シナリオ

④吐き出されるは

#√汎神解剖機関 #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦④

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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●おうと
 吐き出している。
 開いた扉は大口だ。
 吐いている。
 地獄の門はそのように、嘔吐するが如く――ぎちり。顎を砕かれんばかりに開ききった扉から、白鳥を嘔吐していた。
 無理やりに実った頭部を動かして、己の体を小さくまとめようと足掻くさまは、なんとも無様で。神経のように伸びた下半身が這いずるように動く。翼も羽がいくつか折れ曲がり――だが。

 それは、確かにそこに『成った』。
 地獄の門を窓として。その隙間から√EDENへ入り込んでみせた白鳥の産声が聞こえる。

 耳を塞げ。
 地獄の叫びよりも喧しい、ゆえに。

●ごめんなさい。
「その……『ごめんなさい』、みなさん、集まって頂いて」
 アルケライト。鈍い金属の体を持つ少女は、困った様子で――否、いつもこのように困ったような顔をしているだけなのだが――話し始めた。
 エウフェミア・アンブロシア(アマルガム・h06848)、金属の天使は異形の白鳥の話をはじめる。

「地獄の門です。ネームレス・スワン。また、吐き出されました」
 本来ならばただの美術品、だが『繋がってしまった』以上、それらは無尽蔵なまでに。溢れて溢れて仕方がない、帰しても新手がやってくる、まさしく対処不能である。

「あの……多く語ることは、しません。これを、押し戻してください。対処不能災厄です……殺すのは難しくとも、帰すことはできます」
 それを何回やれば良いか?
 ……指折り数えるのはやめておいたほうがいい。

「……えと、その。……少し切れば、地獄の門に入ると思うのです」
 こちらもこちら、存外、物騒な娘である。勧善を欠落していようと、いや、いるからこそ、物騒な「すゝめ」はやってのけるのか……。

 開けたら閉める。当然の行動、善行だ。
 取り出したなら、しまえばよろしい。
 出てきたのなら、戻せもするさ。

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第1章 ボス戦 『対処不能災厄『ネームレス・スワン』』


雪月・らぴか

「ひええ、またネームレス・スワンでてきたの?」
 出てきちゃったのである。対処不能とはよく言ったものだ――隙間さえあればそれこそ、いくらでも、何度でも。閉じなければあふれてしまう、あふれてしまえば皆狂う、狂気の沙汰を鎮めるのは√能力者でなければならない。
 元を断たねばならぬのだ。雪月・らぴか(霊術闘士らぴか・h00312)、幾度目かの『ネームレス・スワン』の顕現に少々呆れているが。
「でもでも、何度も蘇ってまた来るのは√能力者ならみんなそうだし!」
 そのとおり、無限に蘇るのはあちらだけではない。

「被害ださないためにも、何度でも倒して押し戻すだけだね!」
 そう、何度だって! 低い上空を飛ぶネームレス・スワンに飛びかかるらぴか。そして……勢いよく、杖を振るう!
「ァア、ア――!」
 槌となった杖が爆発する!やや後退したネームレス・スワン。狂気の絶叫を上げながら少しばかりの後退――そこに追撃するらぴか!
「あーあーきこえなーい!! うるさーい!!」
 自分も大声を出しながら――何かをもごもごと唱えようとする口を無視しようとするも。――地獄の門からぬるり、顔だけを出した「それが居た」

『アー……』
 と、ひとこと。ネームレス・スワンの――周囲にばらまかれた邪魔な肉片や瓦礫がふっと消える。スワンズ・ソングはあまりに短く、そして素っ頓狂な響き。だが動きやすくはなったのか、脊髄を引きずりながらまだ飛翔し、飛び立とうと足掻いている。そこへ打ち込まれるらぴかの杖!

「しつこーいっ!! ……あと何回この門閉めることになるかなー?」
 ちらりと、地獄の門へと視線を向けるらぴか。まだまだ、と言うしかないのだが、ともあれ白鳥、白鳥なりに困ってはいるようである――。

レア・マーテル

「ほんと……この地獄の門が、繋がっている先は、いったい何処なのでしょうかね?」
 這い出て生まれた『それ』に聞けるものならば、聞いてみたいものである。垂れ下がった脊髄を引きずりながら羽ばたく|ネームレス・スワン《それ》をレア・マーテル(PR会社『オリュンポス』の|万能神官冥土秘書《スーパーエリートメイド》・h04368)は見つめる。

 死の国か? 楽園か? この√EDENよりも善い世界があるというのならば、深淵の奥、覗くのも悪くはないが。
 ――見えたところで、狂気の沙汰と見つめ合うはめになってしまったら、取り返しがつかない。
「まぁ、アレはアレで隙間があれば何処からでも湧くようなものですから」
 そう、どこにでも。戸を締めよ、戸を締めよ……雨戸のひとつ。その隙間すら許さぬよう……。
 ひとつため息をついてから、レアは『おもてなし』の準備を始める。

「さて『黄泉冥土』の皆さん、お仕事の時間です」
 いずれにしても、コチラ側に放置するわけにはならない――それでは。
「今回のお客様には即時お帰り願います」
 丁寧なカーテシー、溢れ出す鬼女――!
 メイド姿をしていようとも悍ましさは変わらぬものだ。溢れかえるは黄泉醜女。ネームレス・スワンの脊髄、神経にすがりつき、羽ばたこうとする翼に掴み掛かる彼女たち。狙いは――融合!

「あァアア、あ、ア、――!」
 悲鳴。実る頭部が悲鳴を上げている。知るものか。増えては鬼女に千切られ同化し消える翼、脊髄、頭部――増えた、殖えたのだ、そのはずの「からだ」を徐々に削り取られていく、己が素のまま、翼へ噛みつき同化する鬼女の群れ。悍ましき。
 拡大を許さない。門の向こう側にお帰りくださいませ、御主人様ならぬもの。押しては返す波のように。レア自身もネームレス・スワンの叫ぶ頭部を横殴りにし、扉がぎしり悲鳴を上げる。

凍雲・灰那

 星詠みの妙に呑気な言葉を真に受けてはならないが、またと言われればそれは、「また」である。
「その頻度で吐き出されちゃ困るんだよな……」
 凍雲・灰那(Embers・h00159)、唇を不愉快そうに歪ませながら、ネームレス・スワンを見る。白鳥は足掻いている――飛び立てたのだ、それで、押し返されつつある。しかし一瞬目を離せばこのように、また宙を、空へ向かおうと必死に無様な翼で羽ばたいている。
「どうにかなんねェ? 対症療法じゃ追い付かなくなるぞ」
 一先ず押し返すしかない。そう言われたのならば仕方がない。閉じよ、隙間もなく閉じよ……。

 ともあれやることは決まっていた。
 陽天潰エヨ。「腕も手も、幾らあっても過剰という事ァない」? ああ是だ!
 展開されるは異形なり。|術式燃焼《アクティベート》。
 |滅焔魔軍《ムスペル》よ、その四つ脚を錨とせよ。
 増えた|黒焔巨王《スルト》の腕の数、ああ、数えちゃアいけないよ。
 |おまえ《白鳥》に数えられるものではない。

 ――|鏖灼戦禍《レーヴァテイン》。
 四つ足、けだものの疾走だ。前足が勢い良くネームレス・スワンの体を蹴りつけ、脊髄を踏みつけた!
「お、――ラァッ!!」
 数多。一気に叩き込まれた腕が、実ったアタマを殴打する――! 果実のように潰えたそれ、反吐と脳髄をぶちまけていく。踏みつけられた脊髄が千切れる音、だがまだ確りと踏み躙っている!
「アァアアアア――!!」
 絶叫だ。絶唱だ。耳を塞ぐ腕、いざというときのため、ひとまず二本用意しておこうじゃないか! 今は|気力で我慢する《・・・・・・・》!!

「ああーーッ!!! 耳から火ィ噴きそうだわ!!!」
 殴りつける。再生する。殴りつける。再生――だがそれにも限界が来る。潰えたアタマの再生が止んだ、あとは徹底的に、磨り潰してやればよろしい!
「脳髄が軋む!!!」
 ――ネームレス・スワンの脳髄も同様、軋んでいる!

和紋・蜚廉

 肯定。
「隙間も残さず、閉めつくそう」
 戸を。すべて。埋めよ。和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)、覗き見る隙間など、ひとつたりとも許さぬ。

 邪魔な絶叫を己の翅音板で相殺する。同じ『ヤカマシイ』ならば己の音をそれとせよ。
 まだ這いずり、翼を数多増やして羽ばたき天へ昇ろうとしているネームレス・スワンへと打ち込まれる右拳!
 触厭により、翼の増殖が止まった。頭部が切り落とされていく、地面に落ちて、秋の果実、さもありなん。このような実があってたまるかというところだが。
 殻突刃、肘から突き出たそれが頭を、翼を抉り落としていく!

 増殖――増殖を、ふえよ。ネームレス・スワンはそう願っているのだろうが、残念なことにそれは叶わない。
 己を蝕む毒、己を切り裂く刃、貫くもの、そして捕縛してくる細い黒銀。ぎちりと締め上げられ足掻くもまるで蜘蛛の糸か、翼は無様に羽根が折れ、浮上を阻害する。飛ぶ鳥、白鳥と言い難きそれ、羽ばたかねば進めまい――狙い通りだ。
 ぼたぼたと端から切り落とされていく白鳥、足掻き藻掻き蜚廉を振りほどこうと必死だが、黒銀の糸と翼を確り捕まれている。
 無様に、逃れることは、できないのだ。

「アァアーー……ッ!!」
 ずるり蜚廉を貫こうと動いた自由な脊髄、わかりやすいその動作。すぐさま捕まれ、ばきり折れて引き抜かれ、絶叫――! 折り抜いた下の翼が、役割を果たさぬ飾りと化した。

 この門が――地獄が開き、白鳥を吐き続ける限り、止まらぬ理由はない。
 あふれ出す災厄。己の勘と骨で、適切な時を見計らえ。ここは、次に任せて善い。この白鳥、足掻くだけで精一杯だ。
 白鳥の喧しさは――あらゆるところから響く悲鳴が――次に向かう場所を告げている。

「この危機感、昂揚してしまうな」
 ああ、和紋・蜚廉は、戦いに生きている。

夜白・青

 倒しにくいとは厄介だ。対処不能とはいえ、それなりに対処ができる――いや。
 悪あがきとばかりに、押し返せるというのは良いところではあるか。

 悲鳴を上げ続けるネームレス・スワン。何がうらめしいか、何がかなしいか、それとも何もなくとも、叫ぶしかないのか。頭部に響き渡る狂気の声を聞きながら、夜白・青(語り騙りの社神・h01020)は息を吐く。
 ――吐息に混ざるは、炎。

「すぐに帰ってもらうのが一番だねい」
 ばきり。爪の先が異形と化す。――顕現するは白きドラゴン。真竜ここにありて。
 燃え上がる竜漿、ネームレス・スワンの体を焔として撫で上げる!
「――!」
 悲鳴すら上げられたものではない。吸う空気が焔となったのだから。
 だが僅か動く頭部、脊髄、翼。増えて増えて未だ止まりはしない。それを切り落とすは青の竜爪――! 脊髄を絡ませてこようとするネームレス・スワンのそれを焼き払い、羽ばたく翼を腕で叩き落とし、尾を持って押し返す!

 門よりも未だ巨大である。で、あるからして、『落とす』必要があるだろう。念入りに――肉ならば黒焦げどころではない熱量が、ネームレス・スワンの『端』を焼く!!
 燃焼する体をうねらせて、まだ羽ばたいて、それでも離れぬ青。
 青とて相応のダメージは受けている、下手に気絶してはどうなるかわからない……なまじ『不完全だが、真竜』なのだ。そのような自覚がある。ある程度頃合いを見て、引き下がる必要があるだろう。だがまだ一手、二手の余裕はある!

「そぉら!」
「アァアーー!!」
 長い尾が炭化したネームレス・スワンの端を叩き落とす。ようやく上げられた絶叫。それが何の感情から来るものなのかは相変わらず定かではないが。確かにその一撃、『ちょうどよいサイズ』として、端を削り取った。

深雪・モルゲンシュテルン

 さて、「対処不能」の冠は伊達ではない。伊達ではないが、押し返せる。
 数多の√から訪う無法者ども。荒覇吐の狙いを阻止するためには、それらの相手すらしなければならない。彼らの作戦や来訪を阻止できれば……『ネームレス・スワン』の来訪を押し返せば、一時的だとしても十分に意味がある――。

「……速戦即決で行きましょう」
 深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)は手に抱えた対WZマルチライフルのスコープを覗き、ネームレス・スワンを睨むように見定める。ばちりと雷撃を発し、変形する。『電極針弾投射形態』――物理的に押し返すのもいいが。
 効率的に、狙い撃つ。電脳が素早く演算する。太い脊髄が、どこにあるか。血管、神経の束に守られた『弱点』がどこにあるか――!

「アァ――!」
 ――狙撃。|悲鳴。絶叫。狂気《スクリーム》。深く突き刺さる電極針、雷をばちばちと発しネームレス・スワンを麻痺させる。脊髄から抜き去ろうと――麻痺したそれ以下の体が微動だにしないのに困惑しているのか。
 暴れる上半身、発される狂気の声!
 ネームレス・スワン自身は既に狂気に浸りきっている。
 深雪にとってはその声は彼女を狂わせるのに十分だが、それをぐっと堪える――世界を、市民を護る意志。大切な人が生まれたこの世界を、誰にも傷つけさせるわけにはいかない!

 ダイダロスユニットにて急接近したその顔を確り掴む。ぐっと押し込まれる頭部、折れる首、押し返されるネームレス・スワン。
 深雪の機械化された腕、その関節が全力の駆動音を立てる中で、ネームレス・スワンを門へと押し込んでいく!

 停滞した世界から訪う災厄。進み続けなければならない己。
 √EDENに――仮初かもしれなくても、今はこの、楽園に。この狂気の有り様そのものを、白鳥を侵入させるわけにはならない。

タミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ

 それはリスと呼ぶには凛々しく、逞しく、そして巨大なものだった。
 タミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ(|大堅果騎士《グランドナッツナイト》・h06466)――なんと立派な名か! 失礼、少々いつもの癖が!
 
 搭乗するは逞しき決戦型WZ――|騎士長官《マギステル・エクィトゥム》。合体した|超重鉄騎《クリバナリウス》、戦馬型WZと共に門の前へと赴いた彼。
 騎士は見据える。地獄の門より吐き出されし|災厄《白鳥》、門から飛び立とうと、無様に足掻く様を。
「おお、名も無き白鳥よ、汝のこれほど恐ろしい願望はどこから湧きだしたのか?」
 深淵か。虚無からか。冥府からか――己が産まれたことを呪わんばかりの絶叫を発し飛ぶネームレス・スワン。
「その叫びをやめ、冥府へと帰るが良い」
 ――どのような出自であれ、解放してやるのが筋であろう!

 吹き鳴らされる角笛が白鳥の悲鳴を、絶叫を掻き消す。轟く音は狂気に浸る間も与えない。だが、拡大するネームレス・スワンの体――未だ、翼を数多増やし飛翔しようとしているが。それが仇になるとは、白鳥は一片たりとも考えていなかった。
 増えた翼の数だけ召喚されしは|重弩砲《スコルピウス》。随分ゆらゆらと飛ぶようになったそれには、もはや命中率など関係はない!
「ア――」
 叫びは弩の射出音により掻き消された。
 一斉射撃を受けたその体、翼が射抜かれ、あっという間に高度が落ちていく! リースケはその隙を見逃さず駆け抜け、地獄の門の扉へ|超重鉄騎《クリバナリウス》の|前脚《・・》をかけた!
「白鳥よ――目指す先を見誤ることなかれ――己が|世界《√》へ帰るが良い!」
 巨体が押しつぶさんばかりにネームレス・スワンの体を軋ませ、押し返し……扉にかかった脚が動く。ひどく重い片扉が、ぎしりと音を立てた――!

 女神の微笑みは、こちらへ向けられている!

橋本・凌充郎

「――何回でも、やればいい」
 ああ、轢き潰せば良いのだ。
「殺すのは難しくとも、殺せないものはない」
 たとえ肉体的な死を迎えたとして、それを人は『死』と定義するのか。たとえば脳機能ほぼすべてを失ったもの。たとえば心臓を模倣した細胞。たとえば――死せど、蘇り、再度√EDENのために立ち上がる者。

「死は平等であり、死は絶対である――」
 死は概念である。死は平等である。いちいち数えている暇もない。
 押し返すついでに嗚呼、そこまでも――『殺せるまで、殺してみればいいのだろう?』

 ――得意分野だ。それこそが我が使命である。
「鏖殺連合が代表、橋本凌充郎である」
 橋本・凌充郎(鏖殺連合代表・h00303)――名乗るは白鳥へ対してのものではない。己が信念であった。

 叫ぼうとする口は鈍臭い。速射だ。次々撃ち抜かれる口、顎から上が爆ぜていく。生っちょろい悲鳴となったそれ、失った頭部の代わりとばかりに実らせようとした小さな頭部すら凌充郎の銃弾は許さない。麻痺弾を咥えることとなったネームレス・スワン、吐き出すことも叶わずにそれを噛みしめることとなった。
 振るわれるは|故殺し《回転ノコギリ》だ。暴力。質量を持ったそれでの殴打、溢れ出る殺気がネームレス・スワンの傷口を――翼を、脊髄を、がなり立てるような|音《声》と共に抉り、切断する――!!

 ああ随分と、それだけで、小さくなってしまったものだ。だがそれだけでは終わらない。踏み。躙り。潰さねばならない。叩きつけられる葬刃、己の持てるありとあらゆる手段を使い、解体されていく白鳥。じたばたと、あわれそうに悲鳴を上げど、それに同情するもの誰一人なく。

「死に損なうなよ」
 ああ、だが、お前はその苦痛すら、マトモに記憶などしないだろうが。
 ――殴り飛ばされたネームレス・スワン。もはや数多実っていた|果実《頭部》、|幹《脊髄》、|葉《翼》、どれもこれも若木のようだ。暗闇へと押し込まれたそれ、さて、先で何が待っていたかなど、考える理由もない。潰した虫の行方などたかが知れている。

 みしり。地獄の門が音を立てる。その怪力を持って閉じられる門、僅か這い出ようとした脊髄が――ぎしり。隙間なく閉じられた瞬間、潰れ、動かなくなった。

 まったく、つくづく如何ともしがたく、度し難く、忌々しい。磨り潰してなお蠢く肉片に生命を感じるか? 当然否であるが、あの白鳥どもにとってはそれは是なのだ。燃やせ。焼き尽くせ。地獄の炎、それだけの火力はあろう。だというのに。
 その役目を放棄したこの地獄の門、破壊してしまうべきなのだろうが。
 造詣がないとはいえ、芸術品として保護されている以上、やるべきではない……。

「――やれやれ」
 踵を返す。また溢れ出すのなら。その戸、閉じに来てやろう。何度でも、何度でも、何度でも――。
 根絶を誓い、この汚物塗れの地を歩いてやろう。
 ――淀みは深く、そして腥い。

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