シナリオ

④三位一体

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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

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●地獄門
 思考する事が罪なのであれば、発狂する事こそが罰であれ。
 希望を抱く事が苦なのであれば、門をくぐる者こそ幸せか。
 おぞましい絶望だけが蠢くのであれば、脳髄すらも残らず。

 詩に籠められた思いなど、最早、ナンセンスの一部であり、
 まさか――文字通り、地獄の方から、来訪をしてくるなど。
 まったく――誰が想像出来るだろうか!

 対処不能災厄『ネームレス・スワン』は窓の隙間より出現する。
 たとえ、戦争中であろうと、何であろうと。
 投身すらも、対処不能災厄にとっては、狂気の沙汰ではないのだ。

 裏切り者の地獄へと続いているのが、見えた。
 凍り付いた罪人からの手招きも、彼方、聞こえる筈がない。
 見えたとして――果たして、わざわざ、向かう必要が何処にある。

●考えてはならない
「あ……あわ……あわわ……」
 星詠みである立川・満月は元人間である。その為、彼女の精神は想定していた以上に脆く、星詠みを試み、数秒と経たず『このような』状態に陥った。
「ふぅむ……如何やら、我輩から説明した方が良さそうだねぇ。国立西洋美術館の前庭って謂ったら、わかる人にはわかるかもしれないが、そうとも、美術品の方だが、あれも立派な『地獄の門』なのさ。それが、如何やら開いてしまったようでねぇ。そっから出てきたのが対処不能災厄『ネームレス・スワン』。この哀れな女の状態、何かわかるだろう」
 発狂である。いや、おそらく、一時的なものだが。
 決死の覚悟で挑まなければ、一瞬で『こう』なる。
「君達には『地獄の門』を閉じてもらう。対処不能災厄に、お帰りいただくのさ。手段は問わない。せいぜい、発狂しないように頑張ってくれ給え」
「あえ……」

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第1章 ボス戦 『対処不能災厄『ネームレス・スワン』』


エイハ・ルシニア

 改めて、幾つかの戒を破壊されてしまったのだ。仮に、静謐を愛していたのだとしても、愛しているという時点でお終いか。機械は……ナイチンゲールのあたしは『発狂』する事があるのか? なんて哲学的な事を、人間的な事を、考えていても、なんかしらんけどそーゆーところを『超越』してくるのが、無意味にしてくるのが、√汎神解剖機関のイヤラシイところだよねぇ。残念ながらナイチンゲール、そのように『口に出来ている』段階で、十分に感受性豊かだ。好奇心が猫だけを殺すと思ってはならない。はー、やだやだ。ほんっとうに、心の底から嫌になるよ。心の底からと宣ってしまった。いっそ、鹵獲されていなければ、今頃のオマエは――考えずに飛ぶってことは、機械のあたしだから、できる事だから。相手がスタンピードを起こそうとするなら受けて立つ以外にありえない。そもそも、完全に殺す事など夢のまた夢なのだ。勢いよく突っ込んだって他の誰かが支えてくれる。
 まっすぐ、まっすぐ、シンプルさを極めて、まっすぐ。対処不能災厄の傍らに『在った』インビジブル目掛けて猫のようにまっしぐら。考えない。何にも考えない。あたしは『イカロス』じゃないし、あれが太陽というわけでもないし、ね……? 絶叫、悲鳴、狂気と絶望の嵐のど真ん中――目を彷彿とさせる箇所に、身投げをするかのような。
 なんなの……なんなの、これ……もう!!! 完膚なきまでに殺戮されたのだ、戒よ。感情が……頭の中が、ぐしゃぐしゃになる、得た自由意志が、あたしが、とぶことをじゃましてくる。機械仕掛けだというのに吐きそうな気分だ。いっそ、墜落してしまった方が楽なのかもしれない。でも! あたしは! 空を飛ぶ事を! 決して諦めない!
 飛翔の勢いの儘に、宣誓と共に、対処不能災厄のど真ん中へとドロップキックをくれてやれ。たとえ、今日の空が土留色をしていようとも。自分を手放すつもりは欠片としてない。いっけー!!! 大丈夫だ。人間みたいに目眩を覚えたって、このくらい振り払ってしまえ。

和紋・蜚廉

 押してダメならば更に押せ、それでもダメならぶん殴れ。
 未曾有の脳髄へプレゼントだ。潜るように、気配を探れ。
 一寸の虫にも五分の魂――そのような諺の体現として、具現として、己が身を揮うサマは如何に。たとえ、相手が大きくとも、たとえ、相手が多くとも、自らを保つ事くらいはやってみせる。決死の覚悟か。それならすでに、いや……常に、我は抱えている。生存こそ、我が生の全て。遺骸の傍らに在る今こそ、我が全て。ならばこそ、あらゆる手を尽くして、背水の陣を以て、この発狂の中を……地獄の底を、生き抜こう。必要なのは|本能《●●》である。罪を脳髄に湛えてやらない事である。そうすれば、罰は水滴としてもやってこない。こればかりは、変な|智慧《●●》を必要とせぬ。果実の味を知るには、まだ、早いのか。
 野生の勘――如何に狂おうと、如何に痴れようと、我が血肉は『それ』が染みついたものなれば。ああ、この身、この精神、最早、団子すらも掌の上だ。嗚呼……成程、随分と、必死をしてくれる。我を前にして、まるで、人間のように叫ぶではないか。ある意味では似ているのかもしれない。神は己に似せて人を造ったと宣うが――使いの類のカタチは如何に。構わない。智慧など得る前の、裸で生きていたころに戻れば良い。白鳥など……我からすれば、肉のついた魔性にすぎないか。増える頭部も、増える脊髄も、増える翼も、|本能《我》の前では障碍にも成り得ぬ。握り締めてくれ、怪物よ。叩きつけてやれ、拳を。
 ――いつだって、我は『こう』してきた。
 対処不能災厄「ネームレス・スワン」、地獄の化身の芯が震え、沈黙している。|破壊《ころ》す事は出来そうにないが、しかし、押し込むのであれば十分だ。やはり……窮鼠猫を噛む、か。だが、殴れたのだ。殴れるものなら、後は容易い。
 音の元凶は――地獄の門の位置は――既に把握した。激震の最中にある化け物を|伝搬《●●》、叩き潰してやれ。灰は灰に、塵は塵に、地獄は地獄に。……暴かれるには、まだ早いというわけだ。閉じてやればよい。

青木・緋翠

 ほんわかとした翡翠色も、この場においては鬼気迫るか。
 迫りくる狂気の権化へと、嗚呼、ブラインドタッチ。
 地獄の門の彼方――阿鼻叫喚なのか、八寒なのか、わざわざ、思考を巡らせている暇はない。他√なのでしょうか。√汎神解剖機関なのでしょうか。気になりますが、今は、行くつもりはありません。危険なものにも、臭そうなものにも、蓋をしておきましょう。蓋をする前に火の粉が飛び散っていないか、周囲に一般人がいないかの確認だ。もちろん、言わずもがな。人間というものは群れる生命だ。至るところで日常を謳歌しており、何故か、忘却の彼方にのみ生息を赦されている。……今のところは、問題なさそうですが、しかし、万が一というものがありますので。解せぬ面構えの、呆けている、誰かさん一人一人を抱えていく。安全圏が有るのか、否かは、不明だが。EDENらしさとして脱出をさせると宜しい。さて……ようやく、本番でしょうか。いえ、今回は、殺せないとわかっていますので。スマートグラスによる|記録《●●》。捕捉する事に成功したのであれば、あとは、未曾有を暴く程度か。未知が最大の恐怖の源ならば、その一切を既知へと堕としてやるといい。
 狂気の軽減――精神の維持――その術は、十人十色であるべきだ。悪くありません、これなら、短時間だとしても『耐える』ことは可能でしょう。白鳥の歌への願い――誰も犠牲にせず、ネームレス・スワンを地獄の門へ押し返し、門を閉じること――は、対処不能災厄自身、傷つける行為か。しかし、如何だ。願わずとも『やって』しまえば問題などない。
 結局のところ物理である。物理で『拒絶』をしてやればいい。握り締めたトンファーガンで多数の顔面のひとつ、殴り飛ばしてしまえ。簡単にはいかないでしょうが、俺は、俺が思っている以上に諦めの悪い付喪神なので……。
 お帰りの時間だ。黄昏色が垣間見えるよりも素早く。
 放電するかのように。悲鳴は最早ない。

柳・依月

 鵺なのか、八咫烏なのか、仮に判断できていたとしても、三位一体の有り様では正体を暴かれる可能性が高い。ぎい、ぎい、錆びついた遊具を楽しむ為にも。人の心というものを覗き込まなければならないか。獣の数字だって? 確かに。でも、桁が違うのではなかろうか。
 協力をしてくれると嬉しい。
 廃棄されたタイヤ、その転生先については、子供達に大人気な時点で『わかる』筈だ。金魚が数匹増えるかの如くに、くるくる、くるくる、廻ってくれる。ほんのりとした悲哀を覚えながらも、公園のお兄さん――溜息を吐くかのように――言の葉を紡いだ。なんとまあ、凄まじいことで。対処不能災厄とは|うち《√汎神》も色々なやつがいるなぁ。いや、お前の場合は『特例』か? ともかく、こんな立派な美術品、普通に見に来たかったがな。なに……まさか、本物をくぐりたいとは、思ってはいないさ。まあ、どうにかするっきゃねえか。はぐれ花火とおどるように、御伽噺を繰ってやるかのように、只、目線をちゃんとしてみせた。ああ言われたし、素直に、ちゃんと対策はしねえとな。
 人なのか、妖なのか、何方の側面も持ってはいるが、それ以上にネットロアなのだ。つまりは、俺にも『変質』の可能性は残っちまってると、そういうわけだな。触れるか、触れないか、霊的な防護もかけておいたならば、愈々、向かっていく時だ。色々できるやつらだけど、今回命じるは「敵との融合」、まあ、敵対をしているのは俺達だけなのかもしれないが。闇の鴉、或いは、闇からの鴉。羽ばたいて行けば纏わりつき、増えた頭部を抑制する。かなり鈍くなったんじゃないかな。これで、もっと、やりやすくなった筈……。
 飛来してきた翼については見切ってやると宜しい。やたらに多いけど、それじゃあ、重たくてマトモに、くぐれないと思うがな。門であれ、窓であれ、仕掛けてやれば返しの如くに。くるり、くるり、いつもより多めに切断しております。
 人も、怪異も、災厄も、等しく耳は持っているものだ。

プレジデント・クロノス

 インスタントでも構わないだろうか。
 勿論、お茶菓子も用意しておこう。
 それにしても、口が多くて、食べづらくはないだろうか。
 知性的な連中から――情報収集を頼まれていた連中から――幾つか、唾を付けられた男が一人。白い仮面が特徴的なスーツ姿の一般人、いいや、逸般人のご到着である。私は、エンターテインメント系大企業、PR会社『オリュンポス』のCEO。本日は、国立西洋美術館の企画展に招かれていた。やはり、経営のトップたるもの新旧一体の芸術こそ、三位一体の妙味こそ、新たなエンターテインメント性が生まれると感じるな。地獄の門――そのグロテスクさに、いっそ、頭を抱えてはくれないか。まさしく考える人よ、己がどのような役割なのかをしっかりと理解すると宜しい。む……アレはいつぞやの、バッタモン感が満載のB級映画に出てくるような智天使のスーツアクターかな……? 暗殺される寸前だった事を思い返すと良い。遠隔操作をされている方の『粋な計らい』については置いておくとしようか。
 相変わらず、変な奇声をあげている……。狂気への誘いも、汚染の嵐も、オマエにとってはZ級めいた混沌か。ちょっとボリュームを落としてくれないかね? ほら、他の皆さんも困っているから。ぎゃあぎゃあ、ぎゃあぎゃあ、まるで讃美歌だ。成程、これが神への祈りだと謂うのなら……冒涜的という意味では、間違いではないか。それに、地獄の門が開いている。む……|能力者《スタッフ》たちが一生懸命に、閉じようとしているようだが。わかった。そういう前衛的コンセプトの芸術だな。いやはや、素晴らしい……。
 兎にも角にも、CEO。プレジデント・クロノスはキャストでもあるのだ。何、遠慮はいらない。門の開閉くらい、このCEOに手伝わせてくれたまえ。ぎぎぎ、ぎぎぎぎ、門が動いた。怪力の化身とでも表現すべきか、或いは――門といえばあのシスター、無事に帰る事が出来たのだろうか。次に会ったら、改めて、お茶でも……。

四之宮・榴
和田・辰巳

 消し飛べ。
 地獄の門――グロテスクな部分に関しては、おそらく、知った頭よりも凄まじいか。無数の頭が、無尽蔵な髄が、未曾有の翼が――暗雲のように這入り込んできた。勿論、それを逸らす為に、それを除ける為に、和田・辰巳はお札を貼り付けたのだが、手遅れである。いいや、そもそも、結界を展開したとしても対処不能災厄「ネームレス・スワン」の狂気は阻めない。脱力してしまったのは、脳味噌を重たく感じてしまったのは、成程、お隣さんか。……ひ、ぅ……っ……。小さな悲鳴に軽い身体、暗渠へと消えた小石よりも儚げに四之宮・榴は気絶した。よくもまあ随分と頭痛に弱いではないか。榴……!? 量産型ファム・ファタールにジョン・ドゥ。スミスの部分を取っ払ってやれば、果たして、琥珀色の覚醒か。ぐるり、目の玉を回した四之宮・榴は――呆れの感情の狭間にて――誰かさんだと示してみせた。……また、かよ。おっと……榴の男か。助けられている暇はないとメスがおどった。
 そ、その通りだけど!? 貴方は……っ。珍しくも狼狽えているのではなかろうか。大きな、大きな、匙を酷使して混沌を弄るかのように。ええ、仕方がありません。今は、力を貸してください。やけに素直じゃないか。話は「またあとで」で良いからな。俺の『興味』については知っているだろうしよ……。対処不能災厄「ネームレス・スワン」の叫喚。やかましいアレの一部でも回収できたら良かったのだが、生憎、女神様ほどお優しくはない。無理か……。不安定だとしても、不安定でなかろうと、奇跡は奇跡に変わりなく。
 幸福であれ――ある種のホルモンの発生源については描写の必要もないだろう。榴、お前、面白いものを増やしたな。小僧、精々、あいつに感謝しろよ? 撤退させる……いいや、一時的にだが、奴にも、肺臓くらいは有る筈だ。たとえ、愚か者だと罵られようとも、たとえ、冒涜的だと罵られようとも、この、頂上の景色だけは確固たる勝機と謂えようか。さて……お手並み拝見だ。お前があいつにとっての『なに』なのかを、俺にも見せてくれ。
 幾つもの夜を越えてきた。
 その真価を示す――『|顕現せよ神話の槍《アストラミソロジア》』
 唱えられた言の葉が何を齎すのか、それを、対処不能災厄が把握したのかは不明である。しかし、ネームレス・スワンは珍しく、√能力者を|意識《●●》した。毒物に晒されていても、まったく、気にしていない存在が、だ。やっと、こっちを見たようだな。だけど、もう、意識をしたとしても――僕を捉える事はできない。
 宣言通りの|速度《●●》だ。物理法則をナンセンスとする、光速の40倍。でたらめな神話からの観測によって|弾丸《●●》は魔を冠したか。……門は閉じている。なかったことにはさせないし、いつか、も、ない……最早ない……。
 小僧。相手は簒奪者で、対処不能災厄だ。
 これで『終わる』とは到底思えない。
 わかっています。絶対に、油断はしません。

哘・廓

 黒いのか、白いのか、混ぜ合わせてみた。
 元気よく成長した、黙する影、黄金を知っている。
 聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛……それらによる創造物……。
 刀を揮っている余裕はなく、聖体の香ばしさを想う為にも。
 対処不能災厄「ネームレス・スワン」は見ての通り、三位一体とも解釈ができる。頭部と、脊髄と、翼の三つだけで『それ』は証明されるのだ。されど、視よ。あの災厄は一体だけでは留まらず、最早、未曾有の量へと到達していた。では……貴方は誰の創造物なのでしょうね。考えても、考えても、膨れ上がってくるのは『狂気』のひとつ覚え。暴力的なまでに無辺をしてくる災厄は、嗚呼、脳髄にとっての最大の毒か。毒……狂気……いえ、単なる見解の相違でしかありませんね。冷静を装ってはみたが、如何しても『地獄』が見える。此方を……EDENを、地獄とされては、門も形無しですね。ぐっと握り締めたナイフを何処に刺したのか。まさか、わたしを、狂わせられると、本気で思っていたの? だとしたら……ええ、全力で、抗ってみせるとしましょうか。出来る事は限られているし、足掻く術だってほんの僅かだ。されど、ミリ単位の隙さえ見出せれば――喧嘩をする事くらいは出来なくもない。貴方が『なに』であれ、倒すべき、叩くべき、災厄だという事に、変わりは……。
 無量とされた頭部が迫ってくるが、成程、考え方次第では悪手だろう。握手をするかの如くに構えた拳。得物が己の腿を傷つけていようが――この程度、凌いでから痛がれば良いか。ええ、わたしの左腕を捕食しようとするなら、それで……。押し込め、押し込め、只管に。相手に呼吸をさせてはいけないし、振盪させるように、一撃、一撃、意地を籠めろ。己を顧みない攻勢のおかげで門は目と鼻の先。
 ……頭の中が、ひどく、痒くなってきました、が。
 大丈夫だ。あと一撃。これをくれてやったのだから。
 ――常に、矛盾のような代物だから。

星越・イサ

 揺るぎなき確信の中でEDENを知る。
 他の能力者達が奮闘しているのだ。
 秒ほどの『停滞』だって立派な『戦功』である。
 蜘蛛の糸、絡まった|情報《蝶》のように、星越・イサは対処不能災厄を見上げていた。自らをちっぽけな蝶としたのならば、嗚呼、おそらく、見上げているソレも同じと思えた。思考は不要。正気も不要。『人類のために為す』決意だけを胸に――世界とやらを掌とする。ええ、私は仏様の掌の上で、くるくると踊っているだけです。私は、存在しているだけです。だって、そういう『相手』でしょう。紳士が相手であれば、もう少し、人間的な思考もしてみせた。総帥が相手であれば、もう少し、正気のフリも出来るだろうか。いいや、何方も、たぶん、難しく。素の状態なのであれば――バットに振り回されていた方が陽気と謂えよう。深淵を覗くものは、深淵に覗かれている。聞き慣れたフレーズを反芻しながらも|彼方《●●》、A~Zまでを数えるかのように。地獄の門……まるで、向こう側に、何かが在るかのような素振りですが。そろそろ、観測をしなければならない。たとえば、おぞましいオピウム。これを行使するだなんて勿体ない――何が見えるでしょうか? 耐えられるでしょうか? お互いに。阿鼻叫喚の化身が空隙、隅から隅まで埋めてしまった。
 それが、私のやり方、ですから……満足するまで、必要な過程をやってしまいましょう。そろそろ、痛痒にやられそうだ。刺激をされた脳髄が、派手に、爆ぜてしまいそう。ふふふ……この戦争……私にとって、想定していた以上に……喜ばしいものです。いや、それにしても、開けておくなんて。蚊でも入ってきたら……どう、責任を取るつもりでしょうか。対処不能災厄「ネームレス・スワン」、その視線、不可思議なものに集中していた。そうですか。私が、先に、目を回してしまいそうです。
 ですが……これは、隙としては十分でしょう。

澪崎・遼馬

 二度とない、或いは、最早ない。
 眠りを妨げるものなど、最早、やってこない。
 汚染された枕の柔らかさといったら、マシュマロのようだ。
 地獄の門を抉じ開けたのが『怪異』なのであれば、希望を蹂躙せんとする『災厄』なのであれば、連中の『墓』を掘ってやるべきだ。たとえ、何度も、何度も、蘇る事が決定的だったとしても|密葬課《なまえ》の通りに振る舞ってやれ。三位一体と連中が嘲ってくれるのであれば、いよいよ、その内のひとつを棺に入れて終うと良い。……何を叫ぶ災厄。何を歌う災厄。無意味な叫びでは、痴れたかのような歌い方では、誰の心にも残るまい。|夜の風《カウィル》と共に、或いは、|夜鷹《ウィップアーウィル》と共に、現着した澪崎・遼馬は、青々としたふたつで睨めるかの如く。……これだから、災厄を相手取るのは、恐ろしい。既に叫びを耳にしていた。既に歌を聞いてしまった。どろりと、脳髄が溶けだすかのような感覚に苛まれたが――如何にか、光るものを見つめているかのように|防護《●●》してみせた。我が身を『見ない』とは言わせない。まさか、猿真似が出来るほど、対処不能災厄がマトモとは思えないのだ。……我は|異能捜査官《カミガリ》、仮に、強大な怪異であろうとも、災厄であろうとも、この|象徴《●●》からは逃れられない。毒を以て毒を制す、もしくは、無気味な烏からの宣告。つまり、連中が『狂わない』という、道理はない。既に錯乱状態なのかもしれないが……それなら、正気へと、反転するのではないだろうか。
 無差別、その威力に関しては、自身も体験すべきであった。
 何方にしても「ネームレス・スワン」の動きは止まっていた。停滞し、視線をさまよわせていた。決死の覚悟が必要だと謂うのなら、それを『やって』みせよう。対処不能災厄の犠牲になった彼等、彼女等への哀悼。傷ついた者達への哀悼。この60秒で以て『門』へと叩きつけてくれる。痛み? 痒さ? いいや、構っている場合ではない。
 葬典式魔弾「烏瞰刀」――渾身の銃撃が災厄の身体を揺さぶった。鉛を食らった鳩のような有り様で、ぐらりと、地獄の方へと傾いていく。あとは、押し込んでやると良い、押し込んで、閉ざして――おかえりの挨拶をしてやれば宜しい。
 駄賃は要らない、如何か、そのまま溺れてくれ。

ディラン・ヴァルフリート

 空を覆い尽くすほどの|未曾有《おお》さこそが、対処不能災厄「ネームレス・スワン」の最終的な形態とも謂えよう。ならば、現状は少なくとも『最悪』ではなく。首の皮一枚、瀬戸際、対処できる範囲内と考えられた。誰ぞの唱えて曰く、怪物は喋ってはならない。正体不明でなければならない。不死身でなければならない、だとか……御無沙汰ですね。ネームレス・スワンの|三位一体《からだ》を見上げ、観察しているのはディラン・ヴァルフリート。大罪を身に宿したドラゴンプロトコルにとって『災厄』とは蝗の群れのような沙汰だ。鱈腹、インビジブルが欲しいと鳴いてみますか? それとも、泣いてくれますか? オマエの饒舌さが現の『危うさ』を物語っている。兎も角、定石通りだ。狂気を捕捉し、絶望を先読みし、増殖し続ける脊髄とやらを――しっかりと、対処してやると宜しい。
 さて……門を閉じるのに、門を押すのに、何が必要なのかわかりますか? 訊ねたところで、問うたところで、白鳥はくるくると踊るのみ。踊り狂って、見せつけて、無理やり、精神の奥底まで侵さんとする。ええ、悉くを遮断する、僕の|概念障壁《これ》も、絶対的、無敵というわけではありません。あらゆるものを阻む防御は、あらゆるものに破られ得る……故に。受け流しをひとつまみ、加えてやれば上出来だろうか。いいや、この程度で満たされるほどオマエの脳髄は小食ではないのだ。対処不能とやらも同じ事。結局は|暴力《これ》が手っ取り早いという話です。話をしてやる義理も無い、そうだろう?
 定義した――最早、竜の眼から逃れる所以はなく、対処不能災厄は『釘付け』となった。折角なので、僕も、あなたの真似をしてみるとしましょう。頭部と竜翼と尻尾、その数、仲良しこよし。他の能力者が見たならば、果たして、何方が仇なのかと刹那、戸惑いそうなほどに。もちろん、間違えられるつもりはありません。ところで、僕は……簒奪者よりも『欲深い』部分がありますので……。
 黄昏色が降り注ぐと同時、数多のインビジブルを掻っ攫う。掻っ攫うと共に脊髄、引っこ抜いてやれ。予定より幾分、力を使う羽目になりましたが……止むを得ない強敵です。羽を伸ばす口実ではありませんとも、ええ……。
 善意で均してやるといい。
 力尽くで閉門とした。

橋本・凌充郎

 限界の二文字も息絶えた。
 ふたつを揮うだけで、三位一体は失せていく。
 オルトロスであれ、ケルベロスであれ、嗚呼、男を阻む術を一つとして持てなかった。冥府に王が坐しているとしたならば、さて、その得物とは、何処までも、彼方までも、異形で在れ。虎穴に入らずんば虎子を得ず――そもそも、親の方を狙っているのだから、凄まじいか―――――フン。星を詠んだ挙句に狂気に触れ、更にはそれを傍目に人間災厄が対処不能災厄を視る、か。そして星に映るは地獄の門……いや、そもそも、狂気は、最初からアレの中に巣食っていたのではないか? 何の冗談だ、と笑い飛ばせるのならば、話は早かったのだが。√能力者にとって、獄狼憑きにとって、月のような有り様は、あまりにも素晴らしい。毒を食らわば皿まで、文字通り、皿諸共に噛み砕かんとする勢いで―――――言われるまでもない。怪異を殺し、災厄を殺し。地獄の門をさっさと封鎖する。殺し切れぬとも―――――希望が見えずとも、相応の傷を刻み込んだ上で叩き返してやれば、いつもと変わりはしない。殺して、殺して、また、殺す。何方が簒奪者なのかと疑いを持たれたとしても、まだ、殺す。いつか|絶滅《ころ》し尽くす為に、今回もまた殺しに挑む。夜明けのように。
 ―――――俺は鏖殺連合の代表、橋本凌充郎である。
 狂気など、絶望など、あまりに今更が過ぎるというものだ。
 俺を悩ませたいのであれば、種を幾つか用意しておけ。
 悲哀なのか、狂気なのか、皮肉を仕掛けるかのように頭部が異常なまでに増えていく。言葉にならない悲鳴とやらが、意味を持たない絶叫とやらが、ナンセンスさに拍車をかけた。―――――何処までも騒がしい災厄だ。吼えるのは貴様の勝手だが、俺に何を期待している。真正面、只のひとつの『頭』として狂気の渦の中へと投身してくれると良い。構えてやった|異形《ハンドキャノン》の口腔、痺れるかのような弾丸の雨は|頭部《やつら》の舌を絡ませる。―――――黙れ。期待していると嗤うのであれば、沈黙は金と知るべきだ。まさか、俺が『来る』のを期待していたのか。災厄ども……。
 沈黙を破ったのは災厄ではなくオマエ自身。視よ。跳躍し、跳梁し、回転する|異形《得物》の悲鳴とやらを――脳漿が鳴いている。脳漿が鳴くと同時に、地獄の門が空腹を訴えた。―――――帰れ。いつか、俺が塵芥も残さず、鏖殺する為にも。
 オープン・セサミは聞こえない。
 強引なまでの閉門は文句とやらも受け付けなかった。

早乙女・伽羅

 蚯蚓のような文字と、犇めくようなペン先と、文字通りに睨めっこをするかのような心地であった。泥酔した結果の溺死も幸せなように思えて、しかし、今を諦めるワケにはいかない。蛇の目を面白そうにくるくると遊ばせていた『あの子』の行方については、最早、考えなくともわかるだろう。……実のところ、秋葉原の戦で上野が煽りを喰うことになっているのは――絶妙に納得がいっていないのだ。早乙女・伽羅の双眸に映り込んでいた能力者達の右往左往。皆、強靭な脳髄を湛えているのだが、そのうちの、幾つかの混沌は如何に。しかも、このように。人間の精神活動を揶揄するような輩が出向いてくるなどと……。対処不能災厄「ネームレス・スワン」はおそらく『窓』があれば何処からでも出現する。たとえば、この奇妙建築とやらは如何だろうか。思考を巡らせなくとも、嗚呼、危機としては十分である。はあ……頭が痛いな。それに、俺は、俺が思っていた以上に、難儀をしているらしい。別√からの威嚇音――ぐるりと、見渡したとして、考えている|彫像《にんげん》が解せるか、否か。真下に存在している『門』は、成程、しっかりと抉じ開けられていた。……ここは思い出の場所だ。十何年、何十年経っても、通い慣れた路を見誤ることはない。
 勝って嬉しいはないちもんめ、負けて悔しいはないちもんめ、指差しされた女の子の行方は如何に。何か、途轍もない懐かしさに擁されたのだが、其処に泥濘をしている暇はない。……俺は今、いったい、何を見せられていた? 俺は今、いったい、何を夢見ていた? かろうじて正気にしがみ付けたのは幸運だったからか。ともかく、自分の意思を胸にした儘、再度、深淵を覗き込んでやると宜しい。今は、今の時間を生きているとしても、この場所を穢させはせぬ。見えた。ネームレス・スワンの『頭部』だ。咆哮せよ、溶けたキャラメルのように――! 揺れた。あまりの威力に頭部が爆ぜ、漿液が散らかった。
 戸締りをしている余裕はない。此方から迎えに行ってやれ。
 戦の余波を『こちら』へ持ち込むわけにもゆかぬ。彼方が、EDENだと称されたのであれば、真にEDENとしなければならない。それにしても、酷い叫び声だ。俺が猫又でなければ、今頃、九つすべてを消費していたのかもしれない。射出してやった籠手の釣り糸、引っ掛けてやれば、あとは駆け抜けるのみ。相手が怪異であれ災厄であれ、漿液が『出る』のならば上等か。構え、揮ってやった|刃《サーベル》の光輝。スグサマ光は|体液《どろ》に塗れて役割を果たす。脊髄も、翼も、頭部も、いよいよ、枝葉のようだ。
 間引きをしてやったというのに、災厄、勢いの儘に歌う。
 胸が、毛並みが、ざわざわと訴えてくる。このまま、我が身を晒していたら、何れ『もらわれて』しまうと。……あれを押し戻して門を閉じろ。何度も、何度も、はないちもんめのように。己の精神に、人間精神のカタチに、言い聞かせた。よろしい。押し戻して、門を閉じろ。押し戻せ 門 を――理性が砕け、塵となる寸前――メインクーンは歩んでみせた。狭間、縫うようにして進むサマ、まさしく高貴の一言だ。
 吶喊せよ、吶喊せよ、巨大な猫の威力を教えてやれ。
 地獄の使者は最早なく――三位一体は虚構のように。

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