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🟢第3駅:浜松 月蝕
シリーズシナリオ
シリーズシナリオは、トミーウォーカーの指定したマスターひとりが、ルートエデンの重要局面を最初から最後まで担当する連作シナリオです。途中のシナリオで王権決死戦が発生する場合もありますが、その場合は該当シナリオが始まる時に告知します(このシナリオでは絶対死しません)。シリーズシナリオでは、ページ右上の
――静岡県浜松市。
静岡県西部に位置し、後の天下人たる徳川・家康が拠点とした浜松城がある事で知られている。
日本で2番目の大きさを持つ湖『浜名湖』を抱え、鰻と聞けばこの街の名を思い浮かべる者も多かろう。
その浜松市であるが、古くから多数の楽器メーカーを輩出してきた『楽器の街』でもあり、『楽都』とも呼ばれているという。
それだけではない。かつての1970年の大阪万博の開会式に於いて、大阪の空に『EXPO’70』の文字を描いた航空自衛隊の曲技飛行隊ブルーインパルス。
この空自の花形とも言える部隊も、1982年に宮城県の松島基地に拠点を移すまでこの浜松基地の所属であった。
今現在に於いても、この街から生まれた世界に名だたる自動車やバイク、音楽機器を生産するメーカーが軒を連ね、新幹線の整備工場をも備える、工業の街なのだ。
そんな機械と深い繋がりを持つ街であるからには、東海道管内のロボトロンやヒーローたちが使用する数々のマシンを整備し、開発を行う重要な基地が此処に置かれているのも、当然の流れであろう。
ヒーローたちの活動を支えるこの拠点を守るため、空自からは選りすぐりの√能力者たちが派遣されてもいる。
彼らは各メーカーが秘密裏に技術を提供しあい、その粋を以って完成させた重甲を身に纏い、万が一に事件が起きれば即応した。
――それだけの防備を整えていた浜松基地が、今。燃えていた。
●
――航空自衛隊浜松広報館・エアーパーク前。
「此処はアタシが食い止める! アンタも早く逃げなッ!」
身の丈程はあろうかというスパナを担いだロボトロンが、背後に向けて声を張り上げるが。
その背に守る白に鮮やかな青を差した装束を纏った魔法少女は震えて立ち竦み、その場から一歩も動けない。
涙と怯えの色を浮かべた少女の目には、希望を喰らう恐るべき怪物、デザイアモンスターたち……ではなく。
鬼神の如く暴れ、空自の重甲装着者たちを屠ったアンノウンの姿が映っていた。
さて。デザイアモンスターという存在は、『|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》』によって覚醒した直後の魔法少女のみを襲うと誤解されがちではあるが、そうではない。
人間の『希望の心』を動力として動く欲望の怪物は、その『心』が得られるなら他の獲物も狙い得る。
成人年齢に達していない少年少女、特に魔法少女の『心』が『動力』として優れているから、優先して狙うというだけの話なのだ。
そして今日、このエアーパークを訪れた学生たちの中に、偶然にも魔法少女に覚醒済みの少女がいた。
ただでさえ希望に満ちた年頃の子どもたちが溢れる中に、覚醒済みとはいえ美味そうな獲物までいるのである。デザイアモンスターたちが狙わぬわけがない。
突如として湧き出した黒い影に気付いた魔法少女は、学友たちを施設の中に批難させて、自らは囮となって時間を稼ぎ。
そして間もなく駆け付けた空自の重甲装着者たちとロボトロンによって、怪物たちは直ちに殲滅された。
何せ、空自の膝元である浜松基地である。出動も早ければ、あの希望を喰らう怪物たちに軍人として鍛え上げられた√能力者たちの相手が務まる筈もない。
――が。デザイアモンスターたちを一蹴した後に現れたアンノウン。
空自の精鋭たちは、この正体不明の敵の歯牙にも掛けられなかったのである。
楽都の技術の結晶たる鎧は無惨にも砕け散り、倒れた隊員たちは微塵も動く気配が無い。
『人の死』を見たのは、魔法少女にとって初めての事であったのだろう。恐怖で動けなくなるのも無理もない。
この場で辛うじて彼女たち非戦闘員を守り得る戦闘力があると言って良いのは。
最早この、女性に極めて近しい外見を持った、虎耳のロボトロン……『ナオトラ』のみであった。
「なんでだよ……! なんだって、アンタがこんな真似をする……!」
破壊活動から、ターゲットを切り替えた襲撃者とナオトラの目が合う。
ボディの色は違う。だがその特徴は、紛れも無く知己のものであった。
ナオトラはスパナを握り締め。無数の残像を発生させながら迫り来る襲撃者に向け、叫ぶ。
「答えろッ!! コダマァッ!!」
暴虐を詰りながら横薙ぎに繰り出されたスパナを、コダマと呼ばれた漆黒のロボトロンは目にも止まらぬスピードで難なく躱し。
返答の代わりに繰り出した拳が、浜松基地のロボトロンの意識を一撃の下に刈り取った。
●
「コダマ、くん……? だよにゃ……?」
その星を詠んだ猫耳の星詠み|瀬堀・秋沙《せぼり・あいさ》は、信じられないとばかりに予知の中に見えたロボトロンの名を呟いた。
――コダマ。
神田神保町で発生した魔法少女現象の際に、EDENの√能力者たちと初めて共闘し。
万世橋の秘密基地で、彼が見たという『夢』を切っ掛けに、『夢』について語り合う座談会を催して交流し。
そして何らかの事件に巻き込まれ、桜木町で消息を絶ったロボトロンである。
「色は違うし、雰囲気も違う……けど、やっぱりコダマくんにゃ!」
桜木町から西南西の方角にいるという、√能力から得られた情報はあったが。その丸みを帯びたボディは、見紛うことなく彼であった。
しかし、白色の上に『|青20号《ブライトブルー》』のラインを引いたボディは漆黒に染まり。
武骨さを増したデザインからは、脱落した肩パーツや破損した背中の修理も兼ねて、何者かに改造を施された事も窺えた。
――恐らくは鹵獲されたのだろう。
横浜駅基地の探索を経て、この推論に至った√能力者は多く、生存はほぼ確実視されていたが。
なるほど、桜木町で発動された√能力の一つが満足に発動しなかったのは、姿に変化があった事も関係していたのかもしれない。
そして。いざ改めて、敵側の戦力として稼働しているところを見せ付けられたなら。
「……みんなは、コダマくんと、戦える?」
改めて、その覚悟を問われるというものである。
魔法少女を守り抜くため、我が身を捨てて怪人に立ち向かった彼と。
和やかな空気に満ちた座談会で、『夢』を語り合った彼と。
凶報を耳にし、その消息を探し求めた彼と。
――皆は果たして、戦えるのか。もしもの時には……討てるのか、と。
「知り合いにも容赦なく攻撃してたから、声が届く可能性は低いと思うにゃ……。
それに、空自の腕利きの重甲装着者さんたちが、全く相手にされなかったみたい、にゃ。
どんなに強力な√能力でも、速さや残像を活かして範囲外に逃れたり……撤退させるのが精一杯、かも」
横浜駅基地で破壊の限りを尽くした『襲撃者』によって強化されたのであろうか。
予知に見えた彼は、間違いなく√能力を使い、敵対者に『絶望』を与える実力を得るに至っていた。
シンプルに硬く。強く。何よりも、疾い。
力と策を尽くさねば、浜松基地の救援『失敗』も有り得るだろう。
「コダマくんはものすごく速いから、重甲装着者さんたちを助けるのは難しいかもだけど……ロボトロンさんと魔法少女さんを助けるのには、間に合うと思うにゃ」
彼に声が届く可能性に一縷の望みを託すも、これ以上の凶行を重ねさせぬために破壊するも、先ずは救援を成功させねば話にならない。
――友と、如何に対峙すべきか。
ある者は迷いを抱え。またある者は覚悟を決め。
√能力者たちは、変わり果てたロボトロンが現れた浜松基地へと急行する。
第1章 冒険 『非常警報発令』
――航空自衛隊浜松広報館・エアーパーク前。
浜松基地のロボトロンと魔法少女に襲い掛からんと残像を発生させて迫る、漆黒のボディに変異したコダマ。
その躯体、脚に内蔵されたホイールが音を立てて急停止した。
「…………」
白色に輝く眼で無言で見遣るのは、この場に急ぎ駆け付けた√能力者たちの姿である。
恐らくは、コダマにとって見知った顔も居る事であろうが……超特急のロボトロンは、彼らに対しては何ら反応を示さない。
それよりも、立ちはだかる彼らの戦い方が空自の重甲着装者たちとはまるで違うであろう事を警戒しての事であろうか、退路を確認する様に屋外展示場の背後、およそ2,550mの滑走路を持つ『浜松飛行場』に視線を巡らせた。
『万博の走るパビリオン』とも称されたベースの様に、元々から加速力、瞬発力には優れていたロボトロンだ。
普段は空自のパイロットたちがランニングのために利用する、外周のアスファルトの道……ここから通じる、滑走路の広大な直線に逃げ込まれては追い付く事は難しいだろう。
或いは、退路を断つ包囲殲滅戦は、往々にして包囲を食い破らんとする敵により被害が増すものだ。
この黒いコダマに対して撤退の余地を残しておくことで、被害を最小限に抑えられる可能性もある。
――と。あまり考えている暇はないようだ。
「…………」
改めて戦況の把握を終えたロボトロンの武骨な黒腕に、『|希望《のぞみ》』を乗せたかの如き虹色のオーラが宿る。
神田神保町の戦いでは魔法少女による|強化《バフ》があって初めて展開されたものだが、彼単独で発動できるようになったとでもいうのであろうか。
(――……作戦の第2段階を開始する)
電脳に記録された命令を復唱すると、内蔵されたホイールが再び唸りを上げ。
『目的』を達成するべく、漆黒の|弾丸列車《ブレット・トレイン》の加速が始まった。