シナリオ

はりまやばしは曇天で

#√汎神解剖機関 #√マスクド・ヒーロー #Anker抹殺計画

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「ふふ、来てくれてありがとぉ~。早速やけど、今回は俺が星詠みしたから、説明していくねぇ」
 |卿機《かみはた》・|枢《かなめ》(shroud minister・h00191)は、己の呼びかけに応じた√能力者たちにそう笑顔で礼を述べると、自らが見た予知の内容を話し始める。
「『Anker抹殺計画』言うんは知っとるかな?」
 外星体同盟なる謎めいたものらの刺客、「サイコブレイド」が、√能力者の心の拠り所たるAnkerを抹殺せんとしている。Ankerは√能力を持たず、殺されてしまえば勿論死後蘇生することもできない。そして、Ankerを喪った√能力者はその後死亡しても死後蘇生が出来ず、そのまま死んでしまう。
「今回狙われたんは、√汎神解剖機関でボディーガード兼情報屋をしてる、|岩村《いわむら》・|鉄蔵《てつぞう》って言う27歳のお兄さんやね。ある|警視庁異能捜査官《カミガリ》の子のAnkerなんよ」
 鉄蔵はこの日、√汎神解剖機関のとある埠頭で「貨物船の積荷の見張り」をしている。ボディーガードであり情報屋、というグレーゾーンに身を置く彼が請け負ったそれは、言葉通りの「貨物船」でも「積荷」でも「見張り」でもないようだ。
「みんなには鉄蔵さんの「日常生活」の中に紛れ込んで、いつでも襲撃者を迎え撃てるようにしてほしいんやけど、言うた通り鉄蔵さんの「日常」はこういう感じ」
 本来ならば今回のような仕事中の彼は他人をそばに寄せ付けようとはしないだろう。「せやけど」、と枢は言った。
「鉄蔵さんの「日常」の中に潜り込む「合言葉」があるんよぉ。この合言葉を言えば、鉄蔵さんはみんなを同業者と認識してくれるから、話しかけるのもOKんなるで」
 それが、『はりまやばしは曇天で』。
 何やら様々な者たちが関わる仕事だ。現場の埠頭で√能力者たちが何をしていようと、合言葉を知っている者ならば仲間、というわけだろう。
「この「仕事」が本当はなんなのか、何をしてるのかは俺にもわからへん。鉄蔵さんと話しとったらほんの少しはわかるかもしれへんけど、これが鉄蔵さんの「日常」やから、んーとねぇ、調べてもいいけど警察沙汰とかにはせぇへんで欲しいかなぁ」
 鉄蔵との会話はむしろどんどん行って構わない、と星詠みは言う。彼の日常に紛れ込んでしまうのが重要なのだ。
 そして、と枢は人差し指を立てた。
「ここからは、揺れ動く分岐の先。定まらぬ未来の途中。みんなの行動次第で、まずは三パターンに分岐する」
 まず第一に、鉄蔵が、その埠頭を自ら離れてしまう可能性。「サイコブレイド」の刺客の工作によって機密情報を奪われ、鉄蔵はその場を離れざるを得なくなる。その場合は彼を追いかけ、機密情報を奪い返すことになるだろう。
 第二の可能性は、サイコブレイドが√EDENから回収したインビジブルをけしかけること。この場合戦うことになるのは、√を超越する借金取りの集団、「見境なし借金取りガール『債鬼原・銭貨』」という。
「ちなみに鉄蔵さん、お酒とパチンコでお金使いこんでしまうタイプのくずのひとでね? 借金取りには弱いんよねぇ」
 さらっと明かされる情報。けれどそんな彼も√能力者の大切なAnkerなのだ。助けてほしい。
 そして第三の可能性は、サイコブレイドが放った、『外星体グロブスタ・アルファ』たちによる襲撃が起こる可能性だ。グロブスタ・アルファは動物の死骸と融合して生きる、自我の欠落した不定形型外星体。これらもまた、集団で現れるという。
「そんで、勿論この三つの危機のどれかを解決したとしても、まだ鉄蔵さんの命の安全は確保されへん。この先には、また二つの分岐がある」
 ひとつは「サイコブレイド」本人と戦う場合。サイコブレイドは強力な王権執行者である。しかし、彼には「邪悪であろうとする迷い」が見られるという。
「ここまでで鉄蔵さんをしっかり守れとってたら、鉄蔵さんはみんなを応援してくれる。具体的には、隠し持ってる刀を借りる事とかもできるよぉ。信頼の証やね」
 無論、それそのものは普通の刀だ。けれど、サイコブレイドは鉄蔵が√能力者たちを応援することに苦悶し、戦闘力が低下するという。
「みんなを倒すまでは、サイコブレイドは鉄蔵さんに手は出さない。せやけどそれは、相手がサイコブレイドやったらの話」
 もう一つの可能性は、サイコブレイドは直接手を出さず、彼から与えられた|剣《サイコブレイド》を手にした刺客が鉄蔵を襲うことだ。
「刺客の名は『シガレットバット・エンド』。Anker抹殺計画、っちゅー流行りの「悪」を模倣する刹那的快楽主義者。こいつは、鉄蔵さんを殺すために、剣の能力を使って触手で鉄蔵さんを拘束する。その場合は、鉄蔵さんを守って触手から解放しながら「シガレットバット・エンド」と戦うことになるやろね」
 どうなるかは、√能力者の行動次第。
「鉄蔵さんをAnkerにしてる|警視庁異能捜査官《カミガリ》の子のためにも、彼を守って欲しいんよ。おねがい」
 星詠みは、そう言って|√能力者《あなた》たちの目をまっすぐに見た。

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第1章 日常 『埠頭を渡る風の香り』


四之宮・榴

「ここは立ち入り禁止じゃ、|しゃんしゃん《さっさと》|去ぬれ《帰れ》」
 ぎろり、と睨まれた|四之宮《しのみや》・|榴《ざくろ》(虚ろな繭〈|Frei《ファリィ》 |Kokon《ココーン》〉・h01965)は、睨んできた男――命を狙われているAnkerである|岩村《いわむら》・|鉄蔵《てつぞう》に、星詠みから聞かされていた合言葉を告げる。
「『はりまやばしは曇天で』……あの、僕も、『見張り』を、頼まれたのですが……」
「なんじゃ、ほんなら|すっと《早く》言え」
 そういう鉄蔵の声は、しかし最初に比べると心なしか柔らかくなったように聞こえる。来や、と先を歩き出す鉄蔵の後をついて、榴は埠頭の奥へと進んでいった。
 確かに、そこにあるのは貨物船だ。大きなそれからコンテナが運び出され、奥の倉庫へと消えていく。動き回っているのは、少し日に焼けた、東アジアあたりの人間たちだ。日本語とも英語とも、そして中国語などのそれとも少し違う言葉が飛び交っている。
「……僕は、四之宮・榴と申します……その、僕は、|護る《・・》のが、得意なので……」
「ほうかえ」
 ――人は垣根なく、護るモノだ。
 この「貨物船」が、本当には何のためにここに寄港しているのかも。
 ここで「積み荷」と呼ばれるものが、本当は何なのかも。
 「見張り」という仕事が、本当は何を役目であるのかも。
 全て偽りで塗されたこの場所にいる鉄蔵が、後ろ暗いことに加担しているのかもしれなかったとしても――榴は、鉄蔵を守りにここに来た。
「おまんには期待しちゅう。おまんが来んかったら、わしの仕事が増えるところやったきの」
 榴は既に√能力【|見えない怪物達の叡智《ウィズダム・オブ・インビジブル》】を発動させ、自身の魅力を倍加させている。それだからか、或いはもともと人の話を聞くのは嫌いではないのか、鉄蔵は榴の話を鬱陶しがらずに聞いてくれた。
「…今回、岩村様のような方と、お仕事できる事が、嬉しいです」
「わしはそんな大層なもんと違うがよ、わしは……ただの情報屋やき」
「ですが、人を護るお仕事をしているとも先ほど聞きました」
「お、おう……」
 鉄蔵はまだ自分からその話はしていない。だが、榴の言葉に、「そういや言うたかの」と自分で納得していた。
「……その、僕が仕事をしないと、とある方の借金が、減らないのです」
「…………ほうか」
 榴は鉄蔵に言う。パチンコで五分間に一万円を溶かすような相手が好きなのだと。その相手の借金を返すために、今回この仕事を受けたのだと。その話には多少の脚色が入っているが――星詠み曰く「お酒とパチンコでお金使いこんでしまうタイプのくずのひと」である鉄蔵の立場からすると、色々と考えさせられる言葉だろう。
「……岩村様?」
 鉄蔵の|胼胝《たこ》のある手が榴の肩をぽん、と叩く。
「いや、なんちゃあない……わしは今日ここではおまんの先輩やき、なんでも頼るとえい」
「ありがとうございます」
 そのまま鉄蔵は近くに立っている自動販売機からがこん、がこん、と飲料を購入すると、その片方を榴に投げてくる。よく冷えたオレンジジュースが、榴の手の中に収まった。
「暑いからの、飲め。まだ仕事は終わらんきに」
 多分、榴を気にかけてくれているのだろう。榴は鉄蔵に向かって、ぺこりと頭を下げた。

和紋・蜚廉

 |和紋《わもん》・|蜚廉《はいれん》(現世の遺骸・h07277)は人間形態に化けた状態で、埠頭の入り口に立っている岩村鉄蔵に合言葉を低い声で告げた。
「我も、見張りを任された者だ」
「ほうか」
 鉄蔵は埠頭の先へと向かえるように、体を半歩移動させる。その隙間を縫って蜚廉は奥へ進むと、埠頭を巡回するように歩く。停泊している「貨物船」には、日に焼けた異国の人間たちが頻繁に出入りし、コンテナを倉庫へと運んでいく。
 背後から一歩近づく。鉄蔵の様子は変わらない、そこから動くこともなかった。が――蜚廉はその様子を見て確信する。岩村鉄蔵は、√能力こそ持たない、恐らくは√能力者のことも他の√のことも、簒奪者たちのことも知らない。が――かなりの修羅場を潜ってきている。√能力者たちのものとはまた異なる「非日常」が彼にとっての「日常」の人間だ。
 だが、彼の命を狙っているのは簒奪者だ。√能力を持ち、死後蘇生し、星詠みの助力を得て動く者なのだ。鉄蔵の持つ「常識」では、太刀打ちできない。√能力者でなければ、彼の命は救えない。
「おまん、倉庫の様子を見てきてくれんか」
 鉄蔵は不意に蜚廉へ向かってそう言った。あまり鉄蔵から遠ざかるのは得策ではないとわかってはいたが、その言葉に従い、倉庫の扉を開けて中へと滑り込む。
 そして、中で。
 蜚廉は確かに聞いた。
 ――幼い子供の、すすり泣くような声。小さな、どこの言語ともつかぬ囁き声。
 海外から売られてきた子供でもいるのか。人身売買。臓器売買。様々な可能性が頭をよぎる。けれど同時に。――何らかの理由での、公にできない亡命、という可能性もまた浮上する。
 どちらにせよ、蜚廉は何もしないことを選択する。ここで何かをするべきではない。鉄蔵が手を貸しているのは、「非日常」であることには間違いない。鉄蔵が何故それに関わっているのかも。しかし、ここでそれを詳らかにすることは余計な混乱を生むだけだと理解している。
 蜚廉は倉庫を出、倉庫へと運ばれていくコンテナと、その周囲へと視線を巡らせる。船員であろう人の往来。埠頭のそこかしこで立つ物音。潮風の流れ。どんなわずかな異変が、命取りとなるかわからぬ場だ。
「どうじゃった。何か崩れでもしちょらんかったか」
「いいや。「積み荷」の様子は変わらん。だが、風が落ち着かんな」
 ……汝が背を預けられるようにしておこう。
 そう言って蜚廉は、鉄蔵の視界を邪魔しない位置へと身をずらす。周囲の色、音、臭いを模して気配を溶かす「擬殻布」を衣に馴染ませながら、姿勢を低くする。
 埠頭の「風景」に擬態する。存在を限りなく透明にする。そうしてそのまま、目と耳だけを研ぎ澄ませる。
 鉄蔵が口角を上げたのがわかった。恐らくは、彼は蜚廉が「何かをした」のに気づいている。恐らくそれの詳細にまでは辿り着いていないだろうが――
「荷に触れた瞬間、我が動く。それだけの話だ」
 蜚廉はそう言って、埠頭を俯瞰しながら観察し続けていた。

堀・允人

(司法取引のノルマとはいえ、面白いお話の聞けそうな案件です)
 |堀《ほり》・|允人《よしひと》(魂剥ギ・h07457)は、埠頭の入り口に立ち、さりげない様子で進入を妨害している岩村鉄蔵へと近づいていった。
「なんじゃ、おまん」
 この先は立ち入り禁止やき、|去ぬれ《帰れ》。
 鉄蔵の目が允人を睨む。星詠み曰く「借金取りには弱い」「くずのひと」であるらしい鉄蔵は、果たして允人が闇金の取立てを生業にしている――天敵である空気を嗅ぎ取ったのかもしれなかった。そんな鉄蔵の様子を意に介さぬ様子で、允人は営業用の笑顔を張り付ける。
「良い海風で。気持ちのいいお天気ですね――先日旅行の折などは、生憎「はりまやばしは曇天で」楽しめなかったものですケド」
「……ほうかえ」
 ほんならそうと、|すっと《早く》言わんか。
 允人に向ける視線はどこか険を帯びたまま、しかし合言葉を聞いた鉄蔵は允人が埠頭に入れるように体勢を変える。
「いやあ、お互い凌いでいくのも苦労するものです」
 同業者らしさを醸し出しながら、允人は鉄蔵に煙草を差しだす。
「わしは今火ぃ持っちょらんきに」
「勿論ライター、お貸ししますよ」
「ほんなら……まぁ、貰うかの」
 允人の手の中のライターで煙草の火をつけた鉄蔵は、ふうと紫煙を吐き出した。煙が潮風に消えてゆく。
 鉄蔵の自身への警戒が一瞬でも緩まった隙をついて、允人は自身の√能力を発動させる。
 【|mosquito《モスキート》】。その名の通り具現化させた大きめの蚊が、音もなく允人の背中に回した手の中で破裂する。それは鉄蔵に「正直病」を発症させるものだ。
「――此方の役割も詳しくは明かせませんが…必ず必ずあなた様のお役にたつものです」
「おまん……!?」
 その言葉に、咄嗟に警戒態勢を取り体をこわばらせ、鋭い目線を向けてくる鉄蔵。そんな彼に構わず、允人は続ける。
「つきましてはこの|案件《ヤマ》で、あなたが最もされて困る事などお教え願えませんか」
「……はぁ? そがなん、わしが今日ここにおることを|あいたぁ《あいつ》に知られゆうことに決まっちょろうが」
「その、「あいつ」と言うのは?」
 鉄蔵は男の名を答えた。それは――允人は知らぬ相手の名ではあったが。
「|あいたぁ《あいつ》は|お上《警察》の手伝いなんぞしちょるくせに、わしのことを一丁前に心配しゆうき、わしがここでこがなことやっとるがを知られたら何言い出すかわからんがよ」
 允人は理解する。それは、鉄蔵をAnkerとしている|警視庁異能捜査官《カミガリ》のことなのだろう。彼が自分の質問に|そう《・・》答えるということは、つまり鉄蔵にとってその男に自身の今日の仕事を知られる以外に自覚する危機はないということだ。
(それはそれは、なんとまあ、微笑ましいことで)
 允人は目を細めて笑う。星詠みから、鉄蔵をAnkerとしている√能力者が今日ここに現れないということは聞いている。
「大丈夫ですよ、ご安心ください――彼は、来ませんから」
「おまんが|あいたぁ《あいつ》に|何ぞしゆうがないろうな《何かしたんじゃないだろうな》?」
「うーん、信用。心配だったら、連絡をとってみたらいかがです?」
 そう言われた鉄蔵は|携帯端末《スマートフォン》を取り出す。どこか――恐らくは彼をAnkerとしている相手に通話しているのだろう、焦ったような声の後、安心するような声音で話しているのが聞こえてきた。果たして「正直病」を患っている最中の鉄蔵が「自分が埠頭で相手に知られたくないことをしている」ことを隠し通せるのかはわからないが――。
 允人は鉄蔵に見えぬよう、自然な距離を取り、鋭い目で埠頭の様子を警戒しながら見渡すのであった。

第2章 集団戦 『外星体グロブスタ・アルファ』


 その闖入者が現れたのは、突然だった。
 野犬や野良猫に似て、けれど決定的に異なるのはその醸し出す死臭。腐臭。
 動物の死骸と融合した、不定形の生物。それらが集団で埠頭に現れたのだ。
「何じゃあ……!!」
 岩村鉄蔵は声を上げ、埠頭で働いていた船員たちに船や倉庫に避難するように指示を出す。
 そうして埠頭を走るうちに、鉄蔵は気づいたようだった。
「こいたぁらぁ、わしを狙っちょるがか……!?」
 鉄蔵は自身を殺そうとしているその屍獣たちが「何」であるのかには気づいていない。
 『外星体グロブスタ・アルファ』。√マスクド・ヒーローから持ち込まれた、自我無き外星体は、鉄蔵に対する「殺意」に同調し、かれを襲おうとしている。
 それを理解した鉄蔵は――刀を抜いた。赤飛沫塗鞘の、刃の研がれた本物の刀だ。
 しかし、敵はそれで凌ぎきれるものでないことを|√能力者《あなたたち》は知っている。
 そのままならば、鉄蔵はこの外星体たちに太刀打ちできぬまま、物量で嬲り殺されるだろう。
 それをさせないために、あなたたちはここに来た。
 船員たちが居なくなった埠頭に、鉄蔵とあなたたちだけが残される。
 鉄蔵を死なせてはならない。
 まずは、この死骸たちを駆逐し尽くさなければならない――!!
=====================================
 第二章 集団戦 『外星体グロブスタ・アルファ』 が 現れました。

 第一章での√能力者たちの行動の結果、あなたたちと戦うべき襲撃者が決定しました。
 以下に詳細を記します。

 「戦場について」
 戦場は、最初に採用されたプレイングで「鉄蔵に対する指示」を行っているかどうか、で決定します。(出来る限り、指示を行ったプレイングを最初に採用しますが、プレイングが届いたタイミングによってはお約束できない可能性があります。また、複数の異なる「指示」が書かれたプレイングが同時に届いた場合、二人目以降の「指示」はリプレイ内に反映されません。ご了承ください。)

 敵に狙われているのは「岩村・鉄蔵」であり、鉄蔵はなまじ自身に戦う力があるため、敵を引き付けるために「埠頭から遠ざかろうと」します。そして、敵は「鉄蔵を殺害する」ことを目的とするため、戦場は「鉄蔵のいる場所」となります。
 プレイングで「鉄蔵に対して埠頭に留まらせる指示」がある場合、①の戦場となります。
 そうでなかった場合、②の戦場となります。
 
 ①√汎神解剖機関のとある埠頭となります。
 屋外であり、日光が差しており、十分なスペースがあります。
 鉄蔵以外の民間人は避難指示によって隠れており、存在しません。
 戦闘に利用できそうなものはそこそこにあります。あまりにも突飛なものでなければ、プレイング内で指定してくださればそこに「あった」ことにします。
 (「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)

 ②√汎神解剖機関、屋外となります。
 鉄蔵は出来る限り人の目につかない場所を選んで体力の続く限り疾走します。
 こちらの場合はどこに向かうのかわからない鉄蔵を追いかけながら、彼を襲う集団敵を排除しながら、移動しつつ戦うことになります。
 鉄蔵は民間人の存在しない場所へと移動し続けるため、彼以外の民間人は存在しません。
 戦闘に利用できそうなものは、あまりにも突飛なものでなければ、プレイング内で指定してくださればそこに「あった」ことにします。
 (「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
 
 鉄蔵自身の消耗は、②の方が確実に大きいため、「鉄蔵を守る」という目的からすれば彼をプレイングによって埠頭に留まらせる方が確実にやりやすいものとなります。
 また、指示があれば鉄蔵はそれに反対しません。必ず埠頭に残ります。

 どちらにせよ、リプレイ開始とともに敵がその場にいる状況となりますので、事前の行動を行っておくことは不可能です。(例:準備体操を行い、体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)
 何らかの準備行動を行うには、戦闘と並行して行うことになります。


 「集団敵 『外星体グロブスタ・アルファ』 について」
 動物の死骸と融合して生きる、自我の欠落した不定形型外星体であり、平時はおとなしい生物ですが、他者の強い意思に同調する特性を持ち、敵意や悪意に同調した場合は群れで人を襲うため、侵略的外星体に分類されています。
 √マスクド・ヒーローから持ち込まれた存在ですが、戦闘の場所は①②どちらにせよ√汎神解剖機関となります。
 集団と戦うため、一本のリプレイで最低一体は倒しきるところまで描写いたします。
 基本的には√能力者一人につき一体との戦闘になりますが、実際何体と戦うかはプレイングや使用する√能力により決定されます。ただし「○体と戦う」とプレイングに明記され、それに対策するプレイングが書かれていた場合はそのようにします。
 √能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、牙や爪、突進攻撃などを武器にしますが、プレイングや√能力の内容次第では敵に攻撃させずに倒す場合もあります。
 
 第二章のプレイング受付開始は、この断章が投稿されてから即時となります。
 プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。

 それでは、襲撃してきた敵を撃退し、最初の危機から岩村鉄蔵を守ってください。
堀・允人

(狙われちょるのは、わしか……)
 岩村鉄蔵は、非日常を日常とする者だ。√能力者のことも、他の√のことも何も知らない、ただひとりの√能力者のAnkerであるが、その手にした刀が語る通りに、ただの一般人ではない。
 だから彼は考える。自分が狙われているのなら、この場に自分がいるのは被害を増す、と。
 ――人のいない場所へ、この獣の姿をした化け物どもを誘導しなければ。
 そうして足を踏み出した鉄蔵の進行方向に体を割り込ませ、その場に留めさせたのは允人であった。
「鉄蔵さん、どうか下がって」
「そうはいかん……!こいたぁらぁは、」
「察しの通り、狙いはあなたです。ですから、ここで倒しきりましょう」
「……なんじゃと?」 
「その為に、我々はいますから」
 邪魔をされたと感じて睨む鉄蔵の允人を見る目が、訝しげなものに変わる。
 そこに、屍獣のいっぴきが鉄蔵へと飛びかかってきた。鉄蔵の反応も早かったが、やはり√能力者である允人の反応速度の方が何倍も速い。手にした|手斧《ハチェット》の射程範囲内にまで跳躍し、屍獣の首を落とす。【オートキラー】の効果だ。
 それを見て、鉄蔵は即座に允人の力量を理解したようだった。
「――わしは、どうすりゃえい。言え」
「あちらのコンテナを背後にしてください。あそこならば効率的かと」
「おう」
 そのまま陸側のコンテナを背にして、遮蔽物の多い場所へと駆ける鉄蔵。その背を追う屍獣へと|手斧《ハチェット》を振るい、允人は手にしていた煙草の最後の煙を吐き切る。
 【オートキラー】の副効果によって闇を纏って隠蔽状態になった允人は、屍獣たちを岸壁の向こうへと吹き飛ばし叩き落しながら、冷たい目で地を這っていた屍獣の頭を踏み潰す。
「そそられないんですよね、理性のない生き物って」
 群れが半壊したことを理解し、屍獣――外星体「グロブスタ・アルファ」の第二陣、潜んでいた新たな屍獣たちが現れる。それらが「敵との融合能力」を有しているのを允人は知っている。その「敵」を鉄蔵に定めて――彼と「融合」などされてはたまらない。それだけは避けねばならない事態だ。故に「取立人の影」を伸ばし、ククリナイフ「Unleash」を振るい、鉄蔵に近寄らんとする屍獣を次々に屠っていく。
「殺意すら自身では抱けない、感情も貰い物か」
 允人はその目から温度すら消して、的確に屍獣たちを駆除していくのだった。

四之宮・榴

 √能力者の言葉を聞いて、岩村鉄蔵は埠頭に残ることを決めた。
 陸地側に立つコンテナを背後にし、刀を携えたまま構えているが、それが簒奪者たちにどれだけ通用するかは難しい。だから榴は鉄蔵の元まで走り寄る。
(……何があっても、守るべき|者《岩村様》は、変わらない)
 ならば、榴のすることも、何も変わらない。
「……岩村様は、何があっても……僕が護ります、から……」
 ――だから、僕から……あんまり|離れないで《・・・・・》……くださいませ?
「任せたがよ」
 榴の言葉に鉄蔵はそう頷き、警戒態勢を崩さない。
 埠頭に集まる屍獣、外星体「グロブスタ・アルファ」は知能はほぼないに等しい。鉄蔵を抹殺せんとする者の「殺意」に引きずられ、同調して襲い掛かってきているだけだ。だからこそ、高度な知能戦など出来ず、融合した死骸の損傷も考慮することなく猛突進を仕掛けてくる。榴はその攻撃を全て己へと引きつける。そしてその場で、√能力を発動させる。
 【|竜宮《りゅうぐう》の|遣《つか》いは|前触れ《まえぶれ》】。叫びは榴と鉄蔵には何の効果も及ぼさず、屍獣たちだけに震度七相当の振動を与え続ける。そう、地面を揺らしているのではない。半径三十三メートル範囲内にいる屍獣どもだけが振動によってそこから動くことが叶わなくなる。突進を仕掛けようとしていたものは、揺れによって自ら地面に頭を強打した。
 動けぬ屍獣たちを、榴はロッド状のメタルマッチ「漆黒のファイヤースターター」から火焔を放射して、焼いていく。じゅう、と獣の腐肉と、グロブスタ・アルファの本体である不定形の肉体が焼ける悪臭が立ちこめた。
 なおも飛びかかってこようとする屍獣に対しては、己の影――「深海の捕食者」、世界最大の硬骨魚類・ウシマンボウによく似た姿のそれで受け止め、地面に打ち付けて叩き潰す。
 下手に鉄蔵を敵の攻撃に巻き込まぬよう、回避を捨てた榴は屍獣たちの突進の前に完全な無傷とはいかない、脇腹に爪の一撃を喰らうと同時、榴にその一撃を入れた屍獣は全身の骨を骨折して動けなくなるが、榴は自身の傷を屍獣たちから生命力を吸収し、周囲のインビジブルと融合することによって癒していく。
 鉄蔵を狙って群れなしてやってきた膨大な数の屍獣たちは、いま榴によって圧殺されようとしていた。

和紋・蜚廉

「――鉄蔵。ここは、送り場だ」
 蜚廉はコンテナを背にして刀を構える鉄蔵に、そう語りかける。
「来るのは風と船、そして生きて帰る者だけだ。死骸どもに穢させる訳にはいかん。動くな。汝が標的であるなら、我が代わって迎え撃つ」
「……わかっちゅう。せいぜいこいたぁらを引きつけるきに、なんとかしゆうはおまんらに任せた」
 鉄蔵の目は闘志を――生きて帰るという意識を失っていない。正体不明のバケモノたちに己が狙われているという事実に多少は面食らったであろうが、√能力者の戦いを見て、それを理解まではできないにしろ自身の「役割」をそこに見出したようだった。蜚廉は理解している。彼はそういう人間だ。修羅場という非日常を己の日常として、非日常の中にあるがこそ己の役割を理解できる者。
 蜚廉は低く身を沈めて、コンテナの間に入り込む。彼の真実の姿の副脚にあたる跳躍爪であるところの「跳爪鉤」を壁に打ち込み、壁走りの体勢を取って鉄の匂いに混じる腐臭の向こう側へ跳ぶ。大型の野犬の骸を着た屍獣が猛突進してくる気配を辿り、その直前へと着地、同時に叩き込むは【|連肢襲掌《レンシシュウショウ》】。
 |時間《とき》を断つ痛撃の奔流から、己の脱皮殻を鍛えた「甲殻籠手」によって脳天を潰す。それでも動く屍の突撃をコンテナの側面に跳ねて躱し、跳躍して鉄骨に昇るとそこからの急降下で更に痛撃を見舞う。
 既に有象無象は他の√能力者の攻撃によって圧殺されている。蜚廉が相手取るのはそれでもなお生き残った猛者とでもいうべき骸たち。けれど悲しいかな、骸にも、それを動かす外星体の肉体にも、知性も理性もない。
 |発条《ばね》の如き脚で跳躍し。その身が高く打ち上がれば打ち上がるほどに落下の勢いは増す。その勢いで打つは、死者の道を踏み荒らす亡骸どもを、その喉ごと沈黙させる。
「死者の側に立つなら、我が生きる方へ這い戻してやる――否、戻る骨も残すまい」
 蜚廉は大型の獣の姿をした骸を、そのまま落下するままに背骨を粉砕して腹をぶち破りながら言う。
 ――これは、一人の男を生かす為の戦いであるがゆえに。

龍守・清流

 龍守・清流(シャドウペルソナの幻実性精神生命融合体・h07089)は、乱戦のさなかにある埠頭に乗り込み、暴れ回る屍獣――「外星体グロブスタ・アルファ」へと対峙する。
 狙われているのは、この埠頭で「貨物船」の「積み荷」の「見張り」――どれも、正確な表現ではないだろうが――を行っていた、非日常を日常とする男・岩村鉄蔵。とある|警視庁異能捜査官《カミガリ》のAnkerであり、それゆえにAnker抹殺計画によって命を狙われている。
 既に複数の√能力者によって大半の屍獣は駆逐されており、一般人も避難済みだ。清流の瞳は既に赤く、その人格はシャドウペルソナの「セイル」が表に出ている。
「こいつらを倒せばいい。単純でわかりやすくて助かるな」
 新たに戦場に現れ、|標的《ターゲット》の居場所へと近づけまいとするセイルを認めた大型屍獣が、融合した死骸を半壊させながら猛突進してくる。それが√能力によるものだと認識したセイルは、右掌を屍獣へと突きつける。
「そのオーダーは、却下だ」
 【|拒絶《キョゼツ》】。単純であるが故に強力なそのセイルの√能力によって大型屍獣は動きを止められる。そのままセイルは左腕に融合させた強化腕「クライング・クロー・フェノメノン」の爪をもって、その大型屍獣の頭を握りつぶして殺す。
「チ、数が多い。少し痛いが、そうだな……こんな獣の死骸どもは、一斉に駆逐しないと面倒かもしれないな!」
 セイルは悪魔を自称する|人格《シャドウペルソナ》。幻想を現実に、現実を幻想にする力を持つ悪魔だ。
 「攻性幻実」はセイルの思い描いた幻想の通りに龍守清流の肉体を書き換える。瞬間、その肉体は|雲丹《ウニ》のような棘に覆われる、セイルの意思に従って長く長く伸びた固い棘はその場にいる生きていた屍獣たちを全て刺し穿ち貫いて殺し尽くしていった――。

第3章 ボス戦 『外星体『サイコブレイド』』


「……そうか。あれらではオマエを殺せなかったか」
 屍獣を駆逐し尽くし、一時静寂の戻った埠頭、それを斬り裂くような鋭い声が響く。
 現れた男は――その気配も、殺気も感じさせることないまま、|標的《ターゲット》である岩村鉄蔵の前に立っていた。
「――ッ、何じゃおまん……!!」
「静かにしろ。ここでオマエを殺すつもりはない」
「おまんもわしの命を|狙《ねろ》うとるがか……!」
 男を睨みつける鉄蔵。そこに含まれる怒りや敵意を素直に受け止め、男――「外星体・サイコブレイド」は鉄蔵と√能力者たちに言った。
「……着いてこい。ここでは迷惑のかかる者たちもいるんだろう」

 たどりついたのは、埠頭からほど近い空き地だ。
「俺がオマエたちに勝てば、そこの男を殺す」
 その言葉は、あまりに誠実が過ぎた。星詠みの言った通りに「邪悪であろうとする迷い」を、ありありと感じ取れてしまう。
「だから俺を、殺してみせろ」
 俺は強いぞ。そう言って男が放つ殺気は、そこにいた全員の肌をびりびりと刺す。
「……こいたぁ、わしの手には負えん。それはわしにもわかるがよ」
 やき、わしの命はおまんらにを託すちや。
「必要なら、これを使うとえい」
 手にしていた日本刀を地面に突き立て、鉄蔵はそう言った。
 ――さあ、これが最後の戦いだ。
 岩村鉄蔵。一人のAnkerの命は、彼の宣言通り|√能力者《あなた》たちに託された。
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 第三章 ボス戦 『外星体「サイコブレイド」』 が現れました。

 おめでとうございます。√能力者たちの奮戦により、屍獣――「外星体「グロブスタ・アルファ」」たちはすべて駆逐されました。
 そしてこの戦いの結果、未来は確定しました。
 第三章にて戦う相手は「外星体「サイコブレイド」」となります。

 「戦場について」
 埠頭からほど近く、徒歩で移動可能な空き地です。屋外であり、日光が差しています。少々暑いですが、戦闘に支障が出るほどではありません。
 空き地はそれなりに大きく、大技を使っても支障はありません。
 空き地で戦闘に利用できそうなものは、あまりにも突飛なものでなければ、プレイング内で指定してくださればそこに「あった」ことにします。
 (「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
 また、鉄蔵が√能力者たちに日本刀を貸してくれます。これは特殊な能力は持ちませんが、しっかりと刃の研がれた刀剣であり、敵と戦うことに十分使用可能です。
 鉄蔵は空き地から逃げませんが、自らの判断で身を守ります。(彼がそこで√能力者を応援する気持ちがある限り、敵は弱体化します)
 リプレイ開始とともに敵がその場にいる状況となりますので、事前の行動を行っておくことは不可能です。(例:準備体操を行い、体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)
 何らかの準備行動を行うには、戦闘と並行して行うことになります。

 「ボス敵 『外星体「サイコブレイド」』について」
 外宇宙より飛来した悪しき宇宙人の連合、『外星体同盟』の殺し屋です。
 何故か言動の中に「邪悪であろうとする迷い」が見えますが、極めて強力な殺戮能力を誇ります。
 ボス戦であるため、必要成功数🔵が11に至るまでは完全に倒すことが不可能です。
 狙われている岩村鉄蔵を殺害しようとすることは、√能力者が戦える状態である限り行いません。
 √能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、手にした剣「サイコブレイド」によって戦います。
 ただし、プレイングや√能力の内容次第では敵に√能力を発動させない場合もあります。

  第三章のプレイング受付開始は、この断章が投稿されてから即時となります。
 プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。

 それでは、Anker抹殺計画の遂行者を撃退し、Anker岩村・鉄蔵の命を守り切ってください。
四之宮・榴

(……刀は、僕より……使い方を知っている方に、お任せしましょう……)
 ――僕には、刀は重いです、から。
(ですから……僕らしく……僕を囮にして、確実に……相手をして、いただきましょう)
 榴は鉄蔵の前に出て、サイコブレイドを誘うように一歩踏み出す。サイコブレイドが「俺がオマエたちに勝てば」と言ったということは、星詠みの言葉通りに――この男は、自分たちを倒し尽くすまで鉄蔵には手を出さないつもりだろう。ならば、鉄蔵を守る、程度では誘き寄せにもならない。
 榴の前で、サイコブレイドは腰を低く落とす。目には見えている、けれどそれ以外の情報、男の気配さえもが消え失せた。となれば、目を離せば榴には男がなにをしてもわからないということだ。そして、気配に頼らず視界情報だけで戦い続けるのは、それなりに辛いということを榴は本能で理解していた。
 それでも。
(相手が強いのは、百も承知……です)
 サイコブレイドが、榴の首を斬り落とさんと振り薙がれるのを咄嗟に影から引き上げた「深海の捕食者」によって受け流させ、「タロット―汝の道を示す標―」を撒き散らす。
 ここに至っての榴の戦法はひとつ、「死ななきゃ安い」だ。
 サイコブレイドから繰り出される無数の斬撃を避けもせず傷を受けながら、時折致命傷になりそうなものだけを「深海の捕食者」に喰らわせる。
 死にさえしなければ、インビジブルと融合することで回復もできる。ならば、負傷を恐れず突撃あるのみ、だ。
 舞い散るカードによってサイコブレイドから丁度いい距離を稼ぐと、そのまま空を泳いだ「深海の捕食者」の|顎《あぎと》によって喰らわせ、サイコブレイドの体を捕縛する。榴はその手に「漆黒のファイヤースターター」――二メートルはあるロッド状の着火棒で殴りつける。「深海の捕食者」は決して獲物を逃がすことなく、そして敵を喰らい続けている間そこから生命力を吸収し、先ほど負った榴の傷が癒えていく。
 サイコブレイドの頭部から、だらりと血が流れる。榴の癒えた傷からも、流れ出た血が残る。
 互いに顔を汚す血を拭い取りながら、サイコブレイドと榴は再びにらみ合った。

ダーティ・ゲイズコレクター

 Anker抹殺計画によって命を狙われたAnker、岩村鉄蔵。
 彼の目の前で、彼の命を守るために、√能力者たちが「サイコブレイド」と戦っている。
 常人よりは僅かに戦う術を持つ非日常を日常とする鉄蔵であったが、√能力者と簒奪者との戦いには介入できないことは本能で理解していた。だからこそ彼らに刀を預け、鉄蔵はひたすらに己の命を守らんとして戦うものたちの勝利を祈っていた。
 その、耳元で。
「ようやく辿り着きました!!」
「なんじゃああ!!」
 飛び上がって振り向いた鉄蔵の目に入ったのは、一人の女――いや、ただの女ではない、彼女こそは――!
「私はダーティ!ダーティ・ゲイズコレクター!不快な悪事の邪魔をする汚職警官ダーティとは私のことです!!」
 そう名乗りをあげると、ダーティ・ゲイズコレクター(Look at me・h00394)はサイコブレイドに対してびしりと指を突きつけて宣言する。
「あなたのAnker抹殺計画、とても不快です!よって全身全霊で邪魔させていただきます!!」
「そうか、やってみろ」
 サイコブレイドは静かにそう言うと、殺気を向けて手にした大剣によってダーティへと斬りかかる。それをすり抜けて|己の拳《「ダーティガントレット」》の届く距離までひといきに跳ぶと、ダーティはサイコブレイドを強かにぶん殴った。サングラスが割れ、ガラスの破片が目に入ったのか、露わになったサイコブレイドの目からはおびただしく出血している。そのままダーティの姿がぶれる、いな、ダーティ自身と全く同じ姿をした蜃気楼が毎秒増殖を重ね、その中に本物のダーティは紛れてしまう。時間にして刹那にも足りない思考の後、サイコブレイドは自身の大剣で大量のダーティたちを薙ぎ払う。そのまま血を流す片目を自ら潰し、サイコブレイドは再び剣を突き出し――執念か偶然か。その|鋒《きっさき》は本物のダーティの肩を掠めた。
「っ……私の【|穢れた蜃気楼《ダーティ・ミラージュ》】を破るとは……流石ですね……!」
「オマエもなかなかやる」
 血をだくだくと流しながら顔色一つ変えぬサイコブレイドに対して、ダーティは傷つきながらも不敵な笑みを浮かべるのであった。

和紋・蜚廉

 サイコブレイドの奇妙な形をした大剣が、蜚廉を超高速で襲う。何もできなければ首を落とされている一撃である。しかし、その攻撃の「起こり」を蜚廉は本来の姿が有する嗅覚器「翳嗅盤」によって捉えていた。それは空間に残る痕跡を匂いのように読み取る器官。微かな感情の滲みさえも拾い上げるその器官は、確かにサイコブレイドの「邪悪であろうとすることへの迷い」を感じ取る。
 「起こり」を捉えた瞬間に蜚廉は動いていた。赫裂脚『殲鋭殻肢』が届く距離まで一気に飛躍すると、甲殻の突起武装「殻突刃」をサイコブレイドの胸元へと突き立て、そして撃ち込んだ位置からすぐさま地面を裂き、三十四体の分身を生み出した後舞い散った塵影に潜む。分身たちは巧妙に動き、連携し、蜚廉本人の居場所を攪乱する。気配ですら嗅ぎ分けられぬ、跳躍と着地のたびに影は分かれ、三十五体の蜚廉たちの輪郭は曖昧になる。既に本体と寸分たがわぬレベルにまで磨き上げられた分身たちの擬態の技に、サイコブレイドの剣は二、三度分身を斬り裂き、空を切る。その度に甲殻籠手を纏った重い拳打を喰らい、サイコブレイドの脳は揺れた。
 サイコブレイドは再行動の為に己の腹部を抉らんとする――その動きすら、蜚廉には読まれていた。反撃を許さぬ事こそが、最も有効な迎撃であると、幾星霜を生き抜いてきた蜚廉は識っている。サイコブレイド自身の腹部を抉ろうとしていた刃は、蜚廉の分身によって阻まれる。そのまま身を捨てることすらできずに脳震盪というデバフを抱えたサイコブレイド。しかし彼もまた、歴戦の戦士である。
 分身たちを一体一体斬り裂く中で、完璧なまでに擬態されていた本体との、けれど分身である以上はどうしても存在することを避けられない、それゆえに蜚廉が演技を駆使して気づかれまいとしていた些細な違和感を感じ取れるようになっていった。攻撃が分身ではなく、蜚廉本体へと迫るようになっていく。それを蜚廉は追い越さんとする――即ち、戦いの中で敵を見極め、サイコブレイドの動きに僅かな歪みを見つけ出し、迫る刃よりも早く攻撃を叩き込む。
「汝が迷いに満ちるほど、この拳は深く届くぞ」
 静かに告げる。その言葉をサイコブレイドが認識したときには、蜚廉の拳打は彼の胸を強かに打ち抜いていた。

堀・允人

「……まったく、どこから仕掛けてくるのかとか、|標的《ターゲット》を煽られるとやり辛いとか、気を揉んでいたというのに……拍子抜けです。もっと、悪辣な方に来ていただけると思ってました」
(あるいはそれとも、単に力量に自信があっての余裕なのか……)
 允人はサイコブレイドの迷いを信用しない。敵対者に善性があることを信用しない。それは、允人自身がそうであるからか。
「あまり買いかぶってくれるな」
 サイコブレイドの気配が消える。目の前にその姿はあるというのに、その存在を視覚でしか感知できない。逆を言えば、一瞬でも目を離せば、その次に攻撃がどこから来るのかわからないということだ。
 模型の分銅がついた、隕鉄と己の髪、そして|新物質《ニューパワー》の加護で編み上げられた鎖「牢屋番の鎖」を振り回し、允人はサイコブレイドを捕えようとする。視覚以外での探知が不可能になっている代わりに、サイコブレイドの移動力は三分の一に減退している。允人は細い左目を自然と見開き、サイコブレイドの姿を追跡し続けることに力を注いだ。影業「取り立て人の影」を伸ばして地面から無数の棘として具現化させ、距離を詰めることを躊躇させた瞬間に脚に絡みつかせた瞬間に鎖の強度と太さを増幅し、圧して締め上げ、そのまま一寸の躊躇いもない昏い目をして|手斧《ハチェット》を振り下ろす【|Sloppy job《タタキ》】。
 肩口に食い込んだ斧にぐ、と力を籠め、もう一度叩きつける。だらりとサイコブレイドの腕が垂れ下がった。切断とはいかずとも、肩と腕を繋げる大事な筋肉や関節は断ったのだろう。傷口から真っ赤な血が噴き出し、空き地の地面を染めた。
 サイコブレイドは左手一本で剣を振るう。允人の鎖がサイコブレイドの脚を捕らえているということは、つまり允人はどうしたってサイコブレイドの近くにいるということ。允人は振り薙がれた一撃を、鎖を離し後ろに飛んで躱す。サイコブレイドはその瞬間に、允人に斬られた片腕を捨てた。ぼとりと片腕が地面に落ち、そしてすぐさまサイコブレイドが気配を取り戻す――√能力を解除したのだ。瞬間サイコブレイドは移動力と戦闘能力を復活させ、允人を斬りつける。|黝《あおぐろ》く蟲の血のような允人の血液が地に滴る。
 それでも、允人につけられた傷はサイコブレイドの目論見よりもずっと浅かった。サイコブレイドが気配を取り戻したが故に、致命傷を回避することが可能だったためだ。
「皮肉なものです」
 それは何に対して言ったのか。サイコブレイドの血が赤く、允人の血はそうでないからか。ともあれ允人は未だ鎖に絡めとられて立ち上がれないでいるサイコブレイドを――そう、立ち上がれないままにサイコブレイドは允人に傷を負わせたのだ――睥睨し、地面に突き立てられた鉄蔵の刀を手に取った。
「お借りいたしますね」
 そうして允人はその刀の他、|手斧《ハチェット》とククリナイフを取り出してそれを【|deadbeat《デッドビート》】によって巨大なワニの頭を模した鉄製のペンチ――かつてヨーロッパで使われた拷問器具「ワニのペンチ」に錬成し、それでもってサイコブレイドの肉をちぎり取る。
「痛いなら、逐一お聞かせ願えます?」
 【|deadbeat《デッドビート》】によって実際のダメージ以上の持続する痛みを与え、允人はサイコブレイドの体を少しずつ少しずつひき肉に変えていく。
 ――拷問は、長い時間続き。
 サイコブレイドは、ゆっくりと、ゆっくりと命を削られて――絶命した。

「ああ、これ。お返しいたします」
「おおの……」
 鉄蔵に刀を返すと、その意外過ぎる使い道に戸惑うような声を上げて何処かへとしまい込む。
 允人にとって少しだけ意外だったのは、鉄蔵が、允人がサイコブレイドをハンバーグへと変える一部始終を前にして、目も逸らさず呻き声の一つも上げなかったことだった。
「豪胆な方です。ところで――」
 允人は悪魔の如く甘い声色で鉄蔵に囁く。
「借入先にお困りではありませんか」
「……やっぱりおまんそっちのモンじゃったかえ!!」
 渡した名刺をひったくるように、けれど突き返されなかったのは恩義ゆえからか。
「いつでもお待ちしておりますよ」
「おまんとは二度と会わん!!今日限りじゃ!」
 鉄蔵の声が空き地に響き渡った。

 斯くして――とある|警視庁異能捜査官《カミガリ》のAnker、岩村鉄蔵の命は守られた。
 彼は自身の無事が保証されたことを知ると、再び埠頭へと戻っていく。
 彼にとっての日常は、非日常の中にある。
 そして、そんな彼の存在もまた、一人の√能力者の日常の象徴なのだ。

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