シナリオ

⑧虎視眈々、覚悟宿して

#√汎神解剖機関 #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦⑧

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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

「来てくれてどうもありがとぉー。「|秋葉原荒覇吐戦《あきはばらあらはばきのいくさ》」の新しい星詠みをしたから、今から説明するねぇ」
 |卿機《かみはた》・|枢《かなめ》(shroud minister・h00191)は、自らの呼びかけに応じた√能力者たちにそう柔らかな微笑みを浮かべて礼を述べると、自らの視た予知を語り始めた。
「場所は今回の戦争のど真ん中、秋葉原ダイビルのあたりかなあ。√汎神解剖機関の「封印指定人間災厄」、『リンゼイ・ガーランド』が出現したんよ」
 予兆を見た者も多いだろう。リンゼイ・ガーランドは「制御不能の無差別自殺能力」を持つ人間災厄。そして、彼女の戦線投下は√汎神解剖機関の合衆国大統領命令によるものであるらしい。
「予兆ではリンゼイはリンドー・スミスによってこの場所に導かれたみたいなんやけど、この戦場でリンドーに会うことは出来へんね。それから、リンゼイが投入された理由とか、大統領の考えとか、そういうんは俺にもなんもわからんし、それを今回戦いの中で調べようとしてもキミらでも「わからへん」。そういう予知が出とる」
 ほんで、と枢は説明を続ける。
「今から行けば民間人がおらん状態で、リンゼイ・ガーランドとだけ戦うことができる。勿論キミらも問答無用で自分の意志とは無関係に「自殺」してしまう能力の影響下におかれるワケやけど、それさえ防げたならリンゼイとまともに戦うことは可能や」
 リンゼイの「無差別自殺能力」は、「リンゼイが一瞬でも好きになった」相手に発動する。そして、リンゼイの好悪の基準は星詠みをもってしても不明である。
「「自分の自殺を防ぐ」。キミらはその方法だけは何とか考案して、戦いに挑んでな」
 ――それじゃあ、頑張って来てねえ。
 星詠みは、そう言って微笑んだ。

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第1章 ボス戦 『人間災厄『リンゼイ・ガーランド』』


四之宮・榴

「……希死念慮は……常に、僕の……傍に、あるから……」
 |四之宮《シノミヤ》・|榴《ザクロ》(虚ろな繭〈|Frei Kokon《ファリィ ココーン》〉・h01965)は、消え入りそうな声でそう呟いた。
「……忘れる事など……出来ないの、です」
 榴は、秋葉原ダイビルの屋上にいた。だが、その場にリンゼイ・ガーランドの姿はない。
 封印指定人間災厄「リンゼイ・ガーランド」は、合衆国大統領命令によって|√EDENの《・・・・・・》秋葉原ダイビルにいる。だから、榴とリンゼイが出会うことは――リンゼイが、榴の存在に気づくことはない。
 そう、榴がいるのは|√汎神解剖機関の《・・・・・・・・》秋葉原ダイビルだ。念の為に心を狂気に蝕まれぬよう霊的な対策を幾重にも施しているが、リンゼイ・ガーランドが「√EDENの秋葉原」に投入された、ということは即ち、リンゼイの「|無差別自殺能力《ヴァージン・スーサイズ》」はルートを越えて無差別、ということはないということだ。もしそうであったなら、リンゼイは元々√汎神解剖機関の存在。√EDENに投下される理由がない。
 同じ|世界《√》にいる限り、榴はその自殺衝動、いや、衝動すらない自殺に抗える自信がなかった。
(……不意に近寄ったら、僕は死にたく……なってしまう)
 ――だから、こんな|援護《攻撃》しか、出来ないけど……。
 申し訳ないとは思う。けれど榴は、こうすることを選んだ。
 【|見えない怪物への呼び声《コール・トゥ・インビジブル》】を発動し、√EDENの秋葉原ダイビルを観測する。リンゼイは他の√能力者と交戦中だ。
 誰にも勘づかれないように、屋上にある遮蔽物の陰に隠れる。潜み、隠れ、そして確実に、しっかりと狙って――。
 次の瞬間、観測領域内にいる「√EDENにいるリンゼイ」は肩口から派手に血を噴き出させる。榴の【|見えない怪物への呼び声《コール・トゥ・インビジブル》】の能力により、名前通りの「見えない怪物たち」によって襲撃されたのだ。
 リンゼイはその襲撃に気づけない。いや、攻撃を受けたことはわかる。だが、他の√能力者と交戦中の彼女は、榴からの攻撃を、別ルートにいる榴からのものだとは認識できない!
 √汎神解剖機関、連邦怪異収容局の中に、榴が今使っているのと同じタイプの「別の√を観測し、別の√から攻撃を仕掛ける」√能力者がいないとも限らない。
 だから榴は絡繰がバレないよう、潜み、凌ぎ、リンゼイを葬るために戦い続ける他の√能力者たちの援護となれるように、息を殺して「見えない怪物」を放ち続けるのであった。

イリス・ローラ

「悪いけど、真っ向勝負をするつもりはないから」
 イリス・ローラ(支配魔術士見習い・h08895)はリンゼイ・ガーランドにそれだけ言うと、√能力を解放する。
 【|支配による奇術《ドミネイト・イリュージョン》】。およそ見通せる限り上空に存在するインビジブルと位置を入れ替える形でその場に転移したイリスは、即その場でまたもうひとつの√能力を展開する。【|過去存在限定再現《ヨミガエリ》・|人間災厄《ニンゲンサイヤク》「|呪翼少女《ジュヨクショウジョ》」】。それにより空中を飛翔する黒翼を得たイリスは、銀色の長髪に紅い目をしたゴシックロリータ衣装の人間災厄へと変身する。
 翼でもってさらに高く、高い場所まで舞い上がったイリス。彼女が手に入れた黒い翼は空を飛ぶだけのものではない。その翼の名は「呪詛黒翼」。高高度から、イリスはリンゼイ目がけて生命と精神を蝕む呪詛を撒き散らす。
(……?)
 しかし、イリスは感知する。呪詛黒翼の|制御《コントロール》が効かなくなりはじめていることに。そして、その原因も理解する。リンゼイだ。即ち、此処まで離れてもイリスはリンゼイの「無差別自殺能力」の効果圏内にあり、故にイリスの肉体はこの上空から「飛翔の|制御能力《コントロール》を失う」ことで、落下死しようとしているのだ。
 ならば、とイリスは覚悟を決める。どうせ飛翔能力が制御できなくなっているのなら、それに任せてやろう。呪詛黒翼に呪詛を凝縮して溜め込み、その場で「飛翔する事」を止める。
 イリスの変身してもなお華奢な体は一気に高高度から落下し、けれど最後に残した|制御《コントロール》能力で落下地点だけを確実に定める。
 刹那。イリスの意図したものではないところで、リンゼイの肩口から突然に血が噴き出る。恐らくは他の√能力者が残した何らかの置き土産であるだろうが、リンゼイの意識は確実にイリスからその「見えない攻撃」に対して割かれた。
(――好都合!むしろ、ジャストタイミング)
 リンゼイがイリスに対する意識を逸らされたその瞬間に、イリスはリンゼイ目がけて上空から落下死する。死の瞬間、衝突した瞬間に、凝縮して溜め込んでおいた呪詛を、すべてすべて放出した。
「あ、あ、あああああああああ――――――」
 ぶつん。
 リンゼイの、呪詛の塊に苛まれてあげる絶叫を聞き届ける間もなく。
 リンゼイが呪いによってどうなったかも見ることかなわないまま、イリスの意識はそこで途切れた。

和紋・蜚廉

 血と肉片がそこら中に飛び散っている。
 恐らくは自分より前にこの場所で戦闘を行った√能力者のものだ。
 リンゼイ・ガーランドの無差別自殺能力から逃れきれなかったその「誰か」が、死と引き換えに自爆特攻と呼んでいい攻撃を仕掛けたのだろうと、|和紋《わもん》・|蜚廉《はいれん》(現世の遺骸・h07277)は推測する。
 確かに、√能力者には「死後蘇生」という力がある。だから、死んでも蘇生することが可能だ。命は軽いだろう。だが、よくそれを選べるものだ、と蜚廉は感心した。
(自殺衝動への対抗手段か)
 蜚廉にはたった一つだけあった。というよりも、それしか思いつかなかった。
 蜚廉の名は、「蜚蠊」に由来する。この世に生を受けて幾星霜、幾度の掃討にも屈せず、ニンゲンと言う種族が忘却の彼方に捨て去ったその時よりこの地に存在し、生き延びるために――否、生き残る者こそ「真に強き」と知ったが故に、あり続けるもの。どれほど忌み嫌われようと、生き延びたものは選ばれし強者だ。生きる事こそが蜚廉の誇りだ。戦いそのものだ。
 【|穢殻変態《ギカクヘンタイ》・|塵執相《ジンシュウソウ》】。自身の蠢層領域を、自己再生速度を千倍に向上させ、|黒褐《こっかつ》に輝く多重殻奔駆躰へと変形させる。
 その直後、蜚廉の体は蜚廉の意志を無視して自害する。敵を駆逐するための殻突刃が蜚廉の硬い殻の中でも柔らかい場所を貫き、体液が迸る。しかしどれだけ蜚廉の肉体が蜚廉の身体を自殺しようと傷付けようとも、蜚廉の肉体はそれを上回って再生していく!
「……――ひッ!?」
 リンゼイが掠れたような悲鳴を喉から上げた。或いはリンゼイは女の本能で蜚廉の種族が「何であるか」に思い至ったのかもしれない。それを意識してしまってはリンゼイには自由な時間など存在せず――元より、リンゼイにはまた別の√能力者が施した仕掛けにより、「監視されない自由な時間」が存在していなかったのであるが――。
 体内の振動器官「潜響骨」と嗅覚器「翳嗅盤」によってリンゼイに起きている異変を察知した蜚廉は、一瞬でリンゼイに近づく。
「いかなる指名の下で、その災厄を行使しているのかは聞かぬ――汝も、成すべきことを成しているだけなのだからな」
 リンゼイにつき従う怪異「|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》」を掻い潜り、リンゼイに肉薄して右掌で触れ、【|触厭《ショクエン》】を解放する。
「我らも、そうしている。やりたい様にしているだけだ」
 ――その為に、何一つ汝らから奪わせはせぬよ。……飛び散る殻も、痛みも。
 体内で調合した鎮痛効果のある分泌物を己に施し、蜚廉は殻突刃をリンゼイに向ける。リンゼイと蜚廉の体が交差した刹那、リンゼイの腹部が食い千切られたように血を噴き出した。それは蜚廉の意図したところではない。これもまた、他の√能力者による力添えか。
「生き残るための痛みならば心地よい。だが、自死の痛みは初めてだ」
 束の間。常時作動型の√能力に対して、√能力無効化の能力は使い勝手がよくない、だからリンゼイの「無差別自殺能力」が無効化されているのは、ただいま一時だけだ。
「……ふむ、そう考えると、貴重な体験をさせてくれた事には、感謝すべきか?」
 怪異「|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》」たちをぶち抜いた蜚廉の「甲殻籠手」が、リンゼイに向けて放たれた――。

橋本・凌充郎

「――――――元より安い命だ」
 封印指定人間災厄「リンゼイ・ガーランド」を前に、|橋本《はしもと》・|凌充郎《りょうじゅうろう》(鏖殺連合代表・h00303)は静かに、厳かに言った。
「―――――怪異を殺し、災厄を殺す。澱みを殺し、腐りを殺し、総て殺し尽くした果てに消える命ならば悔いはない。殺す為に死ぬのならば、後悔はない」
 己の鍛え上げた精神力ひとつで自殺衝動を強引に引きちぎり、凌充郎は立っている。
「―――――だが。とある友が、生きろとほざいた」
 左手に構えたヘビーライフル「果絶やしの特装長銃」。本来片手で扱えるようなものではない超大型ライフルだ。元より、ライフルは片手で扱うようには設計されていない。それを殺傷力向上の改造を繰り返したシロモノである。
「―――――だが。とある女が、帰りを待つと呟いた」
 【|死喰らいの黒縄《ビーステッド・パルスファング》】。麻痺弾を制圧せんとするする勢いで叩き込み、リンゼイ・ガーランドに神経毒と銃撃の弾丸で攻め立てる。リンゼイもまた怪異「|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》」によって抗い、また彼女たちと完全融合することによって凌充郎の自殺衝動を超増幅するが――まるで効いていないかのように、凌充郎はそこに立っている。
「―――――まだ、俺には殺さねばならぬものがいる」
 ―――――ならば。
「―――――まだ、この命はくれてやれん」
 「|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》」と完全融合したリンゼイ・ガーランドがその能力で凌充郎を引き寄せ縊り殺さんとしたその瞬間に合わせて、凌充郎も飛んだ。
 【|死喰らいの焦熱《ビーステッド・ヒートクロウ》】。獄狼と完全融合することにより、右腕を煉獄の炎爪に変化させる。
「―――――改めて名乗ろう。俺は橋本凌充郎。鏖殺連合が長」
 果たして相手を引き寄せたのは、リンゼイ・ガーランドだったのか、それとも凌充郎の方だったのか。
 喰らい合うように交差した怪異の少女の腕を、煉獄の炎爪は喰い散らす。
 それとタイミングを合わせるようにして――恐らくは他の√能力者による力添えである――リンゼイの腹部が爆ぜた。それを好機と、凌充郎の炎爪はリンゼイの身体を更に引き寄せ引き裂き焼き焦がしていく。
「―――――貴様が人の死を謳う災厄ならば」
 煉獄の炎纏う狼の爪が、リンゼイの胸を貫いた。
「―――――俺は貴様等災厄の死を嗤う、ただの人間である」
 √EDEN、秋葉原ダイビル。立っているのは、凌充郎ただ一人となった。

 秋葉原ダイビルに投下された封印指定人間災厄による無差別自殺は、ひとまずの終息を迎えた。
 だが、彼女、リンゼイ・ガーランドもまた√能力者である。死後蘇生が可能である以上、「使える」と判断が下されれば再び能力を振るわされるだろう。
 果たして彼女の戦線投下を決定した合衆国大統領がいかなる意図をもっているのか。
 リンゼイ・ガーランドが再び封印される時が来るのかは、この第二戦線の趨勢次第である――。

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