんだってオススメしたくらい、親しく話せる事も多いから。
そんな『リンドー』を想うのなら、やはり心の底から敵だとは思えない。死が蔓延するこの場で、手を取り合える未来を祈るくらいは許されるだろうか。
そんな淡い期待も抱くからこそ、生きて未来に進まなければいけない。
──大切な存在を守るために、手を取り合う未来をつくるために。
🔵🔵🔵 大成功
櫃石・湖武丸覚えのある感情に今更動揺はしない
死は救済なんて言葉があるが正直肯定している
生まれた時から力が欠けていて一族でも弱く小さく、俺を口実に貶された
善でありながら鬼、代々受け継いだ祖先の力を分家に奪われ落魄れた一族
望んでそう生まれたんじゃない、家族だって俺をそうしたかったんじゃない
頭では分かっていても浴びる理不尽な悪意は毒のように蝕んだ
母が悲しむから泣く事も怒る事も|欠落して《封じて》
それでも残る恨み辛みを考えない為には死を選びたくなる
それも難しいのは家族が悲しむから、生き返るとしても心配をかけるから
じゃあ、どうしたらいいんだって
でも今は暫し会えなくなるのが惜しい相手がいる
だから、死ぬのは今じゃない
●
『リンゼイ』による死へと誘う力を感じながらも、櫃石・湖武丸(蒼羅刹・h00229)は知っている感覚に動揺はしなかった。“死は救済”という言葉が存在しているが、まさにそうだと思うと湖武丸は内心肯定的だった。
善行を生業とする一族の末弟として生まれた頃から力が欠けていて、湖武丸は一族の中で一番小さくか弱かった。弱い存在は不要だと、出来損ないだと、いいように口実つけられ貶められ続けた。善でありながら鬼、代々受け継いだ|祖先《羅刹鬼》の力は分家の呪術によって奪われてしまった。弱者だと、半端者だと罵られ、落魄れてしまった。
(望んでそう生まれたんじゃない、家族だって俺をそうしたかったんじゃない……)
幼い頃から、ずっと頭では理解していた。けれど、止まない暴言も理不尽な扱いも変わらなかった。毎日、毎日──言葉の刃は毒となり、湖武丸の心を蝕み続けてきた。
母の悲しむ声を、顔を、今でも覚えている。何度も、幼い湖武丸に対して不遇な日々にしてしまっている事を謝ってきた。そんな顔させたくない、心配させたくない。そのために泣く事も怒る事も|欠落して《封じて》前を向く事を選んだ。
「それでも残る、恨み辛みを考えない為には死を選びたくなる」
望んだとしても、√能力者は死を選べない。死ぬ事が出来ても、またどこかで生き返しを受ける。──そう、死が叶わない。
だが、叶わないから死を選ばないわけではない。
家族が悲しむから、生き返るとしても心配をかけるから。悲しませないために|欠落した《封じた》のに、どうして容易に死を選べようか。
それだけじゃない。会えなくなるのが惜しいと感じる相手がいる。愛らしい姿で帰りを出迎えてくれる小さな命もいる。笑い合える仲間がいる。独りだった過去とは違う、新しい繋がりが湖武丸の未来を明るく照らすから。
「だから、死ぬのは今じゃない」
愛情を注いでくれている家族のために、支えてくれる仲間達と共に。力が欠けてしまった半端者の“羅刹鬼”じゃない、欠落し強い力を得た√能力者として前を向く。これが、湖武丸が進もうとしている未来だから。
──誰も悲しませないために、己が善と思うままに。
🔵🔵🔵 大成功
エルマ・ファーミント万一自殺まだな人見かけたら【魔女の夜】で疑心暗鬼にする
自殺願望疑えばもしかしたら
「自殺かぁ。したいと思ったことはないかなー」
むしろどんだけ辛くても生きたくてしょうがなかったわな
(紛争地域の反政府組織に)攫われて
爆弾巻き付けられて突撃命じられたりを自殺と数えるなら、だ
出し抜いて生き延びてそんな生活10年も続けたんだ
自殺に抗するのは誰より慣れてる
一緒に攫われてきて
殴られて死んだ|子供《ガキ》
テロやらされて吹っ飛んだ|子供《ガキ》
圧し拉がれて死んだ|子供《ガキ》
同情しねぇでもなかったが
ああなるのは嫌だった
それだけは本当に嫌だったんだよ
それを
オレをあの地獄に引き戻そうってのか
ふざけんじゃねぇぞ
●
秋葉原ダイビルに現れた封印指定人間災厄『リンゼイ・ガーランド』を目の当たりにしたエルマ・ファーミント(人間(√EDEN)の逃亡兵・h05018)は、まず周りにいる人達へと視線を向けた。『リンゼイ』の近くにいるだけで死に誘われ、自らの手で命を絶つ人は後を絶たない。少しでも被害が抑えられるようにと【|魔女の夜《ヴァルプルギスナハト》】を発動し、自殺願望に対して疑心暗鬼になるよう試みる。
「Es ist wie die Walpurgisnacht! ……自殺かぁ。したいと思ったことはないかなー」
これで少しでも被害が減ってくれたら、そう願いつつも災厄の力はエルマにも牙を剥く。だが、死に抗う意志はとうに強かった。どれだけ辛くとも、行きたくて仕方がなかったから。
エルマは幼少期、紛争地域の反政府組織に攫われた。攫われた先で子供に命じたのは、体に爆弾を巻き付けて突撃しろというもの。人ですらも道具のように扱う、非人道的なものばかり。爆弾を巻き付けたまま突撃するという事は、命令こそされていても他から見れば自分から死にに行くように見えるだろう。その行為を自殺と数えるならば、どれだけ命令され続けたか。
どうにかこうにかと出し抜いて、生き延びて。理不尽な生活を10年も続けてきた。自殺に抗うのには、誰よりも慣れていると自負している。
同じように攫われてきた子供達はたくさんいた。
命令に逆らい、殴られて死んだ|子供《ガキ》。組織に命令され、テロやらされて吹っ飛んだ|子供《ガキ》。与えられる理不尽やプレッシャーに圧し拉がれて死んだ|子供《ガキ》。どの子達に対しても同情はしないわけではなかった。けれど、同じようになりたくない。誰かが犠牲になる度に、死に抗う気持ちが強くなっていた。
(……それだけは本当に嫌だったんだよ)
『リンゼイ』の力によって死を誘われる度に、思い出されるのは理不尽な過去。ギリ…と唇を噛み締め、無意識とはいえ手に力が入り強く拳を握り締めていた。
「それを、オレをあの地獄に引き戻そうってのか……ふざけんじゃねぇぞ」
死んでいった子供達と同じ道なんて辿ってやるもんか。あの地獄を乗り超えてきたのに、あの頃に戻るつもりは毛頭ない。
エルマは強く一歩を踏み出し、鋭い眼差しで人間災厄を睨み付ける。生きてやる、その強い意志を胸に立ち向かう。
🔵🔵🔵 大成功
クラウス・イーザリー自殺衝動には狂気耐性と精神抵抗で抗う
死者が残した遺品、生者との縁で手に入れたコイン
二つを握り、まだ死ねないと自分に言い聞かせる
それに、自殺した先にあるのは本当の意味では死ねないという結果だけだ
自分を大切にしてくれた/してくれる人達への想い
自殺しても死んだ人達のところには行けないという諦め
両方を抱えて衝動に抗う
リンゼイから視線を外さないようにしながら戦闘
近距離なら魔力兵装で、距離がある時はレイン砲台で射撃
チャージが進んでしまったらダッシュで接近し、ルートブレイカーで感染性自殺衝動の発動を止める
「……ごめんね」
人間災厄が必ずしも喜んで能力を使うとは思っていない
力で止めるしかないことを、許してくれ
●
(俺は、まだ死ねないんだ……)
死者が残した遺品、生者との縁で手に入れたコインをしっかり握り締めながら、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は『リンゼイ』の放つ自殺を促す力に対抗する。
仮に今ここで自殺を選んだところで、√能力者である限り再び何処かで生き返しを受ける。本当の意味で死ねない事を実感するだけという結果になってしまうから。
何度死にたいと思っただろう。
家族を、親友を亡くしたあの日から──自分が死ねば良かったと考える日は多々あった。依頼の中で、親友の幻影と対峙する度に心苦しくなった。あの鮮烈な赤を思い出す度に、胸が苦しくなる、泣き叫びたくなる。そして行き着く答えは、自分が代わりに犠牲になれば良かったと、常々そう思わずにはいられない。
「今の俺には、心配してくれる人達がいる……だから、ここで止めさせてもらう」
クラウスを慕い、信じてくれる仲間が増えた。弱音を吐いて良いんだと言ってくれる、一緒に楽しい事をして笑い合える、そんなたくさんの仲間達との出会いが、ふと立ち止まりそうになる度に背中を押してくれる。自分がいなくなる事で、誰かを悲しませるなんてしたくない。少しずつ、確かに前を向き始めている。生きるために戦うと、歩き始めているから。
それに、自殺をしても親友達のいる場所にはいけないという諦めざるを得ない現実もそこにある。一緒な場所へ行くのは何時になるだろう。その時が来た時、親友はなんて言うだろう。
(そっちに逝くのは……もう少し、待っててほしい)
空に向けて一言心の中で呟いてから、目の前にいる『リンゼイ』に視線を向ける。決して視線を外さないようにしながら、クラウスは【レイン砲台】で攻撃を仕掛ける。隙が出来たのを見計らい、ダッシュで一気に距離を詰めると【ルートブレイカー】で感染性自殺衝動の発動を無効化にして。
「……ごめんね」
もちろん、全ての人間災厄が喜んで能力を使うわけでは無いのも理解している。現に『リンゼイ』も、好んで自殺衝動を促す力を使っているわけではない。それでも対策するには、力で止めるしか方法は無い。許して欲しい、といったところで許せるわけでは無いだろう。けれど、そう思わずにはいられない。
嘗て親しくしてくれた家族や親友、そして今親しくしてくれる仲間達。全ての想いを胸に、クラウスは死に抗い戦い続ける。
🔵🔵🔵 大成功
斎川・維月死んだらもっと何も無いでーすよー!
ボクはそれを知っています。
本当に、何も無いんです。安らかさすら無いんです。
だからそれを人にさせた、『自殺させた』時の気分なんてのは……まー、ひどいもんですよね。
知ってます。
だからリンゼイさん。貴女にそんな想いさせませんよボクは。
嫌なの、知ってるもの。何十回何百回やったって、慣れやしないもの。
だから、耐えます。
まあでも仕事ですし、お互い立場とかありますので、戦いはするんですけどねー!
だがせめて可愛く楽しく賑やかに!さあ行け古霊さーん!いえーい!
(\いえーい/)
戦いながらで良いからお話ししましょうリンゼイさん!
恋バナとか!……駄目?えー、聞きたいのに―(ウザ絡み)
●
封印特定人間災厄『リンゼイ・ガーランド』が秋葉原ダイビルに現れてから、『リンゼイ』の意思関係なく力が発揮され、多くの人々が死を囁かれ命を落としていく。そんな中に斎川・維月(幸せなのが義務なんです・h00529)も駆け付けるも、例外なく死を囁かれれば持ち前のポジティブさで自殺衝動を跳ね除ける。
「死んだら、もっと何も無いでーすよー! ……ボクはそれを知っています」
死んだ先にあるのは文字通りの“無”。
死は安らぎや救済を与えるという言葉もあるけれど、悲しきかな実際は何も与えられないわけで。ましてや、今回ばら撒かれている衝動は『リンゼイ』本人が望んでいるものではない。ただそこにいるだけで、近付いた全ての命が消えていく。『自殺させた』という罪の意識に苛まれる気持ちは分かるから。
そんな維月も人間災厄『クビレオニ』と呼ばれる存在で、死に誘う災厄。維月が一定以上ネガティブな精神状態になると、自動的に不随意に死が拡散されてしまう。似ている力を持っているからこそ、気持ちが分かってしまうのだ。
「だからリンゼイさん。貴女にそんな想いさせませんよ、ボクは。嫌なの、知ってるもの。何十回何百回やったって、慣れやしないもの」
人を殺したくないから、ポジティブに解釈して笑顔を見せる。それで救われる命がたくさんあるなら、笑顔が誰かを支えられるなら、維月はニッコリ笑って幸せなんだと見せ続ける。
「まあでも仕事ですし、お互い立場とかありますので、戦いはするんですけどねー! だがせめて、可愛く楽しく賑やかに!さあ行け古霊さーん!いえーい!」
気持ちは分かり合えるけれど、お互いに敵対する関係。互いの目的のために戦わなくてはいけないから。維月はめいっぱいの笑顔を見せて【|古霊《せいれい》さん】を召喚して【|古き死の群《ザイン・ツム・トーデ》】を発動する。
「『おやくにたちますー』『たたずともたったふりはします』『ふりはとくいです』『それでなんとかなります』『しゃかいのしゅくずですな』」
小さな【|古霊《せいれい》さん】達が一斉に『リンゼイ』へと飛びかかり、それに混ざって維月も距離を詰める。でも、ただ戦うだけじゃつまらないからと、楽しくお話しようと話し掛けて。
「戦いながらで良いから、お話ししましょうリンゼイさん! 恋バナとか!」
『え、っ……そ、それは出来かねます……!』
「……駄目? えー、聞きたいのに」
まさか恋バナしようと言われるとは思わず、想い人がいる『リンゼイ』はほんのり赤くなってしまう。けれど、答えられないと言われれば維月は唇尖らせながら、ちょっとばかしウザ絡み。
例えウザいと思われたとしても、気持ちが暗くならないなら少しでも救いになればいい。そう思いながら、維月は笑顔で立ち向かう。
🔵🔵🔵 大成功
ノア・キャナリィ僕は、自分の事なんか大嫌いで
死を望んだ事だって、一度や二度じゃない
それでも
僕を庇って長い眠りについた僕の従姉妹…
ううん、義理の姉さん
彼女が僕を好きだと言ってくれたから
大切にして、愛情をくれたから
奪われた家族の唯一の生き残り
僕は彼女のために生きるんだ
彼女のために笑うんだ
彼女が目覚めた時に、少しでも誇れる自分で迎えられるように
たった一度でも、自分の意思で闇に身を預けたら
僕は自分をもっと嫌いになってしまうから
今よりもっと、心だけでも
強くなるんだ
だから、死なない
そして貴方の心も…これ以上、血に染めたりはしない
夢蛍発動
痛みを与えず、破魔の光で温かく柔らかく浄化を
貴方が死者に祈るなら
僕は貴方に祈ってあげる
●
自分の事が大嫌いで、何度死を望んだだろう。
自らの意思関係なく自殺衝動をばら撒く『リンゼイ』を前にして、ノア・キャナリィ(自由な金糸雀・h01029)は自身にも感じる衝動を感じながら思い返す。
ある日突然、ノアの目の前で親を虐殺されてしまった。
目の前にあったのは、両親の血で真っ赤に染まる世界。どうして、両親が殺されなければいけなかっただろう? どうして、なんで──幼いながらも、ただならぬ恐怖心と失った事でぽっかりと穴が空いた感覚は覚えている。そんなノアも弔う猶予を与えられぬままに幽閉され、長きに渡り過酷な環境で身を置かざるを得なかった。
何か悪い事をしたのだろうか。どうしてこんな目に合わないといけないのだろうか。いくら考えたとて答えは出てこない。幽閉され、理不尽な扱いを受け、怪我もどれだけしたかも忘れてしまった。こんな生活が続くなら死にたい。両親の元へ行きたい。一人静かに泣きながら、地獄から解放されたいという願いを胸に抱き続けていた。
──つきりと、足が痛んだ。
あの頃の、あの地獄の記憶を呼び起こすかのように。歩けなくなったのもその頃だ。あの激痛は、今でも鮮明に覚えている。
どれだけの月日を過ごしたか。死にたいと思えるほどの地獄にいたノアに希望の光が差し込んだ。大好きだと言ってくれていた義理の姉が命を懸けて助けに来てくれた。ようやく救われる、そう思った。けれど、ノアを守るために体を張って庇い深い傷を負ってしまった。漸く逃げ出せたのに、長きに渡り眠りについてしまった。
優しい声で大好きと言ってくれる声も覚えている。傷は癒えたものの、未だ目覚めない大切な家族。いつか目覚めてくれる事を信じて、笑顔で「おはよう」と助けてくれたお礼を伝えたいから。
「彼女が僕を好きだと言ってくれたから……大切にして、愛情をくれたから。だから、僕は彼女のために生きるんだ。彼女のために笑うんだ」
──姉さんが目覚めた時に、少しでも誇れる自分で迎えられるように。
たった一度でも闇に身を預けてしまったら、きっと今以上に自分を嫌いになる。これ以上嫌いになったなら、その先はきっと堕天の道になってしまう。
そうなりたくない。今よりももっと、心だけでも強くありたい。これが、ノアの生きる理由。
「だから、死なない。そして貴方の心も……これ以上、血に染めたりはしない」
ノアは手をかざし、少しでも穏やかにと願いを込めて【|夢蛍《ユメホタル》】を発動。
「貴方は、傷付けたくない。だからせめて、優しい光の中で、穏やかに眠って」
痛みを与えず、破魔の力で温かく柔らかく──穏やかな浄化を。
(貴方が死者に祈るなら、僕は貴方に祈ってあげる)
『(あぁ……なんてあたたかい…。この場でお役に立てず、申し訳ありません……)』
『リンゼイ』の表情は穏やかに、一雫の涙を零して消えていく。最期に想い人に思うのは何だったのか──誰も知る由もない。
いつかまた対峙する日が来たとしても、その時もまた少しでも安らぎを与えたい。それはきっと、『リンゼイ・ガーランド』の胸の内にある優しさが、√能力者達に伝わったからかもしれない。
🔵🔵🔵 大成功
