シナリオ

|愛毒《ショコラ》

#√汎神解剖機関

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√汎神解剖機関

※あなたはタグを編集できません。

●愛をその手に
 百貨店のアトリウムを彩るのは、ハートや花モチーフのオーナメント。
 甘いチョコレートの香りも漂って、広場はバレンタイン一色に包まれている。
 各地から厳選したチョコレートを販売するイベントは大盛況だ。何でもチョコレートを1個単位から好きに選ぶことができ、ギフトボックスも種類が豊富らしい。
 2月14日本番に向け、今日も多くの人々が百貨店に訪れていた。そんな中、ネットから広まったとある噂が、チョコレートを買い求める人々の間で囁かれている。
「ねぇ、知ってる? ここの噂……」
「百貨店のどこかに、恋を成就させる壺があるって話?」
「そう、それそれ」
 チョコレートを用意して、壺に恋が叶うようお願いするとあら不思議。チョコレートに愛の魔力が宿り、食べた人がチョコレートを贈った人に恋してしまうというのだ。
 俄かには信じがたい話である。しかし、時期が時期だけに、根拠のない噂話に興味を抱く人も少なくない。
 それらしき壺があるなら、願掛けくらいしてみようか――。
 噂を信じていなくても、軽い気持ちで試そうとする人だって存在する。

●愛の誘惑
「結論から言いますね。恋を叶える壺は百貨店に潜んでいます。そして『愛の魔力』は『愛で人を縛る呪い』です。人々の精神に悪影響を与えます」
 ――壺中天への誘い手・ミメイ。今回の噂の仕掛け人……否、壺の怪異の名だ。人の情念を壺に封じて蠱毒とし、怪異を作ろうとした結果、全てを呑んだ壺自体が怪異となった。それが彼女である。
 |泉下・洸《せんか・ひろ》(片道切符・h01617)は依頼について語り始める。
「噂ではチョコレートに愛の魔力を宿すとされていますが違います。実際のところ、ミメイは彼女のもとに訪れた人間に呪いをかけるのです。チョコレートが惚れ薬のようになるのはその影響ですね」
 チョコレートを食べた人間は贈り主に魅了される。この魅了が、日常生活に支障を来す依存症状を引き起こすのだ。偽りの愛に狂い、互いに離れているのが苦しくなるという。
「ミメイの計画は彼らを|壺の中《壺中天》に呑み込むことです。彼女を放置してしまえば、呪いに侵された彼らのもとに赴いて囁くでしょう。『無憂の楽園・壺中天ならば、ずっと傍に居られる』と」
 そのような事態を未然に防ぐため、先んじてミメイと接触し撃破してもらいたいのだ。まずは件の百貨店で、ミメイの居場所について情報収集を行ってほしい。
「百貨店ではバレンタインイベントも開催しています。一般客に紛れ、イベントに参加しながら調査しても良いかもしれませんね」
 ミメイの居場所が判明した後は、彼女のもとへ向かうことになる。ただ、すぐに彼女と会えるわけではない。ミメイは会いに来た者たちが√能力者であることに気付く。彼女は異空間を形成し、そこに√能力者たちを招くという。
「彼女は世界全てを壺の内に取り込もうとしています。だからこそ、皆様のことも、壺に呑み込もうとするでしょう。異空間が齎す精神干渉に耐えて進み、ミメイ本体のもとへと辿り着いてください」
 どのように精神を侵すのか。洸はその詳細についても説明した。
「『愛』にまつわる精神干渉です。あなたが欲しくても得られなかった、或いは今も求め続けている、誰かからの『愛』……ミメイはそれを読み取り、誘惑してきます。あなたが望む愛をくれる、誰かの幻が現れるでしょう」
 壺の中に居続ければ、その愛が得られるのだと。甘やかな夢の中に浸っていられるのだと。誘惑に負けてしまったその時、あなたは壺に取り込まれてしまう。チョコレートのように甘く濃厚な夢に溺れ、ミメイが倒されるまで壺に囚われることになる。

●壺の噂とチョコレート
 百貨店は裏に蠢く怪異の影など知らず、バレンタインのムードに浮かれている。
 アトリウムでは特別なイベントが行われていた。まるで芸術品のようなチョコレートが並び、そのどれもが1個から購入可能。お好きなギフトボックスに詰めて、オリジナルのチョコアソートが作れる。
 色々なチョコレートがあるけれど、一番人気は『花』をコンセプトにしたアソートスタイル。王道の薔薇のほか、椿やダリア、マーガレットなど、様々な花の形のチョコレートが揃っている。
 ギフトボックスも角箱や丸箱タイプなど様々だ。包装紙やリボンの種類も豊富なので、少し探すだけで気に入るデザインが見つかるに違いない。
 イベントには一般客も多く訪れている。壺の噂を調べる場合は、彼らの噂話に耳を傾けてみたり、密かに百貨店内を探ってみても良いだろう。

マスターより

鏡水面
 こんにちは、鏡水面です。バレンタインと言えばチョコレートと恋心と精神汚染ですね。偽りの愛に縛られた人々が、壺の内に取り込まれる事態を未然に防ぎましょう!

 第1章
 この章では2種類の行動が可能です。
 ①百貨店のイベントに参加する
 ②壺の噂を調査する
 イベント参加、調査のいずれか一方のみでも可能です。
 誰も調査しなかった場合についても話は進みます。
 ※イベントについて
 チョコレートを自由に選び、ギフトボックスに詰めることができます。OPには一例として花チョコのみ記載していますが、百貨店なので他にも色々あるでしょう。「こんなチョコが欲しい」などあればプレイングにご記入ください。

 第2章
 ミメイが創り出した異空間を探索する章です。あなたが望む『愛』をくれる『誰か』の幻を見ることになります。プレイングには『誰の幻を見るのか』、それに対して『どのように切り抜けるのか』をご記入ください。その他詳細は、前章クリア後の断章にて記載します。
 
 第3章
 『壺中天への誘い手・ミメイ』との戦闘になります。詳細は前章クリア後の断章にて記載します。

 その他詳細については、OPや各章の説明をご確認ください。プレイングの採用状況については雑記にも記載しますので、ご確認いただけますと事故が減ります。
 ここまで読んでいただきありがとうございます。それでは、皆様のご参加をお待ちしております!
110

閉じる

マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を閉じて「読み物モード」にします。
よろしいですか?

第1章 冒険 『呪い(まじない)の壺のうわさ』


POW 壺があるという施設に乗り込んで話を聞く
SPD ネットや聞き込みでさらに詳しい噂を探る。
WIZ 魔法や呪術の関連や、その残滓を探る。
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

静寂・恭兵
アドリブ歓迎
百貨店のような人が集まるところでの怪異とは厄介だな。
しかもバレンタインの催事中か…。
…日本ではチョコレートの祭典になっているし女性が購入するのが多いようだが……白椿が食事が出来るならこう言った甘味もよろこんでくれそうだが。彼女は人形だからな…別のものを贈るとして…怪異を探すにしてもあからさまな探し方は怪異に警戒されてしまうかもしれないし…|相棒《アダン》用のチョコでも探しながら壺の噂を聞いてみよう。
アダンは最近は食べるのが楽しいようだし。
普段とは違うチョコを食べるのも新鮮だろう。

●相棒へ
 バレンタインが近付き、百貨店のイベントは盛り上がりを見せている。
 多くの客でひしめく会場へと、|静寂・恭兵《しじま・きょうへい》(花守り・h00274)は足を踏み入れた。
(百貨店のような人が集まるところでの怪異とは厄介だな。しかもバレンタインの催事中か……)
 人波を縫うように進みながら周辺の会話に耳を傾ける。
(……やはり女性客が多いようだな。まあ、バレンタインだから当然か)
 日本におけるチョコレートの祭典は、元々女性が男性に贈るイベントであった。最近は男女関係なく贈り合う傾向も増えてきたが。
(……白椿が食事が出来るならこう言った甘味もよろこんでくれそうだが……)
 彼女は人形だ。チョコを贈ったところで困らせるだけだろう。
 彼女には別のものを贈ることにする。ただ、怪異にバレないよう調査を行うために、一般客を演じておきたい。幸いチョコを贈れる相手は他にいる。
(アダンは最近は食べるのが楽しいようだし、普段とは違うチョコを食べるのも新鮮だろう)
 日頃の感謝の気持ちを込めて、|相棒《アダン》に贈るチョコを探したい。それなら客に紛れて壺の噂も聞ける。
 恭兵は会場に並ぶチョコを順番に見て回った。
(全部を花チョコにするのは少しくどいかもしれないな……中央に花チョコを置いて、周りは別のチョコにしよう)
 用意したギフトボックスは竜胆色の丸箱。選んだチョコはミルク&ビターチョコのアソートだ。形はボール型と、バレンタイン定番のハート型。ハートを選んだことに、特別な意味は無い。箱の中を程よく埋めるのにちょうどよいという理由で選んだ。中心には花の形を模したチョコを一輪置く。選んだ花は当然竜胆だ。
 詰め終えた後はサテンの青リボンで箱を結んで、瑠璃唐綿の花飾りを添える。
「……よし、できた。喜んでくれるといいんだが」
 チョコを渡した時の相棒の顔を想像しながら、恭兵は柔らかな笑みを滲ませるのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

屍累・廻
【幸廻】
恋を成就させる壺、ですか
よくあるような、胡散臭い詐欺にありそうです

特設会場を眺めながら、敵の動きが無いか視ておく

逃げ道を奪って、というのもよくある手法ですよ
向こうとしては幸せなのかもしれませんが、理解は出来ませんね
幽羅、朧。貴方達も調べてきてくれますか?
『壺か、ワシらも見ておこう』
(※朧は喋れません)

手分けして壺について聞き込みを
情報はあとから共有して

好きな花、ですか?
昔は特に無かったですが、今は桜が好きですね
相手をイメージした花のモチーフを贈る、というのもいいかと思いますよ
白石・翠咲
【幸廻】

無憂の楽園……辛くなるほどの思いをさせられた上で誘われるなんて、逃げ道を塞いで選択肢を奪われたも同然……それが幸せとは、どうしても思えませんね……

僕も【情報収集】を手伝います。【花の囁き】を使って、インビジブルに「この近くで壺を持った怪しい存在を見かけませんでしたか?」と尋ねてみますね。

花といえば……屍累さんはお好きな花、ありますか?
いえ、お世話になった方に、後でここで買って花の形のチョコを渡そうと思っていて、参考までに……と。
桜ですか。いいですよね。綺麗で可愛らしくて。暖かな気持ちになれる花です。

相手をイメージした花を……なるほど。
アドバイスありがとうございます。

●チョコ選びのコツ
 百貨店のアトリウムはチョコレートの甘い香りに満たされていた。
 そして、この百貨店の何処かに、甘い誘惑を持ち掛ける悪質な怪異が潜んでいる。
「恋を成就させる壺、ですか。よくあるような、胡散臭い詐欺にありそうです」
 |屍累・廻《シルイ・メグル》(全てを見通す眼・h06317)は、上階の吹き抜け沿いから会場を眺めていた。
 廻の隣で、|白石・翠咲《しらいし・すいしょう》(花を撒く者・h02856)が物憂げに瞳を伏せる。
「無憂の楽園……辛くなるほどの思いをさせられた上で誘われるなんて、逃げ道を塞いで選択肢を奪われたも同然……それが幸せとは、どうしても思えませんね……」
 選択肢がない状況はむしろ不幸と言えるのではないか。地獄から救い上げたと見せかけて、別の地獄に連れていく。
「逃げ道を奪って、というのもよくある手法ですよ。向こうとしては幸せなのかもしれませんが、理解は出来ませんね」
 穏やかに語る廻の影でゴソリと何かが動いた。直後、飛び出してきたのは白黒の猫のぬいぐるみだ。本物の猫のようにぐぐっと伸びをして、尻尾をふるりと揺らす。さらに上着の袖からぴょこんと顔を出したのは、丸々とした小玉鼠だ。
 猫の名は|幽羅《ユラ》、小玉鼠の名は|朧《おぼろ》。彼らは廻が使役する者たちである。
「幽羅、朧。貴方達も調べてきてくれますか?」
 廻が声をかけると、幽羅が人語を喋り出す。
『壺か、ワシらも見ておこう』
 幽羅は人波に飛び込んだ。朧もチュッと小さく鳴き、素早い身のこなしで走ってゆく。
 調査を開始する廻に、翠咲も表情を引き締めた。
「考え込んでばかりではいられませんね……僕も情報を集めないと」
 |花の囁き《ハナノササヤキ》を使い、インビジブルを呼び寄せる。降霊の祈りはインビジブルを一輪の花へと変えた。花を手に取り、翠咲は優しく語りかける。
「この近くで壺を持った怪しい存在を見かけませんでしたか?」
 花へと転じた魂の囁きに耳を傾ける。廻も調査に出した二匹の帰りを待つことにした。
「幽羅と朧が情報を持ってきてくれると良いのですが」
 百貨店は人も多く様々な情報が行き交う。中には役に立たない情報も多く混じっているだろう。まとめた上で、しっかり精査しなければ。
 翠咲は何気なく会場の賑わいへと目を向けた。花チョコの売り場に人が集中している。
「花といえば……屍累さんはお好きな花、ありますか?」
 ふと気になって廻に尋ねた。問いかけられ、廻の脳裏に桜色を纏う少し怖がりな後輩の姿が浮かぶ。
「好きな花、ですか? 昔は特に無かったですが、今は桜が好きですね」
「桜ですか。いいですよね。綺麗で可愛らしくて。暖かな気持ちになれる花です」
 春の訪れを告げる花の名に、翠咲は双眸を柔く細めた。心に暖かさを齎すと同時、儚く散りゆく象徴でもある桜には、刹那の美も感じる。
「花のチョコレートにご興味がおありで?」
 今度は廻が問う。翠咲はこくりと頷いてみせた。
「はい。お世話になった方に、後でここで買って花の形のチョコを渡そうと思っていて、参考までに……と」
 バレンタインにチョコを贈るのは、恋人同士だけではない。感謝の意と共に贈りたいと思っていた。
「ふむ。でしたら、相手をイメージした花のモチーフを贈る、というのもいいかと思いますよ。花チョコの種類も豊富らしいですし、合うものがあるかもしれません。ギフトボックスも相手のイメージカラーに寄せると良いかもしれませんね」
 廻の言葉に翠咲はなるほど、と納得する。廻に聞いて正解だった。
「アドバイスありがとうございます。相手をイメージした花に、ギフトボックス……あとでじっくり考えてみます」
 怪異を倒し、問題を解決してからのお楽しみだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

白露・花宵
【蜜花】

催事場で、共に訪れた甘酸っぱいジャムのように愛らしい友の視線に気付く
ぷくりとした唇が描く笑みに釣られ、自然と瞳が細まった

触れた指先と
なんとも可愛い言い訳に笑みが深まる
「そうだね、はぐれちまったら大変だ」
言葉を反芻することで肯定し、小さな手を握りこむ

交換しようと約束をしたから、彼女に似合うチョコを選ぼう
目に留まったのは桜を象ったもの
今時期なら寒桜だろうか

(あなたに微笑む…だったか、人を和ませる藍花に合うんじゃないかねぇ)

酒が好きな彼女にと、後は蜂蜜を加えたウイスキーボンボンを
温もりのある藍色の箱に、派手すぎないシャンパンカラーのリボンを頼む
喜んでくれるだろうか?
緊張と楽しさに胸が弾んだ
蓬平・藍花
【蜜花】

甘い香り溢れる催事場
隣に佇む蕩ける蜜のような憧れ止まぬ白煙の君を
独り占めしている状況に自然と笑みが零れて

ついヒトの多さに指先が求めたのは彼女の手で
「…はぐれたら、大変だから…」
おずおず言い訳を零した

交換こをしようという約束の先
目に入ったのは赤い椿が描かれた四角いチョコ
洋酒たっぷりガナッシュ入りで酒好き仲間向きそう

(…気取らない、優美さ…うん、花宵くんっぽいのだわ…♪)

それに椿花や葉っぱを模したチョコを加えて
白地に銀の散る丸い和紙の箱に詰め、深緋色のリボンで結んでもらう
彼女に寄り添う色は、やっぱり赤だと思うし…?

帰り道も手を繋いで歩きながら
「楽しかったねぇ…?」と顔を合わせて笑いあった

●春告げの贈り物
 アトリウムは華やかな色彩と、チョコの甘い香りに溢れていた。
 浮かぶハート型のバルーンは視界の隅に、|蓬平・藍花《よもぎひら・らんか》(彼誰行灯・h06110)の瞳は隣に佇む|白露・花宵《しらつ・かよ》(白煙の帳・h06257)を捉える。
(花宵くんと、ふたりきりでお買い物……)
 蕩ける蜜のような憧れ止まぬ白煙の君。彼女を独り占めしている状況に、自然と笑みが零れる。
 甘酸っぱいジャムのように愛らしい友の瞳が、自分を映していることに花宵は気付いた。蜜色の瞳を合わせる。ぷくりとした唇が描く笑みに釣られ、自然と瞳が細まった。
「人が多いねぇ。さすが、時期なだけある」
 油断したらはぐれてしまいそうだ。
 藍花は控えめに手を伸ばし、花宵の指先に白い指先を触れさせる。
「……はぐれたら、大変だから……」
 手を、繋ぎたい。ドキドキと胸が高まるのは憧れの相手だからか。
 おずおず言い訳を零す藍花に、花宵は藍花がしたいことをすぐに察する。触れた指先となんとも可愛い言い訳に、笑みが深まった。
「そうだね、はぐれちまったら大変だ」
 言葉を反芻することで肯定し、小さな手を握り込んだ。
 お互いのイメージに合ったチョコを選んで贈り合いたい。期待に心を躍らせながら、二人は販売ブースに向かった。互いのものはなるべく見ないように、自分のチョコ選びに集中する。
 藍花が選んだチョコは赤い椿が描かれた四角いチョコだ。
(……気取らない、優美さ……うん、花宵くんっぽいのだわ……♪)
 洋酒たっぷりガナッシュ入りで、お酒好きも満足なひと口。白地に銀の散る丸い和紙の箱の中心に詰め、周囲には椿花や葉っぱを模したチョコを散りばめる。白銀に咲く艶やかな椿園を箱の中に作ったら、深緋色のリボンで結んでもらって完成だ。
(彼女に寄り添う色は、やっぱり赤だと思うし……?)
 灰青の髪に映える深緋はとても綺麗だから。
 ふわりと流れる髪を耳にかけ直し、花宵もショーケースに並べられたチョコを見繕う。目に留まったのは桜を象ったものだ。
(このチョコ、寒桜に似てるね。あなたに微笑む……だったか、人を和ませる藍花に合うんじゃないかねぇ)
 思い浮かべた花言葉は藍花のイメージによく合った。寒桜のチョコを、温もりのある藍色の箱に詰める。
 お酒が好きな彼女のために、蜂蜜を加えたウイスキーボンボンも添えた。
 甘き酔いに満ちる桜の箱庭を、派手すぎないシャンパンカラーのリボンで結べば出来上がり。
(これでよし、と……喜んでくれるだろうか?)
 藍花の喜ぶ顔が見たい――緊張と楽しさに胸が弾んだ。
 贈り物を仕上げたなら、約束どおり交換こ。
「できたのだわ」
 藍花が贈り物を花宵へと差し出した。
「あたしもできたよ」
 花宵も同様に藍花へと手渡す。箱のラッピングに、藍花は瞳を輝かせた。
「ボクの色……!」
 花宵はくすりと微笑んで、受け取った箱を見つめる。
「お互い考えることが似てるねぇ」
 リボンを解くのが勿体ないくらい、二人の贈り物は美しく整っていた。家に帰るまでは、このままにしておこう。
 二人は再び手を繋いだ。歩調を合わせて歩きながら、会場の賑わいから離れる。
 手のひらのぬくもりを感じながら、藍花は隣を歩く花宵を見上げた。
「中身は帰ってからのお楽しみだねぇ」
 春に咲く花のように微笑む。桜のような藍花に、花宵は優しく笑みを返した。
「ああ、今から楽しみだ」
 まだまだ楽しみは残ってる。暖かな息吹を心に抱き、二人は帰路をゆく。
 百貨店の外に出れば、2月の冷たい風が二人の体を冷たく撫でるだろう。けれど、なんてことはない。手を繋ぎながら歩く彼女たちの心には、一足早く春が訪れているのだから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

四之宮・榴
【琴瑟】アドリブ・アレンジ歓迎

心情
…ヒトの心を縛る?
…よく分かりませんが、よくない事だけは、理解できました。

…辰巳?
…ひ、人の前では…は、恥ずかしいです、から…っ…(赤面)

…これ…乙女の戦争、なんです、ね。

行動
目立たないように漆黒の影に潜ませるように|半身《レギオン》を、僕の大量の目と耳の変わりに。
自身も目立たないように休憩室に身を潜めます。
|半身《レギオン》達が得た壺の情報は、Cranberryに正確に打ち込んでいき、半身の辰巳に情報を共有していく。
真実味を持たない些細な噂から、真相に足を突っ込んだような情報まで、隈無く情報を掬い上げていく。
僕が、バレンタインに興味がなくても被害がでるから。
和田・辰巳
【琴瑟】アドリブ・アレンジ歓迎
榴と手を繋ぎながら百貨店へ
『愛で人を縛る呪い』か……僕は愛でバリバリ縛ってるけどね……(ぽつり)
|半身《榴》の頬にキスして誤魔化して
何でもないよ(ニコッ)

あはは、榴は可愛いなぁ

蛇と煙の式神をそれとなく放ち、ファンタジー方面の情報収集しながら様子見
実は今回の敵、直接接触しに来るんじゃないか……?と思わなくもない
実際先に星詠みを聞いてなかったら誘われちゃいそうだし、|そういう《・・・・》感じって分かるんじゃないかな
隣の榴からの情報には目を通して一先ずは壺の捜索を続ける

まぁ壺が買えるならそれはそれで欲しいな
見つけたら被害が出ないように壺を買えないか一応交渉しておきます

●噂を辿る
 バレンタインは恋の季節だ。心が浮かれる時期だからこそ、怪異がその隙を利用しようとするのだろう。
 その悪行を許すわけにはいかないと、現場に向かうのは固い絆で結ばれた二人。
「……ヒトの心を縛る? ……よく分かりませんが、よくない事だけは、理解できました」
 |四之宮・榴《シノミヤ・ザクロ》(虚ろな繭〈|Frei Kokon《ファリィ ココーン》〉・h01965)は、|和田・辰巳《わだ・たつみ》(ただの人間・h02649)と共に百貨店へと訪れた。
「『愛で人を縛る呪い』か……僕は愛でバリバリ縛ってるけどね……」
「……辰巳?」
 ぽつりと呟く辰巳に榴が首を傾げる。イベント会場の賑わいに紛れてしまい、うまく聞き取れなかった。
 辰巳は繋いだ手を優しく引き寄せて、榴の頬に唇を寄せる。
「何でもないよ」
 ニコッと柔らかに笑んでみせた。突然のキスは、榴の頬を朱に染め上げる。
「……ひ、人の前では……は、恥ずかしいです、から……っ……」
「あはは、榴は可愛いなぁ」
 赤い果実を思わせる彼女の火照った顔はとても愛らしい。胸の奥を満たす温かな感情に、辰巳は頬を緩ませた。
 幸い、一般客はチョコに夢中で、二人のやりとりに気付いていない。ほっと胸を撫で下ろしながら、榴は人々の様子を眺めた。
「……これ……乙女の戦争、なんです、ね」
「みんな必死なんだ。その必死さに付け込む怪異を放置はできないね」
 辰巳が表情を引き締める。依頼を前に甘い雰囲気は控えめに、作戦行動開始だ。榴もこくりと頷いてみせた。
「はい、なんとかしましょう。僕が、バレンタインに興味がなくても被害がでるから」
 情報収集の準備をして、二人はパブリックスペースに身を潜ませた。休憩用の椅子やテーブルが並び、通路に面したその場所は、情報を拾うのに最適だろう。
 榴は漆黒の影に|半身《レギオン》を潜ませた。彼らは榴の目と耳の役割を果たす。
 辰巳も蛇と煙の式神を密かに放ち、情報収集へと向かわせた。
「壺にまつわる情報の収集、頼んだよ」
 煙は空気に溶け、蛇は物陰や暗がりを這い、百貨店に紛れてゆく。報せを待ちながら辰巳は思考を巡らせた。
(今回の敵、直接接触しに来るんじゃないか……? と思わなくもない。実際先に星詠みを聞いてなかったら誘われちゃいそうだし、|そういう《・・・・》感じって分かるんじゃないかな)
 一方で、榴も半身達が得た情報を、Cranberryに正確に打ち込んでいく。真実味を持たない些細な噂から、真相に足を突っ込んだような情報まで、隈無く情報を掬い上げていった。
「骨董品……出所不明の壺……百貨店のどこかの店舗に置かれている……」
 榴が打ち込んだ情報は、辰巳も逐一確認する。
「売り物じゃなくて、お店のインテリアとして置かれてる場合もあるかもな」
「そう、かもしれません。もっと情報を集めて、整理する必要がありますね」
 Cranberryをじっと見つめながら、榴はあらゆる情報に目を通す。
 百貨店は人が多いため情報が雑多としており、全く関係ない情報まで入ってくる。
「……『今日のおすすめはマシュマロせんべい』……? ……関係ない、ですね……」
「マシュマロと煎餅って、対極に位置する食べ物のような気が……」
 この世には実に色々な食べ物がある。辰巳が感心していると式神が帰ってきた。式神から情報を受け取り、辰巳は榴へと伝える。
「古美術店があるらしい。そこに行ってみたら何かわかるかもしれない」
「そうですね。壺といえば、古美術店によく置いてあるものですし」
 二人は件の店へと向かうことにする。歩きながら、辰巳が思案顔を浮かべた。
「もし壺を見つけたら、買えないか交渉できたらいいんだけど」
「どうでしょう……なんだか、すごく高そうですよね……」
 壺を見つけても、怪異が二人を異空間に招き入れる可能性もある。危険な状況も考え、二人は気を引き締めた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
|どちらの姿で《蟲人も人型》も、目立つことは避けられんだろうからな。
ここは本来の姿へ戻り、慎重に噂の調査を行おう。

イベントに参加するのは、事件が解決したその後だ。

本来の姿へと戻り、擬殻布を纏って人込みのうわさを聞き集める。
挙動にはダッシュと高速移動を、隠密には目立たない技と迷彩を利用する。

野生の勘にて噂の信憑性を判断しつつ、聞き耳と情報収集もあわせて建物内の会話を逃さぬ様にしておこう。
特に、己の感覚器。
潜響骨と翳嗅盤はこういう時こそ雄弁だ。

何より話す者の声色と息遣いこそ、内容よりも信ずるに値する。

愛、か…。
傍に居たい…だけでなく、居続けて欲しいと思う「これ」は。
果たしてそう呼べるものなのか?

●疑念
 ハートの装飾に、販売されるチョコの数々。そしてチョコを求めて訪れた客の賑わい。バレンタインデーが近付き、百貨店は華やかに色付いていた。
 アトリウムには柔らかな光が満ちている。その光が届かぬ物陰に、|和紋・蜚廉《わもん・はいれん》(現世の遺骸・h07277)は潜んでいた。全員ではないが一般客は女性が多い。|どちらの姿で《蟲人も人型》も、目立つことは避けられない。故に今は本来の姿へと戻っているのだ。
(イベントに参加するのは、事件が解決したその後だ)
 擬殻布を身に纏い気配を溶かす。今の彼は背景と同じ、百貨店の片隅に沈む暗がりの一部だ。人込みの中で生じた噂を、慎重に聞き集める。
 潜響骨で声の振動を感知し、聞き耳を立てた。女性の話し声が感覚器に届く。
「……恋を叶える壺ってどこにあるんだろう」
「ここってさ、骨董品を置いてる店なかった?」
「ああ、あそこならあるかもね……」
 翳嗅盤も駆使し、話す者の声色と息遣いから感情の滲みを拾った。話の内容よりも、感情から生ずるものこそ信ずるに値する。彼女達からは、確信と期待の感情が読み取れた。潜響骨と翳嗅盤はこういう時こそ雄弁だ。
(真偽は不明だが、理には適っている。古美術店か……)
 野生の勘が、確認に向かうべきだと告げている。
 蜚廉は物陰から素早く飛び出した。古美術店の行き方を、エスカレーター傍のマップで把握する。百貨店の環境に溶け込んだまま、高速で移動を開始した。床を這い進みながら蜚廉は思う。
(愛、か……)
 愛。生きる意味を考える上で、その概念は今の蜚廉にとって大切なものだ。
 しかし、怪異が齎す愛は、果たして本当に愛なのだろうか。
(傍に居たい……だけでなく、居続けて欲しいと思う「これ」は。果たしてそう呼べるものなのか?)
 あまりにも依存性が強過ぎるその愛は、まるで毒物のようだ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ヨシュア・ヴァルトシュタイン
ちょっと前も愛とか恋とか言ってなかった?
ヒトって忙しねえのな
ま、シゴトはしよう

普通のヒトでおれの声に逆らえる相手は見たことない
聞き込みするなら……一生懸命チョコ選んでる女のヒトとか?
青いリボン解いて話しかけてやろう
あのさ、恋が叶う壺って知ってる?おれ、それ探してんだ
折角権能使ってんだし、少しくらい有力な情報が貰えりゃ良いけど

一回に一人しか愛しちゃいけないことになってるのに
愛したら、その一人になることを願わずにはいられないって
ヒトって悪魔より強欲だな
そのお陰で|後悔《エサ》食えてる身だし、とやかく言いはしないけど

……あらかた回ったら一個くらいチョコ買っても良いかな
紅茶に合う奴が欲しいんだ

●香る心
 人間とは、色恋とイベントを絡ませるのが大好きらしい。
 チョコの販売ブースは多くの客で賑わっている。バレンタインに浮かれる人々を、ヨシュア・ヴァルトシュタイン(「森の石」・h09600)は何処か冷めた眼差しで眺めていた。
「ちょっと前も愛とか恋とか言ってなかった? ヒトって忙しねえのな。ま、シゴトはしよう」
 会場の人波にするりと入り込んだ。周囲に視線を巡らせながら、彼はちょうどいい情報源を探す。
(聞き込みするなら……一生懸命チョコ選んでる女のヒトとか?)
 悩んでいる女性に狙いを付けた。青いリボンを解けば、|獣《ベスティア》が目を覚ます。女性の隣に歩み寄り、蠱惑的な声で囁いた。
「あのさ、恋が叶う壺って知ってる? おれ、それ探してんだ」
 ヨシュアが持つ堕落の権能を前に、普通の人間は逆らえない。女性は頬を赤く染め、うっとりしながら聞かれたことを話す。
「私も人から聞いただけなんだけど……ここに入ってる古美術店にあるって話だよ」
「へぇ、そうなのか。ありがとさん」
 ひらりと軽く手を振って、ヨシュアは女性から離れた。あの女性にも想い人が居るかもしれない。強制的に魅了するのは可哀想だが、すぐに忘れるだろうし問題ないだろう。
(一回に一人しか愛しちゃいけないことになってるのに、愛したら、その一人になることを願わずにはいられないって、ヒトって悪魔より強欲だな。そのお陰で|後悔《エサ》食えてる身だし、とやかく言いはしないけど)
 情報収集がてら会場を回りながら、ふとショーケースの商品に目を留めた。
 花の形を模したオレンジピールに、チョコをコーティングしてある。商品名を見ると、『サンダーソニア』と書かれていた。提灯のように膨らんだ見た目が可愛らしい。
「……風変わりなチョコだな。けど、紅茶に合いそうだ」
 サンダーソニア。花言葉は『祈り』である。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

夕星・ツィリ
【🐾💫】

ねっ!チョコの海くらいたくさんある!
チョコの甘くて良い香り!
この中から自分のオリジナルが作れるの夢みたい!
こんなにあるんだし…
自分用の他にも1つ作って交換会してみない…?

まず自分用にはお花で四季のボックス作りたいな
春の桜に夏の向日葵、秋のダリアそれから冬のスノードロップ!
グラデの角箱に詰めて、シフォンのリボンをかけて出来上がり
次はココ君との交換用を決めなくちゃ!
テーマは美味しい雫!
ティーポット型のボックスに
色とりどりのティアドロップのチョコを詰めて
赤はラズベリー、ピンクはストロベリー緑はピスタチオ
後はオレンジと定番のミルクも忘れずに!
金色リボンをかけたら完成!
喜んでくれますように!
ココ・ロロ
【🐾💫】

ツィリさんたいへんです!
チョコがたくさんあります!
…えっ、じぶんのつくれるのですか?すご~い
こうかんかい…?
ふふ~、もちろんよろこんで~!

まずはココの!
ポピー、ひまわり、コスモス、カランコエ
白い丸箱に詰めてチョコ色リボンで飾り
ふふん、ココチョコできました!
ツィリさんはなにに…お花?
わあ~!じつはココもきせつのお花にしたのですよ
あとでみせっこしましょうね

つぎはツィリさんの!
おともだちのだとおもうときあいはいりますね!ふんす!
何にしようか迷うけれど、選ぶのはやっぱり
お星さま、お月さま、貝がら、シマエナガ
星空柄のブックボックスに白のリボンを飾り
ツィリさん、いつもあそんでくれてありがと~!

●幸せの贈り物
 百貨店のアトリウムに広がる活気は幸せの色。
 天井から提げられたハートの飾りが、風にそよぐ花のようにふわふわと揺れる。
 そしてその眼下には、楽しげな人々と、ずらりと並んだチョコの数々。
 華やかなイベント会場に、ココ・ロロ(よだまり・h09066)は瞳を輝かせた。
「ツィリさんたいへんです! チョコがたくさんあります!」
「ねっ! チョコの海くらいたくさんある!」
 |夕星・ツィリ《ゆうづつ✱⃟۪۪۪͜ːु⟡⋆⁺.⋆》(星想・h08667)も、甘い香りが漂う海へと漕ぎ出した。
 並ぶチョコはまるで芸術品。ショーケースの中で宝石のように艶めく。
 甘やかな空気をすうっと吸い込んで、ココもチョコの海を楽しむ。
「いっぱいキラキラしてますね! 綺麗です!」
 この場所にいるだけで幸せいっぱいになってしまいそう。
 けれど、此処ではもっと素敵なコトができるのだと、ツィリはココに提案する。
「チョコの甘くて良い香り! この中から自分のオリジナルが作れるの夢みたい!」
「……えっ、じぶんのつくれるのですか? すご~い!」
「こんなにあるんだし……自分用の他にも1つ作って交換会してみない……?」
「こうかんかい……? ふふ~、もちろんよろこんで~!」
 断る理由なんてない。むしろ大賛成! 
 嬉しそうに笑うココに、ツィリも笑みを返した。
「ふふっ、気合入れて作っちゃう!」
 二人は早速販売ブースに向かい、それぞれでチョコとギフトボックスを選び始める。
「まずはココの! お花をいっぱい詰めましょう!」
 ココが選んだのは、ポピー、ひまわり、コスモス、カランコエ。白い丸箱に詰めて、チョコ色リボンで可愛く飾り付けた。一方で、ツィリも自分用チョコに取り掛かる。
「お花で四季のボックス作りたいな」
 春の桜に夏の向日葵、秋のダリア、それから冬のスノードロップ!
 グラデの角箱に詰めて、シフォンのリボンをふわりとかけて、出来上がり!
 ココが完成したチョコボックスをちょこんと頭にのせて、ツィリに見せた。
「ふふん、ココチョコできました! ツィリさんはなにに……お花?」
「うん、四季のお花で作ったの!」
 巡る季節を思わせるツィリのチョコボックスに、ココが歓声を上げる。
「わあ~! じつはココもきせつのお花にしたのですよ。あとでみせっこしましょうね」
 自分用を作ったら、お次は交換用にもうひとつ。
「次はココ君との交換用を決めなくちゃ! テーマは美味しい雫!」
 ツィリが選んだ箱は、ティーポット型のボックス。色とりどりのティアドロップのチョコを詰めてゆく。
 赤はラズベリー、ピンクはストロベリー、緑はピスタチオ。後はオレンジと定番のミルクも忘れずに! 金色リボンをかけたら完成だ。
「喜んでくれますように!」
 チョコがもっと美味しくなるおまじない。胸いっぱいの幸せと喜びを願った。
 ココもツィリのことを考えながら、贈り物を準備する。
「おともだちのだとおもうときあいはいりますね! ふんす!」
 選んだモチーフは、お星さま、お月さま、貝がら、シマエナガ。
 何にしようか迷ったけれど、やっぱりお空と海、それに小鳥が彼女らしい。
 海空を舞う小鳥を星空柄のブックボックスに閉じ込める。最後は白のリボンを飾り、可愛い物語の出来上がり。
「ツィリさん、いつもあそんでくれてありがと~!」
 ココの小さな腕に抱えられた物語は、きらきらと煌めいている。
 美しい贈り物に、ツィリは双眸をふんわりと細めた。
「こちらこそ! 私からも……はいっ、どうぞ!」
 ツィリも心を込めて用意した贈り物を渡す。
「とってもかわいいおくりもの、ありがとうございます~!」
 甘いティータイムを思わせるチョコボックスにココは喜び、尻尾をぶんぶんと揺らした。
「気に入ってくれてよかった! これからもよろしくね!」
 素敵な贈り物を胸に抱けば、甘い幸せが心へと溶け込んでゆく。
 なんだか、食べてしまうのが勿体ない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

アリス・アイオライト
恋心を利用し人々を誘惑するなんて、放っておけませんね
バレンタインは、人を縛る日ではなく人を繋ぐ日でなくては

せっかくですしチョコレートを購入していきましょう
お世話になっている方々へのプレゼントはもう準備済みなので、今日は自分用に
たまにはお花のチョコレートを
薔薇やマーガレット、形のわかりやすいものを選びます

客として催事を楽しみつつ情報収集
噂話を好みそうな若い女の子を中心に、傍で会話を盗み聞きしましょう
ネットで広まったなら、同じSNSのポストを見ていたりしないでしょうか
壺の場所に繋がりそうな写真などないか調べ……ううん、スマホ操作はやっぱり苦手です!もし情報があれば他の方に調べてもらいましょうか!

●自分に愛を
 百貨店に集まる人々は、バレンタインシーズンの甘い催しに心を躍らせる。
 怪異の存在を知らぬ人々が、危機に晒されぬよう守らなければ。
「恋心を利用し人々を誘惑するなんて、放っておけませんね。バレンタインは、人を縛る日ではなく人を繋ぐ日でなくては」
 アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)は会場へと訪れた。
(歩き回るだけというのも怪しまれるかもしれませんし、せっかくですからチョコレートも購入していきましょう)
 お世話になっている人たちへのプレゼントはもう準備してある。だから今日は自分用に買いたい。
 一番人気というお花のチョコから選ぶことにする。ショーケースの中に、様々な花を模したチョコが並べられていた。
「薔薇とマーガレット、あとは……カーネーションも良いですね」
 ビターチョコの薔薇に、ホワイトチョコのマーガレット。あとはストロベリーチョコのカーネーション。数個ずつ選んだら、次は箱を選ぶ。
「どの箱にしましょうか……」
 自分用だし気を遣う必要はないけれど。考えた末、菫色の角箱に入れて、空色のリボンで飾り付けた。
 客として楽しみつつ周囲の会話を盗み聞きすることも忘れない。若い女性が二人、チョコを選びながら話している。
「恋を叶える壺ってどんな見た目なんだろ」
「SNSに上がってたよー」
(SNSに……検索したら画像が出てくるかもしれません)
 アリスはスマホを起動した。もしかすると、壺の場所に繋がりそうな情報がわかるかもしれない。
(ここを、こうして……あら、変なページに……)
 指で画面をつつくたび、スマホはアリスが望まない挙動をした。画面に表示された広告を開いてしまったり、文字を入力しようとしても誤字になり、思うように打てない。
「……ううん、スマホ操作はやっぱり苦手です!」
 自分の足で歩き回って調べた方が早いかもしれない……。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

汀羽・白露
【白華】

華夜のことは普段は“かや”と呼ぶ

まぁ、百貨店も元は呉服店から生まれたものだからな
どこかその頃の佇まいのようなものが受け継がれている節もある
――って、おい…

まぁいっかと早々に思考を止めたかやについ口が出そうになるが
嬉しそうな横顔を見たら水もさせず

吹き寄せか…まぁ、たまにはそういうのも良いか
なによりもかやが喜ぶならば、とは口にはせずに俺も倣って菓子を選ぶとしよう

かやが選んだ色やモチーフを一瞥し
|かやの色《春色》と|翡翠色《俺の色》が入っているのに気づけば悪い気はしない(本音:嬉しい)
確かに、きみが好きそうな配色だな

どうせあとで「白ちゃん味見させて!」とか言ってくるだろうからな
俺は俺色にでもするか
かやしか知らない、俺の本体の色
外装と同じ配色の外側が焦茶色、内側がボルドーの箱に
羊皮紙めいた紙面の色に似たプレーンクッキーをメインに上品に配置する

なにやら考え込むかやに気づき、袖引かれるままに隣を見遣り

全く…俺を何処ぞの猫型ロボットのように扱うな!
っ…だからそのあざとい顔やめろ…!(弱い)
御埜森・華夜
【白華】

へぇ、いいねぇ
何だが百貨店ってちょっと背伸びするような気持ちかも
不思議だけど、まぁいっか
わぁバレンタイン…甘い香りと様々な菓子の店が競うように品を並べるのを見てつい口元が緩んでしまう
元々甘いものは好きだし、最近美味しいお茶の淹れ方とか若干レベル上がってきたし

沢山の菓子がある中で、ふと目を惹いた華やかな匣に納まる花弁めいたチョコ
わ、見て白ちゃん綺麗じゃない?なんか色々入れて吹き寄せみたいなのしてみようよ
花弁チョコと、金平糖とかクッキーとか選んで詰められるみたいだし

選んだのは、ふと目についた白い箱
中が翡翠色で、春手前って感じがして綺麗だし!

―なんてヘラヘラしてれば、ふと聞こえる女の子たちの囁き声
好きな人がいて、振り向かせたくて…初々しいのにどこか毒めいた言葉ばかり
あの子は可愛い、あの子はズルい—だからお願いをするの、なんて

勿体ないよね、“恋”してる君たちは十分可愛いのに
なんて言ったら不審者だから言わないけど

…ちょっと|白ちゃん《神様》、ちょちょいと叶えてあげてよぉ(くいくい袖を引いて

●甘くとろける
 硝子の自動ドアを潜れば空気がガラリと変わる。有名なハイブランドが立ち並ぶフロア、磨き上げられた床に反射する光。高級感漂う通路を進んだ先、爽やかに吹き抜けるアトリウムが広がっていた。
「へぇ、いいねぇ。何だが百貨店ってちょっと背伸びするような気持ちかも」
 |御埜森・華夜《みのもり・はるや》(雲海を歩む影・h02371)は催事場に集まる人々を眺めながら紡ぐ。
 活気づく人波に、|汀羽《みぎわ》・|白露《はくろ》(きみだけの御伽噺・h05354)も目を向けた。
「まぁ、百貨店も元は呉服店から生まれたものだからな。どこかその頃の佇まいのようなものが受け継がれている節もある」
 人々の先にはチョコの販売ブースが競うように軒を連ねる。甘い香りに誘われて、華夜は口元を緩ませた。
「不思議だけど、まぁいっか」
 深く考え込むより祭典に乗っかってしまった方が楽しい。華夜は人の波に飛び込み、ずんずんと先に進んでゆく。そんな華夜の後を白露が慌てて追った。
「――って、おい……」
「わぁ……こんなに沢山あったら迷ってしまうね!」
 華夜はチョコを見てまわる。王道から風代わりな物まで、多種多様な商品が並んでいた。
 元々甘いものは好きだし、最近美味しいお茶の淹れ方も若干レベルが上がってきた。お茶と一緒に高級なチョコを頂くのもアリかもしれない。
 華夜があれこれと考えを巡らせる一方で、白露はどうにか人混みを掻い潜り華夜の隣についた。早々に思考を止めた華夜に、つい口が出そうになる。
「かや、あんまりウロチョロしてると……」
 人にぶつかるぞ、なんて言おうとしたけれど。嬉しそうな横顔を見たら、水もさせずに黙り込むしかない。なんだかんだ言いつつも、大切な人には笑顔で居てほしいから。
 白露に見守られながら、華夜はとある商品に目を留めた。沢山の菓子がある中で、ふと目を惹いたのは、華やかな匣に納まる花弁めいたチョコだ。
「わ、見て白ちゃん綺麗じゃない? なんか色々入れて吹き寄せみたいなのしてみようよ。花弁チョコと、金平糖とかクッキーとか選んで詰められるみたいだし」
「吹き寄せか……まぁ、たまにはそういうのも良いか」
 表面上は、よく考えた上で了承しているように見える白露。だが、実のところ二つ返事である。なによりも、大切な人が喜ぶならばそれ以上のことはない。わざわざ口に出すのは恥ずかしいから言わないが。
 華夜はご機嫌な様子で、菓子を詰める箱を探す。選んだのは、外側が雪のように純白の箱だ。
「この箱にしよっと。中が翡翠色で、春手前って感じがして綺麗だし!」
 華夜の選んだ箱を、白露が一瞥する。
「その色……」
「ん? どうしたの?」
「……確かに、きみが好きそうな配色だな」
 白露は穏やかに言葉を紡いだ。箱を染めるのは|華夜の色《春色》と|翡翠色《白露の色》。その事実に気が付けば、白露も悪い気はしない――つまり、すごく嬉しい。
 箱を見つめる白露に、華夜は柔らかに微笑んだ。
「うん、好きだよ」
 とくんと白露の心が跳ねた。コホンと咳払いして、白露は気持ちを切り替える。
(俺も倣って菓子を選ぶとしよう……どうせあとで「白ちゃん味見させて!」とか言ってくるだろうからな)
 箱の配色は自分の色にする。華夜しか知らない白露の本体の色だ。外装と同じ配色の外側が焦茶色、内側がボルドーの箱を選ぶ。羊皮紙めいた紙面はまるで洋書のようだ。
 箱の準備ができたら、紙面の色によく似たプレーンクッキーを配置する。詰めすぎるとバランスが悪くなるので、程よく上品に。
「……よし、これでいいだろう」
 紅茶を飲みながら読書のお供に――そんなキャッチコピーが似合いそうな菓子詰の出来上がりだ。
 一方で、華夜も吹き寄せ風のチョコボックスを完成させる。
 春の訪れを感じさせる箱だ。カラフルな金平糖は春の妖精。花弁のチョコはクッキーの大地から芽吹いた花々のよう。
「ふふっ、可愛くできた」
 春の予感を感じながら、最近上達したお茶を淹れて。大切な人と……華夜の場合は『神様』かもしれないが、一緒に味わう春告げの吹き寄せは、きっと美味しい。
 ――なんてヘラヘラしてれば、ふと聞こえる女の子たちの囁き声。
「……ねぇ、恋を叶える壺ってホントにあるのかな?」
「本当にあるなら見てみたいよ。だって……」
 好きな人がいて、振り向かせたくて……初々しいのにどこか毒めいた言葉ばかり。あの子は可愛い、あの子はズルい――だからお願いをするの、なんて。乙女の嘆きに華夜は双眸を細める。
(勿体ないよね、“恋”してる君たちは十分可愛いのに)
 人はいつだって何かを求めて、自分がそれを手にしていても気付かない。
 失った、奪われた、手を伸ばしても届かない。そんな想いばかりに囚われてしまう。
 華夜の表情に差した僅かな翳りに白露が気付いた。
(……何か難しいことを考えてるな)
 きっと、『考え過ぎると良くないこと』だ。直感で思う。
 話しかけて思考を止めてしまおうか。口を開きかける白露だが、先に華夜の手が白露の袖へと触れた。
「……ちょっと|白ちゃん《神様》、ちょちょいと叶えてあげてよぉ」
 くいくいと袖を引いて、付喪神様にお願いする。白露は深い溜息をついた。
「全く……俺を何処ぞの猫型ロボットのように扱うな!」
 呆れ半分、安心半分。そう簡単に願いを叶えられるなら苦労はしない。
 お断りな白露に対し、華夜は白露をじいっと上目遣いで見つめている。
「ねぇ、だめ……?」
 子猫のような眼差しで見上げてくる華夜に、白露は心臓を掴まれたような心地だ。
「っ……だからそのあざとい顔やめろ……!」
 華夜の愛らしい仕草は、白露をチョコレートのように甘く溶かしてしまう。
 いくら表面上は毅然としていても、彼は華夜にお熱なのだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

史記守・陽
☀モコシキ
壺の怪異ですか
放っておくと大変なことになりそうですから早く対処しないといけませんね

自分が精神汚染に弱い自覚はなんとなくある
以前魔除けの意味を込めて貰ったネクタイピンに無意識に触れながら、ふと、愛の意味について考えた
俺が欲しい愛って、なんだろう…
愛って別に恋愛的なことだけじゃないと思うけど
この場の雰囲気がどうしてもそういう方向を意識させるのかな
誰かを好きになるとか…ましてや、添い遂げるような相手なんて自分にはとても遠いことのように感じた
いつかはそういう相手がみつかるのかなと思いつつ、やっぱり自分がそんな相手と一緒にいる姿は想像つかなかった

ふと何故か視線がモコさんに行く
モコさんは何やら楽しそうな様子でいた
モコさんが楽しそうにしているなら俺も嬉しいんですけど

モコさん?あの、俺達仕事できたんですからね?
駄目ですよ

んー確かに場に馴染むという意味では楽しんでいる人の振りをするのは大切なのかも?
折角だし俺も普段お世話になっている署の人達に何かクッキーでも買っていこうかなと考えつつ見ていたら
モコさんにチョコを差し出された

あの、甘いものはちょっと……俺は大丈夫…
それにビターって言っても絶対甘いですよ

俺は大丈夫ですって…もご…
あ、あれ?本当だ…おいしい

(おかしいな…甘い物は一切ダメだったはずなのにモコさんから貰った|幸せ《甘さ》はとても心地が良かった)
モコ・ブラウン
☀モコシキ

恋を成就させる壺ってフレーズだけなら詐欺まがいの商品みたいモグね
うん、その通りモグ
この手のヤカラは一般人を巻き込む前にさっさと片付けないと厄介モグ


こういう人を惑わせてくる系は、
まずは術中にハマったフリをすると誘き出しやいとモグの経験則が言っているモグ
だから、まずはたくさんチョコを用意するモグよ!
これは決してチョコが美味しそうだからとりあえず食べたいとかそういう話ではないのモグ

……さて……

わーい、選びたい放題モグ!
ギフトボックスに詰め放題モグね!
お花の形はとてもオシャレで良いモグけど、
モグからしたら重要なのはチョコの味……!
まずはお一つ味見モグね、うん、甘い。
お酒が入ってるやつもあるモグね〜〜!
あー、このほろ苦なのも美味しそう……

え?仕事?
んん、ゴホン。モグ。
当たり前モグよ、まずはチョコを買っている客に紛れ込んで、
まんまと術中にハマっているフリをするモグ
これは決してチョコ選ぶのたのしーからとかそういうことじゃないのモグ

ほら、シキくんにもあげるから見逃してモグ?
ビター系のチョコもあったから絶対美味しいモグよ?

俺大禁止モグ!はい、あーん!(強引に押し込む)

そうモグでしょ〜〜〜?シキくんの分も先輩が奢ってあげるのモグ!
(よし、上手く誤魔化せたモグね!それにしても、なんか誤魔化すためとはいえとんでもないことしたような……)
(ま、まあ捜査のためモグな)

●バレンタインの魔法
 大好きなあの人と結ばれたい、大好きなあの人と過ごしたい。心に転がり溶ける味わいは、まるで甘酸っぱいベリーチョコレートのよう。
 ……けれど、依存性が高いその味に、夢中になり過ぎるのはあまりにも危険だ。
「恋を成就させる壺ってフレーズだけなら詐欺まがいの商品みたいモグね」
 百貨店の催事場にて、モコ・ブラウン(化けモグラ・h00344)はチョコを求めて賑わう人々を注意深く観察していた。彼女の隣には、|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)が肩を並べる。甘い色彩と香りに包まれるその場所は、彼にとって縁遠い場所のように思えた。
「壺の怪異ですか。放っておくと大変なことになりそうですから早く対処しないといけませんね」
「うん、その通りモグ。この手のヤカラは一般人を巻き込む前にさっさと片付けないと厄介モグ」
 モコは真剣に頷いてみせる。事件が起きる前に叩いてしまいたい。精神汚染される一般人が出てしまったら、対処もより面倒になる。
「それにしても精神干渉してくるタイプの怪異ですか。性質も厄介ですが、まずは見つけ出さないといけませんね」
 怪異は百貨店のどこかに潜んでいるらしい。どのように情報を集めるか。思案する陽に、モコは自信に満ちた表情で人差し指をぴっと立てた。
「こういう人を惑わせてくる系は、まずは術中にハマったフリをすると誘き出しやいとモグの経験則が言っているモグ。だから、まずはたくさんチョコを用意するモグよ!」
 チョコレートいっぱいモグモグ大作戦である。これは決してチョコが美味しそうだからとりあえず食べたいとかそういう話ではない。どう考えてもチョコを食べたい気持ちが透けているが、モコを心の底から尊敬している陽は気付かない。
「なるほど、さすがモコさんです。さっそく作戦を開始しましょう!」
 二人は販売ブースに向かう。より濃くなるチョコの香りに、陽は僅かに眉を寄せた。甘い物は苦手だ。
 表情を引き締める。今回の敵は陽にとって厄介な相手に違いない。カミガリとしては致命的な、精神汚染に対する耐性の低さ。陽は悔しくも己の弱さを自覚している。気を強く持とう。魔除けの意味を込めて貰ったネクタイピンへと無意識に触れた。
 怪異は愛で人を縛る呪いをかけるという。望む愛を読み取り、誘惑してくるのだと言っていた。
(俺が欲しい愛って、なんだろう……)
 恋愛的な『愛』だけではないのだろう。しかし、この場の雰囲気がどうしてもそういう方向を意識させた。誰かを好きになる、誰かと添い遂げる。とても遠いことのように感じて、陽には想像ができない。いつかはそういう相手がみつかるのだろうか。
(毎日が忙しなくて、それどころじゃない気がする。月代の件もあるし……)
 父さんのような刑事になる。理想に向かって走り続ければ、色恋事など見落としてしまいそうだ。
 ぐるぐると考えていた陽の思考を、モコの嬉しそうな声が遮った。
「わーい、選びたい放題モグ! ギフトボックスに詰め放題モグね!」
 商品棚にずらりと並んだチョコの数々に、モコはキラキラと瞳を輝かせる。ふんわりまろやかなミルクチョコから、苦味の強いハイカカオチョコまで幅も様々だ。
 チョコをたくさん詰められる、大きくて頑丈な箱を選び、早速チョコ選びを始める。
「お花の形はとてもオシャレで良いモグけど、モグからしたら重要なのはチョコの味……! まずはお一つ味見モグね」
 板チョコ、プラリネ、トリュフに生チョコ……。
「どれにしようモグ~……コレに決めたモグ!」
 生チョコをおひとつ手に取って、ぱくりと口に放り込んだ。生クリームの甘味がふわりと溶けてゆく。舌の上に広がる幸せの味に、モコは表情をふにゃりと綻ばせた。
「うん、甘い。口の中でとろけるモグ~っ!」
 天に昇るような気持ちだ。もっともっと味わいたい。
 ふわふわ飛んでいきそうなテンションのまま、別の試食へと狙いを付ける。
「お酒が入ってるやつもあるモグね〜〜! あー、このほろ苦なのも美味しそう……」
 リキュールが入ったボンボンショコラに、ビターチョコレート。どれも美味しそうでモコの食欲を誘う。
 楽しそうなモコの姿に、陽は視線も心も奪われた。幸せそうな彼女を見ていると、胸の奥がぽかぽかする。陽も釣られて嬉しい気持ちになった……が、微笑ましく思うと同時、今は仕事中であることを思い出す。
「モコさん? あの、俺達仕事できたんですからね?」
 控えめな口調で伝えると、モコはぴたりと手を止めた。彼女の手では、板チョコの欠片が食べられる瞬間を待っている。
「え? 仕事? んん、ゴホン。モグ。……当たり前モグよ、ちゃんと覚えてるのモグ」
 モコは板チョコを口の中に迎え入れた。ぱきん、と硬い音がする。
 もぐもぐとチョコを味わい続けるモコに、陽はひとつの考えを抱く。
(もしかして、チョコに夢中で仕事を忘れかけてたんじゃ……いやモコさんに限ってそんなことはないはず)
 そう、そのようなことは断じてないはずだ。陽にとって、モコは超かっこよくて頼れる先輩なのだから!
「とにかく、あんまり食べ過ぎたら駄目ですよ。チョコって、食べ過ぎると石ができやすくなるんです。結石の原因になる『シュウ酸』が多く含まれていて……」
 陽はモコの体を案じる。モコは新たなチョコを手に取りながら、キリッと表情を引き締めた。
「シキくん、これは文字通り体を張った作戦なのモグ。まずはチョコを買っている客に紛れ込んで、まんまと術中にハマっているフリをするモグ。これは決してチョコ選ぶのたのしーからとかそういうことじゃないのモグ」
 真面目なモコの表情に、陽は容易く流される。
「んー……確かに場に馴染むという意味では楽しんでいる人の振りをするのは大切なのかも?」
 折角の機会だ。普段お世話になっている署の人達に、何か買っていこうか。チョコ以外にも様々な菓子が販売されている。陽は手近な棚に積まれた箱へと目線をやった。
(チョコスティッククッキーか……カロリーバーと形が似てる……)
 モコはチョコをひとつ指先でつまみ、陽の口元へと持ってゆく。
「ほら、シキくんにもあげるから見逃してモグ? ビター系のチョコもあったから絶対美味しいモグよ?」
 ハートの形をしたチョコだ。差し出された陽は当然戸惑う。甘い物が苦手なのにチョコは厳しい。
「え、あの、甘いものはちょっと……俺は大丈夫……それにビターって言っても絶対甘いですよ」
「俺大禁止モグ! はい、あーん!」
「俺は大丈もごっ」
 ずもっと強引にチョコを口の中へと押し込まれる。陽はチョコの甘さに咽る未来を瞬時に想像した。口に広がる甘みが舌に絡み付き、強い不快感を齎すだろうと。しかし、その予想は大きく外れることになる。
 身構えても恐れていた感覚は訪れない。
 ほろ苦い甘さは舌の上で軽やかに転がり、ふんわりと溶けてゆく。
「あ、あれ? 本当だ……おいしい」
 呆気に取られる陽に、モコがニッコリと双眸を細めた。
「そうモグでしょ〜〜〜? シキくんの分も先輩が奢ってあげるのモグ!」
 計画どおり。上手く誤魔化せたとモコは心の中でニヤリと笑う。誤魔化すためとはいえ、とんでもないことをしたような気もするけれど。
 近くにいた一般客の女子たちが、二人を見てヒソヒソと会話している。
「ねぇ、すごい見せ付けられてる」
「イケメン彼氏羨ましすぎるんですけど……」
 その会話はモコにもバッチリ届いた。周囲から二人はカップルだと思われている。
(……ま、まあ捜査のためモグな)
 今更恥ずかしくなってきたが、捜査のためと割り切って思考を切り替えた。
 一方で、陽は未だに首を傾げている。
(おかしいな……甘い物は一切ダメだったはずなのに、モコさんから貰った|幸せ《甘さ》はとても心地が良かった)
 不思議な魔法に掛けられたように、陽はその甘さに惹かれる。ビターの余韻を残しながら、可愛らしいハートのチョコは蕩けゆく。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『幻惑空間』


POW 直感を信じて進む
SPD 痕跡を辿って進む
WIZ 注意しながら進む
イラスト すずや
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 百貨店のテナント……古美術店に『恋を叶える壺』が置かれている可能性が高い。
 人々の噂話やSNSの情報、様々な調査の結果から、確度の高い情報を得ることに成功した。
 情報を掴んだ√能力者たちは、件の古美術店へと足を運ぶ。
 
 売られている骨董品の中に、|その壺《ミメイ》は紛れ込んでいた。
 その壺を視界に捉えた瞬間、彼らに異変が訪れる。突如として空間が歪み、抗えない力によって別の空間へと放り込まれたのだ。
 これが星詠みの言っていた『異空間』なのだろう。招くというには少々乱暴であるが。
 空を見上げれば、不気味な色に蝕まれた月が浮かんでいる。足元は鏡面のようになっており、果てまで続いていた。他には何も存在しない。
 ――否、言い方が適切ではないかもしれない。
 何も無かったはずの空間は、あなたの心を覗き込み、その形を変えるのだ。
 
『あなたが欲しくても得られなかった、或いは今も求め続けている、誰かからの『愛』……ミメイはそれを読み取り、誘惑してきます。あなたが望む愛をくれる、誰かの幻が現れるでしょう』
 
 ミメイはあなたの心に干渉することで幻を見せ、壺の内に取り込もうとする。
 『誰か』の幻の手を取ってしまえば、あなたはミメイが倒されるまで、囚われ続けることになるだろう。
 この甘美な誘惑を、切り抜けられるだろうか?
 
※同行者がいる場合、一緒か、はぐれてしまったかは、プレイング次第です。
一緒にいる場合でも、別々の幻を見ることになります。
屍累・廻
【幸廻】
なるほど、随分と手荒なようで
…翠咲さんとはぐれてしまいましたし、急いで合流しなければ

異質な空間
こういった場所は随分慣れた
そして知っている、手を差し伸べる『誰か』がどんな形を描くのか

…生憎、求める愛は既にこの手の中にあります
偽りの|幻影《恋人》には退場してもらいましょう

揺らがない確固たる想いがある
幻にすらも惑わされないほどの強い絆

さて、遊びは終わりです

右手を伸ばし、√‬能力使用
幻が消えたなら本来の目的、仲間との合流を目指す

…向こうに気配を感じますね
惑わされてないと良いですが

視て探し出し、惑わされているならば√‬能力で無に帰す

大丈夫ですか?
趣味の悪い遊びは、終わらせてしまいましょう
白石・翠咲
【幸廻】

あれ? 屍累さん?
はぐれてしまいましたか……

愛……ですか。あいにく収容所生まれですので、それがどのようなものかよく分からないのです。僕に向けられたのは、厳しい言葉ばかりでしたから……

ただ、朧気な優しい手が見えるのは分かります。穏やかな時間が流れる感覚もあります。

けど。

僕はまだ、僕の災厄(ちから)以外で人を幸せにする方法を知らないのです。それまでは、立ち止まってはいけない気がする。だから……その手はこうします。【ルートブレイカー】発動。右手で触れて消します。

ご心配をおかけしてすみません。僕は大丈夫ですよ。
進みましょうか。

●虚構を越えて
 ふと気が付けば、隣から|白石・翠咲《しらいし・すいしょう》(花を撒く者・h02856)の姿が消えていた。
 チャンネルが切り替わるように景色を変えた空間を、|屍累・廻《シルイ・メグル》(全てを見通す眼・h06317)はぐるりと見渡す。
「なるほど、随分と手荒なようで……翠咲さんとはぐれてしまいましたし、急いで合流しなければ」
 怪異が創り出した異質な空間にも一切動じない。職業柄このような場所は随分と慣れた。それに廻は知っている。手を差し伸べる『誰か』がどんな形を描くのかを。
 歩みを進めた先、空間に浮かび上がるのは桜色を纏う彼女の姿。
 廻は幻を見つめ、薄い笑みを滲ませる。それは恋人に向けるような優しい表情ではない。
「やはり、彼女の幻を見せますよね。見た目だけはよく似せています」
 例えるならば贋作を見つけた時の気分だ。だが、よく出来ていても偽物。中身など全く存在しない。
「……生憎、求める愛は既にこの手の中にあります。偽りの|幻影《恋人》には退場してもらいましょう」
 揺らがない確固たる想いがある。幻にすらも惑わされないほどの強い絆だ。廻は恋人の幻へと右手を伸ばした。
「さて、遊びは終わりです」
 怪異が魅せる幻を|怪退《カイタイ》する。|解体《バラ》された幻は瞬く間に霧散し、異空間の穢れた空気に溶け消えた。
 廻は右手を下ろし、何事もなかったように歩き出す。
「引き続き翠咲さんを探しましょう。惑わされてないと良いですが」
 
 二人が引き離された直後のこと。翠咲も廻と同じように、独り異空間へと放り込まれていた。
「あれ?  屍累さん? はぐれてしまいましたか……」
 彼を探さなければ。空間の闇に蠢く異質な気配を感じ取りながらも翠咲は進む。
 この空間は求める愛を魅せてくるらしい。
「愛……ですか」
 翠咲には愛がどのようなものかよく分からない。収容所生まれの彼にとって、その概念はあまりにも遠い。
 生まれてこの方、向けられた言葉の数々は冷たく厳しいものばかりだった。
 視線の先に見えたのは、朧気な優しい手。おいでと招く向こう側で、穏やかな時間が流れている。
 ――不思議な心地だ。胸に抱くのは仄かな憧憬と、脳裏を巡る確かな疑念である。
「この感覚が、僕の求める愛なのでしょうか?」
 たとえそれが求める愛だったとしても、その手を取るつもりはない。翠咲は右掌を掲げた。
「僕はまだ、僕の|災厄《ちから》以外で人を幸せにする方法を知らないのです。それまでは、立ち止まってはいけない気がする。だから……」
 ルートブレイカーを発動させる。光が空間に満ち、優しい幻を悉く消し去った。
「僕が求めるものは、僕自身の力で見つけたいのです」
 さようなら。翠咲は振り向かず、立ち止まらず、前へと歩んだ。
 何処まで行っても同じ景色だ。方向感覚が麻痺しかけたところで、新たな気配が近付く。周囲に視線を巡らせると、近付いてくる廻の姿が映った。幻ではなく本物だ。直感で理解する。
「こちらにいましたか。大丈夫ですか?」
 廻は翠咲に問いながらも状況を把握する。翠咲の様子からして、精神干渉の影響は受けていない。精神を汚染された者の容態はよく知っている……彼は大丈夫だ。
 廻の見立てどおり翠咲は普段通りだ。怪異の誘惑を退けた彼は穏やかに返す。
「ご心配をおかけしてすみません。僕は大丈夫ですよ」
 廻も翠咲もミメイの誘惑に堕ちなかった。あとは共に異空間を進み、彼女のもとに向かうだけ。
「趣味の悪い遊びは、終わらせてしまいましょう」
 廻の言葉に、翠咲はこくりと頷いてみせた。
「進みましょうか。二度とはぐれないよう注意しますね」
 合流できた今ならば、ミメイのいる場所へ辿り着ける気がする。
 再び幻が行く手を阻んだとしても、二人の意志は虚構の愛を払い除けることだろう。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

静寂・恭兵
アドリブ歓迎
俺が求めている愛は
|Anker《白椿》からの愛ただ一つだ。
12の頃から変わらない気持ちだからな…けして答えは揺るがない。
真っ直ぐな気持ちだ…。

だから…分かるんだよ|本物《白椿》じゃないってことは。
何度も似た様な幻や夢で見た。
見せられた。
俺の弱点であり強さだ。

白椿はここには居ない今も静寂の家の中だ。
…幽閉される事で白椿が守られてるだなんて不本意だが…

不愉快な幻は消えろ。

●揺るぎない想い
 血濡れたような月が空に浮かぶ。|静寂・恭兵《しじま・きょうへい》(花守り・h00274)は冷静に周囲を見渡し、精神を研ぎ澄ませた。
「この場所が怪異の異空間か」
 強制的に転移させられた空間は、怪異の邪悪な力で満ちている。頭の裏を覗かれているような感覚が不快だ。じきに幻を見せ付けてくるに違いない。
 不安はない。ただ、予感がする。
(怪異が見せてくる幻の予想は付いている)
 求めている愛など決まりきっていた。恭兵が欲している愛は、ただ一つ。
『……恭兵様』
 恭兵の視線の先に、艶やかな白髪の少女が現れる。
「知っていた。見せるならば彼女の幻だろう」
 名は呼ばない。目の前に佇む彼女は、金の瞳を綻ばせて微笑む。
 ――|Anker《白椿》。彼が求める唯一の愛が、この空間に存在するはずがない。
(12の頃から変わらない気持ちだからな……けして答えは揺るがない)
 少年の頃から真っ直ぐに想い続けている。故に|本物《白椿》ではないことも、はっきりと分かるのだ。いくら精神を蝕む力が脳裏を焼こうと、恭兵の目は曇らない。
 これまでも幾度となく、似た様な幻や夢を見た。見せられた。
(俺の弱点であり強さだ。白椿がいたから、俺は強くなれた)
 白椿のために強くなろうと鍛錬を積み重ねた。その結果が今の彼だ。
 それが静寂家の逆鱗に触れた。今の白椿は籠の鳥。家の奥深くに閉じ込められている。
(……幽閉される事で白椿が守られてるだなんて不本意だが……)
 静寂の家の奥深くではなく、俺自身の手で守ることができたなら。今は難しくとも、いつか、必ず。
 そのためにも目の前の偽物は邪魔だ。
 |曼荼羅《まんだら》を抜く。躊躇いなど無い。人の心を暴き、弱みを弄ぶ邪悪に情けなど要らない。
「不愉快な幻は消えろ」
 冷たく、一閃。斬り裂かれた幻は花のように散り、闇の中に溶けていった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

和田・辰巳
【琴瑟】アドリブ・アレンジ歓迎
敵の罠があるかもしれない。ここは手を繋いで行こう!
いやいや、はぐれるといけないから改めてね

へぇ、榴はこういうのによく巻き込まれるんだね
手を繋いだまま店に向かうがやはり幻を見せられてしまう

僕の好きな人は隣にいる|榴《半身》なんだけど……もしかして榴が2人で夢いっぱいだったりする?
なんでもやってくれるのかなぁ
辰巳大好き好き好きーって言いながらハグして?
うーん可愛いけど、偽物だな
(本物は恥ずかしい事してくれないので)
恥じらいが足りない
やり直し!

幻を打ち払って榴を抱きしめる
ずっと甘美じゃなくても塩対応が良い時もあるものだ
赤くなった榴も可愛いね
本当に辞めるのかは疑問である
四之宮・榴
【琴瑟】アドリブ・アレンジ歓迎

心情
……ぇ…っ…!?
…ずっと傍にいるじゃないですか…っ…手は今ですが…っ…!

…件の古美術店は…って…此れは、此れで…ある意味…見慣れた空間、です。
…幻…?
…僕のあ、愛は…っ…この…少しマイペースな…|辰巳《惚気マシーン》…なのですが…。

…か、甘美じゃない!
…全然、甘美じゃないです…っ!!
…口説き文句が、五月蝿い…のです…っ…
…い、いい加減に…してください…
…僕に此の儘、嫌がらせをするなら…其の儘、続けてください…っ!

行動
店に入って口説かれるのですが、赤面して絶えられないようになったら忠告をして、√能力を用意て【水槽】に拘束します
本物は、いい加減〜の辺りで辞めるので

●相思相愛
 レギオンや式神から情報を得た二人は、目的の古美術店へと到着した。
「敵の罠があるかもしれない。ここは手を繋いで行こう!」
 ぎゅ! と|四之宮・榴《シノミヤ・ザクロ》(虚ろな繭〈|Frei Kokon《ファリィ ココーン》〉・h01965)の手を握る|和田・辰巳《わだ・たつみ》(ただの人間・h02649)。恋人繋ぎに、榴の心臓が跳ね上がる。
「……ぇ……っ……!?」
 またしても赤面する榴に、辰巳はニコニコと微笑んだ。
「いやいや、はぐれるといけないから改めてね」
 嘘は言っていない。相手が怪異である以上、守りは徹底的に固めたい。理由を付けてイチャイチャしたいからというのもちょっぴりあるけれど。
 真っ当な理由の中に辰巳の本音を垣間見た気がして、榴はさらに顔が熱くなる。
「……ずっと傍にいるじゃないですか……っ……手は今ですが……っ……!」
 彼女の反応が可愛くて、辰巳は幸せな気持ちになった。
 大小様々な壺が置かれたフロアに足を踏み入れる。とある壺を視界に捉えた瞬間、景色が一変した。
「景色が変わったね。ここが異空間かぁ」
 辰巳は周辺を観察する。天に浮かぶ不気味な月と、鏡面の大地が何処までも続いていた。
 神秘的な趣さえある光景を、榴は落ち着いた眼差しで見つめる。
「此れは、此れで……ある意味……見慣れた空間、です」
「へぇ、榴はこういうのによく巻き込まれるんだね」
 榴の大変さを思うと同時、辰巳は目の前に現れるもう一人の榴に気付いた。求める愛の根源。大好きな彼女の幻だ。
「僕の好きな人は隣にいる|榴《半身》なんだけど……もしかして榴が2人で夢いっぱいだったりする?」
 なんでもやってくれるのかなぁ、なんて呟く彼からは、動揺も危機感も感じられない。
 辰巳の言葉に榴は戸惑う。
「……幻……ぼ、僕がふたり……?」
 困惑する彼女の前に、もう一人の辰巳が出現した。偽物の彼に榴はハッとする。
「えっ、辰巳が、もうひとり出てきました……この幻が、僕のあ、愛……っ」
 辰巳こそが求め続ける愛。それを再認識して恥ずかしさを覚えた。だがこの後、彼女はさらに顔から火が出ることになる。
『榴、可愛いね。見た目だけじゃないよ、声も仕草も、性格も全部可愛い』
 少しマイペースな|辰巳《惚気マシーン》が、惚気を言い始めたのだ。話を広げ始める偽物に、榴は羞恥心が爆発する。
「……か、甘美じゃない! ……全然、甘美じゃないです……っ!! ……口説き文句が、五月蝿い……のです……っ……い、いい加減に……してください……」
 榴は√能力によって水槽を創造し、偽辰巳を閉じ込める。
「……僕に此の儘、嫌がらせをするなら……其の儘、続けてください……っ!」
 榴が耐え切れなくなる前に惚気を止めようとしないあたり、偽物はやはり偽物だ。
 一方で、辰巳も偽物の榴と対峙していた。
「辰巳大好き好き好きーって言いながらハグして?」
『辰巳、大好き! 好き好きー!』
 対峙と言うには、ノリが軽すぎる。
 榴の偽物がぎゅーっと辰巳に抱きついた。幻であっても実体があるように感じる。
「リアルだなぁ。どうやって作ってるんだろう」
 考えている間にも、偽榴が懐いた犬や猫のように擦り寄ってくる。
 ――解釈違い。そんな言葉が辰巳の脳裏に浮かんだ。
「うーん可愛いけど、偽物だな。恥じらいが足りない。やり直し!」
 √能力を以て幻を打ち払い、隣にいる榴を抱きしめる。
「やっぱり本物が一番だよね」
 甘美だけじゃ足りない。塩対応があってこそだ。
「ひゃわ、っ……!?」
 突然ハグされて、榴が可愛らしい声を上げた。
「赤くなった榴も可愛いね」
 榴の耳元で辰巳が囁く。
 偽物でなくとも惚気をひたすら始めそうな彼に、榴は耳まで赤く染めた。
「も、もうっ……! こんな時まで……からかわないで、ください……!」
 偽物の辰巳はいつの間にか消えていた。お互いが本物に夢中で、幻など見る暇もないのだろう。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

ヨシュア・ヴァルトシュタイン
興味あったんだよね
たかが幻が、遍く人間に注がれる無辺の愛を再現出来るかどうか

……天にまします主を思ったつもりだったんだけど
幻は、おれの権能のせいで失くした教会の、老いた司祭の格好をしてる
おれみたいな悪魔を御赦しくださるって
頭を垂れて悔い改めれば天の国に連れていってくださるって
失った御加護を与えてくださるって――仰る?

……馬鹿馬鹿し
主も司祭も悪魔を御赦しになるわけないだろ
おれは悪魔だって、他ならぬ司祭が仰ったんだし
ヒトだけを愛する神サマに、悪魔を愛して欲しいって矛盾
あんたも解決は出来ないみたいだな

愛も赦しも必要ないよ
そんなものを求めるのはヒトだけだ
最期に罰が下ればそれで充分
おれは、悪魔なんだから

●戯言
 昏い夜の如き世界を奇妙な彩の満月が照らす。
 招かれた静寂へと、ヨシュア・ヴァルトシュタイン(「森の石」・h09600)は語りかけた。
「興味あったんだよね。たかが幻が、遍く人間に注がれる無辺の愛を再現出来るかどうか」
 さあ、覗いてみろよ。
 思考を巡らせ、『愛』とやらを想像する。それは挑発に近い行為であった。
 夜の闇が蠢く。それはゆっくりと形を成し、ヒトの姿を生み出した。現れた幻にヨシュアは金の双眸を訝しげに細める。
「……天にまします主を思ったつもりだったんだけど」
 彼の権能のせいで失くした教会の人間だ。幻は老いた司祭の格好をしている。
『……ヨシュア・ヴァルトシュタイン。主はお前を御赦しくださるであろう』
「は?」
 慎み深く語り始める幻にヨシュアは眉を寄せた。彼の反応に構わず、幻は言葉を紡ぎ続ける。
『人を惑わす悪魔であっても、頭を垂れて悔い改めれば、天の国に連れていってくださる。失った御加護を与えてくださるのだ』
 主はお前を視ている。お前の行いを、お前の心を、何もかも。そうしてお前のすべてを赦し、救うのだと。
 司祭は穏やかに語る。虚しい響きを奏でる言葉に、ヨシュアは溜息をついた。
「……馬鹿馬鹿し」
 聞く価値もない。その辺で猫が喧嘩してる鳴き声を聞いていた方がマシだ。
「主も司祭も悪魔を御赦しになるわけないだろ。おれは悪魔だって、他ならぬ司祭が仰ったんだし」
 答えは出た。端から期待はしていなかったが、結局のところ幻は幻だ。
「ヒトだけを愛する神サマに、悪魔を愛して欲しいって矛盾。あんたも解決は出来ないみたいだな。愛も赦しも必要ないよ。そんなものを求めるのはヒトだけだ」
 ただ一言、「消えろ」と祈った。直後、幻は風に吹き飛ばされるように消滅する。
 幻が消え去った薄闇の中で、ヨシュアは月を見上げた。
「最期に罰が下ればそれで充分。おれは、悪魔なんだから」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
Ankerの幻――か。
一体我に、何を見出したというのか。
…これは?
気付けば、姿が変わっていた
蟲の姿から、人の姿へ 。
外骨格の面影は見る形もない。

幻が、手を差し伸べてくる。
闘わなくていいと、その姿で居て欲しいと…その温かさと光は、幻とはいえ、見間違いようのないものだ。

……よく、覗き込んだものだ。
この誘惑は確かに、効いてしまう。
だが、その声は違うな。

我が何であれ、
何を背負っていようと、
今の我だからこそ、傍に居たいと。
そう言ってくれたのだ。

外骨格を脱ぎ捨てた姿が望みか?
安寧の約束が欲しかったか?

……否。

我は、今の我で在る。
闘いも、業も、選んだ道も、全て抱えて此処に立つ。

それを否定して与えられる愛など、
甘くとも、我には要らぬ。


――我は、Ankerの事が好きだ。
幸せにしたい。

守られるだけでなく、
縛られるでもなく、
互いに選び続ける形でそれを為したい。

だからこそ。

この壺の中で得られる愛が、
我の望むものではないと認識できた。

甘言は要らぬ。
…が、お陰で応えるべき想いを得られた。

その事には、感謝しよう。

●かたちを描く心
 心を覗き浸蝕する異空間は、貪欲な獣のように|和紋・蜚廉《わもん・はいれん》(現世の遺骸・h07277)を吞み込んだ。
 歪な気配を漂わせる|怪異《ミメイ》の領域を蜚廉は進む。
 ――『彼女』の幻が現れるまで時間は掛からなかった。闇の中から、彼女はゆったりと姿を現す。
「Ankerの幻――か」
 件の怪異が蜚廉の内から拾い上げたものか。
 一体我に、何を見出したというのか。蜚廉もまた、怪異の意図を探ろうとして――あることに気付く。
「……これは?」
 蜚廉は己の手を見た。柔らかな肌色に、人間の指が伸びている。
 蟲の姿から人の姿に気付けば変わっていた。硬い暗色の外骨格の面影は見る形もない。Ankerの幻はふわりと微笑んで、蜚廉へと手を差し伸べてくる。
『蜚廉さん、一緒に行きましょう。もう闘わなくてもいいのです。その姿のまま、ずっと傍に居て欲しいのです』
 その温かさと光は、幻とはいえ見間違いようのないものだ。輝く光は美しく、春の陽光のようなぬくもりを宿している。
(……よく、覗き込んだものだ。この誘惑は確かに、効いてしまう)
 鏡に姿を映すように、心をも映し出してしまうのか。
 しかし、結局は『それだけ』だ。過去から現在までの軌跡、そして未来に繋がる真の想いまでは映せない。
「……だが、その声は違うな」
 蜚廉は断言する。幻は笑みを貼り付けたまま、差し伸べた手を僅かに震わせた。幻の彼女をまっすぐに見つめ、蜚廉は続ける。
「我が何であれ、何を背負っていようと、今の我だからこそ、傍に居たいと。そう言ってくれたのだ」
『…………』
 幻は無言のまま微笑みを曇らせた。悲しげな表情だ。だが、その表情が蜚廉を揺さぶることはない。
 蜚廉は知っている――彼女はこの状況で、そのような顔をするわけがないのだと。
「外骨格を脱ぎ捨てた姿が望みか? 安寧の約束が欲しかったか? ……否」
 蜚廉は否定する。人の姿に縛られ、安寧に身を沈める未来を。
「我は、今の我で在る。闘いも、業も、選んだ道も、全て抱えて此処に立つ。それを否定して与えられる愛など、甘くとも、我には要らぬ」
 Ankerの事が好きだ。幸せにしたい。
 守られるだけでなく、縛られるでもなく、互いに選び続ける形でそれを為したい。
 だからこそ。
 この壺の中で得られる愛は、蜚廉が真に望むものではない。それを明確に認識できた。蜚廉が幻の手を取ることはない。能力を用いて強引に消滅させることもせず、ただ横を通り過ぎる。
「甘言は要らぬ。……が、お陰で応えるべき想いを得られた。その事には、感謝しよう」
 怪異が見せる幻との出会いは、未来に向かうための通過点に過ぎない。力強く歩みながら蜚廉は告げる。
「去るがいい。我が迷いの残滓よ」
 迷いは断ち切られた。別れの言葉を受け、Ankerの幻が深い溜息を吐く。
 諦めたような気配が空気に滲んだ。その気配は急速に存在感を失い、闇へと溶けるように消えていった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

アリス・アイオライト
愛、と言うのは私にはわからない、はずなんですが
でも、なぜか現れる幻だけは予想がつきます

アリス、と名を呼ばれたら体がびくりと震える
目の前で微笑むのは、やっぱりルシウス

彼は私に手を差し出して言う
「どうしたの?まだ研究が途中だろう、研究室に戻ろう」って

その一言で理解する
これは|宿敵《今》のルシウスじゃない
優しくて、私を好きでいてくれて、ずっと傍にいてくれた、生きていた頃のルシウス

……そう、そうね
全て変わらなければよかったのにと思う時もある
でも、もう私は知ってる
変わらないでいられたのは、ルシウスに負担を強いていたから
本当は、変わらなければいけなかったの
だからこその別れで、だからこその今
私はもう、そこから目を背けてはいられない

……ルシウス、ごめんなさい
あなたの手は取れないわ
私が会わなくちゃいけないルシウスは、あなたじゃないの
ここで足を止めてしまったら……今のあなたを助けられなくなっちゃう

ああ、でも。幻なら最後に一言言ってもいいかしら
……今までありがとう
あなたの愛は、私を確かに生かしてくれていたのよ

●喪失の先
 傷付き歪んだ月が、赤い涙を流している。
 欲しくても得られなかった、或いは今も求め続けている、誰かからの『愛』。
 アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)にはその愛がわからない。けれど予感がするのだ。現れる幻は、きっと『彼』に違いないと。
『アリス』
 名を呼ぶ優しい声に心臓が震えた。アリスが顔を上げると、目の前で微笑むのは、やはりルシウスであった。
「……ルシウス……やっぱり、あなたなのね」
 彼はアリスを見つめ、手を差し出して朗らかに紡いだ。
『どうしたの? まだ研究が途中だろう、研究室に戻ろう』
 その一言で理解する。
(……これは|宿敵《今》のルシウスじゃない。優しくて、私を好きでいてくれて、ずっと傍にいてくれた、生きていた頃のルシウス)
 懐かしいあの頃。『大切な人』と一緒に過ごした思い出。だが、戻れないからこそ思い出なのだ。あの頃にはもう帰れない。胸が締め付けられるようだ。アリスは苦しい呼吸を静かに整える。
(……そう、そうね。全て変わらなければよかったのにと思う時もある。でも、もう私は知ってる)
 変わらないでいられたのは、ルシウスに負担を強いていたから。
 本当は、変わらなければいけなかった。だからこその別れで、だからこその今なのだ。
(私はもう、そこから目を背けてはいられない)
 現実から逃げて夢に浸っている場合ではない。過去に閉じこもったところで、今のルシウスを救えない。
 アリスはルシウスの幻をまっすぐに見つめ返す。
「……ルシウス、ごめんなさい。あなたの手は取れないわ」
『アリス? どうして……』
 ルシウスはショックを受けたように眉を寄せた。豊かな表情が、アリスの記憶を正確に再現している事実を如実に語る。甘い誘惑を振り切るように、アリスは凛と紡いだ。
「私が会わなくちゃいけないルシウスは、あなたじゃないの。ここで足を止めてしまったら……今のあなたを助けられなくなっちゃう」
 ――ああ、でも。
 幻なら最後に一言言ってもいいかしら。
 アリスは想う。それは誘惑に手を伸ばす行為ではなく、決別するための宣言だ。
 すべての言葉に心を込めて、力強く。彼女はルシウスの幻へと贈る。
「……今までありがとう。あなたの愛は、私を確かに生かしてくれていたのよ」
 アリスの心にはルシウスが生き続けている。彼が肉体を喪い簒奪者になろうとも変わらない。ルシウスの存在が、今のアリスを確かに形作っている。
『それが君の答えか。なら、進むといい。進んだ先にあるものが、君にとって最良の結末であることを祈っているよ』
 幻が進む方向を指し示した。結末を迎えた後で、また誘惑しにくるよ。ルシウスの姿を取るミメイの意思がアリスに囁いた。
「……もう来なくていいです」
 不穏な予感を抱きながらもアリスは淡々と返す。ルシウスの幻は彼らしくない妖艶な笑みを浮かべ、闇の中に霧散した。
 赤月から流れる涙は雫となり、昏い空を虚しく泳ぐ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

モコ・ブラウン
※アドリブ大盛り希望です。コメディノリでお願いします。

ん?壺見つけたと思ったら……ここどこモグ?

ふむ、シキくんとはぐれちゃったモグね
もう敵の術中にハマってると見て間違いないはずモグ

シキくんは大丈夫モグか……(探し)

お、あれはシキじゃないモグ?
お〜い、こっちモグ!

……って、モグ?
どうしたのモグ?その格好は?
今回は潜入任務じゃないから、女装はしなくていいモグよ?

(幻のシキくんに惑わされるがすんでのところで幻と気づいて踏みとどまるモコ)

……あ、危ないところだったのモグ。
恐ろしい術なのモグ……危うく戻ってこられなくなるところだったモグ。
でも、なんであんな幻が見えたのモグ……?

●はるひめの幻
 チョコをいっぱい買って、たくさん食べて。
 ホクホクな気分で古美術店へと向かったモコ・ブラウン(化けモグラ・h00344)だったが、異空間に放り込まれてしまう。
「ん? 壺見つけたと思ったら……ここどこモグ?」
 陽ともはぐれてしまった。もう敵の術中にハマっていると見て間違いない。
「シキくんは大丈夫モグか……今回の怪異、シキくんと相性が悪そうな気がするのモグ」
 以前に魔除けを贈ったけれど、効果を発揮するかは持ち主の心次第な部分もある。とにかく陽を探さなければ。
 神秘的な空間をモコは歩き回った。東西南北なんて既にわからないが、前進していると信じたい。
 霧の中を進んでいると、前方に人影が見えた。
「お、あれはシキくんじゃないモグ? お〜い、こっちモグ!」
『あ、モコさん』
 人影が歩み寄る。よく知る声……彼は確かに陽だ。しかし、彼には明確な不自然さが存在した。
「……って、モグ? どうしたのモグ? その格好は? 今回は潜入任務じゃないから、女装はしなくていいモグよ?」
 陽はフリルをふんだんにあしらったドレスを纏っている。
(それにしても本当に可愛いモグね。モグより似合うんじゃないのモグ?)
 モコはしみじみと思った。モコの視線を一身に受けながら、陽が頬を朱に染める。
『モコさん、えっと……俺、似合ってますか?』
「そんなの当然……」
 言いかけて、モグ? と首を傾げるモコ。違和感の正体に気付きハッとした。
「本物のシキくんはそんなこと言わないモグ!」
 幻だ。本物ならば恥ずかしがるだけで、似合っているかなど聞いてこない。
 偽物と見破った瞬間、幻は塵のように消え去った。
「……あ、危ないところだったのモグ。恐ろしい術なのモグ……危うく戻ってこられなくなるところだったモグ。でも、なんであんな幻が見えたのモグ……?」
 答えはモコの心の奥底に眠っているのかもしれない。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

史記守・陽
アドリブ大歓迎

望む愛を与える幻影か
俺には愛なんて一番遠い気がして全く何を見せられるのか想像つかない
でもなんとなくモコさんが一緒なら俺は大丈夫だと思う
モコさんがくれた魔除けのネクタイピンに触れながら隣にいるモコさんに…

あれ?モコさん?
傍に居たはずのモコさんの姿がない
焦って探した末に辿り着いたのは落日に赤く染まっていた公園

けれど穏やかな青空にのどかな鳥の声
何事もなかったかのような平和な光景
その中にいた人の姿に、立ち止まったまま動けなくなる

「陽、遅かったね。仕事は忙しいのかい?あまり根を詰めないようにね」

俺と同じ色の瞳、俺と同じコート
目の前には父さんがいて優しい眼差しを向けている
だから、すぐに幻影だって理解したんだ
だって、父さんはあの日この公園で殺されたんだから
生きているはずがない、此処にいるわけがない―そうか、これが敵の罠なんだね

幻だとしても会えて嬉しくなる心に蓋をして
その手を振り払おうとした

「悪い夢でも見ていたのかい?情けない顔をしているじゃないか」

近付いてきた父さんに頭を撫でられる
昔と変わらないごつごつとした暖かくて大きな手
懐かしい感触に堪えていたものが溢れ出てくる
涙は出ないけど子どものままの自分の心が必死に何かを叫んでいる気がした

「一緒に帰ろう、これからも幸せに暮らしていこうな」

差し出された手を子どもの頃のように握る

赤い夕焼けは全部嘘なんだよね
だって、父さんは理想の刑事なんだから

●父性愛の檻
 件の古美術店に足を踏み入れ、その壺を目にした瞬間。
 視界を埋めるように並んでいた骨董品は消え、代わりに異空の闇が広がった。望む愛を与える幻影とやらを見せるために、怪異が領域へと招いたのだ。
 一体何を見せられるのか、|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)には全く想像がつかない。
(俺には愛なんて、一番遠い気がする……)
 予想できない事象は不安を感じさせる。だが、陽には大丈夫だと思える理由があった。
(モコさんが一緒なら、俺は強く在れる)
 彼女を守りたい。傷付く所なんて見たくない。「このくらい平気モグよ」と、彼女なら涼しい顔で笑うかもしれないけれど。
 彼女がくれた魔除けのネクタイピンに触れる。想いが篭もった贈り物は、ほんのりと熱を持っていた。そのぬくもりに安堵しながら、隣にいる彼女へと視線を送ろうとして――居ないことに気付く。
「あれ? モコさん?」
 陽の心が頼りなく揺れる。傍に居たはずのモコの姿がない。
(まさか怪異の力で引き離された?)
 焦燥に駆られた陽は走り出した。ネクタイピンに嵌められた魔法石が、さらに熱を帯びる。
 薄闇と鏡面の大地が続くだけだった空間に光が差した。光の先にモコがいるかもしれない。希望を胸に陽はその場所へと向かう。
「ここは……」
 辿り着き、困惑した。そこは公園であった。忘れもしない――父が死んだあの日、落日に赤く染まっていた場所。しかし、今の公園はあの日とは違う様相を呈していた。
 穏やかな青空にのどかな鳥の声。何事もなかったかのような平和な光景だ。
 子どもたちの笑い声が聞こえる。声を辿ったその先、佇む人の姿に陽は動けなくなった。
「……父さん……」
 思わず言葉が零れ落ちる。
 陽と同じ色の瞳、陽と同じコート。目の前には父がいて優しい眼差しを向けていた。
『陽、遅かったね。仕事は忙しいのかい? あまり根を詰めないようにね』
 陽は即座に理解する。目の前にいる父は、怪異が生み出した幻影だ。
 なぜなら陽は知っている。あの日、この公園で、父は宿敵に殺されたのだから。
(生きているはずがない、此処にいるわけがない――そうか、これが敵の罠なんだね)
 理性は今の状況を思考する。
 一方で、冷静な脳裏から滲み出る感情は喜びに満ちていた。
 ――たとえ幻だとしても、会えて嬉しい。
(……誘惑されてる。これが、俺が求めていた愛……)
 厳しさの裏にある優しさ。子への信頼と期待。いくら望んでも、陽には一生手に入れることができない、亡き父からの愛。
 父の幻は陽へと歩み寄る。所作も、歩幅も、すべて本物の父と同じだ。
(っ……これ以上考えちゃ駄目だ)
 心に蓋をしようとする陽に、父の手が伸ばされた。優しい手のひらが、柔らかに頭を撫でる。
『悪い夢でも見ていたのかい? 情けない顔をしているじゃないか』
 昔と変わらない、ごつごつとした暖かくて大きな手だ。
 ……振り払えるはずがない。陽の記憶から再現された父は、陽の父そのものであるかのように振る舞った。それが陽を侵す。懐かしさに蝕まれる。
『陽……立派な刑事になったね。これからも一緒に頑張ろう』
 陽の心から堪えていたものが溢れ出た。涙の代わりに、子どものままの陽の心が必死に何かを叫んでいる。
 大好きな父に認められたかった。立派になったと、誇らしげに笑ってほしかった。
(こんなの、抗えない……)
 差し出された手を子どもの頃のように握る。
 父は陽の手を包み込んだ。もう二度と離さないとでも言うように、力強く。
「一緒に帰ろう、これからも幸せに暮らしていこうな」
 幻と現実の区別が付かなくなる。だが、その程度のことだ。今の陽にはどうでもよい。
「……うん、帰るよ」
 愛しくも懐かしいあの頃に。
(……赤い夕焼けは全部嘘なんだよね。だって、父さんは理想の刑事なんだから)
 父さんは死んでなんかいない。記憶の中に生きるだけの存在を、現実のそれと誤認する。ネクタイピンに嵌められた魔法石が、熱を失った。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

汀羽・白露
【白華】

人間というものは面倒な生き物だ
想いに囚われ、言葉に惑わされ…自分の心にすら振り回されて…
とはいえ、心を覗き込むという無機物だったころには無縁のアプローチは興味深い

かやの手は離さず
例えそのぬくもりが感じられずとも、必ずこの手の裡にあるのだと信じて

今も求め続けている愛…勿論、かやからのそれしかあるまい
とはいえ、“積極的に愛をくれる”かやが出てくる時点で紛い物に過ぎない

かやの愛は素直なようで複雑だ
俺を好いてくれているのは確かだが、ストレートに表には出さない
敢えて俺をそういった意味で愛さないようにしている節すらある
欲しがって欲しがって、それでも得られなかった過去があるから

どんなに似せてこようとも本物には遠く及ばない
俺がどれだけかやを見守ってきたと思っているんだ
それに――俺の中でイメージするかやより、実物の方が何倍も愛らしいに決まっている
故に、俺の心を|読んでいる《・・・・・》時点で、お前はかやにはなれない
読者はあくまでも読者――登場人物自身にはなれないようにな

幾ら手を伸ばされようとも、あると信じるぬくもりを握り続ける
それが、俺のかやへの愛の証明だ
――本人の前では言わないがな

っ痛…!(噛まれた
かや…!?急になん――…うぐっ…(頭突きされた
一瞬で本物だと悟り、珍しく破顔してしまう
…悪かった。もう大丈夫だ
頭を撫で、ゆっくり解いた手で抱きしめ
そのぬくもりも、噛まれた軽い痛みでさえも愛おしい
御埜森・華夜
【白華】
“欲しかった愛”かぁ…

まぁ。——無くは、無かったよ?
別に、ほんと
けど、ほんとにそうなのかなって言ったら俺はきっと“いらない”って言えちゃう

ぼんやりと鏡に映りそうな何かが女や男や何か取ろうとしてはどうしても形にならなくて
チョコレートみたいに溶けてはまた映ろうとする
愛されたかった親の顔なんて思い出してやりたいけど出てきやしない
見れば分かるし会えば分かるはずなのに。ウケる
だって親に寂しかった俺は、もう死んだし。残念、壺ちゃん
嫌よ嫌よも好きのうち、なんて馬鹿みたいな話で、俺は好きの反対は無関心って王道タイプなのかも。なーんちゃって

…白ちゃん
……白ちゃん?
手をぎゅっと握られて見上げれば、目の前の何かを見てる白ちゃん
ねぇ、と袖を引いてもこっちを見ない
ねぇ、と呼んでも何も言わない
むぅ…
何か、かやはそんなんじゃ無いとか言ってるけど何見てんのさ
むぅ…これが浮気ってやつか
なるほどね?
ほーん?
何かめっちゃムカついて白ちゃん抱きしめてもこっちを見やしない
おこですよ俺は

白ちゃんの手を俺の頬に当てて、冷たい手を温めてもダメで
なんだか視界の端の鏡に白ちゃん映った気がするけど、後ろから触れられて擽ったいような気もするけど、無視して
だって、俺が欲しいのも俺のも一個だもん
悔しいから—…

白露の指先をカプリと甘噛み
こっちを見たら何だか嬉しくて
手が届かないからと広い胸板に頭突きしとく
へへーん俺無視するからだもんね!

●すぐそばにある
 人間の心は複雑だ。熱い泥の如き情念が入り組んだ路を形づくり、抜け出せない迷宮を造り出す。そうして自ら創造したその場所から抜け出せなくなるのだ。
 |人ならざる者《洋書の付喪神》――|汀羽《みぎわ》・|白露《はくろ》(きみだけの御伽噺・h05354)は、人の複雑さを想う。
(人間というものは面倒な生き物だ。想いに囚われ、言葉に惑わされ……自分の心にすら振り回されて……)
 とはいえ、心を覗き込むという無機物だった頃には無縁のアプローチは興味深い。人のかたちを得た今ならば、怪異の誘惑とやらが如何なものか体験できよう。
 古美術店に足を踏み入れる。とある壺を目にした瞬間、景色が揺らいだ。夜の帳が下りるように広がる異空間を|御埜森・華夜《みのもり・はるや》(雲海を歩む影・h02371)は見渡す。
(“欲しかった愛”かぁ……まぁ。——無くは、無かったよ?)
 無かったわけではない。けれど、結局その程度だ。あの時の執着はすっかり冷めきっている。本当にそうなのかと問うたところで意味がないのだ。今更お出しされたところで、きっと“いらない”と言えてしまう。
 歪んだ月の下を二人は手を繋ぎ進む。進むうち、鏡面の景色が歪んだ。
 白露は繋いだ華夜の手を固く握り直す。例えそのぬくもりが感じられずとも、必ずこの手の裡にあるのだと信じられるように。
「かや、そろそろだ」
 幻が現れる予感に白露が紡ぐ。華夜も白露の手をぎゅっと握り返した。
「うん、大丈夫」
 頭の裏側を覗き込まれるような感覚と同時、歪む空間から泥のようなモノが溢れ出す。華夜は現れた幻を瞳に映した。ぼんやりと鏡に映りそうな何かが、女の形を取ったかと思えばドロリと男の形に変わる。
 しかし、幻の形は安定しない。再び変形し、今度は女なのか男なのか判別できない姿に成り果てる。どうしても形にならないのだ。チョコレートみたいに溶けては、また映ろうとする。
(……へぇ、そうなっちゃうんだ)
 出来損ないのような姿に、華夜は乾いた笑みを滲ませた。
 一方で、白露も華夜とは別の幻と対峙している。己が誰の幻を見るのか、白露には予想が付いていた。
(今も求め続けている愛……勿論、かやからのそれしかあるまい)
 鏡面から浮き上がる影は、予想通り華夜の姿を作り出す。華夜の幻は白露を見つめ、花開くように満面の笑みを浮かべた。
『白ちゃん、愛してるよ』
 蕩けたチョコレートのように甘い声で名を呼んでくる。
「……はぁ……」
 白露は溜息を吐き出した。解釈違いだ。“積極的に愛をくれる”かやが出てくる時点で紛い物に過ぎない。
 華夜の愛は素直なようで複雑だ。白露を好いてくれているのは確かだが、ストレートに表には出さない。
(……敢えて俺をそういった意味で愛さないようにしている節すらある。欲しがって欲しがって、それでも得られなかった過去があるから)
 必死に求め焦がれた。だが、手に入ることはなかった。そこにあるのは諦めか、得られぬ結果への恐怖か、それとも。
 華夜は形の定まらない幻を見つめている。ずっと見ているけれど、幻は溶けたチョコのままだ。
 愛されたかった親の顔なんて、思い出してやりたいけど出てきやしない。怪異も元から無いものを再現することはできないようだ。
(見れば分かるし会えば分かるはずなのに。ウケる)
 親に寂しかった華夜はとうに死んだ。熱を失った骸から得られる情念などあるものか。滑稽な話だ。心にぽっかり開いた穴を華夜は嗤う。
(嫌よ嫌よも好きのうち、なんて馬鹿みたいな話で、俺は好きの反対は無関心って王道タイプなのかも。なーんちゃって)
 どうにか形を整えようとする幻も、いずれ諦めて消え去るだろう。
 ……形を整えたところで、本来の目的を全く果たせていない幻もいる。
 華夜の幻からどんなにラブコールを受けようと、白露は一切揺るがない。どんなに似せてこようとも本物には遠く及ばない。
(俺がどれだけかやを見守ってきたと思っているんだ。それに――俺の中でイメージするかやより、実物の方が何倍も愛らしいに決まっている)
 華夜を幻として見せてきた時点で結果は決まっているのだ。
「俺の心を|読んでいる《・・・・・》時点で、お前はかやにはなれない。読者はあくまでも読者――登場人物自身にはなれないようにな」
 華夜の幻は笑顔を浮かべ、白露の頬へと手を伸ばす。
 偽物の手に白露が触れることはない。彼の手は本物の華夜の手を握り続けている。幾ら偽物から手を伸ばされようとも、あると信じるぬくもりを包み込む。
 それが愛の証明だ。白露から華夜へと捧げる確かな熱なのだ。――無論、本人の前では言わないが。
 何かが崩れる音が響く。隣の幻――華夜が見ていたソレが壊れたのだ。
「うまいことカタチを作れなかったね。残念、壺ちゃん」
 崩れ落ちた泥から目を逸らし、華夜は隣の白露に視線を送る。
「白ちゃん。終わったよー」
 白露からの反応はない。華夜は首を傾げた。いつもならすぐ反応してくれるのに。
「……白ちゃん? ねぇ、聞いてる?」
 痛くはないけれど、元々繋いでいる手がいっそう強く握られる。見上げれば、白露は目の前の何かをじっと見続けていた。
 ねぇ、と袖を引いてみる。白露は華夜を見ない。ねぇ、ともう一度呼んでみる。白露は何も返さない。
 ひたすらに本物を無視して、目の前の何かに、「かやはそんなんじゃ無い」と文句を言っている。一体何を見ているのか。何をやっても無反応な白露に、華夜はむぅと頬を膨らませた。
「むぅ……これが浮気ってやつか。なるほどね? ほーん? 何かめっちゃムカついてきた……」
 腹の底から沸々と苛立ちが湧いてくる。渦巻く不快感を発散するように、動かない白露へと横から抱きついた。強く抱きしめてみても、白露は前を向いたまま華夜を見やしない。華夜は膨らんだ頬に加え、眉をぎゅっと寄せる。
 白露の手を持ち上げて、自分の頬に当ててみた。冷たい手を温めるが、やっぱりダメだ。……実際のところ、白露は本物の華夜一筋なのだが、他から見れば幻に夢中なっているようにも見えてしまうわけで。
 華夜はおこモードだ。華夜の感情から読み取ったのか、一度は崩れた幻が白露の形を取り始める。しかし、華夜にとってはどうでもいいことだ。体に触れる擽ったさをまるっと無視する。
(だって、俺が欲しいのも俺のも一個だもん)
 幻ごときに取られるなんて、悔しいから。掴んだ手を口元に運んで――。
 カプリッ。
「っ痛……!」
 指に走る痛みにビクリとする白露。反射的に痛む指を見れば、華夜が指先を甘噛みしていた。
 華夜の瞳が白露を見上げ、満足げに細められる。
「かや……!? 急になん――……」
「えいっ!」
 こっちを見てくれた。嬉しい気持ちに突き動かされ、華夜は白露の胸板に飛び込んだ。
 まるで人懐こい白ヤギのように頭突きを喰らわせる。それは彼の愛情表現だ。
「うぐっ……」
 白露は衝撃に呻きながら華夜の頭突きを受け止めた。目を合わせると、くすくすと華夜が楽しげに笑った。
(この感じ……あぁ、本物だ)
 すぐに本物だと悟り、珍しく破顔してしまう。
 そんな白露の表情を華夜はまっすぐ見つめた。記憶に刻み、絶対に忘れないように。
「へへーん俺無視するからだもんね!」
 してやったり! と得意げな華夜の表情に、白露は心の柔らかいところを掴まれる。愛しさが込み上げた。表面上は笑顔だが、今の状況に至るまで華夜は様々なことを考えたに違いない。
 白露は華夜の頭に手を伸ばし、ふわふわと優しく撫でる。
「……悪かった。もう大丈夫だ」
 撫でる手をするりと下ろし、華夜の背に回した。そっと抱き寄せれば、直に感じるぬくもりに冷たい体が熱を帯びる。そのぬくもりも、噛まれた軽い痛みでさえも愛おしい。
 白露に包まれながら華夜は安堵する。よかったと小さく呟いて、彼は白露をより感じられるように瞳を閉じた。
 気が付けば、二人が見ていた幻は完全に消え失せていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『壺中天への誘い手・ミメイ』


POW ほら、素敵でしょう?
【壺から、えもいわれぬ芳醇な香り】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【壺中天へと誘う声】に対する抵抗力を10分の1にする。
SPD さぁ、こっちよ
移動せず3秒詠唱する毎に、1回攻撃or反射or目潰しor物品修理して消える【壺中天へと誘う灯火】をひとつ創造する。移動すると、現在召喚中の[壺中天へと誘う灯火]は全て消える。
WIZ もう、逃がさない
【壺中天へと誘う声】による牽制、【どこまでも伸びる紅い髪】による捕縛、【壺の中へ吸い込む】による強撃の連続攻撃を与える。
イラスト 桐生
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 壺中天へと誘う幻影を越え、√能力者たちは異空間を進む。
 同じ景色がひたすら続いていた空間の中に、突如として現れたのは石造りの宮殿だ。
 宮殿の中から芳醇な香りが漂った。誘うような香りに、彼らは即座に理解する。
 この中に、『壺中天への誘い手・ミメイ』がいる――。
 彼らは宮殿へと足を踏み入れた。幾何学模様の壁面が特徴的な廊下を抜け、中庭へと出る。水盤に囲まれた花園では花々が鮮やかに咲き誇っていた。その中心に、紅い髪の女性が座っている。
「……ようこそ、いらっしゃい」
 ミメイはゆったりと立ち上がった。腕に抱えた壺を彼女は愛おしげに撫でる。
「幻で誘うのも難しいわね。結局、ひとりだけしか呑めなかったの」
 大切にしまっておかないとね、と小さく囁いて。
 彼女は訪れた√能力者たちを見つめる。
「折角来てくださったのですもの。今一度、皆様を壺中天にお誘いしましょう」
 ミメイは妖艶に微笑んだ。
 彼女はまだ、√能力者たちを壺の中へ取り込むことを諦めていない。
屍累・廻
【幸廻】
生憎、幻には興味がありませんので
素敵なお誘いには感謝します。ではこちらも、相応しい振る舞いをしなければいけませんね

あくまで礼儀正しく
紳士的な振る舞いを敢えてしてみせてから、パンドラの匣を片手に√‬能力使用

そちらの壺より、禁忌の匣の方が居心地良いかもしれませんよ
最も、幸せとは程遠いかもしれませんが

防御するための怪異も召喚
翠咲さんと自分の防衛を指示しつつ、禁忌を解き放つ
贋作を作り出した罪は重いとばかりに、敵意を込めて

…貴女には、お礼をしなければと思っていたんです
|偽りの桜《・・・・》を咲かせた…その罪に対しての、ですが

静かな怒りは怪異を強化する
全ての災いを壺中天へと向ける
白石・翠咲
……何度言われようと、貴女の誘いに乗るつもりはありません。
不幸な人を出さないためにも、排除させていただきます。

くっ……香が壺から……(流石にクラっと来て)
それなら……!

【霊的防護】の結界を屍累さん含め周囲に張り巡らして、【涅槃の花】に融合を命令、広範囲に咲いてもらって、彼女の行動力を削ぎ、壺に蓋をしてもらいましょう。(【範囲攻撃】発動)

あと、ほんの少しですが、彼女の生命力も奪ってきてください(【生命力吸収】)

僕にできるのは足止めくらい……
今のうちに、屍累さんは……お願いします。

●花園に降る災い
 ミメイの言葉は蜜に浸した果実のように甘い。しかし如何に甘くとも、|白石・翠咲《しらいし・すいしょう》(花を撒く者・h02856)が首を縦に振ることはない。
「……何度言われようと、貴女の誘いに乗るつもりはありません。不幸な人を出さないためにも、排除させていただきます」
 断固として拒絶する。|屍累・廻《シルイ・メグル》(全てを見通す眼・h06317)も同じだ。
「生憎、幻には興味がありませんので。素敵なお誘いには感謝します。ではこちらも、相応しい振る舞いをしなければいけませんね」
 拒まれている。その事実を一切気にせず、ミメイは壺から、えもいわれぬ芳醇な香りを放った。
「ふふ、遠慮なさらないで……ほら、素敵でしょう?」
 壺中天への誘いは美酒のように香る。思考を揺さぶる香りに翠咲は必死に抗った。唇をぎゅっと噛み締め、痛みを感じることで意識を保つ。
「くっ……香が壺から……それなら……!」
  フヨフヨと漂う|インビジブル《キミのおともだち》の力を借り、霊的防護の結界を張り巡らせた。依然として漂うミメイの力は世界の歪みで受け止めて、別の空間へと弾き飛ばす。
 香りが薄まる瞬間を狙い、翠咲は|涅槃の花《ネハンノハナ》を発動した。
「涅槃の花々よ、どうか咲き乱れて……!」
 護霊「涅槃の花々」を異空間に招き入れる。支配領域を侵食するように睡蓮が花開き、水盤を辿りミメイへと迫った。太くしなやかな茎が伸びて、彼女へと絡み付く。
 壺まで到達した花は、香りを塞ぐように壺を覆った。ミメイは自分の体を縛る花に優しく触れる。
「美しい花ね。もっとも、美しいだけではないようだけど」
 極楽の花々はミメイからエネルギーを吸い上げる。吸収した生命力を以て、さらに艶やかに美しく咲き誇った。
「はい。その花は、あなたの生命力を養分にして育つのです」
 翠咲は静かに言葉を返した。表向きは冷静さを保ちつつ、背を緊張の汗が伝う。
(僕にできるのは足止めくらい……それも長くはもたないでしょう)
 どうしても決定打に欠けてしまう。だが、翠咲は独りで戦っているのではない。屍累さんならきっと何とかしてくれると翠咲は信じていた。
「今のうちに、屍累さん……お願いします」
 翠咲の呼びかけに廻は深く頷いてみせる。
 花々に縛られたミメイを視界の中心に捉え、恭しくお辞儀をした。あくまで礼儀正しく、紳士的に――|淑女《レディ》に宝石箱の中を見せるように、手のひらにのせたパンドラの匣を開く。
「パンドラの匣は開かれました。御覧に入れましょう――|仄聞ノ終《ソクブンノオワリ》を」
 魅せるのは金銀財宝ではなく、悍ましい禁忌の世界。白い手が幾重にも伸ばされ、ミメイの腕や脚を掴んだ。軋む痛みにミメイは僅かに眉を寄せた。
「あら、強引な殿方ね……」
 呟く彼女に廻は薄く笑う。
「申し訳ありません。怪異達は、少々空気が読めないものでして」
 花で閉じた壺が再び開くかもしれない。廻は巨大な目玉の怪異に命じる。
「彼女をよく視ていてください。私と翠咲さんに悪さをしないように」
 ミメイを見つめる廻の瞳は敵意に満ちていた。贋作を作り出した罪は、それほどまでに重いのだ。
「そちらの壺より、禁忌の匣の方が居心地良いかもしれませんよ。最も、幸せとは程遠いかもしれませんが」
「それがあなたの気持ちなのね?」
 ミメイが問う。
 彼女の問いに廻は答えた。水面下に静かな怒りを忍ばせて、ゆったりと。
「……貴女には、お礼をしなければと思っていたんです。|偽りの桜《・・・・》を咲かせた……その罪に対しての、ですが」
 感謝の気持ちを見せよう。テーブルにのった美酒も果実も、すべてをひっくり返してしまおう。
 静寂に潜む怒りは、召喚した怪異へと赤黒い呪詛を纏わせた。凶暴性をより増したカシマレイコが、目を血走らせながらミメイへと襲い掛かる。殺意に満ちた強撃が、ミメイの体を激しく打った。
 涅槃の花に閉ざされた壺中天へと、全ての災いが降り注ぐ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

ヨシュア・ヴァルトシュタイン
おれも精神干渉が得意技でさ
誘う側は誘われるのに強いんだよね
御生憎だけど、消えてもらうよ

この世に影のないところはない
足許の些細な暗がり
花が落とす小さい影
全部おれの味方だ
伸びて来る髪を影で引き千切って
破壊した瓦礫を武器にする

おれの権能があんたを苛むだろう
ほら、後生大事に抱えてる壺
本当にあんたのものだった?

おれに権能使わせたんだ
対価は支払ってもらうから
泣いて喚いて懺悔してみせろよ
それとも――自分がそうされる側になるなんて思ってもなかった?

同業者に取り込まれるなんてお断り
おれは善人のことは食い物にしないって決めてるけど
あんたみたいな悪人からは、幾ら搾り取っても罪悪感もない
その壺、心ごと叩き割ってやる

●問いかけ
 艶やかな囁きも、壺から漂う甘い香りも、ヨシュア・ヴァルトシュタイン(「森の石」・h09600)にとっては取るに足らないものだ。
「おれも精神干渉が得意技でさ、誘う側は誘われるのに強いんだよね」
 同業者に取り込まれるなんてお断りだ。
「ふぅん……あなたも私の同類なの?」
 ミメイが問う。声から感じ取れる興味を、ヨシュアは手で払うような所作をした。
「同業者ではあるけど同類ではないだろう。御生憎だけど、消えてもらうよ」
 汝、祝福に能わず。厳粛な言葉が喚び起こすのは|罰《ポエナ》の化身だ。
 この世に影のないところはない。宮殿の柱の影、庭園の花々が落とす影、水盤に揺らぐ影。足許の些細な暗がり全部がヨシュアの味方だ。
 僅かな暗闇から自在に伸びる昏い影に、ミメイが微笑む。
「同業者として、お手並みを見せていただきたいわ」
 逃がさない。妖艶な囁きと共に紅い髪がヨシュアへと伸ばされた。
「おれの言葉が欲しいって? いいよ、くれてやる」
 迫る髪を影が掴み引き千切る。別の影が宮殿の柱を折り棍棒代わりにした。そのまま振るい、ミメイへと叩きつける。宿る権能はパラノイア。幻と猜疑を齎す闇の暴き手である。
「ほら、後生大事に抱えてる壺。本当にあんたのものだった?」
 ヒトの情念を呑んで生まれたソレの正体は?
 問いが思考を揺らした。壺を抱えるミメイの腕に、ぐっと力がこもる。
「……ええ、私のものよ?」
 言い聞かせるような疑問形は、権能が効いていることを意味していた。
「おれに権能使わせたんだ。対価は支払ってもらうから。泣いて喚いて懺悔してみせろよ。それとも――自分がそうされる側になるなんて思ってもなかった?」
 罰がミメイを追い詰める。
 善人は食い物にしない――それはヨシュアの主義であるが、ミメイは該当しない。
「あんたみたいな悪人からは、幾ら搾り取っても罪悪感もない。その壺、心ごと叩き割ってやる」
 教会の悪魔に慈悲はない。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

静寂・恭兵
アドリブ歓迎

あんな幻程度で俺を壺の中に誘えると思ったのが大間違いだな。
俺がああいうものに耐性があるのも強いだろうとは思うが…大事なものほど違いがわかるってものだろう?

|White camellia《白椿》に込められたありったけの【幸運】を見に纏い。

√能力『花天月地』
怪異の庭を別の花が書き換え咲き乱れる美しい光景。
怪異に近寄る必要すらない。
|曼荼羅《まんだら》による【居合】の一撃で終わらせる

●誓いを力に変えて
 やはりというべきか。宮殿の中庭に現れた|壺の怪異《ミメイ》は、|静寂・恭兵《しじま・きょうへい》(花守り・h00274)が想う白椿とは全く違う存在であった。
「あんな幻程度で、俺を壺の中に誘えると思ったのが大間違いだな。大事なものほど違いがわかるってものだろう?」
 これまで数多くの怪異を斬ってきた。その中には当然、幻影で惑わす敵もいた。
 すっかり耐性が付いてしまって、仮に100人の白椿が出てきたとしても動揺しない自信がある。
「あの時は酷く振られてしまったけれど……私、諦めが悪いの」
 ミメイは紅い髪を伸ばし、恭兵を強引に壺の中へ吸い込もうとする。
「強引過ぎると嫌われるぞ」
 素っ気なく告げながら、恭兵は一輪の花を手に取った。|White camellia《白椿》――霊的防護力を備えた対霊障・対精神汚染装具だ。白椿に込められたありったけの幸運を身に纏い、彼は愛しい彼の花を想う。
「『|俺の花《白椿》』に誓って」
 花に捧げし誓いは、歪な月が支配する天空へと届いた。赤黒い月が純白に染まる。
 光の変化にミメイが空を見上げた。天満月が皓々と夜を照らしている。
「綺麗だろう?」
 恭兵は己を襲う紅い髪を|曼荼羅《まんだら》で切り落とした。落とされた髪が庭園に散る。庭に咲く花は|花天月地《カテンゲッチ》によって、別の花へと書き換えられていた。
「……まるで雪のように白い花……」
 穢れなき百花が咲き乱れる。美しい光景に見惚れるミメイに、恭兵は淡々と紡いだ。
「よく見ておくといい。すぐに見られなくなるだろうからな」
 曼荼羅を一瞬で抜き放つ。生み出された剣閃が隼のように飛んだ。隼は幸運の光を纏う。真白の花畑を真っ直ぐに抜けて、目指すは情念に塗れた壺の怪異。怪異に近寄る必要すらない。花天月地の織り成す空間が、恭兵を物語の主人公とする。
「――仕留めろ」
 魂まで到達する斬撃が、ミメイの体を容赦なく斬り裂いた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

和田・辰巳
【琴瑟】アドリブ・アレンジ歓迎
あの壺は買えなさそうだね……仕方ない、叩き壊そう。援護お願いできる?
それじゃあよろしく!

榴には指一本触れさせないよ!

視線を集めるのも役目の一つだ。大丈夫なんて言ってるけど心配だからね
ヘイトを集めて攻撃を引き受けよう
結界札を発動させ、榴と自分への悪影響を軽減
誘う声には返事をせず、海淵流で深海にゲートを繋げて壺に吸わせる。容量がどれだけあっても吸う量には限界があるんじゃない?地球の海は吸いきれないでしょ
サモンカードの自販機と電信柱を飛ばして吸わせながら接近
髪の毛は火雷で焼きつつ、霊剣で叩き切る

霊剣の間合いまで迫ったら、海割りの一撃を叩き込む
僕たちだって、逃がさないよ!
四之宮・榴
【琴瑟】アドリブ・アレンジ歓迎

心情
…厭、要らないでしょ…壺は…っ…
…破壊に対しては、賛同…致しますから…十分な援護を…お任せ下さい。

…な、なんで…僕が…出てくるんですか!?
…僕だって…大丈夫、ですから。

…動かず、余所見をされて居ると…僕の毒は…しつこい、です、よ?

行動
√能力で、相手の動きを複合毒(|神経毒《麻痺》や腐食によるスリップダメージ)で相手の体力を削るのと特定の場所に居る事を難しくします。
僕を狙った攻撃は、ファイアースターターの炎や、深海の捕食者を使って受け流しやジャストガードを。
支援としてタロットの投擲で攻撃をして生命力吸収も忘れずに。
それでも喰らうダメージは、インビジブル融合で。

●双撃
 異国情緒溢れる宮殿の内部にて、中庭に佇むミメイと彼らは対峙する。
 |和田・辰巳《わだ・たつみ》(ただの人間・h02649)はミメイが抱える壺をじっと観察した。
「あの壺は買えなさそうだね……」
「……厭、要らないでしょ……壺は……っ……」
 残念そうな辰巳に、|四之宮・榴《シノミヤ・ザクロ》(虚ろな繭〈|Frei Kokon《ファリィ ココーン》〉・h01965)がツッコミを入れる。辰巳は軽く息をつき、思考を切り替えた。
「仕方ない、叩き壊そう。援護お願いできる?」
 変わる辰巳の空気に、榴はそれ以上突っ込むのを止める。
「……破壊に対しては、賛同……致しますから……十分な援護を……お任せ下さい」
 漆黒のファイヤースターターを構え、榴も臨戦態勢だ。
「それじゃあよろしく!」
 辰巳はニコリと榴に微笑んだ後、ミメイを鋭く見据える。
「榴には指一本触れさせないよ!」
 榴は頬を赤らめた。これから戦闘だというのに恥ずかしさが込み上げる。
「……な、なんで……僕が……出てくるんですか!? ……僕だって……大丈夫、ですから」
「視線を集めるのも役目の一つだ。そっちの方が榴も戦いやすいでしょ?」
 心配だからという理由もある。大切な半身を気に掛けるのは当たり前だ。
「綿津見神に請い願う。友の為、戦う力を御貸しください」
 辰巳は|招来:綿津見神《ショウライ・ワタツミノカミ》を発動し、自身の身体能力を引き上げる。
 駿馬をも凌ぐ速度で駆ける辰巳をミメイの髪が追った。
「逃がさないわ」
 ヘイトを集められたならばこっちのものだ。迫る髪を火雷で焼き、勢いが緩んだ所を霊剣で叩き切った。
 結界札を展開しつつ、海淵流を開いて深海にゲートを繋げる。誘う声には返事をせず、代わりに海水を壺に呑ませた。
「容量がどれだけあっても吸う量には限界があるんじゃない? 地球の海は吸いきれないでしょ」
 海水だけでは飽き足らず、サモンカードデッキから自販機と電信柱を召喚。飛ばして追加で吸わせた。
「……もう少し、|壺《私》の容量を拡げた方が良さそうね……」
 ミメイは辰巳に引き付けられている。一方で、榴はその状況に甘え続けるつもりはなかった。
(……負担を、掛け過ぎたくは、ない、ですから……)
 |変毒為薬《ヘンドクイヤク》を発動し、毒属性の弾丸を射出する。
「……動かず、余所見をされて居ると……僕の毒は……しつこい、です、よ?」
 弾丸はミメイの足元に着弾し、複合毒の霧を展開。|神経毒《麻痺》や腐食によって継続的な浸蝕を齎す。
 壺中天へと誘う灯火を創造するミメイだったが、毒霧に包まれて咳き込んだ。
「灯火を、消したくないでしょうけど……留まり続けるのは、つらい、ですよね?」
「……どうしても私を歩かせたいのね」
 ミメイが灯火を放つ。揺れる火は榴を壺中天に誘おうとするが、榴の意思は揺るがない。ファイヤースターターから発した炎で灯火を打ち消す。
「その誘いには、乗りません」
 加えて深海の捕食者を影から呼び、灯火を喰わせた。投擲された美麗なタロットが、ミメイの生命力を奪う。やむを得ないとばかりにミメイは霧から抜け出した。
 全ての灯火が消える瞬間を見計らい、榴は属性の弾丸を辰巳へと放つ。
「辰巳、こちらを」
 毒を変えて薬と為す。|投薬《ドーピング》が辰巳の戦闘力を強化した。漲る力に辰巳は瞳を輝かせる。
「うん! 榴の薬で元気が湧いてきた!」
 愛しい半身からの支援だ。力だけでなく心も満たされる。
 若干の照れを感じつつも、榴はすぐに表情を引き締めた。敵を倒すまで隙は絶対に見せない。
「い、今のうちに、決めてしまって、ください……」
 榴の言葉に辰巳は力強く頷いてみせた。紅い髪の攻撃を越えて、霊剣の間合いまで肉薄する。浄化の霊気が激しく渦巻いた。穢れを祓う神力を纏う刃が、異空の闇を裂く。
「僕たちだって、逃がさないよ!」
 海割りの一撃がミメイへと振り下ろされた。轟音と衝撃がミメイの創り出した世界を揺らす。
 彼女が抱える壺にピシリと大きな亀裂が入った。辰巳と榴の攻めは、ミメイの力を鋭く削り続ける。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
甘すぎる匂いだな…だが、惑わされる我ではない。

穢語帳を展開。
我は蟲。
穢れと呼ばれ、踏み潰され、闇に潜み生き延びた存在だ。

それでも、選ばれた。

外骨格を纏い、拳を振るい、
汚名に塗れながらも歩みを止めなかった道の先で、出会ったのだ。

赤い糸を結んだ指。
不器用に笑った声。
並んで歩いた祭りの灯。

我は選ぼう。

守られる為でなく、
縛る為でもない。

並び立つ道を。

壺の内の情念を、我が決意で上書きしよう。

この想いに、抗えるのなら抗ってみるがいい。

貴様の囁きは届かぬ。
貴様の髪も、呪いも、誘惑も。
その意思を削がせて貰う。

必中となった空間を利用し、決意の拳と蹴りを叩き込む。

我が欲するのは、楽園では無い。
共に生きる幸せだ。

●誓い
 中庭は正常な思考を麻痺させる香りに満ちている。しかし、その甘すぎる香りに|和紋・蜚廉《わもん・はいれん》(現世の遺骸・h07277)が惑わされることはない。
「殻に刻まれし聲よ、影となりて現れろ。我が語り、いま帳を下ろす」
 嗅覚を刺激する濃厚な匂いに構わず、|穢語帳《エゴチョウ》を語った。穢語「殻に眠りし聲と影」がカタチとなり生まれる空間――それは敵の意思を希薄にする力を持つ。ミメイが壺に対象を吸い込むならば、穢語を以て彼女の心を呑んでしまえばいい。
「我は蟲。穢れと呼ばれ、踏み潰され、闇に潜み生き延びた存在だ」
 それでも、選ばれた。蜚廉は幾星霜もの時から繋がる現在を想う。
 外骨格を纏い、拳を振るい、汚名に塗れながらも歩みを止めなかった道の先で、出会ったのだ。
 赤い糸を結んだ指。
 不器用に笑った声。
 並んで歩いた祭りの灯。
 たとえ今傍に居なくとも、彼女を近くに感じている。
「我は選ぼう。守られる為でなく、縛る為でもない。並び立つ道を」
 穢語帳が生み出した空間にミメイが微笑んだ。
「その意思を崩せたのなら、なんて素敵なことでしょう」
 ミメイの髪が伸びる。迫り来る紅を蜚廉は視界に捉えた。
「壺の内の情念を、我が決意で上書きしよう。この想いに、抗えるのなら抗ってみるがいい」
 舞う髪の軌道を蜚廉は把握する。把握できてしまう程に、穢語帳は影響を及ぼしていた。髪を躱しながら、蜚廉はミメイへと肉薄する。
「貴様の囁きは届かぬ。貴様の髪も、呪いも、誘惑も。その意思を削がせて貰う」
 鍛え上げた武だけではない。愛する者への想いと決意を、振るう拳と脚に込める。
「――!」
 ミメイが身構えた。避けられないと理解しているのだろう。
(この一撃は|彼女《Anker》への誓いだ)
 怪異だろうと、神であろうと、蜚廉の心は崩せない。
「我が欲するのは、楽園では無い。共に生きる幸せだ」
 繰り出された揺るぎない打撃が、ミメイの体と魂に深い罅を入れてゆく。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

アリス・アイオライト
それが呪いの壺ですか
私はそんなものに囚われるつもりはありませんよ

先程の幻惑の中で、彼とも約束しましたから
私は、進まなくてはいけないんです

魔法宝石を砕いて能力発動
雪の魔法の回数を重ねて、ミメイの動きを封じます
本体はそちらの壺なのでしょう、ならばその壺を割ることを狙いましょう
様々な方向から攻撃を仕掛けて隙を狙います


というか、狭い壺の中で得られる愛に意味ってあるんでしょうか……?
両親を見て育ったので、共に支え合うような姿が理想と思っているのですが
ひと時の夢であればいいのかもしれませんけど、現実的ではないですよね
……いえ、それを言ったら私は人を支えられるほどのものが何もないんですけど!

●越冬
 美しい宮殿と庭園の花々は、ミメイの誘いをいっそう魅力的なものに見せる。
 だが、結局はただの舞台演出に過ぎない。アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)はミメイを拒絶する。
「それが呪いの壺ですか。私はそんなものに囚われるつもりはありませんよ」
「あなたは……ふふ、可哀想なお嬢さん」
 まるで挑発だ。どうあれアリスはミメイの言葉に構うつもりはない。
「先程の幻惑の中で、彼とも約束しましたから。私は、進まなくてはいけないんです」
 魔法宝石『ダイヤモンド』を砕き、|雪華《ダイヤモンドスノウ》を発動する。
「ダイヤモンドよ、冬の花で地を満たしあまねくものを白く染め上げ給え」
 宝石の破片は細氷のように煌めき、雪の魔法を生み出した。幾重にも編まれた雪華がミメイへと攻め寄せる。本体である壺に狙いを定め、幾度も氷雪を叩きつけた。
「寒いわね……壺中天なら、ずっと暖かな世界で過ごせるのよ?」
 吹雪の中でミメイは紅い髪を靡かせる。髪がアリスを捕える前に、雪華が髪を吹き飛ばした。
「その世界に浸っていては、彼を救えませんから」
 そもそも、狭い壺の中で得られる愛に意味はあるのか。
 アリスは考える。彼女の両親は共に支え合いながらアリスを育て上げた。甘い夢や綺麗事に酔うのではなく、現実と向き合いながら。アリスもそれが理想だと感じている。
(ひと時の夢であればいいのかもしれませんけど、現実的ではないですよね。……いえ、それを言ったら私は人を支えられるほどのものが何もないんですけど!)
 自分の夢のために、ひたすら魔法宝石の研究に打ち込んできた。その間ずっと彼に支えられていたのだ。
(支えられていたのは私の方。私は……ルシウスに負担を掛けてばかりだった)
 彼の想いを知った今だからこそ、過去の自分を振り返るのが辛い。
 だが、認めなければ。向き合って前に進まなければ。夢を見ている暇なんてないのだから。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

モコ・ブラウン
【モコシキ】アドリブ歓迎

『壺中天への誘い手・ミメイ』の発言について、少し考えた。
(ひとりだけしか呑めなかった、ときたモグか……)

一緒にきたはずの可愛い後輩を想い、
辿りつきたくなかった答えに思い当たってしまう。
ふう、とため息を吐き

「大切にしたいところ悪いモグけど、こっちにとっても大切な後輩なのモグよ」
「返してもらうモグ。気が立ってるんで手加減はできないモグよ」

▼戦闘
『クイックドロウ』『先制攻撃』を駆使して
最速で【電撃手錠鎖鞭】を使用。
ミメイの手足を狙って手錠を絡ませ『逃亡阻止』

相手が何らかの反撃を行なってくることを
『野生の勘』で予測し得意の『カウンター』での
【モグラ先制射撃】を発動。
『スナイパー』でミメイの手を狙い『武器落とし』で壺を手放させるように銃撃する

▼戦闘後
「全く……人の弱みにつけ込むなんて、とんでもない怪異もいたものなのモグ」

「シキくん、終わったモグよ」

主人が倒され壺から出てきた後輩の手を取り、揺り起こす。

「気にしないでいいモグ。シキくんにとっては、あの手合いは一番きついはずモグ……」

「ま、そうモグね。これは貸しにしておくモグ。そうモグねぇ……」

「後でいーっぱい、チョコ奢ってモグ。それでチャラにしておくモグ」
史記守・陽
【モコシキ】アドリブ歓迎

世界はとても暖かくて、優しかった
微睡むような幸福感、ずっと浸っていたいと思うくらいの、都合の良い世界
ベテラン刑事の父のもとで学ばせてもらってる
父さんは理想の刑事だ。父さんの仕事ぶりをずっと近くで学ばせて貰いたいと思っていたんだ
…いた?って、なんだ?
なんで過去形なんだ?父さんは此処にいるのに?
得体の知れない違和感に立ち止まる
もっと世界は違った形をしていた気がする
俺は、何か大切なことを忘れている気がする

誰かに手を掴まれるように握られた
その体温はとても暖かくて、安心して――決して忘れてはいけない体温だと思った
俺は、この手を知っている
大切な人の優しくて、暖かい手――そして、俺が本当に求めている|■■《ぬくもり》だ
握られたその手をしっかりと握り返して、ひかれるままに夢から醒めた

……あれ、モコさん?
気が付けばさっきとは全く
夢から醒めるように何があったか思い出してきた
あ、ぁ…ごめんなさい、モコさん

さすがに恥ずかしい
あれほど気をつけなきゃって思っていたのに、あっさり敵の思う壺だった
モコさんに魔除けのお守りだって貰っていたのに
もう、顔向けできない
…そんな優しい言葉をかけてもらえるような価値が俺に…
え?貸し、ですか?
え、しかもチョコですか?
は、はい。好きなだけ奢ります!
(貸しか…もう、モコさんには返しきれないくらい溜まっちゃっているな…
モコさんのために、強くならないと)

●楽園よ、さようなら
 芳醇に香るのはミメイだけではない。庭園には美しい花々が咲き乱れ、どれもが甘美な香りを放っている。
 ミメイの意味深な発言に、モコ・ブラウン(化けモグラ・h00344)は眉を寄せた。
(ひとりだけしか呑めなかった、ときたモグか……)
 一緒にきたはずの可愛い後輩がいない。そして、ミメイの言う『ひとりだけ』。
 辿りつきたくなかった答えに思い当たってしまう。モコはふう、と溜息を吐いた。冷静な思考回路の裏側に、ジリジリと熱がひりつく。
「大切にしたいところ悪いモグけど、こっちにとっても大切な後輩なのモグよ」
 手錠を指先でジャラリと回転させた。金属の冷たい感触が、籠る熱を発散させる。完全に消えることは無い怒り――しかし、それがモコの手元を乱すことはない。
「返してもらうモグ。気が立ってるんで手加減はできないモグよ」
 モコの宣言に、ミメイは妖艶に微笑んでみせる。
 
 モコが奪還のための戦いを始めた頃。
 |史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)は、壺中天の美しい夢に沈んでいた。
 ベテラン刑事の父から仕事について学ばせてもらう日々。時間ができた時は、家で食事を共にした。父と、母と、そして陽。家族で過ごす時間が心を穏やかにする。
 この世界はとても暖かく優しい。微睡むような幸福感が、全身を包み込む。ずっと浸っていたいと思うくらいの、都合の良い世界だ。
 今日は仕事が早めに終わり、射撃訓練に向かう。訓練には父が付き合ってくれる。
(父さんは理想の刑事だ。父さんの仕事ぶりをずっと近くで学ばせて貰いたいと思っていたんだ)
 ふと、得体の知れない違和感に立ち止まった。
 ……いた? って、なんだ? なんで過去形なんだ? 父さんは此処にいるのに?
「……陽? どうしたんだい?」
 少し先を歩いていた父が、足を止めた陽に振り返る。
 陽は霧に包まれた頭の奥を探った。もっと世界は違った形をしていた気がする。
「えっと、何か大切なことを忘れている気がするんだ」
 父は陽の話を聞き、柔らかに双眸を細めた。
「刑事には覚えることが多い。忘れてしまうのは仕方ないことだ。繰り返しやれば体に染み付くさ」
「そうだよね。……そうだと、いいけど……」
 力強く励まされ陽は頷く。父が言うならば間違いない。
 ――間違いないはずなのに、違和感は拭えないまま。
 
 バチバチと爆ぜる音が宙を裂く。早撃ちの如く|電撃手錠鎖鞭《スタン・チェイン》が放たれた。手錠は横走る稲妻の軌跡を描き、ミメイへと飛来する。
「逃がさないモグ」
 狙う先はミメイの手足だ。執拗に手錠を絡ませて動きを阻害する。
 全身が痺れる感覚を覚えながらも、ミメイは微笑みを崩さない。
「ふふ、熱烈ね。でも……動かずともあなたを誘えるのよ?」
 さぁ、こっちよと囁いて、壺中天へと誘う灯火を創造した。ミメイはその場に留まり、灯火を生み続ける。無数に浮かぶ灯火をモコは睨み付けた。
(あれに当たったら精神を侵されるモグ)
 野生の勘が告げる。灯火の揺らぎから、攻撃の軌道を予測しながらモコは跳躍した。得意のカウンター攻撃――|モグラ先制射撃《モグラ・カウンター》の出番だ。
 ミメイは余裕の笑みを浮かべているが、実際は消耗している。攻撃を受け続け、彼女と彼女が抱える壺には、深い亀裂が幾筋も刻まれていた。
「動かずとも? 動けないの間違いじゃないのモグ?」
 拳銃の射程に飛び込んだ。庭園を埋める花々を踏み散らし、銃口をミメイに向ける。
 ミメイが息を呑む気配が伝わった。彼女は気付いたのだろう。放たれる弾丸が、彼女の命を貫く未来に。
 弾丸が異空間を切り裂き、ミメイの深くへと喰い込んだ。耐え難い激痛にミメイの体が傾く。彼女は本体の壺を必死に支えようとするが、その手首も二弾目が撃ち抜いた。
「キミの楽園はもう終わりモグ」
 モコの宣告と共に、ミメイの手から壺が滑り落ちる。劈くような音を立てながら壺は割れ、地面へと無惨に散らばった。
「嗚呼、壺中天が、消えていく……」
 ミメイの嘆きは異空間が崩壊する音に掻き消される。

 射撃訓練場の前に立った瞬間、鋭い銃声が響いた。目が覚める爆音に陽はハッとする。誰かに手を掴まれた。強く握ってくるその体温はとても暖かい。夢の微睡とは違う温度、絶対的な安心感。――決して忘れてはいけない体温だと思った。
(俺は、この手を知っている)
 大切な人の優しくて、暖かい手――そして、本当に求めている|■■《ぬくもり》だ。帰らなければ。陽は訓練場から踵を返した。
「陽、どこに行くんだ?」
 父が呼びかける。陽は振り返り、迷うことなく言葉を紡いだ。
「父さん、ごめん。待ってる人がいるんだ」
 力強い声には確固たる意志が息づいている。父は寂しげな表情を見せるが、次には安らかな笑みをこぼした。
『……そうか。それがお前の選択なんだな』
 父の姿が罅割れて崩れ始める。それは|壺中天《楽園》の終わりを意味していた。
 否、楽園など最初から存在しない。陽の意識は残酷な世界へと歩み始めた。
「父さんがいなくても、俺は立派な刑事になってみせるよ」
 握られたその手をしっかりと握り返して、引かれるままに夢から醒める。
 
 ミメイと共に異空間も消滅し、現場は百貨店に戻っていた。
「全く……人の弱みにつけ込むなんて、とんでもない怪異もいたものなのモグ」
 拳銃をホルスターにおさめ、モコは戦闘態勢を解く。倒れている陽へと近付き状態を確認した。
「……怪我はないみたいモグね、よかったモグ」
 ほっと息をつく。
「シキくん、終わったモグよ」
 陽の手を取って揺り起こした。届く声と優しい感触に、陽は薄く目を開く。
「……あれ、モコさん?」
 陽はぼんやりと辺りを見回して、少しずつ夢から醒める。
 自分に何が起きたのか。押し寄せる恥ずかしい記憶に口をぱくぱくとさせた。
「あ、ぁ……ごめんなさい、モコさん」
 顔が真っ赤に染まる。あまりにも恥ずかし過ぎる。あれほど気をつけなければと思っていたのに、あっさり敵の思う壺だった。
「モコさんに魔除けのお守りだって貰っていたのに……俺って本当にダメダメですね……」
 壺にすっかり嵌まってしまっていた。もう顔向けできない。
 陽の落ち込みっぷりは、頭の上に雨が降り出しそうなほどだ。どんよりと沈む後輩をモコは慰める。
「気にしないでいいモグ。シキくんにとっては、あの手合いは一番きついはずモグ……」
 引き離された時点で、こうなる危険性は見えていた。相手は簒奪者なのだ。魔除けだけではどうにもならない。陽は惨めな気持ちに耐え切れず、モコの手をぎゅっと握った。
「そんな優しい言葉をかけてもらえるような価値が俺に……」
 いつまでもしゅんとしている陽を見て、モコは考えを巡らせる。こういう時は話題を変えるのも手だ。
「ま、そうモグね。これは貸しにしておくモグ。そうモグねぇ……」
「え? 貸し、ですか?」
 モコは太陽みたいな笑みに、ちょっぴりの悪戯心を忍ばせた。
「後でいーっぱい、チョコ奢ってモグ。それでチャラにしておくモグ」
 既に大量に購入しているが、さらに買い足すという。
「え、しかもチョコですか? は、はい。好きなだけ奢ります!」
 陽も当然その事実を覚えているが、今の彼に断る選択肢はない。モコに助けてもらった恩を返すためにも、チョコをたくさん捧げたい。
「そうと決まれば早速行くモグよ。催事場に気になるチョコが、まだいっぱいあったのモグ!」
 モコは陽の手を掴んだまま歩き始めた。目指すは甘いチョコの香りが漂う催事場だ。陽も隣を歩きながら、上機嫌なモコの横顔を瞳に映す。
(貸しか……もう、モコさんには返しきれないくらい溜まっちゃっているな……モコさんのために、強くならないと)
 催事場の全チョコを網羅したって足りない。
 彼女にすべての恩を返すには、自分自身がもっと強くなるしかない。戦闘技術の向上だけでなく精神面も鍛えなければ。強き心こそが、闘うための礎となるだろう。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト

閉じる

マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を閉じて「読み物モード」にします。
よろしいですか?