シナリオ

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花骸

#√EDEN #√妖怪百鬼夜行 #【受付】5/17(日)朝8:31~締切未定 #プレイング受付中

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 短い春に爛漫と咲くあなたが、あたしのたったひとつの希望で、憧れだった。

「なんで切ったの、どうしてよ!」
「落ち着きなさい、ひまり」
 あたしが力いっぱい掴んだ腕を、兄さんはいとも簡単に振り払った。枯れ枝みたいに細い腕じゃちっとも力が入らない。わかってる、わかってた。
「あたしはあの子のそばに戻りたくて頑張ったのよ。兄さんはそれもわかってたはずでしょ!?」
「わかってる。だがあの桜はだめだ。咲くたびにお前は弱って――切った途端にお前は回復に向かった。やっぱりあれは呪われて、」
「そんなの、ただの思い込みよ! ――兄さんはあたしのこと……あの子のこと、大事にしてくれるって思ってたのに……!」
 裏切られた。そう思ってしまったらもう駄目だった。心から信じていたからこそ、絶望は深くなる。悲嘆は容易く憎悪に変わっていく。
「うそつき。みんな嘘つきよ! すぐに良くなるなんて嘘。病気が治るなんて嘘! あの子だけがあたしに本当の希望を見せてくれたの。|散っても《死んでも》いいわって思わせてくれたの!」
 ひまり、と呼ぶ声を振り切って、あたしは庭の奥へ駆け込んだ。少し走っただけで苦しくなる出来損ないの身体が恨めしい。――隠されるような場所でぽつりと切り株になってしまった桜の木の亡骸が死ぬより悲しい。
 どうせ死ぬなら春がいい。あたしの部屋からよく見える、みんな怖がる『|呪いの桜《あの子》』のそばで死にたい。そう思って、白い病室で死ぬまいと足掻いたのに。こんなのってあんまりだ。散々期待を裏切って、裏切って、最後のさいごにあたしの|希望《死に場所》までころしてしまった。――あたしのせい? あたしがこんなふうに、産まれたから。生きてしまったから。
「あたし、なんのために生きてきたの」

 咲くことなく散らされた桜の切株の傍らで溢れ出した少女の慟哭を――|紅涙《古妖》が聞き留めてしまった春の日に至る。

●はなのなきがら
「ひまりさんはね、生まれつき不治の病で……もう、たくさんは生きられないんだって」
 それはいかに√能力者といえどどうすることもできない。――桜色の星詠みの少女は、|予知《み》た光景をありのまま語る。√EDENに生きる不治の病を抱えた少女、『ひまり』。彼女は死ぬまで終わりのない闘病を、家の庭奥にある桜の木を支えに懸命に生きていたのだと。
「ひまりさんのおうちの桜は『呪いの桜』って昔から呼ばれていたんだって。……本当に呪われていたのかは、もうわからないけど」
 それを妹のためと、兄が独断で切ってしまった。不治の病にできることは少なく、藁にも縋る思いではあったのだろう。たとえそれが、妹が大切にしている桜だったとしても。あるいはだからこそ、|因果《のろい》を信じたのかもしれない。
「でも、ひまりさんはそれで心の支えをなくしちゃった。全部に裏切られた気持ちになって――それが『紅涙』を呼んだの」
 古妖『紅涙』。女の痛哭に招かれる付喪神崩れの妖。√を問わず悲嘆に寄り添うように現れるそれが、ひまりの慟哭を聞き留めてしまった。
「このままだと、紅涙はひまりさんに接触して代わりに復讐を約束して、お兄さん……家族も全部殺してしまうの。桜があった庭奥を、真っ赤に染めて」
 そして、それを見て今度こそ全てに、自身に絶望したひまりさえも。
「……そんなのって、だめだよ。だからね、止めてあげてほしい。まだ、間に合うから」
 悲しげに伏せた瞳を上げて、晴日・桜 (夢見草・h09138)は能力者たちへひたむきな視線を向けた。その桜色の瞳がふと煌めく。
「あのね、こんな話したあとだけど……桜、見に行こう? 今が一番綺麗だから。ひまりさんも、庭のとは違う子だけど……桜は好きなんだと思うの」
 その証拠に、ひまりは短い一時退院のあいだで春のワークショップに申し込んでいる。タイミングとしては、紅涙が接触する前だ。古く大きな一本桜が見事に咲く教会で開かれるそれでは、簡単な花束作りを体験できるのだと桜は言う。
「春の花を楽しむ、のが一番の目的らしいから、難しいことが学べるわけじゃないけど……好きな春の花を好きなリボンで束ねて花束にするの。それもたくさんの子を選ぶんじゃなくて、一種類だけ。一本桜にちなんでいるんだって。できた花束は、一本桜に見せに行くらしいよ」
 ワークショップとしては完成の記念という名目だけれど、桜が忌避されるばかりだったひまりにとっては随分新鮮に、優しい光景に見えるだろう。人生のほとんどを病室で過ごしているひまりは、桜が愛されている場面すらあまり知らない。
「それにね、春の花と桜って、やっぱりすごく似合うから」
 みんなも見て楽しんで、と桜は楽しげに笑う。そうして少しでもひまりの心の傷が癒えれば、予知した悲劇を変えることができるかもしれない。そうなったとき、紅涙がどういった行動に出るかはわからないけれど。
「ひまりさんが紅涙の|復讐《同情》に頷かずに済むように、たくさん希望を見せてあげてね」
 そうすれば、庭の桜は戻らずとも、この先の悲劇は食い止めることができる。
「もしそうできたら……そのあとは、みんなで桜マルシェに行こうよ。教会近くの大きな桜並木がある公園に、お弁当のキッチンカーが集まっているの。和風洋風中華、サンドイッチとかバーガーもあるし、ご飯系からスイーツみたいのまで色々あるよ。それでね、好きなお弁当を買って、お花見するの」
 見上げれば満開の桜。傍らには春の花束。おいしいもので、お腹をいっぱいにして。
「……それって、なんでもないことだけど。あしたを生きるための希望になるんじゃないかなあ」
 希望的観測でしかないけれど、きっとそうなる気がするんだよ。――みんななら、そうさせてくれるんじゃないかなって。
 純真な期待を込めて、桜は能力者たちへ春の匂いのする道を示した。
これまでのお話

第3章 日常 『春の恵み』


●桜マルシェへようこそ
 教会の程近くに、桜並木にぐるりと囲まれた公園がある。
 普段から遊具のようなものはなく、あるのは桜並木に沿って置かれた木製のベンチのみ。ただ、実に広く作られたその公園は普段から子供たちが元気よく駆け回る場所であり、催し物が行われる会場ともなっている。
 そこに今日は、様々なお弁当を掲げた、キッチンカーが集まっていた。
「いらっしゃいませ! お花見に幕の内弁当はいかがですか? 牛すき弁当、のり弁当、焼肉弁当、定番勢ぞろいですよ!」
「洋風お弁当をお探しのみなさまー! オムライス、ハンバーグ、パスタ、エビフライ! お子様に大人気、お子様ランチ風弁当、あります!」
「回鍋肉弁当、麻婆豆腐弁当、餃子弁当、あと色々! ご飯は天津飯にできまーす!」
「お手軽に満腹になれる、たっぷりホットドック! チーズ、卵、ミートソース、カレーまでありますよ!」
「エビチリバーガー、当店一番人気です! 他にも、野菜バーガー、ビーフパティマシマシチャレンジバーガーなど! あっ、お姉さん、行ってみませんか?」
「お弁当といえば唐揚げ、ただいま揚げたてです! 今ならご飯に照り焼きチキンをトッピング! トリトリ弁当はこちらですよー!」
「サンドイッチもありますよ! ツナ、卵、ハム、おかず系はもちろん、クリームたっぷりのフルーツサンドはデザートにもぴったりです!」
 ――そこらじゅうから花見客を呼ぶ声が溢れている。それぞれのキッチンカーで、飲み物も一緒に売ってあるようだ。公園側の関係で、お酒系統はどうやらないけれど。

 桜マルシェと花見で公園は賑わっているが、広さのおかげで座れないほどではない。
 ひまりもどうやら、フルーツサンドを買って、人の少ないほうに落ち着いたようだ。
 ベンチに、青々とした新緑の芝生に、のんびり座って好きなお弁当を食べる花見のひとときは、この春の穏やかな思い出として残るだろう。