シナリオ

疾くと投身すると良い!

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●手っ取り早く幸せになる方法
 人間は幸せでなければならない。
 他人の不幸は蜜の味。
 不幸になった誰かさんは如何すれば良いのか。
 ――痛くないように死ねばいい。

 簡単なのだ。そう、簡単な話なのだ。神様に選ばれた彼女は、皆の不幸を一身に受け止める破目になったのだ。なあ、アンタ、なんでまだ学校に来てんだよ。いや、そりゃあそうだったな。神様に謂われたんだ、何が何でも、学校にこないとダメなんだったな、いやわりぃ。悪いついでになんだけどよ、アタイらのサンドバッグになってくれよ。なに? 嫌だって? 何言ってんだよ。アンタは神様から『気持ち良くなれる力』貰ったんだろ? じゃあ、まったく問題ないってわけじゃねぇか。ほら、脱げよ。鞭打ってやるから、ほら、早くしやがれ!!! アタイらはアンタが幸せに死ねるように、痛めつけてやってるんだからな、神様に感謝しながら、さっさと、屋上から身投げしやがれ……!
 そうして、ひとつ、また、ひとつ……。

●地獄にホトケ
「……善意とはこうも地獄を孕むものかね?」
 人間災厄「黙示録」――暗明・一五六は|魔導書《あたま》をペラペラと捲った。ヤケに呆れた様子で、おそらく、星詠みの力が働いてしまったらしい。
「いや、わかるとも。個人的には、そういう趣味嗜好も、わかる。だけどねぇ。それを、人に強制するってのは如何なものかと、我輩、思うのだよ。いや、我輩も人の事は謂えないが――自死ってのはよくない」
 珍しく真剣だ。まさか、この人間災厄が、苛立ちを見せるとは。
「所謂、ガチな『いじめ』と呼ばれるやつさ。幸福の二文字を引き金にして『自死』を促している怪異が見えた。さて、君達には『被害者』を演じてもらいたい。万が一になっても、君達なら蘇生できるからねぇ。宜しく頼むよ」

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第1章 冒険 『学校に突入or潜入せよ!』


 校内――ありとあらゆる場所で『その行為』は流行していた。先生生徒と関わらず怪異によって『汚染』されており、成程、ある種の地獄とやらが繰り広げられていたのだ。ある生徒は集団に囲まれ、殴る蹴るの暴行を加えられている。ある先生は生徒に阻まれ、この世のものではないほどの罵詈雑言に中てられている。君達に出来る事は黒幕を炙り出す為、被害者達の為に『変わってあげる』事だ。勿論、君達であれば、神様のお告げ通りに――幸せな『死』とやらを選んだって構わない。何故ならば君達は死んでも、死ねないのだから。
 ――おい、飛び降りるんだろ?
 ――さっさとしろよ。
 ――次、神様に選ばれるのはアタシなんだから。
 ――早くするんだよ!
アーシャ・ヴァリアント

 今度こそカチ割ってくれるのか。
 コンクリートとの接吻こそが唯一のお薬である。
 人間性が窮極なまでに、広大無辺なまでに、引き延ばされた場合、如何様な現象が起こるのだろうか。善と悪の二元論に人格があったとするならば、定めるのならば、成程、方程式として解答する事も容易なのかもしれない。地獄への道は善意で舗装されているっていうけど、これって……単なる悪意じゃないの? 純粋な疑問と謂うやつが脳髄とやらを重たくする。まるで、何処かで喰らったぬりたくりめいて、ぬちゃぬちゃと冒涜してくるかのような感覚だ。……まぁいっか。学校って行ったことないし観光気分で覗いてみましょうか。文字通りに深淵を覗き込むつもりなのかドラゴンプロトコル。オマエに記憶が残っていたのなら、きっと今頃不幸の底無しに呑まれていたに違いない。
 |星詠み《エ※本》に頼むのはひどく癪だったが、制服などを用意できなければお話にならない。学生服に学生鞄、それらを手にして翼と尻尾を隠したならばオマエも立派なEDENの友か。で、被害者になるって、行けばなんとかなるのかしら? そうね、こういうのは勢いと、無謀さが大事って、アタシは知ってるわ……。何処で知ったのかは、理解したのかは頭の隅っこに放置しておいて校門を潜る。潜った先で待っていたのは異常としか思えない状況。な、何よこれ……なんで、校門の前でおっぱじめようとしてるのよ。赤い瞳の金髪娘が複数の女に囲まれている。握られているのは拳だろうか、それとも、財布だろうか。夢みたいに似ているのだが、気の所為だ。
 アンタたち何やってるのよ。よって集って、蠅じゃないんだから。そんなに痛めつけるのが大好きなら、ほら、アタシを相手にやってみなさいよ。肉の壁として自らを酷使する。その見返りはおそらく自死なのだが、その程度の事で今更、怯みやしない。……ねえ、なんで。なんで横入りしてるの。昨日、神に選ばれたのは私なんだからね……。でも、仕方ないなぁ。私も、貴女が自死するまでは、不幸を啜る側になってあげる。おお、虐められていた彼女がくるり――ニマニマと這い寄ってきた。
 殴られるのかと、蹴られるのかと、呆然と考えてはいたのだが。何故だろうか。彼女等はオマエの角を、ぎぃぎぃと、弄り倒してきた。やめなさいよ。どうしてアタシが嫌がる事を、アンタ達が……! 神様からのお告げよ。死にたくなるまで、何度も、何度も、掻き鳴らしてやるんだから……。ふと、脳裡に染み入った知らない感情。原因不明な、冷ややかな感情。蒼白とする顔面は誰からのぬりたくりを味わったのか。
 わからない……わからないのよ。
 こんなに、寒気がするなんて、おかしいじゃない……!
 |校舎《がけ》の|屋上《うえ》、謡うように。

四之宮・榴

 星座の数だけ死はあった。
 宙へと昇った贋作に如何様な想いを籠めるべきか。
 嗤う星々に誘われて、謳う惑星に導かれて、ころころと、呆気なく信じてしまうのは如何してか。天文部の面々は、くるりくるりと、地球儀を回しながらオマエに『そう』告げているのだ。この星の重力が、この惑星の理が、如何して中心に向かっているのかわかるかい? 謂われなくたって、だいたいの想像は出来てしまう。もちろん、人間が幸福に死ぬ為さ。人間は星に殺され、幸せを味わう為に、この世に落とされた肉なんだ。ああ、いつかの眩暈がやってくる。そうだぞ、彼等の謂う通りだ。君は、選ばれたんだから、甘受するとよろしい。ああ、きっと顧問だ。顧問だが、名前も何もかも知れやしない、単なるおじさま……。
 ……死は救済、です。数十分前のオマエは『せいめい』について、目玉みたいに考えていた。何処かで……聞いたことのある、言葉。なら、僕らには救済は、ないのでしょうか。鎖を打ち込まれて終えと、虚空からのお達しだ。お達しを受けたところで耳を傾ける所以がなければナンセンスに違いない。無意味な、暴力は好きじゃない……ですが。……本来の、虐められてた子が助かるなら……引き受けましょう。
 琥珀色の瞬きだ。顧問に縛られて、抱かれて、屋上。手摺の少し前で解放される。これから君は痛い思いをするけれど、神様の仰っていた通りにすれば、絶対に幸福になれるのさ。さあ、皆さん。この、可愛らしい娘を神様の膝元へと送ってあげましょう。……や、やめて……。やめて、よ……。小さく、小さく、蛆虫のような声で命乞いとやらを演じてみる。か、神様って、なんのこと……? いたい……そんなの……怖いよっ……。いったい何処に恐怖が存在しているのか。テセウスの船に問いかけたところで返答などひとつとして無い。情報の収集も目的としては要と謂えるが、しかし、この苦痛とやらは特別、好きなわけではない。最後に――背中を押してもらえたならば――下へ、下へ、最下へ、コンクリートの抱擁へ。
 天地の狭間、顧問や生徒の気配が『校舎』へと向かったところで能力を使うと宜しい。超感覚を頼りに壁を蹴る。足場としては十分だし、何より――着地も上々だ。そろそろ図画工作の時間だとチャイムが嗤った。この偽物め。偽物のハラワタが、まさか、こうも役に立つとは望外と謂えよう。……死ぬ、百歩手前……です。

八手・真人

 身代わり人形は肉詰めだ。
 ぬぞりと生えた八つ、怪異の皮一枚と表現すべきか。
 ぎゅうと握り締めたお守り、汗を染み込ませるつもりは皆無だったが、不可抗力とやらに襲われる。お守りの中身はいったい『何』だろうか。頭の中身をひり出そうとしても、嗚呼、ひとつの答えにしか辿り着けない。つまりは、オマエのお兄ちゃんの『おもい』と謂うやつだ。抱っこされても、おんぶされても、オマエの兄である事に変わりはない。……いくら死ななくても、兄ちゃんを遺して死ねない。痛いのも、苦しいのも、怖いのも大嫌いだけど……こんな、ひどいのは止めないと。兄ちゃんだったら、そうする、だから、俺もする。生徒になりすましての潜入だ。いや、最早、オマエの場合は潜入の二文字でなくとも宜しい。できるかな? できている。よく、学生と間違えられるし……それに……。俺はなんでかわからないけど、舐められやすいから……。きっと塩気がたっぷりなのだ。海底に沈められたご先祖様、果たして、屍を浮かべているのか、流されているのか。
 理科室の扉の前、ヤケにざわついている『なか』に気付いた。男女数人の嗤笑がヤカマシク響いたのだ。これ、先生に見つかったりしたら、お終いじゃないかな。そんなふうに最初は考えていたが、如何やら『先生たち』も神様の奴隷として堕ちているらしい。なんだか、複雑な気分……。がらがらと、理科室へと扉を開いたのならば目の前、がっちりと拘束されている細っこい男の子ひとり。ああ、今にも、得体の知れない薬品を掛けられそうになっていた。なにしてるの? 何してるって、そりゃあオマエ、見りゃわかんだろ。いじめだよ、いじめ。首謀者が堂々と口にするのは奇怪なものだが、しかし、間違いではないのだ。……その人を放してよ。代わりに、俺が、生贄になってやるから。びくびくと、自分の身体が震えているのがわかった。これで、細っこい君に恩を売れた事になる。やり方としては不誠実なのかもしれないが――これも、能力者としてのお勤めであった。
 い、痛いのは……嫌……。首謀者が薬品をぶちまけたところで不可視の横入りだ。非能力者には決して『見えない』神様からの寵愛。そうとも、たこすけの腕だ。触腕の蠢きによって薬品は効力を失い、ただの、べちょべちょとして世に残るか。……でも、万が一、刺激臭があったら危ない。俺が意識を失ったら、たこすけが、彼らを……。暴走を抑えるだなんて、本来、中々には出来ない芸当だ。騙されるよりも黙っている方が、金色と慮れた。ちゃんとできている。ちゃんと、被害者をしている。
 ……さっきは、庇ってくれてありがとう。
 でも……ポジティブになった方が、良いと思うな。
 僕は、楽しく、幸せに、気持ち良く死ねる筈なんだからね。

玉巳・鏡真

 ホトケサマの行方については、神様の行方については、嗚呼、最早、誰に訊いたって似たような沙汰か。神様はホトケサマへの教唆を以て世への顕現を成しているのだ。この、おぞましい成立とやらを狂わせてしまえばおそらく、神様はカタチを留めていられない。異物に異物が這入って、混沌とする感覚、この、筆舌に尽くし難い臭いに対してはオマエ、耐性が有ったのか。幸せであれば同意だが、死が救いってのはどうにも納得出来ねぇ。偉そうに説いて、ふんぞり返って宣って、最後は、最期は自分で死ねだ? 救うってんなら、殺すってんなら、せめてテメェの手でやりに来い――。肉体に引っ張られてはいないか魂、握り拳の凄まじさこそがオマエの証明だとでも謂わせたいのか。いや……違う、そういう話でもなくてだな。くそっ……。ブレた思考に反してのヤケに冴えた四肢、何処かで殺意が嗤ったのならば、まるで、野犬かの如くに嗅ぎ分けられる。ともかく、そんなもんを認める気はない。被害者の代わり? 上等だ。罵詈雑言でも、殴る蹴るでも、なんでも来いよ……。
 学園内部に潜り込む際、最もネックになるのは自身の肉体年齢だ。このまま堂々と校門から入ってしまったら、最悪、警察沙汰に発展するかもしれない。ならば、と、星詠みが貸してくれた『服』とやらに着替えてやれ。臨時教師か清掃員か。今回の場合は前者がよろしい。生徒から『いじめ』をいただくならば――そっちの方が効率的か。
 なあ、なんでテメェら、俺の生徒を苛めてんだよ。やるんなら、俺を相手にやってみな。まあ、テメェらみたいな弱虫に『そんな』こと出来るわけねぇけどな。種は蒔いた。蒔いてやった。あとは喰いついてくるのか否かだ。数時間後、オマエの前にやってきたのは『生徒』である。なんで私のこと庇ったの? それは、私に、幸せになるなって言いたかったの? ねえ、教えてよ。教えてくれるまで、アンタのこと、襤褸雑巾みたいにしてやるんだから。オマエの脳髄を狙った矛先だ。何か、ズレていること続きだが、兎も角オマエは虐められた。
 いじめられている最中、元生徒で現首謀者の所持品に触れてみた。読み取れたのは元気さが目立つ『少女』の姿。少女は妖精のように、戯れるかのように、くるりと此方へ笑みを向けた。……災厄だ。災厄が纏わり憑いている。
 重要そうな情報は得られたが、なにか、ぽっかりと穴が開けられているような気がして、仕方がない。擽ったいものを潰そうと、もっと、覗き込もうとしたところで時間切れだ。元生徒で現首謀者から「さっさと幸せになりなよ」のお報せだ。あー……はいはい。それじゃ、その幸せってやつになってくるから、そこを退いてくれよ。何したって痛くねえんだ、俺が一番、適任だろう……?
 海ほどの量は抱えていないが、水溜まりほどの。

詩匣屋・無明

 オピウムの臭いにやられた脳漿の如くに、躁々たる面子だった。
 スマイルが並んでいる。スマイルが溢れている。
 箱の中身を確定させる事のおそろしさ、おぞましさは、きっと汎神解剖機関の職員であればハッキリとわかる筈だ。たとえば、中身を希望だとした場合、その前に絶望が這い出てくる。たとえば、中身を猫だとした場合、死んでいるのか生きているのかもわからなくなる。たとえば、中身を小鳥だとした場合――さて――ヒトサマの死体が賽の目となって転がるのか。学校とは怪談の揺籃よな。ならばわしも一席、噺に混ざるとしよう。怪異には怪異をぶつけよと、神には神を叩きつけよと、何処かの職員は嗤っていたが、果て、その決断は最悪の事態を孕むのではないだろうか。……ほれ、不思議道具をひとつ、あるいは、怪談蝋燭に命をひとつ――おお、視えてくる。みるみるうちに、認められる。ここに存在しているのはひとりの学童。悪さも何も知らないかのような、無知を肉とした哀れな童。さあ、百物語の百話目を共に紡ごうではないか。どこの誰かもわからぬ学友として、肉の嚢として、青春を謳歌しようぞ……。ハルピュイアすらも逃げ出す有り様だ。犬も喰えない鵺のカタチか。
 おい、テメェ、なんだか知らねぇが、気味が悪ぃ……。気色の悪いやつだな。おい、ちょっとそこで立ってろよ。良いか? 絶対に、避けるんじゃねぇぞ。ギャハハ! 本当に避けない奴がいるかよ! 莫迦じゃねぇの? 望むが儘だ。思いの儘だ。暴力を揮っても暴言を吐いても、只、俯いているだけの学童。性別も何もかも不明だが、そんなことは重要ではない。そうとも、重要なのは……この学童が『しあわせ』になる為の、この行いのみ。痛みと苦しみが蓄積した学童はいずれ、自らを地の底へと投げ込むだろう。そうして、嗚呼、砕けた血肉は掃除され、墓場までも沈黙するか。……これが真実。お主らが描いた末路。
 しかし、わしは、わしの噺は……決して優しくはないぞ。死んでも死にきれぬ怨みつらみ。犠牲となった全ての未練を引き連れて、生者も怪異も、何もかもを呪う怨霊よ。ああ、それにしても、随分と幸せそうな面をしている霊じゃないか。インビジブルじゃないか。まさか……おぬしら、その表情を、強制されている……?
 ――ああ、すぐに見つけてやるからな。
 こんなにも幸せにしてくれたこと、後悔させてやる。

鸞奇・檸檬

 頭蓋がぐしゃりと潰れる感覚、くずれる大脳の豊かな悲鳴。
 最早、耳朶の奥にも残らず、爆発済みの檸檬だけがこぼれていた。
 ごくりと、咽喉、のろくなった|精神《たましい》が飛び出してしまった。
 何処に私怨が有ると謂うのか。何処に紫煙が有ると謂うのか。両者共々常人には、尋常には視えていないと知っていて、己の存在とやらを誇示したがる。死にたがり屋のクセして死ぬのが怖い、そんな連中にはうってつけな幸福論ではあった。……いじめ、ね……。俺んとこの界隈にもソレのせいで学校に行けなくなった奴がいるんだ。頭皮が痒くなってくるほどには経験した、まったく人間的な地獄の具合だ。かりかりと、ぼりぼりと、違法を喰い散らかすお客さんめいて、治まる気配がない。……傷害罪って言えよ。テメェらのやってる事、普通に犯罪だから。なんだ? 俺達に説教するってのか? そんなんは今更だし、それに、それを謂うなら学校全体が罪人みたいなもんじゃねぇか。でもよ、その罪がもし、幸せへの手助けだって知ったら、如何する? 何を言っているのかわからねぇが……俺が説教なんて性にあわないから、これくらいにしといてやるよ。さあ、いじめるんだろ? 俺ならどうぞ、殴るなり蹴るなり……。正真正銘社会のゴミだ。ゴミにも、幸せになる権利があると宣うならば、さっさと揮ってくれれば良い。俺なんてクズはさ、暴力ふるわれて、嬲られて罰されて、それが当然の報いなんだよ。はは……? おい、如何して何もしてこねぇんだ。俺はここにいる。好きにしても良いって、さっき言っただろうがよ……。成程、いじめだ。いじめはいじめでも『無視』と呼ばれる代物だ。はは……そうかよ……。
 んで……最後には飛び降りればいいんだっけ。大丈夫、イメトレなら毎日してるし、綺麗に落ちてやるよ。オマエが幸せへの下準備をしていると、ひとつの影。いいや、これは幻覚だ。俺の為にわざわざ、お別れを言ってくれる奴なんて、この世の中にはいねぇんだ。せっかくだから落ちる前に幻覚剤を飲んで『おいた』。自殺なんて出来る機会、そうないから、いいトリップ体験を『している』。……んじゃ、いってきます。
 ――見上げれば虚空、かわいらしい少女のイメージ。
 チカチカと眩む脳髄が怪異的な心地良さを孕んでいた。
 ビル裏のゲロにも等しい、俺だった物の沈黙……。

鬼哭寺・アガシ

 柔らかな塊に抱かれて、泥濘、ぬえの姿など見せられない。
 宇宙より――曼荼羅より――飛来した|色彩《もの》は不可解にも、人の脳髄にとり憑いた。破戒の切っ掛けとなった事柄については、最早、誰しもが記憶出来ていないのだろう。たとえ神様に訊ねる事が可能だったとしても、まともな、正気な返答を喰らう術とは言い難い。ともかく。世の中と謂うものは『不明』なものに覆われているのだ。初めまして、暗明さん。鬼哭寺と申します。超常現象関連特別対策室から参りました。星詠みの男はオマエを見て、いいや、認めて、只、嗤うだけのヒトガタであった。では、自分は教師役として紛れ込んでみせましょう。渡された衣服を身に纏い、ひたすら、歩む。楽園の隅っこで佇んでいる校舎の姿に関しては、それこそ、描写するほどのものではないだろう。
 暴力行為の多さに呆れてしまいそうにはなったが、むしろ、問題なのは『代わるべき対象』が異常なことか。虐められている彼彼女は、想定していた以上に、まったく逆転とした表情をしている。掠り傷でも骨折でも、自らの足で屋上へと向かっているのだ。へらへらと、にたにたと、まるで薬に漬けられたかのご様子で『愉しみ』とやらを抱えている。……思っていたよりも怪異の侵蝕が深刻なのかもしれません。犠牲者を増やさぬよう、彼彼女には悪いかもしれないですが、拘束させていただきましょうか。
 鬼哭寺の門は、市井でいう仏道からは外れたもの。自分には、自分のような憑き物には、人の道というものが、正直わかりません。ただ……選ばれたいという祈願は、慾は、覚えがあります。地獄のような灼熱へ、赫々とした釜の底へ。罰を……罰を……罰を。どうか――俺に。まったく静穏とした肉の池か。林で在るべきだと謂うのに、この罪の深さだ。……おい、貴様。学生の分際で、よく、先生を前に呆けられたな? ああ……いえ。笑ったわけではないのです。懐かしいなと……ふと……。
「申し訳ありません。折檻中によそごとを考えました」
 殴られた。蹴られた。追われて、折られて、掻き回された。頑丈で良かった。我慢強いほうとは自負していますが、ええ、痛いものは痛いです。面倒事を押し付けられての行列だ。先頭にはオマエ、彼方までも続く幸福への一本道。……健全な人間にとって。望まぬ暴力は酷であると、知っていますから。
 そうとも、彼等は、彼女等は怪異によって『いじめ』を強制されているだけなのだ。ならば、忘れる力でも消えないような、精神的な傷が残る前に――程々のところで、正体とやらのミリほどを、聞かせてやるのが最善だろうか。
 おお――盲目だ。盲目の神がやってきて、悉くの目の玉を驚かせる。ゆっくりと吸い出してやれば死なずの横倒し。細心の注意を払ってしまえばこの通り。とおりみちくらいで在れば――解剖する事など容易と思えた。

第2章 集団戦 『インビジブル・クローク』


 校内に残っていた生徒――先生――つまりは、人間。
 その悉くが屋上へと集まった。
 ひどく、狭苦しい状態だったが、彼等はやっぱり幸せそうな顔をしている。
 瞬く間に『いじめ』は失せたが、今度は如何やら、より直接的な『もの』を演出してくれるらしい。おお、視よ。宙よりやってきた|外套《クローク》を。邪悪なインビジブルである海月の群れは『かみさま』に絆され、獲物を欲している。
 ひとりの生徒が捕まった。
 捕まった生徒は文字の通り、痺れるような快楽に身をくねらせた。
 そのまま、ゆっくりと、ゆっくりと、持ち上げられて……。
 虚空への投身……二度と戻れぬ宙の旅……。

 海月モドキを倒し、或いは、自身を贄として、彼等を護らなければならない。
四之宮・榴

 浮かび上がった都市の名を誰が唱えられよう。
 三秒ルールを許すほどオマエは優しくはない。
 透き通っているのは虚空だろうか、或いは、自分自身で抱え込んだ、偽りの髄なのだろうか。何方にしてもオマエにとって現状と謂うものは慣れ親しんだ臓腑である。捕縛されたのか、魅了されたのか、最早、曖昧なところには立っているが――俄然として細胞、神からの僥倖を悦んでいる。え……っ!? もはや、彼等は隣人だ。周囲にズラリと並んでいる人間サマを差し置いての隣人だ。愛情の亜種を以て、只、接してしまうとよろしい……。僕がよく見る|見えない怪物《インビジブル》だ。いや、ほんとう、こんな偶然が起きるだなんて神様とやらはよくわかっている。うそ……。混じり合ったら攻撃できそうにない……。何処かの誰かさんと同じく異とズレてはいないか。もう一度、自分の考えと謂うものを『正気』に戻してみた。違う……! 人々を、助けなければっ……! そうとも、日常なのだ。狙われている己こそが常識なのだとしたら、この状況下は――ある意味での得意分野と解せた。
 モドキだ。何もかもは擬きだ。彼等はもちろん、オマエ自身も『もどき』の名からは逃れられない。されど、腐っても贄なのだ。腐敗臭を散らかしているのかもしれないが、成程、この熟成の具合は水母を愉しませる。これで、勝っても、あんまり嬉しくない。けど……。他人よりも魅力的な事くらいは「自信を持って」謂えるのだ。君らの好きな僕の体質、骨の髄まで、味わって――天よりやってきた御使い、汁気を垂らした口腔はひとつの目標とやらに向かっていた。これで、僕の、贄としての『優秀さ』が……認められ、ました、ね。
 重要なのは邪悪なのか否か、それだけのこと。おなじカタチを成していても、宙の連中は神様の虜だ。ならば、あとはもう薙ぎ払って終えばいい。たとえ反撃を『された』としても、躱し、共食いをさせてやれば問題ないのだ。そうとも残像、オマエは此処にはなく、水母の後ろ、移ろいでいる、虚ろでいる……。
 ――ファム・ファタールの血潮は酩酊を齎す、その化身として。

アーシャ・ヴァリアント

 せめて、殺してからに、しなさいよ。
 ねばつくものを想起して、今更ながらに味わった。
 おしくらまんじゅう、押されて泣くなと謂われても、嗚呼、大切なものを圧された場合は抗いようがない。伸びてきた諸人の掌が、ぬるりと、わしりと、角や尻尾を弄ってくる。まるで記憶にないと謂うのに、記憶に無い事すらも『ない』と謂うのに、ああ、デジャヴのような不快感だ。不快感は徐々に徐々に恐怖へと姿を変え、オマエの脳髄を幻影的に萎縮させてくる。いや……いや……こないで。見世物にされた気分だ。弱いところを晒された結果だ。いつの間にやら周囲には人だかり、これ以上集られたところで頂、あとは転がり落ちるしかない。投身するつもりではあった。投身しなければ、この地獄からは逃れられないと知っていた。だが、オマエはまったく人間で、覚悟を決めるよりも前に柔らかさにやられた。
 うそ……アタシ、また、何も出来ないの……? また、なんて言の葉がこぼれた所以は『不明』ではあるが、ともかく、さした影を認めるよりも早く絡め取られた。ヤケに冷たい、細長いものが莫迦げた膂力でオマエを持ち上げる。ふわりと、臓腑を揺らされる嫌な心地。ちょ、ちょっと待ちなさい……アンタ達、アタシをどうするつもり……! 如何もこうもない。身を捩って抵抗をしようと試みても、最早、手遅れだ。手遅れ! この三文字がお似合いな能力者など、オマエくらいなものだろう。つけ根や下腹部、太腿etcに|触手《はり》が刺さる。ワクチン接種の真似事をされるだけならば耐えられるが、この、体内を廻って往く汁気とやらは――痛みだ。それも、体内から破壊されるかのような激痛だ。目の玉から感情があふれる。ところで、神様の権能については知っているだろう。
 激痛はいずれ快楽に変換され、旅路の為の糧とされる。
 高度が上がっていく。ふるえる眼球が現状を捉えようとして、藻掻いている。耳朶へと届けられたのは祝福だ。おめでとう。おめでとう。うらやましいなぁ。なにが、おめでとう、よ。なにが、うらやましい、のよ。痺れた翼はもはや木偶だ。手放しで喜ぶだなんて正気の沙汰ではない――誰に抱かれたいのかと揶揄われたら教えてやれ。
 地面だ。地面に|抱擁《げきとつ》する。
 ――成程、今回は如何やら。
 ちゃんと頭蓋は砕けたらしい。

八手・真人

 遊園地のアトラクションも吃驚な振り子だ。
 好き勝手をしてくれた神様に勝利の味を捧げよう。
 苦くて酸っぱい……。
 グレープ味が齎した激的な変化、ハッキリとしている脳髄の所為であらゆるものが明晰に視える。視えてしまったその先で嗅いだのは薬品のにおい、アンモニアを彷彿とさせるソレは如何様な瓶からの贈り物だったのか。す、すごい惨状だ……。ひとり、また、ひとりと水母に捕まって、或いは掴まって、宙の彼方とやらを夢見ている。手放されたアレはもしかしたら、参加している能力者のひとりだったのかもしれないが、兎も角、ぼんやりと眺めている場合ではない。これ以上は、死なせない。死なせない……ように頑張る。そう決めたのだから他人の為にも、何よりも兄ちゃんの為にも、逃げてはならない。それに今更帰ったって、無責任だって笑われるだけだろう。嗤笑を、嘲笑を繰り返しているのは神様ではない。きっと自分自身だ。自分で自分を痛めつけるなら、その前に、やってやるのがよろしい。
 って……いっても……。他の「かみさま」の捧げ物になったら、さすがに……。予想していた通りだ。イメージしていた通りだ。オマエの背中から生えてきた蛸の腕が、蛸神様が芬々たる想いで顕現している。すっごい伸びて、ウネウネしてるし、やっぱ怒ってるよね……でも、こういう時には……あらわにしてくれたほうが好都合、だよね? じゃ、じゃあたこすけ、思いっきりやっちゃって大丈夫だから。水母に向かっていくデビル・フィッシュ。何方が主人か解せなくなる有り様だ。まるで携帯ストラップ、ぶんぶんと、ぶおんぶおんと、触腕、疑似餌めいて振り回される……。め、目が回る……けど、我慢……がまん……。水母は反撃の『は』の字も赦されず、只、痛恨を喰らうが儘に、ひしゃげて失せた。
 数匹片付けたところで蛸神様は満足したようだ。オマエの背中へ引っ込んだのなら、とんとんと、若干優しく叩いてきた。……き、きもちわるい……。ああ、此処が学校で助かった。戦闘は継続しているだろうけども、少しだけの休憩時間だ。
 誰の目にも入らないところで花畑、楽になった方が復帰も早くなる筈だ。

詩匣屋・無明

 嚙みタバコの味わい方に一工夫、おもたい世界に身を委ねて、煙の真逆事。殴る蹴ると来たならば根性でも焼いてしまうと好い。この痕だけは永劫だ。
 ハルピュイアが掲げたのは笛ではなかった。なんとも歪なカタチを孕んだ法螺貝、何処に真実が落ちているのかすらも不明な儘、世界へと破滅の贋作をそそぐ。これがはじまりの混沌なのだとした場合、果たして神は、正体を暴く為に掻き混ぜる事が可能なのか否か。何もかもは否である。否でありながら――世界はそれを良しとしていた。そう、急くでない。くすくすと、げらげらと、下卑た嗤いをこぼして、渇望しておれ。いいや、この場合は羨望の方が良いのかもしれんがの。お主らが望む『しあわせ』とやら、心地の良さとやら、わしが代わりに貰ってやろう。ああ、ずるいなぁ。あんなに『かわいい子』なんだから、仕方がないでしょう。かわいいやかっこいいは優先していじめられ、投身の権利を得ると謂うワケだ。だが、まだ、百話目は終わっておらぬよ。まだ、見えておらぬ。呪い殺すべき、それこそ祝福すべき『かみさま』の全貌が……。故に、お主ら、わしは先に逝くぞ。門出を祝っておくれな、小童ども……。ハンケチの色は白だった。白い白いその波がサヨウナラを告げている。
 空虚の淵に立っているのか、踊っているのか。重力を感じさせない綺麗な、水母のバランスとやらには驚かされた。しかし、しかしだ。触手は少々頂けない。ゆっくりと迫ってくる、自殺を教唆してくる透明度は何処までも、何処までも、見た目に反して黒々としていた。触手が舐ったのは童ではなく、オマエでもなく、校舎だった。捉えた筈なのに餌食の感触がない。……まったく、お主らはどうしてこうも、無粋な真似が好きなのだろうか。くるりと、水母の身体が回転している。見つけた時には手遅れだ。そうとも――手を借りんでもひとりで逝ける。ああ、ふらり、真っ逆さま……。
 ごきげんよう。
 ごきげんよう。
 ニコニコと唇は色付いているが、目玉に色など残っていない。ぎょろぎょろと動かして、ぐりぐりと廻らせて、めいっぱいの観察とする。探しているぞ。探しているぞ。わしは、わしらは、探しているぞ――|お主《かみさま》を。

玉巳・鏡真

 たとえ刺されたとしても、たとえ溶かされたとしても、
 このアドレナリンの分泌は止められない。
 感染するかのようなネクローシスに、痕跡、笑みを落としていくとは如何様な美徳の沙汰か。悪徳や背徳を追いかけて別の誰かさんを害していく、そのようなおぞましさの方が幾らか人間味があってよろしい。幸せの邪魔をするな? 横入りをするな? やだね。人の不幸は蜜の味っていうだろ? 俺は今そういう気分なんだよ。おしくらまんじゅうをしている連中の身体を『安全』なところまで押してやる。泣こうが喚こうが、こっちにも都合ってのがあるのだと、からから、嗤ってやるのが正解か。幸せになるのは、快楽を享受するのは俺一人で十分。何に触れているのかと謂えば未だぬくい肉の群れだ。なあ、アンタ等、どうせ言いなりになっている事にすら気づけてねぇんだろ。だったら、そこらへんで、雛鳥みたいに口を開けているのがお似合いだぜ……。何もかもが絶好調だ。昂る所以は不明だが、この血と肉と骨、脳髄に至るまでも俺のものだと宣言せよ。
 自死も、半端ものに殺されるのも、気に喰わなくてさ……。ふわふわと、ゆらゆらと、オツムがすっからかんな水母に狙われたとして、如何してそれが悦楽への道だとわかる。わかったとしても、それが、最大限の恍惚でないのなら、ああ、勿体ないのではなかろうか。幸せにしてくれるってんならサ、ちゃあんとその手で始末してもらわないとサ……。前提として√能力者は死なないし、死ねない。こうやってまた蘇って、現世に逆戻りしちまうんだ。なあ、かみさまとやら、御尊顔を拝ませてくれよ。神様と呼ぶにはまったく、邪気の無さがむしろ恐ろしいが――俺、オマエの手で死んでみてえなア。
 毒々しい色をした触手の蠢き、実に、よくあるインビジブルの攻撃だが――これまた餌食としては上出来な柔らかさだ――ハチェットを構えたオマエを捉える事など出来ない。ゼリーへの冒涜行為については不問とする。恨み言を謂われたってかまわない。皆|幸せ《しぬこと》なんて忘れちまえよ。ぐずぐずになった水母を足蹴に、どっぷり、己の思考を重ねておく。気に喰わねえヤツの邪魔してる時がいっちゃん楽しいや。

鬼哭寺・アガシ

 呪いの言の葉に躊躇は要らない。
 たとえ呪いが返されても、それまでの事だったと思えば宜しい。
 ――蓑虫の真似事を強要している。
 病的なまでに陰った空とも謂えた。宙よりやってきた彼等は神意に従い、只、その邪悪さとやらをばら撒いている。まるで、善意に寄ってきた悪意、天使の傍らで何某かを企んでいる悪魔か。おお、|魔羅《マーラ》よ、その囁きのおぞましさについては最早、描写する価値すらもなしか。抱かれた生徒ひとり救出するのに、ひどく、大仰なようにも思えるが『蜘蛛の糸』と呼ばれる代物よりかは頑健であれ。間に合うか如何かを考えるのではなく『間に合わせる』のが道なのではないか。それこそ『疾く』と√能力を揮ってやれば宜しい。毒物だろうと薬物だろうと関係なく、万物、食せる程度に切り堕として終えば好い。……美しい怪異ですね。綺麗な外套ですね。金灯篭の瓔珞みたいだ。ふわりと、顔も知らない誰かさんへのクッションマット、涅槃に往くのは未だ早いと呵々嗤いされてしまえば良い。
 苦しみ一切を召し上げられる法悦。無漏路への誘いは――いえ、異教の神の類でしたら、性質的には真逆なのかもしれませんが――抗いがたいものかと。はぜる寸前の酸漿に口付けをするのは魅力的で、なるほど、風船を膨らませたい衝動を滅する術など無きに等しい。在校の皆様にはおとなしくしていただきたいのですが、おそらく、困難なのでしょう。愚禿ながら、これも鬼哭寺の領分――。親よりも先に命を落として、賽を積むなど、考えたくもない。先の苦行よりも今の恍惚を求むるならば、そう、鬼が具現とした方が遥かにマシか。あなたがたを苦界に引き留める、お役目とやらをいただきます。「いけませんよ」。何を祀っているのかと、何を倣っているのかと、来年の為に笑い飛ばせ。数名を縛り上げて引きずって、意識とやらを貰ってやれ。飛んで火に入る事すらも赦さぬ、この生き地獄は人の為か。しかし……こうなると。今度は、自分が彼らを折檻しているようですね。
 ご寛恕ください。

鸞奇・檸檬

 緑色のエナジー、莫迦みたいにシェイクした後、吸い込む愚行の悦ばしさ。その悦ばしさの頂点から一気に転がされる感覚の最悪とやらについては、いよいよ、何度味わってきたのかすらも記憶していない。アイツら俺を無視しやがった……。そりゃあオマエ、無視したくもなるだろう。そのくらいのクズだって事はオマエ自身もしっかりと認めていた筈だ。いじめられんのも、無視されんのも慣れてるけど……だったらテメェらの事も知らねぇよ。因果応報――天に向かって唾を吐いたのだから、痰を撒いたのだから、顔面に命中したって仕方がない。されど、嗚呼、彼等彼女等は度し難いほどには被害者なのではないか。全ては神様の所為だ。神様の所為で、怪異の仕業で、学校の連中は――たとえ、真に加害者だったとしても、守ってやるしかない。あー……くそっ……見捨てたらそれはそれで気分悪ぃのなんなんだよ……。無視したお前らの事も無視してやる、そんな『覚悟』も抱けない己に対して反吐が出る。おい、どけよ。どかねぇと、てめぇのポッケにチョコレート入れてポリにパクらせんぞ。ざわつく連中、先生もパニック状態に陥るとは実に阿呆な舞踏会だ。学校に来れてる正常な人間は正常に青春でもやってな。羨ましいなんて思っていねぇよ。思ってねぇったら、思っていないね……。
 爆発寸前の檸檬に非ず、破裂寸前の水母どもか。ああ、こういう時、インビジブルは優しいよな。性根が腐っていても、邪悪だったとしても、こんな社会不適合者も平等に相手してくれんだから。ゆっくりと、じっくりと、獲物を定めて抱き着いた。いいや、この抱擁はむしろオマエからの贈り物だったのではないか。ヤカマシイほどに効果的な頭痛、ストレスの所為なのかカフェインの所為なのかも不明な儘……。一緒に薬で気持ちよくなろうぜ海月ちゃん。炊くタイプだから、深呼吸するだけで、宇宙の果てまでトベるぜ。ほら、せーの。堕落していく。只、堕落をしている。文字通りだった宇宙の果てが比喩としての姿を得て終うか。右へ、左へ、外套がゆらゆら、ふにゃふにゃ……。
 あ……あの、あんまり、揺らすのはかんべん……。
 バットに入りそ……てか……きもちわる……。
 物理的にも精神的にも、おちる、おちる、七色の悪夢。

第3章 ボス戦 『人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがり』


 ふわふわと嗤っていた水母が、海月が、消失すると同時に、
 空から、宙から――少女がずてんと落ちてきた。
 まるで童話のように、まるでアニメーションのように、
 いてて……なんて、言葉と共に少女は起き上がる。
 私だよ! 私が来たんだ!
 私が来たんだから、皆、きっと幸せに死ねた筈だよね!!!
 可愛らしい少女のカタチをしている『それ』はぐるりと、目の玉を回転させながら、現状とやらの把握に勤しんでみた。勤しんでみたならば、ああ、少女は気が付く。気付いてしまう。死んでいないと。死んでいたとしても、皆ではないと。
 なんで? どうして? 私、皆の為に頑張ったんだよ?
 頑張ったのにどうして、誰も幸せになっていないのかな?
 あ。わかったよ。誰かが邪魔したんだね。
 幸せな最期を|邪魔《けが》すなんて、許せない……!
 でも、私は優しいからね。邪魔をしてくれたあなたも、ちゃんと看取ってあげるから! 私って優しいな。そうだよね? だよね!!!
 まったく|躁々《そうぞう》しい神様だ。
 善意の地獄に棲みついた少女に人間性とやらをくれてやれ。
アーシャ・ヴァリアント

 鬱憤を晴らす為だ。
 良いようにやられた儘、はい、そうですかと、頷く優しさなど持ち合わせていない。
 砕けた頭蓋を――こわれた脳髄を――直すべく、掻き集めている場合ではない。何方かと謂えばオマエ、オマエ自身の死とやらへ冒涜の二文字を叩きつけるのが正解だ。爽やかな風など欠片としてなく、只、オマエの臓腑、大罪のひとつに支配されている。これは怒りだ。文字通り、漿液その他を沸騰させるほどの憤懣だ。誰も……誰もアンタに幸せにしてくれなんて頼んでないわっ! 二度あることは三度ある、なんて、諺がこの世には『ある』けれども、大爆発、二度目などない。今からアンタをボッコボコにするから覚悟しなさい。覚悟していなくても、ボコボコにしてやるけどね! 一番槍を掴んだのだ。いただいてやったのだ。あとは――あの、マイナスを殺された少女に龍の力強さを教えてやれ。
 苦しみが好きな人なんて……げほ……げほ……! 爆風に巻き込まれたのだ、煙に巻かれたのだ。少女は√能力を発動できず、その場で咳込む事しか赦されない。幸せな最期とやらに送ってやるから、とっとと、一人で逝きなさいっ! 拳を握る必要などない。獣の如く、怪物の如く、袈裟を着せてやるとよろしい。い……いたい……どうして。どうして、幸せになりたくないの……? アンタが人の話を聞こうとしないからよ、わかる?
 わかっていたら『こう』はならない。
 如何様な過去を抱いていようとも、簒奪者は簒奪者だ。

四之宮・榴

 響き渡った呼び声、不可視の耳に届いたのか。
 波打つかの如くに深淵――生贄を苺とする。
 何方が神様らしいのかと問われれば、現状、オマエの方が『近い』のかもしれない。√EDENを覗き込むオマエの行為はまさしく『神の視点』と謂えよう。瞼の裏側、こびりついた誰かの影、これをこすり拭ってようやく視野とやらの確保に入った。……神とは何処までも、傲慢で……何処までも罪深い……。あの神様は、怪異は――少女は――或いは無知なのかもしれない。いえ……知ろうと、しないだけ……。もっと深堀りするならば『見て見ぬフリ』が正解だろう。自分が、自身が、正しいと、仰るのでしょう? 死の瞬間が、本当に、心地良いのだとしたら、世界は――水母の楽園として成功してしまう。僕が死ぬのは、僕を殺していいと決めた方だけ。幸せの押し売りなんて……精神への汚染なんて……いらない! 邪魔をするなと、穢すなと、ぎゃあぎゃあ喚くならば胎児の頃からやり直せ、と。
 じっと、じっと、少女の動きを観察する。知った顔の袈裟にやられていた少女は、嗚呼、今にも泣き出してしまいそうか。違う。あの少女は痛みを訴えながら笑っているのだ。それこそ花の如く、それこそ柘榴の如く――煙が失せた。幸福感? 僕には程遠い言葉。だから、程遠い『ここ』から――神様に向かって物申せ。見えない怪物は、インビジブルは『簒奪者』だけのものじゃない。僕は彼らに何故か愛されている。|深海の捕食者《インビジブル》が動き出し、蠢き出し――少女の脇腹に喰らいついた。
 いたい……いたいよね。でも、これが、幸せだったら、良いと思わない? 思えない。思える知的生命体など、それこそ、壊れているとしか考えられない。そんなに幸福が欲しいなら、直接、小アルカナのカップ10をあげる……! 杯の中身は少女のハラワタか。貫かれた胸中――何処までも、何処までも、虚のようだ。

八手・真人

 後味がひどく悪い。結局のところ、神など存在しなかったのだ。
 振り回されて、滅茶苦茶にされて、ほんの少しだけ時間を喰ってしまったけれども、如何やら『邂逅』には間に合った様子だ。口の中に残っていた酸味を唾液諸共に押し込んで言の葉を紡いでいく。ふう……ようやく出てきてくれたね、神様。たこすけ、アレが神様だって。ひくりと、背中側から大きめの反応。うねうねと元気そうな蛸神様はいったい『なに』に気が付いたのか。人間みたいだね……お前が好きな。地獄耳なのだろうか。腸その他を持っていかれた神様が、少女が、くるりと、オマエの姿を捉える。ねえ、今、私のこと見てたよね。幸薄そうな顔だから、私が幸せにしてあげるね。傲慢であると同時に怠惰だ。あの少女は目の玉を開いているクセに、回せているクセに、己の盲目さを理解出来ていない。いいよ、今日は特別。俺の身体……お前に貸してあげる。だから、俺の代わりにアイツをやっつけて。ぎょろりと、瞳孔が嗤いだす。神と神が目を合わせたところで――動き出したのは少女側か。苦しみが好きな人なんて居るはずないよ!!! 看取る為の子守唄か。
 融合した状態であれば――たこすけと一緒であれば――俺は、何回かは、大丈夫。怖いけれども、恐ろしいけれども……! 呆気ない『死』だ。身動きできない失血死だ。墨ではなく本物の滂沱。意識が遠く、遠く、一周して――戻ってくる。兄ちゃんを遺して死ねない、とは言ったけど。アイツには……あの子には、思い描いているのと違う『死』を見せないとダメだ。え……? なんで、死なないの? 多幸感でいっぱいなはずなのに。なんで、なんで――欠落が埋まってないのかな……? 死んでも、死んでも、死んでも、蘇って、蘇って、蘇って……戦い続けるなんて――これでも、幸せ? 邪魔しないで。幸せな最期を|邪魔《けが》さないで……! ……俺は、そうは思わないよ。
 ――少女の笑みが絶えた。だが、一瞬だけだ。
 そんなの、もっと、幸せにしたら関係ないよね!
 如何しようもなく欠落している。
 蛸神様からの贈り物――引き寄せた少女へのタコ撲りだ。
 終わったら、早く帰ろう。帰って、兄ちゃんにギューッてしてもらおう。

鸞奇・檸檬

 幸福野郎に恐怖を教えてやれ――思い出させてやれ。
 ……ああ、ちくしょう。俺には誰も救えないってか?
 胎児だった頃から踊っているのだ。いいや、胎児だった頃から踊らされているのだ。胎盤を蹴ろうと試みる事すらも神意の所為なのであれば、もう、クソッタレとしか嗤うしかない。……幸せな最期? はは……終わりよければすべてよしってか……。ハッピーな粉でも常用しているのかと、ハッピーな洗脳でも受けているのかと、そう、考えてやるのも吝かではない。けれども……ああ、ふざけんな。テメェが看取ったらそれで幸せ? ハッピーエンド? 勘違いも大概にしろよ。オマエの、肚の底からの言霊が、黒々とした思いが少女の脳天をぶん殴る。先程の『たこ』の所為で僅かに正気を取り戻してしまったのか。少女は耳を傾けてしまった。確かに俺だって、俺達だって死ぬ時くらい幸せに死にてぇよ。けどなァ! テメェに殺されて、はい、幸せなんて御免だ! 人一倍の不幸背負って生きてきてんだ……その清算がまだだろうが! はあ……? なに言ってるのかな? 私達は『幸せに死ぬ』為に生きてるんだよね。でも、生きているのが幸せじゃないなら、今、幸せに死ぬべきだと思わないかな……? 何か、ひどいすれ違いが起きている。起きているのかもしれないが、√能力者と簒奪者なのだ。争っているのは当たり前と謂えよう。
 あぁ、でも……お前も俺と同じか。だって、自分の価値観で幸福ばら撒いてんだもんな? |クズの中のクズ《俺》と一緒じゃねぇか! アッハハ! な……! 一緒にしないで! 私は……私は……! 言の葉に詰まった。窮極的な躁病からの墜落、それを味わって終った少女は――現、混乱の渦の中に囚われている。
 はー……疲れた。一服させてくれ、そのくらいの時間なら、貰ったって文句ねぇだろ。深い深い呼吸だ。肺臓へと這入りこんだおくすりは、只、沈黙だけを齎してくれる。テメェには殺されねぇけど、俺はここで退場だ。……待って! お願い。お願いだから、私も――私もそっちに――「喰らい尽くせ、インビジブル」
 現れたのは『蟲』だ。敵知らずの『幻覚』だ。ヒッ……いや……いやだ……いたいよ、いたいよ、お父さん……お母さん……。

ヴォルン・フェアウェル

 瞼の裏側には幸せな光景。
 あの日のドライブの続き、何も起きなかった、そういう幻覚。
 カチリと――脳髄の中に潜んでいた狂気が、凶器を揮うかの如くに起き上がった。先程まで震えていた少女が、先程まで泣いていた少女が、元の通りに『されて』しまう。その、度し難いほどの現実にオマエは――改めてのご挨拶をしてみせた。しあわせ、しあわせかあ。確かに苦しまず逝けるのは幸せの、ひとつのカタチかもしれないね。ぐしぐしと、目の玉をこすった少女は『わかってくれている人』を見るかのように、コクコクと首を縦に振った。でも、それって、君に強制されないといけないもの? 投擲された疑問符、あとは水掛け論のようなものだと、ああ、知っていたとしてもやめられない。あなたも、皆と同じように、彼らと同じように、私を否定するのね。……苦しみながら生きることにも、悔いながら死ぬことにも、何らかの意味を見出せるのが人間だ。黙って、黙ってよ。なんでそんなに、幸せから離れて往こうとするの? 君のしていることは――誰かに唆されたかのような――ただ、見苦しいものにフタをしているだけなんじゃないのかな? 吐き気がする。吐き気がするほどの腐臭なのだ。如何して、蓋をしてはいけないのだ。そんな力業のメデタシメデタシは、観客だって、君のお父さんやお母さんだって、納得しないだろう……? 抗おうとする手足なんて、頭なんて、切っちゃおう。幸せに感じられるなら、頭だけで十分なんだ。……そちらが洗脳してくるなら、もう、僕はこれしか出来ないよ。
 幻に幻が重なった。蟲のざわめきに光が重なった。ごめんね、僕、この手の精神干渉にはそれなりに耐性があるタチでね……。ほら、しあわせになりたいなら、しあわせに死にたいなら、戦闘とか、争いとか、バカバカしいと思わない? ふらりと、めまいに誘われた少女はぼんやりと『取り替え子』へ近づく。もたれかかって、横たわるかのような、浮遊感か。痛くないようにする以前に君が武器を下ろせばいいだけの話だ。それに、僕がちゃんと看取ってあげるから、怖くないね? こわくない……しあわせ……私、お父さんと、お母さんが、いるところに……。へんなことを考えずに、自ら、断頭すれば楽だったのだ。永いお別れも、もう、おしまい。

詩匣屋・無明
玉巳・鏡真

 わかってたまるか。善良な人間が、ふつうの人間が、躊躇を殺す。
 悔いのない人生を送る為に必要なのは思い切りの良さである、そんな事を何者が宣っていたのか。ああ、だとしても、この、投身への教唆、勢いが凄まじくて潰れたトマトよりも酷い。もっと陰険そうなヤツかと思ってたが、存外、ハツラツとしてやがる。元気溌溂だけが取り柄だった。元気溌剌を強制させられているが故のテロリズムであった。押し付けがましい幸福論並べやがって、お生憎様だがお断りだ。わかったよ。あなた達が私の幸せを拒むってことは、よく、わかったよ。でも……それでも……私は皆に、幸せになってもらいたいんだよね。天地がひっくり返っても、如何やら、少女の欠落は埋まらないらしい。埋めたとしても、次の瞬間、通りすがりの自動車に掻っ攫われる。……応、やっとお出ましか。会いたかったぞ『かみさま』とやら。いや、かみさまと呼んでおったのは人の方かのう……ともかく。よくもわしをこんな目に遭わせてくれたのう。それはもう、しあわせで、しあわせで――まことに不快であったぞ。少女は目を丸くしていた。オマエの姿を見て、幽霊の姿を認識して、心の底から『なんで』にやられたのだ。え? 幸せに、死んだんだよね。幸せな儘、死んだのどうして、そんな……。あん……? お前、|詩匣屋《爺さん》? え、居たのか。いや……待て……グロい!!! おお、きょーまではないか。わし、どんな感じ?
 首が文字通りに折れている。フクロウも吃驚な有り様で、腸ずるずる引きずっている。それに加えての四肢の損傷だ。は!? お前大丈夫か? まともに喋ってんのがなおホラーだろうが! ちょっと首とか腕とか繋ぎ治してこい! ワハ、情けない顔をするでない。この愛くるしい童の姿も、こうなっては台無しじゃと、そう謂いたいのかのう。じゃが……これは、思っていたよりも効果的だったかもしれんの。
 なんで……私……幸福に、死なせてあげたのに……なんで、そんな、そんなこと……。ほれ、見い。こんなもの荒事の『あ』の字もありゃあせんよ、むしろ、こっちが悪者に見えてくるわい。はん、確かにな。思ってたよりも楽な仕事だったってわけだ。死んだヤツが幸せだったかなんて当人にしかわからねえさ。結論としてはこうだ。幸せだってんならオマエは大喜び、不幸せだってんならオマエはただの人殺し。悪い話じゃねえだろう? ……お願い。お願いだから、あがりを、私達の娘を、楽にしてやってください……。
 苦しみなんてわかんねえや。こちとら、痛みなんてひとっかけらも感じねえからさ。ズタズタになった心に染み込んできたのは因果だろうか。灯した蝋燭もそろそろ頼りない。終えるに相応しい百話目を今、語ろうぞ。奇妙な青春を、受けた仕打ちの数々を、しあわせを。彼等と共に――呪って返してやろう。これが『しあわせ』なのであろう?
 ……まあ、わしからの、ちょっとした慈悲じゃ。
 多幸感だけは『ほんもの』にしておこうかのう。
 とくと、味わえ……。
 ……やっと、やっと、私もそっちにいけそうだよ。
 だけど、まだ、私は――。
 疾くと投身すると良い、高天原・あがりだった『もの』が、砕け散った。

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