シナリオ

⑪愛する者たちの巡礼

#√ドラゴンファンタジー #ゾディアック継承戦争 #ゾディアック継承戦争⑪

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ドラゴンファンタジー
 #ゾディアック継承戦争
 #ゾディアック継承戦争⑪

※あなたはタグを編集できません。

⚔️王劍戦争:ゾディアック継承戦争

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
現在の戦況はこちらのページをチェック!
(毎日16時更新)

 天窓から降り注ぐ光が、かつて人々が賑わったショッピングパークの広場を照らしていた。
 今や静寂と奇妙な花の香りだけが満ちている。
 吹き抜けの天井から舞うのは天使の羽根。
 純白の翼を持った無垢な瞳が、冷静な天秤を傾けるようにららぽーと福岡へ足を踏み入れる者を見据える。

『此処は、愛を証明する者たちのための聖域。憎悪と己への執着という重荷を抱えた者は、この先へは進めない』

 天使の指先が指示したのは通路に立ち並ぶ無数のマネキン。
 美しい衣装を纏い、常に最先端を示して来た彼らはまるで永遠に休日だけを繰り返すような微笑みを浮かべている。だが、その硝子玉の瞳は誰一人として見てはいない。

『此処は、愛を証明する者たちのための聖域。憎悪と己という重荷を抱えた者は、この先へは進めない』
 それは拒絶を許さぬ宣告。
『進みたくば、隣に立つ者との慈しみを示せ。あるいは、そこに並ぶ「愛の形」の腰を抱き、お前たちが世界を傷つけぬ存在であることを、魂の底から囁いてみせよ』

 気兼ねない友人を歯の浮くような台詞で口説き、笑いをこらえながら抜けるも良し。
 普段言えぬ愛をここぞとばかりにパートナーへ囁くも良し。
 マネキンの冷たい腰に手を回し、その耳元で天使が納得するような平和で無害な愛の詩を捧げるのも良し。

 最奥に座す魔物達の聖母『ユリア・クラウディウス』を討つため――さあ、愛を叫ぶのです。





「というわけで、今回は武器隠して行ってな」
 星詠みである一・唯一(狂酔・h00345)が広げたのは敵地となったららぽーと福岡の見取り図。ネットに転がっていた見取り図を拝借してきたらしい。
「なんや構造自体は大きく変わってへんみたいやけど、……なんや内装はラブホみたいな装飾……コホン、少しピンクい感じみたいやわ」
 今やそこは天使による選別の場。
 真剣な顔で話し始めたが、ついに唯一は頭を抱えた。

「もうなんや、友達でも恋人でも、それこそマネキンにでも愛を囁いておけば通れるらしい」

 なんだその雑な告白場は。

「ただスキとかアイシテルはあかんで。ちゃんと歯ぁ溶けるくらい甘ったるいもんやぞ。俳優になった気分でやるんやで」

 最奥に身を潜めた聖母に近付けるのは“美しい者”だけ――理屈はそんなところらしい。
 つまり、大袈裟かつ語彙力をフル稼働して愛を囁き、心が美しい者なので通してください大作戦なようだ。

「ほな、行ってらっしゃい」

 難しいようで簡単そうで――いや、羞恥心だけは確実に犠牲になりそうやな、と唯一は思うのであった。

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 集団戦 『選定の天使』


エアリィ・ウィンディア
椎宮・紫水

『此処は、愛を証明する者たちのための聖域。憎悪と己への執着という重荷を抱えた者は、この先へは進めない』
 白い羽根が陽光を受けてゆっくりと舞い落ちる。
『此処は、愛を証明する者たちのための聖域。憎悪と己という重荷を抱えた者は、この先へは進めない』

 繰り返されるアナウンス。
 
 愛を囁く――ただそれだけなのに。
 されど、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)にとっては魔王討伐とかより難しい試練であった。
「エアリィ嬢、覚悟は良い?」
「ふぇ?」
「私、全力でいくよ?」
 椎宮・紫水(シセキエイ・h12162)の宣言だけで、既にエアリィの鼓動は早鐘を打ち始めている。まだ入り口である。一歩も進んでいないのに。天使はただ静かに二人を見下ろすばかりだ。
 そんな彼女を見て、紫水は小さく笑みを零した。
「ほら、腰を抱き寄せるんだって」
 天使が示した試練に従うように、紫水は自然な所作でエアリィへ手を伸ばす。
 翡翠色の瞳が大きく見開かれた。
「え、えと、その?」
 はわわわ、と、とんでもない所へ来てしまった事に気付いたエアリィだが、紫水は何も気にならないという風に彼女を抱き寄せ、その腕を解かない。
「私達の身長差なら丁度良いね? エアリィ嬢の耳がとっても囁きやすいよ」
「ふぇぇっ!?」
 僅かに紫水が腰を折る。ちょうど囁く様に語れば、エアリィだけが聴こえるぐらいの絶妙な身長差。逃げ腰になるエアリィだが、紫水の腕がそれを許さない。肩を抱き、腰に回された手はしっかり力が込められていた。
「そんなに照れないで……私に愛を届けさせて?」
「愛を届けるって!?」
 もうすでに茹蛸状態である。

 天使の眼差しが変わらず二人を監視するように貫いているが、最早今の二人には届かない。

「エアリィ嬢」
 春風のように優しい声音が少女の耳元を擽る。
「笑顔咲くいつもの君にも、ふとした時にみせる違う君にも」
 桜色の記憶は色褪せることなく瞼の裏に刻まれていて。
「ずっと前から惹かれて、今もまだ惹かれている」
 守りたいと願った笑顔が、今も変わらず目の前に咲いている。
「きっと、桜吹雪の中でエアリィ嬢の笑顔を見た時に私の心は撃ち抜かれていたんだね」
 淡紅の花弁が空を染める花霞の向こう側、澄み切った青空を映した瞳が柔らかく細められ、咲き始めの花よりもあどけなく、陽だまりよりも温かな微笑みが零れたあの日が蘇る。
「ずっと気付かなくて……いや、気付かない振りをしていたけどもう隠さないよ」
 守りたいと願ったその笑顔は、季節が巡った今も変わることなく、紫水の胸へ穏やかな春を咲かせ続けていた。
「私の、一番で、大切で、素敵でかわいいエアリィ嬢」
 澄み切った青を映した紫の瞳が柔らかく細められる。

 頬は熟れた林檎のように真っ赤で、恋も愛もまだ覚えきらぬ少女にとって、この試練はあまりにも刺激が強過ぎた。
 それでも、受け取った愛は同じ分だけ返したいと思うエアリィは頑張って顔を上げる。
「君の愛を聞かせて?」
「愛、あい……」
「そう、エアリィ嬢の『大好き』が聞きたいんだ」
 優しく、されど急かすことはなく紫水が願う。

「大好きって伝えるのでいいのかな?」

 素直で、単純で、真っ直ぐな気持ちを。

「紫水さん」
 エアリィの青い瞳に、紫水の嬉しそうな笑みが映る。

「初めて出会った時、優しいお兄さんって印象だったけど……」
 ひとつひとつ、ぽつりぽつりと。
「桜吹雪の時、身を挺して守ってくれたのと、何時も素敵な笑顔で見てくれているの」
 宝物を数えるように言葉を選んで紡ぐ。
「それが、すこしずつ気になって……」
 胸の奥で芽吹き、育ち始めた、まだ名前のない気持ち。
「あたし、愛とか恋とかまだわからないけど……」
 それでも、これだけは分かる。
「この大好きは、お母さんやお友達への大好きとはまた違うんだと思うの」
 春の日だまりで芽吹いた若葉のように、その想いは少しずつ、でも確かに大きくなっているから。
「紫水さんと一緒にこの大好きを増やしていきたい!」
 自覚してしまえば無視の出来ない感情。
「あなたじゃないとだめだからっ!」
 精一杯の勇気を振り絞った告白がショッピングパークに響いた。
「……だから」
 エアリィがそっと紫水の腕を取れば、意図を組んだように紫水は耳を近付ける。
「大好きです」
 耳元へそっと囁いた、想い。

 紫水は心から嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう――私の大好きな人が君で良かった」

 途端、まるで二人を祝福する花吹雪のように、純白の羽根が降り注いだ。

『愛は確かに示されました。どうぞ、お進みください』
 天使は静かに、然し満足そうな声音で奥を指差す。

 エアリィはようやく解放されたように大きく息を吐く。
「大丈夫かい、エアリィ嬢?」
「む、無理だよぉ……」
 ふにゃりとよろけたエアリィを支えるように、紫水は優しく肩へ手を添えた。
「でも……ちゃんと伝えられて、よかった」
 ふにゃりと崩れた微笑みを見て、紫水もまた穏やかに微笑みを返す。

 まるであの日の春風のような柔らかい風が、そっと吹き抜ける。照れくささも甘酸っぱさも胸いっぱいに抱えながら、二人は並んで、祝福の羽根が舞う聖域の奥へと歩き出した。

見下・七三子
レオン・ヤノフスキ

 静まり返ったショッピングモールを天使の声が支配する。
『進みたくば、隣に立つ者との慈しみを示せ。あるいは、そこに並ぶ「愛の形」の腰を抱き、お前たちが世界を傷つけぬ存在であることを、魂の底から囁いてみせよ』
 必要なのは武力ではない。
 愛。
 ただそれだけで、道は開かれるのだ。

 足を踏み入れた見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)はすでにふるふると肩を震わせている。
「レオンに愛を囁けばいいんですよね?」
 簡単です、とぐっと握った拳もやはりぷるぷると震えていた。
「ほーん、愛の告白ねぇ」
 その様子を隣で見ていたレオン・ヤノフスキ(ヴァンパイアハンターの成れの果て・h05801)は口元を吊り上げる。
「七三子にできんのかぁ?」
 揶揄うような声音の割に、鋭い視線が七三子を真っすぐ射抜いていた。
「……で、できるもん」
 語尾は少しずつ萎んでゆく。
 それ以上レオンは口を開かない。ただ黙って七三子を見つめ、彼女の言葉を待っていた。その沈黙は優しいようで、逃げ場を許さない意地悪さを孕んでいる。
「ええと、その、あの……」
 七三子の指先が落ち着かないように彷徨う。指を伸ばしかけては引っ込め、また伸ばしては引っ込め――ようやく、控えめにレオンの服の裾を掴んだ。
「とりあえず、手、つなぎたいです」
 次いでおずおずと差し出された手はやはり震えたままだ。
「あとその、……恥ずかしいので、……あんまりこっち、見ないで、ください」
 七三子の耳は瞳の色に負けないくらい真っ赤に染まっている。
「噛んじゃう、から……ええと、その、……あの」
 レオンは笑いもせず、茶化すこともしない。
 ただ差し出された手を大きな手で包み込むだけだった。
 温かい。
 そのぬくもりに勇気をもらうように、七三子はゆるりと言葉を選び始める。

「……格好良くて、ちょっと意地悪だけど」
 少しずつ。
「優しい顔で見てくれるところが好きです」
 ひとつずつ。
「大きな体で包んでくれると安心できるところも好き」
 視線は合わせられないけれど。
「何かもっとお返しできるといいなあといつも思ってます」
 戦うばかりだった自分へ、笑い方も居場所も与えてくれた人へ感謝を込めて。
「私にできることがあったら、いつでも言ってくださいね」
 一度だけ深呼吸をする。
 胸いっぱいに膨らんだ勇気を、そのまま吐き出す。
「愛してます、レオン」
 口にしてしまえば、不思議なくらい簡単で。
「わたし、あなたのことが大好きです!」
 赤い瞳が、ようやくレオンを見上げた。
「ずっと一緒にいてくださいね」
 当たり前の日々を、明日も、明後日も、何度でも繰り返していきたい。

「……ぐっ!」

 対するレオンは、胸を抑えた。
「改めて面と向かって言われっと、なかなかクるものがあるぜ」
 まるで銃弾でも喰らったような渋い顔でレオンは唸る。
 それでも向けられる視線は、蕩けるように甘い。
「今度はこっちの番だな」
「へ」
 その台詞に恥ずかしさの吹っ飛んだ七三子から零れたのは、素っ頓狂な声。
 レオンがにやりと笑った。
「レオンの、番?」
「負けてらんねぇ!」
 気合たっぷりな様子に、七三子は慌てて首を振る。
「ちょ、待って!?」
「まぁ、なんだ。最初はただ好みの女に声掛けただけだったんだよな」
 七三子の制止も虚しく、レオンの口は止まらない。
「や、あの、」
 口が廻らない。
 折角言い切ったのに、今度は聞く側になるのを想像していなかった。
 逃げたいのに、逃げられない。繋いだ手。繋がれたまま、緩まる気配はない。自分の勇気の為に差し出した手が、まさか自分を追い詰めるとは思わなくて。
「それが一緒に居るうちに本気で惹かれちまってた」
 ぴくり、と強張った肩をレオンは静かに見下ろして、握ったままの手を優しく引き寄せた。距離がさらに縮まる。吐息さえ届きそうなほど近い。七三子は思わず背伸びするように仰け反った。
「ち、近いです……」
 だがレオンは彼女を逃すつもりはなく、気にすることなく言葉を続ける。
「誰に対しても分け隔て無くってのを地で行ってるとことか」
 豪快で自由奔放なはずの男の声音は、甘く柔らかく女の鼓膜へ落ちた。
「自信なさげなくせに決める時は決めるとことかよ」
 レオンの脳裏を過るのは、誰かのために飛び出す小さな背中。困っている人を放っておけない優しさと危うさ。
「そんなすげぇ奴なのに、偉ぶりもせず」
 いつも自分を後回しにする不器用で愛しい後ろ姿。
「子犬みてぇに人懐っこくて可愛いんだからなぁ」
 鋭いはずの眼光はいつもの勝気な色を潜め、目の前で恥ずかしそうに身を縮こまらせる七三子だけを優しく映している。
「俺じゃなくても惚れちまうだろ?」
 愛おしいものを見つめるように、慈しむように細められた青い瞳は、どんな甘い言葉より雄弁だった。
「そ、そんなこと……っ」
 その視線には隠そうとしても隠し切れない愛情が滲んでいた。
 注がれる眼差しの熱さに茹る頭がさらに沸騰しそうになる。湯気でも出そうな七三子の様子を見て、レオンは満足そうに笑う。

「七三子」

 どこまでも真っ直ぐ、優しい響きが降ってくる。

「俺のこと好きんなってくれてあんがとな」

 この上なく甘い微笑みが容赦なく七三子を貫いた。

 途端、響くアナウンス。
『愛は確かに示されました。どうぞ、お進みください』
 天使は静かに、然し満足そうな声音で奥を指差している。

「……へう……」
 れお、と名前すら呼びきれず七三子はその場へ崩れ落ちそうになるが、繋がれたままの手を引かれ、よろめきながらレオンの腕の中へ納まった。
「待ってって言ったのに……!」
 レオンは照れきって言葉を失った彼女を見下ろし、満足そうに口角を上げる。

「これからもよろしく頼むぜ♪」

 返事の代わりに七三子はさらに顔を赤くして小さく頷くことしかできなかった。

神隠祇・境華
シンシア・ウォーカー

 誰もいないショッピングモールは、まるで緞帳の上がる前の劇場。
 静寂が幕のように降り、ゆるやかに舞うのは白い羽根。
『此処は、愛を証明する者たちのための聖域』
 澄み切った天使の声が高らかに響く。
『進みたくば、隣に立つ者との慈しみを示せ』

 吹き抜けを満たす陽光は舞台照明の如く、新たなる挑戦者を照らす。

 神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)は緊張を解すように深く息を吸い、そして吐き出した。
 語り部として育った彼女が|御伽噺《ものがたり》を紡ぐことは幾度となくあった。されど自らが主人公のように立つなど、ましてや恋愛劇の当事者となるなど、想像したことはない。
 これは、演技だと。
 全力で演じ切る舞台だと、境華は自分に言い聞かせる。
「……境華さん?」
 案ずるような声音が境華を現実へ引き戻した。
 不思議そうに首を傾げるシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)の透き通る銀の瞳が真っ直ぐに向けられている。
「愛を囁く演技が必要なのですよね?」
 戸惑いよりも、何か一つ覚悟を決めたような雰囲気だった。
「ええ、――そう、ですね」
 瞬き一つ。
 落ち着きを取り戻し、微笑みを浮かべて境華はシンシアの手を取る。その手をシンシアは迷いなく握り返した。温もりが掌を通して伝わる。その瞬間、舞台の幕が静かに上がった気がした。

「シンシアさん」
 ただその名を呼ぶことを許された栄誉を噛み締めて。
「貴女と歩く時間は、私の頁に灯る月明かりのようです」
 柔らかな、然し凛と正直な言葉を向ける。
「迷う時も」
 幾つも綴ってきた数多の日々を。
「怖い時も」
 立ち止まりそうな心へ灯りを齎してくれた。
「その声があれば私は前を向けます」
 彼女の笑顔が栞のように幾つも挟まれていた。
「貴女が笑うなら、その景色を隣で見ていたい」
 春を迎えた街並みも。
 見知らぬ国の夕焼けも。
 美味しい食事を囲んだ何気ない時間も。
「貴女が傷つくなら、その痛みの傍に在りたい」
 雨に濡れたい帰り道も。
 涙を堪えて微笑む朝焼けも。
 帰る場所を見失いそうな夜も。
「貴女が進むなら、私も隣を歩きます」
 果ての見えない旅路も。
 長い雨が心を曇らせる日も。
 明日を信じられなくなる夜も。
「この想いに、まだ名前を付けられなくても」
 胸の奥で大切に抱きしめたい温もりだけは、もう疑いようがなくて。
「私にとって貴女は、かけがえのない大切な人です」
 拍手はない。
 それでも、その想いは静まり返った空間を温かく満たしていた。
「だからどうか――この先も、私の頁の隣にいてください」

 この即興劇を壊さぬよう、シンシアは境華の真っ直ぐな眼差しを静かに受け止め、その一言一言を丁寧に聞き入っていた。
 少しでも顔色に出してしまえば、彼女はきっと躊躇してしまう。勇気を振り絞って紡ぐその言葉を、最後まで見届けたいと思ったから。

「……思えば、結構苦労をかけている気はしますが」
 張り詰めた空気を溶かすように、シンシアは微笑んだ。
 気恥ずかしさを隠すように、境華の手を少しだけ強く握り返しながら。
「戦地で味わった苦しみも」
 凍えるような風が吹く荒野も。
 何度も立ち止まりそうになった道も。
 帰る場所を見失いかけた夜も。
「日常のささやかな喜びの一瞬も」
 街角で見つけた美味しいお菓子も。
 何気なく交わした他愛ない会話も。
 季節の花を眺めて笑い合う午後も。
「貴女の隣でなら良き思い出になると思うのです」
 旅の終わりではなく。
 また新しい物語の始まりとして。
 いつか懐かしく振り返れる日が来るのでしょう。
「果てなき旅路、これからもどうか隣で一緒に付き合っていただけませんか」

 |舞台《せかい》にふたりしか存在しないような、そんな感覚に溺れてゆく。

『愛は確かに示されました。どうぞ、お進みください』

 ふと、天使の声がその恋愛劇の終幕を告げても、境華はまだ、その場から一歩も動くことができなかった。

「……境華さん?」
 シンシアが心配そうに覗き込んだ。
「顔赤いですが、大丈夫ですか、境華さん!?」
「いえ……その」
 いつの間にか耳まで真っ赤になった境華は隠すように俯く。
 けれど、視線を落とした先には重ねたままの手。もう離してもいいのに、解くことができなかった。
 先へ進まなければいけないのに、足も動かない。
「……もう手を離してもよいのでしょうけれど」
 言葉とは裏腹に、シンシアも指先を重ねたまま緩まない。握る力は僅かで、それでも名残を惜しむように、その温もりだけを確かめ続けている。
 少しだけ照れたような笑みを浮かべ、シンシアが小さく尋ねる。
「……しばらく、このままでいてもいいです?」
 甘えるような、強請るような。
 けれどきっとそれは互いの願い。
 握った手を離すことを何故か少し躊躇していた理由を見つけられないまま、境華は小さく頷く。

 互いの温もりを惜しむように、繋いだ手をそのままに。即興劇として始まった恋愛劇は、いつしかふたりだけの物語へと変わっていた。

架間・透空
添希・晃星

 吹き抜けを満たす光は、左右へ分かれた通路を等しく照らしていた。

 愛を証明する舞台へ上がる次なる挑戦者は、一人ずつ足を踏み入れる。



「ど、どうしても語らねばいけませんか……?」
 思わず裏がった声がショッピングモールに響き渡った。
 目の前に並ぶマネキンと天使を交互に見つめる架間・透空(|天駆翔姫《ハイペリヨン》・h07138)は明らかに動揺している。敵を倒しに来たはずなのに。
 確かに愛を囁かねばならぬ、とは聞いていた。だが、こんな広い場所で、そんな堂々と宣言せねばならぬとは予想外だったのだ。
 頭上の天使は無言で透空を見下ろすばかり。
 どうやら逃げ道はないらしい。
「くっ、仕方ないですね」
 深呼吸を一つ、胸の前でぎゅっと拳を握り透空は覚悟を決めた。
 そう、これは演技である。ちょっとした余興なのだと思えば良い、と手近なマネキンへ向き直る。
「この気持ちが愛、……なのか、正直分かりません」
 似ても似つかぬマネキンの向こう側には、|誰か《・・》を思い浮かべて。
「けど」
 銀色の瞳が揺れる。
「なんていうか」
 まるで心の整理をするように。
「おじいちゃん、おばあちゃんになってもずっと一緒に居たい」
 願うのは穏やかな日々。それはきっと何よりも幸せな時間。
「そう思っちゃう人が、います」
 誰にも聞かれていない。
 だからこそ、不思議と言葉は勝手に溢れて来る。
「その人は、ぶっきらぼうで口も悪いけど」
 透空の口元に笑みが浮かんだ。
「私が大変なとき、苦しいって時に限って傍に寄り添ってくれる人で」
 隣にある温もりが、どれだけ透空を救ったか。
「とっても面倒見がよくて」
 なぜか視界が潤む。
「優しい人なんです」
 無機質なマネキンなはずなのに、なぜか優しく微笑んでくれている気がして。
「怖いのが嫌いだって言ってるのに、毎年のように肝試しに誘ってくるのが玉に瑕、なんですけどね」
 少しだけ膨らんだ頬、声音は優しいまま。
「それも私が怖いのを克服できるように、っていう彼なりの心遣いなのは分かってるから、なんとも言えませんけど」
 伏せた視線。
 もう一度顔を上げてマネキンを見つめる。
「今年も一緒にいられるといいな……」
 愛と呼ぶには拙いかもしれない。
 それでも、真っ直ぐな透空の台詞は天使を微笑ませた。



 一方、その頃。



「マネキンに、愛を語る……だと!?」
 添希・晃星(イカロスの翼・h08024)は物言わぬ|観客《マネキン》たちを指差し、崩れ落ちそうになるのを堪えた。
「な、何言ってんだ!?」
 まさか本当にそんな試練をさせられるとは、と星詠みの案内を思い出す。冗談ではなかったのかと。天使はその様子を静かに見下ろすばかりで、やはり本当にやらねばならぬのだと思い知らされる。
 晃星は頭を掻きながら大きく息を吐いた。
「ま、それしか手段がねえってんならやってみるけどよ」
 何より選択肢はない。
 目の前の無機質な瞳を見つめる。
 マネキンのはずなのに、雰囲気や色合いは誰かの面影が重なって見えた。
「……俺には、好きな奴がいる」
 吐露した事実は、あっさりと晃星の胸を熱くする。
「そいつとはいわゆる幼馴染、って関係なんだけどよ」
 鮮やかに蘇るその姿に苦笑しながら。
「涙もろいし怖がりだし」
 困ってしまうくらいに表情豊かで。
「変なところで強情だしで」
 感心するくらい意志が強くて。
「すげー困った奴なんだよ」
 だからこそ、目が離せない。
 迷いなく走り出す背中の小ささ。
「でも……幼稚園の頃、アイツが真剣な表情で自分の夢を語ってくれたことが、あったんだけど」
 無邪気な毎日を送っていたはずの、あの日。
「なんか、すげー嬉しそうでイキイキしててよ」
 遠い記憶は色褪せることなく。
「まるで」
 無意識に掴んだ胸元。
「太陽みたいに、キラキラとした笑顔だった」
 真っ直ぐな光のような視線が晃星を貫いた、あの瞬間。
 思い起こすだけで鼓動が早くなる。
「……一目惚れ、だったんだと思う」
 それは晃星が抱える、小さな秘密。
「今はアイツも大変そうだし、この気持ちを伝える気はねぇ」
 夢を追うはずだった少女は、誰にも言えない苦しみを背負ってしまった。
 あの澄んだ空が、いつまでも晴れ続くように。
「でも、お節介でいつも真剣なアイツのこと」
 強がる笑顔の裏で、どれほど泣いてきたのかを知っている。
「……俺なりに、支えてやりたい」
 あの日、震える声で零した彼女を、もう二度と一人にはしたくなかった。
「それだけ、なんだ」
 あの笑顔を守れるならそれだけでいい。想いは胸に灯したまま、それで十分だった。
 振り返った晃星を見つめ、天使は静かに頷き先へ続く道を示した。



「「あ」」

 試練を終え、透空と晃星が辿り着いたのは中央広場。

「透空」
「晃星」
 互いの姿を捉えた二人は声を上げ、自然と足を止める。
 僅かな沈黙の後、ほぼ同時に視線を逸らした。何とも言えない空気が流れるが、先に口を開いたのは透空だった。
「ちゃんと、通れましたね」
 まさか同じ戦場に来ていたなんて、と。
「ああ」
 晃星は短く頷く。

 ふと、互いの視線がぎこちなく交わり、そのせいで耳が赤いことをお互いが気付く。

「……何言ったんだ?」
 晃星が恐る恐る尋ねる。
 わかっている。何をさせられたのかくらい。
「えっ!?」
 思わず透空の声が裏返った。
「き、聞くんですか!?」
「いや、別に……」
「聞いちゃ駄目です!」
 ぶんぶんと首を振る。
「絶対、駄目です!」
「……そうかよ」
 晃星もそれ以上は追及しない。聞けば、自分も話さなければならない気がしたからだ。そして、それだけは勘弁だった。

 互いが知らないだけで、誰よりも相手に伝えたかった本音なのだけれど。

 次に言葉を届ける時はマネキンではなく、想う相手を前にして直接届けられる日は来るのだろうか。

水縹・雷火
泉下・洸

「ライカ、見てください!」
 白い羽根が舞い甘い花の香りが漂うショッピングモールに響いたのは、泉下・洸(片道切符・h01617)の笑いに満ちた声音。
「何だかいかがわしい内装です!」
 ららぽーと福岡は戦場というより奇妙な恋愛劇の舞台へと姿を変えていた。
「いかがわしいって大声で言うな!」
 反射的に素直過ぎる感想へ水縹・雷火(神解・h07707)は叫ぶ。周囲に人影はなく二人分の反響だけが広がってゆく。

『進みたくば、隣に立つ者との慈しみを示せ』

 吹き抜けの上からアナウンスのように天使の声が響いた。早く先へ進めとせっつくようなタイミングである。

「……あと、妙に嬉しそうだな、お前!」
 にこり、と洸は実に爽やかな笑顔で頷いた。
「この場で愛を囁けばいいのですね?」
 その笑顔は、嫌な予感しか連れてこない。
「任せてください」
 思わず雷火は一歩後退った。
 やたら生き生きし始めた洸を警戒するが、時すでに遅し。その手首はいつの間にか掴まれていて、大して距離は広げられない。
「私のライカに対する愛は本物ですから」
「待て」
「この想いは誰にも否定させません」
「本物だとか、誰にも否定させないとか――そこまでは、まあいい」

 そう、問題はそこではないのだ。
 問題は、大体続く|尾鰭《ことば》が毎回物騒であること。

「ライカ」
 洸は雷火の手を優しく包み込み、その赤い瞳を穏やかに細めた。
「私の可愛いライカ」
 声音や仕草、見た目だけで判断するのであればまるで恋物語に登場する王子様のような洸の風格を前にしても、雷火は絆されない。
「とっても美味しそうなライカ」
「可愛いはともかく、美味しそうは余計だ!」
 即座に突っ込んだ。
 だが洸は止まらない。
「あなたを見ているだけで、私の心は満たされます」
「いや、もう今更だし、可愛いも嫌なんだが、それはともかくだな……」
 そっと視線を逸らしながら雷火は深い溜息を零す。
 然し洸はめげない。楽しげな様子は欠片も揺らがない。
 まるで底知れぬ深さを秘めた水面のように穏やかな微笑みだけが、真っ直ぐに雷火へ向けられている。
「暗い水底に光が差すように、温かな気持ちになれるのです」
 それはきっと嘘ではなくて。
「もし、あなたを私から奪おうとする者が現れたら……」
 表情は笑みを象っているのに、ほんの少し、否、確りと瞳の奥に浮かんだのは仄暗い影。
「間違いなく、正気ではいられないでしょうね」
 ぞくり、と空気が震える。
「ライカ――あなたのためなら、私は悪魔にだってなれる」
「ほらな!」
 やはり物騒だった、と冷えた空気に怯むことなく雷火は喚いた。
 対して洸はきょとんと首を傾げる。
 自覚があるのか無自覚なのか、どちらとしても質が悪い事に違いはない。
「というか、悪魔になんかならなくていい。むしろ、ならないでくれ」
 ついに、雷火は額を抑えた。
「今のままでも十分、性質が悪いから困る」
 本人は褒められたと勘違いしたらしい。
「ありがとうございます」
「褒めてない!」
 思わず叫ぶ雷火へ、天使がじっと視線を向け、しん、と静まり返る空間の中で洸だけが愉快そうに肩を震わせていた。
「ず~っと、私の傍にいてくださいね?」

 そこでようやく言葉が止まる。

 再びの静寂。

 天使はまだ動かない。
 頭上から、目の前から、じっと雷火へ視線が集まった。

「え」
 嫌な汗が伝う。
「これ……俺も、言わなきゃいけないのか?」
 天使は無言である。だがその沈黙こそが|正解《こたえ》の証拠。

 葛藤。

 言え。
 言えば終わる。
 それだけだ。
 戦場で命を賭けるより何倍も楽だろう、と雷火は無理やり自分を納得させる。

「……俺だって」
 静かだからこそ、鼓動が間近に聞こえる。
 目の前には命の恩人兼同居人の幽霊。今日もぶん殴りたい笑顔で、変わらずこちらを眺めている。
「お前にいなくなられたら困る」
 振り回されても。
 腹が立っても。
 呆れるようなことがあっても。
 それでも、もし、――いなくなってしまったら、と。
 その先を考えてしまうのが怖いくらいに。
「だから」
 洸が笑みを消す。真剣な眼差しで、雷火が零す言葉の続きを待っていた。
「ずっと傍にいろ」
 本音を飾る必要はない。正直な願いを取り繕うこともしない。
「勝手に消えたら許さないからな」

 言った。
 言ってしまった。

 途端に恥ずかしくなって、耳まで真っ赤にしながら恥ずかしさへ耐えきれず雷火はぷいっとそっぽを向いた。

「これで満足かよ、クソ怨霊!」

 一拍。
 二拍。

 返事がない。

 やがて横目で見れば、洸はぽかんと目を丸くしていた。
 それから雷火の台詞を反芻するように噛み締めて、やがて堪えきれないように笑みが復活する。
「はい」
 洸はそっと繋がれたままだった雷火の手を握り返す。
「絶対に離れてなんかあげません」
 指先に力が籠められた。
「私はあなたの『クソ怨霊』なのですから」
 その言葉へ雷火は呆れたように肩を落とした。
「……そういうところだぞ、本当に」
 文句を言っているはずなのに、嬉しそうな返事しか返って来ない。
「ふふっ、これが私の愛なのです♪」
「……ったく」
 悪態を吐きながらも、雷火は繋いだ手を振りほどくことはない。どうせ振りほどいたところで、また当たり前のように握り直されるのだ。

『愛は確かに示されました』
 それを見た天使は満足そうに微笑み、静かに二人へ先へ続く道を開いた。
『どうぞ、お進みください』

「ほら、ライカ」
 繋いだ手をそのままに、洸は上機嫌で歩き出す。
「離しませんよ?」
「最初から離す気ないだろ、お前……」
「もちろんです」

 結局最後まで手は離れないまま。
 先へ進む雷火の隣では、洸の機嫌の良い鼻歌だけが楽しそうに響いていた。

霧島・恵
ウララ・ローランダー

『此処は、愛を証明する者たちのための聖域』
 荘厳な天使の声が響き渡るららぽーと福岡――だった場所は、甘ったるい香りに淡い桃色の灯りに満ち、まるで|御伽噺の城《ラブホテル》に迷い込んだかのようである。

「……そう言う事ね」
 なるほど、と納得したように周囲を見渡しながら霧島・恵(狐影蕭然・h08837)は呟いた。星詠みの案内に含まれてはいたが、実際のところピンとは来ていなかったのだが、実際に見てみればその通り。ショッピングモールにはないはずの豪奢な調度品に煌めくシャンデリア、柔らかな照明は、どう見てもそっち方面の雰囲気だった。
「きゃーっ」
 そこに重なる明るい悲鳴。
「なんてファンタジーでお姫様のような空間なのかしら!」
 所謂ホテルの内装とやらを知らないウララ・ローランダー(カラフルペインター・h07888)は未知の|世界《けしき》を前に子供のようにはしゃいでいる。真っ直ぐな汚れていない視界で見る内装は美しいものらしい。
「この鏡台なんかロココ調で――」
 あちらこちら探検するように見回るウララの視界を恵が遮った。
「……はしゃいでるところ、悪いけど」
「はわっ」
 この辺ならまだいいが、奥の方はあまりにも教育上よろしくない。柔らかな照明に天蓋付きの寝台がなぜある。せめて個室にあれ。
「恵……ちゃん……!?」
 困惑したように振り返るウララに対し、恵は大人の微笑みで返す。
「まだウララちゃんには早いかなーって思うんだよね」
「えっ、えっ? 前が見えないよ?」
「見なくてもいい場所だからね」
「えぇぇぇっ!?」
 正しく想像したのか、教育的配慮とは違う方向で危険な場所を隠してくれたのかと誤解したのかは定かではないが、あたふたしていたウララも、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「あー、そうだ。ウララちゃん」
 恵の腕の中、守られるように大人しくなったウララの耳元の吐息がかかった。
「このまま聞いてくれるかな?」
「えっ!?」
 今度は違う動揺にウララがびくりと震えた。その慌てる姿を愛らしいなぁと恵は見つめながら言葉を止めない。
 だって、この状況はちょうどいい。
 気恥ずかしさから目線を逸らさずにすむのだから。
「あ、あの、恵ちゃん、前が見えな、……」
 ふわりと垂れた銀の髪が少女の頬を擽る。
「……はううっ!?」
 耳へ掛かる吐息。
 頬を掠めた感触からその近さを思い知らされて、すでにウララの顔はシュボボッと火が付いたように真っ赤だ。

「愛情の類は√能力者になった時に欠落してしまったと思ってたんだけど」
 穏やかな声音が鼓膜を震わせる。
「思い違いだったんだってこの前の事件で気付いたんだ」
 それは、失ったと思っていたもの。
 もう二度と抱けないと諦めていた感情。
「こんな気持ちになったのは何時振りなんだろう」
 苦々しくも照れくさそうな笑いだった。
「……君の事が堪らなく愛おしく感じているんだ」
 視界を塞がれているからこそ、何よりも真っ直ぐに届いた、告白。
 ウララの顔はさらに真っ赤になる。
「だから」
 呼吸の仕方さえ忘れたように震え、鼓動の逸りだけが騒がしい。
「俺の大切な想い人になってくれないかい?」
 そう言った本人も、どこか照れ隠しをするように頬を掻く。
 これほど素直に想いを口にしたのは、きっと久しぶりのことだった。

 ふっと掌が離れる。
 柔らかな光が戻り、視界の向こうには少し照れたように笑う恵がいた。

「う、うううう……」
 頬を押さえながら、ウララは何度も深呼吸を繰り返す。
「えっと」
 ふと視界の端を舞い落ちる羽根に気付く。
 ここは、そう、愛の言葉を語る場所。
「……そ、そうね」
 なら、自分がすべきことは一つだと。顔を真っ赤にしたまま、それでもウララは恵を見上げた。
「イケメン好きな僕様ちゃんだけど」
 ぎゅっと胸の前で手を握りしめる。緊張して心臓が口から出そうで。
「恵ちゃんはそれでもいいって受け止めてくれて」
 どんな時も笑ってくれて。
 どんな失敗も一緒に笑い飛ばしてくれて。
 そんな優しさは、確かに積み重なっている。
「そんな恵ちゃんだからこそ」
 一歩、足を踏み出した。
 勇気を振り絞るように、ウララは恵に近付く。
「僕様ちゃんの、大好きの気持ち……」
 言葉が喉で詰まる。
 照れ臭くて、恥ずかしくて、逃げ出したくて。
 それでも。
「捧げたいなって」
 茹蛸のようになりながら振り絞る。
 声は震えていた。それでも、その瞳だけは真っ直ぐに。
「……そう、思ったの」

 漸く言い切れた瞬間、がばっとウララはしゃがみ込んでしまった。
「ううう、照れる!!」
 銀色の隙間から覗く耳まで真っ赤だ。
 そんな姿が|可笑《あいら》しくて、恵は耐えきれず肩を揺らして笑う。

『愛は確かに示されました。どうぞ、お進みください』

 祝福するように鳴り響いたアナウンスを聞いて、恵は顔を隠したまま悶えるウララへそっと手を差し伸べる。
「ほら、お姫様」
「お、お姫様ぁ!?」
 これ以上ないくらいに紅潮し動揺しながらもウララは顔を上げ、差し出された手に気付いて恐る恐る自らの手を重ねた。その温もりだけで胸がいっぱいになる。不器用で、優しくて、甘いひとときだった。
「行こうか」
「……うん!」
 白い羽根が二人の肩へ舞い降りる。
 王子様とお姫様にはまだ少し早いけれど、今日という日は、確かに二人だけの御伽噺のはじまりになった。

汀羽・白露
御埜森・華夜

 磨かれた床へ白銀の波紋のように降り注ぐ陽光が広がっている。
 純白の翼を羽搏かせ、天使が静かに告げた。

『進みたくば、隣に立つ者との慈しみを示せ』

 なんとも奇妙な試練だな、と汀羽・白露(きみだけの御伽噺・h05354)は小さく肩を竦めて隣に立つ御埜森・華夜(雲海を歩む影・h02371)を見下ろす。
 この空気に飲まれて照れるか、逃げるか。それとも妙な理屈を並べ始めるか――白露の予想を裏切る様に、華夜は白露を見上げ、柔らかな笑みを浮かべた。

――俺の中の白ちゃんよ、火を吹けふぁいあー!

 その笑みの裏側で握られた拳。謎の気合。華夜がこっそりとイメージするのは、最近の白露の態度だ。妙にあまーーーーーーーーーーーーーいことを言ってくる彼を真似するようにしてみれば楽にクリア出来るのでは、と華夜は思ったのだ。

「俺は“俺”を見てくれる白ちゃんの、その眼が好き」
 華夜が手を伸ばし、白露の頬を両手で包み込む。
「宝石……なんてチープな表現だと思うけど、ずっとずうっと見つめていたい」
 そのエメラルドのような双眸が自分だけを映していることを確認すると、満足そうに口角を緩めた。
 身を委ねていた白露は僅かに目を見開く。
「ほう」
 愛を証明というお題で彼がどう出るかと幾つか思案してはいたが、これは予想外だった。
 今日は随分素直に真正面から心を差し出してきたな、と珍しいものを見るように華夜を見下ろす。頬を挟む手に自らの手を重ねてみたが、震えは感じられない。
「……ほんとはね?」
 こてん、と首を傾げる仕草はまるで小悪魔のようだ。
「知らない人になんて見せたくないよ」
 大切な宝物を壊さないように、けれど逃がさないように。
「でもさ、好きで好きで好きで」
 溢れる想いは隠す余地がないほどに零れるばかり。
「ずーーーーーーーっと好きだった”俺だけの本”が気付いたら俺の手を取って」
 台詞と同じように、華夜は重なっていた白露の手を大事に取り、大事に握り締める。
「俺と、手を繋いで」
 異国の児童書だったはずの頃には存在しなかった熱。
 鼓動。
 命の在処が指先から伝わって。
「それで、|物語の中《白露のページ》で聞いたのなんて安く感じちゃうような……ドキドキしちゃうこととか言ってくるし」
 華夜がくすりと笑う。
「気付けば俺よりもっともーっと大きいし?」
 視線は自然と見上げる形で。
「俺の、――俺だけの本の君」
 穏やかな声音に揺らぎはなくて。
「俺だけの物語の君」
 まるで大切な本へ栞を挟むように、壊さぬ力加減でその存在を胸へ刻み込むように、一瞬たりとも目を逸らさない。この一頁だけは誰にも譲れないと、白露の温もりへ静かに縋る。
「いつか俺がいなくなっちゃうとしても、絶対絶対手放してなんてやらないから」
 真白い偽りのない瞳が真っ直ぐと白露を射抜く。

 綺麗なままではいられない。それは自分だけの幸せな物語だから。
 続きを選べる|君《白露》は、俺のだから。

「……愛してるよ、白ちゃん」

 その一言は、飾り気のない告白だった。
 けれど白露の胸へ落ちた瞬間、小石が湖面へ沈むように幾重もの波紋となって広がっていく。幾千、幾万頁を綴っても書き切れない想いが、たった六文字へ凝縮されている。
 それを受け取れる日が来るとは思っていなかった。だから白露は、言葉ではなく腕を伸ばした。逃げ道を塞ぐためではない。
 この幸福が夢ではないと、自分自身へ教えてやるために。

 |試練《しごと》を全うする為に奮起しているのは分かっている。
 だからこそ、その意気込みに答えてやらねばと思うのだろう。

 絡められた指に力を込め、今度は白露が華夜を抱き寄せ距離を縮めた。至近距離で落とすのは、滅多に見せてやらない表情。
「っ」
 目を丸くした華夜に降ってくるのは、優しく細められた緑の瞳が彩る甘い微笑み。
「俺も愛している、かや」
 囁くような響きは砂糖漬けのように鼓膜を甘やかす。
「きみの想いから生まれたとか、そんな経緯は関係ない」
 言葉を重ねるたび、その双眸はますます穏やかな熱を宿していく。
「俺が本だったころから俺を大切にしてくれて」
 その熱は、まっすぐ華夜だけを映していた。
「愛おしく想ってくれたきみが」
 空っぽだと思っていた頁へ。
「悲しさや苦しさに影を落としているのを、唯見ているばかりではいられなかった」
 温かな|光《インク》が満ちてゆく。
 誰かに読まれるだけだった物語。誰かの涙や笑顔を見送るだけだった本。頁を閉じられれば静寂だけが残り、開かれれば誰かの人生へ寄り添う。そう思っていた。
 そう思い込もうとしていた。
 けれど今度は自分の番なのだ。
 物語の主人公ではなく、読む者でもなく、隣を歩く一人の存在として。
「だから俺は強く望んだんだ――誰よりも大切なきみの傍に居て、支えられる存在になりたいと」
 繋いだ指へ静かに力を込め、その温もりが夢ではないと確かめる。
「そのためには、背丈もかやより高くなければな」
 白露は少しだけ得意げに笑った。
「大は小を兼ねると言うだろう?」
「……それ、そこに繋げる?」
「事実だからな」
「白ちゃん、そういうとこだよ」
 悔しそうに華夜が踵を浮かせてみても、あとほんの少しが遠い。
「俺、ヒール履いてるんだけど?」
「知っている」
「頑張ってるんだけど?」
「知っている」
「なのに届かない」
 そんな仕草すら愛らしく映るのだから、自分も相当重症なのだろう。
「俺も努力したからな」
 どこか誇らしげな声音に、華夜はじとりと視線を向ける。
「成長期ずるい」
「神だからな」
「ずるい」
 むう、と頬を膨らませる華夜があまりにも愛らしくて、自然と白露の表情は崩れた。
「……笑った」
「すまない」
「反省して」
「少しだけ」
「少しかぁ」
 頬を膨らませたまま見上げれば、緑の瞳が柔らかく細められる。その優しい眼差しだけで、反省など最初からしていないのが丸分かりだった。
「全部反省したら、今の笑顔が見られなくなる」
「……それ反則」
 唐突な破壊力の高い台詞に華夜は耳まで赤く染める。真っ直ぐそんなことを言われるたび、どれだけ付き合いが長くなっても慣れる気がしなかった。
「今日も白ちゃんが甘すぎる」
「そうか?」
「そうだよ」
「かやが素直だからだ」
「うっ」
 痛いところを突かれた。
「今日は天使に乗せられてるだけだから」
「そういう事にしておこう」
「信じてない顔」
「信じている」
 即答である。だがやはりその声音には面白がる響きが混じっていた。
「その笑顔が怪しい」
「本当だ」
「絶対楽しんでる」
「少しだけ」
「認めた!」
 抗議するように白露の肩を軽く叩けば、その手は当たり前のように捕まえられてしまう。逃げる気もないまま指先を絡められ、華夜は観念したように笑った。
 二人の笑い声が響く。周囲のマネキンたちでさえ微笑ましく見守っているように見えた。
 
 華夜はふと白露の胸へ額を預ける。聞こえる鼓動。昔は紙を捲る音しか知らなかった本が、今では命を鳴らしている。

『お前たちが世界を傷つけぬ存在であることは示されました。どうぞ、お進みください』
 水を差すように響いた天使のアナウンスに、華夜は顔も上げず白露にべたりとくっついたまま視線だけ上へ向けた。
「んー、そういうのとかは―……まぁ、比較されたら二の次かなぁ」
「……大胆だな」
「白ちゃんの前だけ」
 天使の試練は、とっくに終わっている。それでも二人は離れようとしなかった。誰かへ見せるための慈しみではなく、拍手を貰うための証明でもない。この距離こそが日常であり、この温もりこそが帰る場所なのだと、互いの鼓動が静かに語っているのだ。
 白露はもう一度華夜を抱き締める。今度は先程よりも強く。
「俺はかやのものだ」
 華夜の視線が白露に戻ってくる。
「そしてきみも……俺のもの。そうだろう?」
 華夜は迷いなく頷いた。
「もちろん」
「だから、決して俺の傍から離れるな」
 抱擁する腕は愛を示しているはずなのに、少しだけ狭い檻のようである。
「いなくなるなんて絶対に赦さない」
 独占欲に似た失う事への恐れを孕む声音に怯むならば、最初からこの腕の中に納まってはいないのだろう。
「うん、離れない」
 その返事にどちらともなく満足そうに微笑み合った。
「一緒に、幸せになろう――これまでのように……この先も、ずっと」

 乱丁も、落丁も。空っぽの瓶も。欠けた頁も。
 誰かにとっては不完全だったものが、互いを綴り合うことで、世界でたった一冊の本へ変わっていくはずだから。

 ハッピーエンドに向かう二人を祝福するように、純白の羽根が祝福の雪のように舞い落ちた。

泉・海瑠
黛・巳理

 本来であれば家族連れや友人同士、恋人たちで賑わっていたはずのららぽーと福岡だが、今は静寂だけが広い館内を支配している。甘い花の香りが辺りを満たす中、微笑みも怒りも見せぬ無垢な瞳を向けて来る天使が口を開く。
『愛を証明せよ』
 たったそれだけの――否、泉・海瑠(妖精丘の狂犬・h02485)にとっては生まれて今日に至るまでで最大級の難題であった。

「きょっ……」
 上擦った海瑠の声がスタートの合図。
「今日も良い天気だね……」
 天窓から射し込む陽光のおかげで間違いはないのだろうが、ここは屋内である。天気の話題は不正解ではないが正しくもないかもしれない。緊張のせいで口走ってしまった張本人が一番分かっているのだけれど。
「ん? うん、そうだね。海瑠くん」
 耳まで真っ赤にしながら隣にいる黛・巳理(深潭・h02486)をちらりと見れば、当の本人は天使を観察するように視線を向けていたが、海瑠の視線と台詞に気付けば相変わらず穏やかな表情で頷いてくれた。

(愛を証明とかそんなのできてたらとっくにしてるよ!!!)
 その優しい反応を受けても、心の中は大号泣だ。
(何話せばいい!? 何!? 好きって!? 愛してるって!? いや無理無理無理!!)
 確かに愛の試練と星詠みの案内は受けていたけれど、まさか言葉そのまま、そっくり台詞を口にしなければならないとは思ってもみなかったのである。

「ふむ――愛を述べよとは……また、不思議なことを」
 冷静かつ淡々とした声音は普段通りだ。
「な、なんか難しいお題出されちゃったねぇ、あはははははは」
 照れ隠しの乾いた笑いが海瑠から溢れ出す。なんとか誤魔化そうとしてみるが、視線はついつい自然と巳理へ向いてしまう。
「根本的に、愛というものは情けと欲との鬩ぎ合いだからね」
 穏やかな声で巳理は続ける。
「そこには、あの天使が言う『憎しみ』だって含まれ得るし、一口に憎しみと言っても、その形は一つじゃない」
 感情とは、人が理解しやすく、誰かへ伝えやすくするために与えられた名前に過ぎない。
 人は曖昧なものへ名を与える。
 理解し、分類し、己を納得させるために。
 愛も、憎しみも、情も、執着も。その境界は曖昧で、時に溶け合い、時に容易く姿を変える。けれど感情は、そんな言葉の枠へ大人しく収まるほど単純ではない。
「『愛』と呼んだから愛になるわけでも、『憎しみ』と呼んだから憎しみで終わるわけでもない。名前が付いたところで、それが感情の正体になるわけじゃないさ」
「さすが巳理さん……すっごく知的……!」
 尊敬と恋心が混ざって胸の中で暴れ回る中で海瑠は必死に頷くが、頭の中では『好き』『かっこいい』『綺麗』『近い』『声が良い』しか回っていない。大事な講義のはずなのに。

(内容が一個も入ってこない……!!)

 そんな海瑠の様子を眺めていたマネキンたちの笑顔が、ほんの少しだけ呆れたように歪んだ気がした。きっと気のせい。
 同じく巳理もなにやら海瑠が悶え苦しんでいるのを気付いてはいるが、ころころ変わる表情はいつものことだし、緊張ゆえのストレス反応か。それとも室内とはいえ陽射しが熱いし熱中症の初期症状だろうか、なんて医者らしい方向へ思考が飛んでゆく。

 少しずつすれ違う二人だが、先に正気に戻ったのは海瑠の方だった。

(うだうだしててもしょうがない!)
 どうあれ天使が示した条件をクリア出来なければ、先へ進む事は出来ないのだから。
(覚悟決めないと……!)
 拳を握る。
 番犬であるならば、守るときは勇敢な姿勢を取らねば、と。
 恋愛は例外だとして。
「……え、っと……その……あの……」
 巳理の視線が海瑠へ向けられる。
 いくら気合を入れたって、そう簡単にはいかなくて、しどろもどろな言葉だけ喉から絞り出されてくる。
「うん? 僕が?」
「……オ、オレは……前からみ、巳理さんのこと……」
 言える。
 今ならきっと言える。
 だってここまで喉から出たのだから。
「す」
 意を決して、海瑠は巳理を見つめる。
「す……すすすすすすすき野原、秋になったら見に行きたいねぇ!」
 撃沈。
 風も吹かないはずの屋内なのに、なんか冷たい空気が通り過ぎた気がした。
「……すすき野原?」
 海瑠の言葉を素直に受け取り、解釈に時間を掛けて呑み込んだ巳理。
「…………」
「そう、だね? たしかに月見は魅力的だと、僕も思うよ」
「~~~~~~っ!!」
 海瑠は両手で顔を覆った。

(やっぱり無理いいいいいいいい!!!)

 何故だ。
 どうしてそこで秋の|観光案内《デートのお誘い》になってしまったのか。
 自分でも意味が解らない。
 だが、どうしても言えなかったのだ。
 それが現実である。

「あ、いや、えっと……」
 今度は何も言えない。
「……オレね、あの……」
 伝えるならばちゃんと伝えたいのに、全然良い言葉が出てこない。
 胸の中には溢れるほどあるのに。
 命を懸けても守りたい。笑っていてほしい。傍にいたい。たくさん伝えたい言葉があるはずなのに、それなのに口にしようとすると全部どこかへ逃げてゆく。
「はぁ……ごめん、巳理さん」
 彼はじっと待ってくれているのに。
 どうして、言えないのだろう。
「……不甲斐なくて……」
 海瑠の肩がしょんぼりと落ちた。まるで雨に濡れた大型犬のようで、耳が見えるのならば確実にへにょりと垂れているだろう。
 俯む海瑠の旋毛を見下ろしながら巳理は純粋に首を傾げた。何故彼が謝るのか、理解出来なくて。

「……海瑠くん」

 一歩、巳理は海瑠との距離を詰めた。反射的に海瑠の瞳が上がり、巳理を見上げる。

「僕が以前、君に伝えたことは覚えているかな」
「え……?」
 穏やかな微笑みと声音で海瑠へ語りかける。
「君はいつでも僕に新しい世界を教えてくれること」
 藍色の瞳が真っ直ぐ緑色の瞳を射抜く。
「君がいつでも僕の隣にいてくれて、心強いこと」
 思わず海瑠の息が詰まった。
「君を心から信頼できる僕は、何より幸福であると感じること」
 一つ一つ、丁寧に言葉が重ねられて。
「その全ては君がいてこそだと、知っているし実感してる」
 そして、そっと海瑠の手を取る。温かな掌。少しだけ汗ばんでいて緊張しているのがすぐ分かったからこそ巳理はその手を優しく包む。
「これはきっと、愛なのだろう」
 長い逡巡の末に辿り着いた答えを慈しむように、張り詰めていた糸がほどけるように、その表情は柔らかく綻び、慈しみも安堵も感謝も、言葉にならない想いのすべてを乗せた微笑みが静かに花開いた。
「いつもありがとう、海瑠くん」

 言葉を届け終えた巳理の想いはあまりにも穏やかで、あまりにも真っ直ぐだった。
 受け止めた海瑠は瞬きひとつ忘れたように目を見開き、返す言葉も見つからないまま、その場に立ち尽くしている。

 数秒後。

「……へ?」

 さらに数秒後。

「ひぇ」

 反芻し終えた頭が理解を始める。

「あわ」

 握られた手から熱が伝わる。
 心臓が壊れそうだ。

「あわわわ……」

 思考と感情が完全に追いつかない。
 嬉しいも、照れくさいも、愛おしいも、全部が一度に押し寄せてきて、頭の中は真っ白だった。熱に浮かされたように口をぱくぱくと開閉するばかりで、まともな言葉は一つとして形にならない。鼓動だけが忙しなく早鐘を打ち、頬から耳まで熱が駆け抜けていく。目の前にいる巳理が、春の日差しよりも眩しく見えた。
 耳まで真っ赤になったまま、視線は巳理と床とを何度も行き来する。
 逃げたいわけではない。
 むしろずっと傍にいたい。
 なのにその想いが大きすぎて、身体の方がついてきてくれなかった。

 頬へ灯った熱は時間差で広がり、じわじわと耳の先まで染めていく。耳まで真っ赤になった顔は、もう隠しようもない。これ以上赤くなれるのかと思うほど海瑠は沸騰している。

 脳内で何かが盛大に爆発した。

「あいっ……あああああ愛!?」
 巳理は微笑んだまま首を傾げた。
 なにそれかわいい。
「そうだが?」
「そんな普通に言わないでぇぇぇ!」
「普通では駄目なのか」
「駄目じゃないけど駄目ぇぇ!」
 ぎゅ、と労わられるように握られる力が強くなる。
 はっとしたように海瑠は深呼吸を繰り返した。
「オっ、オレの方こそ感謝してもしきれないくらいなのに……!」
 震える声。
 それでも伝えなくては。
 応えなくては。
「ああああのっ!」
 勇気を振り絞るように叫ぶ。
「オ、オレも巳理さんのこと!」
 彷徨う視線を精一杯の努力で巳理へ向けて。
「あいっ、――」
 喉が詰まる。
 だめだ、さっきと同じ。
 言葉が出てこない。
 どうして。

 巳理は微笑んだまま海瑠の言葉を待っている。ずっと、ずっと。彼は急かす事はない。
 待っていてくれるその微笑みへ応えたい一心で、海瑠は震える息と一緒に、胸いっぱいの勇気を吸い込んだ。

「ああああ愛してます! 誰よりも!」

 巳理はその言葉を噛み締めるように目を閉じた。
 やがて小さく笑う。
 きっとその穏やかな笑みは、海瑠しか知らない。

『汝らの愛、確かに証明された』

 その宣告を聞きながら、海瑠はまだ赤い顔のまま巳理の手を握り返す。

「……離さない?」
「もちろんだ」
「絶対?」
「何があっても」

 互いの温もりを確かめるように手を重ねたまま、二人はこれまでと同じように、けれど少しだけ近い距離で歩き出した。

矢神・霊菜

 巨大な建物は何も変わっていない。
 見慣れた外壁も、ガラス張りの入り口も、幾度となく人々を迎え入れて来た姿の侭。
 然し、自動ドアは誰を歓迎するでもなく向こう側に広がる異質な空間へ呑み込む様に静かに口を開けた。
 矢神・霊菜(氷華・h00124)がららぽーと福岡へ到着した頃には、空はまだ青く澄み渡っているというのに、夕暮れにも似た桃色の薄明が差し込み始めていた。
 鼻腔を擽るのは花蜜に似た甘ったるい香り。だが幸福さに酔いしれることは出来ない。奥底に腐りかけの果実のような不穏さを孕んでいるせいだ。
「……随分と、趣味の悪い歓迎ね」
 霊菜は眉一つ動かさず呟く。
 乾いた足音だけが広い空間を渡り、不思議と人気のないショッピングモールに、小さく反響した。

『此処は、愛を証明する者たちのための聖域。憎悪と己への執着という重荷を抱えた者は、この先へは進めない』

 純白の翼と無垢な瞳は天使と見紛うはずがないのに、薄ら寒さが漂うのはなぜだろうか。当たり前のように告げる天使を霊菜は一瞥だけして、ゆっくりと館内を見回した。
「……愛を語れっていう舞台なら、せめて役者くらいは出てきてもらわないと」
 挑発ともとれる台詞に天使は指先で整然と並ぶ無数のマネキンを示した。冷たい樹脂で模られた笑みに温度はない。
 目の前に愛しい夫がいると思って愛を伝える事も吝かではないが、使えというのならば使ってやろうと霊菜はずらりと並ぶマネキンを見回した。
「うーん」
 一体ずつ真剣な顔で見比べる。
「疾風に似てる子はいないわねぇ」
 似ていなくて当然ではあるが、もう少し服装なども似ているのがいればと期待してしまうのだ。
「でも、想像力は冒険者の基本よね」
 よし、と頷くと、一体の男性マネキンの肩へ自然に手を置いた。一番これが彼に近い背丈をしていたのが決め手である。そして天使を振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
「任せなさい、この私の溢れる愛を聞かせてあげるわ!」
 胸を張る姿には一片の迷いがない。
 普通――大多数の者は照れるのだけれど、羞恥心など、そんなものは彼女の夫に対する愛の前では羽毛より軽いのだ。

「そうね、疾風の愛しいところはいくらでもあるから……」
 始まりは優しい声音。
 マネキンであるはずの仮初の夫を見つめる視線は柔らかい。
「でもやっぱりここは出会いの頃からでしょ」
 遠い日の景色がまるで花弁のように脳裏を過る。
「初めて会った時、不審者だと思って凍らせたのよね」
 あの日はまだ、見知らぬ青年だった。
 見知らぬ√世界で偶然会っただけの、突然親し気に名を呼んで来たので不審者扱いをしたのだけれど。だってそうだ。いきなりそんなパーソナルスペースに入られたら警戒するというもので。氷漬けから始まるラブストーリーは、数え切れぬ√世界を探しても上位に入る珍しさかもしれない。
 そのせいか、本当にそれが愛の証明なのかと天使が眉を顰める。
 気配の揺らぎに気付いて振り返れば不機嫌そうな天使と霊菜の視線がぶつかった。
「え、それのどこが愛を囁いてるのかって?」
『此処は、愛を証明する者たちのための聖域』
「おだまり、まだ出だしよ」
 ぴしゃり。
 天使の苦言は遮られた。
「でも全然めげずに何度も声をかけてきて」
 霊菜は何事も無かったかのようにマネキンに向き直る。
「それで、なぜなのか聞いたら一目惚れだからって言ったわよね」
 彼の瞳は真っ直ぐに霊菜を射抜き続けていた。
 何度凍らされても。
 何度警戒されても。
 諦めずに、笑っていたのだ。
 今も優しい笑顔で霊菜を見つめて来る彼は変わらない。ずっと、ずっと、あの日から。だから霊菜は、あの日から変わらぬ彼の笑顔が好きなのだ。
「いくら一目惚れでもこれだけ凍らせれば普通は諦めるじゃない?」
 おそらく普通の男だったならば、諦めたかもしれない。
「なのに全然諦めないんだもの」
 ふふふ、と霊菜は肩を震わせて微笑んだ。
「夫婦になって思い返して」
 当たり前の日々は、既に何度廻ったかは分からないけれど。
「私って最初からすっごく愛されてたんだって思うともう、疾風のことが愛しくて愛しくて」
 甘い言葉だけで言い表せるものではないかもしれない。
「一緒に行動するようになって色々気を使ったりしてたわよね」
 危険な場所では前を歩き、重い荷物は自然と持ってくれて、寒い日は温もりを分けてくれる、霊菜を優先してくれる細やかな気遣い。そんな当たり前が積み重なって、長い時間を共に歩いた今までは幸福なものだと、霊菜は迷わず言えるのだ。
「そんな紳士なところも素敵よ、愛してるわ」
 迷いない真っ直ぐな一言に、一欠けらの|躊躇《ウソ》もない。
 マネキンを見つめているはずの瞳は、その向こう側に彼を映している。
「あ、言っておくけど私も最初から気にはなっていたのよ」
 少しだけ声を潜め霊菜は囁いた。
 まるで秘密の告白のように。
「思い返すとあれって私も一目惚れだったのでしょうね」
 自分では気付かなかっただけ――きっと、本当は最初から彼の笑顔に惹かれていたと思う。宝物を見つけた気分だと笑った彼の笑顔は、確かに霊菜の心を捉えていたのだろう。
 小さな春風は確かに氷を溶かしてしまったのだ。
「ふふ、似たもの夫婦なところも愛しいわよね」
 互いに心を奪われ、慈しむ心は今も変わらず。愛のベクトルは同じ方向を向いていて寄り添い合い、小さな衝突やすれ違いはあれど未来への不安はない。

 最初こそ不穏な始まりだったが、順調に語られた愛に感動し天使が静かに頷く。

 だが。

「もう終わったかって?」

 一息ついた霊菜の視線が天使に突き刺さる。

「終わるわけないでしょ」

 ぴしゃり。
 天使の発言は再び遮られた。

「黙って聞きなさい」

 霊菜の愛はこんなものではないのだ。
 前半戦の終了、もとい、後半戦の開始に天使はそっと口を噤んだ。

「そうそう、優しくて誠実なところも疾風の魅力のひとつで大好きよ」

 そんな敵の様子などお構いなしに霊菜の|攻撃《あい》は続く。

「前に浮気を疑った時もすごく焦ってたわよね」
 その時の疾風は人生最大級に狼狽していて、冷や汗に青ざめた顔で必死な弁明を繰り返していた。
「その姿を見たら『あ、浮気じゃない』って安心できるくらいの勢いで、愛されてるのを改めて実感したわ」
 依頼から帰還した彼を待ち受けていたのは妻からの労いか、嫁からの断罪かの二択かと思われたが、実際、疾風は浮気などしていないので、焦る姿さえ愛おしく眺めていたのだけれど。
 まさかの|出来事《おもいで》を懐かしく思い返し、霊菜はくすりと笑った。
「勿論私も同じくらい愛してる」
 その一言は、山より深い重みを孕んで静かに落ちる。
 だって、愛されるだけでは足りない。
 彼が幸せなら嬉しいし、笑っていてくれたらもっと嬉しい。疲れた日は肩を貸したいし、苦しい時は一緒に悩みたい。支えられてばかりではなく、支え合う夫婦でありたいのだ。

 ――霊菜の記憶の中に両親の姿はない。

 不幸な家庭ではなかった。ただ幸せだったことだけは確かに覚えているのに、二度と会えない現実だけが霊菜を阻んでいる。どんなに望んでも死者に会う方法はないから。
 優しい眼差しも。
 温かな手のぬくもりも。
 もう霧の彼方で、何一つ思い出せない。
 この世にひとりぼっちになった霊菜を繋ぎ止めているのは、形見である白狐の面。

 名前を呼ばれた気がした。

 ここに、彼はいないのに。

 振り返っても天使が怪訝そうな顔をしているだけだ。
 視線を戻してもマネキンは微笑んですらいない。

 伏せた瞼の裏、彼の笑顔が霊菜を呼んだ。
 その頭に添えられるのは家族の証として白狐の面と対になるように誂えられた風龍の面。
 隣で揺れる愛らしい兎の面。
 今はもう、霊菜は一人ではないのだと解っている。夫の笑顔と娘の笑顔が霊菜を手招いている。新たな繋がりへ向けられる感情は、霊菜が自覚しているものより深く重いだろう。もう何一つ失いたくない大切なもの。

「疾風ならずっと傍にいてくれるって安心感があるのよね」
 微笑みと共に零れ落ちた想い。
 それは未来を疑わなくていいという幸福。
 大切な人を失う痛みを知っている。だからこそ『ずっと傍にいてくれる』と信じられる相手がどれほど尊い存在なのか、霊菜は誰より理解していた。
 だからこそ、帰る家があること、『おかえり』と『ただいま』を交わせる誰かがいること、そんな何気ない日常は決して当たり前ではなく、何物にも代え難い奇跡なのだ。
 未来を怖がらずに笑えるのは、隣にいるのが彼だから。他の人ではきっとダメだった。
 その安心は甘えではない。幾つもの日々を重ね、互いを信じ続けてきた二人だけが辿り着いた、愛の形。
「これって貴方に対する絶対的な信頼であり愛だと思わない?」
 取り繕いも駆け引きもなく、ただ『貴方だから』と告げる温もりだけが宿っていた。
 信頼という名の花が愛へと咲き誇った瞬間は、いつだっただろうか。
「零を生んだ時も、それに普段も、家事や育児を積極的に手伝ってくれるわよね」
 夜泣きで眠れない日。
 洗濯物の山。
 シンクに残された食器。
 少しサボった掃除。
 疲れた日でも、彼は『任せて』と笑うのだ。
「そういった小さな思いやりや、ちゃんと夫として、父親として在ろうとしてくれるところも最高に愛してる」
 当たり前ではない。
 ありきたりな言い訳をして逃げる者はいるだろう。
 それはお前の仕事だと押し付ける心無い者もいる。
 出来ない時は、出来ないのに。
 優しさとは少し違う、同じ屋根の下、誰かと共に暮らす中で必要な事を、当然のように頷いてくれる尊さだ。
「それに笑顔もとっても素敵なの」
 何度も惚れ直している。
 その言葉に嘘はない。
「温かい陽だまりのようであり、燦燦と照らしてくれる太陽でもある、そんな私の一番の存在」
 霊菜にとって、彼の存在は帰る場所そのものなのだろう。
 家族という名の故郷。
 ひとりぼっちではないと心から安堵して息が吐ける場所。
「あ、外見も好きよ。でも一番好きなのは内面だからね?」
 甘く切なく、少しだけ寂しくなった気分を払うように霊菜が笑った。
 あの優しい眼差しを向けられると『帰ってきた』と安心できる。
 照れ隠しめいたその一言に、空気は少しだけ軽くなった。
 けれど、飾るように付け足した外見への言及は、むしろ先ほどの言葉が偽りではないことを際立たせていた。見目の美しさではなく、隣で積み重ねた時間のすべてを愛しているのだと。
 傷ついた日も、笑い合った日も、何も言わず寄り添ってくれた夜も、それら全てがかけがえのない時間であり、彼という存在を大きくしてきたのだ。だからこそ霊菜は、迷いなく彼を人生で一番大切な居場所だと信じられる。

 微笑まし気な余韻。
 天使は満足げに頷いた。

「もうお腹いっぱい?」

 霊菜はにっこり笑い天使を振り返る。デジャブ。

「|いやまだいけるでしょ《聞きなさい》」

 有無を言わせぬ圧力を受け、天使は学んだように口を噤んだ。

 マネキンに意志があったのならば、何時間コースになるんだろう、と冷や汗をかいたことだろう。霊菜を止められる|存在《もの》は此処にいない。

「それから」

 澱みなく続きが始まった。

「普段のトンファーを巧みに操って戦う姿も勿論カッコよくて大好きよ」
 まるで恋する乙女のように霊菜の青い瞳が新しい輝きを得た。
「戦いといえば、たまに見せる好戦的な笑顔も胸がドキドキして、惚れ直しちゃう」
 普段は感情豊かといえど穏やかな青年である彼が、戦場でしか見せない獣のような笑みを見せる瞬間たるや。その落差は反則だと霊菜は拳を握る。
 目を閉じれば鮮やかに蘇る、幾度となく隣で見てきた背中。
 風を裂くような踏み込み。
 旋風のように舞う身のこなし。
 トンファーが描く流麗な軌跡はまるで風そのものが意思を持って踊っているようで、一歩、また一歩と相手の懐へ入り込む姿は美しいとすら思えた。一撃ごとに風が唸り、普段の穏やかさからは想像もつかぬ鋭い眼差しが戦場を支配する。追い詰めた瞬間にだけ浮かべる、どこか獰猛で楽しげな笑み――その姿を思い浮かべるだけで、霊菜の胸は熱を帯びるのだ。だって愛しい夫の活躍シーンに滾らないわけがない。
「……ああもう、あの顔、本当にずるいのよね」
 真正面から力で押し潰すのではない。
 風が岩を避けるように。
 流れを断つのではなく、流れそのものになって敵を呑み込む。
 その戦う姿に思わず胸元で両手を握り締め、頬を緩ませる霊菜の視線は完全に虚空へ向けられていた。彼の代わりに置かれたマネキンなど、既に意識の外である。

「あとね、寝癖がついてる朝も可愛いし、料理を味見して首を傾げるところも好きだし、零と遊んでる時に本気になっちゃうところも好きだし、疲れて帰ってきても『おかえり』って言うと安心したように笑うところも好きだし――」

 唐突にブーストが入った霊菜は止まらない。

「洗濯物を畳む時に微妙に左右揃ってないところも愛しいし、でもちゃんとその後揃えてきっちり直すところもキュートね。休日にちょっとだけ寝坊するところも好きだし、お腹が空くと分かりやすいところも可愛いし」

 アドリブは無限コンボのように続く。

「あとね、本を読んでたり考え事をしてる時に、無意識に前髪を掻き上げる癖も好きなの。本人は気付いてないみたいだけど、真剣な横顔がすっごく格好いいのよ」

 既に『愛の証明』というより『愛しい夫の|観察日記《のろけ》』である。

「それと、私が寒そうにしてると何も言わずに自分の上着を掛けてくれるでしょう? ああいう『当然でしょ』みたいな顔で優しくしてくれるところ、本当にずるいの」

 惚気なのか、それとも夫自慢なのか。きっと本人にも区別はついていない。
 
「依頼の前は『無茶するなよ』って言いながら、自分が一番無茶しちゃうところも好きなの。ちゃんと帰ってきてくれるって信じてるけど、それでも毎回心配になるんだから」

 少しだけ頬を膨らませる仕草さえ、結局は愛しさへと着地する。

「あと、私が落ち込んでても無理に励ましたりしないで、ただ隣にいてくれるでしょう? ああいう何も言わない優しさに、何度救われたか分からないの」

 天使は一度口を開きかけ――やめた。遮られる未来しか見えなかったのである。

「そうそう、甘いものを食べる時だけちょっと幸せそうに目が細くなるところも可愛いのよね。本人は隠してるつもりみたいだけど、全然隠せてないから」

 もはや本人ですら把握していない癖まで網羅され始め、天使は困惑し始めた。

「それから寝ぼけてる時だけ返事がちょっと遅くなるのも好き。『んー……』って声だけ返ってくるの、反則なくらい可愛いのよ」

 誰も『そこまで聞いていない』とは言えない。
 言ったところで止まる未来が、まるで見えなかった。

 だが然し。

 天使も限界であった。

 最奥に座す聖母から、不穏な気配が漂い始めたからである。

「あと――」
 霊菜の口を物理的に塞ぐように天使の羽根が頭上からばっさばっさ舞い散った。
「え、流石にもう無理?」
 こくり、と一つ頷いた天使を前に、霊菜は少しだけ考える素振りを見せる。
「うーん……仕方ないわねぇ」
 本音を言えば言いたりない。
 霊菜の愛はそれだけ深いということ。
 だが追い立てられるように羽根を散らされては喋りづらいので、我慢する事にした。決して満足したからではない。天使が邪魔をするからである。夫への愛はまだまだ出て来るけれど、仕方ない。

 霊菜にとって、愛を証明することは試練ではなかった。
 当の本人が揃ってきていたらもう少し軽く済んだかもしれない。ただの惚気大会という夫婦の愛を見せつけられる時間になっていただけかもしれない。



――否、おそらくきっと、彼がいたならばあと数時間は終わらなかっただろう。



 ららぽーと福岡を支配していた試練は、天使さえ受け止めきれぬ愛情によって、終わりを迎えた。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?