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Trampling on Blooming
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美辞麗句と共に語られる形なきものの何と脆いことか。
たとえば友情。たとえば家族愛。たとえば絆。
たとえば――狂おしいほどの慕情も。
「このくらいで壊れちゃうくらい簡単なのに、永遠なんて誓おうとしちゃったの? ヒトって不思議だね」
打ち捨てられた花を意にも介さず踏みしめた悪魔が無邪気に首を傾いだ。頭を垂れる男を見下ろし、鋭利な尾を女の首に向けたまま、十字の眼が笑う。
愛も絆も踏みにじられた花弁と同じだ。甘美な未練と後悔と罪悪感の味に楽しげに笑う女の声が静謐な泉の湖面に響いた。
「あんなに一生懸命だったのに。よく分かんないけど、絆っていうのを確かめに来たんでしょ? なら、もっと頑張らなきゃ! ね! くふ、ふふふ!」
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「花に興味はあるか?」
炎の燻る眼差しが瞬く。オルテール・パンドルフィーニ(Signor-Dragonica・h00214)の指先がペンを回して、懐こく笑みを零した。
「√ドラゴンファンタジーの小国に、花畑を売りにしてるところがあるらしい。付近に長らく発生してるダンジョンの影響か、でなければ土地柄か、竜漿を宿した花が咲くそうだ」
曰く、花畑の中には未だ蕾のままの花もあるという。その咲くところを目に出来れば幸福の祝福が与えられる――との伝承つきである。殊にこの時期は随分と賑わうようで、人々がこぞって花畑に訪れているようだ。
一人一本、好きな花を切って持って行って良いことになっている。同行者と交換しても、己のお守りとして持っていても構わない。持ち帰って差し出したい相手がいるのならば土産にするのも良いだろう。
「ジューンブライド、だったか。すっかりプロポーズ目当てのカップルメインのイベントのようになってるが、本来の意義は特段そういうわけでもないようだよ。実際、世話になってる友人だとか、家族だとかに贈る者も多いらしい。むろん意中の相手に、だとかも含めて」
そういうものに興味がなければ――星詠みは自らをペン先で指しながら朗々と続ける。
「そこらの飲食店から花畑を遠目に眺めるだとか、土産物屋でも見て回るだとか、どうだ。押し花の栞は幸運のお守りとして評判だそうだよ」
むろん効果のあるものではないが、こういうものは気分の問題だ。ともあれ時間を潰して、問題となる付近のダンジョンに向かってもらいたいと、人竜は言う。
――特段危険のあるものではなかった。つい最近までは。
死に至るような危険性がある場所ではないものの、構造が複雑で深部に辿り着くことも難しい。やたらと攻略しにくいだけで|映える《・・・》ような場所ではないせいか、ぽつぽつと訪れる冒険者も今の今まで踏破しえなかったようだ。
そこに悪魔が棲みついた。他者の心を喰らい魂を支配することを望む女は、危険のあるとも思わず訪れた者の幸福を蹂躙して食い物にしようとしている。
「それを討伐して欲しいわけだ。ダンジョンそのものがどうなるかは分からないが、当座の危険は取り除かねばなるまい」
来訪者を狙う悪魔をおびき寄せるために、もう一つ手順がある。星詠みはもう一度ペンを回した。
「少し進んだ先にある泉に捧げものをして欲しい。どうやらこれがメインイベントのようだから」
静謐な湖面に何らかの物品を捧げれば、未来が映るのだという。心の裡の、希望と不安の天秤のようなものだ――と、人竜は語る。
希望を映すのならば|望む未来《・・・・》が。
不安が勝るのならば|最も避けたい未来《・・・・・・・・》が。
二人で同時に捧げたとき、両者に望む未来が見えれば、その絆は永遠のものである――という伝承だ。
「流れで摘んだ花を捧げる者が多いようだね。とはいえ拘る必要もない。別途押し花を買い求めるなり、逆に押し花の方を土産にして花を捧げるなり、持ち込んだものを投げ込むなり……即ちこの辺は自由、ってわけだ」
かくして泉を訪れた幸福を望む者を見とめれば、悪魔は楽しげに姿を現すことだろう。
その心を破滅と堕落に導くために。
「面白半分で全てぶち壊されたのでは堪ったものじゃない。私はロマンスはからきしだがね、愛も絆も情も尊ぶべきものだとは分かってるよ」
もしも泉に避けたい未来が映ったらどうすれば良いか――問えば、手を振る楽天家の人竜はからりと笑うだろう。
「避ければ良いんじゃないのかな。なに、見えたんだから、出来るさ」
第1章 日常 『花咲く大地と幸運の蕾』
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蒼天に花弁が煌めいている。
街の中央を占拠する色とりどりの花畑を観光資源として利用していることは、見ればすぐにも分かるだろう。整えられた遊歩道を老若男女が絶えず行き交っている。彼らの視線は軒を連ねる店を一瞥するばかりで、すぐに竜漿を宿した花々に向かった。
目立つのは性別を問わず仲睦まじいカップルの姿だ。互いに好む花を選んで贈り合おうと躍起になっている。花畑の中にあるという蕾を探して覗き込む者の中には、己の幸ある未来を切実に求めている姿もあるだろう。年端もいかない子供の、父母への贈り物を求めて真剣に吟味している背も、安全柵が万全に整備されているから何らの憂いもない。
遊歩道に隣接したカフェの売りは珈琲だ。青い薔薇の花弁を模した小さなチョコレート片を融かして嗜むそれが看板商品であるらしい。
土産屋には押し花の栞が大々的に並べられている。広く明るい店内にはプリザーブドフラワーの花束もあれば、花をあしらった簪や、アンティーク調の調度品が並ぶ一角もある。
彼らを待ち受ける暗雲の一片も見えぬ快晴に賑わう街で、いかに過ごすも自由である。泉に捧げるべき|何か《・・》の選定ばかりを忘れなければ。