⑮人工建築の|中《川》の狂えるオフィーリア
●人工建築に囲まれて……
狂えるオフィーリアこと、『エレクトリック・マーメイド』は√汎神解剖機関かの幾つかの√通り、やっと√EDENの神田郵便局に現れた。
突如、王権執行者としての役目として、もしくは婚約者に裏切られたオフィーリアの如く、突如、王劍【|縊匣《くびりばこ》】に狙われるも王権執行者と選ばれた実力で何とか『エレクトリック・マーメイド』は撃退したものの、異種返しの如く王劍【|縊匣《くびりばこ》】の破片が瞳に刺さった。
王劍【|縊匣《くびりばこ》】の|破片《欠片》に操られ、我を忘れているよう、真実を知ったオフィーリアのように痛みは、彼女の思考を全て狂気へと駆り立てた。
……嗚呼、助けて……王子様……。
……嗚■、壊れ■しまう、王子様……。
……■■、真実……なんて■らない……。
……お願■……王■様、私を……■け■……。
苦悶に満ち、悲痛な叫びは、瞳に刺さった欠片が、それとも……断続的に視える狂気からか……?
人工建築の|中《川》で溺れ、暴れる彼女は無意識に──いや、溺れているからこそ『電子の泡』を放出し続けるのだ。
この人工物の中で、陸に上った人魚が、真実を知ったオフィーリアのように狂い果てて死ぬしかないのか……?
●箱庭【|提灯百合《サンダーソニア》】より、響く星詠みの声。
此処は、√能力者なら誰でもアクセスできる星詠み、|四之宮・榴《しのみや・ざくろ》(虚ろな繭〈|Frei Kokon《ファリィ ココーン》〉・h01965)が用意した小さなネットワークグループ・箱庭【|提灯百合《サンダーソニア》】である。
四之宮・榴の声は、とてもか細く聞き取り辛いのだが、自動文字起こしのお陰で、その点の問題はクリアされている。
榴が用意した資料には、√EDENの神田郵便局周辺の地図が添付されており、どの程度の場所まで『電子の泡』が、広がって居るかをリアルタイムで常に計算され展開されている。
今回の撃破目標は、──明確には『電子の泡』であり、怪異としてはいない。
正しくは、撃破はしないでも構わない旨と、その理由が添えられていた。
・『エレクトリック・マーメイド』は、既に王子を求め、十分弱って居ること。
・『エレクトリック・マーメイド』の瞳に刺さっている王劍【|縊匣《くびりばこ》】の欠片を抜けば彼女は沈静化し撤退すること。
・『エレクトリック・マーメイド』が、無意識に出している『電子の泡』は、√能力者以外には無害であること。但し、√能力者だけを自動迎撃する無数の『電子の泡』が浮かんでいること。(注意:|Anker《非能力者》なら、電子の泡に攻撃される事はありません。)
──以上を踏まえた上で、作戦に参加して欲しいと書かれていた。
「……今回は、僕の星詠みに……ご協力下さる為、此方のサイトを……ご覧になって下さいまして……有難う御座います。」
画面越しに貴方達へ向けて彼女は深々と頭を下げた。
「……既に『エレクトリック・マーメイド』は、此の『電子の泡』を……放出し続けています。
……現場では、非能力者や、建物には|まだ《・・》被害はでていません。
──と、謂っても……しかし、此の泡が弾けた際に、建物や……無辜の人々が被害に遭う可能性は、あります。……正直、油断が出来る状態ではありません。
……今回、皆様には……この、神田郵便局周辺に行って頂きまして……か、彼女を、あの方を……救って下さい。
……相手は、さ、|簒奪者《・・・》ですが。
……頭では、解っているのですが……僕は、彼女様の想いが……痛い程、僕は……理解出来るのです。
……ですから、『電子の泡』を減らし、彼女様を|救って《・・・》は、下さいませんか?」
何時もなら、能面のような無表情の榴ではあるが、今回に限っては珍しく感情を表に出して、焦って救援を要請したのだ。
榴の中には、簒奪者は述べ組まなく殺すモノだと教え込まれている。──が、今回は彼女の|我儘《・・》のようだった。
「……勿論、ご無理は……謂いません。
──ですが、もし……少しでも……と、思って下さる方には、どうぞ……お願い、致します。」
何時もは無表情で何処か儚げな榴だが、淡々と述べる姿には矢張り焦燥感を纏い、どうにかしたいと謂う想いが滲みでていた。
人を信じられなくなった|人擬き《D.E.P.A.S.》は、自分自身ではどうにも出来ない事を同じ√能力者に頼むしかなかった。──この星詠みをしてしまったばかりに──。
画面をチラチラと視る視線には、迷いが生まれ、此の依頼をお願いするべきではないのであろうかと謂う自身の心とも戦っている。そして、努めて冷静で在ろうとする姿は逆に痛々しかった。
「……現場では、既に『電子の泡』が多く散見されます。
……√EDENの為……多少の無理をしても、大丈夫だとは、思いますが……出来るだけ、か……いえ、お気を付けて……下さい。」
画面越しに、今にも泣き崩れそうな瞳で、縋るように見つめる榴は、相変わらず己の矛盾する想いと懸命にせめぎ合っていた。
そして貴方達に改めて深々と頭を下げた。
──強制ではない。星詠みとしてのお願いであり、榴の個人的なお願いでもある。
ただ、此の儘、欠片に狂わされている『|エレクトリック・マーメイド《オフィーリア》』をどうにかしなければ、確実に被害は拡大するだろう。拡大した先は──想像に容易いだろう。
そんな時、榴はぽつりと、呟いた。まるでその言葉を自身に謂い聞かせるように──。
「……王子様を求める、彼女様の正気を、取り戻すよう対話……しながら近づけば、迎撃は……少し、緩むでしょう。」
画面の向こうの四之宮・榴は、真っ直ぐに貴方達を見つめている。
信じるように。願うように。彼女が明確に|我儘《・・》を告げた依頼であった。
マスターより
海月宵初めましての方や、お久しぶりの方々、海月・宵と申します。
第三戦線戦争シナリオをお送りします。
出来るだけ早期に書き上げたいと思っております(気力的には)。
前回も前々回もアレでしたんで、信用ないですが、日曜・祝日で書ける物は書かせて頂きたいと思います。採用は受付可能な限り出来るだけ、お受け致します。月曜日に終わるようでしたら、またこう謂う系を出すかもしれません。
採用順が前後するかもしれませんので、その点はご了承ください。
海月は、基本的に個人、個人で完結するようにしておりますので、此の人とどうしても! の場合は、タグか相手のIDを一緒にお願い致します。(但し、四人以上✕)
成る可く早期で終了させたいので、その点はご了承ください。
尚、当方のシナリオは|グロくなる《・・・・・》ことが御座います。その点も御了承の上、ご覚悟下さい。……何分、海月なので……。(遠い目)
未だに、不慣れな所が多く御座いますが、皆様の生活の一部として少しだけお時間を頂ければと思っております。
▼第1章 人工建築の|中《川》の狂えるオフィーリア
海月は、狂ってる女性(以外も好きですが)大好きです。(何)
今回は、心情系と割り切って頂いてもいいですし、泡を撃退することをメインにしても構いません。なので戦闘したいって方でも泡との戦闘が御座います。
今回は、諸事情で四之宮・榴の心境と少し一致する所が御座いまして、此の様なまどろっこしい依頼となっております。
プレイングボーナスの関係上、Ankerの参加は歓迎致します。
唯、キャラ設定はしっかり書いて頂けると、よりお望みのリプレイが届けられると思います。
今回のプレイングボーナス:
プレイングボーナス:「電子の泡」に対処する(Ankerなら効果倍増)。
制圧効果:エレクトリック・マーメイドから抜いた縊匣の欠片を元に、終戦後「縊匣特務隊」を結成する(詳しい説明は戦争説明ページを参照して下さい)。
それでは、1戦完結の戦争シナリオです。
断章は、御座いませんのでOP公開と共にプレイングを受け付けます。
第三戦目も取り敢えず参加してみたい!と、思ってくださる方のご参加を、お待ちしております。(深々)
19
第1章 ボス戦 『エレクトリック・マーメイド』
POW
エアリアル・バインド
自身の【髪】を【翠色】に輝く【自在に動き、獲物の生命力を奪う触手形態】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
自身の【髪】を【翠色】に輝く【自在に動き、獲物の生命力を奪う触手形態】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
SPD
ブラッディ・ロア
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【短剣】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【電子の泡】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【短剣】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【電子の泡】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
バブル・パルティータ
【声なき声で王子様への愛】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【電子の海】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
【声なき声で王子様への愛】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【電子の海】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
澪崎・遼馬アドリブ、連携歓迎
この先強大な敵になるのは間違いないのだろうが、どの道ここで倒したところで復活するだけなら穏当に済ませるのが得策か。下手に刺激して被害が広がるのも避けたいしな。なにより一度は王劍を退けた王権執行者。その意思力には興味がある。ゆえに此度だけは救ってやるとしよう。
【貴方の為の葬送曲】を使用。『第六感』で攻撃を察知しつつ、襲いくる電子の泡を迎撃しよう。
「そんな荒んだ姿で王子様と会うつもりか?理想の相手に対するならばそれなりの姿で迎えるのが当然だろう」
「王劍如き跳ね除けてみせろ。君が気高い姫君だというのなら」
(この先、強大な敵になるのは間違いないのだろうが──。
どの道ここで倒したところで復活するだけなら穏当に済ませるのが得策か。)
──そう内心で嘯くのは、澪崎・遼馬(地摺烏・h00878)であり、電子の泡の眼前に広がる様子を抜け目無く観察を続けている。
(下手に刺激して被害が広がるのも避けたいしな。
なにより一度は王劍を退けた王権執行者。
その意思力には興味がある。
──ゆえに此度だけは救ってやるとしよう。)
遼馬は、感心していた。その壊れそうな細身に、強靭な精神を宿し、王劍【縊匣】を退けた実力がある簒奪者であり、|王権執行者《レガリアグレイド》だ。例え、欠片のせいで狂ってると謂っても|彼女《エレクトリック・マーメイド》は、強大な|敵《・》である。
広がるように空をふわふわと浮かぶしゃぼんの玉に視えるが、時々入るノイズが、|それ《・・》が実物であり、|泡《・》と謂うより兵器なのだと、攻撃なのだと、主張していた。
電子の泡がこれ以上近寄れば、戦闘区域に入ると悟った遼馬は、自身の[第六感]を冴え渡らせ、電子の泡が√能力者である遼馬へと惹きつけられるように寄ってくるのが分かる。
「そんな荒んだ姿で王子様と会うつもりか?
理想の相手に対するならば、それなりの姿で迎えるのが当然だろう。」
黒衣の紳士は、迷うこと無く両手のスタンバイ済みで|安全装置《セーフティ》を外した二丁拳銃『|此岸《黒》』と『|彼岸《白》』が、遼馬の意思を反映するように火の華を咲かせていく。√能力【|貴方の為の葬送曲《ベルリオーズ》】が発動される。己の周りは弾幕の壁となり、泡を貫く[制圧射撃]は、まるで死神が振るう鎌のように舞う弾が泡に当たると弾けて霧消していく。
……嗚呼、■ないで……。
……■の、私を■ないで……。
泡が撃退されたからか、それとも遼馬の声が届いたからか、そんな聲が脳内に響く。広がって行く筈だった電子の泡は、見事に歩みを止め、綺麗な泡のない空間が広がっていくのだ。
「王劍如き跳ね除けてみせろ。
──君が気高い姫君だというのなら──」
|気高き姫君《エレクトリック・マーメイド》は、頬から幾つもの雫を零す。
視線の先には、まだ溢れる電子の泡に住む気狂いの果てに|溺れる未来《死》が待っているお姫様。
──しかし、哭かない鳥ではないと聲にならない聲を出し、必死に正気へしがみつかんと両手を覆って咽び啼く。それは遼馬の言葉に応えるように──。
🔵🔵🔵 大成功
水上・雪華アドリブ歓迎
最愛を探し求めて彷徨う、ですか
簒奪者だから許されないとは言いません
誰もが最愛を求める権利がありますから
最も私には縁遠い話ですけれど
【私の神様】に協力していただきましょう
積極的に攻撃はせず、相手の攻撃を受け流す方向で行動します
手傷を負いすぎたら私の神様に回復してもらいましょう
愛を探す旅人、歌届かぬ姫
貴女が声を届ける相手がいるのでしょう?
貴女が聞くべき声は妄執ではありません
貴女の腕で抱くべき人の元へ向かってください
ここで立ち止まっている時間はありませんよ
だから、邪魔なモノは置いていってもらいましょう
歩み続ける歌姫の背中を押しましょう
(最愛を探し求めて彷徨う、ですか。
簒奪者だから許されないとは言いません。
誰もが最愛を求める権利がありますから──。)
そう。誰しもが当たり前に持っている権利だと、理解し共感し得たのは、水上・雪華(暁光・h00503)であり、しとしとと着物の裾が乱れぬ足取りで王劍【縊匣】の欠片が原因で狂った電子の泡の奥深くに棲む|嘆きの人魚姫《エレクトリック・マーメイド》を見つめる。
(──最も私には縁遠い話ですけれど。)
此の世界を、此の全ての領域を一瞥して、瞼を伏せた。雪華が世界を一時的に遮断した刹那に護霊『彼は誰』が何もない空間から、突如、現れる。雪華|だけ《・・》の護り神であり、雪華の無二の存在であった。
電子の泡は、√能力者に惹きつけられる。──が、雪華は積極的に泡を攻撃しようとはしなかった。泡すらも彼女の物であり、喪失させるべきではないと判断したのかもしれない。泡を受け流すように、自身からそっと離れるようにシャボン玉を空へ返すように──。
「愛を探す旅人、歌届かぬ姫。
貴女が声を届ける相手がいるのでしょう?」
電子の泡のその奥でビクリと硬直する動きが視える。聲なき聲で哭く狂えるお姫様。
……■呼、■の歌を……。
……■が、■けるべき……聲の■手……。
雪華の頭の中で響くノイズ混じりのその聲は、酷く切なく、苦しく、哀願に満ちていた。狂ったお姫様の聲に共振するように、泡が、明確な攻撃が雪華を襲う。
「貴女が聞くべき声は妄執ではありません。
貴女の腕で抱くべき人の元へ向かってください。
ここで立ち止まっている時間はありませんよ。」
言い聞かせるように、奮い立たせるように、決して縊匣の欠片に負けぬ意思を貫くように、雪華は言の葉を紡ぐのだ。例え自分が傷ついても、欠落のせいで|痛覚《痛み》を感じなくても、雪華の痛みを感じるかのように護霊『彼は誰』は、|彼女《雪華》を傷を労るように、優しく温かく癒やしていく。
……声。
……聲。
……嗚■、妄執の■エ……。
……嗚呼、私を■く、私の■子■……。
(──だから、邪魔なモノは置いていってもらいましょう。
歩み続ける歌姫の背中を押しましょう。)
真実を知り、狂いの果てに死した|お姫様《オフィーリア》。
雪華は彼女の心残りを、痼を、その可変式大鎌で腫瘍を取り去るように、重荷を切除して前に向けとそう高らかに先導するのだ。
それがどんなに困難だとしても、どんなに悲恋だとしても、|お姫様《エレクトリック・マーメイド》だけの王子様の為に──。
🔵🔵🔵 大成功
和田・辰巳武器は必要ないな。全て置いて
こんにちは。人魚さん
にこやかに話しかける。泡はさりげなく避けながら
何かお困り事ですか?迷子さんみたいな顔をしていますよ
日常の延長のように歩く
困ってる人を助けるのは当たり前の事
思い人、王子様
そんな風に思える人がいるのって素敵ですね
もしかして恋バナ?相手が話すならゆっくり聞いて
僕にも好きな人がいるんですよ
控えめだけど、活動的で、物静かなのに表情豊かで魅力的な人
この気持ちを受け入れてくれたら良いなって思いませんか
もし思うなら、その気持ちを強く持って
王劍になんて負けないで
手を差し伸べて
いつかきっと、本当の意味で貴女の手を取る人が現れるから
僕の手を取ってくれる人が現れたように
(武器は必要ないな。全て置いて──。)
そうして防具以外を全ての武装を放棄したのは、和田・辰巳(ただの人間・h02649)であり、信念で動く為には武器は不要と『此方彼方』の中へ押し込んだ。
件の王劍【縊匣】のせいで妄執に狂い咲いているのは、『電子の泡』の最奥で咽び啼く|お姫様《エレクトリック・マーメイド》である。
少年の、辰巳の通る声が、その意中の相手に届くように、にこやかに澄んだ声で話しかけた。──しかし、√能力者に向かって惹き寄せられる|泡《・》は、そんな思惑を無視して辰巳に襲いかかるがそれを寸での所で器用に回避する。
「こんにちは。人魚さん。」
……嗚■、■子■……?
ノイズ混じりの気狂い人魚姫の聲が、辰巳の脳内に直接、反響する。
「何かお困り事ですか?
迷子さんみたいな顔をしていますよ。」
……っ……嗚呼、■けて……■子■……。
……■らないの……。
……■は、■うす■■ば良■の……?
辰巳は、電子の泡を日常の延長のように歩を進める。其処には何もないように、電子の泡なんて存在しない青空の下を伸び伸びと往くように──。
「困ってる人を助けるのは当たり前の事。
……思い人、王子様?
そんな風に思える人がいるのって素敵ですね。」
……嗚呼、■らない。解ら■■の王■■……。
……■は、■を欲し■■たのか……。
……■てが、■華鏡■よ■■、■えてし■■の……。
彼女の聲には、ノイズ混じりに、求めて止まない存在がいる。
──しかし、お姫様は狂っているが故に、理解できない。認識できない。|人魚姫《エレクトリック・マーメイド》は孤独の暗い箱の中だ。辰巳は|お姫様《オフィーリア》の話に耳を傾け、ゆっくりと反芻するが、彼女が如何に伝えようとしても欠片に邪魔をされて──。
「もしかして恋バナ?
僕にも好きな人がいるんですよ。
控えめだけど、活動的で、物静かなのに表情豊かで魅力的な人。」
独白するように、少し頬を朱に染め辰巳はこんな場所で惚気るのだ。求めたい人がいると。欲する人がいるのだと──。
……嗚呼、お■じさ■。王■様!
……私■■の王子■……っ……!!
|人魚姫《オフィーリア》の拙い聲は、辰巳の中に悲痛に響く。それは過去、辰巳自身が感じた虚無感にも似た切望。求め受け入れなれなかった1つの形。想いは辰巳自身に過ぎ去った|刻《・》を彷彿とさせた。
「この気持ちを受け入れてくれたら良いなって思いませんか?
もし思うなら、|その気持ち《・・・・・》を強く持って。
|王劍《欠片》になんて負けないで!」
────────────────っ!!!!
苦悶な聲が、慟哭が辰巳の頭の中に叫びを轟かせ、決して其の聲は沢山の雫と、泡に変えるのだろう。泡の最奥で狂える姫は喉が裂けんがばかりに歌う。想いを乗せて吐露するように──。
電子の泡に多少ならず、傷を受けてボロボロで血塗れになっている辰巳は、人工建築の|中《川》で溺れる|人魚姫《オフィーリア》に、そんな傷もお構い無しに笑みを浮かべて、手を差し伸べた。
「いつかきっと、本当の意味で貴女の手を取る人が現れるから。
僕の手を取ってくれる人が現れたように。」
🔵🔵🔵 大成功
架間・透空※アドリブ連携等歓迎
ええ……絶対に助けたい、ですね
──開演します
此度の演目は、『ハムレット』
結末や過程に多少アレンジを加えて、歌とダンスでお届けします
貴女はオフィーリア
実の父を殺したハムレットに、狂わされた悲しい女性
そして私は──ハムレット
復讐鬼となる、予定の王子様
でもね、オフィーリア
泣いている貴女を、|ハムレット《わたし》は放っておけない
その涙を、拭ってあげたいって思うから
今だけは、復讐を忘れて
貴女の苦しみを、取り除きたい
ハムレットだって……
こんな|悲劇《バッドエンド》を
心から望んでいたわけではなかったと思うの
だからね……|マーメイド《オフィーリア》
私を……もう一度信じてくれないかな?
(ええ……絶対に助けたい、ですね。)
星詠みに強く共感した思いを抱いたのは、架間・透空(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)である。透空は、王劍【縊匣】の欠片のせいで気狂いした|人魚姫《オフィーリア》を助けたいと強く思う1人であった。
「──開演します。
此度の演目は、『ハムレット』。」
電子の泡の前、重い緞帳がゆっくりと幕を開けるように、電子の泡は本来ならば√能力者である透空へ惹かれるように寄る筈なのだが、その道を譲るように泡は避けていく。今までの|者達《・・》の行動に、言葉に、何か|惹かれるモノ《・・・・・・》があったのかもしれない。綺麗なお辞儀をして眼前の愛おしい『電子の泡』の最奥にいるお姫様を見据える透空は、|本来《・・》のハムレットの脚本を知っている。知った上で、敢えて過程にアレンジを加えて、一帯に響くようにはっきりと高らかに歌い、美しいダンスのステップでゆっくりと確実にお姫様に近寄るのだ。
「貴女はオフィーリア。
実の父を殺したハムレットに、狂わされた悲しい女性。」
スポットライトなんて有る筈はないのに、まるで陽の光が『電子の泡』に乱反射して|気狂いの人魚姫《エレクトリック・マーメイド》を照らすように美しくも悲しいノイズ塗れの姿を浮かび上がらせた。
……■■様……っ……?
泣き腫らした心を裂くような切なげな聲が、透空の頭の中に響く。
「そして私は──ハムレット。
復讐鬼となる、予定の王子様。」
そう確かに呟くと、ビクリとお姫様が悲しそうな聲で哭く。そんな聲を聞いた透空の心に、透空自身にも確かに刺さる苦しげな哀痛を、今、一時は抑え込み必死に演技を続ける。
「──でもね、オフィーリア。
泣いている貴女を、|ハムレット《わたし》は放っておけない。
……その涙を、拭ってあげたいって思うから。」
……■呼、王■■っ……!
……私だ■の、■■様……。
……■は、■の海で……■けてしま■わ……。
|欲《ほっ》して欲しい──と、求めている──と。|人魚姫《オフィーリア》の身体に軋轢は走るのだ。──だが、透空は視線を逸らさない。伝えたい言葉を、想いを乗せて、|お姫様《・・・》の為だけに──。
「今だけは、復讐を忘れて。
貴女の苦しみを、取り除きたい。」
其の瞳にある王劍【縊匣】の欠片は、|お姫様《・・・》を凶行に走らせる。人魚姫も、お姫様も、そんな事は望んでないのだ。望むものはたった|1つ《・・》。
「ハムレットだって……。
こんな|悲劇《バッドエンド》を、
心から望んでいたわけではなかったと思うの。」
……嗚呼、■の王子■……っ……。
……■う、■しいのは、厭■■……。
……私の、■しい、■子■……。
ぽろぽろと深海のような瞳から、溢れるように真珠のような雫が頬を伝って割れていく。これ以上は瞳が蕩けてしまうのではないかと謂う程に|深緑《ディープグリーン》の隙間から綺麗な硝子のような色合いが絶え間なく流れ続けるのだ。
「だからね、……|マーメイド《オフィーリア》。
私を……もう一度信じてくれないかな?」
仰ぐように、頭を垂れるように、人魚姫でありお姫様の前で透空は止まり、そっと手を差し出す。聲無く哭く|人魚姫《エレクトリック・マーメイド》は、じっと間近にある透空の手を見つめて……恐る恐るとその手は重なる。
それは聲が、涙が、止まるのと同時に瞳の|棘《欠片》が流れ落ちる瞬間でもあった。
🔵🔵🔵 大成功
椿之原・一彦怪我人がいると聞きました。どうか私に治療させていただけないでしょうか?
私は医者です、救える患者を前に何もしない事はできません。
欠片の影響か痛みや苦しみによるものか、暴れているのですね。
…それなら、少しでも正気に戻るように強く抱きしめます。反撃や攻撃は致命傷でない限り耐えます。
落ち着かれましたか?大丈夫、私はあなたの怪我を治すために来ました。
少し目の周りに触れますね…これなら欠片を取り外したらすぐに元気になれますよ。
装備品の医療用具を駆使します。
麻酔【雲霧】で目の周りの痛みを緩和、その後医療用ピンセットで欠片の除去を…
この時彼女を怖がらせないように「今から痛みを減らす薬を少し注射しますね」、「次はこのピンセットで目に刺さった欠片を抜き取りますね」「痛みが走るので、よかったら服の裾を掴んでください」とわかりやすい言葉で状況を説明しながら治療します。
欠片の除去が済みましたら、刺さった方の目にガーゼと包帯で傷口の保護を。
痛かったし怖かったでしょうに、でももう終わりましたよ。
よく頑張りましたね。
本来なら|非能力者《Anker》では見られない|Webサイト《領域》であったが、椿之原・一彦 (泥の手・h01031)は、家族の端末からアクセスができ、運よく──いや、悪いのかもしれないが、現状の顛末を知る結果となる。
|幸運《不運》にも知ってしまった。知らなければ|幸せ《救い》だったのは、何方だろうか? それともお互いに……?
──ともあれ、√ウォーゾーンを抜けて、√EDENへと√が視えない一彦からすれば、大変な旅路である。──でも、一彦は迷わない。其処に助けられる|者《・》が、居ると知ってしまったのだから──。
√EDENの神田郵便局周辺は、一彦の眼前は『電子の泡』がまだふわふわと舞っている。非能力者には、全く意味のないこの泡はただ風に煽られて最奥のお姫様の影を浮かび上がらせた。
「怪我人がいると聞きました。
どうか私に治療させていただけないでしょうか?
私は医者です、救える患者を前に何もしない事はできません。」
思わずそう一彦は、人影に向かって声が届く限り、大きなしかし威圧する訳ではなく、唯々「救いたい」と謂う一心で声を掛けたのだった。
……王■■……っ……?
……嗚呼、■の■子様……。
声に反応するように一彦には、脳内を直接弄られるような不愉快なノイズ混じりの聲が直接脳内に響き渡る。慣れていようが、慣れていまいが、その感覚は異質な物である。──だが、一彦はその感覚をおくびにださず、歩くのが、歩が許す儘に|曰く《・・》の|お姫様《エレクトリック・マーメイド》の元へと、電子の泡は十戒でモーゼは起こした葦の海の奇跡の如く、泡は道を開ける。
眼前には、ノイズ混じりの|人魚姫《オフィーリア》の姿が現れる。一彦にはある意味、見慣れた光景かもしれない。投影されたような姿はノイズと混じりあって揺らぎを繰り返して今にも消えそうなお姫様。──だが身体は、それが薄っぺらい映像ではなく間違いなく奥行きのある今を生きる生き物であった。
「欠片の影響か痛みや苦しみによるものか、暴れているのですね。」
今にも泡沫の泡になって消えてしまいそうなその姿に、一彦の心は内側から裂かれるような痛みを、痛々しい|お姫様《オフィーリア》を優しく、でも力強くしっかりと正気を、|王子様《医者》は此処に居ると、一彦自身の存在をお姫様に気づかせるように──。
……■呼……ぁ”■あ”……っ嗚■■呼嗚■──っ!!
……嗚■、……■■て……■子■……っ……!
……私■けの……王■様……っ!!
その穢れなき救いたいと謂う純粋な人の、一彦の、温もりが、冷たい電子の人魚を抱き締める。お姫様は、決して|一彦《王子様》の腕の中で藻掻くような、拒絶するような意思を、行動を見せなかった。それは|彼女《オフィーリア》の夢にまで視た、たった1人の|王子《ハムレット》を迎えるように。|狂い果てて川に浸かり《人工建築の中でひとり》、|水分を吸って《欠片のせいで》動けなくなり、死を待つばかりの|オフィーリア《エレクトリック・マーメイド》。
「落ち着かれましたか?
大丈夫、私はあなたの怪我を治すために来ました。」
|お姫様《人魚姫》の耳を柔らかく擽るような一彦の心の籠もった言葉。お姫様の瞳から、真珠の雫が頬を伝い、抱き締めている一彦の服を確かに|濡らす《・・・》。
……私の……王■■……っ……!
……助■て……くれ■、私だ■の……王■様……。
もう離さないとお姫様のか細い腕は、王子様の背に廻る。多少、苦笑を浮かべてしまうのは一彦の心の内側を掻き乱す想いのせいか……?
「少し目の周りに触れますね。
……これなら欠片を取り外したらすぐに元気になれますよ。」
……■けて……く■さ■の……|王■様《ハムレット》……?
それは、お姫様の心の聲。ずっと助けを求めていた|オフィーリア《人魚姫》は、本来なら王子に見捨てられる。信じ続けて──。
だからこそか『白衣「驟雨」』を掴んで離れようとしないお姫様に、困ったように眉を寄せる|一彦《王子様》は持参した医療用具『医療用バックパック「彩雲」』をそっと置いてこれ以上、お姫様を傷つけないように手際よく用意していくのだ。
「今から痛みを減らす薬を少し点眼しますね。」
まず、『麻酔「雲霧」』を「彩雲」から取り出し、今まで泣き続けている、腫れたお姫様の目の周りと涙と共に丁寧にカットコットンで拭いながら、その痛みを緩和するように麻酔が怖くないように。何度も優しく溢れる涙を拭うカットコットンをポンポンと触れ、軽く当てるように最大限、お姫様の状態を視ながら進めていく。最初は、身を硬直していたお姫様が、慈愛の籠もる一彦の行為に緊張を解き、麻酔「雲霧」を欠片の刺さっている瞳へと下手に時間をかけると不安が戻って来てしまうから素早く点眼して馴染むのを待つ。怪異だろうが、簒奪者だろうが人の形をしているのなら、きっと効くはずだと一彦は信じて疑わなかった。疑わないのは、お姫様も一緒だ。
「次はこのピンセットで目に刺さった欠片を抜き取りますね。
痛みが走るので、よかったら服の裾を掴んでください。」
……■いわ。
……凄■、■いの……■子様……っ……!
そんなお姫様の姿が、妹の影と少し重なる。一彦は小さな子を安心させるように、ノイズ混じりのお姫様の頭を丁寧に優しく撫でていく。そうすると驟雨に縋り付いていた手は少し力が抜けていくことを理解する。これ以上お姫様の負担に成らないように、手早くそして迷いなく瞳に刺さった王劍【縊匣】の欠片を抜いた。ぎゅっと今一度お姫様が握っていた白衣に皺が寄る。
しかし、欠片が抜けるとお姫様の姿が泡沫の泡のように多重にブレて一彦は不安げに見つめるがしっかり治療が出来ていると告げる。
「痛かったし怖かったでしょうに、でももう終わりましたよ。」
……有■う、■■けの……王■■……。
……私■、とっ■も……■せ……だわ……。
淡く儚く泡のように揺らぐ度に、ノイズが走るお姫様。愛しい王子様との一時の夢に、涙はなく美しく透き通る笑みを浮かべて──。
「……大好きよ、私の王子様……。」
初めて自身の耳で聞いた|お姫様《エレクトリック・マーメイド》の声は、最高の歌声のような、か細い電子信号のような、消えては返す波に溶けていく。少し寂しく、でも満足げに一彦は一言だけ見送る言葉を手向けた。
「よく頑張りましたね。」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
