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One day, in the night
「この時を待っていました」
底抜けに優しく響く声であったのです。
「貴方たち同志――√能力者の皆様とお会いできる日を」
ふんわり。
肩にかかるほどに優しく流れた紅。毛先に至る黒。リムレスのスクエア型眼鏡をかけた女子が、気分を弾ませていたのです。
黒い瞳までもが優しく眼差しを描いて。
「私は槻上・優奈。この“楽園”を、√EDENを愛する一人です」
|√能力者たち《あなたがた》を歓迎するのです。その理由は『√EDENを愛する』という言葉に滲み出ていますから、特に色が濃いのです。来いと願うが如く――そう言葉に出来る程に。
「皆様はここに、色々な理由で来たと思います」
様々でありましょう。暇だったから、身体を動かしたいから、力を試したいから、と漠然としたものから、明確にこの世界を、あるいは、
「自分のAnkerを護る為に来た人も多いと思います」
強い望みまで。果ては、
「どうしてここに来たんだろう? と思う人もいると思います」
迷える仔羊でさえ。
でもそれらをこの小娘は……槻上・優奈という女は、全て歓迎するのです。
「怖がらないで。これらは全て|黄道十二星座《ゾディアック・サイン》が、」
等しく輝ける星々が繋いだ縁なのですから――その縁を覚えて欲しいからこそ、そのように優奈が紡ぐのです。
そして、これから起こるであろうことも。
「では、早速相互観測を始めましょう。今から数えてちょうど3分後、付近にある新宿中央公園のインビジブル摂取を目論む戦闘機械群ウォーゾーンの偵察ユニットが複数出没します」
決して夢という言葉では語れないのです。何せ星の示した未来なのですから。
「そして貴方たちは選ぶことになります」
――集団を残骸一つ残らず壊滅させるか。
――それとも集団の指揮機能を探して不全に追い込むか。
「どちらを選んでも、片付けた先に行き着くのは束の間の平穏。√EDENの一場面が正しく平和を維持する状態を作ることが叶ったなら、私たちの業務は完了です」
やり方は複数。自由自在な幅があるのです。
「そして気をつけて……向こうも必ず気付きます。私たちが『受け取った未来を変えようとしている』ことに。そして阻んでくるでしょう。相互観測と言ったのはそう言うことです。100%こちらが上回れる、という保証はありません」
難しさもあるのです――でも。
「それでも、大丈夫。私が観ています。見守っています」
ですを並べて|死《です》にくっつける――コンパクトに乗り越えられるのなら。それを実現出来るのなら。それが世界を、|帰るべき場所《Anker》を護るということなのでしょう。
「ほら、もうすぐです。実際に直面しながら、覚えていきましょう!」
満ちる|最中《さなか》の月までもが見ているので。
ふよふよ夜空、インビジブルがうようより。
「指揮官。|招《・》|か《・》|れ《・》|ざ《・》|る《・》|客《・》を複数確認」
嗚呼最悪です、翼の動力エネルギーが蒼く広がる波紋のよう。
――ふむ、さしずめ向こうが目敏く気付き拾ったということか。
通じていたのです指揮官と――手が早そうな印象。早めに来て正解だったという印象。心象は如何ですか|√能力者たち《あなたがた》。
「インビジブル確保の前に、壊滅を優先しますか?」
――うむ。星詠みも近くにいるはず。片付けるのだ。
どうやら|学習《なにかしら》を邪魔されたくないらしく。
「了解――捕捉完了」
あっという間に増える数。
「お前たち、我々戦闘機械群ウォーゾーンの邪魔はさせません」
|未来《おさき》が妙に暗く。
「早急に瓦礫となりなさい」
動く|√能力者たち《あなたがた》の感覚が軽く。
これまでのお話
第1章 集団戦 『ナイチンゲール』

風と花が運んでいたかも知れないのです。
「ったく、それにしても数が多いぜ……!」
|夫婦《ふたり》が行動を開始したのは誰よりも早いことだったのです。全く誰も彼も翼を広げて天使みたいで元気が宜しいことで――それがどうしても夫には危機的に映るので。
「敵の第一陣を退けたら、指揮官をナルハヤで見つけて叩かないと、大変なことになりそうだ!」
だから急ぐのです好き勝手させまいと。たったったっ。
公園じゃ看護師の台頭騒ぎ。名ばかり謳う戦闘機械群が上空に何機も展開する光景、お祭りかしらと思わざるを得なかったのです、妻。ふむ――、
「この場合は……そうね」
あれをどうしてみせようか、各機がどれも鮮やかな軌跡ばかり残すものですから“積極的”と思わざるを得なかったのです。好奇心をくすぐられますか――考えてみて、そして決めるのです。星詠みを傷付けられたのではたまったものではないのでフォローしておきたいところ。
「周囲の警戒が必要かしら。氷翼よ来たれ」
ひんやりと空気が冷えるならば飛翔の合図。鷹よ舞うのです、同じく翼はためかせて示しましょう、空の覇者が誰なのか。鷹が一体自由気まま、それを捉えるがナイチンゲールの使命なのです。嗚呼数がとんでもございません、さらによく集まった部隊の面々が雁首揃えてるのが良くわかるもの。
しかし。見るのです、良く|刮目《み》るのです。
「さあ、ピクニックを」
「さあ、戦いを」
――|始めましょうか《始めようぜ》。
シンクロするが如き轟音。音の方を見るのです妻。運ぶ風が荒れ狂っているのですが夫の仕業です。疾風怒濤の言葉の如く、荒れ狂う風が|上空《そら》を駆け抜ける――一瞬にして飛行バランスが崩れたのです|看護師《きかい》共、一部が地面にそのまま落ちていく様、神でも通ったみたい?
「――あの|強風《かぜ》は」
助けなのです。唇が動いて疾風の名を紡ぐのです。間違いあるまい――鷹が間違いなく動いているのです。そしてもう|一本《ひともと》……探すのです看護師たちの|指揮官《あるじ》を。
「風拳の怖さを味わうといいぜ!」
風龍神の力は絶大であるのです。何人たりとも疾風の攻勢を止めることなど叶わぬのです、ぐるりひゅるりと拳に群青のトンファー。踏み出せば漲る風、ちょうど拳に向かうように吹くのです。向かってくるナイチンゲールの機体、一機ずつ打撃を加えてやるのです。振るう度にダンッ、ガシャンッ、機体砕け|停止《とま》る音の連続。ナルハヤの言葉通り片づけていくのです思惑通り。
「見つけることが出来れば御の字ね」
氷の鷹たちが暴れ回るのです。縦横無尽に霊菜の側を飛んでは、ナイチンゲール共のフルスピードで飛んで来るのを喰らいついて止めるのです。ぶち当たってぶち抜けるのです。ほらまた一本機体の腕を持っていく、繰り返す繰り返す――、
「これは、予測外の強さです」
「想定外です。我々の戦力が徐々に押され始めている」
「ですが思い知るのです、我々の能力は確実」
ぎゅうん、空が軋むような音なのです。ジェットの波紋が蒼を伴い。
霊菜の眼前。
「そう来なくちゃ」
身を翻し避けるのです全力で――鷹でも一本は喰らいつくのが難しい機動――他の一本の翼が掠って破砕の音――蒼が妻の肌に紅線を描く――見れば先の看護師一機、背骨が少しぐちゃっているもので。理解。
「それでオレが捕まるかよ」
速度は夫にも見えていたのです。もう一度爆速で|救護《ころ》しに来る看護師と相対するような位置でした――
突然推力上げ襲い来る看護師の横っ腹が砕けるのです。
「おっ、と?」
よそ見をした一機を思いっきり横に殴りつけて|墜落《おと》して夫が見ると。
ひゅるりと鷹たちを伴って愛しい人が。
狐の面を側頭部に着けて。
にこり。
「なんだよ、来ていたのなら言ってくれよ~」
「ふふ、疾風だって」
二人揃ったならば白黒付けられそうと知るのです。蒼の龍《かめん》が物言わぬことでしょうが。
「さ、次は一緒に」
「ええ、楽しい異世界ピクニックを」
ドラゴンファンタジーめいた絆なのです。
「そう、我々はナイチンゲール。例え邪魔立てされようと我々は――」
御高説垂れようとしていますね機械。有象無象だ――そうとしか映らぬのです。
「指示を果たす、か。無理だろうな」
確信があったのです峰には。鍛錬を重ねてきた経験が|瞳《め》となり見透かす事実。
「ナイチンゲール。平和を告げる鳥の名だったか? それが有名なシスターの名だったか?」
問うてみるのです、しかし碌な答えが返って来そうにはありません。少なくともそう思うのです、|公園《ここ》が祭りの場所となるのですから説得力の欠片も――。
「まぁ、どうでも良い」
本筋一本。剣筋を見せるのが筋でしょう――ゆっくりと抜かれて獅子吼・破軍の刃が顔を出すのです。
「お前らは只の一兵卒。倒しても首自慢にはならないが、大将とやり合うまでの露払いにはなるだろう」
向けては。
「退屈させないでくれよ」
機体が波打つように数を増やしたのを見るのです。やはり集まっている。独自の看護師部隊で物量押しを図ろうというのでしょう。予測。
「瓦礫となるのです」
無感情にも霊剣士取り囲み迫る推力。こちらを打ちのめそうと手を振りかぶる|看護師《きかい》――おっと。
「対象の捕捉g」
一閃。横真っ二つとなった機械、今や残骸。残りの機体が複数体上手く機動を活かしているようですが峰が一枚上手なのです。三倍。まるで龍にでもなったみたいに尋常ではない速さ、飛び抜けて看護師の捕捉機能を混乱させてはその処理を落とそうと試みているのです――看護師一機のアイカメラ、古龍を視ていたのです。太古の神霊なるもの。
「数がいれば勝つと思ったか?」
やはり有象無象なのです。鈍った数体を逃さぬ刃。霊剣術・古龍閃――振り抜く刃が限り無い質量を伴ったような感覚――二倍ということなのです。遅れて切断面が発生する機械共。部隊一機一機のレベルが伴っていない性質に気づいていたのです。
「数は確かに驚異だが、そんなに差が無ければ質がものを言うんだ」
まだ数が多いところ――しかし失敗は無いのです。教えてあげて。
「お前らの質は劣悪だったよ」
ナイチンゲール共が台頭してからというもの、部隊の作戦は難航しているものでした。そうもなればヴィオ・ローゼスという男にとっては面倒ごとで。
起こってしまったものはしょうがないのです。
「いや……始まった、というのが正しいか」
漸く、紫薔薇の王の時間がやって来るのです。吸血鬼とは永き刻を渡るもの、久々に“それ”を行使する日が来たとあっては殊更に――おや。
「さらなる敵を確認」
「お前と瓦礫となり、塵と化すのです」
お決まりの台詞しか吐かぬ光景。ふむ、と息吐く|√能力者《あなた》、もしや興が乗らぬのですか。
「まあ構わないだろう」
そう言って。
紫の薔薇が。
何物にも傷をつける鋭き棘が。
壁を造らんと動くのです。しゅるりしゅるり、看護師が空駆け飛んでくるのが見える、だからこそ一層壁の危険性が引き立つのです。そして超高速で迫り来るはずのそれらが一機また一機と絡め取られていく様は芸術的という他ないのでしょう。
しゅるり、しゅるり。
機体共を締め上げて引っ掻き裂いてさしあげましょう、棘はそれを望んでいらっしゃるのです。
「美しき薔薇よ、咲き誇れ」
その言葉通りに薔薇が咲くのです、あちらこちら綺麗なこと、ですが物足りぬのです気の所為でしょうか――血の所為です。
「血を流さない者たちが相手では、やはりか」
より綺麗に咲く刻を待つのです、常に血に飢えているわけではないのですから。格の違いを見せてやれば良いのです、いつの間にか茨の壁をかわして一直線に躍り出る看護師紛いのプログラム。通り過ぎる――蒼が肌を掠るのです、しかし紙一重ひらり、直撃など最早あり得ぬのです。
「もう一つ壁を増やさなくてはな」
見るのです、棘がまたしゅるりしゅるり。いよいよ背骨のおかしい一機が、それを見て加勢に来る数機が。吸血鬼を狩ろうとして、しくじるのです。みんなみんな茨の餌食。蜘蛛の糸のようでもあったのです、使命を忠実に果たそうとしかしないそれらに報いを、とするように。嗚呼また其処彼処に数多の傷が。咲いた幾多もの紫薔薇。
「ふむ、久しぶりの戦闘にしてはこんなものか」
脆弱であったのです、医療体制が。
さて、公園というものをめちゃくちゃにしようとする看護師共の目論見は完全に潰えたわけではないのです。まだ機体の数が多いというので――その夜空を埋め尽くすその様はあまりに……と言わざるを得なかったのです。
これが普通なのです。ありふれた幸せが異常に染まることさえある現状。戦って取り戻すしかないと言うのです。
(だが、√能力を失ったおれには簒奪者どもと戦うだけの力はない)
神楽火・皇士朗、喪われていたのです。√能力。その身は毀れた刃金にして、折れた剣――強力な怪人との戦いで相討ちがそうさせて、|それで自分にしかできない事《サムライセイバー・レプリノイドの開発計画への協力》があったというので。それにアクセプターと|剣技《ちから》の行き先は。
(……いや、今更愚痴っても仕方ねえ。今できることをやれ、皇士朗)
見られてはならぬのです。心を知られてはならぬのです。
「センセ? 少し顔色が良くないわ」
|少女人形《おにんぎょう》さんが見ているのです。勇見・凰羽。
「ああ、何でもない。それより今暴れているものが見えるな?」
|死《です》を振り払う為には知に頼るのです。過去を辿るその指逞しく、あの機体共の|機動《おどりかた》を学ぶのです。よく知れば遠距離への攻撃手段に乏しく、大きく素早く動き回れるのがナイチンゲールの特性だと知る事が出来るのです。小夜啼鳥を現実にする為のルール、逆手にとってしまえばそれもまた宜しいこと。
「奴らの√能力のカギは『移動しないこと』と『詠唱』だ。スラッシュフォームの高機動戦闘で詠唱中の奴を追い立てて、斬り崩してやれ」
良く見るのです、伝えるのです――ナイチンゲールを撃滅する、以上が現在の最優先の任務だ。
「奴らを討ち、この戦争を勝利に導くことがお前にはできる。……交戦を許可。行け、凰羽」
「任務了解よ、センセ」
いつもと変わらぬ処理だったのです、可愛らしいお口がよく動く、ではソード・アクセプターの調子をば聞いてみましょう、腰に下げて並ばせた数々の剣型キーホルダー、今宵の|逸話《きぶん》は如何でしょうか。変わるのです身を強くするのです、鬼丸国綱の|伝承《おはなし》を読むかの如くスラッシュフォームが悪夢を照らすので。
「それじゃ斬ってくるね、センセ」
それが彼女の√能力だというのです――瞬間空を薙ぐものです。二倍の移動速度が彼女を鬼に変えたのでしょうか、否、悪鬼を討つのです。実際に詠唱の為に多少のラグを生んだ6機程の編隊がばらける前に一閃されて。
「ええええee詠唱失敗ii」
「早い、即時の捕捉を試みます」
「ダメです、即座に反撃の対応をするのが良――けけけ警告」
神速にて重く素早く斬り抜けるものですから伝え切る前に圧倒的衝撃、|回路《あたま》をやられちゃうのではバグり散らかして|停止《とま》るのもしょうがないものです。「悪夢の鬼を断つ太刀」はそれ程までに正確を極め、主に止まったものからその|活動《いのち》を終える運命だったのです。次々に機体共に刀の斬り傷を深く刻んでやる凰羽、いつもと変わらぬ光景の中。ロールアウトからまだ期間が無いのに、流れが彼女たちに向くというのです。それでも小夜啼鳥が|観測《ない》て居る。
「急ぐのです、修復可能な機体を優先的に修理するのです」
――あの人形を止めるのです。
よく見なされ敵も凰羽も。相も変わらず凰羽には何も問題が無い――鳥がようやっと人形の近くまで。眼を狙っているというのです、嘴きらり。だけども甘い、砂糖菓子のように甘い――わずかに鳥が彼女の頬に、その翼を掠らせても。
その眼を潰すことなど叶うはずも無かったのです。
「大丈夫だ凰羽、お前になら出来る!」
看護師の手の届かぬ所で、声を届けるのです。気づけば少女の姿勢は深く、深く腰を落として逸話の先へ――、
目にも留まらず超速一閃。また数機がざんばらと。
「神楽火流対機甲刀術がひとつ、『|奔《ハシリ》」
駆け抜けていたのです。ただ敵を斬る。
|実現《かな》える為の一太刀なのです。
虎よ見るのです。かのウォーゾーンを蹂躙するこの敵共。
戦闘機械群ウォーゾーンが暴れ回るのを止める理由を確認するのです。どこで暴れようが何をしようが〝ブッ放し屋〟の使命に変わりはないのです、√能力者は世界を渡るもの。
(だが──〝此処〟は駄目だ)
そう思うのです。
楽園には無いのです。
護る|都市能力《ちから》が。
最も弱くて、最も幸せな楽園。
(おれのAnkerが|居《あ》る此処だけは駄目だ)
だから焼かせてはならぬのです、ここがそうなる前に。そうしてしまったらその瓦礫景色、|戦争塗れ《√ウォーゾーンとおなじ》でしょうから。
(|あの街《√ウォーゾーン》と同じにしちゃいけねぇ、それだけは分かる!)
自分に出来ることを見るのです。量産型WZ「ビッグタイガー」――装甲や武装の継ぎ接ぎを括り付け|着こなす《・・・・》のであれば立派になっているものです。ある種の捨てておけないこだわりのよう、その融合装甲の性能はそこらの瓦礫や撃墜した敵機を修復に応用出来るのです。叶うのです。|楽園《ここ》を護る為の手段。
「増援を確認。1人です」
「量産型WZの着装を確認。それで我々を止められるのですか」
「ああ、止めてやるよ」
純粋な質問には啖呵を切って貼り付けましょう、切手のように大事にね、捕捉してきた看護師共はまた蒼の軌跡を描くほどの推力で近くまで|飛翔《とん》で。伸びてくる手――ずどん、真正面から受け止めてやるのです。複数回の凄まじい衝撃。超高速の|突撃《ちから》が量産型に致命的な破損や凹みを残そうというのですがほぼ無理でしょう、出来ても傷が少しぴっとつくくらいで、既に腕部の増設は行われているのです。ただでさえ長いのにブースターがしっかりと乗っかるのであれば――ズドォォン。推進力と遠心力のゴリ押し、一機二機三機四機と集団纏めて圧してべきべきと潰せば診察もまともに出来やしないのです。探さねばならぬのです指揮官を、最早敵機の波をただ掻き分けて爪痕を残すだけでは足りぬのです。
「厄介な敵指揮官は真っ先に叩くに限るぜ」
征くのです、ビッグ・タイガー。
人生というものは突然理不尽を押し付けられるものなのです。
「早々大群相手って聞いてないよ玲子!」
|√能力者《あなた》を導く|通信《こえ》があるのです。
『私の指示通りに動いて。『メソッド』を発動し、回避はバックステップを中心に』
慣れていること前提の|道案内《ナビゲーション》。60秒を数えましょう、カチカチと時計の針でもなるような錯覚――|メソッド・オーバークロック《グリッチバースト》がレイ・イクス・ドッペルノインに与える異次元性はとても不思議なものだったのです。|死《です》を乗り越えるバグにも似たのです。戦い方を十分に知らぬままに駆け抜けて――鳥型の戯れに近づかぬのです。バックステップ。バグがあるのです、目の前がブレるちらつくそんなノイズ。
「何これ怖い」
詠唱していない看護師たちが寄ってきますよ、だからと壁走りの可能性をどこかしらに押し付けて|叶える《・・・》ので――
「いや何で私壁走りできるの?」
徐々に他を寄せ付けぬ|速度《とけい》。
『次元干渉、RTAには必須のメソッド』
「RTA???」
人間を外れろとでも言われた気分なのです。|RTA《それ》が人を外れるような技術の集まりなのだけど。
『そのまま敵将を探して。敵将は雑魚に守られて激戦地帯の外に居るかも、外れた場所の不自然な塊が恐らく』
「見つけたらどうするのって!」
方法をしっかり聞いて。
『十分勢いがついたら雑魚目掛けて『鉄槌』ドロップキック。そうすれば吹っ飛んで取り巻きも敵将も巻き添えに出来る』
「無茶言わないでよ、初戦闘だからマトモな――」
叶えるのです。ほらちょうどいいところにすごく時間を費やして処理をしている機体の群れが。
酷く多い密度ですこと。推定約180フレーム。
『詠唱中のそいつを狙え! 180フレームも使う時点でカモだ!』
――え? あっ、こいつ?
頭でなんとなく理解するのが実に早くて。
「死に"晒ぜメ゛デオ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!」
程よくかかる重複効果の積み重ねで。
一切の物理法則を無視し粉々に破砕する打撃地点。
看護師共がその身を砕かれながら空に舞って。
お買い物が楽しかったのです。
「ん?」
しかし些か楽園に相応しくない光景。あちこち広がる戦闘の光景、増え続ける看護師共の残骸。
「何でここに|こっち《√ウォーゾーン》の偵察ユニットがいるの!?」
不思議なことだったのです、楽園を求めて止まない簒奪者たちが存在しているとはいえ。だから|Whisper《ウィスパー》だって良からぬ感覚を感じるのです。
「どこの差し金なのかは知らないけど、トラブルの予感がするね」
では見つけるしかないでしょうこの騒ぎの大元を。選ぶのです、さらに集団が増える前に――おっと。
「そこの綺麗なお姉さん?」
お呼びがかかるのです、今日は特に幸せな日。豊橋・瑞穂がそこにいたというので。
「似た格好の人を知ってるの。 私が注目を集めたら、一気に行けるかしら?」
「えっと、私のこと? う、うん!とりあえずやってみるね!」
そう答えて見たらほら、即興チームの出来上がり。改めて空駆けるナイチンゲールの数々を見ていれば瑞穂がふう、と息の一つでも吐きたくなるものです。
「ご存知無い所に迷い込んで、穏やかじゃない話をしてたから、こんな所まで来てはみたけど、来てみて正解だったというか、」
――後で怒られそうというか。首を傾げるマリーではありましたが。
「ああ、私のことを心配してる|お姉さん《監視役》達がいるの。無断でこれだけ連絡取れないと、流石に絶……対怒られるのよねー……」
そうまとめてあげたのです。軟禁生活を強いられた富貴な身、不自由無き不自由、怒られるのは是非とも避けたかったのですが。
「でもね? 憂いは無いが嬉しいなとも言うし? |お姉さん《監視役》達のお怒り覚悟で、黒幕探しにも付き合ってあげる」
「ありがとう! これをどうにかするには、それを探さないといけなかったから」
蹴散らすと決めたらそう、止まるものじゃないのです。
逃げられないのです少女たちよ、楽園がここです!
「増援が増え続けています。指揮官、これ以上放置しては――」
――片付けるのだ。手こずることなどなかろう。
|通信《それ》を受け取った機体共が迫ってくるのです、これは排除の意思なのです、簡単に叶えさせてはならぬのです。だからとDD.Ⅴが。
「じゃあ、早速派手に行きましょうか!」
躍り出るのです――魔法を準備するのです、看護師の診察の対象となりそうなど真ん中、可能な限り広い範囲、機体の防護性能を丸ごと貫くように焼き尽くすその火の名をウィザード・フレイム。火が生まれたらこれまた躍るように機体たちに触れて、燃え移って。これらを簡単にどうにか出来る集団ではないのです、数が増えようと殆どは半分の|練度《レベル》しか有していないのですからまともに行動できずに火だるまになるが運命。ではそうではない機体たちは――否、同じことなのです。機体たちが消火活動を行おうとする際にはさらに増えて燃え上がって。アイカメラをも焼くのです。一機一機灼くのです。さらに火の勢いを強めて大きめに道でも作って差し上げましょう、一部のナイチンゲール、また動かないままだというのです。
「あ――本体も見えた!」
「ええ! お姉さん、お願いね」
その言葉に導かれるように。
そもそもが|歌姫《レゾナンスディーヴァ》だったのです。迷彩の機能をしっかりと効かせてナイチンゲールたちを誤魔化すように、紛れていくのです。ヘイトも散々瑞穂が買ったのです――何れもマリーを阻みやしない、数を確実に減らす為に、ちょうど出来た幸運な位置につくのです。HK437が、Whisperが。
「さあ、ここで変なことはさせないよ! 私からのプレゼント、いくよ〜!」
|共鳴《ささ》やいて。
最大性能を実現した音波属性、引き金が引かれればそれは死神のようであるのです。狙い定めし|一機《ほんたい》に見事直撃し。
粉々に構造を破壊される看護師共、形も体裁も台無しで。
瑞穂、|とても良い気分《・・・・・・・》だったのです。齎されし音がその疲れを癒して。
「ふふっ、なんだかもっとやる気出てきたかも」
「この調子でどんどんいっちゃおう!」
次を見つけてはまた――どぉーん!
空白めいていたのです――ふら、ふら、ぶらり。
近く、|人の姿《おんな》が上を見上げれば看護師共が忙しなく舞っているのです。待っているわけではないのです、|√能力者《あなたがた》の働きは実に上手く行っていますから最悪の事態すら予測しているのです。
「ナイチンゲール部隊総数の減少傾向:致命的」
「さらなる増援を発見、排除を最優先」
単純なことだったのです。
「また敵・・・。面倒な街」
溢れる|音声《つぶやき》が夜の空気に溶けるだけ。胸の谷間にメモリをば突き刺すだけ。|沈黙《すきま》が暫しあるだけに、ナイチンゲールたちがこぞって向かってこれるものでしたが。
「いいよ、相手になるから。・・・貴方達と戦ったら何かが見える?」
「死を見ることになるでしょう」
変わるのです。戦うのです、ディアドラ・グラップル。
浮き上がる身体、ジェットパックが少女に自由を許すのです――目にも留まらぬはずの看護師の|頭《どたま》がむんずと掌の中。
「・・・逃がさない」
|大いなる腕《バトルアーム》の仕業と知るのです、瞬間ごみ屑と化すその頭、小型パイルバンカーの破壊の業を表現したのです。零距離。
「超高速機動。取り囲むのです」
かなりの数が固まって翻弄しようとするのです、しかし両太股部、フォトンガトリング、光学的な射線を描いて機体共の動きを制限するのです。選択権を奪うのです。コンパクトで無機的な最高効率、看護師たちの体当たりさえぎりぎり外れるように仕向けるのだって上手なのです。勢い余って交通事故みたいな衝突、そんな看護師たちに叩きつけるように――ぐしゃ。
「しまっtttttt」
「けけけ警告t味方機との接触により機d ■■■ーーー」
四機も一気に串刺しで。流れるように動き続ける手。また掴む頭。|落下《ひゅーん》――|墜落《done》。
探し続けているのです。
「戦う事でしか自分が見えない・・・。記憶の欠如・・・存在意義は」
義体、前に進むのです――その|大腕《バトルアーム》で押し潰す|頭部《かじつ》。
後120秒で全てを破壊する――健気に飛び回る看護師共を見て一人の学徒動員兵がそう考えたものです。それを可能にできるのが彼の有する兵器。名を玄武と申しては、体高2.5mを以てこの夜の空の下に降り立つのです。
「最優先で増援を叩くのです。部隊戦力、不利な状態」
「詠唱を行うのです――ロボットを創造中」
|小夜啼鳥《ロボット》が啼いている――だからと宿すのです怒り。消えざる魂の炎、拳に宿ったならばその手で動かすのです決戦型WZ、向けるは【撃滅】のミーニングを有する砲身なのです。
「小夜啼鳥型ロボットか。だけど」
穿つのです一条一条、看護師に当たればごろごろと転がり、皮切りに次々と動いていない集団に撃ち込んでやるだけで叩き出せるでしょう十分な被害。残骸を増やすのです、機体砕け爆ぜる光景を二度、三度と見ながらその数をゆっくりと減らしていくのです。時が過ぎる。鳥も過ぎる、反射してこようがギリギリ己の身を掠める程度で玄武が健在であるというのです、鳥が吐いてくるような攻撃も雪の結晶程度にもなれないものです、こんな雨霰の中ただ北城・氷がその力を示して、漲る魂。
「この程度で僕を落とせるとでも思っていたのかい?」
嗚呼、あまりに生命力溢れる佇まいだったのです。気づけば60秒などとうに過ぎている、もっと近くで造らなくてはと急ぐような看護師共にあっという間にその機体が肉薄して。
「ここだ」
拳が燃えて――爆ぜるのです。玄武のみならず、まるで四つの神にも似た神々しい一撃。人の思い輝くその拳が大地も空も平等に揺るがして、機体が5機程は塵となったのでしょう。
「大規模な威力の炸裂。およそ18倍と推測」
「これ以上の継戦は危険と判断します。増援を要請――」
否、もっと。全て|撃破《こわ》すと決めたのです、さらに60秒を繋げなくては。プロジェクトカリギュラ、それこそが真紅に変わって玄武を神たらしめんとせんばかりの輝き――決戦だというのです。
長くて短い、人の人生が如き大立ち回り。
「僕がいる限り、この世界をやらせはしない!」
そして幾つもの光を紡ぎ続けるのです。【殲滅】の意味を有する超火力――ビームを幾つも看護師共に注いでやるのです。救うかの如く、否、救いなど無いのだけど。着弾する度にその|機体《てき》に伝わり続ける多大な衝撃。完全機械にもなっていない|簒奪者《かのじょ》らには到底耐えきれようも無かったので。糸が切れたように舞って落ちるものたち。
「ここまでとは」
抗い救おうとする最後の数機が蒼を残して。眼前――見えているのです。機動をすれば4倍が助ける回避、あまりの俊敏さは誰もが同じ、ただナイチンゲールのカルテに載っていないだけのこと。そしてそれが最後だったのです、大口径より幾つも爆ぜる的確な|光線《ひかり》が。
全てを。
ドカンと。
落としているのです。
「さくsssss……続行、ぞっk」
ごしゃん。潰れて物言わぬ瓦礫なのです。
「瓦礫になったのは、そっちの方だったね」
2chain detected.
第2章 ボス戦 『『ドクトル・ランページ』』

|記録《みみ》に|記録《あたま》に刻む破砕音。
――指揮kkkkkkkk、招かれざる客の戦力はよそ予測予測kkk。
「……お前たち?」
――我々の本来の作戦に深刻な影響を及ぼy○×△□
――至急……おおおおうえんんん……。
「手練れか」
そうです、解けたのです簒奪の部隊。
途絶え続ける通信の数にこそ、“招かれざる客”たちの|能力《レベル》が表れているのだと気づく今日、静かな呟きが冬の夜空に溶けるばかりであったのです。インビジブルを蒐集するというその試み、機体砕け部隊が瓦礫の山となるのでは達成不可能の文字は容易く頭にちらつくものでありました――余程頭一つ抜けているか、相応しい危険性を持つもので無ければ突き当たる壁。
だから余程の危険性を知らしめるのです。
「……単純なのかな、私も」
厭に人間的な動作。
逃げる選択肢等初めから眼中にありませんでした。勇ましく征くのです、横行し猛威を振るう事そのものがランページの語源なのではないか――少なくとも一般的にはそうですが――寧ろ自ら望んで夜の中を、ただ欲しい物がある為に。
同時に、必ず捉えるのだろうとも思っていたのです。誰も彼もが逃さない、
「至ったか、√能力者たちよ」
|√能力者たち《あなたがた》が、逃さない。
「そんなにこの“楽園”を護りたいのか。最も弱いこの場所を」
既に探索の手段全てが辿り着いていて、だというのに。
「奪われ私達の一部となることにも、多大な幸せがあると思うのだ」
眉一つ動かしやしないのですこの|機械《おんな》。最も弱くて幸せな楽園でしか得られないインビジブルに、学習データに生体パーツ。
「学ぶか、人間。学習とは何よりも重要だ」
全て、学び通さねば気が済まないからって。
その|機体《からだ》が舞っては――水の広場に。突き刺さる脚。白ベースに禍々しい紫色の装甲がアクセントで、ふわり揺れる赤髪に後頭部パーツから伸びる角というのが誠に脅威的なイメージであったのです。尻尾パーツまで危険性を伴って、何を背にしたでしょうこの機械は。
「私達も強くならねばならぬ。故に、謹んで――」
新宿ナイアガラの滝。
光の装飾を伴う、冬の幻想らしい仕上がりで。
嗚呼、よく見れば階段もそこらも、この星空の下、優しい光が灯っていたのでしたか――
「――学ばせていただく」
Path A Chosen.
ツギタシ、ツギタシ。
「へえ。学ぶのか」
良く見るのですその|人型《パッチワーク》、数多の戦場を駆け継ぎ接ぎしていったその身体が地を蹴って躍動する様子を何と言いましょう。
「じゃあ、オレがたっぷり教えてやらないとなあ」
拳振り抜いて強烈な打撃。|機体《からだ》に刻んでみせる|衝撃《ヒット》なのです、尻尾を振り回し蠍みたいな赤髪が靡くのが分かれば|選択《アウェイ》、選んで破壊に近づけていくことこそが学習なのです。さらに尻尾が届くかどうか、否――がちゃりと撃てるようにしてぐるり取り回す音が響いたならばまず引鉄一引き。火を噴いて――爆ぜるソードオフショットガンの火薬の有効性。
「やったろうじゃないの!」
もう一発。さらに身体の|回路《うちがわ》揺らす衝撃。散る火花の匂いが鼻腔を通り抜けるというのでパレードする側も不敵に少し口許を緩めるのです。擬似人格の|制御方法《しゅみしこう》、|戦闘《しげき》がお好き?
「元気なものだな。生体パーツにするには些か、」
ランページの瞳がぎらり光り。
「継ぎ接ぎが多いか」
継萩・サルトゥーラの顔の縫い目の一つ一つ見逃しやしないので。
「そりゃそうだ」
随伴する浮いた半自律のガトリング。化学の|属性《ちから》を訴えし唸り、今にも吐き出しそうで楽しみで。
「戦うのが好きな身だからな」
ケミカルバレットの恐怖をも活かすのです。ばら撒いてみせる超強酸雨霰、しかとドクトルの|機体《からだ》に言い聞かせてやるのです。そうしたのです。あっという間に装甲が致命的なまでにじわり灼かれる溶かされる、内部機構がまろび出るその様、嗚呼致命的ったら!
「ほう、これは」
向こうが自身の身に起こったことを理解して0.21秒。
隣に駆け抜ける光線一条。
二発目、身体をずらして避けていくサルトゥーラ――。
「この私が“損壊”を学習しようと?」
「そうさ。まあそう怖がんな、なんて」
「私に恐れなど無い」
捕まえられぬのです。当たれば継ぎ接ぎの縫い目なんぞ簡単に解れてしまうだろうと勘が煩いので。
「今は、だろ?」
もう一度肉薄して――勘に労働してもらうのです。
ショットガンを取り回してガツンと顎に食らわせてやれば顔面に。
「もっと楽しくなるぜ」
ズドン。
装甲溶け内部機構が見え始めた|機体《おんな》の姿なのです。
|原型《おけしょう》が顔面に施された|銃撃《メイク》のせいで乱れていたものでして。
「やっと新宿に着いたと思ったら、」
何か妙なのがいますね――そう思うのも無理は無いのです。
放浪していたのです淑女。きらり光輝くようなレイピア、魔力を流せる造りでした。見つけることができた幸運は如何程でしょう、いっそだんと踏み込んで一つ貫いてしまったら、振るって尻尾を切り落とせたら如何でしょうか――前者を叶えました、斬り付けられ発生する金属音。
「来るか」
三文字に感じる危険、振るわれる腕を見たシンシア・ウォーカー、綺麗に細身の刃をかち合わせて行くのです。止まるアームパーツ、不意に魔力が生じてしまえばまた熱持つパーツ、生まれる斬り傷! そこよりさらにで刃満たして先端、衝撃波を生むのです。二度のみならず三度、流石に尻尾が許しはせずにぐるりと襲い来る圧をすんでのところで幸運にも。
「なんとかなると思っているのか」
「ええ!」
「幸運のみでは足りないはずだが」
ぶん、ぶん。尻尾が彼女を捉えられないのを見るに|機械《おんな》、推測しているのです。
「学習ではない――何か探しているな?」
存在するかもわからぬものだと気づかせる前に。
「本気で探しているのか?」
「細かいことは、」
嗚呼、時間です。
「いいじゃないッ!」
駆け込み乗車をしなければ。
ついに当たるかと思われた尻尾の一突き。淑女は真上でした。突いた|お魚さん《インビジブル》が伝えしは霊障の負荷。書き換えてやるような勢いです、本気を伝えてやるのです。すぐさま痙攣せし機体を見てそれが|幸運《チャンス》だと知るのです。
「そそそそそそこまでして――」
何か言いましたか――もう一突きどうぞ今度はまろび出ていた内部機構の所――おっと、痙攣が解けた瞬間に長大な尻尾が妙に、
「ここを守りたいんだな」
一瞬のことでした、二度突きぐるり叩きつけるような薙ぎ払い二度。いずれもギリギリmm単位、
「そりゃあ守りたいですよ、」
幸運にも、当たらない。
「この世界が私の故郷かもしれないので!」
だからここにいるのよっ――先端に魔力、思い切り振るい衝撃波叩きつけた尻尾が真っ二つ。
「――そうか」
激っていたのです黒髪の青年。
燃えるような眼差しは内部機構まろび出て傷を刻まれてゆく|機体《おんな》に注がれていたものでした。
今や|激情《ねつ》を伴う黒の氷。
「お前も来たな、人間。私の学習が些か追い付いていないようだ」
「ああ。そしてもっと差がつくだろう……」
冷静沈着の熱血漢。
「小細工は要らない、全力でドクトル・ランページをぶっ潰す!」
嗚呼、玄武に乗るのです。
また、四神が一角が動くというのです。戦闘機械群の殲滅の為に。
重装甲超火力砲撃特化機がその形を変えていくのです、決戦の形式を意識させるかの如く、最終決戦形態が紺碧を描いて今まさにドクトルの前に降り立つのです。
「これは、何だ」
ドクトル・ランページというのは実際、今最優先で壊さねばならぬものでした。
「【玄武】のこの形態を見たということは貴様に最期の刻が来たということだ」
破損も損傷も目立っていた蠍のような有り様の簒奪者。
撃ち込まれる光一条――制圧するような爆ぜ方。両脚に穿たれては派手な音を立てて衝撃を享受せし機体、ログは如何程に重大なエラーを訴えるでしょうか。ドクトルの認識の中では実に多量でして。
「私が最期を学習しようと?」
「そうだ――!」
破損に向かおうとしている機体の、傷ついた装甲がさらに解体されるような音を立てて。一体化された斬撃兵器が動き出そうとしているとわかると、その解体のど真ん中にさらに照射していく熱があるのです――爆音にて爆ぜるそれ。両肩より二門。四をかけたように幾度も撃ち込まれし壮絶な殲滅・改の火力、いっとう強烈なそれが咲いて爆風が晴れてみると裂くように素早く詰めてくる|機体《おんな》でした。あまりに元気で素早いものでした、こうも対応を冷静にしてくる機械はそうそう無いものでしたが氷の|形状《こころ》が変わることも溶けることもありはしないものなのです。
「お前も、そんなに守りたいのだな」
「戦闘機械群を殲滅することは人類の義務だ!」
「楽園の義務ではない。しかし、良く研ぎ澄まされているよ」
研ぎ澄まされるなどという称賛もまた言葉としては珍しいものでした。何か感じる前に強烈にもまた機械の眼前で強風が吹いたように消えて――否。
「学習のしがいがある。とても優秀な生体パーツにもなれるかな」
「そんな趣味は無いさ……!!」
背後から同時に注がれる撃滅と殲滅の嵐。たった一機に注がれて雨霰、光と熱が咲き誇れば視覚的にも凍てつくようで、その実熱量は、
「それに僕がいる限り、皆に犠牲は出させないよ!」
「やってみろ」
大変に、有言実行でした。
「唸れ! 暴れろ! そして吼えろ!」
振り向いた時にはまた玄武の姿は有りません。つまり常に背を取ることこそが必殺だというものです。五基もの大火力ファミリアセントリー、究極に熱を高めて解放したくて仕方がないのです。
「人類の敵を全て消せ! 大火力ファミリアセントリー一斉射撃!!」
凍てつく光が幾つも反射するような煌めきでした――全ての目に焼き付ける熱、壮絶で強固な殲滅の意志を叩きつけてさしあげて。
ドクトルに叩き込まれて、機体に決定的なエラーと幾つもの重大な損傷を刻み込んでやるのです。砕ける目のレンズ。
「ドクトル・ランページ! 貴様が何度来ようと僕が貴様を倒す!!」
それこそが絶対零度の氷だと知って。
繰り返す学習のルーティンを、組み直さねばなりません。
さらに時間がかかりそう。
「ががが学習プラン変 必要です変更――」
大変な、処理落ちなのです。
「指揮官のお出ましね。追うまでも無く出て来てくれて助かるわ」
派手な音に、エチュードの|音《メロディ》が呼び寄せられるよう。
「悪いけど、そう簡単に学習なんてさせないよ!」
こっちのお姉さんも頼りになるし、とそう思えるほど決まっていたのです。二人、一組。
「――か片。片方が、同郷か」
処理落ちから|機体《おんな》が戻ってしまうのが問題なのです。割れた瞳のレンズが当たりをつけたともなれば、ついてくる言葉は明らかな音飛び。先程までまろび出ていた内部機構も、外部装甲ひっくるめて破損が著しくボロボロであると見受けるものです。大変に終末。明らかなる良傾向の進捗。
「あら? 本当に早く片付いちゃうのかしら」
「かもしれないな」
すぐさま|銃弾《あらし》、撃ち込まれると分かると定めるマリーへのロックオン。
「ただ学習が必要だ」
少女人形マリー、囁く音のように身軽なものでした。すぐに光線でも撃ち込みそうな勢いのドクトルの射線からすいっと逃れるかの如く、弾薬全てがマガジン内で|変形《かわ》ってく――。
「悪いけど、そう簡単に学習なんてさせないよ!」
そう笑ったら――
「待って!」
引き金が引かれる前にかかる|提案《wait》。
「ん、どうしたの?」
「お姉さん、試したいことがあるの。 防御と返しの一撃を任せて貰って良い?」
少し目の開きを強めるドクトルなのです。作戦会議。
「え、交代? う、うん いいよ?」
準備をしなければならないのです。位置が変わる立ち替わる、前に出て仕込みをしなければとっておきの瞬間がやってこないので。
「さあ、第六感を信じる時ね」
それを呼ぶのであればアイオーンというのでしょう、まるで城か何かでも護るかのように広げていく永劫の淵は底知れぬ異界が顔を出す歪みの場なのです。物を取り出すには苦労しそうで、しかし実際護りだったのです。光線撃ち込まれようが歪みの向こう側へと消えて梨の礫、物質破壊をしようにも一苦労、という状況が生まれることが上出来なのです。
「おお……!」
「歪曲場というわけか。考えたな」
「物質じゃなければその光線も怖くないのよね」
護られる間出来る隙、囁きには|呼吸《リロード》が必要でしょう、弾薬を十分に装填することが叶うのであればそれまた僥倖、再び撃ち込まれし光線の輝きがこうこう、危険な輝きですが本当に恐れが無かったというのです。
「ではお前たちはどう学ぶ?」
ドクトル自身が学習環境にないのであれば――嗚呼途切れるのです第二波、次が来る前までが|絶好《チャンス》の間隔! 思念が大剣型の|砲台《それ》を浮き上がらせ!
「遥か遠く、」
歪みの隣より出でるのです。
「星の海を覗きましょう?」
その脳に刻むのです全て、その場の大気の分子一つ逃がさぬように、この公園の隅々をプラネタリウムのように、しかし|弾丸《そのとき》は向こうからやってきて、
「どれ程に重く分厚い暗雲でも、この一振りが引き裂いてみせるわ」
霊も魔法も妨げられぬのです。断裂。
天乃階。
時空間すら引き裂ける絶大な切断――DD.Ⅴの御業。
強烈な二倍の衝撃、また|脳幹《システム》でも揺らすかのようです。その通り装甲がまた真っ二つになるくらいの規模の被害、受けてしまえば即興のメロディに破綻などありはしないのです!
「これほどとは」
――マリーの視界。
幾光年彼方より見ているのです、凄まじく偉大なる護霊が。
動かすのです力が。
「今よ、マリー!!」
「分かった!」
囁く少女人形を。
嗚呼、そういえば。打撃への抵抗をほぼほぼ失っていたのでしたか、装甲。
「この弾で、シビれるほどに釘付けにしてあげる!」
回路損失の仕組みを宿す特効の専用弾。囁くようでありながら、まるで雷鳴の如く速く届く――突き刺さる。
回路が次々潰れていく音がしたというのです着弾点より――ちょうどまろび出た内部機構ど真ん中、破壊が破壊を呼ぶこの光景。
HP弾の嵐が届き続けるのならばそれが挨拶なのでしょう、学習の機会を与えないとはこのことで!
「自分で打撃耐性落としたんだもんね、よく効くよね!」
「そうね」
改めて教えてあげるのです。
「裂け目に巻き込まれて動けず、視えなくとも感じる筈よ。あなた達が求めてやまない力そのものに焼かれるのだと、ね」
続く破壊に、なんとなく納得がいったようでした|機械《おんな》。
「……溺れるとは、こういうことか」
嗚呼壊れているのです壊れつ壊れ続け。
「……?」
目を視るのです、壊れている途中だというのに|√能力者《あなた》を捉えて離さない、学習欲の高いこと。見た感じ行動即学習して対策してきそうなんて思うのです当然の如く、では対処を|通信《こえ》に求めてみましょう。おやどうしてか沈黙が多いようですがもしや、
「...…碌な事考えてないでしょ玲子」
『ソンナコトナイワヨ』
そんな感じでトンデモ攻略を出来てしまうからか――聞いてみましょう何ですか。
『即対策打たれるなら教えてあげなよ、【無の取得】ってヤツを』
「無の取得」
呼び寄せるのですバグ。
「えぇ、ソレ使うの?」
何も無いし持てやしない、しかしぶつけてみれば可能性は未知数。大変に博打で不可思議。理由なんぞ聞いてみればこの通り。
『狂ったデータセットを渡して人工無能にした方が楽しいし?』
摩訶不思議――技術革新の真逆を行くのです。拒否感半端ないRX-99。
「ヤダなんだけど、呼び出す為の奇行するの。もっとまともな――」
「ななな何か知っているnnn」
|機体《おんな》、既にバグってそうですが。
「げ」
『時間が無い。言う通りに斬撃兵器を回避しな、』
執り行うのです|奇跡《バグ》の為。
『右に三歩・左に七歩・しゃがんで回避した姿勢のまま後ろに高速バックステップして壁に接触...する瞬間に機械細胞を【肉体改造】で液状化して壁をすり抜け』
そんなこと出来るのかと問う前に身体が勝手に動く、この俊敏性たるや凄まじく、|機械《おんな》が伸ばす腕のアームパーツなんぞでは最早捉えられず。規則通りに刻み身軽にも成し遂げる、バックステップの勢いを覚えたのです。
『壁ごとアンタを攻撃しようとした時に壁の中でグラビティ・スノウを使えば【無】が出て相手がバグる筈』
どろっとリキッドになる機械細胞、ジオメトリが作る身体はまことに凄腕でして。ナノマシンと有機細胞を混ぜ混ぜした結果が壁よりぬるりと出でて機械の斬撃兵器の範囲。壁ど真ん中に来る時のレイン砲台の壁に埋まるのが――刹那、
「614368あ@+%%}わたたたしはいずれ必必」
さらにごちゃり酷くなる|言葉《ログ》、無をその手にバグ技で以て精査しましょう――砲台の埋まった先が機械とレイ。
「私も巻き添えになるんだけど!」
『知らないよ、まぁ無事でしょ』
次には機械が火煙さらに出して爆ぜると来たものです。あーあ。
ビッグに行きましょうタイガーさん、帰るべき場所があるここだからこそ出来ること。
「|ここ《√EDEN》だから見れる面白ぇモンがある」
とんと見当もつかぬものでした|機械《おんな》――生体パーツを取りに来たら自分が壊れる途中。
「よよ弱くて幸せな楽園。だからこそそなのか」
「ああ。繰り返し見ても飽きがこねぇ、お気に入りの映画みてぇなモンだ」
しかし蒐集せねばならぬのです。覚えねばならぬのです。
「繰り返し学ぶのかか。深層学習、学学学習――」
「学ぶってか……その言葉通りそいつを映画館ごとブッ壊そうってんだ。授業料は高く付くぜ!」
では継いで接ぎましょうラジオ音源。野球の中継でも聴くのですか、吶喊するままに気持ちのスイッチを入れ鹵獲WZの外装がそのまま夜空の下で輝くならばまるで予告ホームラン打者。
「こ、ここ構造k7&@¥@析解析か完完完完了」
「承知の上だ!」
頭でそう理解すればさらに躍動せし|機体《とら》、壊れ行く過程でありながらまだ原型を保つかどうか――ならば外装をまずぶっ放してぶつけて衝撃にすれば良いのです。|反応装甲《リアクティブアーマー》とはそういうもの、NO WIN SITUATIONを誰が妨げようというのですか――否、誰にも出来ぬのでしょう!
「そそそそれのみっd私私私倒せが倒」
「当たりはいいみてぇだなあ!」
出来ていた斬撃兵器が反応の強さのみで押し返されて装甲雨霰――大変な衝撃、被害――見るのです、刮目するのです。
人類の希望を内側に載せているというのです!
「警告:ぱぱぱパワー低下。斬撃兵兵器、跳ねのか返返?」
「内部の|機体《フレーム》は人類製。それもウォーゾーン侵攻以前の兵器だ」
これぞ狐にも借りれぬ虎の意なのです、このどでかい一手こそが指し示すのです人類の未来。散々音飛びかましてる|機械《おんな》の損壊をさらに広げていく、それしか無いというのです。大変に旧いものでありながら、大変にダイナミックで突き進み続けるのが虎ならば。
「一度淘汰された旧い技術は勉強したか?」
「ががが学習……ひつ必要。対象を上回るたため――」
否、もう一度教えて差し上げましょう。
「|Beat the odds《クソ喰らえ》だ!」
致命的に破損箇所に突き刺すようばら撒くガトリング――銃弾の嵐。
「改めて――よっ、霊菜!」
誠に暖かい挨拶であったものです――矢神家、ここに在り。ぽんと疾風が優しく肩に手を添えれば霊菜の安心感、なんだか広がるようでして。
「ふふっ。ここから先は、」
――|一緒に行動しましょうか《一緒に戦おうぜ!》
ほらまた噛み合う|共鳴《ユニゾン》。
「が……ががが、がくしゅぅぅぅぅぅう……」
|機体《おんな》、もうすぐ終わる時だったというのです。
「早速だが、指揮官と思われるヤツが現れたな……でも向こうはもう限界か」
「ええ。でもこのまま被害を生み出されても困るわ」
まだ|攻撃《システム》が生き続けるなんて事象、繋げてはならぬのです。満ち溢れし風の力。
「なら慎重に、かつ迅速に、倒してやろう」
「そうしましょう。ランページが色々と学習する前に――」
――お帰り願いましょう。想い合わせれば突風にも似た強さ。
「……ささ、最後にも一度ど一度くらい、学ばせせせ」
これ以上は許さぬのです。
「お前に学習機会など与えさせないぜ!!」
風駆ける者強く意志込めて叫びし時――氷雪の神霊『氷翼漣璃』現れ氷華に彩りを加えるのです。
「共命」
同じ響き重なり合うのですきょうめい、氷應降臨の言葉通り、神霊の力が霊菜を突き動かしては真っ直ぐに突風が如く飛んで行く、尻尾が二枚舌も無い癖して物言う前に――激突。続けてぶつけなぞり加えていく柔拳の威力。大変にしなやかで素晴らしい動き方――肉体が言うことを幾らでも聞くといったもの。
「続けて繋げて行くか!」
隙間が出来たというのです――急ぐことに。
「風拳の怖さを味わうといいぜ!」
風龍神よ再び力を貸し与えるのです、変わらず絶大で偉大なるその御力、強風こそが風を疾風たらしめ嵐が如く荒れ狂う。竜巻が来るのです、霊菜がぎりぎりで一度離れ。靡く金髪――これは渦を巻き|機体《おんな》を空へと運ぶ強烈な風、大変に浮いて浮いて、
「――コントロールルルるるる効かないとい8@6制御不」
嗚呼やってくるのです疾風のところまで――取り回す群青、叩きつけてやれば装甲の、否内部機構もアームパーツも何処でも叩きつけてやりましょう。それ幾度も、風で以て殴り壊すように、がっつりぼこぼこに!
「次は尻尾だったな――尾が強力とみた!」
では対処をしていきましょうと――いけません、尻尾が未だに元気すぎる。ぐるんと二人ごと薙ぎに行くような、風を割り反攻せんとするような――
「いけね、避けろ!」
間一髪、二度ともひらりとかわして凌ぐような動き。やはり疾風の言う通り尾が強烈なのです、どころか壊れている途中なのにどこに残っていたのか、ほぼ壊れかけの装甲の、解体され斬撃兵器となるのを垣間見るのです。
「私が!」
さらに拳を柔らかく、しかし鋭くメリハリつけて――斬撃兵器の方が早い一寸前、分かっていたかのようにくるり回り紙一重。そうして生まれた更なる隙間、フェイントから戻した拳を今度こそ打ちつけて、打ち下ろして。
「学習速度を大幅ににに……」
上回っていると――そう言いたかったのです。怒涛の|√能力者たち《あなたがた》の行い、挑み続けて実りました。ランページの名さえ今はとうに輝けぬような破損状態。それでもまだ尾が黙ってなくて二度目を訴えるものだから。
「牽制を行うならここか――!」
風拳三段法、未だ途切れぬのです。風龍神様より賜りし風、今度は強く強く|機体《おんな》の尾に打ちつけて。大変に――先に真っ二つになっていたものだから最早体裁すらあるのか知れませんが――
「それにしてもお前、すごいゴテゴテで凶悪な尾だよな! その尾も学習の賜物なのかい? ……切れてるけど」
「……かかもな」
嗚呼、とても故障だらけ。
「より深層的ななな……学習習が、私私私達をカスタマイズしてて」
つまるところは、集めて壊れて、強くなる、そんなところだったのでしょう。
「生体ぱぱぱ……パーツも手に入らn57@&ーーー……」
急激にトーンが落ちそうにな具合、終了せねばなりません。
「……なぜ、」
おっと。
「まもまも、る……?」
特記事項。
「……ああ、何故"楽園"を守るかって?」
それを楽しむのです。一つの形。
「最も弱い場所だからこそ、守り甲斐があるんだよなぁ! 守るのも楽しいし、人の役に立つし、win-winだろ?」
そうして人を繋ぎ、守れるならば。
「此処を守るのは最も弱いからだけじゃない。私たちの大切な者たちが生きる場所でもあるからよ」
簒奪など幾らでも、防ぎ通せるでしょうから。
「何度攻めてこようと、次も守ってみせるわ」
最終学習対象:守護者たちの、浮かべた笑顔――夫婦揃って、不敵であったことで。
「……かんがえて、おこう」
揃って斜めに入れて行く、破壊の蹴り。
第3章 日常 『変わったこと、変わらないこと。』
