シナリオ

⚡️こぱんだぱんだでもくらしぃ

#√妖怪百鬼夜行 #紅涙流離戦 #紅涙最終決戦

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⚡️最終決戦:|東京百鬼夜行《トウキョウデモクラシィ》

これは大規模シナリオの最終決戦です。
5/25朝8:30までに成功した全ての最終決戦シナリオの舞台に『絶対防衛領域』が完成します。
絶対防衛領域の内部では、不思議な力によって、簒奪者に民間人が殺される事がなくなります。

また、その時点での「戦勝数」によって、各「絶対防衛領域」の広さが決まります!
戦勝数=作戦1〜5の成功シナリオ数÷2+最終決戦の成功シナリオ数
※つまり、現存する作戦1〜5を攻略する事も、勝利に貢献します!
※到達した戦勝数までの全結果を得られます。つまり戦勝数80なら全ての結果をゲット!

絶対防衛領域の広さ

戦勝数50:各シナリオの舞台の「マニアックな個人商店ひとつ」。
戦勝数60:各シナリオの舞台の「最も有名な建物ひとつ」。
戦勝数70:各シナリオの舞台の「最も有名な建物から最寄り駅までの道及び周辺建物」。
戦勝数80:√EDENの同じ地域も絶対防衛領域になる。

●Accident
「全く……馬鹿騒ぎの煩いこと」
 喧騒から逃れるように最奥へ向かう女の横顔は冷たかった。例え同胞であっても、むやみやたらと腹から出される声が何層にも重なれば耳障り。子が起きてしまうではないか。
 ふと視線を落とした腕の中に、子は居ない。
「……そう、でした。あの子は」
 吐息が落ちる。
 辛い昔日を追い払うように、かぶりを振って。再び足を擦るように奥を目指す。
 ――あなたは今、どこにいるの?
 ――笑って、いるのでしょうか。
 誰も、どこからも答えが返ってこない問いを、女は今日も繰り返す。

●Caution
「ハーモニカ横丁の探索、おつかれさまでした。無事に妖怪大将たちを目覚めさせることができたようです」
 ほっとした様子で皆を迎え入れた物部・真宵(憂宵・h02423)の顔は仄白い。ここ数日とみに目まぐるしかった戦況を思えば疲れが出てしまうのも無理はないが、ついには最終決戦の局面に持ち込むことが出来た。もうひと踏ん張りだ。
「上野にある東京国立博物館で母なる鬼女『金翠御前』を発見しました。どうやら敷地一帯を巻き込んで迷宮建築とさせているようです」
 その最奥に待つ金翠御前に正義の鉄槌を下そうとしているのはパンダ妖怪たち。あちらが母なる鬼女であるならば、こちらもジャイアントママ軍団で対抗してやろうと続々集まっているのだとか。説明する真宵は、ちいさな笑いをかみ殺している。
「ですが、どうやら子どものこぱんだたちのことが気掛かりな様子でして」
 迷宮建築は速やかに、そして静かに潜入しなければ逆にこちらが奇襲を受ける恐れがある。とうてい子連れで行っていい場所ではない。
「パンダママたちはわたしたちのもたらす『お祭り騒ぎ』によって力を得ることができます」
 でも、子どもたちのことが心配。
「だから皆さんには、こぱんだを預かってもらいお守りをしながら迷宮建築に潜入。金翠御前の元に辿り着いたならば、こぱんだを守りつつ盛大に遊んであげてください」
 そんな無茶な。
 言外に匂わされた皆の視線に、袖を口元に添えて笑いを零した真宵は、夏宵の空を閉じ込めたような両目をやわらかに細めて首を傾いだ。
「母は強し、と言いますよね。子が安全で、笑ってくれるなら……きっとどんな応援よりも力になるのではないでしょうか。それに、大切なものを護りながら戦うのは、皆さんにとってそう難しいことではないのでは?」
 純粋で、興味津々で、元気なこぱんだたちはきっと様々な現象を、皆が披露してくれるものを楽しんで、喜んでくれるに違いない。いちおう戦うことも出来るらしいが、うっかり危ない目に遭ってしまうと、パンダママの怒りがこちらに向かうばかりでなく、パワーダウンしてしまうのでくれぐれも注意してほしい。
 真宵はそれまで椅子の上で月餅クッションを抱きしめてすやすや眠っていた自身のこぱんだ妖怪を胸に抱き上げると、ふわふわの身体を撫でながら言った。
「こぱんだは大体これくらいのぬいぐるみサイズですから、抱っこは簡単だと思います。食べるのが好きな子だったり、ずっと眠っていてくれる子だったり、性格は様々でしょう」
 相性のいい子を預かって、こぱんだを守り、大騒ぎしてパンダママをパワーアップして、金翠御前を打ち破るのだ。そうすればこの地は絶対防衛領域となり、誰も古妖に殺されなくなるだろう。
「きゅー?」
 もそもそ起き出したこぱんだ妖怪が、しっとり濡れた瞳で皆を仰ぐ。それから、がんばってねーと言うかのようにちいさな前脚をふりふりした。

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第1章 ボス戦 『母なる鬼女『金翠御前』』


墨・迅

 ――上野。
 東京国立博物館は乱痴気騒ぎの喧騒から遁れたような物々しい静けさに満ちていた。結集した妖怪は体長三メートル越えのパンダママ軍団。
「よぅ、あんたがママさんかい?」
 墨・迅(黒衣の迅・h12802)の呼び声に、張り詰めていた緊迫は姿をみとめてすぐに緩む。パンダママたちは手伝いに来てくれる仔細を耳にしていたらしく、助っ人の登場に胸を撫で下ろして歓迎ムード。
「俺みたいなのに任せるのは不安だろうが、スラムではガキ共のお守りをしてたんだ。一つ任せちゃくれねぇか?」
「とんでもない。大助かりだよ」
「きゅぃぃいいっ!」
 ほっとした吐息に可愛らしくもありったけの力を放出するような鳴き声が重なった。どうやらベビーサークルをよじ登ってあと一息で乗り越えられそうであったのに、軽々持ち上げられ中へと戻された子が癇癪を起こしたようだった。
 仰向けに寝転んで四肢をバタつかせては、おともだちをぺしぺし叩いている中々の暴れん坊っぷり。
「中々手強そうだな――よし。俺が預かろう」
 ひょいとベビーサークルを飛び越えた迅はむくりと起き上がった暴れん坊の背後に立つと、脇の下に手を差し込みひょいと抱き上げる。
「きゅぅぅぅ!」
「おぅおぅ、元気だなぁ。そんな暴れてっと、敵んトコ着く前に腹減るぜ?」
 迅はパンダママとアイコンタクトを取ると、すぐさま館内へと侵入。暴れるこぱんだを肩車した迅は、迷宮と化した奇天烈な構造を利用してジェットコースターよろしく軽快に跳ねたり身を屈めたり時にはくるっと宙返り。すると普段とは全く違う遊びにこぱんだがごきげんになってゆく。
「見えた。あの扉の先だよ」
 先導していたパンダママの声を受け、迅はすぐさま腕の中にこぱんだを守るように抱きかかえた。
「ぷうっ」
「不満か? ちょっと我慢してくれ」
 これから古妖とママが戦うのだから。
 豪快に扉をぶち破ったパンダママはその奥にいる金翠御前と目が合うなり拳を振り上げ殴りかかった。巨体から繰り出される一発は衝撃波すら寄越すほどに苛烈で「おお」迅は目を丸くする。
「なんと無礼な……」
 挨拶代わりの一発を喰らった金翠御前は、しかし堪えた様子はなく自身の腕を巨大な鬼の腕に変質させ、パンダママの頬へとお返し。
「アンタも良いの持ってるじゃないか」
「野蛮な獣と同じにしないでください」
 図体の大きなパンダママに気圧されることなくひらり躱しては隙を突く金翠御前。だがパンダママも急所を狙われても物ともせず自慢の力を振り下ろす。
「ほら、大将。お前のママが戦ってるんだ、一緒に応援しようぜ」
「きゅぅっ! きゅぃいいい!」
 じたばた、じたばた。自分も戦っているつもりなのか、四肢をめいっぱいバタつかせて活きの良いこぱんだに迅はやさしく笑いかける。あんまりテンションが上がりすぎてこぱんだ参戦になると危ないので、ビスケットを口に頬張らせ、紙パックのジュースに太いストローを刺して手に持たせる。サクサクちゅうちゅう。器用におやつを堪能するその隙に、|黒蜥蜴縛糸《クロトカゲバクシ》を巡らせてパンダママの回復力を増幅させてフォロー。
「ほら、お前のママは世界一かっこいいぜ?」
「きゅうううう!」
 こぱんだの歓声が沸き上がる。
 ママのアッパーが見事決まった瞬間であった。

日宮・芥多
茶治・レモン

 あっちへふわふわこっちへころころ、すやすやねむねむの白いおにぎりたちをベビーサークルに手を突いて覗き込む日宮・芥多(塵芥に帰す・h00070)の目はきらきら。
「パンダと触れ合えるなんて、初めての経験です!」
 喜色を含んだ声に気付いたこぱんだたちが「きゅぅ?」とふしぎそうにしっとり濡れた黒い瞳で見上げてくるのがまた愛らしい。
 どうやらパンダに関しては共に訪れた魔女代行――茶治・レモン(魔女代行・h00071)のほうが先輩の様子。二度目の貴重な機会を逃すまいとずいぶんと意気込んでいる。別の依頼で触れ合った経験が今生かされる――のかもしれない。
 けれどすぐに実力で追い抜く自信たっぷりな芥多は、レモンがそうっと静かに抱き上げたこぱんだを見て目を丸くする。
「見て下さい、この愛くるしい寝顔!」
「随分と大人しい子ですねぇ」
「とっても静かに寝て……寝……」
 黒い手足をだらぁんと垂らしてレモンにされるがまま。ゆーらゆーら揺り籠のように揺らしてもぴくりともしない。
「ん? 本当に寝てるだけですか?」
「死んでないですよね?」
 ふたりの声が重なった。
 とっさに――人間と同じ方法でいいのだろうか――脈を計るレモンは、とくとくと生命の音を感じ取ってがばりと顔を上げ「生きてる!」ちょっぴりどきどきした心臓をなだめるように「ちゃんと生きてる!!」言い聞かせた。
 けれどもあんまりすやすやしているものだから、なんだかあやしい。
「もしや盛りました? クスリ」
「クスリなんてそんな……あっ君じゃないんですから盛りませんよ。でも微動だにしない! 不安……!」
「よし、俺も抱っこしますよ。これくらい余裕です、余裕」
 レモンの言葉を否定しない芥多は、ベビーサークルにしがみ付いてじぃっとこちらを見上げているこぱんだを軽々抱っこして――。
「余裕……」
「きゅぅぃぃいいっっ!」
 ビチビチビチビチビチ。
 吊り上げた芥多漁師の腕の中でエビのように背をのけ反ったり丸めたり、ふわふわ手足をめちゃくちゃに動かして大興奮。もう手を離せばそのまま空中を泳いでいけるのでは? といった活きの良さ。
「……めっちゃビチビチ動きますね、この子!? 鰹か?」
「すごく元気……! 前世は鰹で間違いないですね。僕のパンダとすごい違いだ……!」
 だってこれだけお友達が暴れているのに、びくともしないこぱんだはすやすや夢の中。ちょっとお口がむちゃむちゃしているのは鰹を食べる夢でも見ているかもしれないくらいに呑気なものだ。うーん、と首を捻りながら再び脈を計測。――おそらく――至って健康な数値が現実を寄こしてくる。
「君の前世はあれかな、コアラかな?」
 脇の下に手を差し込み、顔の高さに抱っこして、だらぁんとぐったり眠る姿にレモンは首を傾ぐ。
「こらこら、少し大人しく……大人しく!」
「きゅっ! きゅっ! きゅーぅ!」
「これは躾が必要ですね」
「きゅっ!?」
 きらん。瞳を妖しげに光らせた芥多はふわふわの毛に片手をうずめてわしゃわしゃとくすぐり攻撃!
「きゅっきゅっきゅっ!」
「あっクソ、笑って更にビチビチする!」
 さて、そんな正反対のこぱんだを預かった芥多とレモンはふたりのパンダママと一緒に館内へ突入。芥多のこぱんだ鰹を大人しくさせるのに中々苦労したのだが、お菓子をかけてどっちが長く笑わずにいられるかのゲームをするとこぱんだは目を爛々とさせて両手でお口をチャック。
「鼻まで塞いでますよ」
「息止まっちゃいますよー」
 実質子守りは一匹だけみたいなものだ。レモンも一緒になってあやせば戦力二倍。厭きてぷうぷうぐずりだしたら、猫探偵衣装を着たチンチラキーホルダーをゆらゆら振ってみせた。「なぁに、それ」と目をきらきらさせるこぱんだが前脚を伸ばして捕まえようとするけれど、密やかな吐息を漏らしたレモンは、すいと頭上へ高く持ち上げる。
「かわいいでしょう? でもこれは大切なものなのであげられませんよ」
「ぷぅー」
「もっと可愛いもの、たくさんありますよ。見たいですか?」
「ぷっ!」
「じゃあほら。いい子に出来ますね?」
 開けた先は広いホール。奥に待ち受けるは母なる鬼女『金翠御前』。敵をみとめたパンダママは左右に散開、手にした竹槍を大きく振りかぶる動きを辿るように金翠御前の視線が走った矢庭に、もう片方のパンダママが突進で脇から突き倒す。ぐらり、傾いだ身へと穿つ槍は血の花を舞わせて鬼の白い|面《おもて》に怒りを走らせた。
「無礼者」
 金翠御前は片腕を異形巨大化させると、その手に握り締めた複製の竹槍を頭上に振り上げ、パンダママの腹を刺そうとする。
 ――しかし。
「ふわふわのママを傷付けるなんて、そんなことさせませんよ」
 芥多は片手にこぱんだ、片手に蜘蛛を模した赤い斧を握り締め高く飛び上がる。
「さぁ行きな!」
 空中で手を突きあげたパンダママの前脚に着地すれば、芥多の身体が勢いよくぶん投げられる。加速を味方につけて、鬼の腕を肩から落とす勢いであらん限り振り抜くと、鉤のような形状をした刃に肉が持っていかれて血が噴き出す。
 すぐさま血飛沫に紛れるようにして隠密状態を取った芥多は、きゃっきゃとはしゃぐ腕の中のこぱんだを見下ろして微苦笑をひとつ。怖がってないなら、それでいいのかもしれない。
「ほら、お母さんが頑張ってますよ。一緒に応援しましょうね、くれぐれも大人しく!」
「きゅぅー?」
「あっ。いま『それむずかしくない?』って言いましたね?」
「きゅっ!」
 そんな大騒ぎの中でも、すやすやぐっすりねむねむこぱんだに舌を巻いていたレモンは、まるで騙し絵のように階段やホールが鏡映しに広がる天井を見上げると、魔法で創った擬似太陽をぷかり浮かび上がらせる。
「ほら、お目覚めの時間ですよ」
「んきゅ……」
 まぶしいよぅと手で目を抑えるこぱんだが、ようやくもぞもぞ動き出す。それからそろそろとレモンを見て、何やら楽しげなお友達を見て、それを肩車する芥多を見て、最後に戦っているママの背中を見つけて目を丸くする。
「んきゅぅ?」
「お母さんが活躍してます、一緒に応援しましょう!」
 天からしな垂れ花びらを散らす幻想花や、伸びた蔦で顎下をくすぐるとようやくお目覚めの眠り姫は楽しそうに笑い声を零してレモンの背中によじよじ登る。
「ほら、お母さんとってもかっこいいですよ!」
 肩からひょこりと顔を出したこぱんだは、ママ友と一緒に金翠御前と戦う姿を見て後ろ足をぱたつかせる。まるで自分も一緒に戦ってるみたい。
 どうやらパンダママたちの息の合った連携プレーを見ていると、こぱんだたちは幼馴染だったようだ。息をつく暇すらない猛攻にに金翠御前が厭わしそうに顔を歪めるのと、ふたりは見た。
「きゅぅぅぅ!」
「んきゅぅーー!」
 こぱんだたちの応援を得たパンダママの突進と竹槍の乱舞が挟撃となり、鬼女に襲い掛かる――。

賀茂・和奏

 まるで祭囃子のように遠くから妖怪たちのどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。それなのに、ここだけはきゅうきゅうぷうぷう違う音で溢れていた。
 野外だというのにベビーサークルが設けられ、その中でもぞもぞころころ動いている白と黒のふわもこは小さいこぱんだたち。
 今回の決戦において子守りというのは珍しいが、我が子が心配だというのは分かる気がする。賀茂・和奏(火種喰い・h04310)はママたちの間からひょこりと首を伸ばしてサークルを覗き込むと、どの子も愛くるしい表情や姿をしていて、なるほどこれでは心配で力が発揮できないのも頷けた。
「おいでー」
 両手を伸ばしてこぱんだたちにやさしく呼びかけると、後ろ足ですっくと立ち上がった子が一匹。手招きするとてちてち和奏に近付いてくる。頭が重いのか、はたまたお尻が重いのか、前へ後ろへぐらぐら揺れても笑い顔を浮かべたこぱんだをキャッチ。
「よし、俺と不思議な迷宮を探検しようか」
「きゅぅーぃっ!」
 元気な返事をするこの子と行くことを決意。
 そのまま胸に抱きかかえるようにして、フライパンを持った――おそらく武器だ――パンダママと一緒に迷宮と化した館内へいざ潜入。
 まるで世界を継ぎはぎにしたような不可思議な空間を、こぱんだはきょろきょろとあっちへこっちへ視線を飛ばしている。
「きゅっ、きゅぅ、ぅ、う!」
 走るリズムに合わせてこぱんだが笑う。
 でもあんまり大きな声を出すと怖い鬼に見つかってしまうから――。
「わわー! って時は口を押さえて、負けないよう一緒に頑張ろうね」
「きゅわわー?」
「ふふ。そうそう」
 ぱふ、と両手で口を押えて、でも楽しそうに足をぱたぱた泳がせるこぱんだに、自然と目口が下がる。
「……ふかふかだなぁ。うまくいったら後でおやつを食べようね」
「ぷっ!」
「良いのかいそんなこと言って。うちの子は食い意地が張ってるよぉ」
 くるりと振り返ったパンダママが、フライパンで肩をトントンしながら笑っている。なるほど、そのフライパンは武器でもあるがこぱんだの腹を満たし続けてきた相棒でもあるらしい。
 和んだのも一瞬だ。
 すぐきりりと険しい表情を浮かべたパンダママが、おらーと扉を蹴破りこちらに背を向けて立つ金翠御前に向かって猛ダッシュ。そのあまりの俊敏さに目を丸くするのも束の間、和奏は宝石のように美しい青い瞳を戴いた烏から借りた羽で空中へと飛びあがる。
 その時。
 和奏が居た場所に金翠御前の鬼の拳が床にめり込んだ。寸前で回避出来たことにホっとしつつ、腕の中のこぱんだを見下ろすと、どうやら辺りをきょろきょろして不思議そう。浮いているなんて夢にも思っていないみたい。
「お母さんがいるの見えるかい?」
 しっかりと抱っこして下を覗かせると、何故か巨大化しているフライパンで金翠御前の横っ面をぶん殴るパンダママのフルスイングが決まる瞬間だった。
「きゅわわーっ!」
「あ、もう手は放していいよ」
「きゅーぅ?」
「うんうん。お母さんかっこ良いねぇ、一緒に応援しようか」
「きゅ!」
 和奏という特等席から足をぶらぶらさせて、ふんわりまるまるなおててを空に突き上げて声援を送るこぱんだに笑みを零す。攻撃の余波すら当たらぬ場所を意識しつつも、強烈な風の流れを生んで金翠御前の足元を揺らせば、傾いだ身に強烈なフライパンチが炸裂する、よい響きが鳴ったのだった。

和紋・蜚廉
不忍・ちるは

「元気もやんちゃも、ひとところに集まると良い。これより一大変化の遊興を提供するぞ」
 ベビーサークルに集められたこぱんだたちは、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)の言葉につられたように、きゅうきゅう鳴きながらふわふわころころ集まってくる。
 自分のママとは違うオーラを感じる蜚廉をもっとよく見ようと、後ろ足で立ち上がったこぱんだがベビーサークルにひしっと掴まって、黒く濡れた瞳できらきら見つめてくる愛さらしさには、たまらず頬っぺたを押さえた不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)。
 蜚廉はこぱんだたちの視線を集めると、ボールやタイヤ、丸太にやぐら。なんと平均台にまで変化を重ねてちびっこたちを大いに驚かせた。あんまりびっくりして仰向けに転がってしまったこぱんだが、そのままきゅんきゅん泣き出すのでちるははその子を抱っこ。背中をとんとん叩いてあやしてもまだきゅうきゅう鳴くので、この子に寄り添うことに決めた。
 蜚廉は元気に弾むこぱんだと、四肢をわちゃわちゃにバタつかせるやんちゃこぱんだを片手で抱えていて準備万端。自分の子がじっとしていられるか不安げなママたちの憂いを振り払うように、力強く頷いてみせるふたりの眼差しに確かな確信を得たママたちは、それぞれ武器を手に取るといざ館内へ。
 音を立てずに移動することなど蜚廉とちるはにとっては朝飯前。騒ぐ暇すら与えないそのスピードにこぱんだたちは目をまんまるとさせて、あんぐりお口を開けている。おかげで金翠御前の元に辿り着くまでにさほどの時はかからなかった。
 到着するなりママたちが一斉に鬼女へと襲い――攻撃を仕掛ける。その大迫力に興奮したか、手の中の元気こぱんだとやんちゃこぱんだが鞠のように弾みだした。
「溢れんばかりの力を発散して貰おうではないか」
 蜚廉がこぱんだの身体にハーネスのように黒銀の糸を巻き付け、|命綱《斥殻紐》を装着している横では、パンダママと金翠御前の熾烈な戦いが齎す大きな音に驚いたか泣き虫こぱんだがちるはの胸に顔を埋めている。
「ジャイアントなママがんばっていますからね」
 本当はママに甘えたいのかもしれない。怖いのに、それでもちらちら戦闘を覗いているのは離れて寂しい気持ちの表れなのだろう。でもそんな気持ちごと抱きしめるように、ちるははあたたかいこぱんだをやわらかく抱きしめる。ふんわりと香るのはあまくてかわいいお菓子のような香り。
 頬に頬を寄せて、大丈夫だよってすりすりすると、こぱんだがじぃっとちるはの顔を見つめてくる。そのちいさな頭をいいこいいこしてすると、ちるはがやさしい人だと通じたのか、ようやく笑い顔が浮かんできた。
 揺り籠のようにゆぅらゆぅら左右に身体を揺らしたり、額をくっつけあってふわふわをくすぐったりするとようやくきゅいきゅい楽しそうに笑ってくれて、一安心。
 でも、こぱんだの体温がお日さまのようにとろけてあたたかいので、なんだかちるはまでねむねむになってしまいそう。
「かわいい癒し効果絶大です」
「きゅぅー?」
「大丈夫。起きてますよ」
 ドーン!
「……!?」
 ようやく心が通じ合ったちるはと泣き虫こぱんだの耳に大きな音が飛び込んできた。びっくりして揃って振り返ると、なんと金翠御前の身体にタイヤがめり込んでいる。いつの間にやら下ろされたか、やんちゃこぱんだがまるで「ぼくがやりました」と言わんばかりに蹴ったポーズのまま両手をワーイと頭上へ上げている。
 タイヤを引っ掴んで後方へ円盤投げのように引き離したパンダママが、片手に握った筍のような槍でぶすりと脇腹を刺した。鬼は喰らった攻撃を己の元として鬼の手に複製させると筍槍でパンダママを刺し返す。
「なんですかこれは……食べ物で戦うなど行儀が悪い」
「筍に見えるだけだ、よっ!」
 言いながらさらに槍の雨を降らせるパンダママ。苛烈な勢いに言葉を挟む余裕などない。
 さて。
 パンダママによって敵の懐から脱出した蜚廉は、いちど元気こぱんだとやんちゃこぱんだの元に戻って体勢を整えると次はボールに変身。
「きゅんぃ!」
 すると今度は元気こぱんだが後ろ足でてちてち歩いた――かと思えばボールにタッチ。そのまま見守っていれば、おりゃーと頭突きをかましてボールを転がし、三方からパンダママに取り囲まれた金翠御前の死角から隙を衝いた。
「これは稀にみるやんちゃぶり」
 敵の躯体に跳ね返った|ボール《蜚廉》は、空中で丸太になり、そのままごろごろこぱんだたちの元へと転がり戻るも、元気こぱんだとやんちゃこぱんだは休む暇を与えてくれない。なんと二匹で丸太を担いで「そーれ」と放り投げるではないか。
「……うっ、三半規管が……」
 飛んで転がってぶん投げられて。これにはさすがの蜚廉も胃の腑を掻き混ぜられるような気持ち悪さに襲われる。
「元気&やんちゃなこぱんださん勢いがすごいですね」
 しかしこぱんだのじゃれつきに戦闘が乱されているのかと言えばそうではない。むしろ意識外からの邪魔に金翠御前の集中力が途切れていると言ってもいい。こぱんだも警戒しなくてはならなくなったので、小さい命をちらちら見ていれば、よそ見をする敵へと正義の鉄槌が下される。
「ママの攻撃にナイスアシストです」
 こくりと頷くちるは。そんな彼女を見上げている泣き虫こぱんだも、ころころ余韻に転がる丸太を見てこくりと頷いた。
「私たちも応援しましょうか」
 顔を覗き込むと、こぱんだが「きゅ!」と鳴いた。まるで心が通じ合ったみたいでうれしくなる。
「さぁ、手を振りましょう。にこにこ笑顔で」
「んきゅ!」
 なんとも愛らしいふたりの姿に、目元をやさしく和らげた蜚廉が、
「よし、子パンダよ。最後に合体技と行こう」
 元気こぱんだとやんちゃこぱんだに呼びかけると、二匹は「なーにー?」と蜚廉の膝にタッチ。
「シーソー遊びは知っているな?」
 顔を見合わせたこぱんだが、蜚廉を仰いでこっくり頷く。
「おもいきり撥ねて、|反対のもの《とても重そうな石》を古妖に向けて飛ばすのだ。それが、何よりの支援となる」
「……何を言っているのです?」
 こそこそ内緒話が聞こえたのか、不穏な気配に警戒を示す金翠御前。だが作戦タイムを隠すようにパンダママたちが壁となって遮り、槍と拳の雨を叩き込む。
「さぁ、準備はいいか? ――思い切りやっていいぞ」
「きゅぅー!」
「きゅんいーー!」
 空中に二匹をやさしく放った蜚廉はシーソーに変身。くるくる回って落ちてくる二匹は重たいお尻でシーソーに着地! その拍子に反対に鎮座していた石がぽぉんと跳ね上がる。
 それは、ゆるく弧を描き反転した迷宮の天井を飛来すると、パンダママが刺し穿つ筍槍を鬼の手で鷲掴み、身体に到達する寸前で食い止めている金翠御前の後頭部にごつんと命中。あんまり良い音が鳴るものだから、こぱんだたちの歓声にパンダママたちの笑い声が重なった。

マナ・ウィスタリア・シートン

「かわいい子供のパンダちゃんいますねぇ」
 ふわっふわのもこもこたちがベビーサークルに囲われているのは何とも愛らしい。マナ・ウィスタリア・シートン(北斗七星の加護の元で・h07733)の子どもたちはもう一歳四か月で、立ち上がれば人間の身長を超えるほどの大きさをしている。もちろん我が子も可愛いけれど、このこぱんだたちの小ささは今しか見れない愛くるしさに溢れていた。
「母パンダたちが参加するって事ならぁ、あたしもぉ。子供たちを見てますよぉ」
「おや。あんたはグリズリーかい? こりゃあ心強いねぇ」
「あらぁ。あなたの子どももとっても可愛いわねぇ」
 そう。マナの背中にはパンダの帽子をかぶった子熊が二匹、腹ばいになって乗っかっている。可愛いと言われてにこにこ笑い顔の子熊たちに、パンダママたちがきゃあきゃあ盛り上がる。
「あたしの子供たちもぉ、遊んでもらいますからねぇ」
「一緒に遊んでもらいな」
「じゃあうちの子もお願いしようかしら」
 そう言って、マナの背中に続々と乗せられるこぱんだたちは、はじめて見るお友達に興味津々。すんすん匂いを嗅いだり、恐る恐る前脚でぽふっとしたり。自分たちの方が年上だからと、されるがままの子熊たちにマナも一安心。
 突入した館内は迷宮となっており、上も下もない入り乱れた建築が巡らされている。けれど獣の嗅覚と本能で迷う素振りもなくひた走る。マナは背中の子どもたちが落っこちないように、身体をあまり弾ませぬよう静かに駆けた。母の走り方を心得ている子どもたちは落っこちないようにとこぱんだたちを抱っこして背中にしがみついているのがいじらしい。
 そうして辿り着いた最奥は血の臭いがした。幾らか戦った跡が見受けられるがまだ金翠御前は真っ直ぐに立っていられるほどに余力を窺える。
「さぁ行くよ!」
 鎖鎌を持ったパンダママが初手、拳を振り抜いた。鎌の刃が金翠御前の肉を裂いて血飛沫を上げる。だが金翠御前は怯まず、異形巨大化させた鬼の腕で振り払いその巨体を弾き飛ばしてみせたのだ。
 豪快な戦いっぷりに感心するマナ。子どもたちが怖がらないように、忍ばせていた林檎を取り出すと「おやつですよぉ」とひとり一個ずつ配って気を逸らす。
 子どもたちに被害が及ばないように少し離れた場所に下ろすと、子熊たちが遠くへ行ってしまわないようにこぱんだをガードしつつ。そんな我が子とこぱんだが傷付いてしまわぬようにマナが盾となる。
「ここで遊んでましょうねぇ」
 もふもふとふわふわがくっついて、ころんと仰向けに転がったり、お尻が重たくて立ち上がれなくてぺたんと座り込んでいる子に林檎を食べさせたり。はたまたこぱんだ子熊こぱんだ子熊のトーテムポールになったりして。
「みんないい子ですねぇ」
 よい子たちの楽し気な声を受けてパワーアップするパンダママたちの攻撃が、迫力が、どんどん増しに増して金翠御前を追い詰める。
 逃れてきた金翠御前が子どもたちに気付き、カッと目を見開く。攻撃するつもりがあったのか無かったか、それはわからないが――マナは大きく振り上げた前脚で鬼の躯体へ拳を振り下ろした。
 傾ぐ金翠御前の眼差しは、どこか悲痛そうに歪んでいる。

雨夜・氷月
夜鷹・芥

 ベビーサークルに囲われたふわふわのもこもこたちは、一回り大きな身体をしたおにぎりの周りに集まっている。ぴこんと飛び出た短い尻尾をふりふり、真ん丸黒いお耳で皆のぷうぷうきゅうきゅう賑やかな鳴き声をうんうんと聞いているそれは、ハッと何者かの気配を感じて振り返る。
「きゅきゅ!」
 目が合った雨夜・氷月(壊月・h00493)は、他のふわもこたちより何だかしっかり者――むしろ悪さのひとつやふたつみっつやよっつしてそうなこぱんだを見つけてニヤリ笑む。
「よし、ガキ大将なアンタを連れてってあげよう!」
「んきゅぅ!?」
 抱きあげるとこぱんだたちが「ボスを連れていくなー」とばかりに氷月の両足にしがみつく。他の子たちに慕われている様子なので、きっといいガキ大将なのだろう。
「うん? パンダママの背中がいい?」
 腕の中で四肢をめちゃくちゃに暴れる活きの良さに笑ったのも束の間。
「俺の腕の中じゃ不服なの? ――った!」
 氷月の手にがぶーっと噛みつくではないか。なんて恐ろしい子。
 とは言えまだ顎が発達しきれていないのか、元より甘噛みだったのか軽々抜くことが出来たその手でこぱんだの鼻をふにっと摘まんでやる。
「まったく。大人しくしないと……おばけに食べられちゃうよ?」
「きゅんっ」
 お化けなんか怖くないやいボクは妖怪だぞとばかりにそっぽを向くこぱんだに「ふぅん」笑みを深めた氷月は、それまで透明化させていた猫姿の月妖を鼻先スレスレで実体化。
 突然パッと目の前に現れた月猫ににゃあと鳴かれたこぱんだは、ひときわ大きな鳴き声を上げてくたりと項垂れた。
「え、死んだ?」
「んきゅぅ!」
 生きてる。
 さてそんな風にあっさり子守りの相手を見つけた夜鷹・芥(stray・h00864)は、なるほど直感も大事か、と妙に哀愁漂うしょんぼり背中をしたふわふわおにぎりを抱っこ。
「きゅぅん……きゅぅん」
 めそめそ、しくしく。何が悲しいのか芥に抱っこされてもずぅっと鳴いているこぱんだは耳が垂れていて、ずいぶんと自分が飼っているぱんだと大違い。
「どうした? そんなに泣いて」
「きゅぅぅううっっ」
 あやそうとしただけなのに、何故だか鳴き声がひときわ大きくなって、それはベビーサークルの中にいるお友達もびっくりするくらい苛烈を極めていく。
「あーーパンダママが心配するだろ」
「あは、ぐずってる」
 なるたけ声をやさしく意識して背中をとんとんしてやるが、芥と目が合うとしっとりと黒く濡れた瞳がうるうる潤んで、しまいには前脚でおめめを塞いでしまう始末。
「顔が怖いとか? ちがう?」
「――ぐ、俺の顔がやっぱり怖いのか……」
「んふふ、泣かれてるー」
 泣き虫こぱんだのほっぺをつんつんする氷月。その片腕に抱っこされたガキ大将は子分をいじめられたと思ったか、四肢をわちゃわちゃさせて芥に向かって必死で空中を掻いている。
「そういう氷月のとこのパンダも随分とじゃじゃ馬……じゃねぇ、パンダじゃん」
「おっと、大暴れしないの」
「はは、暴れてら。ちょっと似てるんじゃないか」
「えー似てなくない?」
「子守りをするレアなお前も良いもんだな」
「……それ言ったら芥の子守りもレアじゃない? 記念に子守り動画撮っとく?」
「そんなもの撮ってる余裕があるならな」
 互いに子守りの相手を見つけたことで、氷月と芥はいざ館内へ。
 刀を提げたパンダママと、斧を両手に握ったパンダママの先導により迷宮を駆け抜ける。あまりじっくり仔細を見つめていれば目を回しそうな奇妙奇天烈な建築構造に、さすがの泣き虫こぱんだも興味津々。
 抱っこをしている腕があたたかいからか、こぱんだたちは思っていたより大人しくしてくれたので金翠御前が居る最奥に辿り着くのはあっという間であった。
「アレが鬼女?」
 楚々とした立ち居振る舞いの女がひとり。一行を見遣れば、眉間に深い皺が寄る。
「んきゅっ! きゅうぅぅ!」
「おっと、ガキ大将が暴れ出した!」
 なぜそんなに暴れているのかと思えば、どうやら真っ先に切り込んでいった侍パンダママの一閃が見事決まったことに興奮しているらしい。異形巨大化させた鬼の腕は複製した刀を持っているせいで中々の迫力があり、一振りするだけで大気を分断するような強烈な衝撃波を寄こしてくる。
「んっふふ、なら一緒にパンダママ応援しよっか」
 熾烈な戦いに目をきらきらさせるこぱんだを頭の上に乗っけて、さきほどの月猫たちを周囲でぴょんぴょこんと躍らせると、次第にふわもこの身体が弾みだす。応援を受けてママの攻撃は一層の破壊力を増してゆく。
 一方――。
 獲物が大きいと身振りも大きくなるものだ。むしろ腕によって死角が増えたと言ってもいい。
 まるで暗殺者のごとくその細い隙を衝くように右手の斧を脇腹に叩き込んだパンダママは、虫でも追い払うような仕草で寄越される刀を噛んで受け止め、もう片方の斧を肩口目掛けて打ち込んだ。
 そんなパンダママの様子をはらはらどきどきしながら見ているこぱんだは不安そう。芥の服をぎゅうっと握り締めて――怖いのも無理はないのだが――顔を埋めたりする臆病さだ。
 腰掛けた芥はいやいやするこぱんだを脚の上に座らせると、背中をとんとん叩きながら手品みたいにおやつを取り出した。
「おい、泣いてたらタケノコ食えねぇぞ」
「きゅぅん……」
「ママを応援してやらねーと」
 両手で筍を持った泣き虫こぱんだは、ちらりとママの方を見て、それから勇猛果敢に戦う姿をじぃっと見つめる。
「きゅっ!」
 重たいお尻でよろよろ立ち上がり、きゅうきゅう鳴いてママを応援。
「良い子だ、元気に手振ってやんな」
「きゅん!」
 ようやく元気の出てきたこぱんだを見て双眸を細くした氷月は、練り上げたパンダママの幻影をさらに二体、戦いの場に投入。ただでさえ徐々に火力の上がっていく面倒な相手だというのに、鬼の拳を揮ってもビクともしないパンダママとその幻影に金翠御前の顔に苦悶が浮かぶ。
 鬼の身体がまともに斬りつけられ、傾ぐ。
「せーの」
 芥の合図でこぱんだがすくっと立ち上がる。
「やっちゃえー!」
「んきゅぅぅぅ!」
「きゅぅぅぅん!」
 氷月と二匹の声援を受けたパンダママは刹那交わした視線に頷き合うと、息ぴったりに刃を叩き込む。左右からの挟撃を確実にするために前後を幻影ママに塞がれた金翠御前から、大振りの血の花が咲いた――。

システィア・エレノイア
クラウス・イーザリー

 いま、東京のあちこちは乱痴気騒ぎといってもいいくらいに姦しいのに、外界と切り離されたかと思うほど東京国立博物館は静けさに満ちていた。
 聞こえる音と言えば一体の大きなパンダママがのっしのっし歩く足音と、自分たちの靴音、そしてこぱんだのきゅんきゅん愛らしい鳴き声くらいだ。
 システィア・エレノイア(幻月・h10223)とクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)が預かったこぱんだは、眠たくて仕方がないのにママのことが心配らしく、ぐずって寝てくれないので手を焼いている真っ最中。
 学徒兵時代に下級生の面倒を見ていたことはあったけれど、まだ乳飲み子ほどの小さい子どもまではさすがに見たことがなかった。触れあった経験すら少ないように思う。抱っこをすることすら慣れていなくて、ただ抱き上げることすらとても怖いクラウスは、一々の動作をシスティアに尋ねた。
「どうすればいい……?」
「クラウス、少し肩の力を抜いて。片方の腕で下から支えるように」
「こ、これでいい?」
「うん、上手」
 まだ覚束なさは感じられるけど、システィアの言葉を信じて彼の通りに真似をすれば、次第にクラウスの真心が伝わるような体温のあたたかさで眠くなり、こぱんだも大人しく――、
「きゅ、ぅんっ!」
 ならなかった。
「わあ、暴れないで……!」
 仰向けに抱っこされているこぱんだは、手足をじたばたさせて元気いっぱい。びちびち跳ねるこぱんだにやさしく呼びかけるクラウスだけれど、こちらの言葉が届いていないのかちっとも聞いてくれやしない。
「ティア……」
 腕の中で跳ねるこぱんだを、それでも落っことさないように抱きかかえるクラウスが、途方に暮れた表情でシスティアを仰ぐ。
 情けなく眉が下がった表情に笑いを噛み締めたシスティアは「任せて」「さぁこっちへおいで」こぱんだを横抱きで受け取ると、支えるために下に回した大きな手のひらで背中をとんとん。それから揺り籠のようにゆらゆら左右に揺れてみせた。
 少しずつばたばた忙しない手足が落ち着いてきて、だらりと垂れてゆく。眠いのは本当だから、大きな揺り籠に揺られて眠りが戻って来たらしい。
「んきゅ……」
 小さく鳴く声は可愛らしい。クラウスはそっと顔を覗き込む。
 もちゃもちゃと口を動かしているのは、何か食べているつもりなのだろうか。こんなにも赤ちゃんなこぱんだを抱っこするのは、やっぱり怖い。抱く腕に力が入ってしまえば、壊れてしまいそうだから。
 クラウスはそうっと人差し指でふわふわのほっぺに触れてみる。
「あったかい……」
 思わず相好を崩して笑った、その時。
「んきゅううう」
「わ、わ、ごめんね! 頬っぺた触られたくなかったかな」
「はっはっは。てこずってるねぇ。ただぐずってるだけだから気にしなくていいよ」
 穴に腕を通してタイヤを担いだパンダママがにこやかに振り返る。どうせ林檎をあげても今なら泣くだろうから、と。むしろ、面倒を見るのが大変な子を押し付けるようにしてしまって申し訳ないと謝られてしまい、ふたりは急いで首を振る。
「ねーんね、おやーすみー」
 眠ってもいいのだと。怖いものはママがやっつけてくれるんだよって、システィアが子守唄を歌いながら尚も背中をとんとん。でも両手でおめめを隠したこぱんだは、いやいやっと頭をぶんぶん振ってそれからまた手足をじたばた。しまいには背中をのけ反らせて抵抗されてしまい、あまりの元気っぷり落ち込むより先に笑いが出た。
 不安がないと言えば嘘になるが試しにクラウスに抱っこを交代。びくびくしていてはきっとそれが伝わってしまうから、慎重にけれどリラックスした気持ちでこぱんだを受け取ったクラウスは、システィアの真似をして背中をゆっくりとんとん。身体を傾がせるようにゆらゆら揺れて子守唄を口遊む。
「んきゅぅぅ」
「えぇ……これでもだめ?」
(――ふふ)
 やっぱりこぱんだ相手に奮闘するクラウスも、こうなったら意地でも寝ないぞって意地になるこぱんだも可愛らしくてたまらない。相好を崩したように緩む表情を掌で隠しながら、システィアは貴重なシーンを焼き付けるように見守った。
(――幸せだ)
 なんて平和な姿なのだろう。
 クラウスがふわふわのもこもこに手こずっている様子を、システィアはいつまでも眺めていられる思いだった。
 とはいえ、ここは戦場。
 パンダママが敵の居場所を突き止め突入したなら、自分たちの役目はきちっと全うしなくてはならない。
 金翠御前の姿を見つけたパンダママがタイヤを円盤投げのように叩き込むや否や、回避を試みた躯体を爪を立てた右手でブン殴る。それを寸前で右掌で受け止め弾き飛ばした金翠御前。
 目が合うなり瞬きすら追い付かないほどの熾烈な戦いが始まった。システィアとクラウスは間合いを十分に取って、戦闘に巻き込まれない離れた位置でこぱんだを避難。
 床に下ろしてみると、ぺちゃりとうつ伏せになったこぱんだはきょろきょろあっちへこっちへ視線を向ける。それからすや……と眠りかけて、ハッと起きる。
「ほら、一緒に遊ぼう」
 そう言ってシスティアは太陽のような光を纏う鳥の幻影を、クラウスは不死鳥のような鳥を呼び出してこぱんだの頭上で飛翔させると、おめめをきらきらさせたこぱんだがきゃっきゃと笑う。
 羽でくすぐったり、ふわっと風を起こしたり。嘴でほっぺたやお腹をつんつんすると笑い声が弾んで、それがパンダママのちからになる。
 ようやっと笑ったことに安心したのか、パンダママはもう子どもを振り返らない。両手で掴んだタイヤを大きく振り回し、金翠御前の腹にぶつけて躯体を吹っ飛ばす。
「ママ頑張ってるよ、応援しよっか」
 システィアがこぱんだの顔を覗きこみ、パンダママを指差した。
「きゅ!」
 元気のいい一声にクラウスが破顔する。
「せーの、頑張れー!」
「きゅぅー!」
 我が子の声援を得たパンダママはタイヤを真上から振り下ろして穴に金翠御前の身体を捕らえると、そのまま豪快なキックを炸裂させた。

天ヶ瀬・勇希
アリス・アイオライト

「まあ、可愛らしい!」
「わーっ、可愛い! まるっこい」
 アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)と天ヶ瀬・勇希(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)はベビーサークルに囲われた、ふわっふわのこぱんだたちを見て目を輝かせる。
「お任せください、パンダママさん! こぱんださんは私達が守ります!」
「うん、お守りは俺らに任せてくれよ。パンダママが安心して戦えるよう、サポートするな」
 心強い意気込みにやさしく微笑んだパンダママたちは、逆にちんまりしたアリスと勇希に相好を崩しているのだが、愛らしいこぱんだたちにすぐ視線を奪われてしまうふたりは、そのことに全く気が付いていない様子。
 後ろ足でたっちして見上げてくるこぱんだに胸を撃ち抜かれつつも、アリスはふと思い出す。
「私は動物にはなぜか嫌われているのですが……」
 きっとおねむなこぱんだなら、抱っこして寝かし付けることくらいはできるはず!
 サークルのなかにお邪魔して、ぺちゃりとうつ伏せになってすやすや死んだように眠るこぱんだをそうっと持ち上げる。アリスの細腕に抱かれたこぱんだは、手足をだらりと垂らしてされるがまま。起きてしまえばきっとぐずってしまうに違いないから、アリスはそうっとそうっと胸に抱き背中をとんとん。
「あったかい……。もしいやいやされたら月抱で眠らせようと思いましたが、大丈夫そうですね」
「師匠、それってずるっこじゃないか?」
「そ、そんなことはありませんよ! たぶん……」
 一方の勇希はというと。元気が有り余っている子は、たくさん身体を動かしたほうがいいとの考えらしく、両手をぶんぶんさせて遊んでアピールをするこぱんだを抱っこ。黒い模様が他の子よりもいっそう垂れていて、にこにこ笑うのがなんとも愛らしいこぱんだだ。
「それじゃあ早速突入だ!」
「静かに、だよ」
 のっしのっし先陣を切るパンダママに、飽きれたように溜め息をつくもう片方のパンダママ。「よろしく頼むよ」とふたりに一声かけてから、ハンマーを肩に担いで俊敏に駆けていく。
「よぉっし、追いかけっこするぞ!」
「きゅん!」
 勇希は地面に下ろしたこぱんだの隣で足踏みすると、こぱんだもそれを真似して、てっちてっち左右に揺れる。後ろ足で立って走るのはむずかしいから、むんっと四つ足になったこぱんだに、よーいどん!
 アリスが合図を出してあげると、勇希と元気こぱんだは一目散にママたちを目指して猛ダッシュ。
「あっ、これ私も追いかけないといけないやつですね?」
 あっという間に小さくなっていく背中に「元気ですねぇ」なんて微笑を漏らし、弟子たちのあとを追いかけた。
 なるべく腕の中のすやすやこぱんだに震動がいかぬようにしたいのでアリスはゆっくりと走っていたのだが、角を曲がった途端ぺちゃりと尻餅をついて座り込んだこぱんだが、舌を出してはぁはぁ呼吸を繰り返しているのが見えて慌てて立ち止まる。
「疲れちゃったみたいだ」
「確かおやつを持ってきていましたよね?」
「そうだった! あげてもいい……?」
 勇希がそろりと見上げると、ママたちはにこやかに頷いてくれた。
 元気こぱんだを片腕に抱っこして、誤飲しないように包装紙を剥いた大福を握らせると、すぐさまやわやわふにふににかぷり。もっちもっちと頬を膨らませて咀嚼する姿に勇希は「美味しそうに食べるなぁ!」と感心したように大きく頷いた。
「んきゅぅ……」
 いよいよ起きてしまったかと思われたすやすやこぱんだは、しかしアリスの体温が心地良いのか、まだまだ夢のなか。
「はわわ、すやすや寝てます……可愛い……ふわふわ……」
 もちろん飼い猫も可愛くて大好きだけれど、丸くてぴこんとした小さなお耳や短いしっぽ。両腕にすっぽり収まるぬいぐるみみたいなふわふわころころは、うっとりしてしまうくらいの魅力に溢れている。
「って師匠、もふもふに夢中になってるけど、依頼だからな!」
「はっ、わかってますよ、ユウキくん」
 きりりと真剣な表情を浮かべたアリスは、それでもしっかりとふわもこを抱きしめた。
「これは戦いですからね、こぱんださんにだけ夢中になったりしませんとも」
 その割には手放すまいとした両腕だが。勇希は軽く師匠を睨んだけれど、パンダママたちが最奥へと通じる扉を見つけたらしくて意識がそれる。
 アリスと勇希は顔を見合わせ合うと、どちらからともなく頷いて。それから駆け出した。
 廊下にまで血の臭いが漂っている。どうやらかなりの連戦に追い込まれた様子が窺えるのに、それでもまだ二本の足で立ち続ける金翠御前へとパンダママたちが挨拶代わりの攻撃を仕掛けてゆく。
 まずハンマーを振り上げたパンダママが金槌部分を金翠御前の横っ面目掛けて振り抜いた。分かりやすい攻撃を横目で見遣り、見切った金翠御前がその場に立ったまま微動だにもせず鬼の手で金槌を受け止める。
「甘いですよ」
「じゃあこれならどうだい?」
 ハンマーごとくるり絡みついたのは蛇のようにうねる鞭。大きな腕を絡め取ったもう片方のパンダママは、鞭を思い切り引っ張って金翠御前を手繰り寄せると腹へと拳をめり込ませる。かふ、と吐血した金翠御前は憎々しげにパンダママを睨みつけ、顔面に右掌を押し付けそのまま巨体を床に張り倒す。
「きゅぅ……?」
 凄まじい迫力に驚いたか、さすがのすやすやこぱんだもお目覚めの様子。うとうとしたまま周囲を見渡して、首を傾げて、それから抱っこしているアリスを見て、ぴしりと固まる。
「あ、ついに起きちゃいましたね……」
 アリスはしょんぼりしつつふわもこのぬくもりを勇希に託し、アイオライトを嵌めた白銀のウィザードロッドを手に取った。きっと自分だと遊ぶ前に逃げられてしまうから、ここはパンダママのフォローに徹した方が良さそうだ。ふたりが動きやすいように、魔法で横やりを入れ隙を作る。
「よーしじゃあみんな、応援ごっこだ! パンダママに誰が一番でっかい声援送れるか、競争だぞ!」
「きゅん!」
「きゅぅー!」
 ぺたんと座り込んだすやすやこぱんだと、後ろ足でたっちしてゆらゆら左右に揺れて応援する元気こぱんだが勇希の掛け声に応じて両手をふりふり。その様子を尻目に見やったパンダママたちは、にこっと笑うとあとはもうふたりに任せたとばかりに鬼女へと猛攻を重ねていく。
「よぉっし、俺だって!」
 きらり。勇希はまるで魔法使いのような姿に変身すると、ちかちかと火の粉を散らす美しい炎の矢で援護射撃。その炎の勢いを増すように一陣の風を生み出したアリスの魔法が絡み合って金翠御前の身体を貫いた。
「くっ……」
 よろけても脚を鞭で絡め取られて身動きの出来ぬ鬼の身体にハンマーが振り下ろされる。良い音を奏でたそれに、こぱんだたちはぴょーんと飛び上がってひときわ大きな歓声を上げ「ママすごい」ってアリスと一緒に拍手喝采を浴びせるのだった。

井碕・靜眞

 もきゅっとしたお口が、何やらぷいぷい口遊んでいる。
「……物部さんと一緒に居なくてよかったのか?」
 どこか疲れた様子の星詠みに「行ってくるねー」とバイバイして自分についてきた頭上の|歓歓《ほぁんほぁん》にそっと呼びかける。
「きゅぅ?」
「嫌ってわけじゃないよ」
 井碕・靜眞(蛙鳴・h03451)はそっと吐息すると、ベビーサークルに囲われたこぱんだたちを覗き込んで最初に目が合った子を抱き上げた。
(あったかい)
 ふわふわの命はきょとんとして靜眞を仰いでいる。
「ええと、よろしくお願いしますね」」
 じぃっと見つめる視線に耐えかねたように声をかけると、腕の中のこぱんだが元気よく鳴いた。
「きゅぅー」
「んきゅー!」
 何のお喋りをしているのだろう。二匹はきゅんきゅん鳴いて笑って楽しそう。
「わ、わ」
 その内こぱんだが歓歓に近付こうと腕の中でうごうごするものだから、慌ててひしっと抱っこ。それでもまだ手足をばたばたさせて空中を泳ぐので、もう大変。
「わっわかった、から! は、はしゃいでる……?」
「きゅんっ」
 歓歓が靜眞の頭をぽふぽふしている。たぶん頷いているのだろう。
 ひとりでは大変だと直感して真白の遣いたちを呼び出すと、どこからともなく現れた二匹に元気なこぱんだが目をぱちくり。あやすように鼻先に揺らされる尻尾を捕まえようと短い前足が一生懸命伸ばされる。
「ん、尻尾と狐火が不思議だよな」
 ちらちらと揺れる狐火に夢中になっている隙に、靜眞はパンダママとアイコンタクト。静かな今のうちに館内へ潜入して迷宮に踏み込んだ。
 奇妙な建築はあまりじっと見ていては目を回してしまいそうだ。何が本当で、偽物なのか分からなくなる。それにだまし絵のような道をパンダママが猛進していくものだから、付いて行くのも大変。
「んきゅう……」
「ん。お腹空いた?」
 ジャケットに忍ばせていたおやつを取り出し、管狐に包装紙を破ってもらい口元に運び、それからもうひとつ取り出してまた破ってもらって頭の上の歓歓に。そうしているとパンダママとの距離がすっかり開いていることに気付いて大慌ててで、でもクッキーが喉に詰まらないように静かにダッシュ。
「……い、忙しい……!」
 そんな風に二匹の面倒を見ながらなんとかパンダママに追い付けば、それはすでに金翠御前へと攻撃を仕掛ける背中であった。大きな番傘を槍のように衝いて鬼の躯体を貫く一撃に合わせて、すぐさま支援射撃。
 足元の影からぞうぞうと這い上がる精神汚染と昏い呪詛が絡みつくのを横目に、腕の中のこぱんだが抜け出そうとしているのを阻止。高い高いでごきげんを取ってみる。
「あっちはだめ」
 ぴょんっと頭上から下りた歓歓が「こっちだよー」と手をふりふりして上手に後ろ足でてちてち駆けるのを見て、これなら大丈夫かと靜眞がそろりと下ろした、そのとたん。
「……ってあっ! そっちは危な……」
 脱出! とばかりに方向転換したこぱんだが戦うママと金翠御前に向かって一直線。連れ戻そうと歓歓も追いかけていくのを見て肝を冷やした靜眞は弾丸を数発打ち込み金翠御前の動きを止めると、なんとこぱんだががぶーっと鬼の足にかぶりついたではないか。
「かじった……!? 今敵をかじった!?」
 瞠目しながらも二匹を両脇に抱え、弾かれるようにその場から逃れた靜眞は全力で逃走、距離を取る。
 ぜぇ、はぁ、と肩で息をする靜眞を歓歓が心配そうに見上げる一方。
「……怪我してないか? って。ね、寝てる……」
 くてんと仰向けになってこぱんだがぷうぷう眠っており、とんでもない大物を預かってしまったことに気付いた靜眞であった。

恵宮・アキ

 ベビーサークルに囲われたふわふわもふもふのこぱんだたちを覗き込み、その可愛さに目口を和らげた恵宮・アキ(人間(√EDEN)のレゾナンスディーヴァ・h13025)は、でんぐり返りをして目の前にころりんやってきた子と目が合った。
「きゅぅ?」
 首を傾げて「だぁれ?」と言うかのような仕草につられて首を傾けたアキは、後ろ足で立ち上がっててちてち歩いてくるこぱんだをキャッチ。抱き上げるとうれしそうに手足をぱたぱたさせて元気いっぱい。
「あたしと一緒に行こうか」
「きゅう!」
 しっかりと両手で抱っこして、それからパンダママの方を振り返る。
「大丈夫そうかい?」
「はい。しっかりお守りしますね」
「よろしく頼んだよ。じゃあ早速行こうか」
 手に鏢を握り締めたパンダママが先導して館内へ潜入。こぱんだは奇妙な広がりを見せる廊下や、天井に伸びる逆さまになった階段、それから動く額縁などを見て目をまんまるさせている。
「怖くないよ」
 ぎゅうっとしがみ付いてくる手に気が付いて、アキは背中をとんとんやさしく叩いてあやせば、黒く濡れた瞳が見つめてくる。だからアキは安心させるように、黒い双眸をやわらかに細めて笑いかけた。
 のっしのっしと豪快に駆けるパンダママは「あの奥だよ」「準備はいいかい?」アキを振り返った。呼びかけに力強く頷いたアキはこぱんだをしっかりと抱きしめて、大きなパンダママの背中に隠れるように広間に突入する。
「まだ現れますか……懲りませんね」
「あんたが消えてくれりゃあ、いい話さ!」
 呆れたように吐息する金翠御前の首に鏢が絡みつく。それを厭わしそうに掴んだ金翠御前は爪で縄を切ろうとするも、それより早くパンダママの突進が寄こされた。肌がひりひりするくらいの殺気がぶつかりあう。
 間合いから十分に離れた場所で待機していたアキは、腕の中のこぱんだがわちゃわちゃに手足をばたつかせて――恐らく戦っているつもり――暴れるので、あやす目的と、そしてなによりパンダママをフォローするために歌を歌う。
 紡がれるメロディはやさしくて、間近で耳にしているこぱんだの目が心地よさそうにとろんとする。
「見てごらん、こぱんだちゃん」
「きゅ?」
「あなたのママはとっても強いんだよ」
 いくらか落ち着いてくれたこぱんだを抱きかかえ、異形巨大化した鬼の腕を掴んで背負い投げを決めたパンダママに、こぱんだは大きな歓声を上げたのだった。

香柄・鳰

「お母様方、ごきげんよう」
 凛として澄んだ女性の言葉にパンダママたちが振り返ると、そこにはおっとり微笑む香柄・鳰(玉緒御前・h00313)の姿が。彼女はベビーサークルの中にいるこぱんだ幼稚園を覗き込むと、ふわふわもふっとした愛らしい姿に相好を崩す。
「大事なお子様、責任をもってお守りします。こぱんださん達の愛らしさはこの目にも良く分かります」
「こりゃあ強そうなお嬢さんだ」
「お言葉に甘えようかしらね」
「ええ、どうぞお任せを――あら?」
 ころころぽすん。鳰の元へと転がってやってきたもふもふおにぎり。丸くてふわっとしたそれは、すぐに四肢をぺちゃんと放り出して動かない。
「寝返りかしら? ふふ、まだ寝ていらっしゃる!」
 膚にひりりとするくらいの緊張感。それも古妖討伐という荒事の前だというのに、すやぴぴしている大物感に鳰は小さく笑む。起こさないようにとそぅっと手を脇の下に差し込んで、そろり抱っこ。
「……柔らかくて、あたたかい」
 腕の中でねむねむしているこぱんだは、ほどよい重みとあたたかさをしており、抱っこしている鳰の方までなんだか意識がほぐれてしまい、睫毛が重たくなってしまいそう。
「私も赤ん坊の頃はこんな感じかしら」
 いのちの温度を、愛しいと思ってくれただろうか。
「さぁ行こうか。準備は良いかい?」
「――はい。いつでも」
 想いを振り払った鳰は、しっかりとこぱんだを抱きしめていざパンダママと館内へ。
 夜行ならではの不思議な建築技術と迷宮は時おり一行を惑わせにきたが、こぱんだが大人しく眠ってくれていたので突破に専念することが出来た。嗅覚と厄介な古妖への怒りが導いたのか、最奥へと辿り着くのにそう時は要らなかった。
「あの者が金翠御前? ……そう、母も色々ですね」
 パンダママがゴロゴロと雷が鳴る刀を振り下ろし、金翠御前の鬼の腕を叩き切ろうとする気迫が伝わったのか、こぱんだがもにょもにょ動き出す。
「こぱんださん起きました?」
「んきゅぅ……?」
 黒くてまぁるいおめめをぱちぱちさせて「ここはどこ?」と周囲をきょろきょろ。戦っているママのことが良く見えるように角度を変えると、ちょうど金翠御前の拳がママの頭を殴り付けるところであった。
「きゅっ!」
 殴られても、しかし倒れる気配がないパンダママは、切っ先を腹目掛けて突き出した。それを鬼の手が鷲掴みにして、双方ギリギリと互いの力を圧しつけ合う。
 ぴょんと鳰の腕の中から飛び出したこぱんだは、しゅたりと地面に着地。
「危険だから後ろに下がって……」
「んきゅ!」
 後ろ足でむんと立ち上がり、ママと金翠御前を指差してふんすふんす鼻息を荒くする。
「まあ、そう。ご一緒してくださるの? ふふ、本当に頼もしい!」
「きゅん!」
 鳰は鞘からすらり大太刀を引き抜くと切っ先を金翠御前に突き付け、もふっと丸まったこぱんだに呼びかける。
「どちらが回るか競争です!」
「きゅーっ!」
 ころころころっともふもふおにぎりが転がっていく。そのあとを追いかけるように鶎の能力を使用した鳰は、こぱんだとパンダママの回避力と生存力を増幅させながら、自身もこぱんだを真似してくるり回転、鬼へと切りかかる。
 ひらり、舞う花びらのように。パンダままに羽交い絞めされた鬼へと切っ先を躍らせる。足元では転がりタックルを決めるこぱんだが得意気に鳴いて、もう一回と大きく円を描いた遠心力でふたたびころころ突進。
「……全く」
 己の身体から血の花が咲いて舞っても、金翠御前は決してこぱんだに手を出そうとはしなかった。そのことに気が付いていながらも、外れた拳が齎す祟り場に触れさせぬように、鳰はこぱんだを抱きかかえて決してそのふわふわを穢すことをしなかった。

夕星・ツィリ
熊・蕾蓮

 東京を跋扈するどんちゃん騒ぎは未だ健在だったが、東京国立博物館を飲み込んだ禍々しい空気は次第に薄れてきているようだった。恐らくは次で古妖を退けることも出来るだろう。
 薄まりつつある気配に気を引き締めようとした、そのとき。
「可愛い子のお守り任されました! 精一杯頑張るね」
「母は強しアルな。パンダママの安心の為にも子守り頑張るアル!」
 ベビーサークル内のこぱんだ幼稚園でふわふわもこもこのこぱんだたちに囲まれている夕星・ツィリ(星想・h08667)と、熊・蕾蓮(熊猫獣人の鉄拳格闘者エアガイツ・h08184)から頼もしい言葉がやってきて、パンダママたちは微笑ましそうに、そして嬉しそうに破顔する。
「どうやらあなた達で最後みたいなの」
「古妖と決着をつけるアル?」
「そういうこと。よろしく頼むよ」
「あたしらがとどめを刺すから、子どもたちを見てくれてるだけでいいよ」
 そういうことなら、とふたりはどの子をお世話しようかとふわふわころころあっちへこっちへ転がるこぱんだたちを一望して。
「こぱんだふわふわ……」
「ころころしてるねぇ。……うん?」
 つんつん、と足をつつく感触に気が付いたツィリが視線を落とすと、尻餅をついたように座り込んだこぱんだが、しっとり濡れた黒い瞳をきらきらさせてじぃっとツィリを――彼女が手にしたお菓子を見つめている。
「食べてみる?」
 汚れないようにスカートの裾を膝裏に差し込んでしゃがみ込んだツィリが、クリームを挟んだスポンジケーキを口元に寄せると、すぐにぱくっ!
「わっ! 私そっくりの食いしん坊さん!」
「きゅぅー?」
「貴方のお世話係に立候補します!」
 口の周りにいっぱいついた欠片を払い落してからふわふわのもふもふを両手に抱っこ。ふしぎそうに首を傾げて見つめてくるこぱんだに目口をやわらげるように微笑んだツィリが、蕾蓮のほうを振り返ったとき。
「……ん? このコ身体登ってくるアル!?」
 どの子をお世話しようかともふもふたちを吟味していると、やたら足腰の強いこぱんだが蕾蓮の足にしがみついて離れない。しかもよじよじ登って来るではないか。
「ワタシは竹でも滑り台でもナイヨー!?」
 慌ててこぱんだの脇の下に両手を差し込み引き剥がそうとするも、
「んきゅーー」
 やだやだと言わんばかりに首を振って蕾蓮にぎゅっ!
 そのまま背中に回って肩に乗り、頭のてっぺんに登り詰めると満足したようにふんすと鼻を鳴らしてご満悦。
「その腕白ぶりや良し! 一緒に来るアル!」
「きゅん!」
「二人はもう仲良しさんなんだね!」
「なぜだか気に入られたヨー。ツィリのコは食いしん坊アル? 可愛いアル~」
 お互いのこぱんだに挨拶し合っていると、パンダママたちがのしのしやってきた。
「よし、決まったようだね。それじゃあ突入するよ!」
 ふたりはしっかりと頷くと、麗珠槌と鉄爪を装備した二匹のパンダママに先導され館内へと潜入する。
 ひやりとした館内は、奇妙なくらいに静まり返っている。迷宮はところどころ現実が覗いており、やがて元通りになるのも時間の問題と思われた。けれど、解けかけた不可思議な景色がいつこぱんだの気を引くとも限らないので、蕾蓮はぽぉんぽぉんとこぱんだを軽く放って高い高いをしつつ、遊びに夢中にさせている。
「もう一回」攻撃をなんども繰り返して、ぽいぽいと鞠のように弾むこぱんだはまたまたご満悦。でもさすがに疲れてきたのか、腕のなかでぺちゃりとだらしなく手足を垂らしてやり切った感を出している。
 ツィリはそんな微笑ましいふたりの姿を見てにこにこ笑顔が止まらない。
「蕾蓮ちゃん、なんだかお姉ちゃんみたいだね」
「お姉ちゃん……イイ響きネ」
 金色の瞳をきらきらさせて、余韻に浸るようにぼうっとしてしまう蕾蓮だったけれど、ツィリの腕の中で夢中でお団子を頬張っている食いしん坊こぱんだに気が付いた。
「ツィリのコは本当に食べるの好きネ! 良い事ヨ」
「貴方はお菓子があればご機嫌さんだね」
「沢山たべて大きくなるアル!」
「きゅぅん!」
 微笑ましく感じているのはパンダママたちも同じであった。
 いよいよ最奥の金翠御前の元へと辿り着く。扉を隔てた奥から伝わってくる殺気は鋭く、けれど弱々しい。
「さぁ最後の大勝負だよ」
「子どもたちをお願いね」
 パンダママたちは扉を開け放つなり、握り締めた武器を振り上げ母なる鬼女『金翠御前』へと突撃して行った。その背中を見送ったツィリと蕾蓮は、
「あっ!」
 腕のなからぴょんと飛び降りたこぱんだたちに目を丸くする。
「二匹共走ってったアル! 待てアルー!」
 興味津々一目散にダッシュして館内をあちこち冒険し始めるこぱんだたちを追いかけると、鬼ごっこと勘違いしたのか意外にも素早いころりんダッシュがふたりを翻弄。
「んきゅきゅっ!」
「きゅふーっ」
 楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
 何とか追い付いたツィリがこぱんだの前に回り込んでふわもこをキャッチ! ――しようとした寸前で急ブレーキをかけたこぱんだが、するりと物陰に滑り込んで隠れてしまった。
 急いでしゃがみ込み棚と床の隙間を覗き込むと、ふわもこは見当たらない。おかしいなと思って立ち上がると、背後でころりん走るてちてち足音が。振り返ると白黒の残像が展示物の影にひょいと消えた。
「かくれんぼが始まちゃった……!」
「隠れる場所沢山アルからネー……」
 どうやら蕾蓮のほうも捕まらないらしい。
 さてどうしよう? 顔を見合わせたふたりはいち、に、さん。考えて。
「よし、かくれんぼヨー! もーいいかい!」
「もーいいかーい!」
「きゅーぅ」
「きゅん!」
 あっちからこっちから返事が返ってくる。パッと表情を明るくさせたふたりは今度は頷き合う。それから声が聞こえたほうへ二手に分かれた。
「何処行ったのかなぁ」
 両手で抱えきれないほど大きな展示ケースの裏を覗き込むと、ちょうど隅の角になった影に、こちらに背を向ける形で丸まった白いふわもこが。
「あ! いた!」
「きゅ!?」
 伏せていた黒い耳がぴこんと立って、ツィリのほうを振り返ってぱちぱち瞬き。どうやら白い綿毛のつもりで隠れていたみたい。すぐさま抱っこをして捕まえると「負けちゃった~」と言うかのようにツィリに寄りかかる。それから「おかしちょーだい?」と首を傾げておねだりするものだから、おかしくってツィリは笑ってしまった。
「ツィリ流石ネ! ワタシも探すヨ」
 蕾蓮はパネルの上や、奇妙に曲がりくねった階段の裏を覗き込んでみた。迷宮化した際に騙し絵のように変化したそれは、じぃっと見ているとなんだか混乱してしまうからあまり近付きたくないのだけれど。
「みーつけた!」
 こぱんだにはそんなこと関係ない。
 こっちの腕白こぱんだは、なんと階段の踏板裏にセミのように張り付いて隠れる器用さだ。一見しただけじゃ分からない巧妙さにさすがの蕾蓮も舌を巻く。
「落っこちるアルヨー」
 慌てて手を差し出して背中を支えると、見つかったことを残念がる声を上げながらぽすりと身を預けて来る腕白こぱんだ。もふっとキャッチした蕾蓮はそのまま胸に抱き上げると、隠れるのが上手だったと頭をいいこいいこ。褒められて満更でもないのか、むふーと胸を張る様子に蕾蓮の眦がほんの少し柔らかくなるのだった。

 遠くから、子どもの笑い声がする。
 それはひどく懐かしくて、女の胸を衝いた。
「もう諦めたらどうだい?」
 諭すような言葉に吐息が落ちる。だらりと垂れた鬼の腕は空虚を掴み、最愛の我が子を抱くには至らない。
「……今回は、下がりましょう」
 鬼女は呟いた。
 己の負けを認めた瞬間である。

 かくして東京国立博物館を占領していた古妖は退いた。
 ツィリと蕾蓮がそれに気が付いたのは、まだもう少しあとのこと――。

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