④上野の森の独唱会
オーギュスト・ロダンの作り出した美術品の1つ、「地獄の門」。
ブロンズ製のそれは、邸宅の門扉のように決して開閉することはない……はずだった。
しかし今それは謎の力によって開け放たれ、奥底の見えない謎の空間につながっていた。
その空間から先鋒の如く現れたのが———「ネームレス・スワン」。無数の頭部から放たれる、聞く者を狂わせる悲鳴によって周囲に天災にも等しい被害をもたらす対処不能災厄だった。
「なんで美術品から飛び出てきたのかは分からないが、今すでに奴は国立西洋美術館の前庭に飛び出して好き勝手に暴れ回っている。これは歴とした事実だ」
カフェオレの中に何個目か分からない量の角砂糖が入れられる。この時点で倉稲・石香(取り替え子のゴーストトーカー・h01387)の機嫌がよろしくないことが明らかだった。
「このまま放置していればネームレス・スワンは上野動物園や上野駅に移動し、行き交う人々や動物を狂気で汚染して大惨事を引き起こす可能性が非常に高い。……だが、現時点でボクにも君達にもネームレス・スワンに対して出来る事はほぼない。運良く倒せたとしてもすぐに次のネームレス・スワンが『地獄の門』からこんにちはしてくるからだ」
石香はそう言ってカフェオレを一息にあおる。ソーサーの上に戻されたカップの底には溶け切れなかった砂糖の粒が山のように溜まっていた。
「じゃあ何が出来るのか、って話だが……ネームレス・スワンは本来窓の隙間から出てくる怪異なのは知っていると思う。だが窓の隙間からいつでも出て来れるわけじゃない。そして今上野にある窓際はその条件を満たしていない。……つまり、今奴が出て来れる出入口はたった1つでそれを閉じてしまえばしばらくは出て来れまい」
その砂糖を溶かすべくおかわりのブラックコーヒーが注ぎ込まれる。
「つまり、怪異の力で『開いている形』に作り変えられた『地獄の門』を君達が力づくで変形させて閉じられればいつも通りの怪異退治になるのさ。筋肉自慢の一般人には不可能だが、能力者の君達にとっては簡単なことだろう? そのそばに常にネームレス・スワンがいることに目を瞑れば、の話だがね」
ネームレス・スワンが遠くに転移しないよう注意を引きつつ、銅製の地獄の門を捻じ曲げて閉じた形に変える。それが今回能力者達が上野で挑むミッションである。
「そうそう、耳栓や大音量のイヤホン程度では奴の悲鳴は止められないことは覚えておきたまえ。戻ってきて早々にクレームを入れられても困るからね?」
マスターより
平岡祐樹別シナリオでネームレス・スワンを扱った身として見逃すわけにはいかなかった。お疲れ様です、平岡祐樹です。
今案件にはシナリオギミック「地獄の門を閉じる」がございます。
これに基づくプレイングが指定されていると有利になることがありますのでご一考くださいませ。
43
第1章 ボス戦 『対処不能災厄『ネームレス・スワン』』
POW
災厄拡大
自身の【頭部】がA、【脊髄】がB、【翼】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
自身の【頭部】がA、【脊髄】がB、【翼】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
SPD
ネームレス・スクリーム
【狂気と絶望に満ちた叫び】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【発狂】に対する抵抗力を10分の1にする。
【狂気と絶望に満ちた叫び】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【発狂】に対する抵抗力を10分の1にする。
WIZ
スワンズ・ソング
【新たなる『ネームレス・スワン』】が顕現し、「半径レベルm内の困難を解決する為に必要で、誰も傷つける事のない願い」をひとつ叶えて去る。
【新たなる『ネームレス・スワン』】が顕現し、「半径レベルm内の困難を解決する為に必要で、誰も傷つける事のない願い」をひとつ叶えて去る。
和紋・蜚廉成程。つまり物理的な話だな。
ならば話が早い。
穢殻変態・塵執相、殴る速度を上げて門を変形させよう。
増える頭部は、返す腕や脚から生やした殼突刃で切り落とし。脊髄は門を殴るついでにグラップルで掴んで引き抜く。
羽根には斥殻紐を。口から放出して捕縛しよう。
もがけばもがく程、絡まって解けぬように。
至近距離での被弾は、自己再生で補おう。
千倍の回復力だ。削る端から再生するぞ。
響く悲鳴は、上昇した速度に合わせて打ち鳴らす翅音板で軽減を図る。
多少浴びようとも、元より知性ない姿より生まれた命だ。
我が身には、鍛えた年月と野生の勘が宿っている。
如何に狂気に苛まれようと、己の肉体は裏切らぬ。
それは本能で知っているからな。
「成程。つまり物理的な話だな。ならば話が早い」
黒褐色の外殻はTVで流れるヒーローには絶対に使えない代物である。
しかし生まれてから今日に至るまで、それが普通であった和紋・蜚廉 (現世の遺骸・h07277)は関節を鳴らした。
「『我が奔駆は、死すら置き去る。』【穢殻変態・塵執相】」
地獄の門の扉を何度も叩き、何度も蹴る。一発また一発と鈍い音が鳴るたびに攻撃の速度は上がっていった。
だがそれを呼び鈴にしたかの如く、門の隙間からネームレス・スワンが滲み出てきた。
その全身からは肉が千切れるような音が絶え間なく響いて無数の頭や脊髄、翼となって生えてくる。
そして数え切れないほどの口で人々を狂気に至らしめる叫びを、まるで鬨の声かの如く上げた。
蜚廉は上昇した速度に合わせて打ち鳴らす翅音板で軽減を図る。しかしその程度では地を揺らす騒音を掻き消すことなど出来なかった。
とはいえ多少浴びようとも、元より知性ない姿より生まれた命。蜚廉の身には、鍛えた年月と野生の勘が宿っている。
如何に狂気に苛まれようと、己の肉体は裏切らぬ。それは本能で知っていた。
理性を失って意味を持たぬ叫びを上げながら蜚廉はひたすらに門を叩く。そしてその騒音を根本から潰さんとばかりにネームレス・スワンは押し寄せた。
だがどれだけ噛まれ、千切れても、蜚廉の体は砕かれた側から再生していった。
そして無策に近づいたことでネームレス・スワンは門にのみ向かっていた暴力の余波を喰らうこととなる。
頭部はやたらめたら振るわれる腕や脚から生えた殼突刃で切り落とされ、脊髄は門を殴るついでにグラップルで掴んで引き抜かれた。
さらに蜚廉は唾を吐くように黒銀の糸を口から飛ばす。そしてそれはネームレス・スワンの羽根に絡まってもがけばもがく程、解けなくなっていく。
そして糸が蜚廉の腕にも絡まれば殴った勢いで引き寄せられ、扉と蜚廉の間に入ってしまう。
ひたすらに扉を殴ることに固執していた拳は初めてネームレス・スワンの顔面の1つを捉えて爆ぜさせた。
🔵🔵🔴 成功
澪崎・遼馬アドリブ、連携歓迎。
一般人に対しては最悪といえる部類の災厄だな。おまけに強大ときている。だが、ここで怯んでは密葬課、ひいては異能捜査官の名折れだ。人々の為に地獄へ送り返さねばなるまい。
「疾く地獄に帰って貰おうか災厄よ。人の世に貴様の居場所はない。」
【黒い羊飼い】を使用。向上した防御力と『霊的防護』を併用して敵の悲鳴への防御策にする。
さて、すぐにでも門を閉じたいところだがそう簡単にはさせてもらえないだろう。門に辿り着くまではネームレス・スワンに対処する必要があるはず。【二度とない】を使い、双銃と右腕が融合した魔銃による『零距離射撃』『制圧射撃』で対処しよう。倒す必要はない、門まで移動する時間を稼げれば良い。
門まで辿り着ければこれを閉じよう。もし腕力で閉じれなければ『零距離射撃』を撃ち込んででも強引に閉じる。
「一般人に対しては最悪といえる部類の災厄だな。おまけに強大ときている。だが、ここで怯んでは密葬課、ひいては異能捜査官の名折れだ。人々の為に地獄へ送り返さねばなるまい」
澪崎・遼馬(地摺烏・h00878)は外れないように念を入れるかの如く手袋の端を掴み、引っ張れば指の間に革が当たる感覚がした。
「疾く地獄に帰って貰おうか災厄よ。人の世に貴様の居場所はない」
黒銀の糸に捕縛されていたはずのネームレス・スワンは空気に溶けるように消え、奥に見える国立西洋美術館から再誕する。その体には殴打の痕も蹴られて折れた翼も無かった。
『ARMA CHRISTI起動……我、四つの福音と四天を棺に収めん。ゆえに汝、慈悲深き者よ今こそ死すべし。』
四天響棺「ARMA CHRISTI」を起動させることで、向上した防御力と霊的防護を併用してネームレス・スワンの悲鳴への防御策とした遼馬はさらに2丁の拳銃を交差させる。
『私は汝に告げよう。汝の全ての問い、全ての希望、全ての願いに対して私はこう告げよう–––』
拳銃は右腕に溶けるように混ざり、巨大な砲塔を形成して侵食する。その先を遼馬は迷うことなくネームレス・スワンへ向けた。
【|二度とない《ネバーモア》】
頭部の塊が銃弾によって抉り取られる。そしてそれは一発でとどまらず、2発3発とネームレス・スワンの体を欠けさせていく。
音を発する口の量が減ったにも関わらず、狂気と絶望に満ちた叫びのトーンは減らない。むしろ増えているかのような錯覚すら感じさせる。
だがここでネームレス・スワンを倒す必要はない、星詠みが不可能に近いと言っているのを成功させて鼻を明かすほどの余裕は誰も有しているわけがない。
打ちながら少しずつ移動していた遼馬は開け放たれた門にまでたどり着いた。
ネームレス・スワンの姿を視界に捉えつつ左手を当てて押す。動かない。棺越しに背中で扉を捉える。動かない。距離を取って助走をつけて体当たりをする。動かない。
それは本当の扉に変形したのではなく、閉じた扉ではなく開いた扉をモチーフに銅像を作ったのだと言われたら信じてしまえるほどの硬さであった。
液体を滴らせる音を立てながらネームレス・スワンが再生していく。しかし四方八方に伸びる翼をはためかせてこちらに肉薄するにはまだ時間を有しそうだ。
遼馬はネームレス・スワンから背を向けて銃口を扉へ真っ直ぐに向ける。そして災厄の体を易々と抉り取った一撃を躊躇なく叩き込んだ。
銅製の物体はネームレス・スワンの柔らかで歪な肉と違って削れはしない。だが大きな凹みをつけられたそれは地面に大きな傷をつけながら確かに角度を90°に近づけた。
その時、前方から5体満足のネームレス・スワンが飛び出してきた。
「2体目」
挟み撃ちに遭う可能性が頭の片隅に過るが、それを考慮して後ろを振り返る暇はないと一瞬で判断して銃弾の標的を切り替える。
炸裂によってネームレス・スワンの体が翻ったところで初めて振り返る。ジグソーパズルのピースのように歪になっていたネームレス・スワンの姿はまるで幻だったかのように影も形も残ってはいなかった。
そうして遼馬は気づき、ため息を漏らした。
「……門から出てこれれば全回復か。なんとも都合の良い戦場だな」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
ヤルキーヌ・オレワヤルゼアレンジ、絡み大歓迎ですわ!
NGは乱暴な振舞いや言葉遣いです!
これがネームレス・スワン!!
観光だけでしたら歓迎も致しますが、ワタクシ達に仇なす者を許すわけには参りません!
早々にお引き取りくださいませ!
このドアを閉めれば良いのですわね!
√能力で侍女タイリョークに融合を支持致します!
敵の動きを封じつつ、根性出してドアを閉めましょう!
敵からの攻撃は、幻影で攻撃をする自分を作って、ワタクシ本体から外らせますわ!
オーラ防御や狂気耐性で守りも固めましょう。
ティーカップより重い物など持った事はありませんが、やり抜いて見せましょう!!
「これがネームレス・スワン!! 観光だけでしたら歓迎も致しますが、ワタクシ達に仇なす者を許すわけには参りません! 早々にお引き取りくださいませ!」
そう堂々と宣言したヤルキーヌ・オレワヤルゼ(万里鵬翼!・h06429)は傷ついた箇所からボコボコと新たな頭やら翼を生やすネームレス・スワンの姿からインスピレーションを得ることは出来ず、朝のシリアルを口から出したくなりそうな吐き気に見舞われた。
だがお嬢様たるものそんなはしたない姿を人前で見せるわけにはいかないと鋼の心持ちで乗り越えると、傍に控えていた侍女を一瞥した。
「侍女タイリョーク! 融合を指示致します!」
侍女タイリョークは一礼すると何の迷いもなく真っ直ぐにネームレス・スワンに近づいていく。そして現在進行形で再生する傷口へおもむろに手を突っ込ませた。
するとまるで吸い込まれるように華奢な体は簡単に宙に浮かされ、ネームレス・スワンとの距離を徐々に近づかせ、そして接合する。
フリルのついた服が内から膨れ上がりながら真っ赤に染まる。そして破れ落ちた先には生まれたての赤ん坊のように喚き立てる新たな頭が現れた。
脊髄が飛び出し、翼が生える。その度に侍女タイリョークの体は異形へ近づいていき、唯一維持しているのは頭だけになった。
だがこの瞬間、ネームレス・スワンによる騒音は陰るどころか完全に停止した。
「このドアを閉めれば良いのですわね! ティーカップより重い物など持った事はありませんが、やり抜いて見せましょう!!」
この機を逃すわけにはいかないとヤルキーヌは全身を使って地獄の門に密着して前へ前へ押し進もうとする。
先程銃弾との衝突で軽く曲がったとはいえ完全に伸縮性を得たわけではなく、女性1人分の外圧が加わったところで中々動かない。
前触れもなくネームレス・スワンの体が爆散して消滅する。そして地獄の門からまた無傷のネームレス・スワンが顕現する。
そして真っ先に目に入ったヤルキーヌに向けて脊髄を鞭のように振り回して薙ぎ払った。
だが真っ二つにされたヤルキーヌの体は血を噴き出すことなくそのまま歪んで空気に溶けていった。
「幻影で攻撃をする自分を作っていたかいがありましたわ……」
自分の幻影を消滅させた轟音に背筋を凍らせながら、真反対の位置にいたヤルキーヌは呟く。
その脳裏には絶えず、あの一撃に今度こそ当たりたいという悪魔の囁きが聞こえてくる。しかしヤルキーヌはオーラ防御や狂気耐性でその誘惑を振り切った。
🔵🔵🔴 成功
アリス・グラブズ「……ねぇ、“地獄の門”って歌えると思う?」
ワタシは《かえしのくち》をひらき、“スワンの悲鳴”をそのまま飲みこむ。
音を発さぬ虚ろな空洞は悲鳴を貯め、反響したそれが反転して歪んだ旋律となる。
《応答歪曲口腔・コーラス・オブ・アザーズ》――声が響き、響きが形を縛る。
床から滲み出た『ワタシ』達も追従し、意思なき銅塊へかくあれしと囁きかける。
鳴き声は門の蝶番を軋ませ、聴こえる全てを“閉じる歌”へと変換して構造に浸透させる。
痛みも狂気も音の揺らぎとして吸収して。
「ほら、“地獄の門”も……静かに眠りたいって。」
「……ねぇ、“地獄の門”って歌えると思う?」
|アリス・グラブズ《繧ウ繝溘Η繝九こ繝シ繧キ繝ァ繝ウ繝?ヰ繧、繧ケ $B%"%j%9(B》(平凡な自称妖怪(兼 ディスアーク下級怪人)・h03259)は呟く。
その問いに対して答える者はいない。
皆の意識はネームレス・スワンに向けられている。この狂気と絶望に満ち満ちた叫びを止めなくてはと、空を見遣る。
視線を一身に集めたネームレス・スワンは数え切れない量の口から全く同じ音を発する。
それが鼓膜を震わせる前に女の子の形を崩したアリスは《かえしのくち》をひらいて、ネームレス・スワンの悲鳴を丸ごと飲みこんだ。
《かえしのくち》が閉じられ、一瞬の静寂が辺りを包むと、まるで火がついたようにネームレス・スワンは喚き始める。だがそれも再び開かれた《かえしのくち》に取り込まれた。
音を発さぬ虚ろな空洞はただただ悲鳴を貯めていく。だだっ広い空間の中で反響し続けたそれは反転して歪んだ旋律となる。
そして時が満ちて熟成したところで、アリスは中で跳ね回り続けていたそれを|解放《・・》した。
『歌が聞こえる? ワタシの声じゃないよ、キミが歌ってるんだよっ!』
白と灰色の石畳から滲み出すように別の『|アリス《ワタシ》』達が現れ、まるでコーラス隊かの如くアリスに追従し、意思なき銅塊へかくあれしと囁きかける。
そのアリスの声も『ワタシ』達の鳴き声もアリスの本来の声音でも楽器を思わせる音でもなく、紛れもなくネームレス・スワンが発した叫び|だった《・・・》。
だが聞いている生物全てを狂気に至らしめる苛烈さや刺々しさはない。
【|応答歪曲口腔《コーラス・オブ・アザーズ》】――声が響き、響きが形を縛る。
痛みも狂気も音の揺らぎとして吸収して変質させられたそれは、形としてあるだけで実際に可動することはない門の蝶番を軋ませる。
聴こえる全てを“閉じる歌”へと変換したそれは、聴覚のない鋳造によって形取られた構造に浸透する。
そして、原子から揺れ続けたら門はひとりでに動き出した。徐々に、ゆっくりと、しかし確実に。
空に舞うネームレス・スワンが暴れる。門だけでなく自らが「閉じる」ことを拒否するかのように。
「ほら、“地獄の門”も……静かに眠りたいって」
ネームレス・スワンは拒絶するかのように全身を持って叫ぶ。だが願いじみたそれすらも《かえしのくち》が平らげてしまった。
🔵🔵🔵 大成功
橋本・凌充郎―――――元より騒音の災害の類だ。今更わざわざクレームを入れるほどのものでもないとも。あぁ、入れるとするならば勿論この招かれざる客の方だ、というものは当然として、だ。
―――――可能ならば狩りつくせるだけ狩りつくしたいところだが…忌々しいものだ。だが、出来る事をするという事であるのならば同意しよう。つまり、|死ぬ方がまし《・・・・・・》と刻み込んでやればいいのだろう?
―――――鏖殺連合が代表、橋本凌充郎の名の元に。刻み込む傷が、安易に癒えるとは思わぬことだ。
【クイックドロウ】からの【制圧射撃】で叫ぼうとする無数の口に麻痺弾を叩き込み拘束。怪力】による【重量攻撃】で【傷口をえぐる】様に追撃を行い、そのまま【殺気】と共に【切断】する。門の奥へ押し込みやすい形にしてしまえば、【限界突破】した腕力により殴り飛ばし、そのまま地獄の門を強引に閉じる。
――――――最初から貴様達相手に開く門戸はない。店仕舞いだ、たわけが。
ネームレス・スワンの体は絶えず蠢いて新たな頭や脊髄、翼を生やしている。
頭は聞いた人物を狂気の坩堝に叩き込む声を聞かせるため、脊髄は自らにまとわりつく雑音を薙ぎ払うため、翼はより高くより速く飛んでこの声を遠くに届けるため。
そんな害にしかならない存在は鏖殺にしてしまった方が世のため人のためになる。
「―――――元より騒音の災害の類だ。今更わざわざクレームを入れるほどのものでもないとも。あぁ、入れるとするならば勿論この招かれざる客の方だ、というものは当然として、だ」
バケツに開いた不揃いの穴から目は見えない。だが橋本・凌充郎(鏖殺連合代表・h00303)の黒い眼差しはしっかりと、本来は閑静な前庭を地獄絵図に塗り替えたネームレス・スワンの姿を捉えていた。
「―――――可能ならば狩りつくせるだけ狩りつくしたいところだが……忌々しいものだ」
門を閉じない限りネームレス・スワンは延々と出続ける。しかし閉じれたとしてもいつかは別の入口から湧き出てくるという。
ここで倒しても極論を言えば意味はない。だが出来ることは全てやるという目的に則るならば。
「だが、出来る事をするという事であるのならば同意しよう。つまり、|死ぬ方がまし《・・・・・・》と刻み込んでやればいいのだろう?」
度重なる改造によって異形と化したハンドキャノンをゆっくりと構える。
「―――――鏖殺連合が代表、橋本凌充郎の名の元に。刻み込む傷が、安易に癒えるとは思わぬことだ」
そして狂気に誘う悲鳴を叫ぼうとする無数の口に麻痺弾を叩き込み爆散させた。
口から煙を吐き出し、断末魔を上げられないままよろめくネームレス・スワンに向けて凌充郎は怪力による重量を乗せた回転ノコギリで傷口をえぐる様に追撃を行う。
無駄に伸び切った脊髄や翼は殺気をもって切断されたことで、ネームレス・スワンは閉まり始めた門の奥へ押し込みやすく投げやすい大きさまで加工された。
「――――――最初から貴様達相手に開く門戸はない。店仕舞いだ、たわけが」
度重なる負傷で痙攣しているネームレス・スワンを凌充郎は限界突破した腕力で殴り飛ばし、その姿が底の見えない空間の中に遠のいていくのを眺めながら地獄の門の両端を掴んで強引に閉じにかかる。
しかし完全に閉め切る前に傷一つない姿を取り戻したネームレス・スワンが高速で飛び出してきて凌充郎に強烈な突進を仕掛けた。
真正面から強烈な一撃を両腕を広げた無防備な姿勢で食らうことになってしまった凌充郎が石畳の上を転がる。
その姿を見下ろしながら羽を伸ばしたネームレス・スワンは肉のちぎれる音を立てながらさらに大量の頭を生やし出す。もしもう一度あの弾幕を喰らっても変わらず不条理を叫べるようにするかのごとく。
「――――――『根絶する。きっと全て殺し、澱みを潰し、腐りを砕き、総て殺すとも。全ての同志、同胞達の為に。』」
だが人を狂わせる怪異、それを斬り刻んで研究する気狂い、力を求める狂信者共を文字通りに、それらを殺し尽くすことを誓った男は幽鬼のように立ち上がった。
『くたばれ。死に損なう事は許さん。』
門の特殊な力で全回復した同一個体なのか、この門が繋いだ異世界に住まう同一種の別個体なのか、そんな物はどうでもいい。
どれだけ耳元で叫ばれようがあの巨体に何度弾かれようが潰されようが関係ない。
血に、悪夢に、狂気に塗れてもなお、止まることを忘れた男は元ある分だけでなく増えたばかりの口全てに麻痺弾が収まるまで銃を乱射する。
そしてそれらが一切に炸裂したところでまた回転ノコギリの電源をつけ、煙の中から飛び出してきたネームレス・スワンの体を穿った。
真っ赤な血が迸り石畳を染めていく。それはネームレス・スワンの血か、凌充郎の血か。
そんなことはどうでもいいとばかりに音は響き続けた。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功
桔梗・守連携アドリブ大歓迎だよう!
門の中覗けたりするかなぁ?あ、だめ?
パンドラの箱みたいだよう、としたらすぐに閉じればまだ大丈夫?
準備もそこそこに|本体《鏡》に飛び乗って
浮遊が出来るので飛翔し続けて敵の元までひとっ飛びだよう
ぶつかる勢いで、得物の詠唱錬成刀剣を手にして
敵に合わせて「大きくなあれえ!」どっかーんと打撃して
門の方へ追い込み漁の様に追い詰めて、ぎゅうぎゅうと戻すよう
オーラや霊的防御防護を大きく展開して狂気にも皆負けちゃだめだよう
味方がいれば、連携の立ち回りも任せて
敵の攻撃はよく見て見切り、元気いっぱいに負けん気を見せつけるよう
インビジブル化しちゃったときはごめんねえ!って大きな手でバシバシ敵も扉もごとしばいちゃって地獄の門を閉めるんだよう!
「うわぁ、パンドラの箱みたいだよう」
まだまだ扉の間から見える異様な空間を覗き込み、桔梗・守(付喪神・h05300)は身長5cmほどの透明な子鬼の様な姿を取っている仮初の姿の背筋を震えさせた。
「としたらすぐに閉じればまだ大丈夫?」
そしてオーラや霊的防御防護を大きく展開して、この場にいる能力者達がネームレス・スワンの叫びによって気を狂わせないようにした。
「狂気にも皆負けちゃだめだよう」
そして守は自身の準備もそこそこに本体の鏡に飛び乗って、まるでSF映画のスケボーのように浮遊し始める。
音もなく勢いよく空中を進み出した鏡は背中を向けているネームレス・スワンの元までひとっ飛びした。
「大きくなあれえ!」
勢いそのままにぶつかる寸前で守は得物の詠唱錬成刀剣を手にしていた。
どっかーんという擬音がついた打撃がネームレス・スワンの体を貫く。だが体から刃が1ヶ所飛び出した程度で止まるようなら対処不能災厄には指定されない。
つんざくような悲鳴をあげたネームレス・スワンは暴れ出し、柄を守の手から外す。
そして自分の体に突き刺さったままのそれを逆に武器にして、小さな体を薙ぎ払った。
仮初の体が消し飛ばされたことで鏡は石畳の上に軟着陸する。しかしネームレス・スワンはここにある能力者関係の物全てが憎いとばかりに振り上げた脊髄でその鏡面を破壊した。
ネームレス・スワンは急に暴れても全く息を切らしたりせず、守を葬ったことに対して満足げに微笑んだりもしない。
その様はまるで存在意義はただ叫び、動くだけで、その結果何が起きようと何も感じないと言わんばかりのようであった。
そんなネームレス・スワンの姿が不意に透明な何かが重なったことで歪んだ。
「あっちゃあ、避けきれなかったや。でもこうなったらもう負けられないよぉ!」
歪みの正体はウサギとネコのぬいぐるみが混ぜこぜにされたフランケンシュタインの怪物のような見た目になった守だった。
その姿は小鬼の姿よりも半透明で、地獄の門やネームレス・スワンよりもはるかに巨大になっていた。
狂気と絶望に満ちた叫びを発しながらネームレス・スワンはまるででんでん太鼓のように脊髄と刺さりぱなしの柄を振り回す。しかしどれも守の体には当たることなくすり抜けてしまった。
「ごめんねえ!」
守は綿のようなインビジブルが絶えず漏れ出している手と底知れぬ暗黒に染まった手でネームレス・スワンに突っ張りを叩き込んでいく。逆にこちらはすり抜けることなく当たり、騒がしいネームレス・スワンの口を塞いだ。
一方的で理不尽な打撃の連発にネームレス・スワンは自ら距離を離そうとして、無意識のうちに門の方へ寄っていく。それはまるで追い込み漁の様であった。
「吸い込まれないから、強引に押していくよお!」
インビジブルが地獄の門の空間に手を突っ込んでも消滅したり転送されたりすることがないことをいいことに、守はぎゅうぎゅうとネームレス・スワンを押し戻そうとする。
ネームレス・スワンは手の代わりに扉に齧り付いて反抗する。だが際限なくかけられ続ける圧に歯が折られ、顎が外れていく。
そして支えを失った体はついに門の中に収まった。
「せぇのお!」
再び這い上がって来られる前に守は両の扉に手をかけて、力任せに閉じにかかる。完全に放り込まれたわけではないネームレス・スワンもすぐに翼をはためかせて戻ろうとしてくる。
しかしその巨体が通れないほどの狭さにまで閉じられた扉に引っかかって、閉じようとする能力者達と開こうとするネームレス・スワンの力比べの形相となった。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功
目・魄※アドリブ連携歓迎
心地の悪い叫び声が聞こえるね。
見た目も魑魅魍魎に近しい物を感じるけど
そんな姿のモノが現れたら、皆びっくりするだろう。
こんにちは。そして、さようなら……だ。
出てきてしまったなら仕方がないと、出てきた門に帰って貰って
地獄の門を閉じさせて貰おうか
身軽さを使いつつ戦闘準備を
準備運動はそこそこに、行くよ。
培った戦闘知識から、妖気を圧縮し強力な妖力へと変換し
【氷塊】を投擲し牽制からの、【氷柱】により鋭い連続攻撃を
門へと押し戻していく動きは家業により、手練の早業
最後の一押しに、敵にか扉にか
これでもくらえとばかりに、全力を叩き込む
ここまで我儘だとは思わなかったよ。
何時までも、居座らせるわけがないだろう。
「心地の悪い叫び声が聞こえるね」
門外と門内の狭間で激しい攻防戦が繰り広げられる中、遠巻きに眺めていた目・魄(❄️・h00181)は肩を竦める。
「見た目も魑魅魍魎に近しい物を感じるけどそんな姿のモノが現れたら、皆びっくりするだろう」
出てきてしまったなら仕方がない。とはいえ本来招からざる客であるからには出てきた門に帰って貰って、諸悪の根源たる地獄の門は閉じさせて貰うに限る。
持ち前の身軽さを頼りに準備運動はそこそこに、魄は妖気を圧縮する。
「こんにちは。そして、さようなら……だ」
凝縮させた妖気は氷塊に変換して次々に投じる。
押し返されようとする扉の位置を維持するインビジブルをすり抜けてネームレス・スワンに当たった氷塊は気力を削ぐ冷気を発し、それによる繁霜や結霜が体を覆っていく。
そして動きが鈍り出したところで魄は氷柱や氷槍を生み出し、鋭く降る氷乱による連続攻撃を叩き込んだ。
寒さと氷による捕縛によって動きの鈍っていたネームレス・スワンは雪崩れ込んできた質量に押されて空間の中に消え失せる。しかし能力者が銅製の扉が閉めきれないうちにまた何事もなかったかのように元気に飛び出してきた。
先程出来ていたはずの裂傷も霜焼けも影も形も見当たらない。寒さで震えていた声も元通りだ。
「留まらせていたら煩い、押し返したら5体満足で復活……面倒だな」
ネームレス・スワンは地獄の門の周囲に集まっている能力者達を物理的にも遠のけようと体を急激に肥大化させていく。そして頭が一つまた一つと増えていくたびに狂乱のボリュームは上がり、振り回される脊髄と翼によって風切り音が激しさを増していく。
「ここまで我儘だとは思わなかったよ。何時までも、居座らせるわけがないだろう」
一部の能力者が思わず耳を押さえ出す中、魄は白い息を吐いて足元を凍りつかせた。
こめかみの辺りからはいつの間にか一対の漆黒の角が生えていた。
「いくよ」
先程よりも巨大になった氷塊が飛び立とうとしていたネームレス・スワンに衝突する。
その衝撃で割れた氷塊から漏れ出した冷気によって翼には氷柱がぶら下がって飛行能力を失うが、ネームレス・スワンは即座に新たな翼を展開する。
しかし氷塊は1個に留まらず先程と同量、否それ以上の量が降り注いだ。
ネームレス・スワンは脊髄を束ねて打ち返そうとしたが当然敵うわけがなく、全身で受け止めてしまう。そして氷で埋め尽くされた視界が晴れた次の瞬間にはまた別の氷塊が目前に迫っている。
それを繰り返されるうちに高度は強制的に下げられ、地面に叩き伏せられた。
『身も心も凍り付け』
地面についた瞬間に土中の水分を使ってまとめて凍らされた脊髄が身動ぎによる位置の移動に耐えきれずに抜け落ち、傷口からドス黒い血が噴き出す。そしてその血も別の翼や脊髄を巻き込んだところで凍りつく。
自傷、凍傷、損傷、様々な種類の痛みが全身を襲い、ネームレス・スワンはさらに激しく絶叫する。しかし魄は何事も起きてないかのようにその懐へ歩み寄る。
そしてネームレス・スワンのいる位置から地獄の門までの地面や石畳を凍らせると片足で蹴り飛ばしてその上を滑らせ、門へ押し戻していく。その動きは家業による慣れで、手練の早業であった。
ただ先程飛び出してきた衝撃で少し押し返されてしまったとはいえ扉はだいぶ閉まっており、ネームレス・スワンの巨体は真っ直ぐ門の中に転がり込まずに踏みとどまってしまう。
だが猫のように細い道でも通り抜けてくるのは周知の事実、そうでなければ窓の隙間から這いずり出てくるわけがない。
最後の一押しでこれでもくらえとばかりに、全力で叩き込まれた大量の氷柱と氷槍の雨霰に押し流される格好でネームレス・スワンの絶叫はまた遠のいていった。
そして角の消失と共に意識を失った魄はまっすぐ後ろに倒れていき、もふもふな何かに受け止められた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
早乙女・伽羅一歩たりとも退かぬという決意で門を睨む
この場所を、|楽園《√EDEN》を、愛したひとがいた
共に在った時間を思い出すのに綾がついては困る
何度でも言う。一歩も退かぬ。
寒江独釣からネームレス・スワンに向かって釣り糸を射出
針がかかったのを確かめ、巨体に取り付いて駆け上がる
体表を駆けながら、増殖する部位を√連刃で削ぎ落そう
“荷物”を送り返すのなら、小さく、軽くしたほうが都合がいい
サーベルで撫で斬りにし、返す刀で翼を切断し、
柄の打撃で頭部を破壊、迫る脊髄を鎖分銅で絡め捕って捩じ切る
神経を焼くような叫びには、気を強く持って抗う
地獄だと? そんなものはとうの昔に見た
焼け野原の街。もう会えぬひと。
わざわざ届けてくれずとも結構だ
二度と。二度とごめんだ。
「――帰れ!」
√ジェントルジャイアント
超大型の猫に変化してネームレス・スワンに突進する
理性と狂気の狭間で、ひたすら「押し戻せ」と頭の中で繰り返す
押し戻せ
押し戻せ!
繰り返し体当たりをしては門の向こうへ怪異を押し込め、
味方が扉を閉められるように押さえ続ける
元々閉じた状態が完成形であると知っているが故に、捻じ曲げられた状態で再定義されてしまった今の地獄の門には美術商として思うところがないわけではない。
だがそんなことよりも、重要なことがあった。
「この場所を、|楽園《√EDEN》を、愛したひとがいた。共に在った時間を思い出すのに綾がついては困る」
一歩たりとも退かぬという決意をもって、早乙女・伽羅(元警察官の画廊店主・h00414)はどれだけ能力者達が集まっても未だに閉じ切る気配のない門扉を睨む。
冷気によって真っ白に染まった外枠に縁取られた空間からは早くも新たなネームレス・スワンが現れようとしていた。
伽羅は籠手からネームレス・スワンに向かって釣り糸を射出し、体に針が引っかかったのを確認すると引き摺り出すのではなく逆に駆け寄り、巨体に取り付いて駆け上がる。
伽羅が自分の頭を足蹴にしたことを理解したネームレス・スワンは針による痛みが走った部位のそばに新たな頭を生やし、糸を食い千切ろうとする。
しかし猫の伸縮性を活かした跳躍で一気に距離を詰めるとサーベルで糸ごと頭を切断した。
“荷物”を送り返すのなら、小さく、軽くしたほうが都合がいい。
サーベルで撫で斬りにし、返す刀で翼を切断し、柄の打撃で喚く顎を打ち砕き、迫る脊髄を鎖分銅で絡め捕って捩じ切る。
体表を駆け回り、増殖する部位を片っ端から削ぎ落とす様は【連刃】の妙であった。
しかし飛び移ろうとしてきた着地予定地点に新しい頭が飛び出したことでタイミングを狂わされた伽羅は一回転した後に凍って冷えた地面に降り立った。
「何度でも言う。一歩も退かぬ」
その時だ、どれだけ切り出してもなお数え切れないほどの量がある口が一斉に神経を焼くような叫びを発したのは。
「地獄だと? そんなものはとうの昔に見た」
焼け野原の街。もう会えぬひと。
目の奥で明滅するフラッシュバックに気を強く持って抗う。
「わざわざ届けてくれずとも結構だ」
二度と。二度とごめんだ。
「――帰れ!」
その瞬間、伽羅の姿はこの世に存在するどの猫よりも大きな猫に変じ、ネームレス・スワンに突進した。
正面からぶつかり、浮き上がろうとするネームレス・スワンを前脚で押さえつける。
抜け落ちた後消えることなく転がっている脊髄が毛を逆立てさせるような恐怖を与える。
握りしめていた親しい人の手の力が抜け、定期的に鳴っていた短い音が長音に変わる。
理性と狂気の狭間で苦しみながらも伽羅は四つ足を踏ん張って頭でネームレス・スワンの巨体を押す。
その頭の中ではひたすら「押し戻せ」と念じ、繰り返していた。
また飛び立とうとする。押さえつける。
ひらひらと悩ましげに揺れる巨大な翼に飛びかかりたいという欲求が心を襲う。
押し戻せ。
脊髄が巻き付いて締め付ける。爪で断ち切る。
今まで積み重ねて築き上げてきた物が全て崩れ落ち、全ての知人から軽蔑される。
押し戻せ!
甘美な誘惑にもトラウマじみた恐怖にも耐えて、ひたすらに頭からの体当たりを繰り返し、ネームレス・スワンを土俵際にまで追い込む。
苦し紛れに伽羅の顔面を脊髄で叩き、怯んだ隙をついて飛び立とうとしたネームレス・スワンの体を可愛さの欠片もない鳴き声を発しながら前脚で叩きつけるように切り裂く。
その痛みで悶えるネームレス・スワンが空間の中に消えていくのを見届けると、次のネームレス・スワンが見えてくる前に門の前から離れ、扉を閉めようとする一団に加わった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
不動院・覚悟【逆利用・願いの提示】(対:スワンズ・ソング) 【「破魔」+「情報収集」+「戦闘知識」+「優しさ」】 → 敵のWIZ能力の発動を察知し、介入を試みます。敵の能力の特性を活かし、誰も傷つけないように『門の向こうへ”ここはもう閉じるから、帰って皆に伝えて欲しい”』といった、彼らの帰還を促す「願い」を提示し、自発的な撤退を促します。
【絶対怪力・門の破壊】(対:地獄の門) 【『守護する炎』+『阿頼耶識』+「怪力」+「重量攻撃」+「鉄壁」+「激痛耐性」】 → 願いの成否に関わらず、門の物理的な封鎖を同時進行します。『守護する炎』と『阿頼耶識』で筋力を極限まで強化。地獄の門を閉じます。可能ならば「怪力」で無理やり捻じ曲げ、物理的に二度と開かない形へ変形させることを試みます。
【精神防衛・緊急停止】(対:ネームレス・スワン) 【『阿頼耶識・羅刹』+「第六感」+「狂気耐性」+「精神抵抗」+「覚悟」+「各種耐性」】 → 作業中、敵の悲鳴(SPD)は「狂気耐性」等で耐え抜きます。もし「願い」が危険な形で発動しそうになった場合や、悲鳴が耐え難いレベルになった場合は、即座に『阿頼耶識・羅刹』で無効化します。
【心情】
対処不能災厄というだけで忌み嫌われてきたかもしれない存在。誰も傷つけない願いというのはネームレス・スワンも含まれるでしょうか。ただ存在を否定するのはしたくない気持ちはあります。
対処不能災厄という忌み嫌われる存在。それは汎神解剖機関が定めただけでネームレス・スワンがそれになりたくてなったわけではない。
だが存在するだけで能力者の精神をゴリゴリと擦り減らす様は、確かに一般人の前に見せるわけにはいかないと理解は出来た。
「誰も傷つけない願いというのはネームレス・スワンも含まれるでしょうか」
ただそれでも存在自体を否定するのはしたくない、というのが不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)の心のうちには確かにあった。
「門の向こうへ”ここはもう閉じるから、帰って皆に伝えて欲しい”」
ここに現れ続けているネームレス・スワンが同一個体ではなく、一体一体かわるがわる現れていると仮定して、覚悟は帰還を促す「願い」を提示し、自発的な撤退を促す。
しかしネームレス・スワンは一切帰る素振りを見せず、空中で騒ぎ続けていた。
「こちらの願いを叶える気はない、か。それとも誰かの願いを叶えようとしているからか」
何もなくて突然地獄の門がネームレス・スワンが住まう異世界に繋がって、これまで一度倒されたら敵討ちに出ることなんてせずに大人しく引き下がっていたネームレス・スワンが諦めることなく大挙して押し寄せ続けている。
もしかしてその願いの主は禍津鬼荒覇吐なのではないか。
そんな疑念が頭を過るのとほぼ同時にネームレス・スワンの体が空中で何度も跳ね上がった。
外部から撃たれたのではない。新たな部位が隆起してくるために既存の体が痙攣したのだ。
生まれて初めて息を吸った頭部が産声のごとく凄まじい大音量の声を発する。覚悟は持ち前の狂気耐性と精神抵抗力を持って耳を押さえて耐える姿勢をとった。
しかし次から次へと生えてくる頭がリレーのように歌う番を交代し続けていることで、狂気の独唱会が終わる気配は全くなかった。
|阿頼耶識《このちから》を持って後ろにいる能力者をぶん殴りたい、倒してみたい、という欲が頭の中に囁かれ出す。
『この戦場に一筋の炎を灯します。絶望を払うために――『守護する炎』!』
これ以上の我慢は自殺行為だと断じた覚悟は覚悟を持って、守護する炎を体から噴き上げると耳から手を離して一気に駆け出した。
「もう出番は終わりです!」
そしてネームレス・スワンの体からぶら下がる脊髄を十数本一気に掴み取ると掛け声を上げて引っぱった。
何本かはその場で抜け落ちてしまったが、耐えた———いや、耐えてしまった脊髄に引っ張られる形で空中にいたネームレス・スワンが下ろされる。
「絶対の力など存在しません。この手がその証明です――『阿頼耶識』!」
そしてぎゃあぎゃあ喚き続ける口のうちの1つに右手を当てて強引に黙らせた。
遮られている口は1つでも能力を無効化する力は全身に回る。このネームレス・スワンは覚悟が触れている限り狂乱の叫びを上げることも、新たな部位を生やすことも、仲間に助けを求めることも出来なくなった。
「さあ、帰ってください! 僕の願いを叶えてもらう番ですから!」
一方的かつ勝手に願いを叶えてもらう順番をつけつつ、「誰かの笑顔を守りたい」という想いだけで極限まで自分の力を強化させた覚悟はそのままネームレス・スワンの巨体を引きずって行く。
口をパクパク開け閉めしながらネームレス・スワンは身動ぐが、巨大ではあるもののそもそも強靭な筋肉などを持たず、脊髄や翼ではなく頭部という抜け落ちることのない部位をがっちりと掴まれていること。さらに最大の武器である聞いた者の正気を失わせる叫びを発さない今の状況で対抗する術を持ち合わせてはいなかった。
そして押し込むようにネームレス・スワンを送り返した覚悟は『守護する炎』と『阿頼耶識』で極限まで強化した筋力で地獄の門を無理やり捻じ曲げ、物理的に二度と開かない形へ変形させようとする。
関係者が見たら悲鳴をあげてぶっ倒れてしまうような処置であることは理解している。
だが現実に開いている形に書き換えられている時点ですでに壊されているような物。値段やらロダンやらもう知ったことではない。
こうなったら腹を括って受け入れてもらおうと、能力者達の尽力によって両手が届くまでの距離にまで迫っていた扉の両端を鷲掴む。
銅が高温によって溶けて、掴んでいる部分が掌の形に粘土のように柔らかくなっていくのを感触として認識しながら覚悟は息を止めて閉じにかかった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
空地・海人※アドリブ、連携歓迎
ネームレス・スワンと戦うのは久しぶりだな。以前より俺も強くなってるし、今回はサクッと倒してしまいたいぜ。
怪異相手なら、やっぱりこのフォームだ!
変身ベルトを腰に巻き、「現像!」の掛け声で、緑の装甲を纏う【フィルム・アクセプターポライズ √汎神解剖機関フォーム】へと変身する。
その程度の狂気、耐性のあるこのフォームなら、なんてことないぜ!
まずは扉をなんとかしないとな。
√能力【マルチアングルエクスプロージョン】を発動し、ミニハイアングルボマーたちを出現させる。それらを二手に分け、開いている左右の扉へ次々と突撃させ、爆破で門の形を変えていく。
任せたぜ、ミニハイアングルボマー。ちゃんと閉めてくれよ。
ミニハイアングルボマーたちが奮闘している間、俺はネームレス・スワンの相手だ。
√能力【オブスクラアシスト】を発動し、空間引き寄せ能力で敵が逃げないようその場に留めておく。
そして、イチGUNによる牽制射撃でじわじわとダメージを与えていく。
よし、閉まったな、門!
地獄の門が閉じたのを確認したら、待機させていた通常のハイアングルボマーを敵へ突撃させる。
じゃあ、そろそろ必殺技を決めさせてもらうぜ。
ポライズ……エクスプロージョン!
ハイアングルボマーの自爆による大爆発を敵に食らわせてやろう。
これでとりあえずは一安心……かな?
頼むから、もう開かないでくれよ。
あともう少しで閉じる、というところで僅かな隙間からネームレス・スワンが這い出してきた。
まるで液体かと思うほど薄く伸ばされた肉体は√EDENの空気に触れた途端に膨張し出す。
「ネームレス・スワンと戦うのは久しぶりだな」
その様を空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)は落ち着いて見ていた。それは一度対峙して倒しているという自信だけではなかった。
「以前より俺も強くなってるし、今回はサクッと倒してしまいたいぜ」
ベルトを腰に巻き付けてポーズを取る。
「怪異相手なら、やっぱりこのフォームだ! 現像!」
変身するは【√汎神解剖機関フォーム】。初めて出会った時にはまだモノにしていなかった、深緑の装甲が映える状態異常への耐性と爆破に秀でたフォームであった。
「その程度の狂気、耐性のあるこのフォームなら、なんてことないぜ!」
そしてその性能を証明するかのように、元の体躯まで膨らんだネームレス・スワンの発する狂乱の悲鳴の中でも平然としていた。
「まずは扉をなんとかしないとな」
扉が開いている限りネームレス・スワンが現れるか回復するならば、さっさと閉じてしまった方がいい。そう考えた海人は出番を今か今かと待っていた存在を呼び出した。
『さあ、|撮影会《超必殺爆撃》の時間だ!』
【マルチアングルエクスプロージョン】が発動されたことでミニハイアングルボマーの隊列が空から現れる。
「任せたぜ、ミニハイアングルボマー。ちゃんと閉めてくれよ」
隊列は二手に分かれるとそれぞれ開いている左右の扉へ突撃し、ぶつかっては爆破を繰り返すことで門の形を変えつつ押し込んでいく。
音声認識機能を持たない機械のそばでどれだけ叫んでも止まることはない。十何機と見送ってしまったあとにその事実に気がついた様子のネームレス・スワンは自ら身を投げ出すことでミニハイアングルボマーの攻撃を受け止めようとした。
「おっと、相手は俺だ!」
しかし海人は【オブスクラアシスト】を発動することで空間ごとネームレス・スワンを引き寄せてミニハイアングルボマーから遠ざける。さらにイチGUNによる牽制射撃でじわじわとダメージを与えていった。
思い通りにいかないことに発狂したかのようにネームレス・スワンが暴れ、体の動きに合わせて振り回された脊髄が鞭のようにしなる。
だが海人は自分の周りの空間を引き寄せることで自分の位置をずらし、避けた。いくらでも蘇生できるからといって戦線から一時的にでも離脱してしまうのは話が別だからだ。
そうして海人を無視して突っ込もうとするネームレス・スワンを引き留めているうちに、ミニハイアングルボマーの攻撃が止む。
それは残弾が尽きたのではなく地獄の門をボロボロにしながらも完全に閉じたことを知らせる合図であった。
「よし、閉まったな、門!」
自分の目でも門が閉じたのを確認した海人の後ろからスラスターの音が響く。それは先程まで門にぶつかりまくっていた物よりも10倍ほど大きい、通常サイズのハイアングルボマーだった。
「じゃあ、そろそろ必殺技を決めさせてもらうぜ」
海人の横を通り過ぎたハイアングルボマーの輪郭が紫色に発光し、速度を増してネームレス・スワンに突っ込んでいく。
「ポライズ……エクスプロージョン!」
そしてその体に触れた瞬間、ハイアングルボマーは大爆発を起こしてネームレス・スワンを瘴気の渦に飲み込んだ。
体液が辺り一体に降り注ぐ中、半壊したネームレス・スワンは置き土産とばかりに断末魔の叫びを上げる。
「おっと、おかわりを所望か」
ミニは複数台あるけど、通常サイズは一点物とは誰が決めたのか。海人がチョキのポーズを出せば、新たなハイアングルボマーが突貫する。
そもそも瀕死の形相であったネームレス・スワンが耐え切れるわけがなく、2度目の自爆によって辺りはようやく静寂に包まれた。
「これでとりあえずは一安心……かな? 頼むから、もう開かないでくれよ」
装甲にかかった体液を手で払ってから海人は何事もなかったかのように佇む地獄の門を見遣る。
窓の隙間から出てくるネームレス・スワンだが、度重なる衝突によって扉に出来ていた僅かな隙間から出てくる気配は終ぞ無かった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
